(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20230704BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230704BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00
H01B7/18 H
(21)【出願番号】P 2019533902
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017302
(87)【国際公開番号】W WO2019026365
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-10-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017149203
(32)【優先日】2017-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕之
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】柴垣 俊男
【審判官】小田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-31031(JP,A)
【文献】特開2016-195091(JP,A)
【文献】特開2004-134270(JP,A)
【文献】特開2017-228506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を覆う樹脂製の絶縁層と、を有する電線であって、
前記導体は、複数の素線が撚り合わされて形成された撚線が撚り合わされた撚撚線であり、
前記素線の径が0.05mm以上0.2mm以下であり、
前記素線は、
銅線であり、
前記導体の断面積が1.0mm
2以上3.0mm
2以下であり、
前記導体の破断伸びが10%以上17%以下であり、
前記導体の抗張力が200MPa以上400MPa以下であり、
前記絶縁層は前記導体に密着するように配置された、充実構造である、
電線。
【請求項2】
請求項1に記載の電線が二本撚り合わされた対撚電線と、
前記対撚電線を被覆する外被と、
を含み、
前記外被の外周面がポリウレタン樹脂である、ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線およびケーブルに関する。
本出願は、2017年8月1日出願の日本出願2017-149203号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、0.2%耐力が30~40kg/mm2で、導電率が50%IASC以上である銅または銅合金よりなる素導体をより合せて断面積が0.15~0.5mm2である自動車用電線導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る電線は、
導体と、前記導体を覆う樹脂製の絶縁層と、を有する電線であって、
前記導体は、複数の素線が撚り合わされて形成された撚線が撚り合わされた撚撚線であり、
前記素線の径が0.05mm以上0.2mm以下であり、
前記導体の断面積が1.0mm2以上3.0mm2以下であり、
前記導体の破断伸びが10%以上17%以下であり、
前記導体の抗張力が200MPa以上400MPa以下であり、
前記絶縁層は前記導体に密着するように配置された、充実構造である。
【0005】
また、本開示の一態様に係るケーブルは、
上記電線が二本撚り合わされた対撚電線と、
前記対撚電線を被覆する外被と、
を含み、
前記外被の外周面がポリウレタン樹脂である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本実施形態に係る電線の構成を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るケーブルの構成を示す断面図である。
【
図3】本実施形態の変形例に係るケーブルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に開示された自動車用電線導体は、電線の軽量化を図っており、また、繰り返し屈曲に対する信頼性が高められている。例えば自動車内で使用する電線およびケーブルは、さらなる電線の細径化が望まれており、細径であっても耐屈曲性に優れた電線およびケーブルが好ましい。
【0008】
そこで、本開示は、細径であっても耐屈曲性に優れた電線およびケーブルを提供することを目的とする。
[本開示の効果]
【0009】
本開示によれば、細径であっても耐屈曲性に優れた電線およびケーブルを提供することができる。
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係る電線は、
(1) 導体と、前記導体を覆う樹脂製の絶縁層と、を有する電線であって、
前記導体は、複数の素線が撚り合わされて形成された撚線が撚り合わされた撚撚線であり、
前記素線の径が0.05mm以上0.2mm以下であり、
前記導体の断面積が1.0mm2以上3.0mm2以下であり、
前記導体の破断伸びが10%以上17%以下であり、
前記導体の抗張力が200MPa以上400MPa以下であり、
前記絶縁層は前記導体に密着するように配置された、充実構造である。
上記構成の電線は、抗張力と破断伸びのバランスがよいので、細径であっても耐屈曲性に優れている。
【0011】
また、本発明の一態様に係るケーブルは、
(2)上記(1)に記載の電線が二本撚り合わされた対撚電線と、
前記対撚電線を被覆する外被と、
を含み、
前記外被の外周面がポリウレタン樹脂である。
上記構成のケーブルは、抗張力と破断伸びのバランスがよいので、細径であっても耐屈曲性に優れている。
【0012】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る電線およびケーブルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
図1は、電線の一例を示す。電線1は、モータ等に電力を送信するための給電線または信号線として用いられる。
【0014】
図1に示すように、電線1は、導体2と、導体2の外周側に設けられた絶縁層3とを備えている。
【0015】
導体2は、複数(本例では7本)の細径導体20で構成されている。これらの細径導体20は、いずれも同一の構造を有する。各々の細径導体20は、例えば軟銅線からなる素線が複数本撚り合わされた撚線として形成されている。そして、導体2は、細径導体20(撚線)がさらに7本撚り合わされた撚撚線として形成されている。
【0016】
素線の径は、例えば0.05mm以上0.2mm以下である。1本の細径導体20を形成する素線の本数は、例えば50~80本程度である。
【0017】
導体2の断面積は、1.0mm2以上3.0mm2以下である。
【0018】
導体2を構成する素線の材料としては、所定の導電性と柔軟性を有する材料であればよく、上記銅線の他に、例えば銅合金線等でもよい。破断伸びが10%以上15%以下であり、かつ抗張力が200MPa以上300MPa以下である導体は通常の軟銅線よりも破断伸びが小さく抗張力が大きい。このような導体を得るには導体を構成する銅をアニールして製造する時に銅に加えられる熱を、軟銅を作る場合よりも少なくするとよい。
【0019】
本実施形態では、250~350℃の温度になるように5~10秒の加熱をする条件でアニールを行った素線を用いて導体を構成した。導体2は、導体2が破断するまでの伸び(破断伸び)が10%以上17%以下となるように形成されているとともに、導体2が破断する際の引張りに対する力(抗張力)が200MPa以上400MPa以下となるように形成されている。破断伸びが10%以上15%以下かつ抗張力が260MPa以上400MPa以下が好ましい。破断伸びが10%以上14%以下かつ抗張力が270MPa以上350MPa以下がさらに好ましい。
【0020】
絶縁層3は、導体2の外周側を覆うように、導体2の外周に押出被覆によって形成されている。絶縁層3は、内側に配置される複数の細径導体20の間に樹脂材が充填された充実構造とされており、導体2に密着するように被覆されている。絶縁層3は発泡層でない充実構造とされているため導体2が変形しにくくなっている。
【0021】
絶縁層3は、難燃性のポリオレフィン系樹脂、例えば難燃剤が配合されることで難燃性が付与された難燃性の架橋ポリエチレンで形成されている。絶縁層3の厚さは、0.2~0.8mm程度であり、絶縁層3の外径は、1.5~3.6mm程度である。なお、絶縁層3は、例えばEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂、EMA(エチレンーメチルアクリレート共重合樹脂)、フッ素系樹脂等の他の材料で形成してもよい。
【0022】
このような構成の電線1によれば、導体2の抗張力と破断伸びとのバランスがよいので、細径であっても優れた耐屈曲性および耐捻回性を得ることができる。
【0023】
図2は、ケーブルの一例を示す。ケーブル100は、モータ等に電気を送信するためのケーブルとして用いられる。
【0024】
図2に示すように、ケーブル100は、複数(本例では二本)の電線1A,1Bと、電線1A,1Bの外周側に設けられた外被4とを備えている。なお、本例では二本の電線を、第一電線1A、第二電線1Bと称する。
【0025】
第一電線1Aおよび第二電線1Bは、上述した電線1(
図1参照)と同一の構造を有する電線である。第一電線1Aと第二電線1Bとは、互いに撚り合わされて対撚電線10として構成されている。
【0026】
外被4は、撚り合された第一電線1Aと第二電線1B(対撚電線10)の外周側を覆うように、対撚電線10の外周に押出被覆によって形成されている。外被4は、例えば難燃性の架橋ポリウレタンで形成されている。外被4の外径、すなわちケーブル100の外径は、6~10mm程度である。
【0027】
なお、本例では、外被4が単一の被覆層(一層)で形成されているが、例えば複数の被覆層(多層)で構成されるようにしてもよい。その場合、少なくとも最外部の被覆層をポリウレタン樹脂で形成することにより、外被4の外周面がポリウレタン樹脂となるようにすると耐磨耗性の点で好ましい。
外被4を除去して第一電線と第二電線とを取り出す作業を容易にするために、第一電線と外被および第二電線と外被との間に剥離層(図示せず)を設けてもよい。剥離層はフィルムを巻いてもよく、タルク等の紛体を塗布してもよく、薄いゲル層を設けてもよい。
【0028】
このような構成のケーブル100によれば、抗張力と破断伸びとのバランスがよい第一電線1Aと第二電線1Bとが用いられているので、細径であっても優れた耐屈曲性および耐捻回性を得ることができる。
【0029】
図3は、上記ケーブル100(
図2参照)の変形例を示す。なお、上記ケーブル100と同一番号を付した部分については、同じ機能であるため、繰り返しとなる説明は省略する。
【0030】
図3に示すように、ケーブル200は、対撚電線10を構成する第一電線1Aと第二電線1Bとの他に、第一電線1Aおよび第二電線1Bよりも径が小さい第三電線5Aと第四電線5Bとを備えている。
【0031】
第三電線5A、第四電線5Bは、それぞれ導体51と導体51の外周を覆うように設けられた絶縁層52とで構成されている。第三電線5Aと第四電線5Bとは、略同一の構造を有する電線である。なお、第三電線5Aと第四電線5Bとは、互いに撚り合わされて対撚電線を構成していてもよいし、あるいはケーブル200の長さ方向に沿って並列に配置されていてもよい。
【0032】
導体51は、例えば軟銅線からなる素線が複数本撚り合わされた撚線として形成されている。素線の径は、例えば0.08mm程度である。導体51を形成する素線の本数は、例えば50~70本程度である。導体51の断面積は、0.18~0.40mm2程度である。導体51を構成する素線の材料としては、上記軟銅線の他に、例えば銅合金からなる銅合金線、錫めっき軟銅線等のような所定の導電性と柔軟性を有するものであればよい。
【0033】
絶縁層52は、例えば難燃性の架橋ポリオレフィン系樹脂で形成されている。絶縁層52の厚さは、0.2~0.4mm程度であり、絶縁層52の外径は、1.2~1.6mm程度である。なお、絶縁層52は、電線10の絶縁層と同様とすることができる。ポリウレタンを使用してもよい。
例えば、太い線を給電線、細い線を信号線として使用することができる。太い電線が耐屈曲の点で弱いので、太い電線のみに、破断伸びが10%以上17%以下でありかつ抗張力が200MPa以上400MPa以下(好ましくは、破断伸びが10%以上15%以下かつ抗張力が260MPa以上400MPa以下、さらに好ましくは、破断伸びが10%以上14%以下かつ抗張力が270MPa以上350MPa以下)の導体を使用してもよい。または、この導体を太い電線、細い電線の両方に使用してもよい。
【0034】
このような構成のケーブル200においても上記ケーブル100と同様の効果を奏する。
【0035】
下記実施例1~2および比較例1~2のケーブルを作製し、それぞれのケーブルについて屈曲試験と捻回試験を行った。
【0036】
(実施例1)
実施例1においては、280℃で10秒の条件でアニールを行った外径0.08mmの素線を72本撚り合わせて細径導体(撚線)20を形成し、その細径導体20を7本撚り合わせて撚撚線とし断面積が2.5mm2の導体2を形成した。この導体の破断伸びが15%、抗張力が260MPaであった。導体2の外周に架橋ポリエチレンからなる絶縁層3を被覆して外径3.2mmの電線1(1A,1B)を形成した。二本の上記電線1A,1Bを撚り合わせて対撚電線10とし、対撚電線10の外周に架橋ポリウレタンからなる外被4を被覆して外径8.0mmのケーブル100を作製した。
(実施例2)
実施例2においては、280℃で10秒の条件でアニールを行った外径0.08mmの素線を52本撚り合わせて細径導体(撚線)20を形成し、その細径導体20を7本撚り合わせて撚撚線とし断面積が1.8mm2の導体2を形成した。この導体の破断伸びが14%、抗張力が270MPaであった。導体2の外周に架橋ポリエチレンからなる絶縁層3を被覆して外径3.2mmの電線1(1A,1B)を形成した。二本の上記電線1A,1Bを撚り合わせて対撚電線10とし、対撚電線10の外周に架橋ポリウレタンからなる外被4を被覆して外径8.0mmのケーブル100を作製した。
【0037】
(比較例1)
比較例1においては、軟銅線からなる外径0.08mmの素線を用い、上記実施例1のケーブルと同様の構成で導体およびケーブルを作製した。比較例1の導体の破断伸びは20%程度、抗張力は230MPaであった。
(比較例2)
比較例2においては、軟銅線からなる外径0.08mmの素線を用い、上記実施例2のケーブルと同様の構成で導体およびケーブルを作製した。比較例2の導体の破断伸びは20%、抗張力は230MPaであった。
【0038】
(屈曲試験)
ISO 14572:2011(E)5.9に規定される屈曲試験に従ってケーブルの耐屈曲性を評価した。この屈曲試験においては、
図4に示すように、ケーブルCを一対のマンドレル61の間に通しケーブルCを垂れ下がらせ、ケーブルCの上端をチャック62で把持し、下端に5N/mm
2(導体断面積1mm
2当たり5N)の重り63を取り付けた。マンドレル61同士の間を中心とした円周に沿ってチャック62を振り子状に振ることによりケーブルCをそれぞれのマンドレル61側へ-90°から+90°となるような曲げを繰り返し作用させた。マンドレル61の径は25mmとした。15万回曲げた後、ケーブルCを構成する導体の破断の有無を調べた。
【0039】
(捻回試験)
図4におけるマンドレル61と重り63とを取り除き、長さ1000mmのケーブルCを鉛直に垂れ下がらせて、ケーブルCの上端と下端とをそれぞれチャック62で把持した。下端のクランプをケーブルCの軸回りに左右へ-90°から+90°捻回させた。10万回捻じった後、ケーブルCを構成する導体の破断の有無を調べた。
【0040】
(試験結果)
実施例1~2では、屈曲試験後および捻回試験後において導体の破断は生じなかった。これに対して、比較例1~2では、屈曲試験後および捻回試験後の少なくともいずれか一方において導体に破断が生じた。これにより、実施例1~2が比較例1~2よりも屈曲性および捻回性について優れた耐性を有していることが確認できた。
【0041】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0042】
1(1A,1B):電線
2:導体
3:絶縁層
4:外被
5A:第三電線
5B:第四電線
10:対撚電線
20:細径導体(撚線)
51:導体
52:絶縁層
100,200:ケーブル