(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】超短パルスを生成する方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/39 20060101AFI20230704BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
G02F1/39
H01S3/10 Z
(21)【出願番号】P 2021506063
(86)(22)【出願日】2019-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2019060227
(87)【国際公開番号】W WO2019202145
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-02-02
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513008384
【氏名又は名称】エコール ポリテクニック
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリオス・パパドポウロス
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・デラン
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・ドリュオン
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/066686(WO,A1)
【文献】特開平10-090733(JP,A)
【文献】特開平02-193126(JP,A)
【文献】特開2002-258333(JP,A)
【文献】特開2006-030295(JP,A)
【文献】特開平05-005909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0225383(US,A1)
【文献】国際公開第2007/138983(WO,A1)
【文献】特開2011-28043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H01S 3/00-3/30
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超短パルス(20;30)を生成する方法であって、
超短パルス(14)を有するマスタビーム(17)および少なくとも1つのスレーブビーム(18)が光学ゲート材料(11)により方向付けられ、前記光学ゲート材料(11)の上流の前記スレーブビーム(18)の強度は、前記光学ゲート材料(11)の上流の前記マスタビーム(17)の強度より低く、前記光学ゲート材料(11)および前記マスタビーム(17)の前記超短パルス(14)は、前記マスタビーム(17)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時にカー効果を引き起こすように選択され、前記カー効果は、前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時の前記マスタビーム(17)の前記超短パルス(14)に関連して前記スレーブビーム(18)の位相の変調を生成し、
前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調は、前記超短パルス(20;30)を有する、前記光学ゲート材料(11)の下流の前記スレーブビーム(18)を生成するために、補完光学デバイスを使用して、その振幅の変調に変換され
、前記光学ゲート材料(11)の下流で生成される前記スレーブビーム(18)の前記超短パルス(20;30)と、前記光学ゲート材料(11)の下流の前記マスタビーム(17)のパルス(21)とは時間的に重畳され、
前記光学ゲート材料の下流の前記マスタビームはOPCPA増幅器の信号ビームとして使用され、前記光学ゲート材料の下流の前記スレーブビームは前記OPCPA増幅器のポンプビームとして使用される、方法。
【請求項2】
前記光学ゲート材料(11)の上流の前記スレーブビーム(18)は連続的またはパルス状であ
る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光学ゲート材料(11)の上流の前記マスタビーム(17)の前記超短パルス(14)と前記スレーブビーム(18)とは時間的に重畳され、この重畳は、500ps以
下の精度を確実にする電子同期により得られ
る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マスタビーム(17)と前記スレーブビーム(18)とは異なる中心波長を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記マスタビーム(17)は、800nmが中心の中心波長を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記スレーブビーム(18)は、1064nmが中心の中心波長を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時の前記マスタビーム(17)の前記超短パルス(14)による前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調は瞬間的であるか、または20fs以
下の遅延を伴って実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カー効果による前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調は、前記光学ゲート材料(11)の入力時に前記マスタビーム(17)と前記スレーブビーム(18)とが異なって偏光された場合に前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時のその偏光の変調を伴い、前記補完光学デバイスは、前記光学ゲート材料(11)の上流の前記スレーブビーム(18)の偏光状態を調整するための手段と、偏光変調されていない前記スレーブビーム(18)の一部を阻止する、前記光学ゲート材料の入力時に前記スレーブビーム(18)の前記偏光と交差させられる、前記光学ゲート材料(11)の下流の下流偏光子(46)とを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記補完光学デバイスは、前記スレーブビーム(18)の振幅変調を生成するために、前記光学ゲート材料(11)を通過した少なくとも1つのスレーブビーム(18)を、前記スレーブビーム(18)と同じ源からの少なくとも1つの他のビームに干渉させるように構成されている干渉計を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記干渉計は、前記スレーブビーム(18)が、前記光学ゲート材料(11)を通って互いに反対方向に伝播されかつ前記光学ゲート材料を通過した後に再統合される2つのビーム(27;28)に分割されるサニャク干渉計である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カー効果による前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調は、前記光学ゲート材料(11)内の前記マスタビーム(17)の前記強度
の空間的勾配の存在下で、前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時のその発散の変調を伴い、前記補完光学デバイスは、前記光学ゲート材料(11)の下流に空間フィルタ(25)を含み、発散変調されていない前記スレーブビーム(18)の一部を阻止する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記スレーブビーム(18)は、前記光学ゲート材料(11)を通過した後、レーザ増幅器内で増幅される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記光学ゲート材料(11)の下流で生成される前記スレーブビーム(18)の前記超短パルス(20;30)と、前記光学ゲート材料(11)の下流の前記マスタビーム(17)のパルス(21)とは時間的に重畳され、この時間同期の精度
は20fs以
下である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実施するために、超短パルス(20;30)を生成する設備であって、
超短パルス(14)を有するマスタビーム(17)を生成する第1のレーザ源(41)と、
少なくとも1つのスレーブビーム(18)を生成する少なくとも1つの第2のレーザ源(42)と、
前記マスタビーム(17)および前記スレーブビーム(18)の経路上に配設されている光学ゲート材料(11)であって、前記光学ゲート材料(11)の上流の前記スレーブビーム(18)の強度は前記光学ゲート材料(11)の上流の前記マスタビーム(17)の強度より低く、前記光学ゲート材料(11)および前記マスタビーム(17)の前記超短パルス(14)は、前記マスタビーム(17)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時にカー効果を引き起こすように選択され、前記カー効果は、前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時の前記マスタビーム(17)の前記超短パルス(14)に関連して前記スレーブビーム(18)の位相の変調を生成
し、前記光学ゲート材料(11)の下流で生成される前記スレーブビーム(18)の前記超短パルス(20;30)と、前記光学ゲート材料(11)の下流の前記マスタビーム(17)のパルス(21)とは時間的に重畳される、光学ゲート材料(11)と、
前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調をその振幅の変調に変換する補完光学デバイスと
、
前記光学ゲート材料の下流の前記マスタビームを信号ビームとして使用し、前記光学ゲート材料の下流の前記スレーブビームをポンプビームとして使用するOPCPA増幅器と
を含む、設備。
【請求項15】
前記第2のレーザ源(42)はSLMタイプである、請求項14に記載の設備。
【請求項16】
前記光学ゲート材料(11)の下流の前記スレーブビーム(18)を増幅させるための光増幅手段を含む、請求項14または15に記載の設備。
【請求項17】
前記カー効果による前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調は、前記光学ゲート材料(11)の入力時に前記マスタビーム(17)と前記スレーブビーム(18)とが異なって偏光された場合に前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時のその偏光の変調を伴い、前記補完光学デバイスは、前記光学ゲート材料(11)の上流の前記スレーブビーム(18)の偏光状態を調整するための手段と、偏光変調されていない前記スレーブビーム(18)の一部を阻止する、前記光学ゲート材料(11)の入力時に前記スレーブビーム(18)の前記偏光と交差させられる、前記光学ゲート材料(11)の下流の下流偏光子(46)とを含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の設備。
【請求項18】
前記補完光学デバイスは、前記スレーブビーム(18)の振幅変調を生成するために、前記光学ゲート材料(11)を通過した少なくとも1つのスレーブビーム(18)を、前記スレーブビーム(18)と同じ源からの少なくとも1つの他のビームに干渉させるように構成されている干渉計を含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の設備。
【請求項19】
前記補完光学デバイスは、前記スレーブビーム(18)が、前記光学ゲート材料(11)を通って互いに反対方向に伝播されかつ前記光学ゲート材料を通過した後に再統合される2つのビーム(27;28)に分離されるサニャク干渉計を含む、請求項18に記載の設備。
【請求項20】
前記カー効果による前記スレーブビーム(18)の前記位相の前記変調は、前記光学ゲート材料(11)内の前記マスタビーム(17)の前記強度
の空間的勾配の存在下で、前記スレーブビーム(18)が前記光学ゲート材料(11)を通過する時のその発散の変調を伴い、前記補完光学デバイスは前記光学ゲート材料(11)の下流に空間フィルタ(25)を含み、発散変調されていない前記スレーブビーム(18)の一部を阻止する、請求項14から16のいずれか一項に記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超短パルスを生成する方法およびこれらの方法を実施するための設備に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数ずれのあるパルスの光パラメトリック増幅(「光パラメトリックチャープパルス増幅(Optical Parametric Chirped-Pulse Amplification)」の代わりにOPCPAとも呼ばれる)の技術に依存する設備を使用して超短パルスを生成することは、既知の実践である。これらOPCPA増幅器は、特に高エネルギーのポンプビームのパルスと、時間的に伸張され、かつエネルギーが殆どない広スペクトル信号ビームのパルスとの間のエネルギー伝達を確実にする非線形結晶を含む。増幅される前に、パルスストレッチャが使用されて、信号ビームの超短パルスを時間的に伸張することにより、そのピークパワーを低下させる。パラメトリック増幅が存在するためには、ポンプビームのパルスと信号ビームのパルスが結晶内で時間的に重畳されなければならない。したがって、OPCPA増幅器は、ポンプビームおよび信号ビームを生成するレーザ源の時間同期に関連する。光圧縮器が使用されて、信号ビームのパルスを再圧縮する。
【0003】
ポンプビームおよび信号ビームのパルスが結晶内で時間的に重畳されるために、電子同期されたモード同期を有する2つの独立したレーザ源を使用することが既知の実践であり、レーザ源の1つは、信号ビームの超短パルスを生成するチタンサファイア発振器(TiS: titanium sapphire oscillator)である。しかし、電子同期は、結果的に、熱ドリフトおよび位相ノイズに起因して、長期間の位相ドリフトをもたらす。
【0004】
1つの代替案は、2つの独立したレーザ源を光同期させるものである。しかし、この種の同期は実施するには複雑であり、長期間の信頼性を欠く。
【0005】
別の解決策は、1つの同一のレーザ源である、非常に広いスペクトル帯を有するTiS発振器を使用して、ポンプビームのパルスと信号ビームのパルスの両方の生成を可能にするものである。しかし、TiS発振器は、相当なメンテナンスを必要とすることに加えて、比較的高いコストを有し、実施し難い。さらに、特に多段で大型のこれらの発振器は、高感度の長パルスストレッチャおよび圧縮機に関連する複雑な増幅構造を必然的に伴うので、特に、増幅信号の高スペクトル安定性を保証するためにポンプビームのパルスと信号ビームのパルスとの間の非常に厳密な同期(<100fs)を必要とする、2~3ピコ秒(ps-OPCPA)の範囲内で動作するOPCPA増幅器に関して、生成されるパルスの安定性の問題を助長する。
【0006】
OPCPA技術の別の制限は、そのポンプ源、特にその長期間の信頼性と関連している。さらに、ps-OPCPA増幅器の効率性は、ピコ秒範囲内で最適化パルスを形成するための低減容量により制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超短パルスを生成する、特に2つの独立したレーザ源間の時間同期を強化する方法をさらに改善する必要が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超短パルスを生成する方法を改善すること、特に上記の欠点の全てまたはいくつかを改善することを目的とする。本発明は、超短パルスを生成する方法によりこのことを達成する。本方法では、
- 超短パルスを有するマスタビームおよび少なくとも1つのスレーブビームが光学ゲート材料により方向付けられ、該光学ゲート材料および該マスタビームのパルスは、マスタビームが光学ゲート材料を通過する時にカー(Kerr)効果を引き起こすように選択され、該カー効果は、スレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のマスタビームのパルスに関連してスレーブビームの位相の変調を生成し、
- スレーブビームの位相の変調は、超短パルスを有する、光学ゲート材料の下流のスレーブビームを生成するために、補完光学デバイスを使用して、その振幅の変調に変換される。
【0009】
「超短パルス」は、5フェムト秒(fs)と100ピコ秒(ps)の間の持続時間のパルスであると理解されるべきである。
【0010】
本発明による方法は、超短パルスの生成に関する長期信頼性を示すロバストな解決策をもたらすという利点を有する。
【0011】
本発明は、大きな変更なしで、既に動作中のシステムにおいて直接実施されることが可能であり、それにより、その実施のコストおよび複雑さを低減することが可能にされ得る。
【0012】
光学ゲート材料は非線形特性を有する。
【0013】
光学ゲート材料は、任意の無機、有機または複合の透明材料とすることができる。光学ゲート材料は、ガラスまたは水晶などの固体、気体、液体とすることができ、必要に応じて、溶融シリカ毛細管または光ファイバなどの導波管の形を取り得る。
【0014】
光学ゲート材料は、例えば、SF54ガラスまたはSF14ガラスである。
【0015】
光学ゲート材料の上流のスレーブビームは連続的またはパルス状であり得る。それはパルス状であることが好ましい。
【0016】
レーザビームの強度は、表面積単位当たりのピークパワーであると定められている。
【0017】
マスタビームの強度は、マスタビームが光学ゲート材料を通過する時にカー効果を引き起こすのに、かつこのカー効果が、スレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のマスタビームのパルスに関連してスレーブビームの位相の変調を生成するのに、十分である。スレーブビームの位相の変調は、光学ゲートとして使用される材料の非線形性およびその波長に左右される。マスタビームの強度は、B-int=(2πL/λ)*I*n2を用いて、B積分(B-integralまたはB-int)の値が1とπの間であることが好ましく、該数式において、Lは光学ゲート材料の長さであり、λはマスタビームの中心波長であり、Iはマスタビームの強度であり、n2は光学ゲート材料の非線形屈折率である。
【0018】
光学ゲート材料の上流のスレーブビームの強度は光学ゲート材料の上流のマスタビームの強度より低くすることができる。
【0019】
光学ゲート材料の上流のスレーブビームの強度は、例えば、光学ゲート材料の上流のマスタビームの強度より少なくとも10分の1低い。
【0020】
光学ゲート材料の上流のマスタビームのパルスとスレーブビームのパルスとは時間的に重畳されることが可能であり、この重畳は電子同期により得られることが好ましい。該電子同期は光信号検出器および光信号発生器により実施され得る。
【0021】
電子同期は、500ps以下、よりよくは100ps以下、さらによりよくは10ps以下の精度を確実にすることができる。
【0022】
マスタビームおよびスレーブビームは異なるそれぞれの中心波長を有し得る。これらの中心波長は任意に選択され得る。マスタビームは、例えば、800nmが中心の中心波長を有する。スレーブビームは、例えば、1064nmが中心の中心波長を有する。
【0023】
光学ゲート材料の上流のマスタビームのパルスとスレーブビームのパルスとは異なる持続時間を有し得る。
【0024】
パルスの継続時間は-3dBにおけるピークの幅と定義される。
【0025】
光学ゲート材料の上流のスレーブビームのパルスは光学ゲート材料の上流のマスタビームのパルスの継続時間より長い継続時間を有し得る。
【0026】
光学ゲート材料の下流で生成されるスレーブビームの超短パルスの継続時間はマスタビームのパルスの継続時間と同一であるか、またはそれに近い可能性がある。
【0027】
光学ゲート材料の下流で生成されるマスタビームのパルスの継続時間およびスレーブビームの超短パルスの継続時間は5fsと100psの間であり得る。
【0028】
それらの継続時間およびそれらの時間的形式などの、光学ゲート材料の下流で生成されるスレーブビームの超短パルスの出力パラメータは可変とすることができる。例えば、マスタビームの伸張を調整して、生成される超短パルスの継続時間に作用するか、またはマスタビームをスペクトル的にフィルタリングして、生成される超短パルスの形式に作用することが可能である。
【0029】
スレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のマスタビームのパルスによるスレーブビームの位相の変調は、瞬間的であり得るか、または20fs以下、よりよくは10fs以下、さらによりよくは5fs以下の遅延を伴って実施され得る。この遅延は、光学ゲートとして使用される材料の正確な性質に左右され得る。
【0030】
カー効果によるスレーブビームの位相の変調は、光学ゲート材料の入力時にマスタビームとスレーブビームとが異なって偏光された場合、スレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のその偏光の変調を伴うことが可能であり、補完光学デバイスは、光学ゲート材料の上流のスレーブビームの偏光状態を調整するための手段と、偏光変調されていないスレーブビームの一部を阻止する、光学ゲート材料の入力時にスレーブビームの偏光と交差させられる、光学ゲート材料の下流の下流偏光子とを含み得る。
【0031】
「異なって偏光された」は、光学ゲート材料の入力時にマスタビームとスレーブビームとが異なる偏光方向を有することを意味すると理解されるべきである。
【0032】
例えば、光学ゲート材料の入力時にマスタビームとスレーブビームとは直線状にかつ異なって偏光され、スレーブビームの偏光に対するマスタビームの偏光は絶対値で90°異なっている。
【0033】
光学ゲート材料の上流のスレーブビームの偏光状態を調整するための手段は偏光子および/または複屈折板を含み得る。
【0034】
変形形態において、補完光学デバイスは、スレーブビームの振幅変調を生成するために、光学ゲート材料を通過した少なくとも1つのスレーブビームを、スレーブビームと同じ源からの少なくとも1つの他のビームに干渉させるように構成されている干渉計を含む。
【0035】
干渉計は、スレーブビームが、光学ゲート材料を通って互いに反対方向に伝播される2つのビームに分割されかつ光学ゲート材料を通過した後に再統合されるサニャク(Sagnac)干渉計とすることができる。サニャク干渉計の使用は高い安定性という利点を有する。
【0036】
変形形態において、カー効果によるスレーブビームの位相の変調は、光学ゲート材料内のマスタビームの強度の特に半径方向の空間的勾配の存在下でスレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のその発散の変調を伴うことが可能であり、補完光学デバイスは光学ゲート材料の下流に空間フィルタを含み、発散変調されていないスレーブビームの一部を阻止することができる。
【0037】
スレーブビームは、光学ゲート材料を通過した後、レーザ増幅器内で増幅され得る。
【0038】
光学ゲート材料の下流で生成されるスレーブビームの超短パルスと光学ゲート材料の下流のマスタビームのパルスとは時間的に重畳され得る。この時間同期の精度は光学ゲート材料への非線形応答の遅延に相当し得る。すなわちスレーブビームが光学ゲート材料を通過する時にマスタビームのパルスによるスレーブビームの位相の変調が伴って実施される遅延に相当し得る。この時間同期の精度は、20fs以下、よりよくは10fs以下、さらによりよくは5fs以下であり得る。
【0039】
光学ゲート材料の出力時のマスタビームのパルスはOPCPAの信号ビームとして使用され得るか、または使用されることが不可能である。
【0040】
その態様の別のものによる本発明の別の主題は、
- 超短パルスを有するマスタビームを生成する第1のレーザ源と、
- 少なくとも1つのスレーブビームを生成する少なくとも1つの第2のレーザ源と、
- マスタビームおよびスレーブビームの経路上に配設されている光学ゲート材料であって、該光学ゲート材料およびマスタビームのパルスは、マスタビームが光学ゲート材料を通過する時にカー効果を引き起こすように選択され、該カー効果は、スレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のマスタビームのパルスに関連してスレーブビームの位相の変調を生成する、光学ゲート材料と
を含む、超短パルスを生成するための、特に、前段で定義されている、本発明による方法を実施するための設備である。
【0041】
設備は、スレーブビームの位相の変調をその振幅の変調に変換する補完光学デバイスを含み得る。
【0042】
光学ゲート材料の上流のスレーブビームはマスタビームより低い強度を有し得る。
【0043】
第1のレーザ源と第2のレーザ源とは独立していることが可能である。
【0044】
第1のレーザ源はフェムト秒もしくはピコ秒タイプとすることができるか、またはOPCPAの信号ビームの少なくとも一部とすることができる。
【0045】
第2のレーザ源は単一縦モード(SLM: Single Longitudinal Mode)タイプおよび/もしくはトリガ発振器(Qスイッチ)タイプとすることができるか、または利得変調源とすることができる。
【0046】
本発明による設備は、光学ゲート材料を通してマスタビームおよびスレーブビームを方向付けるための手段を含み得る。該設備は、例えば、特に2色性であるかもしくは湾曲した鏡、レンズ、および/または位相マスクを含む。
【0047】
設備は、光学ゲート材料の下流のスレーブビームを増幅させるための光増幅手段を含み得る。設備は、例えば、光ファイバまたは大規模結晶増幅器を含む。
【0048】
カー効果によるスレーブビームの位相の変調は、光学ゲート材料の入力時にマスタビームとスレーブビームとが異なって偏光された場合にスレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のその偏光の変調を伴うことが可能であり、補完光学デバイスは、光学ゲート材料の上流のスレーブビームの偏光状態を調整するための手段と、偏光変調されていないスレーブビームの一部を阻止する、光学ゲート材料の入力時にスレーブビームの偏光と交差させられる、光学ゲート材料の下流の下流偏光子とを含み得る。
【0049】
例えば、光学ゲート材料の入力時にマスタビームとスレーブビームとは直線状にかつ異なって偏光され、スレーブビームの偏光に対するマスタビームの偏光は絶対値で90°異なっている。
【0050】
変形形態において、補完光学デバイスは、スレーブビームの振幅変調を生成するために、光学ゲート材料を通過した少なくとも1つのスレーブビームをスレーブビームと同じ源からの少なくとも1つの他のビームに干渉させるように構成されている干渉計を含む。
【0051】
干渉計は、前述されている通り、光学ゲート材料を通して互いに反対方向に伝播されかつ光学ゲート材料を通過した後に再統合されるスレーブビームが2つのビームに分割されるサニャク干渉計とすることができる。
【0052】
別の変形形態において、カー効果によるスレーブビームの位相の変調は、光学ゲート材料内でマスタビームの強度の特に半径方向の空間的勾配の存在下で、スレーブビームが光学ゲート材料を通過する時のその発散の変調を伴うことが可能であり、補完光学デバイスは光学ゲート材料の下流に空間フィルタを含み、発散変調されていないスレーブビームの一部を阻止することができる。
【0053】
その態様の別のものによる、本発明のさらに別の主題は、ポンププローブ分光法または高強度レーザの製造のために、OPCPA増幅器のポンプ源および信号源を時間同期させる、前述されている本発明による設備の使用である。
【0054】
本発明は、その非制限的例示的実施の下記の詳細な説明を読み、かつ添付図面を詳しく調べると、よりよく理解されることが可能であろう。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】先行技術によるOPCPA増幅器を概略的に示す図である。
【
図2】本発明による設備の例を概略的に示す図である。
【
図3】本発明による設備の例を概略的に示す図である。
【
図4】本発明による設備の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1は、先行技術によるOPCPA増幅器の図を示す。ポンプ源5は、高エネルギーパルスを有するポンプビームを生成する。信号源1が、低エネルギー超短パルス7を有する信号ビームを生成し、短パルス7は、低下したピークパワーを有する伸張パルス8を得るためにパルスストレッチャ2を使用して時間的に伸張される。時間同期システム6が、ポンプ源5と信号源1とを同期させることを可能にする。光学的パラメトリック増幅器3が、非常に高いピークパワーの信号ビームのパルス10を得るために圧縮機4を使用してその最初の継続時間まで再圧縮されることが理想的である信号ビームの増幅パルス9を得るために、ポンプビームのパルスと信号ビームの伸張パルス8との間のエネルギー伝達を可能にする非線形媒体を含む。
【0057】
図2は、光学ゲート材料11の上流に、マスタビーム17のパルス14を生成する第1のレーザ源41と、スレーブビーム18のパルス15を生成する第2のレーザ源42とを含む、本発明による設備の例を示す。
【0058】
変形形態として、マスタビーム17は、
図1に示されているOPCPA増幅器の信号源1により生成される信号ビームの一部または全部に相当する。
【0059】
マスタビーム17およびスレーブビーム18は、光学ゲート材料11の上流で、直線状に偏光され、偏光のそれらの状態すなわちそれらの方向が、スレーブビームの偏光に対するマスタビームの偏光が絶対値で90°である場合を除いて、互いに異なる。マスタビーム17とスレーブビーム18とは、例えば、マスタビーム17およびスレーブビーム18それぞれの偏光状態を示す矢印12および13により示されている通り、互いに45°で偏光される。
【0060】
スレーブビーム18が光学ゲート材料11を通過するとき、スレーブビームはマスタビーム17のパルス14により位相変調される。スレーブビーム18の位相の変調は、結果的に、スレーブビーム18の偏光の瞬間的な変更をもたらす。
【0061】
光学ゲート材料11の下流の、光学ゲート材料11を離れるスレーブビーム18の経路上に、複屈折板45が配設されている。この複屈折板45は、複屈折板45の下流に配設されている偏光キューブ46に対してこの偏光を配向するために、光学ゲート材料11を離れるスレーブビーム18の偏光を操作することを可能にする。この偏光キューブ46は、光学ゲート材料11を離れるスレーブビーム18の横方向電気分極を反射することを可能にする。要素47は、偏光キューブ46により反射される偏光の状態を示す。
【0062】
偏光キューブ46の出力時、光学ゲート材料11を離れるマスタビーム17のパルス21に時間的に重畳される超短パルス20が得られる。矢印16は、偏光キューブ46の出力時のスレーブビーム18の偏光状態を示す。
【0063】
変形形態として、複屈折板45および偏光キューブ46は、偏光が変調されていない、スレーブビーム18の部分を拒絶するために、軸に従ってスレーブビーム18の偏光を操作し、投影することを可能にする任意の要素に置き換えられる。偏光キューブ46は、例えば、直線偏光子に置き換えられる。
【0064】
鏡19が、光学ゲート材料11の入力時および出力時にマスタビーム17を方向付けるように構成されている。
【0065】
マスタビーム17は、例えば、800nmが中心の中心波長を有し、光学ゲート材料11の上流に、15ピコ秒の継続時間のパルス14を有する。
【0066】
スレーブビーム18は、例えば、1064nmが中心の中心波長を有し、光学ゲート材料11の上流に、マスタビーム17のパルス14より長い継続時間のパルス15を有する。
【0067】
図3は、光学ゲート材料11の上流に、マスタビーム17のパルス14を生成する第1のレーザ源41と、スレーブビーム18のパルス15を生成する第2のレーザ源42とを含む、本発明による設備の別の例を示す。該マスタビーム17および該スレーブビーム18は光学ゲート材料11の上流で直線状に偏光され、それらの偏光状態、すなわちそれらの偏光方向は同一である。マスタビーム17とスレーブビーム18とは、マスタビーム17およびスレーブビーム18それぞれの偏光状態を示す矢印26および27により示されている通り、光学ゲート材料11の上流で、平行に偏光される。
【0068】
デバイスは、その伝播方向に対して45°でスレーブビーム18の経路上に配設されている半反射板23と、鏡M1、M2およびM3とを含むサニャク干渉計を含む。
【0069】
スレーブビーム18は、入力点Aにおいて、サニャク干渉計に向かって方向付けられ、そこで、半反射板23はスレーブビーム18を2つのビーム、屈折した一方27と反射した他方28と、に分割することを可能にする。
【0070】
鏡M1、M2およびM3は、屈折ビーム27を光路ABCDAに沿ってかつ反射ビーム28を光路ADCBAに沿って、方向付けることを可能にする。
【0071】
屈折ビーム27と反射ビーム28とは、互いに反対方向に光学ゲート材料11を通過し、光学ゲート材料11を通過した後に再統合される。
【0072】
光学ゲート材料11の出力時、光学ゲート材料11を離れるマスタビーム17のパルス31に時間的に重畳される超短パルス30が得られる。
【0073】
鏡19が、一方で、光学ゲート材料11を通してマスタビーム17を方向付けてカー効果を生み出すように、かつ他方で、光学ゲート材料11の出力時にマスタビームおよびスレーブビームを方向付けるように構成されている。
【0074】
図4は、本発明による設備の別の例を示す。第2のレーザ源42により生成されるスレーブビーム18および第1のレーザ源41により生成されるマスタビーム17は、光学ゲート材料11を通して方向付けられる。鏡19が、光学ゲート材料11を通してマスタビーム17を方向付けることを可能にする。この鏡19は2色性である。スレーブビーム18が光学ゲート材料11を通過する時、該スレーブビームはマスタビーム17により位相変調される。スレーブビーム18の位相の該変調は、結果的に、スレーブビーム18の少なくとも一部の発散の瞬間的な変更をもたらす。光学ゲート材料11の下流の、光学ゲート材料11を離れるスレーブビーム18の経路上に、空間フィルタ25が配設されている。
【0075】
空間フィルタ25は、特に円形形状のオリフィスとすることができる。該オリフィスの直径は5μmと500μmの間とすることができる。
【0076】
空間フィルタ25は、発散の瞬間的な変更を受けていないスレーブビーム18の一部を阻止するように構成されている。収束レンズ24が、空間フィルタ25の下流に、空間フィルタ25を離れるスレーブビーム18の経路上に配設されている。レンズ24の物体焦点を通過するかつ該レンズ24を通過するスレーブビーム18の光線は光軸Xに平行に離れる。
【0077】
図2から
図4までに示されている、本発明による設備の例は、
図1の時間同期システム6として使用されて、OPCPA増幅器のポンプ源5および信号源1を時間同期させ得る。
【0078】
「comprising(含む)」という用語は、別段の定めがない限り、その現在許容される意味、すなわち「comprising at least one(少なくとも1つを含む)」と同義であると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0079】
1 信号源
2 パルスストレッチャ
3 光学的パラメトリック増幅器
4 圧縮機
5 ポンプ源
6 時間同期システム
7 低エネルギー超短パルス
8 伸張パルス
9 増幅パルス
10、15、21、31 パルス
11 光学ゲート材料
12、13、16、26 矢印
14 パルス、超短パルス
17 マスタビーム
18 スレーブビーム
19、M1、M2、M3 鏡
20、30 超短パルス
23 半反射板
24 収束レンズ
25 空間フィルタ
27 屈折ビーム、矢印
28 反射ビーム
41 第1のレーザ源
42 第2のレーザ源
45 複屈折板
46 偏光キューブ
47 要素
A 入力点
X 光軸