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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】放射線増感剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20230705BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 31/7135 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 31/145 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/197
A61K31/22
A61K31/7135
A61K31/145
A61P31/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/5415
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021502056
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006381
(87)【国際公開番号】W WO2020175253
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2019046480
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、橋渡し研究戦略的推進プログラム シーズB 「5-アミノレブリン酸塩酸塩を用いた放射線増感療法の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵子
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】原 武史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳子
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 均
(72)【発明者】
【氏名】森山 章弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 丈真
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129535(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/193958(WO,A1)
【文献】特開2009-155239(JP,A)
【文献】LABAY, Edwardine et al.,Repurposing cephalosporin antibiotics as pro-senescent radiosensitizers,Oncotarget,2016年,Vol.7(23),pp.33919-33933,ISSN:1949-2553
【文献】KALGHATGI, Sameer et al.,Bactericidal Antibiotics Induce Mitochondrial Dysfunction and Oxidative Damage in Mammalian Cells,Sci. Transl. Med.,2013年,Vol.5(192): 192ra85.,doi:10.1126/scitranslmed.3006055.,ISSN:1946-6234
【文献】JIANG, Heng et al.,Targeting antioxidant enzymes as a radiosensitizing strategy,Cancer Letters,2018年,Vol.438,pp.154-164,ISSN:0304-3835
【文献】WANG, Hui et al.,Auranofin radiosensitizes tumor cells through targeting thioredoxin reductase and resulting overprod,Oncotarget,2017年,Vol.8(22),pp.35728-35742,ISSN:1949-2553
【文献】TESSON, Mathias et al.,Cell cycle specific radiosensitisation by the disulfiram and copper complex,Oncotarget,2017年,Vol.8(39),pp.65900-65916,ISSN:1949-2553
【文献】RASHEDUZZAMAN, Mohammad et al.,Telmisartan generates ROS-dependent upregulation of death receptor 5 to sensitize TRAIL in lung canc,International Journal of Biochemistry and Cell Biology,2018年,Vol.102,pp.20-30,ISSN:1357-2725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セファクロール、セフィキシム、オーラノフィン及びジスルフィラムからなる群から選択される化合物と、
下記式(I)で示される化合物、該化合物のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル及びペンチルエステル、並びに該化合物の塩酸塩、リン酸塩及び硫酸塩からなる群から選択される化合物
【化1】
(式中、Rは、水素原子を表し、Rは、水素原子を表す)を有効成分として含有する、放射線増感剤。
【請求項2】
セファクロール、セフィキシム、オーラノフィン及びジスルフィラムからなる群から選択される化合物を有効成分として含み、
下記式(I)で示される化合物、該化合物のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル及びペンチルエステル、並びに該化合物の塩酸塩、リン酸塩及び硫酸塩からなる群から選択される化合物
【化1】
(式中、Rは、水素原子を表し、Rは、水素原子を表す)と併用される、放射線増感剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線増感剤に関する。本発明は、特に放射線照射により、がん細胞、がん前駆細胞、及びウイルスや細菌の感染による病変部の細胞等を、選択的に損傷又は死滅させる放射線治療に用いられる放射線増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、高エネルギーのX線やガンマ線を腫瘍に集中照射することで生じる活性酸素種(ROS)により、細胞内のDNA損傷や細胞膜障害を引き起こさせ、細胞死を誘導することにより行われる。放射線を腫瘍に照射すると、細胞内の水が水素原子とROSであるヒドロキシラジカルに分解される。その後、ヒドロキシラジカルが細胞内の酸素原子と反応することによって、ROSであるスーパーオキシドやヒドロペルオキシラジカルが生成される。これらのROSによって、細胞内のDNA損傷や細胞膜損傷が生じる。放射線治療には、これらの損傷が原因となる2つの細胞死誘導の機構が存在する。しかし、放射線の標的となる腫瘍細胞のみに放射線を照射するという照射方法がなく、放射線治療の反応が患部周辺の正常組織にも影響を与えてしまう可能性がある。特に患者に照射される放射線の強度が強い場合、正常組織に強い副作用を与える原因になる。
【0003】
そこで、標的となる腫瘍細胞に放射線を照射したときに、放射線のエネルギーを効率よく腫瘍細胞に伝達して標的細胞を損傷し、かつ周囲の正常細胞の損傷を低減することのできる低被曝、低侵襲の放射線増感剤が求められていた。そのような放射線増感剤として、金属や化合物が研究されてきた。
【0004】
金属に関する研究では、カチオン性高分子電解質で修飾された金のナノ粒子が、X線治療の増感剤になることが示唆された。カチオン性高分子電解質で修飾された金のナノ粒子をがん細胞に取り込ませ、X線を照射するとROSが増加し、X線照射のみを行うよりもDNA損傷と死細胞数が増加することが、明らかとなった(非特許文献1)。
【0005】
化合物に関する研究では、食道扁平上皮がん細胞において、悪性腫瘍による高カルシウム血症の治療に使用されるゾレドロン酸と電離放射線の組み合わせにより、細胞死が増加し、細胞周期がS期とG2/M期の間で停止することが確認された。ヒト臍帯静脈内皮細胞においてはゾレドロン酸と電離放射線を組み合わせることにより、細胞増殖と内皮管形成、浸潤の阻害が示された。これらのことから食道扁平上皮がん細胞において、ゾレドロン酸が放射線増感剤になると考えられている(非特許文献2)。
【0006】
別の化合物に関する研究では、マウス神経膠腫細胞株9L及びC6に5-アミノレブリン酸(5-ALA)を取り込ませ、電離放射線を照射したところ、電離放射線を照射しただけの条件と比べてコロニー形成率が減少したことが認められた。また、ROSの増加も確認されており、5-ALAを添加することによって放射線における抗がん効果が確認された(非特許文献3)。
【0007】
また、5-ALAを投与した脳神経膠腫細胞株を担がんしたマウスに、放射線を2Gy/dayで5日間連続照射することで、in vivo試験での放射線増感効果が検証された。その結果、in vivoでも腫瘍成長が阻害されることが確認された(非特許文献4)。
【0008】
更に、脳神経膠腫細胞株に5-ALAを取り込ませ、電離放射線を照射すると、12時間後にミトコンドリア量と呼吸鎖複合体IIIの活性、ROS産生量が増加することが明らかにされた。5-ALAは神経膠腫において、電離放射線によるミトコンドリア内酸化ストレスと細胞死誘導を増加させており、電離放射線の増感剤になることが示された(非特許文献5)。
【0009】
また、5-ALAを投与した黒色腫細胞株の担がんマウスに放射線を3Gy/dayで10日間照射することでin vivo試験での放射線増感効果が検証された。その結果、in vivoでも腫瘍成長が阻害されることが確認された(非特許文献6)。
【0010】
更に、5-ALAを投与した黒色腫細胞株の担がんマウスに放射線を3Gy/dayを10日間照射することでin vivo試験での放射線増感効果が検証された。その際、照射終了後に、がん組織の遺伝子発現解析が行われた結果、細胞周期の停止および遺伝子損傷修復の低下が確認された(非特許文献7)。このことは、ALAの増感効果はPpIXから生成する活性酸素による遺伝子の損傷および遺伝子修復酵素の阻害と考えられている。
【0011】
そして、X線治療用増感剤としてプロトポルフィリン、プロトポルフィリンナトリウム、ヘマトポルフィリン及び5-ALAからなる群から選択された化合物を有効成分とする特許出願も公開されている(特許文献1)。例えば、プロトポルフィリンにX線を照射すると、X線単独と比較して、多量の活性酸素が発生する(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2009-155239号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Nanoscale. 2014 September 7; 6(17): 10095-10099. doi:10.1039/c4nr01564a
【文献】Cytotechnology(2014)66:17-25
【文献】Oncol Rep. 2012 Jun;27(6)1748-52
【文献】MOLECULAR MEDICINE REPORTS 11: 1813-1819, 2015
【文献】Int J Mol Med. 2017 Feb;39(2):387-398. doi: 10.3892/ijmm.2016.2841. Epub 2016 Dec 28
【文献】SpringerPlus 2:602, 2013
【文献】Int J Radiat Biol 12:1-16, 2016
【文献】Radiat Phys and Chem, 78:889-898, 2009
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
放射線治療は、腫瘍の種類やサイズによって、大きな治療効果が見込めない場合がある。これは、腫瘍の種類によっては元来より放射線感受性が低く放射線治療効果が得られない、もしくは腫瘍が大きくなることにより腫瘍内が低酸素状態となり感受性が低下する等の理由による。そのため、放射線治療効果の向上が求められている。
【0015】
また、腫瘍の種類やサイズによって、治療効果が小さいと予想される場合に放射線の照射強度を強くすることがあるが、これが副作用を引き起こす原因になる。副作用を引き起こしてしまうのは、標的となる腫瘍細胞のみに放射線を照射する方法がないためであり、腫瘍組織と腫瘍組織周辺の正常組織にも放射線治療による影響が表れてしまうのである。そのため、放射線治療効果の向上に伴って生じる副作用の軽減も期待されている。
【0016】
本発明は、これらの問題を解決すべく本発明者らが種々の化合物をスクリーニングし、鋭意検討を行った結果、特定の化合物が放射線増感剤として有用であり、かつ5-ALAとの併用により相乗効果を奏することを見出し、完成された。
【0017】
すなわち、本発明は、ベータラクタム構造を有する化合物及び活性酸素生成能を有する化合物からなる群から選択される化合物を有効成分として含有する、放射線増感剤を提供する。
【0018】
前記ベータラクタム構造を有する化合物は、セファクロール、セフィキシム、セファタキシムナトリウム塩、アンピシリン三水和物、セファドロキシル、セフォチアム塩酸塩及びセファタジジム五水和物からなる群から選択される化合物であることが好ましい。また、前記活性酸素生成能を有する化合物は、オーラノフィン、ジスルフィラム及びテルミサルタンからなる群から選択される化合物であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の放射線増感剤は、下記式(I)で示される化合物又はその塩:
【0020】
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)と併用してもよい。
【0021】
あるいは、本発明の放射線増感剤は、下記式(I)で示される化合物又はその塩:
【0022】
【化2】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)を有効成分として更に含んでもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新規な放射線増感剤が提供される。また、該放射線増感剤と5-ALAとを同時に用いることで、生体への毒性が低く、非侵襲的にがん細胞への放射線治療効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】活性酸素検出試薬DHE及びAPFを用いて約10,000種類の化合物の放射性応答性をスクリーニングした結果を示すグラフである。a、bはそれぞれ、DHE、APFを活性酸素検出試薬とした場合のケルセチンの応答、および活性酸素生成能の算出方法を示すグラフである。cは約10,000種類の化合物のDHEとAPFの応答の分布示すグラフである。d、eはそれぞれ活性酸素検出試薬としてDHEを用いた場合の5Gyまたは10Gyでケルセチンを基準とした場合の活性酸素生成能が100%以上、200%以上を示す化合物の割合を示すグラフである。fは活性酸素検出試薬としてAPFを用いた場合の5Gyでケルセチンを基準とした場合の活性酸素生成能が200%以上、300%以上を示す化合物の割合を示すグラフである。
図2】活性酸素検出試薬DHE及びAPFを用いてスクリーニングされた化合物に対し、再現性および活性酸素除去剤(=クエンチャー)存在下での放射性応答性を評価した結果を示すグラフである。
図3】ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株A549細胞とヒト結腸腺癌細胞株HT29細胞を用い、5-ALAと及び/又はオーラノフィンを適用した放射線照射による細胞生存率の結果を示すグラフである。aはヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株 A549細胞を用いた結果を示すグラフ、bはヒト結腸腺癌細胞株 HT29細胞を用いた結果を示すグラフである。
図4】ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株A549細胞とヒト結腸腺癌細胞株HT29細胞を用い、5-ALA及び/又はジスルフィラムを適用した放射線照射による細胞生存率の結果を示すグラフである。aはヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株 A549細胞を用いた結果を示すグラフ、bはヒト結腸腺癌細胞株 HT29細胞を用いた結果を示すグラフである。
図5】ルシフェラーゼを発現するヒト結腸腺癌細胞株 HT29細胞を移植したヌードマウスを用いて、放射線照射前にオーラノフィンを適用した場合の、腫瘍サイズの変化をルシフェリンの蛍光により評価した結果を示すグラフである。
図6】ルシフェラーゼを発現するヒト結腸腺癌細胞株 HT29細胞を移植したヌードマウスを用いた結果であり、aは放射線照射前にジスルフィラムを適用した場合の腫瘍サイズの変化をルシフェリンの蛍光により評価した結果であり、bは実験終了後の腫瘍重量を示すグラフである。
図7】ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株A549細胞を用いて、放射線照射前に5-ALA及び/又はセファクロール水和物を適用した細胞生存率の結果を示すグラフである。
図8】ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株A549細胞を用いて、放射線照射前に5-ALA及び/又はセフィキシムを適用した細胞生存率の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の放射線増感剤は、ベータラクタム構造を有する化合物及び活性酸素生成能を有する化合物からなる群から選択される化合物を有効成分として含有する。「ベータラクタム構造」とは、四員環のラクタム(環状アミド)を持った構造をいう。また「活性酸素生成能を有する化合物」とは、前記ベータラクタム構造を有する化合物を含まない、活性酵素生成能を有する化合物をいう。
【0026】
本発明の放射線増感剤は、下記実施例に記載された方法により、約10,000種の有機化合物の中からスクリーニングされて得られた。得られた候補化合物を以下の表に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
【表8】
【0035】
【表9】
【0036】
【表10】
【0037】
【表11】
【0038】
更に、別の候補化合物を以下の表に示す。
【0039】
【表12】
【0040】
【表13】
【0041】
【表14】
【0042】
【表15】
【0043】
本発明の放射線増感剤は、特に、アンピシリン三水和物(前記表の番号V002)、セファタキシムナトリウム塩(V008)、セファタジジム五水和物(V014)、セファクロール(V040)、セファドロキシル(V046)、ジスルフィラム(V052)、セフォチアム塩酸塩(V056)、テルミサルタン(V059)、セフィキシム(V060)、オーラノフィン(V047)等が好ましいが、これらに限定されない。
【0044】
セファクロールはベータラクタム系抗生物質、セフィキシムはベータラクタム系抗生物質、アンピシリン三水和物はベータラクタム系抗生物質、セファタキシムナトリウム塩はベータラクタム系抗生物質、セファタジジム五水和物はベータラクタム系抗生物質、セファドロキシルはベータラクタム系抗生物質、セフォチアム塩酸塩はベータラクタム系抗生物質、オーラノフィンは抗リウマチ薬、ジスルフィラムは習慣性中毒用薬、テルミサルタンは循環機器系薬、例えばアンジオテンシンII受容体拮抗薬として広く使用されている化合物である。
【0045】
セファクロールはベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C15H14ClN3O4Sで表される。構造式は以下の式(II)で表される。
【0046】
【化3】
【0047】
セフィキシムは、ベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C16H15N5O7S2で表される。構造式は以下の式(III)で表される。
【0048】
【化4】
【0049】
オーラノフィンは、抗リウマチ薬として広く使用されている化合物である。組成式C20H34AuO9PSで表される。構造式は以下の式(IV)で表される。
【0050】
【化5】
【0051】
ジスルフィラムは、習慣性中毒用薬等として広く使用されている化合物である。組成式C10H20N2S4で表される。構造式は以下の式(V)で表される。
【0052】
【化6】
【0053】
テルミサルタンは、循環機器系薬、例えばアンジオテンシンII受容体拮抗薬等として広く使用されている化合物である。組成式C33H30N4O2で表される。構造式は以下の式(VI)で表される。
【0054】
【化7】
【0055】
アンピシリン三水和物は、ベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C20H24CINで表される。構造式は以下の式(VII)で表される。
【0056】
【化8】
【0057】
セファタキシムナトリウム塩は、ベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C16H16N5NaO7S2で表される。構造式は以下の式(VIII)で表される。
【0058】
【化9】
【0059】
セファタジジム五水和物は、ベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C22H32N6O12S2で表される。構造式は以下の式(IX)で表される。
【0060】
【化10】
【0061】
セファドロキシルは、ベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C16H17N3O5Sで表される。構造式は以下の式(X)で表される。
【0062】
【化11】
【0063】
セフォチアム塩酸塩は、ベータラクタム系抗生物質として広く使用されている化合物である。組成式C18H24CIN9O4S3で表される。構造式は以下の式(XI)で表される。
【0064】
【化12】
【0065】
前記セファクロール、セフィキシム、セファタキシムナトリウム塩、アンピシリン三水和物、セファドロキシル、セフォチアム塩酸塩、セファタジジム五水和物、オーラノフィン、ジスルフィラム及びテルミサルタンは、単独、あるいは組み合わせて放射線増感剤として使用することができる。
【0066】
また、前記放射線増感剤は5-ALAと併用することができ、患者への投与は5-ALAと別々に投与、あるいは投与時に混合調製してもよい。放射線治療時の併用投与で相乗効果が得られる。
【0067】
5-ALAは、単独でも放射線増感剤としての効果が確認されている化合物である(特許文献1)。5-ALAは、δ-アミノレブリン酸とも呼ばれるアミノ酸の1種である。5-ALAが代謝されることによりがん細胞および正常細胞内でPpIXが生成される。この時、がん細胞内のPpIX濃度は正常細胞と比較して非常に多く、放射線照射によってROSを産生する。腫瘍組織においてはPpIXと前記セファクロール等へ放射線照射を行うことで、ROSによって細胞の損傷を強める。
【0068】
5-ALAは、前記式(I)のRが水素原子又はアシル基であり、前記式(I)のRが水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である。
【0069】
前記式(I)におけるアシル基の具体例は、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基;ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基等である。
【0070】
前記式(I)におけるアルキル基の具体例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基等である。
【0071】
前記式(I)におけるシクロアルキル基の具体例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和又は一部不飽和結合が存在してもよい炭素数3~8のシクロアルキル基等である。
【0072】
前記式(I)におけるアリール基の具体例は、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基等である。
【0073】
前記式(I)におけるアラルキル基のアリール部分は、前記アリール基と同様に例示され、前記アラルキル基のアルキル部分前記アルキル基と同様に例示される。前記アラルキル基の具体例は、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基等である。
【0074】
これらの5-ALAは、生体内で、前記式(I)で示される5-ALA又はその誘導体の状態で本発明の効果を奏せればよく、投与する形態に応じて、溶解性を高めるための各種の5-ALA塩、または生体内の酵素で分解される5-ALAのエステル誘導体等のプロドラッグ(前駆体)として投与されうる。5-ALA及びその誘導体の塩の具体例は、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等である。前記酸付加塩の具体例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の有機酸付加塩である。前記金属塩の具体例は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;亜鉛塩等である。前記アンモニウム塩の具体例は、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等である。有機アミン塩の具体例は、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等である。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられうる。
【0075】
これらの5-ALAのうち、特に好ましい化合物は、5-ALA;5-ALAメチルエステル、5-ALAエチルエステル、5-ALAプロピルエステル、5-ALAブチルエステル、5-ALAペンチルエステル等の5-ALAエステル誘導体;並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。5-ALA、5-ALA塩酸塩及び5-ALAリン酸塩は最も好ましい。
【0076】
これらの5-ALAは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造されていてよい。5-ALAは、水和物又は溶媒和物を形成していてもよい。5-ALAのいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0077】
本発明の放射線増感剤及び/又は5-ALAの投与経路は、舌下投与を含む経口投与;カテーテルによる腎臓直接投与;吸入投与;点滴を含む静脈内投与;発布剤等による経皮投与;座薬、経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ又は腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による非経口投与等である。
【0078】
本発明の放射線増感剤及び/又は剤型を前記経路投与に応じて適宜決定できる。前記剤形の具体例は、注射剤、点滴剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、発布剤、座薬剤等である。
【0079】
本発明の放射線増感剤及び/又は5-ALAを調製するため、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加できる。これらの具体例は、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン等である。なお、本発明の放射線増感剤を水溶液として調製する場合、5-ALAの分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意することが望ましく、水溶液がアルカリ性となる場合、酸素の除去によって5-ALAの分解を防止できる。
【0080】
本発明の放射線増感剤の対象への投与後、通常24時間以内、好ましくは18時間以内、更に好ましくは3~12時間以内に放射線治療が開始される。本発明の放射線増感剤の投与量は、放射線治療の対象となる患者の身長、体重、年齢、症状等に応じて変更できる。例えば、セファクロールは一日1~1500mgが好ましく、セフィキシムは一日1~400mgが好ましく、セファタキシムナトリウム塩は一日1~2000mgが好ましく、アンピシリン三水和物は一日1~500mgが好ましく、セファドロキシルは一日1~500mgが好ましく、セフォチアム塩酸塩は一日1~2000mgが好ましく、セファタジジム五水和物は1~2000mgが好ましく、オーラノフィンは一日1~6mgが好ましく、ジスルフィラムは一日1~50mgが好ましく、テルミサルタンは一日1~80mgが好ましい。
【0081】
5-ALAの対象への投与量は、前記放射線増感剤の投与量を考慮でき、例えば、5-ALA(式(I)において、R及びRが水素原子である場合)換算で、対象1kg当たり、1mg~1,500mg、好ましくは5mg~100mg、より好ましくは10mg~30mg、更に好ましくは15mg~25mgの範囲で調節できる。
【0082】
本発明の放射線治療用増感剤及び/又は5-ALAの対象への投与後、対象に照射される放射線は、γ線、X線、電子線、α線、中性子線等の電離性放射線である。
【0083】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【実施例
【0084】
[約10,000種化合物のスクリーニング]
以下の手法に従って、活性酸素検出試薬DHE(主として一重項酸素およびスーパーオキサイドを検出)およびAPF(主としてOHラジカルを検出)を用いて、ポジティブコントロールをケルセチンとし、約10,000種類の化合物に対する放射線応答性を測定した。
【0085】
<サンプル調製>
Assayには、下記のサンプルを50 μLに調製した。
東京大学創薬機構により提供されているCore Library(分子量100から1000の有機化合物) 10 mMをDMSOで2 μMに希釈した。さらにPBSで10 μMに希釈した(DMSO濃度0.5%)。
Positive Control (PC)として、10 mM ケルセチンDMSO液を用い、試料と同様に希釈した。
Negative Control (NC)として、同濃度のDMSOを含むPBSバッファを用意した。
また、前記調製済みサンプルと等量のROS検出試薬(100 μM DHEまたは10 μM APF)を用いた。
【0086】
<解析手法>
サンプルを96well プレート2枚(X0プレート、X5プレートまたはX10)に50 μL分注した。PCは10 μMケルセチン溶液、NCは0.5%DMSOを含むPBSバッファを50 μL/wellで加えた。
X線照射前にROS検出試薬を50 μL加えた。ROS検出試薬がDHEの場合は100 μMとし(0.4%DMSOを含む)、APFの場合には10 μM(0.2%DMFを含む)とした。この為、ROS検出試薬の終濃度はDHEの場合50 μM、APFの場合には5 μM(0.2%DMFを含む)、サンプルの濃度は5 μMとなる。
Background(BG)は100μM DHEの代わりに0.4%DMSOを含むPBSバッファ、または10 μM APFの代わりに0.2%DMFを含むPBSバッファを50 μL/wellで加えた。
PC、NCはn=6、サンプルはn=1、バックグラウンド(BG)をn=4とした。
【0087】
蛍光試薬がDHEの場合は、プレートの1枚はX線を照射せず(X0プレート)、残りの1枚にX線を5 Gy(X5プレート)または10 Gy(X10プレート)を照射した(160 kV, 6.2mA, 1 Gy/min)。その後、マイクロプレートリーダーでROS検出薬の蛍光を測定(Ex.485 nm, Em 610 nm)した。
蛍光試薬がAPFの場合は、プレートの1枚はX線を照射せず(X0プレート)、残りの1枚にX線5 Gy(X5プレート)を照射した(160 kV, 6.2mA, 1 Gy/min)。その後、XマイクロプレートリーダーでROS検出薬の蛍光を測定(Ex.480 nm, Em 520 nm)した。
【0088】
<データ解析>
蛍光試薬がDHEの場合はX5プレートまたはX10プレートとX0プレートの差を算出したものを測定値とした。蛍光試薬がAPFの場合はX5プレートとX0プレートの差を算出したものを測定値とし、以下の式よりSignal/Background 比、CV(%)、Z'を算出した。
・S/B = MeanPC /MeanNC
・CV (%) = 100(SDNC/MeanNC), 100(SDPC/MeanPC)
・Z' = 1-(3SDNC+3SDPC)/(MeanPC-MeanNC)
※MeanNC: Negative Controlの平均値
※MeanPC: Positive Controlの平均値
※SDNC: Negative Controlの標準偏差
※SDPC: Positive Controlの標準偏差
【0089】
PCを反応100%、NCを反応0%として反応率DHEX5%、DHEX10%、APFX5を以下の式で計算した。
・DHEX5= 100{(Sample-MeanNC)/(MeanPC-MeanNC)}
・DHEX10= 100{(Sample-MeanNC)/(MeanPC-MeanNC)}
・APFX5= 100{(Sample-MeanNC)/(MeanPC-MeanNC)}
【0090】
<スクリーニング結果>
約10,000化合物のスクリーニング結果を図1に示す。ケルセチンと比べて2倍のROS産生をした化合物がDHE:5 Gy照射25個、10 Gy照射28個、ケルセチンと同等のROS産生をした化合物がDHE:5 Gy照射258個、10 Gy照射253個、APF:5 Gy照射41個であった(図1のd、e、f参照)。現在増感剤として使用しているプロトポルフィリンはケルセチンの約0.4倍であることから、放射線増感剤として有用である。
ケルセチンはAPFで検出されるROSであるOHラジカルのスカベンジャーとして知られている。ケルセチンがスカベンジするROSと比較して、2倍以上のROSを産生する化合物は、APF:5 Gy照射31個であり、倍以上のROSを産生する化合物はAPF:5 Gy照射41個であった(図1のd、e、f)。現在増感剤として使用しているプロトポルフィリンは約0.5倍であることから、放射線増感剤として有用である。
【0091】
[スクリーニング結果の確認試験]
約10,000種化合物のスクリーニングの結果の中で、特に反応が高い化合物を選択し、約10,000種化合物のスクリーニングと同様に試験を行い、その際に特定のROSに対する消去剤を添加した。具体的には終濃度5 μM, 0.25%DMSOに調整した対象化合物に対して、DHEによるスーパーオキシドの検出アッセイでは終濃度7.5 UとなるようSODを添加後にROS検出試薬DHEを加え、37℃で30分インキュベート後にX線を照射した。APFによるヒドロキシラジカルの検出アッセイではエタノールを終濃度10%となるよう添加後にROS検出試薬APFを加えた後にX線を照射した。
【0092】
<スクリーニング結果>
DHE、APFともにクエンチャーを添加するとシグナルが低下し、これまでに得られたシグナルはROSであることが確認された(各測定n=3以上)。X線の細胞損傷効果は水の分解により生じたヒドロキシラジカルである。APFにより検出されるROSは主としてヒドロキシラジカルであることから、APFでROS生成が確認される化合物は放射線増感剤として有用である。光線力学療法の細胞損傷効果は一重項酸素もしくはスーパーオキシドとされており、DHSにより検出されるROSは主として一重項酸素もしくはスーパーオキシドである。この為、DHEでROS生成が確認される化合物は放射線増感剤として有用である。また、これまで放射線増感効果が確認されているプロトポルフィリンは、DHE、APFの双方によるROS生成が確認されている。
このため、図2のGroup1、2、3のいずれの化合物も、放射線増感剤として有用である。
【0093】
[約1200種既存薬のスクリーニング]
<サンプル調製>
Assayには、下記のサンプルを50 μLに調製した。
東京大学創薬機構により提供されているvalidated Compound Library (既知活性化合物とoff patent医薬品からなる 約1200種類の有機化合物ライブラリー) をDMSOで2 μMに希釈した。
【0094】
<解析手法>
前記約10,000種化合物のスクリーニングと同じ方法にて解析を行った。
【0095】
<結果>
Validated Compound Library に対してスクリーニングを行った結果を表16~18に示す。いずれの化合物もプロトポルフィリンより高い活性酸素生成能を示しており、放射線増感剤として有用である。なお、表16に示される番号W002はセファクロール水和物の結果を示し、番号W022はセフォチアム一塩酸塩の結果を示す。
【0096】
【表16】
【0097】
【表17】
【0098】
【表18】
【0099】
[候補化合物の検討及び5-ALAの相乗効果の検討]
<細胞培養方法>
ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株A549細胞、ヒト結腸腺癌細胞株HT29細胞、マウスメラノーマB16/BL6は、10%FBSを含むRPMI1640培地を用いて、CO2インキュベーターで培養した。
ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株 A549細胞、ヒト結腸腺癌細胞株 HT29細胞またはマウスメラノーマB16/BL6を96穴マイクロプレートに播種して500 cell/wellで播種した。その後、サブコンフルエントになるまで培養した。
【0100】
細胞培地50 μLに対して候補化合物サンプル(オーラノフィン、ジスルフィラム)を5 μL添加した(オーラノフィン終濃度0.5 μM 、ジスルフィラム終濃度5 μM、DMSO:0.5%)。Positive Control (PC)にはプロトポルフィリン溶液を添加し、Negative Control (NC)にはDMSOのみを添加しX線を照射しなかった。なお、Backgroundは細胞を播種せず、培地のみを添加した。PC、BG、サンプルをn=4、NGをn=8とした。
【0101】
化合物添加してから4時間培養した後、放射線照射を行った。その後、1時間37℃でインキュベートし、回復培養として新たな培地に交換して36時間から48時間培養した。
【0102】
回復培養後に細胞増殖測定試薬Cell Counting kit-8(WST8)を5%量添加した培地に交換し、37℃で1時間保温後、マイクロワンプレートミキサーで攪拌したサンプルをマイクロプレートリーダーで450 nmの吸収波長を測定した。測定結果より以下の式を用いて細胞生存率を算出した。
・細胞生存率(%) = 100{(Sample-Background)/(Negative Control-Background)}
【0103】
前記実験手法に従い、5-ALAを40 μM単独、5-ALAを40 μMと候補化合物とを併用したサンプルも同様に検討した。
【0104】
<オーラノフィンの結果>
オーラノフィンの検討結果を図3に示す。A549細胞、HT29細胞のいずれにおいても、5-ALA単独よりもオーラノフィン単独で生存率が低下し、5-ALAとオーラノフィンの併用で更に細胞生存率が低下した。
【0105】
<ジスルフィラムの結果>
ジスルフィラムの検討結果を図4に示す。A549細胞、HT29細胞のいずれにおいても、5-ALA単独よりもジスルフィラム単独で生存率が低下する傾向がみられ、5-ALAとジスルフィラムの併用で更に細胞生存率が低下した。
【0106】
[オーラノフィンの効果の検討](動物試験)
<実験方法>
ルシフェラーゼ発現ヒト結腸腺癌細胞であるHT-29-luc細胞1×106個をBALB/c nu/nuマウス(6週齢雌)の大腿部皮下に移植し、担がんマウスを作製した。HT-29-luc細胞の移植から7日後、150 mg/kgのルシフェリンを担がんマウスに投与し、IVIS Imaging System(住商ファーマインターナショナル株式会社)でHT29-luc細胞が発するルシフェラーゼ蛍光を定量し、ルシフェラーゼ蛍光の平均が均等になるように、X線を照射しない群、1.1 mg/kgのオーラノフィンの投与をしてX線を照射しない群、X線を照射するのみの群、1.1 mg/kgのオーラノフィンの投与から2時間後にX線を照射する群に分けた。
【0107】
X線を、Faxitron CP-160型X線照射装置(アクロバイオ株式会社)を用いて、1 Gy/分の強度で1日当たり2分間、5日連続で照射し、2日の間隔をあけて、再び5日連続で照射した。照射開始日から、7日後、11日後、22日後に、150 mg/kgのルシフェリンを各群の担がんマウスに投与し、上記IVIS Imaging SystemでHT-29-luc細胞が発するルシフェラーゼ蛍光を測定した。がん組織におけるルミネッセンスの測定結果を図5に示す。
【0108】
<結果>
X線を照射しない群は、オーラノフィンを投与してもマウスの腫瘍は増殖し続けた。一方、X線を照射した群の腫瘍の増殖は抑制され、オーラノフィンの投与から2時間後にX線を照射した群の担がんマウスの腫瘍の増殖はさらに抑制された。
【0109】
[ジスルフィラムの効果の検討](動物試験)
<実験方法>
ルシフェラーゼ発現ヒト結腸腺癌細胞であるHT-29-luc細胞1×106個をBALB/c nu/nuマウス(6週齢雌)の脳に移植し、担がんマウスを作製した。HT-29-luc細胞の移植から7日後、150 mg/kgのルシフェリンを担がんマウスに投与し、IVIS Imaging System(住商ファーマインターナショナル株式会社)でHT29-luc細胞が発するルシフェラーゼ蛍光を定量し、ルシフェラーゼ蛍光の平均が均等になるように、X線を照射しない群、15 mg/kgのジスルフィラムの投与をしてX線を照射しない群、X線を照射するのみの群、15 mg/kgのジスルフィラムの投与から10分後にX線を照射する群に分けた。
【0110】
X線を、Faxitron CP-160型X線照射装置(アクロバイオ株式会社)を用いて、1 Gy/分の強度で1日当たり2分間、5日連続で照射し、2日の間隔をあけて、再び5日連続で照射した。X線照射開始日から7日後、11日後、31日後に150 mg/kgのルシフェリンを各群の担がんマウスに投与し、上記IVIS Imaging SystemでHT-29-luc細胞が発するルシフェラーゼ蛍光を測定した。がん組織におけるルミネッセンスの測定結果、及び照射最終日から31日後に解剖し、がん重量を測定した結果を図6に示す。
【0111】
X線を照射しない群は、ジスルフィラムを投与してもマウスの腫瘍は増殖し続けた。一方、X線を照射した群の腫瘍の増殖は抑制され、ジスルフィラムの投与から10分後にX線を照射した群の担がんマウスの腫瘍の増殖はさらに抑制された。
【0112】
[候補化合物と5-ALAの投与前後の放射線照射の検討]
<実験手法>
ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞株 A549細胞を96穴マイクロプレートに播種し、オーラノフィン及びジスルフィラムにおける前記実験手法と同様にして培養した。また、セファクロール水和物あるいはセフィキシム 0 μM、10 μMと、5-ALA 0 μM、40 μMとを組み合わせた各サンプルを調製した。化合物添加4時間後に放射線照射し、前記実験手法に従って検討した。
【0113】
<セファクロール水和物の結果>
セファクロール水和物の検討結果を図7に示す。5-ALA及び又はセファクロール水和物を5 Gyの放射線照射前に添加すると細胞生存率は変化せず、5-ALAとセファクロール水和物を併用すると更に細胞生存率が低下した。
【0114】
<セフィキシムの結果>
セフィキシムの検討結果を図8に示す。5-ALA及び/又はセフィキシムを10 Gyの放射線照射前に添加すると細胞生存率は放射線単独と比較して変わらないが、5-ALAとセフィキシムを併用すると細胞生存率が低下した。
【0115】
[候補化合物の検討及び5-ALAの相乗効果の検討]
<実験手法>
マウスメラノーマB16細胞を96穴マイクロプレートに播種し、オーラノフィン及びジスルフィラムにおける前記実験手法と同様にして培養した。また、以下の表19に示す候補化合物を終濃度5 μMとなるように化合物添加を添加し、4時間後に放射線照射し、前記実験手法に従って検討した。
5 Gy照射は化合物のみ、7 Gy照射の際には、前記実験手法に従い、5-ALAを40 μM単独、5-ALAを80 μMと候補化合物とを併用したサンプルも同様に検討した。
【0116】
<評価結果>
前記候補化合物における5-ALAの相乗効果の結果を表19及び表20に示す。
【0117】
【表19】
【0118】
【表20】
【0119】
表19及び表20に示されるように、いずれの化合物もX線照射をしない場合は顕著な毒性を示さなかったが、X線照射すると化合物無しと比較して、細胞生存率が下がった。ここで、X線単独の抗がん効果が高いことから7 Gy照射の際には放射線増感剤による抗がん効果が特に得られにくい。しかし、ALAを添加することによりさらに細胞生存率が低下した。すなわち、ALAにより放射線増感剤の抗がん効果をより向上させることができると考えられる。候補化合物の中には、セファクロール水和物、セフィキシム、セファタキシムナトリウム塩、アンピシリン三水和物、セファドロキシル、セフォチアム一塩酸塩及びセファタジジム五水和物等、ベータラクタム構造を有する化合物が含まれていた。
【0120】
以上のことより、本発明の放射線増感剤は、放射線照射前に適用することで高い抗腫瘍効果が見込める。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の放射線増感剤は放射線感受性を高め、がん細胞等の悪性新生物、がん前駆細胞、ウイルスに感染した細胞、細菌に感染した細胞等の病変部における細胞を選択的に損傷又は死滅させる放射線治療等に有用である。また、既存の医薬品のドラッグリポジショニングに寄与する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8