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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】燃料タンク
(51)【国際特許分類】
   B60K 15/03 20060101AFI20230705BHJP
   B60K 15/077 20060101ALI20230705BHJP
   B65D 25/02 20060101ALI20230705BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
B60K15/03 B
B60K15/077 C
B65D25/02 B
F02M37/00 301J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021526146
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023141
(87)【国際公開番号】W WO2020251001
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2019109355
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】水口 俊則
(72)【発明者】
【氏名】布田 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 明佳
(72)【発明者】
【氏名】中野 順司
(72)【発明者】
【氏名】内藤 恭章
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-290600(JP,A)
【文献】特開2018-203083(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012108851(DE,A1)
【文献】特開2005-162010(JP,A)
【文献】米国特許第06138859(US,A)
【文献】特開2011-011803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0030358(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011015049(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/03
B60K 15/077
B65D 25/02
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製のロアーパネルおよび鋼製のアッパーパネルと、
前記ロアーパネルと前記アッパーパネルとを対向させて形成された内部空間に配置され、第1端部が前記ロアーパネルに固定され、第2端部が、前記アッパーパネルに形成された穴内に配置された状態で前記アッパーパネルに固定された少なくとも1つの鋼製の支柱と、
前記ロアーパネルの内面に固定され、前記支柱の前記第1端部が嵌め合わされた鋼製の第1ナットと、
を備える燃料タンク。
【請求項2】
前記アッパーパネルの内面に配置され、前記支柱に固定されたフランジと、
前記アッパーパネルの外面に配置され、前記支柱の前記第2端部が嵌め合わされて前記フランジとの間に前記アッパーパネルを挟む鋼製の第2ナットと、
を備える請求項1に記載の燃料タンク。
【請求項3】
前記支柱、前記第1ナット、および前記第2ナットの外面に、スズめっき層、もしくは、スズ亜鉛めっき層を備える請求項2に記載の燃料タンク。
【請求項4】
前記アッパーパネルと、前記第2ナットとの間を密閉する半田を備える請求項2または3に記載の燃料タンク。
【請求項5】
前記ロアーパネルおよび前記アッパーパネルの少なくとも一方の対向する一対の壁面に、鋼製で円柱状の梁が取り付けられている請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料タンク。
【請求項6】
前記梁に、第1バッフル板が取り付けられている請求項5に記載の燃料タンク。
【請求項7】
前記支柱に、第2バッフル板が取り付けられている請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料タンクに関し、より詳細には、鋼製燃料タンクの耐圧化、軽量化に関する。
本願は、2019年6月12日に、日本に出願された特願2019-109355号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車用燃料タンクには長く鋼製タンクが用いられてきたが、近年、樹脂タンクの使用例が多くなってきている。その理由として、燃料透過防止策として多層構造樹脂タンクが開発されたこと、素材の比重差において樹脂が軽量化に有利であったこと等がある。
樹脂タンクの軽量化を可能とした技術の一つとして、例えば特許文献1には、対向する樹脂タンクの上下面に形成された内部へ突出する突起同士を溶着して支柱とする技術が開示されている。
【0003】
燃料タンクは車両のアンダーボディー、路面に近い場所に設置されるため、特に夏季には、路面からの照り返しで、燃料タンクおよび燃料が加温され、燃料温度が50℃以上に昇温されることがある。このことで樹脂は軟化し、燃料の重量により樹脂が撓むことが考えられる。更には、昇温による燃料の蒸気圧の上昇でその撓みが大きくなる。支柱を設けることでその撓みが軽減され、燃料タンクの変形量が抑えられる。
【0004】
近年では、HV(Hybrid Vehicle)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)の普及によりエンジンの稼動している時間が短くなる傾向にあり、燃料タンク内部に生じたガソリン蒸気がエンジンにパージされず、内圧が高まると言われている。そのため、燃料タンクの耐圧化が行われており、樹脂タンクでは内部に支柱をこれまで以上に追加することで剛性を向上させている。鋼製タンクでは板厚を上げることで対応がなされているが、板厚を上げることは燃料タンクの重量増につながり、車両走行燃費への影響も指摘されている。HVやPHVではバッテリーやそれを格納するケースが必要となり車両全体の重量が増加する。以上のようなことから、燃料タンクの耐圧化、軽量化を求める声はこれまで以上に強くなっている。
【0005】
そこで鋼製タンクの内部に樹脂製支柱を設置し、耐圧性を向上させ、結果として燃料タンクの軽量化を図る方法が当該出願人の名前による特許文献2として開示されている。この手法は金属製の台座にねじ加工を施し、樹脂支柱を螺合させると言う方法であるが、燃料タンクのアッパー面と対向するロアー面に少なくとも台座を設置する平行な面が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2006-256462号公報
【文献】日本国特許第6350781号公報
【文献】日本国特開2012-245974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、HVやPHVのバッテリーは大容量化の傾向にある。そのため、車両フロアー下の広い面積がバッテリー搭載のために使われるようになってきている。燃料タンクはバッテリー搭載位置の周辺部に置かれるようになり、水平投影面積を極力小さくするような試みがなされている。すなわち、立方体や直方体に近い形状の燃料タンクがHVやPHV用に採用されつつある。更に、燃費改善により燃料タンクの満タン容量も低下することが予想される。
【0008】
現在の車両の燃料供給方式はフューエルインジェクションシステムが主流となっており、燃料タンク内部に燃料ポンプが設置される。よって、アッパーパネル側にはポンプ取付けのための開口部が必要となる。この開口部の直径は通常、直径100~150mmであるが、開口部周辺には支柱を設置する場所が確保できず、燃料タンク内部の圧力変化により変形を受けやすい部位でもあった。そのため、樹脂タンクの場合は開口部の周縁にユニバーサルジョイント構造を持つ樹脂支柱で剛性を確保する手法が特許文献3で開示されている。
【0009】
鋼製タンクでも内圧変化によるポンプ取付け部の変形防止は重要であるが、燃料タンクの水平投影面積が小さくなっていること、ポンプ取付け部は直径100~150mm程度の開口部を設ける必要があることから、特許文献2による方法では支柱取付けのための金属製台座を設置する場所を確保することが困難である。ポンプ取付け部位の圧力変動によるパネルの変位防止のため、鋼製燃料タンクパネルのゲージダウンの律速となっていた。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、燃料タンクの耐圧性を高め、かつ、軽量化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の一態様に係る燃料タンクは、鋼製のロアーパネルおよび鋼製のアッパーパネルと、前記ロアーパネルと前記アッパーパネルとを対向させて形成された内部空間に配置され、第1端部が前記ロアーパネルに固定され、第2端部が、前記アッパーパネルに形成された穴内に配置された状態で前記アッパーパネルに固定された少なくとも1つの鋼製の支柱と、前記ロアーパネルの内面に固定され、前記支柱の前記第1端部が嵌め合わされた鋼製の第1ナットと、を備える。
(2)上記(1)において、前記アッパーパネルの内面に配置され、前記支柱に固定されたフランジと、前記アッパーパネルの外面に配置され、前記支柱の前記第2端部が嵌め合わされて前記フランジとの間に前記アッパーパネルを挟む鋼製の第2ナットと、を備えてよい。
(3)上記(2)において、前記支柱、前記第1ナット、および前記第2ナットの外面に、スズめっき層、もしくは、スズ亜鉛めっき層を備えてよい。
(4)上記(2)又は(3)において、前記アッパーパネルと、前記第2ナットとの間を密閉する半田を備えてよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記ロアーパネルおよび前記アッパーパネルの少なくとも一方の対向する一対の壁面に、鋼製で円柱状の梁が取り付けられていてよい。
(6)上記(5)において、前記梁に、第1バッフル板が取り付けられていてよい。
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記支柱に、第2バッフル板が取り付けられていてよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、燃料タンクの耐圧性を高め、かつ、軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る燃料タンクの概略を示す斜視図である。
図2】同実施形態に係る燃料タンクの概略を示す縦断面図である。
図3】同実施形態に係る燃料タンクを、アッパーパネルとロアーパネルとに分離した状態の概略を示す断面図である。
図4】フランジ近傍の要部の断面図である。
図5】ロアーパネル内面側の上面図である。
図6】同実施形態に係る支柱の構成を示す縦断面図である。
図7】アッパーパネルの上面図である。
図8】本発明の一実施形態の変形例に係る燃料タンクの横断面図である。
図9】冶具の斜視図である。
図10】梁構造の上面図である。
図11】他の梁構造の上面図である。
図12】支柱に取り付けた第2バッフル板の斜視図である。
図13】同第2バッフル板の上面図である。
図14】梁に取り付けた第1バッフル板の上面図である。
図15】同第1バッフル板の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.燃料タンクの構造>
まず、図1から図3に基づいて、本発明の一実施形態に係る燃料タンクの概略構成について説明する。なお、図3は、本発明形態に係る燃料タンク10を、アッパーパネル11とロアーパネル12とに分離した状態の概略を示す断面図である。
【0015】
本実施形態に係る燃料タンク10は、例えば自動車用の燃料タンクであり、鋼製のアッパーパネル11と鋼製のロアーパネル12とからなる。鋼製の燃料タンク10は、樹脂製の燃料タンクと比較して、形状がシンプルであり、金属製であるため、ガソリン蒸気が漏れ難いと言う利点がある。アッパーパネル11は図2に示すように、燃料を貯蔵するための内部空間Vを形成する凹み部11aと、アッパーパネル11とロアーパネル12とを接合するために凹み部11aの縁部に形成されたフランジ部11bとを有する。同様にロアーパネル12は、燃料を貯蔵するための内部空間Vを形成する凹み部12aと、アッパーパネル11とロアーパネル12とを接合するために凹み部12aの縁部に形成されたフランジ部12bとを有する。アッパーパネル11のフランジ部11bとロアーパネル12のフランジ部12bとは、例えばシーム溶接により接合される。
内部空間Vは、アッパーパネル11とロアーパネル12とを対向させて形成される。
燃料タンク10は、車両におけるバッテリー搭載位置の周辺部に置かれることが多い。このため、燃料タンク10の容積をできるだけ大きく保ちつつ、水平投影面積を極力小さくできる直方体状であることが好ましい。なお、直方体状の燃料タンク10を構成する6つの面における隣り合う面同士の間の角部は、丸まっていてよい。
【0016】
<2.支柱>
[支柱構造]
本実施形態に係る燃料タンク10は、内部空間Vに、アッパーパネル11とロアーパネル12との対向する方向に延びる支柱100を備える。支柱100は、燃料タンク10の剛性を高めるために設けられる補強部材である。支柱100は、鋼製の線材又は棒材(鋼製支柱)から成る。ここで支柱100に鋼を選んだのは、安価でかつ高い強度を有することによる。なお、支柱100は、炭素鋼又はステンレス鋼であってよく、適宜、めっき等の被覆処理がなされていてもよい。なお、燃料タンク10が備える支柱100の数に制限はなく、1つでもよいし、2つ以上でもよい。支柱100は、3つであると、内部空間Vにおいて支柱によって占有される体積をできるだけ低減しつつ、燃料タンク10の変形を効率的に抑制できる。特に、燃料タンク10において比較的大きな変形が見込まれる箇所を変形解析計算によって求め、それらの箇所に3つの支柱100を配置することが好ましい。このように支柱を配置することにより、アッパーパネル11及びロアーパネル12の変形を効率的に抑制できる。特に、ポンプ取付け用の第1穴11cの周囲を囲むように支柱100を配置することにより、アッパーパネル11及びロアーパネル12を備える燃料タンク10の変形を効率的に抑制できる。
高圧タンクの場合、内圧は例えば40kPa程度まで上昇する。図1に挙げた燃料タンク10のアッパーパネル11の内面およびロアーパネル12の内面に掛かる力は、40kN/mとなる。燃料タンク10の内面積が1mであると仮定すると、この内面に40kN(4.08トン)の力が掛かることになる。この力すべてが支柱100に掛かるわけではないが、適正な板厚を設計し、燃料タンク10の壁面に掛かる荷重と、支柱100に掛かる荷重を分担するように設計を行う必要がある。
【0017】
支柱100には、正圧時には数十~数百kgfの引張力が、負圧時には同様の圧縮力が掛かることになる。例えば、100kgf(980N)の引張あるいは圧縮力が掛かり、直径6mmの支柱100が用いられる場合の支柱100に掛かる応力は、(100×9.8÷(3×3×3.14))の式により、34.6MPaとなる。JIS-G-4051:2016に規定されるS10Cの鋼材の引張強さは、310MPa以上であるので、直径6mmでも十分な強度を有していることが分かる。支柱100を設置する意義は、圧力によるパネル11,12の変位を抑制にある。よって、支柱100の長さが応力によって大きく変化してはならない。支柱100に掛かる応力は弾性限界以下、望ましくは降伏点の半分以下である。降伏点は一般に0.2%耐力、すなわち引張試験時に0.2%の永久歪みが残る荷重と定義される。しかし、応力歪曲線は降伏点付近ではわずかながら、非線形となっていることから、完全な弾性域で使用すると言う意味において、降伏点の半分以下の荷重となるように支柱100の直径を設計するとよい。
例えば、燃料タンク10に所定の内圧が作用することを想定した場合、鋼製の支柱100は、6mmの直径で、燃料タンク10の高さ寸法に応じて、内部空間Vに位置する部分となる。仮に燃料タンク10の高さ(支柱100のうち、内部空間Vに位置する部分の長さ)を200mmと仮定する。この場合、鋼製の支柱100の内部空間Vに位置する部分は、5.65cmの体積と44.4gの質量を有している。そして、鋼製の支柱100の降伏点強度が300MPaである場合、完全弾性域となる約150MPa以下を、使用時の許容応力に設定できる。これに対して、上述の所定の内圧と同じ内圧が作用し、かつ、同じ高さ寸法を有する燃料タンク10に樹脂製の支柱を適用する場合、一般的な樹脂製(例えば、ポリアセタール等)の支柱は、引張強度、降伏強度等の強度が低く、融点が摂氏160度程度と低く、環境温度の変化に対するヤング率、強度、完全弾性域等の機械的性質の安定性が低いことを考慮して、使用時の許容応力を約10MPa以下に設定して設計する必要がある。このため樹脂製の支柱を用いる場合、その大きさは、少なくとも24mmの直径で、200mmの高さ(長さ)を有するものになる。この場合、樹脂製の支柱の内部空間Vに位置する部分は、90cmの体積と128gの質量を有するものとなり、鋼製の支柱と比べ体積、質量ともに大きい値になる。特に体積の差は非常に大きいものとなる。このように、鋼製の支柱100は、樹脂製の支柱100に比べて、必要な強度を保ちつつ小さい体積、小さい質量とすることができる。よって、本実施形態における燃料タンク10は、燃料タンク10の内部空間Vにおける支柱100による占有体積をできるだけ小さくすることができる。このため、燃料タンク10の内部空間Vにおける、燃料の貯留のための有効体積(容積)をできるだけ大きく確保できる。それに加え、支柱100の強度を保ちつつ軽量化を実現できるため、支柱100を含む燃料タンク10を軽量にできるとともに、内圧への耐力を高めることができる。
【0018】
支柱100の両端には、ナットで固定するためにネジ加工を行う。図3に示すように、支柱100の下端部(第1端部)に第1雄ネジ101を形成し、支柱100の上端部(第2端部)に第2雄ネジ102を形成する。負圧時のパネル11,12の変形を防ぐため、図2および図3に示すように、燃料タンク10の内部の高さに応じた支柱100の位置に、円環状のフランジ105を固定する。フランジ105は、円環状のフランジ105を平面視した場合の中心軸が支柱100の軸線に沿うようにして、支柱100の外周の全周から直角方向に延びた状態で設置される。これにより、燃料タンク10の負圧時等において、支柱100が、フランジ105を介して、広い面積でアッパーパネル11からの荷重を受けることができるので、アッパーパネル11に形成された第2穴11dの内縁を含む第2穴11dの近傍の変形を抑えることができる。よって、燃料タンク10の耐久性を高めることができる。ここで、負圧時にフランジ105の外周縁を支点にして、アッパーパネル11が変位及び変形し、疲労する懸念がある。このため、目標の正負圧疲労試験を合格するように、フランジ105の外径を設定する。また、図4に示すように、フランジ105の上面に、フランジ105の径方向の外側に向かうに従い、下方に向かうように傾斜した若干のテーパーを設けることで、フランジ105の外周縁に接触するアッパーパネル11側の歪量を軽減させることができる。
【0019】
燃料タンク10は、衝突安全性についても考慮されなければならない。すなわち、衝突時、支柱100を取付けたパネル11,12が破壊され、燃料が漏れることを防止しなければならない。そこで、図2および図3に示すロアーパネル12側のチャンバーステー20に取り付けた第1ナット21と支柱100の螺合部が破壊するように、支柱100下部のねじの直径やねじ山の高さおよび条数を調整することもできる。
【0020】
支柱100は腐食を防止する意味から、表面処理を施すとよい。電気亜鉛めっき、電気スズめっき、電気スズ亜鉛めっき、電気ニッケルめっきが推奨される。すなわち、支柱100の外面に、亜鉛めっき層、スズめっき層、スズ亜鉛めっき層、ニッケルめっき層を備えてもよい。パネル11,12やバッフルステーにスズ亜鉛めっき鋼板を用いる場合は、燃料タンク10の内部の電食を防ぐ意味合いから、電気スズ亜鉛めっきを選ぶと良い。
【0021】
[取付け構造]
支柱100の取付けは、鋼製の第1ナット21で行う。
図5に示すように、ロアーパネル12側の第1ナット21の取付けには、円形のチャンバーステー20を利用する。図5は、チャンバーステー20に第1ナット21を3か所取り付けた状態を示すものである。チャンバーステー20上の第1ナット21の取付け部には、第1ナット21の穴径よりも1mm大きい径の穴を開ける。そこに第1ナット21をプロジェクション溶接する。第1ナット21側にプロジェクションを設けてもよいし、チャンバーステー20側にプロジェクション(突起)を設けてもよい。
第1ナット21は、支柱100に対応して、ロアーパネル12の内面に設ける。
【0022】
第1ナット21を取り付けたチャンバーステー20をロアーパネル12にスポット溶接で取り付けるが、この時、図6に示すように、ロアーパネル12の外面側にリンフォース(補強部材)22を取り付けると、圧力変動によるロアーパネル12の変形を抑制できる。なお、図6中にスポット溶接で形成した溶接部を、符号23で示す。
リンフォース22を取り付けた場合、圧力変動時にロアーパネル12とリンフォース22との間に隙間が発生する可能性がある。この隙間に砂塵が入り込むと、燃料タンク10の圧力疲労強度が低下する懸念がある。そこで、合わせ部(隙間)に砂塵が入り込まないように、リンフォース22の周縁部に弾力性のある塗膜を施すことが有効である。あるいは、スズ亜鉛はんだを隙間に流しこむことで、隙間を塞ぐこともできる。特にはんだを用いると強度が面で確保されるので、リンフォース22の効果が高まる。
【0023】
リンフォース22の直径は、チャンバーステー20の直径より0~20mm程度大きくする。リンフォース22なしでは、チャンバーステー20とロアーパネル12をスポット溶接した溶接部23への応力集中が起き、ロアーパネル12の変形が起きやすくなる。スポット溶接による溶接部23の位置は特に指定するものではないが、圧力変動時に応力の集中し易い、第1ナット21をプロジェクション溶接する部分の近傍が好ましい。溶接部23の事例を、図5および図6に示す。第1ナット21は、チャンバーステー20を介してロアーパネル12の内面に固定されている。
第1ナット21に支柱100の下端部に形成された第1雄ネジ101を嵌め合わせ、第1ナット21およびチャンバーステー20を介してロアーパネル12と支柱100とを接続する。これにより、ロアーパネル12に支柱100の下端部を固定する。
なお、支柱100の下端部は、溶接等によりロアーパネル12に固定されてもよい。
【0024】
図6および図7に示すように、アッパーパネル11側の支柱100の取付けも、第2ナット107で行う。なお、アッパーパネル11には、ポンプを取付けるための第1穴11cが形成されている。ここでは、第1穴11cは、アッパーパネル11の平面視における中央に形成されている。アッパーパネル11には、支柱100取付け用の第2穴(穴)11dを開口する。ロアーパネル12側の第1ナット21の取付け位置の直上となる部位に、第2穴11dを開口させる。第2穴11dの径は支柱100の直径と同じとし、第2穴11dの径よりも0.5mm大きい程度の穴広げ加工をアッパーパネル11の外面側に向けて行うと、第2穴11dにテーパーが付き、支柱100の上端部が取り付けやすくなる。また、第1穴11cから手を入れ、支柱100の位置を調整して、支柱100の上端部を第2穴11dの中に入れてもよい。
また、アッパーパネル11のうち第2穴11dの縁部に、応力集中が起きやすくなる。穴広げ加工により第2穴11dにテーパーを付けることは、加減圧時のパネル11,12の変形に伴う応力集中の緩和にも効果がある。
支柱100の上端部における下方の部分は第2穴11d内に配置され、支柱100の上端部における上方の部分は第2穴11dよりも上方に突出している。すなわち、支柱100の一部が、内部空間Vに配置されている。フランジ105は、アッパーパネル11の内面に配置されている。
【0025】
支柱100の取付けは、外部からの第2ナット107の螺合による。第2ナット107は、アッパーパネル11の外面に配置された状態で、支柱100の上端部に形成された第2雄ネジ102に嵌め合うことで、支柱100の上端部に固定されている。第2ナット107およびフランジ105は、アッパーパネル11を上下方向に挟んでいる。こうして、支柱100の上端部はアッパーパネル11に固定されている。なお、支柱100の上端部は、溶接等によりアッパーパネル11に固定されてもよい。
密封性確保のため、第2ナット107とアッパーパネル11の間にはパッキン(シール、ガスケット、または、オーリング、不図示)を設置する。パッキンの材質は特に規定するものではないが、長期仕様の耐久性を考慮すると、半田シートを打ち抜いたドーナッツ状のワッシャー108A(図4参照)でもよい。第2ナット107で支柱100にワッシャー108Aを螺合した後、その部位に熱を加えワッシャー108Aを溶融させ、さらにワッシャー108Aを冷却して固化させて半田108とする。これにより、半田108がアッパーパネル11と第2ナット107との間を密閉(シーリング)し、燃料タンク10の密閉性を確保することができる。
【0026】
なお、ナット21,107の腐食を防止する観点から、ナット21,107へのめっき処理が好ましく、電気亜鉛めっき、電気スズめっき、電気スズ亜鉛めっき、電気ニッケルめっきが推奨される。すなわち、ナット21,107の外面に、亜鉛めっき層、スズめっき層、スズ亜鉛めっき層、ニッケルめっき層を備えることが好ましい。
特に、パネル11,12にスズ亜鉛めっき鋼板を用いる場合、電食懸念軽減の意味合いから、電気スズ亜鉛めっきが好ましい。また、支柱100とナット21,107の締結部のシーリングに半田金属を用い、熱を掛けてこの半田金属を溶融させ密閉性を確保する場合は、電気スズ亜鉛めっきは半田濡れ性に優れることから、電気スズ亜鉛めっきが好ましい。電気スズ亜鉛めっきは、密閉性確保の観点からも好ましい。
【0027】
<3.梁構造>
[梁構造・取付け構造]
ポンプの辺縁部に支柱100を設置すると、正負圧時のパネル11,12の上面、底面の変位を抑制することができるが、そのしわ寄せが燃料タンク10のシーム溶接されたフランジ部11b,12bの近傍に現れる。すなわち、パネル11,12の壁面の変位が大きくなる。燃料タンク10のシーム溶接されたフランジ部11b,12bをリンフォースで補強し、リンフォースを介して、ボルトで車両フレームに取り付ける場合は、車両フレームの剛性の効果で横方向(パネル11,12が対向する方向に直交する方向)の変位は抑えられるが、ベルトで車両フレームに取り付ける場合は、燃料タンク10の横方向の変位を抑えることができない。
【0028】
このような場合、図8に示すように、燃料タンク10の内部に、鋼製で円柱状の梁30を設けるとよい。パネル11,12をプレスしたのち、その壁面に、図8および図9に示す梁30の取付け用の鋼製の取付具31(attachment)をスポット溶接により取り付ける。なお、図9中に梁30を二点鎖線で示す。
取付具31はハット型構造となっており、梁30の両端に設けられたフランジ30aがその中に嵌合する。取り付けた梁30が外れないようにするため、ハット型構造の開口部31aに抜け防止用のフィン32を取り付けるとよい。フランジ30aを取付具31に嵌め入れる時は、鋼製のフィン32が内側に折れ曲り、嵌合後は、フィン32のスプリングバックにより、フランジ30aが外れないようにする。手作業で嵌合できるような強度とするように、フィン32のサイズを設計する。また、梁30のフランジ形状は円形でも良いし、四角形でも良い。四角形の場合は、台形とし、上底を下底よりも短くし、上端側から鋼製の取付具31の空間に挿入すると、取付けが容易となる。
【0029】
取付具31の強度は、取付具31の板厚や材質で制御する。しかし、取付具31の隙間に半田金属を流しこんで、面で取付具31の強度を確保することも可能である。
【0030】
図10に示すように、梁30は、一端をフランジ30aを有するフランジ構造とし、他端をネジ構造34とする。四角形の鋼板にナット34aをプロジェクション溶接で取り付け、これに梁30のネジ加工部34bを螺合し、他端側のフランジ30aとする。螺合させるときに、その回転数で梁30の長さ調整できるので、パネル11,12のプレス精度によるパネル11,12の内径のばらつきを吸収できる。
【0031】
プレス精度のばらつきがほとんどないのであれば、梁30の両端をフランジ構造としてもよいし、両端をネジとナットを使ったフランジ構造としてもよい。ナットとネジを使ったフランジ構造の場合は、ハット型金具である取付具31のU字型の開口部31aの径を大きくする必要がある。
【0032】
また、図11に示すように、一端をフランジ構造とし、他端をネジ構造とした梁30を2つ用意し、ボルト締結用に用いられる延長ナット35で2つの梁30のネジ構造に螺合させることもできる。この場合、2つの梁30のネジ加工は一方を右ネジ、他方を左ネジとする必要がある。これは振動によって、ネジが回転し、延長ナット35の締結が外れることを防止するためである。このように、2つの梁30全体としての両端をフランジ構造にすると、取付け用の鋼製の取付具31のU字型窓の径を小さくし、取付具31の剛性を高める効果がある。
【0033】
いずれの形態の梁30を用いるかは、パネル11,12の形状精度、梁構造用の取付具31のコスト、組み立て時の作業の煩雑さ等により判断すると良い。
梁30は、アッパーパネル11およびロアーパネル12の少なくとも一方の対向する一対の壁面に取り付けられる。
【0034】
圧力変動で燃料タンク10の壁面が変位しようとする。これを抑制するのが梁構造であるが、梁30を支えている取付け用の取付具31のスポット溶接部に応力が集中することになる。応力が集中する場所は燃料タンク10のパネル11,12と梁取付け用の鋼製の取付具31の合わせ面、スポット溶接時の熱影響部である。圧力変動により徐々にパネル11,12の塑性変形が進み、ついには燃料タンク10のパネル11,12に損傷が生じる。このことを防止する観点から、梁取付け用の鋼製の取付具31の反対側に強度補強用リンフォース板を設置するとよい。このことで、熱影響部への応力集中を分散できる。リンフォース板はパネル11,12と同程度の板厚とし、そのサイズは梁取付け用の取付具31の大きさと同じかそれよりも縦横ともに0~20mm程度大きくすると良い。
但し、先にも記したように圧力変動時にロアーパネル12とリンフォース22との間に隙間が生じ、ここに外部からの砂塵類が入り込み、疲労強度を低下させる懸念がある。そこで、砂塵付着防止のため、弾性のある塗膜を隙間に付与するか、隙間部分を半田付けで塞ぐことが必要となる。
【0035】
<4.バッフル板の取付け>
高圧タンクは前述のようにハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の燃料タンクに必要である。このような車種ではエンジンの稼動している時間が短く、車室内は静かである。よって、運転時に燃料の揺動音が聞こえやすくなる。燃料揺動抑制に、支柱あるいは梁を利用することができる。
【0036】
図12および図13に示すように、燃料タンク10は、シート状の第2バッフル板40(縦パネルともいう。)を備えていてよい。第2バッフル板40は、最も薄い板厚方向が水平方向に沿うように、すなわち、板面が鉛直方向に沿うようにして、燃料タンク10の内部空間Vに配置されている。第2バッフル板40は、支柱100に取り付けられていてよい。例えば、円柱状(中空円筒状)に加工した樹脂製でシート状の第2バッフル板40の側面に穴41を開け、更にフィン42を設け、燃料の流れを抑制する。円柱状(中空円筒状)の第2バッフル板40の側面には、支柱100を中に通せるような小径の中空円筒状の円柱構造物43を取り付ける。ロアーパネル12に支柱100を取り付けたのち、このような第2バッフル板40を支柱100の上部から通し、支柱100がバッフル板40に嵌まった状態で、第2バッフル板40を取り付けることができる。このことで、走行時に発生する燃料の揺動を抑制し、音の発生を抑えることができる。第2バッフル板40は、樹脂製であると、内部空間Vにおいて占有する体積あたりの重量を低くできる。なお、第2バッフル板40は、樹脂製に限らず、鋼製等の他の素材で形成されてよい。
【0037】
直方体形状のPHV用燃料タンクが増える可能性について、言及した。このような形状の場合、車両走行時に旋回するとき遠心力で燃料が横方向に動き、燃料タンクの横面に当たると、波が跳ね返り、燃料タンクの上面に沿って、燃料が落ちてくる。このとき液体同士がぶつかることで音が発生する。この音は、スプラッシュ音と言われているものである。図14および図15に示すように、燃料タンク10は、シート状の第1バッフル板50(横パネルともいう。)を備えていてよい。第1バッフル板50は、最も薄い板厚方向が鉛直方向に沿うように、すなわち、板面が水平方向に沿うようにして、燃料タンク10の内部空間Vに配置されている。第1バッフル板50は、支柱100に取り付けられていてよい。梁30を2本以上設置するのであれば、これらの梁30を利用して、複数の梁30の間に亘って横方向(水平方向)に架け渡された状態で、シートの厚み方向が上下方向(鉛直方向)に沿うようにシート状の第1バッフル板50を設けると、落下する燃料を受け止め、スプラッシュ音を低減させることができる。すなわち、第1バッフル板50は、複数の梁30に跨って架け渡された状態で支持されているので、落下する燃料による衝撃に耐えつつ、液体同士がぶつかることを遮ることができ、スプラッシュ音を効果的に低減できる。このように、梁30に、第1バッフル板50が取り付けられているので、梁30を、パネル11,12の変形抑制と第1バッフル板50の支持とに兼用でき、燃料タンク10の耐久性を高めることができるとともに、走行時に発生する燃料の揺動を抑制し、音の発生を抑えることができる。また、樹脂製の第1バッフル板50の一端あるいは両端から鉛直方向に延びる板状体を形成し、第1バッフル板50の一端あるいは両端の断面形状がL字形状となるようにして、縦パネルの機能を持たせることも可能である。
【0038】
第2バッフル板40および第1バッフル板50を形成する樹脂の種類は、特に限定されないが、高密度ポリエチレン、ポリアセタール、ナイロン等が考えられる。燃料タンク10に組み立てた後で、バッフル板40,50の塗装焼き付けを行う場合は、焼き付け温度に対応した樹脂を選択する必要がある。樹脂の融点は焼き付け温度以上でなければならない。
樹脂製のバッフル板40,50は、一体成型で得る必要はない。シート状の板材をいくつかの部品に分けて成形し、それらをスナップフィット構造で繋ぎ合わせてもよい。
【0039】
<5.支柱と梁による作用>
[支柱]
アッパーパネル11とロアーパネル12を対向させ、互いのフランジ部11b,12bを重ね合わせるようにすると、ロアーパネル12に取り付けられた支柱100の上端部がアッパーパネル11の上面に開けられた第2穴11dを貫通する。この第2穴11dは、ポンプ取付け用の第1穴11cの周辺に設けられる。このため、支柱100の配置精度が悪く支柱100がアッパーパネル11の第2穴11dを貫通できなかったとしても、ポンプ取付け用の第1穴11cから手を入れて支柱100の位置を調整することで、簡単に支柱100の上端部を第2穴11dに入れることが可能である。支柱100の上端部を第2穴11dに貫通させた後は、支柱100をアッパーパネル11の外側からシール用パッキンを介して第2ナット107で固定する。このように、燃料タンク10の内部空間Vに容易に支柱100を構築することができる。
【0040】
支柱100は少なくとも、1本以上、好ましくは3本以上燃料タンク10に設置する。1本の支柱100では圧力によるパネル11,12の変位の抑制が不十分で、支柱100を設置した個所を支点にしてパネル11,12が変形し、歪が支柱100の周辺に集まる可能性がある。2本の支柱100では2本の支柱100の端部を結ぶ線を軸として、パネル11,12が回転するような変位が懸念される。3本の支柱100を設置すれば、それら3本の支柱100の端部を結ぶ面は完全に固定され、燃料タンク10の剛性が確保される。4本以上の支柱100を設置すれば、各支柱100への負荷は軽減されるが、支柱100の取付け作業の負荷が増えることになる。
【0041】
ここで、燃料タンクは、車両に設置され、燃料としては例えばガソリンを貯蔵する部材として使用されるが、燃料タンクに貯蔵されたガソリンは、外気や構造上、燃料タンクの近くを通る排気管の影響を受けて昇温される。そのため、ガソリンの蒸気圧が上昇し、燃料タンクの内部が正圧となる。例えば、夜間の駐車中は、気温の低下により燃料の蒸気圧が低下して、燃料タンクの内部が負圧になることがある。また、運転中の燃料の消費に伴い、液量が低下して燃料タンク内部の圧力が下がることもある。更には、運転中にキャニスターを通じてエンジン側にガソリン蒸気がパージされ、燃料タンク内部の圧力が下がることも考えられる。このように、燃料タンクの内部は正圧と負圧を繰り返すことになる。この圧力変化で燃料タンクの形状が変化すると、パネルの一部で生じた歪が鋼の降伏点を超えて塑性域に入り、低サイクル疲労を起こす懸念がある。燃料タンクの変形量は板厚を上げることで抑制させることができることから、通常は低サイクル疲労を生じさせないように板厚が設計される。
【0042】
また、板厚設計においては、振動疲労、すなわち、高サイクル疲労も考慮される。燃料タンクは、車両の下部にボルトあるいはベルトで取り付けられる。車両が走行するとき、路面からの振動が燃料タンクに伝わる。燃料タンクは、所定の振動固有値を持っており、板厚を下げると固有値が低下し、路面からの入力周波数に近づき、共振現象を起こし易くなる。このため、振動疲労を避けるために板厚が決定されることもある。
このように、従来、鋼製の燃料タンクでは、圧力疲労および振動疲労を回避するために板厚を薄くすることが困難であった。
【0043】
更に、近年、耐圧性の高い燃料タンクも要請されつつある。これは、蒸気エミッション規制が強化される傾向にあることを受けて、燃料システム系からガソリン蒸気が大気に逸散しないように活性炭キャニスターの設置が採用されている。キャニスターに吸着されたガソリン蒸気は、エンジンの稼動中にパージされ、大気に放出されることはない。この際、キャニスターは乾燥される。しかし、発電機付きの電気自動車やプラグインハイブリッド車ではエンジンが稼動している時間が短く、キャニスターに吸着されたガソリンが乾燥し難くなる。キャニスターの負荷を軽減するには燃料タンクとの隔離弁の開放圧を上げる必要があり、その加圧量は30~40kPaと言われている。通常、この圧力に耐える鋼製の燃料タンクを構築するには、通常の2倍前後の板厚を有するパネルを用いなければならず、燃料タンクの重量が増加することになる。
【0044】
このように、従来の鋼製の燃料タンクは剛性を確保するためにパネルの板厚を薄くすることが困難であった。そこで鋼製タンクの内部に樹脂製支柱を設置し、耐圧性を向上させ、結果として燃料タンクの軽量化を図る方法が当該出願人の名前による特許文献2として開示されている。この手法は金属製の台座にねじ加工を施し、樹脂支柱を螺合させると言う方法であるが、燃料タンクのアッパー面と対向するロアー面に少なくとも台座を設置する平行な面が必要となる。そこで、燃料タンクのポンプ用開口部周縁の圧力による変形防止のため、台座に代え、ナットと言う極僅かの面積で支柱設置を可能とするのが、本発明である。
【0045】
[梁]
上下面を繋ぐ支柱構造を検討して行くなかで、燃料タンクにおいてシーム溶接するフランジ部近傍の横方向の膨れが問題となった。扁平型燃料タンクの場合は上下方向の膨れが大きく、横方向の膨れはそれほど問題とならなかったが、上下面の間隔が大きい、すなわち高さのある燃料タンクの場合は、上下の膨れを抑えると横方向が膨れる現象が見られた。この膨れを抑える方法としては燃料タンクをフロアーに取り付けるバンドを用いることが一般的であるが、このバンドもアッパー面をフロアーに当て、ロアー側からバンドで支える構造のため、横方向の膨れには殆ど効果がなかった。
【0046】
鋼製タンクの場合はアッパーとロアーパネルを別々にプレス加工で製造し、その内部にバッフル、配管、パイプやバルブの取付けを行う。よって、梁構造を取り付けることも可能である。これまで、バッフルを梁構造用として用いる事例はあった。例えば、商用車用のドラムタンクでは、胴体を巻き、縦シーム溶接を施した後、角筒となった胴体の内部に四角形のバッフルを圧入して、バッフルの4隅のフランジをスポット溶接で固定することがあった。内部に部品の設置が少ない場合はこのようなことも可能であるが、PHV用高圧タンクでは、圧力調整用の様々な部品が取り付けられることが予想され、バッフルと干渉することが考えられる。そのような場合、柱状の梁構造であれば、部品類への干渉が少ない。
【0047】
<6.一設計例>
上述した本実施形態に係る燃料タンク10は、例えば有限要素法を用いたコンピューターシミュレーションを用いて設計が可能である。具体的には、まず支柱100を設けない状態で、燃料タンク10の内部圧力を正圧あるいは負圧にした場合に、燃料タンクに生じるひずみ範囲の高い位置を求める。この最大ひずみ範囲位置に近く、燃料タンク10用の第1穴11cから手を入られる場所に支柱100を取り付けるようにする。1本の支柱100では不安定であることから、できれば支柱100を2本設置する。次いで、支柱100を2本設置した点を底辺とした二等辺三角形を成す頂点部に、3本目の支柱100を設置する。アッパーパネル11のポンプ取付け用の第1穴11cの近傍に第2穴11dを明けて、支柱100を貫通させて第2ナット107によりネジ止めを行う。ポンプ取付けのため、図1に示すリテーナー15と言う厚さ2~4mmの金属製の台座が、アッパーパネル11における第1穴11cの開口周縁部に取り付けられるが、支柱100の設置はその近傍が好ましい。燃料タンク10の組み立て時に、リテーナー15から手を入れて作業できることと、リテーナー15の剛性を利用し、アッパーパネル11側の支柱100の取付け部の疲労を防ぐことができるからである。
【0048】
ついでコンピューターシミュレーションにより支柱100に加わる力を計算し、十分な引張力および座屈力を確保し得る支柱100の直径を決定する。支柱100の強度は、支柱100に加わる力の2倍以上あることが好ましい。完全弾性域で支柱100を使い、支柱100の疲労破壊を防ぐためである。
【0049】
リテーナー15周辺に適切な支柱100を設置し、更に圧力計算を行う。もし、横方向に膨れが増し、シーム溶接されたフランジ部11b,12b近傍にひずみの増大が見られ、疲労破壊が懸念されるようになった場合は、梁30の設置を行う。梁30の設置場所は、ひずみの大きな部位の近傍とする。
一具体例として、一般的な鋼製の高圧タンクの板厚として1.6mmを仮定する。また、そのアッパーパネル11とロアーパネル12の重量の和を16kgとする。かかる燃料タンク10に3本の支柱100を設置すると、板厚が1.6mmの場合と同等の耐圧性を確保しながら、1.2mmに板厚を下げ得ることが判明した。この時のパネルの重量は、12kgである。更に板厚を1.0mmとすると、シーム溶接ビード付近に疲労き裂の可能性が示された。そこで、梁30を1本追加することで、1.0mmの板厚でも耐圧性が確保されることが判明した。この時のパネルの重量が10kgである。直径6mmの鋼製の支柱100を用いると、ナットの重量を含めて支柱100や梁30の重量は1本当たり、100g以下である。この重量を加えても、元の重量より大幅な軽量化ができる。
【0050】
次に、燃料タンクの形状と、支柱100及び梁30との関係について説明する。
鋼製の燃料タンク10は、フランジ付きのアッパーパネル11とロアーパネル12とを別々にプレス加工し、内部の部品類を取り付けた後、フランジ部11b,12bを重ねてシーム溶接することより、一体の部品に加工される。燃料タンク10の側面はそのシーム溶接部により剛性が高められていることから、上下面の剛性が相対的に低くなる。そのため、燃料タンク10の上下面を支柱100で繋ぐことで、燃料タンク10の全体の剛性、すなわち、耐圧性を高めることができる。
燃料タンク10の内圧は、燃料タンク10の内面に均等に掛かる。よって、剛性の低い面の変形が大きくなり、それが起因して圧力疲労破壊が発生する。上下面に支柱100を設置することで上下面の剛性を高めて変化量を低減すると、側面のシーム溶接ビード部に疲労破壊が生じる現象が見られた。すなわち、上下面が支柱100で支持されていない場合、上下面の剛性は側面の剛性より低いが、上下面を支柱100で支持すると、この剛性の高低の関係は逆転し、側面の剛性は上下面の剛性より低くなる。
そして、支柱100を設置することで上下面の剛性が側面の剛性を上回った時にこの側面の疲労き裂が見られるという知見が得られた。このような場合には梁構造(ロアーパネル12及びアッパーパネル11の少なくとも一方に、鋼製で円柱状の梁30が取り付けられている構造)を採用することで更なる耐圧性改善の得られることが分かった。梁構造を用いるべき燃料タンク10の形状を補足説明する。
以下、直方体状の燃料タンク10の寸法を、幅W、長さL及び高さHとし、幅Wと長さLで囲まれる面(上下面)をWL面とし、WL面に掛かる圧力をPWLとする。同様に、幅Wと高さHで囲まれる面(側面)をWH面とし、WH面に掛かる圧力をPWHとし、長さLと高さHで囲まれる面(側面)をLH面とし、LH面に掛かる圧力をPLHとする。燃料タンク10の側面となるWH面及びLH面には、シーム溶接ライン(溶接ビード)が、燃料タンク10を周回するように、連続的に設けられている。
燃料タンク10の形状は、立方体タンク、扁平タンク及び直方体タンクの3つに大別することができる。立方体タンクは、幅W、長さL及び高さHが実質的に等しい形状である。扁平タンクは、幅Wと長さLとが実質的に等しく、高さHが幅W及び長さLより小さい形状である。直方体タンクは、幅W又は高さHを大きくとり、長さLを小さくとった形状である。
燃料タンク10の形状が、立方体タンク、扁平タンク及び直方体タンクのそれぞれの場合における、支柱100と梁30の考え方を以下に説明する。
(1)立方体タンクの場合
PHVでは後部座席の下にバッテリーあるいはバッテリーを制御する装置が設置され、燃料タンクがその横に設置されることがある。その形状は立方体に近い形状となる。燃料タンクの容量をVoとし、表面積をSとする時、容積効率Vo/Sを最大化する6面体は立方体であり、理にかなった形状とも言える。
立方体であるので、PWL=PWH=PLHとなる。ここで相対する面に掛かる圧力は同じである。側面はシーム溶接のフランジ構造により剛性が上下面より高いので、相対的に剛性の低い上下面に支柱100を設けることで、燃料タンク10の全体の剛性を均等化することが可能であり、梁30の設置は不要である。
(2)扁平タンクの場合
車内空間を広く取るために燃料タンク10の高さHを100~200mm程度とすることがある。このような燃料タンク10では上下面の面積が広がるため、圧力負荷は側面に掛かる負荷よりも相対的に大きくなる。すなわち、PWL>PWH(PLH)であることから、支柱100の設置で上下面の剛性を上げても、側面の剛性を上回ることはない。よって、梁30の設置は不要である。
(3)直方体タンクの場合
バッテリーの後方に燃料タンク10を設置することがある。このような場合、車両の左右方向に沿う燃料タンク10の幅W又は高さHを大きくとり、車両の前後方向に沿う長さLを小さくとった直方体タンクが採用されることとなる。このような燃料タンク10に掛かる内圧は次のようになる。
(長さL=高さHの時)PWL=PWH あるいは
(長さL<高さHの時)PWL<PWH
上下面に支柱100を設置すると上下面の剛性が上がるため、WH面の剛性が最も低くなる。これを補うために梁30が必要となる。
L<Hの場合で梁30の設置を検討すると、幅Wと高さHの比が1.5を超える場合において、梁30を設置することが好ましい。WH面の圧力による変形を抑えている(支持している)のは、その両側面にあるLH面であるので、幅Wが大きくなると、それに連れてWH面のたわみも大きくなり、WH面の中央部の変形が大きくなる。このため、WH面の圧力変動による疲労破壊が懸念されるようになる。そこで、好ましくは、W/H>1.5の時に梁30を1本以上設置することで、変形を抑え、圧力剛性及び疲労耐性を高めることができる。燃料タンク10には燃料を吸い上げるためのポンプが設置されるので、それを避ける位置に設置するとよい。梁30を設置する位置と本数は、コンピューターシミュレーションにより決定する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
燃料タンクの耐圧性を高め、かつ、軽量化を実現することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 燃料タンク
11 アッパーパネル
12 ロアーパネル
30 梁
40 第2バッフル板
50 第1バッフル板
100 支柱
108 半田
V 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15