(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】エレベータシステム用のベルト、およびエレベータシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 7/06 20060101AFI20230704BHJP
F16G 1/00 20060101ALI20230704BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
B66B7/06 A
F16G1/00 E
D07B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2018210999
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2021-10-27
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591020353
【氏名又は名称】オーチス エレベータ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Otis Elevator Company
【住所又は居所原語表記】One Carrier Place,Farmington,Connecticut,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ブラッド ギラーニ
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0004298(US,A1)
【文献】特表2003-507286(JP,A)
【文献】特開2015-038005(JP,A)
【文献】特表2011-509899(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196432(WO,A1)
【文献】特表2012-500340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/06
F16G 1/00
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト幅に沿って配設され、かつベルトの長さに沿って長手方向に延在する複数の引張部材であって、各引張部材がその引張部材の耐熱性を高める複数のバサルト繊維を含む、複数の引張部材と、
前記複数の引張部材を少なくとも部分的に封止するジャケット材と、
を備え
、
前記複数の引張部材が、それぞれ、
コードと、
前記コードに巻き付けられたバサルト繊維層と、
を含み、
前記コードが複数の鋼線から形成される、エレベータシステム用のベルト。
【請求項2】
前記ジャケット材が、V0またはそれより良好な、UL94難燃性等級を提供するよう構成される、請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
ベルト幅に沿って配設され、かつベルトの長さに沿って長手方向に延在する複数の引張部材と、
複数のバサルト繊維から少なくとも部分的に形成され、前記複数の引張部材を保持するために、前記複数の引張部材を少なくとも部分的に被覆する織物材料と、
を備える、エレベータシステム用のベルト。
【請求項4】
前記複数の引張部材が、複数の鋼線から形成される複数のコードである、請求項
3に記載のベルト。
【請求項5】
前記複数の引張部材が、熱硬化性マトリクス材料内に配置された複数の非金属繊維から形成される、請求項
3に記載のベルト。
【請求項6】
前記織物材料が織物または編組材である、請求項
3に記載のベルト。
【請求項7】
前記織物材料を摩損及び/または摩耗から保護するために、前記織物材料に塗布されるベルトコーティングをさらに備える、請求項
3に記載のベルト。
【請求項8】
昇降路と、
前記昇降路内に配置され、その中で移動可能なエレベータかごと、
前記昇降路に沿って前記エレベータかごを懸架し駆動するために、前記エレベータかごに動作可能に接続されるベルトと、を備え、
前記ベルトは、
ベルト幅に沿って配設され、前記ベルトの長さに沿って長手方向に延在する複数の引張部材であって、各引張部材がその引張部材の耐熱性を高めるための複数のバサルト繊維を含む、複数の引張部材と、
前記複数の引張部材を少なくとも部分的に封止するジャケット材と、
を含
み、
前記複数の引張部材が、それぞれ、
コードと、
前記コードに巻き付けられたバサルト繊維層と、
を含んでおり、
前記コードが複数の鋼線から形成される、エレベータシステム。
【請求項9】
前記ジャケット材が、V0またはそれより良好な、UL94難燃性等級を提供するよう構成される、請求項
8に記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する実施形態はエレベータシステムに関し、より詳細には、エレベータシステムのエレベータかごを懸架し、かつ/または、駆動するための、荷重支持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータシステムは、建物内の様々な階の間での乗客、荷物または両方の搬送に有用である。いくつかのエレベータは牽引に基づいて、エレベータかごを支持し、エレベータかごの所望の移動及び位置決めを実現するために、ベルト等の荷重支持部材を利用する。
【0003】
ベルトが荷重支持部材として利用される場合、複数の引張部材またはコードが共通のジャケット内に埋設される。ジャケットは所望の位置にコードを保持し、摩擦負荷路を提供する。例示的な牽引エレベータシステムにおいて、機械はトラクションシーブを駆動し、それによりベルトが相互作用してエレベータかごを昇降路に沿って駆動する。ベルトは通常、鋼製要素から形成される引張部材を利用するが、代替的に、合成繊維または炭素繊維複合物等の他の材料から形成される引張部材を利用してもよい。
【0004】
炭素繊維複合物引張部材において、部材は、重量特性に対する優れた強度を有するが、通常、鋼線から形成される引張部材と比較して高温性能は低くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、改善されたエレベータシステム用のベルトを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、エレベータシステム用のベルトが、ベルト幅に沿って配設され、ベルトの長さに沿って長手方向に延在する複数の引張部材を含む。各引張部材は、引張部材の耐熱性を高める複数のバサルト繊維を含む。ジャケット材は少なくとも部分的に、複数の引張部材を封止する。
【0007】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、複数の引張部材は、複数の乾燥バサルト繊維から形成される。
【0008】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、複数の引張部材の引張部材は、コード及び、コードに巻き付けられたバサルト繊維層を含む。
【0009】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、コードは複数の鋼線から形成される。
【0010】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、コードは、熱硬化性マトリクス材料内で懸濁(suspend)する複数のガラス繊維から形成される。
【0011】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、ジャケット材は、V0またはそれより良好な、UL94難燃性等級を提供するよう構成される。
【0012】
別の実施形態において、エレベータシステムのためのベルトは、ベルト幅に沿って配設され、ベルトの長さに沿って長手方向に延在する複数の引張部材及び、複数のバサルト繊維から少なくとも部分的に形成される織物材料を含む。織物材料は、複数の引張部材を保持するために、複数の引張部材を少なくとも部分的に被覆する。
【0013】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、複数の引張部材は、複数の鋼線から形成される複数のコードである。
【0014】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、複数の引張部材は、複数の炭素繊維及び/または熱硬化性マトリクス材料内で懸濁する複数のガラス繊維から形成される。
【0015】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、織物材料は、織物または編組材である。
【0016】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、ベルトコーティングは、織物材料を摩損及び/または摩耗から保護するために、織物材料に塗布される。
【0017】
さらに別の実施形態において、エレベータシステムは、昇降路、昇降路内に位置し、その中で移動可能なエレベータかご、及び、エレベータかごを昇降路に沿って懸架し、かつ/または、駆動するためにエレベータかごに動作可能に接続されるベルトを含む。ベルトは、ベルト幅に沿って配設され、ベルトの長さに沿って長手方向に延在する複数の引張部材を含む。各引張部材は、引張部材の耐熱性を高めるための複数のバサルト繊維を含む。ジャケット材は、複数の引張部材を少なくとも部分的に封止する。
【0018】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、複数の引張部材は、複数の乾燥バサルト繊維から形成される。
【0019】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、複数の引張部材の引張部材は、コード及び、コードに巻き付けられているバサルト繊維層を含む。
【0020】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、コードは複数の鋼線から形成される。
【0021】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、コードは、熱硬化性マトリクス材料内で懸濁する複数の非金属繊維から形成される。
【0022】
付加的にまたは代替的に、この、または他の実施形態において、ジャケット材は、V0またはそれより良好な、UL94難燃性等級を提供するよう構成される。
【0023】
発明の主題は、本明細書の結論において特に指摘され、明確に特許請求される。本開示の上述の、または他の特徴及び利点は、添付図面と併せ読むことにより、以下の詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】エレベータシステムの実施形態の概略図である。
【
図2】エレベータシステムベルトの実施形態の概略断面図である。
【
図3】エレベータシステムベルトの実施形態の別の断面図である。
【
図4】エレベータシステムベルトの実施形態のさらに別の断面図である。
【
図4A】エレベータシステムベルト用のコードの実施形態の断面図である。
【
図5】エレベータシステムベルトの実施形態の別の断面図である。
【
図6】エレベータシステムベルトの実施形態のさらに別の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
開示の装置及び方法の1つまたは複数の実施形態の詳細な説明が、図面を参照して、限定としてではなく例示として提示される。
【0026】
例示的な牽引エレベータシステム10の概略図が、
図1に示される。本発明の理解のために必要とされないエレベータシステム10の特徴(ガイドレール、安全装置等)は、本明細書において論じられない。エレベータシステム10は、昇降路14内に1つまたは複数のベルト16によって動作可能に懸架され、または支持されるエレベータかご12を含む。1つまたは複数のベルト16は、1つまたは複数のシーブ18と相互作用し、エレベータシステム10の様々な構成要素の周囲に配索される。1つまたは複数のベルト16はまた、動作中にエレベータシステム10のバランスをとり、トラクションシーブの両側のベルト張力の差を低減するために利用される釣合い重り22に接続することが可能である。
【0027】
シーブ18は各々、エレベータシステム10における他のシーブ18の直径と同じ、または異なる直径を有する。シーブの少なくとも1つは、トラクションシーブ52とすることができる。トラクションシーブ52は、機械50によって駆動される。機械50による駆動シーブの移動は、トラクションシーブ52の周囲に配索されている1つまたは複数のベルト16を(牽引によって)駆動し、移動させ、かつ/または推進する。シーブ18の少なくとも1つは、ダイバータ、デフレクタまたはアイドラーシーブとすることができる。ダイバータ、デフレクタまたはアイドラーシーブは機械50によって駆動されないが、エレベータシステム10の様々な構成要素の周囲で1つまたは複数のベルト16を誘導する。
【0028】
いくつかの実施形態において、エレベータシステム10は、エレベータかご12を懸架し、かつ/または駆動するために、2つまたはそれ以上のベルト16を利用することができる。さらに、エレベータシステム10は、1つまたは複数のベルト16の両側または片側が1つまたは複数のシーブ18と係合するか、または、1つまたは複数のベルト16の片側のみが1つまたは複数のシーブ18と係合するような、様々な構造を有することができる。
図1の実施形態は、1つまたは複数のベルト16がかご12及び釣合い重り22において終端する1:1のローピング配設を示すが、一方、他の実施形態は、その他のローピング配設を利用してもよい。
【0029】
ベルト16は、エレベータかご12を懸架し、かつ/または駆動するための強度要件を満たすことが可能であるように十分な強度を持ちながら、低い曲げ応力を提供し、ベルト寿命の要件を満たし、動作を円滑にするために、1つまたは複数のシーブ18の通過時に十分な可撓性を有するよう構成される。
【0030】
図2は、例示的なベルト16の構成または設計の概略断面図を提示する。ベルト16は、ベルト16に沿って長手方向に延在し、ベルト幅26に渡って配設される複数の引張部材24を含む。引張部材24は、ベルト16内の引張部材24の移動を制限するために、また、引張部材24を保護するために、少なくとも部分的にジャケット材28内に封入される。ジャケット材28は、トラクションシーブ52の対応面と相互作用するよう構成される牽引側30を画定する。ジャケット材28のための例示的な材料は例えば、熱可塑性及び熱硬化性ポリウレタンのエラストマー、ポリアミド、熱可塑性ポリエステルエラストマーならびにゴムを含む。ジャケット材28を形成するために、ベルト16の必要な機能を満たすために適切であるならば、他の材料が利用されてもよい。例えば、ジャケット材28の主要機能は、ベルト16とトラクションシーブ52との間の十分な摩擦係数を提供して、その間に所望の牽引量を生成することである。ジャケット材28はまた、牽引負荷を引張部材24に伝達するべきである。さらに、ジャケット材28は、耐摩耗性であり、引張部材24を、例えば、衝撃損傷や、化学物質等の環境要因への暴露から保護すべきである。さらに、ジャケット材28は、V0またはそれより良好な、UL94難燃性等級を提供するように、組成されてもよい。
【0031】
ベルト16は、ベルト厚み32に対するベルト幅26のアスペクト比が1より大きいベルト幅26及びベルト厚み32を有する。ベルト16は、牽引側30の反対の裏側34及び、牽引側30と裏側34との間に延在するベルト縁36をさらに含む。
図2の実施形態においては5つの引張部材24が示されるが、他の実施形態は、例えば、4、8、10または12の引張部材24等の他の数の引張部材24を含んでもよい。さらに、
図2の実施形態の引張部材24はほぼ同一であるが、他の実施形態において、引張部材24は互いに異なってもよい。
【0032】
図2に示すように、引張部材24は複数の乾燥バサルト繊維から形成される。本開示における「乾燥」は、引張部材24の一部として熱硬化性マトリクス材料においてバサルト繊維が懸濁(suspend)しないことを意味する。引張部材24のバサルト繊維の潤滑性を向上させるために、引張部材24の構成においてシロキサン、フルオロカーボン等のサイジング剤が利用されてもよい。サイジング剤はまた、エポキシ、フェノール、ウレタン、及び/またはアクリル等の高分子バインダー、及び、フルオロカーボン、無機酸化物、ホウ化物、及び/または金属等の添加剤、の組み合わせにより組成されてもよい。サイジングの上述の組成は例示的であり、先行技術に記載の他の組成が、バサルト繊維の潤滑性を実現するために好適であってもよい。
図2の実施形態においては、引張部材24は矩形断面を有するが、他の実施形態においては、他の断面形状が利用されてもよい。例えば、
図3の実施形態において、引張部材24は円形の断面形状を有する。
図2及び
図3に示される断面形状は例示にすぎず、さらに他の形状が利用されてもよいことが理解される。バサルト繊維の利用により、炭素繊維またはガラス繊維の引張部材と比較した際に、引張部材16の高温性能が向上し、性能は、耐火性ジャケット材28の利用によりさらに向上する。
【0033】
次に
図4を参照すると、ベルト16の別の実施形態が示される。
図4の、また、
図4Aに最もよく示される実施形態において、引張部材24は、例えば鋼線44等の複数のワイヤ44から形成されるコード42を含み、それらのワイヤ44はストランド46に形成され、そしてそれらのストランド46がコード42に形成される。いくつかの実施形態において、各コード42は、中心ストランド46a及び、中心ストランド46aの周囲に配設される複数の外側ストランド46bを有する。
【0034】
引張部材24は、コード42とジャケット材28との間に配置されるバサルト繊維層48によって覆われ、ベルト16の耐火性を向上させる。さらに、
図5を参照すると、バサルト繊維層48は、熱硬化性マトリクス材料内で懸濁する、ガラス繊維または他の非金属繊維等の他の材料から形成される引張部材24を有するベルト16において利用されてもよい。
【0035】
別の実施形態において、
図6に示されるように、製織(woven)ベルト16においてバサルト繊維が利用されてもよい。示される実施形態において、ベルト16は、ベルト16のための耐火性を提供するバサルト繊維から形成される織物50内に保持される複数の引張部材24を含む。いくつかの実施形態において、引張部材24は複数の鋼線から形成されるが、他の実施形態において引張部材24は、例えば、熱硬化性マトリクス材料内で懸濁するガラス繊維から形成されてもよい。織物50は、引張部材24を保持するために、例えば、引張部材24の周囲で編まれ、または織られるバサルト繊維から形成される。ベルトコーティング52は、織物50を摩損及び摩耗から保護するために、ベルト16に塗布される。
【0036】
引張部材24の材料、引張部材24のラップ層、または織物50の繊維のいずれかとしての、ベルト16の構成におけるバサルト繊維の利用により、ベルト16の高温性能が向上する。
【0037】
「約」の語は、出願時に利用可能な機器に基づく特定の量の計測に関連する誤りの度合いを含むことが意図されている。
【0038】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態態を説明するためのものに過ぎず、本開示の限定を意図するものではない。本明細書で使用される際に、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が特段に明確に示すのでない限り、複数形も含むものとする。「含む(ccmprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」という用語は、本明細書で使用される際に、記載の特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが、1つもしくは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/またはそれらのグループの存在または追加を除外しないことがさらに理解される。
【0039】
例示的な単数または複数の実施形態を参照しながら本開示について説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、その要素に均等物を代用できることを、当業者には理解される。さらに、その本質的な範囲から逸脱することなく、その特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるように、多くの変更を行うことができる。したがって、本発明は、本開示を実施するために考案された最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、本開示は、添付の特許請求の範囲内に包含されるすべての実施形態を含むことが意図される。