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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】細胞外電位計測補助装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230705BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230705BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230705BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20230705BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 Z
C12Q1/06
G01N27/30 F
G01N27/416 341M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019550358
(86)(22)【出願日】2018-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2018040014
(87)【国際公開番号】W WO2019087991
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017209605
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515135778
【氏名又は名称】株式会社幹細胞&デバイス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 晃輔
(72)【発明者】
【氏名】河原 紀之
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-500014(JP,A)
【文献】特開2016-214148(JP,A)
【文献】特開2016-015912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/00
C12Q 1/06
G01N 27/30
G01N 27/416
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養された細胞の細胞活動に基づく細胞外電位を計測する際に用いる細胞外電位計測補助装置であって、
前記細胞側に位置する第1階層部、
前記第1階層部の上方に重ねて位置する第2階層部、
を有し、前記第1階層部は、絶縁性または可撓性を有する材料により形成され、前記第2階層部は、金属により形成されている重量性を有する材料により形成され、前記第1階層部は、前記第2階層部に比して細胞に近い位置に配置され、計測対象である細胞を計測電極に向かって押圧できる、細胞外電位計測補助装置。
【請求項2】
請求項1に係る細胞外電位計測補助装置において、
前記第1階層部は、さらに、
前記第1階層部の前記下面と前記第1階層部の前記上面とを接続する、及び/又は、前記第1階層部の前記下面と前記第1階層部の前記側面とを接続する貫通孔を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に係る細胞外電位計測補助装置において、
前記第2階層部は、さらに、
前記第2階層部の前記下面と前記第2階層部の前記上面とを接続する、及び/又は、前記第2階層部の前記下面と前記第2階層部の前記側面とを接続する貫通孔を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3に係るいずれかの細胞外電位計測補助装置において、
前記第1階層部は、
絶縁性を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
【請求項5】
請求項4に係る細胞外電位計測補助装置において、
前記第1階層部は、
可撓性を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5に係るいずれかの細胞外電位計測補助装置において、
前記第2階層部は、
金属により形成されていること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の細胞外電位計測補助装置を用いて細胞外電位を計測する細胞外電位計測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象である細胞の細胞活動に基づく細胞外電位の計測に用いる細胞外電位計測補助装置に関し、特に、高感度で細胞外電位を計測できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞外電位計測について、図14に示すMEGAシステム10を用いて説明する。例に示すMEGAシステム10は、グリッド1形状の底面を備える。このグリッド1は、少なくとも電気的および/または光学的多重電極アレイを備える。該多重電極アレイは、電極アレイを備えるが、図示した例においては黒ドット8で表している。MEGAシステム10は、第2グリッド4形状の頂面をさらに備える。また、このグリッド4は、少なくとも電気的および/または光学的多重電極アレイを備える。該多重電極アレイは、電極のアレイを備えるが、図示した例において黒ドット9で表している。グリッド1、4には、電子コンポーネントが設けられ、例えば該電子コンポーネントを備え、電極8、9に電気的に接続したチップが設けられる。さらに、土台2は前記グリッド1の下に設けられる。土台2は、機械的支持および機械的強度をシステム10に提供する。土台2には、マイクロ流体システム3がさらに設けられる。マイクロ流体システム3は、生体適合ポリマーで構成してもよい。グリッド1、4は、互いに底面と頂面との位置を合わせ、組織切片6または細胞培養を両方の基板の間に固着させるための手段5を用いて適切な位置に保持してもよい。こうした手段5は、グリッド1、4のどちらかに垂直な方向に適合させるための、例えばマイクロドライブでもよい(以上、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-239779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のMEGAシステム10には、以下に示すような改善すべき点がある。MEGAシステム10において手段5は、グリッド1、4、互いの底面と頂面との位置を合わせ、組織切片6または細胞培養を両方の基板の間に固着させるための手段である。一方、細胞を、電極8、9に押圧し、電極に対して対象を固定するものでも、シグナルの強度を向上させるものでもない。したがって、検知対象である細胞が低シグナルである場合、解析可能な測定データを取得できない、という改善すべき点がある。
【0005】
そこで、本発明は、高感度で細胞外電位を計測できる細胞外電位計測補助装置を提供することを目的とする。
すなわち、本発明が、以下のとおりである。
[1]
培養された細胞の細胞活動に基づく細胞外電位を計測する際に用いる細胞外電位計測補助装置であって、
前記細胞側に位置する第1階層部、
前記第1階層部の上方に重ねて位置する第2階層部、
を有する細胞外電位計測補助装置。
[2]
[1]に係る細胞外電位計測補助装置において、
前記第1階層部は、さらに、
前記第1階層部の前記下面と前記第1階層部の前記上面とを接続する、及び/又は、前記第1階層部の前記下面と前記第1階層部の前記側面とを接続する貫通孔を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
[3]
[1]または[2]に係る細胞外電位計測補助装置において、
前記第2階層部は、さらに、
前記第2階層部の前記下面と前記第2階層部の前記上面とを接続する、及び/又は、前記第2階層部の前記下面と前記第2階層部の前記側面とを接続する貫通孔を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
[請求項4]
[1]~[3]に係るいずれかの細胞外電位計測補助装置において、
前記第1階層部は、
絶縁性を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
[5]
[4]に係る細胞外電位計測補助装置において、
前記第1階層部は、
可撓性を有すること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
[6]
[1]~[5]に係るいずれかの細胞外電位計測補助装置において、
前記第2階層部は、
金属により形成されていること、
を特徴とする細胞外電位計測補助装置。
[7]
培養された細胞の細胞活動に基づく細胞外電位を計測する際に用いる細胞外電位計測補助装置であって、
前記細胞側に位置する第1階層部、
前記第1階層部の上方に重ねて位置する第2階層部、
を有する細胞外電位計測補助装置を用いて細胞外電位を計測する細胞外電位計測方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明における課題を解決するための手段及び発明の効果を以下に示す。
【0007】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置は、培養された細胞の細胞活動に基づく細胞外電位を計測する際に用いる細胞外電位計測補助装置であって、前記細胞側に位置する第1階層部、前記第1階層部の上方に重ねて位置する第2階層部、を有する。
【0008】
これにより、各階層部の重量、及び、各階層部の浮力といった2つの要素を調整することができ、細胞外電位を測定する細胞の種類、状態に応じた、細胞外電位を計測するにあたり、最適な圧力を決定できる。よって、高感度で細胞外電位を計測できる。
【0009】
また、細胞外電位を計測する際に、計測対象である細胞に対して、所定の圧力を加えることができるので、細胞の位置を固定できる。
【0010】
さらに、計測対象である細胞を計測電極(後述)に向かって押圧できるので、従来に比して、細胞活動によって生ずるシグナルの強度を大きくすることができる。つまり、シグナル強度を改善し、細胞外電位計測の際のS/N比を改善でき、結果として、高感度で細胞外電位を計測できる。これにより、細胞活動によって生ずるシグナル強度が弱い細胞であっても、細胞外電位を計測することができる。
【0011】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置では、前記第1階層部は、さらに、前記第1階層部の前記下面と前記第1階層部の前記上面とを接続する、及び/又は、前記第1階層部の前記下面と前記第1階層部の前記側面とを接続する貫通孔を有すること、を特徴とする。
【0012】
これにより、培地を、第1階層部の上面から下面の下に位置する細胞に提供することができ、ひいては、細胞を適切な状態に維持することができる。
【0013】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置では、前記第2階層部は、さらに、前記第2階層部の前記下面と前記第2階層部の前記上面とを接続する、及び/又は、前記第2階層部の前記下面と前記第2階層部の前記側面とを接続する貫通孔を有すること、を特徴とする。
【0014】
これにより、培地を、第2階層部の上面から下面に提供することができる。
【0015】
したがって、第1階層部と第2階層部を重ねて配置したとしても、第2階層部の上面から第1階層部の下面に連通する貫通孔を形成することができる。つまり、細胞外電位計測補助装置の外部の新鮮な培地を、第1階層部の下面の下に位置する細胞に提供することができ、ひいては、細胞を適切な状態に維持することができる。
【0016】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置では、前記第1階層部は、可撓性を有すること、を特徴とする。
【0017】
これにより、第1階層部の下に位置する細胞への細胞外電位計測補助装置100の重量による影響を低減することができる。
【0018】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置では、前記第1階層部は、絶縁性を有すること、を特徴とする。
【0019】
これにより、細胞外電位を計測する際に、計測する電位に影響を及ぼさないようにし、正確に細胞外電位を計測することができる。
【0020】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置では、前記第2階層部は、重量性を有する材料により形成されていること、を特徴とする。
【0021】
これにより、第2階層部を小型化することができ、ひいては、細胞外電位計測補助装置を小型化できる。
【0022】
本発明に係る細胞外電位計測方法は、培養された細胞の細胞活動に基づく細胞外電位を計測する際に用いる細胞外電位計測補助装置であって、前記細胞側に位置する第1階層部、
前記第1階層部の上方に重ねて位置する第2階層部、を有する細胞外電位計測補助装置を用いて細胞外電位を計測する。
【0023】
これにより、各階層部の重量、及び、各階層部の浮力といった2つの要素を調整することができ、細胞外電位を測定する細胞の種類、状態に応じた、細胞外電位を計測するにあたり、最適な圧力を決定できる。よって、高感度で細胞外電位を計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る細胞外電位計測補助装置の一実施例である細胞外電位計測補助装置100を示す図である。
図2】細胞外電位計測補助装置100の第1階層部101を示す図である。
図3】細胞外電位計測補助装置100の第2階層部103を示す図である。
図4】細胞培養装置Cを示す図である。
図5】MEAプローブPを示す図である。
図6】MEAプローブP、細胞培養装置C、及び、細胞外電位計測補助装置100を用いて細胞外電位を計測する状態を示す図である。
図7】細胞外電位計測補助装置100を用いて心筋細胞の細胞外電位を計測した結果を示す図である。
図8】細胞外電位計測補助装置100を用いて心筋細胞の細胞外電位を計測した結果を示す図である。
図9】細胞外電位計測補助装置100を用いて計測する心筋細胞の細胞外電位を示す図である。
図10】本発明に係る細胞外電位計測補助装置のその他の実施例を示す図である。
図11】本発明に係る細胞外電位計測補助装置のその他の実施例を示す図である。
図12】本発明に係る細胞外電位計測補助装置のその他の実施例を示す図である。
図13】本発明に係る細胞外電位計測補助装置のその他の実施例を示す図である。
図14】従来の細胞外電位計測補助装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明していく。
【実施例1】
【0026】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置について、一実施例である細胞外電位計測補助装置100を用いて説明する。細胞外電位計測補助装置100は、計測対象である細胞の活動に基づく細胞外電位を計測する際に用いる補助装置である。
【0027】
第1 構成
細胞外電位計測補助装置100の構成について、図1を用いて説明する。ここで、図1Aは細胞外電位計測補助装置100の平面図を、図1Bは細胞外電位計測補助装置100の正面図を、それぞれ示す。図1A図1Bに示すように、細胞外電位計測補助装置100は、第1階層部101、及び、第2階層部103を有している。
【0028】
第1階層部101と第2階層部103とは、階層状に配置される。第1階層部101は、第2階層部103に比して細胞に近い位置に配置される。第2階層部103は、第1階層部101の上方に、第1階層部101に重ねて配置される。
【0029】
第1階層部101の構成について、図2を用いて説明する。ここで、図2Aは、第1階層部101の平面図を、図2Bは、図2Aに示す第1階層部101のX1-X1断面図を、それぞれ示す。図2Aに示すように、第1階層部101は、角盤形状を有している。図2Bに示すように、第1階層部101は、下面101a、上面101b、及び、貫通孔101cを有している。下面101aは、細胞に近い側に位置する面である。一方、上面101bは、下面101aに対向して位置し、細胞から遠い側に位置する面である。貫通孔101cは、下面101aと上面101bとを接続する孔である。第1階層部101は、複数の貫通孔101cを有している。
【0030】
第1階層部101は、絶縁性、可撓性を有する材料、例えば、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)により形成されている。第1階層部101を、絶縁性を有する材料により形成することによって、計測する電位に影響を及ぼさないようにし、正確に細胞外電位を計測することができる。また、第1階層部101を、可撓性を有する材料により形成することによって、細胞外電位計測補助装置100から細胞への重量によるダメージを減少することができる。
【0031】
第2階層部103の構成について、図3を用いて説明する。ここで、図3Aは、第2階層部103の平面図を、図3Bは、図3Aに示す第2階層部103のX2-X2断面図を、それぞれ示す。図3Aに示すように、第2階層部103は、円環盤形状を有している。図3Bに示すように、第2階層部103は、下面103a、上面103b、及び、貫通孔103cを有している。下面103aは、第1階層部101に接する面である。一方、上面103bは、下面103aに対向して位置する面である。貫通孔103cは、下面101aと上面101bとを接続する孔である。第2階層部103は、中央に1つの貫通孔103cを有している。
【0032】
第2階層部103は、重量性を有する材料、例えば、金属により形成されている。第2階層部101を、絶縁性を有する材料により形成することによって、計測する電位に影響を及ぼさないようにし、正確に細胞外電位を計測することができる。
【0033】
また、第1階層部101を、可撓性を有する材料により形成することによって、細胞外電位計測補助装置100から細胞への重量によるダメージを減少することができる。
【0034】
さらに、第1階層部101に貫通孔101c、第2階層部103に貫通孔103cを形成することによって、第1階層部101と第2階層部103とを重ねて配置したとしても、第2階層部103の上面103bから第1階層部101の下面101aに連通する貫通孔101c及び貫通孔103cを形成することができる。これにより、細胞外電位計測補助装置100の外部の新鮮な培地を、第1階層部101の下面101aの下に位置する細胞に提供することができ、ひいては、細胞を適切な状態に維持することができる。
【0035】
このように、細胞外電位計測補助装置100を複数階層部によって形成することによって、各階層部の重量、及び、各階層部の浮力といった2つの要素を調整することができる。これにより、細胞外電位を測定する細胞の種類、状態に応じた、細胞外電位を計測するにあたり、最適な圧力を決定できる。
【0036】
細胞外電位計測補助装置100を用いることによって、細胞外電位を計測する際に、計測対象である細胞に対して、所定の圧力を加えることができるので、細胞の位置を固定できる。また、計測対象である細胞を計測電極(後述)に向かって押圧できるので、従来に比して、細胞活動によって生ずるシグナルの強度を大きくすることができる。つまり、シグナル強度を改善し、細胞外電位計測の際のS/N比を改善でき、結果として、高感度で細胞外電位を計測できる。これにより、細胞活動によって生ずるシグナル強度が弱い細胞であっても、細胞外電位を計測することができる。
【0037】
このように、細胞外電位計測補助装置100を用いることによって、細胞外電位計測に際して、計測対象である細胞に対して、細胞活動に必要な、十分新鮮な培地を提供でき、また、軽微な荷重しか加える必要がないため、細胞活動を阻害することなく、細胞外電位を計測することができる。さらに、薬剤を添加した状態で細胞外電位を計測する際にも、培地とともに添加した薬剤を細胞に供給できるため、薬剤応答性を阻害することなく、細胞外電位を計測することができる。
【0038】
第2 細胞外電位計測補助装置100の使用方法
細胞外電位計測補助装置100の使用方法について、細胞培養装置Cに形成した心筋細胞の細胞活動により生ずる細胞外電位をMEA(Multi-Electrode Array)プローブPを用いて測定する場合を例に、図4図6を用いて説明する。
【0039】
ここで、細胞培養装置Cについて、図4を用いて簡単に説明する。ここで、図4Aは、細胞培養装置Cの平面図を、図4Bは、図4Aに示す細胞培養装置CのX3-X3断面図を、それぞれ示す。図4A図4Bに示すように、細胞培養装置Cは、細胞培養シートCS及びフレームCFを有している。細胞培養シートCSは、細胞培養のための足場として機能する。細胞培養シートCSとしては、高分子材料で形成されたファイバーシートを用い呈する。細胞培養シートCSは、高分子による配向性構造、非配向性構造または配向性と非配向性との混合構造を有している。
【0040】
フレームCFは、細胞培養シートCSを平面状に保持する保持部材として機能する。フレームCFは、中央に細胞培養シート配置空間F1を有する角筒形状を有している。なお、フレームCFは、所定厚さTS、所定高さHSを有している。フレームCFの一端面には、細胞培養シートCSが貼り付けられている。つまり、細胞培養シート配置空間CAに細胞培養シートCSが保持される。
【0041】
細胞培養装置Cを所定の培地が注がれた所定のウェル内に配置し、心筋細胞を、細胞培養装置Cの細胞培養シート配置空間CAに保持されている細胞培養シートCS上に所定の細胞密度で播種し、細胞培養シートCSの表面に心筋細胞を培養する。なお、心筋細胞は、一般的には、細胞培養シートCSの両表面上に培養される。
【0042】
細胞外電位の計測には、MEAプローブPを用いる。MEAプローブPは、細胞活動により生ずる細胞外電位を計測するための装置である。MEAプローブPについて、図5を用いて簡単に説明する。ここで、図5Aは、MEAプローブPの平面図を、図5Bは、図5Aに示すMEAプローブPのX4-X4断面図を、それぞれ示す。図5A図5Bに示すように、MEAプローブPは、基板部PB及び溶壁部PWを有している。基板部PBは、薄板形状を有している。溶壁部PWは、基板部PB上に形成される。溶壁部PWは、一端が解放された円筒形状を有し、内部に所定の培地を貯留し、計測対象の細胞を配置するための細胞配置空間PSを形成する。
【0043】
また、MEAプローブPは、計測電極E1及び参照電極E2を有している。計測電極E1は、溶壁部PWのほぼ中央に、基板部PBに沿って形成される。なお、計測電極E1は、4×4のマトリクス状に配置される。参照電極E2は、計測電極E1を中心に、所定数配置される。MEAプローブPは、計測電極E1と参照電極E2との電位差に基づき、細胞活動による細胞外電位を計測する。なお、計測電極E1、及び、参照電極E2のそれぞれから、引き出し線(図中点線)が配置される。
【0044】
MEAプローブPの細胞配置空間PSに所定量の培地を注いだ後、心筋細胞を培養した細胞培養装置Cを細胞配置空間PSに配置する。このとき、MEAプローブPの計測電極E1上に、細胞培養シート配置空間F1が位置するように細胞培養装置Cを配置する。
【0045】
さらに、細胞培養装置Cの心筋細胞が培養された細胞培養シートCS上に、細胞外電位計測補助装置100を配置する。細胞培養装置Cの心筋細胞が培養された細胞培養シートCS上に、細胞外電位計測補助装置100を配置した状態の平面図を図6Aに、図6AのX5-X5断面を図6Bに、それぞれ示す。図6A図6Bに示すように、細胞培養装置Cの細胞培養シート配置空間F1内に、細胞外電位計測補助装置100を配置する。このとき、細胞外電位計測補助装置100の第1階層部101が細胞培養シートCS側に位置するように、つまり、第1階層部101の下面101aが、細胞培養シート配置空間F1に位置する細胞培養シートCS上に培養された心筋細胞に接するように配置する。第1階層部101を配置した後、第2階層部103を第1階層部101上に配置する。これにより、第1階層部101の貫通孔101cと第2階層部103の貫通孔103cとを連通させ、細胞外電位計測補助装置100の下に位置する細胞に、常時、新鮮な培地を提供する。
【0046】
なお、第1階層部101及び第2階層部103は、共に培地内に位置するよう、必要であれば培地量を調整する。
【0047】
その後、MEAプローブPを用いて、細胞培養装置Cに培養した心筋細胞の細胞活動による細胞外電位を計測する。このように、細胞外電位計測補助装置100を配置することによって、細胞の活動を妨げることなく、細胞の運動を計測することができる。
【0048】
第3 実験例
細胞外電位計測補助装置100における第1階層部101として、直径1mmの円筒の貫通孔101cを、23個、形成した、8mm×8mm、厚さ1mm、重量40mgのPDMS製の角盤を用いた。
【0049】
また、細胞外電位計測補助装置100における第2階層部103として、外直径8mm、内直径5mmの金属製の円環盤で、重量100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mgの7種類を用いた。
【0050】
所定の心筋細胞を培養した細胞培養装置Cを、所定の培地を満たしたMEAプローブPの細胞配置空間PSに配置した。そして、細胞外電位計測補助装置100を用いないとき、第1階層部101のみを有する細胞外電位計測補助装置(総重量40mg)を用いたとき、重量100mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量140mg)を用いたとき、重量200mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量240mg)を用いたとき、重量300mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量340mg)を用いたとき、重量400mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量440mg)を用いたとき、重量500mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量540mg)を用いたとき、重量600mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量640mg)を用いたとき、重量700mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量740mg)を用いたとき、それぞれで細胞外電位を計測した。その結果を図7に示す。
【0051】
図7の結果から、重量500mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100を用いたとき、つまり、細胞外電位計測補助装置100の総重量が540mg以上からは、S/N比の改善の度合いが低下し、平衡状態となることが分かる。
【0052】
また、細胞外電位計測補助装置100を用いないときに細胞外電位を計測した結果を図8Aに示す。また、第1階層部101のみを有する細胞外電位計測補助装置(総重量40mg)を用いて細胞外電位を計測した結果を図8Bに示す。さらに、重量100mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量140mg)を用いて細胞外電位を計測した結果を図8Cに示す。さらに、重量700mgの第2階層部103を有する細胞外電位計測補助装置100(総重量740mg)を用いて細胞外電位を計測した結果を図8Dに示す。なお、各計測とも、計測時間は5分間とした。
【0053】
図8A図8B図8C、また、図8Dの実験結果から、各計測におけるS/N比は、順に、2.5、2.0、71、420となった。このことから、第2階層部103を用いて、心筋細胞にMEAプローブPの計測電極E1方向へ所定の圧力を加え、計測対象である心筋細胞の位置を固定し、また、計測対象である心筋細胞を計測電極E1に向かって押圧することによって、従来に比して、細胞活動によって生ずるシグナルの強度を大きくし、シグナル強度を改善し、結果として、細胞外電位計測の際のS/N比を改善できていることが分かる。つまり、細胞外電位計測補助装置100を用いることによって、細胞活動によって生ずるシグナル強度が弱い細胞であっても、細胞外電位を計測することができることが分かる。また、第2階層部103の重量を増加させることによって、飛躍的にS/N比を改善できることが分かる。
【0054】
なお、心筋細胞において計測する細胞外電位は、図9に示すように、心筋細胞の1回の拍動によって得られる電位変化である1シグナルの第1ピークにおいて得られる電位差V1を用いている。
【0055】
[その他の実施形態]
(1)第1階層部101の貫通孔101a:前述の実施例1においては、第1階層部101に、直径1mmの円筒の貫通孔101cを、23個、形成したが、第1階層部101の下面101aと上面101bとを接続するものであれば、例示のものに限定されない。例えば、図10図10おいて、Aは平面図、Bは図10AのX6-X6断面図を示す)に示す第1階層部201ように、8mm×8mmの角盤に、直径1.5mmの円筒の貫通孔201cを、18個、形成するようにしてもよい。
【0056】
ここで、第1階層部201及び第2階層部103を用いて形成した細胞外電位計測補助装置200を図11に示す。図1おいて、Aは平面図、Bは図11AのX7-X7断面図を示す。
【0057】
また、図12A~E(図12において、Aは平面図、Bは正面図、Cは右側面図、Dは図12AのX8-X8断面図、Eは図12AのX9-X9断面図を示す)に示す第1階層部301のように、側面301dを貫通し、下面301aと側面301dとを接続する貫通溝301c1、301c2を形成するようにしてもよい。第1階層部301は、上面301bに連通する貫通溝301c1、及び、下面301aに連通する貫通溝301c2を有している。貫通溝301c1、及び、貫通溝301c2は、上下に階層的に、また、互いが直交するように形成されている。
【0058】
これにより、貫通溝301c1と貫通溝301c2とを連通させることができる。また、第1階層部301を用いることによって、第1階層部301の上面301bから下面301aに培地を提供できると共に、側面301dから下面301aに培地を提供することができる。なお、第1階層部301は、PDMSにより形成することができる。
【0059】
(2)第1階層部101の形状:前述の実施例1においては、第1階層部101は、角盤形状としたが、その他の形状、例えば、円盤形状(図11参照)、楕円板形状、多角形盤形状であってもよい。
【0060】
(3)第1階層部101の材料:前述の実施例1においては、第1階層部101は、PDMSにより形成されているとしたが、可撓性、絶縁性を有するものであれば、例示のものに限定されない。例えば、PDMS以外のシリコン、ポリカーボネイト、その他のプラスチック材料であってもよい。
【0061】
また、計測対象である細胞の細胞活動により得られる電位、細胞の大きさ、厚さ、種類、重量に対する強さ等の条件から、可撓性が低く、絶縁性を有する材料、例えば、ポリカーボネイトにより、第1階層部を形成するようにしてもよい。
【0062】
(4)第1階層部101の位置:前述の実施例1においては、第1階層部101の下面101aが検知対象である細胞に接するとしたが、細胞側に位置するものであれば、例示のものに限定されない。例えば、細胞上に何らかのシート等の緩衝物を配置し、間接的に細胞を押圧するものであってもよい。
【0063】
(5)第2階層部103の貫通孔103c:前述の実施例1においては、第2階層部103は、中央に1つの貫通孔103cを有していたが、図13に示す第2階層部303のように、複数の貫通孔303cを形成するようにしてもよい。また、第2階層部303に形成する複数の貫通孔303cは、同一形状でなく、異なる形状であってもよい。
【0064】
なお、図12には、第2階層部303及び第1階層部301を用いて形成した細胞外電位計測補助装置300を示している。図13において、Aは平面図、Bは正面図、Cは右側面図、Dは図12AのX10-X10断面図、Eは図13AのX11-X11断面図を示す。
【0065】
また、図11に示す第1階層部301のように側面301dから培地を細胞に提供できるものであれば、第2階層部に貫通孔を形成しなくともよい。
【0066】
(6)第2階層部103の形状:前述の実施例1においては、第2階層部103は、円環盤形状としたが、その他の形状、例えば、円盤形状、楕円板形状、多角形盤形状であってもよい。
【0067】
(7)計測対象の細胞:前述の実施例1においては、検知対象である細胞として心筋細胞を用いたが、細胞外電位の計測に適するものであれば、例示のものに限定されない。例えば、神経細胞であってもよい。
【0068】
また、計測対象である細胞は、平面状シートに培養されたシングル細胞であってもよい。さらに、細胞培養シートCSに培養した細胞でなくとも、一般的な細胞シートに培養した細胞でもよい。さらに、細胞培養シートCSに平面状に培養した細胞でなくとも、3次元状に培養した細胞であってもよい。さらに、培養した細胞でなくとも、生物、例えば人から採取した組織切片であってもよい。
【0069】
(8)細胞培養装置Cの使用:前述の実施例1においては、計測対象である細胞を、細胞培養装置Cを用いて培養するとしたが、計測対象である細胞を培養できるものであれば、例示のものに限定されない。例えば、細胞培養用のディッシュ等、所定の容器に、直接細胞を培養するようにしてもよい。
【0070】
(9)MEAプローブPの使用:前述の実施例1においては、MEAプローブPを用いて細胞外電位を計測したが、細胞外電位を計測できる方法であれば、例示のものに限定されない。
【0071】
(10)細胞外電位:前述の実施例1においては、細胞外電位として、心筋細胞の1回の拍動によって得られる1シグナルの第1ピークにおいて得られる電位差V1を用いたが、計測できる細胞外電位であれば、例示のものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る細胞外電位計測補助装置は、例えば、培養した心筋細胞の細胞活動に基づく細胞外電位の計測に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
100 細胞外電位計測補助装置
101 第1階層部
101a 下面
101b 上面
101c 貫通孔
103 第2階層部
103a 下面
103b 上面
103c 貫通孔
C 細胞培養装置
P MEAプローブ
200 細胞外電位計測補助装置
201 第1階層部
203a 下面
303b 上面
403c 貫通孔
300 細胞外電位計測補助装置
301 第1階層部
301a 下面
301b 上面
301c 貫通孔
301d 側面
303 第2階層部
303a 下面
303b 上面
303c 貫通孔

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14