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特許7307127湿気硬化型組成物、および該湿気硬化型組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】湿気硬化型組成物、および該湿気硬化型組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20230704BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230704BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20230704BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20230704BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C08L71/02
C08L75/04
C08L83/04
C08K3/36
C08K5/20
C08K5/5415
C08K7/00
C08J3/215 CEZ
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021120932
(22)【出願日】2021-07-21
(62)【分割の表示】P 2020048361の分割
【原出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021167429
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓哉
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/108493(WO,A1)
【文献】特表2015-518500(JP,A)
【文献】特表2014-521819(JP,A)
【文献】特表2019-511585(JP,A)
【文献】特表2012-507585(JP,A)
【文献】特表2020-503400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08J 3/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマイドワックスに、下記一般式(1)のシラン末端変性ポリマー(A)を添加し混錬するアマイドワックス混錬工程と、
前記アマイドワックス混錬工程で得られたアマイドワックス含有混合物にアルコキシ基を含有し、粘度が10mPa・sより大きいポリエーテルまたはシリコーン樹脂である希釈剤を混合し低粘度させた後、疎水化シリカ無機粒子を混錬させる無機粒子混錬工程を含む、湿気硬化型組成物の製造方法であって、
前記アマイドワックスは前記疎水化シリカ無機粒子よりも粒子径が小さく、針状であることを特徴とする方法。
Y-[(CR -SiR(OR3-a (1)
(式中、Yは、窒素、酸素、硫黄または炭素を介して結合されているx価の有機ポリマー基であって、ポリマー鎖として、ポリオキシアルキレンまたはポリウレタンを含むx 価の有機ポリマー基であり、
Rは、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または炭素原子に窒素、リン、酸素、硫黄もしくはカルボニル基が結合することができる一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
xは、1 から1 0 までの整数であり、
aは、0 、1 、もしくは2 であり、
bは、1 から1 0 までの整数である。)
【請求項2】
前記アマイドワックス混錬工程が、前記アマイドワックス含有量に対して、シラン末端変性ポリマー(A)を1~2倍量添加し混合したアマイドマスターバッチを調整する第一工程と、
前記アマイドマスターバッチに残りの前記シラン末端変性ポリマー(A)を混合して、アマイドワックス含有混合物を得る第二工程を含む、請求項1に記載の湿気硬化型組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水部および親水部を有するポリマー、特にシラン末端変性ポリマーを主成分とするコンパウンドで、高せん断速度における粘度が小さいため作業性に優れると同時に、低せん断速度における粘度が大きいためチクソ性が十分に高く建造物などの略垂直面に施工されセラミックタイルなどの重量物を貼り付ける際、セラミックタイルのタレを防止することができる湿気硬化型組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加水分解性シリル基を有する重合体は、湿気硬化型ポリマーとして知られており、接着剤、シーリング材、塗膜防水材や塗料などのコーティング材など多くの工業、建築、土木など用途で幅広い分野で利用されている。
【0003】
加水分解性シリル基を有する重合体は、上記分野にて各種基材の施工の際、低粘度で作業性に優れることが求められる。一方で、これら湿気硬化型組成物が略垂直面に施工された後、特に接着剤の用途でセラミックタイルなどの重量物が貼り付けられた後に当該湿気硬化物が硬化するまでにずれ落ちずに固定位置にとどまること(ズレ防止性)が求められる。
【0004】
しかし、作業性を向上させる目的で可塑剤などの希釈剤を添加すると、チクソ性(チクソトロピー)も低下するため、塗料や接着剤などを略垂直面に施工するとタレの問題、特にセラミックタイルなどの重量物を固定位置に保持することができずタイルがずれ落ちる問題が生じる。
【0005】
そこで、これら湿気硬化組成物にチクソ性を付与することによって、タレの問題を解決する方法が提案されている。
具体的にはアマイドワックスや水添ひまし油などの揺変剤を付与すること(特許文献1)や、沈降性炭酸カルシウムを使用すること(特許文献2)、また沈降性炭酸カルシウムと表面未処理の重質炭酸カルシウムの割合を最適化することが提案されている(特許文献3)が、床仕上げ材などの水平面に対するチクソ性にのみ言及されており、垂直面に対するセラミックタイルのズレ性に関しては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-265914号公報
【文献】特開2015-086354号公報
【文献】特開2019-218466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低粘度で施工時の作業性に優れると同時に、チクソ性が十分に高く、建造物などの略垂直面に施工されセラミックタイルなどの重量物を貼り付ける際にセラミックタイルのタレを防止することができる湿気硬化型組成物を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特にシラン末端変性ポリマーを主成分とするコンパウンドで、所定の粘度範囲の希釈剤と表面処理された疎水化無機粒子および疎水部及び親水部を有する揺変剤を配合することにより、高せん断速における粘度を低下させると同時に、低せん断速度における粘度を増大させる性能を発現する湿気硬化型組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の湿気硬化型組成物では、疎水部および親水部を有するポリマー、特にシラン末端変性ポリマーと所定の粘度範囲を有する希釈剤に対し、疎水化無機粒子がファンデルワールス力により系内でネットワークを形成して系全体を増粘させている。
本発明においてポリマーの疎水部とは、疎水基や局所的に極性が小さい結合を含有する部分であれば特に限定されず、例えばアルキル基やフェニル基、もしくはポリエーテル鎖中のC-C結合、ポリジメチルシロキサンなどが該当する。
一方で親水部とは、親水基や局所的に極性が大きい結合を含有する部分であれば特に限定されず、例えば水酸基、アルコキシ基、ポリエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合などが該当する。

疎水化無機粒子は通常揺変剤よりも粒子径が大きいため、系内において比較的密なネットワークを形成し、系全体の粘度を増粘させる。これにより、湿気硬化型組成物に高せん断速度および低せん断速度両方における粘度を増大させる特性を生じさせる。
【0010】
一方で疎水部および親水部を有する揺変剤は、揺変剤分子内の水素結合などの親水部は、前記ポリマーや前記希釈剤の親水部との相互作用などによりネットワークを形成し、系全体を増粘させている。揺変剤、特にアマイドワックスは疎水化無機粒子よりも粒子サイズが小さく、針状であることにより、系内において比較的疎なネットワークを形成し、系全体の粘度をマイルドに増加させる。これにより、高せん断速度における粘度には大きく寄与せず、低せん断速度における湿気硬化型組成物の粘度に大きく寄与する特性が生じる。
また、希釈剤の粘度が所定値以上の範囲にある場合、低せん断速度における粘度を効果的に増大させる特性を発現していると考えられる。
【0011】
これら成分を併用することで、高せん断速度における粘度が小さいため作業性に優れると同時に、接着剤などの用途においては低せん断速度における粘度が大きいためチクソ性が十分に高く建造物などの略垂直面に施工されセラミックタイルなどの重量物を貼り付ける際、セラミックタイルのタレを防止することができる湿気硬化型組成物が実現可能となる。
【0012】
本発明の一例では、湿気硬化型組成物は、疎水部および親水部を有するシラン末端変性ポリマーおよび10mPa・sより大きい粘度範囲にある希釈剤に対して、粒子径約10μmの疎水化シリカの二次凝集体同士がそれらのファンデルワールス力により系内でネットワークを形成して系を増粘させている。また、揺変剤であるアマイドワックスは、加熱することで活性化した数十~数百nmの針状粒子分子鎖中のアミド結合同士の水素結合や各種成分の親水部との相互作用などによりネットワークを形成し系を増粘させている。
【0013】
疎水化シリカはアマイドワックスと比較して粒子サイズが大きいため、系内において比較的密なネットワークを形成し系全体の粘度を増粘させる。よって高せん断速度および低せん断速度におけるいずれの粘度を増大させる特性がある。
一方でアマイドワックスは疎水化シリカと比較して粒子サイズが小さく針状であるため、系内において比較的疎なネットワークを形成し系全体の粘度をマイルドに増加させる特性がある。よって高せん断速度における粘度には大きく寄与せず、低せん断速度における粘度に大きく寄与する特性がある。
【0014】
また希釈剤の粘度が10mPa・sより大きい範囲にある場合、低せん断速度における粘度を効果的に増大させる特性を発現していると考えられる。
特に疎水化シリカはシラン末端変性ポリマーおよび希釈剤の疎水部に対して有効にネットワークを形成し、アマイドワックスはシラン末端変性ポリマーおよび希釈剤の親水部に対して有効にネットワークを形成すると考えられる。
【0015】
よって、疎水化シリカおよびアマイドワックスと、疎水部及び親水部を有するシラン末端変性ポリマーおよび希釈剤、かつ10mPa・sより大きい粘度範囲にある希釈剤を併用させることで、高せん断速度における粘度をある一定以下に抑えると同時に、低せん断速度における粘度を効果的に増加させることが可能となる。
すなわち、これら成分を併用することで、高せん断速度における粘度が小さいため作業性に優れると同時に、接着剤などの用途においては低せん断速度における粘度が大きいためチクソ性が十分に高く建造物などの略垂直面に施工されセラミックタイルなどの重量物を貼り付ける際、セラミックタイルのタレを防止することができる湿気硬化型組成物が実現可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明の湿気硬化型組成物は、少なくとも1液以上の形態であって、湿気により硬化して最終的に組成物の硬化物が得られるものであれば、いかなる態様、形態、組成であってもよい。また、単一の成分でも2種以上の成分の混合物でもよい。湿気により加水分解し、シロキサン結合の生成により硬化し、アルコキシシリル基を有するポリマーを含有するコーティング材が代表的なものである。
【0018】
湿気硬化組成物は主成分として疎水部および親水部を有するポリマー(A)と、所定の粘度範囲の希釈剤(B)と、疎水化無機粒子(C)と、疎水部および親水部を有する揺変剤(D)と、を含むものであれば特に限定されない。
【0019】
ポリマー(A)は疎水部および親水部を有するものであればよく、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル等がある。
【0020】
ポリマー(A)は典型的には、下記一般式(1)に示すシラン末端変性ポリマーを含有する湿気硬化組成物が、優れた種々のコーティング材としての性能を示す。
Y-[(CR -SiR(OR3-a(1)
(式中、Yは、窒素、酸素、硫黄または炭素を介して結合されているx価の有機ポリマー基であって、ポリマー鎖として、ポリオキシアルキレンまたはポリウレタンを含むx 価の有機ポリマー基であり、
Rは、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または炭素原子に窒素、リン、酸素、硫黄もしくはカルボニル基が結合することができる一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
xは、1 から1 0 までの整数であり、
aは、0 、1 、もしくは2 であり、
bは、1 から1 0 までの整数である。)
【0021】
ポリマー(A)の末端基は、一般式(2)、または、一般式(3)で示す基であってもよい。
-O-C(=O)-NH-(CR -SiR(OR3-a (2)
-NH-C(=O)-NR’-(CR -SiR(OR3-a (3)
(式中、基および添字はそれらに対して上で特定された定義の一つを有し、
Rは、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
R’は、同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有する。)
【0022】
前記シラン末端変性ポリマーは、疎水部及び親水部を有しており、疎水化シリカは疎水部に対して有効に疎水化シリカ同士のファンデルワールス力によりネットワークを形成し、一方でアマイドワックスは親水部に対して有効にアミド結合同士の水素結合や各種成分の親水部との相互作用などによりネットワークを形成している。
【0023】
本発明において疎水部とは、疎水基や局所的に極性が小さい結合を含有する部分であれば特に限定されず、例えばアルキル基やフェニル基、もしくはポリエーテル鎖中のC-C結合、ポリジメチルシロキサンなどが該当する。
一方で親水部とは、親水基や局所的に極性が大きい結合を含有する部分であれば特に限定されず、例えば水酸基、アルコキシ基、ポリエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合などが該当する。
【0024】
上記一般式(1)に示すシラン末端変性ポリマーを含有する湿気硬化型組成物を、各種用途において各種基材にコーティングする際のコーティング材組成物としての形態、組成物内容は限定されない。
典型的な用途である、建築建材や工業構造物などの基材にシラン末端変性ポリマーを含有する湿気硬化型組成物を塗布する場合は、下記の組成物であることが好ましい。
(A)上記一般式(1)で示すシラン末端変性ポリマー: 5~100質量部
(B)希釈剤:5~100質量部
(C)疎水化無機粒子:0.1~20質量部
(D)揺変剤:0.1~10質量部
(E)アミン化合物: 0.01~10質量部
(F)脱水剤: 0~10質量部
(G)安定化剤: 0.01~5質量部
(H)充填剤: 0~80質量部
(I)触媒: 0~5質量部
ただし、各成分の質量部は、湿気硬化型組成物全体を100質量部とした場合の質量部である。
【0025】
シラン末端変性ポリマーとしてのポリマー(A)は、湿気硬化型組成物の主剤であり、塗布後に湿気により被膜を形成する成分である。
ポリマー(A)は、商業的な製品として購入することができ、または、化学的な一般的な方法によって調製することもできる。ポリマー(A)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0026】
基Rの例は、アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-n-ブチル、2-n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル基;ヘキシル基、例えばn-ヘキシル基;ヘプチル基、例えば、n-ヘプチル基;オクチル基、例えばn-オクチル基、イソオクチル基および2,2,4-トリメチルペンチル基;ノニル基、例えば、n-ノニル基;デシル基、例えば、n-デシル基;ドデシル基、例えば、n-ドデシル基;オクタデシル基、例えば、n-オクタデシル基;シクロアルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基およびメチルシクロヘキシル基;アルケニル基、例えば、ビニル、1-プロペニルおよび2-プロペニル基;アリール基、例えば、フェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリル基;アルカリール基、例えば、o-、m-、p-トリル基、キシリル基およびエチルフェニル基、ならびにアラルキル基、例えば、ベンジル基、α-およびβ-フェニルエチル基である。
【0027】
置換された基Rの例は、ハロアルキル基、例えば、3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル基、2,2,2,2’,2’,2’-ヘキサフルオロイソプロピル基およびヘプタフルオロイソプロピル基、ならびにハロアリール基、例えば、o-、m-およびp-クロロフェニル基である。
基Rは、好ましくは場合によってハロゲン原子によって置換されており1から6個の炭素原子を有している一価の炭化水素基を、より好ましくは1個または2個の炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチル基を含む。
【0028】
基Rの例は、水素原子、Rに対して特定した基、また炭素原子に、窒素、リン、酸素、硫黄、炭素、またはカルボニル基によって結合されている、場合によって置換されている炭化水素基である。
好ましくは、Rは、水素原子および1から20個までの炭素原子を有する炭化水素基であり、より特定的には水素原子である。
【0029】
基Rの例は、水素原子または基Rに対して特定した例である。
基Rは、好ましくは、水素原子、または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは1から4個までの炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチルおよびエチル基である。
【0030】
ポリマー基Yのベースとなるポリマーは、本発明においては、主鎖中の全結合の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%が炭素-炭素、炭素-窒素、または炭素-酸素結合である全てのポリマーであることが理解されるべきである。
【0031】
ポリマー基Yは、有機ポリマー基を好ましくは含み、それは、ポリマー鎖として、ポリオキシアルキレン、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーおよびポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレンコポリマー;炭化水素ポリマー、例えば、ポリイソブチレン、ポリエチレン、またはポリプロピレンおよびポリイソブチレンのイソプレンとのコポリマー;ポリイソプレン;ポリウレタン;ポリエステル、ポリアミド;ポリアクリレート;ポリメタクリレート;およびポリカーボネートを含み、それらは、好ましくは、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)O-、-NH-C(=O)-NH-、-NR’-C(=O)-NH-、NH-C(=O)-NR’-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-S-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-S-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-S-C(=O)-S-、-C(=O)-、-S-、-O-および-NR’-によって1つの基または複数の基-[(CR -SiR(OR3-a]に結合され、ただし、R’は、同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有し、または基-CH(COOR”)-CH-COOR”であり、ここでR”は同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有する。
【0032】
基R’の例は、シクロヘキシル、シクロペンチル、n-プロピルおよびイソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチル、ペンチル基、ヘキシル基、またはヘプチル基のさまざまな立体異性体、およびまたフェニル基である。
基R’は、好ましくは、基-CH(COOR”)-CH-COOR”または1から20個までの炭素原子を有する、場合によって置換されている炭化水素基、より好ましくは1から20個までの炭素原子を有する直鎖の基、分枝した基もしくはシクロアルキル基、または6から20個の炭素原子を有しており、場合によってハロゲン原子によって置換されているアリール基である。
【0033】
基R”は、好ましくは1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
【0034】
より好ましくは、式(1)中の基Yは、ウレタン基およびポリオキシアルキレン基を、より好ましくはポリオキシプロピレン含有ウレタン基またはポリオキシプロピレン基を含む。
【0035】
ここでポリマー(A)は、ポリマー中の任意の望ましい位置、例えば、鎖内および/または末端に、好ましくは鎖内および末端に、より好ましくは末端に、記載されている様式で結合している基-[(CR -SiR(OR3-a]を有することができる。
【0036】
ポリマー(A)の末端基は、好ましくは、一般式(2)、または、一般式(3)である。
-O-C(=O)-NH-(CR -SiR(OR3-a (2)
-NH-C(=O)-NR’-(CR -SiR(OR3-a (3)
(式中、基および添字はそれらに対して上で特定された定義の一つを有し、
Rは、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
R’は、同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有する。)
【0037】
本発明の1つの特に好ましい実施形態において、ポリマー(A)は、いずれの場合も、-O-C(=O)-NH-(CR 基または-NH-C(=O)-NR’-(CR 基(R’、Rおよびbは、上で特定した定義の1つを有する。)によって結合されているジメトキシメチルシリル、トリメトキシシリル、ジエトキシメチルシリル、またトリエトキシシリル末端基を有するシラン末端ポリエーテルおよびシラン末端ポリウレタン、より特定的にはシラン末端ポリプロピレングリコールおよびシラン末端ポリウレタンを含む。
【0038】
ポリマー(A)の数平均分子量Mnは、好ましくは、少なくとも400g/mol、より好ましくは、少なくとも600g/mol、より特定的には少なくとも800g/molであり、好ましくは30,000g/mol未満、より好ましくは19,000g/mol未満、より特定的には13,000g/mol未満である。
【0039】
ポリマー(A)の粘度は、いずれの場合にも20℃で測定されて、好ましくは少なくとも0.2Pa・s、より好ましくは少なくとも1Pa・s、非常に好ましくは少なくとも5Pa・sであり、好ましくは1,000Pa・s以下、より好ましくは700Pa・s以下である。
【0040】
本発明の第一の特に好ましい実施形態の場合において、ポリマー(A)は、ポリマー基Yとして、線状のまたは分枝したポリオキシアルキレン基、より好ましくはそれらの鎖末端が、好ましくは-O-C(=O)-NH-によって、1つの基または複数の基-[(CR -SiR(OR3-a]に結合されているポリオキシプロピレン基を含む。ここでは、全鎖末端の好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より特定的には少なくとも95%が、-O-C(=O)-NH-によって基-[(CR -SiR(OR3-a]に結合されている。このポリオキシアルキレン基Yは、200から30,000、好ましくは1,000から20,000のMn(数平均分子量)を有する。そのようなポリマー(A)を調製するための適切な製造方法およびポリマー(A)の例それ自体も、既知であり、本明細書の開示内容に含まれるEP1535940B1またはEP1896523B1を含めた出版物に記載されている。対応するシラン末端ポリマーは、例えば、Wacker Chemie AGからGENIOSIL(登録商標)STP-Eの名称の下で市販されてもいる。
【0041】
ポリマー(A)を化学的に合成する場合は、例えば、ヒドロシリル化、マイケル付加、ディールス-アルダー付加のような付加反応、またはイソシアネート官能性化合物とイソシアネート反応性の基を含む化合物との間の反応等のさまざまな既知の製造方法によって合成することができる。
【0042】
組成物全体に対するポリマー(A)の含有量は、5~90質量部の範囲が好ましい。5質量部未満だと、主剤以外の成分が大量に組成物に残存することになり、組成物としての十分な性能が発揮されず、形成するポリマーマトリックスの量が不十分で、求められる引張強さや伸び、引裂強度などの機械的特性が不十分になり、接着不良、皮膜の割れ、など硬化物としての欠陥が発生、かつ、他成分による弊害を起す可能性があるからである。より好ましくは、10~60質量部の範囲である。
【0043】
希釈剤としての成分(B)は、本発明の湿気硬化型組成物に対して、低粘度化させることによる製造時の撹拌効率の向上、様々な荷姿の容器への充填性向上、スプレーや刷毛、ローラー、くし目ごてなどによる施工時の作業性の向上などを目的に添加される。また引張強さや伸びなどの物性調整剤、また硬化物の柔軟性や耐候性を改良する添加剤として作用することもできる成分である。希釈剤の名称の代わりに、可塑剤とも表現され得る。希釈剤(B)は商業的な製品として購入することができ、または、化学的な一般的な方法によって調製することもできる。希釈剤(B)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0044】
通常、塗料などにはトルエンやキシレンなどの塗料用シンナー、シーリング材や接着剤などにはミネラルスピリットなどの有機溶剤が使用されるが、環境や人体への有害性、引火による火災の危険性などを考慮して、これら有機溶剤の使用は好ましくない。
【0045】
希釈剤(B)の例は、フタル酸エステル(例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルおよびフタル酸ジウンデシル)、ペルヒドロ化フタル酸エステル(例えば、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルおよび1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジオクチルエステル)、非フタル酸系可塑剤、アジピン酸エステル(例えば、アジピン酸ジオクチル)、安息香酸エステル、グリコールエステル、飽和アルカンジオールのエステル(例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートおよび2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート)、リン酸エステル、スルホン酸エステル、ポリエステル、ポリエーテル(例えば、好ましくは1,000から10,000のMnを有するポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール)、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、パラフィン炭化水素および分枝した高分子質量の炭化水素である。
【0046】
特に反応性希釈剤の場合は、シラン末端変性ポリマーのネットワークに組み込まれ、もしくは前記シラン末端変性ポリマーとの相互作用により、張強さや伸びなどの物性調整剤、また硬化物の柔軟性や耐候性を改良する添加剤として作用することもできる成分である。
【0047】
希釈剤としての成分(B)は、特にアルコキシ基などを含有する反応性希釈剤が好ましい。反応性希釈剤は非反応性希釈剤と比較し、硬化後にポリマー成分と結合してポリマーマトリックスに組み込まれるため、硬化物の収縮が小さくかつ機械的物性や耐候性、耐久性を向上させることが可能となる。
【0048】
さらに疎水部および親水部を含有しかつ10mPa・sより大きい粘度範囲にある希釈剤が好ましい。具体的には、ポリエーテル(例えば、好ましくは300から10,000のモル質量を有するポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールで分岐していてもよくまたは分岐していなくてもよい。)、また各種アルコキシシラが加水分解重合したシリコーン樹脂などが好ましく、またこれら混合物もまた使用され得る。
【0049】
さらに好ましくは前記希釈剤が10mPa・sより大きい粘度範囲にある場合、低せん断速度における粘度を増加させる効果があると考えられる。また前記希釈剤は、疎水部および親水部を有しており、疎水化シリカは疎水部に対して有効にファンデルワールス力によりネットワークを形成し、アマイドワックスは親水部に対して有効に水素結合や各種成分の親水部との相互作用などによりネットワークを形成している。
【0050】
上記の希釈剤(B)シリコーン樹脂の例は、典型的には、下記一般式(4)に示す単位を含有するものであってもよい。
(RO) SiO(4-c-d-e)/2 (4)
(式中、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基、または式(4)の2つの単位を橋かけしている二価の、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、メチル基またはエチル基であり、
は、同じであっても異なってもよく、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている芳香族炭化水素基であり、
cは、0、1、2、もしくは3であり、
dは、0、1、2、3もしくは4であり、および
eは、0、1、もしくは2である。)
【0051】
基Rの例は、Rに対して上で特定した脂肪族の例である。しかしながら、基Rは、また、例えば、式(4)の2つのシリル基を互いに結び付けている、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、またはブチレン基等の1から10個の炭素原子を有するアルキレン基等の二価の脂肪族基を含むこともできる。二価の脂肪族基の1つの特に現時点の例は、エチレン基である。
しかしながら、基Rは、好ましくは、ハロゲン原子により場合によって置換されており、1から18個までの炭素原子を有する一価のSiC-結合した脂肪族炭化水素原子群、より好ましくは1から8個までの炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、より特定的にはメチル基を含む。
【0052】
基Rの例は、水素原子、または、基Rに対して特定されている例である。
基Rは、水素原子、または場合によりハロゲン原子によって置換されており、1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは1から4個までの炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチルおよびエチル基を含む。
【0053】
基Rの例は、Rに対して上で特定されている芳香族基である。
基Rは、好ましくは、場合によってハロゲン原子によって置換されており1から18までの炭素原子を有するSiC-結合した芳香族炭化水素基、例えば、エチルフェニル、トリル、キシリル、クロロフェニル、ナフチル、またはスチリル基、より好ましくはフェニル基を含む。
【0054】
成分(B)としての使用が好ましいのは、全ての基Rの少なくとも90%がメチル基であり、全ての基Rの少なくとも90%がメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピル基であり、全ての基Rの少なくとも90%がフェニル基であるシリコーン樹脂である。
【0055】
本発明に従えば、それぞれの場合に、式(2)の単位の総数に基づいて、cが0である式(2)の単位を少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%有するシリコーン樹脂を使用することが優先される。
【0056】
本発明の1つの実施形態は、それぞれの場合に、式(2)の単位の総数に基づいて、cが値2を表す式(2)の単位を少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%であり、80%以下、より好ましくは60%以下有するシリコーン樹脂を使用する。
【0057】
優先的に使用されるシリコーン樹脂は、それぞれの場合に、式(2)の単位の総数に基づいて、dが値0または1を表す式(2)の単位を少なくとも80%、より好ましくは少なくとも95%有するものである。
【0058】
それぞれの場合に、式(2)の単位の総数に基づいて、dが値0を表す式(2)の単位を少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%であり、好ましくは99%以下、より好ましくは97%以下有するシリコーン樹脂を使用することが優先される。
【0059】
希釈剤(B)としてより優先的に使用されるのは、それぞれの場合に、式(4)の単位の総数に基づいて、eが0以外の値を表す式(4)の単位を少なくとも1%、好ましくは少なくとも10%、より特定的には少なくとも20%有するシリコーン樹脂である。eが0以外である式(4)の単位のみを有するシリコーン樹脂が使用され得るが、より好ましくは式(4)の単位の少なくとも10%、非常に好ましくは少なくとも20%であり、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下は、0のeを有する。
【0060】
それぞれの場合に、式(4)の単位の総数に基づいて、eが値1を表す式(4)の単位を少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%有するシリコーン樹脂を希釈剤(B)として使用することが優先される。eが1である式(4)の単位のみを有するシリコーン樹脂が使用され得るが、より好ましくは式(4)の単位の少なくとも10%、非常に好ましくは少なくとも20%であり、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下は、0のeを有する。
【0061】
優先的に使用されるのは、それぞれの場合に、式(4)の単位の総数に基づいて、c
+eの和が0または1である式(4)の単位を少なくとも50%有するシリコーン樹脂である。
【0062】
本発明の1つの特に好ましい実施形態において、それぞれの場合に、式(4)の単位の総数に基づいて、eが値1を表し、cが値0を表す式(4)の単位を少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%有するシリコーン樹脂が下地調整剤として使用される。この場合、式(4)の総単位の好ましくは70%以下、より好ましくは40%以下は、0以外のdを有する。
【0063】
本発明の別の特に好ましい実施形態において、希釈剤(B)として使用されるシリコーン樹脂は、それぞれの場合に式(4)の単位の総数に基づいて、eが値1を表し、cが値0を表す式(4)の単位を少なくとも20%、より好ましくは少なくとも40%有しており、さらに、cが1または2、好ましくは2を表し、eが0を表す式(4)の単位を少なくとも1%、好ましくは少なくとも10%有する樹脂である。この場合、式(4)の全単位の好ましくは70%以下、より好ましくは40%以下は、0以外のdを有しており、式(4)の全単位の少なくとも1%は、0のdを有する。
【0064】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂の例は、実質的に、好ましくは排他的に、(Q)式SiO4/2、Si(OR11)O3/2、Si(OR112/2およびSi(OR111/2の単位、(T)式PhSiO3/2、PhSi(OR11)O2/2およびPhSi(OR111/2の単位、(D)式MeSiO2/2およびMeSi(OR11)O1/2の単位、ならびに(M)式MeSiO1/2の単位からなる(式中、Meはメチル基であり、Phはフェニル基であり、R11は、水素原子または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個の炭素原子を有しているアルキル基、より好ましくは水素原子または1から4個の炭素原子を有しているアルキルである。)オルガノポリシロキサン樹脂であり、樹脂は好ましは、(T)単位のモル当り、0-2モルの(Q)単位、0-2モルの(D)単位、0-2モルの(M)単位を含む。
【0065】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂の好ましい例は、実質的に、好ましくは排他的に、式PhSiO3/2、PhSi(OR11)O2/2およびPhSi(OR111/2のT単位、およびまた、式MeSiO2/2およびMeSi(OR11)O1/2のD単位からなる(式中、Meはメチル基であり、Phはフェニル基であり、R11は、水素原子または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個の炭素原子を有しているアルキル基、より好ましくは、水素原子または1から4個の炭素原子を有しているアルキル基であり、0.5対2.0の(T)単位対(D)単位のモル比を有する。)オルガノポリシロキサン樹脂である。
【0066】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂のさらなる好ましい例は、実質的に、好ましくは排他的に、式PhSiO3/2、PhSi(OR11)O2/2およびPhSi(OR111/2のT単位、ならびにまた、式MeSiO3/2、MeSi(OR11)O2/2およびMeSi(OR111/2のT単位、ならびにまた、場合によって、式MeSiO2/2およびMeSi(OR11)O1/2のD単位からなる(式中、Meはメチル基であり、Phはフェニル基であり、R11は、水素原子または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個の炭素原子を有しているアルキル基、より好ましくは、水素原子または1から4個の炭素原子を有しているアルキル基であり、0.5対4.0のフェニルシリコーン単位対メチルシリコーン単位のモル比を有する。)オルガノポリシロキサン樹脂である。これらのシリコーン樹脂中のD単位の量は、好ましくは10重量%未満である。
【0067】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂のさらに好ましい例は、実質的に、好ましくは排他的に、式PhSiO3/2、PhSi(OR11)O2/2およびPhSi(OR111/2のT単位からなる(式中、Phはフェニル基であり、R11は、水素原子または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個の炭素原子を有しているアルキル基、より好ましくは、水素原子または1から4個の炭素原子を有しているアルキル基である。)オルガノポリシロキサン樹脂である。これらのシリコーン樹脂中のD単位の量は、好ましくは10重量%未満である。
【0068】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂は、好ましくは少なくとも400の、より好ましくは少なくとも600のMn(数平均分子量)を有する。このMnは、好ましくは400,000以下、より好ましくは10,000以下、より特定的には50,000以下である。
【0069】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂は、23℃ および1,000hPaにおいて固体または液体のいずれかであり得、シリコーン樹脂は、好ましくは液体である。このシリコーン樹脂は、10から100,000mPa・sまで、好ましくは30から50,000mPa・s まで、より特定的には50から1,000mPa・sまでの粘度を好ましくは有する。シリコーン樹脂の粘度が小さい方が、高せん断速度における粘度が低下するため、作業性が良好になる。このシリコーン樹脂は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下の多分散性(Mw /Mn)を有する。ここでMwは重量平均を表す。
【0070】
疎水化無機粒子(C)は、本発明の湿気硬化型組成物に対して、それらのファンデルワールス力により系内でネットワークを形成して系全体を増粘させることで、一定以上のチクソ性を付与している。
特に疎水化シリカはシラン末端変性ポリマーおよび希釈剤の疎水部に対して有効にネットワークを形成すると考えられる。
【0071】
疎水化無機粒子(C)の原料として用いられる無機粒子としては、シリカ、二酸化チタン、ベントナイト、酸化亜鉛、タルク、カオリン、雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、金属石鹸等の無機粒子が挙げられる。 また、粒子に金属酸化物等を被覆させて得られる複合粒子や、粒子表面を化合物等で処理した改質粒子を用いてもよい。
【0072】
通常これらの粒子の表面はシラノール基、カルビノール基、あるいはその他の水酸基等の親水基で覆われている部分と、それらの基をアルキル基等で疎水化処理した基、ないしは、別の疎水性の基で覆われている部分が存在する。
その親水性基と疎水性基の比率を調整することにより、系における無機粒子の凝集性や溶解性を制御できる。
【0073】
前記無機粒子の中では、シリカを用いることが好ましい。シリカはフュームドシリカ、湿式シリカ、コロイダルシリカ等の種類があるが、いずれの種類のシリカの粒子においても表面には親水性であるシラノールが存在することと、そのシラノール基を任意の割合でアルキル基等による疎水化処理を行うことができるために、表面の親水基と疎水基のモル比を設定することが容易である。また、シリカは、凝集構造を取ること、各種油分との親和性が高く、入手容易性や経済性等の観点から、広汎な用途を与えることとなるため好ましい。
【0074】
本発明において最も好ましいシリカはフュームドシリカである。
フュームドシリカ粒子は、多次の凝集構造を取っている。そのため、凝集レベルに応じて表面の親水基と疎水基のバランスを制御したり、凝集単位を組み換えたりすることができる。
また、フュームドシリカ粒子は、多孔質構造を有しているので、表面積が大きくなり、より会合や吸着の機能が大きくなるため、系をより安定、均一に生成できるからである。
【0075】
フュームドシリカ粒子は、最小単位である1次粒子は、通常、5~30ナノメートル程度の大きさであり、1次粒子が凝集して1次凝集体、すなわち2次粒子を形成している。1次凝集体の大きさは、通常、100~400ナノメートル程度である。1次粒子同士は化学結合により融合しているので、1次凝集体を分離するのは通常困難である。さらに、1次凝集体同士が凝集構造を形成しており、これを2次凝集体、すなわち3次粒子と称する。2次凝集体の大きさは概ね10μm程度である。2次凝集体における1次凝集体間の凝集形態は、通常、化学結合ではなく、水素結合やファンデルワールス力によるものである。
【0076】
フュームドシリカ粒子は、粉末状では2次凝集体が多くの場合の最も大きな凝集状態である。しかし、湿気硬化型組成物内では2次凝集体がさらに凝集することができる。すなわち、本発明において疎水化シリカがシラン末端変性ポリマーおよび希釈剤の疎水部分に対してファンデルワールス力により有効にネットワークを形成している場合が、その一つの例である。その凝集を分離させる力は、2次凝集体を分離させる力よりも弱い力で分離できる。すなわち、本発明における湿気硬化型組成物において、施工時にくし目ごてなどで施工した際、その凝集を分離させることで作用時の粘度が低粘度化することが、その一つの例である。
【0077】
前記フュームドシリカ粒子は、疎水化されている場合が好ましく、疎水化に用いられる成分は特に限定されない。疎水化に用いられる成分は、例えばメチルトリクロロシランのようなハロゲン化有機ケイ素やジメチルジアルコキシシランのようなアルコキシシラン類、シラザン、低分子量のメチルポリシロキサンで、処理する公知の方法によって疎水化することができる。
【0078】
組成物全体に対する疎水化無機粒子(C)の含有量は、0.1~20質量部が望ましく、20重量部を超えると系全体の粘度が増加し、湿気硬化型組成物の製造時の撹拌不良による不均一化、施工時の作業性が著しく低下する可能性があるからである。より好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは2~5質量部の範囲である。
【0079】
疎水部および親水部を有する揺変剤としての成分(D)は、水素添加ひまし油系、アマイド系、酸化ポリエチレン系、植物油重合油系、界面活性剤系などがあり、単一成分でもよくまたはこれらを2種以上併用しても良い。
ここで、揺変剤の疎水部とは、疎水基や局所的に極性が小さい結合を含有する部分であれば特に限定されず、例えばアルキル基やフェニル基、もしくはポリエーテル鎖中のC-C結合、ポリジメチルシロキサンなどが該当する。
一方で親水部とは、親水基や局所的に極性が大きい結合を含有する部分であれば特に限定されず、例えば水酸基、アルコキシ基、ポリエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合などが該当する。
例えばアマイドワックスでは疎水部として炭素―炭素結合部、親水部としてアミド基を有している。
【0080】
揺変剤(D)は、本発明の湿気硬化型組成物に対して、それら親水部同士の相互作用、特に水酸基やアミド結合を有する場合はそれら水素結合や各種成分の親水部との相互作用などによりネットワークを形成し系を増粘させている。
特に前記揺変剤(D)はアマイドワックスが好ましく、この場合は、疎水化シリカと比較して粒子サイズが小さく針状であるため、系内において疎なネットワークを形成し系全体の粘度をマイルドに増加させる特性がある。よって高せん断速度における粘度には大きく寄与せず、低せん断速度における粘度に大きく寄与する特性がある。
またアマイドワックスはシラン末端変性ポリマーおよび希釈剤の親水部分に対して有効にネットワークを形成すると考えられる。
【0081】
アミン化合物(E)は、本発明の湿気硬化型組成物に対し、硬化触媒または硬化共触媒の機能を有し、さらに、接着促進剤として作用することもできる成分である。
アミン化合物(E)は、構造や分子量は特に限定されず、商業的な製品として購入することができ、または、化学な一般的な方法によって調製することもできる。
アミン化合物(E)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0082】
アミン化合物(E)は例えば、一般式(5)の単位を含む有機ケイ素化合物をであってもよい。一般式(5)の単位の一例としては、アミノプロピルトリメトキシシリル基が挙げられる。
Si(OR (4-f-g-h)/2 (5)
(式中、Rは、同じであっても異なってもよく、水素原子または場合によって置換されている炭化水素基を示し、
Dは、同じであっても異なってもよく、塩基性窒素を含む一価のSiC-結合した基を示し、
は、同じであっても異なってもよく、塩基性窒素を含んでいない場合によって置換されている一価のSiC-結合した有機基を示し、
fは、0、1、2、または3、好ましくは1または0であり、
gは、0、1、2、または3、好ましくは1、2、または3、より好ましくは2または3であり、
hは、1、2、3、または4、好ましくは1であり、ただし、f+g+hの合計は、4以下であり、分子当り少なくとも1つの基Dが存在する。)
【0083】
アミン化合物(E)は、シラン、すなわち、f+g+h=4である一般式(5)の化合物ばかりでなく、シロキサン、すなわち、f+g+h≦3である式(5)の単位も、含むことができるが、シランが優先される。
【0084】
組成物全体に対するアミン化合物(E)の含有量は、0.01~10質量部の範囲が好ましい。
0.01質量部未満だと、硬化不良および/または接着不良が起きる可能性があるからである。10質量部を超えると、必要のない反応を起こさせたり、皮膜表面にしわの発生、塗膜形成後に周囲の材料を変質させるなどの弊害を起す可能性があり、また可使時間が短くなることにより施工不良が起きる可能性がある。また、保存安定性で増粘・ゲル化・硬化などの不具合が生じ可能性があるからである。より好ましくは、0.5~3.0質量部の範囲である。
【0085】
脱水剤(F)は、本発明の湿気硬化型組成物に対し、水捕捉を行うことにより、脱水せしめる成分である。
脱水剤(F)は、商業的な製品として購入することができ、または、化学的な一般的な方法によって調製することもできる。
成分(F)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0086】
成分(F)の例は、シラン、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、O-メチルカルバメートメチル-メチルジメトキシシラン、O-メチルカルバメートメチル-トリメトキシシラン、O-エチルカルバメートメチル-メチルジエトキシシラン、O-エチルカルバメートメチル-トリエトキシシランおよび/またはそれらの部分縮合物、およびまた、オルトエステル、例えば、1,1,1-トリメトキシエタン、1,1,1-トリエトキシエタン、トリメトキシメタンおよびトリエトキシメタンである。
【0087】
組成物全体に対する脱水剤(F)の含有量は含まれなくてもよいが、0.01~10質量部の範囲が好ましい。0.01質量部未満だと、脱水の効果が十分でなく、製造中および保存中に増粘、ゲル化、硬化などの不具合が生じる可能性があり、10質量部を超えると、塗膜の物性を劣化させるなどの弊害を起す可能性があるのと、施工後に硬化不良、未硬化を起こす可能性があるからである。より好ましくは、0.5~3.0質量部の範囲である。
【0088】
安定化剤(G)は、本発明の湿気硬化型組成物に対し、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤や光安定剤の機能を有し、ポリマー劣化の安定化剤として作用することもできる成分である。
安定化剤(G)は、商業的な製品として購入することができ、または、化学的な一般的な方法によって調製することもできる。
安定化剤(G)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0089】
安定化剤(G)は、上記機能、作用を示すものでればよく、限定されないが、好ましくは、酸化防止剤、紫外線安定剤、HALSである。
【0090】
組成物全体に対する安定化剤(G)の含有量は、0.01~5質量部の範囲が好ましい。0.01質量部未満だと、紫外線や熱、酸化などによる塗膜劣化が起きる可能性があり、5質量部を超えると、予期せぬ不具合、例えば透明の製品であれば色調変化等、を起す可能性があるからである。より好ましくは、0.5~2.0質量部の範囲である。
【0091】
充填剤(H)は、本発明の湿気硬化型組成物に対し、増量材、粘度・粘性調整や引張強さや伸びなどの物性調整の機能を有し、含有する水分によってコーティング材の硬化促進剤として作用することもできる成分である。この成分は、上記の機能や作用を必要とされない場合は、本発明のコーティング材組成物にとっては必須成分ではない。
充填剤(H)は、商業的な製品として購入することができ、または、化学的な一般的な方法によって調製することもできる。
充填剤(H)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0092】
充填剤(H)は、上記機能、作用を示すものでればよく、限定されないが、例としては、非補強性充填剤、好ましくは、最大50m/gのBET表面積を有する充填剤、例えば、石英、珪砂、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、タルク、カオリン、ゼオライト、金属酸化物粉末、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、または酸化亜鉛および/またはそれらの混合酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、セッコウ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ガラス粉末およびポリマー粉、例えば、ポリアクリロニトリル粉末;補強性充填剤、50m/gを超えるBET表面積を有する充填剤、例えば、熱分解により調製されたシリカ、沈降シリカ、沈降炭酸カルシウム、カーボンブラック、例えばファーネスブラックおよびアセチレンブラックおよび高いBET表面積の混合ケイ素/アルミニウム酸化物;三水酸化アルミニウムの中空ビーズの形の充填剤、例えば、ドイツ、ノイスの3M Deutschland GmbHから商標名Zeeospheres(商標)の下で入手できるものが例である磁性マイクロビーズ、例えば、スウェーデン、スンツバルのAKZONOBEL,Expancelから商標名EXPANCEL(登録商標)の下で入手できるその種の弾性ポリマービーズ、またはガラスビーズ;繊維形状の充填剤、例えば、アスベストおよびまたポリマー繊維である。上記の充填剤は、例えば、オルガノシランおよび/もしくはオルガノシロキサンによる、または、ステアリン酸による処理によって、またはヒドロキシル基のアルコキシ基へのエーテル化によって疎水化されていてもよい。
【0093】
充填剤(H)は、好ましくは、炭酸カルシウム、タルク、水酸化アルミニウムおよびシリカであり、水酸化アルミニウムが特に好ましい。好ましい炭酸カルシウムのグレードは、粉砕または沈降であり、ステアリン酸等の脂肪酸またはそれらの塩により場合によって表面処理されている。好ましいシリカは、好ましくは、熱分解された(ヒュームド)シリカである。
【0094】
充填剤(H)は、好ましくは1質量部未満、より好ましくは0.5質量部未満の水分含量を有する。
【0095】
組成物全体に対する充填剤(H)の含有量は、0~80質量部の範囲が好ましい。より好ましくは、0~60質量部の範囲である。前記範囲内では、接着不良、皮膜の割れ、などコーティング材としての欠陥が発生する可能性ちいさく、また、製造時の粘度が適しているため均一に撹拌することができるからである。
【0096】
触媒(I)は、本発明の湿気硬化型組成物に対し、硬化触媒の機能を有する成分である。この成分は、上記の機能や作用を必要とされない場合は、本発明の湿気硬化型組成物にとっては必須成分はないが、シラン末端変性ポリマー(A)の反応性が低い場合には有効となる成分である。
触媒(I)は、商業的な製品として購入することができ、または、化学的な一般的な方法によって調製することもできる。
触媒(I)は単体であっても、2種類以上の混合物のいずれでも構わない。
【0097】
触媒(I)は、上記機能、作用を示すものでればよく、限定されないが、金属を含む成分(I)の例は、有機チタンおよび有機スズ化合物であり、例は、チタン酸エステル、例えば、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトラプロピル、チタン酸テトライソプロピルおよびチタンテトラアセチルアセトネート;スズ化合物、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタノエート、ジブチルスズアセチルアセトネート、ジブチルスズオキシドおよび対応するジオクチルスズ化合物である。
【0098】
金属を含まない触媒(I)の例は、塩基性化合物、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、N,N-ビス-(N,N-ジメチル-2-アミノエチル)メチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルフェニルアミンおよびN-エチルモルホリニン(ethylmorpholinine)である。
【0099】
触媒(I)として、酸性化合物、例えば、リン酸およびそのエステル、トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸、またはその他の有機カルボン酸、例えば、酢酸および安息香酸を使用することが同様に可能である。
【0100】
組成物全体に対する触媒(I)の含有量は、0~5質量部の範囲が好ましい。5質量部を超えると、可使時間が短くなることによる施工不良が起き、皮膜表面にしわが発生する可能性があり、保存中に増粘、ゲル化、硬化などの不具合が生じる可能性があるからである。より好ましくは、0~0.2質量部の範囲である。
【0101】
本発明の湿気硬化型組成物は、上述した成分以外にも、本発明の目的を達する限りにおいて、任意成分を含有することができる。例えば、消泡剤、硬化速度調整材、添加剤、接着向上剤および補助剤等の全てのその他の物質を含むことができる。場合により、接着性を向上させる成分、例えばエポキシシラン等、を添加することもできる。
【0102】
本発明はまた、アマイドワックス含有量に対して、シラン末端変性ポリマー(A)を添加し混錬するアマイドワックス混錬工程と、前記アマイドワックス混錬工程で得られたアマイドワックス含有混合物に希釈剤を混合し低粘度させることで、その後混合する疎水化無機粒子やその他充填剤を撹拌する際の撹拌効率を向上させる無機粒子混錬工程とを含むことを特徴とする湿気硬化型組成物の製造方法である。
アマイドワックス混錬工程において、アマイドワックスは加熱なしで混錬されてもよく、加熱後に混錬されてもよい。加熱なしで混錬する場合には、保存時の温度(例えば冬季には0~20℃程度、夏季には20℃~40℃であってもよい)のアマイドワックスが混錬される。アマイドワックスを加熱して混錬する場合には、30℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上90℃以下の温度に加熱してもよい。
【0103】
さらに前記アマイドワックス混錬工程において、アマイドワックス含有量に対して、シラン末端変性ポリマー(A)を1~2倍量添加し混合したアマイドマスターバッチを調整する第一工程と、前記アマイドマスターバッチに残りのシラン末端変性ポリマー(A)を混合して、アマイドワックス含有混合物を得る第二工程を含んでもよい。第一工程及び第二工程を含むことで、後に添加する低粘度の希釈剤およびアマイドワックス含有混合物が効率的に混錬でき、アマイドワックスの分散性を向上させることを特徴とする湿気硬化型組成物の製造方法である。
【0104】
本発明の湿気硬化型組成物を塗布する基材は、特に限定されず多孔質であっても非多孔質であってもよい。例えば、セメント系基材、鉱物基材、金属、ガラス、セラミック、などが挙げられる。また、これらの基材の表面が塗装した基材でも構わない。
【0105】
例えば、セメント系基材には、コンクリート、モルタルサイディングボード、ALC(軽量気泡コンクリート)、スレート板、ケイ酸カルシウム板などある。
【0106】
本発明の湿気硬化型組成物が適用できる用途は、様々なものが考えられ、限定されない。その中で例示すると、建築構造物、車両や船舶・建築構造物の接着剤やシーリング材、工場や建築物などの床材、高速道路や高架鉄道のコンクリートはく落対策、建築仕上などの塗料、ベランダや屋上などの塗膜防水材、各種コンクリート二次製品等が挙げられる。
【実施例
【0107】
実施例、比較例を示し、表1に結果を記載した上で本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
<湿気硬化型組成物の粘度測定>
粘弾性測定装置(Physica MCR 301/アントンパール社製)を使用し、高せん断速度(10 (1/s))および低せん断速度(2 (1/s))における60秒後の測定値をそれぞれのせん断速度における粘度とした。
【0109】
<粘度評価基準>
高せん断速度(10 (1/s))における粘度が100x10mPa・sより小さい場合、作業性は良好である。
低せん断速度(2 (1/s))における粘度が250×10mPa・sより大きい場合、セラミックタイルのズレ性は良好である。
【0110】
<くし目ごて作業性評価>
実施例1~4および比較例1~5の湿気硬化型組成物約200gをスレート板(3x300x300mm)に0.5mmピッチくし目ごてを用いて均一に塗布し、左官作業性を評価した。
<くし目ごて作業性評価基準>
作業性は軽い方が好ましく、AおよびBの場合作業性は良好である。
A:非常に軽い
B:軽い
C:重たい
【0111】
<セラミックタイルのズレ性評価>
実施例1~4および比較例1~5の湿気硬化型組成物約200gをスレート板(3x300x300mm)に0.5mmピッチくし目ごてを用いて均一に塗布し、二丁掛けセラミックタイル(約260g)を貼り付け、約30秒間約2.5kgの重しを乗せ固定化させた後、スレート板を垂直に保持した状態で、二丁掛けセラミックタイルのズレ性を評価した。
【0112】
<セラミックタイルずれ性評価基準>
ズレ性はズレが発生しないことが必要であるため、Aの場合ズレ性は良好である。
A:ズレが発生しない
B:ズレが発生する
【0113】
<実施例1>
湿気硬化型組成物として次の各成分を用いた。
揺変剤(D)として、伊藤製油社製のアマイドワックスA-S-A(登録商標)T-1700を1.50質量部と、シラン末端変性ポリマー(A)として、90℃に加熱したWacker Chemie AG社製のGENIOSIL(登録商標) STP-E10(平均モル質量(M)が12、000g/mol)を3.00重量部添加混合し均一に混錬する。
STP-10は親水部である-O-C(=O)-NH-CH-SiCH(OCHの末端基を有し、疎水部であるポリプロピレングリコール鎖を主鎖とするシラン末端ポリプロピレングリコールである。
さらに90℃に加温した残りのGENIOSIL(登録商標) STP-E10を5.75質量部添加混合し均一に混錬にする。
希釈剤(B)として、同社製のGENIOSIL(登録商標)IC 368を39.25質量部添加し均一に撹拌する。
IC 368は粘度336mPa・sを有するフェニル官能性T単位およびメチル官能性T単位から成り、15重量%のメトキシ基含量および1900g/molの平均モル質量を有する液体フェニルシリコーン樹脂である。
ビニルシラン系脱水剤(F)として、同社製のGENIOSIL(登録商標)XL10(ビニルトリメトキシシラン)を2.00質量部、安定化剤(G)として、BASF社製のTinuvin B 75を1.00質量部、接着向上剤としてWacker Chemie AG社製のGENIOSIL(登録商標)GF80(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を2.00質量部、硬化速度調整剤として、同社製のWACKER(登録商標)TES 40(テトラエトキシシランのオリゴマー)を1.20質量部添加し均一に撹拌する。
【0114】
また疎水化無機粒子(C)として、同社製の疎水化シリカHDK(登録商標) H18を3.00質量部、成分(H)の充填剤の合成炭酸カルシウムとして、白石工業社製のViscolite-El20を21.80質量部、また表面未処理重質炭酸カルシウムとして、白石工業社製のソフトン2200を20.00g、添加し均一に撹拌する。
さらにアミン化合物(E)として、Wacker Chemie AG社製のGENIOSIL(登録商標) GF96(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)を1.00量部を添加し、均一に撹拌し調製した。
【0115】
粘度測定の結果、作業性およびセラミックタイルのズレ性は良好であった。
くし目ごて作業性は良好、セラミックタイルのズレ性は良好であった。
【0116】
<実施例2>
希釈剤(B)として、富士フィルム和光純薬社製のポリプロピレングリコール (粘度60~80mPa・s)、ジオール型、(平均分子量約400)を39.25質量部数用いた他は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
【0117】
粘度測定の結果、作業性およびセラミックタイルのズレ性は良好であった。
くし目ごて作業性は良好、セラミックタイルのズレ性は良好であった。
【0118】
<実施例3>
希釈剤(B)として、同社製のGENIOSIL(登録商標)IC 678を39.25質量部数用いた他は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
GENIOSIL(登録商標)IC 678は、粘度73mPa・sを有する、フェニル官能性T単位のみから成り、15重量%のメトキシ基含量および900g/molの平均モル質量を有する液体フェニルシリコーン樹脂である。
【0119】
粘度測定の結果、作業性およびセラミックタイルのズレ性は良好であった。
くし目ごて作業性は良好、セラミックタイルのズレ性は良好であった。
【0120】
<実施例4>
シラン末端変性ポリマー(A)として、Wacker Chemie AG製の前記GENIOSIL(登録商標) STP-E10と同じ化学構造でかつ平均モル質量(M)が4、000g/molであるポリマーを8.75質量部数用いた他は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
【0121】
粘度測定の結果、作業性およびセラミックタイルのズレ性は良好であった。
くし目ごて作業性は良好、セラミックタイルのズレ性は良好であった。
【0122】
<比較例1>
シラン末端変性ポリマー(A)として、常温(20℃)のWacker Chemie AG製のGENIOSIL(登録商標) STP-E10(平均モル質量(M)が12、000g/mol)を8.75重量部、成分(B)の希釈剤として、富士フィルム和光純薬社製のポリプロピレングリコール、ジオール型、(平均分子量約400)を16.25質量部と、Wacker Chemie AG製のGENIOSIL(登録商標)IC 368を23.00質量部添加し均一に撹拌する。以降は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
【0123】
粘度測定の結果、作業性は良好であったがズレ性は基準値を下回った。
くし目ごて作業性は良好、セラミックタイルのズレ性はズレが発生した。
比較例1では、疎水部及び親水部を有する揺変剤が配合されておらず、低せん断速度における粘度が増加しなかったと考えられる。
【0124】
<比較例2>
揺変剤(D)として、伊藤製油社製のA-S-A(登録商標)T-1700を1.50質量部と、シラン末端変性ポリマー(A)として、90℃に加熱したWacker Chemie AG社製のGENIOSIL(登録商標) STP-E10(平均モル質量(M)が12、000g/mol)を3.00重量部添加混合し均一に混錬する。さらに90℃に加温した残りのGENIOSIL(登録商標) STP-E10を5.75質量部添加混合し均一に混錬する。希釈剤(B)として、同社製のWACKER(登録商標)AK350を39.25質量部添加し撹拌したが、均一にならずに分離した。このため、粘度測定およびくし目ごて作業性評価、タイルのズレ性評価を実施することができなかった。
なお、AK350は疎水部のみを有する直鎖型ポリジメチルシロキサンである。親水部を有しないため、ポリマーや揺変剤との作用に乏しく、分離したと考えられる。
【0125】
<比較例3>
希釈剤(B)として、同社製のSILRES(登録商標)BS (粘度1316 2mPa・sを有するイソオクチルトリメトキシシラン)を39.25質量部数用いた他は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
【0126】
粘度測定の結果、作業性は良好あったがズレ性は基準値を下回った。
くし目ごて作業性は良好、セラミックタイルのズレ性はズレが発生した。
希釈剤として配合したBS 1316は粘度が10mPa・sを下回っていることから、湿気硬化型組成物全体としての粘度が低せん断においても、高せん断においても低い。高せん断における粘度が低いため、作業性は良好であったものの、低せん断における粘度が十分に向上せず、ずれの発生要因となったと考えられる。
【0127】
<比較例4>
希釈剤(B)として、関東化学社製のn-ヘキサンを39.25質量部数用いた他は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
n-ヘキサンの粘度は0.3mPa・sである。
【0128】
粘度測定の結果、作業性は良好であったが、ズレ性は基準値を下回った。
くし目ごて作業性は、湿気硬化型組成物硬化後亀裂が発生し、基材から剥がれ落ちた。
比較例4は、比較例3と同様に希釈剤の粘度が10mPa・sを下回っており、湿気硬化型組成物全体としての粘度が低せん断においても、高せん断においても低い。高せん断における粘度が低いため、作業性は良好であった。一方で、低せん断速度における粘度も低いため、ズレが発生した。
n-ヘキサンは非反応性希釈剤でかつ揮発性が高いため、塗布直後にn-ヘキサンが揮発に起因する体積収縮により、亀裂が発生したと考えられる。
【0129】
<比較例5>
揺変剤(D)として、伊藤製油社製のA-S-A(登録商標)T-1700を1.50質量部と、シラン末端変性ポリマー(A)として、90℃に加熱したWacker Chemie AG社製のGENIOSIL(登録商標) STP-E10(平均モル質量(M)が12、000g/mol)を3.00重量部添加混合し均一に混錬する。さらに90℃に加温したGENIOSIL(登録商標) STP-E10を5.75質量部添加混合し均一に混錬した後、残りの90℃に加温したGENIOSIL(登録商標) STP-E10の39.25質量部を4回に分けて添加混合し均一に撹拌する。希釈剤は配合していない。
以降は、すべて実施例1と同じ成分、同じ質量部数と調製方法を用い、同様の評価を行った。
【0130】
粘度測定の結果、セラミックタイルのズレ性は良好であったが作業性は基準値を大きく上回った。希釈剤を配合していないため、高せん断における粘度が十分に低下せず、作業性が悪くなったと考えられる。
くし目ごて作業性は重たく、セラミックタイルのズレ性は良好であった。
【0131】
【表1】