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特許7307321溶接ベース部材の製造方法、鋼板製継手及び鋼板製継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】溶接ベース部材の製造方法、鋼板製継手及び鋼板製継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/02 20060101AFI20230705BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
B23K9/02 S
B23K9/23 K
B23K9/02 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019089984
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020185574
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 欽也
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-082214(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0105583(KR,A)
【文献】特開平11-104745(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0053316(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/02
B23K 9/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板製の本体、前記本体の一方の板面上で前記本体の長手方向全体に亘って延びると共に前記一方の板面から測った高さが前記本体の厚み以下の線状突起、及び、前記本体の他方の板面上に前記線状突起に対応して形成された線状凹溝を有する溶接ベース部材と、
端面が前記線状突起と対向するように、前記溶接ベース部材の前記一方の板面上に配置された鋼板製の立て部材と、
前記溶接ベース部材及び前記立て部材のうち少なくとも一方の表面を被覆して設けられた亜鉛系めっき層と、
前記溶接ベース部材と前記立て部材とを接合する溶接金属と、
を備える鋼板製継手。
【請求項2】
前記線状突起の高さは、0.2mm以上である、請求項1に記載の鋼板製継手。
【請求項3】
前記線状突起の高さは、1.0mm以下である、請求項1又は2に記載の鋼板製継手。
【請求項4】
前記線状突起は、複数本である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼板製継手。
【請求項5】
前記線状突起の本数は、偶数であり、
複数本の前記線状突起は、前記本体の中心軸を挟んで離間配置されている、請求項4に記載の鋼板製継手。
【請求項6】
鋼板製部材の本体の一方の板面上で前記本体の長手方向全体に亘って延びると共に前記一方の板面から測った高さが前記本体の厚み以下の線状突起を形成するように、前記本体の鋼板の領域の一部を、他方の板面側から前記一方の板面側に向かって前記本体から線状に押し出す工程と、
前記鋼板をロールフォーミングして形鋼を作製する工程と、
を含み、
前記押し出す工程は、前記形鋼を作製する工程が行われるフォーミングラインと同じ前記フォーミングラインで行う、
溶接ベース部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の鋼板製継手を製造する鋼板製継手の製造方法であって、
鋼板製の本体、前記本体の一方の板面上で前記本体の長手方向全体に亘って延びると共に前記一方の板面から測った高さが前記本体の厚み以下の線状突起、及び、前記本体の他方の板面上に前記線状突起に対応して形成された線状凹溝を有する溶接ベース部材、並びに、鋼板製の立て部材を用意する工程であって、前記溶接ベース部材及び前記立て部材のうち少なくとも一方の表面に亜鉛系めっき層が被覆された前記溶接ベース部材及び前記立て部材を用意する工程と、
前記立て部材の端面が前記線状突起と対向するように前記立て部材を前記溶接ベース部材の前記板面の上に配置して、前記溶接ベース部材と前記立て部材との間に隙間を形成する工程と、
前記溶接ベース部材と前記立て部材とを溶接する工程と、
を含む鋼板製継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ベース部材の製造方法、この溶接ベース部材を用いた鋼板製継手及び鋼板製継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、住宅等における建築用部材として、溝形鋼やリップ溝形鋼といった鋼板製部材の軽量形鋼が溶接によって組み合わされた、T字型の鋼板製継手が知られている。また、鋼板製継手を構成する鋼板製部材には、耐食性向上のため、亜鉛系めっきが施された鋼板(亜鉛系めっき鋼板)が使用されることが多い。
【0003】
以下、「亜鉛系めっき層」とは、亜鉛(Zn)を主たる成分として含むめっき層として説明する。また、亜鉛系めっき層に含まれる成分としては、Znのみに限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)等が、鋼板製部材の耐食性を高めるための副成分として、適宜含まれてもよい。また、亜鉛系めっき層に含まれる金属元素は、2種類以上の合金であってもよい。
【0004】
亜鉛系めっき鋼板同士、或いは、亜鉛系めっき鋼板と亜鉛系めっきが施されていない鋼板とを、例えばアーク溶接によって接合する際、熱によって亜鉛系めっきが気化し、めっき蒸気が発生する。発生しためっき蒸気が溶融中の溶接金属に残留すると、凝固した溶接金属に、空孔が形成される場合がある。こうした空孔のうち、溶接金属の表面に開口することなく内部にそのまま存在し、外部から観察できない空孔は「ブローホール」と呼ばれる。また、溶接金属の表面に開口し、外部から観察可能な空孔は、例えば「ピット」等と呼ばれる。
【0005】
溶接金属の空孔は、溶接継手の強度、剛性及び美観を損なうため、気孔欠陥とも呼ばれる。気孔欠陥の対策として、例えば、一定の溶接金属長さに占める、ブローホールの長さの和の比率(ブローホール率)を、30%以下等、設定された基準値に応じて抑制するように溶接することが、好ましいとされる。また、溶接金属の単位長さあたりのピットの個数を制限する方法も存在する。
【0006】
T字型の鋼板製継手を製造する際の気孔欠陥の発生を抑制する方法として、特許文献1には、横部材及び縦部材からなる2個の母材の間に隙間を設けて溶接する技術が開示されている。横部材は、T字の横棒に相当する長尺部材であり、縦部材は、T字の縦棒に相当する長尺部材である。特許文献1の横部材及び縦部材は、亜鉛系めっきが施された溝形鋼であり、縦部材の端部には高さ約1mmの突起が形成される。突起は、縦部材の端部の一部に対して、半抜きせん断加工や圧縮塑性変形加工が施されることによって、外側に点状に突出して形成される。
【0007】
そして、特許文献1では、縦部材の突起が横部材の板面に突き当てられて、2個の溝形鋼の間に約1mmの高さの隙間が形成され、この隙間が形成された状態で溶接が行われることによって、隙間からめっき蒸気が放散される。このため、特許文献1では、めっき蒸気の溶接金属中への侵入が抑制されると共に、仮に侵入しても侵入量が軽減されることによって、継手のブローホール率を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-113641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下、T字の横棒に相当する部材(横部材)を「溶接ベース部材」、T字の縦棒に相当する部材(縦部材)を「立て部材」とそれぞれ称する。ここで、本発明者らは、立て部材として、3mm未満の薄い板厚の鋼板を用意し、この鋼板の端部に特許文献1の加工方法を用いて点状の突起を作製したところ、加工部から亀裂が生じたり加工部が打ち抜かれて脱落したりといった状態が生じた。すなわち、比較的薄い板厚の鋼板製部材に対しては、特許文献1の技術では、隙間を形成するための点状の突起を安定的に作製することが困難であり、気孔欠陥の発生を十分に抑制できない場合があるという問題がある。
【0010】
また、気孔欠陥の発生の抑制以外についても、T字型の鋼板製継手の溶接ベース部材には、曲げ強度や引張強度等に加えて高い剛性が求められる場合がある。例えば、鋼板製継手が建築用部材等であって、溶接ベース部材が梁として使用される場合、梁の上に載置される屋根等の荷重に対する大きな耐力、及び、撓みや捻じり等の変形に対する大きな耐力を具備することが求められる。しかし、こうした剛性を向上する技術に関し、特許文献1には何ら開示されていない。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑み、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手の気孔欠陥の発生を抑制しつつ、更に、剛性を向上させた溶接ベース部材、及びこの溶接ベース部材を用いた鋼板製継手を提供することを目的とする。また、本発明は、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手に用いられる溶接ベース部材であって隙間形成用の突起を安定的に作製できる溶接ベース部材の製造方法、及びこの溶接ベース部材を用いた鋼板製継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様に係る鋼板製継手は、鋼板製の本体、本体の一方の板面上で本体の長手方向全体に亘って延びると共に一方の板面から測った高さが本体の厚み以下の線状突起、及び、本体の他方の板面上に線状突起に対応して形成された線状凹溝を有する溶接ベース部材と、端面が線状突起と対向するように、溶接ベース部材の一方の板面上に配置された鋼板製の立て部材と、溶接ベース部材及び立て部材のうち少なくとも一方の表面を被覆して設けられた亜鉛系めっき層と、溶接ベース部材と立て部材とを接合する溶接金属と、を備える。
【0013】
第1の態様では、線状突起によって溶接ベース部材と立て部材との間に隙間が形成されるため、溶接時に生じる亜鉛系めっき層の蒸気は、隙間から放散され、溶接金属の内部への残留が抑制される、このため、蒸気に起因する溶接金属の気孔欠陥の発生が抑制される。
【0014】
また、線状突起が溶接ベース部材の長手方向全体に亘って設けられていることによって、溶接ベース部材の断面二次モーメントが増加する。このため、溶接ベース部材の板面上に線状突起が設けられておらず、板面が平板状である場合と比べ、曲げ強度や引張強度に加えて剛性を向上でき、撓みや捻じり等に起因する変形を抑制できる。
【0015】
更に、線状突起の高さが、本体の厚み以下である。ここで、線状突起の高さが本体の厚みを超える場合、溶接ベース部材の剛性向上効果が飽和し、線状突起の作製の負担に対して得られる効果が小さくなる。このため、線状突起の高さが本体の厚み以下であることによって、溶接ベース部材の剛性を効率的に向上できる。
【0016】
本発明の第2の態様に係る溶接ベース部材は、鋼板製の本体と、本体の一方の板面上で本体の長手方向全体に亘って延びると共に一方の板面から測った高さが本体の厚み以下の線状突起と、本体の他方の板面上に線状突起に対応して形成された線状凹溝と、を有する。
【0017】
第2の態様では、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手の気孔欠陥の発生を抑制しつつ、更に、剛性を向上させた溶接ベース部材を実現できる。
【0018】
本発明の第3の態様に係る溶接ベース部材の製造方法は、鋼板製部材の本体の一方の板面上で本体の長手方向全体に亘って延びると共に一方の板面から測った高さが本体の厚み以下の線状突起を形成するように、本体の鋼板の領域の一部を、他方の板面側から一方の板面側に向かって本体から線状に押し出す工程を含む。
【0019】
第3の態様では、溶接ベース部材の板面が線状に押し出されるため、立て部材の端面を点状に加工する場合と比べ、隙間形成用の突起を安定的に作製できる。
【0020】
本発明の第4の態様に係る鋼板製継手の製造方法は、鋼板製の本体、本体の一方の板面上で本体の長手方向全体に亘って延びると共に一方の板面から測った高さが本体の厚み以下の線状突起、及び、本体の他方の板面上に線状突起に対応して形成された線状凹溝を有する溶接ベース部材、並びに、鋼板製の立て部材を用意する工程であって、溶接ベース部材及び立て部材のうち少なくとも一方の表面に亜鉛系めっき層が被覆された溶接ベース部材及び立て部材を用意する工程と、立て部材の端面が線状突起と対向するように立て部材を溶接ベース部材の板面の上に配置して、溶接ベース部材と立て部材との間に隙間を形成する工程と、溶接ベース部材と立て部材とを溶接する工程と、を含む。
【0021】
第4の態様では、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手の気孔欠陥の発生を抑制しつつ、更に、溶接ベース部材の剛性が向上された鋼板製継手を製造できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手の気孔欠陥の発生を抑制しつつ、更に、剛性を向上させた溶接ベース部材、及びこの溶接ベース部材を用いた鋼板製継手を提供できる。また、本発明によれば、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手に用いられる溶接ベース部材であって隙間形成用の突起を安定的に作製できる溶接ベース部材の製造方法、及びこの溶接ベース部材を用いた鋼板製継手の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る溶接ベース部材の構成を説明する斜視図である。
図2】本実施形態に係る溶接ベース部材の線状突起の構成を説明する正面図である。
図3】本実施形態に係る溶接ベース部材の板厚に対する高さの比と剛性との関係を説明するグラフ図である。
図4】本実施形態に係る鋼板製継手の構成を説明する斜視図である。
図5】本実施形態に係る溶接ベース部材の製造方法を(A)→(B)→(C)の順に説明する正面図である。
図6】本実施形態に係る鋼板製継手の製造方法を説明する正面図である。
図7図7(A)及び図7(B)は、本実施形態に係る鋼板製継手の製造方法をそれぞれ説明する、図6中の7-7線の位置に対応する断面図である。
図8】線状突起の高さと溶接品質との関係を説明する図である。
図9図9(A)は、本実施形態に係る鋼板製継手の溶接金属のX線透過画像であり、図9(B)は、比較例に係る鋼板製継手の溶接金属のX線透過画像である。
図10図10(A)~図10(C)は、本実施形態の変形例に係る溶接ベース部材の構成をそれぞれ説明する正面図である。
図11図11(A)及び図11(B)は、本実施形態の変形例に係る溶接ベース部材の構成をそれぞれ説明する正面図である。
図12】変形例に係る溶接ベース部材の線状突起の構成を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。但し、図面における厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0025】
<溶接ベース部材の構造>
まず、本実施形態に係る溶接ベース部材10を、図1図4を参照して説明する。溶接ベース部材10は、T字型の鋼板製継手を構成する母材の一つであり、図1に示すように、本体12と、線状突起14と、亜鉛系めっき層と、線状凹溝18とを有する。
【0026】
本体12は、断面がC字状である鋼板製の溝形鋼であり、ウェブ12A及びフランジ12Bを有する。ウェブ12A及びフランジ12Bの厚みはほぼ等しい。本体12は、図1中の左下側から右上側に向かって延びる長尺部材である。本実施形態では、本体12の溝形鋼は、例えば帯鋼等、一枚の鋼板製部材をロールフォーミングすることによって、作製可能である。
【0027】
亜鉛系めっき層は、本体12の長手方向全体に亘って板面を被覆するように、例えば20μm程度の厚みで塗膜されている。本実施形態では、亜鉛系めっき層の図示は省略する。立て部材20の亜鉛系めっき層によって、溶接時にめっき蒸気が生じる。
【0028】
次に、線状突起14及び線状凹溝18について具体的に説明する。線状突起14は、溶接時に、溶接ベース部材10と立て部材20との間に、隙間C(図6参照。)を形成する。線状突起14は、本体12のC字の外側に突出するように、図1中のウェブ12Aの上側の板面上で本体12の長手方向に沿って、長手方向全体に亘って延びている。また、線状凹溝18は、図1中のウェブ12Aの下側の板面上に、線状突起14に対応して形成されている。なお、本発明では、線状突起14は、本体12の表面上で長手方向全体に亘って設けられることは必須ではなく、少なくとも表面の接合部を含んで一定の長さで設けられればよい。
【0029】
本実施形態に係る線状突起14及び線状凹溝18は、ロールフォーミングやプレス加工等の押し出し加工によって、作製される。線状凹溝18の深さDは、作製時の押し出し量(突き出し量)に相当するため、図2に示すように、線状突起14の高さHと線状凹溝18の深さDとは、ほぼ等しい。高さHは、一方の板面(図2中の上面)から上側に向かって測った長さである。このため、線状突起14の部分の肉厚は、本体12の厚みTとほぼ等しい。なお、図2中では、見易さのため、本体12の厚みTに対する線状凹溝18の高さH及び深さDの割合は、実際と異なり大きく誇張して描かれている。また、後で説明する図5図6及び図12中でも同様に、本体12の厚みTに対する線状凹溝18の高さH及び深さDの割合は、大きく描かれている。
【0030】
図1に示したように、本実施形態では、2本の線状突起14が、本体12の中心軸Aを挟んで平行に、対称的に離間配置されている。また、2本の線状突起14は、中心軸Aからほぼ同じ距離で離間している。中心軸Aには、平面視で、溶接ベース部材10の重心が重なる。なお、本発明では、線状突起14の本数は、2本に限定されず、1本、或いは、3本以上の複数本であってよい。線状突起14が少なくとも1本以上設けられれば、隙間Cを形成できる。
【0031】
ここで、本発明者らは、線状突起14の高さHの好適な上限値を設定するため、線状突起14の高さHを異ならせた溶接ベース部材を複数製造し、製造した溶接ベース部材のそれぞれの剛性を測定した。具体的には、長手方向の長さが約300mm、幅方向(図2中の左右方向)の長さが約30mm、厚みTが約2.3mmの溝形鋼を、線状突起14を有さない溶接ベース部材として用意した。
【0032】
そして、この溝形鋼の押し出し加工における押し出し量を5パターンに異ならせ、図1に示したように、ウェブ12Aに2本の線状突起14を設けた溶接ベース部材10をそれぞれ製造した。5パターンの溶接ベース部材10の、本体12の鋼板の厚みTに対する高さHの比H/Tは、0.2、0.4、0.6、0.8及び1.0である。また、線状突起14を有さない溶接ベース部材は、ウェブ12Aが平板状であって、比H/T=0である。
【0033】
そして、比H/T=0の溶接ベース部材10及び5パターンの溶接ベース部材10に対して、剛性を測定するための3点曲げ試験を実施した。3点曲げ試験では、溶接ベース部材10のウェブ12Aを、幅方向に250mmの間隔(スパン)を設けた2点で下側から支持し、ウェブ12Aに上側から、支持位置の2点間の中央に荷重を載荷して、ウェブ12Aが破断する際の最大荷重を測定した。そして、比H/T=0の溶接ベース部材で測定された最大荷重(曲げ強度)に対する、他の5パターンの溶接ベース部材10のそれぞれの最大荷重の百分率を、図3中の縦軸の「強度」として算出した。すなわち、比H/T=0の溶接ベース部材で測定された最大荷重が、100%に相当する。
【0034】
図3に示すように、線状突起14が設けられることによって、溶接ベース部材10の強度は、比H/Tが約0.5辺りまでは、急峻に向上する。曲げ強度と剛性との間には相関があるため、曲げ強度が大きい程、溶接ベース部材10の剛性は高まる。そして、比H/Tが約0.5を超える辺りから、曲げ強度(剛性)の向上の程度は、緩やかになる。そして、比H/Tが1.0、すなわち、線状突起14の高さHが鋼板の厚みTと等しくなると、図3中の軌跡の傾きから分かるように、曲げ強度(剛性)がピークに達する。
【0035】
図3より、線状突起14の高さHが本体12の厚みTを超える場合、溶接ベース部材10の剛性向上効果が飽和し、線状突起14の作製負担に対して得られる効果が小さくなることが分かる。また、この測定結果とは別に、線状突起14の高さHが本体12の厚みTを超える場合、押し出し加工の際、線状凹溝18の深さDが本体12の厚みTを超えて深く押し出される。このため、線状突起14の肉厚が大きく減少し、結果、溶接ベース部材10の剛性が低下する懸念もある。このため、本実施形態では、線状突起14の板面から測った高さHは、本体12の厚みT以下に設定されている。
【0036】
<鋼板製継手の構造>
次に、本実施形態に係る溶接ベース部材10を用いた鋼板製継手を説明する。鋼板製継手100は、図4に示すように、溶接ベース部材10と、立て部材20と、溶接金属30と、を備える。
【0037】
立て部材20は、鋼板製の本体22と、本体22の板面を被覆するように塗膜された亜鉛系めっき層とを有する。本体22は、断面がC字状である鋼板製の溝形鋼であり、図4中の下側から上側に向かって延びる長尺部材である。なお、図4中の立て部材20の上下方向の高さ(長手方向の長さ)は例示であり、本発明では、立て部材20の上下方向の高さは、適宜変更できる。本実施形態では、本体22の溝形鋼は、溶接ベース部材10と同様、一枚の鋼板製部材をロールフォーミングすることによって、作製可能である。
【0038】
亜鉛系めっき層は、溶接ベース部材10の亜鉛系めっき層と等価である。なお、本実施形態では、溶接ベース部材10及び立て部材20のそれぞれの板面上に、亜鉛系めっき層が塗膜されている場合が例示されたが、本発明では、これに限定されない。亜鉛系めっき層は、溶接ベース部材10及び立て部材20のうち少なくとも一方の表面を被覆して設けられればよい。また、溶接ベース部材10と同様に、亜鉛系めっき層は、溶接対象領域である接合部にのみ限定的に設けられてもよい。
【0039】
立て部材20は、端面が、線状突起14と対向するように線状突起14に突き当てられた状態で、溶接ベース部材10の一方の板面上に配置されている。すなわち、溶接の母材となる溶接ベース部材10及び立て部材20は、それぞれの面方向が平行でなく、交差するように配置され、板面どうしが重ならない。
【0040】
また、図4中の鋼板製継手100では、溶接ベース部材10が下側で水平に延びるように配置されると共に、立て部材20が上側で鉛直に延びるように配置された場合が例示されたが、本発明では、これに限定されない。例えば、溶接ベース部材10が上側に配置されると共に、立て部材20が下側に配置されてもよい。また、溶接ベース部材10が鉛直に延びるように配置されると共に、立て部材20が水平に延びるように配置されてもよい。すなわち、T字型の継手構造が実現される限り、溶接ベース部材10及び立て部材20の空間的な配置関係は任意に設定できる。
【0041】
溶接金属30は、溶接時に用いる溶接ワイヤ等の溶接材料と母材の金属が溶融、混合し、この溶融金属が凝固して形成される。そして、溶接金属は溶接ベース部材10と立て部材20とを接合する。図4中に例示した、左上側から右下側に延びる棒状の溶接金属30の場合、左上側が始端であり、右下側が終端である。溶接金属30の終端には、クレーター処理が施されている。また、図4中では溶接ビードの盛り上がりが、波模様で例示されている。
【0042】
(作用効果)
本実施形態では、溶接時、亜鉛系めっき層の蒸気は、線状突起14によって形成された隙間Cから放散され、溶接金属30の内部への残留が抑制されるため、蒸気に起因する溶接金属30の気孔欠陥の発生が抑制される。
【0043】
また、本実施形態では、線状突起14は、溶接ベース部材10の他方の板面側から一方の板面側に向かって、本体12から線状に押し出された鋼板の領域である。溶接ベース部材10の板面を線状に押し出す加工が用いられるため、立て部材20の端面を点状に加工する場合と比べ、線状突起14を安定的に作製できる。
【0044】
また、線状突起14が溶接ベース部材10の長手方向全体に亘って設けられていることによって、溶接ベース部材10の断面二次モーメントが増加する。このため、板面上に線状突起14が設けられておらず、溶接ベース部材10の板面が平板状である場合と比べ、曲げ強度や引張強度等の剛性を向上でき、撓みや捻じり等に起因する変形を抑制できる。
【0045】
また、剛性の向上によって、例えば、線状突起14を有さない溶接ベース部材と比較すると、許容たわみに対する耐荷重を増加することが可能になり、溶接ベース部材10の信頼性が向上する。また、同じ耐荷重の場合、板厚低減によって部材質量を軽減することが可能になるため、材料費を抑制できる。
【0046】
また、本実施形態では、線状突起14が、溶接ベース部材10の長手方向全体に亘って設けられている。このため、溶接の相手方となる立て部材20の突き当て位置を問わず、線状突起14上で任意の位置に立て部材20を配置可能になるので、溶接ベース部材10の汎用性が高く、部材の共通化を促進できる。また、例えば、建築現場における溶接時に、溶接ベース部材10上での立て部材20の溶接位置の変更が急遽生じても、立て部材20の突き当て位置を変更するだけで済み、有利である。
【0047】
更に、図3に示したように、線状突起14の高さHが、剛性向上効果の飽和点と、肉厚減少による剛性低下の影響を考慮して、本体12の厚みT以下に設定されているため、溶接ベース部材10の剛性を効率的に向上できる。また、線状突起14の高さHが本体12の厚みTを超える場合、押し出し加工の際、線状凹溝18の深さが本体12の厚みTを超えて深く押し出されるため、線状突起14の肉厚が大きく減少し、結果、溶接ベース部材10の剛性が低下する懸念もある。
【0048】
また、線状突起14の高さHが本体12の厚みTを超える場合、線状突起14の作製の際、押し出し加工による歪みの影響が大きくなる。具体的には、溶接ベース部材10の表面の線状突起14の周囲において、微細なしわの発生や、亜鉛系めっき層の伸長に伴うめっき厚の減少等が懸念される。しわの発生やめっき厚の減少は、外観品質の低下や耐食性の低下を招く可能性がある。しかし、本実施形態では、線状突起14の高さHが本体12の厚みT以下に制御されることによって、しわの発生やめっき厚の減少を抑制できる。
【0049】
また、本実施形態では、線状突起14が2本であるため、線状突起14が1本の場合と比べ、溶接ベース部材10の剛性を更に向上できる。
【0050】
また、本実施形態では、2本の線状突起14が、本体12の中心軸Aを挟んで、対称的に離間配置されている。このため、例えば、2本の線状突起14が、中心軸Aを挟んだ両側のうち一方の領域に集約して配置されている場合と比べ、溶接ベース部材10の全体の剛性をバランスよく向上できる。また、複数本の線状突起14が中心軸Aを挟んで対称的に離間配置される場合、線状突起14の本数は、2本に限定されず、4本、6本等、他の偶数であってもよい。また、離間配置する線状突起14の間隔が広い程、溶接ベース部材10の剛性をより向上できる。
【0051】
<溶接ベース部材の製造方法>
次に、本実施形態に係る溶接ベース部材10の製造方法を説明する。まず、図5(A)に示すように、一定の厚みTを有する鋼板製部材12Pを用意する。鋼板製部材12Pは、溶接ベース部材10の本体12となる。
【0052】
次に、図5(B)に示すように、鋼板製部材12Pを、ロールフォーミングラインに装入する。本実施形態では、一例として、ロールフォーミングラインの最前段に設けられたフォーミングロール42の周面には、2本の突起部44が、全周に亘って設けられている。突起部44の突き出し高さは、本体12の厚みT以下に設定されている。
【0053】
そして、移動する鋼板製部材12Pに対し、フォーミングロール42を接触させ、鋼板の領域の一部を、突起部44の形状に応じて、上側の板面側から下側の板面側に向かって押し出す。このため、最前段を通過した鋼板製部材12Pには、突起部44を用いた押し出しによって、線状凹溝18及び線状突起14が、鋼板製部材12Pの長手方向に沿って、長手方向全体に亘って延びるように作製される。また、線状突起14の高さHは、本体12の厚みT以下である。なお、本実施形態では、線状突起14の作製に際し、ロール段数が1段のフォーミングロール42が使用された場合が例示されたが、本発明ではこれに限定されず、2段以上のロールが使用されてもよい。
【0054】
次に、線状突起14が作製された鋼板製部材12Pを、同じフォーミングライン中で最前段に後続する次段以降に進入させる。そして、図5(C)に示すように、ロールフォーミングによって、鋼板製部材12Pの幅方向(図5(C)中の左右方向)の両端をそれぞれ上側に段階的に折り曲げて、ウェブ12A及びフランジ12Bを有する溝形鋼を形成する。
【0055】
なお、ウェブ12A及びフランジ12B作製時の折り曲げ加工に用いるフォーミングロールは、折り曲げ加工前に作製された線状突起14に接触して線状突起14を変形させないように調整される。具体的には、例えば、折り曲げ加工用のフォーミングロールの周面で線状突起14に対応する領域に凹部等の退避場所を設け、加工中に周面が線状突起14に接触しないように構成すればよい。
【0056】
次に、ロールフォーミングによって形成された溝形鋼を、例えばカットオフプレス等を用いて所定の長さで切断する。必要に応じて、切断時の位置決め用又は固定用の穴や切り欠き等を、鋼板製部材12Pに予め設けておくことによって、効率的に切断できる。穴や切り欠き等は、打ち抜き加工やプレノッチ加工等によって実現できる。そして、溶接ベース部材10の表面上の所定の領域に、必要に応じて亜鉛系めっき層を塗膜する。以上の工程によって、本実施形態に係る溶接ベース部材10を得ることができる。
【0057】
(作用効果)
本実施形態に係る溶接ベース部材10の製造方法によれば、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手100の気孔欠陥の発生を抑制しつつ、隙間形成用の突起を安定的に作製でき、更に、剛性を向上させた溶接ベース部材を製造できる。
【0058】
また、本実施形態では、押し出し加工によって線状突起14を一度に作製可能になるため、複数の点状の突起を一つ一つ個別に作製する場合と比べ、作業能率が高く、溶接ベース部材の大量生産に好適である。特に、鋼板製継手が、梯子形状や格子形状等、T字型の部分を複数有する場合に、本実施形態は有効である。
【0059】
また、本実施形態では、鋼板製部材12Pを形鋼にロールフォーミングする際のフォーミングラインと同じフォーミングラインで、線状突起14を作製する。一方、プレス等によって形鋼に突起を形成する場合、形鋼をロールフォーミング設備からプレス場等へ移動させる時間や手間が生じる。本実施形態では線状突起14の作製に際し、形鋼を移動させる時間や手間を削減することが可能になるため、生産性が更に高まる。
【0060】
また、本実施形態では、線状突起14の作製と形鋼へのロールフォーミングとの両方が、同じフォーミングラインで実行可能である。一方、プレス等によって突起を形成する場合、ロールフォーミング設備とは異なる、プレス等の専用の加工装置が別途必要になる。また、プレス用の金型の大型化や、或いは、金型の大型化を回避するため、鋼板製部材12Pをプレス前に所定の長さに切断する手間が生じ得る。本実施形態では、線状突起14の作製に際し、専用の加工装置が存在しない場合であっても、形鋼製造時のロールフォーミング設備をそのまま活用でき、加工装置を別途用意する必要がないため、新規の設備投資コストを抑えることができる。
【0061】
なお、本発明では、線状突起14を作製するための方法は、ロールフォーミングに限定されない。例えば、線状突起14の形状に応じた上下の金型を用意し、この金型を用いた一般的なプレス装置によって、線状突起14が作製されてもよい。
【0062】
また、プレス装置を用いた押し出し加工の場合、線状突起14は、長手方向全体に亘って延びる必要はない。線状突起14が板面上に部分的に配置されるように、立て部材20との溶接位置に押し出し位置を限定することによって、加工負担を軽減してもよい。ただし、ロールフォーミング成形の方が、生産性が高い。
【0063】
<鋼板製継手の製造方法>
次に、本実施形態に係る溶接ベース部材10を用いた鋼板製継手100の製造方法を説明する。まず、溶接ベース部材10及び立て部材20を用意する。溶接ベース部材10及び立て部材20のうち、少なくとも一方の表面には、亜鉛系めっき層が被覆される。
【0064】
次に、図6に示すように、立て部材20の端面が線状突起14と対向するように、立て部材20を溶接ベース部材10の板面の上に突き当てて配置し、溶接ベース部材10と立て部材20との間に隙間Cを形成する。
【0065】
次に、図7(A)に示すように、溶接ベース部材10と立て部材20とを溶接する。図7(A)中には、溶接ワイヤ50及び溶接トーチ52を用いたアーク溶接が行われる場合が例示されている。溶接ワイヤ50の先端は、ノズル54の開口部から、溶接ベース部材10と立て部材20との接続部に向かって突き出される。ノズル54の壁の内側ではシールドガスが流れる。例えば、マグ溶接の場合、シールドガスとして二酸化炭素(CO)、もしくはアルゴン(Ar)とCOなどとの混合ガスを使用できる。溶接ワイヤ50は、例えば銅合金製のコンタクトチップ56によって給電される。溶接によって、図7(B)に示すように、コーナーに溶接金属30が形成される。
【0066】
なお、溶接時には、線状突起14の形状が溶接後に変形することなく溶接前の形状が保持されると共に、溶融中の溶接金属30による立て部材20ならび溶接ベース部材10への溶け落ちや穴あき等が生じないよう、溶接条件が調整されることが好ましい。溶接条件は、例えば、立て部材20を線状突起14に突き当てる力や、溶接入熱等である。溶接入熱は、電流、電圧及び速度から得られる熱量であり、下記の式によって得られる。

溶接入熱(kJ/cm)=60×電流(A)×電圧(V)/速度(cm/min)/1000

以上の工程によって、本実施形態に係る鋼板製継手100を得ることができる。
【0067】
(作用効果)
本実施形態に係る鋼板製継手100の製造方法によれば、亜鉛系めっきが施されたT字型の鋼板製継手100の気孔欠陥の発生を抑制しつつ、隙間形成用の突起を安定的に作製でき、更に、溶接ベース部材の剛性を向上できる。
【実施例
【0068】
次に、本発明の実施例に係る鋼板製継手を説明する。図8に示すように、実施例では、線状突起14の高さHが、0mmから約1.0mmまでの11パターンの溶接ベース部材10を用意し、それぞれの溶接ベース部材10を用いて製造した鋼板製継手の溶接金属30の溶接品質を確認した。
【0069】
溶接ベース部材10及び立て部材20として、長手方向の長さが約300mm、幅方向の長さが約100mm、高さ方向の長さが約50mm、厚みTが約2.3mmの溝形鋼を用いた。また、溶接ベース部材のウェブ12Aの板面上には、上記した「溶接ベース部材の製造方法」を用いて、断面が半円状の線状突起14を、間隔40mmで2本作製した。
【0070】
また、溶接ベース部材10及び立て部材20のそれぞれの鋼板の両面には、亜鉛系めっき層として、Zn-11%、Al-3%、Mg-0.2%、Si溶融めっきを、両面合計付着量200g/mで被膜した。また、上記した「溶接ベース部材の製造方法」を用いて、溶接ベース部材10及び立て部材20を、図4に示したように隅肉溶接して、T字型の鋼板製継手を製造した。
【0071】
また、溶接条件は以下のとおりである。
溶接方法:DC-CO
溶接速度:40cm/分
溶接ワイヤ:日鐵住金溶接工業製 YM-28 φ1.2mm
溶接姿勢:下向き水平
溶接トーチ角度:前進角及び後退角…0度、起こし角…45度及び60度の2種類
突き出し長さ:15mm
ワイヤ先端狙い位置:コーナー(起こし角が45度の場合)、及び
コーナーから溶接ベース部材側に0.5mm逃がし
(起こし角が60度の場合)の2種類
溶接電流:約140A
溶接電圧:約23V
【0072】
そして、製造した鋼板製継手のそれぞれについて、溶接ビードの長さ方向中心の50mmの長さの領域に対し、気孔欠陥が占める部分の長さの割合を気孔欠陥率として算出した。結果、実施例では、隙間Cを形成する線状突起14の高さHが0.2mm以上の場合、気孔欠陥率が20%以下であった。図8中では、0.2≦H≦1.0における溶接金属30の溶接品質は、丸(〇)印で表されている。また、形成された溶接ビードのうち、溶接始終端を除いた、50mm程度の範囲の定常部を、X線透過撮影した。図9(A)に示すように、例えば、高さH=0.3mmの場合、溶接金属30の内部には、僅かな気孔しか観察されず、溶接品質が良好であることが分かる。
【0073】
一方、高さHが0.1mmの場合、隙間Cが小さく、亜鉛系めっき層のめっき蒸気が十分に放散されないため、高さH=0mmの場合より気孔は減少したものの、気孔欠陥率は、20%を超えていた。図8中、高さHが0.1mmの場合、溶接品質は、三角(△)印で表されている。
【0074】
また、図9(B)に示すように、高さH=0mmの比較例の場合、溶接金属30の内部には多くの気孔が観察された。比較例の溶接品質は、図8中、バツ(X)印で表されている。なお、図9中に示した溶接金属30は、上記の溶接条件中、ワイヤ先端狙い位置がコーナーであって、起こし角が45度の場合である。
【0075】
また、図示を省略するが、ワイヤ先端狙い位置がコーナーから溶接ベース部材側に0.5mm逃がしであって、起こし角が60度の場合でも、同様に、高さHが0.2mm以上の場合、気孔欠陥率を20%以下に抑制できた。
【0076】
一方、高さHが1.0mmを超える場合、気孔欠陥の発生は抑制できたものの、溶接時、ルート面に溶融金属が流入することから、溶接金属30ののど厚が減少を開始し、溶接品質が低下する懸念があることが分かった。このように、本実施例では、H=1.0mmの値が、高さHの上限値として好適であることが分かった。
【0077】
また、図8及び図9に示した厚みTが約2.3mm(T=2.3mm)の溝形鋼の他、厚みTが異なる7種類の溝形鋼を用いて溶接ベース部材10を製造して、鋼板製継手100の溶接品質を同様に評価した。7種類の溝形鋼のそれぞれの厚みTは、約1.0mm、約1.2mm、約1.6mm、約1.8mm、約2.9mm、約3.2mm及び約4.0mmである。厚みT以外の、溝形鋼の仕様や、溶接電流及び溶接電圧を除く溶接条件等は、T=2.3mmの溝形鋼の場合と同じである。溶接電流及び溶接電圧は板厚に応じて裏抜け及び溶け落ちが生じないよう適切に調整した。
【0078】
結果、7種類の溝形鋼においても、T=2.3mmの溝形鋼の場合と同様に、線状突起14の高さHが、0.2mm以上、1.0mm以下の範囲内で、溶接金属30の溶接品質が良好であることが分かった。すなわち、1.0mm≦T≦4.0mmの範囲内では、溶接ベース部材10の線状突起14の高さHを、0.2mm以上、1.0mm以下に調整することが好ましい。1.0mm≦T≦4.0mmの範囲内の厚みTを有する鋼板製継手100は、建築用部材において、剛性の確保とコスト性から実用性に優れている。
【0079】
<変形例>
次に、図10図12を参照して、本実施形態の変形例を説明する。なお、以下の変形例に係る溶接ベース部材及び鋼板製継手においては、図1図9を用いて説明した溶接ベース部材10及び鋼板製継手100と異なる構成について主に説明する。また、変形例の溶接ベース部材及び鋼板製継手における他の構成については、図1図9に示した溶接ベース部材10及び鋼板製継手100におけるそれぞれ同名の部材と等価であるため、重複説明を省略する。
【0080】
図10(A)に示すように、変形例に係る溶接ベース部材10Aでは、線状突起14A及び線状凹溝18Aは、本体12のウェブ12Aではなく、フランジ12Bに設けられてもよい。線状突起14Aは、溝形鋼のC字の外側に向かって突出する。溶接ベース部材10Aでは、フランジ12Bの板面上に立て部材20を突き当てて配置した際、線状突起14Aによって、めっき蒸気放散用の隙間Cを形成できる。
【0081】
また、図10(B)に示すように、溶接ベース部材10Bは、フランジ12Bにリップが設けられたリップ溝形鋼であってもよい。また、図示を省略するが、溝形鋼以外の形鋼であっても、板面上に線状突起14が作製可能な鋼板製部材である限り、形鋼の種類は限定されない。すなわち、本発明に係る溶接ベース部材としては各種の形鋼を採用できる。
【0082】
また、図10(C)に示すように、ウェブ12Aの板面上に、C字の内側に向かって突出する線状突起14Cが、線状凹溝18Cと共に設けられてもよい。図10(C)中に例示した溶接ベース部材10Cでは、リップ溝形鋼の内側に立て部材20を突き当てて溶接する際、線状突起14Cによって隙間Cを形成できる。なお、内側に突出する線状突起14Cが設けられる形鋼としては、リップ溝形鋼に限定されず、リップを有さない溝形鋼等、他の形鋼も適宜採用できる。
【0083】
また、図11(A)に示すように、ウェブ12Aに、C字の外側に向かって突出する線状突起14と、内側に向かって突出する線状突起14Cとが、両方設けられてもよい。更に、フランジ12Bに、外側に向かって突出する線状突起14Aが設けられてもよい。図11(A)中に例示した溶接ベース部材10Dによれば、ウェブ12A及びフランジ12Bにそれぞれ線状突起14,14A,14Cが設けられているため、汎用性が高められている。
【0084】
また、図11(B)に示すように、溝形鋼としてリップ溝形鋼を採用し、線状突起14,14A,14Cがウェブ12A及びフランジ12Bに設けられることに加え、更に、リップに、C字の外側に向かって突出する線状突起14Eが設けられてもよい。図11(B)中に例示した溶接ベース部材10Eによっても、図11(A)中の溶接ベース部材10Dと同様に、汎用性が高められている。すなわち、線状突起は、隙間Cを形成できる限り、ウェブ、フランジ、リップのそれぞれに対して、任意の位置、個数、向きを組み合わせて実現できる。
【0085】
なお、図12に示すように、外側に突出する線状突起14及び内側に突出する線状突起14Cがウェブ12Aに設けられた溶接ベース部材10Fを用いて溶接する際、溶接金属30(溶接ビード)に、線状凹溝18Cが含まれる場合がある。このため、隙間の最大高さは、線状突起14の高さHと線状凹溝18Cの深さDとの和となる。
【0086】
ここで、溶接金属30の線状凹溝18Cの部分におけるのど厚は、線状凹溝18C以外の部分におけるのど厚と比べ、減少する。このため、溶接ベース部材10Fが、図9中に示した実施例に係る溶接ベース部材と、線状突起14の高さH以外、同じ仕様を有する場合、亜鉛系めっき層の厚みを除く実質的な隙間の高さが、1.0mm以下であることが好ましい。具体的には、例えば、線状突起14の高さH及び線状凹溝18Cの深さDが0.5mmの場合、実質的な隙間の高さが、1.0mm以下になる。
【0087】
<その他の実施形態>
本発明は上記の開示した実施の形態によって説明したが、この説明は、本発明を限定するものではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。例えば、本実施形態では、溶接ベース部材10の板面上に線状突起14が設けられていたが、本発明では、これに限定されず、立て部材20の板面上に線状突起14が設けられてもよい。
【0088】
立て部材20が線状突起14を有することによって、立て部材20が、溶接ベース部材10との接合部から離間した位置において、異なる鋼板製部材との間でT字型の鋼板製継手を構成することが可能になる。すなわち、立て部材20を溶接ベース部材10として使用することができる。
【0089】
更に、同一外形及び同板厚の鋼板製部材を用いて鋼板製継手100を製造する場合、溶接ベース部材10及び立て部材20の両方が線状突起14を有する同じ仕様であることによって、母材として用意する鋼板製部材の種類が集約される。このため、在庫負担を抑制できると共に、在庫管理の効率化を促進できる。
【0090】
また、本実施形態では、隅肉溶接によってT字型の鋼板製継手100が製造される場合が例示されたが、本発明では、これに限定されない。端面が線状突起14に対向するように立て部材20が溶接ベース部材10の板面上に立てて溶接される限り、開先溶接が行われてもよい。
【0091】
また、図1図12中に示した構成を組み合わせて、本発明に係る溶接ベース部材及び鋼板製継手を構成することもできる。本発明は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0092】
10,10A~10F 溶接ベース部材
12 本体
14,14A,14C,14E 線状突起
18,18A,18C 線状凹溝
20 立て部材
30 溶接金属
42 フォーミングロール
100 鋼板製継手
A 中心軸
C 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12