IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】転炉内スラグの流出防止方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20230705BHJP
【FI】
C21C5/46 103D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019081661
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020180311
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】正木 陽介
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184645(JP,A)
【文献】特開昭54-104415(JP,A)
【文献】特開2017-101133(JP,A)
【文献】特開2017-053150(JP,A)
【文献】特開昭60-190505(JP,A)
【文献】特開昭63-079910(JP,A)
【文献】特開2014-025305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、転炉内スラグの流出を防止する方法であって、
出湯中に、融点が1500℃以上である酸化物繊維を、転炉内の溶融スラグ表面に投入することを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法。
【請求項2】
融点が1500℃以上である前記酸化物繊維を、スラグカット栓とともに転炉内の溶融スラグ表面に投入することを特徴とする請求項1に記載の転炉内スラグの流出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉内スラグの流出防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉精錬においては、溶銑、あるいは予備処理を行った溶鉄を転炉内に装入し、上吹きランスあるいは底吹きを併用して酸素ガスを供給して酸化精錬を行い、脱炭、脱りんあるいはその両方の精錬を行う。精錬完了後において、転炉内には精錬を終わった溶鉄(溶鋼)とともに、溶融スラグが形成され、溶融スラグは溶鉄の上部に浮上している。精錬は酸化精錬であり、溶融スラグは酸化性の高い(酸化鉄を多く含有する)スラグである。また脱りん精錬を行う場合は、脱りん精錬の結果として溶融スラグ中のりん含有量が高くなっている。
【0003】
転炉の側面には出湯孔が設けられている。主に精錬が完了した溶鋼を払い出すためのものである。通常は出鋼孔と呼ばれる。精錬完了後、転炉を傾動することにより、出湯孔を経由して溶鉄を下方の取鍋へと払い出す(以下「出湯」という。)。通常は出鋼と呼ばれる。出湯の末期、転炉内の溶鉄が少なくなってくると、溶鉄層の上に形成された溶融スラグが溶鉄に巻き込まれ、溶鉄とともに取鍋内に排出される。上述のように、転炉内の溶融スラグは酸化性が高く、かつ有害不純物であるりんを高い濃度で含有している。従って、取鍋内に溶融スラグが大量に流出すると、スラグの酸化性が高いために鋼の清浄度が損なわれ、またスラグ中のりんが溶鉄に戻る、いわゆる復りん現象が起こるため、好ましくない。
【0004】
転炉からの出湯時にスラグ流出を防止するための代表的な技術として、スラグカットボールが用いられている。スラグカットボールは、直径が出湯孔よりも大きく、スラグと溶鉄の中間比重を持ち、出湯時に溶鉄が出終わり溶融スラグが出始める時期に該スラグカットボールで出湯孔に栓をするものである(非特許文献1参照)。特許文献1に記載のように、この目的を達成するには、ボールの投入位置をほぼ出湯孔の直上とし、かつ出湯末期に投入することが必要とされている。
【0005】
上記スラグカットボールを用いる場合、転炉内の溶湯表面でボールが浮遊する位置が一定でないため、出湯孔の閉止が不安定であるという問題があった。この問題を解決するため、スラグダーツが提案されている。スラグダーツは、特許文献2に記載のように、頭部とこれに連接される足部とを有する。出湯中、足部が溶鋼の流れを受けて、スラグダーツ全体が転炉の出湯口に引き寄せられ、出湯口の上方に待機した状態になる。こうして、安定して出湯口の閉止ができるようになった。
【0006】
スラグダーツの使用に際しては、特許文献3に記載のように、アーム先端にスラグダーツを掴んでいる台車を直線状に延びるレール上で同一方向に走行させて転炉内に持ち込み、転炉からの出湯末期にスラグダーツを転炉の出湯孔内に挿入する。レールは転炉前部の天井部分に設けられている。
【0007】
特許文献4には、転炉脱りんにおけるスラグ混流防止法として、出湯のため傾転した転炉の出湯孔上部に、1~5kg/tonの軽焼ドロマイトまたは生石灰を投入する方法が開示されている。出湯中の出湯孔ならびにその周囲の塩基度のみを局部的に上昇せしめてスラグを固化せしめる、としている。
【0008】
特許文献5には、溶鋼上のスラグにプラスチックを添加してプラスチックをスラグの有する熱によって分解させ、プラスチック分解時の吸熱反応を利用してスラグを冷却し、スラグを固化させる或いはスラグの流出が妨げられるようにスラグの粘性を高める、スラグの流出防止方法が開示されている。プラスチックの添加量が少ないと、スラグに対する吸熱量が少ない上に、燃焼に必要な酸素源の供給の遅れも少なくなり、スラグの固化が阻害される。そのため、プラスチックの添加量は、溶鋼トン当たり1kg以上とすることが好ましいとしている。
【0009】
スラグカットボール、スラグダーツを用いない場合、及び特許文献4、5のスラグ固化材を添加する場合において、出湯末期、出湯孔からの流出が溶鉄から溶融スラグに変化したのを目視で確認し、直ちに転炉を傾転して元の直立位置に戻すことにより、スラグの流出を停止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実公平2-48416号公報
【文献】特開2000-160225号公報
【文献】特開2003-96513号公報
【文献】特開平3-236413号公報
【文献】特開2006-152370号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】第3版鉄鋼便覧 II 製銑・製鋼 第478-479頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
転炉からの出湯時にスラグ流出を防止する方法のうち、前記スラグダーツを用いようとすると、特許文献3に記載のように、転炉建屋の天井部分にレールを設け、スラグダーツを転炉内に誘導することが必要である。転炉、特に小型転炉においては、このようなスラグダーツ投入用の装置を転炉建屋に設置するスペースが存しない場合がある。一方、スラグカットボールを用いる場合、前述のように、転炉内の溶湯表面でボールが浮遊する位置が一定でないため、出湯孔の閉止が不安定であるという問題があった。
【0013】
溶鋼上のスラグにプラスチック等のスラグ固化材を添加してスラグを固化する前記方法では、1~10kg/tの多量の固化材を必要とし、また投入設備が大型となる課題があった。
【0014】
本発明は、スラグダーツ投入装置を設置できないような転炉においても、転炉からの出湯時にスラグ流出を確実に防止できる、転炉内スラグの流出防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、転炉内スラグの流出を防止する方法であって、
出湯中に、融点が1500℃以上である酸化物繊維を、転炉内の溶融スラグ表面に投入することを特徴とする転炉内スラグの流出防止方法。
[2]融点が1500℃以上である前記酸化物繊維を、スラグカット栓とともに転炉内の溶融スラグ表面に投入することを特徴とする請求項1に記載の転炉内スラグの流出防止方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、転炉の出湯孔から溶鉄を取り出す際に、融点が1500℃以上である酸化物繊維を、転炉内の溶融スラグ表面に投入することにより、転炉内スラグの流出を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、転炉からの出湯時にスラグの流動性を低下させることによってスラグ流出を防止する方法として、繊維状の固化材を添加することに着目した。すなわち、一般的にスラグ中に固相粒子が懸濁すると見かけの粘度が増加(流動性低下)するが、固相粒子の形状が繊維状であれば、繊維同士が絡み合い、溶融スラグ中に添加した繊維がスラグと混合した後、繊維の間にスラグが拘束されることで、より少ない添加量でスラグの流動を抑制できるためである。ここで繊維とは、アスペクト比(長さ/直径)が100以上の粒子と定義する。
【0018】
繊維の材質としては、転炉出湯時のスラグからの伝熱によって溶融せず、かつスラグや溶鋼と反応しない必要があることから、1500℃以上の融点を有する酸化物繊維とする必要がある。このような酸化物繊維の素材となる酸化物としては、アルミナ(Al23)(融点:2072℃)、ムライト(3Al23・2SiO2-2Al23・SiO2)(融点:1850℃)、ジルコニア(ZrO2)(融点:2715℃)、石英(SiO2)(融点:1650℃)が好ましい。
【0019】
繊維の長さと直径については限定されないが、繊維のアスペクト比が高い程、繊維同士が絡み合いやすくなるため、アスペクト比はできる限り高い方が好ましい。
【0020】
上記の酸化物繊維は単体で投入しても効果を得られるが、出湯孔に栓をするスラグダーツやスラグカットボールとともに投入すれば、酸化物繊維が出湯孔近傍に到達しやすいため、より高い効果が得られる。以下、スラグカットボールやスラグダーツを含めて、出湯中に転炉内に投入し、溶湯に浮遊し、出湯末期にスラグ流出を防止する係止具を、総称して「スラグカット栓」と呼ぶ。
【0021】
そこで実際に、100ton転炉を用い、転炉からの出湯時に転炉内の溶融スラグ中に酸化物繊維を投入し、スラグカットの効果が得られるか、確認を行った。酸化物繊維として、直径が5μm~30μm、長さが3mm~100mmのチョップドファイバー(短繊維)状のアルミナ酸化物繊維を用いた。
【0022】
転炉からの出湯時に、転炉内の出湯孔直上の位置に向けて、溶融スラグ表面に酸化物繊維を投入したところ、投入した酸化物繊維は溶融スラグ中に良好に混ざり合う状況が確認できた。投入した酸化物繊維と溶融スラグとの濡れ性が良好であり、短時間で酸化物繊維が溶融スラグ中に混合したものと推定できる。
出湯中の出湯流を目視で観察し、溶融スラグの流出が確認できた時点で転炉を傾転してスラグ流出を停止させた。
【0023】
酸化物繊維の添加量を0.05~0.5kg/tonの範囲とし、取鍋に流出したスラグ量との関係を評価したところ、酸化物繊維を添加しない場合と比較し、取鍋流出スラグ量が低減し、酸化物繊維の添加量が多くなるほど取鍋流出スラグ量が減少することが明らかとなった。添加する酸化物繊維の繊維同士が絡み合い、溶融スラグ中に添加した酸化物繊維がスラグと混合した後、繊維の間にスラグが拘束されることで、より少ない添加量でスラグの流動を抑制できたものと考えられる。
【0024】
また、同じ転炉を用い、転炉からの出湯時に転炉内の溶融スラグ中にスラグカットボールを投入するとともに酸化物繊維を投入し、酸化物繊維投入による効果が得られるか、確認を行った。酸化物繊維の種類と添加量は上記と同様とした。出湯孔から流出する溶融物が溶鋼から溶融スラグに変化するタイミングで、スラグカットボールが出湯孔を閉塞することで、取鍋に流出する溶融スラグの量を低減することができる。酸化物繊維の投入量と取鍋に流出したスラグ量との関係を評価したところ、酸化物繊維を添加しない場合と比較し、取鍋流出スラグ量が低減し、酸化物繊維の添加量が多くなるほど取鍋流出スラグ量が減少することが明らかとなった。即ち、スラグカットボールの投入と酸化物繊維の投入を併用する場合においても、酸化物繊維を添加する効果が確認できた。
【0025】
以上のとおり、融点が1500℃以上である酸化物繊維を、スラグカットボールとともに転炉内の溶融スラグ表面に投入することにより、溶融スラグ流出を有効に低減することができる。スラグダーツが利用できる転炉であれば、融点が1500℃以上である酸化物繊維を、スラグダーツとともに転炉内の溶融スラグ表面に投入することとしてもよい。
【実施例
【0026】
使用回数が1500回以上である転炉で、溶銑100tonを脱炭吹錬した。吹錬終了後の溶融スラグは、塩基度(CaO/SiO2)が3.5であり、その容量は、71kg/溶鋼tonであり、溶鋼の温度は、1650℃であった。その後、炉体を傾動して出湯を開始した。
【0027】
[実施例1]においては、直径が5μm~30μm、長さが3mm~100mmのチョップドファイバー(短繊維)状の酸化物繊維を液相状態の溶融スラグに向けてシュートから投入した。[実施例2]においては、実施例1と同じ酸化物繊維とスラグカットボールを液相状態の溶融スラグに向けてシュートから投入した。
【0028】
実施例1、実施例2いずれも、酸化物繊維(及びスラグカットボール)を転炉内に投入してから出湯が完了するまでの時間は、約2分であった。また、比較のため、酸化物繊維を添加しない条件、または平均粒径5mmの生石灰の粒子を添加する条件でも操業を行った。
【0029】
かかる操業において、溶融スラグの流出量を以下の方法により算出した。すなわち、取鍋内のスラグの厚さを定規により測定し、取鍋の断面積とスラグの密度を乗じて、溶融スラグの流出量を算出した。さらに、算出した流出量を溶鋼量で割って、溶鋼1ton当たりの溶融スラグ流出量を求めた。さらに、それぞれの期間について100回試験を行い、各期間における溶融スラグの流出量の平均値を求めた。
【0030】
[実施例1](酸化物繊維を投入)
使用した酸化物繊維の種類と添加量、得られた溶融スラグ流出量を表1に示す。比較例である、酸化物繊維も生石灰粒子も添加しない試験No.1においては6.0kg/tの多量のスラグが流出した。試験No.2~4においては、生石灰粒子の投入量増加に伴い、スラグ流出量は低減しているが、多量の投入量を要している。本発明例である試験No.5~16においては、酸化物繊維の投入にともない、生石灰粒子よりも少ない投入量でスラグ流出量が低減している。
【0031】
【表1】
【0032】
[実施例2](酸化物繊維とスラグカットボールを投入)
酸化物繊維とともに添加するスラグカットボールとして、主要組成が、質量%で、Cr23:40%、Fe23:25%、MgO:10%、SiO2:10%、Al23:10%、残部:不純物である耐火物を用い、内部に鉄芯を装着し、直径220mm、重量26kgのスラグカットボールを用いた。スラグカットボールの比重は溶鋼と溶融スラグの中間の比重を有している。
【0033】
使用した酸化物繊維の種類と添加量、得られた溶融スラグ流出量を表2に示す。酸化物繊維もスラグカットボールも添加しない比較例である試験No.1においては6.0kg/tの多量のスラグが流出した。スラグカットボールのみを投入した比較例である試験No.2においては4.0kg/tにまでスラグ流出量が低減した。本発明例である試験No.3~14においては、スラグカットボールに加えて酸化物繊維を投入することで、さらにスラグ流出量が低減している。
【0034】
【表2】