IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水澤化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】塩基性アミノ酸用吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/12 20060101AFI20230704BHJP
   C01B 33/40 20060101ALI20230704BHJP
   A23L 27/00 20160101ALN20230704BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20230704BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20230704BHJP
   A23L 2/80 20060101ALN20230704BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20230704BHJP
   A23L 11/30 20160101ALN20230704BHJP
【FI】
B01J20/12 A
C01B33/40
A23L27/00 Z
A23L2/00 Z
A23L2/52
A23L2/80
A23L27/50 Z
A23L11/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019197815
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021069981
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大補
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-011858(JP,A)
【文献】特開2000-344513(JP,A)
【文献】特開平10-182142(JP,A)
【文献】特開2017-136584(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0276333(US,A1)
【文献】特開2005-104959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
C01B 33/20-39/54
A23L 27/00-27/40;27/60-27/60
A23L 2/00-2/84
A23L 27/50-27/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土からなる塩基性アミノ酸用吸着剤であって、
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のSiO/Al比が10以下であることを特徴とする塩基性アミノ酸用吸着剤。
【請求項2】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のHo≦-3.0の固体酸量が0.10mmol/g-dry clay以上である請求項1に記載の塩基性アミノ酸用吸着剤。
【請求項3】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のカチオン交換容量が20mmol/100g以上である請求項1又は2に記載の塩基性アミノ酸用吸着剤。
【請求項4】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土が酸処理物である請求項1~3の何れかに記載の塩基性アミノ酸用吸着剤。
【請求項5】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のSiO/Al比が7.5以下である請求項1~4の何れかに記載の塩基性アミノ酸用吸着剤。
【請求項6】
前記塩基性アミノ酸がアルギニン又はヒスチジンである請求項1~5の何れかに記載の塩基性アミノ酸用吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な塩基性アミノ酸用吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニン、ヒスチジン及びリジンは、いずれも側鎖にアミノ基を有するアミノ酸であり、これらは塩基性アミノ酸と呼ばれている。
【0003】
塩基性アミノ酸は、苦みを呈する成分として知られており、調味料や飲料などの風味改善のためには、塩基性アミノ酸を選択的に分離・除去することが望まれる。
【0004】
しかし、粘土鉱物によりアミノ酸溶液から不純物を除去する技術(特許文献1参照)や、アミノ酸を粘土鉱物に担持する技術(特許文献2参照)は検討されているものの(特許文献1参照)、複数種類のアミノ酸を含有する溶液から特定のアミノ酸を選択的に吸着する技術についてはほとんど検討されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-104959号
【文献】特開昭62-270536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、塩基性アミノ酸を含有する溶液から塩基性アミノ酸を選択的に吸着し得る吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土からなる塩基性アミノ酸用吸着剤であって、前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のSiO/Al比が10以下であることを特徴とする塩基性アミノ酸用吸着剤が提供される。
【0008】
本発明の塩基性アミノ酸用吸着剤においては、
(1)前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のHo≦-3.0の固体酸量が0.10mmol/g-dry clay以上であること、
(2)前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のカチオン交換容量が20mmol/100g以上であること、
(3)前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土が酸処理物であること、
(4)前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のSiO/Al比が7.5以下であること、
(5)前記塩基性アミノ酸がアルギニン又はヒスチジンであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明において塩基性アミノ酸吸着剤として用いられるジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、SiO/Al比(質量比)が調整されている結果、塩基性アミノ酸を選択的に吸着することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塩基性アミノ酸用吸着剤は、SiO/Al比(質量比)が10以下、好ましくは7.5以下のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土から成ることを特徴とするが、SiO/Al比が当該範囲にあることに由来して、比較的強い固体酸性を示す。
【0011】
例えば、前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のHo≦-3.0の固体酸量は、0.10mmol/g-dry clay以上が好適であり、0.20mmol/g-dry clay以上がより好適であり、0.70mmol/g-dry clay以上が最も好適である。
【0012】
このように前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は比較的強い固体酸性を示すが、このことが、塩基性アミノ酸に対する優れた吸着性能を発揮する一因であるものと推察される。
即ち、塩基性アミノ酸は2つのアミノ基と1つのカルボン酸基を有するため、水溶液中では、陽イオン(2価)、陽イオン(1価)、双生イオン及び陰イオン(1価)が平衡状態にあり、水溶液中のpH変化にしたがって平衡が移動する。
例えば、高pH(塩基性)条件下ではカルボン酸が陰イオンとなるため、平衡は陰イオン側に傾いている。ここに、比較的強い固体酸を含んでいる本発明の吸着剤を水溶液中に添加していくと、pHが下がり、アミノ基が陽イオンとなり、塩基性アミノ酸の平衡は陽イオン側に移動する。従って、この塩基性アミノ酸の陽イオンが前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の層間に有する負電荷により捕捉され、この結果、塩基性アミノ酸の吸着性が発現することとなる。
【0013】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のAl比率は、9質量%以上が好適であり、14質量%以上がより好適である。
【0014】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のカチオン交換容量(CEC)は、20mmol/100g以上が好適であり、40mmol/100g以上がより好適であり、50mmol/100g以上が最も好適である。
【0015】
ここで、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土について説明する。
ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、SiO四面体層-AlO八面体層-SiO四面体層からなり、且つこれらの四面体層と八面体層が部分的に異種金属で同形置換された三層構造を基本構造(単位層)としており、このような三層構造の積層層間には、Ca、K、Na等の金属陽イオンや水素イオンとそれに配位している水分子が存在している。また、基本三層構造の八面体層中のAlの一部にMgやFe(II)が置換し、四面体層中のSiの一部にAlが置換しているため、結晶格子はマイナスの電荷を有しており、このマイナスの電荷が基本層間に存在する金属陽イオンや水素イオンにより中和されている。
【0016】
このようなジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土には、酸性白土、ベントナイト、フラーズアース等があり、基本層間に存在する金属陽イオンの種類や量、及び水素イオン量等によってそれぞれ異なる特性を示す。例えば、ベントナイトでは、基本層間に存在するNaイオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが高くなる。一方、酸性白土では、基本層間に存在する水素イオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが低くなる。
【0017】
また、かかるジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、粘土の成因、産地及び同じ産地でも埋蔵場所(切羽)等によっても相違するが、一般的には、酸化物換算で以下のような組成を有している。
SiO;50~75質量%
Al;11~25質量%
Fe;2~20質量%
MgO;2~7質量%
CaO;0.1~3質量%
NaO;0.1~3質量%
O;0.1~3質量%
その他の酸化物(TiO等);2質量%以下
Ig-loss(1050℃);5~11質量%
【0018】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、産地等によっては、石英等の不純物を多く含んでいることもある。従って、必要により石砂分離、浮力選鉱、磁力選鉱、水簸、風簸等の精製操作に賦して不純物をできるだけ除去した後に用いるのがよい。
【0019】
本発明で塩基性アミノ酸吸着剤として使用するジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、特に限定されるものではないが、酸性白土を使用することが好適である。
【0020】
また、本発明の塩基性アミノ酸吸着剤としてとしては、酸性白土を酸処理したものを使用することがより好適である。この酸処理物は、活性白土と称されるものであり、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の基本層構造を破壊しない程度に酸処理したものである。酸処理により多孔度が上がるため、種々の物質の吸着に有利となる。
【0021】
上記のような特性を有する活性白土は、夾雑物が取り除かれた酸性白土を所定の条件で酸処理することで製造される。
酸処理条件は、目的とする活性白土の物性(固体酸量など)に応じて適宜設定すればよく、例えば硫酸水溶液を使用する場合には、原料粘土中に含まれる水分も硫酸水溶液を構成するものとして算出した硫酸水溶液量が、通常、原料粘土100質量部(110℃乾燥物として)当り250~800質量部、その時の硫酸水溶液の濃度が15~45質量%になるような条件で行えばよい。
【0022】
さらに、本発明の塩基性アミノ酸吸着剤としてとしては、酸性白土を弱酸処理したものを使用することが特に好適である。以下、このような酸処理物を弱酸処理白土と呼ぶ。
かかる弱酸処理白土は、活性白土に比して弱い酸処理で得られるため、固体酸点として働くAlやMgの溶出が抑えられている。その一方で、固体酸点として働くAlやMgを覆っているNa分やCa分は除去されている。ゆえに、活性白土あるいは酸性白土に比して同等以上の固体酸量を示す。
【0023】
このような弱酸処理白土のSiO/Al比(質量比)は、7.5以下が好適である。
【0024】
このような弱酸処理白土のHo≦-3.0の固体酸量は、0.70mmol/g-dry clay以上が好適である。
【0025】
このような弱酸処理白土のAl比率は、14質量%以上が好適である。
【0026】
上記のような特性を有する弱酸処理白土は、夾雑物が取り除かれた酸性白土を所定の条件で弱酸処理することにより製造される。
かかる弱酸処理は、従来公知の活性白土や半活性白土を製造する際の酸処理に比してマイルドな条件下で行われる。例えば硫酸水溶液を使用する場合には、原料粘土中に含まれる水分も硫酸水溶液を構成するものとして算出した硫酸水溶液量が、原料粘土100質量部(110℃乾燥物として)当り250~800質量部、その時の硫酸水溶液の濃度が1~15質量%程度になるような条件で酸処理を行えばよい。酸処理にあたっては、必要により25~95℃程度に加熱することもできる。このようにして、原料の組成、用いる酸水溶液の酸濃度、処理温度等によって、SiO/Al比が所定の範囲となる程度の時間(0.5~12時間程度、好ましくは0.5~8時間程度、特に好ましくは0.5~4時間程度)、酸処理を行えばよい。
【0027】
本発明の吸着剤は、塩基性アミノ酸を含有する溶液から塩基性アミノ酸を選択的に吸着することができる。
【0028】
本発明の吸着剤は、塩基性アミノ酸の中でも、アルギニン又はヒスチジンを好適に吸着することができる。
【0029】
本発明の吸着剤により調味料や飲料から塩基性アミノ酸を選択的に除去することで、塩基性アミノ酸由来の苦みを低減させることができる。例えば、醤油、味噌、魚介エキス、肉エキス又は酵母エキスなどの調味料や、アミノ酸含有の機能性飲料などの苦み低減に利用することができる。
【0030】
また、本発明の吸着剤は、吸着した塩基性アミノ酸を適宜溶媒で抽出・精製し利用することもできる。
【0031】
本発明の吸着剤は、溶液に含有される塩基性アミノ酸1質量部あたり0.1~100質量部以上、好ましくは1~10質量部の量で使用される。この投入量が少ないと、当然のことながら、塩基性アミノ酸の吸着量が不十分となってしまう。また、投入量が必要以上に多い場合には、コストの点で不利となってしまう。
【0032】
塩基性アミノ酸を吸着した本発明の吸着剤は、遠心分離や濾過等公知の方法により分離され、取り出される。分離の方法としては、有効成分のロスが少ないという観点から、濾過が好ましい。
【実施例
【0033】
本発明の優れた効果を、次の実施例により説明する。
【0034】
(実施例1)
新潟県胎内市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土ペレット700gを90℃に加熱した5質量%硫酸水溶液1000mlに投入した。液温90℃に維持した状態で撹拌し、30分間酸処理を行った。酸処理終了後、水で洗浄したペレットを110℃にて乾燥し、粉砕、分級して弱酸処理白土粉末を得た。
【0035】
(実施例2)
水澤化学工業(株)製活性白土(A)
【0036】
(実施例3)
水澤化学工業(株)製酸性白土
【0037】
(比較例1)
水澤化学工業(株)製活性白土(B)
【0038】
(1)元素分析
元素分析については、(株)リガク社製Rigaku ZSX primus IIを用い、定量ソフトEzスキャンにより各元素の酸化物量(質量%)の測定を行った。
【0039】
(2)カチオン交換容量
ショーレンベルガー法に準拠し試料100g当たりのカチオン交換容量を測定した(参考文献「日本ベントナイト工業会標準試験方法」)。結果を表1に示す。
【0040】
(3)固体酸量
n-ブチルアミン滴定法にてHo≦-3.0の固体酸量を測定した。尚、試料はあらかじめ150℃で3時間乾燥したものを用いた{参考文献:「触媒」Vol.11,No6,P210-216(1969)}。結果を表1に示す。
【0041】
(4)pH
イオン交換水に試料濃度が5質量%になるように吸着剤粉末を添加し、30分間撹拌した後、東亜ディーケーケー製pHメーターHM-30Rにて測定を行った。結果を表1に示す。
【0042】
(5)吸着試験
富士フイルム和光純薬(株)製アミノ酸混合標準液(H型)5mlに対して試料0.05gを投入し振盪した後、冷蔵庫内に静置した。10分おきに冷蔵庫から取り出して振盪し、合計30分間静置したところで、上澄みをメンブランフィルター(アドバンテック製、フィルター孔径0.45μm)で濾過し、試料液を得た。得られた試料液についてアミノ酸自動分析計により、試料液100gあたりの各アミノ酸の含有量(mg)を測定した。結果を表2に示す。尚、カッコ内は未処理標準液とのアミノ酸含有量(mg)の差である。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】