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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20230704BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H48/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019143124
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021025570
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 亜久人
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-159943(JP,A)
【文献】特開2007-2885(JP,A)
【文献】特開2019-11849(JP,A)
【文献】特開2017-116035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容空間が形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通するケース貫通孔が形成された筒状であり、第1の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースと、
前記デフケースの前記収容空間に収容され、前記第1の回転軸を中心に回転可能に配置されたサイドギヤと、
前記デフケースの前記収容空間に収容され、前記第1の回転軸に直交する第2の回転軸を中心に回転可能に配置されるとともに、前記サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、
を備える差動装置であって、
前記回転軸部の内周面には、潤滑油を前記ケース本体の前記収容空間に導入する導入溝が形成されており、
前記ケース本体の内面には、前記導入溝に連通し、かつ、前記ピニオンギヤの背面側に向かって延びる内面溝が形成されており、
前記内面溝は、第1の溝部分と、前記第1の溝部分より前記ケース本体の径方向外側に位置する第2の溝部分と、を含んでおり、
前記第1の溝部分の少なくとも一部の形状は、前記第2の溝部分の形状に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え難い形状になっている、
差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置であって、
前記第1の溝部分の前記少なくとも一部のうち、前記車両前進時における前記デフケースの回転方向である前進回転方向の後方側の内壁面は、前記第2の溝部分における前記前進回転方向の後方側の内壁面に比べて急峻になっている、
差動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の差動装置であって、
前記内面溝は、前記第1の溝部分の径方向内側に位置する第3の溝部分を有し、
前記第3の溝部分の少なくとも一部の形状は、前記第1の溝部分の形状に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え易い形状になっており、
前記第3の溝部分は、前記サイドギヤの背面に覆われている、
差動装置。
【請求項4】
収容空間が形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通するケース貫通孔が形成された筒状であり、第1の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースと、
前記デフケースの前記収容空間に収容され、前記第1の回転軸を中心に回転可能に配置されたサイドギヤと、
前記デフケースの前記収容空間に収容され、前記第1の回転軸に直交する第2の回転軸を中心に回転可能に配置されるとともに、前記サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、
を備える差動装置であって、
前記回転軸部の内周面には、潤滑油を前記ケース本体の前記収容空間に導入する導入溝が形成されており、
前記ケース本体の内面には、前記導入溝に連通し、かつ、前記ピニオンギヤの背面側に向かって延びる内面溝が形成されており、
前記内面溝は、第1の溝部分と、前記第1の溝部分より前記ケース本体の径方向内側に位置する第3の溝部分と、を含んでおり、
前記第1の溝部分の少なくとも一部の形状は、前記第3の溝部分の形状に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え難い形状になっている、
差動装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の差動装置であって、
前記第3の溝部分の前記少なくとも一部のうち、前記車両前進時における前記デフケースの回転方向である前進回転方向の後方側の内壁面は、前記第1の溝部分における前記前進回転方向の後方側の内壁面に比べて傾斜が緩やかになっている、
差動装置。
【請求項6】
請求項4に記載の差動装置であって、
前記第3の溝部分は、前記サイドギヤの背面に覆われている、
差動装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の差動装置であって、
前記第2の溝部分は、前記ピニオンギヤの背面に覆われている、
差動装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の差動装置であって、
前記第1の溝部分は、前記サイドギヤの背面と前記ピニオンギヤの背面との間に位置している、
差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
差動装置は、デフケース(ディファレンシャルケース)と、そのデフケースに収容される差動ギヤ機構と、を備える。デフケースは、ケース本体と回転軸部とを有する。ケース本体には、差動ギヤ機構を収容するための収容空間が形成されている。回転軸部は、ケース本体から突出し、かつ、該ケース本体の収容空間に連通するケース貫通孔が形成された筒状であり、第1の回転軸を中心に回転可能に軸支される。差動ギヤ機構は、上記第1の回転軸を中心に回転可能に配置されたサイドギヤと、該第1の回転軸に直交する第2の回転軸を中心に回転可能に配置されるとともに、サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、を有する。デフケースが回転駆動されると、その駆動力が、ピニオンギヤとサイドギヤとを介して、サイドギヤに連結された駆動シャフトに伝達される。
【0003】
従来から、ピニオンギヤの円滑な回転動作を維持するため、ピニオンギヤの背面側(ピニオンギヤの背面とケース本体の内面との間)に潤滑油を供給するための構成を備える差動装置がある。具体的には、この従来の差動装置では、回転軸部の内周面に、潤滑油をケース本体の収容空間に導入する導入溝が形成されている。また、ケース本体の内面に、導入溝に連通し、かつ、ピニオンギヤの背面側に向かって延びる内面溝が形成されている。これにより、デフケースの回転中において、潤滑油が、導入溝を介して、内面溝に供給される。供給された潤滑油は、回転するデフケースに加わる遠心力によって内面溝におけるピニオンギヤの背面側に向かって流れ、ピニオンギヤの背面に達することにより、例えばピニオンギヤの背面とケース本体の内面との焼き付きや破壊等の発生が抑制される。その結果、ピニオンギヤの円滑な回転動作が維持される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-112516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ピニオンギヤの円滑な回転動作を維持するためには、特に車両前進時において、ピニオンギヤの背面側に適切な量の潤滑油を供給する必要がある。しかし、従来の差動装置では、内面溝の形状に工夫が凝らされていなかったため、車両前進時において、導入溝から供給された潤滑油が、内面溝の途中で無駄に飛散し、その結果、ピニオンギヤの背面に達する潤滑油量が減少し、ピニオンギヤの円滑な回転動作が維持できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することが可能な差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本明細書に開示される差動装置は、収容空間が形成されたケース本体と、前記ケース本体から突出し、かつ、前記収容空間に連通するケース貫通孔が形成された筒状であり、第1の回転軸を中心に回転可能に軸支される回転軸部と、を有するデフケースと、前記デフケースの前記収容空間に収容され、前記第1の回転軸を中心に回転可能に配置されたサイドギヤと、前記デフケースの前記収容空間に収容され、前記第1の回転軸に直交する第2の回転軸を中心に回転可能に配置されるとともに、前記サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、を備える差動装置であって、前記回転軸部の内周面には、潤滑油を前記ケース本体の前記収容空間に導入する導入溝が形成されており、前記ケース本体の内面には、前記導入溝に連通し、かつ、前記ピニオンギヤの背面側に向かって延びる内面溝が形成されており、前記内面溝は、第1の溝部分と、前記第1の溝部分より前記ケース本体の径方向外側に位置する第2の溝部分と、を含んでおり、前記第1の溝部分の少なくとも一部の形状は、前記第2の溝部分の形状に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え難い形状になっている。
【0008】
本差動装置では、ケース本体の内面には、回転軸部に形成された導入溝に連通する内面溝が形成されており、この内面溝は、第2の溝部分と第1の溝部分とを含んでいる。第2の溝部分は、第1の溝部分より径方向外側に配置される。そして、第1の溝部分の少なくとも一部の形状は、第2の溝部分の形状に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え難い形状になっている。これにより、車両前進時において、内面溝における径方向内側で潤滑油が無駄に飛散することを抑制し、内面溝における径方向外側に供給され易くなり、ピニオンギヤの背面に達する潤滑油量が増加し、ピニオンギヤの円滑な回転動作が維持される。
【0009】
(2)上記差動装置において、前記第1の溝部分の前記少なくとも一部のうち、前記車両前進時における前記デフケースの回転方向である前進回転方向の後方側の内壁面は、前記第2の溝部分における前記前進回転方向の後方側の内壁面に比べて急峻になっている構成としてもよい。本差動装置によれば、第2の溝部分と第1の溝部分とについて、前進回転方向の後方側の内壁面の急峻さを互いに異ならせるという比較的に簡単な構成によって、内面溝の径方向内側での潤滑油の無駄な飛散を抑制し、内面溝の径方向外側に供給され易くなり、ピニオンギヤの背面に達する潤滑油量が増加し、ピニオンギヤの円滑な回転動作が維持される。
【0010】
(3)上記差動装置において、前記内面溝は、前記第1の溝部分の径方向内側に位置する第3の溝部分を有し、前記第3の溝部分の少なくとも一部の形状は、前記第1の溝部分の形状に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え易い形状になっており、前記第3の溝部分は、前記サイドギヤの背面に覆われている構成としてもよい。本差動装置によれば、内面溝の内、第1の溝部分よりさらに径方向内側に位置する第3の溝部分の形状が、第1の溝部分に比べて、車両前進時に潤滑油が乗り越え易い形状とされている。これにより、第1の溝部分での潤滑油の無駄な飛散を抑制し、内面溝の径方向外側に供給され易くしつつ、サイドギヤの背面に達する潤滑油量が増加し、サイドギヤの円滑な回転動作が維持される。
【0011】
(4)上記差動装置において、前記第3の溝部分の前記少なくとも一部のうち、前記車両前進時における前記デフケースの回転方向である前進回転方向の後方側の内壁面は、前記第1の溝部分における前記前進回転方向の後方側の内壁面に比べて傾斜が緩やかになっている構成としてもよい。本差動装置によれば、第1の溝部分と第3の溝部分とについて、前進回転方向の後方側の内壁面の急峻さを互いに異ならせるという比較的に簡単な構成によって、内面溝の径方向内側での潤滑油の無駄な飛散を抑制しつつ、サイドギヤの円滑な回転動作が維持される。
【0012】
(5)上記差動装置において、前記第2の溝部分は、前記ピニオンギヤの背面に覆われている構成としてもよい。本差動装置によれば、潤滑油がピニオンギヤの背面に達するまで、内面溝の径方向内側での潤滑油の無駄な飛散が抑制されるので、より効果的にピニオンギヤの背面に達する潤滑油量が増加し、ピニオンギヤの円滑な回転動作が維持される。
【0013】
(6)上記差動装置において、前記第1の溝部分は、前記サイドギヤの背面と前記ピニオンギヤの背面との間に位置している構成としてもよい。本差動装置によれば、サイドギヤの背面とピニオンギヤの背面との間での潤滑油の無駄な飛散が抑制されることにより、ピニオンギヤの背面側への十分な潤滑油の供給によってピニオンギヤの円滑な回転動作を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態における差動装置1の構成を示す断面図である。
図2】デフケース10のケース本体20の内面21側の構成を部分的に示す説明図である。
図3図2のIII-IIIの位置における内面溝25の構成を示す断面図である。
図4】内面溝25の断面形状を示す説明図である。
図5】実施例1~4における内面溝25の断面形状のパターンを示す説明図である。
図6】変形例1,2における内面溝25の断面形状のパターンを示す説明図である。
図7】変形例3~5における内面溝25の断面形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施形態:
A-1.差動装置1の構成:
図1は、本実施形態における差動装置1の構成を示す断面図である。なお、図1では、後述の駆動シャフト62,64やボルト29については平面構成が示されている。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向(紙面上方向)を上方向といい、Z軸負方向(紙面下方向)を下方向といい、X軸正方向を右方向といい、X軸負方向を左方向というものとする。後述の図2以降も同様である。
【0016】
図1に示すように、差動装置1は、例えば自動車のミッションケース2内に、変速装置(図示しない)と共に収容されている。ミッションケース2の右側壁には、左右方向(X軸方向)に沿った第1の回転軸X1を中心とする円形の右側孔3が形成されており、右側孔3の左側(ミッションケース2の内部空間側)には、第1の回転軸X1を中心とする環状の右側軸受5が配置されている。ミッションケース2の左側壁には、第1の回転軸X1を中心とする円形の左側孔4が形成されており、左側孔4の右側(ミッションケース2の内部空間側)には、第1の回転軸X1を中心とする環状の左側軸受6が配置されている。
【0017】
差動装置1は、デフケース10と、差動ギヤ機構50と、を備える。
【0018】
A-1-1.デフケース10の構成:
デフケース10は、ミッションケース2内において上述の一対の軸受5,6に回転可能に支持されていると共に、差動ギヤ機構50を内部に収容する。具体的には、デフケース10は、ケース本体20と、一対の回転軸部(右側回転軸部30および左側回転軸部40)と、を有する。なお、デフケース10は、例えば金属によって形成されている。
【0019】
ケース本体20は、例えば中空の略球状体である。ケース本体20の内部には、差動ギヤ機構50を収容するための収容空間22が形成されている。ケース本体20の周壁には、収容空間22からケース本体20の外部に開口する一対の開口部24(「作業窓」ともいう 後述の図2参照)が形成されている。一対の開口部24は、ケース本体20の周壁の内、第1の回転軸X1を挟んで互いに対向する位置に形成されている。なお、差動装置1の組み立て工程において、差動ギヤ機構50の構成部品は、この開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22内に挿入される。
【0020】
ケース本体20の外周面には、第1の回転軸X1を中心とする環状のフランジ26が設けられており、このフランジ26にリングギヤ28がボルト29を介して締結されている。リングギヤ28は、変速装置の出力ギヤ8と噛み合っている。なお、リングギヤ28は、ボルト29を用いずに、例えば溶接等によってフランジ26に接合されていてもよい。また、リングギヤ28が、ケース本体20に一体に形成されていてもよい。
【0021】
右側回転軸部30は、右側貫通孔32が形成された円筒状の形状を有し、ケース本体20の周壁の右側外表面から右側に突出するように形成されている。左側回転軸部40は、左側貫通孔42が形成された円筒状の形状を有し、ケース本体20の周壁の左端外表面から左側に突出するように形成されている。右側回転軸部30と左側回転軸部40とは、いずれも、中心軸が第1の回転軸X1に略一致する。右側回転軸部30の右側貫通孔32と、左側回転軸部40の左側貫通孔42とは、いずれも、ケース本体20の収容空間22に連通している。右側回転軸部30は、ミッションケース2に配置された右側軸受5に回転可能に軸支されており、左側回転軸部40は、ミッションケース2に配置された左側軸受6に回転可能に軸支されている。これにより、デフケース10は、ミッションケース2内において第1の回転軸X1を中心に回転可能になっている。
【0022】
A-1-2.差動ギヤ機構50の構成:
差動ギヤ機構50は、ピニオンシャフト52と、一対のピニオンギヤ54と、右側サイドギヤ56および左側サイドギヤ58と、を備える。ピニオンギヤ54とサイドギヤ56,58とは、いずれもベベルギヤにより構成されている。ピニオンシャフト52は、第1の回転軸X1に略直交する第2の回転軸Z1に沿って配置され、ピニオンシャフト52の両端部がケース本体20の周壁に貫通形成された孔23に挿入され固定されている。一対のピニオンギヤ54は、互いに離間するように配置され、ピニオンシャフト52に第2の回転軸Z1を中心に回転可能に支持されている。なお、ピニオンギヤ54は、一対に限られず、例えば3個または4個、あるいはそれ以上の個数を備える構成とされていてもよい。また、ピニオンシャフト52は、デフケース10(ケース本体20)に固定されずに、例えばリングギヤ28に固定されていてもよい。固定方法としては、本実施形態と同様の方法に限られず、例えば固定具を用いた方法や溶接等でもよい。
【0023】
右側サイドギヤ56は、一対のピニオンギヤ54の右側に位置し、かつ、一対のピニオンギヤ54の両方に噛み合うように配置されている。また、右側サイドギヤ56には、第1の回転軸X1の方向に貫通するギヤ内周部57が形成されており、このギヤ内周部57に、右側の車軸(図示しない)に連結される右側駆動シャフト62が嵌合されることによって固定されており、この右側駆動シャフト62と一体的に回転可能になっている。左側サイドギヤ58は、一対のピニオンギヤ54の左側に位置し、かつ、一対のピニオンギヤ54の両方に噛み合うように配置されている。また、左側サイドギヤ58には、第1の回転軸X1の方向に貫通するギヤ内周部57が形成されており、このギヤ内周部57に、左側の車軸(図示しない)に連結される左側駆動シャフト64に固定されており、この左側駆動シャフト64と一体的に回転可能になっている。なお、右側駆動シャフト62は、ミッションケース2に形成された右側孔3にシール部材7を介して回転可能に軸支されている。左側駆動シャフト64は、ミッションケース2に形成された左側孔4にシール部材7を介して回転可能に軸支されている。
【0024】
A-1-3.潤滑油Uを差動ギヤ機構50に供給するための構成:
各回転軸部30,40の貫通孔32,42を構成する内周面32Aと各駆動シャフト62,64の外周面との間には、回転軸部30,40の一端から他端まで連通する共通連通路R1(図1では、右側回転軸部30側の共通連通路R1のみ図示)が形成されている。共通連通路R1は、例えば、各回転軸部30,40の内周面32Aに形成された螺旋形状のガイド溝33によって形成されている。共通連通路R1(ガイド溝33)の一端は、例えばミッションケース2に形成された導入路R(図1では、右側回転軸部30側の導入路Rのみ図示)に連通している。共通連通路R1(ガイド溝33)の他端は、各サイドギヤ56,58の外周面とデフケース10の内面21(内壁)との間の連通路(以下、「ギヤ外周側連通路R2」という)に連通している。さらに、共通連通路R1の他端は、各サイドギヤ56,58のギヤ内周部57と各駆動シャフト62,64の外周面との間の連通路(以下、「ギヤ内周側連通路R3」という)にも連通している。ギヤ内周側連通路R3は、ピニオンシャフト52側の空間まで延びている。なお、ギヤ内周側連通路R3は、例えば、次のように形成されている。各サイドギヤ56,58が、各駆動シャフト62,64にスプライン結合されており、例えば、ギヤ内周部57に形成された複数のスプライン歯の一部が欠歯とされていることにより、ギヤ内周側連通路R3が形成されている。なお、ガイド溝33は、特許請求の範囲における導入溝に相当し、右側貫通孔32は、特許請求の範囲におけるケース貫通孔に相当する。
【0025】
A-1-4.差動装置1の動作:
以上の構成により、差動装置1では、動力源(図示しない)からの動力が変速装置に伝達されて出力ギヤ8が回転すると、該出力ギヤ8と噛み合っているリングギヤ28が回転する。リングギヤ28が回転すると、該リングギヤ28の回転に伴って、デフケース10が第1の回転軸X1を中心に回転する。デフケース10が回転すると、一対のピニオンギヤ54および一対のサイドギヤ56,58を介して、右側駆動シャフト62と左側駆動シャフト64とがそれぞれ回転駆動される。
【0026】
ここで、図1に示すように、潤滑油Uが、導入路Rを介して、デフケース10の各回転軸部30,40のガイド溝33に導入される。デフケース10が回転すると、そのデフケース10の回転に伴い、ガイド溝33の螺旋形状による螺子ポンプ作用により、潤滑油Uが、共通連通路R1(ガイド溝33)を介してデフケース10の収容空間22内に供給される。共通連通路R1を介して収容空間22内に供給された潤滑油Uの一部は、ギヤ外周側連通路R2を通過することにより、サイドギヤ56,58とデフケース10との焼き付きや破壊等の発生、さらには、ピニオンギヤ54とデフケース10との焼き付きや破壊等の発生が抑制される。また、共通連通路R1を介して収容空間22内に供給された潤滑油Uの残りは、ギヤ内周側連通路R3を通過し、例えば、ピニオンシャフト52とピニオンギヤ54との間に流入することにより、ピニオンシャフト52とピニオンギヤ54との焼き付きや破壊等の発生が抑制される。その結果、差動ギヤ機構50の円滑な動作が維持される。なお、ミッションケース2内には、潤滑油Uが貯留されており、デフケース10が回転すると、そのデフケース10の回転に伴ってミッションケース2内で潤滑油Uが飛散し、その飛散した潤滑油Uの一部が、例えばミッションケース2の内壁に当たって跳ね返り、ケース本体20に形成された上述の開口部24を介して、ケース本体20の収容空間22に流入し、差動ギヤ機構50に供給される。
【0027】
A-2.ピニオンギヤ54の背面側(ピニオンギヤの背面とケース本体の内面との間)に潤滑油を供給するための構成:
A-2-1.内面溝25の全体構成:
図2は、デフケース10のケース本体20の内面21側の構成を部分的に示す説明図である。図2には、図1のII-IIの位置におけるデフケース10のYZ断面構成が示されている。すなわち、図2には、ケース本体20の内面21における右側回転軸部30側の領域が示されている。なお、図2では、デフケース10に収容される構成(ピニオンシャフト52、ピニオンギヤ54、サイドギヤ56,58)は省略されている。また、図3は、図2のIII-IIIの位置における内面溝25の構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、図2において第1の回転軸X1の時計回りの方向が、車両前進時の回転方向(以下、「前進回転方向L」という)であるとする。
【0028】
ここで、図2および図3に示すように、ケース本体20の内面21における右側回転軸部30側の領域は、サイドギヤ対向領域21Aと、中間領域21Bと、ピニオンギヤ対向領域21Cと、を含んでいる。サイドギヤ対向領域21Aは、ケース本体20の内面21の内、右側サイドギヤ56の背面(外周面)に覆われると共に右側サイドギヤ56の背面に接触して支持する、環状の領域である。右側サイドギヤ56の背面は、右側サイドギヤ56の内、ケース本体20の内面21に対向する面である。中間領域21Bは、ケース本体20の内面21の内、サイドギヤ対向領域21Aよりケース本体20の径方向(第1の回転軸X1に直交する方向)外側に位置し、かつ、右側サイドギヤ56の背面とピニオンギヤ54の背面とのいずれにも覆われない環状の領域である。具体的には、中間領域21Bは、右側サイドギヤ56とピニオンギヤ54との歯54A,56A同士が噛み合っている部分に対応した領域が含まれる。ピニオンギヤ対向領域21Cは、ケース本体20の内面21の内、中間領域21Bよりケース本体20の径方向外側に位置し、かつ、ピニオンギヤ54の背面(外周面)に覆われると共にピニオンギヤ54の背面に接触して支持する、環状の領域である。ピニオンギヤ54の背面は、ピニオンギヤ54の内、ケース本体20の内面21に対向する面である。
【0029】
図2および図3に示すように、ケース本体20の内面21には、内面溝25が形成されている。内面溝25は、右側回転軸部30に形成された上記ガイド溝33に連通し、かつ、内面溝25は、ピニオンギヤ54の背面側に向かって延びている。ここで、内面溝25とガイド溝33とが連通していることには、内面溝25とガイド溝33とが直接連通している場合に限らず、所定の空間(右側サイドギヤ56と右側回転軸部30との間の隙間)を介して連通している場合も含まれる(図2参照)。また、内面溝25は、ピニオンギヤ54の背面側に近づくほど、第1の回転軸X1からの距離が長くなるように延びていることが好ましい。これにより、内面溝25の内、ピニオンギヤ54の背面側に近い部分ほど、デフケース10の回転により受ける遠心力が大きくなり、その結果、ガイド溝33から内面溝25に流れた潤滑油Uは、主として、内面溝25に沿って、ピニオンギヤ54の背面側に流れる。なお、以下、内面溝25の両端の内、ガイド溝33側の端を「内面溝25の基端」といい、ピニオンギヤ54側の端を「内面溝25の先端」ということがある。
【0030】
具体的には、本実施形態では、内面溝25は、右側回転軸部30に形成されたガイド溝33の近傍から、サイドギヤ対向領域21Aと中間領域21Bとを横断し、ピニオンギヤ対向領域21Cまで延びている。但し、内面溝25の先端は、ケース本体20の内面21に形成された孔23までは達していない。以下、内面溝25の内、サイドギヤ対向領域21Aに位置する部分を「基端側溝部分25A」といい、中間領域21Bに位置する部分を「中間溝部分25B」といい、ピニオンギヤ対向領域21Cに位置する部分を「先端側溝部分25C」という。すなわち、内面溝25の内、基端側溝部分25Aは、右側サイドギヤ56の背面に覆われる部分であり、先端側溝部分25Cは、ピニオンギヤ54の背面に覆われる部分である。中間溝部分25Bは、右側サイドギヤ56の背面とピニオンギヤ54の背面とのいずれにも覆われない部分である。
【0031】
A-2-2.内面溝25の断面構成:
図4は、内面溝25の断面形状を示す説明図である。ここで、内面溝25の断面形状とは、内面溝25の長手方向(延伸方向)に略垂直な断面の形状をいう。図4(B)に示す第2の断面形状は、図4(A)に示す第1の断面形状(A)に比べて、車両前進時に潤滑油Uが該内面溝25を乗り越え難い形状になっている。なお、内面溝25は、V字溝であり、図2および図4中の符号Nは、内面溝25の底部を意味する。
【0032】
具体的には、第1の断面形状(A)における前進回転方向Lの後方側(図4(A)の左側)の内壁面(以下、「後方内壁面」という)74と、第2の断面形状(B)における前進回転方向Lの後方側(図4(B)の左側)の内壁面(後方内壁面)74とは、いずれも略平面である。また、第2の断面形状(B)における後方内壁面74は、第1の断面形状(A)における後方内壁面74に比べて急峻になっている。
【0033】
具体的には次の通りである。まず、図4(A)(B)において、内面溝25と、該内面溝25に隣接する一対の内面21の部分のそれぞれとの接点P同士を結ぶ直線に平行な直線を、仮想直線Qとする。また、各断面形状(A)(B)における前進回転方向Lの前方側(図4(A)(B)の右側)の内壁面(以下、「前方内壁面」という)72とする。また、第1の断面形状(A)において、仮想直線Qに対する後方内壁面74の傾斜角度を「第1の傾斜角度θ1」とし、仮想直線Qに対する前方内壁面72の傾斜角度を「第3の傾斜角度θ3」とする。また、第2の断面形状(B)において、仮想直線Qに対する後方内壁面74の傾斜角度を「第2の傾斜角度θ2」とし、仮想直線Qに対する前方内壁面72の傾斜角度を「第4の傾斜角度θ4」とする。そして、第2の傾斜角度θ2は、第1の傾斜角度θ1より大きい。このため、第2の断面形状(B)は、第1の断面形状(A)に比べて、車両前進時に潤滑油Uが該内面溝25を乗り越え難い形状になっている。なお、上記乗り越え難さの程度は、デフケース10を回転させた場合に、内面溝25から潤滑油Uが流れ出す油量の大きさから判断できる。例えば、流れ出る潤滑油Uの油量が少ないほど、乗り越え難いと判断できる。
【0034】
なお、第1の断面形状(A)では、第3の傾斜角度θ3は、第1の傾斜角度θ1と略同一になっている。すなわち、車両前進時と車両後進時とで、潤滑油Uが内面溝25を乗り越えることを抑制する、乗り越え難さが同程度になっている。第2の断面形状(B)では、第4の傾斜角度θ4は、第2の傾斜角度θ2により小さい。すなわち、車両後進時では、車両前進時に比べて、潤滑油Uが内面溝25を乗り越え易くなっている。
【0035】
図5は、実施例1~4における内面溝25の断面形状のパターンを示す説明図である。図5では、各パターンについて、内面溝25とケース本体20の内面21における各領域(サイドギヤ対向領域21A、中間領域21B、ピニオンギヤ対向領域21C)との配置関係が模式的に示されている。各パターンにおける内面溝25の内、「(A)」と付され、かつ、網掛けがされてない白抜き部分の断面形状は、上述した第1の断面形状(A)であり、「(B)」と付され、かつ、網掛け部分の断面形状は、上述した第2の断面形状(B)であるものとする。
【0036】
実施例1~4のパターンは、内面溝25における第1の断面形状(A)である溝部分と第2の断面形状(B)である溝部分との配置が互いに異なる。
【0037】
(実施例1)
図5に示すように、実施例1では、内面溝25の内、基端側溝部分25Aと先端側溝部分25Cとにおける白抜き部分の断面形状が第1の断面形状(A)であり、中間溝部分25Bと、基端側溝部分25Aおよび先端側溝部分25Cにおける網掛け部分とにおける断面形状が第2の断面形状(B)である。先端側溝部分25Cの白抜き部分は、中間溝部分25Bおよび先端側溝部分25Cの網掛け部分よりケース本体20の径方向外側に位置する。また、中間溝部分25Bおよび先端側溝部分25Cの網掛け部分の断面形状は、先端側溝部分25Cの白抜き部分の断面形状に比べて、車両前進時に潤滑油Uが乗り越え難い形状になっている。これにより、実施例1によれば、車両前進時において、内面溝25の中間溝部分25Bで潤滑油Uが無駄に飛散することを抑制し、内面溝25の径方向外側(先端側溝部分25Cの先端部)に供給され易くなる。その結果、ピニオンギヤ54の背面に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。
【0038】
また、実施例1では、先端側溝部分25Cは、ケース本体20の内面21におけるピニオンギヤ対向領域21Cに位置し、ピニオンギヤ54の背面に覆われる。このため、潤滑油Uがピニオンギヤ54の背面に達するまで、内面溝25の径方向内側での潤滑油Uの無駄な飛散が抑制されるので、より効果的にピニオンギヤ54の背面に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。
【0039】
また、実施例1では、中間溝部分25Bは、右側サイドギヤ56の背面とピニオンギヤ54の背面との間に位置している。これにより、右側サイドギヤ56の背面とピニオンギヤ54の背面との間での潤滑油Uの無駄な飛散が抑制されることにより、ピニオンギヤ54の背面側への十分な潤滑油Uの供給によってピニオンギヤ54の円滑な回転動作を維持することができる。
【0040】
また、実施例1では、基端側溝部分25Aの白抜き部分は、中間溝部分25Bおよび基端側溝部分25Aの網掛け部分よりケース本体20の径方向内側に位置する。また、基端側溝部分25Aの白抜き部分の断面形状は、中間溝部分25Bおよび基端側溝部分25Aの網掛け部分の断面形状に比べて、車両前進時に潤滑油Uが乗り越え易い形状になっている。これにより、実施例1によれば、内面溝25における中間溝部分25Bでの潤滑油Uの無駄な飛散が抑制され、潤滑油Uが内面溝25の先端側に供給され易くなり、さらに、基端側溝部分25Aで右側サイドギヤ56の背面側に拡散する潤滑油Uの量が増加し、右側サイドギヤ56の円滑な回転動作が維持される。
【0041】
なお、実施例1では、内面溝25の内、中間溝部分25Bの全体だけでなく、該中間溝部分25Bに隣接する基端側溝部分25Aおよび先端側溝部分25Cの一部についても、断面形状が第2の断面形状(B)とされている。これにより、中間溝部分25Bの一部の断面形状が第1の断面形状(A)である構成や、中間溝部分25Bだけの断面形状が第1の断面形状(A)である構成に比べて、車両前進時において、内面溝25からの潤滑油Uの無駄な飛散を、より効果的に抑制することができる。なお、実施例1では、中間溝部分25Bと、基端側溝部分25Aおよび先端側溝部分25Cにおける網掛け部分とは、特許請求の範囲における第1の溝部分に相当し、先端側溝部分25Cにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第2の溝部分に相当し、基端側溝部分25Aにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第3の溝部分に相当する。
【0042】
(実施例2)
実施例2は、実施例1に対して、内面溝25の内、中間溝部分25Bだけでなく、基端側溝部分25A全体も、断面形状が第2の断面形状(B)である点で異なる。これにより、実施例2によれば、車両前進時において、内面溝25の径方向内側(中間溝部分25Bおよび基端側溝部分25A)での潤滑油Uの無駄な飛散が抑制され、潤滑油Uが内面溝25の径方向外側(先端側溝部分25C)に供給され易くなる。その結果、ピニオンギヤ54の背面に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。なお、実施例2では、中間溝部分25Bと、基端側溝部分25Aと、先端側溝部分25Cにおける網掛け部分とは、特許請求の範囲における第1の溝部分に相当し、先端側溝部分25Cにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第2の溝部分に相当する。
【0043】
(実施例3)
実施例3は、実施例2に対して、内面溝25の先端側溝部分25Cの内、先端部だけ、断面形状が第1の断面形状(A)であり、該先端部より中間溝部分25B側の部分では、断面形状が第2の断面形状(B)である点で異なる。これにより、実施例3によれば、車両前進時において、内面溝25の中間溝部分25B、基端側溝部分25Aおよび先端側溝部分25Cの途中での潤滑油Uの無駄な飛散が抑制され、潤滑油Uが内面溝25の先端部に供給され易くなる。その結果、ピニオンシャフト52とピニオンギヤ54との間に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。なお、実施例3では、中間溝部分25Bと、基端側溝部分25Aおよび先端側溝部分25Cにおける網掛け部分とは、特許請求の範囲における第1の溝部分に相当し、先端側溝部分25Cにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第2の溝部分に相当し、基端側溝部分25Aにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第3の溝部分に相当する。
【0044】
(実施例4)
実施例4は、実施例3に対して、内面溝25の内、中間溝部分25Bだけでなく、基端側溝部分25A全体も、断面形状が第2の断面形状(B)である点で異なる。これにより、実施例4によれば、車両前進時において、内面溝25の中間溝部分25B、基端側溝部分25Aおよび先端側溝部分25Cの途中での潤滑油Uの無駄な飛散が抑制され、潤滑油Uが内面溝25の先端部に供給され易くなる。その結果、ピニオンシャフト52とピニオンギヤ54との間に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。なお、実施例4では、中間溝部分25Bと、基端側溝部分25Aと、先端側溝部分25Cにおける網掛け部分とは、特許請求の範囲における第1の溝部分に相当し、先端側溝部分25Cにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第2の溝部分に相当する。
【0045】
なお、内面溝25において、第1の断面形状(A)の溝部分と第2の断面形状(B)の溝部分との内壁面同士が、段差を介して接続された形態でもよいが、潤滑油Uの円滑な供給のため、両溝部分の内壁面同士が、段差がなく曲面を介して連続的につながっている形態が好ましい(図2参照)。また、図5に示すように、第1の断面形状(A)の溝部分と第2の断面形状(B)の溝部分との接続部分(遷移部分)は、内面溝25の内、中間溝部分25B以外の部分に配置することが好ましい。これより、中間領域21Bにおける潤滑油Uの飛散を、より効果的に抑制できる。また、図4に示すように、デフケース10を前進回転方向Lに回転させると潤滑油Uが内面溝25の後方内壁面74の側に偏るため、後方内壁面74に凸状の段差があると、潤滑油Uのピニオンギヤ54の背面側への伝達が阻害されるおそれがある。このため、図2に示すように、中間溝部分25Bにおける後方内壁面74は、基端側溝部分25Aにおける後方内壁面74に対して、前進回転方向Lの後方側に位置し、接続部分(遷移部分)の後方内壁面74が凸状の段差とならないことが好ましい。また、先端側溝部分25Cにおける後方内壁面74は、中間溝部分25Bにおける後方内壁面74に対して、前進回転方向Lの後方側に位置し、接続部分(遷移部分)の後方内壁面74が凸状の段差とならないことが好ましい。これにより、内面溝25における第1の断面形状(A)の溝部分と第2の断面形状(B)の溝部分との接続部分で、潤滑油Uの伝達効率の低下を抑制することができる。なお、図2に示すように、基端側溝部分25Aと中間溝部分25Bと先端側溝部分25Cとの底部Nは、内面溝25の全長にわたって連続的につながっている。
【0046】
B.変形例:
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0047】
上記実施形態におけるデフケース10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、デフケース10は、一対の開口部24が形成された構成であったが、例えば、開口部24が1つだけ形成された構成や開口部24が3つ以上形成された構成であってもよいし、開口部24が形成されていない構成であってもよい。また、上記実施形態では、各回転軸部30,40の貫通孔32,42を構成する内周面32A,42Aと各駆動シャフト62,64の外周面との間の空間(共通連通路R1)は、螺旋形状のガイド溝33により形成された構成であったが、該空間が、例えば第1の回転軸X1の方向に沿って直線状に延びる溝により形成された構成でもよい。
【0048】
図6は、変形例1,2における内面溝25の断面形状のパターンを示す説明図である。図6では、各パターンについて、内面溝25とケース本体20の内面21における各領域(サイドギヤ対向領域21A、中間領域21B)との配置関係が模式的に示されている。図6中の「(A)」「(B)」と網掛けの有無との意味は、上述した図5と同じである。変形例1,2は、上記実施例1~4に対して、内面溝25が、基端側溝部分25Aおよび中間溝部分25Bを有するが、先端側溝部分25Cを有しない点で異なる。すなわち、変形例1,2では、内面溝25は、右側回転軸部30に形成されたガイド溝33の近傍から、サイドギヤ対向領域21Aを横断し、内面溝25の先端が中間領域21Bの途中まで延びている。変形例1,2のパターンは、内面溝25における第1の断面形状(A)である溝部分と第2の断面形状(B)である溝部分との配置が互いに異なる。
【0049】
(変形例1)
図6に示すように、変形例1では、内面溝25の内、基端側溝部分25Aと中間溝部分25Bとにおける白抜き部分の断面形状が第1の断面形状(A)であり、基端側溝部分25Aと中間溝部分25Bとにおける網掛け部分の断面形状が第2の断面形状(B)である。中間溝部分25Bの白抜き部分は、中間溝部分25Bおよび基端側溝部分25Aの網掛け部分よりケース本体20の径方向外側に位置する。これにより、変形例1によれば、車両前進時において、内面溝25の中間溝部分25Bの最基端側で潤滑油Uが無駄に飛散することを抑制し、内面溝25の中間溝部分25Bの先端部に供給され易くなる。その結果、ピニオンギヤ54の背面に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。
【0050】
また、変形例1では、基端側溝部分25Aの白抜き部分は、中間溝部分25Bおよび基端側溝部分25Aの網掛け部分よりケース本体20の径方向内側に位置する。これにより、基端側溝部分25Aの最基端側で右側サイドギヤ56の背面に達する潤滑油Uの量が増加し、右側サイドギヤ56の円滑な回転動作が維持される。なお、変形例1では、中間溝部分25Bおよび基端側溝部分25Aにおける網掛け部分とは、特許請求の範囲における第1の溝部分に相当し、中間溝部分25Bにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第2の溝部分に相当し、基端側溝部分25Aにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第3の溝部分に相当する。
【0051】
(変形例2)
変形例2は、変形例1に対して、内面溝25の内、中間溝部分25Bだけでなく、基端側溝部分25A全体も、断面形状が第2の断面形状(B)である点で異なる。これにより、変形例2によれば、車両前進時において、内面溝25の径方向内側(中間溝部分25Bの基端側および基端側溝部分25A)での潤滑油Uの無駄な飛散が抑制され、潤滑油Uが内面溝25の径方向外側(中間溝部分25Bの先端部)に供給され易くなる。その結果、ピニオンギヤ54の背面に達する潤滑油Uの量が増加し、ピニオンギヤ54の円滑な回転動作が維持される。なお、変形例2では、中間溝部分25Bの網掛け部分と基端側溝部分25Aとは、特許請求の範囲における第1の溝部分に相当し、中間溝部分25Bにおける白抜き部分は、特許請求の範囲における第2の溝部分に相当する。
【0052】
図7は、変形例3~5における内面溝25の第2の断面形状(B1~B3)を示す説明図である。図7(B1)に示すように、変形例3における第2の断面形状(B1)は、上記実施形態における第2の断面形状(B)(図4(B)参照)に対して、後方内壁面74aが平面ではなく曲面である点で異なる。具体的には、変形例3では、第2の断面形状(B1)は、円弧状である。第2の断面形状(B1)の後方内壁面74aにおける開口側(接点P近傍)の、仮想直線Qに対する傾斜角度である第5の傾斜角度θ5は、上記実施形態における第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1(図4(A)参照)より大きい。
【0053】
図7(B2,B3)に示すように、変形例4,5における第2の断面形状(B2,B3)は、上記実施形態における第2の断面形状(B)に対して、後方内壁面74b,74cが複数の平面によって構成されている点で異なる。変形例4では、後方内壁面74bは、2つの平面(第1の平面76、第2の平面77)から構成されている。2つの平面の内、少なくとも、接点Pに近い第1の平面76の、仮想直線Qに対する傾斜角度である第6の傾斜角度θ6は、上記実施形態における第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1より大きい。なお、変形例4では、接点Pから離間した第2の平面77の、仮想直線Qに対する傾斜角度である第7の傾斜角度θ7も、上記実施形態における第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1より大きい。但し、第7の傾斜角度θ7は、第1の傾斜角度θ1と同じでもよいし、第1の傾斜角度θ1より小さくてもよい。
【0054】
変形例5では、後方内壁面74cは、3つ面(第3の平面78、第4の平面79、第5の平面80)から構成されている。3つの平面の内、少なくとも、接点Pに最も近い第3の平面78の、仮想直線Qに対する傾斜角度である第8の傾斜角度θ8は、上記実施形態における第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1より大きい。なお、変形例5では、接点Pから離間した第5の平面80の、仮想直線Qに対する傾斜角度である第9の傾斜角度θ9も、上記実施形態における第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1より大きい。但し、第9の傾斜角度θ9は、第1の傾斜角度θ1と同じでもよいし、第1の傾斜角度θ1より小さくてもよい。また、変形例5では、接点Pから離間した第4の平面79の、仮想直線Qに対する傾斜角度である傾斜角度は、上記実施形態における第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1より小さい。但し、第4の平面79の傾斜角度は、第1の傾斜角度θ1と同じでもよいし、第1の傾斜角度θ1より大きくてもよい。要するに、各第2の断面形状(B1~B3)の後方内壁面74a~74cの内、接点P寄りに位置する面部分(曲面の場合は、該曲面の接線)の、仮想直線Qに対する傾斜角度が、第1の断面形状(A)の第1の傾斜角度θ1より大きければ、車両前進時に潤滑油Uが内面溝25を乗り越え難くなる。なお、後方内壁面74は、4つ以上の面(平面または曲面)から構成されていてもよい。
【0055】
上記実施形態では、ケース本体20の内面21における右側回転軸部30側の領域に形成された内面溝25に本発明を適用した例を挙げたが、ケース本体20の内面21における左側回転軸部40側の領域に形成された内面溝に本発明を適用してもよい。
【0056】
上記実施形態では、第2の断面形状(B)における後方内壁面74は、第1の断面形状(A)における後方内壁面74に比べて急峻であることによって、車両前進時に潤滑油Uが内面溝25を乗り越え難い形状になっていた。しかし、これに限らず、例えば、第1の断面形状(A)と第2の断面形状(B)との後方内壁面74の傾斜角度が同じであり、かつ、第2の断面形状(B)における後方内壁面74の表面粗さ(表面抵抗)が、第1の断面形状(A)における後方内壁面74の表面粗さに比べて大きいことによって、車両前進時に潤滑油Uが内面溝25を乗り越え難い形状としてもよい。
【0057】
上記実施形態では、第2の断面形状(B)は、車両後進時では、車両前進時に比べて、潤滑油Uが内面溝25を乗り越え易くなっている。しかし、第2の断面形状(B)は、車両後進時と車両前進時とで、潤滑油Uの乗り越え難さが同程度になっていてもよい。例えば、第2の断面形状(B)において、前方内壁面72の第4の傾斜角度θ4は、第1の断面形状(A)における後方内壁面74の第1の傾斜角度θ1より大きくてもよいし、前方内壁面72の第3の傾斜角度θ3より大きくてもよい。但し、車両後進時は、車両前進時に比べて、デフケース10の回転速度が遅く、また、頻度が低いため、図4に示すように、内面溝25の前方内壁面72(図7における前方内壁面72a,72b,72c)に本発明を適用しなくても、潤滑油Uの飛散量は少なく、ピニオンギヤ54等の円滑な回転動作への影響は小さい。
【0058】
上記実施形態において、右側サイドギヤ56の背面とデフケース10の内面21との間にスラストワッシャ(図示しない)が配置された構成であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1:差動装置 2:ミッションケース 3:右側孔 4:左側孔 5:右側軸受 6:左側軸受 7:シール部材 8:出力ギヤ 10:デフケース 20:ケース本体 21:内面 21A:サイドギヤ対向領域 21B:中間領域 21C:ピニオンギヤ対向領域 22:収容空間 23:孔 24:開口部 25:内面溝 25A:基端側溝部分 25B:中間溝部分 25C:先端側溝部分 26:フランジ 28:リングギヤ 29:ボルト 30:右側回転軸部 32:右側貫通孔(ケース貫通孔) 32A,42A:内周面 33:ガイド溝(導入溝) 40:左側回転軸部 42:左側貫通孔 50:差動ギヤ機構 52:ピニオンシャフト 54:ピニオンギヤ 54A,56A:歯 56:右側サイドギヤ 57:ギヤ内周部 58:左側サイドギヤ 62:右側駆動シャフト 64:左側駆動シャフト 72:前方内壁面 74,74a~74c:後方内壁面 76:第1の平面 77:第2の平面 78:第3の平面 79:第4の平面 80:第5の平面 L:前進回転方向 N:底部 P:接点 Q:仮想直線 R1:共通連通路 R2:ギヤ外周側連通路 R3:ギヤ内周側連通路 R:導入路 U:潤滑油 X1:第1の回転軸 Z1:第2の回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7