(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】タイヤ劣化推定システムおよびタイヤ劣化推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20230704BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
B60C19/00 G
(21)【出願番号】P 2018218948
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-09-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛篤
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112033(JP,A)
【文献】特開2007-168671(JP,A)
【文献】特開2003-034111(JP,A)
【文献】特開2012-006472(JP,A)
【文献】特開2007-191038(JP,A)
【文献】特開2008-298723(JP,A)
【文献】特開2003-159916(JP,A)
【文献】特開2005-047295(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0129737(US,A1)
【文献】特開2005-138683(JP,A)
【文献】特開2005-145170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 -17/10
B60C 19/00 -19/12
B60C 23/00 -23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤに配設されており、タイヤの変形に関わる物理量を計測するセンサ部と、
前記センサ部により計測された物理量に基づいて、経時的なタイヤの物性の変化を算出する物性変化算出部と、
前記物性変化算出部により算出された経時的な物性の変化
を車両におけるタイヤの使用履歴により補正してタイヤの劣化の進行を予測し、タイヤの寿命時期および寿命距離の少なくとも一方を推定する劣化推定部と、
を備えることを特徴とするタイヤ劣化推定システム。
【請求項2】
前記センサ部は、歪を計測することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項3】
前記センサ部は、加速度を計測することを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項4】
前記物性変化算出部は、前記センサ部による計測結果に基づいて、少なくとも前記センサ部の配設位置に対応する回転位置でタイヤが路面に接地した状態における物理量を解析し、タイヤの物性の変化を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項5】
タイヤの空気圧および温度の少なくとも一方を計測する計測器を備え、
前記劣化推定部は、さらに前記計測器による計測結果を用いてタイヤの劣化を推定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ劣化推定システム。
【請求項6】
タイヤの変形に関わる物理量を取得する取得ステップと、
前記物理量をタイヤのモデルに入力する入力ステップと、
前記モデルによって経時的なタイヤの物性の変化を算出する算出ステップと、
前記算出ステップによって算出された経時的な物性の変化
を車両におけるタイヤの使用履歴により補正してタイヤの劣化の進行を予測し、タイヤの寿命時期および寿命距離の少なくとも一方を推定する推定ステップと、
を備えることを特徴とするタイヤ劣化推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ劣化推定システムおよびタイヤ劣化推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行環境や経年に応じて劣化が進行していき、タイヤが固くなって車両の制動に影響を及ぼすことが知られている。自動車の運転者は、無意識のうちにタイヤの劣化に順応し、ブレーキやハンドルを適切に操作している。
【0003】
自動運転による車両の走行では、自動車の速度や路面状態を推定しつつ、ブレーキやハンドルが自動で操作されるものの、タイヤに関する情報に基づくことなく自動運転を行うと、所望の走行結果が得られない場合が生じ得る。例えば、自動運転中の車両におけるタイヤの劣化が進行している場合、その劣化を考慮せずにカーブに合わせたステアリング操作だけをさせると、車両がカーブを曲がり切れないことが起こり得る。また、自動運転により、速度や路面状態に応じたブレーキタイミングを決定したとしても、タイヤが劣化していれば、予測停車位置への車両の停止は困難となる。
【0004】
また、カーシェアリングなどで、他人が運転することでタイヤが劣化した場合、以前に運転した場合に比べて、カーブでのハンドル操作や、制動時のブレーキ操作等に対する自動車の挙動に違和感を受けることもある。
【0005】
特許文献1には、タイヤの劣化レベルを判定する従来のタイヤ劣化評価方法が開示されている。このタイヤ劣化評価方法では、空気圧低下率算出部により測定結果の空気圧を所定基準温度における空気圧である温度換算空気圧に換算すると共に温度換算空気圧から単位時間あたりの空気圧変化率を算出する。また、シビアリティ計算部により空気圧変化率の値が0未満の場合に自然漏洩による空気圧低下であると判断して、単位時間あたりの空気圧低下量を順次積算し、この積算値を酸化シビアリティとする。タイヤ劣化評価方法は、判定部により酸化シビアリティの値を予め所定の間隔をあけて複数設定されている所定の閾値と比較して、タイヤの劣化レベルを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のタイヤ劣化評価方法では、専らタイヤの空気圧に着目してタイヤの劣化を判定するが、タイヤの素材であるゴム等の弾性体における劣化は、その弾性体の変形等の機械的要因を考慮すべきである。タイヤに生じる変形が大きい場合や、変形の頻度が高い場合には、タイヤ物性の劣化進行が速いにも関わらず、従来のタイヤ劣化評価においては検討されておらず、タイヤ劣化の推定が正確性を欠く蓋然性があった。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤの劣化をより正確に推定することができるタイヤ劣化推定システムおよびタイヤ劣化推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様はタイヤ劣化推定システムである。タイヤ劣化推定システムは、タイヤに配設されており、少なくともタイヤの変形に関わる物理量を計測するセンサ部と、前記センサ部により計測された物理量に基づいて、経時的なタイヤの物性の変化を算出する物性変化算出部と、前記物性変化算出部により算出された物性の変化に基づいて、タイヤの劣化を推定する劣化推定部と、を備える。
【0010】
本発明の別の態様はタイヤ劣化推定方法である。タイヤ劣化推定方法は、タイヤの変形に関わる物理量を取得する取得ステップと、前記物理量をタイヤのモデルに入力する入力ステップと、前記モデルによって経時的なタイヤの物性の変化を算出する算出ステップと、タイヤの物性の変化をシステムに伝達するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤの劣化をより正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】タイヤ劣化推定システムの概要を説明するための模式図である。
【
図2】実施形態に係るタイヤ劣化推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3(a)は歪ゲージの配設位置の例を説明するための模式図、
図3(b)は、加速度センサの配設位置の例を説明するための模式図である。
【
図4】
図4(a)は歪ゲージにより計測された歪量の一例を示すグラフであり、
図4(b)は加速度センサにより計測されたZ方向加速度の一例を示すグラフである。
【
図5】タイヤのマスター劣化曲線を示すグラフである。
【
図6】劣化推定装置による劣化推定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに
図1から
図6を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
(実施形態)
図1は、タイヤ劣化推定システム100の概要を説明するための模式図である。タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ部20によって、タイヤに生じる変形に関わる物理量、例えば歪や加速度等を取得する。センサ部20によって取得された物理量の情報は劣化推定装置30へ送信される。劣化推定装置30は、受信した物理量の情報に基づいて、経時的なタイヤ10の物性の変化を算出する。劣化推定装置30は、算出されたタイヤ10の物性の変化に基づいてタイヤの劣化状況を推定する。タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID等が取り付けられていてもよい。
【0015】
劣化推定装置30は、推定したタイヤの劣化状況を、例えば、車両制御装置91、自動運転システム92および保守管理システム93等に提供する。劣化推定装置30は、例えば、新品タイヤに対して制動距離が何%伸びるかというような情報を車両制御装置91および自動運転システム92に提供する。車両制御装置91は、取得したタイヤの劣化状況を運転者に対して表示または音声等によって報知する。また自動運転システム92は、タイヤの劣化状況による制動距離への影響を考慮した制御等を実行する。また保守管理システム93では、タイヤの劣化状況に基づいてタイヤの交換時期などの計画を立て、タイヤの保守および管理サービスを展開する。
【0016】
図2は、実施形態に係るタイヤ劣化推定システム100の構成を示すブロック図である。タイヤ劣化推定システム100は、センサ部20および劣化推定装置30等を備える。センサ部20は、歪ゲージ21、加速度センサ22、圧力ゲージ23および温度センサ24等を有し、タイヤ10の変形に関わる物理量を計測する。歪ゲージ21および加速度センサ22は、例えばタイヤ10の内側の表面等に取り付けられており、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、それぞれタイヤ10に生じる歪量および加速度を測定する。
【0017】
図3(a)は歪ゲージ21の配設位置の例を説明するための模式図、
図3(b)は、加速度センサ22の配設位置の例を説明するための模式図である。
図3(a)および
図3(b)はタイヤ10の軸を含む断面を表している。
図3(a)に示すように、歪ゲージ21は、タイヤ10のトレッド部分、サイド部分およびビード部分の内側面に配設される。歪ゲージ21は、主としてタイヤ10において変形が発生する方向の歪を計測する。歪ゲージ21は、例えば、トレッド部分ではタイヤ10の周方向(
図3の紙面に垂直な方向)の歪を、サイド部分およびビード部分ではタイヤ10の軸を含む断面において内側面に沿う方向とする。
【0018】
図3(b)に示すように、加速度センサ22は、トレッド部分の内側面の中央に配設される。加速度センサ22は、例えばタイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。尚、
図3に示すX軸方向はタイヤ10の周方向に、Y軸方向はタイヤ10の軸方向に、Z軸方向はタイヤ10の径方向に相当する。また、歪ゲージ21および加速度センサ22は、タイヤ10の内側の表面以外にも、例えばタイヤ10のトレッド部分、サイド部分およびビード部分におけるタイヤ素材の中に埋め込まれていてもよい。
【0019】
圧力ゲージ23および温度センサ24は、例えばタイヤ10のエアバルブに配設されており、それぞれタイヤ空気圧およびタイヤ10の温度を計測する。温度センサ24は、タイヤ10の温度を正確に計測するために、タイヤ10のトレッド部分、サイド部分およびビード部分等に配設されていてもよい。
【0020】
図2に戻り、劣化推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置であり、情報取得部31、通信部32、物性変化算出部33および劣化推定部34を備える。劣化推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0021】
情報取得部31は、無線通信等によりセンサ部20からタイヤ10の歪量、加速度、空気圧および温度の情報を取得する。通信部32は、車両制御装置91、自動運転システム92および保守管理システム93等の外部装置との間で有線または無線通信等によって通信し、タイヤ10の劣化状況を通信回線、例えばCAN(コントロールエリアネットワーク)を介して外部装置へ送信する。外部装置は、通信回線を通じてタイヤ10の保守管理サービス等を提供するサーバーであってもよい。
【0022】
物性変化算出部33は、センサ部20から取得したタイヤ10の物理量に基づいて、タイヤ10の変形および荷重状態を求め、タイヤ10の各部材の物性の変化を算出する。タイヤ10は、その仕様によって変形および荷重状態による物性の変化が異なる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。また、タイヤ10の物性は、ゴム硬度、ゴムの破断伸び、100%モジュラスなどであり、タイヤゴムの経年的な酸化や、タイヤゴムに加えられる熱環境にも依存して変化する。物性変化算出部33は、個々のタイヤ10に取り付けられるRFID等の識別情報に基づいてタイヤ10の型式・型番ごとにタイヤ10の形状や各部材の構成および材質等を、例えば製品データベースから読み出し、特定した上で、タイヤ10の各部材の物性の変化を算出する。
【0023】
図4(a)は歪ゲージ21により計測された歪量の一例を示すグラフであり、
図4(b)は加速度センサ22により計測されたZ方向加速度の一例を示すグラフである。
図4(a)および
図4(b)に示すように、タイヤ10の物理量は、センサ部20の配設位置において接地状態となるとピーク値が表われ、非接地状態では物理量は接地状態に比較して低い値で滑らかに推移する。物性変化算出部33は、接地状態および非接地状態における物理量を解析し、接地状態および非接地状態における全ての物理量を用いてタイヤ10の各部材の物性の変化を算出してもよいし、接地状態における物理量を用いてタイヤ10の各部材の物性の変化を算出してもよい。
【0024】
物性変化算出部33は、タイヤ10の空気圧および温度のデータ、並びに歪量および加速度のデータによって、各部材における機械的な変形や荷重状態が求められる。物性変化算出部33は、各部材における機械的な変形や荷重状態を時系列的に繰り返し算出することで、タイヤ10の各部材の物性の変化を算出する。
【0025】
劣化推定部34は、実験等によって得られるタイヤ10の各部材における物性値のマスター劣化曲線を用いて、現在のタイヤの劣化状況を推定し、更にはタイヤの交換時期や交換距離を推定する。
【0026】
図5は、タイヤのマスター劣化曲線の例を示すグラフである。横軸は時間(日数や年数などでもよい)であり、縦軸はタイヤ10の物性値や劣化指標値である。タイヤ10の物性値は、例えばゴムの破断伸び等であるが、マスター劣化曲線は、物性値(例えばゴム硬度など)によっては右肩上がりのグラフで表現されてもよく、適宜逆数を用いて右肩下がりのグラフに変換して表現されてもよい。また、タイヤ10に使用される材料における物性値の閾値を定め、タイヤ10の寿命とする。尚、マスター劣化曲線は、数値化等されて図示しない記憶部に記憶されており、劣化推定部34は、該記憶部からマスター劣化曲線を読み出して用いるものとする。
【0027】
劣化推定部34は、実際の車両における走行距離または使用日数を横軸とし、物性変化算出部33により算出された物性値をプロットして、劣化進行グラフを作成していく。劣化推定部34は、現在の物性値と閾値との比較から現在のタイヤの劣化状況を推定する。また劣化推定部34は、マスター劣化曲線における走行距離または使用日数を、実際の車両における使用履歴により補正して、劣化進行グラフに重ねる。劣化推定部34は、実際の車両における使用履歴を累積して物理量をプロットしていくことによって、タイヤ10の劣化の進行が予測でき、交換時期や交換距離を推定することができる。
【0028】
つぎにタイヤ劣化推定システム100による動作を説明する。
図6は、劣化推定装置30による劣化推定処理の手順を示すフローチャートである。劣化推定装置30は、タイヤ10の使用中においてセンサ部20により計測される各物理量を蓄積している。劣化推定装置30は、蓄積されたタイヤ10の歪量、加速度、空気圧および温度等の物理量を読み出す(S1)。物性変化算出部33は、タイヤ10の物理量に基づいて、タイヤ10の変形および荷重状態を算出する(S2)。物性変化算出部33は、タイヤ10の変形および荷重状態に基づいてタイヤ10の物性の変化を算出する(S3)。
【0029】
劣化推定部34は、タイヤ10の走行距離または使用日数に対する現在の物性値をプロットし、劣化進行グラフを作成する(S4)。尚、ステップS4において、過去に算出された物性値は記憶部等に記憶されており、該記憶部等から読み出してプロットするとよい。劣化推定部34は、現在のタイヤ10の劣化状況を、寿命となる閾値と比較して推定する(S5)。ステップS5で推定されたタイヤ10の劣化状況は、外部装置である例えば自動運転システム92等において、自動運転時の車両制御の補正に用いることができる。
【0030】
劣化推定部34は、マスター劣化曲線を実際の車両における使用履歴により補正して、劣化進行グラフに重ねる(S6)。劣化推定部34は、劣化進行グラフを例えば仮想的に延長して劣化の進行を予測し、交換時期や交換距離を推定し(S7)、処理を終了する。
【0031】
劣化推定装置30は、センサ部20により計測された物理量に基づいて、経時的なタイヤ10の物性の変化を算出し、算出された物性の変化に基づいてタイヤの劣化を推定する。タイヤ劣化推定システム100は、センサ部20においてタイヤ10で生じている歪量や加速度を計測することで、より正確にタイヤの劣化を推定することができる。
【0032】
センサ部20は、車両の走行中に生じる接地状態および非接地状態における物理量を計測している。物性変化算出部33は、接地状態および非接地状態におけるタイヤ10の物理量の全てを用いて各部材の物性の変化を算出してもよいし、接地状態における物理量を用いてタイヤ10の各部材の物性の変化を算出してもよい。物性変化算出部33は、接地状態および非接地状態におけるタイヤ10の物理量を用いることで、タイヤ10の物性における変化の算出の正確性が増す。
【0033】
センサ部20は、圧力ゲージ23によりタイヤ10の空気圧を、温度センサ24によりタイヤ10の温度を計測する。タイヤ10は空気圧および温度によってバイアス的に荷重等を受けて変形しており、タイヤ劣化推定システム100は、これらの情報を加味してタイヤ10の変形を算出することで、タイヤ10の物性の変化をより正確に算出することができる。また、タイヤ10の空気圧履歴および温度履歴を保存したデータベースを構築し、各履歴情報をタイヤ10の劣化推定に用いるようにしてもよい。
【0034】
タイヤ劣化推定システム100は、例えば車両が走行を開始してセンサ部20によりタイヤ10に生じる物理量を計測し、タイヤ10の劣化を推定する。タイヤの劣化は急激に進行するものではないので、タイヤ劣化推定システム100は、車両の使用頻度に合わせて、1日に1回や、1週間あるいは数週間に1回など、適宜タイミングを空けてタイヤ10の劣化を推定すればよい。また、タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10において外傷や空気圧の急低下が生じた場合など、特定の条件を満たす場合には、例外的にタイヤ10の劣化を測定するようにしてもよい。尚、車両が停止中にセンサ部20により物理量を計測し、タイヤ10の劣化を推定してもよい。
【0035】
劣化推定部34によって推定されたタイヤ10の寿命時期および寿命距離は、外部装置である保守管理システム93等において、タイヤの交換時期を計画する際などに用いることができる。保守管理システム93は、車両の運転者や安全運行管理者などに対して安全のためにタイヤ10の寿命時期の前にタイヤ交換を促すようにしてもよい。保守管理システム93によって提供されるタイヤ10の寿命時期の通知に対して、寿命時期前にタイヤ交換の依頼があった場合、販売店等での割引販売、メーカーから販売店等への割引率に応じた費用の支払いなどを行うようにしてもよい。
【0036】
また、物性変化算出部33は、タイヤ10の各部材における物性変化の学習モデルを用いるようにしてもよい。物性変化の学習モデルでは、例えばブレーキ操作時の衝撃加速度や歪ゲージ21の歪量との関係を学習させておくなどする。物性変化算出部33は、ブレーキ操作時の衝撃加速度や歪ゲージ21の歪量を学習モデルに入力し、タイヤ10の各部材における物性変化を求めるようにしてもよい。
【0037】
次に実施形態に係るタイヤ劣化推定システムの特徴について説明する。
実施形態に係るタイヤ劣化推定システム100は、センサ部20、物性変化算出部33および劣化推定部34を備える。センサ部20は、タイヤ10に配設されており、少なくともタイヤ10の変形に関わる物理量を計測する。物性変化算出部33は、センサ部20により計測された物理量に基づいて、経時的なタイヤ10の物性の変化を算出する。劣化推定部34は、物性変化算出部33により算出された物性の変化に基づいて、タイヤ10の劣化を推定する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、センサ部20においてタイヤ10の変形に関わる物理量を計測することで、より正確にタイヤの劣化を推定することができる。
【0038】
またセンサ部20は、歪ゲージ21によって歪を計測する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10に生じる歪量に基づいて、より正確にタイヤの劣化を推定することができる。
【0039】
またセンサ部20は、加速度センサ22によって加速度を計測する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10に生じる加速度に基づいて、より正確にタイヤの劣化を推定することができる。
【0040】
また物性変化算出部33は、センサ部20による計測結果に基づいてタイヤ10の非接地状態および接地状態における物理量を解析し、タイヤ10の物性の変化を算出する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、接地状態および非接地状態におけるタイヤ10の物理量を用いることで、タイヤ10の物性における変化の算出の正確性が増す。
【0041】
またタイヤ劣化推定システム100は、タイヤ10の空気圧および温度の少なくとも一方を計測する計測器(圧力ゲージ23および温度センサ24)を備える。劣化推定部34は、さらに圧力ゲージ23および温度センサ24による計測結果を用いてタイヤ10の劣化を推定する。これにより、タイヤ劣化推定システム100は、圧力ゲージ23および温度センサ24で計測される情報を加味してタイヤ10の変形を算出することで、タイヤ10の物性の変化をより正確に算出することができる。
【0042】
またタイヤ劣化推定方法は、タイヤ10の変形に関わる物理量を取得する取得ステップと、取得した物理量をタイヤ10のモデル(物理モデル)に入力する入力ステップと、モデルによって経時的なタイヤ10の物性の変化を算出する算出ステップと、タイヤ10の物性の変化をシステムに伝達するステップと、を備える。この方法によって、タイヤ10の変形に関わる物理量を計測して、より正確にタイヤの劣化を推定することができる。
【0043】
上述の実施形態においては、空気式のタイヤを例に説明したが、非空気式タイヤの樹脂製リム等にセンサ部20を配設し、非空気式タイヤの劣化を推定するようにしてもよい。また、センサ部20で測定されたタイヤ10の変形に関する物理量は、例えば車両のCANバスを通してタイヤ劣化推定システム100に送信されるが、車両の通信システムだけでなく、他の通信回線を介してタイヤ劣化推定システム100に送信されてもよい。
【0044】
またタイヤ10の劣化の進行を予測し、自動運転システム92での自動運転の制動距離にタイヤの性能が適しないことが予測された場合、自動運転システム92がタイヤの交換を促すようにしてもよい。
【0045】
センサ部20は、特定のタイヤに関する識別情報と、測定された歪なとのデータと、を分析できるように、CANバスに出力する。これにより、タイヤのリアルタイムの状態を車両制御装置や、自動運転システムが把握することができ、タイヤの劣化状態に適応したブレーキ制御など、自動運転や運転支援の車両制御に用いることができる。尚、センサ部20は、タイヤの歪を直接測定するものに限られず、タイヤ圧監視センサ(TPMS)や3軸加速度センサ等を用いて間接的に歪を測定するようにしてもよい。
【0046】
また、物理量の計測に加え、タイヤの外観写真、GPS、外気温、走行ルート、路面の凹凸、運転者の運転履歴等をタイヤの物理モデルに入力してタイヤの劣化を推定してもよい。タイヤ劣化推定システム100は、物理モデルによる推定において、例えばバーストなどを示唆する歪等の物理量の変化を検知した場合には、CANバスを通して車両のディスプレイや通信回線を介して運行管理者の端末等に通知してもよい。
【0047】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0048】
10 タイヤ、 20 センサ部、 33 物性変化算出部、 34 劣化推定部、
23 圧力ゲージ(計測器)、 24 温度センサ(計測器)、
100 タイヤ劣化推定システム。