(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法
(51)【国際特許分類】
B61F 5/52 20060101AFI20230705BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20230705BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
B61F5/52
G01N3/00 Q
B23K31/00 K
B23K31/00 A
(21)【出願番号】P 2019214640
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】亀甲 智
(72)【発明者】
【氏名】谷峰 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修
(72)【発明者】
【氏名】牧野 泰三
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-190242(JP,A)
【文献】特開平10-193164(JP,A)
【文献】特開平5-157545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/52
G01N 3/00
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用の台車枠を構成する部材間に形成されたAs-weld溶接部の疲労強度を評価する方法であって、
ひずみゲージの前記As-weld溶接部に近い方のゲージ端が前記As-weld溶接部の溶接止端部の近傍に位置するように、前記ひずみゲージを前記部材に貼付し、前記台車枠に静荷重試験を実施することで、応力を測定する第1工程と、
前記As-weld溶接部に相当する溶接部が設けられた試験片に、前記第1工程と同等の貼付位置にひずみゲージを貼付し、前記試験片に疲労試験を実施することで、疲労限度を測定する第2工程と、
前記第1工程で測定した前記応力と、前記第2工程で測定した前記疲労限度とを比較することで、前記As-weld溶接部の疲労強度を評価する第3工程と、
を含む鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記台車枠に静荷重試験を実施することに代えて、前記台車枠の有限要素モデルを作成し、前記作成した前記有限要素モデルを用いて前記静荷重試験を模擬した有限要素法解析を実行することで、前記ひずみゲージを貼付する領域に対応する評価領域での応力を算出し、
前記第3工程において、前記台車枠に静荷重試験を実施することで測定した応力と前記第2工程で測定した疲労限度とを比較することに代えて、前記第1工程で算出した前記評価領域での応力と第2工程で測定した前記疲労限度とを比較する、
請求項1に記載の鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法。
【請求項3】
前記第1工程で作成する前記有限要素モデルの隣り合う節点間の距離が8mm以下である、
請求項2に記載の鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法。
【請求項4】
前記第1工程で作成する前記有限要素モデルの前記As-weld溶接部の溶接止端部に対応する領域が角のある形状である、
請求項2又は3に記載の鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法。
【請求項5】
前記第1工程において、前記評価領域での応力を、以下の(1)~(5)の何れかに記載の方法で算出する、
請求項2~4の何れかに記載の鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法。
(1)前記ひずみゲージのゲージ端と節点とが一致するように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点の変位を算出し、前記算出した変位からひずみを算出し、前記算出したひずみにヤング率を乗算した値を前記評価領域での応力として算出する。
(2)前記ひずみゲージのゲージ端と節点とが一致するように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点での最大主応力を算出し、前記算出した最大主応力の平均値を前記評価領域での応力として算出する。
(3)前記評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点での最大主応力を算出し、前記算出した最大主応力の最大値を前記評価領域での応力として算出する。
(4)前記評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点とその隣に位置する節点のうち、前記溶接止端部から遠い方に位置する節点の変位を算出し、前記算出した変位からひずみを算出し、前記算出したひずみにヤング率を乗算した値を前記評価領域での応力として算出する。
(5)前記評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点のひずみと予め求めた前記ひずみゲージの方向の方向余弦とから、前記ひずみゲージの方向のひずみを算出し、前記算出したひずみにヤング率を乗算した値を前記評価領域での応力として算出する。
【請求項6】
前記第2工程において、前記溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径が異なる複数の前記試験片に疲労試験を実施することで、前記曲率半径毎に疲労限度を測定し、
前記第3工程において、前記第1工程で測定又は算出した応力と、前記第2工程で測定した前記疲労限度のうち、前記台車枠のAs-weld溶接部の断面外形の曲率半径に対応する曲率半径についての疲労限度とを比較することで、前記As-weld溶接部の疲労強度を評価する、
請求項1から5の何れかに記載の鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の台車枠を構成する部材間に形成されたAs-weld(アズウェルド)溶接部の疲労強度を精度良く評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車体と該車体を支持する台車とによって構成されている。台車は、台車枠と該台車枠に取り付けられた輪軸とによって構成され、台車枠は、空気ばねを介して車体に接続されている。
【0003】
一般に、上記の鉄道車両用の台車枠は、以下に述べる一連の製造工程によって製造される(例えば、特許文献1参照)。
まず、所定の形状に加工された部材(鋼材)を準備する。次に、準備した部材を組み合わせ、部材同士をガスシールドアーク溶接(例えば、MAG溶接)によって接合し、台車枠を成形する。
【0004】
次に、部材間に形成された溶接部の溶接止端部(部材と溶接部との視認可能な境目)など、高い応力の発生が予想される部位について、溶接部の表面の形状をグラインダーによって手入れする。次に、台車枠に焼鈍処理を施して、残留応力を除去する。次に、台車枠にショットブラストを施して、機械加工を行い、配管座等の小物付加物を溶接し、台車枠に塗装を施す。
上記のような一連の製造工程によって台車枠は製造される。
【0005】
ここで、手入れ前の溶接部の疲労強度が、疲労限度以下であれば、グラインダーによる溶接部の手入れを省略することができる。換言すれば、台車枠を構成する部材間に形成されたAs-weld溶接部(溶接したままの溶接部)を手入れすることなく、そのままの状態にすることができる。手入れを省略できれば、その分だけ台車枠の製造効率を高めることができるため、台車枠に形成されたAs-weld溶接部の疲労強度を、As-weld溶接部の手入れ前や、台車枠の設計段階で、精度良く評価可能な方法が望まれている。
【0006】
台車枠に形成された溶接部の疲労強度を評価する方法に関連して、JIS E4208には、台車枠の溶接部にひずみゲージを貼付し、静荷重試験を実施することで、溶接部に発生する応力を測定する方法が規定されている。この方法により測定した応力と、所定の試験片等を用いた疲労試験により測定した疲労限度とを比較することで、溶接部の疲労強度をある程度評価可能である。
【0007】
しかしながら、上記のJISで規定されているひずみゲージの貼付方法(以下、適宜、「JIS式貼付方法」という)は、As-weld溶接部の溶接止端部の断面外形を、外方に向かって凹の曲率半径3mm程度の円弧状に手入れした後、ゲージ長が5mmの単軸のひずみゲージを、そのゲージ端からゲージ長の1/2~2/3の位置が手入れ後の溶接止端部の円弧の始まりに合うように貼付する方法である。
【0008】
このため、JIS式貼付方法では、溶接止端部の手入れが必要であり、As-weld溶接部の状態で応力を測定することができない。また、本発明者らが検討した結果によれば、JIS式貼付方法では、溶接止端部の手入れ後の断面外形が、実際には理想的な曲率半径3mmの円弧にはならないことや、手入れ後の溶接止端部におけるひずみゲージの貼付位置に差異が生じることに応じて、測定値のばらつきが大きくなる。このため、JIS式貼付方法による測定値を用いるのでは、溶接部の疲労強度を十分な精度で評価できないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来の問題点を解決するためになされたものであり、鉄道車両用の台車枠を構成する部材間に形成されたAs-weld溶接部の疲労強度を精度良く評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは、ひずみゲージのAs-weld溶接部に近い方のゲージ端がAs-weld溶接部の溶接止端部の近傍に位置するように、ひずみゲージをAs-weld溶接部ではなく、部材(台車枠を構成する部材)に貼付することを考えた。そして、この状態で台車枠に静荷重試験を実施して応力を測定すれば、測定される応力は、As-weld溶接部の疲労強度を的確に評価可能であると共に、As-weld溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径の影響を受け難いことを知見した。
【0012】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、鉄道車両用の台車枠を構成する部材間に形成されたAs-weld溶接部の疲労強度を評価する方法であって、以下の第1~第3工程を含む鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法を提供する。
(1)第1工程:ひずみゲージの前記As-weld溶接部に近い方のゲージ端が前記As-weld溶接部の溶接止端部の近傍に位置するように、前記ひずみゲージを前記部材に貼付し、前記台車枠に静荷重試験を実施することで、応力を測定する。
(2)第2工程:前記As-weld溶接部に相当する溶接部が設けられた試験片に、前記第1工程と同等の貼付位置にひずみゲージを貼付し、前記試験片に疲労試験を実施することで、疲労限度を測定する。
(3)第3工程:前記第1工程で測定した前記応力と、前記第2工程で測定した前記疲労限度とを比較することで、前記As-weld溶接部の疲労強度を評価する。
【0013】
本発明によれば、第1工程において、ひずみゲージのAs-weld溶接部に近い方のゲージ端がAs-weld溶接部の溶接止端部の近傍に位置するように、ひずみゲージを部材に貼付することで、本発明者らが知見した通り、静荷重試験を実施することで測定した応力がAs-weld溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径の影響を受け難い。したがい、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部の断面外形が複雑な形状であり、As-weld溶接部毎に個体差があったとしても、精度良く応力を測定可能である。
なお、第1工程において、「ゲージ端がAs-weld溶接部の溶接止端部の近傍に位置する」とは、溶接止端部から(溶接止端部の縁から)ゲージ端までの距離が0~5mmの範囲にあることを意味する。
【0014】
また、本発明によれば、第2工程において、As-weld溶接部に相当する溶接部が設けられた試験片に、第1工程と同等の貼付位置にひずみゲージを貼付し、試験片に疲労試験を実施することで、疲労限度が測定される。
第2工程における「As-weld溶接部に相当する溶接部が設けられた試験片」とは、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部を形成するときと同等の溶接条件で形成した溶接部が手入れされることなくそのまま設けられた試験片を意味する。具体的には、試験片に設けられる溶接部は、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部を形成するときと同じ溶接方式、溶接材料、溶接電流等を用いて形成される。また、試験片に設けられる溶接部によって接合される部材の材質は、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部によって接合される部材の材質と同じものが用いられる。さらに、試験片に設けられる溶接部及びこの溶接部によって接合される部材によって構成される溶接継手の形式は、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部及びこのAs-weld溶接部によって接合される部材によって構成される溶接継手の形式と同じものとされる。
また、第2工程における「第1工程と同等の貼付位置にひずみゲージを貼付」とは、試験片の溶接部に近い方のゲージ端が前記溶接部の溶接止端部の近傍に位置するように、ひずみゲージを試験片の部材(溶接部以外の部分)に貼付することを意味する。
第2工程によれば、試験片の疲労限度を測定することで、試験片の溶接部に相当する台車枠のAs-weld溶接部の疲労限度を評価可能である。
なお、第1工程及び第2工程は、いずれを先に実行してもよい。同等の溶接条件で形成したAs-weld溶接部の疲労強度を評価する台車枠の数が多い場合には、第2工程を先に実行しておき、何れの台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度を評価する際にも、第2工程で測定した同じ疲労限度を用いるようにすることが、評価の効率が高まる点で好ましい。
【0015】
最後に、本発明によれば、第3工程において、第1工程で精度良く測定した応力と、第2工程で測定した疲労限度とを比較することで、台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度を精度良く評価することが可能である。
例えば、第1工程で測定した応力の方が第2工程で測定した疲労限度よりも大きければ、疲労強度が十分ではないと評価し、As-weld溶接部を手入れしたり、溶接条件の再設計を行うことが考えられる。一方、第2工程で測定した疲労限度の方が第1工程で測定した応力よりも大きければ、As-weld溶接部の手入れを省略することが考えられる。
【0016】
好ましくは、前記第1工程において、前記台車枠に静荷重試験を実施することに代えて、前記台車枠の有限要素モデルを作成し、前記作成した前記有限要素モデルを用いて前記静荷重試験を模擬した有限要素法解析を実行することで、前記ひずみゲージを貼付する領域に対応する評価領域での応力を算出し、前記第3工程において、前記台車枠に静荷重試験を実施することで測定した応力と前記第2工程で測定した疲労限度とを比較することに代えて、前記第1工程で算出した前記評価領域での応力と第2工程で測定した前記疲労限度とを比較する。
【0017】
上記の好ましい方法によれば、第1工程において、実際の台車枠に静荷重試験を実施する必要がなく、有限要素法解析を実行することで、ひずみゲージを貼付する領域に対応する評価領域での応力を算出するため、手間が軽減するという利点を有する。
そして、第3工程において、第1工程で有限要素法解析によって算出した応力と、第2工程で測定した疲労限度とを比較することで、台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度を精度良く評価することが可能である。
【0018】
上記の有限要素法解析を実行する好ましい方法において、前記第1工程で作成する前記有限要素モデルの隣り合う節点間の距離が8mm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明者らの知見によれば、有限要素モデルの隣り合う節点間の距離を8mm以下にすることで、ひずみゲージを貼付する領域に対応する評価領域での応力を精度良く算出可能である。
なお、有限要素モデルの隣り合う節点間の距離を8mm以下にするとは、例えば、有限要素モデルの要素(メッシュ)として四面体1次要素を用いる場合には、要素を規定する節点間の距離を8mm以下にすることを意味する。また、四面体2次要素を用いる場合には、要素を規定する節点間の距離を16mm以下にする(要素を規定する節点と中間節点との距離を8mm以下にする)ことを意味する。
【0020】
上記の有限要素法解析を実行する好ましい方法において、前記第1工程で作成する前記有限要素モデルの前記As-weld溶接部の溶接止端部に対応する領域を角のある形状にすることが好ましい。
【0021】
本発明者らの知見によれば、As-weld溶接部の溶接止端部に対応する領域を角のある形状、換言すれば、As-weld溶接部の断面を単純な三角形状にモデル化する等、溶接止端部に対応する領域を接線が定まらない幾何学的な特異点(角点)を有する形状にしたとしても、ひずみゲージを貼付する領域に対応する評価領域での応力を精度良く算出可能である。すなわち、単純なモデル化であっても、応力を精度良く算出可能である。
【0022】
上記の有限要素法解析を実行する好ましい方法では、前記第1工程において、前記評価領域での応力を、以下の(1)~(5)の何れかに記載の方法で算出することが可能である。
(1)前記ひずみゲージのゲージ端と節点とが一致するように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点の変位を算出し、前記算出した変位からひずみを算出し、前記算出したひずみにヤング率を乗算した値を前記評価領域での応力として算出する。
(2)前記ひずみゲージのゲージ端と節点とが一致するように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点での最大主応力を算出し、前記算出した最大主応力の平均値を前記評価領域での応力として算出する。
(3)前記評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点での最大主応力を算出し、前記算出した最大主応力の最大値を前記評価領域での応力として算出する。
(4)前記評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点とその隣に位置する節点のうち、前記溶接止端部から遠い方に位置する節点の変位を算出し、前記算出した変位からひずみを算出し、前記算出したひずみにヤング率を乗算した値を前記評価領域での応力として算出する。
(5)前記評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように前記有限要素モデルを作成し、前記有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、前記節点のひずみと予め求めた前記ひずみゲージの方向の方向余弦とから、前記ひずみゲージの方向のひずみを算出し、前記算出したひずみにヤング率を乗算した値を前記評価領域での応力として算出する。
【0023】
本発明において、好ましくは、前記第2工程において、前記溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径が異なる複数の前記試験片に疲労試験を実施することで、前記曲率半径毎に疲労限度を測定し、前記第3工程において、前記第1工程で測定又は算出した応力と、前記第2工程で測定した前記疲労限度のうち、前記台車枠のAs-weld溶接部の断面外形の曲率半径に対応する曲率半径についての疲労限度とを比較することで、前記As-weld溶接部の疲労強度を評価する。
【0024】
第2工程で測定する疲労限度は、溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径に応じて異なる可能性がある。したがい、上記の好ましい方法のように、第2工程において、曲率半径が異なる複数の試験片に疲労試験を実施することで、曲率半径毎に疲労限度を測定しておき、第3工程において、第1工程で測定又は算出した応力と比較する疲労限度として、台車枠のAs-weld溶接部の断面外形の曲率半径に対応する曲率半径についての疲労限度を選択することで、As-weld溶接部の疲労強度をより一層精度良く評価することが可能である。
なお、上記の好ましい方法において、「曲率半径毎に疲労限度を測定」とは、特定の値を有する曲率半径毎に疲労限度を測定する場合に限るものではなく、相対的に大きな曲率半径の溶接止端部を有する溶接部について疲労限度を測定すると共に、相対的に小さな曲率半径の溶接止端部を有する溶接部について疲労限度を測定するなど、曲率半径の大きさに応じてランク付けを行い、各ランクについて疲労限度を測定する場合を含む概念である。
また、「台車枠のAs-weld溶接部の断面外形の曲率半径」は、公知の形状測定装置等を用いて曲率半径を実測する場合に限るものではなく、オペレータの目視等によってランク付けされた曲率半径を含む概念である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、鉄道車両用の台車枠を構成する部材間に形成されたAs-weld溶接部の疲労強度を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法の工程を説明するフロー図である。
【
図2】
図1に示す第1工程ST1におけるひずみゲージの貼付方法と、JISで規定されているひずみゲージの貼付方法とを概略的に示す断面図である。
【
図3】
図1に示す第1工程ST1による応力測定と、JIS式貼付方法による応力測定との差異を評価するのに用いた試験片を示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法の工程を説明するフロー図である。
【
図5】
図4に示す第1工程ST1’で作成する台車枠の有限要素モデルのうち、As-weld溶接部近傍の有限要素モデルの一例を概略的に示す断面図である。
【
図6】
図4に示す第1工程ST1’による応力算出の評価結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0028】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法(以下、適宜、単に「疲労強度評価方法」という)の工程を説明するフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係る疲労強度評価方法は、第1工程ST1、第2工程ST2及び第3工程ST3を含む。
以下、各工程ST1~ST3について順に説明する。
【0029】
[第1工程ST1]
第1工程ST1では、ひずみゲージを貼付した台車枠に静荷重試験を実施することで、応力を測定する。
図2は、本実施形態に係る疲労強度評価方法の第1工程ST1におけるひずみゲージの貼付方法と、JISで規定されているひずみゲージの貼付方法とを概略的に示す断面図である。
図2(a)は本実施形態に係る添付方法を、
図2(b)はJIS式添付方法を示す。
図2では、溶接部3、3’(As-weld溶接部3、手入れ後溶接部3’)が十字型溶接継手100を構成する部材1、2a、2b間に形成される場合を例示している。なお、十字型溶接継手において、実際には溶接部3、3’が4箇所形成されるが、
図2では便宜上、1箇所に形成された溶接部のみを図示している。また、
図2(a)では、便宜上、As-weld溶接部3を円弧状に図示しているが、実際には単純な円弧状ではなく複雑な形状である。
【0030】
図2(a)に示すように、本実施形態の第1工程ST1では、As-weld溶接部3に手入れを施すことなく、ひずみゲージS1を貼付する。具体的には、ひずみゲージS1のAs-weld溶接部3に近い方のゲージ端S11がAs-weld溶接部3の溶接止端部32bの近傍に位置するように、ひずみゲージS1を部材2aに貼付する。より具体的には、溶接止端部32bから(溶接止端部32bの縁から)ひずみゲージS1のゲージ端S11までの距離が0~5mmの範囲となるように、ひずみゲージS1を部材2aに貼付する。そして、
図2(a)に示す矢符Xの方向に部材2aに静荷重を付与することで静荷重試験を実施する。そして、ひずみゲージS1で測定したひずみに部材2aのヤング率を乗算することで、応力を算出する。
溶接止端部32aの近傍にひずみゲージS1を貼付する場合(図示省略)も同様に、ひずみゲージS1のAs-weld溶接部3に近い方のゲージ端S11が溶接止端部32aの近傍に位置するように、ひずみゲージS1を部材1に貼付する。具体的には、溶接止端部32aから(溶接止端部32aの縁から)ひずみゲージS1のゲージ端S11までの距離が0~5mmの範囲となるように、ひずみゲージS1を部材1に貼付する。そして、
図2(a)に示す矢符Yの方向に部材1に静荷重を付与することで静荷重試験を実施すればよい。そして、ひずみゲージS1で測定したひずみに部材1のヤング率を乗算することで、応力を算出する。
なお、ひずみゲージS1は、電気絶縁体である樹脂ベース上に、抵抗材料である金属箔(ゲージ)が取り付けられた構造を有し、「ゲージ端」は、ゲージの長手方向の端を意味する。ひずみゲージS1としては、例えば、ゲージ長が5mmの単軸のひずみゲージを使用可能である。
【0031】
図2(b)に示すように、JIS式貼付方法では、
図2(a)に示すAs-weld溶接部3に手入れを施した手入れ後溶接部3’にひずみゲージS2を貼付する。具体的には、As-weld溶接部3の溶接止端部32bの断面外形を、外方に向かって凹の曲率半径3mm程度の円弧状に手入れした後、そのゲージ端からゲージ長の1/2~2/3の位置が手入れ後溶接部3’の溶接止端部32bの縁(溶接止端部32bの円弧の始まり)322に合うように貼付する。そして、
図2(b)に示す矢符Xの方向に部材2aに静荷重を付与することで静荷重試験を実施する。そして、ひずみゲージS2で測定したひずみに部材2aのヤング率を乗算することで、応力を算出する。
溶接止端部32aの近傍にひずみゲージS2を貼付する場合(図示省略)も同様に、As-weld溶接部3の溶接止端部32aの断面外形を、外方に向かって凹の曲率半径3mm程度の円弧状に手入れした後(図示省略)、そのゲージ端からゲージ長の1/2~2/3の位置が手入れ後溶接部3’の溶接止端部32aの縁に合うように貼付する。そして、
図2(b)に示す矢符Yの方向に部材1に静荷重を付与することで静荷重試験を実施すればよい。そして、ひずみゲージS2で測定したひずみに部材1のヤング率を乗算することで、応力を算出する。
ひずみゲージS2としては、ひずみゲージS1と同様に、例えば、ゲージ長が5mmの単軸のひずみゲージが使用される。
【0032】
以下、本実施形態の第1工程ST1による応力測定と、JIS式貼付方法による応力測定との差異を評価した試験の一例について説明する。
図3は、本実施形態の第1工程ST1による応力測定と、JIS式貼付方法による応力測定との差異を評価するのに用いた試験片を示す図である。
図3(a)は正面図であり、
図3(b)は平面図であり、
図3(c)は、溶接部3A近傍の拡大平面図である。
図3(a)及び(b)では、ひずみゲージの図示を省略している。また、
図3では、便宜上、溶接部3Aを三角形状で図示しているが、実際には単純な三角形状ではなく複雑な形状である。
図3に示す試験片200は、部材1A、2Aa、2Abと、部材1Aと部材2Aaとの間及び部材1Aと部材2Abとの間に形成された溶接部3Aとから構成された十字型溶接継手の形式である。試験片200には、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部を形成するときと同等の溶接条件で形成した溶接部3Aが手入れされることなくそのまま設けられている。
【0033】
図3(c)に示すように、本実施形態の第1工程ST1による応力測定を評価する際には、ひずみゲージS1を各溶接部3Aの近傍に3箇所(試験片200の幅方向中央1箇所、試験片200の幅方向エッジから約12.5mmの位置2箇所)で計12箇所に貼付した。また、公称応力を測定する基準ゲージとしてのひずみゲージS3を、各溶接部3Aの溶接止端部から試験片200の長手方向に30mm離れた位置の幅方向中央1箇所で計4箇所に貼付した。さらに、ひずみゲージS3で測定する公称応力を補正するためのひずみゲージS4を、各溶接部3Aの溶接止端部から試験片200の長手方向に30mm離れた位置の幅方向エッジ2箇所で計8箇所に貼付した。
以上のようにしてひずみゲージS1、S3及びS4を貼付した試験片200に、
図3(a)の矢符Xの方向に14.6kNの引張荷重を付加し、各ひずみゲージS1、S3及びS4でひずみを測定し、これにヤング率206GPaを乗算して応力を算出した。
そして、各ひずみゲージS1で測定した応力を、ひずみゲージS1と同じ測定面に貼付したひずみゲージS3で測定した応力をひずみゲージS4で測定した応力で補正して得られる各公称応力で除算し、計12箇所の応力比率を算出した。そして、その応力比率の平均値と変動係数とを算出した。
【0034】
一方、JIS式貼付方法による応力測定を評価する際には、溶接部3Aの溶接止端部の断面外形を、外方に向かって凹の曲率半径3mm程度の円弧状に手入れした。そして、ひずみゲージS2を各溶接部3Aに3箇所(試験片200の幅方向中央1箇所、試験片200の幅方向エッジから約12.5mmの位置2箇所)で計12箇所に貼付した。また、本実施形態の第1工程ST1による応力測定を評価する際と同様に、公称応力を測定する基準ゲージとしてのひずみゲージS3を、各溶接部3Aの溶接止端部から試験片200の長手方向に30mm離れた位置の幅方向中央1箇所で計4箇所に貼付した。さらに、ひずみゲージS3で測定する公称応力を補正するためのひずみゲージS4を、各溶接部3Aの溶接止端部から試験片200の長手方向に30mm離れた位置の幅方向エッジ2箇所で計8箇所に貼付した。
以上のようにしてひずみゲージS2、S3及びS4を貼付した試験片200に、
図3(a)の矢符Xの方向に14.6kNの引張荷重を付加し、各ひずみゲージS2、S3及びS4でひずみを測定し、これにヤング率206GPaを乗算して応力を算出した。
そして、各ひずみゲージS2で測定した応力を、ひずみゲージS2と同じ測定面に貼付したひずみゲージS3で測定した応力をひずみゲージS4で測定した応力で補正して得られる各公称応力で除算し、計12箇所の応力比率を算出した。そして、その応力比率の平均値と変動係数とを算出した。
【0035】
表1は、上記試験の結果を示す。
【表1】
表1に示すように、JIS式貼付方法による応力測定では、応力比率の変動係数が大きくなる。換言すれば、JIS式貼付方法で測定した応力のばらつきが大きくなる。これは、溶接部3Aの溶接止端部の手入れ後の断面外形が、実際には理想的な曲率半径3mmの円弧にはならないことや、ひずみゲージS2の溶接止端部における貼付位置に差異が生じる(ひずみゲージS2ゲージ端からゲージ長の1/2~2/3の位置が手入れ後溶接部の溶接止端部の円弧の始まりに合うように貼付するので、何れのひずみゲージS2も同じ位置に貼付されるわけではない)ことが原因であると考えられる。
これに対して、本実施形態の第1工程ST1による応力測定(表1では「本発明」と記載)では、JIS式貼付方法による応力測定に比べて、応力比率の変動係数が小さく、安定した測定が可能である。本実施形態の第1工程ST1による応力測定では、溶接部3Aの溶接止端部の手入れを行っていないため、溶接止端部の断面外形の曲率半径は、種々の値を有すると考えられる。すなわち、本実施形態の第1工程ST1による応力測定では、溶接止端部の断面外形の曲率半径の影響を受け難いといえる。
以上の試験結果から、本実施形態の第1工程ST1によれば、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部の断面外形が複雑な形状であり、As-weld溶接部毎に個体差があったとしても、精度良く応力を測定可能であるといえる。
【0036】
[第2工程ST2]
図1に示すように、第2工程ST2では、
図2(a)に示すAs-weld溶接部3に相当する溶接部が設けられた試験片に、第1工程ST1と同等の貼付位置にひずみゲージを貼付し、前記試験片に疲労試験を実施することで、疲労限度を測定する。具体的には、例えば、
図3に示す試験片200と同様の試験片を用意し、この試験片に
図3に示すひずみゲージS1と同等の貼付位置にひずみゲージを貼付して疲労試験を実施することで、疲労限度を測定する。疲労限度は、例えば、試験片に
図3に示すX方向と同じ方向に1000万回の繰り返し荷重を付加し、試験片が破断しない最大応力と、試験片が破断した最小応力との平均値によって求めることができる。
【0037】
[第3工程ST3]
第3工程ST3では、第1工程ST1で測定した応力と、第2工程ST2で測定した疲労限度とを比較することで、台車枠のAs-weld溶接部3の疲労強度を評価する。
例えば、第1工程ST1で測定した応力の方が第2工程ST2で測定した疲労限度よりも大きければ、疲労強度が十分ではないと評価し、As-weld溶接部3を手入れしたり、溶接条件の再設計を行うことが考えられる。一方、第2工程ST2で測定した疲労限度の方が第1工程ST1で測定した応力よりも大きければ、As-weld溶接部3の手入れを省略することが考えられる。
【0038】
以上に説明した第1実施形態に係る疲労強度評価方法によれば、前述のように、第1工程ST1を実行することにより、実際の台車枠が有するAs-weld溶接部3の断面外形が複雑な形状であり、As-weld溶接部3毎に個体差があったとしても、精度良く応力を測定可能である。
また、第2工程ST2において、試験片の疲労限度を測定することで、試験片の溶接部に相当する台車枠のAs-weld溶接部3の疲労限度を評価可能である。
そして、第3工程ST3において、第1工程ST1で精度良く測定した応力と、第2工程ST2で測定した疲労限度とを比較することで、台車枠のAs-weld溶接部3の疲労強度を精度良く評価することが可能である。
【0039】
なお、第1工程ST1及び第2工程ST2は、いずれを先に実行してもよい。同等の溶接条件で形成したAs-weld溶接部3の疲労強度を評価する台車枠の数が多い場合には、第2工程ST2を先に実行しておき、何れの台車枠のAs-weld溶接部3の疲労強度を評価する際にも、第2工程ST2で測定した同じ疲労限度を用いるようにすることが、評価の効率が高まる点で好ましい。
【0040】
また、好ましい態様として、第2工程ST2において、溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径が異なる複数の試験片に疲労試験を実施することで、曲率半径毎に疲労限度を測定しておくことが考えられる。そして、第3工程ST3において、第1工程ST1で測定した応力と、第2工程ST2で測定した疲労限度のうち、台車枠のAs-weld溶接部3の断面外形の曲率半径に対応する曲率半径についての疲労限度とを比較することで、As-weld溶接部3の疲労強度を評価することが考えられる。
第2工程ST2で測定する疲労限度は、溶接部の溶接止端部の断面外形の曲率半径に応じて異なる可能性がある。したがい、上記の好ましい態様のように、第2工程ST2において、曲率半径が異なる複数の試験片に疲労試験を実施することで、曲率半径毎に疲労限度を測定しておき、第3工程ST3において、第1工程ST1で測定した応力と比較する疲労限度として、台車枠のAs-weld溶接部3の断面外形の曲率半径に対応する曲率半径についての疲労限度を選択することで、As-weld溶接部3の疲労強度をより一層精度良く評価することが可能である。
【0041】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用台車枠のAs-weld溶接部の疲労強度評価方法(以下、適宜、単に「疲労強度評価方法」という)の工程を説明するフロー図である。
図4に示すように、本実施形態に係る疲労強度評価方法も、第1実施形態に係る疲労強度評価方法と同様に、第1工程ST1’、第2工程S2及び第3工程ST3’を含む。本実施形態に係る疲労強度評価方法は、第1工程ST1’及び第3工程ST3’が、第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態と同じである第2工程ST2の説明は省略し、第1実施形態と異なる第1工程ST1’及び第3工程ST3’について順に説明する。
【0042】
[第1工程ST1’]
第1工程ST1’では、第1実施形態の第1工程ST1のように台車枠に静荷重試験を実施することに代えて、台車枠の有限要素モデルを作成し、作成した有限要素モデルを用いて静荷重試験を模擬した有限要素法解析を実行することで、ひずみゲージを貼付する領域に対応する評価領域での応力を算出する。
【0043】
図5は、第1工程ST1’で作成する台車枠の有限要素モデルのうち、As-weld溶接部近傍の有限要素モデルの一例を概略的に示す断面図である。
図5では、As-weld溶接部3が十字型溶接継手100を構成する部材1、2a、2b間に形成される場合を例示している。なお、十字型溶接継手において、実際には溶接部3が4箇所形成されるが、
図5では便宜上、1箇所に形成されたAs-weld溶接部3のみを図示している。
図5に示すように、第1工程ST1’で作成する有限要素モデルのAs-weld溶接部3の断面は、例えば、三角形状にモデル化される。この場合、有限要素モデルにおけるAs-weld溶接部3の溶接止端部32a、32bに対応する領域は、角のある形状(接線が定まらない幾何学的な特異点(角点)を有する形状)となる。すなわち、溶接止端部32aは、部材1の縁11とAs-weld溶接部3の縁31との交差する部分であるが、直線である縁11と直線である縁31とが折れ線状に交差するために、その交差点が角点となる。溶接止端部32bについても同様である。このように、本実施形態の第1工程ST1’で作成する有限要素モデルは、As-weld溶接部3を単純にモデル化したものとすることが可能である。そして、単純にモデル化しても、後述のように、ひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域での応力を精度良く算出可能である。
【0044】
なお、第1工程ST1’で作成する有限要素モデルの隣り合う節点間の距離は8mm以下であることが好ましい。具体的には、例えば、有限要素モデルの要素(メッシュ)として四面体1次要素を用いる場合には、要素を規定する節点間の距離が8mm以下であることが好ましい。また、四面体2次要素を用いる場合には、要素を規定する節点間の距離が16mm以下である(要素を規定する節点と中間節点との距離が8mm以下である)ことが好ましい。
上記の好ましい態様によれば、後述のように、ひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域での応力を精度良く算出可能である。
【0045】
そして、第1工程ST1’では、作成した有限要素モデルを用いて静荷重試験を模擬した有限要素法解析を実行する。例えば、
図5に示す矢符Xの方向に部材2aに静荷重を付与する静荷重試験を模擬した有限要素法解析を実行する。これにより、実際に台車枠にひずみゲージS1を貼付する場合と同様に、
図5に示すようにひずみゲージS1を部材2aに貼付すると仮定した場合、ひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域(部材2aの縁21のうち、ひずみゲージS1を貼付する領域)での応力を算出する。また、ひずみゲージS1を部材1に貼付すると仮定した場合(図示省略)には、
図5に示す矢符Yの方向に部材1に静荷重を付与する静荷重試験を模擬した有限要素法解析を実行し、ひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域(部材1の縁11のうち、ひずみゲージS1を貼付する領域)での応力を算出する。
具体的には、評価領域での応力を、以下の(1)~(5)の何れかに記載の方法で算出することが可能である。
(1)ひずみゲージS1のゲージ端と節点とが一致するように有限要素モデルを作成し、この有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、節点の変位を算出し、算出した変位からひずみを算出し、算出したひずみにヤング率を乗算した値を評価領域での応力として算出する。
(2)ひずみゲージS1のゲージ端と節点とが一致するように有限要素モデルを作成し、有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、節点での最大主応力を算出し、算出した最大主応力の平均値を評価領域での応力として算出する。
(3)評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように有限要素モデルを作成し、有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、節点での最大主応力を算出し、算出した最大主応力の最大値を評価領域での応力として算出する。
(4)評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように有限要素モデルを作成し、有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、節点とその隣に位置する節点のうち、溶接止端部から遠い方に位置する節点の変位を算出し、算出した変位からひずみを算出し、算出したひずみにヤング率を乗算した値を評価領域での応力として算出する。
(5)評価領域に少なくとも1つの節点が含まれるように有限要素モデルを作成し、有限要素モデルを用いて有限要素法解析を実行することで、節点のひずみと予め求めたひずみゲージS1の方向の方向余弦とから、ひずみゲージS1の方向のひずみを算出し、算出したひずみにヤング率を乗算した値を評価領域での応力として算出する。
【0046】
[第3工程ST3’]
第3工程ST3’では、第1実施形態の第3工程ST3のように、台車枠に静荷重試験を実施することで測定した応力と、第2工程ST2で測定した疲労限度とを比較することに代えて、第1工程ST1’で有限要素法解析によって算出した応力と、第2工程ST2で測定した疲労限度とを比較することで、台車枠のAs-weld溶接部3の疲労強度を評価する。
第1実施形態と同様に、例えば、第1工程ST1’で算出した応力の方が第2工程ST2で測定した疲労限度よりも大きければ、疲労強度が十分ではないと評価し、As-weld溶接部3を手入れしたり、溶接条件の再設計を行うことが考えられる。一方、第2工程ST2で測定した疲労限度の方が第1工程ST1’で算出した応力よりも大きければ、As-weld溶接部3の手入れを省略することが考えられる。
【0047】
以上に説明した第2実施形態に係る疲労強度評価方法によれば、第1工程ST1’において、実際の台車枠に静荷重試験を実施する必要がなく、有限要素法解析を実行することで、ひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域での応力を算出するため、第1実施形態に係る疲労強度評価方法に比べて、手間が軽減するという利点を有する。
そして、第3工程ST3’において、第1工程ST1’で有限要素法解析によって算出した応力と、第2工程ST2で測定した疲労限度とを比較することで、第1実施形態と同様に、台車枠のAs-weld溶接部3の疲労強度を精度良く評価することが可能である。
【0048】
以下、本実施形態の第1工程ST1’による応力算出を評価した結果の一例について説明する。
図6は、本実施形態の第1工程ST1’による応力算出の評価結果の一例を示す図である。
図6の横軸は有限要素モデルのメッシュサイズ(要素を規定する節点間の距離)を、縦軸は算出した応力から得られる応力比率を示す。有限要素モデルとしては、
図3に示す試験片200と同様の試験片であって、
図5に示すものと同様に溶接部の断面を三角形状にモデル化したものを用いた。すなわち、溶接部の溶接止端部に対応する領域を角のある形状にモデル化した。そして、有限要素モデルの要素(メッシュ)として四面体2次要素を用い、メッシュサイズを1~16mmの範囲で変更して、それぞれ有限要素法解析を実行した。これにより、
図3(c)に示すものと同様のひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域での応力と、公称応力とを算出し、これに基づき応力比率を算出した。なお、ひずみゲージS1を貼付する領域に対応する評価領域での応力は、ひずみゲージS1のゲージ端と節点とが一致するように有限要素モデルを作成し、有限要素法解析を実行することで、節点の変位を算出し、算出した変位からひずみを算出し、算出したひずみにヤング率を乗算した値とした。
図6に「□」でプロットした点が、各メッシュサイズの有限要素モデルに有限要素法解析を実行して算出された応力比率である。
図6には、
図3に示す試験片200と同様の試験片を実際に用意して静荷重試験を実施して得られた応力比率を横線で図示している。この実際の試験片としては、溶接部の溶接止端部を模擬して、断面外形が外方に向かって凹の曲率半径0.5mm、0.6mm、1.2mm、3.1mmをそれぞれ有するものを放電加工で形成して用いた(
図6において実線で示す横線)。また、実際のAs-weld溶接部を有する試験片も用いた(
図6において破線で示す横線)。
【0049】
図6から分かるように、「□」でプロットした本実施形態の第1工程ST1’で算出した応力(応力比率)は、メッシュサイズに依存せずにほぼ一定であり、実線及び破線の横線で示す実際の試験片で静荷重試験を実施して得られた応力(応力比率)とも良く対応している。このため、本実施形態の第1工程ST1’で作成する有限要素モデルのメッシュサイズは、16mm以下であれば、十分な精度で応力を算出できるといえる。換言すれば、有限要素モデルの隣り合う節点間の距離が8mm以下であれば、十分な精度で応力を算出できるといえる。
また、実際の試験片の溶接止端部の断面外形の曲率半径が0.5mm~3.1mmの範囲でばらついたとしても、溶接止端部に対応する領域を角のある形状にモデル化した有限要素モデルを用いて、十分な精度で応力を算出できるといえる。
【0050】
なお、第1実施形態及び第2実施形態では、As-weld溶接部が、十字型溶接継手を構成する部材間に形成される場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、T字型溶接継手や斜交継手など、他の形式の溶接継手を構成する部材間に形成されるAs-weld溶接部の疲労強度を評価する際にも適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1、2a、2b・・・部材
3・・・As-weld溶接部
32a、32b・・・溶接止端部
100・・・十字型溶接継手
S1、S2、S3、S4・・・ひずみゲージ
S11・・・ゲージ端