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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/70 20060101AFI20230704BHJP
   C07C 39/08 20060101ALI20230704BHJP
   C07C 39/12 20060101ALI20230704BHJP
   C07C 39/14 20060101ALI20230704BHJP
   C07C 39/15 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C07C37/70
C07C39/08
C07C39/12
C07C39/14
C07C39/15
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017538124
(86)(22)【出願日】2016-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2016075774
(87)【国際公開番号】W WO2017038968
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2019-07-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2015174635
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】内山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】堀内 淳矢
(72)【発明者】
【氏名】牧野嶋 高史
(72)【発明者】
【氏名】越後 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】大越 篤
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-23022(JP,A)
【文献】特開平9-208518(JP,A)
【文献】特開2014-6403(JP,A)
【文献】特開2012-190000(JP,A)
【文献】特表平11-512713(JP,A)
【文献】特開2011-38062(JP,A)
【文献】特開平4-235139(JP,A)
【文献】特開平10-212255(JP,A)
【文献】特表2008-535878(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199662(WO,A1)
【文献】特開2001-114717(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024836(WO,A1)
【文献】特開2014-106263(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176767(WO,A1)
【文献】特開2010-107790(JP,A)
【文献】特開2012-224793(JP,A)
【文献】国際公開第2006/003810(WO,A1)
【文献】特開2011-42583(JP,A)
【文献】特開昭56-43228(JP,A)
【文献】特表2011-506553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
G03F7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ビフェノール、レゾルシノール、9,10-ジヒドロキシアントラセン及び1-ヒドロキシピレンからなる群より選択されるヒドロキシ置換芳香族化合物を精製する方法であって、
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物及び溶媒を含む溶液を、フィルターに通液する工程を含み、
前記フィルターの公称孔径が0.2μm以下であり、
前記溶液の調製及び通液が、酸素濃度が1%未満の雰囲気で行われ、
前記精製後のヒドロキシ置換芳香族化合物において、Na量が50ppb以下、Fe量が50ppb以下、Cr量が50ppb以下、及びSn量が50ppb以下である、法。
【請求項2】
前記フィルターが、中空糸膜フィルター、メンブレンフィルター及びプリーツ膜フィルターからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記フィルターの濾材が、ポリアミド製、ポレオレフィン樹脂製及びフッ素樹脂製からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
前記フィルターが、イオン交換体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法
【請求項5】
前記フィルターが、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリンカチオン樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法
【請求項6】
前記溶媒が、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物(例えば、ヒドロキシ置換芳香族化合物)の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジヒドロキシナフタレン等のヒドロキシ置換芳香族化合物は、半導体用の封止材、コーティング剤、レジスト用材料、半導体下層膜形成材料として使用される化合物又は樹脂の原料として有用である(例えば、特許文献1~2参照)。また、ジヒドロキシナフタレン等のヒドロキシ置換芳香族化合物の精製方法として、特定の方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/024778号
【文献】国際公開第2013/024779号
【文献】中国特許出願公開第103467249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記用途においては、特に金属含有量が、歩留まり向上のために重要な性能評価項目となっている。すなわち、ヒドロキシ置換芳香族化合物を原料として得られる化合物又は樹脂中に金属が多く含まれる場合には、半導体中に金属が残存し、半導体の電気特性を低下させることから、不純物としての金属含有量を低減することが求められている。
ヒドロキシ置換芳香族化合物から得られる化合物又は樹脂の金属含有量を低減するための精製方法として、該化合物又は樹脂と有機溶媒を含む混合物にイオン交換水又は純水を加えることで再結晶を行った後、固液分離を行う方法、該化合物又は樹脂を水と任意に混和しない有機溶媒に溶解させ、その溶液を水溶液と接触させ抽出処理を行うことにより、金属分を水相に移行させたのち、有機相と水相を分液して金属含有量を低減させる方法が考えられる。
しかしながら、上記方法では、金属含有量の高いヒドロキシ置換芳香族化合物を原料として用いると、特定の金属種に対する除去効果が十分ではないという問題がある。
したがって、金属含有量の低減された高純度のヒドロキシ置換芳香族化合物の工業的に有利な精製方法の確立が望まれている。
また、ヒドロキシ置換芳香族化合物の純度が低い場合、当該ヒドロキシ置換芳香族化合物から得られる化合物又は樹脂の収率が下がる、もしくはばらつくという問題がある。
さらに、従来、開示されている精製方法では、金属含有量を低減することについて検討されておらず、金属含有量の低減が不十分である。
本発明の目的は、ヒドロキシ置換芳香族化合物を工業的に有利に精製するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ヒドロキシ置換芳香族化合物と溶媒を含む溶液をフィルターに通液させることにより、当該溶液中の金属分の含有量が顕著に低減されることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は次のとおりである。
[1]
下記式(A)及び/又は(B)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物及び溶媒を含む溶液を、フィルターに通液する工程を含む、化合物の精製方法。
【化1】
(前記式(A)中、nは0~9の整数であり、mは0~2の整数であり、pは0~9の整数であり、ここで、mが1のとき、前記式(A)はナフタレン骨格又はビフェニル骨格を有することを示し、Raは各々独立して、水酸基、ハロゲン基、炭素数1~40の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、又は炭素数2~40のアルケニル基及びそれらの組み合わせからなる群より選択される基であり、該アルキル基、該アリール基又は該アルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、あるいはエステル結合を含んでいてもよい。前記式(B)中、nは0~9の整数であり、pは0~9の整数であり、Rbは各々独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン基、炭素数1~40の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、又は炭素数2~40のアルケニル基及びそれらの組み合わせからなる群より選択される基であり、該アルキル基、該アリール基又は該アルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、あるいはエステル結合を含んでいてもよい。)
[2]
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、下記式(A)及び/又は(B)で表される化合物である、[1]に記載の化合物の精製方法。
【化2】
(前記式(A)中、nは0~9の整数であり、mは0~2の整数であり、pは0~9の整数であり、ここで、mが1のとき、前記式(A)はナフタレン骨格又はビフェニル骨格を有することを示し、Rは各々独立して、炭素数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~15のアリール基、又は炭素数2~15のアルケニル基であり、上記式(B)中、nは0~9の整数であり、pは0~9の整数であり、Rは各々独立して、炭素数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~15のアリール基、又は炭素数2~15のアルケニル基である。)
[3]
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、下記式(A-1)で表される化合物、下記式(A-2)で表される化合物、下記式(A-3)で表される化合物、下記式(A-4)で表される化合物、及び下記式(B-1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上である、[1]に記載の化合物の精製方法。
【化3】
(前記式(A-1)中、nは0~5の整数であり、前記式(A-2)中、nは0~7の整数であり、前記式(A-3)~(A-4)中、nは0~9の整数であり、上記式(B-1)中、nは0~9の整数である。)
[4]
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、下記式(1)で表される化合物である、[1]に記載の化合物の精製方法。
【化4】
[5]
前記ヒドロキシ置換芳香族化合物が、2,6-ジヒドロキシナフタレン及び2,7-ジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる1種以上である、[1]に記載の化合物の精製方法。
[6]
前記フィルターの公称孔径が1.0μm未満である、[1]~[5]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[7]
前記フィルターが、中空糸膜フィルター、メンブレンフィルター及びプリーツ膜フィルターからなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[8]
前記フィルターの濾材が、ポリアミド製、ポレオレフィン樹脂製及びフッ素樹脂製からなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[9]
前記フィルターが、イオン交換体を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[10]
前記フィルターが、ゼータ電位を有する物質を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[11]
前記溶媒が、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンからなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[12]
前記溶液の調製及び通液が、酸素濃度が20%未満の雰囲気で行われる、[1]~[11]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
[13]
前記溶液中に含まれるクロムの含有量が、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物の質量に対して50ppb以下に低減される、[1]~[12]のいずれかに記載の化合物の精製方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ヒドロキシ置換芳香族化合物を工業的に有利に精製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す。)について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施形態のみに限定されない。
【0008】
本実施形態に係る化合物の精製方法は、下記式(A)及び/又は(B)で表されるヒドロキシ置換芳香族化合物及び溶媒を含む溶液を、フィルターに通液する工程を含む。上記のように構成されているため、本実施形態に係る化合物の精製方法により、ヒドロキシ置換芳香族化合物を工業的に有利に精製することができる。特に、後述する実施例に示すとおり、ジヒドロキシナフタレン溶液中に含まれるクロム(Cr)の含有量については、当該ジヒドロキシナフタレンの質量に対して50ppb以下にまで低減することが可能である。
上記のとおり、本実施形態における「精製」とは、ヒドロキシ置換芳香族化合物と共存し得る金属成分を十分に低減する操作を意味し、具体的には、Na量が50ppb以下、Fe量が60ppb以下、Cr量が70ppb以下、及びSn量が50ppb以下であるヒドロキシ置換芳香族化合物が得られる。本実施形態においては、精製後のヒドロキシ置換芳香族化合物と共存し得るNa量が50ppb以下、Fe量が50ppb以下、Cr量が50ppb以下、及びSn量が50ppb以下であることが好ましい。これらの金属成分量は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
なお、本実施形態における「通液」とは、上記溶液がフィルターの外部から当該フィルターの内部を通過して再度フィルターの外部へと移動することを意味し、例えば、上記溶液を単にフィルターの表面で接触させる態様や、上記溶液を当該表面上で接触させつつイオン交換樹脂の外部で移動させる態様(すなわち、単に接触する態様)は除外される。
【0009】
【化5】
(前記式(A)中、nは0~9の整数であり、mは0~2の整数であり、pは0~9の整数であり、ここで、mが1のとき、前記式(A)はナフタレン骨格又はビフェニル骨格を有することを示し、Raは各々独立して、水酸基、ハロゲン基、炭素数1~40の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、又は炭素数2~40のアルケニル基及びそれらの組み合わせからなる群より選択される基であり、該アルキル基、該アリール基又は該アルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、あるいはエステル結合を含んでいてもよい。前記式(B)中、nは0~9の整数であり、pは0~9の整数であり、Rbは各々独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン基、炭素数1~40の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~40のアリール基、又は炭素数2~40のアルケニル基及びそれらの組み合わせからなる群より選択される基であり、該アルキル基、該アリール基又は該アルケニル基は、エーテル結合、ケトン結合、あるいはエステル結合を含んでいてもよい。)
【0010】
本実施形態に係る化合物の精製方法において、原料の供給性の観点から、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物は、下記式(A)及び/又は(B)で表される化合物であることがより好ましい。
【0011】
【化6】
(前記式(A)中、nは0~9の整数であり、mは0~2の整数であり、pは0~9の整数であり、ここで、mが1のとき、前記式(A)はナフタレン骨格又はビフェニル骨格を有することを示し、Rは各々独立して、炭素数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~15のアリール基、又は炭素数2~15のアルケニル基であり、上記式(B)中、nは0~9の整数であり、pは0~9の整数であり、Rは各々独立して、炭素数1~30の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~15のアリール基、又は炭素数2~15のアルケニル基である。)
【0012】
本実施形態に係る化合物の精製方法において、有機溶媒に対する溶解性の観点から、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物は、下記式(A-1)で表される化合物、下記式(A-2)で表される化合物、下記式(A-3)で表される化合物、下記式(A-4)で表される化合物、及び下記式(B-1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。
【0013】
【化7】
(前記式(A-1)中、nは0~5の整数であり、前記式(A-2)中、nは0~7の整数であり、前記式(A-3)~(A-4)中、nは0~9の整数であり、上記式(B-1)中、nは0~9の整数である。)
【0014】
本実施形態に係る化合物の精製方法において、有機溶媒に対する溶解性および精製の釜効率の観点から、前記ヒドロキシ置換芳香族化合物は、下記式(1)で表される化合物であることが特に好ましい。
【化8】
【0015】
ここで、上記式(1)で表される化合物は、特に限定されないが、原料の供給性の観点から、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン及び2,7-ジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
また、上記式(1)で表される化合物は、特に限定されないが、式(1)で表される化合物を原料として得られる化合物又は樹脂の耐熱性の観点から、2,6-ジヒドロキシナフタレン及び2,7-ジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
【0017】
上記式(1)で表される化合物は、特に限定されないが、式(1)で表される化合物を原料として得られる化合物又は樹脂のさらなる耐熱性の観点から、2,6-ジヒドロキシナフタレンがさらに好ましい。
【0018】
本実施形態で使用されるヒドロキシ置換芳香族化合物は、製造メーカー及び試薬メーカー等公知の手段にて容易に入手できる。また、公知の手法を応用して適宜合成することができ、その合成手法は特に限定されない。
【0019】
本実施形態で使用するヒドロキシ置換芳香族化合物は単独でもよいが、2種以上混合することもできる。また、ヒドロキシ置換芳香族化合物は、各種界面活性剤、各種架橋剤、各種酸発生剤、各種安定剤等を含有したものであってもよい。
【0020】
本実施形態で使用される溶媒としては、特に限定されないが、半導体製造プロセスに安全に適用できる有機溶媒が好ましい。使用する溶媒の量は、使用する式(1)で表される化合物に対して、通常1~100質量倍が溶解性の向上と精製後の固体回収の容易さの観点から好ましい。より好ましくは5~50質量倍、さらに好ましくは10~50質量倍である。
【0021】
本実施形態で使用される溶媒の具体例としては、以下に限定されないが、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチルブタノール、sec-ヘプタノール、ヘプタノール-3、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、sec-ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec-テトラデシルアルコール、sec-ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール、ジアセトンアルコール、クレゾールなどのモノアルコール類、ジエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸sec-ペンチル、酢酸3-メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸i-ペンチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ-n-ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル、乳酸n-ペンチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-ペンチルケトン、エチルブチルケトン、メチルヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4-ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン等のケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド、N-メチルピロリドンなどの窒素化合物系溶媒、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。
上記溶媒はそれぞれ単独で用いることもできるし、また2種以上を混合して用いることもできる。
上述した中でも、作業性や仕込み量の管理のし易さの観点から、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0022】
本実施形態における通液の際、ヒドロキシ置換芳香族化合物と溶媒を含む溶液中の金属分の除去に用いられるフィルターは、通常、液体ろ過用として市販されているものを使用することができる。フィルターの濾過精度は特に限定されないが、フィルターの公称孔径は1.0μm未満であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましく、0.05μm以下であることがさらに好ましい。また、フィルターの公称孔径の下限値は、特に限定されないが、通常、0.005μmである。ここでいう公称孔径とは、フィルターの分離性能を示す名目上の孔径であり、例えば、バブルポイント試験、水銀圧入法試験、標準粒子補足試験など、フィルターの製造元により決められた試験法により決定される孔径である。市販品を用いた場合、製造元のカタログデータに記載の値である。公称孔径を1.0μm未満にすることで、ヒドロキシ置換芳香族化合物の溶液を1回フィルターに通液させた後の金属分の含有量をより効果的に低減できる傾向にある。特に、クロム(Cr)の含有量をヒドロキシ置換芳香族化合物の質量に対して、好ましくは50ppb以下、より好ましくは20ppb以下、さらに好ましくは5ppb以下に低減することができる傾向にある。本実施形態においては、ヒドロキシ置換芳香族化合物の溶液の各金属分の含有量をより低減させるために、通液を2回以上行ってもよい。
【0023】
フィルターの形態としては、以下に限定されないが、例えば、中空糸膜フィルター、メンブレンフィルター、プリーツ膜フィルター、並びに不織布、セルロース、及びケイソウ土などの濾材を充填したフィルターなどを用いることができる。特に高精細な濾過精度と他の形態と比較した濾過面積の高さから、フィルターは、中空糸膜フィルター、メンブレンフィルター及びプリーツ膜フィルターからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、中空糸膜フィルターを用いることがより好ましい。
【0024】
上記フィルターの材質は、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂製、ポリアミド樹脂製、ポリエステル、ポリアクリロニトリルなどの極性基含有樹脂製、フッ化ポリエチレン(PTFE)などのフッ素含有樹脂製を挙げることができる。本実施形態において、耐熱性と耐溶媒性の観点から、フィルターの濾材が、ポリアミド樹脂製、ポレオレフィン樹脂製及びフッ素樹脂製からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、より好ましくはポリアミド樹脂製である。
ポリアミド系フィルターとしては(以下、商標)、以下に限定されないが、例えば、キッツマイクロフィルター(株)製のポリフィックスナイロンシリーズ、日本ポール(株)製のウルチプリーツP-ナイロン66、ウルチポアN66、スリーエム(株)製のライフアシュアPSNシリーズ、ライフアシュアEFシリーズなどを挙げることができる。
ポリオレフィン系フィルターとしては、以下に限定されないが、例えば、日本ポール(株)製のウルチプリーツPEクリーン、日本インテグリス(株)製のマイクロガードプラスHC10、オプチマイザーD等を挙げることができる。
フッ素樹脂系フィルターとしては、以下に限定されないが、例えば、日本ポール(株)製のエンフロンHTPFR、スリーエム(株)製のライフシュアFAシリーズ等を挙げることができる。
これらのフィルターはそれぞれ単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、上記フィルターには陽イオン交換樹脂などのイオン交換体や、濾過される有機溶媒溶液にゼータ電位を生じさせるカチオン電荷調節剤などが含まれていてもよい。例えば、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリンカチオン樹脂などの正のゼータ電位を有する物質を含むフィルターとして(以下、商標)、以下に限定されないが、例えば、スリーエム(株)製ゼータプラス40QSHやゼータプラス020GN、あるいはライフアシュアEFシリーズ等が挙げられる。
【0026】
特にクロム(Cr)やスズ(Sn)などの重金属を効果的に低減させるフィルターの材質として、ポリアミド樹脂が好ましい理由としては、金属の吸着性能に優れることが挙げられる。フィルター材質の金属の吸着性能については、フィルターと同じ材質のシート(以下「基材」と称する。)と前記ヒドロキシ置換化合物を溶解させた溶液との接触角を測定し、該金属の低減挙動を比較することにより、確認することができる。具体的には、基材との接触角が小さいほど、溶液とフィルター表面との濡れ性が高くなり、接触角の大きな基材に比べ、フィルターのろ過精度が同一であっても、該金属をさらに低減することが可能となる。
【0027】
本実施形態におけるヒドロキシ置換芳香族化合物及び溶媒を含む溶液と基材との接触角としては、1°~40°の範囲が好ましく、より好ましくは1°~30°であり、さらに好ましくは1°~20°である。接触角が1°~40°の範囲であると、基材への濡れ性が十分であり、良好な吸着性能が得られる傾向にある。
【0028】
また、フィルターの接続ジョイント、ハウジングに含まれるO-リング等のパッキング部材の少なくとも一種は、パーフルオロゴム、パーフルオロエラストマーからなり、これらの構成部材全てが、フッ素含有樹脂、パーフルオロゴム、パーフルオロエラストマーから選ばれる材料で構成されていることが好ましい。さらに、上記のパッキング部材は、パーフルオロゴム、パーフルオロエラストマーから選ばれる材料で構成されていることが特に好ましい。これら以外の部材のみでは、ヒドロキシ置換芳香族化合物中の金属化合物の含有率がppbレベルまで低減できない場合がある。
【0029】
ヒドロキシ置換芳香族化合物の溶液の調製及び通液の際の温度は、高すぎると、溶媒の種類によっては加水分解が生じる傾向にあり、揮発性の酸が遊離する場合があるため好ましくなく、低すぎると、ヒドロキシ置換芳香族化合物の溶解度が小さくなる傾向にある。このように、揮発性の酸の遊離を防止する観点及び効率性の観点から、温度を調整することが好ましく、通常は0~40℃とすることができ、好ましくは5~30℃であり、より好ましくは10~25℃。
【0030】
なお、本実施形態においては、上述した通液により精製されたヒドロキシ置換芳香族化合物を得る工程以外に、さらなる精製工程を。
【0031】
こうして得られたヒドロキシ置換芳香族化合物と溶媒を含む溶液に混入する水分は、減圧蒸留等の操作を施すことにより容易に除去できる。また、必要により溶媒を加え、ヒドロキシ置換芳香族化合物の濃度を任意の濃度に調整することができる。
【0032】
ヒドロキシ置換芳香族化合物と溶媒を含む溶液から、ヒドロキシ置換芳香族化合物のみを得る方法は、特に限定されず、例えば、減圧除去、再沈殿による分離、及びそれらの組み合わせ等、公知の方法で行うことができる。必要に応じて、濃縮操作、ろ過操作、遠心分離操作、乾燥操作等の公知の処理を行うことができる。
【0033】
本実施形態におけるヒドロキシ置換芳香族化合物及び溶媒を含む溶液の調製及び通液は、酸素濃度が20%未満の雰囲気で行われることが好ましい。酸素濃度は10%未満がより好ましく、5%未満がさらに好ましく、1%未満が特に好ましい。酸素濃度を20%未満にすることにより、ヒドロキシ置換芳香族化合物の変質がより抑制される傾向にあり、より高純度のヒドロキシ置換芳香族化合物が得られる傾向にある。
【0034】
酸素濃度を低下させる方法は、公知の方法で実施でき、特に限定されないが、例えば、精製を行うカラム又は釜に窒素をフローして、あるいは減圧してその後窒素を導入することで、ガス置換を行うことができる。精製を行うカラム又は釜を減圧してその後窒素を導入することが簡便かつ確実で好ましい。
【0035】
酸素濃度の確認は、公知の方法で実施でき、特に限定されないが、例えば、精製を行う釜に窒素をフローして、ベントから排出されるガスの酸素濃度を、酸素濃度計にて測定することができる。また、精製を行う釜に酸素濃度計を設置することもできる。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて、本実施形態をさらに具体的に説明する。但し、本実施形態は、これらの実施例に限定されない。
【0037】
(実施例1)
クラス1000のクリーンブース内にて、1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、有機純度99.3%の2,6-ジヒドロキシナフタレン(以下、2,6-DHNとも称する。)をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)に溶解させた溶液(濃度2.5質量%)を500g仕込み、続いて釜内部の空気を減圧除去した後、窒素ガスを導入して大気圧まで戻し、窒素ガスを毎分100mLで通気下、内部の酸素濃度を1%未満に調整した後、攪拌しながら30℃まで加熱した。真空ポンプで底抜きバルブ直下からフィルター通液ラインの終点までの空気を減圧除去した後、底抜きバルブから2,6-DHN溶液を抜き出し、フッ素樹脂製の耐圧チューブを経由して、ダイヤフラムポンプで毎分100mLの流量で公称孔径が0.01μmのポリアミド製中空糸膜フィルター(キッツマイクロフィルター(株)製、商品名:ポリフィックスナイロンシリーズ)に通液した。得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。なお、酸素濃度は、アズワン株式会社製の酸素濃度計「OM-25MF10」により測定した(以下も同様とした。)。
【0038】
(実施例2)
公称孔径が0.01μmのポリエチレン製中空糸膜フィルター(キッツマイクロフィルター(株)製、商品名:ポリフィックス)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0039】
(実施例3)
公称孔径が0.05μmのポリアミド製中空糸膜フィルター(キッツマイクロフィルター(株)製、商品名:ポリフィックス)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0040】
(実施例4)
公称孔径が0.05μmのポリエチレン製メンブレンフィルター(日本ポール(株)製、商品名:ウルチプリーツPEクリーン)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0041】
(実施例5)
公称孔径が0.05μmのPTFE製メンブレンフィルター(Millipore(株)製、商品名:オムニポア)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0042】
(実施例6)
公称孔径が0.2μmのゼータプラスフィルター40QSH(スリーエム(株)製、イオン交換能あり)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0043】
(実施例7)
公称孔径が0.2μmのゼータプラスフィルター020GN(スリーエム(株)製、イオン交換能あり)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0044】
(実施例8)窒素ガス置換なし
クラス1000のクリーンブース内にて、1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、有機純度99.3%の2,6-DHNをPGMEに溶解させた溶液(濃度2.5質量%)を500g仕込み、攪拌しながら30℃まで加熱した。底抜きバルブから2,6-DHN溶液を抜き出し、フッ素樹脂製の耐圧チューブを経由してダイヤフラムポンプで毎分100mLの流量で公称孔径が0.01μmのポリアミド製中空糸膜フィルター(キッツマイクロフィルター(株)製、商品名:ポリフィックスナイロンシリーズ)に通液した。得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0045】
(実施例9)
クラス1000のクリーンブース内にて、1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、有機純度99.3%の2,6-DHNをPGMEに溶解させた溶液(濃度2.5質量%)を500g仕込み、続いて釜内部の空気を減圧除去した後、窒素ガスを導入して大気圧まで戻し、窒素ガスを毎分100mLで通気下、内部の酸素濃度1%未満に調整した後、攪拌しながら30℃まで加熱した。底抜きバルブから2,6-DHN溶液を抜き出し、フッ素樹脂製の耐圧チューブを経由してダイヤフラムポンプで毎分100mLの流量で公称孔径が1.0μmのポリエチレン製膜フィルター(日本ポール(株)製、商品名:ウルチブリーツPEクリーン)に通液した。得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0046】
(実施例10)
クラス1000のクリーンブース内にて、1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、有機純度99.3%の2,6-DHNをPGMEに溶解させた溶液(濃度2.5質量%)を500g仕込み、続いて釜内部の空気を減圧除去した後、窒素ガスを導入して大気圧まで戻し、窒素ガスを毎分100mLで通気下、内部の酸素濃度を5.0%に調整した後、攪拌しながら30℃まで加熱した。真空ポンプで底抜きバルブ直下からフィルター通液ラインの終点までの空気を減圧除去した後、底抜きバルブから2,6-DHN溶液を抜き出し、フッ素樹脂製の耐圧チューブを経由して、ダイヤフラムポンプで毎分100mLの流量で公称孔径が0.01μmのポリアミド製中空糸膜フィルター(キッツマイクロフィルター(株)製、商品名:ポリフィックスナイロンシリーズ)に通液した。得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0047】
(実施例11)
クラス1000のクリーンブース内にて、1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、有機純度99.3%の2,6-DHNをPGMEに溶解させた溶液(濃度2.5質量%)を500g仕込み、続いて釜内部の空気を減圧除去した後、窒素ガスを導入して大気圧まで戻し、窒素ガスを毎分100mLで通気下、内部の酸素濃度を10.0%に調整した後、攪拌しながら30℃まで加熱した。真空ポンプで底抜きバルブ直下からフィルター通液ラインの終点までの空気を減圧除去した後、底抜きバルブから2,6-DHN溶液を抜き出し、フッ素樹脂製の耐圧チューブを経由して、ダイヤフラムポンプで毎分100mLの流量で公称孔径が0.01μmのポリアミド製中空糸膜フィルター(キッツマイクロフィルター(株)製、商品名:ポリフィックスナイロンシリーズ)に通液した。得られた2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0048】
(比較例1)フィルター通液なし
クラス1000のクリーンブース内にて、1000mL容量の四つ口フラスコ(底抜き型)に、有機純度99.3%の2,6-DHNをPGMEに溶解させた溶液(濃度2.5質量%)を500g仕込み、続いて釜内部の空気を減圧除去した後、窒素ガスを導入して大気圧まで戻し、窒素ガスを毎分100mLで通気下、攪拌しながら30℃まで加熱した。底抜きバルブから2,6-DHN溶液を抜き出し、フッ素樹脂製の耐圧チューブを経由してダイヤフラムポンプで毎分100mLの流量でフッ素樹脂製容器に回収した。回収した2,6-DHN溶液を下記条件にて分析した。
【0049】
(実施例12)
2,6-DHNに変わり、純度99.2%の4,4-ビフェノールを使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた精製溶液を下記条件にて分析した。
【0050】
(実施例13)
2,6-DHNに変わり、純度99.1%のレゾルシノール(1,3-ベンゼンジオール)を使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた溶液を下記条件にて分析した。
【0051】
(実施例14)
2,6-DHNに変わり、純度98.7%の9,10-ジヒドロキシアントラセンを使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた溶液を下記条件にて分析した。
【0052】
(実施例15)
2,6-DHNに変わり、純度98.8%の1-ヒドロキシピレンを使用した以外は、実施例1と同様に通液し、得られた溶液を下記条件にて分析した。
【0053】
実施例1~11及び比較例1において得られた2,6-DHNのPGME溶液、並びに精製前の2,6-DHNのPGME溶液(濃度2.5質量%)について、各種金属含有量及び有機純度を測定した。また、実施例1~5においてはフィルターと同一材質からなる100μm厚のシート試験片(2cm×5cm)を用意し、当該シート試験片と精製前2,6-DHNのPGME溶液(濃度2.5質量%)との接触角測定を行った。測定結果を表1に示す。
さらに、実施例12~15において得られた精製前後の各種ヒドロキシ置換化合物のPGME溶液について、各種金属含有量及び有機純度を測定した。また、フィルターと同一材質からなる100μm厚のシート試験片(2cm×5cm)を用意し、当該シート試験片と精製前の各種ヒドロキシ置換化合物のPGME溶液(濃度2.5質量%)との接触角測定を行った。測定結果を表2に示す。
なお、いずれの例においても、調製された溶液をフィルターに通液する直前を「精製前」として、その時点の溶液を上記測定に供することとした。
各測定については、次の装置及び測定条件にて行った。
【0054】
[各種金属含有量測定]
ICP-MSを用いて以下の測定条件にて2,6-DHNの各種金属含有量を測定した。
装置:ELAN DRCII(パーキンエルマー製)
温度:25℃
環境:クラス100クリーンルーム
【0055】
[有機純度測定]
高速液体クロマトグラフィーを用いて以下の測定条件にて2,6-DHNの有機純度を測定した。
装置:GL-7400型(日立製)
カラム:X-BRIDE C18
溶離液:アセトニトリル/水
温度:40℃
【0056】
[接触角測定]
接触角計を用いて以下の測定条件にて2,6-DHNおよび各ヒドロキシ置換化合物のPGME溶液と各シートとの接触角を測定した。
装置:協和界面化学(株)製CA-Sミクロ2型
測定手法:静滴法
雰囲気:空気中
測定環境:23℃/50%RH
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
本出願は、2015年9月4日出願の日本国特許出願(特願2015-174635号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、ヒドロキシ置換芳香族化合物を工業的に有利に精製することができ、金属含有量の低減された金属含有量の低減されたヒドロキシ置換芳香族化合物とすることができる。