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  • 特許-微粉炭機の運転制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】微粉炭機の運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   F23K 1/00 20060101AFI20230705BHJP
   B02C 23/20 20060101ALI20230705BHJP
   B02C 15/04 20060101ALN20230705BHJP
【FI】
F23K1/00 B
B02C23/20
B02C15/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019201348
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021076272
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】小谷 裕二
(72)【発明者】
【氏名】板谷 秀範
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327915(JP,A)
【文献】特開2007-061727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K 1/00
B02C 15/04,23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料石炭を微粉炭機で粉砕、乾燥して排出するに際して、
微粉炭機の出口温度が設定値となるように、微粉炭機に供給する熱空気の量及び温度を制御する風量・温度制御系と、
微粉炭機に投入する原料石炭の給炭量が設定値となるように制御する給炭量制御系と、
微粉炭機を通過する空気の差圧を検知して、前記風量・温度制御系及び前記給炭量制御系に指令を送る制御系と、
を有する微粉炭機の運転制御方法であって、
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以下の場合には、微粉炭機に供給する熱空気の温度を熱空気の上限温度-10℃以下、微粉炭機に供給する熱空気の流量を熱空気の上限流量の85%以下とする運転を行い、
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以上で前記規定される値+1.0kPa以下となった場合には、下記a)とb)の少なくともどちらか一方を選択することを特徴とする微粉炭機の運転制御方法。
a)微粉炭機に供給する熱空気の温度を、熱空気の上限温度-10℃超で上限温度以下とする。
b)微粉炭機に供給する熱空気の流量を、熱空気の上限流量の90%超で上限流量以下とする。
【請求項2】
原料石炭を微粉炭機で粉砕、乾燥して排出するに際して、
微粉炭機の出口温度が設定値となるように、微粉炭機に供給する熱空気の量及び温度を制御する風量・温度制御系と、
微粉炭機に投入する原料石炭の給炭量が設定値となるように制御する給炭量制御系と、
微粉炭機を通過する空気の差圧を検知して、前記風量・温度制御系及び前記給炭量制御系に指令を送る制御系と、
を有する微粉炭機の運転制御方法であって、
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以下の場合には、微粉炭機に供給する熱空気の温度を熱空気の上限温度-10℃以下、微粉炭機に供給する熱空気の流量を熱空気の上限流量の85%以下とする運転を行い、
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値+1.0kPaを超えた場合には、請求項1の操作に加えて、給炭量を設定値より低下させるとともに、微粉炭機に供給する熱空気の温度と流量を制御することを特徴とする微粉炭機の運転制御方法。
【請求項3】
前記差圧は、前記微粉炭機の内部の粉砕炭が滞留する部位を通過する空気の差圧であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粉炭機の運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粉炭焚きボイラ火炉(以下、単に「ボイラ」ともいう。)で使用する微粉炭を製造する原料の粉砕設備において、前記原料となる例えば石炭の性状が変動した場合でも、安定的に前記粉砕設備の運転を可能とするための運転制御方法に関するものである。
【0002】
微粉炭の原料は、石炭以外にバイオマス等の非化石燃料も使用される場合があり、必ずしも石炭に限定されないが、主として石炭が使用されるので、本明細書では微粉炭の原料を「原料石炭」、粉砕後に微粉炭焚きボイラ火炉に供給される燃料を「微粉炭」という。また、石炭の粉砕設備は、微粉炭機やミルなどと称されているが、本明細書では「微粉炭機」という。原料石炭を微粉炭とする過程で、微粉炭機内に存在する原料石炭、粉砕炭、微粉炭を総称して単に石炭という場合もある。
【背景技術】
【0003】
微粉炭焚きボイラ火炉には、74μm(200メッシュ)以下の粒径のものが70質量%程度となるように粉砕された微粉炭が燃料として供給され、当該微粉炭を燃焼用空気によって燃焼させることで蒸気を生成し、この蒸気を発電や他の用途に使用している。
【0004】
一方、微粉炭機では、上部から投入された原料石炭をローラ等で粉砕するとともに、下部から導入される熱空気の熱量で粉砕した前記粉砕炭を乾燥している。
【0005】
この微粉炭機に導入する熱空気の温度制御は、微粉炭機の出口側に設置された温度検出器で検出される微粉炭機の出口温度が一定の規定値(露点より高い、例えば80℃)になるように、加熱空気と冷空気の比率を変えるようにフィードバック制御される。
【0006】
また、微粉炭機に投入される原料石炭は、ボイラが必要とする出力負荷を基に設定される石炭量指令に応じ、給炭機のフィーダの回転数を変えることで、実際に給炭機から微粉炭機に投入する単位時間当たりの石炭量(以下、「給炭量」ともいう。)を可変制御している。
【0007】
微粉炭機に投入される原料石炭は、産地や銘柄等により、もともとの原料石炭自体に水分量の違いがあるなど、性質は一定ではない。さらに、産地から輸送された後にはヤード等に貯蔵されるが、このヤードは屋外であることが多く、その場合は雨や雪などの天候や、発塵防止対策としての散水などの影響により、水分量が大きくなる傾向に変動する。従って、微粉炭機に投入される原料石炭は、水分量の変化が問題となる。
【0008】
前記したように、微粉炭機は、微粉炭機の出口温度が一定となるような自動制御方法により運転されているが、微粉炭機に投入される原料石炭の給炭量や水分量が微粉炭機の粉砕、乾燥の処理能力に対して比較的余裕がある場合には、運転制御は安定している。しかしながら、微粉炭機に投入される原料石炭の給炭量や水分量が多くなって微粉炭機の処理能力程度となった場合、すなわち微粉炭機の運転負荷が大きくなった場合には、運転制御が難しくなる。
【0009】
微粉炭機の出口温度を一定の規定値に制御するためには、微粉炭機に投入される原料石炭の給炭量や水分量が多くなるにつれて、微粉炭機の下部から供給する熱空気の熱量を大きくする必要がある。しかしながら、熱空気の熱量(温度や流量)には、設備能力だけではなく、運転上の制約もある。例えば、熱空気の温度が高くなると石炭が発火する虞れがあるため、通常は微粉炭機に供給する熱空気の温度には上限が設定されている。また、熱空気は粉砕された微粉炭をボイラへ搬送する気流として使用されるので、ボイラの運転を安定させる観点から、一定範囲に収められる。これらによって、微粉炭機の処理能力が決定される。
【0010】
微粉炭機の処理能力が微粉炭機の出口温度を一定の規定値に制御するために必要とする能力を下回ると、微粉炭機の出口温度を維持することが困難になる。この場合、微粉炭機の運転負荷を下げることになり、運転負荷の調整が不都合であると、最終的には微粉炭機の内部に石炭の滞留量が多くなりすぎて微粉炭機の機能を果たさなくなり、運転を停止する事態を生じる。
【0011】
特許文献1では、微粉炭機に投入する原料石炭の水分量や温度、原料石炭と熱空気の比率と、必要な熱空気の温度との関係を予め求めておき、実際に微粉炭機に投入する原料石炭の水分量や温度を測定して、予め求めておいた関係に基づいて決められた演算により運転条件を設定する方法が開示されている。
【0012】
この特許文献1に開示された方法によれば、使用する原料石炭の水分量から、微粉炭機の出口温度を一定の規定値に制御するために必要とする微粉炭機に供給する熱空気の温度を事前に予測することができる。従って、微粉炭機の出口温度を一定の規定値に制御できない給炭量や水分値を選択することがないので、微粉炭機の運転停止に至ることを回避することができる。
【0013】
また、特許文献2では、微粉炭機の出口温度を現在粉砕能力信号に変換して、供給燃料量の指令信号と比較し、現在粉砕能力信号が供給燃料量の指令信号より小さい場合には、現在粉砕能力信号の方を比較選択して、微粉炭機の制御信号として供給燃料量を増減させる方法が開示されている。特許文献2の方法によれば、微粉炭機内に燃料が滞留しすぎて運転を停止させないようにすることができる。なお、特許文献2に示された現在粉砕能力は、現在ミル出口温度が変換された指標である。
【0014】
この特許文献2に開示された方法は、現在粉砕能力と供給燃料量の指令の大小を比較できるので、石炭性状(特に水分量)の変動が軽微である通常運転範囲での制御に関しては、ある程度有効な制御方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開昭63-263316号公報
【文献】特開平5-220420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ボイラで所望される発電出力が大きく、従って、原料石炭の給炭量や水分量が多くなり、微粉炭機の処理能力が微粉炭機の出口温度を一定の規定値に制御するために必要とする能力の上限に近い場合、特許文献1に開示されたような事前に予測された運転条件内であっても、原料石炭の性状変動によって微粉炭機の出口温度を一定の規定値に制御できず、微粉炭機の処理能力の低下が大きくなる場合がある。
【0017】
また、微粉炭機の出口温度が一定の規定値以下になった場合は、特許文献2に開示されたような方法によって給炭量を低下させることで運転停止を回避することができる。しかしながら、負荷の大きい運転が常態的になるような操業状態においては、微粉炭機の出口温度が一定の規定値に至らず、給炭量を下げる操作が頻繁になったり、給炭量を下げる操作を行ってから、その後通常の能力に戻るまでに長時間を要する場合がある。
【0018】
さらに、微粉炭機の出口温度を一定の規定値とする操作は、通常は自動で制御される。この自動制御では、実際の出口温度と規定値とに差が生じた場合に供給する熱空気の温度等の応答については、制御系の安定を損なわないような対応としている。これは操業安定性の観点から必要であるが、すべての場合に最適ではなく、特に負荷の大きい運転時に変動を生じた場合については、自動制御の例外となる対応が求められる。
【0019】
本発明は、上記課題を解決して、微粉炭機をより安定的に運転できるようにする制御方法を提案することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の微粉炭機の運転制御方法は、
原料石炭を微粉炭機で粉砕、乾燥して排出するに際して、
微粉炭機の出口温度が設定値となるように、微粉炭機に供給する熱空気の量及び温度を制御する風量・温度制御系と、
微粉炭機に投入する原料石炭の給炭量が設定値となるように制御する給炭量制御系と、
微粉炭機を通過する空気の差圧を検知して、前記風量・温度制御系及び前記給炭量制御系に指令を送る制御系と、
を有する微粉炭機の運転制御方法であって、
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以下の場合には、微粉炭機に供給する熱空気の温度を熱空気の上限温度-10℃以下、微粉炭機に供給する熱空気の流量を熱空気の上限流量の85%以下とする運転を行い、
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以上で前記規定される値+1.0kPa以下となった場合には、下記a)とb)の少なくともどちらか一方を選択することを最も主要な特徴としている。
a)微粉炭機に供給する熱空気の温度を、熱空気の上限温度-10℃超で上限温度以下とする。
b)微粉炭機に供給する熱空気の流量を、熱空気の上限流量の90%超で上限流量以下とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の微粉炭機の運転制御方法によれば、微粉炭機に投入する原料石炭の性状(水分)が変動しても、微粉炭機を安定的に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の微粉炭機の運転制御方法を実施する設備の概略構成図である。
図2】本発明の運転制御方法を実施する微粉炭機の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の課題を解決するために発明者らが行った考察について説明した後、当該考察に基づいて成立させた本発明の運転制御方法について説明する。
【0024】
特許文献2に開示された方法における、現在粉砕能力を判断する指標である微粉炭機の出口温度は、熱空気の温度と量を調節して一定に保とうとする制御目標値でもあるので、設定した運転が可能な範囲では実績値は誤差の範囲で制御目標値と一致している。
【0025】
従って、微粉炭機の出口温度が一定の規定値に届かない場合、目標とする給炭量よりも現在粉砕能力が低下していることを検知することができる。しかしながら、微粉炭機の出口温度が一定の規定値を確保できている範囲では、設備能力に対して十分な余裕があるのか、設備能力の限界に近いのかを判断することはできない。換言すると、給炭量を下げる操作となる前の、運転負荷が上昇して設備能力の限界が近いことを検知するために、微粉炭機の出口温度を視標とすることができない。
【0026】
また、発明者らは、給炭量を減少させる操作だけでなく、微粉炭機の処理能力の低下幅を小さく留めることのできる運転制御を行うために、微粉炭機の特徴に基づいて考察及び調査を行った。
【0027】
微粉炭機は、連続槽型反応装置である。一般に、連続槽型反応装置における成分Aについては、下記(I)式が成り立つ。
Aの蓄積速度=Aの流入速度-Aの流出速度+Aの生成速度…(I)
【0028】
微粉炭機内においてAを原料石炭とすると、流入速度は原料石炭の給炭量、流出速度は微粉炭機から排出される微粉炭の単位時間当たりの排出量(以下、「搬送量」という。)であって、原料石炭が微粉炭機から漏れ出す等の設備的な異常などがない限り、生成速度は0である。
【0029】
ここで、微粉炭機運転中の特定の短時間に着目すると、仮に微粉炭機への給炭量が一定に保たれているとしても、微粉炭機への給炭量と微粉炭機からの搬送量が等しくなっている保証はない。上記(I)式がプラスの場合は石炭が蓄積している、すなわち微粉炭機内で粉砕、乾燥されている粉砕炭の量(以下、「滞留量」という。)が増加しており、上記(I)式がマイナスの場合は逆に微粉炭機内の滞留量は減少している。
【0030】
原料石炭の水分量が上昇して微粉炭機の運転負荷が上がると、石炭の乾燥に時間を要することになる。この場合、搬送量が減少して給炭量を下回り、上記(I)式において、Aの流入速度>Aの流出速度となって、微粉炭機内で石炭が蓄積されることになる。すなわち、これは微粉炭機内の滞留量が増加することを意味する。
【0031】
さらに、搬送量が減少すると、ボイラが必要とする出力負荷を満たさなくなる。自動制御による操業では、給炭量を上昇させる石炭量を指令するので、Aの流入速度(微粉炭機への給炭量)は一定ではなく上昇することになる。Aの流入速度とAの流出速度の差はますます広がるので、(I)式に示されるAの蓄積速度が大きくなる。
【0032】
原料石炭の水分量の上昇が一過的かつ軽微な変動であって、その後、原料石炭の水分量が減少してきた場合は、粉砕、乾燥の運転負荷は下がり、一方で滞留量はやや増加した状態である。従って、粉砕が円滑に実施できれば、給炭量に対して搬送量は増加傾向となり、上記(I)式において、Aの流入速度<Aの流出速度となる。すなわち、微粉炭機内での石炭の蓄積速度がマイナスとなるので、一旦上昇した滞留量は減少に転じて、その後、通常運転範囲に戻すことができる。
【0033】
このように、微粉炭機の運転が原料石炭の給炭量や水分量の変動を吸収できる範囲であれば、一般的な微粉炭機の出口温度による制御を行うことで特に問題はない。
【0034】
発明者らは、原料石炭の水分量が上昇した場合、微粉炭機の出口温度を一定の規定値に維持するために、微粉炭機に入る熱空気の入口温度を高めても、微粉炭機の出口温度を一定の規定値に維持できなくなる過程では、上記(I)式の、Aの流入速度>Aの流出速度が連続又は断続的に発生し、微粉炭機内の滞留量が相当程度増加していると考えた。この場合は、微粉炭機の出口温度が一定の規定値に維持できなくなった段階で給炭量を低下させても、搬送量を急に大きくすることはできないので、通常運転に復帰するまでに長い時間を要することが判明した。
【0035】
発明者らは、これらの知見を基に、以下の考察をなして本発明を完成させた。
A)微粉炭機の出口温度を一定の規定値に維持している段階においても、滞留量が通常の運転状態から一定以上増加した場合には、粉砕、乾燥の処理能力を上げて、滞留量の増加を抑制すべきである。
B)前項の段階で滞留量の増加を抑制するためには、滞留量が増加する前の通常の運転状態においては、粉砕、乾燥を行う際の運転負荷を処理能力上限とはしないで、増加の操作幅を有しておく。
C)滞留量を直接的に計測することは困難であるが、微粉炭機において石炭が滞留している部位の圧力通風損失(差圧)を計測することによって、上記A)B)における滞留量の指標とすることができる。
【0036】
微粉炭機によって粉砕、乾燥を行うことができる原料石炭の給炭量、水分量には上限があり、処理能力、設備限界能力などと称される。言うまでもないことであるが、本発明は、微粉炭機の処理能力を超えて原料石炭を粉砕、乾燥できるものではない。
【0037】
しかしながら、微粉炭機が連続槽型反応装置であって微粉炭機内の粉砕炭の滞留量や水分量が経時変化することや、原料石炭の水分量が把握できない範囲で変動する可能性を有するものであることなどの理由から、処理能力を超える事態が生じうるし、処理能力を超えるまでの粉砕炭の態様は一定ではない。
【0038】
従って、処理能力に近い負荷で微粉炭機を運転している場合に適切な制御を行うことによって、処理能力に至らずに済む場合もある。この場合、処理能力に至ったとしても原料石炭の給炭量、水分量が適正範囲に戻った際に、速やかに通常運転に戻すことができる。
【0039】
本発明は、発明者らの前記知見を基にした前記考察によって成されたもので
原料石炭を微粉炭機で粉砕、乾燥して排出するに際して、
微粉炭機の出口温度が設定値となるように、微粉炭機に供給する熱空気の量及び温度を制御する風量・温度制御系と、
微粉炭機に投入する原料石炭の給炭量が設定値となるように制御する給炭量制御系と、
微粉炭機を通過する空気の差圧を検知して、前記風量・温度制御系及び前記給炭量制御系に指令を送る制御系と、
を有する微粉炭機の運転制御方法であって、以下のように運転することが特徴である。
【0040】
微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以下の場合には、微粉炭機に供給する熱空気の温度を熱空気の上限温度-10℃以下、微粉炭機に供給する熱空気の流量を熱空気の上限流量の85%以下として運転する。
【0041】
そして、微粉炭機を通過する空気の差圧が規定される値以上で前記規定される値+1.0kPa以下となった場合には、下記a)とb)の少なくともどちらか一方を選択する。
a)微粉炭機に供給する熱空気の温度を、熱空気の上限温度-10℃超で上限温度以下とする。
b)微粉炭機に供給する熱空気の流量を、熱空気の上限流量の90%超で上限流量以下とする。
【0042】
以下、本発明の運転制御方法を実施する各装置を図1及び図2に基づいて説明する。
【0043】
微粉炭の原料となる燃料は、貯蔵されているヤードから燃料搬送経路に移送され、例えば3つの燃料バンカ1a~1cへと搬送した後に、これら燃料バンカ1a~1cから給炭機2に排出され、微粉炭機3に投入される。
【0044】
燃料バンカ(以下、単に「バンカ」とも称する。)1a~1cに貯蔵する燃料は主として石炭であるが、その他、バイオマス等の非化石燃料の場合もある。図1に示したように、バンカが複数の場合は、類似した性状等の指標から燃料が適宜グルーピングされる。通常は、瀝青炭、亜瀝青炭など石炭性状の違いによってグループを作成して、同じグループに属する石炭を同じバンカに貯蔵して管理、使用される。バイオマスは石炭と性状が異なる場合が多いので、バイオマスを使用する際にはバイオマスを一つのバンカに貯蔵することが好ましい。
【0045】
微粉炭機3に投入された原料石炭は、微粉炭機3で粉砕、乾燥されて微粉炭となされた後ボイラ4に送られ、ボイラ4の燃料として利用している。
【0046】
微粉炭機3に投入される原料石炭の給炭量は、給炭量制御系によって制御される。
給炭量制御系は、各燃料バンカ1a~1cの石炭を適正な混合割合で切り出すよう、給炭量制御器5からの指令によって各燃料バンカ1a~1cに設けたフィーダ6a~6cの回転数を制御するものである。この場合、各燃料バンカ1a~1cからの切り出し量の合計が微粉炭機3に投入される原料石炭の給炭量となる。
【0047】
給炭量制御器5からの指令の基本的な考え方は、所要の発電量から設定される給炭量となるように、各燃料バンカ1a~1cからの切り出し量を指示することである。例えば、微粉炭機3に投入する原料石炭の水分量が増加する傾向にあり、微粉炭機3の処理能力を超過すると考えられる場合は、水分量の低い原料石炭の切り出し量を増加するなどの調整を行う。更に、微粉炭機3の出口温度が設定値を保持することができないと考えられる場合には、実際の給炭量を所要の発電量から設定される給炭量から減じるような指令を行う。なお、燃料バンカの数が多い場合には、各燃料バンカからの切り出し量の決定は自由度が大きく、連立方程式の解として一義的に決まらないことが通常である。各石炭の在庫量や入荷見込み等を勘案して、切り出しの優先順位などの条件を付すことが必要である。
【0048】
通風機7は、その入口側から給気した大気を出口側から送出する構造で、送出された大気は、温度制御が可能なように2つに分岐され、一方は加熱のために排ガス熱交換器8に送られ、他方は常温のままで使用するために排ガス熱交換器8を経由しないバイパス系統9に送られる。
【0049】
排ガス熱交換器(以下、単に「熱交換器」という。)8は、通風機7から送出された大気が2つに分岐したうちの一方を入口側から受け入れ、加熱源により加熱して出口側から送出する構造である。ボイラ4から排出される高温の排ガスは熱交換器8に導入され、通風機7から送出された大気と熱交換して温度低下した後に煙突から排出される。熱交換器8の内部では、大気とボイラの排ガスが熱交換のみを行い、混合しない構造となっている。
【0050】
前記通風機7から送出された大気は、風量・温度制御系によって風量と温度を制御される。
【0051】
すなわち、熱交換器8は大気を350℃程度に加熱するように設計されている。微粉炭機3に供給する空気の温度は熱交換器8で加熱された加熱空気と冷空気(常温空気)を混合して温度を制御する。本発明で使用する熱交換器8としては、例えば、ユングストローム式として知られる装置が適用される。
【0052】
前記したように、通風機7から送出された大気は2つに分岐し、一方が熱交換器8で加熱された後にバイパス系統9に送られた冷空気と合流するが、合流前のそれぞれの配管に流量制御弁10a,10bを設けている。合流して微粉炭機3に導入される大気(以下、これを「熱空気」という。)の温度Tiと流量Qiを所定の値に制御するように風量・温度制御器11により流量制御弁10a,10bの開度を調整する。本発明において、熱交換器8で加熱された大気の温度は通常は350℃であり、微粉炭機3に供給する熱空気の温度上限は330℃であるため、通常運転時の熱空気の温度上限を320℃としている。
【0053】
また、微粉炭機3の出口に連結された搬送配管部13には温度検出器14が設置されている。そして、微粉炭機3の出口における温度が露点以上(例えば80℃)となるように、風量・温度制御器11を介して流量制御弁10a,10bを操作することで熱空気量とその温度を調整してフィードバック制御を行う。微粉炭機3の出口における温度は制御目標値であるとともに、当該フィードバック制御において目標値に到達しない場合は、微粉炭機3の運転が処理能力を超えていると判断できる指標である。
【0054】
本発明で使用する微粉炭機3は、ボイラ用微粉炭の製造に通常使用される竪型構造の微粉炭機3で、例えば図2に示すように、原料石炭は上方の入口3aから投入されて、ローラ3bと粉砕テーブル3c等の破砕用治具で粉砕される。粉砕された原料石炭は、粉砕炭となって微粉炭機3の下部から供給される熱空気によって乾燥されつつ、微粉炭機3の上方に吹き上げられる。十分に粉砕されていない大きい粒子は、上方に吹き上げることができずに落下して再度前記破砕用治具で粉砕される。粉砕、乾燥された細かい粒子が微粉炭であり、微粉炭は熱空気により上方に吹き上げられて出口3dから排出され、気流に乗ってボイラ4に搬送される。
【0055】
前記風量・温度制御系及び前記給炭量制御系への指令は、微粉炭機3に設置した差圧検出器15によって検出した微粉炭機3を通過する空気の差圧に基づいて行う。すなわち、微粉炭機3の内部における粉砕炭の滞留量は、粉砕炭が滞留する部位の高さ方向の差圧ΔPを指標とする。差圧ΔPの測定位置は特に限定されないが、高圧側は熱空気が導入される高さ位置もしくはその近傍であり、低圧側は粉砕炭が吹き上がったいわゆるフリーボード部であって、粉砕炭の存在比率が3%以下である位置が好ましい。測定した差圧のデータは、制御器12に通知され、差圧データの値によって決まる操業条件が当該制御器12から前記給炭量制御器5及び前記風量・温度制御器11に送られる。
【0056】
微粉炭機3から気流搬送された微粉炭は、ボイラ4の入口から供給される。ボイラ4の入口部分には微粉炭バーナーが設置されており、ボイラ4の内部に供給された微粉炭は、燃焼して蒸気発生用の熱源となる。微粉炭中の酸化物が主体の燃焼残渣は、灰分(ash)としてボイラ4の下部に蓄積した後に排出される。
【0057】
微粉炭機3の安定的な運転とは、所望の発電量に見合う給炭量を供給して、微粉炭機3の出口温度が設定値となる様に、微粉炭機3に供給する熱空気の量及び温度の設定が処理能力の範囲内で制御できている状態であるといえる。
【0058】
最も、前記運転において、微粉炭機に供給される熱空気の量及び温度の設定が処理能力の上限或いは上限に近い状態であった場合に、それ以上に運転負荷を上げる変動があったときには、安定的な運転を継続することができなくなる。
【0059】
本発明では、微粉炭機3に供給する熱空気の量及び温度の設定が処理能力の上限に至る過程において、それを検知すると共に、処理能力の範囲内で変動を吸収しうる微粉炭機3の運転制御方法を提案するものである。なお、本発明の運転制御方法を実施する前記各制御系に関しては、周知の技術を使用することができる。
【0060】
本発明では、微粉炭機3を通過する空気の差圧が規定される値以下の場合には、微粉炭機3に供給する熱空気の温度を熱空気の上限温度-10℃以下、前記熱空気の流量を熱空気の上限流量の85%以下として運転する。以下、この運転を通常運転という。これにより、原料石炭の性状変動、特に水分上昇によって乾燥が遅れて粉砕炭の滞留量が増加し、微粉炭機3を通過する空気の差圧が規定される値を超えることを検知した際に運転負荷が上昇したことを判断することができる。
【0061】
そして、微粉炭機3を通過する空気の差圧が規定される値以上で規定される値+1.0kPa以下となった場合には、下記a)とb)の少なくとも何れか一方を選択する。
a)微粉炭機3に供給する熱空気の温度を、熱空気の上限温度-10℃超で上限温度以下とする。
b)微粉炭機3に供給する熱空気の流量を、熱空気の上限流量の90%超で上限流量以下とする。
【0062】
微粉炭機3を通過する空気の差圧が規定される値以上であって、規定される値+1.0kPa以下であることは、通常運転の条件を外れて運転負荷が上昇していることになる。しかしながら、通常運転条件との乖離は軽微であるため、所定の給炭量を減じることなく、微粉炭機3に供給する熱空気の温度と流量の調整で運転を継続できる状態であることを示している。
【0063】
微粉炭機3に供給する熱空気の温度と流量の調整は、温度を熱空気の上限温度-10℃超で前記上限温度以下とすること、或いは、流量を熱空気の上限流量の90%超で前記上限流量以下とすることの、少なくとも何れか一方を選択することとする。この選択により、微粉炭機3に供給する熱空気の熱量が上昇することによって、粉砕炭の乾燥を促進して、微粉炭機3から排出される微粉炭の搬送量を増大することができるので、原料石炭の一時的な水分上昇などの変動を吸収することができる。
【0064】
また、微粉炭機3を通過する空気の差圧が規定される値+1.0kPaを超えることは、原料石炭の水分上昇に伴い乾燥が遅れることによって、粉砕炭の滞留量の増加がかなり大きくなっていることを意味している。この場合は、前記した何れの操作を行っても粉砕炭の滞留量の増加を解消することは困難である。従って、この場合は、前記した何れかの操作に加えて、給炭量を設定値より低下させるとともに、微粉炭機3の出口温度が設定値となるように微粉炭機3に供給する熱空気の温度と流量を制御する。
【0065】
以下、本発明の運転制御方法の一実施形態を説明する。
水分含有率が12質量%の原料石炭から微粉炭機で微粉炭を製造する際、微粉炭機への原料石炭の供給量を1時間当たり50トン、微粉炭機に供給する熱空気の温度を300℃として運転を実施していた。その際、熱空気の流量は上限の85%であり、微粉炭機の出口温度は80℃に保つ通常運転を実施できていた。このときの微粉炭機の粉砕炭が滞留する部位を通過する空気の差圧は6.0~6.2kPaの範囲であった。
【0066】
原料石炭の入荷構成を考慮して、水分含有率の多い原料石炭の配合量を増やすことになり、水分含有率が2%増加する場合を従来方法と本発明方法で比較した。事前の収支計算では、安定運転範囲内で運転ができる設定であったが、水分含有率の急激な変動により、粉砕炭の滞留量が増加した際の運転に問題が生じた。
【0067】
従来方法では、自動制御にて微粉炭機の出口温度を80℃に保つ運転を継続していた。微粉炭機の出口温度が80℃になったことに対応して熱空気の温度を上げていたが、併行して搬送量が低下して給炭量が増加しており、微粉炭機の粉砕炭が滞留する部位を通過する空気の差圧が運転基準の上限である8.0kPaに至った時点では、熱空気の上限温度(330℃)に達したために、それ以上は熱空気の熱量を上昇することができなかった。微粉炭機の出口温度も65℃まで低下したため、給炭量を45t/hrまで減少させて運転することができた。しかしながら、微粉炭機の出口温度が80℃になるまで回復するのに約半日間を要し、その間は発電出力が10%低下した。
【0068】
これに対して、本発明方法では、微粉炭機の出口温度を80℃に保つ運転を継続していたところ、粉砕炭の滞留量が増加していることを、微粉炭機の粉砕炭が滞留する部位を通過する空気の差圧が6.8kPaとなった時点で検知できたので、熱空気の温度を300℃から上限の330℃に増加させた。さらに、熱空気の流量を上限の90%まで増加させたところ、1時間後に微粉炭機の前記差圧が6.6kPaに低下したため、熱空気の流量を上限の85%に戻した。さらに、2時間後に微粉炭機の前記差圧が6.2kPaに低下するとともに、微粉炭機の出口温度を80℃に保つための熱空気の温度が330℃から320℃に戻ることによって、安定的に通常運転に移行することができた。この間、給炭量は一定であり、発電出力の低下は見られなかった。
【0069】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1a~1c (燃料)バンカ
3 微粉炭機
4 (微粉炭焚き)ボイラ(火炉)
5 給炭量制御器
6a~6c フィーダ
7 通風機
8 (排ガス)熱交換器
10a,10b 流量制御弁
11 風量・温度制御器
12 制御器
14 温度検出器
15 差圧検出器
図1
図2