(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】野生動物の忌避装置
(51)【国際特許分類】
A01M 29/24 20110101AFI20230704BHJP
【FI】
A01M29/24
(21)【出願番号】P 2022164061
(22)【出願日】2022-10-12
【審査請求日】2022-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592231446
【氏名又は名称】未来のアグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】井坂 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】川端 聡史
(72)【発明者】
【氏名】石澤 裕
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-143175(JP,A)
【文献】特開2003-204749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状を呈する電撃ネットと、該電撃ネットに高電圧の電流を給電する給電装置とを少なくとも具備する野生動物の忌避装置であって、
前記電撃ネットは、所定の間隔を隔てて並列配置した複数の導電線と、前記複数の導電線に交差して配置した複数の非導電性の間隔保持材とにより構成し、
前記給電装置が複数の導電線に対してプラス極とマイナス極に電圧を印加する分配器と、該分配器へ給電する電源部とを具備し、
野生動物が隣り合う導電線に接触した瞬間に給電装置を通じて電気ショックが与えられるように、前記給電装置を通じて隣り合う導電線のプラス極とマイナスの極に電圧を印加するように構成し、
前記電撃ネットは前記導電線の間隔保持機能を有する前記導電線と前記非導電性の間隔保持材との交差部を分離不能に固定すると共に、
交差する前記非導電性の間隔保持材と前記導電線とにより網目を画成したネット状物であることを特徴とする、
野生動物の忌避装置。
【請求項2】
帯状を呈する電撃ネットと、該電撃ネットに給電する給電装置と、前記電撃ネットを取り付ける複数の支柱とを具備することを特徴とする、請求項1に記載の野生動物の忌避装置。
【請求項3】
前記電撃ネットが直線形を呈し、横向きに並列配置する複数の導電線と、直線形を呈し、縦向きに並列配置する複数の非導電性糸とを具備し、前記間隔保持材を介して上下に隣り合う前記導電線の間隔を保持するように、前記間隔保持材と前記導電線との交差部を分離不能に固定し、交差する前記導電線と前記非導電性の間隔保持材とにより矩形の網目を画成したネット状物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の野生動物の忌避装置。
【請求項4】
帯状を呈する電撃ネットと、該電撃ネットに高電圧の電流を給電する給電装置とを少なくとも具備する野生動物の忌避装置であって、
前記電撃ネットは、所定の間隔を隔てて並列配置した複数の導電線と、上下に隣り合う前記導電線の間に介装した複数の非導電性の間隔保持材とにより構成し、
隣り合う前記導電線と前記非導電性の間隔保持材との間を固定して、隣り合う前記導電線の間隔を前記非導電性の間隔保持材が保持し、
前記電撃ネットが直線形を呈し、縦向きに並列配置する複数の導電線と、直線形を呈し、横向きに並列配置するする複数の非導電性糸とを具備し、
前記間隔保持材を介して左右に隣り合う前記導電線の間隔を保持するように、前記間隔保持材と前記導電線との交差部を分離不能に固定したネット状物であることを特徴とする、
野生動物の忌避装置。
【請求項5】
前記電撃ネットが波形を呈し、横向きに並列配置する複数の導電線と、波形を呈し、横向きに並列配置する複数の非導電性とを具備し、前記間隔保持材を介して上下に隣り合う前記導電線の間隔を保持するように、前記間隔保持材と前記導電線との交差部と、前記間隔保持材と前記導電線の頂部を分離不能に固定し、交差する前記導電線と前記非導電性の間隔保持材とによりひし形の網目を画成したネット状物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の野生動物の忌避装置。
【請求項6】
前記間隔保持材と前記導電線との交差部を熱融着、接着、結束または連結具の何れか一つの固定手段で分離不能に固定したことを特徴とする、請求項1または2に記載の野生動物の忌避装置。
【請求項7】
前記野生動物
が小動物であり、電撃ネットの網目を小動物の通過を阻止できる寸法に設定したことを特徴とする、請求項1または2に記載の野生動物の忌避装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイノシシやシカ等の大型動物、タヌキやハクビシン等の中型動物、ネズミ等の小動物、また鳥類(これらを総称して「野生動物」という)の忌避装置に関し、特に自立性に優れた電撃ネットを具備した忌避装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の放牧管理を行う架線型の防獣電気柵は古くから知られている(特許文献1,2)。
従来の防獣電気柵は、隣り合う支柱の間に複数本の裸電線を多段的に張り巡らし、裸電線に電源装置のプラス極を接続する一方、電源装置のマイナス極をアースする。
地表に着地した野生動物が裸電線に触れた瞬間に高圧電流による電撃ショックを与えることで、野生動物の侵入防止や家畜の逃走防止を行っている。
【0003】
また、隣り合う支柱の下部に繊維製ネットを張設し、支柱の上部に複数本の裸電線を張り巡らせた複合型防獣電気柵も知られている(特許文献3,4)。
この複合型電気柵はサル用の電気柵であり、複数本の裸電線を地表から離れた位置に配置することで、地表の雑草が裸電線に触れて短絡することを防止する。
【0004】
さらに縦横方向に編成した非導電性の網体において、一部の横糸に裸電線を組み込んだネット型の防獣電気柵も提案されている(特許文献5)。
このネット型の防獣電気柵の網体は、猪やシカ等の大型野生動物用の電気柵であり、網目が方形を呈していて、上下の裸電線の間に2~4本の非導電性の横糸を介在することで網目寸法を小さくしている。
【0005】
従来の防獣電気柵は、大地にアースして裸電線をプラス極とするか、または複数の裸電線をプラスマイナスの異極の組合せとし、裸電線に触れた瞬間に野生動物に対して電気ショックを与えられる構造になっている。
【0006】
支柱間に多段的に横架する裸電線の上下間隔は、野生動物の体長に比例して狭くなる関係にあり、例えばイノシシやシカ等の大型動物用では20~30cmであり、タヌキやハクビシン等の中型動物の場合は10cm程度と狭くなる。
【0007】
食害は、イノシシやシカ等の大型動物やタヌキやハクビシン等の中型動物に限らず、ネズミ等の小動物にも及んでいる。
特に、野ネズミやドブネズミ等は、単なる食害にとどまらず、各種の病原菌を媒介することが知られている。
ネズミの防除手段としては、ワナによる捕獲器、超音波発生器、殺鼠剤、異臭を発生する忌避剤等を使用して対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-60948号公報
【文献】特開平06-225680号公報
【文献】特開平11-206305号公報
【文献】特開2002-27899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の野生動物の防除方法はつぎの解決すべき問題点を内包している。
<1>従来の防獣電気柵は裸電線単独では自立性を確保することができず、複数の裸電線の自立性を確保するためには複数の支柱が必須である。
多数の支柱を使用する場合、資材コストと支柱の設置コストが嵩んで防獣電気柵の設置コストが高くなる。
<2>支柱の間隔が広くなると裸電線が自重で弛み易い。裸電線の弛みが大きくなると裸電線が大地に接触したり、下位の裸電線に接触したりして短絡が起きる。
裸電線が短絡すると防獣電気柵が防除機能を喪失する。
<3>裸電線の短絡現象は、裸電線の上下間隔が狭くなるほど発生し易くなる。
ネズミは体長が小さいことから、複数の裸電線を10~15mm程度の狭い間隔で配置すると短絡やスパークが発生し易くなるために、電気柵による防除が難しい。
<4>現在行っているネズミの防除手段であるワナによる捕獲器、超音波発生器、殺鼠剤、異臭を発生する忌避剤等は、これらの防除手段を設置するにあたり、ネズミの通り道やネズミの巣を把握することが必要であるだけでなく、さらにネズミの防除効果が低い。
そのため、ネズミ等の小動物に適した有効な防除方法の提案が望まれている。
【0010】
本発明は既述した課題を解決できる野生動物の忌避装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、帯状を呈する電撃ネットと、該電撃ネットに高電圧の電流を給電する給電装置とを少なくとも具備する野生動物の忌避装置であって、前記電撃ネットは、所定の間隔を隔てて並列配置した複数の導電線と、前記複数の導電線に交差して配置した複数の非導電性の間隔保持材とにより構成し、前記給電装置が複数の導電線に対してプラス極とマイナス極に電圧を印加する分配器と、該分配器へ給電する電源部とを具備し、野生動物が隣り合う導電線に接触した瞬間に給電装置を通じて電気ショックが与えられるように、前記給電装置を通じて隣り合う導電線のプラス極とマイナスの極に電圧を印加するように構成し、前記電撃ネットは前記導電線の間隔保持機能を有する前記導電線と前記非導電性の間隔保持材との交差部を分離不能に固定すると共に、交差する前記非導電性の間隔保持材と前記導電線とにより網目を画成したネット状物である。
本発明の他の形態において、帯状を呈する電撃ネットと、該電撃ネットに給電する給電装置と、前記電撃ネットを取り付ける複数の支柱とを具備する具備する。
本発明の他の形態において、前記電撃ネットが直線形を呈し、横向きに並列配置する複数の導電線と、直線形を呈し、縦向きに並列配置する複数の非導電性糸とを具備し、前記間隔保持材を介して上下に隣り合う前記導電線の間隔を保持するように、前記間隔保持材と前記導電線との交差部を分離不能に固定し、交差する前記導電線と前記非導電性の間隔保持材とにより矩形の網目を画成したネット状物である。
本発明は、帯状を呈する電撃ネットと、該電撃ネットに高電圧の電流を給電する給電装置とを少なくとも具備する野生動物の忌避装置であって、前記電撃ネットは、所定の間隔を隔てて並列配置した複数の導電線と、上下に隣り合う前記導電線の間に介装した複数の非導電性の間隔保持材とにより構成し、隣り合う前記導電線と前記非導電性の間隔保持材との間を固定して、隣り合う前記導電線の間隔を前記非導電性の間隔保持材が保持し、前記電撃ネットが直線形を呈し、縦向きに並列配置する複数の導電線と、直線形を呈し、横向きに並列配置するする複数の非導電性糸とを具備し、前記間隔保持材を介して左右に隣り合う前記導電線の間隔を保持するように、前記間隔保持材と前記導電線との交差部を分離不能に固定したネット状物である。
本発明の他の形態において、前記電撃ネットが波形を呈し、前記間隔保持材を介して上下に隣り合う前記導電線の間隔を保持するように、前記間隔保持材と前記導電線との交差部と、前記間隔保持材と前記導電線の頂部を分離不能に固定し、交差する前記導電線と前記非導電性の間隔保持材とによりひし形の網目を画成したネット状物である。
本発明の他の形態において、前記間隔保持材と前記導電線との交差部を熱融着、接着、結束または連結具の何れか一つの固定手段で分離不能に固定するとよい。
本発明の他の形態において、前記野生動物がネズミ等の小動物であり、電撃ネットの網目を小動物の通過を阻止できる寸法に設定した。
【発明の効果】
【0012】
本発明は少なくともつぎの一つの効果を奏する。
<1>電撃ネットの自立性が高いため、支柱の設置数を減らしたり、支柱をまったく使用したりせずに電撃ネットを設置することができる。
そのため、従来と比べて電撃ネットの施工がし易くなるうえに、電撃ネットの設置コストを大幅に削減できる。
<2>電撃ネットを構成する複数の非導電性の間隔保持材が導電線の間隔保持機能を発揮するので、待機時だけでなく、野生動部の衝突時においても隣り合う導電線の弛みを抑制して導電線による短絡を確実に防止できる。
そのため、長期間に亘って野生動物の防除機能を維持できる。
<3>非導電性の間隔保持材による導電線の間隔保持機能により、隣り合う導電線の短絡を防止しつつ、電撃ネットの網目の寸法を小さくできる。
電撃ネットの網目の寸法を小動物用にも小さくできるので、これまで対応が難しいとされてきたネズミ等の小動物に対しても高い防除効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電撃ネットを具備する実施例1に係る忌避装置の説明図
【
図2】電撃ネットと給電装置を説明するための忌避装置のモデル図
【
図3】
図2の断面図で、(A)は
図2のA-Aの断面図、(B)は
図2のB-Bの断面図
【
図4】電撃ネットの下部に補助ネットを設けた説明図
【
図6】実施例2に係る電撃ネットの説明図で、(A)は電撃ネットの構成要素の説明図、(B)は導電線と非導電性の間隔保持材を用いて編成したネット状の電撃ネットの説明図
【
図7】実施例3に係る電撃ネットの説明図で、(A)は波形を呈する導電線と波形を呈する非導電性の間隔保持材の説明図、(B)は導電線と非導電性の間隔保持材を用いて編成したネット状の電撃ネットの説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら本発明について説明する。
【0015】
[実施例1]
<1>野生動物の忌避装置の概要
図1を参照して説明すると、本発明に係る野生動物の忌避装置は、帯状を呈する電撃ネット10と、該電撃ネット10に給電する給電装置20とを少なくとも具備する。
本例では電撃ネット10を設置するために複数の支柱30を使用する形態について説明するが、支柱30は必須ではない。
【0016】
<2>電撃ネット
電撃ネット10は、所定の間隔を隔てて横向きに並列配置した複数の導電線11と、所定の間隔を隔てて縦向きに並列配置した複数の非導電性の間隔保持材12とを具備する。
電撃ネット10は導電線11と間隔保持材12の交差部13を固定して格子状に形成したネット状物であり、導電線11と間隔保持材12とにより画成した矩形(角目)の網目14を有する。
電撃ネット10を構成する導電線11,11の間に間隔保持材12は介在しない。
【0017】
電撃ネット10は例えば公知の織機を使用して編成できる。
【0018】
<2.1>導電線
導電線11は導電性を有するステンレス線、アルミ線、銅線、亜鉛メッキ処理を施した鉄線等の金属素材または導電性を有する樹脂素材から線材またはワイヤー材である。実用的にはステンレス線が好適である。
導電線11は絶縁材を被覆せず、糸の外周面が露出した裸電線に相当する。
導電線11は野生動物の衝突によって容易に破断しないだけの強度を有している。
導電線11の素材や線径は野生動物の種類に応じて適宜選択する。
【0019】
<2.2>非導電性の間隔保持材
非導電性の間隔保持材12は複数の導電線11の間隔を保持する間隔保持機能と、電撃ネット10の全体の強度を高める補強機能と、電撃ネット10の自立性を高める疑似支柱機能とを併有する。
【0020】
本例では、非導電性の間隔保持材12の素材として、熱融着繊維を使用し、熱融着繊維を加熱して融着および熱硬化させて使用する形態について説明する。
非導電性の間隔保持材12の他の素材としては、例えば繊維強化プラスチック、塩ビ、アクリル等の成形品(管状、角パイプ)等を使用できる。
【0021】
熱融着繊維または熱融着樹脂としては、例えばポリエステル(PET)、オレフィン系(PP、PE)のような熱可塑性繊維等を融点まで一度熱処理溶融させて硬化されたものを使用できる。
【0022】
間隔保持材12を構成する他の熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等を使用できる。
間隔保持材12に熱硬化性樹脂を用いるのは、間隔保持材12を硬化させて剛性を高めるためと、交差部13を固定して目止めするためである。
【0023】
本例では、間隔保持材12を熱硬化性の3本の撚り糸で構成する形態を示していて、並列に配置した熱硬化性の撚り糸を加熱することで、間隔保持材12を帯状の薄厚に成形する。
撚り糸の径や本数を選択することで間隔保持材12の剛性(硬さ)を調整できる。
【0024】
硬化した間隔保持材12が導電線11の間隔保持機能と疑似支柱機能を発揮すると共に、導電線11と間隔保持材12の剛性が電撃ネット10の自由な折り曲げを制限する。
【0025】
<2.3>交差部の固定手段
導電線11と間隔保持材12の交差部13は固定手段により摺動不能に固定する。
交差部13の固定手段としては、例えば、熱融着、接着剤による接着、結束、または連結具の何れか一種が適用可能である。
【0026】
実用的には、導電線11に熱融着性のらせん糸15を巻き付けた後、電撃ネット10の両面を加熱するとらせん糸15が溶融して接着力を発揮して導電線11と間隔保持材12の交差部13をより強固に固定できる。
らせん糸15には、公知の低融点のバインター繊維を使用できる。
【0027】
電撃ネット10の加熱手段は、これらの糸11,12,15の所定の溶融温度を付与可能な加熱体であり、例えば接触式の一対の加熱ローラ、非接触式のヒータ等を適用できる。
電撃ネット10の加熱手段は、既存の織機に最終工程として一体に組み込んでもよいし、織機から独立して設けてもよい。
【0028】
結束による固定とは、別途の結束バンドや結束紐等で導電線11と間隔保持材12の交差部13を拘束して固定するものである。
連結具による固定とは、例えば交差部13の両側に当板を配置し、これらの当板の間をボルト類で固定するか、または手裏剣型の当板を交差部13の片面に配置し、当板に放射状に形成した4つの延設部を内側に折り曲げることで交差部13を拘束する。
【0029】
<2.4>網目
間隔保持材12と導電線11により矩形の網目14を形成する。
網目14の寸法は野生動物に応じて適宜選択する。
野生動物が例えばネズミ等の小動物の場合には、網目14の寸法(縦辺×横辺)を5~20mm×5~30mmとする。
裸電線である導電線11を互いに近づけすぎると、直接接触しなくとも絶縁破壊(放電)が発生するので、網目14の縦辺の長さは絶縁破壊が生じない寸法とする。
【0030】
<3>給電装置
給電装置20は複数の導電線11に対して衝撃電流を供給するための装置であり、各導電線11にプラスとマイナスの電極を交互に配置した分配器21と、分配器21へパルス電流等を給電する電源部22とを具備する。
【0031】
分配器21は各導電線11に対して個別に電気的に接続していて、上下に隣り合う各導電線11が交互にプラス極とマイナス極の組合せとなっている。
【0032】
電源部22は分配器21を通じて各導電線11へ高電圧を印加し得るようになっている。
供給する電流と電撃電圧については、野生動物の種類に応じて適宜選択する。
【0033】
<4>支柱
支柱30は保護領域に沿って立設する。
支柱30の立設間隔は野生動物に応じて選択する。
支柱30は非導電性の合成樹脂や金属素材でできていて、その断面形状は円柱形や角柱形等を呈する。
【0034】
[忌避装置の設置方法]
既述した忌避装置の設置方法について説明する。
【0035】
<1>支柱の立設
保護エリアの外郭に沿って複数の支柱30を立設する。支柱30の立設間隔は野生動物に応じて適宜選択する。
支柱30は杭式の他に立木や既設の各種構造物を支柱の代替部材として活用してもよい。
【0036】
本発明では、ネット素材にコシを持たせて電撃ネット10の自立性を高めた。
電撃ネット10の自立性を高めることで、従来と比べて支柱30の設置間隔を広くできるので、支柱30の資材コストと、支柱30の設置コストを大幅に削減できる。
【0037】
<2>電撃ネットの取付け
複数の支柱30の間に導電線11を横向きにした状態で電撃ネット10を取り付ける。
電撃ネット10の取り付けにあたり、導電線11が支柱30を介して短絡しないように、図示しない碍子やクリップ等の電気絶縁部材を介して電撃ネット10を支柱30に取付ける。
【0038】
電撃ネット10の下部は、最下段の導電線11が地面Gから10cm程度離して設ける。
【0039】
図4に電撃ネット10の下部を閉鎖した形態を例示する。
電撃ネット10の下辺と地面Gの間に大きな隙間が生じるときは、断面L字形を呈する補助ネット40で封止するとよい。
補助ネット40の垂直部40aは結束具41を介して電撃ネット10に連結し、補助ネット40の水平40b部はアンカーピン42を地面Gに打込んで固定する。
電撃ネット10の下辺と地面Gの間を補助ネット40で封止することで、ネズミ等の小型の野生動物に対する侵入防止効果が向上する。
【0040】
[野生動物の防除方法]
つぎに忌避装置による野生動物の防除方法について説明する。
【0041】
<1>待機時
待機時において、支柱30間に張り巡らした電撃ネット10は給電装置20を通じて通電状態にある。
電撃ネット10の間隔保持材12が隣り合う導電線11,11の間隔を保持するので、待機時に強風等を受けても、導電線11の間で短絡は生じない。
【0042】
<2>野生動物の侵入
該電撃ネット10は給電装置20を通じて通電している。
野生動物が田畑、果樹園、ゴルフ場等の侵入禁止区域に侵入しようとして電撃ネット10に接触する。
【0043】
<2.1>電気ショック
野生動物がプラス極とマイナス極の導電線11に接触した瞬間に給電装置20を通じて電気ショックが与えられる。
野生動物が繰り返し導電線11に接触することで、その都度、電気ショックが与えられる。
野生動物は痛みを伴う学習効果により侵入禁止区域への侵入を断念する。
【0044】
なお、野生動物が衝突して電撃ネット10が変形したとしても、間隔保持材12が間隔保持機能と疑似支柱機能を発揮して隣り合う導電線11の離間状態を維持するので、野生動物の衝突時においても、導電線11の間で短絡は生じない。
【0045】
<2.2>野生動物が小動物の場合
電撃ネット10の防除対象が例えばネズミ等の小動物用である場合は、網目14をネズミが通過出来ない寸法に設定しておく。
ネズミ等の小動物が網目14を押し広げようとして鼻先を挿し込むと、鼻先が導電線11に触れた瞬間に電気ショックを受けるので、電撃ネット10を通過することができない。
【0046】
従来は、小動物を対象に電気ショックを与えることが技術的に困難であったが、本発明では導電線11の短絡を確実に防止できるので、ネズミ等の小動物に対して電気ショックを与えて効果的に防除することができる。
【0047】
<3>電撃ネットの耐久性
電撃ネット10を構成する間隔保持材12と導電線11との交差部13が強固に固定してあるので、野生動物の衝突によって交差部13が剥がれない。
【0048】
さらに、野生動物が電撃ネット10に衝突しても、間隔保持材12と導電線11が破断強度に達する前に電気ショックを受けた野生動物が電撃ネット10から瞬時に離れるので、電撃ネット10の一部が破れたり、破れが広がったりする心配がない。
【0049】
[実施例2]
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0050】
<1>他の電撃ネットの構成
本例は、導電線11と非導電性の間隔保持材12の配置位置を入れ替えた電撃ネット10について説明する。
【0051】
図6を参照して説明すると、本例の電撃ネット10は、所定の間隔を隔てて縦向きに並列配置した複数の第1および第2導電線11a,11bと、前記複数の導電線11a,11bの間に横向きに並列配置した複数の非導電性の間隔保持材12とを具備した格子状に形成したネット状物である。
なお、第1および第2導電線11a,11bと間隔保持材12の素材や特性は既述した実施例1と同様である。
【0052】
<1.1>電撃ネットの構成要素
図6(A)は電撃ネット10を構成する第1および第2導電線11a,11bと間隔保持材12のモデル図を示している。
第1および第2導電線11a,11bと間隔保持材12は直線形を呈する。
複数の第1導電線11aと複数の第2導電線11bはそれぞれ縦向きに配置し、ピッチは同一である。
複数の第1導電線11aは電気的に並列関係に接続してあり、複数の第2導電線11bも電気的に並列関係に接続してある。
間隔保持材12は第1および第2導電線11a,11bを横断可能な全長を有する。
【0053】
<1.2>導電線と間隔保持材の配索構造
図6(B)は複数の第1および第2導電線11a,11bと複数の間隔保持材12とにより編成した電撃ネット10のモデル図を示している。
複数の第1および第2導電線11a,11bは互いに平行な関係にあり、複数の間隔保持材12も互いに平行な関係にある。
複数の第1導電線11aの間に複数の第2導電線11bが位置するように、第1および第2導電線11a,11bは半ピッチずれた位置関係にある。
【0054】
<1.3>導電線と間隔保持材の固定
間隔保持材12は第1および第2導電線11a,11bを横断して位置し、これらの交点13を先の実施例1と同様に熱融着や接着等により摺動不能に固定して目止めする。
電撃ネット10の網目14は角形を呈する。
【0055】
<1.4>電極
本例においても、先の実施例1と同様に、左右に隣り合う第1電線11aと第2導電線11bとがプラス極とマイナス極の組合せとなるように配線してある。
【0056】
<2>忌避装置の設置方法
忌避装置の設置方法は既述した実施例1と同様であるので、その説明を省略する。
【0057】
<3>野生動物の防除方法
忌避装置による野生動物の防除方法も既述した実施例1と同様であるので、その説明を省略する。
【0058】
<4>本例の効果
本例は既述した実施例1と同様の効果を奏することにくわえて、つぎの特有の効果を奏する。
ア)間隔保持材12を横向きに配置しても、間隔保持材12が縦向きに配置した第1および第2導電線11a,11bの間隔保持機能を発揮することができる。
イ)第1および第2導電線11a,11bを縦向きに配置することで、導電線11a,11bの自重が真下に作用する。
そのため、自重に起因した第1および第2導電線11a,11bの短絡を確実に防止できる。
ウ)第1および第2導電線11a,11bに下向きの撓みが生じないので、第1および第2導電線11a,11bの配置間隔を狭くして網目寸法をさらに小さく形成することができる。
エ)第1または第2導電線11a,11bの電極を導電線の群単位でまとめて設定できるので、複数の第1および第2導電線11a,11bの配線構造を簡略化できる。
【0059】
[実施例3]
【0060】
<1>他の電撃ネットの構成
図7を参照して説明すると、本例の電撃ネット10は、所定の間隔を隔てて横向きに並列配置した複数の導電線11と、前記複数の導電線11の間に所定の間隔を隔てて並列配置した複数の非導電性の間隔保持材12とを具備する。
本例の電撃ネット10は、例えばラッセル網または無結束網で構成することができる。
なお、導電線11と間隔保持材12の素材や特性は既述した実施例1と同様である。
【0061】
<1.1>導電線と間隔保持材の形状
先の実施例1では導電線11と間隔保持材12とを直線形で交差したが、本例では導電線11と間隔保持材12とを波形(ジグザグ状)にしてネット状に編成する。
複数の導電線11と複数の間隔保持材12は、互いに同形で同ピッチの波形(ジグザグ状)を呈し、高さ方向に向けて交互に位置する。
【0062】
図7(A)は電撃ネット10を構成する導電線11と間隔保持材12のモデル図を示していて、導電線11と間隔保持材12は互いに同形で同ピッチの波形を呈する。
導電線11と間隔保持材12は共に横向きで使用する。
【0063】
<1.2>導電線と間隔保持材の配索構造
図7(B)はこれら複数の導電線11と複数の間隔保持材12とにより編成した電撃ネット10のモデル図を示している。
同図において、波形を呈する複数の導電線11は互いに平行な関係にあり、波形を呈する複数の間隔保持材12も互いに平行な関係にある。
波形を呈する導電線11と波形を呈する間隔保持材12は、半ピッチずれた位置関係にある。
【0064】
導電線11と間隔保持材12が半ピッチずれることで、導電線11と間隔保持材12の間に交差部13を形成する共に、導電線11と間隔保持材12の頂部19を互いに突き合せた構造となる。
【0065】
<1.3>導電線と間隔保持材の固定
本例では、交差部13だけでなく、導電線11と間隔保持材12とを互いに突き合せた頂部19を、先の実施例1と同様に熱融着や接着等により摺動不能に固定して目止めする。
本例では、導電線11と間隔保持材12の固定箇所が増えるので、電撃ネット10の全体の剛性が高くなる。
【0066】
<1.4>電極
本例においても、先の実施例1と同様に、上下に隣り合う各導電線11がプラス極とマイナス極の組合せとなるように配線してある。
【0067】
<1.5>網目
本例では電撃ネット10の網目14が菱形を呈する。
導電線11と間隔保持材12の一辺の長さや導電線11と間隔保持材12の交差角度を選択することで、ひし形を呈する網目14の寸法や角度を変更することができる。
【0068】
本例では、間隔保持材12を熱硬化性の3本の撚り糸で構成する形態を示していて、並列に配置した熱硬化性の撚り糸を加熱することで、間隔保持材12を帯状の薄厚に成形する。
撚り糸の径や本数を選択することで間隔保持材12の剛性(硬さ)を調整できる。
【0069】
間隔保持材12は熱硬化性により弾性強度が高くなるので、間隔保持材12の曲げ強度に起因して電撃ネット10の自由な横折りが規制される。
【0070】
<2>忌避装置の設置方法
忌避装置の設置方法は既述した実施例1と同様であるので、その説明を省略する。
【0071】
<3>野生動物の防除方法
忌避装置による野生動物の防除方法も既述した実施例1と同様であるので、その説明を省略する。
【0072】
<4>本例の効果
本例は既述した実施例1と同様の効果を奏することにくわえて、つぎの特有の効果を奏する。
ア)波形を呈する間隔保持材12を横向きに配置しても、間隔保持材12が波形を呈する導電線11の間隔保持機能を発揮することができる。
そのため、隣り合う導電線11の短絡を確実に防止できる。
イ)波形にすることで導電線11と間隔保持材12の曲げ強度が高くなるので、電撃ネット10の全体の自立性がさらに高くなる。
ウ)導電線11と間隔保持材12を波形にすることで、自重による導電線11の下向きの撓み変形を抑制できる。
【符号の説明】
【0073】
10・・・・電撃ネット
11・・・・導電線
12・・・・非導電性の間隔保持材
13・・・・交差部
14・・・・網目
15・・・・らせん糸
19・・・・頂部
20・・・・給電装置
21・・・・分配器
22・・・・電源部
30・・・・支柱
40・・・・補助ネット
【要約】
【課題】電撃ネットの自立性を高めつつ、電撃ネットの短絡を防止できる、忌避装置を提供すること。
【解決手段】電撃ネットと給電装置を具備する野生動物の忌避装置であって、電撃ネットは、所定の間隔を隔てて並列配置した複数の導電線11と、複数の非導電性の間隔保持材12とにより構成し、隣り合う導電線11と非導電性の間隔保持材12との間を固定して、隣り合う導電線11の間隔を非導電性の間隔保持材12が保持するように構成した。
【選択図】
図2