(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230705BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230705BHJP
C21D 8/02 20060101ALN20230705BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20230705BHJP
C21D 8/10 20060101ALN20230705BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D8/02 D
C21D8/06 B
C21D8/10 D
(21)【出願番号】P 2021570104
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000448
(87)【国際公開番号】W WO2021141107
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2020003010
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小薄 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】栗原 伸之佑
(72)【発明者】
【氏名】浄▲徳▼ 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠平
(72)【発明者】
【氏名】青田 翔伍
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043565(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181570(WO,A1)
【文献】特開2017-8413(JP,A)
【文献】国際公開第2021/015283(WO,A1)
【文献】特開2021-21093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼材であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.50%以下、
Mn:2.00%以下、
P:0.045%以下、
S:0.0300%以下、
Cr:15.00~25.00%、
Ni:8.00~20.00%、
N:0.050~0.250%、
Nb:0.10~1.00%、
Mo:0.05~5.00%、
B:0.0005~0.0100%、
Ti:0~0.50%、
Ta:0~0.50%、
V:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Hf:0~0.10%、
Cu:0~4.00%、
W:0~5.00%、
Co:0~1.00%、
sol.Al:0~0.100%、
Ca:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
希土類元素:0~0.100%、
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Zn:0~0.010%、
Pb:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材中のN含有量(質量%)に対する前記オーステナイト系ステンレス鋼材中の固溶N量(質量%)の比が0.40~0.90である、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
【請求項2】
請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は、第1群~第4群のいずれかの群に属する少なくとも1元素以上を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
第1群:
Ti:0.01~0.50%、
Ta:0.01~0.50%、
V:0.01~1.00%、
Zr:0.01~0.10%、及び、
Hf:0.01~0.10%、
第2群:
Cu:0.01~4.00%、
W:0.01~5.00%、及び、
Co:0.01~1.00%、
第3群:
sol.Al:0.001~0.100%、
第4群:
Ca:0.0001~0.0200%、
Mg:0.0001~0.0200%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼材に関し、さらに詳しくは、オーステナイト系ステンレス鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントや石油化学プラント等の化学プラント設備に用いられる鋼材は、高温強度が求められる。これらの化学プラント設備用途の鋼材として、オーステナイト系ステンレス鋼材が用いられている。
【0003】
化学プラント設備は複数の装置を含む。化学プラント設備の各装置はたとえば、減圧蒸留装置、脱硫装置、接触改質装置等である。これらの装置は、加熱炉管、反応塔、槽、熱交換器、配管等を含む。各装置の操業時の平均温度は異なる。以下、操業時の平均温度を「平均操業温度」という。化学プラント設備で処理する原料と生成物とによって、操業温度は大きく変化する。そして、化学プラント設備の装置には、600超~750℃の平均操業温度で稼働する装置も複数存在する。
【0004】
600超~750℃の平均操業温度で稼働する装置では、高いクリープ強度が求められる。
【0005】
国際公開第2018/043565号(特許文献1)では、高温域で使用されるオーステナイト系ステンレス鋼材のクリープ強度の改善について開示されている。この文献に開示されているオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.10~1.00%、Mn:0.20~2.00%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cr:16.0~25.0%、Ni:10.0~30.0%、Mo:0.1~5.0%、Nb:0.20~1.00%、N:0.050~0.300%、sol.Al:0.0005~0.100%、B:0.0010~0.0080%、Cu:0~5.0%、W:0~5.0%、Co:0~1.0%、V:0~1.00%、Ta:0~0.2%、Hf:0~0.20%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.010%、及び、希土類元素:0~0.10%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成を有する。ここで、式(1)は次のとおりである。B+0.004-0.9C+0.017Mo2≧0。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、化学プラント設備を新規に建設したり、化学プラント設備を補修したりする場合、化学プラント設備内の装置に使用される鋼材は、化学プラントが所在する現地にて、溶接される。最近の溶接施工では、溶接のパス数を低減するために、入熱量を大きくした大入熱溶接が採用される場合が多い。
【0008】
上述のとおり、600℃超の平均操業温度で使用される鋼材には優れた高温強度が要求される。そのため、鋼材が厚肉化及び/又は大型化しやすい。このような鋼材が溶接された場合、溶接熱影響部(以下、HAZともいう)には大きな残留応力が生じる。このような鋼材を600℃超の平均操業温度で使用する場合、溶接熱影響部の残留応力が緩和する応力緩和過程が生じる。応力緩和過程では、溶接熱影響部での残留応力の回復途中で結晶粒内に炭化物が生成し、二次誘起析出硬化が発現する。二次誘起析出硬化により、粒内と粒界の硬さの差が増大する。その結果、粒界に応力緩和割れが生じる場合がある。したがって、600超~750℃の平均操業温度で長期間使用される鋼材では、クリープ強度が高いだけでなく、応力緩和割れを抑制できる、つまり、耐応力緩和割れ性が高いことも望まれる。
【0009】
特許文献1に提案されたオーステナイト系ステンレス鋼は、優れたクリープ強度を示す。しかしながら、特許文献1では、耐応力緩和割れ性に関する検討がされていない。
【0010】
本開示の目的は、大入熱溶接後の600超~750℃の平均操業温度での使用においても、高いクリープ強度を有し、かつ、大入熱溶接後に600超~750℃の平均操業温度で長時間使用した後であっても、優れた耐応力緩和割れ性を有する、オーステナイト系ステンレス鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
オーステナイト系ステンレス鋼材であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.50%以下、
Mn:2.00%以下、
P:0.045%以下、
S:0.0300%以下、
Cr:15.00~25.00%、
Ni:8.00~20.00%、
N:0.050~0.250%、
Nb:0.10~1.00%、
Mo:0.05~5.00%、
B:0.0005~0.0100%、
Ti:0~0.50%、
Ta:0~0.50%、
V:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Hf:0~0.10%、
Cu:0~4.00%、
W:0~5.00%、
Co:0~1.00%、
sol.Al:0~0.100%、
Ca:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
希土類元素:0~0.100%、
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Zn:0~0.010%、
Pb:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材中のN含有量(質量%)に対する前記オーステナイト系ステンレス鋼材中の固溶N量(質量%)の比が0.40~0.90である。
【発明の効果】
【0012】
本開示のオーステナイト系ステンレス鋼材は、大入熱溶接後の600超~750℃の平均操業温度での使用においても、高いクリープ強度を有し、かつ、大入熱溶接後に600超~750℃の平均操業温度で長時間使用した後であっても、優れた耐応力緩和割れ性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、大入熱溶接後の600超~750℃の平均操業温度での使用においても、高いクリープ強度を有し、かつ、大入熱溶接後に600超~750℃の平均操業温度で長時間使用した後であっても、優れた耐応力緩和割れ性を有するオーステナイト系ステンレス鋼材について、検討を行った。以下、600超~750℃の平均操業温度の環境を「高温環境」ともいう。
【0014】
本発明者らは初めに、耐応力緩和割れ性に関して検討を行った。応力緩和割れは次のメカニズムで発生すると考えられる。高温環境において、鋼材中の粒界にはCr炭化物が生成する。これにより、粒界に沿ってCr欠乏領域(脱炭領域)が形成される。Cr欠乏領域は軟質である。そのため、二次誘起析出硬化した結晶粒の粒内と、粒界に沿ったCr欠乏領域との強度差が大きくなる。その結果、応力緩和割れが発生する。
【0015】
したがって、耐応力緩和割れ性を高めるためには、粒界に沿ったCr欠乏領域の生成を抑制することが有効である。Cr欠乏領域の生成を抑制するためには、鋼材中にCr炭化物が生成するのを抑制する必要がある。Cr炭化物の生成を抑制するには、C含有量を低減し、かつ、鋼材中のCがCrと結合するのを抑制するため、鋼材にNbを含有して鋼材中のCをNbCとして結合させることが有効である。
【0016】
以上の事項を考慮して、本発明者らは鋼材の化学組成を検討した。その結果、化学組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.50%以下、Mn:2.00%以下、P:0.045%以下、S:0.0300%以下、Cr:15.00~25.00%、Ni:8.00~20.00%、N:0.050~0.250%、Nb:0.10~1.00%、Mo:0.05~5.00%、B:0.0005~0.0100%、Ti:0~0.50%、Ta:0~0.50%、V:0~1.00%、Zr:0~0.10%、Hf:0~0.10%、Cu:0~4.00%、W:0~5.00%、Co:0~1.00%、sol.Al:0~0.100%、Ca:0~0.0200%、Mg:0~0.0200%、希土類元素:0~0.100%、Sn:0~0.010%、As:0~0.010%、Zn:0~0.010%、Pb:0~0.010%、Sb:0~0.010%、及び、残部がFe及び不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼材であれば、クリープ強度を高めつつ、耐応力緩和割れ性を高めることができると考えた。
【0017】
上記化学組成とすれば、Cr欠乏領域の生成を抑制することができる。しかしながら、上記化学組成であっても、C及びCrが含有されるため、Cr欠乏領域はどうしても生成してしまう。そこで、本発明者らは、従来とは発想の異なる手段により応力緩和割れを抑制することを検討した。本発明者らは、C含有量を0.030%以下に抑えて極力Cr欠乏領域の発生を抑制しつつ、それに加えて、Cr欠乏領域が生成しても、Cr欠乏領域を強化する方法について検討を行った。
【0018】
Cr欠乏領域は脱炭領域であるため、Cr欠乏領域において炭化物の析出強化を用いることはできない。そこで、本発明者らは、高温環境における使用時に、鋼材中に窒化物を析出させることを考えた。窒化物の生成では、Cを使用しないため、Cr欠乏領域(脱炭領域)が増大することはない。結晶粒界近傍に生成したCr欠乏領域に、高温環境における使用中に窒化物が析出すれば、析出強化により、結晶粒界近傍の軟化を抑制できる。そのため、二次誘起析出硬化した結晶粒の粒内と、結晶粒界に沿って形成されたCr欠乏領域との強度差を小さくでき、耐応力緩和割れ性を高めることができる。さらに、Cr欠乏領域を強化することにより、クリープ強度も高まる。
【0019】
さらに、上記の耐応力緩和割れ抑制と高クリープ強度とを共に発揮するためには、高温環境での使用時において、Cr欠乏領域及び粒内を析出強化する窒化物を形成するための固溶N量を確保した上で、使用前の鋼材において、窒化物を予め析出させるのが重要である。使用前の鋼材での窒化物の生成により、窒化物のピンニング効果が発生して結晶粒を細粒化できる。結晶粒を細粒化できれば、Cr炭化物の粒界析出量(被覆率)が低くなり、さらに、リン(P)や硫黄(S)の粒界偏析量が小さくなる。この場合、結晶粒界及び結晶粒界近傍の硬度低下を抑制でき、結晶粒の粒内と結晶粒界及びCr欠乏領域との強度差を小さくできる。そのため、鋼材の耐応力緩和割れ性が高まる。
【0020】
以上のとおり、本発明者らは、高温環境での使用前の鋼材では窒化物を生成してピンニング効果により結晶粒を微細化しつつ、高温環境での使用中の鋼材では窒化物を生成してCr欠乏領域を強化することにより、耐応力緩和割れ性を高めることができると考えた。そして、クリープ強度と耐応力緩和割れ性との両立を考慮した結果、上述の化学組成を有し、かつ、鋼材中のN含有量に対する鋼材中の固溶N量の比が0.40~0.90であれば、クリープ強度と耐応力緩和割れ性との両立が可能であることを本発明者らは見出した。
【0021】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、次の構成を有する。
【0022】
[1]
オーステナイト系ステンレス鋼材であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.50%以下、
Mn:2.00%以下、
P:0.045%以下、
S:0.0300%以下、
Cr:15.00~25.00%、
Ni:8.00~20.00%、
N:0.050~0.250%、
Nb:0.10~1.00%、
Mo:0.05~5.00%、
B:0.0005~0.0100%、
Ti:0~0.50%、
Ta:0~0.50%、
V:0~1.00%、
Zr:0~0.10%、
Hf:0~0.10%、
Cu:0~4.00%、
W:0~5.00%、
Co:0~1.00%、
sol.Al:0~0.100%、
Ca:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
希土類元素:0~0.100%、
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Zn:0~0.010%、
Pb:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材中のN含有量(質量%)に対する前記オーステナイト系ステンレス鋼材中の固溶N量(質量%)の比が0.40~0.90である、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
【0023】
[2]
[1]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は、第1群~第4群のいずれかの群に属する少なくとも1元素以上を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
第1群:
Ti:0.01~0.50%、
Ta:0.01~0.50%、
V:0.01~1.00%、
Zr:0.01~0.10%、及び、
Hf:0.01~0.10%、
第2群:
Cu:0.01~4.00%、
W:0.01~5.00%、及び、
Co:0.01~1.00%、
第3群:
sol.Al:0.001~0.100%、
第4群:
Ca:0.0001~0.0200%、
Mg:0.0001~0.0200%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%。
【0024】
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0025】
[化学組成について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
【0026】
C:0.030%以下
炭素(C)は不可避に含有される。つまり、C含有量は0%超である。Cは、粒界にM23C6型のCr炭化物を生成する。この場合、粒界にCr欠乏領域が生成し、鋼材の耐応力緩和割れ性が低下する。C含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐応力緩和割れ性が顕著に低下する。したがって、C含有量は0.030%以下である。C含有量の好ましい上限は0.026%であり、さらに好ましくは0.024%であり、さらに好ましくは0.022%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.018%である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の過剰な低減は製造コストを高くする。したがって、工業生産上、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0027】
Si:1.50%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは、製鋼工程において、鋼を脱酸する。Siはさらに、高温環境(600超~750℃の平均操業温度)で鋼材を使用する場合において、鋼材の耐酸化性及び耐水蒸気酸化性を高める。Siが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Si含有量が1.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接割れ感受性を顕著に高める。さらに、高温環境での長時間使用により、鋼材中にシグマ相(σ相)を生成する。σ相は、鋼材の靱性を低下する。したがって、Si含有量は1.50%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.18%である。Si含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.20%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0028】
Mn:2.00%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。Mnは、鋼材中のSと結合してMnSを形成し、鋼材の熱間加工性を高める。Mnはさらに、溶接時において鋼材の溶接部を脱酸する。Mnが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mn含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境での使用時において、シグマ相(σ相)が生成しやすくなる。σ相は、高温環境での使用時における鋼材の靱性を低下する。したがって、Mn含有量は2.00%以下である。Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.60%である。Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.50%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.10%であり、さらに好ましくは0.95%である。
【0029】
P:0.045%以下
燐(P)は不可避に含有される。つまり、P含有量は0%超である。Pは、大入熱溶接時において、鋼材の粒界に偏析する。その結果、耐応力緩和割れ性を低下する。P含有量が0.045%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、耐応力緩和割れ性が低下する。したがって、P含有量は0.045%以下である。P含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.030%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、鋼材の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0030】
S:0.0300%以下
硫黄(S)は不可避に含有される。つまり、S含有量は0%超である。Sは、大入熱溶接時において、鋼材の粒界に偏析する。その結果、耐応力緩和割れ性を低下する。S含有量が0.0300%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、耐応力緩和割れ性が低下する。したがって、S含有量は0.0300%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、鋼材の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
【0031】
Cr:15.00~25.00%
クロム(Cr)は、高温環境での鋼材使用時において、鋼材の耐酸化性及び耐食性を高める。Cr含有量が15.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が25.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境での鋼材中のオーステナイトの安定性が低下する。この場合、鋼材のクリープ強度が低下する。したがって、Cr含有量は15.00~25.00%である。Cr含有量の好ましい下限は16.00%であり、さらに好ましくは16.20%であり、さらに好ましくは16.40%である。Cr含有量の好ましい上限は24.00%であり、さらに好ましくは23.00%であり、さらに好ましくは22.00%であり、さらに好ましくは21.00%であり、さらに好ましくは20.00%であり、さらに好ましくは、19.00%である。
【0032】
Ni:8.00~20.00%
ニッケル(Ni)はオーステナイトを安定化して、高温環境での鋼材のクリープ強度を高める。Ni含有量が8.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が20.00%を超えれば、上記効果が飽和し、さらに、製造コストが高くなる。したがって、Ni含有量は8.00~20.00%である。Ni含有量の好ましい下限は、8.50%であり、さらに好ましくは9.00%であり、さらに好ましくは9.20%であり、さらに好ましくは9.40%である。Ni含有量の好ましい上限は18.00%であり、さらに好ましくは16.00%であり、さらに好ましくは15.00%であり、さらに好ましくは14.00%である。
【0033】
N:0.050~0.250%
窒素(N)はマトリクス(母相)に固溶してオーステナイトを安定化する。固溶Nはさらに、高温環境での使用中において鋼材中に微細な窒化物を形成する。微細な窒化物はCr欠乏領域を強化するため、鋼材の耐応力緩和割れ性を高める。高温環境での使用中に生成した微細な窒化物はさらに、析出強化によりクリープ強度を高める。N含有量が0.050%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.250%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、結晶粒界にCr窒化物(Cr2N)が生成する。この場合、粒界近傍で窒化物の析出量が減少する。そのため、粒界近傍の強度が低下する。その結果、粒内強度と粒界強度との差が大きくなり、耐応力緩和割れ性が低下する。したがって、N含有量は0.050~0.250%である。N含有量の好ましい下限は0.052%であり、さらに好ましくは0.055%であり、さらに好ましくは0.060%である。N含有量の好ましい上限は0.200%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.120%である。
【0034】
Nb:0.10~1.00%
ニオブ(Nb)は、高温環境での使用中において、Nとともに、鋼材中に微細な窒化物を形成する。微細な窒化物はCr欠乏領域を強化するため、鋼材の耐応力緩和割れ性を高める。高温環境での使用中に生成した微細な窒化物はさらに、析出強化によりクリープ強度を高める。Nbはさらに、Cと結合してMX型のNb炭化物を生成する。Nb炭化物を生成してCを固定することにより、鋼材中の固溶C量が低減する。これにより、高温環境での鋼材の使用中において、粒界でのCr炭化物の析出が抑制され、鋼材の耐応力緩和割れ性が高まる。Nb含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化物及び炭化物が過剰に生成する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性が低下する。したがって、Nb含有量は0.10~1.00%である。Nb含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.23%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.35%である。Nb含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0035】
Mo:0.05~5.00%
モリブデン(Mo)は、高温環境での鋼材の使用中において、粒界でのM23C6型のCr炭化物が生成及び成長するのを抑制する。これにより、鋼材の耐応力緩和割れ性が高まる。Moはさらに、固溶強化元素として、高温環境での鋼材のクリープ強度を高める。Mo含有量が0.05%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、結晶粒内において、LAVES相等の金属間化合物の生成を顕著に促進する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性が低下する。したがって、Mo含有量は0.05~5.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.06%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.24%であり、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.32%である。Mo含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.50%であり、さらに好ましくは1.00%である。
【0036】
B:0.0005~0.0100%
ボロン(B)は、高温環境での鋼材の使用中において、粒界に偏析し、粒界強度を高める。そのため、鋼材の耐応力緩和割れ性を高める。B含有量が0.0005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、B含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Bが粒界でのCr炭化物の生成を促進する。この場合、鋼材の耐応力緩和割れ性が低下する。したがって、B含有量は0.0005~0.0100%である。B含有量の好ましい下限は0.0012%であり、さらに好ましくは0.0014%であり、さらに好ましくは0.0016%であり、さらに好ましくは0.0018%であり、さらに好ましくは0.0020%である。B含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
【0037】
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、オーステナイト系ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0038】
不純物のうち、Sn、As、Zn、Pb及びSbの含有量はそれぞれ、次のとおりである。
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Zn:0~0.010%、
Pb:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、
すず(Sn)、ヒ素(As)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)及びアンチモン(Sb)はいずれも、不純物である。Sn含有量は0%であってもよい。同様に、As含有量は0%であってもよい。Zn含有量は0%であってもよい。Pb含有量は0%であってもよい。Sb含有量は0%であってもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、粒界に偏析して粒界の融点を下げたり、粒界の結合力を低下したりする。Sn含有量が0.010%を超える場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び溶接性が低下する。同様に、As含有量が0.010%を超える場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び溶接性が低下する。Zn含有量が0.010%を超える場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び溶接性が低下する。Pb含有量が0.010%を超える場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び溶接性が低下する。Sb含有量が0.010%を超える場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Sn含有量は0~0.010%である。As含有量は0~0.010%である。Zn含有量は0~0.010%である。Pb含有量は0~0.010%である。Sb含有量は0~0.010%である。
【0039】
[任意元素について]
[第1群任意元素]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ti、Ta、V、Zr及びHfからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、Cと結合して炭化物を生成し、固溶C量を低減することにより、鋼材の耐応力緩和割れ性をさらに高める。
【0040】
Ti:0~0.50%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、鋼材中のCと結合して炭化物を生成する。これにより、Cr炭化物の生成が抑制され、鋼材の耐応力緩和割れ性がさらに高まる。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物が結晶粒内に過剰に析出する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性がかえって低下する。したがって、Ti含有量は0~0.50%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ti含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0041】
Ta:0~0.50%
タンタル(Ta)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ta含有量は0%であってもよい。含有される場合、Taは、Cと結合して炭化物を生成する。これにより、Cr炭化物の生成が抑制され、鋼材の耐応力緩和割れ性がさらに高まる。Taが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ta含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物が結晶粒内に過剰に析出する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性がかえって低下する。したがって、Ta含有量は0~0.50%である。Ta含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Ta含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0042】
V:0~1.00%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、Cと結合して炭化物を生成する。これにより、Cr炭化物の生成が抑制され、鋼材の耐応力緩和割れ性がさらに高まる。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物が結晶粒内に過剰に析出する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性がかえって低下する。したがって、V含有量は0~1.00%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは、0.04%であり、さらに好ましくは0.06%である。V含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0043】
Zr:0~0.10%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、Cと結合して炭化物を生成する。これにより、Cr炭化物の生成が抑制され、鋼材の耐応力緩和割れ性がさらに高まる。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物が結晶粒内に過剰に析出する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性がかえって低下する。したがって、Zr含有量は0~0.10%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Zr含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.06である。
【0044】
Hf:0~0.10%
ハフニウム(Hf)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Hf含有量は0%であってもよい。含有される場合、Hfは、Cと結合して炭化物を生成する。これにより、Cr炭化物の生成が抑制され、鋼材の耐応力緩和割れ性がさらに高まる。Hfが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Hf含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物が結晶粒内に過剰に析出する。この場合、結晶粒内の強度が過剰に高くなり、結晶粒内と結晶粒界との強度差が大きくなる。そのため、粒界面で応力集中が発生し、耐応力緩和割れ性がかえって低下する。したがって、Hf含有量は0~0.10%である。Hf含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Hf含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.06%である。
【0045】
[第2群任意元素]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu、W及びCoからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、600超~750℃の平均操業温度での鋼材のクリープ強度をさらに高める。
【0046】
Cu:0~4.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、高温環境での鋼材の使用中において、粒内にCu相として析出して、析出強化により鋼材のクリープ強度をさらに高める。Cu含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が4.00%を超えれば、高温環境での使用中において、Cu相の析出量が増大し、クリープ延性が低下する場合がある。したがって、Cu含有量は0~4.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.30%である。Cu含有量の好ましい上限は3.50%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%であり、さらに好ましくは2.00%である。
【0047】
W:0~5.00%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは、高温環境での鋼材の使用中において、固溶強化により、鋼材のクリープ強度をさらに高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながらW含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイトの安定性が低下して靱性が低下する。したがって、W含有量は0~5.00%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%である。W含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.50%である。
【0048】
Co:0~1.00%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Co含有量は0%であってもよい。含有される場合、Coはオーステナイトを安定化して、600超~750℃の平均操業温度での鋼材のクリープ強度をさらに高める。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Co含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、原料コストが高まる。したがって、Co含有量は0~1.00%である。Co含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.04%であり、さらに好ましくは0.10%である。Co含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0049】
[第3群任意元素]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Alを含有してもよい。Alは製鋼工程において、鋼を脱酸する。
【0050】
sol.Al:0~0.100%
アルミニウム(Al)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Al含有量は0%であってもよい。含有される場合、Alは製鋼工程において、鋼を脱酸する。Alが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、sol.Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の加工性及び延性が低下する。したがって、sol.Al含有量は0~0.100%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.040%である。本実施形態においてsol.Al含有量は、酸可溶Al(sol.Al)の含有量を意味する。
【0051】
[第4群任意元素]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼材の熱間加工性を高める。
【0052】
Ca:0~0.0200%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、鋼材の熱間加工性を高める。Caはさらに、Sを固定して、Sの粒界偏析を抑制する。これにより、溶接時のHAZの脆化割れを低減する。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の清浄性が低下し、鋼材の熱間加工性がかえって低下する。したがって、Ca含有量は0~0.0200%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
【0053】
Mg:0~0.0200%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、鋼材の熱間加工性を高める。Mgはさらに、Sを固定して、Sの粒界偏析を抑制する。これにより、溶接時のHAZの脆化割れを低減する。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の清浄性が低下し、鋼材の熱間加工性がかえって低下する。したがって、Mg含有量は0~0.0200%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
【0054】
希土類元素:0~0.100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、O(酸素)及びS(硫黄)を介在物として固定し、鋼材の熱間加工性を高める。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、REM含有量は0~0.100%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。REM含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%である。
【0055】
本明細書におけるREMは、Sc、Y、及び、ランタノイド(原子番号57番のLa~71番のLu)の少なくとも1元素又は2元素以上を含有し、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0056】
[オーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成分析方法]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、周知の成分分析法により求めることができる。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼管である場合、直径5mmのドリルを用いて、肉厚中央位置にて穿孔加工して切粉を生成し、その切粉を採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼板である場合、直径5mmのドリルを用いて、板幅中央位置かつ板厚中央位置にて穿孔加工して切粉を生成し、その切粉を採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が棒鋼である場合、直径5mmのドリルを用いてR/2位置にて穿孔加工して切粉を生成し、その切粉を採取する。ここで、R/2位置とは、棒鋼の長手方向に垂直な断面における、半径Rの中央位置を意味する。
【0057】
採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。
【0058】
[固溶N比率について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材中のN含有量(質量%)に対する鋼材中の固溶N量(質量%)の比を「固溶N比率」と定義する。つまり、固溶N比率は次の式で表される。
固溶N比率=鋼材中の固溶N量(質量%)/鋼材中のN含有量(質量%)
【0059】
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材において、固溶N比率は0.40~0.90である。
【0060】
固溶N比率が0.40未満であれば、オーステナイト系ステンレス鋼材中の窒化物が多すぎる。この場合、鋼材中のN固溶量が不足しているため、高温環境での使用中において、Cr欠乏領域に微細な窒化物が十分に析出しない。そのため、高温環境での鋼材の耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低下する。一方、固溶N比率が0.90を超えれば、オーステナイト系ステンレス鋼材中の窒化物が少なすぎる。この場合、窒化物による結晶粒微細化が不十分となる。その結果、粒界の強度が低下し、耐応力緩和割れ性が低下する。
【0061】
固溶N比率が0.40~0.90であれば、オーステナイト系ステンレス鋼材中において、高温環境での使用中に窒化物を生成するための十分な固溶N量が存在し、かつ、結晶粒を微細化するのに十分な窒化物が存在している。そのため、高温環境でのオーステナイト系ステンレス鋼材において、十分な耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が得られる。固溶N比率の好ましい下限は、0.45であり、さらに好ましくは0.48であり、さらに好ましくは0.50であり、さらに好ましくは0.55であり、さらに好ましくは0.58であり、さらに好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.63である。固溶N比率の好ましい上限は0.88であり、さらに好ましくは0.86であり、さらに好ましくは0.85であり、さらに好ましくは0.83であり、さらに好ましくは0.80であり、さらに好ましくは0.78であり、さらに好ましくは0.75である。
【0062】
[固溶N比率の測定方法]
固溶N比率は次の方法で測定できる。具体的には、上述の化学分析法により鋼材中のN含有量(以下、全N含有量という)を求める。また、電解抽出残渣法により、残渣中のN量(以下、残渣N量という)を求める。得られた全N含有量及び残渣N量とを用いて、次式により固溶N比率を求める。
固溶N比率=(1-残渣N量/全N含有量)
より具体的には、次の方法により求める。
【0063】
オーステナイト系ステンレス鋼材から、試験片を採取する。試験片の長手方向に垂直な断面は、円形であっても矩形であってもよい。オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼管である場合、試験片の長手方向に垂直な断面の中心が肉厚中央位置となり、試験片の長手方向が鋼管の長手方向となるように、試験片を採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼板である場合、試験片の長手方向に垂直な断面の中心が板厚中央位置となり、試験片の長手方向が鋼板の長手方向となるように、試験片を採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が棒鋼である場合、試験片の長手方向に垂直な断面の中心が棒鋼のR/2位置となり、試験片の長手方向が棒鋼の長手方向となるように、試験片を採取する。
【0064】
採取した試験片の表面を、予備の電解研磨にて50μm程度研磨して新生面を得る。電解研磨した試験片を、電解液(10%アセチルアセトン+1%テトラアンモニウム+メタノール)で電解する。電解後の電解液を0.2μmのフィルターを通して残渣を捕捉する。得られた残渣を酸分解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析にて、残渣中のNの質量を求める。さらに、本電解前の試験片の質量と、本電解後の試験片の質量を測定する。そして、本電解前の試験片の質量から本電解後の試験片の質量を差し引いた値を、本電解された母材質量と定義する。残渣中のN質量を本電解された母材質量で除して、残渣N量(質量%)を求める。つまり、次の式に基づいて、残渣N量(質量%)を求める。
残渣N量=残渣中のN質量/母材質量×100
【0065】
上述の周知の成分分析法により、鋼材中の全N含有量(質量%)を求める。求めた全N含有量及び残渣N量とを用いて、次式により固溶N比率を求める。
固溶N比率=(1-残渣N量/全N含有量)
【0066】
[本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の形状]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の形状は特に限定されない。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよい。また、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、鍛造品であってもよい。
【0067】
[本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の用途について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、600超~750℃の平均操業温度(つまり、高温環境)で使用される装置用途に適する。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はさらに、大入熱溶接が実施された後、600超~750℃の平均操業温度で長期間使用される装置用途に適する。600超~750℃の平均の操業温度であり、一時的に操業温度が750℃を超える場合があっても、平均の操業温度が600超~750℃であれば、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の使用に適する。これらの装置の最高到達温度は750℃よりも高くてもよい。このような装置はたとえば、石油精製や石油化学に代表される化学プラント設備の装置である。これらの装置はたとえば、加熱炉管、槽、配管等を備える。
【0068】
なお、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、化学プラント設備以外の他の設備にも当然に使用可能である。化学プラント設備以外の他の設備はたとえば、化学プラント設備と同様に600超~750℃程度の平均操業温度での使用が想定される、火力発電ボイラ設備(たとえばボイラチューブ)等である。
【0069】
[本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法]
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法を説明する。以降に説明するオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の一例である。したがって、上述の構成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の好ましい一例である。
【0070】
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、素材を準備する工程(準備工程)と、素材に対して熱間加工を実施して中間鋼材を製造する工程(熱間加工工程)と、必要に応じて、熱間加工工程後の中間鋼材に対して酸洗処理を実施した後冷間加工を実施する工程(冷間加工工程)と、冷間加工工程後の中間鋼材に対して、溶体化処理を実施する工程(溶体化処理工程)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0071】
[準備工程]
準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は第三者から供給されてもよいし、製造してもよい。素材はインゴットであってもよいし、スラブ、ブルーム、ビレットであってもよい。素材を製造する場合、次の方法により、素材を製造する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造する。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブ、ブルーム、ビレット(円柱素材)を製造してもよい。製造されたインゴット、スラブ、ブルームに対して熱間加工を実施して、ビレットを製造してもよい。たとえば、インゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造し、このビレットを素材(円柱素材)としてもよい。この場合、熱間鍛造開始直前の素材の温度は特に限定されないが、たとえば、1000~1300℃である。熱間鍛造後の素材の冷却方法は特に限定されない。
【0072】
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、準備工程において準備された素材に対して熱間加工を実施して、中間鋼材を製造する。中間鋼材はたとえば鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよい。
【0073】
中間鋼材が鋼管である場合、熱間加工工程では、次の加工を実施する。初めに、円柱素材を準備する。機械加工により、円柱素材の中心軸に沿った貫通孔を形成する。貫通孔が形成された円柱素材に対して、ユジーンセジュルネ法に代表される熱間押出を実施して、中間鋼材(鋼管)を製造する。熱間押出直前の素材の温度は特に限定されない。熱間押出直前の素材の温度はたとえば、1000~1300℃である。熱間押出法に代えて、熱間押抜き製管法を実施してもよい。
【0074】
熱間押出に代えて、マンネスマン法による穿孔圧延を実施して、鋼管を製造してもよい。この場合、穿孔機により丸ビレットを穿孔圧延する。穿孔圧延する場合、穿孔比は特に限定されないが、たとえば、1.0~4.0である。穿孔圧延された丸ビレットをさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。熱間加工工程での累積の減面率は特に限定されないが、たとえば、20~80%である。
【0075】
中間鋼材が鋼板である場合、熱間加工工程はたとえば、一対のワークロールを備える1又は複数の圧延機を用いる。スラブ等の素材に対して圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鋼板を製造する。熱間圧延前に素材を加熱する。加熱後の素材に対して熱間圧延を実施する。熱間圧延直前の素材の温度はたとえば、1000~1300℃である。
【0076】
中間鋼材が棒鋼である場合、熱間加工工程はたとえば、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程では、素材を熱間加工してビレットを製造する。粗圧延工程はたとえば、分塊圧延機を用いる。分塊圧延機により素材に対して分塊圧延を実施して、ビレットを製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が設置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、たとえば、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。粗圧延工程では、ブルーム等の素材をビレットに製造する。粗圧延工程直前の素材温度は特に限定されないが、たとえば、1000~1300℃である。仕上げ圧延工程では、初めにビレットを加熱する。加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、棒鋼を製造する。仕上げ圧延工程での加熱炉での加熱温度は特に限定されないが、たとえば、1000~1300℃である。
【0077】
熱間加工後の中間鋼材に対して、一定時間放冷した後、急冷を実施する。急冷の条件は次のとおりである。
熱間加工完了から急冷開始までの時間t1:0.50分~5.00分
急冷開始時の中間鋼材温度T1:700℃以上
熱間加工完了から急冷開始までの冷却速度CR1:15℃/分以上
【0078】
[熱間加工完了から急冷開始までの時間t1]
熱間加工完了から急冷開始までの時間t1(分)を「放置時間」t1と称する。熱間加工後の中間鋼材を急冷する場合、水冷装置を用いる。水冷装置により、中間鋼材を急冷(水冷)する。熱間加工完了から、急冷開始までの間に、中間鋼材をあえて一定時間放置する。これにより、窒化物の形成を促進する。放置時間t1が0.50分よりも短くなれば、窒化物が十分に生成しないまま急冷が開始される。この場合、熱間加工工程での他の条件、及び、後述する溶体化処理工程での条件を満たしていても、固溶N比率が0.90超となり、窒化物が不足する。そのため、ピンニング効果が十分に得られず、結晶粒が粗大化し、鋼材の耐応力緩和割れ性が低下する。一方、放置時間t1が5.00分よりも長くなれば、放置時間t1中において中間鋼材中に窒化物が多量に生成する。この場合、熱間加工工程での他の条件、及び、後述する溶体化処理工程での条件を満たしていても、固溶N比率が0.40%未満となり、固溶N量が不足する。この場合、高温環境での使用中において、Cr欠乏領域に微細な窒化物が十分に析出しない。そのため、鋼材の耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低下する。放置時間t1が0.50分~5.00分であれば、他の製造条件を満たすことを前提として、固溶N比率が0.40~0.90となり、優れた耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が得られる。放置時間t1の好ましい上限は4.50分であり、さらに好ましくは4.00分であり、さらに好ましくは3.50分である。
【0079】
[急冷開始時の中間鋼材の温度T1]
急冷開始時の中間鋼材の温度T1(℃)を、「急冷開始温度」T1と称する。急冷開始温度T1が700℃未満であれば、放置時間t1中の中間鋼材において、粗大な窒化物が生成する。また、粒界でCr炭化物が生成する。この場合、放置時間t1中において、中間鋼材内で窒化物が粗大に成長し、かつ、粒界でのCr炭化物が粗大化する。この場合、固溶N比率が0.40未満となり、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低下する。急冷開始温度T1が700℃以上であれば、放置時間t1中の中間鋼材において、微細な窒化物によるピンニング効果も作用して、結晶粒の粗大化が抑制される。そのため、急冷後の中間鋼材の結晶粒は微細に維持される。その結果、他の製造条件を満たすことを前提として、固溶N比率が0.40~0.90となり、優れた耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が得られる。急冷開始温度T1の好ましい下限は750℃であり、さらに好ましくは780℃であり、さらに好ましくは790℃超であり、さらに好ましくは800℃である。
【0080】
[熱間加工完了から急冷開始までの冷却速度CR1]
熱間加工完了から急冷開始までの冷却速度CR1(℃/分)が15℃/分未満であれば、放置時間t1中の中間鋼材において、粗大な窒化物が生成する。また、粒界でCr炭化物が生成する。この場合、固溶N比率が0.40未満となり、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低下する。冷却速度CR1が15℃/分以上であれば、他の製造条件を満たすことを前提として、固溶N比率が0.40~0.90となり、優れた耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が得られる。冷却速度CR1の好ましい下限は18℃/分であり、さらに好ましくは20℃/分である。なお、冷却速度CR1は、熱間加工完了直後の中間鋼材の表面温度と急冷開始直前の中間鋼材の表面温度との差分を、放置時間t1で除した値である。
【0081】
[冷間加工工程]
冷間加工工程は必要に応じて実施する。つまり、冷間加工工程は実施しなくてもよい。実施する場合、中間鋼材に対して、酸洗処理を実施した後、冷間加工を実施する。中間鋼材が鋼管又は棒鋼である場合、冷間加工はたとえば、冷間抽伸である。中間鋼材が鋼板である場合、冷間加工はたとえば、冷間圧延である。冷間加工工程を実施することにより、溶体化処理工程前に、中間鋼材に歪を付与する。これにより、溶体化処理工程時において再結晶の発現及び整粒化を行うことができる。冷間加工工程における減面率は特に限定されないが、たとえば、10~90%である。
【0082】
[溶体化処理工程]
溶体化処理工程では、熱間加工工程後又は冷間加工工程後の中間鋼材に対して、溶体化処理を実施する。溶体化処理は、次の方法で実施する。炉内雰囲気が大気雰囲気である熱処理炉内に、中間鋼材を装入する。ここでいう大気雰囲気は、大気を構成する気体である窒素を体積で78%以上、酸素を体積で20%以上含有する雰囲気を意味する。大気雰囲気の炉内において、溶体化処理温度で保持した後、後述の冷却速度で急冷する。溶体化処理での溶体化処理温度T2、及び、冷却速度CR2を次のとおり制御することにより、上述の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材において、固溶N比率を0.4~0.9とすることができる。
溶体化処理温度T2:1020~1350℃
冷却速度CR2:5℃/秒以上
【0083】
[溶体化処理温度T2:1020~1350℃]
溶体化処理温度T2が1020℃未満であれば、Cr炭化物やCrNが十分に固溶しない場合がある。この場合、鋼材中の固溶N比率が低くなり、0.40未満となる。一方、溶体化処理温度T2が1350℃を超えれば、鋼材中の窒化物が固溶してしまい、固溶N比率が0.90を超える。
【0084】
溶体化処理温度T2が1020~1350℃であれば、他の条件も満たすことを前提として、固溶N比率が0.40~0.90となる。溶体化処理温度T2の好ましい下限は1030℃である。溶体化処理温度T2の好ましい上限は1300℃であり、さらに好ましくは1250℃である。なお、溶体化処理温度T2での保持時間は特に限定されない。溶体化処理温度T2での保持時間はたとえば、2分以上である。保持時間の上限は特に限定されないが、たとえば、500分である。
【0085】
[冷却速度CR2:5℃/秒以上]
溶体化処理温度T2で保持した後、少なくとも、鋼材温度が1000~600℃の温度域での冷却速度CR2を5℃/秒以上で冷却する。ここでいう冷却速度CR2は、鋼材温度が1000~600℃の温度域での平均冷却速度(℃/秒)を意味する。冷却速度CR2が5℃/秒未満である場合、冷却中に粗大な窒化物析出量が過剰に多く生成する。その結果、固溶N比率が0.40未満となる。
【0086】
冷却速度CR2が5℃/秒以上であれば、1000~600℃の温度範囲を冷却している間に、鋼材中に窒化物が過剰に多く生成するのを抑制できる。その結果、他の条件を満たすことを前提として、固溶N比率が0.40~0.90となる。冷却速度CR2の好ましい下限は6℃/秒であり、さらに好ましくは7℃/秒である。急冷方法は、水冷であってもよいし、油冷であってもよい。
【0087】
以上の工程により、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を製造できる。上述の製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の一例である。したがって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。上述の化学組成を有し、固溶N比率が0.40~0.90であれば、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、上述の製造方法に限定されない。
【0088】
以上のとおり、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、化学組成中の各元素が上述の数値範囲内であって、固溶N比率が0.40~0.90である。そのため、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、大入熱溶接後に、600超~750℃の平均操業温度で長期間使用した場合であっても、高いクリープ強度を有し、かつ、優れた耐応力緩和割れ性を有する。
【0089】
なお、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を溶接して溶接継手とする場合、次の方法により溶接継手を製造する。
【0090】
母材として、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を準備する。準備された母材に対して、開先を形成する。具体的には、母材の端部に、周知の加工方法により開先を形成する。開先形状は、V形状であってもよいし、U形状であってもよいし、X形状であってもよいし、V形状、U形状及びX形状以外の他の形状であってもよい。
【0091】
準備された母材に対して溶接を実施して、溶接継手を製造する。具体的には、開先が形成された2つの母材を準備する。準備された母材の開先同士を突き合わせる。そして、突き合わされた一対の開先部に対して、上述の溶接材料を用いて溶接を実施して、上述の化学組成を有する溶接金属を形成する。
【0092】
溶接方法は、溶接金属を1層形成してもよいし、多層盛り溶接であってもよい。溶接方法はたとえば、ティグ溶接(GTAW)、被覆アーク溶接(SMAW)、フラックス入りワイヤアーク溶接(FCAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、サブマージアーク溶接(SAW)である。以上の製造工程により、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を用いた溶接継手を製造できる。
【実施例】
【0093】
[オーステナイト系ステンレス鋼材の製造]
表1の化学組成を有する溶鋼を製造した。
【0094】
【0095】
表1中の空白は、対応する元素含有量が検出限界未満であったことを示す。検出限界未満である場合、その元素は含有されていなかったとみなした。
【0096】
溶鋼を用いて、外径120mm、30kgのインゴットを製造した。インゴットに対して熱間鍛造を実施して、厚さ30mmの素材とした。熱間鍛造前のインゴットの温度は1250℃であった。さらに、素材に対して熱間圧延を実施し、熱間圧延後の鋼材を急冷(水冷)して、厚さ15mmの中間鋼材(鋼板)を製造した。その際、熱間加工(熱間圧延)前の素材温度を1050~1250℃に変化させた。さらに、熱間加工完了後から急冷(水冷)を開始するまでの放置時間t1(分)、急冷開始温度T1(℃)、及び、熱間加工完了から急冷開始までの冷却速度CR1(℃/分)を変化させた。試験番号A1~A17、B1~B5、B7~B9及びB11の放置時間t1は、0.50~5.00分であった。一方、試験番号B6の放置時間t1は6.00~7.00分であった。試験番号B10の放置時間t1は、0.25分であった。また、試験番号A1~A17、B1~B6及びB8~B11の急冷開始温度T1は、700℃以上であった。一方、試験番号B7の急冷開始温度T1は600~650℃であった。また、試験番号A1~A17、B1~B7及びB10~B11の冷却速度CR1は15℃/分以上であった。一方、試験番号B8及びB9の冷却速度CR1は10℃/分以下であった。
【0097】
熱間圧延後の中間鋼材に対して、溶体化処理を実施した。溶体化処理での溶体化処理温度T2はいずれも1050~1250℃の範囲内であり、溶体化処理温度T2での保持時間はいずれも10分であった。また、冷却速度CR2はいずれも10~20℃/秒であった。なお、試験番号B11の中間鋼材に対しては、溶体化処理を実施しなかった。以上の工程により、各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材を製造した。
【0098】
【0099】
[鋼材の化学組成分析]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成を、次の方法で求めた。直径5mmのドリルを用いて、鋼材(鋼板)の板幅中央位置かつ板厚中央位置にて穿孔加工して切粉を生成し、その切粉を採取した。採取した切粉を酸に溶解させて溶液を得た。溶液に対して、ICP-AESを実施して、化学組成の元素分析を行った。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求めた。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求めた。その結果、各試験番号の鋼材の化学組成は、表1に示すとおりであった。
【0100】
[固溶N比率の測定]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材の固溶N比率を次の方法で求めた。オーステナイト系ステンレス鋼材(鋼板)から、試験片を採取した。具体的には、試験片の長手方向に垂直な断面の中心が板厚中央位置となり、試験片の長手方向が鋼板の長手方向となるように、試験片を採取した。
【0101】
採取した試験片の表面を、予備の電解研磨にて50μm程度研磨して新生面を得た。電解研磨した試験片を、電解液(10%アセチルアセトン+1%テトラアンモニウム+メタノール)で電解した。電解後の電解液を0.2μmのフィルターを通して残渣を捕捉した。得られた残渣を酸分解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析にて、残渣中のNの質量を求めた。さらに、本電解前の試験片の質量と、本電解後の試験片の質量を測定した。そして、本電解前の試験片の質量から本電解後の試験片の質量を差し引いた値を、本電解された母材質量と定義した。残渣中のN質量を本電解された母材質量で除して、残渣N量(質量%)を求めた。つまり、次の式に基づいて、残渣N量(質量%)を求めた。
残渣N量=残渣中のN質量/母材質量×100
【0102】
上述の鋼材の化学組成分析により得られた、鋼材中のN含有量(全N含有量(質量%))と、残渣N量(質量%)とを用いて、次式により固溶N比率を求めた。
固溶N比率=(1-残渣N量/全N含有量)
各試験番号の固溶N比率を表2に示す。
【0103】
[大入熱溶接模擬試験片の作製]
製造されたオーステナイト系ステンレス鋼材を用いて、次の方法により、大入熱溶接を模擬した大入熱溶接模擬試験片を作製した。
【0104】
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材の板幅中央位置かつ板厚中央位置を含む、角状試験片を採取した。角状試験片の長手方向は、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に平行であった。角状試験片の長さは100mmであった。角状試験片の長手方向に垂直な断面(横断面)は、10mm×10mmの矩形であった。角状試験片の横断面の中央位置は、オーステナイト系ステンレス鋼材の板幅中央位置かつ板厚中央位置にほぼ一致した。
【0105】
高周波熱サイクル装置を用いて、角状試験片に対して次の熱履歴を付与した。角状試験片を大気中において、常温から70℃/秒で1400℃まで昇温した。さらに1400℃で10秒保持した。その後、角状試験片を20℃/秒の冷却速度で常温まで冷却した。以上の熱履歴を角状試験片に付与することにより、大入熱溶接模擬試験片を作製した。
【0106】
[耐応力緩和割れ性評価試験(SR割れ評価試験)]
大入熱溶接模擬試験片を用いて、ASTM E328-02に準拠した耐応力緩和割れ試験を実施した。大入熱溶接模擬試験片から、SR割れ評価試験用の試験片を作製した。試験片は、長さ80mm、GL=30mmのつば付きクリープ試験片とした。たわみ変位負荷用試験ジグを用いて、試験片に対して、加熱炉の中で室温での冷間歪を10%付与した。加熱炉中の試験片を650℃に加熱し、650℃の試験片に対してさらに歪を10%付与して1000時間保持した。
【0107】
1000時間経過後の試験片を常温まで放冷した。放冷後の試験片が破断している場合、耐応力緩和割れ性が低いと判断した(表2中の「SR割れ試験」欄で「B」(Bad)と表記)。また、1000時間経過後の試験片が破断していない場合、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、試験片の長手方向に垂直な断面のミクロ組織観察を実施した。このとき、倍率を2000倍とした。ミクロ組織観察の結果、粒界に割れが発生している場合、又は、クリープボイドが発生している場合、耐応力緩和割れ性が低いと判断した(表2中の「SR割れ試験」欄で「B」(Bad)で表記)。一方、SEMによるミクロ組織観察において、粒界での割れの発生を確認できず、かつ、クリープボイドの発生も確認できない場合、耐応力緩和割れ性が高いと判断した(表2の「SR割れ試験」欄で「E」(Excellent)と表記)。
【0108】
[クリープ強度評価試験(クリープ破断試験)]
上述の大入熱溶接模擬試験片を加工して、JIS Z2271(2010)に準拠したクリープ破断試験片を作製した。クリープ破断試験片の軸方向に垂直な断面は円形であり、クリープ破断試験片の外径は6mmであり、平行部は30mmであった。
【0109】
作製されたクリープ破断試験片を用いて、JIS Z2271(2010)に準拠したクリープ破断試験を実施した。具体的には、クリープ破断試験片を650℃で加熱した後、クリープ破断試験を実施した。試験応力は118MPaとし、クリープ破断時間(時間)を求めた。
【0110】
クリープ強度に関して、クリープ破断時間が6000時間以上の場合、高温環境において、鋼材のクリープ強度が優れると判断した(表2中の「クリープ強度」欄で「E」(Excellent)で表記)。クリープ破断時間が6000時間未満の場合、600℃超の高温環境において、鋼材のクリープ強度が低いと判断した(表2中の「クリープ強度」欄で「B」(Bad)で表記)。
【0111】
[試験結果]
表2に試験結果を示す。表1及び表2を参照して、試験番号A1~A17では、化学組成中の各元素含有量が適切であり、N固溶比率が0.40~0.90の範囲内であった。そのため、高いクリープ強度が得られ、かつ、耐応力緩和割れ性が高かった。
【0112】
一方、試験番号B1では、C含有量が高すぎた。そのため、耐応力緩和割れ性が低かった。
【0113】
試験番号B2では、Nb含有量が低かった。そのため、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低かった。
【0114】
試験番号B3では、N含有量が低かった。そのため、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低かった。
【0115】
試験番号B4では、Mo含有量が低かった。そのため、耐応力緩和割れ性が低かった。
【0116】
試験番号B5では、B含有量が低かった。そのため、耐応力緩和割れ性が低かった。
【0117】
試験番号B6では、熱間加工工程での放置時間t1が長すぎた。そのため、固溶N比率が0.40未満となった。その結果、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低かった。
【0118】
試験番号B7では、熱間加工工程での急冷開始温度T1が低かった。そのため、固溶N比率が0.40未満となった。その結果、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低かった。
【0119】
試験番号B8及びB9では、熱間加工完了から急冷開始までの冷却速度CR1が遅すぎた。そのため、固溶N比率が0.40未満となった。その結果、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低すぎた。
【0120】
試験番号B10では、熱間加工完了から急冷開始までの放置時間t1が短すぎた。そのため、固溶N比率が0.90を超えた。その結果、耐応力緩和割れ性が低かった。
【0121】
試験番号B11では、溶体化処理を実施しなかった。そのため、固溶N比率が0.40未満となった。その結果、耐応力緩和割れ性及びクリープ強度が低かった。
【0122】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。