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  • 特許-電磁波遮蔽性成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽性成形体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20230704BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20230704BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20230704BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H05K9/00 M
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/01
C08J3/22
H01Q17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018194177
(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2019161210
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2017209053
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018043081
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】片野 博友
(72)【発明者】
【氏名】片山 弘
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-327727(JP,A)
【文献】特開2001-077584(JP,A)
【文献】特開2001-223492(JP,A)
【文献】特開2016-210934(JP,A)
【文献】特開2006-173264(JP,A)
【文献】特開2016-046483(JP,A)
【文献】特開2017-141370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08L 101/00
C08K 3/04
C08K 3/01
C08J 3/22
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とカーボンブラックを含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物、スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれるものであり、
前記熱可塑性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂、炭素繊維、金属繊維及び金網を含んでいないものであり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、前記熱可塑性樹脂組成物のみが成形されたもので、樹脂被覆紙からなる保持層の少なくとも2層間に導電性材料を含有する導電性材料層が一体化されたものではなく、
前記成形体中の前記カーボンブラックの含有割合が7~50質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.5mm~5mmで、70GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽効果が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収効果が30%以上のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項2】
前記成形体中の前記カーボンブラックの含有割合が7~30質量%であり、前記電磁波遮蔽吸収性成形体の厚みが0.5mm~4mmである、請求項1記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項3】
前記カーボンブラックが、比表面積が20~400m/gのものである、請求項1または2記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項4】
送受信アンテナ用保護部材である、請求項1~のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定波長の電磁波に対する遮蔽性と吸収性の高い電磁波遮蔽吸収性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転や衝突防止を目的とするミリ波レーダー装置が知られている。
ミリ波レーダー装置は、自動車の前方中央、両側方、後方両側方など各部に取り付けられ、電波を送受信するアンテナが組み込まれた高周波モジュール、該電波を制御する制御回路、アンテナおよび制御回路を収納するハウジング、アンテナの電波の送受信を覆うレドームを備えている(特許文献1の背景技術)。このように構成されたミリ波レーダー装置は、アンテナからミリ波を送受信して、障害物との相対距離や相対速度などを検出することができる。
アンテナは、目的とする障害物以外の路面などに反射したものも受信することがあるため、装置の検出精度が低下するおそれがある。
このような問題を解決するため、特許文献1のミリ波レーダー装置では、アンテナと制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材を設けている。
特許文献1の発明の課題を解決するものとして、繊維長3~30mmの炭素長繊維を含む熱可塑性樹脂組成物と、それから得られる電磁波の吸収性能を有している成形体の発明が提案されている(特許文献2)。
その他、平均長さ0.5~15mmの炭素繊維を含む熱可塑性樹脂成形品の電磁波シールド性が良いという発明が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-74662号公報
【文献】特開2015-7216号公報
【文献】特許第6123502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定周波数の電磁波の遮蔽性と吸収性が優れている電磁波遮蔽吸収性成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂とカーボンブラックを含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記成形体中の前記カーボンブラックの含有割合が7~50質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.01mm~5mmで、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽効果が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収効果が30%以上のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体を提供する。
本発明の電磁波遮蔽性は、電磁波の吸収性および反射性の両方を合わせた性能評価である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、カーボンブラックを使用することで、59GHz~100GHzの周波数の電磁波に対する遮蔽性と吸収性の両方を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例で使用した電磁波遮蔽性の測定装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<熱可塑性樹脂組成物>
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物、スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれる1または2以上を使用することができる。
スチレン系樹脂は、ポリスチレン、スチレン単位を含む共重合体(AS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、MAS樹脂など)を使用することができる。
【0009】
カーボンブラックはそのままでも使用することができるが、上記熱可塑性樹脂を使用したマスターバッチの形態で使用することが好ましい。
カーボンブラックは、比表面積が20~400m2/gのものが好ましい。
前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中のカーボンブラックの含有割合は、7~50質量%であり、好ましくは7~40質量%であり、より好ましくは10~30質量%である。
【0010】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、課題を解決できる範囲内で公知の樹脂添加剤を含有することができる。公知の樹脂添加剤としては、熱、光、紫外線などに対する安定剤、滑剤、核剤、可塑剤、公知の無機および有機充填材(但し、炭素繊維とカーボンブラックは除く)、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、軟化剤、分散剤、酸化防止剤などを挙げることができる。
前記組成物(前記電磁波遮蔽吸収性成形体)中の上記公知の樹脂添加剤の合計含有割合は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0011】
<電磁波遮蔽吸収性成形体>
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、射出成形などの公知の樹脂成形法を適用して上記の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。
本発明の電磁波遮蔽性成形体の大きさや形状は、下記厚みを満たす範囲内で用途に応じて適宜調整することができる。
本発明の成形体は、厚みが0.01mm~5mmであり、好ましくは0.1~5mmより好ましくは0.2~4mm、さらに好ましくは0.5~4mmのものである。厚みは実施例に記載の方法により測定されるものである。
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性は10dB以上、好ましくは15dB以上、より好ましくは20dB以上、さらに好ましくは30dB以上にすることができる。前記電磁波の遮蔽性は、70GHz~100GHzの周波数全体における遮蔽性であることが好ましい。
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、59GHz~100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の吸収性は30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上にすることができる。前記電磁波の吸収性は、70GHz~100GHzの周波数全体における吸収性であることが好ましい。
【実施例
【0012】
(使用成分)
PP:ポリプロピレンホモポリマー,商品名「PM900A」,サンアロマー(株)製
CBMB1:CBのマスターバッチ品,CB40質量%含有,CBの比表面積50m2/g,商品名「リオコンダクトP-1388」,東洋インキ(株)製
CMMB2:CBのマスターバッチ品,CB80質量%含有,CBの比表面積250m2/g,商品名「BK-950B-80E」,三元化成(株)製
核剤:ヒドロキシ-ジ-p-t-ブチル安息香酸アルミニウム,商品名「AL-PTBBA」,共同薬品(株)製
【0013】
実施例および比較例
表1に示す各成分をドライブレンドした後、押出機(TEX30α,(株)日本製鋼所)を使用してペレット(熱可塑性樹脂組成物)を製造した。
次に得られたペレットを使用し、射出成形機(α-150iA,ファナック(株)製)により、成形温度220℃、金型温度50℃で成形して本発明の平板状の電磁波遮蔽性成形体(150×150mm)を得た。
得られた電磁波遮蔽吸収性成形体を使用して、表1に示す各測定を実施した。
【0014】
(1)厚み(mm)
平板状の電磁波遮蔽吸収性成形体(150×150mm)の中心部分(対角線の交わる部分)の厚さを測定した。
【0015】
(2)電磁波遮蔽性と電磁波吸収性
図1に示す測定装置(ネットワークアナライザ)を使用した。
水平方向に対向させた1対のアンテナ(コルゲートホーンアンテナ)11、12の間に測定対象となる成形体10(縦150mm、横150mm、表に示す厚み)を保持した。アンテナ12と成形体10の間隔は0mm、成形体10とアンテナ11との間隔は0mmである。
この状態にて、下側のアンテナ12から電磁波(65~110GHz)を放射して、測定対象となる成形体10を透過した電磁波を上側のアンテナ11で受信して、下記式1、式2から電磁波遮蔽性(放射波の透過阻害性)を求め、下記式3~6から電磁波吸収性を求めた。
電磁波遮蔽性(dB)=20log(1/|S21|) (式1)
21=(透過電界強度)/(入射電界強度) (式2)
式1のS21は、透過電界強度と入射電界強度の比を表すSパラメータ(式2)で、ネットワークアナライザ20により測定できる。
式1では、電磁波遮蔽性(dB)を正の値で表すため、Sパラメータの逆数の対数をとった。図1の測定装置では、0~約100dBの範囲が測定可能で、電磁波シールド性が測定上限を超える場合は表1において「>100(dB)」と表記した。
11=(反射電界強度)/(入射電界強度) (式3)
式3のS11は、反射電界強度と入射電界強度の比を表すSパラメータで、S21と同じく、ネットワークアナライザにより測定できる。
吸収率は、電力基準として、下記式のように百分率で表記した。
透過率(%)=S21 2×100 (式4)
反射率(%)=S11 2×100 (式5)
吸収率(%)=100-透過率-反射率 (式6)
【0016】
【表1】
【0017】
表1の実施例と比較例の対比から明らかなとおり、カーボンブラックを所定量含有することで、70GHz~100GHzの周波数範囲における電磁波の遮蔽性と吸収性の両方が優れていた。
比較例2は、カーボンブラック量が過剰で成形することができなかった例であり、比表面積による影響は認められない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、車両の自動運転や衝突防止を目的として車両に搭載するミリ波レーダー装置用、例えば、ミリ波レーダーの送受信アンテナ制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材(送受信アンテナ用保護部材)、ミリ波レーダー装置のハウジング、ミリ波レーダー装置の取付け用部材などのほか、車両用または車両以外の電気・電子機器のハウジングなどに使用することができる。
また本発明の電磁波遮蔽吸収性成形体は、無線LANや広帯域無線アクセスシステム、通信衛星、簡易無線、車載レーダ、位置認識システムなどの保護部材として使用することができ、さらに具体的には、基地局アンテナ、RRH(無線送受信装置)、BBU(べースバンド装置)、基地向けGaNパワーアンプ、光トランシーバーなどの電波を遮蔽する保護部材として使用することができる。
図1