(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】密閉型冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍・冷蔵装置
(51)【国際特許分類】
C10M 101/02 20060101AFI20230704BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20230704BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20230704BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20230704BHJP
C10M 135/00 20060101ALN20230704BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20230704BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20230704BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20230704BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C10M101/02
C10M169/04
C09K5/04 B
F04B39/00 103N
C10M135/00
C10M137/04
C10N20:02
C10N40:30
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2020531220
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026301
(87)【国際公開番号】W WO2020017319
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018136855
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505252724
【氏名又は名称】パナソニック アプライアンシズ リフリジレーション デヴァイシズ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】権藤 政信
(72)【発明者】
【氏名】川端 淳太
(72)【発明者】
【氏名】林 寛人
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-250136(JP,A)
【文献】特開2009-222351(JP,A)
【文献】特開2014-196391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0285063(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、40℃での動粘度が1mm
2 /S~
5mm
2 /Sの潤滑油を貯留するとともに、電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素を収容し、
前記潤滑油は、鉱油を含み、前記潤滑油の表面張力は、
JIS K2241に規定されるリング法で測定したときに、23mN/m~45mN/mの範囲内であることを特徴とする、
密閉型冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記潤滑油の40℃での動粘度が1mm
2
/S~4mm
2
/Sであることを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記圧縮要素は、前記電動要素によって駆動される往復式の構成であり、クランクシャフトおよびシリンダーブロックを備え、
前記クランクシャフトの主軸は、前記シリンダーブロックが備える主軸受により軸支されていることを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記冷媒はR600aであることを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項5】
前記潤滑油の表面張力は、25mN/m~35mN/mの範囲内であることを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項6】
前記潤滑油は、表面張力調整剤として、硫黄系化合物およびリン系化合物を含有することを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項7】
前記電動要素は、複数の運転周波数でインバータ駆動されることを特徴とする、
請求項1に記載の密閉型冷媒圧縮機。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1項に記載の密閉型冷媒圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器とを含み、これらを配管によって環状に連結した冷媒回路を備えることを特徴とする、
冷凍・冷蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫、エアーコンディショナー等に使用される密閉型の冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍・冷蔵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から化石燃料の使用を少なくする高効率の密閉型冷媒圧縮機の開発が進められている。例えば、高効率化を図るために、密閉型冷媒圧縮機が備える摺動部材において、その摺動面に種々の被膜を形成するとともに、より低粘度の潤滑油を用いることが提案されている。
【0003】
密閉型冷媒圧縮機は、密閉容器内に潤滑油が貯留されるとともに、電動要素および圧縮要素が収容されている。圧縮要素は、摺動部材として、例えば、クランクシャフト、ピストン、連結手段のコンロッド等を備えており、クランクシャフトの主軸および主軸受、ピストンおよびボアー、ピストンピンおよびコンロッド、クランクシャフトの偏心軸およびコンロッド等は、いずれも互いに摺動部を形成している。
【0004】
例えば、特許文献1には、低粘度の潤滑油を用いた往復圧縮機(密閉型冷媒圧縮機)において、摺動部材のうちピストンおよびコンロッドを鉄系焼結材とした上で、これらにスチーム処理を施すとともに、ピストンの表面については切削によりスチーム層を除去し、コンロッドはスチーム処理後に窒化処理を施す構成が開示されている。この構成の往復圧縮機で用いられる潤滑油としては、その粘度が、40℃の動粘度で3mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内のものが挙げられている。
【0005】
潤滑油が低粘度であると油膜が形成されにくくなるが、特許文献1に開示される密閉型冷媒圧縮機では、摺動部を構成する摺動部材の表面に対して特殊な処理を施している。これにより低粘度の潤滑油を用いても、ピストンおよびコンロッドにおける摩耗または焼付きの防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、潤滑油がより低粘度であれば油膜が形成されにくくなるため、油膜が部分的に破断して摺動面同士が接触する頻度が増加する可能性がある。摺動面同士の接触頻度が増加すれば、摺動面の少なくとも一方が摩耗して摩擦係数が上昇したり、摺動部の発熱が大きくなって凝着等の異常摩耗が生じたりする懸念がある。言い換えれば、潤滑油による油膜が破断しやすくなると、摺動部の耐摩耗性を低下させることになる。
【0008】
前述した特許文献1に開示される往復圧縮機(密閉型冷媒圧縮機)では、40℃の動粘度で3mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内という低粘度の潤滑油を用いているが、耐摩耗性を向上させる対象は、ピストンおよびコンロッドに限定されている。それゆえ、特許文献1の手法では、ピストンおよびコンロッド以外の摺動部における耐摩耗性の低下には十分対応できない。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、より粘度の低い潤滑油を用いても、摺動部における耐摩耗性の低下を良好に抑制することが可能な、密閉型冷媒圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る密閉型冷媒圧縮機は、前記の課題を解決するために、密閉容器内に、40℃での動粘度が1mm2 /S~10mm2 /Sの潤滑油を貯留するとともに、電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素を収容し、前記潤滑油の表面張力は、23mN/m~45mN/mの範囲内である構成である。
【0011】
前記構成によれば、密閉容器の内部に貯留されている潤滑油が低い粘度であるとともに高い表面張力を有している。これにより、圧縮要素が備える摺動部において、摺動面同士の間に形成される油膜をより薄いものとして保持することができる。そのため、薄い油膜であっても破断を有効に抑制することが可能となる。その結果、密閉型冷媒圧縮機の高効率化を図りつつ、摺動部における耐摩耗性の低下も良好に抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係る冷凍・冷蔵装置は、前記構成の密閉型冷媒圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器とを含み、これらを配管によって環状に連結した冷媒回路を備える構成である。
【0013】
前記構成によれば、密閉型冷媒圧縮機が、低粘度かつ高表面張力の潤滑油を用いたものであるため、摺動部において良好な耐摩耗性を有するものである。それゆえ、冷凍・冷蔵装置がこのような密閉型冷媒圧縮機を備えていれば、その消費電力を低減することができるとともに、信頼性も高いものとすることができる。
【0014】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、および利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、以上の構成により、より粘度の低い潤滑油を用いても、摺動部における耐摩耗性の低下を良好に抑制することが可能な、密閉型冷媒圧縮機を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の実施の形態に係る密閉型冷媒圧縮機の構成の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】本開示の実施の形態に係る密閉型冷媒圧縮機に用いられる潤滑油の動粘度および表面張力の関係を示すグラフである。
【
図3】
図1に示す冷媒圧縮機を備える冷凍・冷蔵装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示に係る密閉型冷媒圧縮機は、密閉容器内に、40℃での動粘度が1mm2 /S~10mm2 /Sの潤滑油を貯留するとともに、電動要素および当該電動要素により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素を収容し、前記潤滑油の表面張力は、23mN/m~45mN/mの範囲内である構成である。
【0018】
前記構成によれば、密閉容器の内部に貯留されている潤滑油が低い粘度であるとともに高い表面張力を有している。これにより、圧縮要素が備える摺動部において、摺動面同士の間に形成される油膜をより薄いものとして保持することができる。そのため、薄い油膜であっても破断を有効に抑制することが可能となる。その結果、密閉型冷媒圧縮機の高効率化を図りつつ、摺動部における耐摩耗性の低下も良好に抑制することができる。
【0019】
前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油の表面張力は、25mN/m~35mN/mの範囲内である構成であってもよい。
【0020】
前記構成によれば、密閉容器の内部に貯留されている潤滑油の表面張力が、より好適な範囲内になっている。そのため、摺動部における薄い油膜の破断を、より有効に抑制することが可能になる。その結果、密閉型冷媒圧縮機の高効率化を図りつつ、摺動部における耐摩耗性の低下も良好に抑制することができる。
【0021】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記潤滑油は、表面張力調整剤として、硫黄系化合物またはリン系化合物を含有する構成であってもよい。
【0022】
前記構成によれば、低粘度の潤滑油に表面張力調整剤を含有させることで、前述した範囲内の表面張力を調整することができる。そのため、摺動部における薄い油膜の破断を、より有効に抑制することが可能になる。その結果、密閉型冷媒圧縮機の高効率化を図りつつ、摺動部における耐摩耗性の低下も良好に抑制することができる。
【0023】
また、前記構成の密閉型冷媒圧縮機においては、前記電動要素は、複数の運転周波数でインバータ駆動される構成であってもよい。
【0024】
前記構成によれば、インバータ駆動における低速運転時または高速運転時においても、摺動部では、低粘度かつ高表面張力の潤滑油により薄い油膜が保持される。それゆえ、当該摺動部では、良好な耐摩耗性を実現することができるので、密閉型冷媒圧縮機の信頼性を向上させることができる。
【0025】
本開示に係る冷凍・冷蔵装置は、前記構成の密閉型冷媒圧縮機と、放熱器と、減圧装置と、吸熱器とを含み、これらを配管によって環状に連結した冷媒回路を備える構成であればよい。
【0026】
前記構成によれば、密閉型冷媒圧縮機が、低粘度かつ高表面張力の潤滑油を用いたものであるため、摺動部において良好な耐摩耗性を有するものである。それゆえ、冷凍・冷蔵装置がこのような密閉型冷媒圧縮機を備えていれば、その消費電力を低減することができるとともに、信頼性も高いものとすることができる。
【0027】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0028】
(実施の形態1)
[冷媒圧縮機の構成]
まず、本開示の実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機の代表的な構成例について、
図1を参照して具体的に説明する。
図1は、本開示の実施の形態1に係る密閉型冷媒圧縮機100(以下、冷媒圧縮機100と略す場合がある)の構成の一例を示す模式的断面図である。
【0029】
図1に示すように、冷媒圧縮機100は、密閉容器101内に冷媒として、例えばR600aを充填するとともに、底部には、潤滑油103として鉱油を貯留している。潤滑油103は、本開示においては、40℃での動粘度が1mm
2 /S~10mm
2 /Sの範囲内であり、かつ、表面張力が23mN/m~45mN/mの範囲内であるのものが用いられている。なお、本実施の形態1では、潤滑油103は、低粘度の鉱油であるが、後述するように潤滑油103はこれに限定されない。
【0030】
また、密閉容器101内には、電動要素106および圧縮要素107が収容されている。電動要素106は、固定子104および回転子105から構成される。圧縮要素107は、電動要素106によって駆動される往復式の構成であり、クランクシャフト108、シリンダーブロック112、ピストン120等を備えている。
【0031】
クランクシャフト108は、回転子105を圧入固定した主軸109と、この主軸109に対して偏心して形成された偏心軸110とから構成される。本実施の形態1では、クランクシャフト108の主軸109の外周面は摺動面となっている。本開示においては、「摺動面」とは、摺動部を構成する各摺動部材の外周面または内周面であって、他方の内周面または外周面と摺動可能に接する面のことを意味する。また、クランクシャフト108の下端には、図示しない給油ポンプが設けられている。
【0032】
シリンダーブロック112は、本実施の形態1では、例えば、鋳鉄で構成され、略円筒形のボアー113を形成するとともに、クランクシャフト108の主軸109を軸支する主軸受114を備えている。主軸受114の内周面は、主軸109の外周面すなわち摺動面に摺動可能に接している。したがって、主軸受114の内周面も摺動面となっている。なお、摺動面は、主軸109の外周面または主軸受114の内周面の全面であってもよいし、外周面または内周面の全面でなく一部が摺動面であってもよい。
【0033】
なお、
図1に示すように、クランクシャフト108のうち偏心軸110は冷媒圧縮機100の上側に位置し、主軸109は冷媒圧縮機100の下側に位置する。それゆえ、クランクシャフト108の位置を説明する場合にも、この上下の位置関係(方向)を利用する。例えば、偏心軸110の上端は密閉容器101の内側上面に向かっており、偏心軸110の下端は主軸109につながっている。主軸109の上端は偏心軸110につながっており、主軸109の下端は密閉容器101の内側下面に向かっており、主軸109の下端部は、潤滑油103に浸漬している。
【0034】
非摺動外周面111cは、主軸109の外周面の一部を構成するが、第一摺動面111aおよび第二摺動面111bとは異なり、軸受部の内周面に接しないように、摺動面(第一摺動面111aおよび第二摺動面111b)から凹んだ(あるいは窪んだ)面となっている。言い換えると、主軸109における摺動面となる部位の直径または半径は、非摺動外周面111cとなる部位の直径または半径よりも大きいものとなっている。
【0035】
ボアー113には、ピストン120が往復可能に挿入されており、これにより、圧縮室121が形成される。ピストンピン115は、例えば略円筒形状を有し、偏心軸110と平行に配置されている。ピストンピン115は、ピストン120に形成されたピストンピン孔に回転不能に係止されている。
【0036】
連結手段117は、例えばアルミ鋳造品で構成され、偏心軸110を軸支する偏心軸受119を備え、ピストンピン115を介して偏心軸110とピストン120とを連結している。ボアー113の端面はバルブプレート122で封止されている。
【0037】
なお、本開示においては、クランクシャフト108が備える主軸109および偏心軸110は、まとめて「軸部」と称する。また、主軸109を軸支するシリンダーブロック112の主軸受114と、偏心軸110を軸支する連結手段117の偏心軸受119とは、まとめて「軸受部」と称する。
【0038】
シリンダーヘッド123は、図示しない高圧室を形成し、バルブプレート122におけるボアー113の反対側に固定されている。図示しないサクションチューブは、密閉容器101に固定されているとともに、冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒ガスを密閉容器101内に導く。サクションマフラー124は、バルブプレート122とシリンダーヘッド123とに挟持されている。
【0039】
ここで、クランクシャフト108の主軸109および主軸受114、ピストン120およびボアー113、ピストンピン115および連結手段117のコンロッド、クランクシャフト108の偏心軸110および連結手段117の偏心軸受119等は、いずれも互いに摺動部を形成する。
【0040】
このような構成の冷媒圧縮機100においては、まず、図示しない商用電源から供給される電力が電動要素106に供給されるので、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105はクランクシャフト108を回転させ、偏心軸110の偏心運動が連結手段117からピストンピン115を介してピストン120を駆動する。ピストン120はボアー113内を往復運動し、サクションチューブを通して密閉容器101内に導かれた冷媒ガスをサクションマフラー124から吸入し、圧縮室121内で圧縮する。
【0041】
なお、冷媒圧縮機100の具体的な駆動方法は特に限定されない。例えば、冷媒圧縮機100は単純なオンオフ制御で駆動されてもよいが、複数の運転周波数でインバータ駆動されてもよい。インバータ駆動では、冷媒圧縮機100の動作制御を好適化するために、各摺動部に給油量が少なくなるような低速運転時、あるいは、電動要素106の回転数が増加する高速運転時が発生する。ここで、冷媒圧縮機100においては、後述するように、主軸109の耐摩耗性をより良好なものにできるので、冷媒圧縮機100の信頼性を向上させることができる。
【0042】
冷媒圧縮機100が備える複数の摺動部のうち、クランクシャフト108の主軸109は、主軸受114に対して回転可能に嵌合されて摺動部を構成している。同様に、クランクシャフト108の偏心軸110は、偏心軸受119に対して回転可能に嵌合されて摺動部を構成している。また、ピストン120およびボアー113、あるいは、ピストンピン115および連結手段117も摺動部を構成している。これら摺動部に対しては、クランクシャフト108の回転に伴って給油ポンプから潤滑油103が給油される。
【0043】
[潤滑油の構成]
次に、密閉容器101内に貯留されている潤滑油103のより具体的な構成について具体的に説明する。
【0044】
本開示に係る潤滑油103としては、40℃での動粘度が1mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内のものであり、かつ、その表面張力が23mN/m~45mN/mの範囲内であれば特に限定されない。
【0045】
代表的な潤滑油103としては、例えば、鉱油、アルキルベンゼン油、およびエステル油からなる群から選択される少なくとも1種の油状物質を好適に用いることができる。これら油状物質は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。ここでいう2種類以上の油状物質の組合せとは、例えば、鉱油に該当する異なる油状物質を2種類以上組み合わせる場合だけでなく、例えば、鉱油に該当する油状物質を1種類以上、アルキルベンゼン油に該当する油状物質を1種類以上(もしくはエステル油に該当する油状物質を1種類以上)組み合わせる場合も含む。
【0046】
本開示に係る潤滑油103における40℃での動粘度は、前記の通り、1mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内であればよいが、好ましい一例として1mm2 /S~9mm2 /Sの範囲内を挙げることができる。40℃での動粘度が1mm2 /S未満であると、粘度が低くなり過ぎて、潤滑油103の表面張力が23mN/m~45mN/mの範囲内であっても、摺動部において良好に保持可能な油膜を形成することができなくなる。一方、40℃での動粘度が10mm2 /Sを超えると、潤滑油103が「低粘度」といえなくなり、摺動部材同士の摺動に影響が生じ、摺動部の高効率化を阻害するおそれがある。
【0047】
本開示に係る潤滑油103の表面張力は、前記の通り、23mN/m~45mN/mの範囲内であればよいが、好ましい一例として25mN/m~35mN/mの範囲内を挙げることができる。潤滑油103の表面張力が23mN/m未満であれば、表面張力が小さ過ぎて、摺動部において良好に保持可能な油膜を形成することができなくなる。一方、潤滑油103の表面張力が45mN/mを超えていれば、表面張力が大き過ぎて、摺動部材同士の摺動に影響が生じ、摺動部の高効率化を阻害するおそれがある。
【0048】
実際に、低粘度かつ高表面張力の潤滑油103を用いた冷媒圧縮機100について、実機信頼性試験を行った。本試験では、冷媒ガスとしてR600aを用いるとともに、
図2に示すように、40℃での動粘度が1mm
2 /S~10mm
2 /Sの範囲内にあり、かつ、表面張力が20mN/m~45mN/mの範囲内にある、合計7種類の潤滑油103を用いた。評価対象の摺動部として、クランクシャフト108の主軸109および主軸受114を選択し、運転モードとしては、主軸109の摩耗を加速させるべく、高温環境で、かつ短時間で運転と停止を繰り返す高温高負荷断続運転モードを採用した。
【0049】
実機信頼性試験の終了後に冷媒圧縮機100を解体し、クランクシャフト108を取り出して摺動部を観察した。その結果、
図2において「×」のシンボルで示すように、潤滑油103の表面張力が23mN/m未満の試験結果(比較例)では、主軸109には顕著な摩耗の発生が確認された。これに対して、
図2において「○」または「△」のシンボルで示すように、表面張力が23mN/m以上の試験結果(実施例)であれば、主軸109には摩耗がほとんど確認されなかったか、軽微な摩耗に留まっていた。
【0050】
ただし、
図2において「△」のシンボルで示す試験結果では、潤滑油103の表面張力が約42mN/mであるが、その摩耗の程度は、「○」のシンボルで示す試験結果よりも相対的に大きいものであった。それゆえ、本開示においては、潤滑油103の表面張力は、23mN/m~45mN/mの範囲内であればよいが、25mN/m~35mN/mの範囲内が好ましい一例であることがわかる。なお、表面張力の測定方法は特に限定されないが、本実施の形態では、JIS K2241に規定されるリング法を用いており、表面張力の測定装置としては、協和界面科学株式会社製、商品名:DY-300を用いている。
【0051】
本開示に係る潤滑油103において、その表面張力を前記範囲内に調整する方法は特に限定されない。例えば、市販の油状物質で、前述した動粘度および表面張力を満たすものをそのまま潤滑油103として用いてもよいし、複数の油状物質をブレンドすることにより、前述した動粘度および表面張力を調整してもよい。さらには、1種類以上の油状物質に対して表面張力調整剤を添加して(含有させて)、表面張力を調整してもよい。したがって、本開示に係る冷媒圧縮機100に用いられる潤滑油103は、少なくとも1種類の油状物質(主成分)を含有していればよいが、1種類以上の油状物質および表面張力調整剤から少なくとも構成される潤滑油組成物であってもよい。
【0052】
表面張力調整剤の具体的な種類は特に限定されず、公知の油状物質に添加したとき(公知の油状物質とともに潤滑油組成物を構成したとき)に、当該油状物質(潤滑油組成物)の表面張力を前記の範囲内に調整できるものであればよい。
【0053】
代表的な表面張力調整剤としては、硫黄系化合物、リン系化合物等を挙げることができる。硫黄系化合物としては、具体的には、例えば、硫化オレフィン、サルファイド系化合物(例えば、ジベンジル(ジ)サルファイド(DBDS)等)、キザンテート、チアジアゾール、チオカーボネート、硫化油脂、硫化エステル、ジチオカーバメート、硫化テルペン等が挙げられるが特に限定されない。また、リン系化合物としては、具体的には、例えば、トリクレジルホスフェイト(TCP)、トリブチルホスフェイト(TBP)、トリフェニルホスフェイト(TPP)等が挙げられるが特に限定されない。これら化合物は、1種類のみを表面張力調整剤として用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて表面張力調整剤として用いてもよい。
【0054】
潤滑油組成物における表面張力調整剤の含有量は特に限定されず、油状物質の種類、求められる表面張力の範囲、冷媒圧縮機100のより具体的な構成等といった諸条件に応じて適宜設定することができる。一般的には、潤滑油組成物全量を100重量%としたときに、0.01~8重量%の範囲内となるように表面張力調整剤を含有していればよく、より好ましい一例としては、1~3重量%の範囲内を挙げることができる。表面張力調整剤の含有量が0.01重量%未満であれば、諸条件にもよるが、表面張力を所望の値に調整することができず油膜破断が生じるおそれがある。一方、含有量が8重量%を超えれば、諸条件にもよるが、表面張力が変わらない場合がある。
【0055】
本開示に係る潤滑油103(潤滑油組成物)は、前述した油状物質および表面張力調整剤に加えて、さらに種々の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、潤滑油103の分野で公知の様々なものを好適に用いることができるが、代表的には、極圧添加剤、油性剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、金属不活性剤、消泡剤、腐食防止剤、または分散剤等を挙げることができる。これら添加剤の具体的な種類、あるいは、具体的な添加量は特に限定されず、公知の範囲内で添加すればよい。
【0056】
次に、潤滑油103による潤滑作用について、前記構成の冷媒圧縮機100の動作を参照して説明する。商用電源(図示せず)から供給される電力は電動要素106に供給され、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105はクランクシャフト108の主軸109を回転させ、偏心軸110の偏心運動が連結手段117からピストンピン115を介してピストン120を駆動する。ピストン120はボアー113内を往復運動し、サクションチューブ(図示せず)を通して密閉容器101内に導かれた冷媒ガスをサクションマフラー124から吸入し、圧縮室121内で圧縮する。
【0057】
潤滑油103はクランクシャフト108の回転に伴い、図示しない給油ポンプから各摺動部に給油され、摺動部を潤滑する。摺動部を構成する摺動部材としては、主軸109および主軸受114、偏心軸110および偏心軸受119(連結手段117)、ピストンピン115および連結手段117、ピストン120およびボアー113等が挙げられ、これら摺動部材の摺動面に対して潤滑油103が供給される。また、潤滑油103は、ピストン120およびボアー113の間においてはシールも司る。
【0058】
ここで、近年の冷媒圧縮機100では、さらなる高効率化を図るため、潤滑油103として、より粘度の低いものを使用したり、摺動部を構成するそれぞれの摺動部材の摺動面の長さをより短く設計したりする等の対応が行われている。そのため、摺動条件はより過酷な方向に進んでいる。すなわち、摺動部の間の油膜はより薄くなる傾向にあり、あるいは、摺動部の間の油膜が破断しやすくなる傾向にある。それゆえ、例えば、クランクシャフト108の主軸109と主軸受114との間などの摺動部において、油膜が切れて摺動面同士が金属接触する頻度が増加する。
【0059】
これに対して、本開示に係る冷媒圧縮機100では、潤滑油103として、40℃での動粘度が1mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内であり、かつ、表面張力が23mN/m~45mN/mの範囲内であるものを用いている。そのため、摺動部において薄い油膜を良好に保持することが可能になり、当該油膜の破断を有効に抑制することができる。それゆえ、密閉型冷媒圧縮機の高効率化を図りつつ、摺動部における耐摩耗性の低下も良好に抑制することができる。
【0060】
なお、本開示に係る冷媒圧縮機100は、前記の通り、複数の運転周波数でインバータ駆動されるものであってもよい。インバータ駆動では、電動要素106が低回転数で運転される場合(低速運転)と高回転数で運転される場合(高速運転)とが発生するが、低回転数での運転では、クランクシャフト108の主軸109および主軸受114(主軸109の摺動部)に対する潤滑油103の供給量が低下する。これに対して、本開示では、潤滑油103が前記の通り低粘度かつ高表面張力であるため、潤滑油103の供給量が低下しても主軸109の摺動部において良好な耐摩耗性を実現することができる。
【0061】
また、低回転数から高回転数に移行するとき(電動要素106の回転数が増加するとき)であっても、主軸109の摺動部において良好な耐摩耗性を実現することができる。それゆえ、インバータ駆動における低速運転時または高速運転時のいずれにおいても、摺動部において良好な耐摩耗性を実現することができる。その結果、冷媒圧縮機100の信頼性を向上できるとともに、運転効率もより良好なものとすることができる。
【0062】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、前記実施の形態1で説明した冷媒圧縮機100を備える冷凍・冷蔵装置の一例について、
図3を参照して具体的に説明する。
図3は、前記実施の形態1に係る冷媒圧縮機100を備える冷凍・冷蔵装置の概略構成を模式的に示している。そのため、本実施の形態2では、冷凍・冷蔵装置の基本構成の概略についてのみ説明する。
【0063】
図3に示すように、本実施の形態2に係る冷凍・冷蔵装置は、本体275、区画壁278、および冷媒回路270等を備えている。本体275は、断熱性の箱体および扉体等により構成されており、箱体はその一面が開口した構成であり、扉体は箱体の開口を開閉する構成である。本体275の内部は、区画壁278により物品の貯蔵空間276と機械室277とに区画される。貯蔵空間276内には、図示しない送風機が設けられている。なお、本体275の内部は、貯蔵空間276および機械室277以外の空間等に区画されてもよい。
【0064】
冷媒回路270は、貯蔵空間276内を冷却する構成であり、例えば、前記実施の形態1で説明した冷媒圧縮機100と、放熱器272と、減圧装置273と、吸熱器274とを備え、これらが環状に配管で接続された構成となっている。吸熱器274は、貯蔵空間276内に配置されている。吸熱器274の冷却熱は、
図3の破線の矢印で示すように、図示しない送風機によって貯蔵空間276内を循環するように撹拌される。これにより貯蔵空間276内は冷却される。
【0065】
冷媒回路270が備える冷媒圧縮機100は、前記実施の形態1で説明したように、潤滑油103として、40℃での動粘度が1mm2 /S~10mm2 /Sの範囲内であり、かつ、表面張力が23mN/m~45mN/mの範囲内であるものを用いている。これにより、冷媒圧縮機100に含まれる摺動部において良好な耐摩耗性を実現することができるので、その信頼性をより一層良好なものとすることができる。
【0066】
このように、本実施の形態2に係る冷凍・冷蔵装置は、前記実施の形態1に係る冷媒圧縮機100を搭載している。この冷媒圧縮機100では、低粘度の潤滑油103を用いて軸部摺動部の摺動面積を低下させたものであり、かつ、良好な軸部の信頼性を有するものである。冷凍・冷蔵装置が、このように高効率かつ良好な信頼性を有する密閉型冷媒圧縮機を備えることによって、その消費電力を低減することができるとともに、信頼性も高いものとすることができる。
【0067】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0068】
また、上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明によれば、低粘度の潤滑油を用いながら信頼性に優れた冷媒圧縮機と、この冷媒圧縮機を用いた冷凍・冷蔵装置を提供することが可能となる。そのため、本発明は、冷凍サイクルを用いた各種機器に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100:冷媒圧縮機
101:密閉容器
103:潤滑油
106:電動要素
107:圧縮要素
108:クランクシャフト
109:主軸(摺動部材)
110:偏心軸(摺動部材)
112:シリンダーブロック
113:ボアー(摺動部材)
114:主軸受(摺動部材)
115:ピストンピン(摺動部材)
119:偏心軸受(摺動部材)
120:ピストン(摺動部材)
121:圧縮室
270:冷媒回路
272:放熱器
273:減圧装置
274:吸熱器