(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】硬化樹脂用組成物、該組成物の硬化物、該組成物および該硬化物の製造方法、ならびに半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08G 59/62 20060101AFI20230704BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20230704BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230704BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230704BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230704BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C08G59/62
C08G59/40
C08L63/00 C
C08K3/013
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2019510217
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013532
(87)【国際公開番号】W WO2018181857
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017072648
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】西谷 佳典
(72)【発明者】
【氏名】南 昌樹
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001811(JP,A)
【文献】特開2014-136779(JP,A)
【文献】特開2010-138400(JP,A)
【文献】特開2005-248164(JP,A)
【文献】特開2012-188629(JP,A)
【文献】特開2010-013636(JP,A)
【文献】特開2016-153476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有し、
かつグリシジル基を有さない多官能エポキシ化合物と、
(C)硬化剤と、
(D)メルカプト基を少なくとも1つ有するトリアゾール系化合物と
を含有し、
成分(A)と成分(B)の配合割合が、成分(A)100質量部に対して、成分(B)
5質量部以上150質量部以下であ
る硬化樹脂用組成物であって、
前記硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物のガラス転移温度が200℃以上
254℃以下であ
り、
前記ガラス転移温度が、トランスファー成形機を用いて、金型温度200℃、注入圧力4MPa、硬化時間6分の条件で、前記硬化樹脂用組成物を硬化させ、さらに、240℃、4時間加熱することにより得られる硬化物を、示差走査熱量計を用いて、N
2
流量20mL/分、昇温速度20℃/分の条件で測定される温度である、硬化樹脂用組成物。
【化1】
[式(1)中、Rは、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環が連結している。]
【化2】
[式(2)中、Lは、芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
【請求項2】
(E)硬化促進剤をさらに含有する、請求項1に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項3】
(F)無機充填剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項4】
前記(B)多官能エポキシ化合物が、下記式(5)に示される化合物から選択される少なくとも1種のエポキシ化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【化3】
【請求項5】
前記(D)トリアゾール系化合物が1,2,4トリアゾール環を有する化合物である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項6】
前記(D)トリアゾール系化合物が一般式(9-1)で示される化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【化4】
[式中、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、メルカプ
ト基、アルキル基、アリール基、またはカルボキシ基を示し、該アルキル基およびアリール基は置換されていてもよい。ただし、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも一つはメルカプト基を示す。]
【請求項7】
前記(D)トリアゾール系化合物が一般式(9-5)で示される化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【化5】
[式中、R
1は水素原子またはアミノ基を示す。]
【請求項8】
前記(D)トリアゾール系化合物の配合割合が前記(A)、前記(B)および前記(C)の合計100質量部に対して0.1~30質量部である、請求項1~7のいずれか一項
に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている、半導体装置。
【請求項11】
硬化樹脂用組成物の製造方法であって、
(A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有し、
かつグリシジル基を有さない多官能エポキシ化合物と、
(C)硬化剤と、
(D)メルカプト基を少なくとも1つ有するトリアゾール系化合物と
を混合して混合物を得る工程であって、成分(A)と成分(B)の配合割合が、成分(A)100質量部に対して、成分(B)5質量部以上150質量部以下であ
る工程、
該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程
を有し、
前記硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物のガラス転移温度が200℃以上
254℃以下であ
り、
前記ガラス転移温度が、トランスファー成形機を用いて、金型温度200℃、注入圧力4MPa、硬化時間6分の条件で、前記硬化樹脂用組成物を硬化させ、さらに、240℃、4時間加熱することにより得られる硬化物を、示差走査熱量計を用いて、N
2
流量20mL/分、昇温速度20℃/分の条件で測定される温度である、硬化樹脂用組成物の製造方法。
【化6】
[式(1)中、Rは、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環が連結している。]
【化7】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
【請求項12】
前記混合物を得る工程において、(E)硬化促進剤および/または(F)無機充填剤をさらに混合して混合物を得る、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法により製造した前記硬化樹脂用組成物を180~300℃にて加熱して硬化させる工程
を有する、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2017年3月31日に出願された日本国特許出願2017-072648号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、金属への密着性に優れた硬化物を得るための硬化樹脂用組成物、その硬化物、ならびに該硬化樹脂用組成物および該硬化物の製造方法に関する。さらに、前記硬化物を封止材として用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0003】
硬化樹脂は半導体封止材、繊維強化プラスチック等各種用途に使用され、その一原料としてベンゾオキサジン化合物が使用されている。
ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゼン骨格とオキサジン骨格とを有するベンゾオキサジン環を含む化合物を指し、その硬化物(重合物)であるベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性、機械的強度等の物性に優れ、多方面の用途において高性能材料として使用されている。
【0004】
特許文献1は、特定構造の新規なベンゾオキサジン化合物およびその製造方法を開示し、該ベンゾオキサジン化合物は高い熱伝導率を有すること、ならびに該ベンゾオキサジン化合物により高い熱伝導率を有するベンゾオキサジン樹脂硬化物を製造することが可能であることを記載している。
【0005】
特許文献2は、特定のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有するポリベンゾオキサジン樹脂の反応性末端の一部または全部を封止した熱硬化性樹脂を開示し、該熱硬化性樹脂は溶媒に溶解した際の保存安定性に優れることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-60407号公報
【文献】特開2012-36318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の用途においては、依然として、より過酷な使用条件に適合し得るように、強度を維持しつつ、さらなる高耐熱性、高耐変形性の樹脂硬化物が求められている。さらに、半導体装置等、より一層の高い信頼性が要求されるような用途では、このような性能に加え、金属への密着性の高い硬化物を得るための硬化樹脂用組成物が求められている。
しかしながら、優れた硬化物性能と高密着性を両立できる硬化物を得るための硬化樹脂用組成物は、いまだ得られていない。
【0008】
したがって、本発明は、硬化物性能として高耐熱性と高密着性を両立できる硬化物を得るための硬化樹脂用組成物を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、上記硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物、ならびに上記硬化樹脂用組成物および該硬化物の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記硬化物を封止材として用いた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を解決するために鋭意検討を行った結果、多官能ベンゾオキサジン化合物、多官能エポキシ化合物、トリアゾール系化合物を含有する硬化樹脂用組成物を開発し、その硬化物が耐熱性および金属への密着性に優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有する多官能エポキシ化合物と、
(C)硬化剤と、
(D)トリアゾール系化合物と
を含有する、硬化樹脂用組成物。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結している。]
【化2】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
[2] (E)硬化促進剤をさらに含有する、[1]に記載の硬化樹脂用組成物。
[3] (F)無機充填剤をさらに含有する、[1]または[2]に記載の硬化樹脂用組成物。
[4] 前記(D)トリアゾール系化合物が1,2,4トリアゾール環を有する化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物。
[5] 前記(D)トリアゾール系化合物が一般式(9-1)で示される化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物。
【化3】
[式中、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、メルカプト基、アルキル基、アリール基、またはカルボキシ基を示し、該アルキル基およびアリール基は置換されていてもよい。ただし、R
1、R
2、およびR
3のうちの少なくとも一つはメルカプト基を示す。]
[6] 前記(D)トリアゾール系化合物が一般式(9-5)で示される化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物。
【化4】
[式中、R
1は水素原子またはアミノ基を示す。]
[7] 前記(D)トリアゾール系化合物の配合割合が前記(A)、前記(B)および前記(C)の合計100質量部に対して0.1~30質量部である[1]~[6]のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物。
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている、半導体装置。
[10] 硬化樹脂用組成物の製造方法であって、
(A)ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物であって、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の多官能ベンゾオキサジン化合物と、
(B)ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有する多官能エポキシ化合物と、
(C)硬化剤と、
(D)トリアゾール系化合物と
を混合して混合物を得る工程、
該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程
を有する、硬化樹脂用組成物の製造方法。
【化5】
[式(1)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Zは、水素、炭素数1~8の炭化水素基および/または連結基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結している。]
【化6】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
[11] 前記混合物を得る工程において、(E)硬化促進剤および/または(F)無機充填剤をさらに混合して混合物を得る、[10]に記載の製造方法。
[12] [10]または[11]に記載の方法により製造した前記硬化樹脂用組成物を180~300℃にて加熱して硬化させる工程
を有する、硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化樹脂用組成物は、成分(A)~(D)、さらに所望により成分(E)、(F)を含有する新規な硬化樹脂用組成物であり、該組成物の硬化物は金属への密着性が高く耐熱性が良好で、熱分解し難く、ガラス転移温度が高いという特徴を有している。したがって、本発明の硬化樹脂用組成物は、金属への高密着性および高耐熱性を必要とされる用途、例えば、接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の用途に使用可能である。特に、半導体素子封止材として優れた封止性能を発揮すると共に、半導体装置の高信頼性に寄与することができる。
また、本発明の硬化物の製造方法によれば、上記優れた性能を有し、上記用途に適用可能な硬化物を短時間で形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[硬化樹脂用組成物]
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の成分(A)および(B)における「化合物」とは、各式に示す単量体だけでなく、該単量体が少量重合したオリゴマー、すなわち硬化樹脂を形成する前のプレポリマーも含むものとする。
【0013】
(成分A)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(A)は、式(1)の構造単位を有する多官能ベンゾオキサジン化合物、および式(2)の構造で示される多官能ベンゾオキサジン化合物から選択される少なくとも1種の、ベンゾオキサジン環を少なくとも二つ有する多官能ベンゾオキサジン化合物である。なお、上記式(1)のZは、水素、置換基および/または連結基(スペーサー)を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、かつ、少なくとも一つは連結基であり、該連結基によってベンゾオキサジン環同士が連結されている。なお、ここで連結基とは、二つのベンゾオキサジン環が他の基を介さずに直接結合しているものも含むものとする。また、上記置換基とは、例えば、炭素数1~8の炭化水素基が挙げられる。
したがって、上記式(1)は、成分(A)の選択肢の内、ベンゼン環部分で二つ以上のベンゾオキサジン環が連結されている化合物についてその構造単位を表したものである。
【0014】
式(1)の多官能ベンゾオキサジン化合物を、より具体的に表すと、式(1a)に示す構造として表すことができる。
【化7】
[式(1a)中、Rは炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を示し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rは各々同一であっても異なっていてもよい。Xは、水素または炭素数1~8の炭化水素基であり、各々同一であっても異なっていてもよい。Yは、炭素数1~6のアルキレン基、酸素、硫黄、SO
2基、またはカルボニル基である。mは0または1である。nは1~10の整数である。]
【0015】
式(1)および(1a)のRの具体例としては、以下の基を例示できる。
炭素数1~12の鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
炭素数3~8の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
炭素数6~14のアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニル基が挙げられる。
炭素数6~14のアリール基は置換されていてもよく、その置換基としては炭素数1~12の鎖状アルキル基またはハロゲンが挙げられる。炭素数1~12の鎖状アルキル基もしくはハロゲンで置換された、炭素数6~14のアリール基としては、例えば、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基が挙げられる。
取り扱い性が良好な点において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、およびp-トリル基から選択されることが好ましい。
さらに、成分(A)は、各々Rが異なる複数種の式(1)または(1a)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0016】
式(1)および(1a)の炭素数1~8の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、好ましくは、アリール基である。
【0017】
式(1)または(1a)で示される多官能ベンゾオキサジン化合物としては、下記式(1X)で表される化合物、および該化合物が少量重合したオリゴマーを例示できる。
【化8】
【0018】
成分(A)の他の選択肢である式(2)の多官能ベンゾオキサジン化合物は、二つのベンゾオキサジン環の窒素原子(N原子)同士が連結基Lを介して結合している化合物である。
【化9】
[式(2)中、Lは芳香環を1~5個有する2価の有機基または炭素数2~10のアルキレン基であって、該有機基およびアルキレン基は酸素および/または硫黄を含んでいてもよい。]
本発明の組成物は、式(2)で示されLが異なる複数種の多官能ベンゾオキサジン化合物を成分(A)として含有していてもよい。
【0019】
式(2)のLが芳香環を有する基である場合、芳香環の数は1~5個であり、例えば、単環化合物、多環化合物、および縮合環化合物が挙げられる。また、L中に酸素および硫黄からなる群から選択される少なくとも一つを含んでいてもよい。
具体例として、下記式(3)に示す基を挙げることができる。
【化10】
【0020】
式(2)のLがアルキレン基である場合、その炭素数は1~10が挙げられ、好ましくは1~6である。上記アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基等が挙げられ、好ましくは、メチレン基である。
【0021】
式(2)の多官能ベンゾオキサジン化合物としては、下記式(2X)で表される化合物、および該化合物が重合したオリゴマー、例えば、少量重合したオリゴマー、を例示できる。
【化11】
【0022】
成分(A)の多官能ベンゾオキサジン化合物としては市販品を使用することもできる。市販品としては、ビスフェノールF―アニリン(F-a)型ベンゾオキサジン、フェノール-ジアミノジフェニルメタン(P-d)型ベンゾオキサジン(いずれも四国化成株式会社製)等を例示できる。
【0023】
(成分B)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(B)は、ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有する多官能エポキシ化合物(以下、単に「多官能エポキシ化合物」ともいう)である。本発明の組成物は成分(B)として複数種の多官能エポキシ化合物を含有していてもよい。上記多官能エポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物が好ましく、下記式(4)に示す、5員環、6員環またはノルボルナン環に結合したエポキシ構造を有することがより好ましい。
【化12】
【0024】
具体的な多官能エポキシ化合物としては、下記式(5)で表される化合物を例示することができる。
【化13】
【0025】
成分(B)の多官能エポキシ化合物の製造例を説明する。
下記式(5-1)の化合物は、例えば、ブタジエンとジシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(a)を合成し、次に、下記式(6)に示すように化合物(a)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化14】
【0026】
下記式(5-2)の化合物は、例えば、シクロペンタジエンとジシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(b)(トリシクロペンタジエン)を合成し、次に、下記式(7)に示すように化合物(b)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化15】
【0027】
下記式(5-3)の化合物は、例えば、ブタジエンとシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(c)を合成し、次に、下記式(8)に示すように化合物(c)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化16】
【0028】
下記式(5-4)の化合物は、例えば、ジシクロペンタジエンとペルオキシ一硫酸カリウム(オキソン)とを反応させることによって製造できる。式(5-4)の化合物であるジシクロペンタジエンジエポキシドは、市販品であってもよく、市販品としてはSHANDONG QIHUAN BIOCHEMICAL CO., LTD.製のジシクロペンタジエンジエポキシドを例示できる。
【化17】
【0029】
成分(A)多官能ベンゾオキサジン化合物と、成分(B)多官能エポキシ化合物との配合割合は、成分(A)100質量部に対して、成分(B)5質量部以上、150質量部以下が好ましく、10質量部以上、100質量部以下がより好ましい。成分(A)と(B)の配合割合が該範囲内にあると、良好な耐熱性を得ることができる。
なお、本発明の組成物が成分(A)として複数種の多官能ベンゾオキサジン化合物を含有する場合、これら化合物の合計を100質量部とみなす。本発明の組成物が成分(B)として複数種の多官能エポキシ化合物を含有する場合、上記「成分(B)の配合割合」はこれら化合物の合計の割合を意味する。
【0030】
(成分C)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(C)は硬化剤である。本発明の組成物は、成分(C)としてイミダゾール類、芳香族アミン類、および多官能フェノール類等より選択される少なくとも1種の硬化剤を含有することが好ましい。成分(C)の例としては、芳香族アミン類(例えば、ジエチルトルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシレンジアミン、これらの誘導体等)、脂肪族アミン類(例えば、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等)、イミダゾール類(例えば、イミダゾール、イミダゾール誘導体等)、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、カルボン酸無水物(例えば、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等)、カルボン酸ヒドラジド(例えば、アジピン酸ヒドラジド等)、カルボン酸アミド、単官能フェノール、多官能フェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールスルフィド(例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等)、ポリフェノール化合物等)、ポリメルカプタン、カルボン酸塩、ルイス酸錯体(例えば、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0031】
成分(C)の配合割合としては、成分(A)および(B)の合計100質量部に対して、成分(C)を1質量部以上、30質量部以下の範囲とすることが好ましく、5質量部以上、25質量部以下がより好ましい。成分(C)をこの範囲で含有することにより、効率的に硬化反応を進行させることができ、高耐熱性の硬化物を得ることができる。
【0032】
(成分D)
本発明で用いられる(D)トリアゾール系化合物は、窒素原子を含む五員環構造を有する化合物である。トリアゾール系化合物は樹脂組成物と金属表面との親和性を改善し、樹脂と金属の密着性を向上することができるため、樹脂組成物の硬化物で半導体素子を封止してなる半導体装置の耐湿信頼性、耐半田クラック性を改善する役割を果たす。したがって、半導体装置の信頼性が向上する。
【0033】
本発明で用いられるトリアゾール系化合物としては、1,2,4-トリアゾール環を有する化合物、1,2,3-トリアゾール環を有する化合物が挙げられ、具体的には下記式(9-1)~(9-4)で示される化合物が挙げられる。
【化18】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、およびR
11は、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、メルカプト基、アルキル基、アリール基、またはカルボキシ基を示し、該アルキル基およびアリール基は置換されていてもよい。]
【0034】
本発明において、式(9-1)~(9-4)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、またはR11が示す前記アルキル基の炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは1~6である。ここで、前記アルキル基は置換されていてもよく、好ましくは、エステル基、アミド基、アリール基またはハロゲン原子等で置換されていてもよい。上記アルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、またはR11が示すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、i-プロピル基である。
【0035】
本明細書において、式(9-1)~(9-4)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、またはR11が示す前記アリール基の炭素数は特に限定されるものではないが、好ましくは6~10である。ここで、前記アリール基は置換されていてもよく、好ましくは、アルキル基等で置換されていてもよい。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、またはR11が示すアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基、トリル基である。
【0036】
本発明で用いられるトリアゾール系化合物としては、具体的には下記の化合物が挙げられる。
【化19】
【0037】
本発明の好ましい実施態様によれば、式(9-1)におけるR1、R2、およびR3のうちの少なくとも一つはメルカプト基を示す。本発明の別の好ましい実施態様によれば、式(9-2)におけるR4、R5、およびR6のうちの少なくとも一つはメルカプト基を示す。本発明の別の好ましい実施態様によれば、式(9-3)におけるR7、およびR8のうちの少なくとも一つはメルカプト基を示す。本発明の別の好ましい実施態様によれば、式(9-4)におけるR9、R10、およびR11のうちの少なくとも一つはメルカプト基を示す。
上記好ましい実施態様の(D)トリアゾール系化合物は、メルカプト基を必ず含むものである。上記メルカプト基は金属(例えば、銅、銀、金メッキ等)との反応性を備えている。したがって、金属フレームに硬化物を成形した時でも高密着性を実現することができることから、上記(D)トリアゾール系化合物を含む硬化樹脂用組成物の硬化物を用いて半導体装置を封止することにより、半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0038】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、本発明で用いられるトリアゾール系化合物は、式(9-1)におけるR
1が水素原子、アミノ基、メルカプト基、アルキル基、アリール基、またはカルボキシ基を示し、該アルキル基およびアリール基は置換されていてもよく、R
2がメルカプト基、R
3が水素原子を示す。上記トリアゾール系化合物を式(9-5)に示す。
【化20】
【0039】
本発明の別のより好ましい実施態様によれば、式(9-5)におけるR
1が水素原子またはアミノ基を示す。具体的には下記の化合物が挙げられる。
【化21】
【0040】
ここで、本発明で用いられる(D)トリアゾール系化合物の配合割合は、特に限定するものではないが、硬化物の金属との密着性の観点から、好ましくは、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して0.1~30質量部である。上記トリアゾール系化合物の配合割合は、より好ましくは、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して0.1~25質量部であり、この範囲とすることにより、硬化物の加熱成形時に良好な流動性を有し、硬化物の金属との密着性および組成物の流動性のバランスに優れ、パッケージの信頼性を良好に保つことができる。
【0041】
(成分E)
本発明の硬化樹脂用組成物は、所望により(E)硬化促進剤をさらに含有してもよい。硬化促進剤としては、公知の硬化促進剤を使用することができ、トリブチルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のアミン系化合物、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、トリフェニルホスフィン等の共有結合のみでリンが結合している有機リン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等の共有結合およびイオン結合でリンが結合している塩タイプの有機リン化合物等の有機リン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記した硬化促進剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用してもよい。これらのうち、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等の有機リン化合物が、硬化速度向上の効果が大きく、好ましい。
上記有機リン化合物は、特開昭55-157594号公報に記載されているように、エポキシ基とフェノール性水酸基との架橋反応を促進する機能を発揮するものである。さらに、上記有機リン化合物は、(A)多官能ベンゾオキサジン化合物が高温で開裂反応した際に発生する水酸基とエポキシ基との反応を促進する機能も発揮する。本発明の有機リン化合物は該機能を有するものであれば、特に限定されない。
成分(E)の配合割合としては、成分(A)および(B)の合計100質量部に対して、成分(E)を0.01質量部以上、10質量部以下の範囲とすることが好ましい。0.1質量部以上、7質量部以下の範囲とすることがより好ましい。成分(E)をこの範囲で含有することにより、良好な速硬化性を有する硬化樹脂用組成物とすることができる。
【0042】
(成分F)
本発明の硬化樹脂用組成物は、所望により(F)無機充填剤をさらに含有してもよい。例えば、半導体素子等の封止材用途に本発明の硬化樹脂用組成物を使用する場合は、成分(F)を含有することが好ましい。本発明で用いる無機充填剤は特に限定されず、組成物またはその硬化物の用途又は付与したい性状を考慮して選択することができる。以下、この無機充填剤を成分(F)と称する。
成分(F)の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化カルシウム、三酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化マンガン等の窒化物;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ素化合物;ホウ酸アルミニウム等のホウ素化合物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等のジルコニウム化合物;リン酸ジルコニウム、リン酸マグネシウウム等のリン化合物;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等のチタン化合物;マイカ、タルク、カオリン、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、コーディエライト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ウォラストナイト、セピオライト、ゾノライト、ゼオライト、ハイドロタルサイト、水和石膏、ミョウバン、ケイ藻土、ベーマイト等の鉱物類;フライアッシュ、脱水汚泥、ガラスビーズ、ガラスファイバー、ケイ砂、マグネシウムオキシサルフェイト、シリコン酸化物、シリコンカーバイド等;銅、鉄、コバルト、ニッケル等の金属或いはそのいずれかを含む合金;センダスト、アルニコ磁石、フェライト等の磁性材料;黒鉛、コークス等が挙げられる。成分(F)は好ましくはシリカ又はアルミナである。シリカの例としては、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、無定形シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられ、中でも球状シリカおよび結晶シリカが好ましい。成分(F)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。成分(F)は粒状であってもよく、その場合の平均粒径は、特に限定されないが、例えば0.01μm以上150μm以下であってよく、好ましくは0.1μm以上120μm以下、より好ましくは0.5μm以上75μm以下である。この範囲であれば、例えば、本発明の組成物を半導体素子の封止材用途に使用する場合、金型キャビティへの充填性が良好となる。成分(F)の平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置により、無機充填剤の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填剤を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、(株)堀場製作所製「LA-500」、「LA-750」、「LA-950」、「LA-960」等を使用することができる。
【0043】
成分(F)の配合割合としては、硬化樹脂用組成物の高耐熱性の硬化物が得られる限り、特に限定されず、用途に応じて適宜設定できる。例えば、組成物を半導体封止用途に使用する場合は以下に示す配合割合が好ましい。
成分(F)の配合割合の下限値は、成分(A)、(B)、(C)および(D)の合計100質量部に対して、例えば150重量部以上が挙げられ、400重量部以上が好ましく、500重量部以上がより好ましい。また、成分(F)の配合割合の上限値は、1300重量部以下が挙げられ、1150重量部以下が好ましく、950重量部以下がより好ましい。成分(F)の配合割合の下限値が400重量部以上であれば、硬化樹脂組用組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下を抑制でき、したがって良好な耐半田クラック性を有する硬化物を得ることができる。また、成分(F)の配合割合の上限値が1300重量部以下であれば、硬化樹脂組用組成物が流動性を有し、金型への充填がしやすく、硬化物が良好な封止性能を発揮する。
【0044】
(その他の成分)
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)以外のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよい。例えば、組成物の粘度を低下させたい場合、ベンゾオキサジン環が1つである単官能ベンゾオキサジン化合物を組成物に添加してもよい。
また、本発明の硬化樹脂用組成物には、その性能を損なわない範囲で、例えば、ナノカーボンや難燃剤、離型剤等を配合することができる。
ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレンまたはそれぞれの誘導体が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、赤燐、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ホウ酸エステル等が挙げられる。
離型剤としては、例えば、シリコーンオイル、ステアリン酸エステル、カルナバワックス等が挙げられる。
【0045】
本発明の硬化樹脂用組成物を半導体封止用途に使用する場合は、硬化樹脂用組成物の性能を損なわない範囲で、成分(A)~(F)以外に、カーボンブラック、ベンガラ、および酸化チタン等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸亜鉛等の金属塩類、およびパラフィン等の離型剤;シリコーンオイル、およびシリコーンゴム等の低応力添加剤;水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウム等の金属水酸化物ならびにフォスファゼン等の難燃剤等の1種類以上を適宜配合してもよい。
【0046】
その他の成分の配合割合としては、成分(A)および(B)の合計100質量部に対して、その他の成分を0.01質量部以上、15質量部以下の範囲とすることが好ましく、0.1質量部以上、10質量部以下の範囲とすることがより好ましい。
【0047】
[硬化樹脂用組成物の製造方法]
次に、本発明の硬化樹脂用組成物の製造方法について説明する。
成分(A)~(D)、さらに、所望により成分(E)~(F)、その他の添加剤等のその他の成分、および溶剤を適宜追加して混練または混合装置によって混合することにより、本発明の硬化樹脂用組成物を製造することができる。
混練または混合方法は、特に限定されず、例えば、プラネタリーミキサー、2軸押出機、熱ロールまたはニーダー等の混練機等を用いて混合することができる。また、成分(A)、(B)が室温で高粘度の液状または固体状である場合、成分(F)を含有する場合等には、必要に応じて加熱して混練したり、さらに、加圧または減圧条件下で混練したりしても良い。加熱温度としては80~120℃が好ましい。
成分(F)を含む硬化樹脂用組成物は室温下では固体状であるので、加熱混練後、冷却、粉砕して粉体状としてもよく、該粉体を打錠成形してペレット状にしてもよい。また、粉体を造粒して顆粒状にしてもよい。
【0048】
本発明の硬化樹脂用組成物が成分(F)を含有せず、FRP用プリプレグ用途等に使用する場合、硬化樹脂用組成物は50℃において、10~3000Pa・sの粘度を有することが好ましい。より好ましくは10~2500Pa・s、さらに好ましくは100~2000Pa・sである。封止材や塗布用途に使用する場合は、封止、塗布等の作業に支障がない限り粘度は特に限定されない。
【0049】
(硬化樹脂用組成物の特性)
本発明の硬化樹脂用組成物の流動性評価としてのスパイラルフローを測定することにより評価できる。スパイラルフローは、75cm以上が挙げられ、好ましくは80cm以上、より好ましくは90cm以上とされる。スパイラルフローは、EMMI-1-66(“Method of Test for Spiral Flow”、The Society of Plastics Industry,Inc.,New York, N.Y.(1966))に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いることにより、簡便に測定することができる。
【0050】
[硬化物]
本発明の硬化樹脂用組成物の硬化物は耐熱性が良好で、熱分解し難く、ガラス転移温度が高く、金属への密着性が高いという特徴を有している。本発明の硬化樹脂用組成物がこのような優れた硬化物を形成する理由としては、次のようなことが考えられる。
まず、ベンゾオキサジンの単独重合では、重合によりフェノール性の水酸基が生成する。このフェノール性の水酸基は、高温、例えば200℃以上にて、ケトエノ-ル互変異性体を経由し、それによって高分子鎖が切断されるため、耐熱性が低く、ガラス転移温度も低くなると考えられている。
それに対し、本発明のノルボルナン構造を有し、エポキシ基を二つ以上有する多官能エポキシ化合物は、単独重合し難く、上記ベンゾオキサジン由来のフェノール性水酸基と反応することにより、上記高分子鎖の切断を防止すると考えられる。よって、高耐熱性の硬化物が得られる。
さらに、成分(D)は金属表面との相互作用およびエポキシ化合物(B)との反応性を併せ持つため、硬化物と金属との密着性を向上することができると考えられる。
【0051】
(硬化物の特性)
本発明の硬化物の耐熱性は、ガラス転移温度を測定することにより評価できる。ガラス転移温度は、200℃以上が挙げられ、好ましくは210℃以上、より好ましくは240℃以上とされる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。このような測定は、市販の示差走査熱量計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いることにより、簡便に行うことができる。
【0052】
本発明の硬化物の密着強度は、せん断強度を測定することにより評価できる。せん断強度は、20N/mm2以上が挙げられ、好ましくは22N/mm2以上、より好ましくは23N/mm2以上とされる。せん断強度は、自動せん断強度測定機により測定することができる。このような測定は、市販の自動せん断強度測定機(例えばノードソン・アドバンスト・テクノロジー株式会社製、商品名:Dage Series4000)を用いることにより、簡便に行うことができる。
【0053】
[硬化物の製造方法]
本発明の硬化物は、公知のベンゾオキサジン化合物および/またはエポキシ化合物と同様の硬化条件にて、開環重合を行い硬化することにより製造することができる。例えば、以下の方法を挙げることができる。
まず、本発明の硬化樹脂用組成物を上記方法によって製造する。続いて、得られた硬化樹脂用組成物を、180~300℃にて、1分間~1時間または1分間~5時間加熱することで、硬化物を得ることができる。硬化物を連続生産する点では、硬化時間は1~3分間または1~6分間の処理で十分であるが、より高い強度を得る点ではさらに5分間~1時間程度または5分間~5時間程度加熱することが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)以外のベンゾオキサジン化合物および/または成分(B)以外のエポキシ化合物を配合して硬化物を得ることもできる。
【0054】
硬化物としてフィルム状成形物を得る場合には、さらに溶剤を配合して、薄膜形成に好適な溶液粘度を有する組成物とすることもできる。成分(A)~(E)を溶解できる溶剤であれば特に限定されず、例えば、炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン類等が挙げられる。
このように、溶媒に溶解した溶液状の硬化樹脂用組成物の場合は、該溶液状の硬化樹脂用組成物を基材等に塗布後、溶媒を揮発させたのち、熱硬化を行うことで硬化物を得ることができる。
【0055】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、成分(A)~(D)、所望により(E)、(F)を含有する本発明の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている半導体装置である。ここで、通常、半導体素子は金属素材の薄板であるリードフレームにより支持固定されている。「硬化物中に半導体素子が設置されている」とは、半導体素子が上記硬化樹脂用組成物の硬化物で封止されていることを意味し、半導体素子が該硬化物で被覆されている状態を表す。この場合、半導体素子全体が被覆されていてもよく、基板上に設置された半導体素子の表面が被覆されていてもよい。
【0056】
本発明の硬化物を用いて、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造する場合は、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、あるいはインジェクションモールド等の従来からの成形方法により封止工程を実施することによって、半導体装置を製造することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<成分(A);多官能ベンゾオキサジン化合物>
成分(A)として下記を使用した。
(A);下記式(2-1)に示すフェノール-ジアミノジフェニルメタン(P-d)型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)
【化22】
【0059】
<成分(B)または(BC);多官能エポキシ化合物>
成分(B)として下記(B1)~(B3)を使用した。
(B1);式(5-1)の化合物
上記式(6)に示す化合物(a)を、『土田詔一ら、「ブタジエンとシクロペンタジエンとのDiels-Alder反応-三量体の決定-」、石油学会誌、1972年、第15巻、3号、p189-192』に記載の方法に準拠して合成した。
次に、上記式(6)の反応を次のようにして行った。反応容器に、クロロホルム23.5kgおよび化合物(a)1.6kgを投入し、0℃で攪拌しながらメタクロロ過安息香酸4.5kgを滴下した。室温まで昇温し、12時間反応を行った。
次に、ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去した後、ろ液を1N水酸化ナトリウム水溶液で3回洗浄後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去してろ液を濃縮し、粗体を得た。
粗体にトルエン2kgを加え、室温で溶解した。これにヘプタン6kgを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘキサンにより洗浄した。35℃下、24時間減圧乾燥することによって、下記式(5-1)に示す化合物を白色固体として1.4kg得た。
【化23】
【0060】
(B2);式(5-2)の化合物(トリシクロペンタジエンジエポキシド)
化合物(b)を化合物(a)と同様に、上記文献に記載の方法に準拠して合成した。
次に、上記式(7)の反応を次のようにして行った。反応容器に、クロロホルム59.2kgおよび化合物(b)4.0kgを投入し、-10℃で攪拌しながらメタクロロ過安息香酸10.6kgを滴下した。室温まで昇温し、12時間反応を行った。
次に、ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去した後、ろ液を5%亜硫酸ナトリウム水溶液42.0kgで洗浄した。有機層を更に1N水酸化ナトリウム水溶液41.6kgで4回洗浄後、飽和食塩水48.0kgで洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去してろ液を濃縮し、粗体5.1kgを得た。
粗体にトルエン3.5kgを加え、室温で溶解した。これにヘプタン13.7kgを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘプタンにより洗浄した。35℃で12時間減圧乾燥することによって、下記式(5-2)に示す化合物を白色固体として2.8kg得た。
【化24】
【0061】
(B3);式(5-4)の化合物(ジシクロペンタジエンジエポキシド)
反応容器にジシクロペンタジエン10kg、重曹68kg、アセトン100Lおよびイオン交換水130Lを仕込み、10℃以下に冷却した後、反応液の温度を30℃以下に維持するように冷却を制御して、オキソン84kgを徐々に添加し、撹拌しながら10時間反応を行った。
次に、酢酸エチル100Lによる反応生成物の抽出を2回行い、得られた有機層を分取して合わせた。続いて、前記有機層を食塩およびチオ硫酸ナトリウムの混合水溶液(食塩20wt%+チオ硫酸ナトリウム20wt%)100Lにて洗浄した後、さらに、イオン交換水100Lで2回洗浄した。
洗浄後の有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液から有機溶媒を留去して、下記式(5-4)に示す化合物を白色固体として11kg得た。
【化25】
【0062】
比較例用の(BC)多官能エポキシ化合物として、ノルボルナン構造を有さない次の成分(BC)を使用した。
(BC);下記式(10)に示す多官能エポキシ化合物(YX-4000H、三菱化学株式会社製)
【化26】
【0063】
<成分(C);硬化剤>
成分(C)として下記を使用した。
(C);下記式(11)に示すビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド(TDP)(東京化成工業株式会社製)
【化27】
【0064】
<成分(D);トリアゾール系化合物>
成分(D)として下記(D1)、(D2)を使用した。
(D1);下記式(12)に示す、1,2,4-トリアゾール-5-チオール(日本カーバイド社製)
【化28】
(D2);下記式(13)に示す、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール-5-チオール(日本カーバイド社製)
【化29】
【0065】
<成分(E);硬化促進剤>
成分(E)として下記を使用した。
(E);トリフェニルホスフィン(TPP)(北興化学工業株式会社製)
【0066】
<成分(F);無機充填剤>
成分(F)として、平均粒径D50が22μmの溶融球状シリカ(FB-820、デンカ株式会社製)を使用した。以後、(F)と称する。
【0067】
<その他の成分>
離型剤としてカルナバワックス(クラリアントジャパン株式会社製)、着色剤としてカーボンブラック(MA600、三菱化学株式会社製)を使用した。
【0068】
(実施例1)
硬化樹脂用組成物(以後単に組成物と称する)および硬化物を以下のようにして調製し、流動性評価としてのスパイラルフロー、密着強度評価としてのせん断強度および耐熱性評価としてのガラス転移温度を測定した。
(A)、(B1)、(C)、(D1)、(E)、(F)、カルナバワックス、およびカーボンブラックを、表1に示す配合割合で、表面温度が90℃と100℃の2本ロールを有する熱ロール混練機(BR-150HCV、アイメックス株式会社)を用いて大気圧下で10分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。該混合物をミニスピードミルMS-09(ラボネクト株式会社製)により、金型への充填が良好に行えるように粉末状に粉砕して組成物を得た。
【0069】
<スパイラルフロー>
EMMI-1-66(“Method of Test for Spiral Flow”、The Society of Plastics Industry,Inc.,New York, N.Y.(1966))に準じたスパイラルフロー測定用金型を用い、金型温度200℃、圧力70kgf/cm2、成形時間180秒で硬化樹脂用組成物の流動長を測定した。
【0070】
<密着強度>
トランスファー成形機(ADM-5、株式会社メイホー)を用いて、金型温度200℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間6分の条件で、銅製リードフレームに直径3mm×4mmの密着強度試験片を1水準あたり12個成形した。その後、自動せん断強度測定機(Dage Series4000、ノードソン・アドバンスト・テクノロジー株式会社製)を用いて、硬化樹脂用組成物の硬化物と銅製リードフレームとのせん断強度を測定した。具体的には、上記自動せん断強度測定機の設定条件は、ヘッド高さ100μm、ヘッド速度10μm/秒とした。12個の試験片のせん断強度の平均値を表示した。
【0071】
<ガラス転移温度;Tg>
トランスファー成形機を用い、金型温度200℃、注入圧力4MPa、硬化時間6分の条件で、調製した組成物を硬化させ、さらに、後硬化処理としてオーブンで240℃、4時間加熱することで縦3mm×横3mm×長さ15mmの硬化物を作成した。該硬化物を縦3mm×横3mm×長さ2mmの大きさに切断した試験片を用いて、DSCによって下記条件によりTgを測定した。結果を表1に示す。
装置:X-DSC-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定条件:N2流量;20mL/分、昇温速度;20℃/分
【0072】
(実施例2~7)
各成分の配合割合を表1に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、各実施例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例1と同様にしてスパイラルフロー、密着強度、および耐熱性(ガラス転移温度)を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1~4)
各成分の配合割合を表2に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、各比較例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例1と同様にしてスパイラルフロー、密着強度、および耐熱性(ガラス転移温度)を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
各実施例の硬化樹脂用組成物はスパイラルフローが75cm以上、かつ、その硬化物の銅への密着強度が20N/mm2以上で、その硬化物のTgが200℃以上であり、流動性と密着性、高耐熱性を高度に達成していることが分かる。一方、比較例1、2、3は耐熱性の点では比較的良好であるが、密着強度が低い。比較例4は流動性と密着強度が良好であるがTgが低くなっており耐熱性に劣っている。
以上の結果から、本発明の実施形態である硬化樹脂用組成物とすることにより、該組成物を硬化させてなる硬化物の高密着性と高耐熱性を両立できることが分かった。