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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】回収装置、回収システム、及び回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/22 20060101AFI20230705BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20230705BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20230705BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C22B3/22
C22B11/00 101
C22B15/00 107
C22B23/00 102
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019097119
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020190022
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大場 弘則
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 盛久
(72)【発明者】
【氏名】田口 富嗣
(72)【発明者】
【氏名】中西 隆造
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-108374(JP,A)
【文献】特開2008-251871(JP,A)
【文献】特開2008-221207(JP,A)
【文献】特開2010-275588(JP,A)
【文献】特開2005-194546(JP,A)
【文献】特開2010-144240(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1745408(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/22
C22B 11/00
C22B 15/00
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体中に含まれる該目的元素のイオンを目的元素に還元し回収する回収装置であって、
内部に上記液体を収容する容器と、
上記液体中に、ヘテロポリ酸を供給するポリ酸供給部と、
上記ヘテロポリ酸の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光を、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ装置と、を備え、
上記容器には、上記液体を内部に導入する導入口と、上記液体を外部に排出する排出口との各々が別個に設けられており、
上記排出口の後段に配置された濃度測定器であって、上記液体中における目的元素のイオン濃度を測定する濃度測定器と、
上記濃度測定器の後段に配置された分岐部と、
上記濃度測定器が測定した目的元素のイオン濃度が所定のイオン濃度以上である場合に、上記液体を上記導入口へ導くように上記分岐部を制御する制御部と、を更に備えている、
ことを特徴とする回収装置。
【請求項2】
上記レーザ光の波形は、パルス状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の回収装置。
【請求項3】
記レーザ光の繰り返し周波数は、50Hz超且つ1000Hz以下である、
ことを特徴とする請求項2に記載の回収装置。
【請求項4】
上記レーザ光のエネルギー密度は、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するスポットにおいて15mJ/cm以上60mJ/cm以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の回収装置。
【請求項5】
上記ポリ酸供給部は、上記液体中に縮合数が4を超えるヘテロポリ酸を供給する、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の回収装置。
【請求項6】
上記ポリ酸供給部は、上記液体にヘテロポリ酸を混合することによって、ヘテロポリ酸を含むポリ酸溶液を生成し、
上記レーザ光を照射されたあとの液体を濾過することによって、還元された目的元素を回収するフィルタを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の回収装置。
【請求項7】
上記容器のうち透光性を有する部分に対向する1又は複数の鏡を更に備え、
上記鏡は、上記内部に導入されたレーザ光を、上記内部に向けて反射する、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の回収装置。
【請求項8】
上記ポリ酸供給部は、上記容器中に配置された不織布であって、ヘテロポリ酸が修飾された不織布である、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の回収装置。
【請求項9】
上記液体は、還元助剤として作用するアルコール類を更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の回収装置。
【請求項10】
周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち何れかの遷移金属元素を第iの目的元素(iは、1≦i≦nの整数、nは、2以上の整数)として、液体中に含まれる該第iの目的元素のイオンを第iの目的元素に還元し回収するn個の回収装置と、上記液体中に、ヘテロポリ酸を供給するポリ酸供給部とを備えた回収システムであって、
各第iの回収装置は、
上記液体を内部に導入する第iの導入口と、上記液体を外部に排出する第iの排出口とが設けられ、上記液体を上記内部に収容する第iの容器と、
上記第iの目的元素の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有する第iの波長のレーザ光を、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ装置と、を備えており、
上記第iの排出口は、第i+1の導入口に接続されている、
ことを特徴とする回収システム。
【請求項11】
上記第iの回収装置(iは、1≦i<nの整数)は、
上記第iの排出口の後段に配置された第iの濃度測定器であって、上記液体中における第iの目的元素のイオン濃度を測定する第iの濃度測定器と、
上記第iの濃度測定器の後段に配置された第iの分岐部と、を更に備え、
上記第iの濃度測定器が測定した第iの目的元素のイオン濃度が、(1)所定のイオン濃度以上である場合に、上記液体を上記第iの導入口へ導くように上記第iの分岐部を制御し、(2)所定のイオン濃度未満である場合に、上記液体を上記第i+1の導入口へ導くように上記第iの分岐部を制御する制御部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項10に記載の回収システム。
【請求項12】
周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体中に含まれる該目的元素のイオンを目的元素に還元し回収する回収方法であって、
内部に上記液体を収容する容器には、上記液体を内部に導入する導入口及び上記液体を外部に排出する排出口の各々が別個に設けられており、
上記液体中に、ヘテロポリ酸を供給するポリ酸供給工程と、
上記ヘテロポリ酸の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光を、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ光照射工程と、
上記排出口の後段に配置された濃度測定器によって、上記液体中における目的元素のイオン濃度を測定する濃度測定工程と、
上記濃度測定器が測定した目的元素のイオン濃度が所定のイオン濃度以上である場合に、上記液体を上記導入口へ導くように、上記濃度測定器の後段に配置された分岐部を制御する制御工程と、を含む、
ことを特徴とする回収方法。
【請求項13】
上記レーザ光照射工程の前に実施されるアルコール類混合工程であって、上記液体にアルコール類を混合するアルコール類混合工程を更に含み、
上記レーザ光照射工程は、上記レーザ光を、上記液体、上記ヘテロポリ酸、及び上記アルコール類に照射する、
ことを特徴とする請求項12に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれる目的元素を回収する回収装置、回収システム、及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への負荷軽減の観点から、廃棄された家電や、携帯電話に代表される端末機や、自動車部品などを新しい態様の資源(以下において新資源と称する)として捉え、このような新資源から貴金属を回収し、新たな製品の一部を構成する材料として再利用する方法が研究されている。廃棄された家電や、携帯電話に代表される端末機や、自動車部品などは、多くの貴金属を含んでいることから都市鉱山とも呼ばれる。
【0003】
新資源が含む貴金属は、酸性の薬品により溶解されることによって、さまざまな貴金属元素のイオンが混合された混合酸性溶液(本発明における液体に読み替えられる)となる。
【0004】
また、産業廃棄物の一態様である廃液の中に、さまざまな貴金属元素のイオンが溶解している場合もあり得る。以下においては、上述した混合酸性溶液及び廃液をまとめて単に液体と称する。
【0005】
液体に含まれているさまざまな貴金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体から目的元素を回収する技術として、例えば、特許文献1に記載された技術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-275588号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】佐伯盛久,田口富嗣,岩撫暁生,松村大樹,中島信昭,大場弘則,パラジウムのレーザー誘起微粒子化におけるモリブデンイオンの共存効果,分子科学討論会要旨集,2014年9月21日公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、液体に対して紫外線領域に属するレーザ光を照射することによって、白金属元素イオンを還元し、還元により生成された白金属元素を回収する技術が記載されている。特許文献1に記載の技術においては、白金属元素イオンの還元反応の効率を高めるために、すなわち還元反応の反応速度を高めるために、液体に対してアルコール類を混合している。アルコール類は、白金属元素イオンの還元反応において還元助剤として働く。特許文献1の表2には、アルコール類の一態様であるエタノールの比率を33%以上50%以下に設定することによって、ロジウム及びルテニウム(特にロジウム)が高い回収効率で回収可能なことが示されている。
【0009】
しかしながら、酸性である液体に対してアルコール類を混合することによって予期せぬ反応が起こる可能性がないとはいえないため、酸性である液体に対してアルコール類を混合することは好ましくない。
【0010】
非特許文献1には、縮合することによってイソポリ酸イオンを構成するオキソ酸イオンの一態様であるモリブデン負イオンMoO 2-を液体に対して混合することによって、アルコール類の濃度を1%まで減らした場合であっても目的元素を回収可能なことが記載されている。
【0011】
しかしながら、アルコール類の濃度を低減することはできるものの、非特許文献1に記載された技術においても、目的元素を回収するためにアルコール類を混合している。
【0012】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、目的元素のイオンを含む液体にアルコール類を混合しない場合であっても、目的元素を回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る回収装置は、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体中に含まれる該目的元素のイオンを目的元素に還元し回収する回収装置であって、内部に上記液体を収容する容器と、上記液体中に、ヘテロポリ酸を供給するポリ酸供給部と、上記ヘテロポリ酸の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光を、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ装置と、を備えている。
【0014】
目的元素のイオンを含む液体中に、ヘテロポリ酸が存在することによって、ヘテロポリ酸の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光を照射された場合、目的元素のイオンは、還元助剤として作用するアルコール類の助けを借りない場合であっても目的元素に還元される。ここで還元された目的元素は、回収可能なサイズの粒子となる。したがって、上記第1の態様に係る回収装置は、目的元素のイオンを含む液体中にアルコール類を混合しない場合であっても目的元素を回収することができる。
【0015】
また、本発明の第2の態様に係る回収装置は、上記第1の態様において、上記レーザ光の波形は、パルス状である、ように構成されている。
【0016】
上記第2の態様に係る回収装置によれば、連続的に発振していて強度が一定であるレーザ光を用いる場合と比較して、粒子サイズが大きな目的元素の粒子が液体中に生成される。したがって、目的元素の回収率を容易に高めることができる。
【0017】
また、本発明の第3の態様に係る回収装置は、上記第2の態様において、(1)上記容器に上記液体を内部に導入する導入口及び上記液体を外部に排出する排出口の各々が別個に設けられていない場合、上記レーザ光の繰り返し周波数は、1Hz以上50Hz以下であり、(2)上記容器に上記導入口及び上記排出口の各々が別個に設けられている場合、上記レーザ光の繰り返し周波数は、1Hz以上1000Hz以下である、ように構成されている。
【0018】
本願の発明者らは、容器として導入口及び排出口の各々が別個に設けられていない容器を採用した場合、すなわち、目的元素を回収する処理方法として、容器への液体の導入する工程と、レーザ光を液体及びヘテロポリ酸に照射する工程と、液体を容器から排出(回収)する工程とを、異なる時間帯に順番に実施するバッチ式処理を採用する場合、レーザ光の繰り返し周波数が少なすぎると、単位時間内に照射できるパルス数が極端に少なくなるため、生成される目的元素の粒子の個数が減少しがちであり、回収に要する時間が無用に長引くことを見出した。また、この場合、レーザ光の繰り返し周波数が50Hzを超えると、その繰り返し周波数が高くなればなるほど、得られる目的元素の粒子サイズが小さくなり、連続的に発振していて強度が一定であるレーザ光を用いる場合の粒子サイズに近づいて行くことを見出した。したがって、上記第3の態様に係る回収装置は、回収に要する時間を無用に長引かせることなく、目的元素の回収率を確実に高めることができる。
【0019】
また、本願の発明者らは、容器として導入口及び排出口の各々が別個に設けられている容器を採用した場合、すなわち、目的元素を回収する処理方法として、容器への液体の導入する工程と、レーザ光を液体及びヘテロポリ酸に照射する工程と、液体を容器から排出(回収)する工程とを、同じ時間帯に並行して実施する連続処理を採用する場合、レーザ光の繰り返し周波数が50Hzを下回ると、得られる目的元素の粒子サイズが小さくなることを見出した。また、この場合、レーザ光の繰り返し周波数が1000Hzを超えると、その繰り返し周波数が高くなればなるほど、得られる目的元素の粒子サイズが小さくなり、連続的に発振していて強度が一定であるレーザ光を用いる場合の粒子サイズに近づいて行くことを見出した。
【0020】
したがって、上記第3の態様に係る回収装置は、回収に要する時間を無用に長引かせることなく、目的元素の回収率を確実に高めることができる。
【0021】
また、本発明の第4の態様に係る回収装置は、上記第3の態様において、上記レーザ光のエネルギー密度は、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するスポットにおいて15mJ/cm以上60mJ/cm以下である、ように構成されている。
【0022】
本願の発明者らは、波形がパルス状であるレーザ光を用いて目的元素を粒子化する場合に、レーザ光のエネルギー密度を上記の範囲内に設定することによって、粒子サイズがより大きな目的元素の粒子が液体中に生成されることを見出した。したがって、上記の構成によれば、目的元素の回収率をより高めることができる。
【0023】
また、本発明の第5の態様に係る回収装置は、上記第1~第4の態様の何れかにおいて、上記ポリ酸供給部は、上記溶液中に縮合数が4を超えるヘテロポリ酸を供給する、ように構成されている。なお、ここでいう縮合数とは、ヘテロポリ酸PAのイオンに含まれる金属の原子数を意味する。
【0024】
目的元素のイオンを含む液体中に、縮合数が4を超えるヘテロポリ酸が存在することによって、ヘテロポリ酸の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光を照射された場合、目的元素のイオンは、還元助剤として作用するアルコール類の助けを借りない場合であっても目的元素により還元されやすくなる。したがって、上記第5の態様に係る回収装置は、目的元素のイオンを含む液体中にアルコール類を混合しない場合であっても目的元素を容易に回収することができる。
【0025】
また、本発明の第6の態様に係る回収装置は、上記第1~第5の態様の何れかにおいて、上記ポリ酸供給部は、上記液体にヘテロポリ酸を混合することによって、ヘテロポリ酸を含むポリ酸溶液を生成し、
上記レーザ光を照射されたあとの液体を濾過することによって、還元された目的元素を回収するフィルタを更に備えている。
【0026】
上記第6の態様に係る回収装置によれば、ヘテロポリ酸を容器中にまんべんなく分布させることができる。したがって、容器中の広い領域において目的元素を還元することができる。また、上記第6の態様に係る回収装置によれば、容器中の広い領域において還元された目的元素をフィルタが回収することができる。したがって、上記第6の態様に係る回収装置は、目的元素の回収効率を高めることができる。
【0027】
また、本発明の第7の態様に係る回収装置は、上記第1~第6の態様の何れかにおいて、上記容器のうち透光性を有する部分に対向する1又は複数の鏡を更に備え、上記鏡は、上記内部に導入されたレーザ光を、上記内部に向けて反射する、ように構成されている。
【0028】
上記の構成によれば、鏡を備えていない回収装置と比較して、容器の内部においてレーザ光が通る光路の光路長を長くすることができる。したがって、目的元素の回収効率を高めることができる。
【0029】
また、本発明の第8の態様に係る回収装置は、上記第1~第5の態様の何れかにおいて、上記ポリ酸供給部は、上記容器中に配置された不織布であって、ヘテロポリ酸が修飾された不織布である、ように構成されている。
【0030】
上記の構成によれば、ヘテロポリ酸が不織布に修飾されているため、ヘテロポリ酸をあらかじめ定められた位置に固定化することができる。したがって、第8の態様は、目的元素を回収したあとの液体からポリ酸を除去したい場合に好適である。また、ヘテロポリ酸の近傍において還元された目的元素は、不織布に付着する。そのため、本回収装置は、目的元素を濾過するためのフィルタを省略することができる。
【0031】
また、本発明の第9の態様に係る回収装置は、上記第1~第8の態様の何れかにおいて、上記容器には、上記液体を内部に導入する導入口と、上記液体を外部に排出する排出口とが設けられており、上記排出口の後段に配置された濃度測定器であって、上記液体中における目的元素のイオン濃度を測定する濃度測定器と、上記濃度測定器の後段に配置された分岐部と、上記濃度測定器が測定した目的元素のイオン濃度が所定のイオン濃度以上である場合に、上記液体を上記導入口へ導くように上記分岐部を制御する制御部と、を更に備えている。
【0032】
上記第9の態様に係る回収装置によれば、連続的に液体を流すことによって、連続的に目的元素を粒子として回収することができ、且つ、濃度測定器が測定した目的元素のイオン濃度が所定のイオン濃度以上である液体を再び容器内に導入することができる。したがって、連続的且つ確実に目的元素を回収することができる。
【0033】
また、本発明の第10の態様に係る回収装置は、上記第1~第9の態様の何れかにおいて、上記液体は、還元助剤として作用するアルコール類を更に含んでいる、ように構成されている。
【0034】
上記の構成によれば、目的元素を回収するのに要する時間を短縮することができる。
【0035】
上記の課題を解決するために、本発明の第11の態様に係る回収システムは、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち何れかの遷移金属元素を第iの目的元素(iは、1≦i≦nの整数、nは、2以上の整数)として、液体中に含まれる該第iの目的元素のイオンを第iの目的元素に還元し回収するn個の回収装置と、上記液体中に、ヘテロポリ酸を供給するポリ酸供給部とを備えた回収システムである。
【0036】
各第iの回収装置は、上記液体を内部に導入する第iの導入口と、上記液体を外部に排出する第iの排出口とが設けられ、上記液体を上記内部に収容する第iの容器と、上記第iの目的元素の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有する第iの波長のレーザ光を、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ装置と、を備えており、上記第iの排出口は、第i+1の導入口に接続されている。
【0037】
上記第11の態様に係る回収システムによれば、各第iの回収装置は、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ光の波長に応じて、互いに異なる第iの目的元素を回収することができる。したがって、上記第11の態様に係る回収システムは、複数の目的元素のイオンが含まれた液体から複数の目的元素を選択的に回収することができる。
【0038】
また、本発明の第12の態様に係る回収システムは、上記第11の態様において、上記第iの回収装置(iは、1≦i<nの整数)は、上記第iの排出口の後段に配置された第iの濃度測定器であって、上記液体中における第iの目的元素のイオン濃度を測定する第iの濃度測定器と、上記第iの濃度測定器の後段に配置された第iの分岐部と、を更に備えている。
【0039】
また、該第10の態様に係る回収システムは、上記第iの濃度測定器が測定した第iの目的元素のイオン濃度が、(1)所定のイオン濃度以上である場合に、上記液体を上記第iの導入口へ導くように上記第iの分岐部を制御し、(2)所定のイオン濃度未満である場合に、上記液体を上記第i+1の導入口へ導くように上記第iの分岐部を制御する制御部を更に備えている。
【0040】
上記第12の態様に係る回収システムによれば、第iの回収装置において第iの目的元素を十分に回収できなかった場合に、液体を第iの導入口に戻し、該液体に改めてレーザ光を照射することができる。したがって、本回収システムは、第iの目的元素を確実に回収することができる。
【0041】
上記の課題を解決するために、本発明の第13の態様に係る回収方法は、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体中に含まれる該目的元素のイオンを目的元素に還元し回収する回収方法であって、上記液体中に、ヘテロポリ酸を供給するポリ酸供給工程と、上記ヘテロポリ酸の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光を、上記液体及び上記ヘテロポリ酸に照射するレーザ光照射工程と、を含んでいる。
【0042】
上記第13の態様に係る回収方法は、上記第1の態様に係る回収装置と同じ効果を奏する。
【0043】
また、本発明の第14の態様に係る回収方法は、上記第13の態様において、上記レーザ光照射工程の前に実施されるアルコール類混合工程であって、上記液体にアルコール類を混合するアルコール類混合工程を更に含み、上記レーザ光照射工程は、上記レーザ光を、上記液体、上記ヘテロポリ酸、及び上記アルコール類に照射する、ように構成されている。
【0044】
上記第14の態様に係る回収方法によれば、目的元素を回収するのに要する時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一態様によれば、目的元素のイオンを含む液体中にアルコール類を混合しない場合であっても、目的元素を回収可能な回収装置、回収システム、及び回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る回収方法のフローチャートである。(b)及び(c)は、本回収装置を用いて回収した目的元素の微粒子の透過電子顕微鏡像である。
図2】(a)~(c)は、図1の(a)に示した回収方法を実施するために利用可能な回収装置であって、本発明の第2の実施形態に係る回収装置の概略図である。(a)は、図1に示した回収方法の工程S11に対応し、(b)は、上記回収方法の工程S12に対応し、(c)は、上記回収方法の工程S13に対応する。
図3】(a)及び(b)は、図2に示した回収装置において液体に混合するヘテロポリ酸の吸収スペクトルを示すグラフである。
図4】(a)及び(b)の各々は、それぞれ、本発明の第1の変形例及び第2の変形例に係る回収装置の概略図である。
図5】(a)~(d)の各々は、それぞれ、本発明の第1~第4の実施例において用いた液体の吸収スペクトルを示すグラフである。
図6】(a)~(c)は、本発明の第3の実施形態に係る回収装置の概略図である。(a)は、図1に示した回収方法の工程S11及びアルコール類混合工程に対応し、(b)は、上記回収方法の工程S12に対応し、(c)は、上記回収方法の工程S13に対応する。
図7】本発明の第3の変形例に係る回収装置の概略図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る回収システムの概略図である。
図9図8に示した回収システムが備えている制御部として利用可能なコンピュータのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る回収方法M10について、図1図3を参照して説明する。図1の(a)は、回収方法M10のフローチャートである。図1の(b)及び(c)は、回収装置10を用いて回収した目的元素の微粒子の透過電子顕微鏡像である。図2の(a)~(c)は、回収方法M10を実施するために利用可能な回収装置10(本発明の第2の実施形態)の概略図である。図2の(a)は、回収方法M10の工程S11に対応し、図2の(b)は、回収方法M10の工程S12に対応し、(c)は、回収方法M10の工程S13に対応する。図3の(a)及び(b)は、回収方法M10に含まれる工程S11において液体LQに対して供給されるヘテロポリ酸PAの吸収スペクトルを示すグラフである。
【0048】
回収方法M10は、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体中に含まれる該目的元素のイオンIを目的元素の金属Mに還元し回収する回収方法である。なお、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び金(Au)である。
【0049】
なお、イオンIを金属Mに還元する還元反応における反応速度は、後述するヘテロポリ酸PAのイオンの種類及び後述するレーザ光Lの波長λにも依存するが、概ね以下の表1に示す標準電極電位の大きさに応じて決まる。標準電極電位が正電位であり、且つ、その絶対値が大きなイオンIほど還元されやすい。回収方法M10及び回収装置10においては、主に、目的元素のイオンIにおける標準電極電位に応じて還元反応の反応速度が異なることを利用して、液体LQ中に複数の遷移金属元素が含まれている場合であっても、目的元素を金属Tに還元し、回収することができる。
【0050】
【表1】
【0051】
また、本実施形態では、目的元素として金を採用し、イオンIを含む液体LQ(液体LQは、図2の(a)~(c)に図示)として、金の塩化物(AuCl)を水に溶解させることによって得られた金イオンを含む水溶液を用いる。
【0052】
なお、目的元素は、金に限定されるものではなく、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかであればよい。また、液体LQは、廃棄された家電や、携帯電話に代表される端末機や、自動車部品などを新しい態様の資源(以下において新資源と称する)を酸性の薬品に溶解させることによって得られた液体であってもよいし、産業廃棄物の一態様である廃液であってもよい。
【0053】
図1に示すように、回収方法M10は、工程S11~S13を含んでいる。
【0054】
工程S11は、液体LQ中に、ヘテロポリ酸PAのイオンを供給する工程である(図2の(a)参照)。なお、工程S11は、液体LQ中に縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAのイオンを供給することが好ましい。なお、ここでいう縮合数とは、ヘテロポリ酸PAのイオンに含まれる金属(例えばMoやWなど)の原子数を意味する。ヘテロポリ酸PAのイオンは、後述するレーザ光Lを照射することによってイオンIを金属Mに還元する還元反応において、触媒として機能する。工程S11は、特許請求の範囲に記載のポリ酸供給工程の一例である。本実施形態の工程S11では、ヘテロポリ酸PAのイオンとしてPW1240 3-(以下においてPW12と称する)を用い、PW12を水に溶解させることによって得られたヘテロポリ酸PAのイオンを含む水溶液を液体LQに添加する。PW12は、POと表記されるオキソ酸である第1のオキソ酸が1個と、WOと表記されるオキソ酸である第2のオキソ酸が12個とが縮合することによって構成されたヘテロポリ酸の一例であり、縮合数は、12である。
【0055】
工程S11において液体LQ中に供給するヘテロポリ酸PAのイオンは、PW12に限定されるものではなく、[Xd-の化学式で表されるヘテロポリ酸PAであればよい。なお、Xは、P,Si,B,Geの何れかであり、Mは、W,Mo,V,Nb,Taの何れかである。また、a,b,c,dの各々は、正の整数であり、オキソ酸を構成する各元素X及びMに依存して定まる。
【0056】
また、ヘテロポリ酸の縮合数(bの数)は、限定されるものではないが4を超えていることが好ましい。4を超える縮合数の例としては、12、18、及び36が挙げられ、例えば、縮合数が12であるヘテロポリ酸は、[Xn+1240(8-n)-の化学式で表される。縮合数が12であるヘテロポリ酸の例としては、PW12の他にSiW1240 3-(以下においてSiW12と称する)が挙げられる。
【0057】
液体LQ中に溶解しているヘテロポリ酸PAの縮合数は、PW12やSiW12などのように縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAを入手したうえで、そのヘテロポリ酸PAを水に溶解させた場合、明らかである。また、縮合数が4以下であるヘテロポリ酸PAを入手したうえで、そのヘテロポリ酸PAを水に溶解させた場合、及び、縮合数が不明であるヘテロポリ酸を入手したうえで、そのヘテロポリ酸PAを水に溶解させた場合、液体LQ中に溶解しているヘテロポリ酸PAの縮合数は、ラマン分光法を用いてヘテロポリ酸PAを含む液体LQを解析することによって確認することができる。
【0058】
工程S12は、ヘテロポリ酸PAの電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光Lを、液体LQ及びヘテロポリ酸PAに照射する工程である(図2の(b)参照)。工程S12は、特許請求の範囲に記載のレーザ光照射工程の一例である。工程S12において液体LQ及びヘテロポリ酸PAに照射するレーザ光Lのエネルギー密度は、液体LQ及びヘテロポリ酸PAに照射するスポットにおいて15mJ/cm以上60mJ/cm以下であることが好ましい。
【0059】
図3の(a)は、PW12を水に溶解させることによって得られたPW12のイオンを含む水溶液の吸光度の波長依存性である。以下において、吸光度の波長依存性のことを吸収スペクトルと称する。図3の(a)によれば、PW12のイオンを含む水溶液の吸光度は、波長が390nm以下の波長領域において急激に増大することが分かる。この、波長が390nmを吸収端とする吸収帯は、ヘテロポリ酸PAの配位子から中心金属への電荷移動であるLMCT(Ligand to Metal Charge Transfer)遷移に対応した吸収帯、すなわち、電荷移動吸収帯である。
【0060】
したがって、液体LQに対してPW12のイオンを水溶液の状態で供給した場合、レーザ光Lの波長λは、上記吸収端より短波長側であるλ≦390nmの範囲内で適宜設定することができる。
【0061】
また、図3の(b)は、PW12のイオンを含む水溶液に対して、塩酸を0.1M混合した水溶液の吸収スペクトルである。図3の(b)によれば、塩酸を混合することによって、PW12の電荷移動吸収帯の上記吸収端が415nmまで長波長側へシフトすることが分かる。このように、液体LQには、塩酸又は硝酸を混合することによって、ヘテロポリ酸PAの電荷移動吸収帯の吸収端の波長を調整することもできる。なお、塩酸又は硝酸を混合するか否かに関わらず、レーザ光Lを照射される液体LQの酸性度は、例えばpHが4を下回るように調整されていることが好ましい。
【0062】
工程S13は、工程S12を実施することによって液体LQ中に生成した金属Mの微粒子を回収する工程である(図2の(c)参照)。本実施形態においては、フィルタFIを用いて、工程S12を実施した後の液体LQを濾過することによって金属Mの微粒子を回収する。
【0063】
工程S13において回収可能な金属Mの粒子サイズ(例えば粒子の直径)は、用いるフィルタFIの目の細かさに依存する。逆にいえば、工程S12において生成する金属Mの粒子サイズに応じてフィルタFIの目の細かさを適宜選択することによって、金属Mの微粒子の回収率を高めることができる。
【0064】
図1の(b)及び(c)は、工程S13において回収した金属Mの微粒子の透過電子顕微鏡像の一例を示す。図1の(c)は、図1の(b)に示した透過電子顕微鏡像を拡大したものである。図1の(b)及び(c)に示すように、回収方法M10を用いることによって、液体LQ中に含まれる目的元素(本実施形態では金)のイオンIを目的元素の金属Mに還元し回収することができる。
【0065】
なお、回収方法M10は、上述した工程S11~S13に加えて、液体LQにアルコール類ALを混合するアルコール類混合工程を更に含んでいてもよい。アルコール類は、レーザ光Lを照射することによってイオンIを金属Mに還元する還元反応において、還元助剤として機能する。アルコール類混合工程は、工程S12の前に実施される。混合するアルコール類ALの例としては、エタノール、メタノール及びプロパノールといった水に容易に溶かすことができるアルコール類が挙げられる。また、ヘテロポリ酸PAのイオンを供給したあとの液体LQに対して混合するアルコール類の濃度は、適宜選択することができるが、例えば1%である。
【0066】
また、回収方法M10は、実施する場合の処理方法として、後述するようにバッチ式処理及び連続式処理の何れの方式を採用してもよい。例えば、処理する液体LQの量が少ない場合には、バッチ式処理を採用することが好ましいし、処理する液体LQの量が多い場合には、連続式処理を採用することが好ましい。
【0067】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る回収装置10について、図2を参照して説明する。回収装置10は、回収方法M10を実施するために利用可能な回収装置を単純に構成した例である。なお、説明の便宜上、第1の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0068】
回収装置10は、回収方法M10と同様に、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち少なくとも何れかを目的元素として、液体中に含まれる該目的元素のイオンIを目的元素の金属Mに還元し回収する回収装置である。
【0069】
図2の(a)~(c)に示すように、回収装置10は、内部に液体LQを収容する容器Cと、液体LQ中に、ヘテロポリ酸PAを供給するスポイト(特許請求の範囲に記載のポリ酸供給部の一例)と、ヘテロポリ酸PAの電荷移動吸収帯に含まれる波長λを有するレーザ光Lを、容器C内に収容された液体LQ及びヘテロポリ酸PAに照射するレーザ装置と、上述した工程S12においてレーザ光Lを照射されたあとの液体LQを濾過することによって、還元された目的元素の金属MTを濾過するためのフィルタFIと、を備えている。スポイトは、液体LQ中に縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAを供給するように構成されていることが好ましい。なお、図2の(b)においては、液体LQ及びヘテロポリ酸PAに照射するレーザ光Lのみを図示し、レーザ装置の図示を省略している。
【0070】
また、ポリ酸供給部は、図2の(a)に示したスポイトに限定されるものではなく、液体LQ中に、縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAを供給可能な構成であることが好ましい。例えば、ポリ酸供給部は、縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAを水に溶解させることによって得られた、縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAのイオンを含む水溶液を液体LQ中に滴下するように構成されていてもよい。また、例えば、ポリ酸供給部として、(1)縮合数が4以下であるヘテロポリ酸PAを水に溶解させることによって得られたヘテロポリ酸PAのイオンを含む水溶液を、スポイトを用いて液体LQ中に滴下し、その後、(2)酸性の水溶液(例えば塩酸の水溶液)を、別のスポイトを用いて液体LQ中に滴下することによって液体LQの酸性度を高め、縮合数が4を超えるようにヘテロポリ酸の縮合反応を促進させる構成を採用してもよい。
【0071】
また、ヘテロポリ酸供給部は、スポイトのように手動式であってもよいし、電動ポンプのように電動式であってもよい。
【0072】
このレーザ装置は、ヘテロポリ酸PAの電荷移動吸収帯に含まれる波長λを有するレーザ光Lを生成可能なレーザ装置であればよい。例えば、ヘテロポリ酸PAとしてPW12を採用する場合、PW12の電荷移動吸収帯の吸収端は、図3の(a)及び(b)に示すように、また上述したように、400nm近傍である。したがって、レーザ装置は、波長λが吸収端よりも短波長側であるレーザ光Lを生成可能なレーザ装置であればよい。
【0073】
このようなレーザ装置の例としては、λ≦450nmの範囲において波長を可変させることができる波長可変レーザや、Nd:YAGレーザや、エキシマレーザなどが挙げられる。Nd:YAGレーザは、波長λが固定された波長固定レーザであるが、3倍高調波(λ=355nm)、4倍高調波(λ=266nm)、及び5倍高調波(λ=216nm)を用いることによって、電荷移動吸収帯に含まれる波長λを有するレーザ光を生成可能である。また、エキシマレーザも同様に波長固定レーザであるが、レーザ媒質を構成する混合ガスのガス種を適宜選択することによって、電荷移動吸収帯に含まれる波長λを有するレーザ光を生成可能である。エキシマレーザの代表的な波長λとしては、λ=351nm(XeF混合ガス)、λ=308nm(XeCl混合ガス)、λ=248nm(KrF混合ガス)、及びλ=193nm(ArF混合ガス)が挙げられる。
【0074】
また、レーザ光Lの波形は、パルス状であることが好ましい。
【0075】
本実施形態において採用している容器Cは、上部に1つの開口が設けられたビーカーである。すなわち、容器Cにおいては、この1つの開口を時間帯ごとに使い分けることによって、内部に液体LQを導入する導入口、液体LQ中にヘテロポリ酸PAのイオンを含む水溶液を供給する供給口、及び液体LQを外部に排出する排出口の各々として利用する。すなわち、回収装置10は、容器Cの内部に液体LQを導入する工程と、図1に示した工程S11~S13の各工程とを、異なる時間帯に分けて順番に実施するバッチ式処理を採用した回収装置である。
【0076】
このようにバッチ式処理を採用した回収装置10においては、パルス状の波形を有するレーザ光Lの繰り返し周波数は、1Hz以上50Hz以下であることが好ましい。
【0077】
レーザ光Lの繰り返し周波数を下げることによって、生成される金属Mの粒子サイズは、大きくなる傾向を有する。これは、レーザ光Lの繰り返し周波数が高すぎる場合、生成された金属Mの粒子にすぐに次のレーザ光Lが照射される確率が高くなりやすく、その結果、金属Mの粒子が破壊されやすくなるためと考えられる。
【0078】
その一方で、レーザ光Lの繰り返し周波数を下げることによって、単位時間当たりに照射するパルス数が減少するので、生成される金属Mの粒子の粒子数は、減少する傾向を有する。
【0079】
したがって、レーザ光Lの繰り返し周波数は、生成される金属Mの粒子サイズがフィルタFIを用いて回収可能な程度に大きく成長する範囲内で、できるだけ高い繰り返し周波数に設定されることが好ましい。
【0080】
〔第1,第2の変形例〕
図2に示した回収装置10の2つの変形例であって、本発明の第1,第2の変形例である回収装置10A,10Bについて、図4を参照して説明する。図4の(a)は、第1の変形例である回収装置10Aの概略を示す斜視図である。図4の(b)は、第2の変形例である回収装置10Bの概略図であり、容器Cの断面を示した概略図である。なお、説明の便宜上、第2の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0081】
(回収装置10A)
回収装置10Aは、回収装置10と同様に、バッチ式処理を採用した回収装置である。回収装置10が容器Cとしてビーカーを備えていたのに対し(図2参照)、回収装置10Aは、容器Cとして石英セルを採用している(図4の(a)参照)。すなわち、回収装置10Aは、回収装置10と比較して、より少量の液体LQの処理に適している。後述する第1~第4の実施例は、回収装置10Aを用いて実施した。
【0082】
また、回収装置10Aは、回収装置10と比較して、上面に容器Cを載置可能なマグネットスターラーMSと、容器Cの内部(液体LQ中)に投入された撹拌子Sと、を更に備えている。この構成によれば、マグネットスターラーMSを動作させることによって撹拌子Sが容器C内において回転するため、液体LQを撹拌することができる。回収方法M10に含まれる工程S12が実施されている期間中に液体LQを撹拌することによって、容器C中の液体LQに対してまんべんなくレーザ光Lを照射することができる。
【0083】
(回収装置10B)
回収装置10Bは、回収装置10,10Aとは異なり、連続式処理を採用した回収装置である。連続式処理とは、容器Cの内部に液体LQを導入する工程と、図1に示した工程S11~S13の各工程とを、同じ時間帯に並列に実施する方式である。本変形例では、連続式処理を実施するための構成を中心に、回収装置10Bについて説明する。
【0084】
回収装置10Bの規模(換言すれば容器Cの容積)は、処理する液体LQの処理量に応じて適宜設定することができるが、本変形例では、卓上に載置可能な規模を想定している。この場合、容器Cの容積としては、100mL以上1L以下が好適である。
【0085】
図4の(b)に示すように、回収装置10Bの容器Cは、直方体状である。容器Cには、内部に液体LQを導入する導入口PIと、液体LQを外部に排出する排出口POが設けられている。導入口PI及び排出口POの各々は、互いの距離ができるだけ離れるように、容器Cの壁面に対して配置されている。具体的には、容器Cを図4の(b)に示す向きで配置した場合、導入口PIは、容器Cの下底面を構成する壁面の左端に配置されており、排出口POは、容器Cの上底面を構成する壁面の右端に配置されている。なお、図4の(b)において容器Cの内側に付した破線のハッチングは、液体LQを示す。
【0086】
容器Cを構成する長さが異なる3種類の辺群であって、各々が4つ辺からなる辺群のうち最も長さが長い辺群の各辺に平行な方向を、容器Cの長軸方向と呼ぶ。容器Cを構成する6つの壁面のうち、法線方向が長軸方向と平行である一対の壁面の各々には、それぞれ、レーザ光Lを透過する一対の工学ポートである光学ポートLP1,LP2が設けられている。光学ポートLP1,LP2は、互いに対向しており、平面視した場合に輪郭がほぼ一致するように配置されている。光学ポートLP1,LP2は、ヘテロポリ酸PAのイオンの電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光Lを透過するガラスにより構成されている。本変形例において、光学ポートLP1,LP2は、石英ガラスにより構成されている。
【0087】
また、容器Cを構成する壁面のうち光学ポートLP1,LP2以外の部分は、レーザ光Lを遮断する材料(本変形例においては、金属)により構成されている。
【0088】
回収装置10Bは、上述した容器Cの他に、レーザ装置LAと、鏡M1,M2と、タンクT1と、ポリ酸供給部(図4の(b)には不図示)と、ストレーナSTと、撹拌羽SBと、フィルタFIと、分光分析装置Mと、ポンプPと、三方バルブVと、タンクT2と、を備えている。
【0089】
レーザ装置LAは、ヘテロポリ酸PAのイオンの電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光Lを生成し、光学ポートL1からレーザ光Lを液体LQに照射する。なお、レーザ光Lは、図4の(b)に図示しない光学部材によりコリメートされている。
【0090】
鏡M1,M2の各々は、それぞれ、光学ポートLP1,LP2に対向するように配置されており、光学ポートLP1,LP2の各々から容器Cの外部に出射されたレーザ光Lを反射することによって、再び液体LQに照射する。すなわち、鏡L1,L2は、レーザ光Lを多重反射することによって、容器C内におけるレーザ光Lの光路長を数倍(図4の(b)においては5倍)に延長し、レーザ光Lがヘテロポリ酸PAに照射される確率を高める。
【0091】
タンクT1は、目的元素を回収する前の液体LQを貯蔵するタンクである。
【0092】
ポリ酸供給部は、タンクT1と導入口PIとの中間に配置されており、タンクT1から導入口PIに供給される液体LQに対して、ヘテロポリ酸PAのイオンを所定のイオン濃度となるように供給する。なお、ポリ酸供給部は、容器C内に供給される前の液体LQに対してヘテロポリ酸PAを供給可能な位置に設けられていればよく、その位置は、タンクT1と導入口PIとの中間に限定されない。
【0093】
ストレーナSTは、導入口PIの内部に配置されたおり、タンクT1から供給された液体LQ中に含まれ得る異物を捕集する。後述するフィルタFIよりは目が粗いが、ストレーナSTもフィルタの一種である。
【0094】
撹拌羽SBは、容器Cの内部に配置されており、電力を動力として回転することによって、容器Cの内部に存在する液体LQを撹拌することによって、液体LQをゆっくりと上部へ(排出口POの方向へ)導く。撹拌羽SBは、回収装置10Aが備えているマグネットスターラーMS及び撹拌子Sと同様の機能を有する。
【0095】
フィルタFIは、排出口POの内部に配置されており、目的元素の金属Mを濾過することによって、金属Mを回収する。
【0096】
分光分析装置Mは、排出口POの後段に配置されており、排出口POから排出される液体LQを分光分析することにより、液体LQに含まれている成分を分析する装置である。分光分析装置Mは、イオンIのイオン濃度を測定する濃度測定器の一態様であり、分析速度が高速な分光装置である。そのため、流れている液体LQの成分をその場でモニタリングし、液体LQの含まれている目的元素の量を示す情報である目的元素情報を、分光分析装置Mの外部(例えば作業者が目視しているパソコン)に供給する。分光分析装置Mが分光分析する方式は限定されるものではないが、例えば、パルスレーザを液体LQに照射することによって液体LQに含まれる成分が発する発光を分光分析する方式が挙げられる。
【0097】
ポンプPは、分光分析装置Mの後段に配置されたポンプであって、液体LQを三方バルブVへ導く方向に、液体LQを加圧する。
【0098】
液体LQの流れを分岐する分岐部の一態様である三方バルブVは、ポンプPの後段に配置された三方バルブであって、3つのポートP1~P3を備えている。ポートP1には、ポンプPを介して分光分析装置Mが接続されている。また、ポートP2には、タンクT2が接続されている。また、ポートP3は、タンクT1と導入口PIとの中間に接続されている。三方バルブVは、分光分析装置Mが外部に出力した目的元素情報が表す目的元素の量に応じて、ポートP1に接続するポートをポートP2及びポートP3の間で切り替える。具体的には、(1)液体LQの含まれている目的元素の量が所定の閾値を下回っている場合、ポートP1に対してポートP2を接続し、(2)液体LQの含まれている目的元素の量が上記閾値以上である場合、ポートP1に対してポートP3を接続する。この構成によれば、(1)目的元素の回収が十分であり、液体LQ中における目的元素の残存量が少ない場合、液体LQをタンクT2へ貯蔵し、(2)目的元素の回収が十分ではなく、液体LQ中に目的元素における残存量が多い場合、液体LQを導入口PIへ戻すことによって、再度、目的元素の回収を行うことができる。
【0099】
三方バルブVは、分光分析装置Mが出力した目的元素情報が表す目的元素の量に応じて、作業者がマニュアル操作により制御するように構成されていてもよいし、目的元素の量に応じてパソコンが自動操作により制御するように構成されていてもよい。
【0100】
以上のように構成された回収装置10Bは、上述の通り、容器Cの内部に液体LQを導入する工程と、図1に示した工程S11~S13の各工程とを、同じ時間帯に並列に実施する連続式処理を採用している。
【0101】
そのため、回収装置10Bにおいて、レーザ光Lの繰り返し周波数は、1Hz以上1000Hz以下であることが好ましい。このより好ましい繰り返し周波数の周波数帯は、バッチ式処理を採用した回収装置10におけるレーザ光Lの好ましい繰り返し周波数の周波数帯(1Hz以上50Hz以下)よりも高い周波数に設定することができる。これは、液体LQが容器Cの下側から上側へ向かう方向に絶えず流れていることによって、生成された金属Mの粒子にすぐに次のレーザ光Lが照射される確率がバッチ式処理の場合よりも低下するためと考えられる。
【0102】
なお、連続式処理の場合においても、レーザ光Lの繰り返し周波数は、生成される金属Mの粒子サイズがフィルタFIを用いて回収可能な程度に大きく成長する範囲内で、できるだけ高い繰り返し周波数に設定されることが好ましい点は、バッチ式処理の場合と同じである。
【0103】
なお、回収装置10Bは、一対の鏡M1,M2を備えているものとして説明したが、少なくとも鏡M2を備えていればよい。
【0104】
〔第1~第4の実施例〕
図4の(a)に示した回収装置10Aの第1~第4の実施例について、図5を参照して説明する。図5の(a)~(d)の各々は、それぞれ、第1~第4の実施例である回収装置10において用いた液体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【0105】
(第1及び第2の実施例)
第1の実施例では、目的元素として金を採用し、イオンIを含む液体LQとして、金の塩化物(AuCl)2mMを1mLの水に溶解させることによって得られた金イオンを含む水溶液を用い、ヘテロポリ酸PAのイオンとして100mMのPW12を1mLの水に溶解させることによって得られたヘテロポリ酸PAのイオンを用いた。
【0106】
また、第2の実施例では、金イオンを含む水溶液を第1の実施例と同一とし、ヘテロポリ酸PAのイオンとして100mMのSiW12を1mLの水に溶解させることによって得られたヘテロポリ酸PAのイオンを用いた。
【0107】
第1及び第2の実施例では、レーザ光Lの照射条件は、波長λとしてλ=355nmを採用し、レーザ光の繰り返し周波数として10Hzを採用し、レーザ光のエネルギーとして20mJ/パルスを採用し、レーザ光Lの直径d(図4の(a)参照)としてd=8mmを採用し、このように設定したレーザ光Lの照射時間を10分間に設定した。
【0108】
(第3及び第4の実施例)
第3の実施例では、目的元素としてパラジウムを採用し、イオンIを含む液体LQとして、パラジウムの塩化物(PdCl)2mMと、塩化ナトリウム(NaCl)6.66mMと、を1mLの水に溶解させることによって得られたパラジウムイオンを含む水溶液を用い、ヘテロポリ酸PAのイオンとして100mMのPW12を1mLの水に溶解させることによって得られたヘテロポリ酸PAのイオンを用いた。
【0109】
また、第4の実施例では、パラジウムイオンを含む水溶液を第3の実施例と同一とし、ヘテロポリ酸PAのイオンとして100mMのSiW12を1mLの水に溶解させることによって得られたヘテロポリ酸PAのイオンを用いた。
【0110】
第3及び第4の実施例では、レーザ光Lの照射条件を第1及び第2の実施例と同一とし、照射時間を20分に設定した。
【0111】
(第1~第4の実施例の結果)
図5の(a)及び(b)に示した矢印が示す吸光度のピークは、金の微粒子に起因する表面プラズモン共鳴吸収に起因するものと考えられる。すなわち、第1及び第2の実施例の何れにおいても液体LQから目的元素である金の金属Mを回収することができた。なお、図5の(a)及び(b)を比較した場合、金を還元する還元反応における触媒作用は、PW12の方がSiW12を上回ることが分かった。
【0112】
また、図5の(c)及び(d)に示した矢印が示す吸光度のピークは、パラジウムの微粒子に起因する表面プラズモン共鳴吸収に起因するものと考えられる。すなわち、第3及び第4の実施例の何れにおいても液体LQから目的元素であるパラジウムの金属Mを回収することができた。なお、図5の(c)及び(d)を比較した場合、パラジウムを還元する還元反応における触媒作用は、SiW12の方がPW12を上回ることが分かった。
【0113】
これらの結果に鑑みれば、液体LQ中に金のイオン及びパラジウムのイオンが共存している場合、まず第1の実施例を実施することによって金を優先的に回収し、液体LQ中の金のイオン濃度が低下した時点で、フィルタFIを新しいフィルタFIに交換することによって、液体LQ中に残存しているパラジウムを金とは別個に回収することができる。
【0114】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る回収装置10Cについて、図6を参照して説明する。(a)~(c)は、本発明の第3の実施形態に係る回収装置の概略図である。図6の(a)は、回収方法M10の工程S11及びアルコール類混合工程に対応し、図6の(b)は、回収方法M10の工程S12に対応し、図6の(c)は、回収方法M10の工程S13に対応する。
【0115】
なお、本実施形態において、回収装置10Cが実施する回収方法は、アルコール類混合工程を含んでいる。しかし、回収装置10Cが実施する回収方法は、図1の(a)に示した回収方法M10と同様にアルコール類混合工程を含んでいなくてもよい。
【0116】
回収装置10Cは、図2に示した回収装置10が備えていたスポイト及びフィルタFIの代わりに、ヘテロポリ酸PAのイオンが修飾された不織布FAを備えている。回収装置10Cにおいても、不織布FAには、縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAのイオンが修飾されていることが好ましい。
【0117】
不織布FAにヘテロポリ酸PAのイオンを修飾する方法は、特に限定されるものではない。例えば、不織布のグラフト重合を実施することにより、ヘテロポリ酸PAのイオンを修飾した不織布FAを得ることができる。
【0118】
このようにヘテロポリ酸PAのイオンを修飾した不織布FAを、液体LQ中に配置する(典型的には起立させる)ことによって、回収装置10Cは、回収方法M10に含まれる工程S11を実施する(図6の(a)参照)。
【0119】
そのうえで、液体LQ中に起立させた不織布FAの表面に対してレーザ光Lを照射することによって、回収装置10Cは、回収方法M10に含まれる工程S12を実施する(図6の(b)参照)。工程S12において、イオンIから金属Mへ還元された目的元素の微粒子は、不織布FAに捉えられたような形で不織布FAに付着する。なお、不織布FAは、レーザ光Lに対する吸光度が高い。そのため、レーザ光Lのほとんどは、不織布FAを透過しない。
【0120】
工程S12を実施したあとに、容器Cから不織布FAを取り出すことによって、回収装置10Cにおいては、回収方法M10に含まれる工程S13が実施される(図6の(c)参照)。以上のように、回収装置10Cを用いても、液体LQ中に含まれる目的元素のイオンIを目的元素の金属Mに還元し回収することができる。
【0121】
また、回収装置10Cは、回収装置10と比較して、液体LQにアルコール類ALを混合するアルコール類混合部の一例であるスポイトを備えていてもよい。このスポイトは、内部に充填されている溶媒がアルコール類であることを除けば、図2の(a)に記載されたスポイトであって、ポリ酸供給部の一例であるスポイトと同様である。このように、本発明の一態様である回収装置は、アルコール類混合部を備えていてもよい。
【0122】
〔第3の変形例〕
本発明の第3の変形例である回収装置10Dについて、図7を参照して説明する。回収装置10Cは、図4の(b)に示した回収装置10Bの変形例とも言えるし、図6に示した回収装置10Cの変形例とも言える。図7は、第3の変形例である回収装置10Dの概略図であり、容器Cの断面を示した概略図である。なお、説明の便宜上、回収装置10B(図4の(b)参照)及び回収装置10C(図6の(a)参照)にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0123】
図4の(b)と図6とを参照すると分かるように、回収装置10Dは、回収装置10Bの構成をベースとして、回収装置10Bが備えていたポリ酸供給部(図4の(b)には不図示)及びフィルタFIを不織布FAに置換することによって得られる。なお、回収装置10Dの容器Cの内部に固定されている不織布FAは、回収装置10Cが備えている不織布FAのサイズを回収装置10Dの容器Cの容積と整合するように修正することによって得られる。回収装置10Dにおいて、不織布FAは、レーザ光LEの光軸に対して、所定の仰角を有するように、容器Cの内壁に固定されている。なお、レーザ光LEは、ビームエキスパンダBEを透過させることによって、スポット径をレーザ装置LAが生成したレーザ光Lのスポット径から拡大されたレーザ光である。
【0124】
上述したように、不織布FAは、ヘテロポリ酸PAのイオンの電荷移動吸収帯に含まれる波長を有するレーザ光L,LEに対する吸光度が高いため、レーザ光L,LEをほとんど透過させない。そのため、回収装置10Dの容器Cには、回収装置10Bが備えていた光学ポートLP2が設けられておらず、回収装置10Bが備えていた光学ポートLP1に対応する光学ポートLPのみが設けられている。
【0125】
回収装置10Dにおいては、回収装置10Bのように、レーザ光Lを多重反射させることによって容器C内におけるレーザ光Lの光路長をかせぐことができないため、スポット径をレーザ光Lからレーザ光LEへ拡大するとともに、不織布FAとレーザ光LEの光軸との間に所定の仰角を持たせることによって、不織布FAのうちレーザ光LEが照射される領域の面積を広げている。
【0126】
〔第4の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る回収システム1について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、回収システム1の概略図である。図9は、回収システム1が備えている制御部11として利用可能なコンピュータのブロック図である。
【0127】
回収システム1は、図4の(b)に示した回収装置10Bを3個、即ち3個の回収装置10B1~10B3(特許請求の範囲に記載のn=3の構成)と、制御部11と、備えている。なお、説明の便宜上、回収装置10Bを構成する部材と同じ機能を有する部材については、対応する符号を付記し、その説明を繰り返さない。具体的には、1つ目の回収装置10Bを回収装置10B1と称し、回収装置10B1を構成する部材には、回収装置10Bを構成する部材の末尾に「1」を追記した符号を付記している。2つ目の回収装置10B2、及び、3つ目の回収装置10B3についても同様である。
【0128】
回収システム1は、周期表の8属から11属に含まれる遷移金属元素のうち何れかの遷移金属元素を第iの目的元素(iは、1≦i≦nの整数、nは、2以上の整数であり、本実施形態においてn=3)として、液体LQ中に含まれる該第iの目的元素のイオンを第iの目的元素に還元し回収するn個の回収装置と、液体LQ中に、ヘテロポリ酸PAのイオンを供給するポリ酸供給部とを備えた回収システム1である。回収システム1においても、ポリ酸供給部は、液体LQ中に縮合数が4を超えるヘテロポリ酸PAのイオンを供給することが好ましい。
【0129】
各第iの回収装置10Biは、回収装置10Bと同様に構成されている。すなわち、各第iの回収装置10Biは、液体LQを内部に導入する第iの導入口PIiと、液体LQを外部に排出する第iの排出口POiとが設けられ、液体LQを上記内部に収容する第iの容器Ciと、第iの目的元素の電荷移動吸収帯に含まれる波長を有する第iの波長のレーザ光を、液体LQ及びヘテロポリ酸PAのイオンに照射するレーザ装置LAiと、を備えている。
【0130】
そのうえで、第iの回収装置10Biの第iの排出口は、第i+1の回収装置10Bi+1の第i+1の導入口に接続されている。図8の示した回収システム1について具体的に説明すれば、第1の回収装置10B1の第1の排出口PO1は、第1の三方バルブV1を介して、第2の回収装置10B2の第2の導入口PI2に接続されており、第2の回収装置10B2の第2の排出口PO2は、第2の三方バルブV2を介して、第3の回収装置10B3の第3の導入口PI3に接続されている。なお、第1の回収装置10B1の第1の導入口PI1の前段には、回収装置10Bの導入口PIと同様にタンクT1及びポリ酸供給部が接続されており、第3の回収装置10B3の排出口PO3の後段には、回収装置10Bの排出口POと同様に第3の三方バルブV3を介して、タンクT2が接続されている。なお、各第iの三方バルブViは、特許請求の範囲に記載の第iの分岐部の一態様である。
【0131】
回収システム1において、各第iの回収装置10Biが備えているレーザ装置LAiの各々は、互いに波長λLiが異なり、且つ、iが1から2,3と大きくなるにしたがって、波長λLiが短くなるように構成されている。本実施形態においては、第1のレーザ装置LA1は、Nd:YAGレーザの3倍高調波(λL1=355nm)を生成し、第2のレーザ装置LA2は、Nd:YAGレーザの4倍高調波(λL2=266nm)を生成し、第3のレーザ装置LA3は、Nd:YAGレーザの5倍高調波(λL3=216nm)を生成する。
【0132】
各第iの回収装置10Biが備えており、且つ、特許請求の範囲に記載の第iの濃度測定器の一態様である第iの分光分析装置Miは、液体LQの含まれている第iの目的元素の量を示す情報である第iの目的元素情報SMiを、制御部11に共有する。
【0133】
制御部11は、第iの目的元素情報SMiが示す第iの目的元素の量が所定の閾値を下回っているか否かに応じて、各第iの回収装置10Biが備えている第iの三方バルブViを制御するための第iの制御信号SCiを第iの三方バルブViに供給する。第iの目的元素の量に応じた第iの三方バルブViの制御は、回収装置10Bにおいて説明した目的元素の量に応じた三方バルブVの制御と同様である。
【0134】
第iの三方バルブViは、制御部11から第iの制御信号SCiを受け取ると、第iの制御信号SCiの内容にしたがって、第iの三方バルブViのポートP1iに接続するポートをポートP2i及びポートP3iの間で切り替える。
【0135】
以上のように構成された回収システム1は、第1の回収装置10B1が第1の目的元素の金属MTを回収し、第2の回収装置10B2が第2の目的元素の金属MTを回収し、第3の回収装置10B3が第3の目的元素の金属MTを回収することによって、液体LQ中に含まれる第iの目的元素を個別に回収することができる。
【0136】
なお、本実施形態では、回収システム1が図4の(b)に示した回収装置10Bを3個備えているものとして説明した。しかし、回収システム1を構成する複数の回収装置の各々は、回収装置10Bに限定されるものではなく、例えば、図7に示した回収装置10Dであってもよい。
【0137】
(ソフトウェアによる実現例)
回収システム1の制御部11は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。後者の場合、制御部11は、図9に示すようなコンピュータ(電子計算機)を用いて構成することができる。
【0138】
図9は、制御部11として利用可能なコンピュータ910の構成を例示したブロック図である。コンピュータ910は、バス911を介して互いに接続された演算装置912と、主記憶装置913と、補助記憶装置914と、入出力インターフェース915と、通信インターフェース916とを備えている。演算装置912、主記憶装置913、および補助記憶装置914は、それぞれ、例えばプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit等)、RAM(random access memory)、ハードディスクドライブであってもよい。入出力インターフェース915には、ユーザがコンピュータ910に各種情報を入力するための入力装置920、および、コンピュータ910がユーザに各種情報を出力するための出力装置930が接続される。入力装置920および出力装置930は、コンピュータ910に内蔵されたものであってもよいし、コンピュータ910に接続された(外付けされた)ものであってもよい。例えば、入力装置920は、キーボード、マウス、タッチセンサなどであってもよく、出力装置930は、ディスプレイ、プリンタ、スピーカなどであってもよい。また、タッチセンサとディスプレイとが一体化されたタッチパネルのような、入力装置920および出力装置930の双方の機能を有する装置を適用してもよい。そして、通信インターフェース916は、コンピュータ910が外部の装置と通信するためのインターフェースである。
【0139】
補助記憶装置914には、コンピュータ910を制御部11として動作させるための各種のプログラムが格納されている。そして、演算装置912は、補助記憶装置914に格納された上記プログラムを主記憶装置913上に展開して該プログラムに含まれる命令を実行することによって、コンピュータ910を、制御部11として機能させる。なお、補助記憶装置914が備える、プログラム等の情報を記録する記録媒体は、コンピュータ読み取り可能な「一時的でない有形の媒体」であればよく、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブル論理回路などであってもよい。また、記録媒体に記録されているプログラムを、主記憶装置913上に展開することなく実行可能なコンピュータであれば、主記憶装置913を省略してもよい。なお、上記各装置(演算装置912、主記憶装置913、補助記憶装置914、入出力インターフェース915、通信インターフェース916、入力装置920、および出力装置930)は、それぞれ1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0140】
また、上記プログラムは、コンピュータ910の外部から取得してもよく、この場合、任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して取得してもよい。そして、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0141】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0142】
LQ 液体
目的元素のイオン
目的元素の金属
PA ヘテロポリ酸
AL アルコール類
1 回収システム
10,10A,10B,10Bi,10C,10D 回収装置
11 制御部
C 容器
PI,PIi 導入口
PO,POi 排出口
FI フィルタ
LA レーザ装置
L レーザ光
M1,M2 鏡
FA 不織布
V,Vi 三方バルブ
M,Mi 分光分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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