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特許7307094抗真菌性を有する食品ケーシング及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】抗真菌性を有する食品ケーシング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A22C 13/00 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
A22C13/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020559024
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2019050897
(87)【国際公開番号】W WO2019141664
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】18382015.8
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513107595
【氏名又は名称】ビスコファン,エセ.アー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クララ・デ・ラ・フエンテ・メリダ
(72)【発明者】
【氏名】ブランカ・ハウレギ・アルビズ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・ポール
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0213051(US,A1)
【文献】特許第2836042(JP,B2)
【文献】特開2002-119200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0156896(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 13/00
A23B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも皮膜形成剤、脂質、及びナタマイシンを含む水性組成物で、少なくともその外部表面がコーティングされていることを特徴とし、
皮膜形成剤が、大豆タンパク質、ホエイタンパク質、エンドウ豆タンパク質、ゼイン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、グルテン、ケラチン、アルブミン、オボアルブミン、牛血清アルブミン、これらの誘導体から選択されるタンパク質;または寒天、アルギネート、カラギーナン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、ゴム、ペクチン、デンプン、デキストリン、またはこれらの誘導体から選択される多糖類;またはポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、これらの誘導体から選択される水溶性ポリマー;またはポリビニルアルコールによって安定化されたポリビニルアセテート分散物、ポリビニルアルコールによって安定化されたポリビニルアセテートエチレンコポリマー、スチレンアクリル、ビニルアクリル、スチレンブタジエンラテックス、またはポリイソプレンから選択されるポリマー分散物のうちの一成分である、
抗真菌性を有する食品ケーシング。
【請求項2】
水性組成物が、皮膜形成剤を0.01から15質量%の割合で含む、請求項1に記載の食品ケーシング。
【請求項3】
水性組成物が、脂質を0.05から15質量%の割合で含む、請求項1に記載の食品ケーシング。
【請求項4】
脂質が、脂肪、油、脂肪酸、ワックス、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、またはこれらの誘導体あるいは混合物から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項5】
脂質が、蜜蝋、チャイニーズワックス、ラノリン、シェラック蝋、鯨蝋、ベーベリー蝋、キャンデリラ蝋、カルナウバ蝋、ヒマシ蝋、エスパルトワックス、木蝋、オウリカリーワックス、米ぬかワックス、大豆ワックス、ユーカリノキ・ワックス、セレシン蝋、モンタン蝋、オゾケライト、ピート蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、またはこれらの混合物から選択されるワックスである、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項6】
水性組成物が、ナタマイシンを0.001から5質量%の割合で含む、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項7】
充填前に水に浸す必要がないケーシングである、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項8】
繊維状ケーシングである、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項9】
水性組成物が、可塑剤、界面活性剤、及び/または乳化剤から選択される別の添加剤をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項10】
さらなる抗真菌性剤または抗真菌性剤の混合物をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項11】
脂肪酸及び/または脂肪酸塩をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の食品ケーシング。
【請求項12】
請求項1に規定の食品ケーシングを調製する方法であって、以下の工程:
a. ケーシングチューブを製造する工程;
b. 少なくとも皮膜形成剤、脂質、及びナタマイシンを混合することにより水性組成物を調製する工程;
c. b)の水性組成物をケーシングの少なくとも外部表面に塗布する工程;
を含む、方法。
【請求項13】
程c)に先立ち、ケーシングの内部表面が、弱酸の水溶液で加湿される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程c)の水性組成物が、浸漬、噴霧、または印刷によって塗布される、請求項1または1に記載の方法。
【請求項15】
肉または肉エマルションで充填された、請求項1から1のいずれか一項に規定の食品ケーシングを含む食肉製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、食肉製品、例えばソーセージ、特にドライソーセージの製造のための、抗真菌性を有する食品ケーシングの分野に関する。より具体的には、本発明は、ナタマイシンを含む抗真菌性を有する食品ケーシングであって、その効果が、ケーシング表面上のナタマイシンの利用可能性を修正することによって増強されているものに関する。本発明はまた、前記食品ケーシングの製造方法、並びに前記食品ケーシングに肉または肉エマルションを充填することにより調製される食肉製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
人工食品ケーシングは、数十年に亘って食肉製品の製造に使用されている。繊維強化ケーシングは、繊維状ケーシングとしても既知であり、再生セルロースで覆われた麻紙のチューブである。このタイプのケーシングは、一般的に、その浸透性及び口径制御のために、ドライ及びセミドライソーセージに使用される。
【0003】
ドライソーセージは、欧州、特に東欧や地中海諸国で人気のある商品である。ドライソーセージの製造は、三つの工程:第一の、肉エマルションを繊維状ケーシングに充填する工程;第二の、乳酸菌の作用により肉が発酵する工程;最後の、ソーセージを硬化室または乾燥室で数週間乾燥させる工程;を含む。この過程により、ソーセージには独特の有機物特性が提供される。
【0004】
乾燥工程の間は、周囲の湿分を比較的高く保ってソーセージのクラストが早期に乾燥しないようにすべきである。多湿環境は、乾燥室の暖かい温度と共に、真菌の成長を促進する。
【0005】
乾燥サイクルの最初の部分では、カビが増殖しやすい。暖かい温度(24℃)及び高湿度(90~100%HR)により、カビの胞子のケーシングへの付着及び成長が促進される。
【0006】
サイクルの第二部分では、温度は12℃まで低下し、湿度は70~80%HRに低減される。これらの条件下では、酵母が増殖しうる。
【0007】
カビ及び酵母は、アレルギー反応及び呼吸器系の問題を引き起こす可能性がある。さらにまた、マイコトキシンという、重篤な疾病を引き起こしうる有毒物質を産生する可能性がある種もある。
【0008】
カビの胞子は空気中に浮遊し、乾燥室内で容易に拡散しうる。条件が適切になれば、これらは成長サイクルを再び開始させうる。食肉製造業者の乾燥室は、絶え間ない空気循環並びに温度及び湿度のレベルのため、真菌の成長を防止するためには非常に困難な条件を呈する。
【0009】
カビ及び/または酵母がソーセージの表面に検出された場合、真菌及びその毒素はすでに製品中に深く侵入している。この時点では、ソーセージの表面を洗浄することは、製品の安全性を保証するために十分でない。
【0010】
こうした状況下で真菌の成長を防止するためには、強力な抗真菌性剤もしくは抗真菌性剤混合物をケーシングに塗布する必要がある。国際食糧規則では、食肉製品と接触する物質の数とその制限を限定している。物質は、本来の形態のみならず、pHの変化、熱、湿気などへの暴露後にも、食品との接触に適したものでなければならない。さらにまた、抗真菌性化合物もしくは混合物は、食肉の発酵を生ずる乳酸菌の成長を阻害しないものでなければならない。
【0011】
ケーシング製造業者は、数十年に亘って抗真菌性を有するケーシングの開発に努めてきた。いくつかの製品が文献に記載されている。
【0012】
US4867204は、抗真菌性剤を含む即座に使用可能なケーシングを開示している。抗真菌性剤は、好ましくはプロピレングリコール、またはプロピオン酸、ソルビン酸、もしくは安息香酸のカルシウム、カリウム、もしくはナトリウム塩である。これらの防腐剤は、数十年に亘って十分に研究されており、わずかな抗真菌性効果を有するのみであることが周知である。非常に高濃度の抗真菌性剤が、工業用乾燥室の通常の汚染を防ぐために必要である。しかしながら、こうした必要量を目指すことは、機器内の堆積物、ケーシングの外観不良等の他の技術的問題を伴う。
【0013】
EP0378069は、ジ-n-デシルジメチルアンモニウム化合物(DDAC)を単独で、またはソルビン酸、グリセロールモノラウレート、またはイソチアゾロンなどの他の抗真菌性剤との組み合わせを含む食品ケーシングに関する。この解決策の問題点は、食糧規則が食肉製品に付与するDDACの現在の制限が、有意な阻害をもたらすためには十分でないということである。本明細書に記載される他の抗真菌性剤と組み合わせてさえも、工業的条件下での真菌成長の阻害が達成される可能性は低い。さらにまた、DDACは水に非常に可溶性であることから、充填前に浸水されるケーシングに対しては、浸漬浴においてはDDACの濃度が高くなる傾向があるため、その使用は安全ではない。
【0014】
EP1013173は、多層プラスチック食品ケーシングを教示しており、これは、その層の1つに殺菌剤溶液が任意に噴霧されたものである。プラスチックケーシングの使用は、これらに水透過性がなく、乾燥工程を阻害することから、乾燥ソーセージには適さない。
【0015】
別の解決策がEP2363024に記載されており、これは、N-ラウロイルアルギネートエチルエステル塩酸塩(LAECI)を含んで真菌及び細菌の成長を防止する食品ケーシングに関する。しかしながら、LAECIの使用は、欧州食糧規則により、乾燥ソーセージのためには認められていない。
【0016】
また、EP2859796は、殺菌特性を有するチューブ状食品ケーシングを製造するための方法に関する。殺菌混合物は、a)殺菌物質、b)トリグリセリド、及びc)可溶化剤を、ケーシングを防水性にする「ミセル化溶解物」の形態で含む。この解決策の問題点は、前述した抗真菌性剤のほとんどが強い臭気を有し、大量に使用した場合にのみ有効であることである。このレベルでは、食肉製品の官能特性は抗真菌性剤によって変性されることになる。さらにまた、抗真菌性剤の中には揮発性のものがあり、長期に亘ってケーシング内に維持することが困難である。これらの化合物の臭気及び価格は、他の技術的な問題と共に、この解決策を販売に不適なものにしたと考えられている。今日まで、こうした製品の存在は市場で見られなかった。
【0017】
ピリチオンの塩を含む別の抗真菌性食品ケーシングもまた、EP2944199に開示されている。ピリチオン及びその塩は、欧州規則によれば、食品等級の添加物に分類されていない。この意味では、抗真菌性剤がケーシングから移行すると、ソーセージの食品安全性を損なうことになる。
【0018】
ナタマイシンは、カビ及び酵母の膜のエルゴステロールを標的とした抗真菌性剤であり、最終的には微生物の溶解をもたらす。細菌の膜にはエルゴステロールがないため、これらは影響を受けない。ナタマイシンは強力な抗真菌性効果を有し、数十年の使用の後にも抵抗性は報告されていない。これらの理由から、これはソーセージ及びケーシングにおけるカビ及び酵母の阻害のために完璧な候補であると思われる。ナタマイシンを食品中の抗真菌性剤として使用するいくつかの試みがこれまでに報告されている。
【0019】
例えば、WO01/80658には、食品及び食品成分、特にチーズのための生分解性コーティングが報告されており、これは、a)3から35%の球状タンパク質、b)5から55%の糖類、c)3から20%の脂肪、d)5から15%の可塑剤、e)0から5%の増粘剤、f)0から20%の充填剤、及びg)0から5%の殺菌剤を含み、乾燥固形分含量が20から60%のものである。本明細書に報告されている殺菌剤は、好ましくはナタマイシンである。この解決策の問題点は、こうした多量の固形分の存在により、乾燥過程が阻害されることから、このコーティングはドライソーセージには適さないということである。さらにまた、食品等級のコーティングのほとんどは、浸漬によって塗布されることを意図しており、ここでは通常、高粘度であることによりコーティングの食品への付着が促進される。ケーシング業界では、高粘度コーティングについて、現在の巻取り技術を使用して塗布するためのいくつかの技術的問題を提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】US4867204
【文献】EP0378069
【文献】EP1013173
【文献】EP2363024
【文献】EP2859796
【文献】EP2944199
【文献】WO01/80658
【非特許文献】
【0021】
【文献】Brik. et al., [“Natamycin” Analytical Profiles of Drug Substances 10, 513-561 (1981)]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ナタマイシンの抗真菌特性は周知であるが、驚くべきことに、市場にはナタマイシンをベースにした抗カビケーシングは存在しない。これは、ナタマイシンが、溶解されないと今日まで見なされていたという重要な技術的欠点を呈するためである可能性がある。
【0023】
真菌を抑制するためには、ナタマイシンは溶解されねばならない。ナタマイシンの固体形態は抗真菌特性を持たない。これは、ナタマイシンの抗真菌性効果は、その溶解性に直結していることを意味する。
さらにまた、いったん溶解した後は、その拡散しやすさ及び溶解形態での安定性が、その抗真菌有効性を規定する。
【0024】
ナタマイシンの水への溶解度はわずかであり、光、酸素、熱、極端なpH、及び加水分解によって分解する。さらに、その溶解形態は、その結晶よりもはるかに安定性が低い。
を持っています。
これらの特性は、通常はカビ及び/または酵母で高度に汚染されているソーセージ施設において、カビ及び酵母の成長を防止するために十分な量でナタマイシンをケーシングに付着させることを、非常に困難にする。
【0025】
ナタマイシンは、添加物をケーシングに導入するための通常の方法を使用して適用することはできない。原理的には、ナタマイシンをケーシングの壁にしっかりと確実に固定するための最良のアプローチは、ナタマイシンをビスコースと混合し、その後チューブを押し出すことであろう。残念ながら、これは有効な選択肢ではない。チューブが押し出された直後、これは極端なpH変化及び熱を含むセルロース再生の長い化学的プロセスを経る。このプロセスでは、ナタマイシンが破壊され、分解される。
【0026】
ケーシング技術における別の一般的なアプローチは、ナタマイシンを外部コーティングとして適用することである。その場合には、ナタマイシンを保持し、ケーシングの壁に固定するために、食品等級のコーティングが開発されねばならない。しかしながら、ナタマイシンは、水を含むほとんどの食品等級の溶媒に高度に不溶性である。そのため、微量のナタマイシンがケーシングに導入されうるのみである。
【0027】
一方で、ケーシング業界で広く使用されているポリアミン-ポリアミド-エピクロルヒドリン樹脂のような樹脂の使用は、これらが硬化に熱を要してナタマイシンを分解することになり、且つその存在がソーセージの乾燥プロセスを遅延させる可能性があることから、適切な解決策ではない。
【0028】
さらにまた、実現可能な市販製品を得るためには、抗真菌特性は、広範な種類のカビ及び酵母に対して製造日から数ヶ月間に亘って活性でなければならない。
【0029】
本発明は、多量のナタマイシンをケーシングに付着させ、これを外的要因による劣化から保護するための新しいアプローチを提示する。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、より多量のナタマイシンを食品ケーシングに付着させるための新規なアプローチに基づき、さらにナタマイシンの抗真菌性効果を高めることが判明している。特に、本発明は、少なくともa)皮膜形成剤、b)脂質、及びc)ナタマイシンを含む水性組成物であって、ソーセージの乾燥時間を増加させることなくカビ及び酵母の成長を防止する水性組成物の開発に基づく。
【0031】
驚くべきことに、この水性組成物は、ナタマイシンの効果を増強し、抗真菌性ケーシングの製造後長期間に亘って抗真菌特性を保持することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、106 UFC/grを含むPenicilium candidumの水懸濁に長さの半分を浸漬させた数本のソーセージの、硬化室における2週間後の様相を示す。図には、ナタマイシン処理なしの(A)対照ケーシング;(B)2%のヒドロキシプロピルセルロース及び0.3%のナタマイシンを含む水性組成物(組成物A)で処理したケーシング;(C)2%のヒドロキシプロピルセルロース、0.5%のリノール酸、及び0.3%のナタマイシンを含む水性組成物(組成物B)で処理したケーシング;及び4%のカゼイン、1%の蜜蝋、3%のカルナウバワックス、0.3%のナタマイシンを含む水性組成物(組成物C)で処理したケーシングの様相を示す。図1B及びCは、本発明によるケーシングを表し、その抗真菌性効果を明確に示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
従って、本発明の第1の側面は、少なくとも皮膜形成剤、脂質、及びナタマイシンを含む水性組成物で、少なくとも外部表面がコーティングされていることを特徴とする、抗真菌性を有する食品ケーシングである。
【0034】
食品ケーシングは、天然ケーシング、コラーゲンケーシング、セルロースケーシング、繊維状ケーシング、または高分子ケーシングなどの任意のタイプのものであってよい。しかしながら、非常に好ましい実施態様では、ケーシングは、ドライもしくはセミドライソーセージの調製に適した繊維状ケーシングである。
【0035】
いかなる理論にも縛られることを望まないが、本発明者は、皮膜形成剤及び脂質が、今日まで達成されていなかった大量のナタマイシンのケーシングへの固定を可能にするのみならず、水性組成物中のナタマイシンの含有量を増加させる結果として、ケーシング表面上のナタマイシンの利用可能性を増大させると考えている。本発明の抗真菌性ケーシングは、ソーセージの乾燥時間を増加させないことが示されている。
【0036】
ケーシングに適用される水性組成物の第1の必須要素は、皮膜形成剤である。
【0037】
皮膜形成剤は、組成物全体の0.01から15質量%、より好ましくは0.5かた8質量%、さらに好ましくは1から5質量%であってよい。フィルム形成剤の割合は、ケーシング上のナタマイシンの量と直接関係している。
【0038】
皮膜形成剤の量は、皮膜形成剤の種類及び各特定の乾燥チャンバの汚染に基づいて確立されるべきである。
【0039】
皮膜形成剤は、以下:タンパク質及び/または誘導体;多糖類及び/または誘導体;天然もしくは合成樹脂及び/または誘導体;水溶性ポリマー、またはポリマー分散物及び/または誘導体のいずれか一つ、あるいはこれらの混合物であってよい。
【0040】
本発明の好ましい実施態様では、皮膜形成剤は、以下:大豆タンパク質、ホエイタンパク質、エンドウ豆タンパク質、ゼイン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、グルテン、ケラチン、アルブミン、オボアルブミン、牛血清アルブミン、これらの誘導体または混合物から選択されるタンパク質;または寒天、アルギネート、カラギーナン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キトサン、ゴム、ペクチン、デンプン、デキストリン、またはこれらの誘導体または混合物から選択される多糖類;または以下:ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、これらの誘導体または混合物から選択される水溶性ポリマー;または以下:ポリビニルアルコールによって安定化されたポリビニルアセテート分散物、ポリビニルアルコールによって安定化されたポリビニルアセテートエチレンコポリマー、スチレンアクリル、ビニルアクリル、スチレンブタジエンラテックス、またはポリイソプレンから選択されるポリマー分散物である。
【0041】
水性組成物の別の成分は、脂質である。脂質は、水性組成物中に、組成物全体の0.05から15質量%、より好ましくは0.5から10質量%、さらに好ましくは1から6質量%の割合で存在してよい。皮膜形成剤の場合と同様に、脂質の割合は、ナタマイシンをケーシング壁に保持するために十分でなければならない。したがって、脂質の量は、ケーシング中のナタマイシンの量と密接に関連している。一方で、ナタマイシン及び他の抗真菌性剤の量は、ケーシングが保管される乾燥室の汚染のレベルに依存することになる。したがって、より厳しい状況では、脂質及び/または皮膜形成剤の量を、使用されるナタマイシンの量に比例して増加させねばならない。
【0042】
脂質は、以下:脂肪、油、脂肪酸、ワックス、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、誘導体、またはこれらの混合物のいずれか一つであり得る。
【0043】
本発明の好ましい実施態様では、脂質は、天然もしくは合成ワックス、及び/または脂肪酸、または脂肪酸誘導体である。
【0044】
本発明のより好ましい実施態様では、脂質は、以下:動物性ワックス、例えば、蜜蝋、チャイニーズワックス、ラノリン、シェラック蝋、鯨蝋;植物性ワックス、例えば、ベーベリー蝋、キャンデリラ蝋、カルナウバ蝋、ヒマシ蝋、エスパルトワックス、木蝋、オウリカリーワックス、米ぬかワックス、大豆ワックス、ユーカリノキ・ワックス;鉱物性ワックス、例えば、セレシン蝋、モンタン蝋、オゾケライト、ピート蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、あるいはこれらの混合物から選択されるワックスまたは混合物である。
【0045】
食品ケーシングに適用される水性組成物の第三の必須要素は、ナタマイシンである。Brik. et al., [“Natamycin” Analytical Profiles of Drug Substances 10, 513-561 (1981)]によれば、中性pHレベルでのナタマイシンの水への溶解度は、30ppm(0.003%)である一方で、本発明の水性組成物中のナタマイシンの含有量は、50000ppm(5%)まで上昇させることができる。
【0046】
ナタマイシンは、乾燥施設のカビ及び/または酵母の母集団に応じて、水性組成物中に広い範囲で存在しうるが、好ましくは水性組成物中に0.001から5質量%の割合で存在する。Stark et al., [“Permitted preservatives-Natamycin”. Encyclopedia of Food Microbiology (Academic Press, ed. Robinson et al.) 1999 vol. 3:1776-1781]によれば、ナタマイシンはほとんどの酵母種に対して10ppm(0.001%)のレベルで有効である。上限は、乾燥チャンバの胞子汚染に依存することになる。5%の値が、高い汚染レベルの工業用乾燥チャンバに完全な阻害をもたらすために十分と考えられるが、さらに高い濃度が必要とされる場合もありうる。本発明の好ましい実施態様では、ナタマイシンの量は、組成物全体の0.01から1%、さらに好ましくは0.1から0.5%の範囲である。
【0047】
さらに、他の抗真菌性剤をナタマイシンと組み合わせて使用してもよい。また、水性組成物は、以下:ソルビン酸またはその塩;安息香酸またはその塩;パラベン、プロピオネートまたはその塩;クローブの芽、ユーカリ、ペパーミント、ローズマリー、レモングラス、ラベンダー、ヒマシ油、ニーム油などの、但しこれらに限定されるものではない精油または精油混合物、あるいは、シナモン、オレガノ、タイム、カモミール、柑橘類、プロポリス、カプサイシンなどの、但しこれらに限定されるものではない天然抽出物形態;ウンデシレン酸、9-デセン酸、8-ノネン酸などの、但しこれらの限定されるものではない有機不飽和短鎖及び中鎖の酸並びに有機飽和短鎖及び中鎖の酸のうち1種以上をさらに含んで良い。水性組成物中のこれら任意の抗真菌性剤の濃度は、個別の抗真菌性力に応じて変化しうるが、好ましくは組成物中の0から15質量%の範囲内である。
【0048】
水性組成物は、任意に別の添加剤、例えば可塑剤及び/または界面活性剤もしくは乳化剤をさらに含むことができる。
【0049】
可塑剤は、好ましくは、ポリオール、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、またはキシリトールである。これらは、水性組成物中に、組成物全体の0から15質量%の割合で存在してよい。好ましい実施態様では、使用される可塑剤はグリセロールである。
【0050】
天然または人工の界面活性剤または乳化剤が存在してもよい。例えば、脂肪酸及び/または脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸塩、塩化カルシウム、もしくは市販の銘柄のTween、Span、Brij、及びMyrjが、組成物全体の0から5質量%の割合で存在してよい。
【0051】
本発明の食品ケーシングは、通常のケーシングまたは即座に充填可能なケーシングとするように設計可能であり、後者は、充填前に水に浸す必要がないことを意味する。抗真菌性ケーシングは、所望の長さのスティック状にシャーリングされていてもよいし、リール状のままでもよい。
【0052】
即座に充填可能なケーシングであるために、本発明の食品ケーシングは、好ましくは、通常のケーシングよりも20から60%多くの水を含む。所望の付加率(ケーシング質量増加の割合)は、水性組成物塗布の間に、または内部保湿によって、達成することができる。こうした内部保湿は、好ましくは、ケーシングの内側表面における、水中に0.1から5%w/wの酸の弱酸の希釈溶液、より好ましくは0.5から3%のクエン酸溶液の塗布によって実施される。
【0053】
本発明の別の態様は、
a)ケーシングチューブを製造する工程;
b)少なくとも皮膜形成剤、脂質、及びナタマイシンを混合することにより水性組成物を調製する工程;
c)b)の水性組成物をケーシングの少なくとも外部表面に塗布する工程;
を含む、本発明の抗菌特性を有する食品ケーシングを調製するための方法に関する。
【0054】
ケーシングの製造のために使用されるプロセス(工程a)は、ケーシングの性質、すなわち、ケーシングがコラーゲンケーシング、セルロースケーシング、繊維状ケーシング、あるいはポリマーケーシングのいずれであるかに依存する。しかしながら、これらのタイプのケーシングの製造のためのプロセスは、一般に当技術分野では周知である。
【0055】
本発明の好ましい実施態様は、繊維状ケーシングの製造を含む。繊維状ケーシングは、ビスコース法を用いて製造される。麻繊維製の紙ウェブをチューブに形成し、このチューブの内側及び外側にビスコースを含浸させる。ビスコース溶液は、顔料及び別の添加剤をさらに含んでもよい。次に、チューブを酸性バスに導入してビスコースを凝固させ、ビスコースをセルロースに化学変換させる。チューブを洗浄して副産性生物を除去し、その後可塑剤で処理する。最後に、チューブを乾燥させ、平坦にし、リールに巻く。
【0056】
水性組成物の調製(工程b)のために、成分を混合する。
皮膜形成剤及び脂肪の選択に応じて、混合の手順は若干変化して良いが、こうした変化は、当業者の能力の範囲内である。
【0057】
まず、皮膜形成剤を水に混合する。例えば、水に非常に可溶性であるセルロース誘導体の場合には、例えば高速ミキサーを使用して混合する必要があるのみである。タンパク質の場合には、ほとんどの場合にpHを調整する必要があるが、これは当業者の通常の能力の範囲内である。
【0058】
次に、脂質を、好ましくはゆっくりと、水相に混合する。脂質が固体である場合には、予め融解させておくべきである。混合物は、高速ミキサーを用いて撹拌してよい。混合が完了した時点で、好ましくは冷却すべきである。最後に、ナタマイシンを、好ましくはゆっくりと混合物に添加して攪拌する。
【0059】
次いで、工程c)では、水性組成物を、a)で調製したケーシングの少なくとも外部表面表面に塗布する。ケーシングの少なくとも外部表面への含浸は、任意の適切な方法により、例えば、水性抗真菌性コーティング組成物の浸漬、噴霧、または印刷などにより、実行可能である。
【0060】
浸漬法が好ましい。フラットケーシングに、水性組成物を入れた浸漬タンクを通過させる。本発明の好ましい実施態様では、ケーシングは高含水率の即座に充填可能なケーシングであることから、最終的な質量増加率は、製品の要求に応じて、例えば20から60%の間で変化してよい。
【0061】
所望の水付加率(ケーシング質量増加の割合)は、水性組成物塗布の間(工程c)にのみに得られてもよく、または追加として、ケーシングの内部保湿の前工程を含んでもよい。
【0062】
工程c)前の、ケーシングの内部表面に加湿するこうした任意の工程は、好ましい実施態様では、弱酸水溶液または可塑剤を含む弱酸溶液の塗布によって実施される。例えば、加湿は、水中に0.1から5%w/wの弱酸の希釈溶液を塗布することによって達成可能である。好ましい実施態様では、加湿溶液はクエン酸の希釈溶液であり、さらに好ましくは0.5から3%のクエン酸溶液である。この加湿工程は、製品の要求に応じて変化し得る、典型的には15から40%の間の、ケーシング質量の増加をもたらし得る。
【0063】
用途に応じて、抗真菌性ケーシングは、ケーシングの内部表面において水性組成物または水性組成物の希釈物でさらに含浸させることができる。
【0064】
水性組成物の塗布後、ケーシングを数時間静置してコーティングを固め、水性組成物でコーティングされたフラットケーシングを、任意に、滑剤の有無によらずシャーリングさせて所望の長さのスティックに変換することができる。
【0065】
得られる抗真菌性ケーシングは、ケーシングの1平方デシメータ当たり少なくとも1ミリグラムのナタマイシンを保持することができ、広範なカビ及び酵母種に対して高度に有効である。
【0066】
本発明の抗真菌性ケーシングは、製造日から少なくとも4ヶ月間に亘って活性を維持し、標準的なケーシングと同等の期間でソーセージを乾燥させることができる。
【0067】
最終的な目的として、本発明はまた、肉または肉エマルジョンが充填された、従前に開示された抗真菌特性を有する食品ケーシングを含む食肉製品にも関する。好ましい実施態様では、肉製品はソーセージであり、より好ましくはドライもしくはセミドライソーセージである。
【0068】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。以下の説明は、本発明のいくつかの実施態様及び実施例を詳細に開示しており、当業者は本開示に基づいて本発明を利用できる。実施態様の全ての工程が詳細に開示されているわけではないが、その多くが当業者にとっては自明であるためである。
【実施例
【0069】
実施例1:本発明のケーシングのカビ及び酵母に対する効果
二重ビスコース層(DVL)Viscofan繊維状Clear Securex Code 4 Sフラットケーシングを、以下の水性組成物のいずれかを含む浸漬タンクを通過させてコーティングした:
- 組成物A:2%のヒドロキシプロピルセルロース、0.3%のナタマイシン
- 組成物B:2%のヒドロキシプロピルセルロース、0.3%のリノール酸、0.3%のナタマイシン
- 組成物C:4%のカゼイン、1%の蜜蝋、3%のカルナウバワックス、0.3%のナタマイシン
組成物B及びCが本発明の一部である一方で、Aは対照である。
【0070】
添加率[含浸後のケーシング質量増加の割合]は40%であった。抗真菌性ケーシングはシャーリング機を通過し、これによりフラットケーシングは所望の長さのスティックに変換された。
【0071】
この抗真菌性ケーシングに24時間発酵させた生のソーセージ肉を充填した後、ペニシリウム・コンミューン(Penicillium commune)(カビ)、クラドスポリウム・スフェロスパーマム(Cladosporium sphaerospermum)(カビ)、及びデバロミセス・ハンセニイ(Debaromyces hansenii)(酵母)で自然に汚染された工業用乾燥室中で、2.5週間に亘って乾燥させた。
【0072】
本発明の抗真菌性充填ケーシングを、下記と比較した。
・対照ケーシング(対照01):いかなる抗真菌性コーティングもしくは化合物でも処理されていない繊維状ケーシングであって、同様の肉エマルションを充填したもの。
・処理した対照ケーシング(対照02):「対照01」と同様の充填繊維状ケーシングであって、抗真菌性ケーシング及び対照ケーシング01と同様の肉エマルションを充填した後に、ナタマイシンの水中0.3%の抗真菌性溶液に浸液したもの。
結果を表1にまとめた。
【0073】
【表1】
【0074】
試験終了時には、対照ケーシング(対照01)の表面の90%が、主にデバロミセス・ハンセニイによって汚染されていた。処理した対照ケーシング(対照02)は、その表面の70%が汚染されていた。組成物Aは、処理した対照ケーシング(対照02)と比較して有意な改善を全く示さなかった。組成物A、B、及びC、ならびに処理した対照ケーシング(対照02)を、同濃度のナタマイシン(0.3%)で含浸させたにもかかわらず、本発明に基づく組成物(組成物B及び組成物C)は、デバロミセス・ハンセニイのほぼ完全な阻害、及びペニシリウム・コンミューン及びクラドスポリウム・スフェロスパーマムの十分な阻害を示した。
【0075】
実施例2:本発明のケーシングの乾燥速度
実施例1に記載の抗真菌性ケーシングを、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicilium candidum)に対して試験し、抗真菌性ケーシングの水分損失をモニターし、抗真菌性処理を行っていない同様の繊維状ケーシングの対照(対照01)と比較した。
【0076】
抗真菌性ケーシング及び対照を、生のソーセージ肉で充填した。各充填ケーシングの質量(生肉+ケーシング)を記録した。
【0077】
各充填ケーシングの半分のみを、106UFC/grを含むダニスコ社製のペニシリウム・カメンベルティの水懸濁液に浸漬させた。
【0078】
充填ケーシング(抗真菌性及び対照)を毎週チェックし、その質量を記録した。2週間後、乾燥は完了したとみなされた。
【0079】
図1で観察される通り、本発明の抗カビケーシングの表面全体が、数個の孤立した小さなコロニーがある以外は実質的に清浄であった(図1B及びC)。しかしながら、対照ケーシングのカビ培養物に浸漬された領域は、ペニシリウム・カメンベルティで完全に汚染されていた(図1Aを参照)。
【0080】
また、表2の結果は、本発明の防カビケーシングと対照が、同等の時間内に同程度の量の水分を失ったことを示す。このことは、本発明のコーティングがソーセージの乾燥サイクルを阻害もしくは遅延させるものでないことを証明している。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例3:ケーシングの抗真菌性効果の持続時間
組成物Cによる抗真菌性ケーシングの貯蔵寿命を数ヶ月間に亘ってモニターした。ケーシングは、暗室に、室温にて大気条件下で保存した。
【0083】
ナタマイシンを、メタノールを用いて抗真菌性ケーシングから抽出し、UV-Vis分光光度計で分析した。ナタマイシンは、290、303、及び328nmに3つのピークを有するスペクトルを生成する。吸光度とナタマイシン濃度とを相関させた検量線を予め作成した。
【0084】
【表3】
【0085】
ケーシング中のナタマイシン濃度に、有意な経時変化は観察されなかった。これにより、本発明の抗真菌性ケーシングは、少なくとも4ヶ月の貯蔵寿命を有することが確認される。
図1-1】
図1-2】