(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】連続流動サンプリングプローブを使用する分析器具の音響装填のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20230704BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20230704BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230704BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20230704BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20230704BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G01N1/00 101K
G01N1/10 Z
G01N27/62 F
G01N27/62 G
H01J49/04 040
H01J49/04 450
H01J49/04 500
H01J49/26
H01J49/16 700
(21)【出願番号】P 2020528057
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 US2018062337
(87)【国際公開番号】W WO2019104235
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-19
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507301040
【氏名又は名称】ラブサイト インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ダットワーニ, サミー
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド, ドナルド ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】ジスラン, ルシアン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】リウ, チャン
(72)【発明者】
【氏名】コービー, トーマス
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0224013(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299041(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0109084(US,A1)
【文献】BERKEL, Gary J Van et al.,Immediate drop on demand technology (I-DOT) coupled with mass spectrometry via an open port sampling interface,Bioanalysis,英国,Future Science,2017年11月02日,Vol. 9, No. 21,pp. 1667-1679
【文献】SINCLAIR, Ian et al.,Novel Acoustic Loading of a Mass Spectrometer: Toward Next-Generation High-Throughput MS Screening,Journal of Laboratory Automation,米国,Society for Laboratory Automation and Screening,2016年,Vol. 21, No. 1,pp. 19-26,インターネット<URL : https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2211068215619124?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub++0pubmed&>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体サンプル中の分析物を分析器具に輸送するための音響装填システムであって、前記システムは、
(a)分析物を含む流体サンプルを格納しているリザーバであって、前記流体サンプルは、流体表面を有する、リザーバと、
(b)前記流体表面から前記流体サンプルの液滴を出射するために効果的な様式で音響放射を発生させるための音響液滴エジェクタと、
(c)前記流体表面から間隔を置かれた連続流動サンプリングプローブと
を備え、
前記連続流動サンプリングプローブは、
(i)前記流体サンプルの前記出射された液滴を受け取るためのサンプリング先端と、
(ii)溶媒源から溶媒を受け取るための溶媒入口と、
(iii)前記溶媒入口から前記サンプリング先端に前記溶媒を輸送するための溶媒輸送毛細管であって、前記出射された液滴は、前記溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成する、溶媒輸送毛細管と、
(iv)サンプル出口であって、前記分析物-溶媒希釈液は、前記サンプル出口を通して前記連続流動サンプリングプローブから離れて分析器具に向けられる、サンプル出口と、
(v)前記分析物-溶媒希釈液を前記サンプリング先端から前記サンプル出口に輸送するためのサンプル輸送毛細管と
を備え、
前記サンプル輸送毛細管と前記溶媒輸送毛細管とは、前記サンプリング先端において流体連通している、システム。
【請求項2】
前記連続流動サンプリングプローブは、外側毛細管と、前記外側毛細管の中に同軸に配置された内側毛細管とを備え、前記外側毛細管および内側毛細管は、前記内側毛細管と外側毛細管との間に前記溶媒輸送毛細管を画定し、前記内側毛細管は、前記サンプル輸送毛細管を画定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記音響液滴エジェクタは、音響放射発生器と集束手段とを備え、前記集束手段は、発生させられた前記音響放射を前記リザーバ内の流体サンプルの前記表面の近傍の焦点に集束させる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記音響液滴エジェクタは、前記リザーバと音響結合関係にある、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
各々が分析物を含む流体サンプルを格納している複数のリザーバを備え、前記流体サンプルのうちの任意のものは、前記流体サンプルのうちの別のものと同一であることも、異なることもある、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記
音響液滴エジェクタを前記リザーバの各々に対して音響結合関係に連続して位置付ける手段をさらに含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記リザーバは、アレイにおいて配置されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記リザーバは、統合された複数
のリザーバユニットを備えている基板内に含まれている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記音響
液滴エジェクタに対して前記リザーバユニットを再位置付けする手段をさらに備えている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記流体サンプルは、約1μL以下の体積を占める、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記流体サンプルは、約10pL~約100nLの体積を占める、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記音響液滴エジェクタは、約3nL以下の体積を有する液滴を出射するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記音響液滴エジェクタは、約1pL以下の体積を有する液滴を出射するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記溶媒入口に動作可能に接続され、前記溶媒入口と流体連通している溶媒ポンプをさらに含み、前記溶媒ポンプは、前記溶媒輸送毛細管内の溶媒流量を制御する、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
ガス入口をさらに含み、ネブライジングガスが、ガス源から前記ガス入口を通って前記サンプル出口に流動し、それによって、前記サンプル出口から前記分析物-溶媒希釈液を吸引する、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記ネブライジングガス流を制御するために前記ガス入口に動作可能に接続されたガス圧力調整器をさらに含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記サンプル出口から退出する前記分析物-溶媒希釈液中の分析物をイオン化するためのイオン化源をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記イオン化源は、エレクトロスプレーイオン源である、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記分析器具は、質量分析計を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記分析器具は、質量分析計を備えている、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記内側毛細管および前記外側毛細管のうちの一方を他方に対して縦方向に移動させるように適合された調節器をさらに含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項22】
分析物を含む流体サンプルを分析器具に輸送する方法であって、前記方法は、
(a)音響放射を発生させる音響液滴エジェクタを流体表面を有する前記流体サンプルを含むリザーバに音響的に結合することと、
(b)前記音響
液滴エジェクタを作動させることによって、前記流体サンプルの液滴を前記流体表面から連続流動サンプリングプローブのサンプリング先端の中に出射するために効果的な様式で前記リザーバに向かい前記流体サンプルの中に入る音響放射を発生させることであって、前記出射された液滴は、前記連続流動サンプリングプローブ内の循環溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成し、前記連続流動サンプリングプローブは、前記流体表面と前記サンプリング先端との間に間隙を提供するために前記流体表面から間隔を置かれている、ことと、
(c)溶媒中の前記受け取られた流体サンプル液滴を前記連続流動サンプリングプローブ内のサンプル輸送毛細管を通してサンプル出口に輸送することであって、前記分析物-溶媒希釈液は、前記連続流動サンプリングプローブから離れて分析器具に向けられる、ことと
を含む、方法。
【請求項23】
前記連続流動サンプリングプローブは、溶媒源から前記溶媒を受け取るための溶媒入口と、前記溶媒入口から前記サンプリング先端に前記溶媒を輸送するための溶媒輸送毛細管とを備えている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記サンプル輸送毛細管および前記溶媒輸送毛細管は、前記サンプリング先端において流体連通している、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記連続流動サンプリングプローブは、ガス入口を備えている、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(c)は、ネブライジングガスをガス源からガス入口を通して前記サンプル出口に流動させ、前記サンプル出口において前記分析物-溶媒希釈液を吸引することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ガス入口に動作可能に接続されたガス圧力調整器を用いて、前記サンプル輸送毛細管内のサンプル流量を制御することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記溶媒入口に動作可能に接続され、前記溶媒入口と流体連通している溶媒ポンプを用いて、前記溶媒輸送毛細管内の溶媒流量を制御することをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記サンプル流量に対して前記溶媒流量を調節し、前記溶媒輸送毛細管と前記サンプル輸送毛細管とが流体連通している前記サンプリング先端において所望の流動パターンを提供することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記所望の流動パターンは、渦である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記渦は、超臨界渦である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記リザーバは、各々が分析物を含む流体サンプルを格納している複数のリザーバのうちの1つであり、前記リザーバ内の前記流体サンプルは、同一であることも、異なることもある、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記リザーバは、アレイにおいて配置されている、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記リザーバは、統合された複数
のリザーバユニットを備えている基板内に含まれている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記液滴を出射した後、前記
音響液滴エジェクタを別のリザーバに対して音響結合関係に位置付け、ステップ(b)および(c)を繰り返すことをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記サンプル出口から退出する前記分析物-溶媒希釈液中の前記分析物をイオン化することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項37】
前記分析器具は、質量分析計を備えている、請求項22に記載の方法。
【請求項38】
前記分析器具は、質量分析計を備えている、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記分析物は、約100ダルトン~約100キロダルトンの範囲内の分子量を有する化合物を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項40】
前記分子量は、約1~約100キロダルトンである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記分析物は、非金属である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記分析物は、有機化合物を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記有機化合物は、生体分子である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記生体分子は、ペプチド性である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記流体サンプルは、約10μL以下の体積を占める、請求項22に記載の方法。
【請求項46】
前記流体サンプルは、約1μL以下の体積を占める、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記流体サンプルは、約10pL~約100nLの体積を占める、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記音響的に出射された液滴は、約3nL以下の体積を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項49】
前記音響的に出射された液滴は、約1pL以下の体積を有する、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
ステップ(a)および(b)を迅速に繰り返し、前記流体サンプルの1回の注入として複数の超単分散液滴を前記サンプリング先端の中に出射することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項51】
ステップ(a)および(b)を迅速に繰り返し、前記流体サンプルの1回の注入として複数の超単分散液滴を前記サンプリング先端の中に出射することを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
ステップ(a)および(b)は、少なくとも約250Hzの周波数において繰り返される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記流体サンプルは、溶媒中の分析物を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項54】
前記流体サンプルは、生物学的流体サンプルを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項55】
前記生物学的流体サンプルは、組織、組織ホモジネート、細胞、細胞懸濁液、細胞抽出液、全血、血漿、漿液、唾液、痰、鼻汁、脳脊髄液、間質液、リンパ液、精液、膣液、または糞便を含む、請求項54に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、流体サンプルを分析器具に輸送するためのシステムおよび方法に関し、より具体的には、連続流動サンプリングプローブを利用するそのようなシステムおよび方法に関する。本発明は、分析化学、生物学的研究、および医学の分野において有用性を見出す。
【背景技術】
【0002】
サンプル中の分析物の存在、同定、濃度、および/または量の正確な決定は、多くの分野において極めて重要である。そのような分析において使用される多くの技法は、採用される分析機器の中への導入に先立って、流体サンプル中の種のイオン化を伴う。イオン化方法の選定は、サンプルの性質および使用される分析技法に依存し、多くのイオン化方法が、利用可能である。質量分析法は、サンプル分子がイオン化され、結果として生じるイオンが、次いで、質量/電荷比によって分類される明確に確立された分析技法である。1つの技法では、磁場内のイオン化粒子の偏向の程度が、測定され、それから、イオンの相対質量が、計算されることができる。「飛行時間」(TOF)質量分析法と称される別の技法では、イオンは、電場内で加速され、それらの速度は、時間測定を使用して決定される。質量/電荷比は、それが、イオンの速度に比例するので、容易に決定されることができる。質量分析法は、いくつかの重要な用途を有し、薬物のような小分子から大きいタンパク質および細胞代謝物まで、広い範囲の分子種の分析を可能にする。質量分光分析、特に、エレクトロスプレー質量分光分析を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、キャピラリ電気泳動、またはキャピラリ電気クロマトグラフィを含む液体クロマトグラフィ(LC)等の分離技法に結合する能力は、複雑な混合物が単一のプロセスにおいて分離および特性評価され得ることを意味している。本技術は、広い範囲の専門分野を横断して適用されており、薬物代謝、プロテオミクス、メタボロミクス、リピドミクス、および撮像等の分野における進歩を可能にしている。
【0003】
質量分析法に関する適用範囲が増加しているが、その基本的処理能力は、同じタイムフレームにわたって有意に変化していない。これは、主として、サンプルが、信号抑制マトリクス成分から着目分析物を分離するために、質量分析計への導入に先立って分離技法を受ける要件に起因する。死容積の低減および圧送圧力の増加等のHPLCシステム設計の改良は、より小さい粒子を含むより小さいカラム、改良された分離、およびより速い実行時間の利益が実現されることを可能にしている。これらの改良にもかかわらず、サンプル分離のために要求される時間は、依然として、約1分である。実際の分離が要求されない場合であっても、質量分析計の中にサンプルを装填する手順は、依然として、サンプル装填時間をサンプルあたり約10秒に限定する。
【0004】
処理能力性能を改良することにおいて、ある程度成功している。塩を除去するために、伝統的なクロマトグラフィではなく、固相抽出を使用することによってサンプル処理を簡略化することは、前注入時間を、HPLCのために要求されるサンプルあたり数分からサンプルあたり10秒未満に短縮することができる。しかしながら、サンプリング速度の増加は、感度を犠牲にする。さらに、サンプリング速度の増加によって節約された時間は、サンプルの間の浄化の必要性によって相殺される。多重化クロマトグラフィシステムを使用してサンプルを並行に処理することは、処理能力を増加させることができるが、本アプローチの複雑性は、システム信頼性に悪影響を及ぼし、多くの場合、高処理能力スクリーニング(HTS)環境におけるその使用を妨げ得る。
【0005】
イオン化エネルギーを送達し、サンプルマトリクスから分析物を遊離させるためにレーザに依拠する技法も、速度においてある程度の改良を提供する。マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)では、サンプルのイオン化は、レーザエネルギーがプレート表面微細構成におけるナノ構造またはマトリクス分子のいずれかによって吸収される二次プロセスである。これらの励起された分子は、順に、電荷移動を介して標的分子をイオン化する。MALDIは、ペプチド、小さいタンパク質、脂質、およびオリゴヌクレオチドに関して良好に機能し、サンプルあたり1秒の速度で実施されることができるが、広い範囲の小分子に関して性能が劣る。関連技法であるレーザダイオード熱的脱離(LDTD)は、熱経路を介してサンプルを気相に直接脱着する。しかしながら、文献におけるLDTDの用途は、本技法の熱的性質および雰囲気圧化学イオン化(APCI)システムの使用が、生化学的スクリーニングにおける修飾ペプチドおよび細胞代謝物の両方に関して好適ではないので、主に、小さい薬物のような分子を目的としている。加えて、LDTDは、MALDIよりも緩慢であり、サンプルあたり約10秒を要求する。
【0006】
現在の質量分析計の装填プロセスの別の限界は、サンプルの間の飛沫同伴の問題であり、それは、以前のサンプル中の分析物の残留量による後続サンプルの汚染を回避するために、各サンプルが装填された後に洗浄ステップを必要とする。これは、時間を要求し、ステップをプロセスに追加し、分析を合理化するのではなく、複雑にする。
【0007】
生物学的流体等の複雑なサンプルを処理するために使用されるときの現在の質量分析計の追加の限界は、マトリクス成分(例えば、細胞マトリクス成分等の天然マトリクス成分またはプラスチック等のいくつかの物質に固有の汚染物質)の存在からもたらされ、着目分析物に関する検出能力、精度、および/または正確度に悪影響を及ぼす、不要な「マトリクス効果」現象である。1つのそのような現象は、マトリクスイオン化抑制であり、マトリクス成分の存在は、分析物イオン化の程度を低減させ、応答の損失として観察される。例えば、Volmer、他(2006)LCGC North America 24(5):498-5l0およびBruins、他(1999)J. Chromatogr.,A 863:115-122を参照されたい。
【0008】
前述の限界のうちのいくつかは、少量の流体サンプルを個々のマイクロタイタプレートウェルから質量分析計または他の分析デバイスに送達するために音響液滴出射(ADE)を使用することによって対処されている。Sinclair、他(2016)Journal of Laboratory Automation 21(1):19-26およびEllson、他の米国特許第7,405,395号(特許文献1)(Labcyte Inc.,San Jose,CA)(その両方が、参照することによってその全体として組み込まれる)を参照されたい。Sinclairは、着目サンプルを含むウェルへの超音波パルスの印加、電場の印加を介してイオン化され、加熱された輸送管を介して質量分析計の中に輸送される微小液滴のミストの発生を説明している。ADEプロセスおよび機器(質量分析計の入力端に結合するように修正されるLabcyte’s Echo(登録商標) 555)の使用は、わずか3ナノリットルのサンプルから信号を発生させ、1時間あたり10,000を上回るデータ点の入手を可能にするように確立された。ADEベースのプロセスの感度および速度は、有意であり、高処理能力スクリーニング、IC50決定、および動態研究を支援することが可能であったが、いくつかの限界が、残っている。特に、Sinclair、他によって留意されるように、潜在的マトリクス効果は、依然として、問題となり得る。加えて、一貫した液滴サイズが必要である、または望ましい用途に関して、音響ミストアプローチは、異なるサイズを伴う液滴が単一の音響バーストによって発生させられる限りにおいて、あまり理想的ではない。
【0009】
質量分析計または他の分析デバイスに装填するための理想的なシステムは、Ellson、他の第’395号に説明されるものよりもさらに速く、マトリクスイオン抑制ならびにサンプル装填事象の間の洗浄ステップの必要性を完全に排除するであろうプロセスを提供するであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
故に、本発明は、前述の当技術分野の必要性に対処し、サンプルを質量分析計等の分析器具の中に装填するための新しいシステムおよび方法を提供する。本発明は、分析物を含む流体サンプルの小さい液滴を連続流動サンプリングプローブのサンプリング先端の中に出射するための音響液滴エジェクタを採用し、音響的に出射された液滴は、プローブ内の溶媒の連続的な循環流の流れと組み合わせられる。プローブ内の流体循環は、サンプルをプローブを通して出口に輸送し、それは、分析物の存在、同定、濃度、および/または量を決定するための器具等の分析器具への移送のために好適な様式でプローブから離れるように分析物を向ける。分析器具が、質量分析計または分析物がイオン化形態にあることを要求する他のタイプのデバイスであるとき、退出する液滴は、分析器具の中への進入に先立って、またはそれに応じて、イオン化源が中性分析物種をイオンに変換するイオン化領域を通過する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一側面では、本発明は、流体サンプル中の分析物を分析器具に輸送するための音響液滴出射システムであって、
【0013】
(a)分析物を含む流体サンプルを格納しているリザーバであって、流体サンプルは、流体表面を有する、リザーバと、
【0014】
(b)流体表面から流体サンプルの液滴を出射するために効果的な様式で音響放射を発生させるための音響液滴エジェクタと、
【0015】
(c)流体表面から間隔を置かれ、(i)流体サンプルの出射された液滴を受け取るためのサンプリング先端と、(ii)溶媒源から溶媒を受け取るための溶媒入口と、(iii)溶媒入口からサンプリング先端に溶媒を輸送するための溶媒輸送毛細管であって、出射された液滴が、溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成する、溶媒輸送毛細管と、(iv)それを通して分析物-溶媒希釈液がサンプリングプローブから離れて分析器具に向けられる、サンプル出口と、(v)分析物-溶媒希釈液をサンプリング先端からサンプル出口に輸送するためのサンプル輸送毛細管であって、サンプル輸送毛細管および溶媒輸送毛細管は、サンプリング先端において流体連通するサンプル輸送毛細管とを備えている、連続流動サンプリングプローブとを備えている、音響液滴出射システムを提供する。
【0016】
本発明の別の側面では、前述のシステムの連続流動サンプリングプローブは、外側毛細管と、その中に同軸に配置された内側毛細管とを備え、外側毛細管および内側毛細管は、内側毛細管と外側毛細管との間に溶媒輸送毛細管を画定し、内側毛細管内にサンプル輸送毛細管を画定する。
【0017】
本発明の別の側面では、システムは、各々が分析物を含む流体サンプルを格納している複数のリザーバを備え、流体サンプルのうちの任意のものは、流体サンプルのうちの別のものと同一であることも、異なることもある。リザーバは、アレイにおいて配置される、および/または統合された複数リザーバユニット、例えば、ラックもしくはウェルプレートとしての役割を果たす基板内に含まれ得る。
【0018】
本発明の別の側面では、システムは、高処理能力分析を可能にするために、エジェクタを複数のリザーバにおける各リザーバに対して音響結合関係において、好ましくは、迅速に連続して位置付ける手段を含む。
【0019】
本発明の別の側面では、システムは、サンプリング先端に対する基板の空間関係を変更する手段を含む。
【0020】
本発明のさらなる側面では、システムは、(a)溶媒入口からサンプリング先端への溶媒輸送毛細管内の溶媒流量を制御するための、溶媒入口に動作可能に接続され、それと流体連通している溶媒ポンプと、(b)サンプル流量、すなわち、分析物-溶媒希釈液がサンプリング先端からサンプル出口に向かって輸送される輸送毛細管内の分析物-溶媒希釈液の流量を制御する手段とを含む。サンプル流量を制御する手段は、それが、サンプル出口から出るときに分析物-溶媒希釈液の吸引を引き起こすサンプル輸送毛細管のサンプル出口へのネブライジングガスの流動を制御するために、ガス入口に動作可能に接続されたガス圧力調整器であり得る。好ましい実施形態では、サンプル出口は、質量分析法において使用するためのエレクトロスプレー先端として構成される。
【0021】
本発明のなおもさらなる側面では、システムは、加えて、出口から退出する分析物-溶媒希釈液中の分析物をイオン化するためのイオン化源を含む。
【0022】
別の側面では、本発明は、分析物を含む流体サンプルを分析器具に輸送する方法を提供し、方法は、
【0023】
(a)音響放射を発生させる音響液滴エジェクタを流体表面を有する流体サンプルを含むリザーバに音響的に結合することと、
【0024】
(b)音響エジェクタを作動させ、流体サンプルの液滴を流体表面から連続流動サンプリングプローブのサンプリング先端の中に出射するために効果的な様式で音響放射をリザーバに向かって、かつ流体サンプルの中に発生させることであって、出射された液滴は、流動プローブ内の循環溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成し、該サンプリングプローブは、流体表面から間隔を置かれ、流体表面とサンプリング先端との間に間隙を提供する、ことと、
【0025】
(c)溶媒中の受け取られた流体サンプル液滴をサンプリングプローブ内のサンプル輸送毛細管を通してサンプル出口に輸送することであって、分析物-溶媒希釈液は、サンプリングプローブから離れて分析器具に向けられる、ことと、
を含む。
【0026】
本発明の別の側面では、前述の方法において使用される連続流動サンプリングプローブは、外側毛細管と、その中に同軸に配置された内側毛細管とを備え、外側毛細管および内側毛細管は、内側毛細管と外側毛細管との間に溶媒輸送毛細管を画定し、内側毛細管内にサンプル輸送毛細管を画定する。溶媒輸送毛細管およびサンプル輸送毛細管は、流動プローブのサンプリング先端において流体連通する。
【0027】
本発明の追加の側面では、前述の方法において使用される連続流動サンプリングプローブは、溶媒源から溶媒を受け取るための溶媒入口と、ガス源からサンプル出口にネブライジングガスを輸送し、サンプル出口における分析物-溶媒希釈液の吸引を可能にするためのガス入口とを含む。溶媒輸送毛細管の中への、それを通した溶媒流量は、溶媒入口に接続され、それと流体連通するポンプを用いて制御される一方、サンプル輸送流量、すなわち、サンプリング先端からサンプル出口に向かう分析物-サンプル希釈液の流量は、ガス出口に動作可能に接続されたガス圧力調整器を用いて制御され、より高いガス圧力は、より速いサンプル輸送速度をもたらす。
【0028】
本発明のなおも別の側面では、方法は、サンプル流量に対する溶媒流量を調節し、溶媒輸送毛細管およびサンプル輸送毛細管が流体連通するサンプリング先端において所望の流動パターン、例えば、渦を提供することを含む。
【0029】
音響出射では、音響エジェクタは、流体表面からの離散流体液滴の出射をもたらす様式で、流体サンプルを含むリザーバの中に集束音響エネルギーを向ける。音響出射は、他の液滴発生方法論に優る多くの利点を提供する。例えば、音響流体出射デバイスは、閉塞、誤って向けられた流体、または不適切なサイズの液滴を受けず、音響技術は、管類または任意の侵襲性機械的作用の使用を要求しない。例えば、Ellson、他の米国特許第6,802,593号に説明されるような音響出射技術は、ナノリットルまたはさらにはピコリットル範囲内の液滴の迅速なサンプル処理および発生を可能にする。加えて、音響出射は、液滴サイズに対する制御ならびに一貫したサイズの液滴の繰り返しの発生を可能にする。Steams、他の米国特許第6,416,164号(参照することによって本明細書に組み込まれる)を参照されたい。その特許に解説されるように、流体表面から音響的に出射された液滴のサイズは、音響出力、音響周波数、トーンバースト持続時間、および/または集束レンズのF値を変動させることによって注意深く制御されることができる。
【0030】
本発明は、流体サンプルを質量分析計等の分析デバイスの中に装填するための従来の方法およびシステムに優る多数の利点を達成する。本明細書に提供されるように、連続流動サンプリングプローブのサンプリング界面の中にサンプル液滴を出射するためのADEの使用は、液滴が同じ流体リザーバから連続して音響的に出射されるとき、約250Hzまたはそれよりも高い高繰り返し率で超単分散ナノリットルサイズの液滴の正確かつ精密な移送を可能にする。これは、分析のためのシステムの中への既知であるが、可変体積の流体サンプルの「注入」を可能にする。加えて、システムは、リザーバ間の非常に迅速な遷移を提供するように適合され、ひいては、極めて迅速な高処理能力サンプル処理、ペプチドおよびタンパク質等の高分子量分析物との併用、ADE移送がタッチレスであり、流動プローブが自洗式であるため、飛沫同伴が殆どまたは全くないこと、サンプルが非希釈血漿であるときであっても、流動プローブ溶媒中の分析物拡散および混合が単一の液滴レベルにおいてマトリクス抑制問題を排除するため、マトリクスの独立、優れた動的範囲、線形性、検出限界、および定量限界を伴う定量化、ならびに高繰り返し率の液滴の流れを使用して、単一液滴分解能において経時的に単一の源ウェルをサンプリングすることによるリアルタイムの動力学的測定を可能にすることができる。好ましい実施形態では、本発明は、プローブサンプリング先端における流体界面を能動的に管理し、それによって、以下に解説されるであろうようなサンプル装填および分析のための条件を最適化するために、プロセス制御原理を適用することによって、能動的流動制御を利用する。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
流体サンプル中の分析物を分析器具に輸送するための音響装填システムであって、前記システムは、
(a)分析物を含む流体サンプルを格納しているリザーバであって、前記流体サンプルは、流体表面を有する、リザーバと、
(b)前記流体表面から前記流体サンプルの液滴を出射するために効果的な様式で音響放射を発生させるための音響液滴エジェクタと、
(c)前記流体表面から間隔を置かれた連続流動サンプリングプローブと
を備え、
前記連続流動サンプリングプローブは、
(i)前記流体サンプルの出射された液滴を受け取るためのサンプリング先端と、
(ii)溶媒源から溶媒を受け取るための溶媒入口と、
(iii)前記溶媒入口から前記サンプリング先端に前記溶媒を輸送するための溶媒輸送毛細管であって、前記出射された液滴は、前記溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成する、溶媒輸送毛細管と、
(iv)サンプル出口であって、前記分析物-溶媒希釈液は、前記サンプル出口を通して前記サンプリングプローブから離れて分析器具に向けられる、サンプル出口と、
(v)前記分析物-溶媒希釈液を前記サンプリング先端から前記サンプル出口に輸送するためのサンプル輸送毛細管と
備え、
前記サンプル輸送毛細管と前記溶媒輸送毛細管とは、前記サンプリング先端において流体連通している、システム。
(項目2)
前記連続流動サンプリングプローブは、外側毛細管と、前記外側毛細管の中に同軸に配置された内側毛細管とを備え、前記外側毛細管および内側毛細管は、前記内側毛細管と外側毛細管との間に前記溶媒輸送毛細管を画定し、前記内側毛細管は、前記サンプル輸送毛細管を画定する、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記音響液滴エジェクタは、音響放射発生器と集束手段とを備え、前記集束手段は、発生させられた前記音響放射を前記リザーバ内の流体サンプルの前記表面の近傍の焦点に集束させる、項目1に記載のシステム。
(項目4)
前記音響液滴エジェクタは、前記リザーバと音響結合関係にある、項目3に記載のシステム。
(項目5)
各々が分析物を含む流体サンプルを格納している複数のリザーバを備え、前記流体サンプルのうちの任意のものは、前記流体サンプルのうちの別のものと同一であることも、異なることもある、項目1に記載のシステム。
(項目6)
前記エジェクタを前記リザーバの各々に対して音響結合関係に連続して位置付ける手段をさらに含む、項目5に記載のシステム。
(項目7)
前記リザーバは、アレイにおいて配置されている、項目5に記載のシステム。
(項目8)
前記リザーバは、統合された複数リザーバユニットを備えている基板内に含まれている、項目7に記載のシステム。
(項目9)
前記サンプリング先端に対する前記基板の空間関係を変更する手段をさらに備えている、項目8に記載のシステム。
(項目10)
前記流体サンプルは、約1μL以下の体積を占める、項目9に記載のシステム。
(項目11)
前記流体サンプルは、約10pL~約100nLの体積を占める、項目10に記載のシステム。
(項目12)
前記音響液滴エジェクタは、約3nL以下の体積を有する液滴を出射するように構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目13)
前記音響液滴エジェクタは、約1pL以下の体積を有する液滴を出射するように構成されている、項目12に記載のシステム。
(項目14)
前記溶媒入口に動作可能に接続され、前記溶媒入口と流体連通している溶媒ポンプをさらに含み、前記溶媒ポンプは、前記溶媒輸送毛細管内の溶媒流量を制御する、項目1に記載のシステム。
(項目15)
ガス入口をさらに含み、ネブライジングガスが、ガス源から前記ガス入口を通って前記サンプル出口に流動し、それによって、前記サンプル出口から前記分析物-溶媒希釈液を吸引する、項目1に記載のシステム。
(項目16)
前記ネブライジングガス流を制御するために前記ガス入口に動作可能に接続されたガス圧力調整器をさらに含む、項目15に記載のシステム。
(項目17)
前記出口から退出する前記分析物-溶媒希釈液中の分析物をイオン化するためのイオン化源をさらに含む、項目1に記載のシステム。
(項目18)
前記イオン化源は、エレクトロスプレーイオン源である、項目17に記載のシステム。
(項目19)
前記分析器具は、質量分析計を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目20)
前記分析器具は、質量分析計を備えている、項目18に記載のシステム。
(項目21)
前記内側毛細管および前記外側毛細管のうちの一方を他方に対して縦方向に移動させるように適合された調節器をさらに含む、項目1に記載のシステム。
(項目22)
分析物を含む流体サンプルを分析器具に輸送する方法であって、前記方法は、
(a)音響放射を発生させる音響液滴エジェクタを流体表面を有する前記流体サンプルを含むリザーバに音響的に結合することと、
(b)前記音響エジェクタを作動させることによって、前記流体サンプルの液滴を前記流体表面から連続流動サンプリングプローブのサンプリング先端の中に出射するために効果的な様式で前記リザーバに向かい前記流体サンプルの中に入る音響放射を発生させることであって、前記出射された液滴は、前記流動プローブ内の循環溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成し、前記サンプリングプローブは、前記流体表面と前記サンプリング先端との間に間隙を提供するために前記流体表面から間隔を置かれている、ことと、
(c)溶媒中の前記受け取られた流体サンプル液滴を前記サンプリングプローブ内のサンプル輸送毛細管を通してサンプル出口に輸送することであって、前記分析物-溶媒希釈液は、前記サンプリングプローブから離れて分析器具に向けられる、ことと
を含む、方法。
(項目23)
前記連続流動サンプリングプローブは、溶媒源から前記溶媒を受け取るための溶媒入口と、前記溶媒入口から前記サンプリング先端に前記溶媒を輸送するための溶媒輸送毛細管とを備えている、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記サンプル輸送毛細管および前記溶媒輸送毛細管は、前記サンプリング先端において流体連通している、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記連続流動サンプリングプローブは、ガス入口を備えている、項目24に記載の方法。
(項目26)
ステップ(c)は、ネブライジングガスをガス源からガス入口を通して前記サンプル出口に流動させ、前記サンプル出口において前記分析物-溶媒希釈液を吸引することを含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記ガス入口に動作可能に接続されたガス圧力調整器を用いて、前記サンプル輸送毛細管内のサンプル流量を制御することをさらに含む、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記溶媒入口に動作可能に接続され、前記溶媒入口と流体連通している溶媒ポンプを用いて、前記溶媒輸送毛細管内の溶媒流量を制御することをさらに含む、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記サンプル流量に対して前記溶媒流量を調節し、前記溶媒輸送毛細管と前記サンプル輸送毛細管とが流体連通している前記サンプリング先端において所望の流動パターンを提供することをさらに含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記所望の流動パターンは、渦である、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記渦は、超臨界渦である、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記リザーバは、各々が分析物を含む流体サンプルを格納している複数のリザーバのうちの1つであり、前記リザーバ内の前記流体サンプルは、同一であることも、異なることもある、項目22に記載の方法。
(項目33)
前記リザーバは、アレイにおいて配置されている、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記リザーバは、統合された複数リザーバユニットを備えている基板内に含まれている、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記液滴を出射した後、前記エジェクタを別のリザーバに対して音響結合関係に位置付け、ステップ(b)および(c)を繰り返すことをさらに含む、項目32に記載の方法。
(項目36)
前記サンプル出口から退出する前記分析物希釈液中の前記分析物をイオン化することをさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目37)
前記分析器具は、質量分析計を備えている、項目22に記載の方法。
(項目38)
前記分析器具は、質量分析計を備えている、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記分析物は、約100ダルトン~約100キロダルトンの範囲内の分子量を有する化合物を含む、項目22に記載の方法。
(項目40)
前記分子量は、約1~約100キロダルトンである、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記分析物は、非金属である、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記分析物は、有機化合物を含む、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記有機化合物は、生体分子である、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記生体分子は、ペプチド性である、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記流体サンプルは、約10pL以下の体積を占める、項目22に記載の方法。
(項目46)
前記流体サンプルは、約1pL以下の体積を占める、項目45に記載のシステム。
(項目47)
前記流体サンプルは、約10pL~約100nLの体積を占める、項目46に記載のシステム。
(項目48)
前記音響的に出射された液滴は、約3nL以下の体積を有する、項目22に記載の方法。
(項目49)
前記音響的に出射された液滴は、約1pL以下の体積を有する、項目48に記載の方法。
(項目50)
ステップ(a)および(b)を迅速に繰り返し、前記流体サンプルの1回の注入として複数の超単分散液滴を前記サンプリング先端の中に出射することを含む、項目22に記載の方法。
(項目51)
ステップ(a)および(b)を迅速に繰り返し、前記流体サンプルの1回の注入として複数の超単分散液滴を前記サンプリング先端の中に出射することを含む、項目48に記載の方法。
(項目52)
ステップ(a)および(b)は、少なくとも約250Hzの周波数において繰り返される、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記流体サンプルは、溶媒中の分析物を含む、項目22に記載の方法。
(項目54)
前記流体サンプルは、生物学的流体サンプルを含む、項目22に記載の方法。
(項目55)
前記生物学的流体サンプルは、組織、組織ホモジネート、細胞、細胞懸濁液、細胞抽出液、全血、血漿、漿液、唾液、痰、鼻汁、脳脊髄液、間質液、リンパ液、精液、膣液、または糞便を含む、項目54に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】
図1Aは、連続流動サンプリングプローブを使用する分析器具の音響装填のためのシステムを図式的に図示する。
【0032】
【
図1B】
図1Bは、本出願者の教示の種々の側面による、音響液滴出射システムに関連付けられ、質量分析計システムのエレクトロスプレーイオン源とインターフェースをとられるサンプリングプローブを備えている、例示的システムを図式的に図示する。
【0033】
【
図2】
図2は、本明細書では「サンプリング先端」とも称される流動プローブの開放ポートにおける可能な流動パターンを図式的に図示する。
【0034】
【
図3】
図3は、実施例1に説明されるように、MSピーク形状に対する末端流動パターンの影響を評価するリアルタイム質量分光(MS)分析の結果を提供する。
【0035】
【
図4-1】
図4A、4B、4C、4D、4E、4F、および4Gは、実施例2に説明されるように、垂滴モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【
図4-2】
図4A、4B、4C、4D、4E、4F、および4Gは、実施例2に説明されるように、垂滴モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【
図4-3】
図4A、4B、4C、4D、4E、4F、および4Gは、実施例2に説明されるように、垂滴モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【
図4-4】
図4A、4B、4C、4D、4E、4F、および4Gは、実施例2に説明されるように、垂滴モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【0036】
【
図5-1】
図5A、5B、5C、5D、5E、5F、および5Gは、実施例3に説明されるように、渦モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【
図5-2】
図5A、5B、5C、5D、5E、5F、および5Gは、実施例3に説明されるように、渦モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【
図5-3】
図5A、5B、5C、5D、5E、5F、および5Gは、実施例3に説明されるように、渦モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【
図5-4】
図5A、5B、5C、5D、5E、5F、および5Gは、実施例3に説明されるように、渦モードにおいて動作する流動プローブを使用して取得される質量スペクトルを提供する。
【0037】
【
図6】
図6は、実施例3に同様に説明されるように、流動プローブが渦モードにおいて動作する液滴出射の間の期間に対するイオンピーク形状の変動を評価するリアルタイム質量分光分析の結果を提供する。
【0038】
【
図7】
図7Aおよび7Bは、実施例3に同様に説明されるように、流動プローブが渦モードにおいて動作する一度に(すなわち、迅速に連続して)出射される液滴の数のMSピークに対する影響を評価する実験の結果を図示する、質量スペクトルを提供する。
【0039】
【
図8-1】
図8A、8B、8C、8D、および8Eは、実施例4に説明されるように、流動プローブが渦モードにおいて動作し、50:50メタノール:H
2O溶液中の血漿のβガラクトシダーゼ消化物の種々の濃度を使用する、マトリクスイオン抑制の可能性の評価の結果を図示する、質量スペクトルを提供する。
【
図8-2】
図8A、8B、8C、8D、および8Eは、実施例4に説明されるように、流動プローブが渦モードにおいて動作し、50:50メタノール:H
2O溶液中の血漿のβガラクトシダーゼ消化物の種々の濃度を使用する、マトリクスイオン抑制の可能性の評価の結果を図示する、質量スペクトルを提供する。
【
図8-3】
図8A、8B、8C、8D、および8Eは、実施例4に説明されるように、流動プローブが渦モードにおいて動作し、50:50メタノール:H
2O溶液中の血漿のβガラクトシダーゼ消化物の種々の濃度を使用する、マトリクスイオン抑制の可能性の評価の結果を図示する、質量スペクトルを提供する。
【0040】
【
図9-1】
図9A、9B、9C、および9Dは、実施例4に同様に説明されるように、分析物含有流体サンプル(50:50メタノール:H
2O中、続けて、90%消化血漿中の100nMレセルピン)の1個の液滴および同じ分析物含有流体サンプルの10個の液滴を使用する類似実験の結果を提供する。
【
図9-2】
図9A、9B、9C、および9Dは、実施例4に同様に説明されるように、分析物含有流体サンプル(50:50メタノール:H
2O中、続けて、90%消化血漿中の100nMレセルピン)の1個の液滴および同じ分析物含有流体サンプルの10個の液滴を使用する類似実験の結果を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
別様に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が関連する当業者によって一般的に理解される意味を有する。本発明の説明に特に重要な具体的専門用語は、下で定義される。
【0042】
本明細書および添付される請求項では、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に別様に示さない限り、複数指示物を含む。したがって、例えば、「ある分析物(an analyte)」は、単一の分析物のみではなく、また、2つ以上の異なる分析物の組み合わせを指し、「ある代用構成要素(a substitute component)」は、単一のそのような構成要素または複数の構成要素(例えば、その混合物)等を指す。
【0043】
用語「放射」は、その通常の意味において使用され、エネルギーが、媒体自体のいかなる恒久的変位も引き起こすことなく、媒体の1つの粒子から別のものに移動されるように、媒体を通して進行する波形擾乱の形態におけるエネルギーの放出および伝搬を指す。本発明の文脈において採用される放射は、音響放射である。
【0044】
用語「音響放射」および「音響エネルギー」は、本明細書に同義的に使用され、音波の形態におけるエネルギーの放出および伝搬を指す。他の波形のように、音響放射は、下で議論されるように、集束手段を使用して集束され得る。
【0045】
用語「集束手段」および「音響集束手段」は、レンズのように作用する音響エネルギー源と別個のデバイスによって、または強め合う干渉および弱め合う干渉によって焦点における音響エネルギーの収束をもたらすための音響エネルギー源の空間配置によって、音響波を焦点に収束させるための手段を指す。集束手段は、湾曲面を有する固体部材と同程度に単純であり得る、または、それは、音響放射を向けるために回折を採用するフレネルレンズに見出されるもの等の複雑な構造を含み得る。好適な集束手段はまた、当技術分野で公知であり、例えば、Nakayasu、他の米国特許第5,798,779号およびAmemiya、他の(1997)Proceedings of the 1997 IS&T NIP13 International Conference on Digital Printing Technologies,pp. 698-702に説明されるような位相アレイ方法を含む。
【0046】
本明細書に使用される用語「音響結合」および「音響的に結合される」は、音響放射が、音響エネルギーの実質的損失を伴わずに物体の間で移動されることを可能にするように、物体が別の物体と直接または間接的に接触して設置される状態を指す。2つのアイテムが間接的に音響的に結合されるとき、「音響結合媒体」が、それを通して音響放射が伝達され得る媒介を提供するために必要とされる。したがって、エジェクタは、例えば、エジェクタを流体中に浸漬させることによって、またはエジェクタと流体との間に音響結合媒体を間置し、エジェクタによって発生させられる音響放射を音響結合媒体を通して流体中に移動させることによって、流体に音響的に結合され得る。
【0047】
本明細書に使用されるような用語「リザーバ」は、流体を保持または含むための容器、チャンバ、または表面領域を指す。したがって、リザーバ内の流体は、必然的に、自由表面、すなわち、液滴がそれから出射されることを可能にする表面を有する。その最も単純な形態のうちのその1つでは、リザーバは、流体と表面との間の接触の結果としてのみ局所領域内に流体を保持するために十分な湿潤性質を有する固体面上の場所であり得、局所領域は、リザーバとしての役割を果たす。
【0048】
本明細書に使用されるような流体という用語は、非固体である、または少なくとも部分的に、ガス状および/または液体である物質を指す。流体は、最小化、部分的に、または完全に溶媒和される、分散させられる、もしくは懸濁される固体を含有し得る。流体の実施例は、限定ではないが、水性液体(水それ自体および塩水を含む)ならびに有機溶媒等の非水性液体を含む。流体は、着目分析物が多くの成分のうちの1つの成分にすぎない生物学的サンプル流体であり得る。
【0049】
例えば、内側毛細管および外側毛細管を指す用語「毛細管」は、略管形構造、すなわち、伸長かつ中空であり、開放する、閉鎖される、またはシステム内の他の構造に接続され得る第1および第2の端部を伴う構造を示すことを意図している。用語が本明細書に使用されるような「管」は、必ずしも完全な円筒ではなく、したがって、管の長さに沿って直径または壁厚さにおいて変動し得る。管と同じ機能を果たし得る非円筒形構造も、想定される(円錐形または長方形構造等)。
【0050】
同様に、用語「同軸」は、ほぼ同軸であり、必ずしも厳密に同軸ではない内側毛細管および外側毛細管を指すように使用され、入れ子管状構造の長さに沿って内側管と外側管との間に間隙が存在することを提供する。
【0051】
用語「管」は、毛細管と無関係の文脈において使用されるとき、流体を格納することが可能であり、従来通りに管形である場合とそうではないこともある単一の容器を指す。
【0052】
用語「間隙」は、リザーバ内の流体サンプルの表面と流体表面に最近接する流動プローブのサンプリング先端との間の空間を指す。間隙は、非固体および非液体である領域を含み、例えば、空隙または不活性ガス等を含む間隙であり得る。間隙は、わずかな液滴直径と同程度に小さくあり得る、または、それは、液滴がそれらのサイズに対して非常に遠くまで上向きに進行し得る限りにおいて、有意により大きくあり得る。2.5nL液滴に関して、例えば、間隙は、約300pm~約30mmに及び、液滴直径の約200倍であり得る。
【0053】
本明細書に使用されるような用語「部分」は、任意の特定の組成物、例えば、分子フラグメント、無傷の分子(モノマー分子、オリゴマー分子、またはポリマーを含む)、もしくは物質の混合物(例えば、合金または積層体)を指す。
【0054】
本明細書に使用されるような用語「近傍」は、集束音響放射の焦点から、それから液滴が出射されるべき流体の表面までの距離を指し、その距離が、流体に向けられた集束音響放射が、流体表面からの液滴出射をもたらし、したがって、当業者が、簡単かつ日常的な実験を使用して任意の所与の流体に関する適切な距離を選択することが可能になるようなものとなるはずであることを示す。しかしながら、概して、音響放射の焦点と流体表面との間の好適な距離は、流体中の音速の波長の約1~約15倍の範囲内であり、より典型的には、その波長の約1~約10倍の範囲内であり、好ましくは、その波長の約1~約5倍の範囲内である。
【0055】
例えば、語句「実質的に同じリザーバ」におけるような用語「実質的に」は、音響性質において物質的に逸脱しないリザーバを指す。例えば、「実質的に同じリザーバ」の音響減衰は、10%以下、好ましくは、5%以下、より好ましくは、1%以下、最も好ましくは、最大0.1%だけ互いに逸脱する。用語「実質的に」の他の使用も、類似の定義を伴う。
【0056】
流体サンプル中の「分析物」は、任意の着目分析物であり得る。分析物の実施例は、限定ではないが、薬物、代謝物、阻害物質、リガンド、受容体、触媒、合成ポリマー、およびアロステリック効果剤を含む。多くの場合、分析物は、本明細書では「生物学的分子」とも称される「生体分子」、すなわち、自然発生する、組換え的に産生される、全体的または部分的に化学合成される、もしくは化学的または生物学的に修飾されるかどうかにかかわらず、生命有機体の一部であった、または一部であり得る、任意の有機分子である。その用語は、例えば、ヌクレオチド分析物、ペプチド性分析物、およびサッカリド分析物を包含する。
【0057】
ヌクレオチド分析物は、ヌクレオシドまたはヌクレオチドそれ自体であり得るが、また、従来のプリンおよびピリミジン塩基、すなわち、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)、およびウラシル(U)だけではなく、また、その保護された形態を含むヌクレオシドおよびヌクレオチドを含み得、例えば、塩基は、アセチル、ジフルオロアセチル、トリフルオロアセチル、イソブチリルまたはベンゾイル、ならびにプリンおよびピリミジン類似体等の保護基で保護される。好適な類似体は、当業者に公知であり、関連するテキストおよび文献に説明されている。一般的な類似体は、限定ではないが、1-メチルアデニン、2-メチルアデニン、N6-メチルアデニン、N6-イソペンチル-アデニン、2-メチルチオ-N6-イソペンチラデニン、N,N-ジメチルアデニン、8-ブロモアデニン、2-チオシトシン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、5-エチルシトシン、4-アセチルシトシン、1-メチルグアニン、2-メチルグアニン、7-メチルグアニン、2,2-ジメチルグアニン、8-ブロモグアニン、8-クロログアニン、8-アミノグアニン、8-メチルグアニン、8-チオグアニン、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、5-エチルウラシル、5-プロピルウラシル、5-メトキシウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-(メチル-アミノメチル)ウラシル、5-(カルボキシメチルアミノメチル)-ウラシル、2-チオウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、5-(2-ブロモビニル)ウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、プソイドウラシル、1-メチルプソイドウラシル、クオシン、イノシン、1-メチルイノシン、ヒポキサンチン、キサンチン、2-アミノプリン、6-ヒドロキシアミノプリン、6-チオプリン、および2,6-ジアミノプリンを含む。加えて、用語「ヌクレオシド」および「ヌクレオチド」は、従来のリボースおよびデオキシリボース糖だけではなく、他の糖も同様に含むそれらの部分を含む。修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオチドはまた、糖部分に対する修飾を含み、例えば、ヒドロキシル基のうちの1つ以上のものは、ハロゲン原子または脂肪族器と置換される、もしくはエーテル、アミン等として官能化される。
【0058】
ヌクレオチド分析物はまた、オリゴヌクレオチドを含み、本発明の目的のための用語「オリゴヌクレオチド」は、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含む)、ポリリボヌクレオチド(D-リボースを含む)、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドである任意の他のタイプのポリヌクレオチド、および非ヌクレオチドバックボーンを含む他のポリマーの総称である。したがって、本明細書におけるオリゴヌクレオチド分析物は、オリゴヌクレオチド修飾、例えば、類似体を用いた自然発生ヌクレオチドのうちの1つ以上のものの代用、例えば、非荷電リンケージを伴うもの(例えば、メチルホスホン酸、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメート等)、負に荷電したリンケージを伴うもの(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)、および正に荷電したリンケージを伴うもの(例えば、アミノアルキルホスホルアミデートおよびアミノアルキルホスホトリエステル)を伴うもの、例えば、タンパク質(ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジン等を含む)等のペンダント部分を含むもの、インターカレータ(例えば、アクリジン、ソラレン等)を伴うもの、キレータ(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属等)を含むもの等のヌクレオチド間修飾を含み得る。用語「ポリヌクレオチド」と「オリゴヌクレオチド」との間の長さにおけるいかなる区別も意図されず、これらの用語は、同義的に使用される。これらの用語は、分子の一次構造のみを指す。本明細書に使用されるように、ヌクレオチドおよびポリヌクレオチドに関する記号は、IUPAC-IUB Commission of Biochemical Nomenclature recommendations(Biochemistry 9:4022,1970)による。
【0059】
「ペプチド性」または「ペプチド」分析物は、1つ以上のアミノ酸から成る任意の構造を含み、したがって、ペプチド、ジペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質を含むことを意図している。ペプチド性分析物の全てまたは一部を形成するアミノ酸は、例えば、Rosenberg、他の米国特許第5,679,782号に説明されるように、20個の従来の自然発生アミノ酸、すなわち、アラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、リジン(K)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、トリプトファン(W)、およびチロシン(Y)、ならびに従来のアミノ酸の異性体または修飾等の非従来型のアミノ酸、例えば、D-アミノ酸、非タンパク質アミノ酸、翻訳後修飾アミノ酸、酵素的修飾アミノ酸、b-アミノ酸、アミノ酸を模倣するように設計された構築物または構造(例えば、a,a-二置換アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、乳酸、b-アラニン、ナフチルアラニン、3-ピリジルアラニン、4-ヒドロキシプロリン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリジン、およびノルロイシン)、ならびに他の非従来型のアミノ酸のうちのいずれかであり得る。ペプチド性分析物はまた、非ペプチド性バックボーンリンケージを含有し得、自然発生アミド-CONH-リンケージは、ペプチドバックボーン内の1つ以上の部位においてN-置換アミド、エステル、チオアミド、レトロペプチド(-NHCO-)、レトロチオアミド(-NHCS-)、スルホンアミド(-SO2NH-)、および/またはペプトイド(N-置換グリシン)リンケージ等の非従来型のリンケージと置換される。故に、ペプチド分析物は、プソイドペプチドおよびペプチド模倣薬を含むことができる。ペプチド分析物は、(a)自然発生する、(b)化学合成によって産生される、(c)組換えDNA技術によって産生される、(d)より大きい分子の生化学的または酵素的断片化によって産生される、(e)上記に列挙される方法(a)-(d)の組み合わせからもたらされる方法によって産生される、または(f)ペプチドを産生するための任意の他の手段によって産生されることができる。
【0060】
サッカリド分析物は、限定ではないが、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、ムコ多糖類、またはペプチドグリカン(ペプチド多糖類)等を含む。
【0061】
分析物を「含む」サンプルの言及は、分析物の同定は未知であり得るが、分析物を含むことが既知であるサンプル、および分析物を含む疑いがあり、その場合、分析器具が分析物の存在または不在を検出するために使用されるサンプルの両方を含む。
【0062】
本明細書に使用されるような用語「アレイ」は、リザーバ(例えば、ウェルプレート内のウェル)の配置または(オリゴヌクレオチドもしくはペプチドアレイにおけるような)基板表面上の流体液滴または分子部分の配置等の特徴の2次元または3次元配置を指す。アレイは、概して、例えば、直線グリッド、平行ストライプ、螺旋等において規則的に順序付けられる特徴から成るが、順序付けられていないアレイも、有利なこととして、同様に使用され得る。アレイは、パターンが必ずしも規則的な順序付けられた特徴を含有しないという点において、パターンと異なる。加えて、本明細書に提供されるように、表面上に出射された液滴の堆積によって形成されるアレイおよびパターンは、通常、人間の肉眼に実質的に不可視である。アレイは、必然的にではないが、典型的には、概して、約4個~約1,000,000個の特徴の範囲内で、少なくとも約4個~約10,000,000個の特徴を備えている。
【0063】
「能動的流動制御」は、流動プローブのサンプリング先端における流体界面を能動的に管理し、その場所における流体パターンまたは構成(時として、本明細書では「末端流動パターン」と称される)を維持し、サンプル導入および送達のための理想的な初期条件を提供するためのプロセス制御原理の適用を指す。能動的流動制御は、使用の間の溶媒流入速度および溶媒吸引速度(順に、ガス流入速度に比例する)の相対値を制御し、概して、臨界渦または超臨界渦、好ましくは、超臨界渦の形状における最適な末端流動パターンを維持することを伴う。本明細書に使用されるような能動的流動制御は、約1nL/分以内の流体体積流量の精密な制御を可能にする。
【0064】
用語「サンプル導入」は、流動プローブのサンプリング先端の中への液滴の音響出射を指す。その用語は、「サンプル装填」と同義的に使用される。その用語はまた、流動プローブを通した輸送後の分析器具の中へのサンプルの間接的な「導入」および「装填」を包含する。
【0065】
それらの用語が本明細書に使用されるような「連続流動サンプリングプローブ」または「流動プローブ」は、略垂直に整合された略同軸の管との自洗式サンプリング界面を伴い、サンプリング端部(本明細書では「開放ポート」および「サンプリング先端」とも称される)において開放し、溶媒を管類の環状部を通してサンプリング先端に送達し、溶媒を質量分析計または分析器具のイオン化源に接続される中心管の中に引き込む配置におけるサンプリングプローブを指す。溶媒は、典型的には、ネブライジング吸引を使用して、中心管の中に引き込まれる。界面への溶媒送達速度は、精密に吸引速度のバランスをとるように制御され、安定したサンプリング界面を生成することができる。
【0066】
「層流」(当技術分野では低レイノルズ数流れまたは流線流とも称される)が、流体が、層の間にいかなる途絶も伴わず、平行な流線において流動するときに起こる。層流では、流体の粒子の運動は、非常に整然とし、全ての粒子は、管壁に平行な直線に移動し、隣接する層が、互いにすれ違う。流動の方向に垂直ないかなる逆流も存在せず、流体のいかなる渦巻または旋回も存在せず、したがって、いかなる側面混合も、起こらない。層流は、レイノルズ数によって定義される、それが、乱流になる閾値を下回る、より低い流体速度において起こる傾向がある。
【0067】
「検出限界(LOD)」は、記載される信頼限界(概して、1%)以内の物質の不在(ブランク値)から区別され得るその物質の最低量である。LODは、ブランクの標準偏差の3倍として定義される。LODにおける信号に関して、アルファエラー、すなわち、誤検出の確率は、低い(1%)。しかしながら、ベータエラー、すなわち、未検出の確率は、LODにおける濃度を有するサンプルに関して50%である。これは、サンプルがLODにおける不純物を含有し得るが、測定がLODを下回る結果を与えるであろう可能性が50%あることを意味する。
【0068】
LOD=Sreag+3×σreag
式中、Sreagは、試薬ブランクに関する信号であり、σreagは、試薬ブランクの信号に関する既知の標準偏差である。
【0069】
「定量限界(LOQ)」は、2つの異なる値の間の差異を合理的に判断し得る限界である。LOQは、10×ブランクの標準偏差として定義される。LOQにおいて、未検出の可能性は殆どない。
【0070】
LOQ=Sreag+10×σreag
式中、Sreagおよびσreagは、上記のように定義される。
【0071】
「ポアズイユの法則」は、毛細管を通して単位時間あたりに通過する均質な流体の体積が、その端部の間の圧力差およびその内半径の四乗に正比例し、その長さおよび流体の粘度に反比例する原理である。
【0072】
「乱流」は、カオス性の性質変化によって特徴付けられる流動形態を指す。乱流における容易に利用可能なエネルギー供給は、流体混合物の均質化を加速させる傾向がある。強化された混合および流動における質量、運動量、ならびにエネルギー輸送の増加された速度に関与する特性は、「拡散率」と呼ばれる。乱流は、非ゼロ渦度を有し、渦伸長として公知の強力な3次元渦発生機構によって特徴付けられる。乱流は、運動エネルギーが粘性剪断応力によって内部エネルギーに変換されるにつれて急速に放散するため、乱流を持続するために、永続的なエネルギー供給源が、要求される。
【0073】
「渦」は、直線または曲線であり得る、流動が軸線の周囲を回転している流体中の領域である。渦は、乱流の主要な成分である。速度の分布、渦度(流速の渦巻)、ならびに循環の概念が、渦を特性評価するために使用される。殆どの渦では、流体流速は、その軸に隣り合って最も大きく、軸からの距離に反比例して減少する。外力の不在下では、流体内の粘性摩擦は、より大規模な渦を含む、大規模な流動に場合によっては重ねられる非回転領域の集まりへと流動を編成する傾向がある。形成されると、渦は、複雑な方法で移動する、延伸する、捩れる、および相互作用し得る。移動する渦は、それにある程度の角度および線形運動量、エネルギー、ならびに質量を伴う。
【0074】
本発明は、分析物含有流体の極めて小さい液滴、すなわち、ナノリットルサイズの液滴を連続流動サンプリングプローブのサンプリング先端の中に輸送するために、音響液滴出射(「ADE」)を利用し、液滴は、循環溶媒と組み合わせられ、次いで、分析物-溶媒希釈液として、質量分析計、代替分光法デバイス、分離システム等の分析器具への後続移送のための出口に輸送される。分析器具は、異なる機能を実施する2つ以上の個々のシステム、例えば、分離システムおよび質量分析計等の分析物検出システムを包含してもよい。本発明のシステムおよび方法は、サンプルの間の時間、すなわち、第1のサンプルの装填と後続サンプルの装填との間の時間、および/または同じ流体リザーバからの連続的液滴出射の間の時間を実質的に低減させる。本発明はまた、サンプル間浄化の必要性を排除し、マトリクスイオン抑制を有意に低減させる。本発明によって達成される多数の他の利点が、本明細書の別の場所に記述される、および/または当業者に明白となるであろう。
【0075】
音響出射は、所定の一貫したサイズのナノリットルサイズの液滴の迅速な処理ならびに発生を可能にする(Stearns、他の米国特許第6,416,164号(参照することによって本明細書に前述で組み込まれる)参照)。前述の特許は、流体表面から音響的に出射された液滴のサイズが、音響出力、音響周波数、トーンバースト持続時間、および/または集束レンズのF値を変動させることによって注意深く制御され得る方法を説明し、レンズは、概して、好ましい約2を上回るF値を有する。ADEは、したがって、「超単分散」液滴の出射を可能にし、それは、本発明の文脈では、流体サンプルからの液滴の繰り返される出射が、約1%の変動係数をもたらすことを意味する。これは、順に、分析のためのシステムの中への精密かつ所定の量における流体サンプルの導入を可能にする。音響出射を使用する追加の利点は、液滴が、約5μl以下の非常に小さいサンプルサイズから出射され得ることである。これは、特に、サンプル可用性が限定され、必要に迫られて小さい流体サンプルが分析されなければならないときに有利である。処理能力の観点から、Mutz、他の米国特許第6,938,995号は、複数のリザーバ内の流体サンプルの音響評価と併用される音響出射技術が、1秒あたり5、10、またはさらには25個を上回るリザーバの分析、転じて、1日あたり50,000個を優に超える流体サンプルの分析を達成し得ることを解説している。
【0076】
音響出射技術を使用して可能な精度のため、システムは、非常に小さいサイズのサンプル流体液滴を音響的に出射するために使用されることができる。しかしながら、本発明は、この点において限定されず、音響的に出射された液滴の体積は、約0.5pL~約3mLに及び得る。多くの用途に関して、本発明のシステムは、分析のためのナノリットルサイズの流体液滴を発生させるために使用され、「ナノリットルサイズ」の液滴は、概して、約0.5pL~2.0nL、約0.5pL~1.5nL、約0.5pL~1.0nL、約1.0pL~2.0nL、約1.0pL~1.5nL、約1.0pL~1.0nL等の範囲を含む、最大約30nL、典型的には、約10nL以下、好ましくは、約5.0nL以下、より好ましくは、1.0nL以下、約50pL以下、約25pL以下、および約1pL以下等の約3.0nL以下の流体サンプルを含む。典型的な動作範囲は、約1nL~約30nLの範囲内の液滴を生産する。流体サンプルの表面からの液滴の音響出射は、下で詳細に議論されるであろうような音響エジェクタを使用して実行される。音響出射技術は、高処理能力処理、特に、HTMSが容易に自動化されたサンプル調製および装填の欠如、サンプルを節約する必要性、相互汚染を排除する必要性、流体リザーバから分析デバイスの中に直接進めないこと、および適切なサイズの液滴を発生させることができないことによって妨げられている限りにおいて、高処理能力質量分析法(HTMS)に特に好適である。
【0077】
一実施形態では、次いで、本発明のシステムおよび方法は、液滴を連続流動サンプリングプローブのサンプリング先端の中に出射するために、流体サンプル液滴発生デバイスとして音響エジェクタを利用する。音響エジェクタは、流体の表面から上向きの、かつ流動プローブのサンプリング先端に向かう、その中への流体液滴の出射を引き起こす様式で、分析物含有流体サンプルを格納しているリザーバの中に音響エネルギーを向ける。システムはまた、リザーバおよび音響エジェクタを音響結合関係に位置付ける手段を含む。典型的には、音響放射発生器と、音響放射発生器によって発生させられる音響放射を集束させるための集束手段とから成る単一のエジェクタが、使用される。しかしながら、複数のエジェクタが、有利なこととして、同様に使用され得る。同様に、単一のリザーバが使用され得るが、デバイスは、典型的には、例えば、アレイとしての複数のリザーバを含む。システムが複数のリザーバの各々から分析物含有流体サンプルの液滴を出射するために使用されるとき、位置付け手段が、音響エジェクタに対して(例えば、移動可能ステージ上に位置付けられ得る)リザーバを含む基板を移動させるために(または逆もまた同様である)組み込まれる。一連のリザーバの各々からの流体液滴の迅速かつ連続的音響出射が、それによって、容易に促進される。いずれかのタイプの位置付けシステム、すなわち、エジェクタ位置付け手段またはリザーバもしくはリザーバ基板位置付け手段が、例えば、モータ、レバー、滑車、ギヤ、それらの組み合わせ、または他の電気機械的もしくは機械的手段から構築されることができる。
【0078】
任意の音響液滴出射システムが、システムおよび方法と併用されることができるが、好ましいADEシステムは、以下の米国特許(共通する全てが本明細書で譲渡され、参照することによって本明細書に組み込まれる)、すなわち、Steams、他の米国特許第6,416,164号、Ellson、他の第6,666,541号、Ellson、他の第6,603,118号、Ellson、他の第6,746,104号、Ellson、他の第6,802,593号、Ellson、他の第6,938,987号、Mutz、他の第7,270,986号、Ellson、他の第7,405,395号、およびMutz、他の第7,439,048号に説明されるものである。本明細書に使用するための好ましいADEシステムは、Labcyte Inc.から入手可能なもの、特に、高い正確度、精度、および速度で広い範囲の流体クラスを出射し得る、Echo(登録商標) 525、Echo(登録商標) 550、およびEcho(登録商標) 555 Liquid Handlerを含む、Echo(登録商標) 500シリーズLiquid Handlerシステムである。
【0079】
上記特許に説明されるように、音響出射デバイスは、単一のリザーバから、または複数のリザーバから流体液滴を出射するように構築され得る。構成要素のモジュール性および互換性を提供するために、時として、デバイスが、複数の可撤性リザーバ、例えば、ラックまたは同等物内の管と併用されることが好ましくあり得る。概して、リザーバは、各リザーバに個々の体系的アドレス指定能力を提供するために、パターンまたはアレイにおいて配置される。加えて、リザーバの各々は、別々のまたは独立型容器として提供され得るが、多数のリザーバを要求する状況では、リザーバが、統合された複数リザーバユニット内に含まれることが好ましい。実施例として、複数リザーバユニットは、その上で離散流体含有領域が、表面湿潤性質によって定位置に維持される固体面であり得、各局所流体含有領域が、リザーバを構成する。別の実施例として、複数リザーバユニットは、ウェルプレートであり得、個々のウェルが、リザーバとしての役割を果たす。デバイスと併用するために好適な多くのウェルプレートは、商業的に入手可能であり、例えば、ウェルプレートあたり96、384、1,536、または3,456個のウェルを含有し、フルスカートを有する、ハーフスカートを有する、またはスカートなしであり得る。ウェルプレートまたはマイクロタイタプレートは、一般的に使用される実験室アイテムになっている。ラボラトリオートメーションスクリーニング協会(SLAS)は、米国国家規格協会と合同して、占有面積および寸法規格ANSI/SLAS 1-2004を含む、マイクロタイタプレートに関する規格を確立し、維持している。そのようなウェルプレートのウェルは、概して、直線アレイの形態にある。
【0080】
そのような商業的に入手可能なウェルプレートの可用性は、少なくとも約10,000個のウェル、または100,000~500,000個もの数のウェル、もしくはそれを上回るものを含む他の幾何学的構成におけるカスタム作製ウェルプレートの製造および使用を妨げない。さらに、リザーバの構築において使用される材料は、その中に含まれる流体サンプルと適合する必要がある。したがって、リザーバまたはウェルが、アセトニトリル等の有機溶媒を含むことを意図している場合、アセトニトリル中で溶解または膨張するポリマーは、リザーバまたはウェルプレートを形成するときに使用するために好適ではないであろう。同様に、DMSOを含むことが意図されるリザーバまたはウェルは、DMSOと適合する必要がある。水性流体に関して、いくつかの材料が、リザーバの構築のために好適であり、限定ではないが、酸化ケイ素および酸化アルミニウム等のセラミック、ステンレス鋼および白金等の金属、ならびにポリエステル、ポリプロピレン、環状オレフィンコポリマー(例えば、Nippon ZeonからのZeonex(登録商標)およびTiconaからのTopas(登録商標)として商業的に入手可能なもの)、ポリスチレン、およびポリテトラフルオロエチレン等のポリマーを含む。感光性である流体に関して、リザーバは、デバイスの機能が実質的に損なれないために、十分な音響透過性を有する光学的に不透明な材料から構築され得る。
【0081】
加えて、動作の間に音響放射発生器を各リザーバまたはリザーバウェルと整合させるために必要とされる移動および時間の量を低減させるために、各リザーバの中心が、近傍のリザーバ中心から、約1センチメートル以下、より好ましくは、約1.5ミリメートル以下、なおもより好ましくは、約1ミリメートル以下、最適には、約0.5ミリメートル以下に位置することが好ましい。これらの寸法は、リザーバのサイズを最大容積に限定する傾向がある。リザーバは、典型的には、約1mL以下、好ましくは、約100μL以下、より好ましくは、約1μL以下、最適には、約1nL以下の流体を含むように構築される。複数のリザーバの取扱を促進するために、リザーバが、実質的に音響的に区別不可能であることも、好ましい。
【0082】
システムおよび方法と併用される音響出射デバイスは、少なくとも約250Hzの速度における液滴の音響出射を可能にするが、500Hz、1kHz、またはそれよりも高いものを含むより高い出射速度が、可能であり、より小さい液滴は、より高い繰り返し率を可能にする。デバイスはまた、ウェルプレートまたは個々の管のラックの場合のようにアレイにおいて配置され得る、複数のリザーバの各々から液滴を迅速に出射することが可能である。すなわち、基板位置付け手段またはエジェクタ位置付け手段が、エジェクタを一連の流体リザーバの各々に迅速に連続して音響的に結合し、それによって、異なるリザーバからの流体サンプル液滴の高速かつ制御された出射を可能にする。現在の商業的に利用可能な技術は、高性能位置付け手段に関して約0.1秒未満および通常の位置付け手段に関して約1秒未満における各リザーバにおける繰り返し可能かつ制御された音響結合を用いて、基板がエジェクタに対して移動される、および/またはエジェクタが同じ基板内で1つのリザーバから別のものに移動されることを可能にする。Ellson、他の米国特許第6,666,541号に解説されるように、カスタム設計システムは、リザーバ間遷移時間(音響出射事象の間の時間と同等)を約0.001秒未満に短縮することができる。カスタム設計システムを提供するために、2つの基本的な種類の運動、すなわち、パルスおよび連続が存在することを念頭におくことが重要である。パルス運動は、エジェクタが基板内のリザーバに音響的に結合され、液滴をリザーバ内のサンプル流体から音響的に出射し、エジェクタが次のリザーバに音響的に結合されるように基板および/またはエジェクタを再位置付けするように、基板またはエジェクタを定位置に移動させる離散ステップを伴う。そのような方法と高性能位置付け手段を併用することは、0.1秒未満における各リザーバにおける繰り返し可能かつ制御された音響結合を可能にする。一方、連続運動設計は、基板および/またはエジェクタを同じ速度においてではないが、連続的に移動させ、移動の間に出射を提供する。パルス幅は、非常に短いため、本タイプのプロセスは、10Hzを上回るリザーバ遷移、さらには1,000Hzを上回るリザーバ遷移を可能にする。
【0083】
振動要素または超音波トランスデューサが、音響放射を発生させるために使用される。超音波トランスデューサは、典型的には、アクチュエータと、アクチュエータによって生産された音響エネルギーを集中させる集束要素とを含み、アクチュエータの実施例は、圧電および磁歪要素を含み、圧電トランスデューサが、概して、必ずしもそうではないが、本明細書において好ましい。動作時、アクチュエータは、超音波駆動周波数における信号によって駆動され、能動的物理的要素内に超音波振動を生産する。これらの振動は、音響結合媒体の中に、それを通して、かつ流体サンプルを格納しているリザーバの中に伝達される。代替として、単一のトランスデューサが、使用されることができる、またはある場合には、トランスデューサアセンブリを備えている複数要素音響放射発生器が、使用され得る。例えば、線形音響アレイ、曲線音響アレイ、または位相音響アレイが、有利なこととして、複数のリザーバに同時に伝達される音響放射を発生させるために使用され得る。
【0084】
本発明の代表的システムが、
図1Aに図示される。同様の部分が同様の番号によって参照される、本明細書に参照される全ての図のように、
図1Aは、縮尺通りではなく、ある寸法は、提示の明確化のために誇張される。
図1Aでは、音響液滴出射デバイスは、概して、11において示され、液滴49を、概して、51において示される連続流動サンプリングプローブ(時として、以降では単純に「流動プローブ」と称される)に向かって、かつそのサンプリング先端53の中に出射する。
【0085】
音響液滴出射デバイス11は、少なくとも1つのリザーバを含み、第1のリザーバが、13において示され、随意の第2のリザーバが、31において示される。いくつかの実施形態では、さらなる複数のリザーバが、提供され得る。各リザーバは、流体表面を有する流体サンプル、例えば、それぞれ、17および19において示される流体表面を有する第1の流体サンプル14および第2の流体サンプル16を格納するように構成される。流体サンプル14および16は、同じであることも、異なることもあるが、概して、それらが、通常、分析器具(図示せず)に輸送され、それにおいて検出されることが意図される2つの異なる分析物を含むであろう限りにおいて、異なる。本節の前述で解説されるように、分析物は、生体分子または生体分子以外の高分子であり得る、もしくはこれは、小さい有機分子、無機化合物、イオン化原子、または任意のサイズ、形状、もしくは分子構造の任意の部分であり得る。加えて、分析物は、流体サンプルの液体成分中に溶解、懸濁、または分散させられ得る。
【0086】
図1Aに図示されるように、2つ以上のリザーバが使用されるとき、リザーバは、好ましくは、実質的に同じであり、実質的に音響的に区別不可能であることの両方であるが、同じ構造は、要件ではない。本節に前述で解説されるように、リザーバは、トレイ、ラック、または他のそのような構造内の別個の可撤性構成要素であり得るが、それらはまた、プレート、例えば、ウェルプレートまたは他の構造内に固定され得る。各リザーバは、好ましくは、示されるように、実質的に軸方向に対称であり、それぞれ、円形リザーバ基部25および27から上向きに延び、開口部29および31において終端する垂直壁21および23を有するが、他のリザーバ形状およびリザーバ基部形状が、使用され得る。各リザーバ基部の材料および厚さは、音響放射がそれを通して、かつ各リザーバ内に含まれる流体サンプルの中に伝達され得るようなものであるべきである。
【0087】
音響液滴出射デバイスは、音響放射発生器35と、流体表面の近傍の流体サンプル内の焦点47に発生させられる音響放射を集束させるための集束手段37とを含む、音響エジェクタ33を備えている。
図1Aに示されるように、集束手段37は、音響放射を集束させるための凹状面39を有する単一の固体片を備え得るが、集束手段は、下で議論されるような他の方法で構築され得る。音響エジェクタ33は、したがって、それぞれ、リザーバ13および15に、したがって、流体14および16に音響的に結合されるとき、流体表面17および19の各々から流体の液滴を出射するように、音響放射を発生および集束させるように適合される。デバイスの所望の性能に応じて、音響放射発生器35および集束手段37は、単一のコントローラによって制御される単一のユニットとして機能してもよい、またはそれらは、独立して制御され得る。
【0088】
当技術分野で公知の湾曲面またはフレネルレンズを含む種々の集束手段のうちのいずれかが、本発明と併せて採用され得る。そのような集束手段は、Lovelady、他の米国特許第4,308,547号およびQuate、他の米国特許第5,041,849号ならびに米国特許出願公開第2002037579号に説明されている。加えて、エジェクタを各個々のリザーバに、したがって、その中の流体に音響的に結合するためのいくつかの方法が存在する。音響結合は、リザーバ内に含まれる流体との直接接触を通して達成されることができるが、好ましいアプローチは、エジェクタの任意の部分(例えば、集束手段)が出射されるべき流体のいずれにも接触することを可能にすることなく、エジェクタをリザーバおよびリザーバ流体に音響的に結合することである。
【0089】
音響液滴エジェクタ33は、各リザーバの外面と直接接触するか、または間接接触するかのいずれかであり得る。直接接触では、エジェクタをリザーバに音響的に結合するために、直接接触が、効率的な音響エネルギー移動を確実にするために完全に共形であることが好ましい。すなわち、エジェクタおよびリザーバは、噛合接触のために適合される対応する表面を有するべきである。したがって、音響結合が集束手段を通してエジェクタとリザーバとの間で達成される場合、リザーバが、集束手段の表面プロファイルに対応する外面を有することが望ましい。共形接触を伴わないと、音響エネルギー移動の効率および正確度は、損なわれ得る。加えて、多くの集束手段は、湾曲面を有するため、直接接触アプローチは、特別に形成された反形曲面を有するリザーバの使用を必要とし得る。
【0090】
最適には、音響結合は、
図1Aに図示されるように、間接接触を通してエジェクタとリザーバのそれぞれとの間に達成される。図では、音響結合媒体41が、エジェクタ33とリザーバ13の基部25との間に設置され、エジェクタおよびリザーバは、相互から所定の距離に位置する。音響結合媒体は、音響結合流体、好ましくは、音響集束手段37およびリザーバの下側の両方と共形接触する音響的に均質な材料であり得る。加えて、流体媒体に、流体媒体自体と異なる音響性質を有する材料が実質的にないことを確実にすることが、重要である。示されるように、第1のリザーバ13は、音響放射発生器によって発生させられた音響波が、集束手段37によって音響結合媒体41の中に向けられ、それが、次いで、音響放射をリザーバ13の中に伝達するように、音響集束手段37に音響的に結合される。システムは、
図1Aに図示されるように、単一の音響エジェクタを含み得る、または前述で記述されるように、それは、複数のエジェクタを含み得る。液滴設置の正確度ならびに液滴サイズおよび速度の一貫性は、単一のエジェクタを用いてより容易に達成されるため、単一エジェクタ設計が、概して、複数エジェクタ設計よりも好ましい。しかしながら、本発明は、単一エジェクタ設計に限定されない。
【0091】
動作時、デバイスのリザーバ13および随意のリザーバ15は、
図1Aに示されるように、それぞれ、第1および第2の流体サンプル14および16を用いて充填される。音響エジェクタ33は、リザーバ13の真下に位置付けられ、エジェクタとリザーバとの間の音響結合が、音響結合媒体41を用いて提供される。最初に、音響エジェクタは、サンプリング先端がリザーバ13内の流体サンプル14の表面17に面するように、流動プローブ51のサンプリング先端53の真下に位置付けられる。エジェクタ33およびリザーバ13が、サンプリング先端53の下方で適切に整列すると、音響放射発生器35は、集束手段37によって第1のリザーバの流体表面17の近傍の焦点47に向けられる音響放射を生産するためにアクティブにされる。その結果、液滴49は、流体表面17から、流動プローブ51のサンプリング先端53における液体境界50に向かって、かつその中に出射され、その場所で、それは、流動プローブ53内の溶媒と組み合わせられる。サンプリング先端53における液体境界50のプロファイルは、
図2に関連して下でより詳細に説明されるように、サンプリング先端53を越えて延びていることから、プローブ51の中に内向きに突出することまで変動し得る。複数リザーバシステムでは、リザーバユニット(図示せず)、例えば、マルチウェルプレートまたは管ラックが、次いで、別のリザーバがエジェクタと整合させられ、次の流体サンプルの液滴が出射され得るように、音響エジェクタに対して再位置付けされることができる。流動プローブ内の溶媒は、プローブを通して連続的に循環し、液滴出射事象の間の「飛沫同伴」を最小化する、またはさらには排除する。
【0092】
流体サンプル14および16は、分析器具への移送が所望される任意の流体のサンプルであり、用語「流体」は、本明細書に前述で定義されるようなものである。故に、流体サンプルは、水性液体または非水性液体であり得る液体中に最小化、部分的に、または完全に溶媒和される、分散させられる、もしくは懸濁される固体を含み得る。本発明の一側面では、流体サンプルは、生物学的流体サンプルであり、生物学的流体サンプルの「生物学的サンプル」は、(1)溶媒、試薬、安定化剤、培養液等の1つ以上の追加の物質と組み合わせられる場合とそうではないこともある、もしくは、例えば、前述の物質のうちの1つ以上のものを使用して、ある方法で処理されている場合とそうではないこともある、組織、組織ホモジネート、細胞、細胞懸濁液、細胞抽出液、全血、血漿、漿液、唾液、痰、鼻汁、脳脊髄液、間質液、リンパ液、精液、膣液、糞便等の対象から取得される生物学的物質、(2)細菌、ウイルス、真菌、原生動物等の生物学的実体、(3)細菌、ウイルス、真菌、原生動物等の生物学的実体を含む任意の物質、または(4)その用語が本明細書に前述で定義される生物学的分子を含む流体を指す。各流体サンプルは、対照サンプル、1つ以上の着目分析物を含む流体、または1つ以上の着目分析物を含むことが疑われる流体のいずれかである。
【0093】
流動プローブ51の構造も、
図1Aに示される。任意の数の商業的に入手可能な連続流動サンプリングプローブが、そのまま、または修正された形態において使用されることができ、その全てが、当技術分野で周知なように、実質的に同じ原理に従って動作する。
図1Aに見られ得るように、流動プローブ51のサンプリング先端53は、リザーバ13内の流体表面17から間隔を置かれ、その間に間隙55を伴う。間隙55は、空隙または不活性ガスの間隙であり得る、もしくは、それは、ある他のガス状物質を含み得、サンプリング先端53をリザーバ13内の流体14に接続するいかなる液体ブリッジも存在しない。流動プローブ51は、溶媒源から溶媒を受け取るための溶媒入口57と、溶媒入口57からサンプリング先端53に溶媒流を輸送するための溶媒輸送毛細管59とを含み、その場所で、分析物含有流体サンプル14の出射された液滴49は、溶媒と結合し、分析物-溶媒希釈液を形成する。溶媒ポンプ(図示せず)が、溶媒輸送毛細管の中への溶媒流の速度、したがって、溶媒輸送毛細管59内の溶媒流の速度も同様に制御するために、溶媒入口57に動作可能に接続され、それと流体連通する。
【0094】
プローブ53内の流体流動は、分析器具への後続移送のために、サンプル出口63に向かって内側毛細管73によって提供される分析物-溶媒希釈液をサンプル輸送毛細管61を通して搬送する。サンプル輸送毛細管61に動作可能に接続され、それと流体連通するサンプリングポンプ(図示せず)が、出口63からの出力速度を制御するために提供されることができる。好適な溶媒ポンプおよびサンプリングポンプが、当業者に公知であり、容積式ポンプ、速度ポンプ、浮力ポンプ、シリンジポンプ等を含み、他の実施例も、Van Berkel、他の米国特許第9,395,278号(その開示が、参照することによって本明細書に組み込まれる)に与えられている。好ましい実施形態では、容積式ポンプが、溶媒ポンプ、例えば、蠕動ポンプとして使用され、サンプリングポンプの代わりに、吸引霧化システムが、分析物-溶媒希釈液が、ガス入口67(吸引ネブライザの特徴が当技術分野で周知である限りにおいて、
図1Aに簡略化形態において示される)を介してネブライジングガス源65から導入されるネブライジングガスの流動によって引き起こされるベンチュリ効果によって、それが、サンプル出口63の外側にわたって流動するときにサンプル出口63から引き出されるように使用される。分析物-溶媒希釈液流は、次いで、ネブライジングガスがサンプル出口63にわたって通過するときに発生させられる圧力降下によってサンプル輸送毛細管61を通して上向きに引き込まれ、サンプル輸送毛細管61から退出する流体と組み合わせられる。ガス圧力調整器が、ガス入口67を介したシステムの中へのガス流の速度を制御するために使用される。好ましい様式では、ネブライジングガスは、それが、サンプル出口63を横断して流動するときにサンプル輸送毛細管61を通して分析物-溶媒希釈液を引き込み、ネブライザガスとの混合に応じてサンプル出口における吸引を引き起こすシース流動タイプ様式でサンプル出口63またはその近傍でサンプル輸送毛細管61の外側にわたって流動する。
【0095】
溶媒輸送毛細管59およびサンプル輸送毛細管61は、外側毛細管71ならびにその中に実質的に同軸に配置された内側毛細管73によって提供され、内側毛細管73は、サンプル輸送毛細管を画定し、内側毛細管73と外側毛細管71との間の環状空間は、溶媒輸送毛細管59を画定する。内側毛細管73の寸法は、1ミクロン~1mm、例えば、200ミクロンであり得る。内側毛細管73の外径の典型的な寸法は、100ミクロン~3または4センチメートル、例えば、360ミクロンであり得る。外側毛細管71の内径の典型的な寸法は、100ミクロン~3または4センチメートル、例えば、450ミクロンであり得る。外側毛細管71の外径の典型的な寸法は、150ミクロン~3または4センチメートル、例えば、950ミクロンであり得る。内側毛細管73および/または外側毛細管71の断面積は、円形、楕円形、スーパー楕円形(すなわち、スーパー楕円のような形状)、またはさらには多角形であり得る。
図1Aに図示されるシステムは、溶媒入口57から下向きに、溶媒輸送毛細管59内でサンプリング先端53に向かうような溶媒流の方向、およびサンプリング先端53から上向きに、サンプル輸送毛細管61を通して上向きに、出口63に向かうような分析物-溶媒希釈液流の方向を示すが、方向は、逆転されることができ、流動プローブ51は、必ずしも厳密に垂直であるように位置付けられるわけではない。
図1Aに示される構造の種々の修正が、当業者に明白となるであろう、またはシステムの使用の間に当業者によって推論され得る。
【0096】
システムはまた、外側毛細管71および内側毛細管73に結合される調節器75を含むことができる。調節器75は、外側毛細管先端77および内側毛細管先端79を互いに対して縦方向に移動させるために適合されることができる。調節器75は、内側毛細管73に対して外側毛細管71を移動させることが可能な任意のデバイスであり得る。例示的調節器75は、限定ではないが、電気モータ(例えば、ACモータ、DCモータ、静電モータ、サーボモータ等)、油圧モータ、空気圧モータ、平行移動ステージ、およびそれらの組み合わせを含むモータであり得る。本明細書に使用されるように、「縦方向に」は、プローブ51の長さに延びる軸を指し、内側および外側毛細管73、71は、
図1に示されるように、プローブ51の縦方向軸の周囲に同軸に配置されることができる。随意に、使用に先立って、調節器75は、外側毛細管71が内側毛細管73の端部を越えて突出し、溶媒輸送毛細管59内の溶媒流とサンプル輸送毛細管61内で分析物-溶媒希釈液流61として輸送されるサンプルとの間の最適な流体連通を促進するように、内側毛細管73を縦方向に内向きに引き込むために使用される。
【0097】
加えて、
図1Aに図示されるように、流動プローブ51は、概して、安定性および容易な取扱のために、略円筒形保持器81内に添着される。
【0098】
図1Bは、サンプリングプローブ51の開放端部内に受け取られる分析物をイオン化し、質量分析するための、本出願者の教示の種々の側面による、例示的システム110の実施例を図式的に描写し、システム110は、液滴49をリザーバからサンプリングプローブ51の開放端部の中に注入するように構成される音響液滴注入デバイス11を含む。
図1Bに示されるように、例示的システム110は、概して、1つ以上のサンプル分析物を含む液体を(例えば、エレクトロスプレー電極164を介して)イオン化チャンバ112の中に排出するためのネブライザ支援イオン源160と流体連通するサンプリングプローブ51(例えば、開放ポートプローブ)と、イオン源160によって発生させられるイオンの下流処理および/または検出のためのイオン化チャンバ112と流体連通する質量分析器170とを含む。流体取扱システム140(例えば、1つ以上のポンプ143および1つ以上の導管を含む)が、溶媒リザーバ150からサンプリングプローブ51への、およびサンプリングプローブ51からイオン源160への液体の流動を提供する。例えば、
図1Bに示されるように、溶媒リザーバ150(例えば、液体、脱離溶媒を含む)が、供給導管を介してサンプリングプローブ51に流体的に結合されることができ、それを通して、液体は、全て非限定的実施例として、ポンプ143(例えば、往復ポンプ、回転、ギヤ、プランジャ、ピストン、蠕動、ダイヤフラムポンプ等の容積式ポンプ、または重力、衝撃、空気圧、電気運動、および遠心ポンプ等の他のポンプ)によって選択された体積速度において送達されることができる。下で詳細に議論されるように、サンプリングプローブ51の内外への液体の流動は、1つ以上の液滴が、サンプル先端53において液体境界50の中に導入され、続けてイオン源160に送達され得るように、開放端部においてアクセス可能なサンプル空間内で起こる。示されるように、システム110は、1つ以上の液滴49をリザーバからサンプリングプローブ51の開放端部の中に出射させる、リザーバ(
図1Aに描写されるような)を用いて含まれる液体に印加される音響エネルギーを発生させるように構成される音響液滴注入デバイス11を含む。コントローラ180が、音響液滴注入デバイス11に動作可能に結合されることができ、液滴をサンプリングプローブ51の中に注入するように、または別様に本明細書に議論されるように実質的に連続的に、もしくは非限定的実施例として実験プロトコルの選択された部分に関して、音響液滴注入デバイス11の任意の側面(例えば、集束手段、音響放射発生器、音響放射発生器と整列するように1つ以上のリザーバを位置付けるための自動化手段等)を動作させるように構成されることができる。
【0099】
図1Bに示されるように、例示的イオン源160は、エレクトロスプレー電極164の出口端を囲繞し、それから排出される流体と相互作用する、高速ネブライジングガス流を供給する加圧ガス(例えば、窒素、空気、または希ガス)の源65を含み、例えば、高速ネブライジング流および液体サンプル(例えば、分析物-溶媒希釈液)のジェットの相互作用を介して、サンプルプルームの形成ならびに114bおよび116bによるサンプリングのためのプルーム内のイオン放出を強化することができる。ネブライザガスは、種々の流量において、例えば、約0.1L/分~約20L/分の範囲内で供給されることができ、これはまた、コントローラ180の影響下で(例えば、弁163の開放および/または閉鎖を介して)制御されることができる。本教示の種々の側面によると、ネブライザガスの流量は、サンプリングプローブ51内の液体の流量が、例えば、(例えば、ベンチュリ効果に起因して)これがエレクトロスプレー電極164から排出されている際のネブライザガスおよび分析物-溶媒希釈液の相互作用によって発生させられる吸込み/吸引力に基づいて調節され得るように、(例えば、コントローラ180の影響下で)調節され得ることを理解されたい。
【0100】
描写される実施形態では、イオン化チャンバ112は、大気圧において維持されることができるが、いくつかの実施形態では、イオン化チャンバ112は、大気圧よりも低い圧力まで排気されることができる。その中で、分析物-溶媒希釈液がエレクトロスプレー電極164から排出される際に分析物がイオン化され得る、イオン化チャンバ112は、カーテンプレート開口114bを有するプレート114aによってガスカーテンチャンバ114から分離される。示されるように、質量分析器170を格納する真空チャンバ116は、真空チャンバサンプリングオリフィス116bを有するプレート116aによってカーテンチャンバ114から分離される。カーテンチャンバ114および真空チャンバ116は、1つ以上の真空ポンプポート118を通した排気によって選択された圧力(例えば、同一または異なる低大気圧、イオン化チャンバよりも低い圧力)において維持されることができる。
【0101】
また、当業者によって、本明細書の教示に照らして、質量分析器170が種々の構成を有し得ることが、理解されるであろう。概して、質量分析器170は、イオン源160によって発生させられるサンプルイオンを処理(例えば、濾過、分類、分離、検出等)するように構成される。非限定的実施例として、質量分析器170は、三連四重極質量分析計または当技術分野で公知であり、本明細書の教示に従って修正される任意の他の質量分析器であり得る。本明細書に開示されるシステム、デバイス、および方法の種々の側面に従って修正され得る他の非限定的例示的質量分析計システムは、例えば、「Product ion scanning using a Q-q-Qlinear ion trap(Q TRAP(登録商標))mass spectrometer」と題され、James W. HagerおよびJ. C. Yves Le Blancによって著され、Rapid Communications in Mass Spectrometry(2003; 17:1056-1064)において公開された論文、ならびに「Collision Cell for Mass Spectrometer」と題された米国特許第7,923,681号(参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる)に見出されることができる。限定ではないが、本明細書に説明されるもの、および当業者に公知であるその他を含む、他の構成も、本明細書に開示されるシステム、デバイス、および方法と併用されることができる。例えば、他の好適な質量分析計は、単一四重極、三連四重極、ToF、トラップ、およびハイブリッド分析器を含む。例えば、イオン化チャンバ112と質量分析器170との間に配置され、それらの質量/電荷比ではなく、高および低電場内のドリフトガスを通したそれらの移動度に基づいてイオンを分離するように構成されるイオン移動度分析計(例えば、微分移動度分析計)を含む、任意の数の追加の要素が、システム110内に含まれ得ることをさらに理解されたい。加えて、質量分析器170は、分析器170を通過するイオンを検出し得、例えば、検出される1秒あたりのイオンの数を示す信号を供給し得る検出器を備え得ることを理解されたい。
【0102】
1つ以上のプローブ変数が、方法に先立って、またはその間に操作され得ることを理解されたい。これらのプローブ変数は、実施例として、(i)外側毛細管先端77と内側毛細管先端79との間の距離の変化、すなわち、増加または減少、および(ii)溶媒輸送毛細管59内の溶媒流の流量に対するサンプル輸送毛細管61内の分析物-溶媒希釈液流の流量の変化を含む。これらのプローブ変数は、システムの1つ以上のパラメータを最適化し、したがって、精密かつ能動的な流動制御を提供するために、当業者によって選択されることができる。前述の変数を使用して修正され得るシステムの1つの特徴は、末端流動パターンの形状、すなわち、
図1Aの液体境界50によって図示されるような流動プローブ51のサンプリング先端53における流動構成であり、それは、ADEシステムによって出射される分析物液滴が流動プローブ51内の循環溶媒によって希釈される程度に影響を及ぼし、それは、順に、(本明細書の実施例に確立されるような)後続分光法分析の品質に影響を及ぼす。可能な末端流動パターンが、
図2に図式的に図示され、それぞれ、異なる液体境界場所およびプロファイルを図示する。図に示されるように、末端流動パターンは、超臨界渦、臨界渦、または亜臨界渦の形態にあり得る、もしくはこれは、均一に均衡する、または垂滴をもたらす可能性が高い構成にあり得る。超臨界渦(および比較的程度は低いが臨界渦)が、後続分光法結果の観点からサンプリング先端において最適な流動構成であることが見出されている。(1)溶媒流入速度、したがって、溶媒入口57からサンプリング先端53への溶媒輸送毛細管59を通した溶媒流量と、(2)サンプリング先端53からサンプル出口に向かうサンプル流量との間の流量差は、末端流動パターンを決定する。溶媒流入速度が、概して、ネブライジングガス入口における変化しないガス圧力によって使用の間に固定される外向きのサンプル流量に対して増加するにつれて、末端流動パターンは、超臨界渦から、臨界打渦に、亜臨界渦に、均衡流に、最終的に、垂滴をもたらし得る突出するメニスカスに遷移する。
【0103】
その中に出口63を通して流動プローブから退出する分析物-溶媒希釈液が向けられる分析器具は、分析物を検出する、サンプル中の分析物の量または濃度を決定する、もしくは分析物の化学組成を決定するために使用される任意の器具であり得る。分析器具が、質量分析計または分析物がイオン化形態にあることを要求する他のタイプのデバイスであるとき、退出する液滴は、質量分析計または分析物がイオン化形態にあることを要求する他の分析器具に進入することに先立って、イオン化領域を通過する。イオン化領域では、選択されたイオン化源、例えば、エレクトロスプレーイオン源が、分析物をイオン化形態に変換する。例示的分析器具は、限定ではないが、質量分析計、分光法デバイス、分離システム、およびそれらの組み合わせを含む。例示的イオン化技法は、限定ではないが、化学イオン化、電子衝撃イオン化、脱離化学イオン化、誘導結合プラズマイオン化、ならびにエレクトロスプレーイオン化および大気圧化学イオン化、ならびに大気圧光イオン化を含む大気圧イオン化を含む。例示的分離方法は、限定ではないが、液体クロマトグラフィ、固相抽出、HPLC、キャピラリ電気泳動、または任意の他の液相サンプル浄化もしくは分離プロセスを含む。例示的質量分析計は、限定ではないが、セクタ型質量分析計、飛行時間型質量分析計、四重極質量フィルタ質量分析計、3次元四重極イオントラップ質量分析計、線形四重極イオントラップ質量分析計、トロイダルイオントラップ質量分析計、およびフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計を含む。
【0104】
加えて、本明細書における発明は、音響出射プロセスを最適化する種々の方法を包含することを意図している。例えば、Ellson、他の米国特許第6,932,097号、Ellson、他の第6,938,995号、Ellson、他の第7,354,141号、Qureshi、他の第7,899,645号、Ellson、他の第7,900,505号、Steams、他の第8,107,319号、Ellson、他の第8,453,507号、およびSteams、他の第8,503,266号に説明されるように、上記の音響液滴エジェクタは、リザーバ内の流体の特性評価のために利用され、流体メニスカスの高さならびに流体体積、粘度、密度、表面張力、組成、音響インピーダンス、音響減衰、流体中の音の速度等の他の性質を測定することができ、そのうちのいずれかまたは全ては、次いで、音響出力、音響周波数、トーンバースト持続時間、および/または集束レンズのF値を含む、液滴出射に関する最適なパラメータを決定するために使用されることができる。別の実施例として、音響照会プロセスが、Ellson、他の米国特許第8,544,976号および第8,882,226号に説明されるように、焦点作動音響出射システムにおける音響エジェクタおよび流体含有リザーバの相対位置を最適化するために使用されることができる。追加の実施例は、出射に先立って、リザーバ内の表面から反射される音響放射の波形を分析することによって、流体液滴を出射するために使用される音響放射の振幅を最適化する方法である(Stearns、他の米国特許第7,717,544号および第8,770,691号参照)。液滴サイズおよび一貫性が、Hadimioglu、他の米国特許第6,383,115号の方法を使用して確実にされることができ、リザーバ性質における変動が、Mutz、他の米国特許第7,481,511号およびEllson、他の第7,784,331号の方法を使用して制御されることができる。
【0105】
本発明は、いくつかの具体的実施形態と併せて説明されたが、前述の説明ならびに続く実施例は、本発明の範囲を例証することを意図しており、それを限定することを意図していないことを理解されたい。この点で、本発明の基本的理解のために必要なものよりも詳細に本発明の構造的詳細を示すいかなる試みも、行われておらず、図面および/または実施例とともに検討される説明は、本発明が実践において具現化され得る方法を当業者に明白にする。本開示は、適用可能な法によって許可されるように、本明細書に添付される請求項に列挙される主題の全ての修正および均等物を含む。さらに、本明細書に説明される本発明の要素の任意の組み合わせは、別様に本明細書に示されない、または文脈によって明確に矛盾しない限り、本開示によって包含される。
(実験)
【0106】
音響液滴エジェクタシステムおよび連続流動サンプリングプローブを採用する音響装填デバイスが、
図1Aに示されるように設定された。
図2に示される設定の重要な構成要素は、溶媒を溶媒入口を通して溶媒輸送毛細管の中に駆動する能動的流動制御を伴う精密ポンプと、サンプリング先端に開放ポートを伴う連続流動サンプリングプローブと、ネブライジング吸引器およびイオン源を伴う質量分析計(AB Sciex 5500 QTrap)と、分析物含有流体サンプルの液滴がマルチウェル源プレート内の源ウェルから流動プローブの開放ポートにおける溶媒メニスカスに垂直に出射され得るように位置付けられる、ADE音響液体ハンドラとを含む。
【0107】
Echo(登録商標) 555 Liquid Handler(Labcyte Inc.,San Jose,CA)が、音響液滴エジェクタシステムとしての役割を果たし、超音波トランスデューサアセンブリが、アンビリカルケーブルを介して外部に搭載され、機械的ステージが、流動プローブの開放ポートへの音響源の整合のために組み込まれた。流体サンプルが、384ウェルポリプロピレン源プレートのウェルの中に装填され、源プレートは、任意の源ウェルからの自動化サンプリングを提供するために、電動ステージシステムに搭載された。
【0108】
プローブの輸送毛細管が、毛細管、すなわち、1.75mm内径であり、3.18mm外径であり、質量分析計の電気的接地に接続される外側毛細管ならびに100ミクロン~250ミクロンの内径および360ミクロンの外径を伴う内側毛細管の同軸位置付けからもたらされた。内側および外側管は、T字継手内に搭載された。
【0109】
精密低圧ポンプ(蠕動、回転、シリンジ、能動的流動制御を伴う)が、流動プローブの外側管と内側管との間の環状領域内で溶媒流を開放ポートに駆動するために使用された。流量は、1分あたり1~1,000μLに及んだ。溶媒は、開放ポートまで流動し、その場所で、それは、内側毛細管によって吸引され、約50センチメートルの合計距離の移送ライン内で、質量分析計イオン源(モデル番号)の中に、かつESIエミッタ(ESI吸引流量、カーテンガス、加熱されたネブライザ温度)の中に流動した。所望の超臨界形渦界面が、動的フィードバックおよび能動的流動制御によって維持された。
【0110】
Echo 555システムは、水中で最大50%のメタノールならびに最大50%のアセトニトリルを含む、水性溶液のために較正された。ADEシステムは、高い正確度、精度、および速度で広い範囲の流体クラスを出射することができる。音響トランスデューサはまた、リザーバ内の流体の自動特性評価のために利用され、流体メニスカスの高さならびに他の性質(例えば、流体体積、粘度、密度、表面張力、音響インピーダンス、音響減衰、流体中の音の速度等)を測定し、音響出力、音響周波数、トーンバースト持続時間、および/または集束レンズのF値を含む、液滴出射に関する最適なパラメータを決定することができる。
【0111】
流動プローブは、選択された源ウェルの上方に搭載され、音響トランスデューサによって出射される液滴を捕捉するように垂直に配向された。溶媒およびサンプルは、吸引ネブライザによって設定された流量で流動プローブの内側毛細管に進入する。
【0112】
安定した溶媒ポンプ速度での定常状態流動条件下では、一貫した分析物溶出プロファイルが、溶媒移流および拡散効果の両方による混合からもたらされた。音響的に出射されたサンプル液滴は、源ウェル内の流体の表面から流動プローブのサンプリング先端、すなわち、開放ポートまで上に進行し、その場所で、それらは、溶媒メニスカスと融合した。分析物は、開放ポートにおいて拡散し、溶媒と混合され、流動は、乱流であり得、渦が、毛細管進入口において形成され得る。内側毛細管の中への分析物の移流は、溶媒の中への、かつ上向きの流体マトリクスから離れるような分析物の希釈につながる。次いで、内側毛細管への進入に応じて、乱流から層流への遷移が存在する。分析物は、開放ポートからネブライジング吸引器ESI出力までの毛細管遷移時間の間に溶媒の中への拡散によってさらに希釈される。ネブライジング吸引器出力における溶出プロファイルに寄与する、毛細管内のポアズイユ流プロファイルに起因する分析物分散もまた存在する。最後に、ESI源は、ネブライジング吸引器に到着した分析物をイオン化した。
【0113】
下記の実施例3に示されるように、溶媒の中への、かつマトリクスから離れるような分析物の希釈は、マトリクスイオン抑制問題を効果的に軽減した。
(実施例1)
【0114】
本実施例は、プローブの開放ポートにおける流動構成がリアルタイム質量分析(MS)評価において取得されるイオンピークと相関する様子を説明する。この実験では、源ウェルが、50:50 MeOH:H2O中の100nMの濃度における50μLのレセルピンを分析物(Sigma-Aldrich,St. Louis,MO)として装填された。流動プローブは、源ウェルの上方に約10mmの距離に位置付けられ、源ウェルにわたって流動プローブを心合させるように整合され、流動プローブの開放ポートが源ウェルから垂直に上向きに音響的に出射された液滴を捕捉するように配向された。流動プローブ内のキャリア溶媒は、100%メタノールであり、管類の環状部内の溶媒流量は、能動的流動制御溶媒ポンプを調節することによって40μL/分~55μL/分に変動させられた。内側毛細管の中への溶媒の流量は、質量分析計入力における吸引ネブライザのガス流によって固定された。
【0115】
2.5nLの液滴が、10Hzの繰り返し率において1秒周期にわたって、源ウェルから流動プローブの開放ポートの中に音響的に出射された。MSピーク形状に対するサンプリング先端における流動パターンの影響が、(
図2に図示され、より具体的には、Rapid Comm. Mass Spectrometry,2015,29,1749-1756(その内容が、参照することによって組み込まれる)に説明されるように)均衡した構成で開始される能動的流動制御溶媒流量を緩慢に変動させ、(
図2に同様に図示されるように)垂滴を形成するように溶媒流量を徐々に増加させることによって測定された。取得されるリアルタイム質量スペクトルに見られ得るように、
図3では、ピークは、最初に、高く、鋭的である。溶媒流量が、増加され、均衡した構成が、大きい垂滴構成に遷移すると、MSピークは、17分~39分期間全体を通して見られ得るように、より短く、より幅広い状態になった。溶媒流量を減少させることは、その後、流動構成を均衡した状態に戻し、取得されたピークは、41分~45分期間に見られ得るように、再度、高く、鋭的であった。分析物溶出プロファイルおよび測定されたイオン信号ピーク形状は、したがって、開放ポートにおける流動構成とともに変動し、大きい垂滴流動パターンは、液滴のさらなる希釈およびより広い、より低い強度ピークにつながり、均衡した流動構成は、高い、鋭的なピークをもたらす。
(実施例2)
【0116】
源ウェルが、50% MeOH:H2Oのマトリクス中の50μLの分析物1nMレセルピンを用いて充填され、流動プローブ溶媒流量が、流動プローブの先端において100% MeOHの垂滴を生産するように調節された。ADEシステムは、1Hz~200Hzに調節される繰り返し率で2.5nLの液滴を出射するように較正された。
【0117】
図4Aの質量スペクトルに示されるように、1nMレセルピンの単一の2.5nL液滴(2.5attomol)は、垂滴モードにおいてLOQを下回る。
図4Bを参照すると、5個の液滴注入から成るサンプル(合計で12.5nL、全て1秒以内)が、分析され、典型的には、30秒未満のピーク幅を伴うピーク形状に関して良好な再現性を実証した。
図4C-4Gに図示されるように、ピーク面積は、1秒あたり5個の液滴注入~1秒あたり200個の液滴注入の全範囲にわたって、1秒あたりの液滴注入の数とともにほぼ線形に増加することが見出されたが、垂滴のサイズにおけるわずかな変動が、線形性に対して影響を及ぼすことが見出された。
(実施例3)
【0118】
本実施例では、実施例1の方法が、溶媒ポンプ流量が、源ウェル内に10nMレセルピン分析物および50% MeOH:H
2Oのマトリクスを伴って、渦モードにおいて流動プローブを動作させるように調節されたことを除いて、繰り返された。
図5Aを参照すると、この場合、単一の液滴注入(2.5nL×10nM=25attomol)が、ベースラインにおいて2秒幅を伴う明確なMSピークを与えることが見出された。
図5B-5Dを参照すると、取得されるピークは、1秒に最大25個の液滴の注入に関して一貫して狭かった(ベースラインにおいて約5秒未満)。
図5E-Gは、比較のために、1秒あたり50、100、および200個の液滴注入に関する結果として生じるピークを図示する。
【0119】
ピーク形状および注入時間との間の関係が、評価され、注入時間は、単一の複数液滴注入事象内の最初の液滴注入と最後の液滴注入との間の期間である。50個の液滴が、渦モードにおいて、0.125~5秒の注入時間の範囲にわたって移送された。
図6は、10Hz、50Hz、100Hz、200Hz、および400Hzの液滴注入周波数を表す、5つの異なる注入時間に関する結果を図示する一連のピークを提示する。
図6に示されるように、本範囲の注入時間にわたって、ピーク形状のいかなる有意な変化も存在しなかった。ピーク幅は、5~10秒の範囲内で一貫したままであった。分析物イオン信号の時間経過は、典型的には、毛細管の中に流動する分析物「プラグ」の前部における明確に定義された遷移領域に起因する急激な開始を伴うピーク形状を呈した。典型的なピーク形状は、渦中の分析物の分散または「拡散」に起因して、かつ毛細管内のポアズイユ流の結果として、より緩慢な減衰時間を呈する。
【0120】
図7Aを参照すると、注入の間に5秒減衰を伴う50% MeOH:H
2O中の100nMレセルピンの単一の液滴注入のセットが、評価され、結果として生じる質量スペクトルが、
図7Aに提供された。注入あたり1、2、3、・・・10個までの液滴を伴い、また、注入の間に5秒の減衰を伴うラダー注入プロファイルを使用することは、
図7Bの質量スペクトルをもたらした。
(実施例4)
【0121】
本実施例では、流体サンプルは、血漿のβガラクトシダーゼ消化物のマトリクス中に100nMの濃度におけるレセルピンを分析物として含有していた。一連の血漿希釈液が、分析物感度に対するマトリクス効果を測定するために試験された。
【0122】
100nMレセルピンの溶液が、最初に、純粋な50% MeOH:H
2O中に調製され、次いで、この溶液は、10%βガラクトシダーゼを添加され、音響的に適合する源プレートの源ウェルの中に装填された。10%血漿、50%血漿、および90%血漿から始まる、増加する濃度の血漿消化物を伴う一連のサンプルが、次いで、試験された。50μLの一定分量のサンプルが、源ウェルの中に装填され、一連の2.5nLの液滴が、5秒間隔において源ウェルから流動プローブの開放ポートにおける流体渦の中に音響的に出射された。結果が、
図8A(標準)、8B(10%消化βガラクトシダーゼ)、8C(10%消化血漿)、8D(50%消化血漿)、および8E(90%消化血漿)のスペクトルに提示され、単一の液滴出射に関して、いかなるマトリクス抑制効果も、分析物のレセルピンを伴う90%(ほぼ純粋)血漿消化物の最も高い濃度まで観察されなかったことを示す。
【0123】
マトリクス抑制の開始が、約200nL(80個の液滴)の出射体積における10%濃度の血漿消化物を用いて実験的に観察された。
【0124】
プロセスは、50:50MeOH:H
2Oおよび90%消化血漿の両方における100nMレセルピンの1個の液滴および10個の液滴の注入を使用して繰り返された。
図9A-9Dに提示される結果は、これらの2つのマトリクスに関する類似する応答を示し、マトリクスイオン抑制問題が、低移送体積におけるADE流動プロープシステムを用いて軽減されることを示唆している。