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特許7307305電気炉におけるガス噴出装置及びガス噴出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】電気炉におけるガス噴出装置及びガス噴出方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/22 20060101AFI20230705BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
F27B3/22
F27D3/16 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018234395
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020094775
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 慎平
(72)【発明者】
【氏名】西野 修司
(72)【発明者】
【氏名】立入 靖久
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-113585(JP,A)
【文献】特表平10-500455(JP,A)
【文献】特開昭63-125611(JP,A)
【文献】特開平08-209224(JP,A)
【文献】特開2006-249563(JP,A)
【文献】特開昭55-107878(JP,A)
【文献】特開昭54-099027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00-3/28
F27D 3/00-5/00
C21C 1/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器状の炉体と、
前記炉体内の中央部に鉛直方向に沿って配置された円柱状の電極と、
を備える電気炉に適用され、
前記電極よりも前記炉体の周壁部側かつ前記電極の下端よりも上側の位置に配置され、先端が前記炉体内の中央部側かつ下側を向くように鉛直方向に対して傾斜されると共に軸方向に沿って昇降し、平面視で前記先端が前記電極を向いた状態で、前記炉体内に装入された固体金属材料の溶解促進及び前記炉体内の溶融金属材料の精錬のために、複数の先端ノズル孔から前記炉体内に酸素を含むガスを噴出するランスを有し、
前記先端ノズル孔から噴出される前記ガスの噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った最短距離をDとし、
前記電極の半径をrとし、
前記噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った距離が最短となる前記噴流の中心軸上の点を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たし、
>r+r・・・(1)
前記噴流の中心軸と前記溶融金属材料の浴面との交点である火点中心と、前記炉体の周壁部との水平方向に沿った最短距離をDとし、
前記噴流が前記溶融金属材料の浴面と接触したときの前記火点中心を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすように、前記ガスを噴出する、
>r・・・(2)
電気炉におけるガス噴出装置。
【請求項2】
容器状の炉体と、
前記炉体内の中央部に鉛直方向に沿って配置された円柱状の電極と、
を備える電気炉に適用され、
前記電極よりも前記炉体の周壁部側かつ前記電極の下端よりも上側の位置に配置され、先端が前記炉体内の中央部側かつ下側を向くように鉛直方向に対して傾斜されると共に軸方向に沿って昇降し、平面視で前記先端が前記電極を向いた状態で、前記炉体内に装入された固体金属材料の溶解促進及び前記炉体内の溶融金属材料の精錬のために、複数の先端ノズル孔から前記炉体内に酸素を含むガスを噴出するランスを用い、
前記先端ノズル孔から噴出される前記ガスの噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った最短距離をDとし、
前記電極の半径をrとし、
前記噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った距離が最短となる水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たし、
>r+r・・・(1)
前記噴流の中心軸と前記溶融金属材料の浴面との交点である火点中心と、前記炉体の周壁部との水平方向に沿った最短距離をDとし、
前記噴流が前記溶融金属材料の浴面と接触したときの前記火点中心を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすように、前記ガスを噴出する、
>r・・・(2)
電気炉におけるガス噴出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉におけるガス噴出装置及びガス噴出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉の炉体内に装入された固体金属材料の溶解促進及び炉体内の溶融金属材料の精錬のために、ランスの先端ノズル孔から炉体内に酸素を含むガスを噴出する技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
このような技術では、ガスの噴流が電極に接触すると、噴流の熱影響により、電極が損耗する虞がある。ここで、電極の損耗を回避するために、噴流を電極から遠ざけた位置に噴出することも考えられるが、このようにすると、噴流が炉体の周壁部に接触することにより、炉体の周壁部が損耗する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3148966号公報
【文献】特許第2912834号公報
【文献】特許第2824955号公報
【文献】特開平8-109408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、電極の損耗の抑制と炉体の周壁部の損耗の抑制とを両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るガス噴出装置は、容器状の炉体と、前記炉体内の中央部に鉛直方向に沿って配置された円柱状の電極と、を備える電気炉に適用され、前記電極よりも前記炉体の周壁部側かつ前記電極の下端よりも上側の位置に配置されると共に、先端が前記炉体内の中央部側かつ下側を向くように鉛直方向に対して傾斜され、前記炉体内に装入された固体金属材料の溶解促進及び前記炉体内の溶融金属材料の精錬のために、少なくとも一つの先端ノズル孔から前記炉体内に酸素を含むガスを噴出するランスを有し、前記先端ノズル孔から噴出される前記ガスの噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った最短距離をDとし、前記電極の半径をrとし、前記噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った距離が最短となる前記噴流の中心軸上の点を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たし、前記噴流の中心軸と前記溶融金属材料の浴面との交点である火点中心と、前記炉体の周壁部との水平方向に沿った最短距離をDとし、前記噴流が前記溶融金属材料の浴面と接触したときの前記火点中心を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすように、前記ガスを噴出する。
>r+r・・・(1)
>r・・・(2)
【0007】
本発明の一態様に係るガス噴出装置によれば、噴流の中心軸と、電極の中心軸との水平方向に沿った最短距離をDとし、電極の半径をrとし、噴流の中心軸と、電極の中心軸との水平方向に沿った距離が最短となる噴流の中心軸上の点を中心とする水平方向への噴流の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たすように、先端ノズル孔からガスを噴出する。
>r+r・・・(1)
【0008】
これにより、噴流が電極に接触することを回避することができるので、電極の損耗を抑制することができる。
【0009】
また、このように、ガスを噴出する際には、噴流の中心軸と溶融金属材料の浴面との交点である火点中心と、炉体の周壁部との水平方向に沿った最短距離をDとし、噴流が溶融金属材料の浴面と接触したときの火点中心を中心とする水平方向への噴流の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすようにする。
>r・・・(2)
【0010】
これにより、噴流が炉体の周壁部に接触することを回避することができるので、炉体の周壁部の損耗を抑制することができる。
【0011】
本発明の一態様に係るガス噴出方法は、容器状の炉体と、前記炉体内の中央部に鉛直方向に沿って配置された円柱状の電極と、を備える電気炉に適用され、前記電極よりも前記炉体の周壁部側かつ前記電極の下端よりも上側の位置に配置されると共に、先端が前記炉体内の中央部側かつ下側を向くように鉛直方向に対して傾斜され、前記炉体内に装入された固体金属材料の溶解促進及び前記炉体内の溶融金属材料の精錬のために、少なくとも一つの先端ノズル孔から前記炉体内に酸素を含むガスを噴出するランスを用い、前記先端ノズル孔から噴出される前記ガスの噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った最短距離をDとし、前記電極の半径をrとし、前記噴流の中心軸と、前記電極の中心軸との水平方向に沿った距離が最短となる前記噴流の中心軸上の点を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たし、前記噴流の中心軸と前記溶融金属材料の浴面との交点である火点中心と、前記炉体の周壁部との水平方向に沿った最短距離をDとし、前記噴流が前記溶融金属材料の浴面と接触したときの前記火点中心を中心とする水平方向への前記噴流の拡がりにおける前記最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすように、前記ガスを噴出する。
>r+r・・・(1)
>r・・・(2)
【0012】
本発明の一態様に係るガス噴出方法によれば、噴流の中心軸と、電極の中心軸との水平方向に沿った最短距離をDとし、電極の半径をrとし、噴流の中心軸と、電極の中心軸との水平方向に沿った距離が最短となる噴流の中心軸上の点を中心とする水平方向への噴流の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たすように、先端ノズル孔からガスを噴出する。
>r+r・・・(1)
【0013】
これにより、噴流が電極に接触することを回避することができるので、電極の損耗を抑制することができる。
【0014】
また、このように、ガスを噴出する際には、噴流の中心軸と溶融金属材料の浴面との交点である火点中心と、炉体の周壁部との水平方向に沿った最短距離をDとし、噴流が溶融金属材料の浴面と接触したときの火点中心を中心とする水平方向への噴流の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすようにする。
>r・・・(2)
【0015】
これにより、噴流が炉体の周壁部に接触することを回避することができるので、炉体の周壁部の損耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、電極の損耗の抑制と炉体の周壁部の損耗の抑制とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置のランスと電極との位置関係を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置が適用された電気炉の全体構成を示す側面断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置のランスと、炉体の周壁部及び電極との位置関係を示す斜視図である。
図4図3の平面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置において、式(1)、(2)を満たす場合の第一の実施例を示す平面図である。
図6】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置において、式(1)、(2)を満たす場合の第二の実施例を示す平面図である。
図7】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置において、式(1)、(2)を満たす場合の第三の実施例を示す平面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置において、式(1)を満たさない場合の比較例を示す平面図である。
図9】本発明の一実施形態に係るガス噴出装置において、式(2)を満たさない場合の比較例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
図2図1も適宜参照)に示されるように、本発明の一実施形態に係るガス噴出装置10(電気炉におけるガス噴出装置)は、電気炉30に適用される。電気炉30は、上側に開口する容器状の炉体32と、炉体32内の中央部に鉛直方向に沿って配置された円柱状の電極34とを備える。炉体32内には、固体金属材料36及び溶融金属材料38が装入されている。本実施形態では、一例として、固体金属材料36は、鉄製のスクラップであり、溶融金属材料38は、溶銑である。電極34は、先端が溶融金属材料38の浴面38Aと対向する高さに配置されている。電極34の表層部は、例えば、黒鉛で形成されている。
【0020】
ガス噴出装置10は、直線丸棒状のランス12と、ランス12にガスを供給するガス供給部14とを有している。ランス12は、例えば、炉体32の周壁部32Aの上部や、炉体32の上側に設けられた図示しない蓋体の周縁部から炉体32内に挿入されることにより、電極34よりも炉体32の周壁部32A側かつ電極34の下端よりも上側の位置に配置されている。このランス12は、水が循環することにより水冷される水冷式とされている。このランス12は、先端12Aが炉体32内の中央部側かつ下側を向くように鉛直方向に対して傾斜されている。
【0021】
ランス12の先端12Aには、少なくとも一つの先端ノズル孔16が形成される。ランス12の先端12Aに形成される先端ノズル孔16は、例えば、一つ、二つ、三つ、四つ等が考えられる。図1に示されるように、本実施形態では、一例として、二つの先端ノズル孔16がランス12の先端12Aに形成されている。この二つの先端ノズル孔16は、平面視でランス12の中心軸A2に対して対称に配置されている。
【0022】
先端ノズル孔16の中心軸A1は、平面視でランス12の中心軸A2に対し鋭角を成している。以降、平面視で先端ノズル孔16の中心軸A1とランス12の中心軸A2との成す角度をノズル角αと称する。また、図2に示されるように、先端ノズル孔16の中心軸A1は、側面視で水平方向に対して鋭角を成している。以降、水平方向に対する先端ノズル孔16の中心軸A1の傾斜角度をノズル角βと称する。
【0023】
そして、このガス噴出装置10では、固体金属材料36の溶解促進及び溶融金属材料38の精錬のために、ガス供給部14が作動すると、ガス供給部14からランス12にガスが供給され、先端ノズル孔16から炉体32内に酸素を含むガスが噴出される。
【0024】
ところで、このように、先端ノズル孔16からガスを噴出した際に、ガスの噴流が電極34に接触すると、噴流の熱影響により、電極34が損耗する虞がある。ここで、電極34の損耗を回避するために、噴流を電極34から遠ざけた位置に噴出することも考えられるが、このようにすると、噴流が炉体32の周壁部32Aに接触することにより、炉体32の周壁部32Aが損耗する虞がある。
【0025】
ここで、発明者らは、出鋼量100tの直流型の電気炉30を用いて実験を行った。先ず65トンのスクラップを電気炉30に装入し、そのスクラップを3~4割ほど溶解した後、炉体32の中心上方から35トンの溶銑を電気炉30に装入した。炉体32の上部の操作口から水冷式のランス12を炉体32内へ挿入し、脱珪、脱炭、脱燐に必要な酸素を溶銑及び未溶解のスクラップへ送酸速度6000Nm/hrで吹き付け、送酸後の溶鋼成分がC:0.1%以下、P:0.015%以下となるようにした。処理中には、ランス12の先端12Aから浴面38A(みかけの溶銑表面)間距離を0.1~3.0mの範囲で適宜制御した。
【0026】
そして、上記プロセスにおいて、電極34の損耗の抑制と炉体32の周壁部32Aの損耗の抑制とを両立させるための条件を鋭意検討した。その結果、以下の条件が必要であると考えた。
【0027】
(電極34の損耗を抑制するための条件)
先ず、電極34の損耗を抑制するための条件について説明する。図3には、ランス12と、炉体32の周壁部32Aと電極34との位置関係が示されており、図4は、図3の平面図である。本検討では、便宜上、上述の二つの先端ノズル孔16(図1参照)のうち一方の先端ノズル孔16のみに着目する。また、本検討では、ガスの噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った最短距離をDとする。また、図4に示されるように、電極34の半径をrとする。また、噴流18の中心軸A3と電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離が最短となる噴流18の中心軸A3上の点をEとする。さらに、点Eを中心とする水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとする。火点中心Oが電極34よりもランス12と反対側にある場合(図4参照)には、点Eが火点中心Oよりもランス13側に位置する。この場合、点Eを中心とする水平方向への噴流18の拡がり形状は、円形状である。一方、火点中心Oが電極34よりもランス12側にある場合には、点Eが火点中心Oと一致する(後述する図5参照)。この場合、点Eを中心とする水平方向への噴流18の拡がり形状は、火点中心Oを中心とする水平方向への噴流18の拡がり形状と同じであるので、楕円形状である。そして、電極34の損耗を抑制するためには、式(1)を満たすように、先端ノズル孔16からガスを噴出すれば良いと考えた。この式(1)を満たせば、噴流18が電極34に接触せず、電極34の損耗を抑制できることが可能である。
>r+r・・・(1)
【0028】
(炉体32の周壁部32Aの損耗を抑制するための条件)
続いて、炉体32の周壁部32Aの損耗を抑制するための条件について説明する。本検討では、噴流18の中心軸A3と溶融金属材料38の浴面38Aとの交点である火点中心Oと、炉体32の周壁部32Aとの水平方向に沿った最短距離をDとする。また、噴流18が溶融金属材料38の浴面38Aと接触したときの火点中心をOとする。さらに、火点中心Oを中心とする水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとする。火点中心Oを中心とする水平方向への噴流18の拡がり形状は、楕円形状である。そして、炉体32の周壁部32Aの損耗を抑制するためには、式(2)を満たすように、先端ノズル孔16からガスを噴出すれば良いと考えた。この式(2)を満たせば、噴流18が炉体32の周壁部32Aに接触せず、炉体32の周壁部32Aの損耗を抑制できることが可能である。
>r・・・(2)
【0029】
なお、上記条件における各用語については、以下のように定義する。
(A)「噴流18」は、先端ノズル孔16の中心軸A1を延長した直線と平行に直進するものとする。
(B)「水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径r」は、火点中心Oが電極34よりもランス12と反対側にある場合(図4参照)には、点Eを中心とする水平方向への噴流18の拡がり形状は、円形状であるので、噴流18の直進距離をLとすると、L×tanθで求められるものとする。ただし、θは、噴流18の拡がり角度であり、ここでは、15°とする。一方、火点中心Oが電極34よりもランス12側にある場合(図5参照)には、点Eを中心とする水平方向への噴流18の拡がり形状は、楕円形状である。この場合、最短距離Dは電極34の中心軸A4と火点中心Oとの距離に相当する。また、半径rは火点中心Oと電極34の中心軸A4とを結んだ線分と楕円の交点と火点中心Oとの距離に相当する。最短距離D’は、噴流18の中心軸A3と電極34の中心軸A4との最短距離に相当する。この場合に、「水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径r」は、以下の式で求められるものとする。

ただし、aは楕円の長辺の長さ[m]、LHはランス高さ[m]、bは楕円の短辺の長さ[m]、φは噴流18の中心軸A3と最短距離Dに沿った線分が成す角度である。
(C)「水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径r」は、噴流18の直進距離をLとした場合に、L×tanθ/sin(β-θ)で求められるものとする。ただし、θは、噴流18の拡がり角度であり、ここでは、15°とする。
(D)「溶融金属材料38の浴面38A」は、1処理毎の平均総装入量の固体金属材料36及び溶融金属材料38が全て溶融したと仮定したときの静止溶融材料面とする。
(E)「溶融金属材料38の浴面38Aの形状」は、炉体32の周壁部32Aの内径Rと同じ円とする。
【0030】
ところで、上述の定義において、噴流18の拡がり角度θを15°に設定しているが、この根拠は、次の通りである。すなわち、噴流18の拡がり角度θは、流体可視化実験による調査で8~12°と言われている。しかし、噴流18の拡がり角度θを12°と見積もって試験したところ、電極34の損耗が見られた。このことから噴流18の熱影響部は噴流18の拡がり範囲よりやや外側まで影響することが分かった。そこで、実験的に影響範囲を見積もったところ、θ=15°であったので、これを採用することとする。
【0031】
続いて、本発明の一実施形態に係るガス噴出方法の一例について説明する。
【0032】
本実施形態に係るガス噴出方法(電気炉におけるガス噴出方法)は、上述のガス噴出装置10を用いて実行される。本例では、便宜上、上述の二つの先端ノズル孔16(図1参照)のうち一方の先端ノズル孔16のみに着目するが、他方の先端ノズル孔16についても、以下と同様の手法によりガスを噴出すれば良い。また、先端ノズル孔16の数が三つ以上である場合においても、各先端ノズル孔16について、以下と同様の要領でガスを噴出すれば良い。
【0033】
本実施形態に係るガス噴出方法では、図3図4に示されるように、先ず、ガス噴出装置10において、三次元座標を次の通り設定する。すなわち、浴面38Aの中心を三次元座標の原点(0,0,0)とする。Z軸は、鉛直方向上側をプラス側とする。Y軸は、ランス12の中心軸A2を浴面38Aに投影した線と平行な軸とし、ランス12から遠ざかる側をプラス側とする。X軸は、鉛直方向上側から見てY軸と直交する軸とし、ランス12から遠ざかる側をプラス側とする。
【0034】
ランス12は、ランス12の軸方向に沿って昇降する。先端ノズル孔16の上限の座標を(X,Y,Z)とし、先端ノズル孔16の下限の座標を(X,Y,Z)とする。先端ノズル孔16の座標は、先端ノズル孔16の開口中心を基準にする。ランス12は、Z軸(鉛直方向)に対して傾斜しているため、ランス12の昇降に伴い、Y座標は変化する。電極34の中心軸A4は、Z軸と一致する。ノズル角α(図4参照)は、先端ノズル孔16の中心軸A1を延長した直線がYZ平面となす角度[deg]に相当し、ノズル角β(図3参照)は、先端ノズル孔16の中心軸A1を延長した直線がXY平面となす角度[deg]に相当する。
【0035】
そして、以上のように、三次元座標を設定すると、上述の式(1)、(2)に示される条件が決定される。すなわち、先端ノズル孔16の高さH(図3に示されるように、浴面38Aから先端ノズル孔16の開口中心までの高さ)を任意の位置に設定することにより、先端ノズル孔16の座標(X,Y,Z)が決定する。この先端ノズル孔16の座標(X,Y,Z)と、ノズル角α(図4参照)と、ノズル角β(図3参照)より、火点中心Oの座標(x,y,z)が決定する。
【0036】
また、先端ノズル孔16の座標(X,Y,Z)と、火点中心Oの座標(x,y,z)とから、先端ノズル孔16から噴出される噴流18の中心軸A3の方向ベクトルが決定し、これにより、噴流18の中心軸A3の直線ベクトル式が求まる。また、電極34の中心軸A4の方向ベクトルは、(0,0,1)であり、原点を通るので、電極34の中心軸A4の直線ベクトル式は自明である。そして、この二つの直線ベクトル式より、噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った最短距離Dが求まる。なお、本例において、電極34の中心軸A4は、浴面38Aの中心を通るが、浴面38Aの中心から外れた位置を通っても良い。
【0037】
また、水平方向に沿った最短距離Dを求める前段階で噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離が最短となる噴流18の中心軸A3上の点Eの座標(X,Y,Z)が求まる。これにより、先端ノズル孔16の座標(X,Y,Z)と、点Eの座標(X,Y,Z)との間の距離Lが求まり、この距離Lを用いることで、式(3)より、点Eを中心とする水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径rが求まる。
=L×tanθ・・・(3)
【0038】
そして、設備条件として予め求まる電極34の半径rと、水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径rを合せることで、上述の式(1)に示されるように、電極34の損耗を抑制するための条件が決定する。すなわち、最短距離Dを、半径rと半径rを合せた長さよりも長くすれば良い。
【0039】
また、先端ノズル孔16の座標(X,Y,Z)と、火点中心Oの座標(x,y,z)との間の距離Lが求まり、この距離Lより、火点中心Oを中心とする水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径rが求まる。これにより、火点中心Oの座標(x,y,z)と、浴面38Aの中心の座標(0,0,0)と、設備条件として予め求まる炉体32の周壁部32Aの内径Rとから、火点中心Oと炉体32の周壁部32Aとの水平方向に沿った最短距離D(原点を中心とする半径RのXY平面上の円と、XY平面上の火点中心Oとの水平方向に沿った最短距離)が求まる。
【0040】
そして、上述の水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径rと、水平方向に沿った最短距離Dとで、上述の式(2)に示されるように、炉体32の周壁部32Aの損耗を抑制するための条件が決定する。すなわち、最短距離Dを、半径rよりも長くすれば良い。
【0041】
本実施形態に係るガス噴出装置10では、上述の式(1)、(2)に示される条件を満たすように、ノズル角α(図4参照)と、ノズル角β(図3参照)と、点Eを中心とする水平方向への噴流の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径rと、火点中心Oを中心とする水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径rが設定される。つまり、上述の式(1)、(2)に示される条件を満たすノズル角α、βになるように、先端ノズル孔16の向きが設定される。また、上述の式(1)、(2)に示される条件を満たす半径r及び半径rが得られるように、先端ノズル孔16の開口面積や先端ノズル孔16から噴射されるガスの流量等が設定される。
【0042】
そして、本実施形態に係るガス噴出方法では、上述の式(1)、(2)に示される条件を同時に満たすように、先端ノズル孔16からガスが噴出される。
【0043】
ここで、図5図9には、ランス12の高さと、ノズル角αと、ノズル角βを異ならせた場合の複数の例が示されている。図5図9に示される例において、その他の条件(先端ノズル孔16の開口面積や先端ノズル孔16から噴射されるガスの流量等)は同一である。
【0044】
先ず、式(1)を満たさない例について説明する。図8には、比較例として、式(1)を満たさない場合の一例が示されている。つまり、図8に示される例では、D<r+rとなっている。このようになっていると、噴流18が電極34に接触し、噴流18の熱影響により、電極34が損耗する虞がある。
【0045】
次に、式(2)を満たさない例について説明する。図9には、比較例として、式(2)を満たさない場合の一例が示されている。つまり、図9に示される例では、電極34の損耗を回避するために、噴流18を電極34から遠ざけた位置に噴出しているが、D<rとなっている。このようになっていると、噴流18が炉体32の周壁部32Aに接触することにより、炉体32の周壁部32Aが損耗する虞がある。
【0046】
次に、実施例として、式(1)、(2)を満たす例について説明する。図5に示される例では、図8に示される例に対し、ランス12の高さを下げている。図5に示される例では、平面視で火点中心Oが電極34の中心軸A4よりもランス12側に位置している。これにより、噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離が最短となる噴流18の中心軸A3上の点Eは、火点中心Oと一致している。そして、最短距離Dは、火点中心Oと、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離となっている。図5に示される例では、D>r+r、D>rとなっており、上述の式(1)、(2)に示される条件を同時に満たしている。
【0047】
図6に示される例では、図8に示される例に対し、ノズル角αを拡大している。図6に示される例では、平面視で火点中心Oが電極34の中心軸A4よりも炉体32の周壁部32A側に位置している。図6に示される例では、D>r+r、D>rとなっており、上述の式(1)、(2)に示される条件を同時に満たしている。
【0048】
図7に示される例では、図8に示される例に対し、ノズル角β(図3参照)を拡大している。図7に示される例では、図5に示される例と同様に、平面視で火点中心Oが電極34の中心軸A4よりもランス12側に位置している。これにより、噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離が最短となる噴流18の中心軸A3上の点Eは、火点中心Oと一致している。そして、最短距離Dは、火点中心Oと、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離となっている。図7に示される例では、D>r+r、D>rとなっており、上述の式(1)、(2)に示される条件を同時に満たしている。
【0049】
このように、上述の式(1)で示される条件については、ノズル角αが大きいほど噴流18の中心軸A3が電極34から遠ざかり、これにより、最短距離Dが増加するので、噴流18の影響範囲と電極34とが干渉しにくくなる。また、ランス12の高さが高くなるほど半径rが増加し、噴流18の影響範囲が電極34と干渉しやすくなるが、ノズル角αが大きければ、最短距離Dが増加するので、噴流18の影響範囲と電極34とが干渉しにくくなる。
【0050】
また、上述の式(2)で示される条件については、ノズル角βが大きいほど噴流18の中心軸A3が炉体32の周壁部32Aから遠ざかり、最短距離Dが増加するので、噴流18の影響範囲と炉体32の周壁部32Aとが干渉しにくくなる。また、ランス12の高さが高くなるほど半径rが増加し、噴流18の影響範囲が電極34と干渉しやすくなるが、ノズル角βが大きければ、最短距離Dが増加するので、噴流18の影響範囲と炉体32の周壁部32Aとが干渉しにくくなる。
【0051】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0052】
以上詳述したように、本実施形態によれば、噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った最短距離をDとし、電極34の半径をrとし、噴流18の中心軸A3と、電極34の中心軸A4との水平方向に沿った距離が最短となる噴流18の中心軸A3上の点Eを中心とする水平方向への噴流の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(1)を満たすように、先端ノズル孔16からガスを噴出する。
>r+r・・・(1)
【0053】
これにより、噴流18が電極34に接触することを回避することができるので、電極34の損耗を抑制することができる。
【0054】
また、このように、ガスを噴出する際には、噴流18の中心軸A3と溶融金属材料38の浴面38Aとの交点である火点中心Oと、炉体32の周壁部32Aとの水平方向に沿った最短距離をDとし、噴流18が溶融金属材料38の浴面38Aと接触したときの火点中心Oを中心とする水平方向への噴流18の拡がりにおける最短距離Dに沿った半径をrとした場合に、式(2)を満たすようにする。
>r・・・(2)
【0055】
これにより、噴流18が炉体32の周壁部32Aに接触することを回避することができるので、炉体32の周壁部32Aの損耗を抑制することができる。
【0056】
このように、本実施形態によれば、電極34の損耗の抑制と炉体32の周壁部32Aの損耗の抑制とを両立させることができる。
【0057】
次に、本発明の一実施形態の実施例と比較例とについて行った検証試験について説明する。
【0058】
表1には、本発明の一実施形態の実施例と比較例とについて行った検証試験の結果が示されている。「電極損耗指数」は、「比較例1」を基準とした電極の損耗の割合を表し、「炉壁損耗指数」は、「比較例1」を基準とした炉体の周壁部の損耗の割合を表している。
【0059】
「条件1」は、式(1)で示される条件に相当し、「条件2」は、式(2)で示される条件に相当する。「条件1」及び「条件2」について、「○」は、条件を満たすことを表し、「×」は、条件を満たさないことを表している。また、「評価」は、電極損耗指数及び炉壁損耗指数が所定の値を満たすか否かに相当する。「評価」について、「○」は、電極損耗指数及び炉壁損耗指数が所定の値を満たすことを表し、「×」は、電極損耗指数及び炉壁損耗指数が所定の値を満たさないことを表している。
【0060】
表1に示されるように、「比較例1」~「比較例6」では、「条件1」及び「条件2」のいずれかが「×」となるので、「評価」も「×」となる。一方、「実施例1」~「実施例9」では、「条件1」及び「条件2」がいずれも「○」であるので、「評価」も「○」となる。このように、検証試験の結果から、本発明の一実施形態の有用性を確認することができた。
【0061】
【表1】
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
10 ガス噴出装置
12 ランス
16 先端ノズル孔
18 噴流
30 電気炉
32 炉体
32A 周壁部
34 電極
36 固体金属材料
38 溶融金属材料
38A 浴面
A1 先端ノズル孔の中心軸
A2 ランスの中心軸
A3 噴流の中心軸
A4 電極の中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9