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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】チロシナーゼ活性低下剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20230705BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K8/37
A61Q19/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019174833
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021050166
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519347410
【氏名又は名称】株式会社エクステンドシーズン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 義則
(72)【発明者】
【氏名】宮田 道夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 裕子
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121962(WO,A1)
【文献】米国特許第05700450(US,A)
【文献】特開2010-120860(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0072445(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101822633(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシナーゼを直接阻害する活性のない、グリセリンにカルボン酸が2つエステル結合したグリセリンカルボン酸ジエステルを有効成分とするチロシナーゼ活性低下剤であって、
前記グリセリンカルボン酸ジエステルが、パルミチン酸が1つとステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したジアシルグリセロールである、チロシナーゼ活性低下剤。
【請求項2】
チロシナーゼを直接阻害する活性のない、グリセリンにカルボン酸が2つエステル結合したグリセリンカルボン酸ジエステルを有効成分とするチロシナーゼ活性低下剤であって、
前記グリセリンカルボン酸ジエステルが、デヒドロアビエチン酸が1つとパルミチン酸又はステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールである、チロシナーゼ活性低下剤。
【請求項3】
チロシナーゼを直接阻害する活性のない、グリセリンにカルボン酸が1つエステル結合したグリセリンカルボン酸モノエステルを有効成分とするチロシナーゼ活性低下剤であって、
前記グリセリンカルボン酸モノエステルが、デヒドロアビエチン酸が1つグリセリンにエステル結合したグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルである、チロシナーゼ活性低下剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチロシナーゼ活性低下剤及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
私たちはほとんど毎日紫外線(UV)を浴びて生活をしている。UVは波長の違いによりUV-A(315-400nm)、UV-B(280-315nm)、UV-C(100-280nm)に分類される。その中でもUV-Cはオソン層によって吸収されるため地表には届くことはなく、UV-AとUV-Bによって光老化と呼はれる皮膚の老化現象が起こる(非特許文献1)。UV-Aは波長が長いため雲や窓ガラスも通り抜ける。肌の真皮にまで到達し、肌のハリを保っているコラーゲンとエラスチンという2つの繊維を壊す酵素(コラゲナーゼとエラスターゼ)を増やす。その結果、コラーゲン繊維は小さく切断され、エラスチンは変性される。このため皮膚は弾力を失ってたるみ、シワを発生させるものと考えられている。また、UV-Aは皮膚の細胞を遺伝子レベルで傷つけるほか、皮膚の免疫力も低下させると考えられている。他方、UV-Bは肌の表皮にあるメラニン細胞を活性化させて多量のメラニンを生成させる作用の他、表皮細胞の遺伝子に傷をつけて皮膚ガンの原因にもなるものと考えられている。波長が短いため肌の真皮にまで直接は届かないが、真皮にある肌のハリを保っているコラーゲン繊維を壊すコラゲナーゼという酵素の働きを高めて、間接的にシワの原因になる(非特許文献2)。このように、光老化の主な特徴はシワやシミの形成であり、美容上その形成抑制が求められている。
【0003】
皮膚は表皮、真皮、皮下組織から成り、表皮は一番内側から基底層、有棘層、顆粒層、角質層の4層になっている。皮膚は生まれて剥がれ落ちるまで、約一ヶ月間のサイクルで再生され、これを「代謝回転(以下、ターンオーバー)」と呼ぶ。また、黒人や白人、黄色人種で肌の色や髪の色に違いがあるのは、皮膚に含まれる色素の黒色メラニン(ユーメラニン)と肌色メラニン(フェオメラニン)の量が異なることから違いが生まれると考えられる(非特許文献3)。メラニンには「体温保持」、「限度以上の紫外線吸収を抑える」という重要な働きがあり、着色することによって私たちの体を守っていると言える。しかし、肌への過剰な刺激、ホルモンバランスの乱れ、加齢などによって必要以上にメラニンが生成され肌のターンオーバーが追いつかなくなると、シミとなる(非特許文献4)。
【0004】
メラニンとは動物、植物、原生動物、一部の菌類、真正細菌内で形成される褐色、黒色の色素である。哺乳動物ではメラニン細胞中にあるメラニン顆粒でつくられる。爬虫類、両生類、魚類など種々の変温脊椎動物ではメラニンを含む黒色細胞があり、細菌ではサケ科魚類のせっそう病菌が菌体外へ可溶性のメラニン様色素を産生することが知られている。メラニンはフェノール化合物であり、黒色素胞及びメラノサイトの中でチロシンから生合成され、毛髪や皮膚及び目の網膜の色を決定する。メラニン生成のキー酵素は初発のチロシンの水酸化反応を触媒してL-ドーパを生成するチロシナーゼである(非特許文献5)。メラニン色素は紫外線が真皮に到達するのを防ぎ、紫外線から私たちの体を守る機能をもっている。即ち、皮膚の紫外線防御において中心的役割を果たしているのがメラニンである。
【0005】
皮膚が紫外線を浴びると、活性酸素やMSH、エンドセリンなどの情報伝達物質が発生し、これらの情報伝達物質はメラノサイトにメラニンを作るよう指令する。その結果、メラノサイト内でチロシナーゼが活性酸素を吸収、分解する結果、メラニン色素が生成し、細胞内のメラノソームという小胞に蓄積する。メラニンが充満したメラノソームはメラノサイトの先端からケラチノサイトに受け渡されメラニンが現れる。
【0006】
健康な肌の場合、基底層で生まれた細胞はターンオーバーによって、皮膚の表面に押し上げられ、自然にメラニン色素が排泄されたり、一部はマクロファージ(白血球の一種)の貪食作用によって消失する。しかし、加齢、紫外線の浴び過ぎ、肌への過度の刺激、ストレスなどによりターンオーバーのサイクルが乱れると、新陳代謝が停滞しメラニンも滞留してしまうことになる。この大量に生成されて色素沈着したメラニンがシミの正体である。
【0007】
活性酸素とは、本来、体内に入ってきたウイルスを攻撃し体を守る働きがあり、必要不可欠なものである。しかし、体内に増え過ぎてしまうことで、正常な細胞まで攻撃してしまい老化を促進させたり、疾病を招いたりする恐れがある。現代人は多くのストレスを抱えており、それによって体内に活性酸素が増えすぎている状態にある。肌で活性酸素が過剰に発生すると、しわやシミ、そばかすの原因になる(非特許文献6)。
【0008】
時代の移り変わりとともに美白ケアに対する関心が高まってきており、美容業界をはじめとして新規な美白成分の研究・開発にしのぎを削ってきている。そして、メラニン形成阻害やチロシナーゼ阻害に有効な物質のスクリーニングが行われた結果、4-4(ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール(以下、「ロドデノール」)、やコウジ酸、アルブチン、4-n-ブチルレゾルシノール(以下、「ルシノール」)などの物質が見出されてきている(特許文献1~5、非特許文献6)。
【0009】
ロドデノールは、含有する化粧品の使用者から化学的白斑の症状(色素脱失)を引き起こすことが報告されたことで大きな社会問題になり市場から撤退した物質であり、ヒトメラニン細胞のチロシナーゼ活性を抑制し、チロシナーゼを競合的に阻害する作用をもつことが明らかとなっている(非特許文献2)。ロドデノール以外の物質も厚生労働省認可の医薬部外品有効成分であるが、コウジ酸は接触性皮膚炎や感作などのアレルギー反応を引き起こす可能性(非特許文献3)や、発がん性がある可能性(非特許文献4)が指摘されており、また、アルブチンやルシノールについては細胞毒性はなくほぼ安全性は確認されているものの、メラニン形成阻害効果の主要メカニズムがメラニン合成のキー酵素の一つであるチロシナーゼの直接阻害であることが報告(非特許文献4、5)されており、チロシナーゼ活性を非特異的に阻害すると極端なメラニン形成阻害に繋がって色素脱失に至る可能性も否定しきれない問題があると考えられ、チロシナーゼを直接阻害せずにメラニン形成メカニズムに密接に関係する細胞内チロシナーゼ生合成に関与する複数のシグナル伝達系の部分的な制御により、チロシナーゼのタンパク生合成を制御することを通して間接的にメラニン形成を抑制するタイプのより安全性の高いチロシナーゼ活性低下剤が求められていた。
【0010】
チロシナーゼは(EC 1.14.18.1)は、チロシンを出発物質として、メラニン形成につながる経路の初期の2つの酵素的酸化反応(チロシンの水酸化:モノオキシゲナーゼ活性とo-ジフェノルからo-キノンへの反応:オキシダーゼ活性)を触媒する。この生成されたo-キノンは高い反応性を持つことから、直ちに高分子化されてメラニンが形成される。
【0011】
一方、不飽和脂肪酸と1価又は2価アルコールとのエステル化合物にチロシナーゼ阻害活性があることが報告され(特許文献6)、また脂肪酸と3価アルコール(グリセリン)のモノエステル(モノグリセロール)が美白化粧料に配合されることが記載されている(特許文献7、8)。加えて、トリオレイン又はトリリノレイングリセロールを有効成分とするチロシナーゼ阻害剤が報告されている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2004-59496号公報
【文献】特開2001-240556号公報
【文献】特開2006-69954号公報
【文献】特開1993-194258号公報
【文献】特開1998-265366号公報
【文献】特開1988-284109号公報
【文献】特開2004-51610号公報
【文献】特開2003-261431号公報
【文献】特開2008-24618号公報
【文献】特開2004-352697号公報
【文献】特開2004-352647号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Choi BK, Cha BY, Fujiwara T, Kanamoto A, Woo JT, Ojika M, Imokawa G . Arenarol isolated from a marine sponge abrogates endothelin-1-stimulated melanogenesis by interrupting MEK phosphorylateion in normal human melanocytes, Cytotechnology., 65, 915-926 (2013)
【文献】Kim HJ, Yonezawa T, Teruya T, Woo JT and Cha BY. Nobiletin, a Polymethoxy Flavonoid, Reduced Endothelin-1 Plus SCF-Induced Pigmentation in Human Melanocytes, Photochemistry and Potobiology., 91, 379-386, (2015)
【文献】Kim HJ, Kim IS, Dong Y, Lee IS, Kim JS, Kim JS, Woo JT and Cha BY. Melanogenesis-Inducing Effect of Cirsimaritin through Increases in Microphthalmia-Associated Transcription Factor and Tyrosinase Expression, International Journal of Molecular Sciences., 8772-8788, (2015)
【文献】Kim HJ, Kim JS, Woo JT, Lee IS and Cha BY. Hyperpigmentation mechanism of methyl 3,5-di-caaffeoylquinate through activation of p38 and MITF induction of tyrosinase, Acta Biochim Biophys Sin 1-9, (2015)
【文献】津田愛子、堀籠 悟、吉田 泉、山口昭弘、木船信行、神部武重、渡井正俊、小澤 淳、久米賢次. B16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制と抗酸化活性(Cellular Antioxidant Activity), J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn., 44(2), 139-142 (2010)
【文献】Maeda K.最近の美白剤の研究開発動向., フレグランス ジャーナル. 9月号, (1997)
【文献】Guerino G. Sacripante, Ke Zhou, and Muntaser Farooque. Sustainable Polyester Resins Derived from Rosins., Macromolecules, 48, 6876-6881, (2015)
【文献】Nishio T, Chikano T and Kamimura M. Ester Synthesis by the Lipase from Pseudomonas fragi 22.39 B, Agric.Biol.Chem., 52(5), 1203-1208, (1988)
【文献】船田 正, 平野二郎, 森岡憲祐, 村上幸子, 石田祀朗. 日本化学会誌., (12), 1797-1805, (1983)
【文献】メラニン色素の制御と美白剤の開発, フレグランスジャーナル社, No.14 (1995)
【文献】薬学雑誌, 112(4), 276-282, (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
チロシナーゼに働きかけメラニン産生を抑制する物質としては、アルブチンやルシノールに代表される直接的なチロシナーゼ酵素阻害作用を示すチロシナーゼ阻害剤(例えば、非特許文献10、11を参照)、チロシナーゼmRNA発現抑制作用によるチロシナーゼ発現抑制剤(例えば、特許文献10を参照)、チロシナーゼ酵素分解剤(例えば、特許文献11を参照)などが見出され、美白用の化粧料などに広く使用されてきている。また、これらのチロシナーゼ酵素に働きかける物質を単独で使用するのみならず、複数の物質を組み合わせた化粧料も数多く開発されているが、その効果は必ずしも満足のいくものとは言えない場合が多く、さらには安定性又は安全性に課題を有するものも少なくないことやチロシナーゼ発現抑制剤の場合にもチロシナーゼ酵素の直接阻害の有無について明らかにされていないのが現状であり、単独でこれらの課題を克服できる新しい美白剤の開発が求められていた。本発明はこのような状況を鑑みて、実質的な細胞毒性を認めず且つチロシナーゼ酵素に対する直接阻害活性かないにも関わらず細胞内のチロシナーゼ活性を低下(例えば、チロシナーゼmRNAの発現の抑制を介して)させる作用を有し、過去に大きな社会問題を発生したロドデノールのような色素脱失を発生しない、即ち、安全性が高い美容用化粧料の成分等として有用なチロシナーゼ活性低下剤及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した。まず、安全性を重視し、天然物からの同定を試みた。詳細には、桃の酵母発酵液とイチジクの酵母発酵液を調製し、チロシナーゼ活性低下作用を示す物質を探索した。その結果、酵母発酵液の脂質抽出物中にチロシナーゼ活性低下作用の高い物質の存在が確認され、その構造が推定された。この結果を基に酵素リパーゼを用いて類縁化合物も合成し、各化合物の活性を詳細に比較・評価することにより、チロシナーゼ活性低下作用に優れた化合物を選抜した。選抜した化合物のチロシナーゼに対する作用・効果を検討した結果、驚くべくことに、チロシナーゼを直接阻害しないにもかかわらず、細胞内のチロシナーゼ活性を著しく低下させる活性を示し、その効果は既存の美白成分(美白剤)に比較して同等以上であった。即ち、チロシナーゼを直接阻害しないというユニークな特徴を有し且つチロシナーゼ活性低下作用が極めて高い化合物の同定に成功した。これらの化合物を用いれば、例えば、その効果及び安全性に優れた美白用化粧料を提供することができる。
[1]チロシナーゼを直接阻害する活性のない、グリセリンにカルボン酸が1つエステル結合したグリセリンカルボン酸モノエステル又はグリセリンにカルボン酸が2つエステル結合したグリセリンカルボン酸ジエステルを有効成分とするチロシナーゼ活性低下剤。
[2]前記グリセリンカルボン酸ジエステルが、パルミチン酸が1つとステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したジアシルグリセロールである、[1]に記載のチロシナーゼ活性低下剤。
[3]前記グリセリンカルボン酸ジエステルが、デヒドロアビエチン酸が1つとパルミチン酸又はステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールである、[1]に記載のチロシナーゼ活性低下剤。
[4]前記グリセリンカルボン酸モノエステルが、デヒドロアビエチン酸が1つグリセリンにエステル結合したグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルである、[1]に記載のチロシナーゼ活性低下剤。
[5]前記有効成分がモモ又はイチジクの酵母発酵液から抽出されたものである、[1]~[4]のいずれか一項に記載のチロシナーゼ活性低下剤。
[6]前記有効成分が以下の構造からなる、[1]~[5]のいずれか一項に記載のチロシナーゼ活性低下剤:
【化1】
但し、式中のR1、R2、R3は以下の(a)~(i)、即ち、
(a) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子である;
(b) R1が水素原子であり、R2がデヒドロアビエチン酸であり、R3水素原子がである;
(c) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2がパルミチン酸であり、R3が水素原子である;
(d) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2が水素原子であり、R3がパルミチン酸である;
(e) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2がステアリン酸であり、R3が水素原子である;
(f) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2が水素原子であり、R3がステアリン酸である;
(g) R1がパルミチン酸であり、R2がステアリン酸であり、R3が水素原子である;
(h) R1がパルミチン酸であり、R2が水素原子であり、R3がステアリン酸である;及び
(i) R1がステアリン酸であり、R2がパルミチン酸であり、R3が水素原子である、
のいずれかの条件を満たす。
[7]グリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル、デヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール及びジアシルグリセロールからなる群より選択される、チロシナーゼを直接阻害する活性のない一又は二以上の化合物を含む、モモ又はイチジクの酵母発酵液の脂質抽出物からなるチロシナーゼ活性低下剤。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載のチロシナーゼ活性低下剤を含有する、メラニン生成抑制剤。
[9][8]に記載のメラニン生成抑制剤を含有する化粧料。
[10][8]に記載のメラニン生成抑制剤を含有する医薬又は医薬部外品。
[11]モモ又はイチジクの酵母発酵液から脂質成分を抽出する工程を含む、
グリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル、デヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール及びジアシルグリセロールからなる群より選択される、チロシナーゼを直接阻害する活性のない一又は二以上の化合物を有効成分とするチロシナーゼ活性低下剤の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】リパーゼによるデヒドロアビエチン酸を1つ含有するデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールの合成(以下、DHA:デヒドロアビエチン酸、PA:パルミチン酸、SA:ステアリン酸、ME:モノエステル、DE: ジエステル、TE:トリエステル)。酵素反応によって得られたサンプルをシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開した。
図2】リパーゼによるモノアシルグリセロール及びジアシルグリセロールの合成。酵素反応によって得られたサンプルをシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開した。
図3】デヒドロアビエチン酸を1つ含むグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルとデヒドロアビエチン酸とパルミチン酸又はステアリン酸を1つ含むデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールのチロシナーゼ活性低下の有無。
図4】パルミチン酸とステアリン酸を1つずつ含むジアシルグリセロールのチロシナーゼ活性低下の有無。
図5】既知美白成分のチロシナーゼ活性低下の有無。
図6】デヒドロアビエチン酸を1つ含むグリセリンデヒドロアゾエチン酸モノエステルとデヒドロアビエチン酸とパルミチン酸又はステアリン酸を1つ含むデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールのチロシナーゼ直接阻害活性の有無。
図7】パルミチン酸とステアリン酸を1つずつ含むジアシルグリセロールのチロシナーゼ直接阻害活性の有無。
図8】既知美白成分のチロシナーゼ直接阻害活性の有無。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、チロシナーゼを直接阻害する活性はなく、一方でチロシナーゼ活性低下作用が高いグリセリンアビエチン酸モノエステルとデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールを見出すことに成功した。当該成果に基づき、チロシナーゼを直接阻害する活性のないグリセリンカルボン酸モノエステル(グリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル等)又はグリセリンカルボン酸ジエステル(デヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール等)を有効成分とするチロシナーゼ活性低下剤が提供される。理論に拘泥する訳ではないが、チロシナーゼを直接阻害する活性のない、本発明のチロシナーゼ活性低下剤をメラニン産生細胞、即ちメラノサイトに作用させると、細胞内のチロシナーゼ産生に関係する一つないしは複数のシグナル伝達を制御することにより、チロシナーゼの発現量の抑制を経てメラニン形成を阻害すると考えられる。
【0018】
本発明に特徴的な上記特性を認めた化合物は構成カルボン酸に特徴ないし共通性があり、デヒドロアビエチン酸がグリセリンに1つエステル結合したグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル(即ち、カルボン酸残基としてデヒドロアビエチン酸を1つ含むことになる)、デヒドロアビエチン酸が1つとパルミチン酸又はステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール(即ち、カルボン酸残基としてデヒドロアビエチン酸を1つとパルミチン酸又はステアリン酸を1つ含むことになる)、及びパルミチン酸とステアリン酸が1つずつグリセリンにエステル結合したジアシルグリセロール(即ち、カルボン酸残基としてパルミチン酸を1つとステアリン酸を1つ含むことになる)である。好ましくは、以下の構造からなる化合物(グリセリンカルボン酸モノエステル又はグリセリンカルボン酸ジエステル)が本発明のチロシナーゼ活性低下剤の有効成分となる。
【化1】
但し、式中のR1、R2、R3は以下の(a)~(i)のいずれかの条件を満たす。
(a) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子である。
(b) R1が水素原子であり、R2がデヒドロアビエチン酸であり、R3水素原子がである。
(c) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2がパルミチン酸であり、R3が水素原子である。
(d) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2が水素原子であり、R3がパルミチン酸である。
(e) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2がステアリン酸であり、R3が水素原子である。
(f) R1がデヒドロアビエチン酸であり、R2が水素原子であり、R3がステアリン酸である。
(g) R1がパルミチン酸であり、R2がステアリン酸であり、R3が水素原子である。
(h) R1がパルミチン酸であり、R2が水素原子であり、R3がステアリン酸である。
(i) R1がステアリン酸であり、R2がパルミチン酸であり、R3が水素原子である。
【0019】
本発明のチロシナーゼ活性低下剤を構成するグリセリンカルボン酸モノエステル及びグリセリンカルボン酸ジエステルは有機化学合成や酵素合成によって調製することができる。例えば、グリセリンの1位又は2位にデヒドロアビエチン酸が1つエステル結合したグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルは、公知の方法(非特許文献6)に従い、市販の試薬デヒドロアビエチン酸とグリセリン-1,2-カルボナート及びテトラエチルアンモニウムヨージドを原料として有機化学合成すればよい。また、デヒドロアビエチン酸1つとパルミチン酸又はステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールは、グリセリンにヒドロアビエチン酸を1つ含むグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルとパルミチン酸又はステアリン酸を基質としたリパーゼによる酵素合成によって簡便に調製することができる。同様に、パルミチン酸とステアリン酸が1つずつグリセロールにエステル結合したジアシルグリセロールは、グリセリンとパルミチン酸又はステアリン酸を基質とした、リパーゼを用いた酵素合成によって簡便に調製することができる。一方、パルミチン酸とステアリン酸が1つずつグリセリンにエステル結合したジアシルグリセロールについては、モモ、イチジク、ブドウ等の酵母発酵液中に存在する成分であり、酵母発酵液からの抽出により調製することもできる。目的の物質が得られる限りにおいて、使用するモモ(Amygdalus persica)は特に限定されず、白桃系、白鳳系、黄桃系等の水密種、蟠桃種、ネクタリン等を用いることができる。イチジク(Ficus carica)、ブドウについても同様である。
【0020】
モモ、イチジク、ブドウ等を原料として本発明のチロシナーゼ活性低下剤を調製する場合、典型的には、酵母発酵液から脂質成分を抽出する。酵母発酵液は、果肉、果汁、搾汁、或いはこれらの溶液や希釈液等に酵母を添加し、発酵させることにより得られる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(例えば市販のパン酵母を用いることができる)を用いることができる。抽出方法は常法、例えばbligh-dyer法やFolch法、或いはこれらの改良法を採用すればよい。得られた脂質抽出物(チロシナーゼを直接阻害する活性のない化合物、具体的には、デヒドロアビエチン酸が1つグリセリンにエステル結合したグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル 、デヒドロアビエチン酸が1つとパルミチン酸又はステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール、又はパルミチン酸が1つとステアリン酸が1つグリセリンにエステル結合したジアシルグリセロールを含有する)を本発明のチロシナーゼ活性低下剤として用いることもできる。この場合において、一部の有効成分を除去ないし低減させるため、又は不要な成分(夾雑物)を除去ないし低減させるための精製(例えばクロマトグラフィー)を行うことにしてもよい。
【0021】
一方、脂質抽出物から特定の成分(例えば、パルミチン酸とステアリン酸が1つずつグリセロールにエステル結合したジグリセロール)を分離(分画)ないし精製し、本発明のチロシナーゼ活性化剤の有効成分として用いることにしてもよい。脂質抽出物からの各成分の分離には薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー等を利用することができる。尚、脂質抽出物中又は脂質抽出物から分離した成分の組成や構造の分析・同定にはガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)、液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC/MS)、核磁気共鳴(NMR)等を利用すればよい。
【0022】
上記の通り、本発明のチロシナーゼ活性低下剤は、メラノサイトにおけるメラニン形成を阻害することができる。即ち、メラニン生成の抑制効果を発揮する。そこで本発明の第2の局面は、本発明のチロシナーゼ活性低下剤を含有するメラニン生成抑制剤を提供する。本発明のメラニン生成抑制剤は化粧料、医薬品又は医薬部外品の有効成分として有用である。特に、美白剤(美白成分)としての利用価値が高く、本発明によれば、美白効果に優れた化粧料(美白化粧品)を提供し得る。
【0023】
本発明のメラニン生成抑制剤を化粧料、医薬品又は医薬部外品等の組成物の有効成分として用いる場合、化粧料(化粧品)、医薬品又は医薬部外品に配合される各種物質、例えば、賦形剤、希釈剤、pH調整剤、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、分散剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、植物抽出液、アルコール類、酸化防止剤、ビタミン類等を適宜組み合わせて用いることができる。また、他の美白成分(例えばコウジ酸、アルブチン、ルシノール、トラネキサム酸、ハイドロキノン、エラグ酸、ビタミンC又はその誘導体、ラズベリーケトングルコシド、杏エキス、小麦胚芽エキス、リンドウエキス、アニスエキス、油溶性カンゾウエキス、サイシンエキス、亜麻仁エキス、ジオスコレアコンポジ一夕エキス、ニワトコエキス、岩白菜エキス、カミツレ抽出物、ビタミンB類)を併用することにしてもよい。
【0024】
有効成分のグリセリンカルボン酸モノエステル、グリセリンカルボン酸ジエステルの多くは水に不溶性であることから、上記の組成物においては、必要に応じて、化粧料や医薬/医薬部外品、或いは食品の分野で一般的に使われている乳化剤を用い、水溶性を付与するとよい。斯かる乳化剤としては、例えば、酢酸モノグリセリド、乳酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸、コハク酸、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノール酸エステルなどのグリセリン脂肪酸エステル類、キラヤの樹皮、大豆の種子、チャの種子などから抽出して得られるサポニン類、ショ糖とステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸あるいは酢酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸からなるショ糖脂肪酸エステル類、アブラナや大豆の種子から得られる植物レシチンあるいは卵黄から抽出して得られる動物レシチンなどのリン脂質類などが挙げられる。その他、陰イオン系界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルファオレインスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、非イオン系界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、などが使用できる。
【0025】
メラニン生成抑制剤の配合量は、有効成分であるチロシナーゼ活性低下剤を構成するグリセリンカルボン酸モノエステル(例えばグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル)、グリセリンカルボン酸ジエステル(例えば、グリセリンの1位又は2位にデヒドロアビエチン酸がエステル結合したグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルにパルミチン酸又はステアリン酸が1つエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール)の種類や組合せ、組成物の種類や形態、適用部位、適用対象などによって変動し得るが、組成物(化粧料、医薬品又は医薬部外品)の総量に対する有効成分(チロシナーゼ活性低下剤)の量が、例えば0.0001~10質量%、好ましくは0.005~1質量%、更に好ましくは0.001~0.1質量%である。
【0026】
化粧料の種類や形態等は特に限定されず、スキンケア化粧品、UVケア化粧品、ボディ化粧品、メイクアップ化粧品等(具体的には、ローション、乳液、クリーム、パウダー、パック、オイルリキッド、美容液、ファウンデーション、口紅、マッサージ料、ハンドクリーム、洗顔料等)として本発明の化粧料を提供することができる。
【0027】
医薬品/医薬部外品の形態(剤型)も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の医薬品/医薬部外品を提供できる。本発明の医薬品/医薬部外品はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本発明の医薬品/医薬部外品はヒトに対して適用される。
【0028】
本発明の医薬品/医薬部外品の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に症状、対象(典型的には患者)の年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、対象の病状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【0029】
尚、本発明のメラニン生成抑制剤を、メラニンの生成機構等の研究のためのツール(リサーチツール)として利用することもできる。
【実施例
【0030】
1.材料と方法
(1)試薬
D-MEM(High Glucose) without L-Glutamine and Phenol Red、100mmol/l Sodium Pyruvate Solution(×100)、200mmol/l L-Glutamine Solution(×100)、Forskolin、Endothelin-1、Ham’s F-12 with L-Glutamine and Phenol Red、 0.05w/v% Trypsin-0.53mmol/l EDTA・4Na Solution with Phenol Red 、10×PBS(-)、1% Sodium deoxychlate、0.1mol/l Phosphate Buffer Solution,ph7.0、MTT試薬、2-Amino-2Hydroxymethyl-1,3-propanediol、Glycine、Sodium Dodecyl Sulfate、Sodium Chloride、Acrylamide、2-Amino-2Hydroxymethyl-1,3-propanediol Hydrochoride、N,N’-Methylene-bis、Sample Buffer Solution(2ME+)(×4)、Ammonium Peroxodisulfate、RIPA Buffer、Skin Milk Powderは和光純薬工業より購入した。FBS、Penicillin Streptomycin、FBS、Penicillin Streptomycin、Human Epidermal Melanocytes,neonatal (Lot No:1725799)、Medium254、HMGS(Human Melanocyte Growth Supplement) 100×、BCA Protein Assay Kit、356000 MOUSE ANTI-TYROSINASE、HaltTM Protease&Phosphatase Inhibitor Cocktail (100×)、はサーモフィッシャーサイエンティフィック(株)より購入した。
【0031】
(2)細胞類*サイトカイン類
悪性黒色腫細胞株(HMV-II)*Forskolin
マウス黒色腫細胞株(B16 melanoma 4A5)*α-MSH
【0032】
(3)細胞培養
ヒト悪性黒色種由来細胞(HMV-II)を、penicillin・streptomycin(GIBCO)を1 %と56℃-30分間の非動化処理をしたウシ胎児血清(FBS)(Biowest)を10%補追したHam’s F-12 with L-Glutamine and Phenol Red(Wako)で37℃、5%二酸化炭素気流下で継代培養した。マウス黒色腫細胞株(B16 melanoma 4A5)(RBRC-RCB0557) (Lot No:022) (RIKEN)を、penicillin・streptomycin(GIBCO)を1%と同様の条件で非動化したウシ胎児血清(FBS)(Biowest)を10%、200mmol/l L-Glutamine Solution(×100) (Wako)を2%補追したD-MEM(高グルコース:L-グルタミン、フェノールレッド不含) (Wako)で同様に37℃、5%二酸化炭素気流下で継代培養した。
【0033】
(4)チロシナーゼ活性測定
チロシナーゼ活性測定には以下の(i)~(iv)に示す試薬類を用いた。
(i) Lysis Buffer(10ml)の調製(Mili-Q水使用)
1% Sodium deoxycholate(in H2O)を5ml、H2Oを4.95ml、5% Triton X-100を50μl(0.05g)及びPMSF(10μl of 100mM stock)を混合した。
(ii) Sodium phosphate Bufferの調製(SPB)(100mM,pH7.1)
室温にて以下の溶液を調製した。
A:Na2HPO4(100mM,Na2HPO4.12H2O)=3.58gに100mlのH2Oを加えた。
B:NaH2PO4(100mM, Na2HPO4.2H2O)=1.56gに100mlのH2Oを加えた。
BをAに混合し、pH 7.1に調整した。
(iii) A溶液、B溶液及びC溶液の調製
A溶液:0.6 mlのN.N.Dimethylformamideに14.4 mlのSPBを混合した。
B溶液:7.5 mgの3,4-Dihydroxyl-Penylalanineに7.5 mlのSPBを混合した。
C溶液:33.8 mgの3-Methyl-2-benzothiazolinone hydrazine hydrochloride,hydrateに7.5 mlのMili-Q水を混合した。
(iv) 混合溶液の調製
A溶液:B溶液:C溶液を1:1:1で混合した。
【0034】
HMV-IIあるいはB16 melanoma 4A5を10,000 cell/well(200 μl/well)で96well plateに播き、24時間後に調製したサンプルも添加し、3時間5%-CO2インキュベーターでインキュベーションした後、HMV-IIにはForskolin(5 μM/well)、B16 melanoma 4A5はα-MSH(5 μM/well)をそれぞれ添加し、サイトカインによる刺激を加えた。48時間後にLysis Buffer + PMSF(100 mM)を20 μl/wellずつ加えてマイクロプレートミキサーで10分間振動させ細胞を溶解した。その後、A溶液、B溶液及びC溶液の混合液を150 μl/well加え、37℃で30分、5%-CO2インキュベーターでインキュベーション(6well(n=6))を行った後、吸光度(505 nm)を測定した。また、細胞溶解液中のタンパク質量はBCA Protein Assayを用いて吸光度570 nmにて定量した。それぞれのサイトカイン添加区を対照とした有意差検定(T-TEST)を行った。また、いずれの細胞の場合も試験試料を添加した後の培養中の細胞を顕微鏡で観察し、異常に細胞数が減少したり、細胞の形状が異常に変形したりした場合には細胞培養異常として試験から除外し、正常な細胞数と細胞形状を維持しているものに限りチロシナーゼ活性測定に供した。
【0035】
(5)チロシナーゼ活性測定(チロシナーゼ直接阻害の評価)
(4)のチロシナーゼ活性測定の変法として、HMV-IIないしはB16 melanoma 4A5をそれぞれ10,000 cell/well(200 μl/well)で96well plateに播き、同時にForskolin(5μM/well)又はα-MSH(5μM/well)も添加し、Control(-)以外の全ての細胞のチロシナーゼを活性化させた。37℃-48時間培養後、調製した各サンプルを添加し、タンパク質量測定を行い、タンパク当たりのチロシナーゼ活性についてそれぞれのサイトカイン添加区を対照としてT-TEST(T検定)を行った。
【0036】
(6)ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)分析
GC/MS分析にはフロンティアラボ社製カラムUltra ALLOY-5(MS/HT、長さ30cm、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を装着したアジレント社製GC/MS6890N/5973Networkを用いた。ポリ5 %フェニル95 %ジメチルシロキサンでオーブン温度50~300℃(10℃/min)、注入口温度300℃、GC/MSインターフェイス温度320℃(熱分解装置-GC間及びGC-MS間の双方)、イオン源温度230℃、四重極温度150℃で試料サンプル注入量5μlで測定した。カラムクロマトグラフィーに続いて二次元TLCを行い、単離・精製されたチロシナーゼ抑制活性を有する試料のそれぞれのメチル化物を対象に分析した。メチル化にはナカライテスク社製の脂肪酸メチル化キットを用いた。試料1mgに必要量のメチル化試薬を添加し、37℃で1時間反応させたものに抽出試薬を混合した。二層に分離したら上層を採取し、イオン交換水で攪拌・洗浄したものをGC/MS用試料とした。
【0037】
(7)液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC/MS)分析
LC/MS分析には、ODS順相カラムを装着したGI-7400HDLCシステムとBRUKER社製esquire 3000 plusを用いた。分析用試料は薄層クロマトグラフィー(TLC)で単離・精製し、溶離液をエバポレーター(40℃で処理)で飛散させた。乾燥重量を測定した後、各試料をクロロホルム・メタノール(50:50)で2%溶液(w/v)になるように希釈した。この希釈液をチロシナーゼアッセイなどに必要な量、別の容器に分取し、70℃で溶媒を飛散させた。その後、同量のDMSOに溶解してバイオアッセイに供した。サンプル1mgをアセトニトリル100%に溶解し、更にアセトニトリルで10倍希釈したものを5μl注入した。尚、LCを経ずに直接MSに試料を注入する場合は、500μlシリンジに試料を500μl採取したものをMSのキャピラリーインジェクションの注入口に接続して連続分析した。
【0038】
(8)核磁気共鳴(NMR)分析
NMR分析にはJEOL社製400SS核磁気共鳴装置を用いた。核種として水素(H1)と炭素(C13)について分析した。乾燥重量5mgの試料をそれぞれ重水素クロロホルムに溶解して分析用サンプルとし、所定のガラス管チューブに注入して測定に供した。炭素(C13)分析は積算数を1000~2000で行った。
【0039】
(9)データの統計処理
チロシナーゼ活性及び細胞生存率の評価ではサンプル数を6(n=6)とし、いずれもForskolin又はα-MSH添加区を対照としたStudent T-TEST(両側検定2、非等分散3)を用いて有意差検定を行い、p<0.05、p<0.01及びp<0.001を有意差ありと判定した。
【0040】
2.チロシナーゼ活性阻害剤の調製・同定及び特性の評価
2-1.各化合物の調製
(1)デヒドロアビエチン酸を1つ含有するグリセリンカルボン酸モノエステルの有機化学合成、精製及び同定
非特許文献7の方法に従って、グリセリン-1,2-カルボナート(9.24g, 0.105mol)、テトラエチルアンモニウムヨージドtetraethylammonium iodide(128.5g, 0.0005mol)及びdehydroabietic acid(30.4g, 0.10mol)をスターラーチップと一緒に三角フラスコに入れ、ホットスターラーで窒素下、150℃で6時間加熱した。生成物(琥珀色の強粘液)を酢酸エチルで溶解し、炭酸ナトリウム水溶液と一緒に分液漏斗で2回抽出した。有機層からエバポレーターで抽出し、黄色の粘液性の生成物150.5gを得た。この生成物を高速液体クロマトグラフィーにかけてグリセリンの1位にデヒドアビエチン酸がグリセリンの1位に1つエステル結合した1-グリセリルデヒドロアビエテート(以下、1-DHA-ME)を単離・精製し、NMRで分析し、H1-NMRとC13-NMRスペクトルを非特許文献6の文献値と比較した(表1)。同様にして、グリセリンの2位にデヒドアビエチンが酸1つエステル結合した2-グリセリルデヒドロアビエテート(以下、2-DHA-ME)も単離・精製した。
【表1】
1-グリセリルデヒドロアビエテートのH1-NMRとC13-NMRスペクトルの化学シフト
【0041】
(2)グリセリンの1位にデヒドロアビエチン酸がエステル結合したデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールのリパーゼによる酵素合成
非特許文献8の方法に従って、基質として上記で得られた1-グリセリルデヒドロアビエテート(1-DHA- MG) 34mgとパルミチン酸24mg又はステアリン酸26mgをn-ヘキサン5mlに溶解させた後、リパーゼAK-Amanoを7,000unitになるように添加して、37℃振盪回数100rpmで8時間反応させた。8時間後に得られた酵素反応液を8,000rpmで10分間遠心分離処理し、上澄液をn-ヘキサン:酢酸エチル=75:25の展開液でシリカゲル薄層クロマトグラフィー(以下、TLC)展開した(図1)。次に、それぞれの酵素反応液の上澄液から、10cm×20cmのシリカゲル薄層を用いたTLCでそれぞれのデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロールを単離し、チロシナーゼ活性測定用の試料とした。
【0042】
(3)パルミチン酸とステアリン酸を1つずつ含有するジアシルグリセロールの酵素(リパーゼ)合成
非特許文献9の方法に従って、基質としてグリセリン3,000mgとパルミチン酸 8358mgと水をグリセリン比で0.6、7及び15%になるように添加した後、Aspergillus niger由来リパーゼを10,000 unitになるように添加し、40℃、窒素ガス気流下(100ml/min)で8時間反応させた。そして、各グリセリン比加水15%の8時間後に得られたそれぞれの酵素反応液の遠心分離上澄液の濃縮物をn-ヘキサン:酢酸エチル=75:25を展開液としたTLCに供した結果、原点付近に1位又は2位にパルミチン酸が1つエステル結合した2種類のパルミチン酸含有モノグリセロールのスポットが認められた(図2)。これらの2種類のパルミチン酸含有モノグリセロール(以下、1-PA-MEと2-PA-ME)をTLCでそれぞれ単離した。次に、単離された1-PA-MEあるいは2-PA-MEを基質として非加水系で、それぞれのパルミチン酸モノグリセロールの等モル量のステアリン酸を加えて上記と同様の反応条件で8時間酵素反応させた。得られた酵素反応液を8,000rpmで10分間遠心分離処理し、上澄み液の濃縮物をn-ヘキサン:酢酸エチル=80:20の展開液でTLC展開した。その結果、パルミチン酸とステアリン酸を1つずつ含有する3種類のジアシルグリセロール(以下、1-PA, 2-SA-DE、1-PA, 3-SA-DE及び1-SA, 2-PA-DE)のスポットが認められた(図2)。同様の方法で、グリセリンとステアリン酸の加水酵素反応系から1-SA, 2-PA-DE、1-SA, 3-PA-DE(=1-PA, 3-SA-DE)が得られた。尚、このリパーゼによるエステルの合成反応に用いるリパーゼについては、リパーゼPS-Amano-SD、リパーゼG-Amano 50、リパーゼAS-Amano、リパーゼAYS-Amano、リパーゼAK-Amanoなどの市販のリパーゼを用いればよい。
【0043】
以上の(1)~(3)で得られたデヒドロアビエチン酸とパルミチン酸又はステアリン酸を1つずつ含む4種類のデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール、パルミチン酸とステアリン酸を1つずつ含む3種類のジアシルグリセロール、及びにデヒドロアビエチン酸を1つ含む2種類のグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステルの合計9種類のグリセロールを、チロシナーゼ活性低下作用の評価とチロシナーゼ直接阻害活性の評価に供した。また、併せて既知の美白成分であるアルブチン、コウジ酸、ルシノール及びトラネキサム酸についても各種活性測定に供して比較した。
【0044】
2-2.各化合物のチロシナーゼ活性低下作用の評価
上記2種類のグリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル(以下、1-DHA-ME、2-DHA-ME)、4種類のデヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール(以下、1-DHA, 2-PA-DE、1-DHA, 3-PA-DE、1-DHA, 2-SA- DE、1-DHA, 3-SA-DE)及び3種類のジアシルグリセロール(以下、1-PA, 2-SA-DE、1-PA, 3-SA-DE、1-SA, 2-PA-DE)と4種類の既知美白成分について、HMV-II細胞のForskolin刺激系(1.(4)に記載の方法)により、0.1mM濃度レベルでのチロシナーゼ活性の挙動を調べた。結果を図3~5に示した。当該9種類の化合物は全てp<0.05~p<0.001の有意差水準を持ってチロシナーゼ活性を低下させた。また、その効果(活性低下作用の強さ)はアルブチンやコウジ酸よりも高く、美白成分として最強とされるルシノールに匹敵するものであった。尚、トラネキサム酸については0.1mM濃度ではチロシナーゼ活性の低下効果が認められなかった。
【0045】
2-3.チロシナーゼ直性阻害活性の評価(各化合物のチロシナーゼに対する直接阻害活性の有無)
上記当該9種類の化合物と4種類の既知美白成分について、チロシナーゼに対する直接阻害活性の有無を、チロシナーゼ活性測定プロトコールの試料の播種時期をチロシナーゼ活性測定の直前に行う変法(1.(5))によって調べた。実験結果を図6~8に示した。当該9種類の化合物は全ての試料において有意にチロシナーゼ活性を直接阻害しないことが分かる。対照的に、美白成分として最強とされるルシノールには、既報の通り、チロシナーゼを直接阻害する活性が認められる。
【0046】
尚、上記当該9種類の化合物のチロシナーゼ活性低下作用(抑制活性)とチロシナーゼに対する直接阻害活性の有無を以下の表2にまとめた。
【表2】
グリセリンデヒドロアビエチン酸モノエステル、デヒドロアビエチン酸モノアシルグリセロール及びジアシルグリセロールのチロシナーゼ活性の一覧(サンプル濃度はいずれも0.1mM)
【0047】
3.果実の果汁からのパルミチン酸とステアリン酸を1つずつ含むチロシナーゼ活性低下剤の製造
湿重量287.4gのイチジクの果肉に加水してBrix 2°になるまで希釈し、これに0.01重量%の市販乾燥パン酵母を加え、Brix0.5以下になるまで静置条件下で酵母発酵させた。得られた酵母発酵液を8,000rpmで遠心分離し、酵母菌体などの固形物を除去した。次いで、得られた上澄液をエバポレーターを用いて減圧濃縮して水を除去し、乾燥物17.04gを得た。この乾燥物の12倍量のイオン交換水、30.5倍量のメタノール及び15.3倍量のクロロホルムを加えた後、ソニケーターにて60分間超音波処理を行い、下層のクロロホルム層を回収した。続いて、上層の水層部に乾燥物の12倍量のイオン交換水と15倍量のクロロホルムを加えて同様に超音波処理を60分間行った後、下層のクロロホルム層を回収した。更に、上層の水層部に乾燥物の3.7倍量のメタノールと15倍量のクロロホルムを加えて30分間菌超音波処理を行い、下層のクロロホルム層を回収した。回収した全てのクロロホルム層をまとめた後、エバポレーターを用いて濃縮乾固し、濃縮物を0.291gを得た。得られた脂質濃縮物をシリカゲル薄層クロマトグラフィーにかけ、GC/MSで分析した結果、いずれからもパルミチン酸とステアリン酸を1分子ずつ含む物質であることが推定され、リパーゼを用いたそれぞれのジアシルグリセロールのRf値を指標として、1つのパルミチン酸と1つのステアリン酸を含む3種類のジアシルグリセロール(1-PA, 2-SA-DE、1-SA, 2-PA-DE及び1-PA, 3-SA-DE (=1-SA, 3-PA-DE))を得た。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のチロシナーゼ活性低下剤によれば、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制でき、色素沈着やシミ・ソバカスを予防又は改善することができる。従って、本発明のチロシナーゼ活性低下剤は美白剤として有用であり、特に化粧料の分野での利用・応用を期待できる。
【0049】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8