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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】樹脂基板を有する装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 71/00 20230101AFI20230704BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20230704BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230704BHJP
   H10K 50/80 20230101ALI20230704BHJP
   H10K 59/80 20230101ALI20230704BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230704BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20230704BHJP
   H10K 77/10 20230101ALI20230704BHJP
【FI】
H10K71/00
G09F9/30 308Z
G09F9/30 310
G09F9/00 338
H10K50/80
H10K59/80
H10K50/10
H10K59/10
H10K77/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019027234
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020136046
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川中子 寛
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0150244(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/80
H10K 59/80
H10K 71/00
H10K 50/10
H10K 59/10
H10K 77/10
G09F 9/30
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板を有する装置の製造方法であって、
ガラス基板上に金属または金属酸化物からなる第1層を形成し、
前記第1層の上に金属または金属酸化物からなる第2層を形成し、
前記第2層の上に金属または金属酸化物からなる第3層を形成し、
前記第3層をパターニングし、
前記第3層の上に樹脂基板を形成し、
前記樹脂基板の上に機能層を形成し、
その後、前記樹脂基板を、前記第2層および第3層の層から剥離することを特徴とする樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項2】
前記第3層の前記樹脂基板との接着力は、前記第2層と前記樹脂基板との接着力よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2層の前記第1層との接着力は、前記第2層の前記樹脂基板との接着力よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項4】
前記第3層の前記第2層との接着力は、前記第3層の前記樹脂基板との接着力よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1層の前記ガラス基板との接着力は、前記第3層の前記樹脂基板との接着力よりも強いことを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1層は、SiN、ITO、AlOのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2層は、Cu、CuO、Mg、MgO、Ni、NiO、Auのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項8】
前記第3層は、AlO、SiN、ITO、Cr、Tiのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1層は、SiNであり、前記第2層はNiであり、前記第3層はAlOであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂基板はポリイミド基板であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス基板は、周辺領域と、前記周辺領域の内側である、内側領域を有し、
前記第3層は、前記周辺領域に前記ガラス基板の辺に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項12】
前記第3層は、前記周辺領域において、前記ガラス基板の4つの辺に沿って形成されていることを特徴とする請求項11に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【請求項13】
前記第3層は、前記内側領域に、島状に形成されていることを特徴とする請求項11に記載の樹脂基板を有する装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置に係る、湾曲させることができるフレキシブル基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置や液晶表示装置は表示装置を薄くすることによって、湾曲させて使用することができる。また、基板をポリイミド等の樹脂によって形成することでフレキシブルな表示装置とすることができる。有機EL表示装置はバックライトが不要な分、薄型表示装置としては有利である。
【0003】
基板を10μm乃至20μm程度の薄い樹脂で形成した場合、表示装置としてはフレキシブルなものとなるが、製造工程を通すことは難しい。そこで、表示装置の製造工程においては、厚さ0.5mmあるいは0.7mm程度のガラス基板の上に樹脂基板を形成し、その上に表示素子を形成する。そして、表示装置が完成後、ガラス基板と樹脂基板の界面にレーザを照射し、樹脂にアブレーションを生じさせて、ガラス基板と樹脂基板を分離することが行われている。
【0004】
特許文献1には、レーザを用いてガラス基板と樹脂基板を分離する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2005/050754
【文献】特開2010-67957号公報
【文献】特開2013-1684455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザを用いた剥離方法は、レーザ装置が高コストであること、また、ガラス基板と樹脂基板との界面に正確にレーザ照射を行うための制御が難しく、製造歩留りの点で課題が存在する。
【0007】
特許文献2及び特許文献3には、レーザを用いず、ガラス基板と樹脂基板をはく離する方法として、次のような方法が提案されている。すなわち、ガラス基板に樹脂基板と容易に剥離する剥離層を、樹脂基板の周辺部分に対応する部分以外に形成しておく。樹脂基板の周辺において、樹脂基板とガラス基板が強く接着しており、製造工程中は、樹脂基板とガラス基板の接着を維持する。その後、最終工程において、樹脂基板のガラス基板と接着した部分を切り離す。そうすると、樹脂基板は剥離層とのみ接着していることになるので、樹脂基板はガラス基板から容易に離すことが出来る。上記の特許文献の内、特許文献3には、さらに、ガラス基板を再生して使うことが出来る構成が記載されている。
【0008】
特許文献2、特許文献3のいずれも樹脂基板とガラス基板が接着した部分を残すようにマザー基板をレイアウトする必要があり、材料歩留り的には、課題がある。
【0009】
本発明の課題は、レーザ装置を用いることなく、また、材料歩留りを上げることが可能で、かつ、高価な設備を必要としない有機EL表示装置の製造方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を克服するものであり、代表的な手段は次のとおりである。
【0011】
(1)樹脂基板を有する表示装置であって、前記樹脂基板は、画像表示のための層が形成された表面と、前記表面とは裏側の、裏面を有し、前記裏面は周辺領域と、前記周辺領域よりも内側の内側領域を有し、前記周辺領域には、前記内側領域よりも粗面になっている領域が形成されていることを特徴とする表示装置。
【0012】
(2)樹脂基板を有する表示装置の製造方法であって、ガラス基板上に金属または金属酸化物からなる第1層を形成し、前記第1層の上に金属または金属酸化物からなる第2層を形成し、前記第2層の上に金属または金属酸化物からなる第3層を形成し、前記第3層をパターニングし、前記第3層の上に樹脂基板を形成し、前記樹脂基板の上に画像を形成するための層を形成し、その後、前記樹脂基板を、前記第2層および第3層の層から剥離することを特徴とする表示装置の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】有機EL表示装置の平面図である。
図2】有機EL表示装置の表示領域の断面図である。
図3】マザー基板の平面図である。
図4図3のA-A断面図である。
図5】第1層、第2層、第3層の構成を示す表である。
図6図4の構成に対し、ポリイミド基板を形成した状態を示す断面図である。
図7図6の構成に対し、有機ELアレイ層を形成した状態を示す断面図である。
図8】マザーパネルの平面図である。
図9】マザーパネルから分離された状態の個々の有機EL表示装置の断面図である。
図10】有機EL表示装置をガラス基板から剥離している状態を示す断面図である。
図11】ポリイミド基板の裏面図である。
図12図11のB-B断面に相当する模式断面図である。
図13】他の形態における、マザーパネルから分離された状態の、個々の有機EL表示装置の断面図である。
図14】他の形態における有機EL表示装置をガラス基板から剥離している状態を示す断面図である。
図15】第3層の他の形態を示す平面図である。
図16】第3層のさらに他の形態を示す平面図である。
図17】第3層のさらに他の形態を示す平面図である。
図18】第3層のさらに他の形態を示す平面図である。
図19】第3層のさらに他の形態を示す平面図である。
図20】第3層のさらに他の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に実施例を用いて本発明の内容を詳細に説明する。実施例は有機EL表示装置について説明しているが、本発明は、液晶表示装置等、樹脂基板を用いた他の表示装置にも適用することが出来る。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明が適用される有機EL表示装置の平面図である。本発明の有機EL表示装置は、フレキシブルに湾曲させることが出来る表示装置である。したがって、TFT(Thin Film Transistor)、走査線、電源線、映像信号線、画素電極、有機EL発光層等が形成されているTFT基板100は樹脂で形成されている。
【0016】
図1において、表示領域90の両側には走査線駆動回路80が形成されている。表示領域90には、横方向(x方向)に走査線91が延在し、縦方向(y方向)に配列している。映像信号線92及び電源線93が縦方向に延在し、横方向に配列している。走査線91と、映像信号線92及び電源線93で囲まれた領域が画素95となっており、画素95内には、TFTで形成された駆動トランジスタ、スイッチングトランジスタ、光を発光する有機EL発光層等が形成されている。
【0017】
図2図1に示す有機EL表示装置の表示領域の断面図である。図2において、TFT基板100は樹脂で形成されている。樹脂の中でもポリイミドは、耐熱性、機械的強度等から、表示装置の基板としては優れた特性を有している。したがって、以後は、TFT基板100を構成する樹脂としては、ポリイミドを前提として説明するが、本発明は、ポリイミド以外の樹脂でTFT基板100を構成した場合にも適用することが出来る。なお、本明細書では、TFT基板100をポリイミド基板100と呼ぶこともある。TFT基板100の厚さは例えば10乃至20μmである。
【0018】
ポリイミド基板100の上には、表面をさらに平坦化するためのポリイミド膜101が2乃至3μmの厚さで形成されている。ポリイミド膜101の上に、有機EL層に樹脂基板100から水分や不純物が侵入することを防止するための無機下地膜102が形成されている。無機下地膜102の上にスイッチングTFTを構成する酸化物半導体103が形成されている。酸化物半導体103のドレイン部及びソース部には、酸化物半導体103を保護するための、接続電極104がTiあるいはMoW等で形成されている。
【0019】
酸化物半導体103を覆ってゲート絶縁膜105が形成され、ゲート絶縁膜105の上にゲート電極106が形成されている。ゲート電極106を覆って層間絶縁膜107が形成され、層間絶縁膜107の上にドレイン電極108とソース電極109が形成される。ドレイン電極108は酸化物半導体103と映像信号線92とを接続している。ソース電極109は酸化物半導体103と有機EL層113のための下部電極111と接続している。
【0020】
ドレイン電極108及びソース電極109を覆って有機パッシベーション膜112が2乃至3μmの厚さで形成される。有機パッシベーション膜110には、ポリイミド、アクリル等が使用される。有機パッシベーション膜110にはスルーホール1101が形成され、ソース電極109と下部電極111を接続することを可能にしている。下部電極111は、下層が金属である反射電極で、上層が陽極となるITO(Indium Tin Oxide)で形成されている。
【0021】
下部電極111の周辺を覆ってバンク112が形成されている。バンク112は、ポリイミドあるいはアクリル等の樹脂によって表示領域全面に形成された後、下部電極111に対応する部分にホール1121を形成する。ホール1121とホール1121の間がバンク112となる。ホール1121内に発光素子となる有機EL層113を形成し、その上にカソードとなる上部電極114が、ITO(Indium、Tin、Oxide)等の透明導電膜によって形成される。上部電極113は表示領域全面に形成される。
【0022】
上部電極114の上に、有機EL層113を外部からの水分等から保護するための、保護膜115が形成される。保護膜115は、例えば、SiN等の無機膜及びポリイミドあるいはアクリル等の有機膜の積層膜によって形成される。
【0023】
図1及び図2で説明した有機EL表示装置は厚さが10乃至20μmの、ポリイミド等の樹脂で形成された基板100に形成されているので、非常にフレキシブルな表示装置である。このような薄い樹脂基板100を有する有機EL表示装置は、次のような製造方法によって形成される。
【0024】
有機EL表示装置を多数形成することが出来るマザーガラス基板の表面にポリアミック酸を含むポリイミドの原料をスリットコータ等で塗布する。ポリイミド材料は、例えば、東レ製の「セミコファインSP-020」であり、具体的な成分は、N-メチルピロドリン85%、ポリアミック酸15%である。このうち、ポリアミック酸がイミド化し、ポリイミドとなる。この材料を例えば、焼成後、厚さが10μm程度になるように塗布してTFT基板100を形成する。
【0025】
このポリイミドによるTFT基板100の上に、図2で述べたような層を形成し、有機EL表示装置を形成する。この状態は、マザーガラス基板の上に多数の有機EL表示装置が形成された状態である。本明細書では、これをマザーパネルと呼ぶ。その後、マザーパネルから個々の有機EL表示装置を分離し、さらに、樹脂基板を含む有機EL表示装置からガラス基板を剥離する。本発明は、ガラス基板と樹脂基板の剥離方法に特徴がある。
【0026】
図3は、本発明によるマザー基板10の平面図であり、マザーガラス基板11の上に、有機EL表示装置とガラス基板とを剥離するための、3層の金属層が形成された状態である。マザー基板10の上に多数の有機EL表示装置が形成されることになる。本明細書では、多数の有機EL表示装置が形成されていることになる大型のガラス基板をマザーガラス基板11と言い、マザーガラス基板11の上に剥離のための3層の金属層が形成された状態をマザー基板10とよび、マザー基板10の上に多数の有機EL表示装置が形成された状態をマザーパネル20と呼ぶ。
【0027】
図3において、マザーガラス基板11の上に、金属あるいは金属酸化物からなる、第1層12、第2層13、第3層14が形成されている。なお、金属という場合は、合金も含む意味である。マザーガラス基板11側から、第1層12及び第2層13はマザーガラス基板11全面に平面状に形成される。図3において、点線は、マザー基板10の上に多数の有機EL表示装置が形成された後のマザーパネル20から、個々の有機EL表示装置が分離される線を示している。第3層14は、個々の有機EL表示装置の周辺部に沿って枠状に形成されている。
【0028】
図4図3のA-A断面図である。図4において、マザーガラス基板11の上に第1層12が平面状に形成され、その上に第2層13が平面状に形成され、その上に第3層14が細いストライプ状に形成されている。第1層12と第2層13はマザーガラス基板11の全面に形成される。第3層14は全面に形成された後、エッチング等によってパターニングされる。
【0029】
本明細書では、第1層12を第1接着層ともいう。第1層12は、下層のガラス基板11、上層の第2層13とのいずれとも、強い接着力を有する。図5に示すように、第1層12の材料としては、SiN、ITO、AlO等が使用される。第1層12は、例えばスパッタリングによって形成され、厚さt1は、50nm乃至100nm程度である。
【0030】
第1層12とガラス基板11の接着力、及び、第1層12と第2層13との接着力は、後に、有機EL表示装置を第2層13及び第3層14から引き剥がすときの剥離強度よりも強い。言い換えると、有機EL表示装置の第2層13の接着力と第3層14の接着力の合計は、ガラス基板11と第1層12の接着力、及び、第1層12と第2層13との接着力よりも小さい。
【0031】
第2層13は第1層12の上にマザーガラス基板11の全面を覆って形成される。本明細書では、第2層13は剥離層とも呼ぶ。第2層13は、下地である第1層12とは強い接着力を有するが、上に形成される樹脂基板100とは弱い接着力を有し、樹脂基板100は第2層から容易に引き剥がすことが出来る。図5に示すように、第2層13の材料としては、Cu、CuO、Mg、MgO、Ni、NiO、Au等が使用される。第2層13は、例えばスパッタリングによって形成され、厚さt2は、50nm乃至100nm程度である。
【0032】
第3層14は第2層13の上に、個々の有機EL表示装置の周辺部に対応する部分に、枠状に形成される。第3層14は、まず、第2層13の上において、マザーガラス基板11全面を覆うように形成され、その後、エッチングによってパターニングする。第3層14は、第2層13とポリイミド基板100との双方に対して強い接着力を有するが、第3層14と第2層13の接着力のほうが第3層14とポリイミド基板100との接着力よりも強い。有機EL表示装置を剥離したときに、第3層14を第2層13上に残留させるためである。
【0033】
図5に示すように、第3層14の材料としては、AlO、SiN、ITO、Cr、Ti等が使用される。第3層14は、例えばスパッタリングによって形成され、厚さt3は、10nm乃至50nm程度である。第3層14は、製造工程において、ポリイミド基板100をマザーガラス基板11に保持する役割があるので、ポリイミド基板100との接着力は必要であるが、この接着力は、第3層14の線幅wによっても影響される。線幅は例えば、0.1mmから5mm程度である。
【0034】
図6は、図3及び図4に示すマザー基板10に有機EL表示装置用のTFT基板100、すなわち、ポリイミド基板100を形成した状態を示す断面図である。ポリイミド基板100は、図2で説明したような塗布方法によって、焼成後の厚さが10μm乃至20μmになるように形成される。このポリイミド基板100の上に、図2で示すように、有機下地膜101、TFT層、有機EL層113、保護膜115等が順番に成される。
【0035】
図7は、ポリイミド基板100の上に、図2に示すような有機EL表示装置を構成する層である有機ELアレイ層150を形成した状態を示す断面図である。図7の有機ELアレイ層150は、図2に示すように、有機下地膜101から保護層115を含む層をいう。製造工程を通過する間、ポリイミド基板100とマザー基板10とは安定に接着している必要がある。この接着力は、主に、ポリイミド基板100とマザー基板10に形成された第3層14によって維持される。
【0036】
図8は、マザー基板10に複数の有機EL表示装置を形成した状態のマザーパネル20を示す平面図である。図8において、有機EL表示装置は、有機ELアレイ層150によって表されている。また、ポリイミド基板100とマザー基板10の間の主たる接着力として作用する第3層(第2接着層)14が点線で示されている。
【0037】
図8において、実線15は、個々の有機EL表示装置の境界を示す。この線において、ダイシング等によって、個々の有機EL表示装置がマザーパネルから分離される。マザー基板10に形成された第3層14は分離線15よりも若干内側、例えば端部から5mm程度範囲内に形成されている。
【0038】
図9は、図8のマザーパネル20から個々の有機EL表示装置を分離した状態を示す断面図である。図9においてガラス基板31は、マザーガラス基板11から個々の有機EL表示装置の大きさに切り出された状態である。ガラス基板31の上に第1層12、第2層13、第3層14が形成されている。第1層12、第2層13は全面に形成されているが、第3層14は、幅wで有機EL表示装置の内周に沿って枠状に形成されている。
【0039】
第2層13、第3層14を覆ってポリイミド基板100が形成され、その上に有機ELアレイ層150が形成されている。このうち、ポリイミド基板100と有機ELアレイ層150が有機EL表示装置となる。そして、ガラス基板31、第1層12、第2層13、第3層14はポリイミド基板100から剥離する必要がある。
【0040】
本発明の特徴は、ポリイミド基板100とマザー基板10あるいはガラス基板31との接着は主に、第3層14によって維持されていることである。そして、ポリイミド基板100の大部分の面と接触している第2層13は、ポリイミド基板100との接着力が弱く、容易に剥離する。例えば、図9の矢印で示すように、ダイシング等によって、個々の有機EL表示装置をマザーパネル20から分離する際、端部がガラス基板31側から剥離することが多い。但しこのような端部での剥離は、ダイシング等によって、個々の有機EL表示装置を、マザーパネル20から分離する際に生ずるものであって、製造工程を通る間は、マザーパネル20にはこのような剥離は生じていないので、問題はない。
【0041】
本発明では、図9に示すような、端部の剥離部を利用して、例えば人手によって、ガラス基板31から有機EL表示装置を引き剥がす。この様子を図10に示す。図10は、ポリイミド基板100と有機ELアレイ層150からなる有機EL表示装置をガラス基板31から引き剥がしている状態を示す断面図である。
【0042】
図10では、第1層12としてSiNを用い、第2層13としてCuを用い、第3層14としてAlOを用いた例である。図10において、ガラス基板31とSiN膜12は強固に接着している。Cu膜13はSiN膜12と強固に接着している。しかし、Cu膜13はポリイミド基板100との接着力は弱い。したがって、ポリイミド基板100は、Cuで形成された第2層13とは容易に剥離する。
【0043】
パターニングされた第3層14はAlOで形成され、AlO膜14とポリイミド基板100との接着力は強い。したがって、マザー基板10が製造工程を通過するときは、ポリイミド基板100のマザー基板10への接着力は大部分が第3層14によって維持されている。一方、AlO膜14と第2層13であるCu膜13との接着は強固である。AlO膜14とCu膜13との接着力は、AlO膜14とポリイミド基板100との接着力よりも強いので、ポリイミド基板100をAlO膜14から剥離するときも、AlO膜14は、Cu膜13との接着は維持している。したがって、ポリイミド基板100はAlO膜14から剥離される。
【0044】
ここで、第3層14とポリイミド基板100の接着力は、強すぎると、剥離できなくなる。また、弱すぎると製造工程中にポリイミド基板100がマザー基板10から剥離する危険がある。接着力をASTM(American Society for Testing and Material) D1876-01規格に準拠した、90°ピール強度で評価した場合、ポリイミド基板と第2層であるCu膜との接着力は、0.01乃至0.1N/cmである。一方、ポリイミド基板と第3層であるAlO膜との接着力は2乃至4N/cmであり、ポリイミドとCuの接着力の40乃至200倍である。
【0045】
したがって、ポリイミド基板100とガラス基板31あるいはマザー基板10との接着力の大部分はポリイミド基板100と第3層14との接着力によって維持されている。本発明の優れた点は、第3層14の例えば、幅をコントロールすることによって、簡単にポリイミド基板100とマザー基板10の接着力を制御できるということである。第3層14のパターニングが同一であれば接着力は、第3層14の幅に比例すると考えられるので、第3層14の幅wを0.1mmから5mm程度まで変化出来るとすると、1倍から50倍の接着強度に制御することが出来る。
【0046】
さらに、第3層14は、エッチングによってパターニングされるので、第3層14の平面形状は自由に変化させることが出来る。したがって、工程中での接着力、ピーリング工程における剥離のし易さを考慮して色々な形状とすることが出来る。
【0047】
このように、剥離後の有機EL表示装置には、第1層12、第2層13、第3層14とも残っていない。したがって、目視では、これらの層の影響は見られないので、外見上商品価値を損なうことはない。しかし、微視的にみると、ポリイミド基板100の底面には、本プロセスの痕跡は残っている。
【0048】
図11は、完成した有機EL表示装置をポリイミド基板100側から視た裏面図である。図11において点線で示した枠状の部分がマザー基板10における第3層14が存在していた場所である。また、この場所は、図9において、ガラス基板31の上に第3層14が存在している部分である。第3層14は厚さ10nm乃至50nmであるので、厚さ10μm乃至20μmのポリイミド基板100から視たら、外見上は、全く変化は無い。しかし、微視的には、第3層14が存在していた部分の凹部は存在している。
【0049】
さらにこの第3層14は、ポリイミド基板100との接着力が第2層13のポリイミド基板100との接着力よりも格段に大きいので、ポリイミド基板100側に、強い力で引き剥がしたことによる粗面160が生ずる。つまり、第3層14とポリイミド基板100が接触した部分のポリイミド基板100の裏面の粗さは、第2層13とポリイミド基板100が接触した時の粗さよりも大きくなっている。
【0050】
表面粗さは、JIS規格に規定されており、Ra、Rz、Rms等のパラメータがあるが、そのいずれを用いて比較してもよい。表面粗さは、サーフコム等の表面粗さ計または原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。
【0051】
但し、表面粗さ計では、第3層14の厚さである10nm乃至50nmの凹凸の測定は困難である。また、粗面の度合いが小さい場合も表面粗さ計では測定は困難である。このような場合も、走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることによって測定可能である。
【0052】
図12は、図11のB-B断面図に相当する断面模式図である。図12において、ポリイミド基板100がマザー基板10の第3層14と接触していた部分は、厚さt3だけ凹部が形成され、その凹部の中にラフな面160が形成されている。ラフな面160は、ポリイミド基板100を第3層14から引き剥がす時に形成されたものである。凹部の中の粗面のRaは凹部の深さよりも大きい。
【0053】
また、図11において点線で示した枠状の部分の内側の部分はマザー基板10における第2層13が存在していた場所である。この部分は第2層13とポリイミド基板100が接触していた部分であり、工程中に第2層13の成分がポリイミド基板100に拡散し、析出物等の痕跡を残す。例えば、第2層13にCu(銅)を用いた場合、ポリイミド基板100中にCuの原子が拡散し、ポリイミド基板100中に含まれる酸素と結合し銅の酸化物が析出する。この析出物等は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察可能であり、電子線、X線等による成分分析によっても測定することができる。
【0054】
図11及び図12のdは、ポリイミド基板100にマザー基板10の第3層14が接触した部分、すなわち、ラフな面160の内側からポリイミド基板100の端部までの距離である。dの値は、通常は5mm以下である。
【0055】
図9に示す有機EL表示装置はポリイミド基板100と有機ELアレイ層150を合計しても20μm乃至30μmであり、剛性が無いのでガラス基板31を剥離した後の工程において扱いにくい場合がある。この対策として、有機ELアレイ層150上に粘着材201を介して支持樹脂基板200を取り付ける場合がある。
【0056】
図13はこの場合の構成を示す断面図である。図13は、マザーパネル20から個々の有機EL表示装置をダイシング等によって切り出した状態を示す断面図である。このような場合であっても、TFT基板100とガラス基板30の上に形成された第1層12、第2層13、第3層14の関係は同じである。支持樹脂基板200の厚さは、例えば、100μm程度にすることが出来る。
【0057】
図14は、図13の状態から、有機EL表示装置をガラス基板31から引き剥がしている状態である。この動作は、図10で説明した剥離工程と同じである。図14のように、剥離をした後、支持樹脂基板200は必要に応じて剥離される。ところで、有機EL表示装置においても、外光の反射は、画像を著しく劣化させる。そこで、有機ELアレイ層150の上に円偏光板を配置して、外光の反射を抑える場合がある。支持樹脂基板200の役割をこの円偏光板によって兼用させることも出来る。
【0058】
図15乃至図20はマザー基板10に形成される第3層14の形状の例を示す平面図である。図15乃至図20は個々の有機EL表示装置のガラス基板31について説明するが、マザー基板10の場合も同じである。そして、図15乃至図20はガラス基板31の上、全面に第1層12と第2層13が形成されていることは共通である。図15乃至図20で異なる点は、第3層14の形状である。なお、第1層12、第2層13、第3層14の材料は図5等で説明したとおりである。
【0059】
本発明では、第3層14とポリイミド基板100との接着力は、第3層14の幅のみでなく、第3層14の平面形状によっても自由に決めることが出来る。第3層14とポリイミド基板100との接着は、製造工程における接着力と、剥離工程における剥離のし易さとのバランスをとる必要があるが、本発明では、第3層14の形状を変化させることによっても、接着力を制御できるので、大きな自由度を有している。
【0060】
図15は、第3層14は有機EL表示装置の辺に沿って形成されているが、第3層14は閉曲線ではなく、コーナー部において、ギャップg1だけ解放されている箇所がある。このギャップg1の存在によって、ダイシング等によって、有機EL表示装置をマザーパネル20から分離したときに、コーナー部において、ポリイミド基板100とガラス基板31との間に剥離箇所が生じやすくなり、この部分を起点にしてポリイミド基板100を含む有機EL表示装置をガラス基板31から引き剥がし易くなる。
【0061】
なお、解放箇所g1が存在している場合、この部分は異常点になるが、第3層14の膜厚が10nm乃至50nmであり、ポリイミド基板100の厚さは10μm乃至20μmなので、この異常点が実際に問題になることは無い。図16乃至図20の場合も同様である。
【0062】
図16は、第3層14において、コーナー部におけるギャップg1に加え、辺部にギャップg2を形成した場合である。ギャップg2によって、接着力と剥離のし易さのバランスをとることが出来る。
図17は、第3層14をガラス基板31の辺の端部に沿って形成した例である。但し、全周にわたって第3層14を辺の端部に形成すると、ポリイミド基板100とガラス基板31の剥離が困難になるので、コーナー部にギャップg3を形成して、コーナー部からポリイミド基板100をガラス基板31から剥離できるようにしている。
【0063】
図18は、第3層14をガラス基板31の辺の端部にまで形成していることは図17と同じであるが、ギャップg2、ギャップg3を1辺側にのみ配置している。これによって、常に特定の辺において、ポリイミド基板100の端部がガラス基板31から剥離しやすくすることが出来る。そして、この部分を起点にしてポリイミド基板100とガラス基板31を剥離する。
【0064】
本発明における第3層14は、ポリイミド基板100をガラス基板31から剥離した後は、ガラス基板39側に存在し、ポリイミド基板100側には残らない。顕微鏡的には、あるいは、分析をすれば、第3層14の痕跡は残るが、目視では認識できない。したがって、第3層14は表示領域と対応する領域にも形成することが出来る。表示領域と対応する領域にも、第3層14を形成できることによって、ポリイミド基板100とガラス基板31との接着力を調整する自由度は非常に大きくなる。
【0065】
図19は、有機EL表示装置の表示領域のほぼ中央に対応する部分に幅x1、長さy1にわたって第3層14を形成した例である。x1とy1によって、接着力と剥離のし易さのバランスをとることが出来る。図20は、有機EL表示装置の表示領域のほぼ中央に対応する部分に幅y2、長さx2にわたって第3層14を形成した例である。x2とy2によって、接着力と剥離のし易さのバランスをとることが出来る。
【0066】
図19あるいは図20の形状に限らず、表示領域に対応する種々の位置に、また、種々の大きさ、形状に第3層14を形成することが出来る。また、表示領域に対応する部分に複数の第3層を形成することが出来る。
【符号の説明】
【0067】
10…マザー基板、 11…マザーガラス基板、 12…第1層(第1接着層)、 13…第2層(剥離層)、 14…第3層(第2接着層)、15…切断線、16…AlOバリア層、 20…マザーパネル、 31…ガラス基板、 80…走査線駆動回路、 90…表示領域、 91…走査線、 92…映像信号線、 93…電源線、 95…画素、 100…TFT基板、 101…有機下地膜、 102…無機下地膜、 103…半導体層、 104…金属保護層、 105…ゲート絶縁膜、 106…ゲート電極、 107…層間絶縁膜、 108…ドレイン電極、 109…ソース電極、 110…有機パッシベーション膜、 111…下部電極、 112…バンク、 113…有機EL層、 114…上部電極、 115…保護膜、 150…有機ELアレイ層、 160…粗面、 200…支持樹脂基板、 201…粘着材、 400…フレキシブル配線基板、 1101…スルーホール、 1121…ホール
図1
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