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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】硬化性組成物、及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20230704BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20230704BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20230704BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230704BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230704BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C08G59/68
C08G59/24
C08G59/32
C08L63/00 Z
C08J5/24 CFC
C08J5/04 CFC
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019131986
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021017462
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】尾坂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘世
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133849(JP,A)
【文献】特開2015-061929(JP,A)
【文献】特開2018-053133(JP,A)
【文献】特開2016-108499(JP,A)
【文献】特開2012-219155(JP,A)
【文献】特表2018-526466(JP,A)
【文献】特開平05-125150(JP,A)
【文献】特表2008-544067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08J 5/04-5/10、5/24
C08L 63/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、Yは単結合又は連結基を示す)
で表される化合物(1)と、下記式(2)
【化2】
(式中、Rはt価の脂肪族炭化水素基を示し、Lは単結合又は連結基を示し、環Zは脂環或いは芳香環を示す。sは0又は1を示し、tは3以上の整数を示す)
で表される化合物(2)と、ルイス酸触媒とを含み、
前記化合物(1)の含有量と前記化合物(2)の含有量の重量比が10/90~40/60であり、
前記ルイス酸触媒が下記式(3)で示されるルイス酸と、塩基との錯体である硬化性組成物。
MX n (3)
(式中、Mは、B、Al、Fe、Sn、Si、Zn、及びTiから選択される金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。また、nは前記金属原子の酸化数を示す)
【請求項2】
ルイス酸触媒が前記式(3)で示されるルイス酸とアミンとの錯体である、請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
下記条件により硬化して得られる硬化物の、動的粘弾性測定によるE’のガラス転移温度が250℃以上である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
硬化条件:140℃で0.5時間加熱後、180℃で2時間加熱
【請求項4】
更に、前記化合物(1)と化合物(2)の合計100重量部に対して、酸化防止剤を0.05~5.0重量部含有する、請求項1~の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項6】
強化繊維と、請求項1~の何れか1項に記載の硬化性組成物を含むプリプレグ。
【請求項7】
強化繊維と、請求項1~の何れか1項に記載の硬化性組成物の硬化物を含む繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の硬化性組成物、及び前記硬化性化合物の硬化物と強化繊維の複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、強化繊維に樹脂を含浸させた後、前記樹脂を硬化して得られるものであり、軽量且つ高強度を特徴とする。また、金属のように錆びたり、腐食したりすることもない。そのため、金属に代わる材料として、住宅・建築材料、航空機、自動車などの構造材料や、スポーツ用具材料等に利用されている。
【0003】
前記樹脂としては、例えば、ビスアリールフルオレン構造を有するエポキシ樹脂を使用することが知られている(特許文献1)。しかし、前記樹脂の硬化物のガラス転移温度は140~240℃であり、特に航空機や自動車などの構造材用途には耐熱性の点で不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-219155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、耐熱性に優れた線維強化複合材料を形成可能な、硬化性組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、耐熱性に優れた線維強化複合材料を提供することにある。
本発明の他の目的は、耐熱性に優れた線維強化複合材料を形成可能なプリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記化合物(1)と化合物(2)とを特定の割合で含み、更にルイス酸触媒を含む硬化性組成物は、250℃以上のガラス転移温度を有し、耐熱性に極めて優れた硬化物を形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
すなわち、本発明は下記式(1)
【化1】
(式中、Yは単結合又は連結基を示す)
で表される化合物(1)と、下記式(2)
【化2】
(式中、Rはt価の脂肪族炭化水素基を示し、Lは単結合又は連結基を示し、環Zは脂環或いは芳香環を示す。sは0又は1を示し、tは3以上の整数を示す)
で表される化合物(2)と、ルイス酸触媒とを含み、前記化合物(1)の含有量と前記化合物(2)の含有量の重量比が10/90~40/60である硬化性組成物を提供する。
【0008】
本発明は、また、ルイス酸触媒が下記式(3)で示されるルイス酸と、塩基との錯体である、前記硬化性組成物を提供する。
MXn (3)
(式中、Mは、B、Al、Fe、Sn、Si、Zn、及びTiから選択される金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。また、nは前記金属原子の酸化数を示す)
【0009】
本発明は、また、ルイス酸触媒が前記式(3)で示されるルイス酸とアミンとの錯体である、前記硬化性組成物を提供する。
【0010】
本発明は、また、下記条件により硬化して得られる硬化物の、動的粘弾性測定によるE’のガラス転移温度が250℃以上である、前記硬化性組成物を提供する。
硬化条件:140℃で0.5時間加熱後、180℃で2時間加熱
【0011】
本発明は、また、更に、前記化合物(1)と化合物(2)の合計100重量部に対して、酸化防止剤を0.05~5.0重量部含有する、前記硬化性組成物を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記硬化性組成物の硬化物を提供する。
【0013】
本発明は、また、強化繊維と、前記硬化性組成物を含むプリプレグを提供する。
【0014】
本発明は、また、強化繊維と、前記硬化性組成物の硬化物を含む線維強化複合材料を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬化性組成物は上記構成を有するため、常温ではタック性が低く、取扱性に優れる。そして、加熱により溶融して、高い流動性を示す。そのため、強化繊維に含浸させやすい。また、本発明の硬化性組成物の硬化物は、上記化合物(1)と化合物(2)とが高密度の3次元架橋構造体を形成するため、極めて高い耐熱性を有する。また、前記硬化物を高温環境下に曝しても、高い耐熱性を保持することができる。
そのため、本発明の硬化性組成物は、耐熱性に優れた線維強化複合材料の形成材料として好適に使用することができる。
また、本発明の硬化性組成物を用いて得られた線維強化複合材料は耐熱性に優れ、高温環境下での使用後にも、高い耐熱性が損なわれることがない。そのため、航空機や自動車などの構造材用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、化合物(1)と化合物(2)とルイス酸触媒とを少なくとも含有する。
【0017】
(化合物(1))
前記化合物(1)は、下記式(1)で表される。
【化3】
(式中、Yは単結合又は連結基を示す)
【0018】
上記式(1)中、Yは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0019】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0020】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0021】
上記式(1)で表される脂環式エポキシ化合物の代表的な例としては、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタンや、下記式(1-1)~(1-8)で表される化合物等が挙げられる。尚、下記式(1-5)中のLは炭素数1~8のアルキレン基であり、なかでも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。また、下記式(1-5)、(1-7)中のn1、n2は、それぞれ1~30の整数を示す。
【化4】
【0022】
前記化合物(1)としては、なかでも、耐熱性に優れた硬化物を形成することができる点で、式(1)中のYがエステル結合を含む基である化合物が好ましく、特に、上記式(1-1)~(1-8)で表される化合物が好ましい。
【0023】
前記化合物(1)の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、耐熱性に優れた硬化物が得られる点で、硬化性組成物に含まれるカチオン硬化性化合物全量の、例えば5~35重量%、好ましくは10~30重量%、特に好ましくは10~25重量%、最も好ましくは15~25重量%、とりわけ好ましくは15~20重量%である。
【0024】
前記化合物(1)の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、化合物(1)と化合物(2)の合計(100重量%)に対して、例えば5~35重量%、好ましくは10~30重量%、特に好ましくは10~25重量%、最も好ましくは15~25重量%、とりわけ好ましくは15~20重量%である。
【0025】
前記化合物(1)の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、硬化性組成物全量の、例えば10~35重量%、好ましくは10~25重量%、特に好ましくは10~20重量%、最も好ましくは15~20重量%である。
【0026】
(化合物(2))
前記化合物(2)は、下記式(2)で表される化合物である。
【化5】
(式中、Rはt価の脂肪族炭化水素基を示し、Lは単結合又は連結基を示し、環Zは脂環或いは芳香環を示す。sは0又は1を示し、tは3以上の整数を示す)
【0027】
前記環Zにおける脂環としてはC3-20脂環式炭化水素環が好ましく、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルカン環;シクロペンテン、シクロへキセン等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルケン環;パーヒドロナフタレン、ノルボルナン、ノルボルネン、アダマンタン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン等の橋かけ環式炭化水素基等が挙げられる。
【0028】
前記環Zにおける芳香環としては、C6-14(特に、C6-10)芳香環が好ましく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。
【0029】
前記環Zとしては、なかでも、シクロアルカン環が好ましく、特に3~20員(なかでも3~15員、とりわけ5~8員)シクロアルカン環が好ましい。
【0030】
前記t価の脂肪族炭化水素基は、脂肪族炭化水素の構造式からt個の水素原子を除いた基である。前記脂肪族炭化水素は、例えば、炭素数1~10の脂肪族炭化水素が好ましく、特に炭素数2~8の脂肪族炭化水素が好ましい。
【0031】
また、前記脂肪族炭化水素には、直鎖状又は分岐鎖状の、飽和脂肪族炭化水素又は不飽和脂肪族炭化水素が含まれる。
【0032】
前記脂肪族炭化水素としては、なかでも、分岐鎖状脂肪族炭化水素が好ましく、分岐鎖状飽和脂肪族炭化水素が特に好ましい。
【0033】
tは3以上の整数であり、なかでも3~5が好ましく、とりわけ3が好ましい。
【0034】
sは0又は1を示す。また、t個のsは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
式(2)中のLは単結合又は連結基を示す。前記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合等が挙げられる。
【0036】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~6の二価の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の2価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。炭素数3~6の二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等が挙げられる。炭素数6~10の2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基等が挙げられる。
【0037】
上記式(2)で表される化合物であって、式中のs=0である化合物としては、例えば、下記式(2a)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
【0038】
式(2a)中、R'はp価の脂肪族アルコールの構造式からp個の水酸基(-OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、qはそれぞれ自然数を表す。
【0039】
前記p価のアルコール[R'(OH)p]としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノール等の多価アルコール(炭素数1~15の多価アルコール等)が挙げられる。pは1~6が好ましく、qは1~30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの[ ]内(外側の角括弧内)の基におけるqは同一でもよく異なっていてもよい。上記式(2a)で表される化合物としては、例えば、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]を使用しても良い。
【0040】
上記式(2)で表される化合物であって、式中のs=1である化合物としては、例えば、下記式(2b)、(2c)、(2d)で表される化合物等が挙げられる。
【化7】
【0041】
前記化合物(2)の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、硬化性組成物の最低溶融粘度を低下させて、優れた塗布性及び繊維等への含浸し易さを付与することができる点や、耐熱性に優れた硬化物が得られる点で、硬化性組成物に含まれるカチオン硬化性化合物全量の、例えば65~95重量%、好ましくは70~90重量%、特に好ましくは75~90重量%、最も好ましくは80~90重量%、とりわけ好ましくは80~85重量%である。
【0042】
前記化合物(2)は、上記式(2a)、(2b)、(2c)、及び(2d)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、とりわけ耐熱性に優れた硬化物が得られる点で、上記式(2a)で表される化合物又は上記式(2b)で表される化合物を少なくとも含有することが好ましい。上記式(2a)で表される化合物と上記式(2b)で表される化合物の合計含有量は、化合物(2)全量の、例えば60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは75重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上、とりわけ好ましくは95重量%以上である。
【0043】
化合物(1)と化合物(2)の合計含有量における、化合物(2)の含有量の占める割合は、例えば65~95重量%、好ましくは70~90重量%、特に好ましくは75~90重量%、最も好ましくは80~90重量%、とりわけ好ましくは80~85重量%である。
【0044】
前記化合物(2)の含有量(2種以上含有する場合は、その総量)は、硬化性組成物全量の、例えば60~85重量%、好ましくは65~85重量%、特に好ましくは70~85重量%、最も好ましくは75~83重量%である。
【0045】
化合物(1)の含有量と前記化合物(2)の含有量の重量比[化合物(1)/化合物(2)]は10/90~40/60であり、好ましくは10/90~30/70、特に好ましくは10/90~25/75、最も好ましくは10/90~20/80、とりわけ好ましくは15/85~20/80である。
【0046】
前記化合物(1)と化合物(2)の合計含有量は、得られる硬化物の耐熱性が向上する点で、硬化性組成物に含まれるカチオン硬化性化合物全量の、例えば60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上、とりわけ好ましくは95重量%以上である。
【0047】
(ルイス酸触媒)
前記ルイス酸触媒は、少なくとも下記式(3)で示されるルイス酸を含有する。
MXn (3)
(式中、Mは、B、Al、Fe、Sn、Si、Zn、及びTiから選択される金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示す。また、nは前記金属原子の酸化数を示す)
【0048】
前記ルイス酸としては、なかでも、エポキシ化合物のカチオン重合促進効果に特に優れる点で、前記式(3)中のMがB(ホウ素)であるルイス酸が好ましい。すなわち、三ハロゲン化ホウ素が好ましい。前記三ハロゲン化ホウ素としては、例えば、BF3、BCl3、BBr3が挙げられる。
【0049】
ルイス酸触媒としては、前記ルイス酸をそのまま使用しても良いし、前記ルイス酸が塩基と共に錯体を形成したものを使用してもよい。
【0050】
前記ルイス酸触媒としては、なかでも、エポキシ化合物のカチオン重合促進効果に特に優れる点で、ルイス酸と塩基の錯体を使用することが好ましく、とりわけ三ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体を使用することが好ましい。
【0051】
前記塩基としては、例えば、アンモニア;酢酸エチル等のエステル;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル;アミン等が挙げられる。なかでも、エポキシ化合物のカチオン重合促進効果に特に優れる錯体を形成することができる点で、アミンが好ましい。
【0052】
前記アミンとしては、脂肪族アミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなど)、脂環式アミン(例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなど)、芳香族アミン(例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミンなど)、複素環式アミン(例えば、ピペリジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなど)等が挙げられる。
【0053】
前記ルイス酸と塩基の錯体としては、三ハロゲン化ホウ素・アミン錯体が好ましく、特に、三フッ化ホウ素・アニリン錯体、三フッ化ホウ素・p-クロロアニリン錯体、三フッ化ホウ素・エチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・イソプロピルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ベンジルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジメチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジブチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・ジベンジルアミン錯体、及び三塩化ホウ素・ジメチルオクチルアミン錯体から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0054】
前記ルイス酸と塩基の錯体としては、とりわけ、三ハロゲン化ホウ素・脂肪族アミン錯体が好ましく、特に、三フッ化ホウ素・アニリン錯体、三フッ化ホウ素・p-クロロアニリン錯体、三フッ化ホウ素・エチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・イソプロピルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ベンジルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジメチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジエチルアミン錯体、及び三フッ化ホウ素・ジブチルアミン錯体から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0055】
前記ルイス酸触媒(特に、三ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体)の使用量は、化合物(1)と化合物(2)の合計100重量部に対して、例えば1~10重量部、好ましくは1~5重量部、特に好ましくは2~4重量部である。
【0056】
(その他の成分)
本発明の硬化性組成物は上記成分以外にも必要に応じて他の成分を含有することができる。
【0057】
本発明の硬化性組成物は、上記化合物(1)と化合物(2)以外にも他のカチオン硬化性化合物を1種又は2種以上含有していても良いが、耐熱性に優れた硬化物が得られる点で、他のカチオン硬化性化合物の含有量は、硬化性組成物に含まれるカチオン硬化性化合物全量の、例えば40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下、とりわけ好ましくは5重量%以下である。
【0058】
本発明の硬化性組成物は、更に、酸化防止剤を含んでいてもよい。本発明の硬化性組成物が酸化防止剤を含有すると、耐熱性が向上して、得られる硬化物の黄変や白濁が抑制される傾向がある。そのため、例えば本発明の硬化性組成物を用いて線維強化複合材料を製造した場合には、線維強化複合材料に含まれる強化繊維が透けて見えることにより、美しい外観や高い意匠性が得られる点で好ましい。
【0059】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、なかでもフェノール系酸化防止剤を使用することが、黄変や白濁を抑制する効果に特に優れる点で好ましい。
【0060】
前記フェノール系酸化防止剤として、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-p-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール類;2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のビスフェノール類;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェノール等の高分子型フェノール類等が挙げられる。
【0061】
前記酸化防止剤(なかでも、フェノール系酸化防止剤)の含有量は、化合物(1)と化合物(2)の合計100重量部に対して、例えば0.05~5.0重量部、好ましくは0.05~1.0重量部、特に好ましくは0.1~0.5重量部である。酸化防止剤の含有量が上記範囲を下回ると、耐熱性を向上する効果が得られ難くなり、酸化等による劣化の抑制が不十分となる場合がある。一方、酸化防止剤の含有量が上記範囲を上回ると、硬化物の耐熱性等の物性が低下したり、コスト面で不利となる場合がある。なお、2種以上の酸化防止剤が併用される場合には、該酸化防止剤の総量が上記範囲に制御されることが好ましい。
【0062】
本発明の硬化性組成物は、更に、フィラーを1種又は2種以上含有してもよい。本発明の硬化性組成物がフィラーを含有すると、得られる硬化物の耐熱性が更に向上する効果が得られる傾向がある。
【0063】
前記フィラーには無機フィラーと有機フィラーが含まれる。
【0064】
前記無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、チタニア等の酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩;ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、タルク、クレイ、マイカ、モンモリロナイト、ガラスビーズ等のケイ酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩等が挙げられる。
【0065】
前記有機フィラーとしては、例えば、ブタジエン系ゴム粒子[例えば、(メタ)アクリル酸エステル及び芳香族ビニル(特に、アクリル酸ブチル及びスチレン)をモノマー成分として含む共重合体によって構成されたゴム粒子]、アクリル系ゴム粒子、シリコーン・アクリル複合ゴム粒子、セルロース粒子、プラスチック粒子(例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、アラミド等のプラスチックで形成された粒子)等が挙げられる。
【0066】
前記フィラーとしては、なかでも無機フィラー(特に、シリカ)が、得られる硬化物の耐熱性を向上する効果に優れる点で好ましい。
【0067】
前記フィラーの平均粒子径は、例えば0.1~100μmである。尚、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によるメディアン径(d50)である。
【0068】
前記フィラー(なかでも無機フィラー、とりわけシリカ)の配合量は、化合物(1)と化合物(2)の合計100重量部に対して、例えば1~20重量部、好ましくは3~15重量部である。
【0069】
本発明の硬化性組成物は、更にまた、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を1種又は2種以上含有していてもよい。他の成分としては、例えば、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤(例えば、シランカップリング剤等)、界面活性剤、難燃剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、蛍光体、離型剤、顔料分散剤、分散助剤等が挙げられる。
【0070】
本発明の硬化性組成物は、上記成分を、自公転式撹拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミル等の一般的に知られる混合用機器を使用して均一に混合することにより製造することができる。尚、各成分は、同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。
【0071】
本発明の硬化性組成物の、常温(例えば、15~25℃)雰囲気下での、せん断速度20(1/s)における粘度は、例えば5000mPa・s以上、好ましくは104mPa・s以上、より好ましくは106mPa・s以上、特に好ましくは104Pa・s以上、とりわけ好ましくは106Pa・s以上である。そのため、タック性が低く、取扱性に優れる。尚、前記粘度は、レオメーター(商品名「Physica MCR301」、Anton Paar社製)を使用して測定することができる。
【0072】
そして、本発明の硬化性組成物は、例えば100~150℃の範囲(好ましくは100~130℃の範囲)に最低溶融粘度を有する。前記最低溶融粘度は、例えば300~5000mPa・sであることが塗布性に優れ、繊維等に含浸させることが容易である点で好ましく、より好ましくは500~3500mPa・s、特に好ましくは500~2500mPa・s、とりわけ好ましくは500~1500mPa・sである。本発明の硬化性組成物は、前記温度範囲において、昇温により溶融して粘度が低下する。そして、ある温度を境に硬化反応が進行し、昇温により粘度が上昇に転ずる。この溶融から硬化に転ずる境の温度における粘度を最低溶融粘度という。前記粘度は実施例に記載の方法で測定できる。
【0073】
[硬化物]
本発明の硬化物は、上記硬化性組成物の硬化物である。本発明の硬化物は、上記硬化性組成物を、加熱処理に付すことにより製造することができる。
【0074】
上記硬化性組成物の加熱処理は、例えば80~250℃の温度で、0.5~24時間程度加熱することにより行われる。加熱温度は前記範囲において一定に保持しても良いし、段階的に変動させても良い。
【0075】
本発明の硬化物は耐熱性に優れ、上記硬化性組成物を下記条件下での加熱処理に付して得られる硬化物の、動的粘弾性測定によるE’のガラス転移温度は、例えば250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは270℃以上、特に好ましくは280℃以上、最も好ましくは285℃以上である。尚、前記ガラス移転温度の上限は、例えば320℃程度である。
加熱処理条件:140℃で0.5時間加熱後、180℃で2時間加熱
【0076】
また、上記硬化性組成物を上記条件下での加熱処理に付して得られる硬化物の、動的粘弾性測定によるtanδのピークトップ温度から求められるガラス転移温度は、例えば280℃以上、好ましくは290℃以上、更に好ましくは295℃以上、特に好ましくは300℃以上である。尚、前記ガラス移転温度の上限は、例えば330℃程度である。
【0077】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、繊維と上記硬化性組成物を含む。本発明のプリプレグは、繊維と上記硬化性組成物以外にも他の成分を含有していても良い。
【0078】
本発明のプリプレグは、例えば、上記硬化性組成物の溶剤希釈物を繊維に含浸させ、その後、乾燥等により溶剤を揮発させ、必要に応じて加熱処理を施して前記硬化性組成物の一部を硬化(すなわち、半硬化)させて、製造することができる。
【0079】
前記溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等のスルホキシドなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
前記強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、ポリ(p-フェニレンベンズオキサゾール)繊維(PBO繊維)などが挙げられる。また、上記炭素繊維には、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維などが含まれる。これらの強化繊維は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明では、なかでも、耐熱性に優れる点で、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましく、とりわけ炭素繊維が好ましい。
【0081】
本発明のプリプレグにおける強化繊維の形態は、特に限定されず、例えば、フィラメント(長繊維)の形態、トウの形態、トウを一方向に配列させた一方向材の形態、織物の形態、不織布の形態などが挙げられる。また、前記織物としては、例えば、平織、綾織、朱子織、若しくはノンクリンプファブリックに代表される繊維束を一方向に引き揃えたシートや角度を変えて積層したようなシートをほぐれないようにステッチしたステッチングシートなどが挙げられる。
【0082】
前記強化繊維の含有量は、プリプレグ全量の、例えば50~90重量%、好ましくは60~85重量%、特に好ましくは65~80重量%である。
【0083】
また、上記硬化性組成物の含有量は、プリプレグ全量の、例えば10~50重量%、好ましくは15~40重量%、特に好ましくは20~35重量%である。
【0084】
本発明のプリプレグが強化繊維と上記硬化性組成物とを上記範囲で含有すれば、耐熱性と機械強度とを兼ね備える繊維強化複合材料が得られる点で好ましい。前記強化繊維の含有量が上記範囲を下回ると、機械強度が低下する傾向がある。また、前記硬化性組成物の含有量が上記範囲を下回ると、耐熱性が低下する傾向がある。
【0085】
本発明のプリプレグは、常温(例えば、15~25℃)においてタック性が低く、指で触っても、指に硬化性組成物が付着しない。そのため、取扱いが容易であり、作業性に優れる。
【0086】
[線維強化複合材料]
本発明の線維強化複合材料は、強化繊維と、上記硬化性組成物の硬化物を含む。本発明の線維強化複合材料は、繊維と上記硬化性組成物の硬化物以外にも他の成分を含有していても良い。
【0087】
本発明の線維強化複合材料は、例えば上記プリプレグに加熱処理を施して、上記硬化性組成物を硬化させることにより製造することができる。尚、プリプレグの加熱処理条件は、上記硬化性組成物を加熱処理に付して硬化物を製造する際の条件と同じである。
【0088】
本発明の線維強化複合材料における強化繊維の含有量は、線維強化複合材料全量の、例えば50~90重量%であり、好ましくは60~85重量%、特に好ましくは65~80重量%である。
【0089】
また、本発明の線維強化複合材料における上記硬化性組成物の硬化物の含有量は、線維強化複合材料全量の、例えば10~50重量%であり、好ましくは15~40重量%、特に好ましくは20~35重量%である。
【0090】
本発明の線維強化複合材料は、強化繊維と上記硬化性組成物の硬化物とを上記範囲で含有することが、優れた耐熱性と高い機械強度とを兼ね備える点で好ましい。強化繊維の含有量が上記範囲を下回ると、機械強度が低下する傾向がある。一方、上記硬化性組成物の硬化物の含有量が上記範囲を下回ると、耐熱性が低下する傾向がある。
【実施例
【0091】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0092】
実施例1
Epalloy9000を100℃のオーブン中で2時間加熱溶融した。溶融したEpalloy9000を82g、セロキサイド2021Pを18g、Irganox1010を0.05g軟膏瓶に秤量した後、撹拌装置(製品名:Speedmixer、FlackTek Inc.社製)を用いて2750rpmで6分撹拌し、エポキシ組成物(1)100.5gを得た。
得られたエポキシ組成物(1)にANCHOR1115を3.0g添加し、撹拌装置で2750rpmで3分撹拌して、硬化性組成物(1)103.5gを得た。
【0093】
実施例2~12、比較例1~2
硬化性組成物の処方を下記表に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0094】
(最低溶融粘度)
得られた硬化性組成物について、回転式レオメーター装置(製品名:Kinexus Pro、Malvern社製)を用い、下記測定条件で最低溶融粘度を測定した。
<測定条件>
温度範囲:25℃~150℃
昇温速度:2℃/分
変形モード:振動
周波数:1Hz
ひずみ:1%
【0095】
(硬化物の調製)
離型剤を塗布したガラス板の2枚を、向かい合わせて配置し、シリコーンガスケットを前記2枚のガラスの間に配置して、前記2枚のガラスの間隔を定めるスペーサーとした。
実施例及び比較例で得られた硬化性組成物を真空下で脱気し、これを前記2枚のガラスの隙間に流し込み、樹脂漏れを防ぐために周囲を固定した。これをサンプルとした。
次いで、前記サンプルを140℃で0.5時間、その後180℃で2時間加熱して硬化物を得た。
【0096】
得られた硬化物について、外観、ガラス転移温度、及び耐熱性を下記方法で評価した。
[外観]
得られた硬化物の色を目視で確認した。
[ガラス転移温度]
硬化物(厚さ2mm×幅10mm×長さ4cm)のガラス転移温度(Tg)を、下記条件下での動的粘弾性測定(DMA)により求めた。
<測定装置および測定条件>
測定装置:固体粘弾性測定装置、製品名「Artemis DMA 242」、Netzsch社製
雰囲気:空気
温度範囲:20℃~400℃
昇温速度:5℃/分
変形モード:片持ち曲げ試験
周波数:1Hz
[耐熱性]
得られた硬化物を下記表に記載の耐熱試験に付した。そして、耐熱試験後の硬化物について、上記[外観]及び[ガラス転移温度]と同様の測定を行った。
【0097】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
カチオン硬化性化合物
2021P:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、商品名「セロキサイド2021P」、(株)ダイセル製
YX-8000:水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製
Epalloy9000:式(2b)で表される化合物、商品名「Epalloy9000」、CVC Termoset Speciality社製
EHPE3150:式(2a)で表される化合物、(株)ダイセル製
ルイス酸触媒
ANCHOR1115:三フッ化ホウ素・イソプロピルアミン錯体、エアプロダクツジャパン(株)製
酸化防止剤
Irganox1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]、商品名「Irganox 1010」、BASF製
フィラー
ゴム粒子:メタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体、平均粒子径0.1~1μm
ナイロン粒子:商品名「SP-500」、平均粒子径5μm、東レ(株)製
セルロース粒子:商品名「KCフロックW-100」、平均粒子径37μm、日本製紙(株)製
シリカ粒子:平均粒子径50~100μm
MCB:Monarch carbon Black、平均粒子径1~50μm、CABOT製
【0100】
上記表1、2から、本発明の硬化性組成物は耐熱性(Tg:250℃以上)に優れ、更に、高温環境化に曝した後でも優れた耐熱性(Tg:250℃以上)を保持していた。従って、本発明の硬化性組成物は、耐熱性が求められる用途に有用であることがわかる。
【0101】
実施例13
実施例9で得られた硬化性組成物115.4gを、アセトン180gに溶解して、希釈物を得た。
得られた希釈物を炭素繊維織物(0.8平方メートルのHexForce 284 3K 2×2綾織 200gsm)160gに含浸させた。
その後、希釈物を含浸させた炭素繊維織物を、残留溶媒量が0.2%未満となるまで3日間かけて風乾させて、プリプレグを得た。
同様の操作を数回行った。得られたプリプレグは全て、25℃でタックを有さず(詳細には、指で触っても、指に硬化性組成物が付着せず)、取扱性に優れていた。
【0102】
比較例3
比較例2で得られた硬化性組成物を使用した以外は実施例13と同様に行ってプリプレグを得た。
得られたプリプレグは25℃においてタックを有し、取扱いが困難であった。