(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】検査装置の異常検知システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230704BHJP
G01M 7/04 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G05B23/02 V
G01M7/04
G05B23/02 302Z
(21)【出願番号】P 2019150841
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-300613(JP,A)
【文献】特開2021-025808(JP,A)
【文献】特開2004-150894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G01M 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査装置の異常を検知する異常検知システムであって、
検体を検査或いは無負荷で検査する際の前記検査装置の出力を検知するセンサと、
前記センサで検知された前記検査装置の出力を処理する処理装置とを備え、
前記処理装置は、過去に正常な前記検査装置による基準となる検体を検査した際の出力の特徴量の平均値と、今回の前記検査装置による前記基準となる検体を検査した際の出力の特徴量との差、或いは、過去に正常な前記検査装置による無負荷で検査した際の出力の特徴量の平均値と、今回の前記検査装置による無負荷で検査した際の出力の特徴量の差に基づいて前記検査装置の異常を検知し、
入力に対する前記検査装置の理想的な出力である理想出力と前記入力に対する前記検査装置の出力とに基づいて歪率を求める歪率算出部と、
前記検査装置の前記出力を繰り返し変化させた際に得られる前記出力のばらつき度合を求めるばらつき度合算出部と、
前記検査装置の過去の出力の平均値と前記検査装置の今回の出力との相関係数を求める相関係数算出部と、
前記歪率と前記ばらつき度合を前記特徴量として、過去の特徴量の平均値と今回の特徴量との差、および前記相関係数に基づいて前記検査装置の異常の有無を判断する判断部とを有する
ことを特徴とする検査装置の異常検知システム。
【請求項2】
前記歪率算出部は、前記出力を所定周期の正弦波で変化させる入力に対する前記検査装置の理想出力の波形である理想波形のパワースペクトル密度の積分値と、前記入力に対する前記検査装置の前記出力の波形である出力波形のパワースペクトル密度の積分値との差分を歪成分とし、前記出力波形の前記パワースペクトル密度の積分値と前記歪成分とに基づいて前記歪率を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項3】
前記歪率算出部は、前記出力波形のドリフト成分を取り除き、前記出力波形のパワースペクトル密度を求める
ことを特徴とする請求項2に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項4】
前記歪率算出部は、前記出力波形の初期値と最終値とが同じ値でない場合、前記出力波形中で前記初期値と同値となるとともに前記初期値から前記所定周期の整数倍の地点の近傍にある点で前記出力波形の終端側を切り落とす処理を行ってから前記出力波形のパワースペクトル密度を求める
ことを特徴とする請求項2または3に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項5】
前記ばらつき度合算出部は、前記出力を所定周期の正弦波で変化させる入力を複数回与えた際の前記検査装置の実際の出力の波形である出力波形の位相毎の標準偏差或いは分散に基づいて前記ばらつき度合を求める
ことを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項6】
前記相関係数算出部は、前記検査装置の過去の前記出力の平均値と前記検査装置の今回の出力の度数分布同士の相関係数を求める
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項7】
前記特徴量は、さらに前記出力のオフセット量を含み、
前記処理装置は、前記検査装置の出力のオフセット量を求めるオフセット量算出部を有し、
前記判断部は、さらに、過去の前記検査装置の正常な前記オフセット量の平均値と、今回の前記検査装置の前記オフセット量との差に基づいて前記検査装置の異常の有無を判断する
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項8】
前記検査装置が前記検体に振動を与える振動検査装置であって、
前記センサは、前記検査装置の荷重を検知するロードセルと変位を検知するストロークセンサとを含み、
前記特徴量は、さらに前記検査装置の剛性を含み、
前記処理装置は、前記検査装置の荷重と変位から剛性を求める剛性算出部を有し、
前記判断部は、さらに、過去の前記検査装置の正常な前記剛性の平均値と、今回の前記検査装置の前記剛性との差に基づいて前記検査装置の異常の有無を判断する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項9】
前記処理装置は、
過去の前記特徴量の平均値と今回の前記特徴量の差が、過去の前記特徴量の標準偏差或いは分散に基づいて設定される閾値以上となると前記検査装置を異常と判断する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項10】
前記検査装置が正常と判断された場合に、
前記処理装置は、
前記検査装置で過去に正常な検体の検査を行った際の前記特徴量の平均値と、今回に前記検査装置で前記正常な検体と同じ製品の検体の検査を行った際の前記特徴量との差に基づいて前記検体の異常の有無を判断する検体異常判断部を有する
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の検査装置の異常検知システム。
【請求項11】
前記検体異常判断部は、
過去の前記特徴量の平均値と今回の前記特徴量の差が、過去の前記特徴量の標準偏差或いは分散に基づいて設定される閾値以上となると前記検体を異常と判断する
ことを特徴とする請求項10に記載の検査装置の異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置の異常検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
検査装置は、コントローラと、コントローラからの入力に応じて検体へ出力を与える出力部とを備え、検体の性能や耐久性などを検査する。コントローラは、出力部の出力をフィードバックして検体に予め決められた検査条件通りに検査装置を制御して検体に出力を与える。
【0003】
このような検査装置としては、たとえば、振動検査装置があり、振動検査装置は、出力部として加振器を備えており、機械部品やダンパといった検体に対して加振器で振動を与える。この場合、振動検査装置の出力は、検体に与える荷重、速度や変位といった物理量となり、コントローラから操作量を指示する入力が与えられると、振動検査装置は、検体に検査条件通りの荷重、速度或いは変位を与える(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような検査装置を利用した検体の検査は、入力に対して前記入力が指示する出力通りに検査装置が出力することが前提として行われるが、検査装置に異常が生じると、それまで行われた検査結果の信頼性が損なわれる場合がある。
【0006】
検査装置の異常の検知方法としては、与えた入力が指示する最大出力と検査装置の実際の出力との差が閾値を超えるとこれを異常と判断する方法があるが、このような方法或いはシステムでは単に入力が指示する出力と実際の出力との比較だけに過ぎず、検査装置の異常を正確に判断することが困難である。
【0007】
そこで、本発明は、検査装置の異常を正確に検知できる検査装置の異常検知方法および検査装置の異常検知システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明の検査装置の異常検知システムは、検体を検査或いは無負荷で検査する際の検査装置の出力を検知するセンサと、検査装置の出力を処理する処理装置とを備え、処理装置が、過去に正常な検査装置による基準となる検体を検査した際の出力の特徴量の平均値と、今回の検査装置による基準となる検体を検査した際の出力の特徴量との差、或いは、過去に正常な検査装置による無負荷で検査した際の出力の特徴量の平均値と、今回の検査装置による無負荷で検査した際の出力の特徴量の差に基づいて検査装置の異常を検知し、入力に対する検査装置の理想的な出力である理想出力と入力に対する検査装置の出力とに基づいて歪率を求める歪率算出部と、検査装置の出力を繰り返し変化させた際に得られる出力のばらつき度合を求めるばらつき度合算出部と、検査装置の過去の出力の平均値と検査装置の今回の出力との相関係数を求める相関係数算出部と、歪率とばらつき度合を特徴量として、過去の特徴量の平均値と今回の特徴量との差、および相関係数に基づいて検査装置の異常の有無を判断する判断部とを有する。
【0009】
このように構成された検査装置の異常検知方法および検査装置の異常検知システムによれば、過去の正常な検査装置の出力の特徴量の平均値を利用しているので、正常な検査装置が採り得る特徴量を指標として現在の検査装置が異常であるか判断できる。
【0010】
また、検査装置の異常検知システムでは、処理装置が、入力に対する検査装置の理想的な出力である理想出力と入力に対する検査装置の出力に基づいて歪率を求める歪率算出部と、検査装置の出力を繰り返し変化させた際に得られる出力のばらつき度合を求めるばらつき度合算出部と、過去の正常な検査装置の出力の平均値と検査装置の今回の出力との相関係数を求める相関係数算出部と、歪率とばらつき度合を特徴量として、過去の特徴量の平均値と今回の特徴量との差、および相関係数に基づいて検査装置の異常の有無を判断する判断部とを備えてもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、歪率、ばらつき度合および相関係数を利用して検査装置の異常の有無を判断するので、検査装置の動特性、繰り返し精度および波形一致度の観点から検査装置の異常の有無を把握できるから、精度良く検査装置の異常の有無を判断できる。
【0011】
また、検査装置の異常検知システムは、歪率算出部が、出力を所定周期の正弦波で変化させる入力に対する検査装置の理想出力の波形である理想波形のパワースペクトル密度の積分値と、入力に対する検査装置の出力の波形である出力波形のパワースペクトル密度の積分値との差分を歪成分とし、出力波形のパワースペクトル密度の積分値と歪成分とに基づいて歪率を求めてもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、最大荷重に対する理想波形と出力波形の歪だけでなく、全周波数領域の両者の差を加味した歪率が得られるので、検査装置の実際の動的な挙動をより正確に把握して、検査装置の異常を判断できる。
【0012】
さらに、検査装置の異常検知システムは、歪率算出部が出力波形のオフセット成分を取り除き、出力波形のパワースペクトル密度を求めてもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、出力波形からオフセット成分を取り除いてから、パワースペクトル密度を算出するので、パワースペクトル密度から低周波ノイズを除去でき、歪成分が実際よりも大きくなるのが防止されて歪率を精度良く求め得る。したがって、検査装置の異常検知システムによれば、より正確に検査装置の異常を検知できる。
【0013】
また、検査装置の異常検知システムは、歪率算出部において、出力波形の初期値と最終値とが同じ値でない場合、出力波形中で初期値と同値となるとともに初期値から所定周期の整数倍の地点の近傍にある点で出力波形の終端側を切り落とす処理を行ってから出力波形のパワースペクトル密度を求めてもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、パワースペクトル密度から高周波ノイズを除去でき、歪成分が実際よりも大きくなるのが防止されて歪率を精度良く求め得る。したがって、検査装置の異常検知システムによれば、より正確に検査装置の異常を検知できる。
【0014】
さらに、検査装置の異常検知システムは、ばらつき度合算出部において、検査装置の出力を所定周期の正弦波で変化させる入力を複数回与えた際の検査装置の出力の波形である出力波形の位相毎の標準偏差或いは分散に基づいてばらつき度合を求めてもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、検査装置が実際に長期間に亘って使用される場合において動的な荷重変動の大きさを示めすばらつき度合を求めることができ、検査装置の動的な出力変動の大きさを把握できる。したがって、検査装置の異常検知システムによれば、より正確に検査装置の異常を検知できる。
【0015】
そして、検査装置の異常検知システムは、相関係数算出部が検査装置の過去の出力の平均値と検査装置の今回の出力の度数分布同士の相関係数を求めてもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、相関係数を求める対象である検査装置の過去の平均波形と今回の出力波形に位相ずれがあっても両者の正しい相関係数を求めることができる。したがって、検査装置の異常検知システムによれば、より正確に検査装置の異常を検知できる。
【0016】
さらに、検査装置の異常検知システムは、特徴量にさらに出力のオフセット量を含み、処理装置が検査装置の出力のオフセット量を求めるオフセット量算出部を有し、判断部がさらに過去の検査装置の正常なオフセット量の平均値と、今回の検査装置のオフセット量との差に基づいて検査装置の異常の有無を判断してもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、オフセット量を利用して異常判断処理を行うので、検査装置における出力の異常やセンサの異常を検知できる。
【0017】
さらに、検査装置の異常検知システムは、検査装置が検体に振動を与える振動検査装置であって、特徴量にさらに出力の剛性を含み、センサが検査装置の荷重を検知するロードセルと変位を検知するストロークセンサを含み、処理装置が検査装置の荷重と変位とから剛性を求める剛性算出部を有し、判断部がさらに過去の検査装置の正常な剛性の平均値と、今回の検査装置の剛性との差に基づいて検査装置の異常の有無を判断してもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、剛性を利用して異常判断処理を行うので、検査装置における部品の異常や劣化、センサの異常を検知できる。
【0018】
さらに、検査装置の異常検知システムは、処理装置が過去の特徴量の平均値と今回の特徴量の差が、過去の特徴量の標準偏差或いは分散に基づいて設定される閾値以上となると検査装置を異常と判断してもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、正常な検査装置の特徴量が採り得る値の範囲を確定する適切な閾値を設定できるので、正確に検査装置の異常を検知できる。
【0019】
そして、検査装置の異常検知システムは、検査装置が正常と判断された場合に、処理装置が検査装置で過去に正常な検体の検査を行った際の特徴量の平均値と、今回に検査装置で正常な検体と同じ製品の検体の検査を行った際の特徴量との差に基づいて検体の異常の有無を判断する検体異常判断部を有してもよい。このように構成された検査装置の異常検知システムによれば、検査装置だけでなく、検体装置の異常の有無を判断する処理と同様の処理を行って検体の異常も検知できる。
【0020】
そして、検査装置の異常検知システムは、検体異常判断部が過去の特徴量の平均値と今回の特徴量との差が、過去の特徴量の標準偏差或いは分散に基づいて設定される閾値以上となると検体を異常と判断してもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システムによれば、正常な検体の特徴量が採り得る値の範囲を確定する適切な閾値を設定できるので、正確に検査装置の異常を検知できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の検査装置の異常検知システムによれば、検査装置の異常を正確に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施の形態における検査装置の異常検知システムの構成図である。
【
図5】理想荷重のパワースペクトル密度と荷重波形のパワースペクトル密度を示したグラフである。
【
図7】荷重波形のパワースペクトル密度と荷重波形のパワースペクトル密度から推定される基底周波数との誤差を説明するグラフである。
【
図8】オフセット成分を含んだ荷重波形を示したグラフである。
【
図9】オフセット成分を含んだ荷重波形のパワースペクトル密度を示したグラフである。
【
図10】初期値と最終値とが異なる荷重波形を示したグラフである。
【
図11】高周波ノイズを含んだ荷重波形のパワースペクトル密度を示したグラフである。
【
図12】ばらつき度合算出部における処理を説明する図である。
【
図13】正常な検査装置の過去の荷重波形と荷重波形の平均波形を示した図である。
【
図14】荷重波形に対して区分を設定したグラフである。
【
図16】検査装置の荷重波形のオフセット量を説明する図である。
【
図17】検査装置の荷重と変位の特性を示した図である。
【
図18】処理装置における検査装置の異常判断処理の手順の一例を示したフローチャートである。
【
図19】処理装置における検査装置の検体異常判断処理の手順の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態における検査装置Tの異常検知システム1は、検体としてのダンパDを検査する際の入力に対する検査装置Tの出力を検知するセンサ2と、検査装置Tの出力を処理する処理装置3とを備え、検査装置Tの異常を検知する。
【0024】
以下、検査装置Tの異常検知システム1の各部について詳細に説明する。検査装置Tは、本実施の形態では、検体としてのダンパDに対して振動を与える振動検査装置とされている。異常検知システム1は、検査装置Tの異常の検知に当たり、検体として基準となるダンパDに振動を与えた際に検知された検査装置Tの出力を利用して異常を検知する。また、異常検知システム1では、検査装置Tの異常を判断する場合、同じ検査装置Tが過去に正常であると判断された際の出力のデータを利用し、当該過去の出力と同じダンパDを同じ検査装置Tで検査した際に今回検知された出力とに基づいて検査装置Tの異常の有無を検知する。つまり、異常検知システム1では、検査装置Tの異常の有無を判断するうえで基準となるダンパDを検体として、過去に正常な検査装置Tが前記ダンパDを検査した際に得られた出力と、今回新たに異常検知を行うべく当該検査装置Tが前記ダンパDを検査した際に得られる出力とに基づいて検査装置Tの異常の有無を検知する。ダンパDは、伸縮速度に対して発揮する減衰力の特性が予め把握されており、検査装置Tから同じ振動が入力されると前記特性に基づき同じ速度で伸縮して同じ減衰力を発揮する。
【0025】
本実施の形態における検体であるダンパDは、シリンダ5と、シリンダ5内に出入りするロッド6とを備えたテレスコピック型のダンパとされており、シリンダ5に対してロッド6が軸方向に変位する伸縮時に減衰力を発揮する。
【0026】
他方、検査装置Tは、
図2に示すように、コントローラCと加振器Eとを備えている。加振器Eは、架台10と、架台10に設けられて
図2中左右方向へ移動可能であってダンパDの一端を保持する保持部11と、架台10に設けられてダンパDの他端に接続されてダンパDに振動を与えるアクチュエータ13とを備えている。
【0027】
アクチュエータ13は、シリンダ13aと、シリンダ13a内に移動自在に挿入されてシリンダ13a内を図示しない伸側室と圧側室とに区画する図外のピストンと、シリンダ13a内に移動自在に挿入されて前記ピストンに連結されるロッド13bと、図外のポンプから供給される圧油を前記伸側室と前記圧側室とに選択的に送り込むサーボ弁13cとを備えている。
【0028】
サーボ弁13cは、詳細には図示はしないが、中空なハウジングと、ハウジング内に移動自在に挿入されるスプールと、スプールを駆動するソレノイドと、スプールを中立位置に位置決めするばねと、外部からの入力を受け取ってソレノイドを駆動する駆動回路とを備えている。ソレノイドは、駆動回路から供給される電流量に応じてスプールに与える推力を変更でき、スプールの位置を調節できる。そして、サーボ弁13cは、スプールの位置に応じて、前記伸側室へ圧油を供給するポジションと、前記圧側室へ圧油を供給するポジションと、両者への圧油の供給を遮断するポジションとに切り替わり、前記伸側室或いは前記圧側室へ圧油を供給するポジションではソレノイドへ供給される電流量に応じて流量を調節する。
【0029】
本実施の形態では、サーボ弁13cは、入力として電流指令Iを受けとるとソレノイドの推力を調整して、スプールのハウジングに対する位置を調節して、前記伸側室と前記圧側室のうち入力が指示する室に対して入力が指示する流量の圧油を供給する。アクチュエータ13は、伸側室と圧側室のうちサーボ弁13cから圧油の供給を受けた室を拡大させるとともに圧油の供給のない室を縮小させて、伸縮駆動する。このように、加振器Eは、コントローラCから入力を受けるとアクチュエータ13を伸縮駆動させてダンパDの一端を加振して、ダンパDに振動を与える。なお、駆動回路は、ソレノイドに流れる電流を検知する電流センサを備えており、電流センサで検知する電流をフィードバックして、コントローラCから入力される電流指令I通りにソレノイドへ電流を与える。なお、駆動回路は、サーボ弁13c側ではなく、コントローラCに内包されていてもよい。
【0030】
コントローラCは、検査装置Tの異常検知にあたって、加振器Eにおけるアクチュエータ13を所定周期の正弦波で伸縮させる電流指令Iを入力としてアクチュエータ13へ繰り返し与える。このように、検査装置Tは、アクチュエータ13を駆動して検体であるダンパDへ繰り返し正弦波の振動を与えるようになっており、本実施の形態では、検査装置Tの出力は、検体であるダンパDへ与える荷重F、速度Vおよび変位Xとされている。したがって、電流指令Iが指示する加振器Eの理想的な出力(理想出力)としての理想荷重、理想速度および理想変位の各波形、つまり、理想波形Waは、
図3に示すように、所定周期の正弦波で変化する波形となる。このような所定周期の正弦波で検査装置Tの出力を変化させる電流指令Iは、予めコントローラCに格納しておくか、検査の際にコントローラCに記憶させてもよい。なお、所定周期は、任意に設定できる。なお、検査装置Tの出力は、本実施の形態では、荷重F、速度Vおよび変位Xとされているが、これらに限定されるものではなく、また、荷重F、速度Vおよび変位Xのうちいずれか一つまたは二つとされてもよい。
【0031】
つづいて、センサ2は、コントローラCからの入力としての電流指令IによってダンパDを検査する際の検査装置Tの出力を検知する。本実施の形態では、検査装置Tの出力は、荷重F、速度Vおよび変位Xとされているので、センサ2は、アクチュエータ13とダンパDとの間に設置されてアクチュエータ13が発揮する荷重を検知するロードセル2aと、アクチュエータ13のロッド13bに装着されてロッド13bの速度を検知する速度センサ2bと、アクチュエータ13の伸縮変位を検知するストロークセンサ2cとを備えている。そして、センサ2は、検査装置Tの実際の出力として荷重F、速度Vおよび変位Xを検知して処理装置3に入力する。なお、速度センサ2bは、ロッド13bの加速度を検知し、検知し加速度を積分することで検査装置Tの速度Vを検知するが、ストロークセンサ2cが検知した変位Xを微分して速度Vを検知するようにしてもよい。また、速度の検知に当たり、加速度センサで検知したロッド13bの加速度を処理装置3に入力して、処理装置3にて加速度を積分してロッド13bの速度Vを検知してもよい。
【0032】
処理装置3は、
図4に示すように、コンピュータシステムであり、演算処理装置3aと、処理装置3の制御と処理に必要なプログラムを記憶するとともに演算処理装置3aが当該プログラムの実行に必要となる記憶領域を提供する記憶装置3bと、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cからの信号を受け取るインターフェース3cと、キーボードやマウスといった入力装置3dと、表示装置3eと、補助記憶装置3fと、印刷装置としてのプリンタ3gと、これら装置を互いに通信可能に接続するバス3hとを備えている。
【0033】
演算処理装置3aは、演算処理を行うCPU等であって、オペレーティングシステムおよび他のプログラムの実行によって処理装置3の各部の制御を行うとともに、検査装置Tの出力としての荷重F、速度Vおよび変位Xに基づき、検査装置Tの特徴量として歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの4つの値と相関係数Rの5つ指標を求める処理を行う。特徴量は、検査装置Tの静的或いは動的な特性を把握することが可能な指標であって、歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの4つの指標を特徴量としている。特量量は、前述した値以外にも入力に対する出力の最大値や入力に対する出力の追従性といったものが挙げられる。記憶装置3bは、ROMおよびRAMを備える他、ハードディスクを備えている。インターフェース3cは、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cから入力されるアナログ信号を演算処理装置3aで読み取り可能なデジタル信号へ変換する。表示装置3eは、演算処理装置3aが処理したデータ等を表示する画面を備えており、たとえば、液晶ディスプレイ等である。補助記憶装置3fは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体と記憶媒体のドライブ装置とで構成されており、記憶媒体は、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等である。また、処理装置3は、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが検知した荷重F、速度Vおよび変位Xの値や値をプロットしたグラフ、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを表示装置3eの画面上に表示して閲覧を可能とするとともに、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めるためのアプリケーションプログラムを記憶装置3bに記憶している。
【0034】
そして、本実施の形態では、特徴量である歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kと、相関係数Rとを求めるプログラムを処理装置3の演算処理装置3aが実行して実行することで、歪率εを求める歪率算出部3a1と、ばらつき度合Sdを求めるばらつき度合算出部3a2と、相関係数Rを求める相関係数算出部3a3と、検査装置Tの出力のオフセット量Oを求めるオフセット量算出部3a4と、検査装置Tの剛性を求める剛性算出部3a5とを実現している。また、処理装置3の演算処理装置3aは、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断するプログラムを実行して、判断部3a6を実現している。処理装置3は、異常検知対象である検査装置Tについて、検査装置Tの荷重F、速度Vおよび変位Xに係る歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求め、求めた歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kから検査装置Tが異常か否かを判断する。
【0035】
以下、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの算出について詳しく説明する。なお、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数Rおよびオフセット量Oは、正常な検査装置Tの過去の複数の出力における荷重、速度および変位についてそれぞれ求められるとともに、今回、異常を検知するために検査装置Tに入力を与えてセンサ2で検知された出力における荷重F、速度Vおよび変位Xについてもそれぞれ求められる。
【0036】
正常な検査装置Tの過去の出力のデータは、過去に得られた正常な検査装置Tの出力のデータである。異常検知システム1では、これから異常を検知しようとする検査装置Tへ異常検知に利用される入力を与えて検知される今回の検査装置Tの出力のデータの他、同じ検査装置Tの正常な過去の出力のデータも利用する必要があるため、過去の出力のデータを記憶装置3b或いは補助記憶装置3fに記憶させてある。また、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを算出するために、異常検知のために検査装置Tに与える入力と同じ入力を、過去に同じ検査装置Tに与えた際に得られた出力が必要となる。コントローラCが異常検知のために検査装置Tに与える入力は、検査装置Tの荷重、速度および変位を正弦波で増減させる指令となっており、一回の入力によって検査装置Tの出力が複数周期分の単位波を含む波形で増減する。正常な検査装置Tに前記入力を与えた際にセンサ2で検知された正常な過去の出力は、予め異常検知のために多数用意されており、これら多数の出力毎に歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kが一つずつ求められる。なお、異常検知のために検査装置Tに入力を与えて、今回の前記入力に対して検査装置Tが正常であると判断される場合、今回の検査装置Tの出力を次回の検査装置Tの異常判断において過去の正常な出力として取り扱って、過去の出力のデータを蓄積するようにしてもよい。
【0037】
なお、荷重F、速度Vおよび変位Xの歪率εの算出過程は同一であり、荷重F、速度Vおよび変位Xのばらつき度合Sdの算出過程は同一であり、荷重F、速度Vおよび変位Xの相関係数Rの算出過程も同一である。また、荷重F、速度Vおよび変位Xのオフセット量Oの算出過程も同一である。よって、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数Rおよびオフセット量Oの算出の説明では、荷重Fについての歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数Rおよびオフセット量Oの算出について説明をし、速度Vおよび変位Xについての歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数Rおよびオフセット量Oの算出については詳しい説明を省略する。
【0038】
さらに、検査装置Tの過去の出力についての歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの算出過程と、異常検知対象の検知装置Tの今回の出力についての歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの算出過程とは同一である。このように、歪率算出部3a1は、歪率εを検査装置Tの過去の複数の出力からそれぞれ求めるとともに、異常検知を実行する際に今回の検査装置Tの出力からも同様に求める。ばらつき度合算出部3a2は、ばらつき度合Sdを検査装置Tの過去の複数の出力からそれぞれ求めるとともに、異常検知を実行する際に今回の検査装置Tの出力からも同様に求める。オフセット量算出部3a4は、オフセット量Oを検査装置Tの過去の複数の出力からそれぞれ求めるとともに、異常検知を実行する際に今回の検査装置Tの出力からも同様に求める。剛性算出部3a5は、剛性Kを検査装置Tの過去の複数の出力からそれぞれ求めるとともに、異常検知を実行する際に今回の検査装置Tの出力からも同様に求める。なお、相関係数算出部3a3は、検査装置Tの過去の複数の出力から正常波形を求めて、この正常波形と異常検知を実行する際に今回の検査装置Tの出力の波形との相関係数Rを求める。また、剛性算出部3a5は、検査装置Tの過去の複数の荷重Fと変位Xから複数の剛性Kを求める。、歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを異常検知の度に求めるのではなく、予め演算しておきデータとして処理装置3の記憶装置3b或いは補助記憶装置3fに記憶させておき、異常検知の際に利用できるようにしておけばよい。
【0039】
まず、歪率算出部3a1について詳細に説明する。
図3に示すように、実線で示した理想波形Waに対して、電流指令Iを検査装置Tに与えた場合において、検査装置Tの実際の出力である荷重Fが描く荷重波形Wb(図中破線)とでは差が生じる。このことは、速度Vが描く速度波形および変位Xが描く変位波形でも同様であり、速度が描く速度波形と理想波形とで差が生じるとともに、変位波形と理想波形とで差が生じる。荷重波形Wbは、縦軸に荷重、横軸に時間をとって、所定のサンプリング周期で検知された荷重Fの値を時系列にプロットして得られる波形であり、理想波形Waは、縦軸に荷重、横軸に時間をとり、電流指令Iが制御周期毎に指示する検査装置Tの出力である荷重Fの値を時系列にプロットして得られる波形であり、理想波形Waの任意の値に対応して荷重波形Wbの値が存在する。
図3のグラフから理解できるように、コントローラCが所定周期の正弦波で出力を増減させる電流指令Iを検査装置Tに入力した場合、電流指令Iが指示する検査装置Tの理想出力である理想荷重と、電流指令Iの入力に応じて検査装置Tが実際に出力する荷重Fとでは差が生じる。
【0040】
そこで、歪率算出部3a1は、理想荷重と荷重Fの差に基づいて歪率εを求める。歪率εは、荷重波形Wbが理想波形Waに対してどの程度歪んでいるかを把握するための尺度となる値である。歪率算出部3a1は、過去に得られた正常な検査装置Tの荷重Fに係る歪率εの演算にあたり、過去に得られた正常な検査装置Tの荷重Fのデータ群でなる荷重波形Wbを用い、また、異常検知の際に新たに得られた検査装置Tの今回の荷重Fに係る歪率εの演算にあたっては、今回の検査装置Tの荷重Fのデータ群でなる荷重波形Wbを用いる。歪率εが大きくなればなるほど電流指令Iが指示する荷重に対して検査装置Tの動的な挙動が乱れて荷重Fが大きく変動することを示し、歪率εは、検査装置Tの動特性を評価する一つの指標である。よって、歪率εを異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検査装置Tにおける動特性の観点から異常を検知できる。
【0041】
理想荷重は、電流指令Iが指示する荷重であるから、処理装置3は、予めコントローラCが検査装置Tへ与える電流指令Iが指示する荷重のデータ群でなる理想波形Waを記憶しておき、歪率算出部3a1でこれを利用してもよいし、検査装置Tの異常検知を行う度にコントローラCから電流指令Iを受け取って、歪率算出部3a1で電流指令Iを理想波形Waに変換して利用してもよい。また、ロードセル2aが検知した検査装置Tの荷重Fは、所定のサンプリング周期で取得されて処理装置3に入力されるので、荷重Fのデータ群でなる荷重波形Wbはロードセル2aから得られ、歪率算出部3a1、ばらつき度合算出部3a2、相関係数算出部3a3、オフセット量算出部3a4および剛性算出部3a5で利用される。速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが検知する速度Vおよび変位Xも荷重Fと同様に、歪率算出部3a1、ばらつき度合算出部3a2、相関係数算出部3a3、オフセット量算出部3a4および剛性算出部3a5で利用され、速度Vおよび変位Xに係る歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kがそれぞれ求められる。
【0042】
本実施の形態では、歪率算出部3a1は、
図5に示すように、理想波形Waをフーリエ変換して理想波形Waのパワースペクトル密度Pa(
図5中実線)を求めるとともに、検査装置Tの荷重を所定周期の正弦波で変化させる電流指令Iを与えた際に検知された荷重波形Wbをフーリエ変換して荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pb(
図5中破線)を求める。理想波形Waのパワースペクトル密度Paは、電流指令Iが所定周期の正弦波の荷重を指示するものであるから、
図5に示すように、所定周期の逆数の周波数(所定周波数)f1においてピークが立つ波形となる。これに対して、荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbは、
図5に示すように、検査装置Tにおけるアクチュエータ13におけるサーボ弁13cの構造に起因するオーバーラップ特性、アンダーラップ特性或いはブリッジ特性といった特性に起因する振動やノイズに起因する振動が荷重波形Wbに重畳するために、所定周波数より高周波側にこれら振動の成分が現れる。
【0043】
歪率算出部3a1は、
図6に示したように、このようにして求めた荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbを周波数軸上で積分して求めたパワースペクトル密度Pbの積分値から理想波形Waのパワースペクトル密度Paを周波数軸上で積分して求めたパワースペクトル密度Paの積分値を差し引きして、両者の差である歪成分Pab(
図6中の斜線部分の面積)を求める。
【0044】
そして、歪率算出部3a1は、荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbを周波数軸上で積分して求めた
図6中の斜線部分の面積である積分値Zbで歪成分Pabを割った値を歪率εとして求める。つまり、歪率算出部3a1は、歪率εをε=Pab/Zbを演算して求める。このように歪率εは、理想荷重(理想出力)のパワースペクトル密度Paの積分値と荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値Zbの差である歪成分Pabを求め、歪成分Pabを荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値Zbで割って求められる。
【0045】
歪率算出部3a1は、荷重を所定周期の正弦波で変化させた際の検査装置Tの荷重Fが理想荷重から逸脱する振動成分を全周波数に亘って含む歪成分Pabを利用して歪率εを求める。よって、歪率εから理想荷重に対して全体的に検査装置Tの荷重Fがどの程度ずれを生じているかを客観的に判断でき、歪率εから検査装置Tの実際の挙動を把握できる。
【0046】
なお、検査装置Tの荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbから零交叉法、自己相関法、ピリオドヒストグラム等を用いて基底周波数を推定して、パワースペクトル密度Pbから理想波形Waのパワースペクトル密度Paを推定してもよいが、このようにすると、
図7に示すように、
図7中実線で示す推定されたパワースペクトル密度Pbの基底周波数と、
図7中破線で示す荷重波形Wbがピークとなる周波数とに誤差λが生じて、歪成分Pabの値が大きくなってしまう。荷重波形Wbには、ノイズやオフセット成分が重畳しているため、基底周波数を推定すると、どうしても理想波形Waの周波数とずれてしまうので、このような現象が生じてしまう。これに対して、本実施の形態の処理装置3における歪率算出部3a1は、電流指令Iが指示する荷重の波形を理想波形Waとしてパワースペクトル密度Paを求めて、理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値を荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値から差し引きして歪成分Pabを求めている。このようにすると、理想波形Waから求めたパワースペクトル密度Paがピークを迎える周波数と、荷重波形Wbから求めたパワースペクトル密度Pbがピークを迎える周波数とを精度良く一致させることができ、歪成分Pabが実際よりも過大となってしまうのを防止できる。
【0047】
なお、歪率算出部3a1は、荷重Fの荷重波形Wbが低周波ノイズによってオフセットしている場合、荷重波形Wbからオフセット成分を取り除いてから、パワースペクトル密度Pbを算出している。具体的には、歪率算出部3a1は、荷重波形Wbの
図8中で上下にずらして、荷重波形Wbの正側の積分値と負側の積分値とが等しくなるオフセット成分を探す。つまり、
図8中でオフセット量を示す破線を横軸とすると、荷重波形Wbの正側の積分値と負側の積分値とが一致する。このようにして、歪率算出部3a1は、オフセット成分を求め、荷重波形Wbの値からオフセット成分を差し引いて、新たな波形を得てからパワースペクトル密度Pbを求める。
図8に示すように、たとえば、荷重波形Wbが低周波のオフセット成分の重畳によってオフセットされているような場合、荷重波形Wbからオフセット成分を取り除かずにパワースペクトル密度Pbを求めると、
図9に示すように、求めたパワースペクトル密度Pbに低周波ノイズが現れてしまい、そのまま、歪成分Pabを求めると歪成分Pabの値が実際よりも大きくなって、歪率εが大きくなってしまう。これに対して、歪率算出部3a1が荷重Fの荷重波形Wbが低周波ノイズによってオフセットしている場合、荷重波形Wbからオフセット成分を取り除いてから、パワースペクトル密度Pbを算出するので、パワースペクトル密度Pbから低周波ノイズを除去でき、正確な歪率εを求めることができる。このように歪率算出部3a1が荷重波形Wbを処理するので、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1では、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度良く求め得る。
【0048】
なお、オフセット成分を除去するには、前述の処理するほかにも、たとえば、荷重波形Wbの一周期毎に最大値と最小値の中央値を求め、これら中央値の平均値をドリフト成分と看做して荷重波形Wbから当該中央値の平均値を差し引いてもよいし、荷重Fの値の平均値をオフセット成分として荷重波形Wbから差し引いてもよい。
【0049】
また、
図10に示すように、ロードセル2aで観測された荷重波形Wbの初期値と最終値が異なる場合、そのまま荷重波形Wbをフーリエ変換すると
図11に示すように、パワースペクトル密度Pbに高周波ノイズが現れて歪成分Pabが実際よりも大きくなって歪率εが大きくなってしまう。そこで、本実施の形態の歪率算出部3a1は、観測された荷重波形Wbの初期値と最終値とが同じ値でない場合、
図10に示すように、荷重波形Wb中で初期値W1と同値となるとともに初期値W1から所定周期の整数倍の地点の近傍の点W2で荷重波形Wbの終端側を切り落とす処理を行ってから荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbを求める。前記地点は、初期値W1である1番目のデータから単位波形中に含まれるデータ数の整数倍の値を加算した番号の点とすればよく、この地点の前後で一番近い点をF2とすればよい。検査装置Tへ与える電流指令Iは、荷重を所定周期の正弦波で変化させるものであるため、荷重波形Wbの点W2以降を切り落とすと、初期値W1から初期値W1と同じ値の点W2までに丁度所定周期の整数倍の波が存在する波形を抽出でき、このようにして抽出した荷重波形Wbの初期値W1と点W2における値が同じ値となる。なお、初期値W1と同じ値の点は、荷重波形Wb中でいくつか存在するが、前述した条件を満たす点のうち荷重波形Wbの最終に出現した点をF2に選べば、荷重波形Wbに含まれる波形数が多くなるので好ましい。また、初期値W1と完全に一致する値がない場合には、初期値W1の端数処理を行って得た値と同様の端数処理によって同じ値となる点をF2としたり、初期値W1の有効数字と一致する値の点をF2としたりして、これを初期値W1と同じ値の点として取り扱ってよい。このような処理を行っても初期値W1と同じ値の点W2を見いだせない場合、荷重波形Wbの最終のデータから遡って初期値W1から所定の閾値内に入る値のうち初期値W1に一番近い値を持つ点をF2に選べばよい。
【0050】
このようにして、歪率算出部3a1が荷重波形Wbを処理した後に荷重波形Wbをフーリエ変換してパワースペクトル密度Pbを求めると、得られるパワースペクトル密度Pbから前述した高周波ノイズを除去できる。このように歪率算出部3a1が荷重波形Wbを処理するので、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1では、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度良く求め得る。
【0051】
なお、歪率εを求めるに際して、たとえば、理想波形Waの最大値と荷重波形Wbの最大値との差を荷重波形Wbの最大値で割って求めたり、理想波形Waと荷重波形Wbのすべての値について、理想波形Waの値とこの値に対応する荷重波形Wbの値の差を求めて積分して得た差の平均値を荷重波形Wbの最大振幅で割って求めたりしてもよい。これに対して、前述のように理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値と荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値とを差し引きして歪成分Pabを求めて、歪成分Pabを荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値で割って歪率εを求めると、最大荷重に対する理想波形Waと荷重波形Wbの歪だけでなく、全周波数領域の両者の差を加味した歪率εが得られるので、検査装置Tの実際の動的な挙動をより正確に把握できる。
【0052】
歪率算出部3a1は、ロードセル2aで検知した荷重Fから得られる荷重波形Wbと電流指令Iが指示する理想出力である理想荷重の波形である理想波形Waを処理して、検査装置Tの過去の複数の出力と今回の出力とのそれぞれについて荷重に係る歪率εを求める。同様に、歪率算出部3a1は、速度センサ2bで検知した速度Vから得られる速度波形と電流指令Iが指示する理想出力である理想速度の波形である理想波形を前述した荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、検査装置Tの過去の複数の出力と今回の出力とのそれぞれについて速度に係る歪率εを求める。さらに、歪率算出部3a1は、ストロークセンサ2cで検知した変位Xから得られる変位波形と電流指令Iが指示する理想出力である理想変位の波形である理想波形を前述した荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、検査装置Tの過去の複数の出力と今回の出力とのそれぞれについて変位に係る歪率εを求める。したがって、歪率算出部3a1は、正常な検査装置Tの過去の複数のデータから歪率εを求めるとともに、今回の検査装置Tの出力からも歪率εを求める。
【0053】
つづいて、ばらつき度合算出部3a2について詳細に説明する。コントローラCから荷重を所定周期の正弦波で変化させる電流指令Iを繰り返して検査装置Tへ与えると、サーボ弁13cの構造に起因するオーバーラップ特性、アンダーラップ特性或いはブリッジ特性といった特性に起因して荷重波形Wbにランダムにスパイク波形や振動が重畳して波形が乱れる場合がある。そして、このような波形の乱れは、荷重波形Wb中に含まれる一周期分の波形(単位波形)間で異なる箇所に現れて、各単位波形中で特定箇所に現れない場合がある。また、検査装置Tの荷重の乱れは、最大荷重で生じるとは限らないので、最大荷重のばらつきのみに着目しても検査装置Tの動特性を把握できない。
【0054】
そこで、検査装置Tのばらつき度合Sdを算出するのに充分な回数の電流指令Iを繰り返し与えて、順次、ロードセル2aで荷重Fを検知して、ばらつき度合算出部3a2は、検知した荷重Fの値のばらつき度合Sdを求める。ばらつき度合算出部3a2は、過去に得られた正常な検査装置Tの荷重Fに係るばらつき度合Sdの演算にあたり、過去に得られた正常な検査装置Tの荷重Fを用い、また、異常検知の際に新たに得られた検査装置Tの今回の荷重Fに係るばらつき度合Sdの演算にあたっては、今回の検査装置Tの荷重Fを用いる。
【0055】
ばらつき度合Sdは、検査装置Tが出力としての荷重を繰り返し増減する際に、検査装置Tの荷重が繰り返して電流指令Iが指示する荷重通りとなっているかを把握するための尺度となる値である。つまり、ばらつき度合Sdは、検査装置Tが荷重変動を繰り返した場合における繰り返して荷重を電流指令I通りに出力できるかという繰り返し精度の視点から検査装置Tの動特性を評価する指標であって、値が大きくなると検査装置Tの挙動が乱れて繰り返し精度が悪化することを示す。よって、ばらつき度合Sdを異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検査装置Tにおける繰り返し精度の観点から異常を検知できる。
【0056】
ばらつき度合Sdを求めるために、ばらつき度合算出部3a2は、具体的には、検査装置Tの荷重波形Wbの単位波形毎に同じ位相の値を抽出して同位相の値の分散を得る。荷重波形Wbは、縦軸に荷重、横軸に時間をとって、所定のサンプリング周期で処理装置3に取り込まれた荷重Fの値を時系列にプロットして得られる波形であるので、単位波形に含まれる値の数だけ分散が求められる。たとえば、所定周期が1秒であって、電流指令Iを100回検査装置Tに与えた場合であって、サンプリング周期が0.01秒である場合、荷重波形Wbの単位波形に含まれるデータ数は100個となり、荷重波形Wbに含まれる単位波形は100個となる。
【0057】
ばらつき度合算出部3a2は、
図12に示すように、100個の単位波形のうち、同じ位相の値を抽出して100個の各単位波形中の同位相の値を得て、これら100個の値の分散σ
2を求める。荷重波形Wbの100個の単位波形中のn番目(n=1,2,3・・100)のデータの値をF
nとすると、ばらつき度合算出部3a2は、単位波形中のN番目の分散σ
N
2を求める場合、全ての単位波形中のN番目のデータを抽出して、抽出した100個の値から平均値を求め、各データの値から平均値を引いた値の二乗値を総和して分散σ
N
2を求める。ばらつき度合算出部3a2は、荷重波形Wbに含まれる全データについて、分散σ
n
2を求めて合計100個の分散σ
n
2(n=1,2,3・・100)を求める。
【0058】
分散σn
2は、荷重波形Wb中の各単位波形における同位相同士の値の分散となっている。そして、ばらつき度合算出部3a2は、分散σn
2の平均値を求めて3倍した値をばらつき度合Sdとして求める。つまり、ばらつき度合算出部3a2は、ばらつき度合SdをD=(3/100)×(σ1
2+σ2
2+σ3
2+・・・+σ100
2)を演算して求める。
【0059】
これを一般化して、荷重波形Wbに含まれる単位波形がM個であって、一周期分の波形中のデータ数がN個である場合、m番目の単位波形中のn番目のデータの値をFmnと表現する。まず、ばらつき度合算出部3a2は、単位波形中のN番目のデータについての分散を得る場合、M個の単位波形からN番目のデータのみを抜き出し、n番目のデータの平均値μnを求め、以下の式(1)を演算して分散σN
2を得る。ばらつき度合算出部3a2は、順次、各単位波形中に含まれるN個のデータについて式(1)を演算して、合計N個の分散σn
2(n=1,2,3・・・N)を求める。
【0060】
【0061】
つづいて、ばらつき度合算出部3a2は、以下の式(2)の通り、N個の分散の平均値を3倍して、ばらつき度合Sdを求める。
【0062】
【0063】
ここで、ばらつき度合算出部3a2が求める分散、分散を求めるために算出する平均値は、荷重波形Wb中のデータから求めたものであり、検査装置Tを実際に長期間に亘って使用した際に得られるデータを母集団とするならば、荷重波形Wb中のデータは標本としてみなせる。母集団が正規分布に従うとして仮定すると、標本の数が十分に多ければ、前述のようにして求めた分散σn
2は、母集団の分散と看做せる。なお、前述した分散σn
2ではなく、不偏分散を求めて、この不偏分散を母集団の分散として取り扱ってもよい。したがって、ばらつき度合算出部3a2は、以下の式(3)を演算して不偏分散Sn
2を求めて、分散σn
2の代わりに不偏分散Sn
2を式(2)に代入してばらつき度合Sdを求めてもよい。
【0064】
【0065】
母集団が正規分布に従う場合、母集団の標準偏差をσnとし、母集団の平均値をμnとすると、母集団のデータが確率99.73%でμ±3σnの範囲に存在する。ばらつき度合Sdは、N個の分散σn
2の総和の平均値を3倍して得た値であり、しかも、検査装置Tが繰り返し荷重を増減させた際に、荷重の増減が繰り返される中で最大荷重のみではなく単位波形全体におけるばらつきが勘案された値となっている。このように、ばらつき度合Sdは、検査装置Tが実際に長期間に亘って使用される場合において動的な荷重変動の大きさを示しており、ばらつき度合Sdから検査装置Tの繰り返し精度における荷重変動の大きさを把握できる。なお、母集団がカイ二乗分布等ほかの確率分布に従うと仮定する場合には、従うと仮定される確率分布における分散を求めてばらつき度合Sdを求めればよい。
【0066】
また、分散σn
2の代わりに、標準偏差σnを求めて、3σnの総和の平均値をばらつき度合Sdとしてもよい。標準偏差σnは、分散σn
2と同様に荷重のばらつきを示す尺度であるから分散σn
2を利用して得られるばらつき度合Sdと同様に検査装置Tの動的な荷重変動の大きさを把握できる。ただし、分散σn
2の方が標準偏差σnよりもピーキーであるので、分散σn
2を利用してばらつき度合Sdを求めた方が、検査装置Tの荷重にばらつきがある場合にばらつき度合Sdの値に顕著に現れるので、より検査装置Tの繰り返し精度を把握しやすくなる。
【0067】
ばらつき度合算出部3a2は、ロードセル2aで検知した荷重Fから得られる荷重波形Wbを処理して、検査装置Tの過去の複数の出力と今回の出力とのそれぞれについて荷重に係るばらつき度合Sdを求める。同様に、ばらつき度合算出部3a2は、速度センサ2bで検知した速度Vから得られる速度波形を前述した荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、検査装置Tの過去の複数の出力と今回の出力とのそれぞれについて速度Vに係るばらつき度合Sdを求める。さらに、ばらつき度合算出部3a2は、ストロークセンサ2cで検知した変位Xから得られる変位波形を前述した荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、検査装置Tの過去の複数の出力と今回の出力とのそれぞれについて変位Xに係るばらつき度合Sdを求める。したがって、ばらつき度合算出部3a2は、正常な検査装置Tの過去の複数のデータからばらつき度合Sdを求めるとともに、今回の検査装置Tの出力からもばらつき度合Sdを求める。
【0068】
つづいて、相関係数算出部3a3について詳細に説明する。検査装置Tの長年の使用による経年劣化や異常により特性が変化すると、同じ入力で同じダンパDに出力を与えても、正常な検査装置TがダンパDに与える荷重と異常な検査装置TがダンパDに与える荷重Fとに差が生じる。このことは、同一のダンパDに検査装置Tの出力として速度V或いは変位Xを与えても同様であり、正常な検査装置Tと異常な検査装置TとではダンパDに与える速度V或いは変位Xに差が生じる。過去の正常な検査装置Tの出力に対する異常検知を実行する際の今回の検査装置Tの出力の差が大きいと、検査装置TがダンパDに正常に出力を与えられない状況となっており、ダンパDに狙い通りの荷重F、速度V或いは変位Xを与えられない。他方、過去の正常な検査装置Tの出力と、今回の検査装置Tの出力とに一定の相関が認められれば、検査装置Tは入力が指示する通りの出力をダンパDに与えられるといってよい。
【0069】
相関係数算出部3a3は、正常な検査装置Tの過去の出力の平均値と、異常検知を行うためにダンパDを加振して得られた検査装置Tの今回の出力としての荷重Fの相関係数Rを求める。相関係数Rは、正常な検査装置Tの過去の出力の平均値と今回の検査装置Tの出力としての荷重F同士が互いに相関しているかを示す尺度となる値であり、値が1に近づくほど現在の検査装置Tの荷重Fと過去の正常な検査装置Tの荷重Fとの相関が高いことを示す。よって、異常検知のため相関係数Rを求めれば、波形一致度の観点から検査装置Tの異常を検知できる。
【0070】
相関係数算出部3a3は、正常と判断された検査装置Tが電流指令Iの入力によってダンパDに検査装置Tが与える荷重を増減した際に検知される荷重Fの荷重波形Wbの過去の複数のデータから平均値を求める。具体的には、正常と判断された検査装置Tの過去の複数の荷重波形Wb中の荷重Fの平均値をそれぞれ演算して求めて、過去の荷重Fの平均値でなる平均波形を得る。荷重Fは、所定のサンプリング周期で検知されるので、複数の過去の荷重波形Wbの位相と荷重波形Wb中に含まれる単位波形の数が同じになるように各波形を切り出して、複数の波形中の同じ順番の値の平均値を求める。たとえば、正常な検査装置Tの3つの過去の荷重波形Wb1,Wb2,Wb3中の荷重Fの平均値をとって平均波形を求めると、
図13に示す平均波形WBが得られる。そして、過去の正常な検査装置Tの複数の荷重Fの平均値でなる平均波形WBは、正常な検査装置Tの出力が取りうる正常値の平均値で構成されていることになる。よって、この平均波形WBと今回の検査装置Tの荷重Fでなる荷重波形Wbとの相関が高ければ、今回の検査装置Tが正常であると推定できる。
【0071】
以上から、平均波形WBの荷重Fと今回の検査装置Tの荷重Fの相関係数Rを求めればよい。ここで、平均波形WBと今回の検査装置Tで検知された荷重Fの荷重波形Wbの位相がずれてしまうと、両者の波形が位相を除き一致している場合でも、相関係数Rの値が小さくなってしまい相関が弱くなってしまう。
【0072】
そこで、本実施の形態では、相関係数算出部3a3は、前述の平均波形WB中の荷重Fの度数分布と、電流指令Iの入力によってダンパDに検査装置Tが与える荷重を増減した際に検知される今回の荷重波形Wb中の荷重Fの度数分布との相関係数Rを求める。この相関係数Rの算出に当たり、コントローラCは、電流指令Iを繰り返し検査装置Tに与えて、十分な数の単位波形が含む荷重波形Wbを得る。
【0073】
縦軸に荷重、横軸に時間をとって、荷重に対して所定の幅の区間を定めて、今回の検査装置Tの荷重波形Wbの荷重Fの各区間に属するデータ数をカウントして、度数分布を得る。相関係数算出部3a3は、たとえば、荷重に対して同一幅の20の区間を定め、
図14に示すように、20個の各区間中の荷重波形Wbのデータが属するデータ数をそれぞれカウントする。すると、
図15に示すように、検査装置T毎に、各区間における検査装置Tの荷重Fの出現頻度である度数分布が求められる。各区間の度数は、その区間の中央値を持つデータの数として取り扱われ、たとえば、
図15中の3番目の区間における中央値が75kNで、3番目の区間の度数が1250である場合、値75kNのデータが1250個あると取り扱われる。また、相関係数算出部3a3は、過去の正常な検査装置Tの平均波形WBの荷重Fについても、前述の荷重波形Wbでの処理と同様の処理を行って、同様の区間に属するデータ数をカウントして、過去の正常な検査装置Tの荷重Fの平均値の度数分布を得る。
【0074】
そして、相関係数算出部3a3は、過去の正常な検査装置Tの荷重Fの平均値の度数分布と今回の検査装置Tの荷重Fの度数分布との相関係数Rを求める。具体的には、過去の正常な検査装置Tの荷重Fの平均値の度数分布において、区分毎の度数個の中央値でなるデータの全区分の集合となるデータ群Pの標準偏差をσPとする。他方、今回の検査装置Tの荷重Fの度数分布において、区分毎の度数個の中央値でなるデータの全区分の集合となるデータ群Qの標準偏差をσQとし、データ群Pとデータ群Qの共分散をSPQとすると、相関係数算出部3a3は、相関係数RをR=SPQ/(σP×σQ)を演算して求める。なお、共分散を得るには、データ群Pとデータ群Qのデータ数が同じである必要があるが、予め、相関係数Rを求めるために使用するデータ数を決めておけばよい。
【0075】
前述した通り、平均波形WBの値と今回の検査装置Tの荷重Fの相関係数Rを求める場合、平均波形WBと今回の検査装置Tで検知された荷重Fの荷重波形Wbの位相がずれてしまうと、両者の波形が位相を除き一致している場合でも、相関係数Rの値が小さくなってしまい相関が弱くなってしまう。
【0076】
これに対して、荷重に区分を設定して、荷重Fの度数分布を求めると、度数分布には位相が反映されることはないが、過去の正常な検査装置Tの荷重Fの平均値でなる平均波形WBと今回に検査装置Tで検知される荷重Fの荷重波形Wbとが一致している場合、同じ度数分布が得られる。したがって、相関係数算出部3a3が前述のように相関係数Rを求めると、過去の正常な検査装置Tの荷重Fの平均値でなる平均波形WBと検査装置Tの荷重Fを検知して今回得られた荷重波形Wbとに位相ずれがあっても、平均波形WBと荷重波形Wbとが近似する形状となっている限り、相関係数Rの値が1に近い値を採ることになる。よって、相関係数算出部3a3が前述のように過去の正常な検査装置Tの荷重Fの平均値の度数分布と検査装置Tで今回検知される荷重Fの度数分布を求めて、度数分布同士の相関係数Rを求めれば、位相を無視して両者の正しい相関係数Rを求めることができる。
【0077】
また、相関係数算出部3a3は、ロードセル2aで検知した荷重Fを処理して、荷重に係る相関係数Rを求めるほか、速度センサ2bで検知した速度Vを前述した荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、速度に係る検査装置T間の相関係数Rを求める。さらに、相関係数算出部3a3は、ストロークセンサ2cで検知した変位Xを前述した荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、変位に係る検査装置T間の相関係数Rを求める。
【0078】
つづいて、オフセット量算出部3a4について詳細に説明する。コントローラCから荷重を所定周期の正弦波で変化させる電流指令Iを繰り返して検査装置Tへ与えて荷重Fをロードセル2aで検知すると、センサバイアスや検査装置Tの加振時の乱れやダンパDの非線形な減衰力の特性の影響によって、
図16に示すように、荷重波形Wbが全体的に正の荷重方向或いは負の荷重方向にオフセットされる場合がある。そして、出力波形である荷重波形Wbの横軸からのオフセット量Oが大きくなる場合、検査装置Tで検体としてのダンパDに正常な出力を負荷できなくなっているか、センサ2に異常があると考えられる。よって、処理装置3では、オフセット量Oを求めるためにオフセット量算出部3a4を備えている。
【0079】
本実施の形態では、オフセット量算出部3a4は、荷重Fの荷重波形Wbを
図16中で上下にずらして、荷重波形Wbの正側の積分値と負側の積分値とが等しくなるオフセット量Oを探す。つまり、
図16中でオフセット量Oを示す破線Lを横軸とすると、荷重波形Wbの正側の積分値と負側の積分値とが一致する。なお、オフセット量算出部3a4の処理は、歪率算出部3a1にて荷重波形Wbのオフセット成分を求める処理と同様の処理でオフセット量Oを求めるので、オフセット量算出部3a4で求めたオフセット量Oを歪率算出部3a1で利用すればよい。なお、、荷重波形Wbの一周期毎に最大値と最小値の中央値を求め、これら中央値の平均値をオフセット量Oとしてもよい。
【0080】
オフセット量算出部3a4は、過去の正常な検査装置Tの荷重Fを処理して過去の正常な検査装置Tの荷重波形Wbのオフセット量Oを求めるとともに、今回の検査装置Tの荷重Fを処理して今回の検査装置Tの荷重波形Wbのオフセット量Oを求める。同様に、オフセット量算出部3a4は、過去の正常な検査装置Tの速度Vを処理して過去の正常な検査装置Tの速度波形のオフセット量Oを求めるとともに、今回の検査装置Tの速度Vを処理して今回の検査装置Tの速度波形のオフセット量Oを求める。さらに、オフセット量算出部3a4は、過去の正常な検査装置Tの変位Xを処理して過去の正常な検査装置Tの変位波形のオフセット量Oを求めるとともに、今回の検査装置Tの変位Xを処理して今回の検査装置Tの変位波形のオフセット量Oを求める。
【0081】
オフセット量Oは、検査装置Tが出力の変化や偏りを把握するための尺度となる値である。つまり、オフセット量Oは、検査装置Tの出力の異常やセンサ2の異常を把握することができる指標であり、値が大きくなると検査装置Tの出力の偏りが大きく正常な出力を発揮できくなる。よって、オフセット量Oを異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検査装置Tにおける出力の異常やセンサ2の異常を検知できる。
【0082】
つづいて、剛性算出部3a5について詳細に説明する。アクチュエータ13を駆動して検体としてのダンパDに荷重を負荷する際に、検査装置Tの荷重Fと変位Xを検知し、ロードセル2aとストロークセンサ2cで同時に検知される荷重Fと変位Xとから検査装置Tの剛性Kを求めることができる。具体的には、コントローラCから荷重を所定周期の正弦波で変化させる電流指令Iを繰り返して検査装置Tへ与え、ダンパDに荷重Fを負荷すると、荷重を縦軸に採り変位を横軸に採って、同時に検知される荷重Fと変位Xをプロットすると、ダンパDがヒステリシスを持っているので、
図17に示すような荷重Fと変位Xの交点の軌跡が楕円を描くグラフが得られる。
【0083】
このグラフ中の荷重Fの最大値の点FMAXと最小値の点FMINとを結んだ直線Lの傾きを求めると、当該傾きは、荷重Fの最大値と最小値の差を点FMAXの横軸の変位と点FMINの横軸の変位の差で割った値となるので、検査装置Tの剛性Kに近似した値となる。そこで、剛性算出部3a5は、荷重Fの最大値と最大値との差ΔFと、荷重Fが最大値となった際の変位Xと荷重Fが最小値となった際の変位Xとの差ΔXを求め、剛性KをK=ΔF/ΔXを演算して求める。
【0084】
剛性算出部3a5は、過去の正常な検査装置Tの荷重Fと変位Xを処理して過去の正常な検査装置Tの剛性Kを求めるとともに、今回の検査装置Tの剛性Kを求める。
【0085】
剛性Kが変化する要因としては、検査装置Tの劣化、検査装置Tの部品に弛みやガタの発生、センサ2の取付異常や劣化といったことが考えられる。よって、剛性Kは、検査装置Tの部品の異常、劣化、センサ2の異常や劣化を把握する尺度となる指標である。よって、剛性Kを異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検査装置Tにおける部品の異常や劣化、センサ2の異常を検知できる。
【0086】
なお、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの算出にあたり、参照する出力としての荷重F、速度Vおよび変位Xのデータは、同一のデータであってよく、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量および剛性Kの算出のために荷重F、速度Vおよび変位Xの各データを別々に採取しなくともよい。よって、コントローラCから電流指令Iを繰り返し与えて得られた各検査装置Tの荷重F、速度Vおよび変位Xから歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを算出すればよい。
【0087】
つづいて、判断部3a6について詳細に説明する。歪率算出部3a1が歪率εを求め、ばらつき度合算出部3a2がばらつき度合Sdを求め、相関係数算出部3a3が相関係数Rを求め、オフセット量算出部3a4がオフセット量Oを求め、さらに、剛性算出部3a5が剛性Kを求めると、判断部3a6は、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを利用して検査装置Tの異常の有無を判断する。
【0088】
まず、歪率εを利用した検査装置Tの異常判断処理について説明する。正常な検査装置Tの過去の出力から得られた歪率をεGとし、異常検知のために入力を与えた際の検査装置Tの今回の出力から得られた歪率をεTとする。判断部3a6は、歪算出部3a1が求めた過去の正常な検査装置Tの複数の出力から得た複数の歪率εGの平均値εGAと標準偏差σεGを求める。そして、判断部3a6は、標準偏差σεGの3倍の値を閾値3σεGとして、平均値εGAから今回得られた歪率εTを差し引いた値Δεの絶対値|Δε|が閾値3σεG以下であると歪率εに関して検査装置Tを正常と判断し、平均値εGAから今回得られた歪率εTを差し引いた値Δεの絶対値|Δε|が閾値3σεGを超えると歪率εに関して検査装置Tを異常と判断する。ここで、歪率εGは、正常な検査装置Tの歪率のデータを母集団として、この母集団から抜き出した標本としてみなせる。母集団が正規分布に従うとして仮定すると、標本の数が十分に多ければ、前述のようにして求めた標準偏差σεGは、母集団の標準偏差と看做せる。
【0089】
母集団が正規分布に従う場合、母集団のデータが確率99.73%でεGA±3σεGの範囲に存在する。このように正常な検査装置Tの歪率εGは、ばらつきがあってもεGA±3σεGの範囲の中にある値となるので、検査装置Tが正常であれば、今回得られた歪率εTも同様に確率99.73%でεGA±3σεGの範囲の中にある値となると筈である。歪率εGは、元々正常な検査装置Tの出力から得られたものであり、ばらつきがあっても全てが正常値であるから、今回得られた歪率εTがεGA±3σεGの範囲内にあれば、今回の異常検知処理において検査装置Tは正常であると考えてよい。そこで、本実施の形態では、閾値を正の値3σεGに設定しており、判断部3a6は、平均値εGAから今回得られた歪率εTを差し引いた値Δεの絶対値|Δε|が閾値3σεGを超えるか否かどうかで歪率εについて検査装置Tが異常の有無を判断している。このようにすれば、異常検知システム1は、正確に検査装置Tの異常の有無を判断できる。歪率εは、荷重Fの他、速度Vおよび変位Xについて得られるので、判断部3a6は、速度Vおよび変位Xの歪率εについても前述と同様の処理を行って異常判断を行う。このように判断部3a6が歪率εを利用して異常判断処理を行うと、検査装置Tにおける動特性の観点から異常を検知できる。
【0090】
なお、判断部3a6は、複数の歪率εGの分散σεG
2を求めて閾値3σεG
2として、平均値εGAから今回得られた歪率εTを差し引いた値Δεの二乗値Δε2が閾値3σεG
2以下であると歪率εTに関して検査装置Tを正常と判断し、二乗値Δε2が閾値3σεG
2を超えると歪率εに関して検査装置Tを異常と判断してもよい。
【0091】
なお、異常判断に利用される閾値は、前述したところでは、過去の正常な検査装置Tの出力の歪率εGの標準偏差σεGの3倍の値に設定されているが、より異常判定を厳しくする場合には、閾値は、3σεGよりも小さな任意の値に設定されてもよい。たとえば、閾値を標準偏差σεGの2倍の値に設定すれば、検査装置Tが正常であれば、今回得られた歪率εTも確率95.45%でεGA±2σεGの範囲の中にある値となると筈であるから、このように閾値を設定してもよい。
【0092】
つづいて、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断処理について説明する。判断部3a6は、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断について、歪率εについての検査装置Tの異常判断と同様の処理を行う。つまり、判断部3a6は、過去の正常な検査装置Tの出力から得たばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの平均値と標準偏差とをそれぞれ求め、標準偏差の3倍の値を閾値として、検査装置Tの今回の出力から得られたばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kと、対応する平均値との差の絶対値が対応する閾値以下であれば検査装置Tを正常と判断し、前記絶対値が閾値を超えると検査装置Tを異常と判断する。
【0093】
つまり、以下のように処理する。ばらつき度合Sdに関して、正常な検査装置Tの過去の出力から得られたばらつき度合をSdG、ばらつき度合SdGの平均値と標準偏差をそれぞれSdGAとσSdGとし、検査装置Tの今回の出力から得られたばらつき度合をSdTとする。判断部3a6は、標準偏差σSdGの3倍の値を閾値3σSdGとして、平均値SdGAから今回得られたばらつき度合SdTを差し引いた値ΔSdの絶対値|ΔSd|が閾値3σSdG以下であるとばらつき度合Sdに関して検査装置Tを正常と判断し、平均値SdGAから今回得られたばらつき度合SdTを差し引いた値ΔSdの絶対値|ΔSd|が閾値3σSdGを超えるとばらつき度合Sdに関して検査装置Tを異常と判断する。このように判断部3a6がばらつき度合Sdを利用して異常判断処理を行うと、検査装置Tにおける繰り返し精度の観点から異常を検知できる。
【0094】
オフセット量Oに関して、正常な検査装置Tの過去の出力から得られたオフセット量をOG、オフセット量OGの平均値と標準偏差をそれぞれOGAとσOGとし、検査装置Tの今回の出力から得られたオフセット量をOTとする。判断部3a6は、標準偏差σOGの3倍の値を閾値3σOGとして、平均値OGAから今回得られたオフセット量OTを差し引いた値ΔOの絶対値|ΔO|が閾値3σOG以下であるとオフセット量Oに関して検査装置Tを正常と判断し、平均値OGAから今回得られたオフセット量OTを差し引いた値(差)ΔOの絶対値|ΔO|が閾値3σOGを超えるとオフセット量Oに関して検査装置Tを異常と判断する。このように判断部3a6がオフセット量Oを利用して異常判断処理を行うと、検査装置Tにおける出力の異常やセンサ2の異常を検知できる。
【0095】
剛性Kに関して、正常な検査装置Tの過去の出力から得られた剛性をKG、剛性KGの平均値と標準偏差をそれぞれKGAとσKGとし、検査装置Tの今回の出力から得られた剛性をKTとする。判断部3a6は、標準偏差σKGの3倍の値を閾値3σKGとして、平均値KGAから今回得られた剛性KTを差し引いた値(差)ΔKの絶対値|ΔK|が閾値3σKG以下であると剛性Kに関して検査装置Tを正常と判断し、平均値KGAから今回得られた剛性KTを差し引いた値ΔKの絶対値|ΔK|が閾値3σKGを超えると剛性Kに関して検査装置Tを異常と判断する。このように判断部3a6が剛性Kを利用して異常判断処理を行うと、検査装置Tにおける部品の異常や劣化、センサ2の異常を検知できる。
【0096】
ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kは、荷重Fの他、速度Vおよび変位Xについて得られるので、判断部3a6は、速度Vおよび変位Xのばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kについても前述と同様の処理を行って異常判断を行う。
【0097】
なお、判断部3a6は、歪率εを利用した異常判断処理と同様に、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断処理についても、閾値を分散の3倍の値として、二乗値ΔSd2,ΔO2,ΔK2が閾値を超えるか否かで検査装置Tの異常の有無を判断してよい。ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kにおける異常判断において利用される閾値は、歪率εにおける閾値の設定と同様、標準偏差の3倍の値よりも小さな値とされてもよい。また、歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断処理において、前記母集団がカイ二乗分布等ほかの確率分布に従うと仮定する場合には、従うと仮定される確率分布における標準偏差、分散を求めて閾値を決定すればよい。
【0098】
最後に、相関係数Rを利用した検査装置Tの異常判断処理について説明する。相関係数Rは、-1から1までの値と採るが、過去の正常な検査装置Tの出力の平均値でなる平均波形WBと今回の検査装置Tの出力波形との一致度が高ければ高いほど、1に近づく値を採る。相関係数Rが1を採る場合に平均波形WBと出力波形とが完全に一致し、相関係数Rが0を採る場合に平均波形WBと出力波形との間に相関性が認められず、相関係数Rが-1を採る場合に平均波形WBと出力波形とが全く逆に指向して両者が負の相関となる関係となる。平均波形WBと出力波形と間の乖離が大きくなると、検査装置Tに異常があって入力が指示する出力を発揮できていないと判断できる。
【0099】
そこで、判断部3a6は、相関係数Rと閾値αとを比較して、相関係数Rが閾値α以下である場合に検査装置Tを正常と判断し、相関係数Rが閾値αを超えると検査装置Tを異常と判断する。このように判断部3a6が相関係数Rを利用して異常判断処理を行うと、波形一致度の観点から検査装置Tの異常を検知できる。
【0100】
相関係数Rに設定される閾値αは、過去の正常な検査装置Tの出力の平均値と今回の検査装置Tの出力との相関が弱く、これ以上相関係数Rの値が小さくなると平均波形WBと今回の検査装置Tの出力波形との間の乖離によって検体であるダンパDの検査結果に影響を与える思われる程度の値に設定される。
【0101】
なお、相関係数Rは過去の検査装置Tの出力の平均値と新たに得られる検査装置Tの今回の出力との相関を求めるものであり、相関係数Rも検査装置Tの特性を示す指標である。本実施の形態では、相関係数Rは一つしか求められないので、判断部3a6では、前述したように、相関係数Rの値が正常値であるか否かの判断をして検査装置Tの異常の有無を検知するのであるが、相関係数Rを特徴量として取り扱いたい場合には、検査装置Tの過去の複数の出力毎に出力と理想波形Waとの相関係数Rを求めるとともに、今回の検査装置Tの出力と理想波形Waとの草加係数Rを求めて、これら相関係数Rを特徴量として、過去の出力に係る相関係数Rの平均値と、今回の出力に係る相関係数Rに係る相関係数Rとの差の絶対値が閾値以下であれば検査装置Tを正常と判断し、そうでなければ異常と判断してもよい。この場合、閾値は、過去の出力に係る相関係数Rの標準偏差或いは分散を利用して他の特徴量に対する閾値と同様に設定すればよい。
【0102】
このように、本実施の形態では、検査装置Tの異常検知にあたり、正常な検査装置Tの過去の複数の出力の平均値と標準偏差或いは分散を求めるので、前記過去の正常な出力のサンプル数が多いほど検査装置Tの異常検知の精度が向上する。相関係数Rの算出には、前記過去の出力の平均値が必要となるので、相関係数Rを利用した異常検知においても、前記過去の正常な出力のサンプル数が多いほど正確に検査装置Tの異常検知の精度が向上する。過去の正常な出力を得るには、予め必要となるサンプル数の回数の異常検知処理を正常な検査装置Tに行って、都度出力を検知して出力のサンプル数を確保すればよい。また、過去の出力のサンプル数が確保されていない場合でも、異常検知を行って正常と判断された際に採取される出力のデータを過去の正常な出力のデータとして蓄積していけば、異常検知の精度が向上していく。
【0103】
判断部3a6は、前述したように異常検知処理を行って、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの5つの指標を利用して検査装置Tの異常の有無の判断をそれぞれ独立して行い、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した判断でいずれか一つ異常が認められた場合、他の指標では正常と判断される場合であっても当該検査装置Tが異常であると判断する。
【0104】
そして、処理装置3は、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを表示装置3eに表示させるとともに、検査装置Tを異常と判断する場合、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kのうちいずれの指標が異常と判断されたかが処理装置3のオペレータが視認できる態様で表示装置3eに表示する。たとえば、歪率εが検査装置Tの異常を示している場合、処理装置3は、表示装置3e上の「歪率εが異常値である」といった表示やオペレータの注意を惹く色で歪率εを表示する等とすればよい。
【0105】
また、処理装置3は、オペレータの要求により、或いは、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの演算が終了したことをトリガとしてプリンタ3gから紙媒体に歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの値を印刷してもよい。その際に、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを得るためにロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが観測したデータ、これらデータをプロットしたグラフ、さらには、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの演算過程において求められる値についても印刷してもよい。また、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを得るためにロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが観測したデータ、これらデータをプロットしたグラフ、さらには、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの演算過程において求められる値は、表示装置3eに表示させてもよい。
【0106】
以上までの検査装置Tの異常検知システム1の異常判断処理を
図18に示したフローチャートに即して説明する。検査装置Tに検体であるダンパDを取り付け、ダンパDへ荷重、速度および変位を負荷すべくコントローラCから電流指令Iを繰り返し入力してアクチュエータ13を駆動し、検査装置Tの出力としての荷重、速度および変位を変化させ(ステップST1)、検査装置Tの出力である荷重F、速度Vおよび変位Xをそれぞれロードセル2a,速度センサ2bおよびストロークセンサ2cで検知する(ステップST2)し、処理装置3の演算処理装置3aへ入力する。
【0107】
処理装置3は、正常な検査装置Tの過去荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと同じ検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータから歪率εを求める(ステップST3)。また、処理装置3は、正常な検査装置Tの過去荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと同じ検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータからばらつき度合Sdを求める(ステップST4)。さらに、処理装置3は、正常な検査装置Tの過去荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと同じ検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータから相関係数Rを求める(ステップST5)。つづいて、処理装置3は、正常な検査装置Tの過去荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと同じ検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータからオフセット量Oを求める(ステップST6)。また、処理装置3は、正常な検査装置Tの過去荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと同じ検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータから剛性Kを求める(ステップST7)。なお、処理装置3は、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求める順番は任意に変更できる。
【0108】
歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求めた後、処理装置3は、得られた歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kに基づいて前述の通り検査装置Tの異常の有無を判断する処理を行う(ステップFT8)。
【0109】
処理装置3は、ステップST8の処理を行った後、求めた歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを表示装置3eの画面に表示させる(ステップST9)。その際、処理装置3は、検査装置Tを異常と判断する場合、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kのうち異常と判断される値を特定する情報を表示装置3eに表示する。
【0110】
検査装置Tの異常検知システム1は、以上のように動作して、検査装置Tの異常を検知するため、指標として歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求めて、検査装置Tに異常があるか否かを判断し、表示装置3eにこれらの指標と、これら指標のうち異常があれば異常となっている指標を特定する情報を表示し、或いは、プリンタ3gで紙媒体に印刷してオペレータによるこれらの指標等を視認できるようにする。
【0111】
なお、前述した実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位としているが、荷重、速度、変位のうちいずれか一つ或いは二つを出力として取り扱って歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oを求めてもよい。本実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位の複数のパラメータとしているので、検査装置Tの異常の有無をより正確に判断できる。また、本実施の形態では、検査装置Tが振動検査装置であるので、出力に加速度を加えてもよい。
【0112】
さらに、前述した実施の形態では、基準となるダンパDを検体として検査した際の同一の入力による検査装置Tの出力から歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求めているが、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数Rおよびオフセット量Oについては、検体を検査装置Tに取付せずに検体無しの無負荷にて同一の入力を検査装置Tに与えた際の検査装置Tの出力から求めてもよい。この場合、検査装置Tに検体が取り付けられていないので荷重については検知できないが、アクチュエータ13が伸縮するので、速度と変位は検知できるから、速度と変位を検査装置Tの出力とすればよい。また、本実施の形態の検査装置Tであれば、異常検知に利用される基準となる検体は、ダンパDの他、弾性体等とされてもよい。
【0113】
検査装置Tの異常検知システム1は、前述のようにして検査装置Tの異常の有無を判断するが、正常と判断された検査装置Tによって検査された検体の異常の有無を判断することができる。
【0114】
検査装置Tは、検体を検査するために供されるものであり、一つの検体についての検査が終了すれば、次の検体の検査を行うというように、多数の検体を検査する。検査装置Tが正常であれば、検査条件が指定する条件通りに出力して、検体に負荷を作用させ得る。検査装置Tによる検体の検査結果は、検体の合否を判定する検査オペレータに供される。たとえば、検体がダンパである場合、ダンパの荷重と速度とから求められる減衰係数や最大荷重の値によって合否判定される場合があり、まれに、これらの数値が正常値であってもダンパの動特性に乱れがあって内部に異常がある製品が存在しないとも限らない。
【0115】
そこで、本実施の形態の異常検知システム1は、検体の異常の有無の判断を行えるように、正常と判断された検査装置Tによって行われる検体の検査時の出力について検査装置Tの異常検知処理と同様の処理を行って検体の異常を判断する検体異常判断処理を実行する。なお、本実施の形態では、検体をダンパとしおり、異常検知システム1は、ダンパの異常を判断する。
【0116】
具体的には、異常検知システム1は、検査装置Tの異常検知と同様に、異常検知処理と同様の入力を検査装置Tに与えて検体の検査中の検査装置Tの出力を荷重F、速度Vおよび変位Xとして、これらをセンサ2で検知し、検査中に得た出力から歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを特徴量として求めるとともに、相関係数Rを求める。また、異常検知システム1は、新たに検査した検体と同じ製品であって正常な検体を検査した際の過去の検査装置Tの複数の出力から歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを特徴量として求めるとともに、相関係数Rを求める。本実施の形態では、センサ2で検知する検査装置Tの出力が荷重F、速度Vおよび変位Xであり、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kについても荷重F、速度Vおよび変位Xについてそれぞれ求められる。
【0117】
よって、処理装置3における歪率算出部3a1、ばらつき度合算出部3a2、相関度合算出部3a3、オフセット量算出部3a4および剛性算出部3a5がそれぞれ前述した処理を行って、同じ製品の検体の過去と今回の検査装置Tの出力から歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求める。同じ製品を検体とした場合、過去に同じ製品の検体を検査して検体が正常であると判断された検査において得られた複数の出力について平均値と標準偏差を求め、今回の検体の検査によって得られた出力と前記平均値との差の絶対値が標準偏差の3倍の値以下であれば、その検体に異常が認められず合格製品であると判断できる。つまり、検体の異常判断処理では、過去の検査装置Tの出力と検査装置Tの今回の検体の検査で得られた出力とが同じ製品の検体について検査した際に得られたデータが利用され、さらに、過去の検査装置Tの出力については検体が正常判定されたデータのみが利用される。
【0118】
また、検査においてコントローラCが検査装置Tに与える入力は、検査装置Tの荷重F、速度Vおよび変位Xを増減させる指令となっていれば、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求めることができる。そのため、検査装置Tの異常検知と同様の入力を与える必要はなく、検査対象である検体の検査に利用される入力を与えて、その際に検査装置Tが発揮する出力から前述の特徴量と相関係数Rとを求めればよい。
【0119】
過去の検査装置Tの出力は、予め検体異常判断のために多数用意されており、これら多数の出力毎に歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kが一つずつ求められる。なお、検体異常判断のために検査装置Tに入力を与えて、今回検査した検体が正常であると判断された場合、今回の検査装置Tの出力を次回の検体異常判断の処理において過去の出力として取り扱って、過去の出力のデータを蓄積するようにしてもよい。
【0120】
なお、前述した検体異常判断処理では、取り扱うデータが過去の検査装置Tによる検体の検査において検知された検査装置Tの出力であって検体が正常であると判断された出力と、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの出力を取扱う点が検査装置Tの異常検知処理と異なっている。歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求める算出過程は検査装置Tの異常検知処理と全く同様であるので、以下、検体異常判断処理についてごく簡単に説明する。
【0121】
検体異常判断処理では、歪率算出部3a1は、異常検知処理と同様の入力が指示する検査装置Tの出力の波形を理想波形として、この理想波形をフーリエ変換して理想波形のパワースペクトル密度を求めるとともに、異常検知処理と同様の入力に対して検査装置Tが実際に出力する出力の波形である出力波形をフーリエ変換して出力波形のパワースペクトル密度を求める。そして、歪率算出部3a1は、出力波形のパワースペクトル密度を周波数軸上で積分して求めたパワースペクトル密度の積分値から理想波形のパワースペクトル密度を周波数軸上で積分して求めたパワースペクトル密度の積分値を差し引きして、両者の差である歪成分を求め、この歪成分を出力波形のパワースペクトル密度の積分値を割った値を歪率εとして求める。検体異常判断処理では、同じ製品の正常な検体の検査時に得られた過去の検査装置Tの複数の出力についてそれぞれ歪率εと求め、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力について歪率εを求める。なお、検査装置Tの出力は、本実施の形態では、荷重F、速度Vおよび変位Xとされており、歪率εは、荷重F、速度Vおよび変位Xについてそれぞれ求められる。また、歪率εの算出にあたり、歪率算出部3a1は、出力波形のドリフト成分の除去をする処理、および、観測された出力波形の初期値と最終値が異なる場合における終端側を切り落とす処理を行ってもよい。歪率εは、前述したように、出力波形が理想波形に対してどの程度歪んでいるかを把握するための尺度となる値である。歪率εが大きくなればなるほど検体を検査した際の検体の挙動が乱れて出力が大きく変動することを示しており、歪率εは、検体異常判断処理においては、検体の動特性を評価する一つの指標である。よって、歪率εを検体異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検体における動特性の観点から異常を検知できる。
【0122】
検体異常判断処理では、ばらつき度合算出部3a2は、検査装置Tの出力波形中の各単位波形の同位相の値の分散を当該単位波形に含まれるデータ数分求め、これら分散の平均値を3倍した値をばらつき度合Sdとして求める。検体異常判断処理では、同じ製品の正常な検体の検査時に得られた過去の検査装置Tの複数の出力についてそれぞればらつき度合Sdと求め、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力についてばらつき度合Sdを求める。なお、検査装置Tの出力は、本実施の形態では、荷重F、速度Vおよび変位Xとされており、ばらつき度合Sdは、荷重F、速度Vおよび変位Xについてそれぞれ求められる。
【0123】
ばらつき度合Sdは、検体の検査時に検査装置Tが繰り返し出力を増減させた場合に繰り返し検体に与えた際に増減する際に、検査装置Tの荷重が繰り返して電流指令Iが指示する荷重通りとなっているかを把握するための尺度となる値である。つまり、ばらつき度合Sdは、検査装置Tの出力を繰り返した増減させた場合に検体が繰り返し同じ反応を繰り返すかという繰り返し精度の視点から検体の動特性を評価する指標であって、値が大きくなると検体の挙動が乱れて繰り返し精度が悪化することを示す。よって、ばらつき度合Sdを検体異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検体における繰り返し精度の観点から異常を検知できる。
【0124】
また、検体異常判断処理では、相関係数算出部3a3は、同じ製品の正常な検体の検査時に得られた過去の検査装置Tの複数の出力の平均値と、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力との相関係数Rを求める。より詳細には、相関係数算出部3a3は、異常検知処理と同様に、前記平均値のデータ群である平均波形中の荷重の度数分布と、今回の出力波形中の荷重の度数分布とを求めて、度数分布同士の共分散を求め、この共分散を相関係数Rとする。この相関係数Rの算出にあたり、コントローラCは、異常検知処理時と同様の入力として電流指令Iを繰り返し検査装置Tに与えて、十分な数の単位波形が含む出力波形を得る。なお、検査装置Tの出力は、本実施の形態では、荷重F、速度Vおよび変位Xとされており、相関係数Rは、荷重F、速度Vおよび変位Xについてそれぞれ求められる。
【0125】
相関係数Rは、検体異常判断処理において、正常な検体を検査した正常な検査装置Tの過去の出力の平均値と今回の検査装置Tの出力とが互いに相関しているかを示す尺度となる値であり、値が1に近づくほど、正常な検体を検査した正常な検査装置Tの過去の出力の平均値と今回の検査装置Tの出力との相関が高いことを示す。よって、検体異常検知のため相関係数Rを求めれば、波形一致度の観点から検体の異常を検知できる。
【0126】
さらに、検体異常判断処理では、オフセット量算出部3a4は、同じ製品の正常な検体の検査時に得られた過去の検査装置Tの複数の出力における出力波形と、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力における出力波形のそれぞれについて、オフセット量Oを求める。なお、検査装置Tの出力は、本実施の形態では、荷重F、速度Vおよび変位Xとされており、オフセット量Oは、荷重F、速度Vおよび変位Xについてそれぞれ求められる。オフセット量Oは、検査としてのダンパの減衰力の偏りを把握するための尺度となる値である。つまり、オフセット量Oは、検体異常判断処理において、検査としてのダンパの減衰力の異常を把握することができる指標である。よって、オフセット量Oを検体異常検知のための検査装置Tの特徴量に選べば、検体の異常を検知できる。
【0127】
そして、検体異常判断処理では、剛性算出部3a5は、同じ製品の正常な検体の検査時に得られた過去の検査装置Tの複数の荷重と荷重に対応する複数の変位とから複数の剛性Kを求める。また、剛性算出部3a5は、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の荷重と荷重に対応する変位とから剛性Kを求める。剛性Kは、検体異常判断処理において、検体としてのダンパの検査装置Tへの取付状況に問題がある場合や検体としてのダンパに何らかの異常がある場合に、正常値と異なる値を採る。よって、剛性Kを検体異常判断処理のための検査装置Tの特徴量に選べば、検体の検査装置への取付不良或いは検体の異常を検知できる。
【0128】
なお、検体異常判断処理においても検査装置Tの異常判断処理と同様に、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの算出にあたり、参照する出力としての荷重F、速度Vおよび変位Xのデータは、同一のデータであってよく、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの算出のために荷重F、速度Vおよび変位Xの各データを別々に採取しなくともよい。よって、コントローラCから電流指令Iを繰り返し与えて得られた各検査装置Tの荷重F、速度Vおよび変位Xから歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを算出すればよい。
【0129】
つづいて、判断部3a6について説明する。歪率算出部3a1が歪率εを求め、ばらつき度合算出部3a2がばらつき度合Sdを求め、相関係数算出部3a3が相関係数Rを求め、オフセット量算出部3a4がオフセット量を求め、さらに、剛性算出部3a5が剛性Kを求めると、判断部3a6は、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを利用して検査装置Tの異常の有無を判断する異常判断処理と同様の処理を行って検体の異常の有無を判断する。
【0130】
まず、歪率εを利用した検体の異常判断処理について説明する。判断部3a6は、過去において正常な検査装置Tで正常な同じ製品の検体を検査した出力から得られた歪率εの平均値εGAと標準偏差σεGを求め、標準偏差の3倍の値を閾値3σεGとし、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力から求めた歪率εと平均値εGAとの差Δεの絶対値|Δε|が閾値3σεG以下である場合、検体を正常と判断し、前記絶対値|Δε|が閾値3σεGを超えると検体を異常と判断する。正常な検査装置Tで正常な検体を検査した際の出力から得られた歪率εは、ばらつきがあっても確率99.73%で平均値を中心にして標準偏差の3倍の値の範囲にあるから、今回の出力から得られた歪率εが前記範囲内に入れば検体が正常であると考えてよい。よって、判断部3a6は、前述したように、平均値εGAから今回得られた歪率εTを差し引いた値Δεの絶対値|Δε|が閾値3σεGを超えるか否かどうかで歪率εについて検体の異常の有無を判断している。このようにすれば、異常検知システム1は、正確に検体の異常の有無を判断できる。歪率εは、荷重Fの他、速度Vおよび変位Xについて得られるので、判断部3a6は、速度Vおよび変位Xの歪率εについても前述と同様の処理を行って検体の異常判断を行う。また、このように歪率εを利用して検体の異常判断を行うと、異常検知システム1は、検体における動特性の観点から異常を検知できる。
【0131】
なお、判断部3a6は、複数の歪率εGの分散σεG
2を求めて閾値3σεG
2として、平均値εGAから今回得られた歪率εTを差し引いた値Δεの二乗値Δε2が閾値3σεG
2以下であると歪率εTに関して検体を正常と判断し、二乗値Δε2が閾値3σεG
2を超えると歪率εに関して検体を異常と判断してもよい。このように閾値を設定すると、正常な検体の特徴量が採り得る値の範囲を適切に画定できるので、正確に検査装置Tの異常を検知できる。また、検体異常判断に利用される閾値は、前述したところでは、過去の正常な検査装置Tが正常な検体を検査した際の出力の歪率εGの標準偏差σεGの3倍の値に設定されているが、より、異常判定を厳しくする場合には、閾値は、3σεGよりも小さな任意の値に設定されてもよい。たとえば、閾値を標準偏差σεGの2倍の値に設定すれば、検体が正常であれば、今回得られた歪率εTも確率95.45%でεGA±2σεGの範囲の中にある値となると筈であるから、このように閾値を設定してもよい。
【0132】
つづいて、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断処理について説明する。判断部3a6は、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断について、歪率εについての検体の異常判断と同様の処理を行う。つまり、判断部3a6は、過去の正常な検査装置Tが正常な検体を検査した際の出力から得たばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの平均値と標準偏差とをそれぞれ求め、標準偏差の3倍の値を閾値として、新たに同じ製品の検体を検査した際に検知される正常な検査装置Tの今回の出力から得られたばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kと、対応する平均値との差の絶対値が対応する閾値以下であれば検体を正常と判断し、前記絶対値が閾値を超えると検体を異常と判断する。
【0133】
つまり、以下のように処理する。ばらつき度合Sdに関して、判断部3a6は、過去において正常な検査装置Tで正常な同じ製品の検体を検査した出力から得られたばらつき度合Sdの平均値SdGAと標準偏差σSdGを求め、標準偏差の3倍の値を閾値3σSdGとし、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力から求めたばらつき度合SdTと平均値SdGAとの差ΔSdの絶対値|ΔSd|が閾値3σSdG以下である場合、検体を正常と判断し、前記絶対値|ΔSd|が閾値3σSdGを超えると検体を異常と判断する。また、このようにばらつき度合Sdを利用して検体の異常判断を行うと、異常検知システム1は、検体における繰り返し精度の観点から異常を検知できる。
【0134】
オフセット量Oに関して、判断部3a6は、過去において正常な検査装置Tで正常な同じ製品の検体を検査した出力から得られたオフセット量Oの平均値OGAと標準偏差σOGを求め、標準偏差の3倍の値を閾値3σOGとし、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力から求めたオフセット量OTと平均値OGAとの差ΔOの絶対値|ΔO|が閾値3σOG以下である場合、検体を正常と判断し、前記絶対値|ΔO|が閾値3σOGを超えると検体を異常と判断する。また、このようにオフセット量Oを利用して検体の異常判断を行うと、異常検知システム1は、検体の異常を検知できる。
【0135】
剛性Kに関して、判断部3a6は、過去において正常な検査装置Tで正常な同じ製品の検体を検査した出力から得られた剛性Kの平均値KGAと標準偏差σKGを求め、標準偏差の3倍の値を閾値3σKGとし、同じ製品の検体を新たに検査した際に検知された検査装置Tの今回の出力から求めた剛性KTと平均値KGAとの差ΔKの絶対値|ΔK|が閾値3σKG以下である場合、検体を正常と判断し、前記絶対値|ΔO|が閾値3σKGを超えると検体を異常と判断する。また、このように剛性Kを利用して検体の異常判断を行うと、異常検知システム1は、検体の検査装置への取付不良或いは検体の異常を検知できる。
【0136】
ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kは、荷重Fの他、速度Vおよび変位Xについて得られるので、判断部3a6は、速度Vおよび変位Xのばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kについても前述と同様の処理を行って検体異常判断を行う。
【0137】
なお、判断部3a6は、歪率εを利用した検体異常判断処理と同様に、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検体の異常判断処理についても、閾値を分散の3倍の値として、二乗値ΔSd2,ΔO2,ΔK2が閾値を超えるか否かで検体の異常の有無を判断してよい。ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kにおける検体異常判断において利用される閾値は、歪率εにおける閾値の設定と同様、標準偏差の3倍の値よりも小さな値とされてもよい。また、歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した検査装置Tの異常判断処理において、前記母集団がカイ二乗分布等ほかの確率分布に従うと仮定する場合には、従うと仮定される確率分布における標準偏差、分散を求めて閾値を決定すればよい。
【0138】
また、相関係数Rに関して、判断部3a6は、相関係数Rと閾値βとを比較して、相関係数Rが閾値β以下である場合に検体を正常と判断し、相関係数Rが閾値βを超えると検体を異常と判断する。このように判断部3a6が相関係数Rを利用して異常判断処理を行うと、波形一致度の観点から検体の異常を検知できる。
【0139】
相関係数Rに設定される閾値αは、過去の正常な検体を検査した際の正常な検査装置Tの出力の平均値と今回の検査装置Tの出力との相関が弱く、これ以上相関係数Rの値が小さくなると検体が異常であると判断できる値に設定される。
【0140】
このように、本実施の形態では、検体の異常検知にあたり、正常な検査装置Tの過去の正常な検体の検査時の出力の平均値と標準偏差或いは分散を求めるので、前記過去の出力のサンプル数が多いほど検体の異常検知の精度が向上する。相関係数Rの算出には、前記過去の出力の平均値が必要となるので、相関係数Rを利用した異常検知においても、前記過去の正常な出力のサンプル数が多いほど正確に検査装置Tの異常検知の精度が向上する。過去の正常な出力を得るには、予め必要となるサンプル数の回数の検体異常検知処理を正常な検査装置Tで正常な検体の検査に行って、都度出力を検知して出力のサンプル数を確保すればよい。また、過去の出力のサンプル数が確保されていない場合でも、異常検知を行って正常と判断された際に採取される出力のデータを過去の正常な出力のデータとして蓄積していけば、検体異常検知の精度が向上していく。
【0141】
判断部3a6は、前述したように検体異常検知処理を行って、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの5つの指標を利用して検体の異常の有無の判断をそれぞれ独立して行い、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを利用した判断でいずれか一つ異常が認められた場合、他の指標では正常と判断される場合であっても検体が異常であると判断する。このように、判断部3a6は、検体上場検知処理を行って検体異常判断部としても機能する。
【0142】
そして、処理装置3は、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを表示装置3eに表示させるとともに、検体を異常と判断する場合、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kのうちいずれの指標が異常と判断されたかが処理装置3のオペレータが視認できる態様で表示装置3eに表示する。たとえば、歪率εが検体の異常を示している場合、処理装置3は、表示装置3e上の「歪率εが異常値である」といった表示やオペレータの注意を惹く色で歪率εを表示する等とすればよい。
【0143】
また、処理装置3は、オペレータの要求により、或いは、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの演算が終了したことをトリガとしてプリンタ3gから紙媒体に歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの値を印刷してもよい。その際に、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを得るためにロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが観測したデータ、これらデータをプロットしたグラフ、さらには、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの演算過程において求められる値についても印刷してもよい。また、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを得るためにロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが観測したデータ、これらデータをプロットしたグラフ、さらには、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kの演算過程において求められる値は、表示装置3eに表示させてもよい。
【0144】
以上までの検査装置Tの異常検知システム1の検体異常判断処理を
図19に示したフローチャートに即して説明する。検査装置Tに検体を取り付け、検体へ荷重、速度および変位を負荷すべくコントローラCから電流指令Iを繰り返し入力してアクチュエータ13を駆動し、検査装置Tの出力としての荷重、速度および変位を変化させ(ステップST11)、検査装置Tの出力である荷重F、速度Vおよび変位Xをそれぞれロードセル2a,速度センサ2bおよびストロークセンサ2cで検知する(ステップST12)し、処理装置3の演算処理装置3aへ入力する。
【0145】
処理装置3は、正常な同じ製品の検体を正常な検査装置Tで検査した際に得られた検査装置Tの過去の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと、同じ製品の検体を新たに検査する際の検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータから歪率εを求める(ステップST13)。また、処理装置3は、正常な同じ製品の検体を正常な検査装置Tで検査した際に得られた検査装置Tの過去の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと、同じ製品の検体を新たに検査する際の検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータからばらつき度合Sdを求める(ステップST14)。さらに、処理装置3は、正常な同じ製品の検体を正常な検査装置Tで検査した際に得られた検査装置Tの過去の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと、同じ製品の検体を新たに検査する際の検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータから相関係数Rを求める(ステップST15)。つづいて、処理装置3は、正常な同じ製品の検体を正常な検査装置Tで検査した際に得られた検査装置Tの過去の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと、同じ製品の検体を新たに検査する際の検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータからオフセット量Oを求める(ステップST16)。また、処理装置3は、正常な同じ製品の検体を正常な検査装置Tで検査した際に得られた検査装置Tの過去の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータと、同じ製品の検体を新たに検査する際の検査装置Tの今回の荷重F、速度Vおよび変位Xのデータから剛性Kを求める(ステップST17)。なお、処理装置3は、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求める順番は任意に変更できる。
【0146】
歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求めた後、処理装置3は、得られた歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kに基づいて前述の通り検体の異常の有無を判断する処理を行う(ステップFT18)。
【0147】
処理装置3は、ステップST8の処理を行った後、求めた歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを表示装置3eの画面に表示させる(ステップST19)。その際、処理装置3は、検体を異常と判断する場合、歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kのうち異常と判断される値を特定する情報を表示装置3eに表示する。
【0148】
検査装置Tの異常検知システム1は、以上のように動作して、検体の異常を検知するため、指標として歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oおよび剛性Kを求めて、検体に異常があるか否かを判断し、表示装置3eにこれらの指標と、これら指標のうち異常があれば異常となっている指標を特定する情報を表示し、或いは、プリンタ3gで紙媒体に印刷してオペレータによるこれらの指標等を視認できるようにする。
【0149】
なお、前述した実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位としているが、荷重、速度、変位のうちいずれか一つ或いは二つを出力として取り扱って歪率ε、ばらつき度合Sd、相関係数R、オフセット量Oを求めてもよい。本実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位の複数のパラメータとしているので、検体の異常の有無をより正確に判断できる。また、本実施の形態では、検査装置Tが振動検査装置であるので、出力に加速度を加えてもよい。
【0150】
このように本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、ダンパ(検体)Dを検査或いは無負荷で検査する際の検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xを検知するセンサ2と、検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xを処理する処理装置3とを備え、処理装置3が、過去の検査装置Tの正常な荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xの特徴量の平均値と今回の検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xの特徴量との差に基づいて検査装置Tの異常を検知する。
【0151】
また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、ダンパ(検体)Dを検査或いは無負荷で検査する際の検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xを得る過程と、過去の検査装置Tの正常な荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xの特徴量の平均値と今回の検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xの特徴量との差に基づいて検査装置Tの異常を検知する検知過程とを備えている。
【0152】
このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、過去の正常な検査装置Tの出力の特徴量の平均値を利用しているので、正常な検査装置Tが採り得る特徴量を指標として現在の検査装置Tが異常であるか判断できるから、検査装置Tの異常の有無を正確に判断できる。なお、前述したところでは、特徴量を歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kの4つの指標としているが、これらの指標のうち任意に選択した指標を特徴量としてもよい。特徴量は、検査装置Tの静的な特性や動的な特性を把握可能な指標であればよいので、特徴量は前述した指標に限られない。また、本実施の形態では、検査装置Tが振動検査装置であるので、剛性Kを求めることができるが、圧力検査装置である場合には弾性係数を特徴量としてもよい。また、検査装置Tは、振動検査装置や圧力検査装置以外にも温度を検体に負荷する温度検査装置や他の検査装置とされてもよい。
【0153】
また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1では、処理装置3が、入力に対する検査装置Tの理想的な出力である理想出力と入力に対する検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xに基づいて出力の歪率εを求める歪率算出部3a1と、検査装置Tの出力を繰り返し変化させた際に得られる荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xのばらつき度合Sdを求めるばらつき度合算出部3a2と、過去の正常な検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xの平均値と検査装置Tの今回の荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xとの相関係数を求める相関係数算出部3a3と、歪率εとばらつき度合Sdを特徴量として、過去の特徴量の平均値と今回の特徴量との差、および相関係数Rに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断する判断部3a6とを備えている。さらに、本実施の形態の検査装置の異常検知方法では、検知過程が、入力に対する検査装置Tの理想的な出力である理想出力と入力に対する検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xとに基づいて歪率εを求める歪率算出過程と、検査装置Tの出力を繰り返し変化させた際に得られる荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xのばらつき度合Sdをばらつき度合算出過程と、過去の正常な検査装置Tの荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xの平均値と検査装置Tの今回の荷重(出力)F、速度(出力)Vおよび変位(出力)Xとの相関係数Rを求める相関係数算出過程と、歪率εとばらつき度合Sdを特徴量として、過去の特徴量の平均値と今回の特徴量との差、および相関係数Rに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断する判断過程とを含んで構成される。
【0154】
このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを利用して検査装置Tの異常の有無を判断するので、検査装置Tの動特性、繰り返し精度および波形一致度の観点から検査装置Tの異常の有無を把握できるから、精度良く検査装置Tの異常の有無を判断できる。
【0155】
また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、歪率算出部3a1が、出力を所定周期の正弦波で変化させる電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの理想荷重(理想出力)の波形である理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値と、電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの出力の波形である出力波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値との差分を歪成分Pabとし、荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値と歪成分Pabとに基づいて歪率εを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、歪率算出過程において、出力を所定周期の正弦波で変化させる電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの理想荷重(理想出力)の波形である理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値と、電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの荷重(出力)Fの波形である荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値との差分を歪成分Pabとし、荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値と歪成分Pabとに基づいて歪率εを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、最大荷重に対する理想波形Waと荷重波形Wbの歪だけでなく、全周波数領域の両者の差を加味した歪率εが得られるので、検査装置Tの実際の動的な挙動をより正確に把握して、検査装置Tの異常を判断できる。
【0156】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、歪率算出部3a1が荷重波形(出力波形)Wbのドリフト成分を取り除き、荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、歪率算出過程において荷重波形(出力波形)Wbのドリフト成分を取り除き、荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、荷重波形(出力波形)Wbからドリフト成分を取り除いてから、パワースペクトル密度Pbを算出するので、パワースペクトル密度Pbから低周波ノイズを除去でき、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度良く求め得る。したがって、検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、より正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0157】
また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、歪率算出部3a1において、荷重波形(出力波形)Wbの初期値W1と最終値とが同じ値でない場合、荷重波形(出力波形)Wb中で初期値W1と同値となるとともに初期値W1から所定周期の整数倍の地点の近傍にある点W2で荷重波形(出力波形)Wbの終端側を切り落とす処理を行ってから荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、歪率算出過程において、荷重波形(出力波形)Wbの初期値W1と最終値とが同じ値でない場合、荷重波形(出力波形)Wb中で初期値W1と同値となるとともに初期値W1から所定周期の整数倍の地点の近傍にある点W2で荷重波形(出力波形)Wbの終端側を切り落とす処理を行ってから荷重波形(出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、パワースペクトル密度Pbから高周波ノイズを除去でき、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度良く求め得る。したがって、検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、より正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0158】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、ばらつき度合算出部3a2において、検査装置Tの荷重(出力)を所定周期の正弦波で変化させる電流指令(入力)Iを複数回与えた際の検査装置Tの荷重(出力)Fの波形である荷重波形(出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σn或いは分散σn
2に基づいてばらつき度合Sdを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、ばらつき度合算出過程において検査装置Tの荷重(出力)を所定周期の正弦波で変化させる電流指令(入力)Iを複数回与えた際の検査装置Tの荷重(出力)Fの波形である荷重波形(出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σn或いは分散σn
2に基づいてばらつき度合Sdを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、検査装置Tが実際に長期間に亘って使用される場合において動的な荷重変動の大きさを示めすばらつき度合Sdを求めることができ、検査装置Tの動的な出力変動の大きさを把握できる。したがって、検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、より正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0159】
また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、荷重波形(出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σn或いは分散σn
2の平均値の3倍の値をばらつき度合Sdとして求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、ばらつき度合算出過程において荷重波形(出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σn或いは分散σn
2の平均値の3倍の値をばらつき度合Sdとして求めてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、検査装置Tが実際に長期間に亘って使用される場合において実際に生じ得る検査装置Tの動的な出力変動を客観的に示すばらつき度合Sdを得ることができるので、検査装置Tの動的な出力変動の大きさをより正確に把握し得る。したがって、検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、より正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0160】
そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、相関係数算出部3a3が検査装置Tの過去の荷重(出力)Fの平均値と検査装置Tの今回の荷重(出力)の度数分布同士の相関係数Rを求めてもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、相関係数算出過程において検査装置Tの過去の荷重(出力)Fの平均値と検査装置Tの今回の荷重(出力)の度数分布同士の相関係数Rを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、相関係数Rを求める対象である二つの検査装置Tの過去の平均波形と今回の出力波形とに位相ずれがあっても両者の正しい相関係数Rを求めることができる。したがって、検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、より正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0161】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、特徴量にさらに荷重(出力)Fのオフセット量Oを含み、処理装置3が検査装置Tの荷重(出力)Fのオフセット量Oを求めるオフセット量算出部3a4を有し、判断部3a6がさらに過去の検査装置Tの正常なオフセット量Oの平均値OGAと、今回の検査装置Tのオフセット量OTとの差ΔOに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断してもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、特徴量にさらに荷重(出力)Fのオフセット量Oを含み、検査装置Tの荷重(出力)Fのオフセット量Oを求めるオフセット量算出過程を備え、判断過程において、さらに、過去の検査装置Tの正常なオフセット量Oの平均値と、今回の検査装置Tのオフセット量Oとの差ΔOに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断してもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、オフセット量Oを利用して異常判断処理を行うので、検査装置Tにおける出力の異常やセンサ2の異常を検知できる。
【0162】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、検査装置Tがダンパ(検体)Dに振動を与える振動検査装置であって、特徴量にさらに荷重(出力)Fの剛性Kを含み、センサ2が検査装置Tの荷重Fを検知するロードセル2aと変位Xを検知するストロークセンサ2cを含み、処理装置3が検査装置Tの荷重Fと変位Xとから剛性Kを求める剛性算出部3a5を有し、判断部3a6がさらに過去の検査装置Tの正常な剛性KGの平均値KGAと、今回の検査装置Tの剛性KTとの差ΔKに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断してもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、検査装置Tがダンパ(検体)Dに振動を与える振動検査装置であって、特徴量にさらに検査装置Tの剛性Kを含み、検査装置Tの荷重Fと変位Xから剛性Kを求める剛性算出過程を備え、判断過程において、さらに、過去の検査装置Tの正常な剛性KGの平均値KGAと、今回の検査装置Tの剛性KTとの差ΔKに基づいて検査装置Tの異常の有無を判断してもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、剛性Kを利用して異常判断処理を行うので、検査装置Tにおける部品の異常や劣化、センサ2の異常を検知できる。
【0163】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、処理装置3が過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの平均値εGA,SdGA,OGA,KGAと今回の歪率(特徴量)εT、ばらつき度合(特徴量)SdT、オフセット量(特徴量)OTおよび剛性(特徴量)KTの差Δε,ΔSd,ΔO,ΔKが、過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの標準偏差σεG,σSdG,σOG,σKG或いは分散σεG
2,σSdG
2,σOG
2,σKG
2に基づいて設定される閾値以上となると検査装置Tを異常と判断してもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、判断過程において、過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの平均値εGA,SdGA,OGA,KGAと今回の歪率(特徴量)εT、ばらつき度合(特徴量)SdT、オフセット量(特徴量)OTおよび剛性(特徴量)KTの差Δε,ΔSd,ΔO,ΔKが、過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの標準偏差σεG,σSdG,σOG,σKG或いは分散σεG
2,σSdG
2,σOG
2,σKG
2に基づいて設定される閾値以上となると検査装置Tを異常と判断してもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、正常な検査装置Tの特徴量が採り得る値の範囲を確定する適切な閾値を設定できるので、正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0164】
そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、検査装置Tが正常と判断された場合に、処理装置3が検査装置Tで過去に正常な検体の検査を行った際の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの平均値εGA,SdGA,OGA,KGAと、今回に検査装置Tで正常な検体と同じ製品の検体の検査を行った際の歪率(特徴量)εT、ばらつき度合(特徴量)SdT、オフセット量(特徴量)OTおよび剛性(特徴量)KTとの差Δε,ΔSd,ΔO,ΔKに基づいて検体の異常の有無を判断する検体異常判断部を有してもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、検査装置Tが正常と判断された場合に、検査装置Tで過去に正常な検体の検査を行った際の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの平均値εGA,SdGA,OGA,KGAと、今回に検査装置Tで正常な検体と同じ製品の検体の検査を行った際の歪率(特徴量)εT、ばらつき度合(特徴量)SdT、オフセット量(特徴量)OTおよび剛性(特徴量)KTのとの差Δε,ΔSd,ΔO,ΔKに基づいて検体の異常の有無を判断する検体異常判断過程を備えてもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、検査装置Tだけでなく、検体装置Tの異常の有無を判断する処理と同様の処理を行って検体の異常も検知できる。
【0165】
そして、本実施の形態の検査装置Tの異常検知システム1は、判断部(検体異常判断部)3a6が過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの平均値εGA,SdGA,OGA,KGAと今回の歪率(特徴量)εT、ばらつき度合(特徴量)SdT、オフセット量(特徴量)OTおよび剛性(特徴量)KTとの差Δε,ΔSd,ΔO,ΔKが、過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの標準偏差σεG,σSdG,σOG,σKG或いは分散σεG
2,σSdG
2,σOG
2,σKG
2に基づいて設定される閾値以上となると検体を異常と判断してもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの異常検知方法は、検体異常判断過程において、過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの平均値εGA,SdGA,OGA,KGAと今回の歪率(特徴量)εT、ばらつき度合(特徴量)SdT、オフセット量(特徴量)OTおよび剛性(特徴量)KTのとの差Δε,ΔSd,ΔO,ΔKが、過去の歪率(特徴量)ε、ばらつき度合(特徴量)Sd、オフセット量(特徴量)Oおよび剛性(特徴量)Kの標準偏差σεG,σSdG,σOG,σKG或いは分散σεG
2,σSdG
2,σOG
2,σKG
2に基づいて設定される閾値以上となると前記検査装置を異常と判断してもよい。このように構成された検査装置Tの異常検知システム1および検査装置Tの異常検知方法によれば、正常な検体の特徴量が採り得る値の範囲を確定する適切な閾値を設定できるので、正確に検査装置Tの異常を検知できる。
【0166】
なお、前述した実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位としている、荷重F、速度V、変位Xのうちいずれか一つ或いは二つを出力として取り扱って検査装置Tの歪率ε、ばらつき度合Sd、オフセット量Oおよび剛性Kといった特徴量および相関係数Rを求めてもよい。本実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重F、速度V、変位Xの複数のパラメータとしているので、各検査装置Tの異常の有無をより正確に判断できる。また、本実施の形態では、検査装置Tが振動検査装置であるので、出力に加速度を加えてもよい。
【0167】
また、前述した実施の形態では、検査装置Tは、検体をダンパDとした振動検査装置とされているが、入力によって検体に出力を与える検査装置であればよいので、振動検査装置に限定されるものではない。したがって、検査装置Tは、出力として検体に、荷重、速度、変位の他、圧力、衝撃、温度等といった負荷を作用させる検査装置であってもよく、検体も検査内容に応じて適宜変更できる。
【0168】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0169】
1・・・異常検知システム、2・・・センサ、2a・・・ロードセル、2c・・・ストロークセンサ、3・・・処理装置、3a1・・・歪率算出部、3a2・・・ばらつき度合算出部、3a3・・・相関係数算出部、3a4・・・オフセット量算出部、3a5・・・剛性算出部、3a6・・・判断部(検体異常判断部)