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特許7307337めっき液の製造方法およびそれを用いためっき鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】めっき液の製造方法およびそれを用いためっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20230705BHJP
   C25D 3/22 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C25D3/22 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019178388
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021055139
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福居 康
(72)【発明者】
【氏名】川並 宏毅
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-277799(JP,A)
【文献】特開平02-270998(JP,A)
【文献】特開昭54-159342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/22,15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛源と、塩基性炭酸ジルコニウムと、硫酸源と、水とを混合して、pHが3.0以下のめっき液を得る工程と、
前記めっき液を、前記塩基性炭酸ジルコニウムから生成したコロイド粒子の動的光散乱法で測定されるキュムラント平均粒子径が0.5~500nmとなるように加温してエージングする工程と、
を含み、
前記塩基性炭酸ジルコニウムは、下記式(1)で表され、且つアンモニウムが結合していない、
めっき液の製造方法。
式(1):Zr(OH) (CO ・zH
(式(1)において、0<x≦6、0.1≦y≦4、0≦z≦10である)
【請求項2】
前記亜鉛源は、硫酸亜鉛を含む、
請求項に記載のめっき液の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸源は、硫酸を含む、
請求項1又は2に記載のめっき液の製造方法。
【請求項4】
前記めっき液中のSOとZrのモル比SO/Zrは、1.5以上である、
請求項1~のいずれか一項に記載のめっき液の製造方法。
【請求項5】
前記めっき液のpHは、0.1~3.0である、
請求項1~のいずれか一項に記載のめっき液の製造方法。
【請求項6】
前記めっき液を、40~100℃でエージングする工程をさらに含む、
請求項1~のいずれか一項に記載のめっき液の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のめっき液の製造方法によりめっき液を得る工程と、
前記めっき液を用いて電気めっきを行うことにより、鋼板上にめっき層を形成する工程を含む、
めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記電気めっきは、電流密度10A/dm以上で行う、
請求項に記載のめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液の製造方法、めっき液およびそれを用いためっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、自動車、電機機器、建築などの種々の用途に使用されている。亜鉛系めっき鋼板は、通常、溶融めっき法や電気めっき法で得られる。中でも、電気めっき法では、めっき液の温度を、溶融めっき法よりも低くすることができ、熱歪みによる鋼板の変形を生じにくい点、厚みが薄くても均一なめっき層を形成しやすい点などから、電気めっき法で亜鉛系めっき鋼板を得ることが望まれている。そして、上記用途に用いられる亜鉛系めっき鋼板には、耐食性や加工性などの向上が要求されている。
【0003】
耐食性や加工性などを向上させるために添加される成分として、ジルコニウム(Zr)、および、水酸化ジルコニウムや酸化ジルコニウムなどのジルコニウム酸化物(以下、Zr酸化物ともいう)が知られている。
【0004】
例えば、ジルコニウム源としてZrO粒子を、Al粒子やSiO粒子とともに分散させためっき液を用いて、電気Zn-Mnめっきを行う方法(分散めっき法)が知られている(例えば特許文献1参照)。それにより、これらの粒子が分散したZn-Mnめっき層が得られるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるような分散めっき法では、ZrO粒子は、密度が高く、水溶液中での分散に必要なイオン性や親水基を有しないため、沈降しやすいという問題があった。そのため、所望のめっき層が得られないだけでなく、タンク内の低流速部での堆積、バルブの開閉の障害が発生するおそれがあった。
【0006】
このような問題に対し、電気めっき時にカソード(陰極)となる鋼板のめっき面での水素発生によりpHを上昇させ、そのpH上昇により、めっき液中に溶解しているZr4+などの金属イオンを水酸化物として析出させる方法が提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。当該文献では、硫酸ジルコニウムなどの硫酸塩(可溶性金属塩)を添加しためっき液を用いて、めっき面近傍のpH上昇により、Zrを、ジルコニウムイオン(Zr4+)の状態から水酸化物として析出させることが記載されている。
【0007】
また、めっき液に溶解した金属イオンを水酸化物として析出させやすくする方法として、電気めっき中のpH上昇以外にも、硝酸イオンなどの酸化剤をさらに添加する方法も知られている(例えば特許文献2および3参照)。
【0008】
また、ジルコニウム源として、硫酸ジルコニウム水和物(Zr(SO)・4HO)を含むめっき液を用いて、pHが1または2の条件下でZn-Zr酸化物めっきを行う方法も知られている(例えば非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平2-11799号公報
【文献】特開昭64-00298号公報
【文献】特開平1-272796号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】中野博昭ら、日本金属学会誌, 80(2016), p.151-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の通り、特許文献2および3には、ジルコニウム源として、硫酸ジルコニウムなどの硫酸塩をめっき液に添加することで、Zrイオン(Zr4+)として溶解させることが示されている。しかしながら、実際にZrイオンとして溶解させるためには、めっき液のpHをゼロ以下まで低くしなければならず、鋼板や生成されためっき層の溶解が生じるおそれがあった。
【0012】
また、特許文献2および3に示されるように、電気めっき時にZrイオンを析出させやすくするために、硝酸イオンなどの酸化剤を添加すると、酸化剤が電気めっき時に分解されて、有害な副生成物(例えば亜硝酸イオンやNOxガス、アンモニアガスなど)を発生しやすい。
【0013】
また、非特許文献1では、ジルコニウム源として、硫酸ジルコニウムを用いることから、補給によりめっき液中に硫酸が過剰に蓄積されやすい。めっき液中に硫酸が過剰に蓄積されると、硫酸は粘度が高いことから、めっき液の粘度が上昇し、めっき液の流動性の低下や、めっき液を流動させるために必要な動力が増大しやすい。また、めっき液中に硫酸が過剰に蓄積されると、めっき液のpHも低くなりやすい。それにより、めっき液を流動させながら、これらの硫酸ジルコニウムなどを補給すると、カソード電極の界面に水素イオンが連続的に供給されるため、カソード電極の界面のpHを高めにくくなり、カソードの界面のpH上昇によってZrの水酸化物を析出させることができなかった。すなわち、非特許文献1の方法でも、実際には、硫酸ジルコニウムと硫酸亜鉛とを含むめっき液では、Zr酸化物を含むめっき層を形成することはできなかった。
【0014】
また、硫酸ジルコニウムでめっき液を作製すると、硫酸ジルコニウム自体が強酸性を示すため、pHを所定の範囲に調整するため、多量の水酸化ナトリウムなどのアルカリ薬剤を添加する必要がある。アルカリ薬剤のカチオン(例:Na)と硫酸イオンの塩の溶解度から、アルカリ薬剤の使用量が制限されるため、所定のpHに調整できない場合もあった。
【0015】
さらに、特許文献1~3および非特許文献1で示されるもの以外のジルコニウム源として、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl)やオキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO)も知られている。これらのジルコニウム化合物も、酸性水溶液には溶解するものの、連続的にめっき液に補給した場合は、前述と同様に、塩化物イオン、硝酸イオンがめっき液中に蓄積し、塩酸や硝酸分解生成物などの有害な副生成物を生じやすい。また、金属ジルコニウムをめっき液に溶解させる方法も考えられるが、ジルコニウムは耐酸性が極めて高い金属であることから、めっき液のpHをゼロ付近に低くしても溶解しない。
【0016】
このように、従来の方法では、実際には、有害な副生成物の発生や硫酸成分の過剰な蓄積を抑制しつつ、鋼板上にZr成分(ZrやZr酸化物)を含む亜鉛系めっき層を安定に形成することはできなかった。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有害な副生成物の発生や硫酸成分の過剰な蓄積を抑制しつつ、鋼板上にZr成分を含む亜鉛系めっき層を安定に形成することができるめっき液の製造方法、めっき液およびそれを用いためっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下のめっき液の製造方法、めっき液およびそれを用いためっき鋼板の製造方法に関する。
【0019】
本発明のめっき液の製造方法は、亜鉛源と、塩基性炭酸ジルコニウムと、硫酸源と、水とを混合して、pHが3.0以下のめっき液を得る工程を含む。
【0020】
本発明のめっき液は、本発明のめっき液の製造方法により得られる。
【0021】
本発明のめっき液は、亜鉛源と、2以上のジルコニウム原子同士が水酸基を介して結合した重合体を含むコロイド粒子と、硫酸源と、水とを含み、前記コロイド粒子の動的光散乱法で測定されるキュムラント平均粒子径は、0.5~500nmである。
【0022】
本発明のめっき鋼板の製造方法は、本発明のめっき液を用いて電気めっきを行うことにより、鋼板上にめっき層を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有害な副生成物の発生や硫酸成分の過剰な蓄積を抑制しつつ、鋼板上にZr成分を含む亜鉛系めっき層を安定に形成することができるめっき液の製造方法、めっき液およびそれを用いためっき鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ジルコニウム源として「塩基性炭酸ジルコニウム」を用いることで、当該塩基性炭酸ジルコニウムを所定のコロイド粒子として硫酸水溶液中に良好に分散させることができること、それを用いて電気めっきを行うことで、Zr成分を安定に含有するめっき層を形成できることを見出した。また、塩基性炭酸ジルコニウムは、塩化物イオンや硝酸イオンを構成成分として含まないため、電気めっき時に有害な副生成物を生じにくく、硫酸イオンを構成成分として含まないため、硫酸成分の過剰な蓄積も生じにくいことを見出した。以下、本発明の構成について説明する。
【0025】
1.めっき液の製造方法
本発明のめっき液の製造方法は、1)亜鉛源と、塩基性炭酸ジルコニウムと、硫酸源と、水とを混合して、めっき液を得る工程を含み、2)当該めっき液をエージングする工程をさらに含むことが好ましい。
【0026】
1)の工程について
本工程では、亜鉛源と、塩基性炭酸ジルコニウムと、硫酸源と、水とを混合して、めっき液(水溶液)を得る。
【0027】
(亜鉛源)
亜鉛源は、めっき層の主成分となる亜鉛(金属亜鉛(Zn))または亜鉛化合物である。亜鉛化合物の例には、硫酸亜鉛(ZnSO・7HO、ZnSO、またはZnSO・nHO(n=1~6))、酸化亜鉛(ZnO)、塩化亜鉛((ZnCl)、硝酸亜鉛(Zn(NOまたはZn(NO・6HO)が含まれる。中でも、硫酸源と兼用できるだけでなく、後述するモル比SO/Zrを所定の範囲に調整しやすく、塩基性炭酸ジルコニウムに由来するコロイド粒子を生成しやすくする観点から、亜鉛源は、硫酸亜鉛(ZnSO・7HO、ZnSO、またはZnSO・nHO(n=1~6))を含むことが好ましい。
【0028】
亜鉛源は、一種類であってもよいし、二種類以上であってもよい。例えば、硫酸亜鉛七水和物(ZnSO・7HO)に加えて、めっき層の表面粗度をさらに小さくする観点などから、亜鉛源は、少量の塩化亜鉛(ZnCl)や硝酸亜鉛(Zn(NO)をさらに含んでもよい。
【0029】
(塩基性炭酸ジルコニウム)
塩基性炭酸ジルコニウムは、Zr原子にOHとCOとが配位した化合物、具体的には、2以上のZr原子が、配位したOHを介して結合した重合体(Zr-OH結合体)であって、当該重合体を構成するZr原子にCOやOHがさらに配位したものでありうる。塩基性炭酸ジルコニウムは、水和物であってもよい。
【0030】
具体的には、塩基性炭酸ジルコニウムは、下記式(1)で表される組成を有しうる。
式(1):Zr(OH)(CO・zH
式(1)において、0<x≦6、0.1≦y≦4、0≦z≦10である。なお、x、yおよびzは、それぞれ小数であってもよいし、整数であってもよい。
【0031】
塩基性炭酸ジルコニウムは、ハフニウム(Hf)を少量さらに含んでいてもよい。塩基性炭酸ジルコニウムのHf濃度は、Hf/Zrのモル比で、通常、0.05以下でありうる。塩基性炭酸ジルコニウムにHfが含まれるのは、工業的製造の原料にHfが含まれており、HfとZrとは化学的性質および電気化学的性質がほぼ同じであり、分離が難しいためである。
【0032】
塩基性炭酸ジルコニウムの形態は、特に制限されないが、通常、粒子状でありうる。塩基性炭酸ジルコニウムの平均粒子径は、特に制限されないが、例えば0.5~100μmである。
【0033】
ただし、塩基性炭酸ジルコニウムには、アンモニウム(NH)は配位していないことが好ましい。すなわち、塩基性炭酸ジルコニウムは、炭酸ジルコニウムアンモニウムではないことが好ましい。アンモニウムが配位していると、ジルコニウム酸化物が析出するpH域が過剰に高くなるため、めっき面で水素発生によりpHを上昇させても、ジルコニウム酸化物が析出しにくくなるからである。また、このような水の構成元素以外の他の成分が配位していると、当該成分が電気めっき中の分解により、有害な副生成物の発生やめっき液の汚染、めっき設備への副生成物の付着などを生じる虞がある。また、そのような塩基性炭酸ジルコニウムをめっき液に補給すると、アンモニウムがめっき液中で蓄積して、めっき液の粘度を上昇させやすい。
【0034】
(硫酸源)
硫酸源は、水に添加すると、硫酸イオン(SO 2-)または硫酸水素イオン(HSO 2-)(以下、これらをまとめて「硫酸イオン」という)を生成する化合物である。硫酸イオンは、水溶液中では以下のような平衡反応を生じる。
【化1】
pH2.1以下では、HSO4-が相対的に多く生成され、pH2.1以上ではSO 2-が相対的に多く生成される。
【0035】
硫酸源の例には、硫酸、硫酸塩(硫酸亜鉛、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸錫、硫酸鉄、硫酸バナジウムなど)が含まれる。これらの硫酸塩は、亜鉛源または導電助剤と兼用されうる。
【0036】
硫酸源は、亜鉛源や導電助剤とは別に添加されてもよいし、亜鉛源や導電助剤を兼ねて添加されてもよい。中でも、pHを後述する範囲に調整しやすくする観点では、硫酸源は、硫酸を含むことが好ましい。
【0037】
(他の成分)
また、必要に応じて、上記以外の他の成分をさらに添加してもよい。他の成分の例には、亜鉛と合金化する合金成分や、導電助剤が含まれる。
【0038】
合金成分の例には、Niまたはその化合物、Coまたはその化合物、Snまたはその化合物、Feまたはその化合物が含まれる。
【0039】
導電助剤は、電気めっき時の電圧を下げ、電気めっき電源設備の低コスト化、めっき電力を低減する観点で、添加されうる。導電助剤の種類は、特に制限されないが、その例には、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムが含まれる。中でも、硫酸源と兼用できる観点などから、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩が好ましい。硫酸塩は、前述の硫酸亜鉛と同様に、後述するモル比(SO/Zr)を所定の範囲に調整しやすく、コロイド粒子を生成しやすいためである。
【0040】
(混合)
そして、これらの亜鉛源、塩基性炭酸ジルコニウム、硫酸源、水および必要に応じて他の成分を混合する。
【0041】
硫酸イオンが存在する水溶液に塩基性炭酸ジルコニウムを添加すると、塩基性炭酸ジルコニウムのZr原子に配位しているCOは、硫酸イオンが存在する水溶液中、好ましくは硫酸イオンが存在するpH3.0以下の水溶液中では不安定になり、当該塩基性炭酸ジルコニウムから脱離して二酸化炭素ガスとして、系外へ排出される。
【0042】
すなわち、塩基性炭酸ジルコニウムから、不安定化したCOが脱離する。そして、脱離したCOに代わって水溶液中の硫酸イオンがZr原子に配位(共有結合)するか、または、COの脱離によりイオン化した重合体(Zr-OH重合体)に静電気的に硫酸イオンが付加(イオン結合)するか、または、その両方により、重合体(Zr-OH重合体)である微小なコロイド粒子が安定化すると考えられる。このように、OHを介して2以上のZr原子が結合した重合体が、硫酸イオンによって安定化されたものを、水酸化硫酸Zrコロイド粒子(以下、単に「コロイド粒子」という)という。すなわち、コロイド粒子を構成する重合体は、水に添加する前の塩基性炭酸ジルコニウムを構成する重合体(2以上のZr原子が、配位したOHを介して結合した重合体)の構造を維持していると考えられる。
【0043】
コロイド粒子を構成するZr-OH重合体が2量体である場合、例えば以下のような構造を有すると考えられる。
【化2】
【0044】
このようにして生成したコロイド粒子は正に帯電するため、静電的な反発によりめっき液中で良好に分散しうる。また、正に帯電したコロイド粒子は、電気めっき中は、カソード(陰極)でマイナス電位になる鋼板のめっき面に吸着される。このとき、鋼板のめっき面近傍のめっき液のpHが水素発生により上昇していると、コロイド粒子の表面電荷が奪われるとともに硫酸イオンが脱離し、コロイド粒子を構成するZrがめっき層中に取り込まれる。コロイド粒子を構成するZrは、めっき層中に取り込まれる際に水素(H)が脱離すると、酸化Zrとしてめっき層中に取り込まれる。水素が脱離しない場合は水酸化Zrとしてめっき層に取り込まれる。これらにより、Zr酸化物(酸化Zrや水酸化Zr)または水和したZr酸化物が、めっき層中に取り込まれるようになる。
【0045】
なお、塩基性炭酸ジルコニウムがHfをさらに含む場合、生成するコロイド粒子には、Zr原子の一部がHf原子に置き換わったコロイド粒子も含まれると考えられる。すなわち、塩基性炭酸ジルコニウムがHfを含む場合であっても、Hfを含まない場合と同様に、コロイド粒子を生成する。その結果、得られるめっき層には、Zr酸化物とともにHf酸化物も含まれることがある。
【0046】
そして、塩基性炭酸ジルコニウムのZr原子から脱離したCOは、COガスとして系外に排出されるとともに、塩基性炭酸ジルコニウムのZr原子に配位していたOHやHOは、Zr酸化物の構成元素(OHもしくはO)としてめっき層に取り込まれる。したがって、めっき液中に不要な成分が蓄積しにくいため、めっき液の組成の変化を少なくすることができ、めっき液の成分調整の作業を少なくできる。このように、塩基性炭酸ジルコニウムに由来するコロイド粒子を含むめっき液は、電気めっき時に、めっきに関与しない成分の分解や副生成物の生成を生じにくいため、めっき液の組成が安定する。
【0047】
また、亜鉛源、塩基性炭酸ジルコニウム、硫酸源および水の混合は、めっき液の組成が以下を満たすように行うことが好ましい。
【0048】
すなわち、亜鉛源の添加量は、めっき液中のZn濃度が0.3~1.9mol/Lとなるように設定されることが好ましい。Zn濃度が0.3mol/L以上であると、電気めっきする際に、十分な量のZnイオンをめっき面に供給しやすいため、電気めっきを安定して継続しうる。Zn濃度が1.9mol/L以下であると、めっき液を常温(25℃程度)で保管する場合に、亜鉛源の析出を抑制しやすい。亜鉛源の添加量は、同様の観点から、めっき液中のZn濃度が0.5~1.6mol/Lとなるように設定されることがより好ましい。
【0049】
塩基性炭酸ジルコニウムの添加量は、めっき層に含有させるべき量に応じて設定されうる。具体的には、塩基性炭酸ジルコニウムの添加量は、めっき液中のZr濃度が0.02~1.6mol/Lとなるように設定されることが好ましい。めっき液中のZr濃度が0.02mol/L以上であると、めっき液のSO/Zrのモル比を後述する範囲に調整しやすいだけでなく、コロイド粒子の平均粒子径を適度に大きくしやすく、得られるめっき層中に十分な量のZrを含有させやすい。めっき液中のZr濃度が1.6mol/L以下であると、めっき液のSO/Zrのモル比を後述する範囲に調整しやすいだけでなく、めっき液のゲル化を避けることができる。また、粒子の平均粒子径が大きくなりすぎないため、沈殿を生じにくくしうる。塩基性炭酸ジルコニウムの添加量は、同様の観点から、めっき液中のZr濃度が0.1~1.2mol/Lとなるように設定されることがより好ましい。
【0050】
めっき液中のZn濃度またはZr濃度は、イオン、非イオンに関係なく、添加した亜鉛源または塩基性炭酸ジルコニウムの量に対応するZnまたはZrの体積当たりのモル数である。めっき液中のZn濃度またはZr濃度は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により測定することができる。
【0051】
硫酸源は、めっき液のpHが所定の範囲内になるように添加される。
【0052】
すなわち、めっき液のpHは、生成するコロイド粒子が安定に分散状態で存在しうるとともに、鋼板やめっき層の溶出を抑制しうる範囲であればよく、特に制限されないが、pHが3.0以下、好ましくは0.1~3.0である。めっき液のpHが0.1以上であると、鋼板からのFeの溶出を一層少なくしうるため、耐食性がより高いめっき層が得られやすい。例えば、めっき液に鋼板を浸漬した後、めっきが開始されるまでの間に、鋼板からめっき液にFeが溶出し、Fe2+イオンとなって一緒に電気めっきされてめっき層の耐食性を低下させるのを抑制しうる。一方、pHが3.0以下であると、塩基性炭酸ジルコニウムを水へ溶解させやすく、コロイド粒子を生成させやすい。また、生成するコロイド粒子が凝集または沈降しにくく、めっき液中に安定に分散させやすい。
【0053】
pHを3.0以下にすることが好ましい理由としては、以下の点も挙げられる。すなわち、めっき液に、溶出したFeイオンが含まれていると、めっき液は流動しているため、空気中の酸素との接触は実質上大きく、2価のFeイオン(Fe2+)は、空気中の酸素で酸化されやすい。2価のFeイオン(Fe2+)は、酸素で酸化されると、3価のFeイオン(Fe3+)となる。3価のFeイオン(Fe3+)が多い状態でpHを高くしすぎると、3価Feイオンは、水酸化Fe(Fe(OH))やオキシ水酸化Fe(FeOOH)に変化しやすい。これらは溶解度が低いため、めっき液中で粒子として析出しやすく、析出した水酸化Fe(Fe(OH))やオキシ水酸化Fe(FeOOH)の粒子は、時間の経過とともに凝集してスラッジになりやすい。それにより、生成した水酸化硫酸Zrのコロイド粒子の分散が阻害され、めっき液中に分散できるコロイド粒子の量が実質的に少なくなりめっき層に入る量が低下する虞がある。そして、めっき層にスラッジが付着し、外観の低下や金型成形時の引っ掛かりなどによる成形不良を起こす虞もある。また、スラッジの沈降によるタンク、配管、バルブなどにスラッジが滞積したりして、作業性の低下を生じる虞がある。そのような不都合を生じ難くする観点でも、pHを3.0以下にすることが好ましい。
【0054】
めっき液のpHは、同様の観点から、0.5~2.8であることがより好ましい。めっき液のpHは、ガラス電極と比較電極を一体化した複合電極、または、さらに温度補償電極も一体化した複合電極で測定することができる。
【0055】
めっき液のpHは、例えば硫酸源の添加量や、硫酸イオンを含む亜鉛源の添加量で調整することができる。
【0056】
コロイド粒子を安定的にめっき液中に分散させるためには、めっき液中のSOとZrのモル比(SO/Zr)が1.5以上となるようにすることが好ましい。SO/Zrが1.5以上であると、コロイド粒子の平均粒子径が過剰に大きくならないため、めっき液中で沈殿または沈降しにくく、めっきに寄与しないコロイド粒子の割合を少なくすることができる。SO/Zrは、同様の理由から、2.0以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。なお、SO/Zrの上限値は、特に制限されないが、めっき液の調製や配合のし易さの観点では、例えば200としうる。
【0057】
なお、SO/ZrにおけるSOは、イオン、非イオンに関係なく、めっき液中にSOとして存在するもの全てが含まれる。したがって、SO/ZrにおけるSOには、硫酸イオン(SO 2-)だけでなく、硫酸水素イオンHSO 2-や、解離していない硫酸亜鉛(ZnSO)などの硫酸塩中のSOも含まれる。解離していない硫酸亜鉛(ZnSO)などの硫酸塩中のSOも含むこととしたのは、めっき液中の硫酸イオンの濃度が低下した時に、当該硫酸塩が解離して硫酸イオンを生成するためである。
【0058】
めっき液のSO/Zrは、めっき液のSO濃度とZr濃度から算出することができる。めっき液中のSO濃度は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により測定することができる。
【0059】
SO/Zrは、硫酸源の添加量や塩基性炭酸ジルコニウムの添加量によって調整することができる。SO/Zrを大きくするためには、例えば、硫酸源の添加量を多くしたり、塩基性炭酸ジルコニウムの添加量を少なくしたりすることが好ましい。
【0060】
また、上記成分に加えて、導電助剤をさらに混合する場合、めっき液中の導電助剤の含有量は、その種類にもよるが、例えば硫酸塩を用いる場合、硫酸濃度で2.9mol/L以下であることが好ましい。硫酸濃度が2.9mol/L以下であると、常温(25℃程度)で保管しても、導電助剤が析出しにくく、休止後の次の電気めっきの際に障害となるのを抑制できる。なお、硫酸濃度とは、イオン、非イオンに関係なく、添加した硫酸塩に対応する硫酸の体積当たりのモル数であり、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により硫酸塩のカチオンの濃度(硫酸ナトリウムであればナトリウムの濃度)を測定し、硫酸塩の化学式によりアニオンとなる硫酸の濃度を求めることができる。
【0061】
なお、本工程では、コロイド粒子が良好に分散した水溶液、すなわち、めっき液を得ることができるが、めっき液中のコロイド粒子をより安定に分散させ、めっき層中にZr成分をより安定に含有させる観点では、2)の工程をさらに行うことが好ましい。
【0062】
2)の工程について
本工程では、上記1)で得られためっき液を、さらにエージングさせる。
【0063】
エージングは、上記1)の工程で生成したコロイド粒子の粒径が、適度に小さくなるように行うことが好ましい。具体的には、コロイド粒子は、配位したOHを介して2以上のZr原子が結合した重合体で構成されるが、時間の経過とともに当該重合体のジルコニウム原子間のOHが脱離してSOと置換して、低分子量化する。その結果、生成直後よりもコロイド粒子が小粒径化するため、より高分散したコロイド粒子を含むめっき液を得ることができる。
【0064】
エージング後のめっき液中のコロイド粒子の平均粒子径は、めっき液中でより安定に分散させることができ、かつめっき層に安定にZr成分を含有させうる程度であればよく、特に制限されない。例えば、めっき層に安定にZr成分を含有させることができ、めっき液を流動させない状態で保管する場合でも、コロイド粒子が沈殿しないようにする観点では、動的光散乱法で測定されるコロイド粒子のキュムラント平均粒子径は、0.5~500nmであることが好ましい。コロイド粒子のキュムラント平均粒子径が0.5nm以上であると、コロイド粒子がめっき層に取り込まれやすく、500nm以下であると、めっき液を流動させなくても、コロイド粒子が沈殿しにくい。コロイド粒子のキュムラント平均粒子径は、同様の観点から、0.7~350nmであることがより好ましい。
【0065】
コロイド粒子のキュムラント平均粒子径は、JIS Z 8828:2019(ISO 22412:2017)に準拠する動的光散乱法により25℃においてキュムラント平均粒子径として測定することができる。なお、JIS Z 8828:2019は、ISO22412:2017に対応する。
【0066】
コロイド粒子の平均粒子径は、上記1)の工程における塩基性炭酸ジルコニウムの添加量や、本工程におけるエージング条件(温度、時間)により調整することができる。コロイド粒子の平均粒子径を小さくするためには、例えば上記1)の工程における塩基性炭酸ジルコニウムの添加量を少なくしたり、本工程におけるエージング温度を高くしたり、エージング時間を長くしたりすることが好ましい。
【0067】
エージングは、室温下で行ってもよいし、加温下で行ってもよい。比較的短時間でコロイド粒子を所望の平均粒子径とする観点では、エージングは、加温下で行うことが好ましい。
【0068】
具体的には、エージング温度は、生成したコロイド粒子の平均粒子径が所定の範囲内となるように設定されればよく、特に制限されないが、例えば40~100℃であることが好ましく、50~80℃であることがより好ましい。
【0069】
エージング時間も、前述と同様に、生成したコロイド粒子の平均粒子径が所定の範囲内となるように設定されればよく、エージング温度にもよるが、例えば40℃でエージングを行う場合は、10~200時間であることが好ましく、50~70℃でエージングを行う場合は0.3~20時間であることが好ましい。
【0070】
エージングは、予めエージング条件(温度・時間)とコロイド粒子の平均粒子径との関係を調べておき、その結果に基づいて、所望の平均粒子径となるまで所定の条件で静置することによって行ってもよいし;所定の間隔おきに、めっき液中のコロイド粒子の平均粒子径を測定しながら、所望の平均粒子径になるまでエージングを続けることによって行ってもよい。
【0071】
2.めっき液
本発明のめっき液は、本発明のめっき液の製造方法で得られるものである。すなわち、本発明のめっき液は、亜鉛源と、塩基性炭酸ジルコニウムと、硫酸源と、水とを混合して得られるものであり、亜鉛源と、ジルコニウム原子同士が水酸基を介して結合した重合体を含むコロイド粒子と、硫酸源と、水とを含む。
【0072】
コロイド粒子は、ジルコニウム原子同士が水酸基を介して結合した重合体で構成されており、塩基性炭酸ジルコニウムに由来するものである。めっき液中のコロイド粒子の平均粒子径は、前述と同様である。めっき液のZn濃度、Zr濃度、SO/ZrおよびpHも、それぞれ前述と同様である。
【0073】
本発明のめっき液は、種々の電気めっきに用いることができるが、好ましくは鋼板の表面に亜鉛系めっきを施す際の亜鉛系めっき液として好ましく用いることができる。
【0074】
3.めっき鋼板の製造方法
本発明のめっき鋼板の製造方法は、本発明のめっき液を用いて、電気めっきを行うことにより、鋼板上にめっき層を形成する工程を含む。
【0075】
具体的には、めっき液中で、カソードである鋼板を、それと対向するように配置されたアノードとの間で通電させることにより、カソードである鋼板(被めっき材)の表面にめっき層を形成する。
【0076】
カソードとなる鋼板の種類は、特に制限されないが、その例には、冷延鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)が含まれる。
【0077】
鋼板の厚みは、用途に応じて適宜設定されうる。例えば、めっき鋼板が電気機器の材料として用いられる場合は、鋼板の厚みは、例えば0.2~4.0mmであることが好ましく、軽量化の観点から、0.2~2.0mmであることが好ましい。
【0078】
アノードとしては、例えば酸化イリジウムをコーティングしたチタン電極が用いられる。
【0079】
電気めっきは、鋼板(カソード)を固定して行ってもよいし(バッチ式)、鋼板(カソード)を搬送しながら行ってもよい(連続式)。また、電気めっきは、鋼板(カソード)とアノードとの間にめっき液を連続的に供給しながら行ってもよいし、供給せずに行ってもよい。さらに、電気めっきのセル構造は、横型(水平型)であってもよいし、縦型であってもよいし、ラジアル型であってもよい。
【0080】
電気めっきは、めっき液を流動させることなく行ってもよいし、流動させながら行ってもよい。特にバッチ方式で電気めっきを行う場合、消費されるZnイオン、コロイド粒子、その他成分を鋼板のめっき面近傍に連続的に供給しやすくする観点では、めっき液を流動させることが好ましい。
【0081】
具体的には、めっき液の鋼板に対する流速(相対速度)は、0.1~10m/sであることが好ましい。めっき液の相対速度が10m/s以下であると、めっき面近傍への水素イオンの供給速度が過剰になりにくいため、めっき面近傍のめっき液のpHを下げにくく、Zr酸化物の析出が阻害されにくい。また、相対流速が0.1m/s以上であると、めっき成分などをめっき面に安定に供給しうる。なお、鋼板とアノードとの間にめっき液が供給されるようなめっき装置では、電気めっき時に消費されるZn、コロイド粒子、その他成分はめっき面に連続的に供給されるため、めっき液と鋼板の相対速度はゼロでもよい。
【0082】
めっき液の温度は、鋼板のめっき面にめっき層を安定に形成できる温度であればよく、特に制限されないが、20~80℃であることが好ましい。めっき液の温度が20℃以上であると、Znイオンやコロイド粒子などのめっき成分のめっき面への拡散が低下しにくく、これらが十分に供給されやすいため、電気めっきを安定に継続しやすい。めっき液の温度が80℃以下であると、めっき液からの水の蒸発が過剰になりにくいため、めっき成分の濃化によるめっき液の組成変化が生じにくく、めっきの品質が安定しやすい。めっき液の温度は、同様の理由から、40~70℃であることがより好ましい。
【0083】
電流密度は、特に制限されないが、電気めっき時の鋼板のめっき面のpHをZnと同時にZr酸化物を析出させやすくする観点、すなわち、水素発生によりめっき面のpHを上昇させやすくする観点では、10A/dm以上であることが好ましい。電流密度が10A/dm以上であると、鋼板のめっき面での水素の発生量が十分に増えるため、実質的にめっき面の直上でpHが適度に上昇しやすい。電流密度の上限は、pH上昇が大きくなりすぎることによる水酸化Znの発生、めっき層中への水酸化Znの混入、およびそれによる外観悪化を抑制する観点から、例えば500A/dm以下としうる。
【0084】
4.めっき鋼板
本発明のめっき鋼板の製造方法により得られるめっき鋼板は、鋼板と、その少なくとも一方の面に形成されためっき層とを有する。
【0085】
めっき層は、Znと、Zrまたはその酸化物とを含む。
【0086】
めっき層におけるZrまたはその酸化物に由来するZrの含有量は、特に制限されないが、めっき層に対して0.1~30質量%であることが好ましく、0.2~15質量%であることがより好ましい。
【0087】
めっき層におけるZrの含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)や一次線を電子線としたエネルギー分散型X線分光法により測定することができる。
【0088】
めっき層は、上記以外の他の成分、例えば合金成分や、導電助剤に由来する成分(Na、Al、Mgなど)をさらに含んでもよい。他の成分の合計含有量は、めっき層に対して好ましくは5質量%以下でありうる。
【0089】
めっき層の付着量は、特に制限されないが、片面あたり1~60g/mであることが好ましく、2~30g/mであることがより好ましい。
【0090】
めっき鋼板は、例えば自動車、電気機器、建材、塗装鋼板の原板として好ましく用いることができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0092】
1.めっき液の構成成分
(1)ジルコニウム源(Zr源)
塩基性炭酸Zr:塩基性炭酸ジルコニウム(Zr(OH)x(CO)y・zHO、x=3.1、y=0.45、z=7.2)、Zr(Hf)O換算濃度40.3質量%、Hf/Zr=0.01(モル比)、平均粒子径12μm
水酸化Zr:水和水酸化ジルコニウム、Zr(OH)・n(HO)、Zr(Hf)O換算濃度29.8質量%、平均粒子径3.0μm
酸化Zr:酸化ジルコニウム(ZrO)、平均粒子径1.6μm
硫酸Zr:硫酸ジルコニウム四水和物(Zr(SO・4HO)、平均粒子径2.4μm
【0093】
Zr源の組成および平均粒子径は、それぞれ以下の方法で測定した。
【0094】
(Zr、Hf濃度)
Zr源のZr、Hfの濃度は、EDTA滴定法により測定し、Zr(Hf)O濃度に換算した。
【0095】
(塩基性炭酸Zrの組成)
1)まず、希硫酸に溶解した時のCO発生による重量減少からCO量(M1)を測定した。このとき、塩基性炭酸Zr溶解後も、希硫酸のpHはゼロ以下になるようにした。
2)次いで、塩基性炭酸Zrを600℃に加熱し、HOとCOを脱離させたときの重量減少から、HO量とCO量の合計量(M2)を測定した。
3)上記2)で得られた合計量(M2)から、上記1)で得られた希硫酸で求めたCO量(M1)を差し引いて、HO量を算出した。これらの量比とモル質量から、組成(式(1)のx、y、z)を特定した。
【0096】
(平均粒子径)
ジルコニウム源の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した。分散媒は、エタノールとした。メジアン径を平均粒子径とした。
【0097】
(2)亜鉛源(Zn源)
硫酸Zn:硫酸亜鉛 七水和物(ZnSO・7HO、平均粒子径0.4mm)
金属Zn:金属亜鉛(Zn)、粒子径3~7mm
酸化Zn:酸化亜鉛(ZnO)、平均粒子径1μm
【0098】
(3)硫酸源
硫酸(HSO)、硫酸亜鉛七水和物(亜鉛源で使用した場合)、導電助剤(導電助剤を使用した場合)
【0099】
(4)導電助剤
硫酸Na:硫酸ナトリウム無水物、NaSO、固体(粉体)
硫酸Al:硫酸アルミニウム水和物、Al(SO)・nHO、Al濃度:Al換算で16.5質量%、固体(粉体)
硫酸Mg:硫酸マグネシウム七水和物、MgSO・7HO、固体(粉体)
【0100】
(5)pH調整剤
硫酸、水酸化ナトリウム
【0101】
2.めっき液の作製および評価
<試験1~2、4~6および10>
表1に示される組成およびpHとなるように、各成分およびイオン交換水を表1に示される温度で混合して、めっき液を得た(混合工程)。
【0102】
<試験3、7~9および11~31>
表1に示される組成およびpHとなるように、各成分およびイオン交換水を表1に示される温度で混合した(混合工程)。pHは、硫酸の添加量で調整した。次いで、得られた水溶液を、表1に示される温度で2時間静置させて(エージング工程)、めっき液とした。
【0103】
<評価>
得られためっき液のpH、コロイド粒子の平均粒子径およびその分散性を、以下の方法で測定した。
【0104】
(pH)
得られためっき液のpHをガラス電極、比較電極および温度補償電極の3つを一体化した複合電極を用いて、エージング後に表1に記載の混合時と同じ温度で測定した。
【0105】
(コロイド粒子の平均粒子径)
得られためっき液のコロイド粒子の平均粒子径(キュムラント平均粒子径)を、動的散乱法(JIS Z 8828)で測定した。測定は25℃で行った。
【0106】
(分散性)
得られためっき液を容器に入れて室温で48時間保管した後、コロイド粒子の分散性を目視観察した。そして、以下の基準で分散性を評価した。
◎:添加したZr源が全て沈殿することなく安定して分散し、めっき液を容器に入れて100mm高さにした場合に、容器の底の状態が判別できる。加えて、コロイド粒子の平均粒子径が10nm以下となり、めっき液の白濁度が、下記○の基準よりも低く、透明度が高い。
○:添加したZr源が全て沈殿することなく安定して分散し、めっき液を容器に入れ100mm高さにした場合に、白濁度が低く、容器の底の状態が判別できる。
△:添加したZr源が沈殿することなく安定して分散するが、めっき液を容器に入れ100mm高さにした場合に、白濁により容器の底の状態を判別できない。
×:添加したZr源の一部でも沈降もしくは凝集する。
【0107】
試験1~31で得られためっき液の作製条件および評価結果を、表1に示す。なお、表1におけるZr、Zn、Na、Al、Mg、SOの濃度は、各成分の添加量をモル濃度(mol/L)として記載した。すなわち、各成分について、分散しているかどうかに関係なく、各成分の添加モル数を溶液の体積で割った数値を記載した。亜鉛源および導電助剤は、いずれも全て溶解した。
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示されるように、ジルコニウム源として塩基性炭酸Zrを用いた試験1~26(本発明)では、室温でも良好に分散することがわかる。
【0110】
特に、SO/Zrのモル比が1.5以上であると、平均粒子径が小さくなり、一層分散性が高まることがわかる(試験9と11の対比)。
【0111】
また、pHが3.0以下であると分散し、pHが2.8以下であると粒子径が低下し、分散性が一層高まることがわかる(試験19と20の対比)。
【0112】
また、混合温度およびエージング温度を高くするほど、分散性が高くなることがわかる(試験5、12および16の対比)。
【0113】
これに対し、ジルコニウム源として水酸化Zrを用いた試験27~29(比較例)では、60℃に加熱しても分散せず、SO/Zrを23付近まで高くしても、分散しない(沈降する)ことがわかる。また、ジルコニウム源として酸化Zrを用いた試験30~31では、SO/Zrを3600付近まで高くしても、分散しない(沈降する)ことがわかる。
【0114】
<試験32~35>
表2に示される組成およびpHとなるように、各成分およびイオン交換水を混合(混合工程)およびエージングした以外は試験1と同様にしてめっき液を得た。なお、試験35では、Zr源かつ硫酸源として(強酸性の)硫酸Zrを用いたため、pHの調整は、水酸化Naの添加により行った。
【0115】
<評価>
試験32~35で得られためっき液のpH、コロイド粒子の平均粒子径およびその分散性を、前述と同様の方法で測定した。
【0116】
試験32~35で得られためっき液の作製条件および評価結果を、表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
表2に示されるように、前述と同様、ジルコニウム源として塩基性炭酸Zrを用いた試験32~34(本発明)では、モル比(SO/Zr)が低くても、分散性が高いことがわかる。
【0119】
これに対し、ジルコニウム源として硫酸Zrを用いた試験35(比較例)では、コロイド粒子そのものがなく、粒径が計測されなかった。
【0120】
3.めっき鋼板の作製
<試験36~44>
(前処理)
鋼板として、焼鈍済みの冷延鋼板(低炭素アルミキルド鋼)を準備した。これを、2.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液中で電解脱脂した後、その後5質量%の硫酸水溶液中で酸洗した。
【0121】
(電気めっき)
そして、めっき装置として、矩形管を縦方向に配置し、その中にアノードとそれに対向するように鋼板をセット可能なタイプの縦型のめっき装置を準備した。そして、表3に示されるめっき液8Lを、上記めっき装置の矩形の管内に循環(投入および流動)させた。そして、当該めっき液中に、上記酸洗した鋼板を浸漬させた。アノード電極を、鋼板に対向するように10mmの間隔をおいて配置した。アノード電極としては、チタンに酸化イリジウムをコーティングしたものを用いた。そして、表3に示される電流密度およびめっき液の流速の条件下で、電気めっきを行い、めっき鋼板を得た。めっき付着量は20g/mとした。
【0122】
<評価>
得られためっき層中のZr濃度を、以下の方法で測定した。
【0123】
(Zr濃度)
Zr濃度は、一次線を15keVの電子線としたエネルギー分散型X線分光法により測定した。
【0124】
試験36~44の評価結果を、表3に示す。
【0125】
【表3】
【0126】
表3に示されるように、試験32~34で作製しためっき液(本発明)を用いた試験36~43では、Zr、具体的にはZr酸化物がめっき層に1質量%以上含まれることがわかる。また、電流密度が高くなるにつれ、めっき層中のZr濃度がさらに高くなることがわかる。
【0127】
これに対し、試験35で作製しためっき液(比較例)を用いた試験44では、めっき層に含まれるZrの含有量は0.1質量%未満であり、ほとんど含まれないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、有害な副生成物の発生や硫酸成分の過剰な蓄積を抑制しつつ、鋼板上にZr成分を含む亜鉛系めっき層を安定に形成することができるめっき液の製造方法、めっき液およびそれを用いためっき鋼板の製造方法を提供することができる。