(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】転移性癌の診断及び治療の方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20230704BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P35/04
(21)【出願番号】P 2018566415
(86)(22)【出願日】2017-06-14
(86)【国際出願番号】 CA2017050729
(87)【国際公開番号】W WO2017214726
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-12
(32)【優先日】2016-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】518444244
【氏名又は名称】エントス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルイス、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ストレトフ、コンスタンティン
(72)【発明者】
【氏名】ウィレッツ、リアン
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002844(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/026896(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/098797(WO,A2)
【文献】Dig.Dis.Sci.,2014年,Vol.59,pp.795-806
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00-31/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における癌転移を予防する方法に用いるための組成物であって、Kif3bに対する阻害剤、を有効量含み、
該阻害剤は
、遺伝子サイレンシング核酸分子であ
り、Kif3bをコードするヌクレオチド配列を有する遺伝子を標的とする、
組成物。
【請求項2】
遺伝子サイレンシング核酸分子
が、短鎖干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子ヘアピン型RNA、マイクロRNA、リボザイム又は他のRNA干渉分子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Kif3bの阻害剤を含み、
該阻害剤は
、遺伝子サイレンシング核酸分子であ
り、Kif3bをコードするヌクレオチド配列を有する遺伝子を標的とする、
対象における癌転移の予防に使用するための組成物。
【請求項4】
ヒト患者が癌を患っている、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
遺伝子サイレンシング核酸分子
が、短鎖干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子ヘアピン型RNA、マイクロRNA、リボザイム又は他のRNA干渉分子である、請求項
3に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、本発明は癌の診断及び治療に関する。より具体的には、本発明は、対象における転移性癌を診断及び治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転移性播種は、癌関連死の主な原因である(Mehlen and Puisieux、Nat Rev Cancer 6:449-458、2006)。全身化学療法と協調した原発腫瘍の外科的切除は限局性癌の治療において成功を収めたが、転移性疾患は現代の標的治療に対してさえも非常に耐性があり、これらの癌を難治性にしている。実際に、将来の転移のリスクを軽減するために、多くの患者が生活の質に悪影響を及ぼす高度に病的な治療計画を受けている(Lauer et al.Expert Opin Drug Discov 10:81-90、2015)。明らかに、腫瘍細胞の転移性播種の律速段階を標的とする治療法は、全身性疾患の脅威を取り除くことによって癌治療を有意に改善し、有害な副作用を伴う全身性治療法への依存を減らすことができる(Steeg、Nat Rev Cancer 16:201--218,2016;Li and Kang,Pharmacol Ther 161:79-96,2016;Zijlstra et al.,Cancer Cell 13:221-234,2008;Mehlen and Puisieux,Nat Rev Cancer 6:449-458,2006)。
【0003】
転移のプロセスは、血流内への浸潤、遠隔部位への播種、免疫検出の回避、生存、増殖及びそれに続く新しい微小環境への定着に対する腫瘍細胞の能力に依存する(Valastyan and Weinberg、Cell 147:275-292、2011)。以前、血管内侵入速度はインビボ腫瘍細胞の運動性に大きく依存しており、また、テトラスパニンCD151を標的とする遊走阻止抗体を用いて運動性が阻害されると、癌細胞の血管内侵入及び遠隔転移の両方が阻止されることが示された(Zijlstra et al.Cancer Cell 13:221-234,2008;Palmer et al.Cancer Res 74:173-187、2014)。インビボでの運動性及び血管内侵入を促進する遺伝子及びシグナル伝達ネットワークが、効率的な原発腫瘍形成に必要とされるものとは異なることを考えると、これらの遺伝子を同定し干渉することによって血管内侵入及び転移を予防することができる可能性がある。さらに、早期転移性疾患を検出するための改善された検査は、転移の完全な徴候に先立って治療機会の時間枠を提供し、進行癌に罹患している人々の全生存率を改善する可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様によれば、対象における癌転移を予防するための方法が提供される。この方法は、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122のうちの少なくとも1つのモジュレーターの有効量を対象に投与することを含む。一実施形態では、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bの阻害剤の有効量が対象に投与される。別の実施形態では、miRNA122、又はmiRNA122の発現を上方制御することができる化合物の有効量が対象に投与される。
【0005】
本発明のさらなる態様によれば、患者におけるKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122を検出する方法が提供される。方法は、ヒト患者から生体試料を取得する工程と、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122抗体、もしくはKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122mRNAに相補的である核酸に試料を接触させることによって、試料中にKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122が存在するかどうかを検出し、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122と抗体との結合、もしくはKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122mRNAに相補的である核酸間のハイブリダイゼーションを検出する工程とを含む。
【0006】
本発明の別の態様によれば、患者における癌転移を診断し治療する方法が提供される。方法は、ヒト患者から生体試料を取得する工程と、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bのうちの少なくとも1つが生体試料中に存在するかどうか、及び/又はmiRNA122が生体試料に存在しないことを検出する工程と、生体試料中にKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bの存在が検出される場合、及び/又はmiRNA122が存在しない場合に、転移性癌を有する患者又は転移性癌の発症を診断する工程と、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bの少なくとも1つの阻害剤の有効量、及び/又はmiRNA122又はmiRNA122発現の上方制御が可能な化合物の有効量を、診断された患者に投与する工程とを含む。
【0007】
本発明のさらなる態様によれば、対象における転移性癌を診断するためのKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA 374b又はmiRNA122の少なくとも1つの使用が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、対象における癌転移を予防するために、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bの少なくとも1つの阻害剤、及び/又はmiRNA122又はmiRNA122の発現を上方制御することができる化合物の有効量の使用が提供される。
【0009】
一実施形態では、阻害剤は遺伝子サイレンシング核酸分子又は小分子である。遺伝子サイレンシング核酸分子は、例えば、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子ヘアピン型RNA、マイクロRNA、リボザイム又は他のRNA干渉分子である。小分子は、ペプチド、ペプトイド、アミノ酸、アミノ酸類似体、有機又は無機化合物である。
【0010】
さらなる実施形態では、ヒト患者は癌を患っている。
【0011】
なおさらなる実施形態では、生体試料は腫瘍生検材料である。
【0012】
本発明のこれら及び他の特徴、態様及び利点は、以下の説明及び添付の図面に関してよりよく理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】スクリーニングで同定された遺伝子がインビボでの増殖性癌細胞浸潤に必要であることを示すグラフ図である。a)スクランブルshRNA、もしくはKif3b、SRPK1又はNr2f1を標的とするshRNAで形質導入したHEp3細胞によって産生された転移性コロニーを示す画像である。挿入図は転移性コロニー内の代表的な細胞の軌跡を示す。b)左のパネルは、スクランブルshRNA、もしくはKif3b、SRPK1又はNr2f1を標的とするshRNAで形質導入したHEp3細胞によって産生された原発腫瘍の侵襲前面を示す画像である。挿入図は、侵襲前面における代表的な細胞の軌跡を示す。右のパネルは、左のパネルの赤い点線の正方形からの浸潤細胞を示す。色分けされた矢印は、個々に対応して色分けされた標識細胞(c1~c3)によって形成された細胞突出部を指す。c)
図1aからの対照細胞株及び突然変異細胞株について、個々の細胞の軌跡の速度を示すグラフ図である。d)
図1aからの対照細胞株及び突然変異細胞株について、個々の細胞の軌跡の変位速度(生産性)を示すグラフ図である。e)
図1bからの対照細胞株及び突然変異細胞株について、個々の細胞の軌跡の速度を示すグラフ図である。d)
図1bからの対照細胞株及び突然変異細胞株について、個々の細胞の軌跡の変位速度を示すグラフ図である。g)
図1bからの細胞株について、原発腫瘍から遊走した1視野当たりの浸潤細胞の数を示すグラフ図である。h)
図1bからの対照細胞株及び突然変異細胞株について、細胞当たりの細胞突出数を示すグラフ図である。
【
図2】スクリーニングで同定された遺伝子を標的とすることがインビボでの自然発生癌細胞転移を阻止することを示すグラフ図である。a)対照(スクランブル)shRNA形質導入HEp3細胞、又はKif3b、SRPK1及びNr2f1を標的とするshRNAを安定的に発現するHEp3細胞を皮下注射したヌードマウス肺の立体蛍光画像である。b)ヒトalu q-PCRによって決定した、肺に転移したHEp3癌細胞の正確な定量化を示すグラフ図である。データは、相対転移量をパーセントで表し、標準曲線を用いて推定したときに検出された癌細胞の総数(色付きの数)を表す。c)実験に使用される腫瘍を誘導した対照細胞株及びノックダウン細胞株の原発腫瘍重量を示すグラフ図である。
【
図3】再注射によるスクリーニングで同定されたクローンの定量的検証を示すグラフ図である。a)スクリーニング中に単離されたコンパクトコロニー形成クローンの代表的な画像である。挿入図は複合材料のCIスコア、及び存在量によって並び替えたクローン内に存在するshRNAを示す。また、元の(wt)及びスクランブルshRNAを形質導入したHEp3細胞によって形成された代表的なコロニーも示されている。さらなる分析のために選択されたshRNAは赤で強調表示されている。b)スクリーニングで同定されたクローンの線形指数分布を示すグラフ図である。c)スクリーニングで同定されたクローンの密度指数分布を示すグラフ図である。d)スクリーニングで同定されたクローンの面積指数分布を示すグラフ図である。
【
図4】スクリーニングで同定された遺伝子の発現による突然変異細胞株ノックダウンの発生を示すグラフ図である。a)Kif3b突然変異細胞株及び対照細胞株(HEp3、MDA-MB-231及びPC3)のウエスタンブロッティング分析を示す図である。b)SRPK1突然変異細胞株及び対照細胞株(HEp3、MDA-MB-231及びPC3)のウエスタンブロッティング分析を示す図である。c)Nr2f1突然変異細胞株及び対照細胞株(HEp3及びMDA-MB-231)のウエスタンブロッティング分析を示す図である。d)TMEM229b突然変異細胞株及び対照細胞株のq-PCR分析を示すグラフ図である(HEp3、野生型HEp3における発現を100%に設定)。e)C14orf142突然変異細胞株及び対照細胞株のq-PCR分析を示すグラフ図である(HEp3、野生型HEp3における発現を100%に設定)。(d)及び(e)の挿入図は、TMEM229b及びC14orf142の第2の独立したshRNAによって誘導されたコロニーについての代表的な画像を示す。
【
図5】インビトロ癌細胞遊走に対するKif3b及びSRPK1発現ノックダウンの効果を示すグラフ図である。磁気的付着性ステンシル、Matを利用する修正セルスクラッチアッセイを用いた。a)対照細胞株及び突然変異Kif3b細胞株のMat(磁気的付着性ステンシル)インビトロ遊走アッセイを示すグラフ図である。b)対照細胞株及び突然変異体SRPK1細胞株のMatインビトロ遊走アッセイを示すグラフ図である。各細胞株について、野生型の平均値を100%に設定した。
【
図6】スクリーニングで同定された遺伝子の発現上昇が、主要な種類のヒト癌における癌細胞の転移挙動と相関することを示すグラフ図である。a)皮膚癌、前立腺癌、頭頸部癌、肺癌、卵巣癌及び結腸癌における原発腫瘍に対する転移性病変における選択されたスクリーニングヒットの発現を示す図である(Oncomine)。b)皮膚(黒色腫)癌におけるNr2f1、C14orf142及びKif3b発現の免疫組織化学的分析を示す画像である。c)前立腺癌におけるSRPK1及びKif3b発現の免疫組織化学的分析を示す画像である。d)頭頸部(扁平上皮癌)癌におけるKif3b発現の免疫組織化学的分析を示す画像である。e)肺癌におけるSRPK1及びTMEM229b発現の免疫組織化学的分析を示す画像である。f)卵巣癌におけるNr2f1発現の免疫組織化学的分析を示す画像である。g)結腸癌におけるNr2f1発現の免疫組織化学的分析を示す画像である。赤い矢印は浸潤性腫瘍の前面を指している。
【
図7】陽性(抗CD151)及び陰性(スクランブルshRNA)対照に対するスクリーニングヒットの複合コンパクト性指数(CI)分布のグラフ図である。陰性対照よりもはるかにコンパクトなスクリーニングヒットは緑色で表示されている。単一のshRNA種を含むクローンは太字で表示されている。複数のshRNAを含むクローンの場合、2つの最も優勢なshRNAが示されている。統計的有意性は、FisherのLSD検定を用いた一元配置分散分析を使用して決定した(*p<0.05、**p、0.01、***p<0.001)。
【
図8】スクリーニングで同定されたmiRNAの発現上昇が侵襲性転移病変形成を阻止することを示すグラフ図である。a)対照、miR122、miR374b又は抗miRNA-130b構築物を発現する癌細胞によって形成される転移性病変を示す画像である。b)対照、miR122、miR374b又は抗miRNA-130b構築物を発現する癌細胞によって形成される転移性病変について、癌細胞と血管の接触長の定量化を示すグラフ図である。c)対照、miR122、miR374b又は抗miRNA-130b構築物を発現する癌細胞によって形成される転移性病変について、癌細胞に接触している血管細胞のパーセンテージの定量化を示すグラフ図である。
【
図9】スクリーニングで同定されたmiRNAの発現上昇が癌細胞浸潤を阻止することを示すグラフ図である。a)対照(赤)又はmiR122(緑)の過剰発現細胞を発現する癌細胞によって形成される転移性病変を示す画像である。b)対照(赤)又はmiR122(緑)の過剰発現細胞を発現する癌細胞の細胞遊走軌跡を示す画像である。c)対照(赤)又はmiR122 o/e構築物を発現する癌細胞変位速度の定量化を示すグラフ図である。d)対照(赤)又はmiR122 o/e癌細胞(緑)の転移量(自然転移)の定量化を示すグラフ図である。
【
図10】スクリーニングで同定されたmiRNAの発現上昇が血管系に沿った癌細胞浸潤を阻止することを示すグラフ図である。a)血管壁の隣にあるスクランブル対照(赤)又はmiR122(緑)過剰発現細胞を示す画像である。b)又はmiR122 o/e過剰発現細胞(2つの独立した構築物)について、癌細胞と血管の接触を示すグラフ図である。c)血管系に沿った対照及びmiR122 o/e癌細胞突出部の色分け表示を示す画像である。d)血管系に沿った対照及びmiR122 o/e癌細胞突出部の色分け表示を示す画像である。e)対照及びmiR122 o/e癌細胞について、癌細胞突出部と血管壁の角度の定量化を示すグラフ図である。f)対照及びmiR122 o/e癌細胞と血管配向コラーゲン線維(SHG)との相互作用の画像化を示す。
【
図11】スクリーニングで同定されたmiRNAの発現上昇が癌細胞のコラーゲンマトリックスへの浸潤を阻止することを示すグラフ図である。a)スクランブル対照、miR122過剰発現細胞又はMT1-MMP阻害剤(phenantrione、ph)処理細胞の3Dコラーゲンマトリックス(ラットテールコラーゲンゲル)への浸潤を示す画像である。b)コラーゲンマトリックスへの癌細胞浸潤を示すグラフ図である。c)コラーゲン分解の定量化を示すグラフ図である。d)対照又はmiR122 o/e細胞によるコラーゲン分解を示す(a)からの代表的な光学切片を示す画像である。e)ニワトリCAMコラーゲンマトリックス(SHG)中の対照及びmiR122 o/e癌細胞の代表的な2D及び3D画像である。miR122 o/e細胞はコラーゲンに侵入して表面に成長することができないことに注目されたい(下のパネル)。f)癌細胞注射後1~5日目の対照及びmiR122 o/e細胞について、転移コロニー深度の定量化を示すグラフ図である。g)癌細胞注射後1~5日目の対照及びmiR122 o/e細胞について、整列したコラーゲン束の定量化を示すグラフ図である。
【
図12】スクリーニングで同定されたmiRNAの発現上昇が正常なMT1-MMPの輸送及び局在化を阻止することを示すグラフ図である。a)対照及びmiR122 o/e細胞におけるMT1-MMP小胞の局在化及び軌跡を示す代表的な画像である。b)対照及びmiR122 o/e癌細胞におけるMT1-MMP小胞軌跡長の定量化を示すグラフ図である。c)ニワトリCAMコラーゲンマトリックス(SHG)中の対照及びmiR122 o/e癌細胞の代表的な画像である。miR122 o/e細胞は、突出部に接触しているコラーゲンにMT1-MMPを適切に局在化できないことに注目されたい。d)ニワトリCAM中の細胞と接触している対照及びmiR122 o/e癌血管の代表的な画像である。miR122 o/e細胞はMT1-MMPを癌細胞と血管壁との接触領域に適切に局在化させることができないことに注目されたい。f)破線に沿って行われた(d)の画像を走査するシグナル強度線を示す画像である。赤い矢印は癌細胞と血管壁の接触を示す。g)対照及びmiR122 o/e癌細胞について突出部におけるMT1-MMPシグナル強度の定量化を示すグラフ図である。
【
図13】スクリーニングで同定されたmiRNAの発現上昇が癌細胞の血管外遊出を阻止することを示すグラフ図である。a)ニワトリCAM血管系から血管外遊出する対照(赤)及びmiR122 o/e(緑)細胞を示す代表的な画像である。b)対照及びmiR122 o/e癌細胞の血管外遊出の定量化を示すグラフ図である。c)ニワトリCAM血管系において血管外遊出する対照及びmiR122 o/e癌細胞(MT1-MMP過剰発現、赤)の代表的な画像である。miR122 o/e細胞は、MT1-MMPを突出部に接触している血管壁に適切に局在化できないことに注目されたい。d)対照及びmiR122 o/e癌細胞について、突出部におけるMT1-MMPシグナル強度の定量化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明は、単なる一例としての、本発明を実施するために必要な組み合わせを限定しない、特定の一実施形態である。
【0015】
一実施形態によれば、癌を有する対象における転移を予防するための方法が提供される。この方法は、癌性腫瘍におけるキネシン様タンパク質3b(Kif3b)、セリン/トレオニン-タンパク質キナーゼ1(SRPK1)、膜貫通タンパク質229b(TMEM229b)、染色体14オープンリーディングフレーム142(C14orf142)、核受容体サブファミリー2、グループF、メンバー1(Nr2f1)、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122の少なくとも1つの遺伝子発現を調節することを含む。いくつかの実施形態において、方法は、癌性腫瘍におけるKif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、及びmiRNA374b 122の少なくとも1つの発現を低減、防止又は「サイレンシング」することを含む。他の実施形態では、この方法は癌性腫瘍におけるmiRNA122の発現を増加させることを含む。
【0016】
本明細書に記載の方法を使用して、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122の発現が癌の運動性に関連することが見出され、これらの遺伝子の発現の調節は、癌が病巣病変から広がるのを予防した。
【0017】
本議論の目的のために、用語「調節する」は、細胞における発現の基礎レベルと比較した場合の遺伝子発現の上方制御又は遺伝子発現の下方制御のいずれかを意味し得る。
【0018】
遺伝子発現は、遺伝子の核酸配列からのポリペプチドの産生を指す場合があることが理解されるであろう。遺伝子発現は、転写及び翻訳プロセスの両方を含み得、したがって遺伝子発現は、mRNAなどの核酸配列の産生(すなわち転写)、タンパク質の産生(すなわち翻訳)、又はその両方を指し得る。例として、各々が適切なプロモーター配列(例えば、構成的プロモーター又は誘導性プロモーター)によって駆動される特定の遺伝子の1つ又は複数のコピーを含むベクター(ウイルス性、プラスミド性又はその他のいずれか)をトランスフェクション、エレクトロポレーション、もしくはウイルス感染、又は当技術分野で公知の別の適切な方法によって細胞に導入することができる。特定の遺伝子を細胞に導入するための適切な発現ベクター技術は当技術分野において公知である(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th Ed.)、2012、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照)。
【0019】
当業者に知られているように、特定の遺伝子を発現するためのヌクレオチド配列は、例えば、「Genes VII」、Lewin、B.Oxford University Press(2000)、又は「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory、3rd edition(2001)に記載されたような1つ以上の適切な特徴をコード又は含み得る。ポリペプチド又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、市販のベクター又は発現カセットなどの適切なベクター又は発現カセットに組み込むことができる。例えば、Sambrook et al.(Cold Spring Harbor Laboratory、3rd edition(2001))に概説されているように、ベクターは、標準的な分子生物学的技術を用いて個々に構築又は修飾することもできる。当業者は、ベクターが、ポリペプチド又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結され得る所望の要素をコードするヌクレオチド配列を含み得ることを認識するであろう。所望の要素をコードするそのようなヌクレオチド配列には、適切な転写プロモーター、転写エンハンサー、転写ターミネーター、翻訳イニシエーター、翻訳ターミネーター、リボソーム結合部位、5’-非翻訳領域、3’-非翻訳領域、キャップ構造、ポリAテール、及び/又は複製の起点が含まれ得る。適切なベクターの選択は、ベクターに組み込まれる核酸のサイズ、所望の転写及び翻訳制御要素の種類、所望の発現レベル、所望のコピー数、染色体への組み込みを所望するか否か、所望の選択プロセスの種類、又は形質転換を意図する宿主細胞もしくは宿主範囲など、いくつかの要因に依存し得るが、これらに限定されない。
【0020】
本発明の一部として含まれるのは核酸ベクターであり、しばしば発現ベクターであり、これは、miRNA122遺伝子(遺伝子ID:406906)に対応するヌクレオチド配列、又は、Kif3b(遺伝子ID:9371)、SRPK1(遺伝子ID:6732)、TMEM229b(遺伝子ID:161145)、C14orf142(遺伝子ID:84520)、KB-1460A1.5、ACTC1(遺伝子ID:70)、Nr2f1(遺伝子ID:7025) KIAA0922(遺伝子ID:422400)、KDELR3(遺伝子ID:11015)、APBA2(遺伝子ID:321)、miRNA 130b(遺伝子ID:406920)、又はmiRNA374b(遺伝子ID:100126317)の遺伝子に対応する核酸に相補的であるか、又は少なくとも部分的に相補的である核酸配列を含有する。ベクターは、それが結合している別の核酸を輸送することができる核酸分子であり、プラスミド、コスミド、又はウイルスベクターを含み得る。ベクターは自律複製が可能であり得るか、又は宿主DNAに組み込まれ得る。ウイルスベクターは、例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスを含み得る。
【0021】
当業者は、細胞内の特定の遺伝子の発現が、様々な周知の方法のいずれかを使用して減少、予防、又は「抑制」され得ることを認識するであろう。非限定的な例として、遺伝子発現はとりわけ、siRNA(短鎖干渉RNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)、短鎖ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、又は他のRNA干渉(RNAi)又はアンチセンス遺伝子サイレンシングトリガなどの遺伝子サイレンシング核酸を用いて抑制され得る(例えば、Gaynor et al.Chem.Soc.Rev.39:4196-4184、2010;Bennett et al.Annual Review of Pharmacology and Toxicology 50:259‐293、2010参照)。遺伝子発現は、当技術分野で公知の他の転写前又は転写後の遺伝子サイレンシング技術によって減少させることができる。特定の遺伝子配列が与えられると、当業者は、その遺伝子配列を標的とすることができ、かつ遺伝子の発現を減少させることができる遺伝子サイレンシングオリゴヌクレオチドを設計できるであろう。Whitehead Instituteから入手可能なもの、又はsiRNAの販売業者から入手可能なものを含む、特定の遺伝子を標的とするためのsiRNA又はAONを設計するための様々なソフトウェアベースのツールが利用可能である。例えば、遺伝子発現mRNA配列の領域に完全に又は実質的に相補的であるsiRNAアンチセンス鎖又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを調製し、RISC又はRNase H媒介mRNA分解を誘発することによって標的遺伝子サイレンシングに使用することができる。遺伝子サイレンシング核酸は、例えば、Wileyによって公表されているCurrent Protocols in Nucleic Acids Chemistryに記載されているように調製することができる。
【0022】
siRNA又はRNAiは、二本鎖RNAを形成し、かつsiRNAが遺伝子又は標的遺伝子と同じ細胞に送達又は発現されるときに遺伝子又は標的遺伝子の発現を減少又は阻害する能力を有する核酸である。siRNAは、相補鎖によって形成された短い二本鎖RNAである。ハイブリダイズして二本鎖分子を形成するsiRNAの相補的部分は、標的分子配列に対して実質的又は完全な同一性をしばしば有する。一実施形態では、siRNAは、標的遺伝子に対して実質的又は完全な同一性を有し、また二本鎖siRNAを形成する核酸である。
【0023】
siRNA分子を設計するとき、標的領域は開始コドンの50~100ヌクレオチド下流の所定のDNA配列からしばしば選択される。最初は、UTR結合タンパク質及び/又は翻訳開始複合体がsiRNP又はRISCエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害する可能性があると仮定して、5’又は3’ UTR及び開始コドン付近の領域を避けた。時には、配列モチーフAA(N19)TT(N、ヌクレオチド)に一致する長さ23ヌクレオチドの領域、及び約30%から70%のG/C含有量(しばしば、約50%のGIC含有量)の領域がしばしば選択される。適切な配列が見つからない場合、モチーフNA(N2 1)を使用して検索がしばしば拡張される。センスsiRNAの配列は、時には、(N19)TT又はN21(23塩基のモチーフの3から23位)にそれぞれ対応する。後者の場合、センスsiRNAの3’末端はしばしばTTに変換される。この配列変換の理論的根拠は、センス及びアンチセンス3’オーバーハングの配列組成に関して対称的二本鎖を生成することである。アンチセンスsiRNAは、23塩基モチーフの1~21位の相補鎖として合成される。23塩基モチーフの1位はアンチセンスsiRNAによって配列特異的に認識されないため、アンチセンスsiRNAの最も3’側のヌクレオチド残基は慎重に選択することができる。しかしながら、アンチセンスsiRNAの最後から2番目のヌクレオチド(23塩基のモチーフの2位に相補的)はしばしば標的配列に相補的である。化学合成を単純化するために、TTがしばしば利用される。Rがプリン(A、G)であり、Yがピリミジン(C、U)である標的モチーフNAR(N17)YNNに対応するsiRNAがしばしば選択される。それぞれの21ヌクレオチドセンス及びアンチセンスsiRNAはしばしばプリンヌクレオチドで始まり、標的部位を変えることなくpol III発現ベクターから発現させることもできる。最初に転写されたヌクレオチドがプリンである場合、pol IIIプロモーターからのRNAの発現はより効率的になり得る。
【0024】
siRNAの配列は、全長標的遺伝子、又はその部分配列に対応し得る。多くの場合、siRNAは約15~約50ヌクレオチドの長さである(例えば、二本鎖siRNAの各相補配列は15~50ヌクレオチドの長さであり、二本鎖siRNAは約15~50塩基対の長さ、時には約20~30ヌクレオチドの長さ、又は約20~25ヌクレオチドの長さ、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30ヌクレオチドの長さである。siRNAは時には約21ヌクレオチドの長さである。siRNAを使用する方法は当技術分野において公知であり、特定のsiRNA分子はDharmacon Research、Incを含む多数の会社から購入することができる。
【0025】
遺伝子発現は、強力かつ特異的な遺伝子サイレンシング、RNA干渉又はRNAiと呼ばれる現象を誘導する二本鎖RNA(dsRNA)の導入によって阻害され得る。例えば、Fire et al.米国特許第6,506,559号、Tuschl et al.PCT国際公開番号WO01/75164、M.Kay et al.PCT国際公開番号WO03/010180A1を参照)。このプロセスは、(低分子干渉RNA又はsiRNAを作製するために)二本鎖RNAのサイズを20~24塩基対に減少させ、急性期反応、すなわちしばしば細胞死に至る宿主防御メカニズムを開始することなく哺乳動物細胞における遺伝子をスイッチオフすることによって改善された。ヒト細胞において、mRNAレベルで哺乳動物細胞における標的化発現を阻害するためのRNA干渉(RNAi)による転写後遺伝子サイレンシングの証拠が増えている。ヒト患者における腫瘍細胞の増殖及び遊走を阻害するため、及び転移性癌を阻害するために有効な方法についてさらなる証拠がある。
【0026】
別の実施形態では、遺伝子サイレンシング核酸はリボザイムである。標的ヌクレオチド配列に対して特異性を有するリボザイムは、そのようなヌクレオチド配列に相補的である1つ以上の配列、及びmRNA切断の要因である既知の触媒領域を有する配列を含み得る(例えば、米国特許第5,093,246号を参照)。例えば、活性部位のヌクレオチド配列がmRNA中で切断されるべきヌクレオチド配列に相補的であるテトラヒメナL-19 IVS RNAの誘導体が時には利用される(例えば、Cech et al.米国特許第4,987,071号、及びCech et al.米国特許第5,116,742号を参照)。また、標的mRNA配列を用いて、RNA分子のプールから特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNAを選択することができる。
【0027】
アンチセンス、リボザイム、RNAi及びsiRNA核酸などの遺伝子サイレンシング核酸分子を改変して、修飾核酸分子を形成することができる。核酸は、分子の安定性、ハイブリダイゼーション又は溶解性を改善するために、塩基部分、糖部分又はリン酸骨格部分で改変することができる。例えば、核酸分子のデオキシリボースホスファート骨格を修飾して、ペプチド核酸を生成することができる(Hyrup et al.Bioorganic&Medicinal Chemistry 4(1):5-23、1996を参照)。ペプチド核酸又はPNAは、DNA模倣物などの核酸模倣物を指し、デオキシリボースホスファート骨格が偽ペプチド骨格によって置き換えられ、4つの天然核酸塩基のみが保持されている。PNAの中性骨格は、低いイオン強度の条件下で、DNA及びRNAへの特異的ハイブリダイゼーションを可能にし得る。PNAオリゴマーの合成は、例えば、Hyrup et al.に記載された標準固相ペプチド合成プロトコルを用いて行うことができる。
【0028】
PNA核酸は、本明細書に記載されている予後診断用途、診断用途、及び治療用途に使用することができる。例えば、PNAは、例えば転写又は翻訳の停止を誘導すること、又は複製を阻害することによる、遺伝子発現の配列特異的調節のためのアンチセンス又は抗遺伝子剤として使用することができる。PNA核酸分子はまた、遺伝子中のSNPの分析において(例えば、PNA指向PCRクランピングによる)、他の酵素と組み合わせて使用する場合の人工制限酵素として(例えば、S1ヌクレアーゼ(Hyrup et al.前出)、もしくはDNA配列決定又はハイブリダイゼーション用のプローブ又はプライマーとして(Hyrup et al.前出)も使用され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、miRNA122などの目的の遺伝子を、癌性腫瘍の基礎レベルと比較して過剰発現させて、癌が転移する可能性を最小限に抑える。遺伝子の過剰発現は、限定されるものではないが、目的の遺伝子を過剰発現する遺伝子構築物を用いて細胞/組織をトランスフェクトすることなど、多数の異なる方法で達成することができる。さらに、遺伝子/細胞の転写又は翻訳機構に影響を与える遺伝子構築物を用いて細胞/組織をトランスフェクトすることもまた、目的の遺伝子の過剰発現を引き起こすために使用され得る。さらに、癌性細胞において目的の遺伝子の発現を増加させる小分子を開発することができる。
【0030】
核酸配列を細胞に挿入することに関連して、遺伝子を導入するとは「トランスフェクション」、「形質転換」又は「形質導入」を指し、核酸配列の真核細胞への組み込み又は導入を含み、核酸配列は場合により細胞のゲノムに組み込まれてもよく、又は一過性に発現されてもよい(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。タンパク質又は酵素は、タンパク質又は酵素自体を細胞内に送達することによって、もしくはタンパク質又は酵素をコードするmRNAを細胞内で発現させてその翻訳をもたらすことによって、細胞内に導入することができる。
【0031】
遺伝子サイレンシング核酸分子は、任意の多数の周知の方法を用いて細胞に導入され得る。発現ベクター(ウイルス性、プラスミド性、又は他のいずれか)をトランスフェクト、エレクトロポレーション、又は他の方法で細胞に導入することができ、次いで遺伝子サイレンシングヌクレオチドを発現させることができる。あるいは、例えばトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションによって(すなわち、限定されるものではないがLipofectamine(商標)、Oligofectamine、又は当技術分野で公知の他の適切な送達剤などのトランスフェクション試薬を用いて)、又は当技術分野で公知の標的化遺伝子又は核酸送達ビヒクルを通して、遺伝子サイレンシングヌクレオチド自体を細胞に直接導入してもよい。多くの送達ビヒクル及び/又は薬剤が当技術分野において周知であり、そのうちのいくつかは市販されている。遺伝子サイレンシング核酸のための送達戦略は、例えば、Yuan et al.Expert Opin.Drug Deliv.8:521~536、2011;Juliano et al.Acc.Chem.Res.45:1067-1076、2012、及びRettig et al.Mol.Ther.20:483~512、2012に記載されている。トランスフェクション方法の例は、例えば、Ausubel et al.(1994)Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、New Yorkに記載されている。発現ベクターの例は、例えば、Cloning Vector:A Laboratory Manual(Pouwels et al.1985、Supp.1987)に記載されている。
【0032】
当業者は、モノクローナル又はポリクローナル抗体又はそのFabフラグメントなど、本明細書に記載の1つ以上のアミノ酸、核酸、タンパク質又は酵素を標的とする抗体又は抗体フラグメントが、標準的な実験室技術を用いて特定のアミノ酸、核酸、タンパク質又は酵素標的を標的とするために生成され得、したがって遺伝子をサイレンシングすることを理解するであろう。非限定的な例として、特定の標的に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を用いて調製することができる(例えば、Harlow et al.Antibodies:A Laboratory Manual、(Cold Spring Harbor Laboratory Press、2nd ed.1988);Hammerling et al.Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas pp563~681(Elsevier、NY、1981)を参照)。当業者は、特定のアミノ酸、タンパク質、核酸又は酵素標的に対する抗体を調製する方法及び技術を知っているであろう。そのような抗体は、アミノ酸、タンパク質、核酸又は酵素標的を結合して、それがその通常の機能を果たすことを妨げ、同じアミノ酸、核酸、タンパク質又は酵素の遺伝子サイレンシングから生じる結果と同様の結果をもたらす。したがって、特定の実施形態では、特定の遺伝子を標的とするか、又は「サイレンシング」するための遺伝子サイレンシング核酸の代わりに、抗体を使用することができる。
【0033】
Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、又はmiRNA374bの活性を阻害する化合物は、本発明において有用であり得、小分子を含み得る。小分子は、ペプチド、ペプチド模倣薬(例えば、ペプトイド)、アミノ酸、アミノ酸類似体、1モル当たり約10,000グラム未満の分子量を有する有機又は無機化合物(すなわち、ヘテロ有機化合物又は有機金属化合物を含む)、1モル当たり約5,000グラム未満の分子量を有する有機又は無機化合物、1モル当たり約1,000グラム未満の分子量を有する有機又は無機化合物、1モル当たり約500グラム未満の分子量を有する有機又は無機化合物、及びそのような化合物の塩、エステル、及び他の薬学的に許容される形態を含むが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書に記載の1つ以上の核酸及び/又はポリペプチドを含むか又はそれらから構成される化合物及び/又は組成物が使用され得ることが理解されよう。組成物は、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、賦形剤、又は緩衝剤をさらに含み得る。組成物は、インビトロ又はインビボで細胞に1つ以上の核酸及び/又はポリペプチドを投与するために使用され得る。
【0035】
治療薬として利用される場合、遺伝子サイレンシング核酸分子は、典型的には対象に投与されるか(例えば組織部位への直接注射によって)、又は、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bなどの細胞内mRNA及び/又はポリペプチドをコードするゲノムDNAとハイブリダイズ又は結合するようにin situで生成され、それにより、例えば転写及び/又は翻訳を阻害することによって、ポリペプチドの発現を阻害する。あるいは、核酸分子をサイレンシングする遺伝子は、選択された細胞を標的とするように改変され得、次いで全身的に投与される。全身投与の場合、遺伝子サイレンシング核酸分子は、例えば遺伝子サイレンシング核酸分子を細胞表面受容体又は抗原に結合するペプチド又は抗体に結合することによって、選択された細胞表面上に発現される受容体又は抗原に特異的に結合するように修飾できる。遺伝子サイレンシング核酸分子はまた、ベクターを用いて細胞に送達することができる。遺伝子サイレンシング核酸分子の十分な細胞内濃度は、ベクター構築物中に、pol II又はpol IIIプロモーターなどの強力なプロモーターを組み込むことによって達成される。
【0036】
本明細書で定義されるように、治療有効量のタンパク質又はポリペプチド(すなわち有効投与量)は、約0.001~30mg/kg体重、時には約0.01~25mg/kg体重、しばしば約0.1~20mg/kg体重、より頻繁には約1~10mg/kg、2~9mg/kg、3~8mg/kg、4~7mg/kg、又は5~6mg/kg体重の範囲である。タンパク質又はポリペプチドは、約1~10週間の間、時には2~8週間の間、しばしば約3~7週間の間、より頻繁には約4、5又は6週間の間、週に1回投与することができる。当業者は、疾患又は障害の重篤度、以前の治療、対象の一般的な健康状態及び/又は年齢、及び存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない一定の要因が、対象を効果的に治療するために必要な投与量及びタイミングに影響を及ぼし得ることを認識するであろう。さらに、治療有効量のタンパク質、ポリペプチド、又は抗体を用いた対象の治療は、単回治療を含むことも、一連の治療を含むこともできる。
【0037】
抗体については、0.1mg/kg体重(一般的には10mg/kg~20mg/kg)の投与量がしばしば利用される。抗体が脳内で作用するのであれば、50mg/kg~100mg/kgの投与量がしばしば適切である。一般に、部分的ヒト抗体及び完全ヒト抗体は、他の抗体よりも人体内でより長い半減期を有する。したがって、より低い投与量及びより低頻度の投与がしばしば可能である。脂質化などの修飾を用いて抗体を安定化し、取り込み及び組織浸透(例えば脳への)を増強することができる。抗体の脂質化のための方法は、Cruikshankら(Cruikshank et al.1997)によって記載されている。
【0038】
抗体コンジュゲートは、所与の生物学的応答を改変するために使用することができ、薬物部分は古典的な化学療法剤に限定されると解釈されるべきではない。例えば、薬物部分は、所望の生物学的活性を有するタンパク質又はポリペプチドであり得る。そのようなタンパク質は、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素又はジフテリア毒素などの毒素、腫瘍壊死因子、αインターフェロン、βインターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子、組織プラスミノーゲンアクチベーターなどのポリペプチド、又は例えばリンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)又は他の増殖因子などの生物学的応答修飾因子を含み得る。あるいは、Segalによって米国特許第4,676,980号に記載されているように、抗体を第2の抗体にコンジュゲートして抗体ヘテロコンジュゲートを形成することができる。
【0039】
化合物については、例示的用量は、対象又は試料重量のキログラム当たりの化合物のミリグラム又はマイクログラム量、例えば、約1マイクログラム/kg~約500ミリグラム/kg、約100マイクログラム/kg~約5ミリグラム/kg、又は約1マイクログラム/kg~約50マイクログラム/kgを含む。小分子の適切な用量は、調節される発現又は活性に関する小分子の効力に依存することが理解される。本明細書に記載のポリペプチド又は核酸の発現又は活性を調節するためにこれらの小分子のうちの1つ又は複数を動物(例えば、ヒト)に投与する場合、医師、獣医師、又は研究者は、例えば、最初は比較的低用量で処方し、その後適切な反応が得られるまで用量を増やす。さらに、任意の特定の動物対象についての具体的な用量レベルは、使用される具体的な化合物の活性、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、及び食生活、投与時間、投与経路、排泄速度、任意の薬物の組み合わせ、及び調節されるべき発現又は活性の程度を含む様々な要因に依存する。
【0040】
核酸製剤に関して、遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与(例えば、米国特許第5,328,470号を参照)又は定位注射(Chen et al.1994)によって対象に送達され得る。遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は、許容される希釈剤中の遺伝子治療ベクターを含み得るか、又は遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれている徐放性マトリックスを含み得る。あるいは、完全な遺伝子送達ベクターが組換え細胞(例えば、レトロウイルスベクター)から無傷で産生され得る場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を産生する1つ以上の細胞を含み得る。遺伝子送達ベクターの例は本明細書に記載されている。
【0041】
別の実施形態では、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122のうちの少なくとも1つの発現を用いて、癌が転移可能かどうかを検出する。この場合、癌を有する患者から生体試料を採取し、この試料を分析して、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、 APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bのレベルが生体試料中の正常な基礎レベルを超えて増加するか、又はmiRNA122の場合には正常な基礎レベルを超えて減少するかどうかを検出する。mRNAレベルを決定するために、対象から得られた生体試料から核酸を単離する。例えば、核酸は、血液、唾液、痰、尿、細胞掻爬物及び生検組織から単離することができる。核酸試料は、標準的な技術を用いて生体試料から単離することができる。核酸試料は、対象から単離され、次いで方法において直接利用されてもよく、あるいは、試料は単離され、ある期間貯蔵(例えば凍結)された後、分析に供されてもよい。
【0042】
診断方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(例えば、米国特許第4,683,195号;第4,683,202号及び第6,040,166号、「PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications」Innis et al.(Eds.),1990,Academic Press:New Yorkを参照)、逆転写酵素PCR(RT-PCT)、アンカーPCR、競合的PCR(例えば、米国特許第cDNA末端の迅速増幅(RACE)(例えば、Gene Cloning and Analysis:Current Innovations、1997、pp.99-115を参照)、リガーゼ連鎖反応(LCR)(例えば、EP 01 320308を参照)、片側PCR(Ohara et al.Proc.Natl.Acad.Sci.1989,86:5673-5677を参照)、in situハイブリダイゼーション、Taqmanに基づくアッセイ(Holland et al.Proc.Natl.Acad.Sci.1991,88:7276~7280)、ディファレンシャルディスプレイ法(例えば、Liang et al.Nucl.Acid.Res.1993、21:3269~3275を参照)及び他のRNAフィンガープリンティング技術、核酸配列に基づく増幅(NASBA)及び他の転写に基づく増幅システム(例えば、米国特許No.5,409,818及び5,554,527を参照)、Qベータレプリカーゼ、鎖置換増幅(SDA)、修復連鎖反応(RCR)、ヌクレアーゼ保護アッセイ、サブトラクションに基づく方法、Rapid-Scan(商標)などを含むがこれに限定されない任意の適切な方法を用いて、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122のうちの少なくとも1つの発現レベルの決定を含み得ることが認識されるであろう。
【0043】
他の場合において、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122の発現は、免疫ブロッティング、免疫沈降、及び酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を含むがこれらに限定されない様々な技術によって、タンパク質レベルで検出され得る。したがって、対象由来のヌクレオチド配列によってコードされたポリペプチド又はタンパク質を、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122に関連するエピトープに特異的に結合する抗体と接触させることを用いて、個体が転移性癌を有するか又は発症しやすいかどうかを決定することができる。診断に適した細胞は、患者の血液、尿、唾液、組織生検材料及び剖検材料から得ることができる。
【0044】
別の実施形態では、方法を実施するのに必要な構成要素はキットの一部として提供される。特に、キットは、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b、miRNA374b又はmiRNA122に結合する分子、及びアッセイを実行するために必要な任意の緩衝剤を含む。この分子は、Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C14orf142、KB-1460A1.5、ACTC1、Nr2f1、KIAA0922、KDELR3、APBA2、miRNA130b又はmiRNA374bの発現又は機能を下方制御する遺伝子サイレンシング核酸分子、小分子又は生物製剤、及び/又はmiRNA122の発現を上方制御することができる小分子又は遺伝子構築物である。任意選択で、キットは、アッセイにおける分子の使用のための説明書のセットを含むことができる。しかしながら、説明書は一組の紙の説明書である必要はなく、その代わりに説明書をURLアドレス又はQR(商標)コードを通して提供することができることが想定される。
【0045】
それに対する多数の改変が当業者には明らかであろうことが理解されるであろう。したがって、上記の説明及び添付の図面は、限定的な意味ではなく、本発明の例示として解釈されるべきである。一般に本発明の原理に従い、本発明が関連する技術分野における既知の又は慣習的な慣行の範囲内にあるような、また本明細書に記載される前に本明細書中の本質的な特徴に適用され得るような本開示からの逸脱を含む本発明の任意の変形、使用又は適合を網羅することが意図され、添付の特許請求の範囲の範囲内で以下の通りであることがさらに理解されるであろう。
【0046】
以下の例は、当業者を対象とした例示目的のために提供される。これらの例は非限定的であることを意図しており、そして本明細書中の教示を考慮して当業者に知られているであろう多数の変形及び改変が可能であり得ることが理解されるであろう。
例
【0047】
従来、インビボでの細胞運動性に必要な遺伝子の同定は、インビボで転移性病変の形成を視覚化することにおける固有の難しさによって妨げられてきた(Sahai、Nat Rev Cancer 7:737-749、2007、Kishimoto et al.Nat Med 12:1213-1219,2006)。これに対処するために、生体内イメージングアプローチを殻のない卵外のトリ胚において使用して、インビボで腫瘍細胞の運動性を調節する遺伝子産物についてshRNAスクリーニングを実施した。静脈内注射後、癌細胞は胚の血管系全体に広く播種する。これらの癌細胞のかなりの部分は、漿尿膜(CAM)中で単一細胞として停止し、そこでそれらは血管系外の基質への遊出を受け、浸潤性転移性コロニーへと増殖する。各々単一の癌細胞に由来するこれらのコロニーは、4日かけて約1mm2(コロニー当たり50~100細胞)のサイズに達し、生体顕微鏡を使用して容易に視覚化することができる。単一胚のCAMで数千の個々の転移性コロニーを同時に視覚化することができるため、このアプローチを用いて遺伝子の大きなライブラリーをスクリーニングすることができる。運動表現型を同定することは簡単である。ヒト頭頸部HEp3細胞株などの運動性の高い癌細胞を注入すると、結果として生じるコロニーは、増殖細胞が遊出点からかなりの距離で遊走した「拡散」遊走表現型をとる。CD151特異的遊走阻止抗体を用いた場合に観察されるように、腫瘍細胞のインビボ運動性が低下すると、転移性コロニーは、高度に運動性の表現型と容易に区別される非常にコンパクトな形態を示す。密集した癌細胞で構成されるこれらのコンパクトな転移性病変は、周囲の組織から容易に切除することができ、さらなる分析に供することができる。CD151の標的化に関して従来見られたように、インビボ細胞運動性に必要とされる遺伝子の阻害はコンパクトコロニー表現型を導き、このアプローチを利用して血管内侵入及び転移に影響を与える細胞運動性の治療標的をスクリーニングすることが可能になる。
【0048】
スクリーニングを行うため、内在性RNAi経路によるプロセシングを可能にするために天然miR-30一次転写物を用いて構築されたヒトshRNA GIPZマイクロRNA適合shRNAレンチウイルスライブラリー(Open Biosystems)でHEp3細胞を形質導入した。このライブラリーは、7つのプールに含まれる30,728のヒト遺伝子を標的とする79,805の配列検証済みshRNAと、成功した形質導入をモニターするためのTurboGFPとを含有する。各プールを用いて、培養中のHEp3細胞にMOI(0.2)で形質導入し、ポアソン分布に従って癌細胞当たり単一のshRNAの組み込みを支持した。25,000個の腫瘍細胞をトリ胚に静脈内注射すると、およそ10%の細胞が静止し、容易にアクセス可能で目に見えるCAM臓器内に血管外遊出し、孤立した転移性コロニーを形成する。99%の信頼度で79805個のshRNAクローンの3倍カバレージを確実にするために、スクリーニングを100個の胚において実施した。形質導入されたGFP発現細胞を、発生10日目に卵外培養で胚に静脈内注射した。発生15日目に、これらの100個の胚のCAM中の200,000個以上のコロニーを生体内顕微鏡を用いて調査した。このうち、67個の形態学的にコンパクトな転移性病変を同定し切除した。これらのコロニーを解離させ、選択下で培養し、50個のクローンを培養中でうまく増殖させた。
【0049】
組み込まれたshRNAを同定するために、各クローンからのインサートを一般的なフランキングプライマーを用いてPCRによって増幅し、得られたcDNA配列をIlluminaプラットフォーム上でのディープシークエンシングによって決定した。生の配列リードをストリンジェントなフィルタリングアルゴリズムにかけて、隣接するmiRNA配列を同定し、矛盾するループ配列及びステム塩基対ミスマッチを有するリードを排除した。次いで、フィルタリングされた配列をライブラリー及びヒトヌクレオチド(nt)データベースの両方に対してBLAST分析にかけ、それらの存在量に従って順位付けした。50個の単離されたクローンのうち17個が単一のshRNAを含有し、一方残りの33個のクローンは各々2個以上のshRNAを含有した。
【0050】
次に、それらのコンパクトコロニー表現型の程度に従って、インビボでの生産的細胞遊走に対するそれらの影響に基づいて遺伝子標的を優先順位付けした。これは、実験的転移アプローチを使用することによって達成され、それによって外卵鶏胚への静脈内注射後に各クローンの表現型を検証し、得られた転移コロニーの画像を生体内イメージングを用いて捕捉した。カスタムMatlabベースのプログラムを開発して、3つの補完的なアルゴリズムを使用して各転移性コロニーの画像を分析した。インビトロでヒットクローンの増殖速度に有意差は検出されなかったが、いくつかのクローンはインビボで異なる速度で増殖することが観察された(
図3a)。したがって、個々のコロニー間の増殖の違いによる影響を軽減し、インビボでの癌細胞の運動性について正確な評価を得るために、アルゴリズムは2つの異なるパラメータを分析するように設計し、A)コロニーの重心からの癌細胞の遠さ(線形指数)、B)転移性コロニー領域内の癌細胞の密度(密度指数)、及びC)各転移コロニーが占める総面積(面積指数、
図3b~
図3d)であった。簡単に言うと、第1のアルゴリズムは、GFPシグナルを使用して癌細胞の輪郭を描くマスクを作成し、重心を通る360
0ラインスキャンを使用してガウス分布にフィットする平均ラインプロットを作成する。対照shRNAコロニーに対する個々のクローンによって形成されたコロニー間のガウスラジアルラインスキャン強度分布の偏差を使用して、コロニー線形指数を生成する。第2及び第3のアルゴリズムは、蛍光マスクを使用して個々の転移性コロニー領域(面積指数)を測定し、各領域内の蛍光密度(密度指数)を計算する。元のスクリーニングから得られた各クローンについて、10個の個々のコロニーを分析し、次いでそれらの線形指数値及び面積指数値に基づいて分類した。各指数は、スクリーニングで同定されたコロニーの類似の順位付けを生じたが、いくつかの視覚的にコンパクトなクローンは、一方又は他方の方法単独では十分に同定できなかった(
図3b~
図3d)。このため、3つのアルゴリズムを組み合わせて総合コロニーコンパクト性指数(CI)を作成し、それを用いて陽性対照(遊走阻止抗体を注入した胚のコロニー)及び陰性対照(スクランブルshRNA発現HEp3クローン、
図3a~
図3d)と比較したヒットクローンの表現型を層別化した。CIは、各指数についてZスコア(実験-対照/SD対照)から計算し、CI=Z(密度指数)-Z(線形指数)-Z(面積指数)であった。
【0051】
CD151を標的とした遊走阻止抗体(陽性対照)で処理した後に生成された陽性対照コロニーの形態は、陰性対照であるスクランブルshRNA発現細胞(陰性対照、8.515e-009±1.68)によって生成された高度に侵襲性の転移性コロニーと比較して、CIの最も劇的な増加(17.1±1.68)をもたらした(
図3a)。CI指数の統計分析は、そのCIが陰性対照のものと有意に異なる(p≦0.05)転移コロニー表現型を有する27個のクローンを明らかにした(
図7)。これら27個のクローンのうち11個は、単一のshRNA(Kif3b、ACTB、SRPK1、TMEM229b、C140rf142、KB-1460A 1.5、ACTC1、KDELR3、APBA2、KIAA0922及びNr2f1)を含有していた。単一のshRNAを含有し、CIが5.0以上であるクローンを下流分析のために選択した(表1参照)。
【0052】
【0053】
観察されたインビボ運動性の阻害が標的遺伝子のshRNA媒介枯渇によるものであり、標的外効果によるものではないことを確認するために、独立したshRNA構築物を利用してKif3b(CI=12.4)、SRPK1(CI=11.2)、TMEM229b(CI=9.7)、Nr2f1(CI=5.9)及びC14orf142(CI=8.8)用の新しいHEp3クローンを作製した(
図4a~
図4e)。元のヒットクローン及び新たに誘導されたクローンにおける各標的タンパク質の遺伝子及びタンパク質発現の分析により、標的タンパク質の特異的ノックダウンが確認された(
図4a~
図4e)。次いで、独立したshRNAを有するクローンを、インビボ転移性コロニー形成アッセイを用いて検証したところ、全ての候補遺伝子が、それらの一次スクリーニングヒットクローンのものに類似したCI値でコンパクトコロニー表現型を再現した(
図4f)。
【0054】
治療的関連性及び特異的阻害剤を開発する可能性に基づき、さらなる研究でKif3b、Nr2f1及びSRPK1遺伝子に焦点を当てた。これらの遺伝子のノックダウンによって作り出された遊走表現型へのさらなる洞察を得るために、高解像度のインビボでのタイムラプス撮影を、個々の転移性コロニー及び対照(スクランブル)shRNA形質導入HEp3細胞と比較した各クローン由来の原発腫瘍の侵襲前面で行った。これらの標的の各々のshRNA媒介阻害は、癌細胞遊走の速度及び方向性の両方を低下させることが観察された(
図1a~
図1f)。shKif3b、shNr2f1及びshSRPK1クローンの各々からの癌細胞は、転移性病変内(
図1a、
図1c~
図1d)及び原発腫瘍の侵襲前面で(
図1b、
図1e~
図1f)、運動性の欠如又は非生産的な遊走パターンのいずれかを示した。癌細胞の平均速度が転移と比較して浸潤性腫瘍の前面でより速いという事実にもかかわらず、腫瘍を回避した癌細胞の数は、対照と比較してshKif3b、shNr2f1及びshSRPK1クローンにおいて有意に減少した(
図1g)。侵襲前面における対照クローン又はヒットクローンの生体内イメージングは、対照HEp3細胞が運動性の方向に単一の優勢な突出部を形成する傾向がある一方で、shKif3b、shNr2f1及びshSRPK1クローンは非協調的な様式で全方向に延出する複数の突出部を形成する傾向があることを示した(
図1b、
図1h)。結論として、このスクリーニングアプローチは、指向性インビボ細胞遊走を調整するために必要とされる遺伝子を主に同定した。
【0055】
インビボでの細胞運動性及び指向性細胞遊走に必要とされる遺伝子が血管内侵入及び転移にも必要とされるかどうかを試験するために、ヒットクローンを肺への自然転移のマウスモデルで評価した。この目的のために、皮下のHEp3腫瘍を、親のスクランブルshRNA対照又はshKif3b、shNr2f1及びshSRPK1発現腫瘍細胞を用いてヌードマウスの脇腹に確立した。原発腫瘍が1.5cm
3に達したら、全載蛍光実体顕微鏡を用いて、次にヒトalu特異的q-PCRを用いて定量的に、肺の転移の存在を調べた(
図2a、
図2b)。shRNAスクランブル対照HEp3腫瘍を有する動物(n=23)において、肺への有意な転移が蛍光イメージングによって検出された(
図2a)。対照的に、KIF3Bsh/sh2、SRPK 1sh/sh2及びNR2F 1sh/sh2腫瘍を有する動物の肺に転移性病変はめったに観察されず、転移性病変は非常に小さいサイズであった(
図2a)。マウス肺における転移性HEp3癌細胞の量を正確に定量するために、本発明者らはゲノムDNAを抽出し、ヒト特異的alu q-PCRを実施した。次いで、このデータをHEp3細胞から作成された標準曲線と比較することによって、肺の転移細胞の正確な計数を決定した。スクランブルshRNA対照は、肺当たり平均240万個の播種性癌細胞を有した。対照的に、KIF3Bsh/sh2、SRPK 1sh/sh2及びNR2F1sh/sh2腫瘍を有する動物は、転移性播種の劇的な抑制を示し、肺への転移の減少は、KIF3Bsh/sh2ではそれぞれ99.55%及び99.67%、SRPK 1sh/sh2ではそれぞれ99.98%及び99.66%、NR2F1sh/sh2ではそれぞれ99.71%及び99.81%であった(
図2b)。屠殺時に、対照とヒットshRNAクローン腫瘍との間の原発腫瘍重量に有意差はなかった(
図2c)。これらの結果から、Kif3b、Nr2f1及びshSRPK1は各々、インビボ癌細胞運動性及び自然転移の成功の両方に必要であり、したがって、転移のための非常に有望な治療標的を表すことが確認される。
【0056】
観察された運動性表現型が高度に転移性のヒト類表皮癌細胞株HEp3に特異的であり得るという可能性を考慮すると、Kif3b、SRPK1及びNr2f1におけるヒットは、2つの異なるタイプのヒト上皮癌を表す2つの追加の細胞株であるMDA-MB-231(乳癌)及びPC3(前立腺癌)において抑制された。Kif3b発現のサイレンシングは、全ての癌細胞株においてインビトロでの細胞遊走を効率的に阻止した(
図5a)。興味深いことに、SRPK1のサイレンシングは、インビトロでHEp3及びPC3細胞の運動性を有意に阻害したが、MDA-MB-231のインビトロ運動性には影響を及ぼさなかった(
図5b)。最後に、Nr2f1のサイレンシングは、インビトロでHEp3の遊走を阻害したが、MDA-MB-231には効果がなかった。PC3細胞ではNr2f1の発現は検出されなかった(
図5c)。このことは、これらの遺伝子が従来のインビトロスクリーニングにおいて検出されなかった理由を説明し得る。実際、MDA-MB-231細胞を用いてスクリーニングを実施した場合、SRPK1及びNr2f1は検出されないであろう。
【0057】
独立したmiRNA構築物によるmiRNA130b及びmiRNA122クローンの検証により、それらの非侵襲性表現型が確認された(
図8A)。重要なことに、miRNA-122又はmiRNA-130b阻害剤を過剰発現するように操作されたHT1080細胞は、ニワトリCAM血管系とあまり目立たない接触を示したコンパクトな転移性コロニーを形成した(
図8B、
図8C)。
【0058】
スクリーニングで同定されたmiRNAがインビボで癌細胞の浸潤性遊走を阻止するメカニズムへのさらなる洞察を得るために、癌細胞浸潤及び転移に対するmiRNA122過剰発現の効果に主眼を置いて生体内イメージング実験を行った。対照(RFP)細胞は、既存の血管に沿って優先的に軌跡を描きながら、CAM組織内に強く侵入したことが見出された(
図9A~
図9C及び
図2A~
図2C)。さらに、対照、スクランブルベクター形質導入細胞は、卵内転移モデルにおいてニワトリCAMに活発に転移したが、miRNA122過剰発現細胞はそうすることができなかった(
図9F)。示差的に標識された対照、スクランブルベクター発現細胞(RFP)及びmiRNA122過剰発現細胞(GFP)の共注射とそれに続く高解像度生体内イメージングにより、対照細胞が血管系に沿って優先的に突出し侵入し、血管周囲コラーゲン線維との明確な接触を形成し、一方miRNA122を過剰発現する細胞は、血管系とは無関係に突出及び浸潤し、血管周囲コラーゲンとの接触を形成しないことが明らかになった。(
図10A~
図10F)。ニワトリCAMは、血管系が貫通するコラーゲンに富む膜を表す。転移性癌細胞は、a)既存のコラーゲン線維束に沿って移動し、b)コラーゲンマトリックスを局所的に分解及び再編成し、後に方向性癌細胞浸潤に使用される整列したコラーゲンの束を作り出すことによって、コラーゲンに富むマトリックスに浸潤する。実際、miR122過剰発現細胞は人工3Dコラーゲンマトリックスに侵入することができなかった。3Dコラーゲン浸潤もMMP阻害剤フェナントロリンによって阻止され、このプロセスがプロテアーゼ依存性であることが確認された(
図11A、
図11B)。3Dコラージュマトリックス内にコラーゲン分解領域がほぼ完全に存在しないことによって示されるように、miRNA122過剰発現細胞は、対照細胞よりも有意に少なくコラーゲンマトリックスを浸潤及び分解した(
図11C、
図11D)。ニワトリCAMに血管内注射した場合、スクランブル形質導入細胞はコラーゲンマトリックス内に残り、活発にその付近に指向性コラーゲン束を形成した(
図11E~
図11G)。対照的に、miRNA122細胞は、CAM表面上で実質的に成長しているコラーゲンマトリックス内に深く留まることができず、コラーゲン再配列をほとんど又は全く示さなかった(
図11E~
図11G)。コラーゲンに富むマトリックスの侵入及び再配列は、癌細胞関連プロテアーゼによるそれらの局所的タンパク質分解を必要とする。MT1-MMPは、活性及び局在化が効率的な癌細胞浸潤にとって重要であることが示されている重要なマトリックス分解酵素である。そのため、対照、スクランブル及びmiR122過剰発現HT1080細胞におけるMT1-MMP輸送及び局在化を調べた。最初に、インビトロ培養において、miRNA122を過剰発現している細胞は、著しく短い軌跡を示す拡大されたMT1-MMP陽性小胞と共に損なわれたMT1-MMP輸送を示すことが見出された(
図12A、
図12B)。高解像度インビボイメージングにより、対照HT1080細胞ではMT1-MMPは癌細胞突出部とコラーゲン線維の接触部位に局在化されたが、miRNA122過剰発現細胞ではMT1-MMPは主に細胞質局在化を示していることが示された(
図12C)。さらに、血管周囲対照細胞ではMT1-MMPは癌細胞と血管壁の接触部に局在したが、miRNA122過剰発現細胞ではMT1-MMPは特異的局在化を示さなかった(
図12D~
図12G)。次に、miRNA122が仲介するMT1-MMP輸送を調べて、それが癌細胞の血管外遊出の過程に必要かどうかを決定した。miRNA122過剰発現細胞は、対照のスクランブル感染HT1080細胞よりも有意に非効率的に血管外遊出していることが見出された(
図13A、
図13B)。重要なことに、対照細胞において、MT1-MMPは、突出部からMT1-MMPが枯渇したmiRNA122過剰発現細胞における血管壁破壊突出部(invadopodia)への明確な局在化を示した(
図13C、
図13D)。
【0059】
癌細胞株においていくつかの有望な転移治療標的を同定したため、ヒト癌の進行及び転移に対するこれらの遺伝子の潜在的な関連性を調べた。これを行うために、ヒト癌遺伝子発現データベースのOncomineコレクション(Rhodes et al.Neoplasia 9:166-180、2007)を調べて、それらの発現が転移又は臨床転帰不良に関連するかどうかを決定した。確かに、分析は、スクリーニングで同定されたトップヒット遺伝子が、黒色腫(Nr2f1、C14orf142及びKif3b)、前立腺(SRPK1及びKif3b)、頭頸部(Kif3b)、肺(SRPK1及びTMEM229b)、卵巣(Nr2f1)及び結腸(Nr2f1)を含むいくつかの固形癌タイプの転移病変において有意に上方制御されることを示した(
図6a)。さらに、ヒトタンパク質アトラスデータベースにおけるヒト癌の免疫組織化学的染色の詳細な調査は、SRPK1、Kif3b、Nr2f1、C14orf142及びTMEM229bが全て、癌病理学者によって描写されるようにこれらの癌の原発腫瘍の浸潤領域において有意に増加した発現を示すことを示した(
図6b~
図6g)。
【0060】
まとめると、抗転移治療標的の発見を可能にする定量的インビボアプローチを使用した。このアッセイの迅速かつ定量的な性質により、膨大な数の初期候補遺伝子を介した効率的なフィルタリングが可能になり、いくつかの新しい抗転移性標的の発見につながった。このスクリーニングアプローチを用いて同定された抗転移性標的は、インビトロで遊走する癌細胞の能力に対して全く又はほとんど効果がない。