(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】熱接触充填材、及び熱接触充填材を有する蓄電池集成体
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20230704BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20230704BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230704BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20230704BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20230704BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20230704BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20230704BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230704BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20230704BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20230704BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20230704BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20230704BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20230704BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20230704BHJP
H01M 10/6554 20140101ALI20230704BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H01M50/204 401H
H01M50/249
C08K3/22
C08K5/10
C08K5/5425
C08K5/5435
C08K5/544
C08L71/02
C08L101/02
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/653
H01M10/6554
H05K7/20 A
(21)【出願番号】P 2020565524
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2019052263
(87)【国際公開番号】W WO2019154694
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】102018102989.6
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520298684
【氏名又は名称】ポリテック・ペーテー・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】POLYTEC PT GMBH
【住所又は居所原語表記】POLYMERE TECHNOLOGIEN, ETTLINGER STRASSE 30, 76307 KARLSBAD, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,アルノ
(72)【発明者】
【氏名】シュテーサー,ベンヤミン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242022(JP,A)
【文献】特開2019-089924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0312097(US,A1)
【文献】特表2021-513503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20
C08L 101/02
C08K 3/22
C08K 5/10
C08L 71/02
C08K 5/5425
C08K 5/544
C08K 5/5435
H01M 10/613
H01M 10/615
H01M 10/625
H01M 10/653
H01M 10/651
H01M 10/6554
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の蓄電池集成体(1)であって、
少なくとも一つのキャリア(31、32、33、34、35、36)と、少なくとも一
つの蓄電池要素(21、22、23、24)であって当該蓄電池要素(21、22、23
、24)が当該キャリア(31、32、33、34、35、36)上に配置されているも
のと、少なくとも一つの基板(4)とを有し、
当該キャリア(31、32、33、34、35、36)は当該基板(4)上に配置され
ている蓄電池集成体(1)において、
少なくとも前記基板(4)と前記キャリア(31、32、33、34、35、36)と
の間及び/又は前記蓄電池要素(21、22、23、24)と前記キャリア(31、32
、33、34、35、36)との間に熱伝導層(5)が配置されており、
当該熱伝導層(5)は熱接触充填材から構成され、
前記熱接触充填材は、
少なくとも一つの熱伝導性充填材と少なくとも一つのシリコン非含有基油とを有し、
前記熱伝導性充填材は金属水酸化物であり、
当該熱接触充填材は、さらに少なくとも一つの化学的架橋性プレポリマー混合物を有し
、
前記熱伝導層(5)は、前記基板(4)と前記キャリア(31、32、33、34、3
5、36)との間及び/又は前記蓄電池要素(21、22、23、24)と前記キャリア
(31、32、33、34、35、36)との間において取り外し可能であるように配置
されている及び/又はチキソトロープ性を有し、
前記化学的架橋性プレポリマー混合物は、少なくとも一つのプレポリマーと少なくとも
一つの架橋剤とを有
し、
前記熱接触充填材は、前記基板(4)と前記キャリア(31、32、33、34、35、36)との間及び/又は前記蓄電池要素(21、22、23、24)と前記キャリア(31、32、33、34、35、36)との間における隙間に充填された後、化学的架橋によってポリマーが形成されることによって硬化するように構成されていることを特徴とする蓄電池集成体(1)。
【請求項2】
前記プレポリマー
はアルコキシ官能性ポリエーテルであることを特徴とする、請求項1に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項3】
前記架橋剤は
、ビニルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される
有機官能性シランであることを特徴とする、請求項
1または2に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項4】
当該熱接触充填材は、さらに重合触媒を有することを特徴とする、請求項1から3のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項5】
当該熱接触充填材における前記熱伝導性充填材の割合が50から90重量パーセントの範囲にあることを特徴とする、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項6】
当該熱接触充填材における前記シリコン非含有基油の割合が5から50重量パーセントの範囲にあることを特徴とする、請求項1から5のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項7】
当該熱接触充填材における前記化学的架橋性プレポリマー混合物の割合が1から15重量パーセントの範囲にあることを特徴とする、請求項1から6のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項8】
前記シリコン非含有基油
は高沸点を有する合成エステルであることを特徴とする、請求項1から7のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項9】
当該熱接触充填材は、0.1mm/日から10mm/
日の硬化速度を有することを特徴とする、請求項1から
8のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項10】
当該熱接触充填材は、50から500Pa・sの範囲における動粘度を有することを特徴とする、請求項1から
9のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項11】
当該熱接触充填材は、1から5W/m・Kの範囲における熱伝導率を有することを特徴とする、請求項1から
10のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項12】
当該熱接触充填材は、1.5から2.5g/cm
3の範囲における密度を有することを特徴とする、請求項1から11のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項13】
当該熱接触充填材は、シリコン非含有であることを特徴とする、請求項1から12のうちいずれか一項に記載の
蓄電池集成体(1)。
【請求項14】
前記熱伝導層(5)は、0.1mmから10m
mの範囲における層厚さを有することを特徴とする、請求項
1~13のうちいずれか一項に記載の蓄電池集成体(1)。
【請求項15】
前記熱伝導性充填材は、アルミニウム水酸化物である請求項1~14のうちいずれか一項に記載の蓄電池集成体(1)。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
電子システム及びエネルギー技術システムを作動する際に熱が生じるが、当該熱は素早く且つ効率的に当該熱を生成するユニットから除去される必要がある。能動要素と相応する熱供給手段又は熱除去手段とを熱接触させるために、伝統的には固定された機械的な接触は、螺合、クランプ留め、又は、半田付け若しくは溶接による材料一体化により生成される。機械的な固定は、当該結合が再び取り外し可能であるという利点を有する。しかしながら当該各能動要素間における熱伝達は、少ない接触点を介してのみ実施される。当該各能動要素間には熱伝導性が極めて悪い空気層が存在するため、生成された熱は不完全にしか除去されない。したがって熱伝達を改良するために熱伝導性を有する材料が当該各能動要素の間、すなわち熱を生成する要素と放熱要素との間の隙間に導入される。
【0002】
このような熱伝導性を有する材料は、マイクロエレクトロニクスの分野より例えば熱伝導ペーストの形で公知であり、そこでは半導体チップからの放熱を可能にする。多くの場合この種の熱伝導ペーストは、例えば酸化アルミニウムなどの金属又はセラミック製の粒子からなる熱伝導性充填材と結合剤としてのシリコン含有基油とから構成される。
【0003】
例えば、独国特許出願公開第102015118245号明細書より、電子部品のための熱伝導ペーストであって、充填材として酸化アルミニウムとシリコン含有基油とを含むものが公知である。
【0004】
この種の熱伝導ペーストは、当該熱伝導ペーストを簡単に当該各能動要素間の当該隙間に導入することが可能であり、自身のペースト状である特性が故に再び除去可能でもあるため、マイクロエレクトロニクスの分野において与えられる要求を概ね満たすものである。さらに当該熱伝導ペーストは、例えば熱交換器における熱接触など、大規模の技術的な用途にも用いられ得る。しかしながらこの種の熱伝導ペーストは、自身のペースト状である特性が故に機械負荷に晒される用途には不向きである。例えば振動や運動などの機械負荷によって当該各能動要素間の当該隙間から当該熱伝導ペーストの漏れが生じる虞があるため、当該隙間に空気が入る。この種の機械負荷は、例えば車両の場合大きな役割を担うため、衝撃、振動及び傾斜姿勢の状況下における車両部品の冷却に際して熱伝導可能な材料の適切な動作安定性が望まれる。当該各能動要素間において空気層が形成されることで放熱要素の局地的な過熱につながることがあり、これにより当該放熱要素の機能性が制限される。したがって当該熱伝導ペーストの当該隙間からの漏れは発熱要素の故障を生じさせ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第102015118245号明細書
【文献】国際公開第2012/013789号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明には先行技術より公知である熱伝導ペーストと比べて大規模の用途に適しており、特に潜在的な機械負荷により良好に耐える熱接触充填材を提示するという課題が基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明において請求項1の特徴を有する熱接触充填材と、請求項14の特徴を有する蓄電池集成体とによって解消される。本発明における考え方の有利な発展形態は、従属クレームの対象である。
【0008】
本発明による熱接触充填材は、少なくとも一つの熱伝導性充填材と少なくとも一つのシリコン非含有基油とを有する。ここで、前記熱伝導性充填材は金属水酸化物、特にアルミニウム水酸化物であり、当該熱接触充填材は、さらに少なくとも一つの化学的架橋性プレポリマー混合物を有することが重要である。
【0009】
本発明による熱接触充填材は、先行技術より公知である熱伝導ペーストに比べて熱伝導充填材として典型的には固有的に軽量且つ安価である金属水酸化物が用いられるという利点を有する。ここで当該金属水酸化物は、しばしば使用される酸化アルミニウムの密度が3.9g/cm3であるのに対して2.4g/cm3と著しく小さい密度を有するアルミニウム水酸化物であることは本発明の範囲内にある。熱接触充填材の使用される成分の密度がより小さいと、自身の適用範囲に好影響を与える。好ましくは大規模な用途の場合、より小さい密度と、このことに伴う熱接触充填材の重量の軽減が好ましい。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
さらに使用される当該金属水酸化物は、典型的には当該金属酸化物に比べて明らかに研磨性が低いため、当該各能動要素のみならず、本発明による熱接触充填材を加工するために用いられる計量装置の可能な部品をも保護することが可能である。これにより当該各能動要素と当該計量装置の早期における材料摩耗を有利な形で回避することが可能となる。
【0011】
本発明のさらなる利点は、本発明による熱接触充填材が結合剤としてシリコン非含有基油を含む点にある。一般的にシリコン含有基油は微量の揮発性シリコン化合物を含み、当該シリコン化合物が各基油から周囲空気に放出され得ることが知られている。当該揮発性シリコン化合物は、当該各能動要素の周囲の表面上に付着し得る。汚染された当該表面上に、その後塗装処理又は接着処理が施されると、塗装層又は接着層の付着力が失われる虞がある。当該揮発性シリコン化合物が電気接点に到達すると、当該電気接点がスパーク発生によって分解されて、絶縁酸化物層を形成し、これにより当該接点の機能が損なわれる又は破壊される。したがってシリコン非含有基油を使用することで周囲の表面が揮発性シリコン化合物によって汚染されることを有利な形で回避することが可能となる。さらにシリコン非含有基油の形における結合剤の使用によって、当該熱接触充填材の粘度、したがって流動性を所望する値に調整することが可能となる。これにより計画した用途に関連して当該熱接触充填材の粘度と流動性とを調整することが可能となる。
【0012】
化学的架橋性プレポリマー混合物の存在は、当該熱接触充填材が二つの能動要素の間における隙間に充填された後、化学的架橋によってポリマーが形成されることによって硬化し得ることを有利な形で可能にする。これにより先行技術より公知であるペースト状の熱伝導性を有する材料と比べて、当該熱接触充填材は振動及び運動による機械負荷の結果、当該隙間から漏れて自身の位置を変えるが故に新たに空気が当該発熱部品の当該各能動要素間の当該隙間に入り得ることが回避される。これにより当該発熱要素の局所的な過熱が回避され、これにより最終的に当該部品の耐用寿命が明らかに延長される。
【0013】
ここで当該ポリマーの当該化学的架橋が、好ましくは水、特に空気湿度の形で実施されることは本発明の範囲内にある。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
上記の当該熱接触充填材は、好ましくはエネルギー技術及び電気技術の分野において熱伝導性を有し潜在的に可逆的であるように大きめの容積又は間隙を充填する必要がある場合に適用され得る。これは主にリチウムイオン電池又はモジュールにおける計量可能且つ修理可能な熱接触である、電気自動車用の車両用蓄電池において当てはまる。その上、当該熱接触充填材は、好ましくは産業用加熱技術及び冷却技術、電気技術、電子工学及び機械製作の分野などにおける更なる用途にも使用され得る。当該用途とは、例えばソーラーパネル及び集熱装置におけるヒートパイプの熱結合や熱交換器、加熱テーブル及び冷却テーブル、ペルチェ素子、加熱されたプレス金型及び押出し成形機、エンボス成形装置、熱浴における可逆的熱接触並びにモーター、伝導電子要素、LEDランプ、センサ及び温度センサの可逆的な熱伝導の埋め込み又は接続である。
【0015】
有利な実施形態において、当該化学的架橋性プレポリマー混合物は、少なくとも一つのプレポリマーと少なくとも一つの架橋剤とを有する。ここで当該プレポリマーは、好ましくはアルコキシシラン官能性ポリエーテルであることが有利であると判明した。アルコキシシラン官能性ポリエーテルを重合することで典型的には固形でありながら同時に弾性を有する熱接触充填材を形成することが可能である。
【0016】
プレポリマーと架橋剤とを使用することで三次元ポリマー網状組織の形成とこれに伴って弾性的で寸法安定性を有するコンパウンドの形成を可能にする。これにより当該発熱要素の衝撃、振動、傾斜姿勢及び温度変化の状況下における使用強度がさらに明確に最適化される。ここで当該プレポリマーに対する当該架橋剤の割合を、架橋後に当該熱接触充填材の所望される弾性が維持されることで、当該熱接触充填材が当該発熱要素から再び剥離されて除去され得るように調整されることは本発明の範囲内にある。
【0017】
当該熱接触充填材の別の有利な実施形態において、当該架橋剤は、有機官能性シランである。本化合物の趣旨における有機官能性シランとは、反応性有機基を有するシラン系であることで架橋剤、すなわち各プレポリマー間の「分子の橋」として機能し得るハイブリッド化学化合物であると見なされる。市販されている利用可能なシランは、例えばアミノ基、エポキシ基、グリシドキシ基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアナート基、メタクリルオキシ基及びビニル基を含有する。
【0018】
さらに、当該有機官能性シランは、ビニルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランからなる群から選択され得ることは本発明の範囲内にある。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
当該プレポリマー混合物の重合反応の反応速度を高めるために別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材は重合触媒を有する。重合触媒の存在は、当該熱接触充填材の硬化速度を最適化する。ここで当該重合触媒の種類は、当該プレポリマー混合物の組成並びに当該架橋性を有する完成品の所望される特性に応じて選択され得ることは本発明の範囲内にある。
【0020】
当該熱接触充填材は、自動処理性のために十分な流動性を有する必要があるため、当該熱接触充填材の別の有利な好ましい実施形態において、当該熱接触充填材における前記熱伝導性充填材の割合が50から90重量パーセントの範囲にある。出願人の研究により最適な粘度、したがって流動性は、当該熱接触充填材において50から90重量パーセントの範囲にある当該熱伝導充填材の割合を使用することで得ることが可能であることが判明した。
【0021】
さらに当該熱接触充填材の流動性及び粘度は、当該基油の割合によって影響され得る。したがって別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材における前記シリコン非含有基油の割合が5から50重量パーセントの範囲にある。
【0022】
当該熱接触充填材の別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材における前記化学的架橋性プレポリマー混合物の割合が1から15重量パーセントの範囲にある。ここで当該化学的架橋性プレポリマー混合物の割合がより低い場合は、完全に重合化した状態における当該熱接触充填材の硬度と安定性がより低くなる。当該化学的架橋性プレポリマー混合物の割合がより高い場合は、相応して硬度と安定性がより高くなる。これにより使用者が計画した用途に相応して所望する当該熱接触充填材の特性を簡単な方法で選ぶことが可能となる。
【0023】
当該熱接触充填材の当該シリコン非含有基油は高沸点であることが好ましく、特に温度が20℃である場合、当該シリコン非含有基油は<10-4hPaの蒸気圧を有することが好ましい。
【0024】
当該熱接触充填材の当該シリコン非含有基油はエステルであることが好ましい。基油としてエステルを使用することは例えば潤滑油の製造について一般的に公知である。当該各潤滑油は、合成品と、例えば植物油や動物性脂肪など天然由来とに分類することが可能である。当該熱接触充填材のために用いられるエステルは高沸点の合成エステルであることが好ましく、当該高沸点の合成エステルは高い酸化安定性と低い蒸発傾向とを特徴としているため50℃から150℃の範囲における高められた温度であっても用いることができる。「高沸点のエステル」という用語は、温度が20℃である場合、<10-4hPaの蒸気圧を有するエステルのことである。
【0025】
当該熱接触充填材の計画した用途に応じて最適な架橋速度を得るために別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材は、0.1mm/日から10mm/日、好ましくは0.5mm/日から7mm/日、特に好ましくは1mm/日から5mm/日の硬化速度を有する。これにより当該熱接触充填材を時間の制約なしに当該各能動要素の間の当該隙間に導入し、同時に長い硬化時間を避けることが可能となる。このことは最終的に当該熱接触充填材の処理性に対して好影響を及ぼす。
【0026】
当該熱接触充填材の最適な流動性を保証するために当該熱接触充填材の別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材は、50から500Pa・s(40℃の状況下において回転粘度計を用いて測定)の範囲における動粘度を有する。
【0027】
当該熱接触充填材の流動性は、レオロジー添加剤の添加によって所望の値に調整できることが可能であることは本発明の範囲内にある。この種のレオロジー添加剤が当該熱接触充填材において0.1から5重量パーセントの範囲において存在して、当該熱接触充填材の粘度の増加に使用されることが好ましい。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
さらに別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材は、1.5から2.5g/cm3の範囲における密度を有する。当該熱接触充填材の熱伝導率は、自身の組成に応じており、成分を適宜選択することによって相応して調整することが可能である。これにより熱伝導性が用途に応じて選択され得ると同時に価格が最適化された材料を製造することが可能となる。
【0029】
別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材は、1.5から2.5g/cm3の範囲における密度を有する。
【0030】
前述のとおり本発明による熱接触充填材はシリコン非含有基油を有することを特徴とする。別の有利な実施形態において、当該熱接触充填材はシリコン非含有である。これにより当該基油のみならず、当該熱接触充填材のその他の成分からの揮発性シリコン化合物による周囲の表面を汚染することが回避される。よって当該発熱要素の周囲におけるさらなる部品の機能性が損なわれることを防止することが可能である。
【0031】
本発明の別の態様では、特に車両用の、蓄電池集成体であって、少なくとも一つのキャリアと、少なくとも一つの蓄電池要素と、少なくとも一つの基板とを有する、蓄電池集成体を提供する。ここで当該蓄電池要素が当該キャリア上に配置されており、当該キャリアは当該基板上に配置されている。
【0032】
例えばリチウムイオン蓄電池などの蓄電池集成体は、自動車産業において電気自動車の車両用蓄電池として十分に公知である。ここでは個々のリチウムイオン電池が一つのキャリア上に固定され、当該リチウムイオン蓄電池の電池性能を高めるために各リチウムイオン電池を有する複数のキャリアが基板上に固定される。当該各リチウムイオン電池内で発生する熱を効果的に放散するために当該キャリアのみならず当該基板もが放熱要素として機能する。従来の冷却システムは、液体冷却又は先行技術において記載される熱伝導ペーストをベースとしている。液体冷却の場合、当該液体が当該各能動要素の間における当該隙間に均一に流れないため均一な放熱が保証されないという問題が生じる。その結果蓄電池集成体の誤動作が生じ得る。
【0033】
市販されている熱伝導ペーストを使用する場合には前述の短所が生じる。例えば国際公開第2012/013789号には、複数の互いに接続されて互いに対して平行に配置された複数の蓄電池要素を有する蓄電池集成体が開示されており、ここでは当該各蓄電池要素によって生成された熱がシリコン含有基油を含む熱伝導ペーストによって放散される。前述のとおりこの種のシリコン含有基油は微量の揮発性シリコン化合物を含有しており、当該揮発性シリコン化合物が当該基油から周囲空気に放出され得る。当該揮発性シリコン化合物が電気接点に到達すると、当該電気接点はスパーク発生によって分解されて絶縁酸化物層を形成し、これにより当該接点の機能が損なわれるあるいは破壊される。このことは当該蓄電池集成体の寿命に悪影響を及ぼす。
【0034】
したがって最適な放熱を可能にして当該蓄電池集成体の部品の寿命を高めるために本発明による蓄電池集成体は重要な態様として熱伝導層を設け、当該熱伝導層は少なくとも前記基板と前記キャリアとの間及び/又は前記蓄電池要素と前記キャリアとの間に配置される。ここで当該熱伝導層は請求項1から13のうちいずれか一項に記載の熱接触充填材から構成される。
【0035】
使用状態における当該蓄電池集成体の安定性を最適化するために当該個々の蓄電池要素が当該キャリア上に及び/又は当該キャリアが当該基板上に機械的に固定されることは本発明の範囲内にある。これにより使用状態における当該蓄電池集成体の必要とされる耐衝撃性が保証される。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
当該蓄電池集成体の耐用年数の間、一つ又は複数の蓄電池要素の破損が生じることがあり、これにより当該蓄電池集成体の性能が低下する。したがって不備のある蓄電池要素を自身のキャリアごと又はは単独で当該床下から取り外して交換する必要がある。このような交換を簡単に可能にするために当該蓄電池集成体の第一の有利な実施形態においては、前記熱伝導層は、前記基板と前記キャリアとの間において取り外し可能であるように配置されている。このことは当該蓄電池集成体の修正、修理又はリサイクルを実施する場合、当該熱接触充填材をほどほどの力で取り除くことを可能にし、よって当該キャリア及び/又は当該基板を再利用することが可能である。
【0037】
製造に起因する、当該各蓄電池要素と当該キャリア及び/又は当該基板と当該基板との間における数ミリメートルの空隙を補えるようにするため、当該熱伝導層は、さらに好ましくはチキソトロープ性を有する。これらチキソトロープ性は、好ましくは当該熱接触充填材の組成を適切に選択することで得られる。例えばチキソトロープ性を有する熱伝導層を好ましくは当該熱接触充填材における当該プレポリマー混合物及び/又は当該架橋剤及び/又は当該基油の割合によって形成することが可能である。さらに当該熱伝導層の当該チキソトロープ性は、好ましい形で当該層の安定性に対して好影響を及ぼし得ることで当該熱伝導層の耐用寿命が増加され、熱伝導性が悪い空気層の形成が防止される。
【0038】
ここで当該熱伝導層を形成する当該熱接触充填材が、例えばレオロジー添加剤の形における安定剤などのさらなる添加剤を含むことは本発明の範囲内にある。この種の添加剤の添加は当該熱伝導層ないし当該熱接触充填材の粘度の調整を可能にし、好ましくは当該熱伝導層の安定性にも影響を及ぼす。
【0039】
当該蓄電池集成体の有利な実施形態は、前記熱伝導層は、0.1mmから10mm、好ましくは0.5mmから5mm、特に好ましくは1mmから3mmの範囲における層厚さを有することにある。これにより当該層厚さを当該各能動要素の間の当該隙間の寸法に最適であるように調整され得る。
【0040】
本発明のその他の有利な特徴は、図面に基づく実施形態の以下の説明から明らかになる。図示されているのは
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明による蓄電池集成体の第一実施形態の斜視概略図である。
【
図2】本発明による蓄電池集成体の実施形態の詳細断面図である。
【
図3】本発明による蓄電池集成体の第二実施形態の詳細断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1において本発明による蓄電池集成体1の第一実施形態が図示されている。当該蓄電池集成体1は複数の蓄電池要素21、22、23、24、複数のキャリア31、32、33、34、35、36並びに一つの基板4を有する。
【0043】
本実施形態において、四つの蓄電池要素21、22、23、24が一つのキャリア31上に配されており当該キャリアに対して螺合されている。当該キャリア31は、熱伝導板として形成されており、当該キャリア自体は当該基板上に配されており、当該基板に対して螺合されている。これにより作動時における当該蓄電池集成体1の衝撃又は当該集成体の傾斜姿勢に対する安定性が保証される。本実施形態において、当該キャリア31並びに当該基板4が金属製である。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。当該キャリア31及び/又は当該基板4は、例えば黒鉛などのその他の熱伝導性を有する材料から形成され得る。
【0044】
当該各蓄電池要素21、22、23、24は、互いに対して平行に列をなして配置されており、リチウムイオン電池として形成されている。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。したがってその他の種類の蓄電池を用いることができることも本発明の範囲内にある。さらに当該各蓄電池要素21、22、23、24は、当該各キャリア31、32、33、34、35、36上に互いに対して異なる方向に配置されていてもよい。
【0045】
当該キャリア31と比較して著しく大きい寸法を有する当該基板4上にはさらに別の、それぞれ互いに対して平行に配置されている四つの蓄電池要素を有する五つのキャリア32、33、34、35、36が配されており、同様に当該基板と螺合されている。
図1の明瞭化のために当該別の蓄電池要素に符号を付すことを省略した。
【0046】
さらに当該各キャリア31、32、33、34、35、36の数及び/又は当該各蓄電池要素21、22、23、24の数は異なることが可能であることは本発明の範囲内にある。
【0047】
図1より見受けられるように、当該各キャリア31、32、33、34、35、36と当該基板4との間に熱伝導層5が存在する。当該各蓄電池要素21、22、23、24によって生成されて当該各キャリアへ排出される熱は、当該層を介して、当該基板4へ放熱される。ここで当該各蓄電池要素21、22、23、24と当該各キャリア31、32、33、34、35、36との間にも熱伝導層5(
図1においては不図示)が導入されていることは本発明の範囲内にある。
【0048】
本実施形態においては、当該熱伝導層5は、本発明による熱接触充填材からなり、当該熱接触充填材は、とりわけ充填材としてアルミニウム水酸化物と、シリコン非含有基油として高融点を有する合成エステルとを含有する。
【0049】
さらに、
図1より見受けられるように、熱伝導層5は全面に亘って当該六つのキャリア31、32、33、34、35、36と基板4との間に配されている。さらに、当該層の層厚さは1mmである(
図1においては不図示)。これにより本実施形態において、最適な熱除去が可能となる。しかしながら熱伝導層5が点状及び/又は線状に当該六つのキャリア31、32、33、34、35、36と基板4との間に0.1から5mmの範囲における層厚さを有するように配されていることも本発明の範囲内にある。
【0050】
図2において、本発明の蓄電池集成体1の前述の実施形態の詳細図が断面図として示されている。当該蓄電池集成体1は、
図1において記載された形態に等しい構造を有する。この場合も四つの蓄電池要素21、22、23、24が一つのキャリア31上に配されており、当該キャリアに対して螺合されている(螺合は図示されず)。当該キャリア31は熱伝導板として形成されており、当該キャリア自体は当該基板4上に配されており当該基板に対して螺合されている(螺合は同様に図示されず)。これにより作動時における当該蓄電池集成体1の衝撃又は当該集成体の傾斜姿勢に対する安定性が保証される。
【0051】
図2より見受けられるように、キャリア31と基板4との間に熱伝導層5が存在する。各蓄電池要素21、22、23、24によって生成されて当該各キャリアへと排出された熱が当該熱伝導層を介して基板4へ放熱される。
【0052】
図3において、本発明による蓄電池集成体1の第二実施形態の詳細図が断面図として図示されている。詳細図における蓄電池集成体1は、
図2において記載された実施形態に同一の構成を有するため、さらなる詳細についてはさしあたって説明しない。前述の実施形態との違いは、キャリア31と基板4との間にのみ熱伝導層51が形成されるのではない点にある。むしろ、当該個々の蓄電池要素21、22、23、24の間にも熱伝導層52、53、54がキャリア31に対して垂直に導入される。これにより当該個々の蓄電池要素21、22、23、24よって生成された熱が対流を介して抱囲する当該蓄電池要素21、22、23、24に対して均等に分配されることでキャリア31並びに基板4に対する放熱が最適化される。ここでキャリア31に対して垂直に当該個々の蓄電池要素21、22、23、24の間に形成されている熱伝導層52、53、54が連続した層としてあるいは単に点状に導入されることは本発明の範囲内にある。熱伝導層52、53、54は本発明による熱接触充填材から形成され、ここでは当該層が熱伝導層5と同様に形成されている。