(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】電動パーキング・ブレーキをパルス幅変調によって制御するためのシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
B60T13/74 G
(21)【出願番号】P 2020525936
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 FR2018052773
(87)【国際公開番号】W WO2019092374
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-09-09
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517271212
【氏名又は名称】ヒタチ アステモ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビッテ、レナート
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158569(WO,A1)
【文献】特開2016-032997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00 - 13/74
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B60T 15/00 - 17/22
F16D 49/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車輪(8)に配置される少なくとも2つのブレーキ(12)を含む自動車用電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するための制御システムであって、
各ブレーキ(12)が、電動モータ(16)によって作動するパーキング・ブレーキ・アクチュエータ(14)を含み、前記制御システムが、制御ユニット(UC)を含み、
前記制御ユニット(UC)が、パーキング・ブレーキを適用するための制御コマンドが与えられると、前記電動モータ(16)が電力供給されて前記パーキング・ブレーキ・アクチュエータを作動させ、ブレーキの適用を可能にするように、前記電動モータ(16)を制御する手段を含む、システムにおいて、
前記制御する手段が、前記パーキング・ブレーキ・アクチュエータのいくつかの作動段階では、前記電動モータをパルス幅変調によって制御し、前記パーキング・ブレーキ・アクチュエータの他の作動段階では、前記電動モータをフル・パワーで制御するように構成され、
前記制御する手段は、第1の作動段階では、前記電動モータをフル・パワーで制御するように構成され、前記制御する手段は、第2の作動段階では、前記電動モータをパルス幅変調によって制御するように構成され、前記第2の作動段階は、前記第1の作動段階の後で行われ、
前記第1の作動段階及び前記第2の作動段階は、同じ制動作用中に行われ、前記制動作用は、ブレーキの適用及びブレーキの解除を含む、制御システム。
【請求項2】
前記制御ユニット(UC)は、前記電動モータ(16)をパルス幅変調によって制御するように前記制御ユニット(UC)に通知する外部情報を受け取ることができる、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御する手段が、パワー・トランジスタ又はトライアックなどの少なくとも1つのパワー・スイッチング・デバイスを含む、請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の制御システムと、前記自動車の車輪(8)に配置される少なくとも2つのブレーキ(12)を含む電動パーキング・ブレーキ・システムとを含む制動システムであって、各ブレーキ(12)が、電動モータ(16)によって作動するパーキング・ブレーキ・アクチュエータ(14)を含む、制動システム。
【請求項5】
少なくとも2つの常用ブレーキを含む、請求項4に記載の制動システム。
【請求項6】
請求項4に記載の制動システムを含む自動車であって、電動パーキング・ブレーキ・システム(S)が、4つのブレーキのうちの少なくとも2つに作用し、制御システムが、電動パーキング・ブレーキの通常の適用中に前記電動パーキング・ブレーキ・システム(S)を制御するように構成される、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するためのシステム、及び電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のほとんどの自動車において、常用ブレーキはディスク・ブレーキ及び/又はドラム・ブレーキによって提供される。
【0003】
これらは、自動車を減速すること、又はさらに停止させること目的とした常用制動機能を提供する。静止している車両を一時停止させることを目的としたパーキング・ブレーキ機能及び緊急ブレーキ機能は、一般に、パーキング・ブレーキを提供するシステムによって達成される。
【0004】
パーキング・ブレーキの適用は、ブレーキ・ケーブルを介して、ドラム・ブレーキ又はディスク・ブレーキにある機構に接続された車室内に配置されたレバーを引くことによって達成され得る。機構は、ドラム・ブレーキのブレーキ・シューを引き離してそれらをドラムに対して当てるように働く。ディスク・ブレーキの場合、パッドがブレーキ・ディスクに当てられる。
【0005】
パーキング・ブレーキを適用する際の運転者の快適性及び安全性を向上させるために、自動車業界は電動パーキング・ブレーキを開発している。
【0006】
システムには2つのタイプが存在する。第1の電動パーキング・ブレーキ・タイプは、ケーブルを牽引する電動モータを含み、このシステムはケーブル・プラー・システムと呼ばれる。第2の電動パーキング・ブレーキ・タイプは、少なくとも各リア・ブレーキに、電動モータが設けられたアクチュエータを含み、それによってブレーキを適用する。
【0007】
運転者は、例えば、ダッシュボードに配置されたボタンを押し下げて、電動パーキング・ブレーキを作動させる。
【0008】
電動パーキング・ブレーキ・システムは、直流電動モータを含み、このようなモータの実装は、例えばドイツ自動車工業会の「VDA推奨」で推奨されている。
【0009】
ブレーキ適用速度、例えばディスク・ブレーキの場合におけるブレーキ・パッドのディスクへの適用速度は、比較的速い一定速度として得られる。これは全か無かの(all-or-nothing)制御である。この全か無かの制御は、パーキング・ブレーキの通常動作においては申し分のないものであり、実際、パーキング・ブレーキを作動させたい場合、ほとんどの場合車両は静止しており、パッドは一定速度でディスクに適用される。
【0010】
しかしながら、状況によっては、この全か無かの制御が損傷を与える可能性がある。
【0011】
例えば、ディスク・ブレーキの場合にパッドを交換する際、ブレーキは最大に開放され、すなわち、ピストンは当接部に寄りかかるまで最大で後方に移動され、これらの当接部との接触は、ブレーキが最大開放位置に達したことを検出するのを可能にする。しかしながら、当接部との接触は急激である可能性がある。
【0012】
別の実例において、特定の試験又は確認を行うために、車両がローラ・ベンチに取り付けられ、ローラ・ベンチが車両の車輪に数種類の駆動トルクを加える。これによって、パーキング・ブレーキが作動する。これにより、ローラによって加えられるトルクの関数として適用トルクを増加させることが必要とされる。しかしながら、直流モータの場合は、パーキング・ブレーキが確実に全か無かで適用され、その結果車両が振動する。この振動は、測定結果の歪みをもたらす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、前述の欠点を低減又はさらに解決することを可能にする、電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するためのシステム及び電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、モータ速度、したがってディスク・ブレーキの場合はブレーキ・パッドの移動速度、又はドラム・ブレーキの場合はブレーキ・ライニングの移動速度を調整可能にするために、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御を実施する少なくとも1つの直流電動モータを含む電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するためのシステムによって達成される。これにより、電動モータは、一部の段階ではパルス幅変調によって制御され、他の段階ではフル・パワーで制御される。
【0015】
したがって、例えばパッド交換の場合、制御システムは、ピストンの低速の後方移動を企図することができる。当接部との接触は、それほど急激ではない。損傷リスクが軽減される。当接部のサイズを小さくすることも企図され、当接部を突然の衝撃に耐えるような寸法にする必要がない。
【0016】
ローラ・ベンチでの車両試験の場合、制御システムは適用力を緩やかに増加させ、これにより振動の発生を抑えることができる。
【0017】
本発明による制御システムは、通常動作でパーキング・ブレーキを適用する際に、ブレーキを制御することもできる。例えば、制御システムは、第1の段階中、パッドのディスクへの高速移動を保証し、次いで第2の段階では、パッドの低速移動を保証するようにし、これにより必要な電力を低減することができる。
【0018】
言い換えれば、電動パーキング・ブレーキは、ブレーキの保守点検中及び/又はその試験中に、例えば通常作動状態にあるかどうかに関わらず、作動段階中に可変の作動速度を有することができるように制御される。
【0019】
本発明は、油圧常用ブレーキに関連する電動パーキング・ブレーキの場合に特に有利であり、圧力発生器を含む電子安定性プログラム(ESP(商標):Electronic Stability Program)をさらに含む制動システムの場合にさらに有利である。
【0020】
そのような場合、PWM制御は、ブレーキ・ペダルを踏むことに起因して、及び/又はESPシステムの圧力発生器に起因して、制動システムによって提供される油圧式動力と場合によっては組み合わされる電気式部分電力を調整することを可能にする。
【0021】
したがって、本発明の1つの主題は、自動車の車輪に配置される少なくとも2つのブレーキを含む自動車用電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するためのシステムであり、各ブレーキは、電動モータによって作動するパーキング・ブレーキ・アクチュエータを含み、前記制御システムは、制御ユニットを含み、前記制御ユニットは、パーキング・ブレーキを適用するための制御コマンドが与えられると、電動モータが電力供給されてアクチュエータを作動させ、ブレーキの適用を可能にするように、電動モータを制御する手段を含み、前記制御手段は、パーキング・ブレーキ・アクチュエータのいくつかの作動段階では、電動モータをパルス幅変調によって制御し、パーキング・ブレーキ・アクチュエータの他の作動段階では、電動モータをフル・パワーで制御するように構成される。
【0022】
制御ユニットは、有利には、電動モータをパルス幅変調によって制御するように制御ユニットに通知する外部情報を受け取ることができる。
【0023】
例えば、制御手段は、パワー・トランジスタ又はトライアックなどの少なくとも1つのパワー・スイッチング・デバイスを含む。
【0024】
本発明の別の主題は、本発明による制御システムと、自動車の車輪に配置される少なくとも2つのブレーキを含む電動パーキング・ブレーキ・システムとを含む制動システムであり、各ブレーキは、電動モータによって作動するパーキング・ブレーキ・アクチュエータを含む。
【0025】
制動システムは、好ましくは、少なくとも2つの常用ブレーキを含む。
【0026】
本発明の別の主題は、本発明による制動システムを含む自動車であり、電動パーキング・ブレーキ・システムは、4つのブレーキのうちの少なくとも2つに作用する。これにより、制御システムは、電動パーキング・ブレーキの通常の適用中に電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するように構成される。
【0027】
本発明の別の主題は、制御ユニットと、自動車の車輪に配置される少なくとも2つのブレーキとを含む電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するための方法であり、各ブレーキは、電動モータによって作動するパーキング・ブレーキ・アクチュエータを含み、前記方法は少なくとも、
- 電動パーキング・ブレーキ・システムの作動が電動モータの速度変調を必要とすると見なされるとき、電動モータをパルス幅変調によって制御するステップと、
- 電動モータをフル・パワーで制御するステップと
を含む。
【0028】
PWM制御ステップは、フル・パワーでの制御ステップの前又は後に行われ得る。
【0029】
さらに、制御ステップは、同じ制動作用中に、又は異なる制動作用中に行われ得る。
【0030】
例示的な一実施例において、ディスク・ブレーキのブレーキ・パッドが交換される場合、電動モータは、その回転速度が、通常動作におけるパーキング・ブレーキの少なくとも1つの作動段階の一部の間のその回転速度よりも遅くなるように、パルス幅変調によってブレーキ解除方向に制御される。
【0031】
別の例示的な実施例において、自動車が試験ベンチに取り付けられる場合、電動モータは、その回転速度が連続的に変化し、ブレーキ適用力が連続的に変化するように、パルス幅変調によって制御される。
【0032】
別の例示的な実施例において、自動車が試験ベンチに取り付けられる場合、電動モータは、その回転速度が一方のステップから他方のステップへ漸進的に切り替わりながら段階的に変化するように、且つ、ブレーキ適用力が一方のステップから他方のステップへ漸進的に切り替わりながら段階的に連続して変化するように、パルス幅変調によって制御される。
【0033】
有利には、電動パーキング・ブレーキ・システムの通常作動段階が第1の速度での第1の部分及び第2の速度での第2の部分を含み、第2の部分がブレーキ・ライニングの圧縮段階に対応し、第2の速度が第1の速度よりも遅くなるように、電動モータはパルス幅変調によって制御される。
【0034】
別の例示的な実施例において、少なくとも1つのピストンの位置を決定する段階中、電動モータは、その回転速度が、通常動作におけるパーキング・ブレーキの少なくとも1つの作動段階の一部の間のその回転速度よりも遅くなるように、パルス幅変調によってブレーキ解除方向に制御される。
【0035】
本発明は、以下の説明及び添付の図面に基づいてより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】電動パーキング・ブレーキ・システムを含む自動車の底面視での概略図である。
【
図2】本発明による制御システムを用いた電動パーキング・ブレーキ・システムのブレーキ及び先行技術の電動パーキング・ブレーキ・システムのブレーキにおける、アクチュエータの速度変化の一実例のグラフである。
【
図3】本発明による制御システムを用いた電動パーキング・ブレーキ・システムのブレーキ及び先行技術の電動パーキング・ブレーキ・システムのブレーキにおける、時間の関数として適用される力変化の一実例のグラフである。
【
図4】本発明による制御システムを用いた電動パーキング・ブレーキ・システムのブレーキにおける、パーキング・ブレーキの通常の適用の場合の、アクチュエータの速度変化の一実例のグラフである。
【
図5】PWM制御によりモータに電力供給するために使用できる方形波電圧の一実例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の説明において、電動パーキング・ブレーキ・システムのブレーキはディスク・ブレーキであるが、当然ながらドラム・ブレーキの実装は本発明の範囲から逸脱するものではない。
図1に、電動パーキング・ブレーキ・システムSを装備した自動車の概略図が示されている。
【0038】
自動車は、それぞれ2つの車輪6、8をそれぞれ備えた前車軸2及び後車軸4を含む。各車輪には、それぞれディスク・ブレーキ10、12が装備されている。
【0039】
電動パーキング・ブレーキ・システムSは、少なくとも2つのブレーキ、一般には後輪に取り付けられたブレーキ12を実装する。
【0040】
別の実例によれば、本発明による車両は、4つのパーキング・ブレーキを含む。
【0041】
システムは、各ブレーキ12に、車輪に固定されたディスクに対してブレーキ・パッドを当てるためのアクチュエータ14も含む。
【0042】
例えば、アクチュエータ14は、減速機(図示せず)を介して直流電動モータ16によって駆動される。
【0043】
ディスク・ブレーキは、例えば、ねじが取り付けられたピストン(図示せず)を含む。ねじは、電動モータによって回転可能に駆動されて、ピストンをねじに沿って移動させる。ピストンは、ディスクに接触するパッドを押す。反作用として、キャリパが摺動して、もう一方のパッドをディスクのもう一方の面に当てる。
【0044】
電動パーキング・ブレーキ・システムを制御するためのシステムは、パーキング・ブレーキの適用を制御するための制御ユニットUCを含む。さらに、図示の実例では、システムは、運転者が電動パーキング・ブレーキを作動させることができる手段によって車室内に配置された制御部材18を含む。制御部材は、例えばボタンである。
【0045】
運転者がパーキング・ブレーキを適用するためにボタンを押し下げると、信号が制御ユニットに送信され、制御ユニットが、電動モータに電力供給することによってアクチュエータを作動させ、それによりブレーキ・パッドをディスクに移動させる。
【0046】
パッドの移動速度は、モータに供給される電流に比例する。この電流は一定であり、自動車に電力供給する回路によって設定される。
【0047】
本発明によれば、制御ユニットは、電動モータ16のパルス幅変調制御すなわちPWM制御を行うように構成された手段を含む。
【0048】
モータ16のPWM制御により、電動モータの回転速度、したがってブレーキの作動速度を変化させることができる。
【0049】
PWM制御は、電動モータに方形波電圧を供給することで構成される。
図5に、PWM制御によりモータに電力供給するために使用できる方形波電圧Uの一実例が示されている。これにより、方形波持続時間T
0と信号周期Tの比に依存する平均電圧が得られる。モータの速度は平均電圧に依存することになり、方形波信号の特性を選択することによって、モータの速度を変えることができる。
【0050】
PWM制御は、例えば、少なくとも1つのパワー・トランジスタ、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)とも呼ばれる絶縁ゲート型電界効果トランジスタ、トライアックなどのスイッチング及び/又はパワー制御デバイスによって実施される。
【0051】
第1の適用例によれば、モータ16のPWM制御は、パッドを交換する際に実施される。例えば、ブレーキ・パッドの取り替えが望ましいことが制御ユニットに指示される。
【0052】
ブレーキ・パッドがその交換を必要とする摩耗レベルに達すると、モータが作動してピストンをディスクから離れるように移動させる。制御ユニットは、ピストンとブレーキによって支持された当接手段との間の接触によりモータ供給電流の急激な増加を測定するとき、ブレーキが完全に開放されていることを検出する。
【0053】
本発明によれば、パッド交換が必要であることが制御ユニットに通知されると、制御ユニットはPWM制御によってモータの動きを制御し、その結果、ディスク・ブレーキのピストンの後方移動は、少なくとも当接部の近傍、すなわちディスクに対してピストンの後方位置では、PWM制御なしでモータの速度に対して低速で行われる。
【0054】
したがって、ピストンと当接手段との間の接触は急激ではない。ブレーキの損傷リスクが軽減される。当接手段のサイズを小さくして、ブレーキ質量を小さくすることも企図され得る。
【0055】
図2に、アクチュエータ14の、時間tの関数としてのブレーキ開放方向での移動速度vの概略的なグラフが示されている。速度vは、モータ16の回転速度に比例する。曲線Iは、本発明によるシステムの速度を表し、曲線IIは、先行技術のシステムの速度を表す。
【0056】
曲線IIの速度vIIはより速く、開放時間tIIはより短いが、ピストンとキャリパの間の衝撃はより急激であり、したがってブレーキを悪化させる可能性が高い。
【0057】
曲線Iは、vIIよりも遅い速度vI、及びしたがってより長い開放時間tIを示しているが、実際には接触エネルギーはより小さい。損傷リスクが実質的に軽減される。
【0058】
1つの代替案によれば、PWM制御は、モータの速度が段階的に変化する、より具体的には段階的に低下するようなものとすることができる。図示の実例において、曲線IIIでは、速度は、第1の段階P1ではvIIに等しく、次いで第2の段階P2では線形関数に従って連続的に低下してvIに等しくなる。段階P3の終わりに、ピストンはtIIとtIの間の時間tIIIでキャリパに接触する。したがって、開放期間tIIIは、VIに等しい衝撃時間の速度及び同じエネルギー散逸を伴う開放期間tIに対して短縮される。
【0059】
知られているタイプのブレーキ・ピストンの前方移動又は後方移動の速度は、例えば、1.2mm/sに等しい。
【0060】
本発明によるPWM制御の適用により、この速度を、例えば1.1から100の間、好ましくは1.5から30の間、さらに好ましくは2から5の間の比、例えば2分の1又は3分の1又は4分の1に低下させることが可能になる。
【0061】
別の例示的な実施例によれば、モータのPWM制御は、車両がローラ・ベンチに取り付けられ、ブレーキが試験されるときに実施される。PWM制御により、制動力をより漸進的に、より緩やかに変化させることができる。実際には、制動力は、ブレーキの閉鎖、すなわちディスクに対するパッドの位置に依存する。制動力が経時的に変化する方式は、パッドが移動する方式に、したがってブレーキの閉鎖速度に依存する。
【0062】
この速度の変化を細かく制御することによって、先行技術と比較して、制動力の変化をより細かく制御することが可能である。
【0063】
車両がローラ・ベンチに取り付けられていることが制御ユニットに通知されると、制御ユニットは、制動力をより緩やかにより漸進的に増加させるために、モータにPWM制御を適用する。したがって、車両の無制御の移動/振動が低減される。
【0064】
図3に、本発明による制動システムの場合(曲線IV及びV)並びに先行技術の制動システムの場合(曲線VI)における、時間tの関数としての制動力Fの変化の実例が示されている。
【0065】
曲線VIを見ると、力は、ほぼ瞬時に一方のステップから他方のステップに切り替わりながら、F1、F2、F3のように段階的に変化する。段階的変化は事前にプログラムされている。車両がローラ・ベンチ上にある場合、ブレーキはローラ・ベンチ動作プログラムと呼ばれる特有のプログラムに従って動作する。このプログラムの作動は、制御シーケンスによって手動で、又は車両がローラ・ベンチに取り付けられていることを検出することによって取得され、それにより特定の動的挙動を行う。
【0066】
曲線IVは速度の段階的な上昇も示す。本発明によるPWM制御を用いて、平均供給電圧を変化させることによって、一方のステップから他方のステップへの切り替えが漸進的に行われる。
【0067】
曲線Vは、本発明によって達成される制動力の漸進的な上昇を示す。
【0068】
したがって、車両の振動の原因が低減、さらには排除され、測定値を歪めるリスクが低減される。
【0069】
この適用例では、PWM制御は、ステップ中は平均電圧が一定であり、一方のステップから他方のステップに切り替わる際に平均電圧が漸進的に増加するようにする。
【0070】
本発明により、パーキング・ブレーキの歪んだ測定値に起因する、車両の誤った不合格を回避することができる。
【0071】
実際には、パーキング・ブレーキの通常動作は、一般に静的動作であり、すなわち車輪が一時停止し、そしてブレーキが適用される。
【0072】
しかしながら、ベンチのスロープ上でパーキング・ブレーキを試験するために、車輪を回転させることによって、スロープが動的にシミュレートされる。しかしながら、電動モータがフル・パワーでのみ制御されている場合、制動システムは車輪ロックを検出し、制動を解除することになる。これにより、パーキング・ブレーキは、故障していると見なされることになる。
【0073】
本発明により、モータは、制動段階中にパルス幅変調で制御され、これにより、制動レベルの緩やかな上昇が可能になる。一方では、車輪ロックの検出及び制動の解除、並びにそれによる車両の誤った不合格というリスクがなく、他方では、ブレーキ損傷のリスクが軽減される。
【0074】
別の適用例によれば、モータのPWM制御は、パーキング・ブレーキの通常動作中に使用される。「パーキング・ブレーキの通常動作」とは、運転者が自分の車両を駐車して一時停止させる必要があり、電動パーキング・ブレーキを作動させるときの、予想される動作を意味する。
【0075】
例えば、制御ユニットは、ストロークの第1の部分にわたって、パッドがディスクに接触する前にピストンが高速で移動するように、且つ、ストロークの第2の部分にわたって、パッドをブレーキに対して圧縮させるとピストンが低速で移動するようにブレーキを制御して、必要な動力を減少させる。パーキング・ブレーキの作動期間は、従来のシステムの場合よりもわずかに長いが、この期間は一般には短く、作動段階の延長は、実質的に使用者には感知できないものである。
【0076】
図4に、速度Vでのこの変化の概略図が示されている。曲線VIIは、高速Veでの移動と、それに続くパッド圧縮が行われる間の低速Vfでの移動を示す。
【0077】
速度は3つ以上の段階で変化し得ることが理解されよう。又はさらに、曲線VIIIによって示されるように、圧縮段階中、速度は連続的に低下し得る。
【0078】
1つの代替案によれば、速度は連続的に低下し得る。
【0079】
一実例によれば、制御ユニットは、パーキング・ブレーキの全作動中にPWM制御を適用する。
【0080】
別の実例によれば、段階Aは従来の制御に従って行われ、段階BはPWM制御に従って行われる。
【0081】
別の実例によれば、電動パーキング・ブレーキは、通常動作中、全か無かの制御として、又は状況に応じてPWM制御によって制御され得る。
【0082】
他の状況は、パーキング・ブレーキ・システムの単一のPWM制御、又はPWM制御と全か無かの制御の組合せを含み得る。
【0083】
別の実例によれば、パーキング・ブレーキが緊急ブレーキとして使用されるとき、PWM制御が適用され得る。緊急ブレーキ制御は、かなりの速度で運転しているときにブレーキ・ボタンを押し下げることによって達成され、例えば、速度が5km/hを超える場合、ブレーキ・ボタンの作動が緊急ブレーキを作動させ、速度がゼロ又は5km/h未満の場合、パーキング・ブレーキが適用される。
【0084】
本発明によるPWM制御は、常用ブレーキ中、パーキング・ブレーキ中、及び/又は緊急ブレーキ中に関わらず、制動段階以外でさらに実施され得る。
【0085】
例えば、計算機は、ディスク・ブレーキ・ピストンの位置を知る必要がある度に、ピストンを後当接部まで後方に移動させる。これは、例えばパッド交換後に行われるが、電子安定性プログラム(ESP(登録商標))の計算機によって定期的に行われ得る。PWM制御は、例えば、計算機がピストン位置を決定する段階をトリガする度に適用される。ピストン位置を決定するために、後者は、ピストンが後当接部に寄りかかるまでピストンを後方に移動させ、基準位置を形成する。この基準位置から、計算機は、例えばアクチュエータの電動モータの回転数をカウントすることによって、ピストンの次の位置を決定することができる。PWM制御を実施することによって、ピストン速度は、後当接部に近づくときに低下し、これによりピストン位置を決定する段階を乱すことなく、損傷リスクを軽減する。
【0086】
有利には、PWM制御は、制動段階中及び制動段階以外で、パーキング・ブレーキ又は緊急ブレーキである任意の動作タイプのブレーキに適用される。
【0087】
PWM制御を実施する手段は、これらの制御を実施するブレーキ、及び/又は、例えばESP(登録商標)(電子安定性プログラム)などの制動変調を制御するための計算機に実施されるものなど、すでに他の場所で実施されているブレーキに特有であり得る。
【0088】
本発明は、パーキング及び/又は電動緊急ブレーキを備えた油圧常用ブレーキと、完全電動、すなわちEMB(electromechanical brake:電気機械式ブレーキ)と呼ばれる常用ブレーキ、パーキング及び/又は緊急ブレーキとの両方に適用可能である。
【0089】
例示的な一実施例において、本発明は、パーキング・ブレーキの有無に関わらず、電動常用ブレーキに適用可能である。電動モータは、例えばブレーキ・パッドを交換するため、又はピストン位置を指し示すために、電動モータのいくつかの作動段階でパルス幅変調によって少なくとも制御される。
【0090】
さらに、本発明は、1つ又は複数のピストンを含むディスク・ブレーキに適用可能であり、各ピストンは、それ自体のアクチュエータによって移動する。各アクチュエータの移動は、別々に制御され得る。
【符号の説明】
【0091】
2 前車軸
4 後車軸
6、8 車輪
10、12 ブレーキ
14 アクチュエータ
16 電動モータ
S 電動パーキング・ブレーキ・システム
UC 制御ユニット