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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】アクティブロードプル測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/28 20060101AFI20230705BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20230705BHJP
   H03F 3/21 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
G01R27/28 Z
G01R31/26 A
H03F3/21
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019026262
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020134259
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】石崎 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川辺 健太朗
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-528769(JP,A)
【文献】特表2016-533688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0124303(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/28
G01R 31/26
H03F 3/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器と、
被測定デバイスの出力信号に前記発振器を位相同期させる位相同期部と、
似反射波を生成し前記被測定デバイスに注入する擬似反射波注入部と、
システム制御部と、
を備え
前記システム制御部により、前記発振器の出力信号の位相を可変移相器で制御し、前記発振器の前記出力信号の振幅を可変減衰器で制御して、前記擬似反射波を生成することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、
前記発振器は、電圧制御型発振器であり、
前記位相同期部は、前記被測定デバイスの出力信号の位相と前記発振器の出力信号の位相とを比較する位相比較器と、該位相比較器の出力を平滑化して前記発振器を制御するループフィルタと、を有することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【請求項3】
請求項2に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、
前記位相同期部は、前記被測定デバイスの出力信号を入力するDUT出力信号抽出器と、該DUT出力信号抽出器からの信号を分周する第1分周器と、前記発振器の出力信号を分周する第2分周器と、を更に有し、
前記位相比較器は、前記第1分周器の出力信号の位相と前記第2分周器の出力信号の位相とを比較することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、
被測定デバイスの出力信号の一部を抽出して直流電圧に変換する振幅追随部を更に備え、
前記擬似反射波注入部は、電圧制御型可変利得増幅器を含み、
前記振幅追随部は、前記直流電圧により前記電圧制御型可変利得増幅器の利得を制御することを特徴とするアクティブロードプル測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波領域で用いる電力増幅器(マイクロ波電力増幅器)の設計手法として好適なアクティブロードプル測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタを用いたマイクロ波電力増幅器で最大出力(又は最高効率)を得るために、ロードプル測定システムを使用した回路設計がよく行われている。通常、トランジスタの最大出力(又は最高効率)は、線形デバイスとして扱うことは出来ない非線形の領域(例えば、出力が飽和に近づいた領域など)で動作させた時に得られる。そのため、実際の入力信号レベルにおいてロードプル測定システムで測定を行い、基本波や高調波に対する最適な負荷インピーダンスを設計することが必要である。一般的に用いられるロードプル測定システムは、トランジスタなどのDUT(Device Under Test (被測定デバイス))の出力端に接続される線路に機械式のパッシブチューナを設けてその負荷インピーダンスを変化させるパッシブロードプル測定システムである。
【0003】
パッシブロードプル測定システムは、パッシブチューナにおいて線路に近接して反射を起こすプローブの位置を機械的(物理的)に変更することで反射波の振幅と位相を変化させるものである。しかし、パッシブチューナによる損失が大きいためDUTに対し大きな反射波の負荷インピーダンスを形成することは難しく、つまり、反射係数Γの大きさが1に近いスミスチャートの周辺部を測定することは困難である。また、プローブの位置を変化させて反射波の位相を変化させるため、位相を360度変えるためには装置が大型化し、測定に時間を要し、また、負荷インピーダンスの変化をリアルタイムに観測することができない。
【0004】
これらの問題点を解決するために、アクティブロードプル(Active Load-Pull)測定システムが提案されている。アクティブロードプル測定システムでは、図8(及び図10)に示すように、リファレンスとなる入力信号を可変減衰器141(又は241)と可変移相器142(又は242)で調整し、その調整した信号を補助増幅器143(又は243)で増幅して擬似反射波を形成し、サーキュレータ144(又は244)を介してその擬似反射波をDUTの出力端に注入する。DUTの出力信号(出力波)は、上記サーキュレータ144(又は244)を介して終端抵抗145(又は245)に吸収させる。アクティブロードプル測定システムは、可変減衰器141(又は241)と可変移相器142(又は242)で擬似反射波の振幅と位相を制御するため、理論上、スミスチャート全域の負荷インピーダンスを電子的に(機械的(物理的)制御を含まずに)作り出すことができる。
【0005】
また、アクティブロードプル測定システムは、図8(及び図10)に示すように、ネットワークアナライザ6、方向性結合器7、バイアスT回路8などを用いて構成することができる。DUTの出力端に接続された方向性結合器7により、線路上をDUTから負荷に向かう信号(出力波)と負荷からDUTに向かう信号(反射波)を取り出してネットワークアナライザ6で測定し、それらの比を取ることでDUTから見た負荷の反射係数Γ、すなわち負荷インピーダンスが求められる。従って、負荷インピーダンス(反射係数Γ)のリアルタイムな観測が可能である。
【0006】
従来のアクティブロードプル測定システムは、一般には、開ループ型と閉ループ型に類別される。開ループ型のアクティブロードプル測定システム101は、リファレンスとなる入力信号に、図8に示すように外部信号源SGからの信号を用いたり、或いは外部信号源SGと同期を取った別の外部信号源からの信号を用いたりするものである。一方、閉ループ型のアクティブロードプル測定システム201は、図10に示すように、抽出器(方向性結合器又はサーキュレータ)240を介してDUTの出力信号の一部を抽出して(取り出して)リファレンスとなる入力信号に用いるものである。
【0007】
開ループ型の利点としては、閉ループ型よりも構成するコンポーネントの数が少ないことが挙げられる。また、擬似反射波を生成する補助増幅器143に要求される仕様も、DUTの最大出力電力と同程度の汎用性の高い一般的な増幅器を用いることが出来るため、比較的に簡単なハードウェア構成で実現可能である。また、システムとして安定して動作する。一方、閉ループ型は、出力電力の変化に対し注入する擬似反射波の強度が追従し、一度、可変減衰器241を設定すれば、ソフトウェア上での精密な制御の必要なく、位相のみを変化させて等高線図に近い円状の曲線を描きながら反射係数Γを測定することが可能である。
【0008】
なお、特許文献1には、本願の上記図8で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムとほぼ同様な構成に加え、擬似反射波を注入する補助増幅器とDUTの間の整合を取るために、それらの間にトランスフォーマを設けた構成が開示されている。特許文献2の図1には、本願の上記図8で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムと基本的構成がほぼ同様なものが開示されており、また、特許文献2の図2aには、本願の上記図10で示した閉ループ型のアクティブロードプル測定システムと基本的構成がほぼ同様なものが開示されている。また、特許文献3の図1には、本願の上記図8で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムと基本的構成がほぼ同様なものが開示されており、特許文献3の図2以下の図には、本願の上記図8で示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムとほぼ同様な基本的構成に加え、擬似反射波を注入する補助増幅器とDUTの間の整合を取るために、それらの間に前述したパッシブロードプル測定システムのものと同様なパッシブチューナを設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-271186号公報
【文献】特表2006-528769号公報
【文献】米国特許9213056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の開ループ型及び閉ループ型いずれのアクティブロードプル測定システムも、以下に述べるような実使用上の課題がある。
【0011】
図8に示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムでは、DUTに注入される擬似反射波の振幅は、DUTの出力波の振幅と無関係に注入される。負荷の反射係数ΓLが小さい、すなわち注入する擬似反射波の振幅が小さい時は、注入する擬似反射波の位相変化(振幅一定での位相変化)で、図9に示すように、反射係数Γの変動は小さい。一方、負荷の反射係数ΓLが大きい、すなわち注入する擬似反射波の振幅をDUTの出力波と同程度に大きくした場合、図9に示すように、反射係数Γが大きく変化し、反射係数ΓLの大きさが1を超える状況も発生し得るようになる。
【0012】
従って、開ループ型のアクティブロードプル測定システムでは、スミスチャート全域を測定するには、振幅と位相を細かなステップに設定して、その組み合わせ点で測定を行わなければばらない。また、DUTが破壊等を起こさないように反射係数ΓLの大きさが1を超えないようにする必要がある。よって、開ループ型のアクティブロードプル測定システムは、システムの制御が複雑になる。この課題は、特許文献1~3に開示される開ループ型のアクティブロードプル測定システムにおいても、基本的には同様と考えられる。なお、特許文献3においては、パッシブチューナを設けている点でパッシブロードプル測定システムと同様な装置の大型化などの問題点が残る。
【0013】
一方、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムにおける課題は、以下に示すように、実使用上、反射係数Γの大きな領域の測定が難しいことである。
【0014】
図11に、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムの本願発明者が行った実験において、可変減衰器241の設定値を変化させて測定した時の反射係数Γを示す。図11における反射係数Γの変化は、図9に示した開ループ型のアクティブロードプル測定システムでの反射係数Γの変化とは大きく異なっており、位相の変化にともなって円状の曲線を描き、振幅を変化させることによって等高線図に近い円状の曲線を描くようになる。ここで、実際に実現可能な反射係数Γの大きさは0.6程度が最大であり限界である。反射係数Γの大きさが1に近いスミスチャートの周辺部に反射係数Γを近づけようとして、可変減衰器241の減衰量を減らしてループ利得を増加させるとループを構成する系が発振するため、それ以上の測定は不可能である。
【0015】
本願発明者は、先に出願した特願2018-230466において、開ループ型のアクティブロードプル測定システムに対応する開ループ回路部と閉ループ型のアクティブロードプル測定システムに対応する閉ループ回路部の両方を有することで、反射係数Γの大きさが1以内の全領域で安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能なアクティブロードプル測定システムを提案した。本願発明者は、その提案とは別に、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムにおけるDUTの出力信号を利用するという考えと開ループ型のアクティブロードプル測定システムの基本構成の考えとを基に、反射係数Γの大きさが1以内の全領域で安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能なアクティブロードプル測定システムを研究し、本願発明を案出した。
【0016】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、反射係数Γの大きさが1以内の全領域で安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能なアクティブロードプル測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムは、発振器と、被測定デバイスの出力信号に前記発振器を位相同期させる位相同期部と、似反射波を生成し前記被測定デバイスに注入する擬似反射波注入部と、システム制御部と、を備え、前記システム制御部により、前記発振器の出力信号の位相を可変移相器で制御し、前記発振器の前記出力信号の振幅を可変減衰器で制御して、前記擬似反射波を生成することを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載のアクティブロードプル測定システムは、請求項1に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、前記発振器は、電圧制御型発振器であり、前記位相同期部は、前記被測定デバイスの出力信号の位相と前記発振器の出力信号の位相とを比較する位相比較器と、該位相比較器の出力を平滑化して前記発振器を制御するループフィルタと、を有することを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載のアクティブロードプル測定システムは、請求項2に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、前記位相同期部は、前記被測定デバイスの出力信号を入力するDUT出力信号抽出器と、該DUT出力信号抽出器からの信号を分周する第1分周器と、前記発振器の出力信号を分周する第2分周器と、を更に有し、前記位相比較器は、前記第1分周器の出力信号の位相と前記第2分周器の出力信号の位相とを比較することを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載のアクティブロードプル測定システムは、請求項1~3のいずれか1項に記載のアクティブロードプル測定システムにおいて、被測定デバイスの出力信号の一部を抽出して直流電圧に変換する振幅追随部を更に備え、前記擬似反射波注入部は、電圧制御型可変利得増幅器を含み、前記振幅追随部は、前記直流電圧により前記電圧制御型可変利得増幅器の利得を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアクティブロードプル測定システムによれば、反射係数Γの大きさが1以内の全領域で安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムの構成を示すブロック図である。
図2】同上のアクティブロードプル測定システムにおいて擬似反射波の振幅が回路によりDUTの出力信号の振幅の変動に追随できるようにした構成を示すブロック図である。
図3】同上のアクティブロードプル測定システムの図2に示した構成における直流電圧変換回路の例を示す回路図である。
図4】同上のアクティブロードプル測定システムの図1に示した構成の実験による反射係数Γを示すスミスチャートである。
図5】同上のアクティブロードプル測定システムの図2に示した構成の実験による反射係数Γを示すスミスチャートである。
図6】同上のアクティブロードプル測定システムの図2に示した構成の実験による直流電圧生成回路に入力される電力に対する電圧制御型可変利得増幅器の利得を示す特性図である。
図7】同上のアクティブロードプル測定システムの図2に示した発振器、位相同期部、擬似反射波注入部、振幅追随部のセットを複数セット設けた構成を示すブロック図である。
図8】従来の開ループ型のアクティブロードプル測定システムを示すブロック図である。
図9】従来の開ループ型アクティブロードプル測定システムにおいて注入波の振幅と位相を変化させた時のΓを示すスミスチャートである。
図10】従来の閉ループ型アクティブロードプル測定システムを示すブロック図である。
図11】従来の閉ループ型アクティブロードプル測定システムの実験において注入波の振幅と位相を変化させた時のΓを示すスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システム1は、外部信号源SGからの信号をDUT(被測定デバイス)の入力端子に入力し、DUTの出力信号に対する最適な負荷インピーダンスを求めるものである。このアクティブロードプル測定システム1は、図1に示すように、発振器2と位相同期部3と擬似反射波注入部4とを備える。また、アクティブロードプル測定システム1は、システム制御部5とネットワークアナライザ6と方向性結合器7とバイアスT回路8とを備えることができる。
【0024】
発振器2は、後に詳述する位相同期部3により位相が制御される。発振器2は、電圧制御型発振器とすることができる。
【0025】
位相同期部3は、DUTの出力信号に発振器2を位相同期させるものである。位相同期部3は、DUT出力信号抽出器30によりDUTの出力信号を入力する。DUT出力信号抽出器30は、擬似反射波注入部4の出力端子(補助増幅器43の出力端子)とDUTの出力端子の間に設けることができる。DUT出力信号抽出器30は、サーキュレータを用いることができる。DUT出力信号抽出器30は、擬似反射波注入部4(補助増幅器43)が出力する擬似反射波は通過させ、DUTの出力信号は位相同期部3の後段部分に向かわせる。なお、DUT出力信号抽出器30によるDUTの出力信号の入力は、DUTの出力信号の全部の入力の他、DUTの出力信号の一部(電力の一部)の入力であってもよい。
【0026】
位相同期部3は、減衰器31と増幅器(リミッタアンプ)32を通して、入力したDUTの出力信号の電圧レベルなどを整えた信号を生成するようにすることができる。
【0027】
位相同期部3は、発振器2を電圧制御型発振器とした場合、第1分周器33と位相比較器34とループフィルタ35と第2分周器36とを有する。第1分周器33は、DUT出力信号抽出器30からの信号を周波数が所定の分周比(N分の1)になるように分周し、第2分周器36は、発振器2の出力信号を周波数が所定の分周比(N’分の1)になるように分周する(N及びN’は自然数)。位相比較器34は、第1分周器33の出力信号の位相と第2分周器36の出力信号の位相とを比較することで、つまりは、DUTの出力信号の位相と発振器2の出力信号の位相とを比較する。ループフィルタ35は、位相比較器34の出力を平滑化して発振器2がDUTの出力信号に追随して位相同期するように発振器2を制御する。
【0028】
第1分周器33の分周比(N分の1)と第2分周器36の分周比(N’分の1)の両方又はいずれか片方は、可変にするのが好ましい。そうすると、例えば、N’=Nとすると基本波(DUTの入力端子に入力する外部信号源SGからの信号に等しい周波数の信号)の擬似反射波とすることができ、N’=2Nとすると基本波の2倍の高調波の擬似反射波とすることができる。また、擬似反射波を基本波のみとするならば、第1分周器33の分周比と第2分周器36の分周比をN’=Nで固定にしたり、場合によっては両方を省いたりすることも可能である。
【0029】
擬似反射波注入部4は、発振器2の出力信号を基準にして、それとの相対的な位相(換言すれば、DUTの出力信号との相対的な位相差)と振幅を制御して擬似反射波を生成し、その擬似反射波をDUTの出力端子に向けて注入するものである。つまり、擬似反射波注入部4は、開ループ型のアクティブロードプル測定システムの基本構成の中で、外部信号源SGからの信号でなく、発振器2からの信号を用いている、と言える。振幅は可変減衰器41で制御し、位相は可変移相器42で制御することができる。また、擬似反射波注入部4は、補助増幅器43が設けられそれにより増幅して出力することができる。
【0030】
このように、アクティブロードプル測定システム1は、DUTの出力信号の位相を利用しており、閉ループ型のアクティブロードプル測定システムにおけるDUTの出力信号を利用するという考えを取り入れている。
【0031】
システム制御部5は、擬似反射波注入部4の可変減衰器41と可変移相器42を一定のアクティブロードプル測定方法の手順に従って制御する。システム制御部5は、通常、アクティブロードプル測定方法の手順をプログラムとして格納しており、その手順をCPUが実行する。
【0032】
ネットワークアナライザ6は、市販の一般的な仕様のものを使用することができる。方向性結合器7は、一般的な仕様のものを使用することができる。DUTの出力端に接続された方向性結合器7により、線路上をDUTから負荷に向かう信号(出力波)と負荷からDUTに向かう信号(反射波)を取り出してネットワークアナライザ6で測定し、それらの比を取ることでDUTから見た負荷の反射係数Γが算出され、反射係数Γから負荷インピーダンスが求められる。従って、負荷インピーダンス(反射係数Γ)のリアルタイムな観測が可能である。バイアスT回路8は、DUTの出力にバイアスをかける一般的な仕様のものを使用することができる。
【0033】
以上説明したアクティブロードプル測定システム1では、発振器2は、位相同期部3によってDUTの出力信号に位相同期され、一旦、位相同期されれば、同期はずれを起こさない限り、他の周波数で発振することはなくなる。また、位相同期部3と発振器2と擬似反射波注入部4において、DUTの出力信号を利用してDUTの出力端子に向けて注入する擬似反射波を生成しているために、一見、ループを構成する系が存在するが、ループを構成する系が位相同期部3から発振器2のところで一旦切れているので、ループを構成する系の利得が1より大きくなって発振するというようなことが防止できる。その結果、反射係数Γの大きさが1以内の全領域で安定的に測定でき、また、システムとして簡素化及び低コスト化が可能になる。
【0034】
次に、アクティブロードプル測定システム1において、更に、擬似反射波の振幅が回路によりDUTの出力信号の振幅の変動に追随できるようにしたアクティブロードプル測定システム1’について説明する。アクティブロードプル測定システム1’は、図2に示すように、発振器2と位相同期部3と擬似反射波注入部4’とを備え、更に振幅追随部9を備える。また、アクティブロードプル測定システム1’は、システム制御部5とネットワークアナライザ6と方向性結合器7とバイアスT回路8とを備えることができる。アクティブロードプル測定システム1’の発振器2、位相同期部3、システム制御部5、ネットワークアナライザ6、方向性結合器7、バイアスT回路8は、アクティブロードプル測定システム1のものと同様のものを用いることができる。
【0035】
アクティブロードプル測定システム1’の擬似反射波注入部4’は、その中(より詳細には、信号処理経路の中)に電圧制御型可変利得増幅器44を含んでいる。擬似反射波注入部4’におけるその他の構成は、上述した擬似反射波注入部4の構成と同様である。電圧制御型可変利得増幅器44は、特に限定されるものではないが、補助増幅器43の前段に設けることができる。電圧制御型可変利得増幅器44は、次に述べる振幅追随部9により利得が制御される。
【0036】
振幅追随部9は、それが出力する直流電圧(DC電圧)により電圧制御型可変利得増幅器44の利得を制御してその出力信号の振幅をDUTの出力信号の振幅に追随させるものである。振幅追随部9は、第2のDUT出力信号抽出器90と直流電圧生成回路91と直流電圧変換回路92とを有する。
【0037】
振幅追随部9は、第2のDUT出力信号抽出器90により位相同期部3が入力したDUTの出力信号の一部(電力の一部)を抽出して(取り出して)入力する。第2のDUT出力信号抽出器90は、方向性結合器を用いることができる。
【0038】
直流電圧生成回路91は、第2のDUT出力信号抽出器90を通してDUTの出力信号の一部(電力の一部)を入力し、その電力に応じた直流電圧を生成する。直流電圧生成回路91は、市販のRFパワーディテクタを用いることができる。また、直流電圧変換回路92は、直流電圧生成回路91が出力する直流電圧の範囲を、電圧制御型可変利得増幅器44が適正に制御できる電圧範囲に変換する。直流電圧変換回路92は、例えば、図3に示すように入力端子92iから入力した電圧を基準電圧に対して反転増幅する反転増幅器921と、バイアス電圧922と、反転増幅器921の出力電圧とバイアス電圧922とを所定の割合で加算して反転増幅して出力端子92oに出力する加算回路923と、を有する構成とすることができる。
【0039】
アクティブロードプル測定システム1’では、擬似反射波の振幅は、DUTの出力信号の振幅の変動に追随して変動するので、測定過程において、可変減衰器41による制御が容易になり、また、DUTの出力信号の振幅に対して過度に大きくなったり又は小さくなったりするのを防止することが可能である。
【0040】
アクティブロードプル測定システム1及び1’を用いて本願発明者が行った実験について述べる。実験では、外部信号源SGからの信号は2.45GHzとした。2.45GHzは、マイクロ波加熱用に広く使用されるもので、DUTであるトランジスタの出力インピーダンスは、出力が大きいほど低インピーダンスとなりショートに近くなるため、そのトランジスタを用いて100W以上の電力増幅器を設計するのは容易でないとされるものである。DUTは、住友電工デバイス・イノベーション株式会社製の窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)であるEGN21C020MKを用いた。
【0041】
図4は、アクティブロードプル測定システム1において擬似反射波の振幅を3通り(可変減衰器41の減衰量が20dB、18dB、7dB)変化させ、その変化ごとに位相を可変移相器42で所定角度ずつ変化させて測定した反射係数Γを示すスミスチャートである。図5は、アクティブロードプル測定システム1’において擬似反射波の振幅を4通り(可変減衰器41の減衰量が20dB、18dB、7dB、5dB)変化させ、その変化ごとに位相を可変移相器42で所定角度ずつ変化させて測定した反射係数Γを示すスミスチャートである。図中、●印は可変減衰器41の減衰量が20dBのとき、△印は可変減衰器41の減衰量が18dBのとき、◆印は可変減衰器41の減衰量が7dBのとき、□印は可変減衰器41の減衰量が5dBのとき、の反射係数Γを示す。
【0042】
図4及び図5において、擬似反射波の各振幅において位相を所定角度ずつ変化させて測定した反射係数Γのデータは、ほぼ等間隔の位相の変化を示し、スミスチャートの中央(Γ=0)の付近を中心とした円状又は円弧状の形を全体として形成する。擬似反射波の振幅を大きくして行く(可変減衰器41の減衰量を小さくして行く)と、スミスチャート上において反射係数Γのデータの形成する円状又は円弧状の形は、直径を変えながら、外枠の円(Γの大きさが1の円)付近まで大きくなる。つまり、反射係数Γは、その大きさが1に近い領域まで測定できる。なお、図4においては、右上側で外枠の円(Γの大きさが1の円)付近の領域は、反射係数Γの大きさが1を超えないようにしながら擬似反射波の振幅を更に大きくして(可変減衰器41の減衰量を小さくして)測定することになる。
【0043】
なお、図5の測定では、直流電圧生成回路91はアナログ・デバイセズ社のRFパワーディテクタLT5538を用いた。直流電圧生成回路91に入力される電力に対する電圧制御型可変利得増幅器44の利得は、図6に示すように約-40dBm~約-20dBmの範囲で良好な変化を示している。
【0044】
以上、本発明の実施形態に係るアクティブロードプル測定システムについて説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載する事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、上記の実験では、2.45GHz(基本波)について行ったものであるが、その高調波についても適用可能である。また、その他の周波数の基本波、高調波についても適用可能である。
【0045】
また、基本波と高調波、或いは、高調波同士を同時に測定できるようにすることも可能である。例えば、図7に示すアクティブロードプル測定システム1’’のように、アクティブロードプル測定システム1’における、発振器2、位相同期部3、擬似反射波注入部4’、振幅追随部9のセットを複数セット(図7では、2セット)設け、それらを基本波用又は高調波用にし、電力合成器4Aで接続するようにすることができる。電力合成器4Aは、例えば、マルチプレクサなどを用いることができる。各々の位相同期部3の第2分周器36の分周比(又は第1分周器33の分周比)の設定により、基本波用又は高調波用にすることが可能である。勿論、アクティブロードプル測定システム1における、発振器2、位相同期部3、擬似反射波注入部4のセットを複数セット設けてそれらを電力合成器4Aで接続して、アクティブロードプル測定システム1’’と同様なシステムを構成することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1、1’ アクティブロードプル測定システム
2 発振器
3 位相同期部
30 DUT出力信号抽出器
31 減衰器
32 増幅器
33 第1分周器
34 位相比較器
35 ループフィルタ
36 第2分周器
4、4’ 擬似反射波注入部
41 可変減衰器
42 可変移相器
43 補助増幅器
44 電圧制御型可変利得増幅器
4A 電力合成器
5 システム制御部
6 ネットワークアナライザ
7 方向性結合器
8 バイアスT回路
9 振幅追随部
90 第2のDUT出力信号抽出器
91 直流電圧生成回路
92 直流電圧変換回路
SG 外部信号源
DUT 被測定デバイス
図1
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