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特許7306844シール材用ゴム組成物およびこれを用いたシール材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】シール材用ゴム組成物およびこれを用いたシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20230704BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230704BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C08L23/16
C08K3/36
C08K3/04
C09K3/10 Z
C09K3/10 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019058270
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158602
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 紗也佳
(72)【発明者】
【氏名】西原 亮平
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/137420(WO,A1)
【文献】特開2020-51540(JP,A)
【文献】特開2013-72004(JP,A)
【文献】特開2011-153220(JP,A)
【文献】特開2014-15575(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K、C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部と、シリカを50~140質量部と、シランカップリング剤を1~20質量部と、カーボンブラックを15~35質量部とを含み、
前記ゴム成分は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、フッ素ゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、シール材用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分は、エチレン-プロピレン-ジエンゴムである、請求項1に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン-プロピレン-ジエンゴムは、JIS K6300-1:2013に準拠して測定される125℃におけるムーニー粘度が50~90または100℃におけるムーニー粘度が30~60であり、エチレン由来の構成単位を45~55質量%含む、請求項2に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項4】
前記シリカは球状である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項5】
前記シリカの平均粒径は5nm~5μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項6】
可塑剤を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材用ゴム組成物およびこれを用いたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧水素ガスの貯蔵に用いられる機器のゴムシールは、ブリスター現象が起きやすいという問題があった。ブリスター現象とは、高圧によってゴムの内部に浸透したガスが、高温下での急速減圧の影響でゴム内部に滞留したまま膨張して、ゴム材を破裂させてしまう現象である。
【0003】
特許文献1:国際公開第2007/145313号および特許文献2:国際公開第2008/001625号には、シリコーンゴムに補強材としてシリカを配合したゴム組成物が開示されている。また、特許文献3:特開2015-206002号公報には、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)にカーボンブラックを配合したゴム組成物が開示されている。特許文献4:特開2015-108104号公報には、カーボンブラックおよびシリカを配合したEPDM製のOリングが、特許文献5:国際公開第2003/104317号には、カーボンブラックとマイクロシリカを配合した弾性化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/145313号
【文献】国際公開第2008/001625号
【文献】特開2015-206002号公報
【文献】特開2015-108104号公報
【文献】国際公開第2003/104317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧水素ガス機器では、その取り扱う水素の圧力がますます上昇しており、低温および高温でのシール性がより優れたシール材が求められている。しかしながら、高温時の耐ブリスター性に優れる組成物は低温性(低温時の復元性)に劣り、両方の特性を満たすシール材は実現されていない。
【0006】
本発明の目的は、高温および低温での高圧ガスのシール性を向上させることができるシール材用ゴム組成物、およびこれを架橋してなるシール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のものを含む。
[1] ゴム成分100質量部と、シリカを50~140質量部と、シランカップリング剤を1~20質量部と、カーボンブラックを15~35質量部とを含む、シール材用ゴム組成物。
[2] 前記ゴム成分は、エチレン-プロピレン-ジエンゴムである、[1]に記載のシール材用ゴム組成物。
[3] 前記エチレン-プロピレン-ジエンゴムは、JIS K6300-1:2013に準拠して測定される125℃におけるムーニー粘度が50~90または100℃におけるムーニー粘度が30~60であり、エチレン由来の構成単位を45~55質量%含む、[2]に記載のシール材用ゴム組成物。
[4] 前記シリカは球状である、[1]~[3]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[5] 前記シリカの平均粒径は5nm~5μmである、[1]~[4]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[6] 可塑剤を含まない、[1]~[5]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温および低温での高圧ガスのシール性を向上させることができるシール材用ゴム組成物、およびこれを架橋してなるシール材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
シール材用ゴム組成物は、
〔A〕ゴム成分と、
〔B〕シリカと、
〔C〕シランカップリング剤と、
〔D〕カーボンブラックと、
を含む。以下、シール材用ゴム組成物が含有する各成分および任意で含有される成分について詳細に説明する。
【0010】
〔A〕ゴム成分
ゴム成分としては、例えばエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)等を用いることができる。シール材用のゴムとして良好な特性を兼ね備えていることから、EPDM、HNBR、FKM等が好ましい。ゴム成分は1種のみからなっていてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0011】
シール材用ゴム組成物を架橋してなるシール材は、後述する温度100℃、圧力100MPaでの高温高圧サイクル試験においてブリスターが生じず、ガスの漏れが生じない。また、シール材用ゴム組成物を架橋してなるシール材は、後述する温度-40℃、圧力100MPaでの低温高圧サイクル試験において、ガスの漏れが生じない。低温環境下でのガス漏れは通常、シール材の形状追従性や復元性の低下に起因して発生する。EPDMは、低温性(低温時の復元性)、耐薬品性およびクリーン性等に優れたゴムであり、また、NBR、HNBR、FKM、Q等に比べて廉価であることから、シール材用途に適したゴム成分の1つである。
【0012】
EPDMは、エチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位およびジエンモノマー由来の構成単位からなる三元共重合体である。EPDMにおいては、エチレン由来の構成単位とプロピレン由来の構成単位との含有比を調整することにより、ゴム特性を制御することができる。例えば、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、ゴムの耐薬品性および結晶化度(従って機械的強度)は高まる傾向にある。一方、エチレン由来の構成単位の比率を下げると、ゴムの成形加工性および流動性は低下する傾向にある。インジェクション成形によってより加工性良く高品質の成形品(シール材)を作製するためには、用いるゴム成分の流動性は比較的低いことが好ましい。
【0013】
このような観点から、EPDMにおけるエチレン由来の構成単位の含有量は、通常70質量%以下であり、好ましくは55質量%以下であり、より好ましくは51質量%以下である。エチレン由来の構成単位の含有量が上記の範囲であれば、EPDMに良好な流動性を与えることができるとともに、シール材に良好な低温性を付与することができる。
【0014】
一方、エチレン由来の構成単位の含有量が過度に低いと、得られるシール材の引張強度が不足する。従って、エチレン由来の構成単位の含有量は、通常40質量%以上であり、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは48質量%以上である。
【0015】
EPDMを構成するジエンモノマーの具体例は、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4-ヘキサジエン(1,4-HD)、メチルテトラヒドロインデン、5-メチレン-2-ノルボルネン、シクロオクタジエン、ジシクロオクタジエン等の非共役ジエンモノマーを含む。これらの中でも、EPDMが良好な架橋速度(加硫速度)を示し、また、得られるシール材の耐熱性にも優れることから、ENB、1,4-HDを用いることが好ましく、とりわけ架橋速度に優れることから、ENBを用いることがより好ましい。ジエンモノマーは、1種のみを用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
EPDMにおけるジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、架橋速度およびゴム組成物の成形加工性を高める観点から、通常1質量%以上であり、好ましくは2.5質量%以上である。また、架橋後に二重結合が多量に残存することによるシール材の劣化のしやすさを考慮して、ジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、通常14質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下である。
【0017】
シール材用ゴム組成物に用いられるゴム成分は、JIS K6300-1:2013に準拠して測定される125℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)125℃〕が好ましくは90以下であり、より好ましくは85以下である。ゴム成分のムーニー粘度〔ML(1+4)125℃〕は、好ましくは40以上であり、より好ましくは50以上であり、さらに好ましくは75以上である。ムーニー粘度が高すぎると、加工性に劣る場合がある。
【0018】
シール材用ゴム組成物に用いられるゴム成分は、JIS K6300-1:2013に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下である。ゴム成分のムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕は、好ましくは30以上であり、より好ましくは35以上であり、さらに好ましくは40以上である。
【0019】
EPDMは、好ましくはJIS K6300-1:2013に準拠して測定される125℃におけるムーニー粘度が50~90または100℃におけるムーニー粘度が30~60であり、エチレン由来の構成単位を45~55質量%含む。上記EPDMをゴム成分として用いれば、より低温環境下での追従性に優れたシール材を得ることができる。このようなシール材は、温度-40℃において、グリースを用いない場合でも高圧ガスの漏れが生じない。グリースレスでシール性が良好なシール材は、使用環境が限定されないため汎用性が高く、メンテナンス時(シール材の取り替え等)のトラブルも軽減される。また、このようなシール材は、温度-45℃においても高圧ガスをシールすることができる。
【0020】
EPDMの市販品の具体例を挙げれば、例えば、いずれも商品名で、三井化学株式会社製の「EPT」、住友化学株式会社製の「エスプレン」、JSR株式会社製の「EP」、ランクセス製の「KELTAN」等である。好ましくは住友化学株式会社製の低温復元性に優れた「エスプレン 5361」、「エスプレン 501A」等を用いることができる。
【0021】
〔B〕シリカ
シール材用組成物にはシリカが高充填されている。シリカを高充填することで、シール材の内部に水素が侵入しにくくなるため、シール材の耐ブリスター性を向上させることができる。シリカはカーボンブラックよりも水素吸着性が低いため、耐ブリスター性の向上にはシリカを用いることがより有用である。
【0022】
シリカとしては、汎用ゴム一般に補強効果を発揮するフィラーとして用いられるものを使用できる。シリカとしては、特に限定はされないが、ハロゲン化珪酸または有機珪素化合物の熱分解法や、けい砂を加熱還元して気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式ホワイトカーボン、ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式ホワイトカーボン等が挙げられる。シリカとしては、乾式ホワイトカーボンを用いることが好ましい。シリカは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
シリカは、少なくとも70質量%のシリカ成分(SiO)を含有する。シリカの比表面積は、好ましくは10~120m/g、より好ましくは15~40m/gである。
【0024】
シリカは球状であることが好ましい。従来はシール材用ゴム組成物に配合できるシリカの量には上限があり、シリカを高充填することは難しかった。しかし、シリカが球状である場合、他の形状(例えば、鎖状)のシリカと比べてシリカ同士の摩擦が少なく、分散性が向上するため、シール材用ゴム組成物にシリカを高充填させることが可能となる。また、シリカを多く含むとシール材の低温性は低下するおそれがあるが、シリカが球状であれば、低温性の低下が起きにくい。このため、シール材の耐ブリスター性と低温性とを両立させることができる。なお、「球状」とは、真球だけでなく、若干歪んだ球も含む。
【0025】
シリカの平均粒径は、凝集の抑制や平滑性の観点から、好ましくは5nm~5μmであり、より好ましくは10nm~1μmであり、さらに好ましくは50nm~200nmである。シリカの平均粒径が大きすぎると、シール材の耐ブリスター性および低温性が低下するおそれがある。平均粒径は、たとえば顕微鏡を用いて形態観察を行ない、画像解析により観察視野内のシリカの粒径を計測し、計測値の数平均を算出することにより求めることができる。
【0026】
シール材用ゴム組成物におけるシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して50~140質量部であり、好ましくは80~140質量部である。シリカの含有量が多すぎるとシール材の低温性が低下する可能性がある。
【0027】
〔C〕シランカップリング剤
シール材用ゴム組成物は、シリカを高充填させるためのシランカップリング剤を含む。シランカップリング剤は分子中に、無機質材料と化学結合する反応基と有機質材料と化学結合する反応基をもつため、通常では結合しにくい有機質材料と無機質材料とを結ぶバインダーとしての役割をもつ。シリカの表面をシランカップリング剤で被覆すると、シリカの表面が疎水性となり、シリカの凝集を防ぐことができる。これにより、シール材用ゴム組成物中でシリカをより分散して高充填させることが可能となり、シール材の耐ブリスター性を向上させることができる。また、シランカップリング剤はシリカとゴム成分との結合力を上昇させることでも、耐ブリスター性を向上させる。
【0028】
シランカップリング剤としては、特に限定はされないが、例えばビニル系、アクリル系、エポキシ系、メルカプト系、アミノ系のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0029】
ビニル系シランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。アクリル系シランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。エポキシ系シランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。メタクリル系シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
シール材用ゴム組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1~20質量部であり、好ましくは1~10質量部である。従来よりも多量のシランカップリング剤を含むことで、シール材用ゴム組成物の耐ブリスター性が向上する。しかし、シランカップリング剤が多すぎると、伸びが極端に低下するため、使用時に破損または低温性が低下するおそれがある。
【0031】
〔D〕カーボンブラック
シール材用ゴム組成物はカーボンブラックを含む。カーボンブラックを含有することで、シール材の強度および耐ブリスター性を向上させることができる。
【0032】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して15~35質量部である。共架橋剤の保持の観点からは、カーボンブラックの含有量はゴム成分100質量部に対して20質量部以上であることが好ましい。ただし、カーボンブラックは水素を吸着するため、多量に配合すると耐ブリスター性が低下するおそれがある。シリカとカーボンブラックの含有量の合計は、ゴム成分100質量部に対して95~140質量部であることが好ましい。シリカおよびカーボンブラック等のフィラーを高充填することで、耐ブリスター性が向上するが、フィラーの配合量が多すぎる場合、シール材の剛性が高すぎて、低温性が低下するおそれがある。
【0033】
また、カーボンブラックは球状であることが好ましい。カーボンブラックがより真球に近い(比表面積が小さい)場合、カーボンブラックは凝集しにくく、シール材用ゴム組成物の低温性は低下しにくい。補強性の観点からは、カーボンブラックの粒径は小さいことが好ましい。
【0034】
カーボンブラックは、導電性でも非導電性でもよく、その製法によりファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、単体でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、ISAF-HF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF、HAF-HS、HAF-LS、MAF、FEF、FEF-LS、GPF、GPF-HS、GPF-LS、SRF、SRF-HS、SRF-LM、FT、MT等のタイプを用いることができる。粒径の異なる2種以上のカーボンブラックを用いてもよい。
【0036】
カーボンブラックの平均粒径は、各製造会社によって異なる場合があるものの、例えば、SAFは19nm、ISAFは23nm、HAFは28nm、MAFは38nm、FEFは43nm、GPFは62nm、SRFは66nm、FTは122nmである。
【0037】
〔E〕共架橋剤
シール材用ゴム組成物は、さらに共架橋剤を含むことが好ましい。共架橋剤としては、例えばキノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2-ポリブタジエン、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等が挙げられる。共架橋剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
シール材用ゴム組成物における共架橋剤の含有量は、好ましくはゴム成分100質量部に対して1~20質量部であり、より好ましくは1~10質量部である。この範囲において、シール材用ゴム組成物の流動性および加工性を向上させることができる。この範囲において、架橋したシール材の耐ブリスター性をより向上させることができる。共架橋剤の含有量が少なすぎると、シール材の100%引張応力が低下する虞があり、多すぎると切断時伸びが100%を下回り、低温性が低下するおそれがある。
【0039】
〔F〕その他の含有成分
シール材用ゴム組成物は、必要に応じて、上述の成分以外の他の成分を含有することができる。他の含有成分としては、例えば、シリカおよびカーボンブラック以外のフィラー(体質顔料および着色顔料を含む)、シランカップリング剤以外の界面活性剤、老化防止剤、加硫促進剤、酸化防止剤、加工助剤(ステアリン酸等)、加硫助剤(酸化亜鉛等)、安定剤、粘着付与剤、多価アルコール、難燃剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を挙げることができる。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
シール材用ゴム組成物が上記の添加剤を含有する場合、その含有量は当該分野において通常用いられる量であってよい。
【0041】
フィラーとしては、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状または粉末状樹脂、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等が挙げられる。
【0042】
老化防止剤としては、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、アミン-ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体、チオウレア誘導体等が挙げられる。
【0043】
加硫促進剤としては、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系の化合物等が挙げられる。
【0044】
加工助剤としては、熱可塑性樹脂、液状ゴム、オイル、軟化剤、内部離型剤、粘着付与剤等が挙げられる。例えばゴム成分がFKMやFFKMである場合、充填剤としてフッ素樹脂またはその粒子を含有してもよく、加工助剤として液状フッ素ゴムを含有してもよい。ゴム成分がEPMやEPDMである場合、加工助剤として、例えばパラフィン系オイルを含有することができる。加工助剤の含有量は、シール材用ゴム組成物100質量部に対し、好ましくは0.5~5質量部であり、より好ましくは1.0~2.5質量部である。
【0045】
内部離型剤としては、例えば高級脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、炭化水素樹脂等が挙げられる。低温性向上の観点から、内部離型剤の含有量は、シール材用ゴム組成物100質量部に対し、好ましくは0.5~5質量部であり、より好ましくは1.0~2.5質量部である。0.5質量部よりも少ないと、離型効果が少なく、金型にゴムが貼りついて金型を汚染してしまう虞があるためである。また、シール材用ゴム組成物は、高粘度の内部離型剤を含むことで、耐ブリスター性を低下させることなく低温性を向上させることができる。
【0046】
シランカップリング剤以外の界面活性剤としては、例えば非イオン界面活性剤が挙げられ、非イオン界面活性剤としては、例えば高級アルコール、多価アルコールが挙げられる。多価アルコールの具体例は、例えば、ジエチレングリコールを含む。多価アルコールを含む場合、シリカの水酸基が抑制され、シリカの分散性および強度が向上する。
【0047】
架橋剤としては、硫黄、有機硫黄化合物、ジスルフィッド、有機過酸化物等が用いられる。有機過酸化物として、EPDMおよびH-NBRに採用されているものとして、例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチル-パーオキシヘキサン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチル-パーオキシヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、4,4-ジ-t-ブチルパーオキシ-ブチルバレレート、2,2-ジ-t-ブチルパーオキシ-ブタン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-ベンゾイルパーオキサイド、ビス(o-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(p-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンジラート等が例示される。
【0048】
シール材用ゴム組成物における架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、通常0.1~20質量部であり、好ましくは0.2~10質量部である。この範囲内であれば、架橋反応を十分に進行させることができるので、硬度や機械的強度、耐圧縮永久歪性等に優れるとともに、耐衝撃性に優れた緩衝材を得ることが可能である。
【0049】
シール材用ゴム組成物は、耐ブリスター性を向上させるためにフィラーを過剰に含むと、硬度が上がり、伸びが下がり、シール材が脆くなる傾向にある。可塑剤を含むとこれらの性質は改善し、低温性も良くなる。しかし可塑剤を多く含むと、成形品の表面に可塑剤成分が析出しやすくなったり、グリース等の潤滑剤により可塑剤成分が抽出されやすくなる。結果として体積の縮小、低温性および耐熱性の低下を引き起こし、シール性が低下するおそれがある。このような観点からは、シール材用ゴム組成物は、好ましくは可塑剤を含まない。
【0050】
[シール材の製造方法]
シール材用ゴム組成物は、上述の含有成分を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、ミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、架橋反応に寄与する成分(架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋剤等)を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、架橋反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近である。
【0051】
<シール材>
シール材は、上述のシール材用ゴム組成物の架橋物からなるものである。シール材は、シール材用ゴム組成物を架橋(加硫)・成形することにより作製することができる。架橋・成形方法は、インジェクション成形、圧縮成形、移送成形等の従来公知の方法を採用することができる。
【0052】
成形時における加熱温度(架橋温度)は、例えば100~200℃程度であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5~120分程度である。ゴム成分としてHNBR、EPDM、CR、FKM、VMQを用いた場合は二次加硫を行うことが好ましい。
【0053】
シール材は、パッキンやガスケット等であることができる。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択され、その代表例は、断面形状がO型であるOリングである。シール材は、低温特性および耐ブリスター性に優れるため、例えば80MPaの貯蔵高圧水素ガスの貯蔵タンクのシール材として好適に用いることができる。また、貯蔵高圧ガスとしては、水素ガスだけでなく、例えば酸素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス等にも好適に使用することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
[成形品の物性評価]
JIS K6250:2006に従い、2mmの厚さに作製したシート状の物性評価用試料から、JIS K6251:2017に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸び、100%引張応力をショッパー式引張試験機を用いて測定した。また、JIS K6253:2012に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状の物性評価用試料の硬度を測定した。これらの試験はすべて温度25℃で行った。
【0056】
[シール材の高温高圧サイクル試験]
Oリングに成形したシール試験用試料をフランジにセットし、表1に示す条件でサイクル試験を行い、耐ブリスター性の評価を行った。サイクル試験後、Oリングの断面を観察し、破損が見られたものを「×」とし、亀裂が見られなかったものを「○」として評価した。また、表1に示す条件で、ガス漏れの有無を評価した。
【0057】
【表1】
【0058】
[シール材の低温高圧サイクル試験]
Oリングに成形したシール試験用試料をフランジにセットし、表2に示す条件でサイクル試験を行った。試験後、Oリングの断面を観察し、破損が見られたものを「×」とし、亀裂が見られなかったものを「○」として評価した。また、表2に示す条件で、ガス漏れの有無を評価した。試験は、シール部にグリース(信越化学工業株式会社製、シリコーングリース、KF-96H-100万cSt)を塗布して、または塗布せずに行った。
【0059】
【表2】
【0060】
[シール材用ゴム組成物の調製および成形品の作製]
表3に記載された各成分を10L加圧ニーダーで混練し、実施例および比較例のシール材用ゴム組成物を調製した。得られたシール材用ゴム組成物を温度160~180℃に加熱された金型に投入し、加圧プレスにて成形した。成形時間は5~20分であった。さらに温度160~180℃で0.5~2時間二次加硫し、物性評価用試料およびシール試験用試料を得た。
【0061】
物性評価用試料の常態物性を上記評価方法に従って測定した。シール試験用試料の高温および低温でのシール性を上記サイクル試験を行い評価した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3中の配合物の詳細は次のとおりである。表における配合量の単位は質量部である。
〔1〕ゴム成分A:エスプレン 5361(住友化学工業株式会社製、EPDM:エチレン由来の構成単位の含有量が49質量%、ジエンモノマーである5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)由来の構成単位の含有量が3.5質量%であり、JIS K6300-1に準拠して測定される125℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)125℃〕が83である。)
〔2〕ゴム成分B:エスプレン 501A(住友化学工業株式会社製、EPDM:エチレン由来の構成単位の含有量が52質量%、ジエンモノマーである5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)由来の構成単位の含有量が4.0質量%であり、JIS K6300-1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が44である。)
〔3〕加硫助剤:酸化亜鉛2種(ハクスイテック株式会社製)
〔4〕老化防止剤:ノクラック224S(大内新興化学工業株式会社製、2,2,4トリメチル1,2ジヒドロキノリン共重合体)
〔5〕加工助剤:ルナックS50V(花王株式会社製、ステアリン酸)
〔6〕カーボンブラック:シーストGSO(東海カーボン株式会社製、ファーネスブラック)
〔7〕シリカ:sidistar(Elkem製、球状シリカ、BET表面積20m/g、CTAB吸着比表面積30m/g、DBP吸収量85g/100g、平均粒径150nm)
〔8〕シランカップリング剤:KBM1003(信越化学工業株式会社製、ビニルトリメキシシラン)
〔9〕多価アルコール:ジエチレングリコール(株式会社日本触媒製)
〔10〕共架橋剤:ハイクロスM(精工化学株式会社製、トリメチロールプロパントリメタクリレート)
〔11〕架橋剤A:硫黄(鶴見化学株式会社製、コロイド硫黄)
〔12〕架橋剤B:パーカドックス14-40(化薬アクゾ株式会社製、ビス(tert-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン40%希釈物、有機過酸化物)
【0064】
表3に示すように、ゴム成分100質量部に対してシリカを50~140質量部、シランカップリング剤を1~20質量部、カーボンブラックを15~35質量部含むシール材用ゴム組成物を架橋した実施例1~3のシール試験用試料は、高温高圧環境に晒されても試料断面に亀裂が見られず、耐ブリスター性に優れていた。また、高温高圧環境でのガス漏れも確認されなかったことから、実施例1~3のシール試験用試料は、高温でのシール性に優れていることがわかった。実施例1~3のシール試験用試料は、低温高圧環境でグリースを塗布して試験を行うと、ガスの漏れは確認されず、低温でのシール性に優れていた。また、より耐寒性に優れたEPDMを用いた実施例1のシール試験用試料では、温度-40℃においてグリースを塗布せずともガス漏れは確認されず、実施例2および3よりもさらに低温性に優れたシール材が得られたことがわかった。
【0065】
一方、比較例1,2および4の物性評価用試料は、実施例1または2と比較して100%引張応力が低く、そのシール試験用試料は高温高圧サイクル試験においてブリスターが生じていた。比較例3の物性評価用試料は、硬度が上昇し、引張強さおよび切断時伸びが低下しており、そのシール試験用試料は高温高圧サイクル試験においてブリスターが生じるとともに、低温性も低下していた。
【0066】
[参考例]
実施例1と同様の方法により、表4に従って参考例1および2のシール材用ゴム組成物を調製し、物性評価用試料を得た。物性評価用試料の常態物性を上記評価方法に従って測定した。結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4中の配合物の詳細は次のとおりである。表における配合量の単位は質量部である。
〔1〕ゴム成分B:エスプレン 501A(住友化学工業株式会社製、EPDM:エチレン由来の構成単位の含有量が52質量%、ジエンモノマーである5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)由来の構成単位の含有量が4.0質量%であり、JIS K6300-1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が44である。)
〔2〕加硫助剤:酸化亜鉛2種(ハクスイテック株式会社製)
〔3〕老化防止剤:ノクラック224S(大内新興化学工業株式会社製、2,2,4トリメチル1,2ジヒドロキノリン共重合体)
〔4〕加工助剤:ルナックS50V(花王株式会社製、ステアリン酸)
〔5〕カーボンブラック:シーストGSO(東海カーボン株式会社製、ファーネスブラック)
〔6〕シリカA:sidistar(Elkem製、球状シリカ、BET表面積20m/g、CTAB吸着比表面積30m/g、DBP吸収量85g/100g、平均粒径150nm)
〔7〕シリカB:アエロジル200(日本アエロジル製、BET表面積200m/g、親水性ヒュームドシリカ、平均粒径7~40nm)
〔8〕シランカップリング剤:KBM1003(信越化学工業株式会社製、ビニルトリメキシシラン)
〔9〕多価アルコール:ジエチレングリコール(株式会社日本触媒製)
〔10〕共架橋剤A:ハイクロスM(精工化学株式会社製、トリメチロールプロパントリメタクリレート)
〔11〕共架橋剤B:TAIC(日本化成株式会社製、トリアリルイソシアヌレート)
〔12〕架橋剤A:硫黄(鶴見化学株式会社製、コロイド硫黄)
〔13〕架橋剤B:パーカドックス14-40(化薬アクゾ株式会社製、ビス(tert-ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン40%希釈物、有機過酸化物)
【0069】
実施例2と比較して、シリカAの代わりにシリカBを含む参考例1の物性評価用試料は、硬度が上昇し、引張強さと切断時伸びとが低下しており、耐ブリスター性に劣ることが予想される。また、実施例2と比較して共架橋剤Aの代わりに共架橋剤Bを含む参考例2の物性評価用試料は、100%引張応力が低下しており、耐ブリスター性および低温性に劣ることが予想される。