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特許7307414検出方法、検出支援装置、検出支援プログラム、検出支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】検出方法、検出支援装置、検出支援プログラム、検出支援方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20230705BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023053953
(22)【出願日】2023-03-29
【審査請求日】2023-03-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520283934
【氏名又は名称】株式会社イヴケア
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大槻 東也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 毅
(72)【発明者】
【氏名】五十棲 計
(72)【発明者】
【氏名】大平 雅子
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】大槻東也 他,電解還元法による銀デンドライト構造体の作製とSERS特性,日本化学会春季年会講演予稿集,102nd,2022年,ROMBUNNO.A202-3am-04
【文献】AKIYAMA et al.,Enormous enhancement in photocurrent generation using electrochemically fabricated gold nanostructures,CHEMICAL COMMUNICATIONS,2010年,No.46/Iss.2,PP.306-308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を検出する検出方法であって、
レーザー光を照射する照射ステップと、
前記レーザー光の照射により発生するラマン散乱光を測定する測定ステップと、
を備え、
前記測定ステップにおいて、銀イオンを電解還元することにより形成した、粒径が1μm以上の粒状構造による表面ナノ構造を備える基板に前記物質を含む試料を載せ、前記レーザー光を照射して測定を行う、検出方法。
【請求項2】
前記電解還元は、10g/Lの硝酸銀水溶液に5mA/cm 電流を90秒かけることによって行われる、
請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
物質を検出する検出装置であって、
レーザー光を照射するレーザー光源と、
前記レーザー光の照射により発生するラマン散乱光を測定する検出器と、
を備え、
前記検出器は、銀イオンを電解還元することにより形成した、粒径が1μm以上の粒状構造による表面ナノ構造を備える基板に前記物質を含む試料を載せ、前記レーザー光を照射して測定を行う、検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検出方法、検出支援装置、検出支援プログラム、検出支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質を検出するための方法には様々な物があるが、微量な物質を検出できる方法は様々な分野で求められている。
【0003】
表面増強ラマン散乱(SERS: Surface-Enhanced Raman Scattering)は、ナノスケールの構造を持つ貴金属の表面に分子が吸着したとき、バルク基板上と比べてラマン散乱の強度が大きく増幅される現象であり、高感度分析手法として、微量物質分析、病理診断、環境測定、食品安全管理等広い分野で利用されている。
【0004】
特許文献1には、表面増強ラマン散乱を用いることで物質を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-204495公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、課題として、励起レーザーの集光によって物質がダメージを受けてしまうことが知られている。
【0007】
そこで、本開示は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出の対象物質のダメージが少ない状態で、微量な対象物質を高感度に検出する検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、物質を検出する検出方法であって、レーザー光を照射する照射ステップと、前記レーザー光の照射により発生するラマン散乱光を測定する測定ステップと、を備え、前記測定ステップにおいて、多重スケールのナノ構造を備える基板に前記物質を含む試料を載せ、前記レーザー光を照射して測定を行う、検出方法が提供される。
【0009】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄および図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、検出の対象物質のダメージが少ない状態で、微量な対象物質を高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】AgNSsF5mMAのSEM画像である。
図2】AgNSsF10mMAのSEM画像である。
図3】AgNSsF15mMAのSEM画像である。
図4】Cor/AgNSsF5mMAのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図5】Cor/AgNSsF10mMAのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図6】Cor/AgNSsF15mMAのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図7】ラマン散乱ピークの帰属を示す図である。
図8】Cor/AgNPsFのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図9】Cor/Siのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図10】クエン酸3ナトリウムのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図11】AgNPs/Cor/Si、Cor+AgNPs/Si、Cor/Siのラマン散乱スペクトルを示す図である。
図12】AgNPs/Cor/Siのラマン散乱測定時の顕微鏡像である。
図13】CorS1-6/Siのラマン散乱スペクトル(OD0)を示す図である。
図14】AgNPs/CorS1-6/SiおよびAgNPs/Siのラマン散乱スペクトル(OD3)を示す図である。
図15】ウェル背面からのラマン散乱測定を示す図である。
図16】AgNPs/CorS5/Well、CorS5/AuNPs/Well、CorS5/AgNPs+AuNPs/Well、CorS5/Wellのラマン散乱スペクトル(OD1)を示す図である。
図17】AgNPs/CorS1-6/Wellのラマン散乱スペクトル(OD1)を示す図である。
図18】AgNPs/CorS1-6/Wellのラマン散乱スペクトルをベースライン補正したスペクトルを示す図である。
図19】本開示における検出システムの構成の例を示す図である。
図20】本開示における情報処理装置16のハード構成を示す図である。
図21】本開示における情報処理装置16のソフト構成を示す図である。
図22】本開示の代表的な処理の流れの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の一実施形態は、以下のような構成を備える。
[項目1]
物質を検出する検出方法であって、
レーザー光を照射する照射ステップと、
前記レーザー光の照射により発生するラマン散乱光を測定する測定ステップと、
を備え、
前記測定ステップにおいて、多重スケールのナノ構造を備える基板に前記物質を含む試料を載せ、前記レーザー光を照射して測定を行う、検出方法。
[項目2]
前記ナノ構造は、金属を含む化合物により形成される、
項目1に記載の検出方法。
[項目3]
前記ナノ構造は、少なくとも10-100nmのスケールのナノ構造を含む、
項目1または2に記載の検出方法。
[項目4]
前記ナノ構造は、金属イオンの電解還元または金属コロイド溶液の加熱還流により形成する、項目3に記載の検出方法。
[項目5]
前記ナノ構造を、金属イオンの電解還元によって形成する場合に、前記電解還元は5mA/cmから15mA/cmの電流をかけることによって行われる、
請求項4に記載の検出方法。
【0013】
<実施の形態の詳細>
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
[装置構成]
図19に示すように、本開示の実施形態に係るラマン散乱分光測定装置は、レーザー光源10、ビームスプリッター11、対物レンズ12、分光器13、CCD検出器14、試料ステージ15、および情報処理装置16を含む。試料ステージ15にSERSチップ20を搭載し、チップ20に分析対象を含む溶液を導入した状態で、レーザー光源10から励起レーザー光を照射して対物レンズ12によって集光する。発生したラマン散乱光は対物レンズ12およびビームスプリッター11を介して分光器13に入力されて分光される。CCD検出器14は所定のラマンシフトの波数範囲を測定できるように配置される。CCD検出器14によって検出されたラマン信号は、情報処理装置16に送られ、解析・表示・記録などがされる。また、情報処理装置16は、レーザー光源10、CCD検出器14、試料ステージ15の制御を行う。
【0015】
ラマン散乱測定を行う場合、対象物は固体である場合と溶液である場合が存在する。本開示において、対象物は溶液の状態で表面に担持され、溶媒蒸発後に固体となった対象物を測定する。
【0016】
SERSは、金(Au)や銀(Ag)等の金属表面に特定の種類の分子が吸着した場合に観察し得ることが知られている。SERSが生じるための条件として、励起光と金属とが相互作用して強い表面電場を発生させる「表面ナノ構造」が金属表面に形成されていることが求められる。
【0017】
本開示においては、例えば、金属による表面ナノ構造を形成する。また、測定対象の液体を、形成した表面ナノ構造に滴下、乾燥し、試料ステージ15に搭載し、励起レーザー光を照射し、ラマン信号を測定する。なお、当該金属は、金、銀、白金などの貴金属であってもいいし、銅、アルミニウムなどの金属において、プラズモン共鳴を強く示すものであればよい。
【0018】
本開示において表面ナノ構造とは、図1図2図3に例を示すような構造を含む。表面ナノ構造は、検出の対象物に接し、レーザー光の照射を受けるように、少なくとも表面に1以上のナノスケールの構造が形成されていればよい。
【0019】
本開示における表面ナノ構造は、例えば図1に示すように多面体(略多面体も含む)や、粒状の構造であってもよい。表面ナノ構造は、当該多面体の一以上の面が一定程度凹または凸の状態となっていてもよいし、面自体が屈曲していたりしてもよいし、多面体における面同士が接する場所が直線でなく曲線で形成されていたりしてもよいが、このような構造に限定されない。また、本開示における表面ナノ構造は、図2図3に例を示すように、スケールの異なる(以下、多重スケールと表記する)、複数の、多面体、粒状を含むナノ構造が集合した構造を有していてもよく、当該ナノ構造が集合した状態で、例えば図2のように花型、図3のように枝葉型となっていてもよいが、これらに限定されない。なお、検出対象の物質がレーザー光により分解しやすい場合でも、例えば、図2図3のような多重スケールのナノ構造は物質の検出が行いやすいため、励起レーザー光によって対象物質が分解しにくい性質を有すると考えられる。
【0020】
本開示における表面ナノ構造は、例えばナノ構造を粒とみなした場合に、粒径が1nm-10nm、10nm-50nm、50―100nm、100nm-200nm、200nm-500、500nm-1000nm、1μm―2μm、3μm―5μm、6μm―10μmのスケールの構造を含んでよく、図1に例を示すように多重スケールのナノ構造がそれぞれ独立した構造であってもよいし、図2図3に例を示すように多重スケールのナノ構造が集合して形成された構造であってもよい。
【0021】
以下の実施例においては多重スケールのナノ構造をいくつかの材料、条件にて形成しているが、材料、形成の条件はあくまで一例であり、多重スケールのナノ構造が形成できる材料、条件であればどのような条件でも構わない。
【0022】
以下の実施例においては検出の対象物質として、コルチゾールを用いた。コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一つで、主な働きとして、肝臓での糖新生、筋肉でのたんぱく質代謝、脂肪組織での脂肪の分解などの代謝の促進、抗炎症および免疫抑制などが知られている。また、コルチゾールは、人体がストレスを感じると交感神経を刺激し、体の緊張状態を保つ働きがあることから、ストレスホルモンとも呼ばれている。しかしながら、検出対象物質は言うまでもなく、コルチゾールに限らない。
【0023】
[実施例1]表面増強ラマン散乱によるコルチゾール検出
本実施例においては、金属の例として、銀を用いてナノ構造を形成した。具体的には、10g/Lの硝酸銀水溶液を調製し、電気還元を行うことで銀ナノ構造体(AgNSs)を形成した。電気還元の条件として、5mA/cm、90Sec.、10mA/cm、45Sec.、15mA/cm、30Sec.の電流密度と時間で電解還元を行った。
【0024】
図1は、5mA/cm、90Sec.条件で作成したAgNSsである。図2は10mA/cm、45Sec.の条件で作成したAgNSsである。図3は15mA/cmの、30Sec.の条件で作成したAgNSsである。それぞれSEM(Scanning Electron Microscope)にて観察したものであり、再現性良く、図1では粒型のナノ構造(少なくとも、粒径が1μm―2μm、3μm―5μm、6μm―10μmのいずれかまたは複数を含む。数μmオーダーのスケールの構造)、図2では花型のナノ構造(少なくとも、粒径が10nm-50nm、50―100nm、100nm-200nm(数十nm~100nm程度のスケール)のいずれかのナノ構造を含み、それらが集合して形成されている。)、図3では枝葉型のナノ構造(少なくとも、粒径がスケールは1nm-10nm、10nm-50nm、50―100nm(数nm-数十nm程度のスケールのナノ構造。)のいずれかのナノ構造を含み、それらが集合して形成されている。)を作り分けることに成功している。
【0025】
コルチゾール標準溶液(Cor、1.0×10-9mol/L)を被分析物として用い、
[A]AgNSs5mA/ITO上にCor2μLを滴下、乾燥(Cor/AgNSs5mA)
[B]AgNSs10mA/ITO上にCor2μLを滴下、乾燥(Cor/AgNSs10mA)
[C]AgNSs15mA/ITO上にCor2μLを滴下、乾燥(Cor/AgNSs15mA)
した各サンプルを得た。
【0026】
これらのサンプルを試料ステージ15に設置し、顕微ラマン散乱スペクトル分析を行った(励起波長:532nm、顕微倍率:100倍)。図4図5図6はそれぞれ[A]、[B]、[C]を測定したものである。
【0027】
図7は、ラマン散乱ピークの帰属を示したものである。標準体で示したものがコルチゾールのピーク、斜体で示したものは不明なピーク、太字で示したものが試料とは無関係なピークであり、文献値と一致するピークを確認している。これにより、それぞれの銀ナノ構造体でコルチゾールの検出が可能であることが示された。
【0028】
なお、ラマン散乱の測定に際して、[A]の場合、[B]、[C]に比べて、10倍の光量の励起光を用いた。これらのことより、ラマン散乱の増強度の順は、[C]>[B]>>[A]の順となることから、より強いラマン散乱強度を得たい場合には、より細かい多重スケールのナノ構造を用いることが望ましい。強いラマン散乱強度を得たい場合には、金属イオンを含む水溶液、例えば10g/Lの硝酸銀水溶液の電気還元の条件として、10mA/cm以上であることが望ましく、15mA/cm以上であってもよいが、5mA/cm以上であっても励起レーザーの光量を増やせば検出は可能である。また、当該電気還元の条件は、5mA/cm以上、10mA/cm以下であってもよいし、5mA/cm以上、15mA/cm以下であってもよいし、10mA/cm以上、15mA/cm以下であってもよい。
【0029】
一方、コルチゾールの分解によるアモルファスカーボンの生成については、図4図5図6の1300cm-1、1600cm-1付近の波数領域のベースラインの膨らみから、15mA≒10mA>>5mAと言える。従って、コルチゾールを含むサンプルの分解を抑制したい場合には、[A]の条件が望ましいが、[B]、[C]の条件であっても検出することは可能である。検出対象物の分解を抑制したい場合には、金属イオンを含む水溶液、例えば10g/Lの硝酸銀水溶液の電気還元の条件として、5mA/cm以上であることが望ましく、10mA/cm以上、15mA/cm以上であっても励起レーザーの照射時間を調整すれば検出は可能である。また、当該電気還元の条件は5mA/cm以上、10mA/cm以下であってもよいし、5mA/cm以上、15mA/cm以下であってもよいし、10mA/cm以上、15mA/cm以下であってもよい。
【0030】
[実施例2]表面増強ラマン散乱によるコルチゾール検出に適した銀ナノ粒子の使用方法の探索
本実施例においては、金属コロイドの例として、銀コロイドを用いてナノ構造を形成した。クエン酸イオンを保護剤とした銀ナノ粒子コロイド水溶液を合成した。硝酸銀36mgを超純水200mLに溶解し、これを加熱環流した。そこに1wt%のクエン酸-3-ナトリウム水溶液を4mL加え、さらに1時間加熱環流を行い、放冷して銀ナノ粒子コロイド水溶液を得た。図示はしないが、少なくとも、粒径は10nm-50nm、50―100nm(数十nm程度のスケールのナノ構造)のナノ構造を含む多重スケールのナノ構造が得られる。当該銀ナノ粒子コロイド水溶液を遠心分離、再分散、遠心分離を経て得た濃厚銀ナノ粒子溶液(AgNPs)を、再分散せずに用いた[非特許文献2]。
【0031】
コルチゾール標準溶液(Cor)を被分析物として用い、
[D]既報に従いAgNPsをヘキサン/水界面で集積した薄膜にCorを滴下、乾燥(Cor/AgNPsF)[非特許文献3、非特許文献4、非特許文献2]
[E]CorとAgNPsを混合した溶液をシリコン単結晶基板(Si)に滴下、乾燥(Cor+AgNPs/Si)
[F]CorをSiに滴下、乾燥したのち(Cor/Si)、そのCor表面にAgNPsを滴下、乾燥(AgNPs/Cor/Si)
した各サンプルを得た。
【0032】
これらのサンプルを試料ステージ15に設置し、顕微ラマン散乱スペクトル分析を行った(励起波長:532nm、顕微倍率:100倍)。クエン酸3ナトリウム以外は、それぞれ約10箇所測定したスペクトルを平均化した。
【0033】
Cor/AgNPsFについて、1/100(OD2)、1/1000(OD3)、1/10000(OD4)倍の減光フィルタを併用して測定を行った(図8)。参照系として、減光フィルタを用いずに測定したCor/Siのラマン散乱スペクトルを図9に、銀ナノ粒子合成時の還元剤および保護剤として用いているクエン酸3ナトリウムの結晶のラマン散乱スペクトルを図10に示す。また、AgNPs/Cor/Si、Cor+AgNPs/Si、Cor/Siのラマン散乱スペクトルを図11に示す。
【0034】
いずれのサンプルもコルチゾールは固体状態で測定された。既報では、固体状態のコルチゾールのラマン散乱スペクトルで特徴的なピークは、1150、1220-1240、1330-1350、1430-1450、1610,1640cm-1に現れることが示されており、図9の特徴的な3本のブロードなピークはこれらに含まれる[非特許文献5]。さらに、既報によって、コルチゾール溶液の表面増強ラマン散乱スペクトルでは、1150、1270、1340-1380、1430-1450、1500cm-1付近に特徴的なピークが現れるとされており、状態によって特徴的なピークが現れる波数が大きく異なる場合があることが示唆されている[非特許文献5]。このことから、本実施例で目指す、ウェルに担持されたコルチゾールを表面増強ラマン散乱で検出しようとする場合、コルチゾールが「多層」に担持されている場合と「単層(孤立分子系)」として担持されている場合で、ラマン散乱波数が異なる可能性が無視しにくいことを示している。
【0035】
一方、本実施例ではクエン酸3ナトリウムを保護剤として含むナノ粒子を用いることから、図10に示す通り1200、1250-1320、1360-1500、1560-1640cm-1に現れるラマン散乱信号は、コルチゾールの存在確認および定量には用いない方が望ましい。
【0036】
以上から、本実施例では、1330-1350、1500cm-1のラマン散乱信号を主としてコルチゾールの存在確認および定量に用いることが適切と考えられる。これらに基づき、図8図11の結果から、作製したサンプル群のうち、AgNPs/Cor/Siのラマン散乱信号が顕著に増強されており、かつそれぞれのピークが他の系に比べるとはっきりと現れていることがわかる。また、1330-1350、1500cm-1のラマン散乱信号も明瞭に観察できることから、Cor/SiのCor表面にナノ粒子溶液を滴下する手法を、本研究で用いるナノ粒子の使用方法として用いることとした。
【0037】
また、AgNPs/Cor/Siの測定時の顕微鏡像を図12に示す。中心の点Lはラマン散乱測定のための励起レーザー光である。増強されたラマン散乱は、例えば点R等の黒点の場所でのみ生じるため、点Rなどの黒点が銀ナノ粒子の凝集体と考えられる。コルチゾールを検出するためには、点R等を選択して励起し、ラマン散乱スペクトルを得ればよい。図12から、点Rと同等の大きさの黒点(コルチゾール)は、400μmの領域内で、少なくとも20箇所は存在すると考えられ、増強ラマン散乱信号が得られるものと考えられる。測定の定量性が十分に担保できる前提であれば、ELIZA法でよく用いられる96穴のウェルプレートと比較して、桁違いに微小な領域で同様な評価が可能になるものと期待できる。
【0038】
[実施例3]濃度の異なるコルチゾール標準溶液の表面増強ラマン散乱による検出
実施例2と同様に得た濃厚銀ナノ粒子溶液(AgNPs)を再分散せずに用いた。3、1、0.33、0.11、0.037、0.012μg/dLのコルチゾール標準溶液(それぞれ、CorS1、CorS2、CorS3、CorS4、CorS5、CorS6)を被分析物として、単結晶シリコン基板(Si)に1μLずつ滴下、乾燥を経て担持した(Cor1-6/Si)。Cor1-6/SiのCor側の面にAgNPsを1μLずつ滴下、乾燥した(AgNPs/CorS1-6/Si)。参照系としてAgNPsをSiに滴下、乾燥したものも作製した(AgNPs/Si)。顕微ラマン散乱測定は、励起波長:532nm、顕微倍率:100倍、取り込み時間:5秒、積算回数:なし(1ショット測定)の条件で行った。それぞれ約10箇所測定したスペクトルを平均化した。
【0039】
減光フィルタを用いずに(OD0)測定したCorS1-6/Siのラマン散乱スペクトルを図13に、1/1000の減光フィルタを用いて(OD3)測定したAgNPs/CorS1-6/SiおよびAgNPs/Siのラマン散乱スペクトルを図14に示す。
【0040】
図13のAで示す区画において、上からCorS4/Si、CorS5/Si、CorS2/Si、CorS6/Si、CorS3/Si、CorS1/Siの結果である。CorS1-6/Siいずれの場合も、ラマン散乱強度はCorS1-6の濃度変化に対応していなかった。また、コルチゾールの固体に強い光を照射した場合のスペクトルに特徴的な1450cm-1の散乱ピークが目立つ。図13において、AgNPs/CorS1-6/Siについては、1330-1350、1500cm-1に明確なラマン散乱信号が見られず、CorS1-6/Siのスペクトルも一部含まれている様に見える事に加え、詳細な帰属は困難であるものの、コルチゾールの存在による新たなラマン散乱ピークが多く観察されてもいる。ラマン散乱測定に伴う、局所的な温度上昇による変性が生じている可能性がある。
【0041】
また、図14のBで示す区画において、上からAgNPs/CorS5/Si、AgNPs/CorS6/Si、AgNPs/CorS2/Si、AgNPs/CorS1/Si、AgNPs/CorS3/Si、AgNPs/CorS4/Si、AgNPs/Siの結果である。図14をみると、図13で示したCorS1-6/Si同様に、CorS1-6の濃度とラマン散乱信号強度が対応していない。このことは、AgNPsの滴下時に、下地となるCorS1-6が溶解し、AgNPsの凝集体のギャップにCorS1-6が再濃縮され固体となったと説明することができる。
【0042】
一般に局在表面プラズモン共鳴電場が極端に強い箇所は、ナノ粒子の凝集体に生じるナノギャップ(溝)様の部位であり、この項で観察された現象とよく対応している。このことから、コルチゾールの局所的な濃縮などが生じないよう、極端に低濃度のコルチゾールを分析対象とするか、何らかの表面に強固に結合したコルチゾールを分析する方法であれば、より単分子のコルチゾールに近いラマン散乱スペクトルが得られるものと期待できる。なお、AgNPs/Siのラマン散乱スペクトルの強度はAgNPs/CorS1-6/Siよりも、顕著に低く、AgNPs/CorS1-6/Siのスペクトルには大きな影響をおよぼさないものと考えられる。
【0043】
[実施例4]コルチゾール評価用ウェルにおける表面増強ラマン散乱によるコルチゾール検出
実施例2、実施例3と同様に、既報に従いクエン酸イオンを保護剤とした金および銀ナノ粒子コロイド水溶液を合成した(粒径約15-20nm程度の金ナノ粒子が得られる合成条件)[非特許文献4、非特許文献6、非特許文献7]。金ナノ粒子水溶液の遠心分離を経て得た、濃厚金ナノ粒子溶液(AuNPs)を再分散せずに用いた[非特許文献8、非特許文献2]。銀ナノ粒子水溶液は前項同様の手法で得た濃厚銀ナノ粒子溶液(AgNPs)を再分散せずに用いた[非特許文献2]。
【0044】
EIA法によるコルチゾール評価用のウェル内に、3、1、0.33、0.11、0.037、0.012μg/dLコルチゾール標準溶液(それぞれ、CorS1、CorS2、CorS3、CorS4、CorS5、CorS6)を被分析物として担持させた(CorS1-6/Well)。これらのウェル内に、AgNPs、AuNPs、AgNPsとAuNPsの等量混合液(AgNPs+AuNPs)を1μLずつ滴下し、ラマン散乱サンプルとした(AgNPs/CorS1-6/Well、AuNPs/CorS1-6/Well、AgNPs+AuNPs/CorS1-6/Well)。顕微ラマン散乱測定は、励起波長:532nm、顕微倍率:50倍、取り込み時間:1秒、積算回数:なし(1ショット測定)、の条件で行い、それぞれ約10箇所測定したスペクトルを平均化した。なお、顕微ラマン散乱の測定に際しては、ウェルの背面(例えば図15のCで示す部分)から励起し、散乱光を取得した。
【0045】
AgNPs/CorS5/Well、CorS5/AuNPs/Well、CorS5/AgNPs+AuNPs/Well、CorS5/Wellのラマン散乱スペクトルを図9に示す。減光フィルタは1/10(OD1)を用いた。
【0046】
図16において、AgNPsを用いた場合、他の例に比べて顕著に高いラマン散乱強度が得られた。本研究でコルチゾールのマーカーとして用いる1330-1350、1500cm-1のラマン散乱ピークを明瞭に観察することができた。AuNPsだけを用いるよりも、AgNPsを併用した場合の方が、1350、1500cm-1のラマン散乱ピークが高くなる傾向が見られたもの、金ナノ粒子と銀ナノ粒子の同時使用による正のシナジー効果はこの系では観測されなかった[非特許文献9-11]。
【0047】
AgNPs/CorS1-6/Wellのラマン散乱スペクトルを図17に、ベースラインを直線として差し引いたスペクトルを図18に示す。
【0048】
CorS2-6までの領域では、コルチゾールのマーカーとして用いる1330-1350、1500cm-1のラマン散乱ピークを明瞭に観察することができた。その一方で、サンプルの熱分解で生成すると予想されるアモルファスカーボンのラマン散乱ピーク、1350、1600cm-1をそれぞれピーク波数とするブロードな散乱ピークの割合が高い。これは定量性を損ねる大きな要因となり得る。これは、実施例2、実施例3でも見られた特徴であり、励起光密度の低下や、ナノ粒子の凝集時にナノ粒子同士が近寄りすぎない工夫などによる対応が可能と考えられる。
【0049】
実際に、これら一連のサンプルのラマン散乱強度は、CorS1-6までの濃度変化に対応しておらず、この濃度条件の幅の中では定量に用いることはできない。その一方で、比較的低濃度の標準サンプルCorS5-6を用いた場合には、ラマン散乱強度と濃度変化がよく対応しており、さらに低濃度領域のコルチゾール溶液を用いた検討が望ましい。
【0050】
1点の測定あたりに必要になる(ウェルの1つのホールに相当)「面積」は、100倍の顕微光学系を用いた場合に20μm程度であり、EIA法、ELISA法などによる定量分析に必要になる抗体の絶対量を大幅に減じることができる可能性を示すことができた。
【0051】
1点の測定に必要な露光時間は最短1秒(用いた装置の性能)であり、多点測定を行い、1点あたりの測定領域の移動時間に2秒かかったとしても、1点の測定あたり3秒で測定できることが明らかとなった。
【0052】
コルチゾールの直接測定する場合、0.037μg/dL以下の濃度で定量性が発現する可能性を見出した。
【0053】
励起レーザーによるサンプルのアモルファスカーボン化が高い割合で生じていることが明らかとなった。励起光密度の低下や局所熱の分散によって、このカーボン化を抑制することができると期待できる。
【0054】
[非特許文献1]T. Akiyama, T. Yamamoto, T. Oku, M. Yahiro, T. Kurihara, C. Adachi and S. Yamada, Jpn. J. Appl. Phys., 52, 122301 (2013).
[非特許文献2]N. Koyama, T. Akiyama and T. Oku, Jpn. J. Appl. Phys., 60, 027002 (2021).
[非特許文献3]M. Suzuki, Y. Niidome, N. Terasaki, K. Inoue, Y. Kuwahara and S. Yamada, Jpn. J. Appl. Phys., 43, L554 (2004).
[非特許文献4]T. Akiyama, M. Nakada, N. Terasaki and S. Yamada, Chem. Commun., 395 (2006).
[非特許文献5]T. J. Moore and B. Sharma, Anal Chem., 92, 2052 (2020).
[非特許文献6]T. Arakawa, T. Kawahara, T. Akiyama and S. Yamada, Jpn. J. Appl. Phys., 46, 2490 (2007).
[非特許文献7]T. Akiyama, T. Kawahara, T. Arakawa and S. Yamada, Jpn. J. Appl. Phys., 47, 3063 (2008).
[非特許文献8]J. Turkevich, P. C. Stevenson and J. Hillier, Discuss. Faraday Soc., 11, 55 (1951).
[非特許文献9]T. Akiyama, e-J. Surf. Sci. Nanotech., 10, 157 (2012).
[非特許文献10]Y. Liu, Z. Lu, X. Lin, H. Zhu, W. Hasi, M. Zhang, X. Zhao and X. Lou, RSC Adv., 6, 58387 (2016).
[非特許文献11]N. Koyama, S. Banya, T. Akiyama, K. Sugawa and T. Oku, Appl. Phys. Express, 13, 055001 (2020).
【0055】
図19に示すように、本開示の実施形態に係る検出装置(ラマン散乱分光測定装置)は、レーザー光源10、ビームスプリッター11、対物レンズ12、分光器13、CCD検出器14、試料ステージ15、および情報処理装置16を含む。試料ステージ15に分析対象物を含む溶液を導入した状態で、レーザー光源10から励起レーザー光を照射して対物レンズ12によって集光する。発生したラマン散乱光は対物レンズ12およびビームスプリッター11を介して分光器13に入力されて分光される。CCD検出器14は所定のラマンシフトの波数範囲を測定できるように配置される。CCD検出器14によって検出されたラマン信号は、情報処理装置16に送られ、解析・表示・記録などがされる。また、情報処理装置16は、レーザー光源10、CCD検出器14、試料ステージ15の制御を行う。
【0056】
本実施形態の検出システムは、情報処理装置16を含んで構成される。情報処理装置16は、レーザー光源10、ビームスプリッター11、対物レンズ12、分光器13、CCD検出器14、試料ステージ15、有線、または通信ネットワークを介して通信可能に接続される。通信ネットワークは、たとえばインターネットであり、公衆電話回線網や携帯電話回線網、無線通信路、イーサネット(登録商標)などにより構築される。
【0057】
情報処理装置16は、例えば、ワークステーションやパーソナルコンピュータのような汎用コンピュータとしてもよいし、或いはクラウド・コンピューティングによって論理的に実現されてもよい。本実施形態においては、説明の便宜上1台を例示しているが、これに限定されず、複数台であってもよい。
【0058】
図20は、情報処理装置16のハードウェア構成例を示す図である。なお、図示された構成は一例であり、これ以外の構成を有していてもよい。情報処理装置16は、CPU101、メモリ102、記憶装置103、通信インタフェース104、入力装置105、出力装置106を備える。記憶装置103は、各種のデータやプログラムを記憶する、例えばハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリなどである。通信インタフェース104は、通信ネットワークNWに接続するためのインタフェースであり、例えばイーサネット(登録商標)に接続するためのアダプタ、公衆電話回線網に接続するためのモデム、無線通信を行うための無線通信機、シリアル通信のためのUSB(UNIVERSAL SERIAL BUS)コネクタやRS232Cコネクタなどである。入力装置305は、データを入力する、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、ボタン、マイクロフォンなどである。出力装置306は、データを出力する、例えばディスプレイやプリンタ、スピーカなどである。なお、後述する情報処理装置16の各機能部はCPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムをメモリ102に読み出して実行することにより実現され、情報処理装置16の各記憶部はメモリ102及び記憶装置103が提供する記憶領域の一部として実現される。
【0059】
図21に、情報処理装置16の機能構成を示す。図21に示すように、情報処理装置16は、画像記憶部131と、ラマン信号記憶部132と、モデル記憶部133の各記憶部と、レーザー制御部111と、画像取得部112と、ラマン信号取得部113と、モデル生成部114と、検出位置提示部115と、の各処理部を備える。
【0060】
画像記憶部131は、CCD検出器14を用いて画像取得部112が取得した画像の情報を記憶する。
【0061】
ラマン信号記憶部132は、ラマン信号取得部113が取得したラマン信号を記憶する。
【0062】
モデル記憶部133は、モデル生成部114が生成した、予測モデルを記憶する。
【0063】
以上が、検出支援システムが備える各記憶部に関する説明である。以下に、検出支援システムが備える各処理部に関する説明を記載する。
【0064】
レーザー制御部111は、レーザー光源10を制御し、検出対象に対して励起レーザー光を照射する。レーザー制御部111は、レーザー光を試料ステージ15の任意の場所に照射してもよいし、ユーザが指定した場所に照射しても良いし、後述する検出位置提示部115が提示した位置に照射してもよいが、これらに限定されない。
【0065】
画像取得部112は、CCD検出器14により、サンプルの画像を取得する。取得する画像は、映像を含んでいてもよい。
【0066】
ラマン信号取得部113は、CCD検出器14により、ラマン信号を取得する。
【0067】
モデル生成部114は、画像取得部112が取得した画像中で、検出対象物の検出に適した位置(つまり、多重ナノスケールが存在する位置)を予測するモデルを生成する。モデル生成部114は、例えば、図12のR点のように、多重ナノスケールと考えられる黒点の部分を切り出した画像を教師データとして用い、機械学習により、他の画像中において、多重ナノスケールが存在する位置を予測する予測モデルを生成すればよい。当該予測モデルに対する入力データは画像情報であり、出力データは画像中の黒点の中でも多重ナノスケールと考えられる黒点の情報である。
【0068】
検出位置提示部115は、モデル生成部114が生成した予測モデルにより、画像情報をもとに検出する位置をユーザに出力装置106などを通じて提示する。検出位置提示部115は、ユーザから、提示された画像中の複数の検出位置から選択を受け付け、レーザー制御部111によって選択された位置に励起レーザー光を照射すればよい。
【0069】
結果提示部116は、ラマン信号取得部113が取得した信号を、出力装置106などを通じてユーザに提示する。結果提示部116は、ラマン信号取得部113が取得した信号を、グラフや表の形に変換してユーザに提示をしてもよい。
【0070】
図22を用いて、本実施形態の情報処理装置16の代表的な処理の流れを説明する。レーザー制御部111は、サンプルに励起レーザーを照射する(1001)。画像取得部112は、画像を取得する(1002)。ラマン信号取得部113は、ラマン信号を取得する(1003)。モデル生成部114は、画像中の検出位置を予測する予測モデルを生成する(1004)。検出位置提示部115は、当該予測モデルを用いて、検出位置をユーザに提示する(1005)。検出位置提示部115は、検出位置の選択をユーザから受け付け、レーザー制御部111により、画像中の選択された位置に励起レーザー光を照射する(1006)。結果提示部116は、ラマン信号取得部が取得した信号をユーザに提示する(1007)。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
本明細書において説明した装置は、単独の装置として実現されてもよく、一部または全部がネットワークで接続された複数の装置(例えばクラウドサーバ)等により実現されてもよい。例えば、情報処理装置16のCPUおよび記憶装置は、互いにネットワークで接続された異なるサーバにより実現されてもよい。
【0073】
本明細書において説明した装置による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、およびソフトウェアとハードウェアとの組合せのいずれを用いて実現されてもよい。本実施形態に係る情報処理装置16の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、PC等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
【0074】
また、本明細書において説明した処理は、必ずしも説明した順序で実行されなくてもよい。いくつかの処理ステップは、並列的に実行されてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【0075】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、または上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【符号の説明】
【0076】
10 レーザー光源
11 ビームスプリッター
12 対物レンズ
13 分光器
14 CCD検出器
15 試料ステージ
16 情報処理装置

【要約】
【課題】検出の対象物質のダメージが少ない状態で、微量な対象物質を高感度に検出する検出方法を提供すること。
【解決手段】物質を検出する検出方法であって、レーザー光を照射する照射ステップと、前記レーザー光の照射により発生するラマン散乱光を測定する測定ステップと、を備え、前記測定ステップにおいて、多重スケールのナノ構造を備える基板に前記物質を含む試料を載せ、前記レーザー光を照射して測定を行う、検出方法を提供する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16
図17
図18
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図22