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特許7307478ダイレクトリプログラミングによる肝幹細胞又は肝前駆細胞の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】ダイレクトリプログラミングによる肝幹細胞又は肝前駆細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230705BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/63 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019551148
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039295
(87)【国際公開番号】W WO2019082874
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017204432
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、肝細胞誘導におけるダイレクトリプログラミング機構の解明とその応用委託研究及び、平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、感染症実用化研究事業(肝炎等克服実用化研究事業)「肝細胞直接誘導法による肝再生医療基盤の確立」委託研究産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳史
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527084(JP,A)
【文献】特表2017-511150(JP,A)
【文献】特開2016-010379(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052504(WO,A1)
【文献】Cell Stem Cell,2013年,13,p. 328-340
【文献】実験医学,2015年,Vol.33, No.2(増刊),p. 72(224)-79(231)
【文献】CHEMISTRY OF LIFE,2011年,31(3),p. 395-400
【文献】PNAS,2010年,Vol.107, No.32,p. 14152-14157
【文献】Cytotechnology,2016年,68,p. 2037-2047
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非肝幹細胞又は非肝前駆細胞に、以下の組合せを導入することを特徴とする、非肝幹細胞又は非肝前駆細胞から肝幹細胞又は肝前駆細胞への誘導方法:
(a)HNF1A、HNF6及びFOXAの組合せ、又は
(b)HNF1A遺伝子、HNF6遺伝子及びFOXA遺伝子の組合せ、
(但し、(a)は、HNF4Aを含む組合せを除き、(b)は、HNF4A遺伝子を含む組合せを除く。)
であって、非肝幹細胞又は非肝前駆細胞が、血管内皮細胞又は血液由来細胞であり、血管内皮細胞が臍帯静脈、末梢血又は臍帯血由来のものであり、血液由来細胞が末梢血T細胞又は臍帯血T細胞である、方法(但し、ヒトの体内で行う方法を除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって肝幹細胞又は肝前駆細胞を誘導する工程を含む、肝幹細胞又は肝前駆細胞の製造方法。
【請求項3】
FOXAがFOXA3である、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
さらに、MYC又はMYC遺伝子を導入する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
MYCがL-MYCである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載の方法により製造された、ヒト肝幹細胞又は肝前駆細胞。
【請求項7】
(a)請求項1に記載の方法によって肝幹細胞又は肝前駆細胞を誘導する工程、及び
(b)誘導した肝幹細胞又は肝前駆細胞を肝細胞又は胆管上皮細胞に分化させる工程
を含む、肝細胞又は胆管上皮細胞の製造方法(但し、ヒトの体内で行う方法を除く)。
【請求項8】
非肝幹細胞又は非肝前駆細胞に、以下の遺伝子の組合せを導入することを特徴とする、非肝幹細胞又は非肝前駆細胞から肝幹細胞又は肝前駆細胞への誘導方法に用いるための、ベクターを含む組成物又はベクターの組合せ:
(a)HNF1A遺伝子、HNF6遺伝子及びFOXA遺伝子の組合せ
(但し、HNF4A遺伝子を含む組合せを除く。)
であって、前記ベクター又はベクターの組合せは、(a)の遺伝子の組合せを同一の又は異なるベクターに含み、
非肝幹細胞又は非肝前駆細胞が、血管内皮細胞又は血液由来細胞であり、血管内皮細胞が臍帯静脈、末梢血又は臍帯血由来のものであり、血液由来細胞が末梢血T細胞又は臍帯血T細胞である、組成物又は組合せ。
【請求項9】
FOXAがFOXA3である、請求項8に記載の組成物又は組合せ。
【請求項10】
前記(a)の遺伝子の組合せが、さらにMYC遺伝子を含む、請求項8又は9に記載の組成物又は組合せ。
【請求項11】
MYCがL-MYCである、請求項10に記載の組成物又は組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞等に所定のリプログラミング因子を導入することにより、肝幹細胞又は肝前駆細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の遺伝子セットをヒト線維芽細胞に導入することにより肝細胞を作製する技術は、既に知られている。例えば、リプログラミング因子としてCEBPA、HNF4A、FOXA3、GATA4、HNF1Aなどを用いて、非肝細胞から誘導肝細胞を作製する方法が知られている(特許文献1:特表2015-527084号公報)。
また、マウス胚性線維芽細胞にHnf1β及びFoxa3を導入すると肝幹細胞にリプログラミングされること(非特許文献1)、FOXA3、HNF1A及びHNF4Aを発現させることにより、ヒト線維芽細胞から成熟肝細胞にリプログラミングする方法(非特許文献2)、HNF1A、HNF4A及びHNF6を、成熟因子であるATF5、PROX1及びCEBPAとともに過剰発現することにより、ヒト誘導肝細胞を作製する方法(非特許文献3)などが知られている。
しかしながら、従来法で誘導された肝細胞は増殖能に乏しく、また胆管上皮細胞にも分化できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-527084号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Bing Yu et al., Cell Stem Cell 13, 1-13, September 5, 2013
【文献】Pengyu Huang et al., Cell Stem Cell 14, 1-15, March 6, 2014
【文献】Yuanyuan Du et al., Cell Stem Cell 14, 1-10, March 6, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
増殖能を有し、かつ胆管上皮細胞に分化することができる肝幹細胞又は肝前駆細胞(以下、肝幹/肝前駆細胞という)を得ることができれば、当該細胞を培養することにより、目的の肝細胞や胆管上皮細胞を必要なだけ調達することができる。そこで、肝幹/肝前駆細胞を製造する方法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、所定遺伝子の組合せにより肝幹/肝前駆細胞を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)非肝幹細胞又は非肝前駆細胞に、以下の組合せを導入することを特徴とする、非肝幹細胞又は非肝前駆細胞から肝幹細胞又は肝前駆細胞への誘導方法:
(a)HNF1、HNF6及びFOXAの組合せ、
(b)HNF1遺伝子、HNF6遺伝子及びFOXA遺伝子の組合せ、
(c)HNF1、MYC及びFOXAの組合せ、又は
(d)HNF1遺伝子、MYC遺伝子及びFOXA遺伝子の組合せ。
(2)(1)に記載の方法によって肝幹細胞又は肝前駆細胞を誘導する工程を含む、肝幹細胞又は肝前駆細胞の製造方法。
(3)HNF1がHNF1Aである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)FOXAがFOXA3である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)組合せが(a)又は(b)であって、さらに、MYC又はMYC遺伝子を導入する、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)MYCがL-MYCである、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)非肝幹細胞又は非肝前駆細胞が、血管内皮細胞又は血液由来細胞である、(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)血管内皮細胞が臍帯静脈、末梢血又は臍帯血由来のものである(7)に記載の方法。
(9)血液由来細胞が末梢血T細胞又は臍帯血T細胞である(7)に記載の方法。
(10)(2)~(9)のいずれか1項に記載の方法により製造された、肝幹細胞又は肝前駆細胞。
(11)(a)(1)に記載の方法によって肝幹細胞又は肝前駆細胞を誘導する工程、及び
(b)誘導した肝幹細胞又は肝前駆細胞を肝細胞又は胆管上皮細胞に分化させる工程
を含む、肝細胞又は胆管上皮細胞の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、肝幹細胞及び肝前駆細胞以外の細胞、すなわち非肝幹細胞又は非肝前駆細胞(以下、「非肝幹/非肝前駆細胞」という)から、肝幹/肝前駆細胞への誘導方法(リプログラミング方法)、及び肝幹/肝前駆細胞の製造方法が提供される。本発明によれば、血管内皮細胞等の非肝幹/非肝前駆細胞から肝幹/肝前駆細胞に直接転換させることができる。誘導された肝幹/肝前駆細胞は、長期増殖能を有し、肝細胞や胆管上皮細胞に分化することが可能である。さらに、血管内皮細胞は胎児性のものだけでなく、成人末梢血中のものでも肝幹/肝前駆細胞に誘導することができる。従って、末梢血由来肝幹/肝前駆細胞を用いた肝機能検査や薬剤スクリーニングも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ヒト誘導肝前駆細胞(human induced hepatic progenitor cell: hiHepPC)を誘導する特定因子の同定を示す図である。
図2】hiHepPCから肝細胞様細胞への分化を示す図である。
図3】hiHepPCから分化した肝細胞様細胞の機能解析と遺伝子発現解析結果を示す図である。
図4】hiHepPCの移植による肝臓組織の再構築法を示す図である。
図5】hiHepPCから胆管上皮細胞様細胞への分化を示す図である。
図6】HUVEC由来hiHepPCのクローン解析による増殖能と分化能の解析結果を示す図である。
図7】L-MYCの追加によりhiHepPCの誘導時間が短縮されることを示す図である。
図8】ヒト末梢血由来血管内皮細胞(human peripheral blood-derived endothelial cell: HPBEC)からのhiHepPC誘導を示す図である。
図9】HPBEC由来4F-hiHepPCのクローン解析による増殖能と分化能の解析結果を示す図である。
図10】hiHepPC誘導因子の1つであるFOXA3をFOXA1及びFOXA2に置き換えたときの解析結果を示す図である。
図11】ヒト末梢血由来T細胞(human peripheral blood-derived T cell: HPBTC)からのhiHepPC誘導を示す図である。
図12】本発明の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、非肝幹/非肝前駆細胞に、HNF1A、HNF6及びFOXAのリプログラミング因子の組合せ、当該因子をコードする遺伝子の組合せ、HNF1A、MYC及びFOXAのリプログラミング因子の組合せ、又は当該因子をコードする遺伝子の組合せを導入することを特徴とする、非肝幹/非肝前駆細胞から肝幹/肝前駆細胞への誘導方法に関する。本発明は、既に分化した細胞に誘導するのではなく、非肝幹/非肝前駆細胞から、その起源となる肝幹/肝前駆細胞に誘導させることを特徴とし、上記リプログラミング因子の組合せを用いる。
【0011】
1.非肝幹/非肝前駆細胞
本発明において、使用の対象となる非肝幹/非肝前駆細胞は、目的とする肝幹/肝前駆細胞以外の細胞を意味する。非肝幹/非肝前駆細胞としては、例えば線維芽細胞、内皮細胞、血液細胞、臍帯血細胞、骨髄細胞、ケラチノサイト、肝細胞、胆管上皮細胞、筋線維芽細胞、神経系細胞、上皮系細胞などが挙げられる。本発明においては、例えば血管内皮細胞又は血液由来細胞を使用することができる。血管内皮細胞としては、臍帯静脈、末梢血又は臍帯血由来のものが挙げられ、血液由来細胞としては、末梢血細胞又は臍帯血細胞(例えば末梢血T細胞又は臍帯血T細胞)が挙げられる。本発明において用いられる非肝幹/非肝前駆細胞は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ヒトなどの哺乳動物由来の細胞である。本発明の一つの態様において、用いられる非肝幹/非肝前駆細胞はヒト由来の細胞である。
【0012】
2.リプログラミング因子
「リプログラミング」とは、細胞の分化状態を当該細胞とは異なる分化状態又は未分化状態に変更するプロセスである。本発明においては、上記非肝幹/非肝前駆細胞を、肝幹/肝前駆細胞に誘導する。本発明では、多能性幹細胞を経由せずに非肝幹/非肝前駆細胞から肝幹/肝前駆細胞に誘導させることができる。このようなリプログラミングに用いる因子(リプログラミング因子)は、以下の組合せである:
(a)HNF1、HNF6及びFOXAの組合せ、
(b)HNF1遺伝子、HNF6遺伝子及びFOXA遺伝子の組合せ、
(c)HNF1、MYC及びFOXAの組合せ、又は
(d)HNF1遺伝子、MYC遺伝子及びFOXA遺伝子の組合せ。
【0013】
HNF1(Hepatocyte Nuclear Factor 1)は、ホメオドメインを持つタンパク質であり、HNF1A及びHNF1Bの2種類のアイソフォームがある。
HNF6(Hepatocyte Nuclear Factor 6)は、ヒトの組織発生に関わるホメオドメイン型転写因子であり、膵臓や肝臓など多様な組織の発生を制御するとともに、種々の肝遺伝子の発現制御を行う。
【0014】
FOXAは、肝組織形成の最も初期の過程に必要とされる肝細胞核因子(転写因子)であり、FOXA1、FOXA2、FOXA3が含まれる。これらのFOXA転写因子は、共通するforkhead/wingedhelixドメインにおいてアミノ酸レベルで90%以上のホモロジーを持つことから、互いに機能相補性を有すると考えられる。
【0015】
また、本発明においては、上記リプログラミング因子の組合せが(a)又は(b)である場合に、さらにL-MYCを組み合わせることができる。
MYCファミリー遺伝子は、核内DNAに結合して働く転写因子として知られており、ヒトでは、c-MYC、L-MYC及びN-MYCがある。本発明では、これらのいずれも使用することができる。
【0016】
上記リプログラミング因子のアミノ酸配列、及びこれらの因子をコードする遺伝子の塩基配列を表1に示す。
【表1】
これらの因子をコードする遺伝子の一部は、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual (4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等を参照してクローニングすることができ、あるいは、addgene等から入手することも可能である。
本明細書において、HNF1Aをコードする遺伝子を「HNF1A遺伝子」、HNF6をコードする遺伝子を「HNF6遺伝子」という。他の因子をコードする遺伝子についても、上記と同様に表示する。
【0017】
本発明の一態様では、例えば以下の組合せのリプログラミング因子、又はこれらの因子をコードする遺伝子のセットを使用することができる。
・NF1A、HNF6及びFOXA3
・NF1A、L-MYC及びFOXA3
・NF1A、HNF6、FOXA3及びL-MYC
【0018】
本発明において使用されるリプログラミング因子(遺伝子又はタンパク質)は、表1に示す配列番号で表される塩基配列及びアミノ酸配列に限らず、以下に示す変異型も、本発明におけるリプログラミング因子の機能を有する限り含めることができる。
(a) 表1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個(例えば10個以下、5個以下、4個以下、3個以下又は2個)のアミノ酸が、欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、それぞれのリプログラミング因子が有する本発明におけるリプログラミング因子としての機能を有するタンパク質
(b) 表1に示されるアミノ酸配列に対して80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、それぞれのリプログラミング因子が有する本発明におけるリプログラミング因子としての機能を有するタンパク質
(c) 上記(a)のタンパク質をコードする核酸
(d) 上記(b)のタンパク質をコードする核酸
(e) 表1に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、それぞれのリプログラミング因子が有する本発明におけるリプログラミング因子としての機能を有するタンパク質をコードする核酸
【0019】
本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するDNA及び/又はRNAが効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、DNA及び/又はRNAの濃度、DNA及び/又はRNAの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0020】
3.細胞へのリプログラミング因子の導入
宿主細胞である非肝幹/非肝前駆細胞にリプログラミング因子を導入するために、リプログラミング因子をコードする遺伝子を同一の又は異なるベクターに組み込んだ組換えベクターを構築してもよい。本発明において、ベクターは、挿入セグメントの複製をもたらすために挿入され得るレプリコンを使用することができる。ベクターは、1つ以上の発現制御配列を作動可能に連結させた発現ベクターとしてもよく、リプログラミング因子以外の他のDNA配列の転写及び/又は翻訳を制御するDNAを含めることができる。発現制御配列の例としては、プロモーター、エンハンサー、転写終結領域等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、リプログラミング因子をコードする遺伝子は、導入する遺伝子セットの全てを1つのベクターに連結してもよく、1つの遺伝子ごとに別々のベクターに連結してもよい。また、1つのベクターに一部の遺伝子を連結し、他のベクターに残りの遺伝子を連結することも可能である。
【0022】
本発明において使用可能な発現ベクターとしては、プラスミド、バクテリオファージのほか、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス等に由来するウイルスベクターなどが挙げられる。発現ベクターを非肝幹/非肝前駆細胞に導入する方法は特に限定はされず、それぞれのリプログラミング因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを細胞に感染させる方法が挙げられるが、これ以外にも、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法などを採用することができる。ウイルスベクターを細胞に感染させるときのベクターの用量は適宜調製することができる。
【0023】
本発明の非肝幹/非肝前駆細胞から肝幹/肝前駆細胞への誘導方法は、in vitroで行ってもよく、in vivoで行ってもよい。in vitroで行う場合、発現ベクターを非肝幹/非肝前駆細胞に導入して形質転換体を得た後は、所定期間培養してもよい。培養は、動物細胞の培養に用いられる培地を用いて行い、その後必要により継代を繰り返すことにより、肝幹/肝前駆細胞にリプログラミングすることができる。
in vivoで行う場合は、発現ベクターを既知の導入手法を用いて、例えば動物の皮膚組織や血管内、腹腔内から非肝幹/非肝前駆細胞に導入し、形質転換体を得てもよい。その後、動物組織中、又は動物組織より回収した細胞中において、肝幹/肝前駆細胞にリプログラミングした細胞を確認することができる。
得られた細胞が肝幹/肝前駆細胞にリプログラミングされたか否かは、これらの細胞に発現するマーカーにより確認することができる。マーカーとしては、例えばアルブミン、α-フェトプロテイン、E-カドヘリンなどが挙げられる。
また、本発明においては、下記因子のポリペプチドを直接細胞に導入することも可能である。
・HNF1A、HNF6及びFOXA3
・HNF1A、L-MYC及びFOXA3
・HNF1A、HNF6、FOXA3及びL-MYC
上記因子は、遺伝子工学的に製造することができ(例えば「Molecular Cloning, A Laboratory Manual (4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)を参照)、得られたポリペプチドの細胞内への導入は、膜透過性ペプチド等に連結して細胞内に導入する方法、陽イオン性脂質を用いて細胞内に導入する方法などを採用することができ、細胞内導入試薬も市販されている(PULSin(PPU 社) 、Prote-IN(HYG 社)、BioPORTER Protein Delivery Reagent(GTS 社)等)。
【0024】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(1)ヒト誘導肝前駆細胞(human induced hepatic progenitor cell: hiHepPC)を誘導する特定因子の同定
hiHepPC誘導実験の概略図を図1Aに示す。
市販のヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell: HUVEC)に対し、レトロウイルス感染によりレトロウイルスベクター(遺伝子発現ベクター)を導入した。その間、HUVECはMedium 200とFibrolife serum-free cell culture mediumを1:1で混合した培地(HUVEC medium)で培養した。ウイルス感染後、2日間Hepato-medium(DMEMとF12の1:1混合培地に4%ウシ胎児血清、1 μg/ml インスリン、10-7M デキサメタゾン、10 mM ニコチンアミド、2 mM L-グルタミン、50 μM β-メルカプトエタノール、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したもの)に20% Fibrolife 血清フリー細胞培養培地、20 ng/ml HGF、1 μM A83-01、2 μM SB43852、5 μM Y27632を添加した培地(Hepato-medium (plus))で培養し、その後はHepato-medium (plus)にて細胞の継代を行いながら、随時解析を行った。
【0026】
HUVECに対し、空ベクター(mock)、HNF4AとFOXA3の組み合わせ(H4A/F3)、HNF4AとFOXA3、HNF1A、HNF6の組み合わせ(H4A/F3/H1A/H6)、HNF4AとFOXA3、HNF1Aの組み合わせ(H4A/F3/H1A)、HNF4AとFOXA3、HNF6の組み合わせ(H4A/F3/H6)、HNF4AとHNF1A、HNF6の組み合わせ(H4A/H1A/H6)、HNF4AとHNF1A、HNF6、ATF5、PROX1、CEBPAの組み合わせ(H4A/H1A/H6+APC)、FOXA3とHNF1A、HNF6の組み合わせ(F3/H1A/H6)のそれぞれを導入し、1~6回目の継代(P)ごとにALBUMIN(ALB)の免疫染色とALB陽性細胞数の計測を行った。また、P6においてはE-CADHERIN(E-CAD)の免疫染色も行った。
【0027】
結果を図1Bに示す。
ALBは肝前駆細胞や肝細胞で発現するマーカーであり、E-CADは上皮細胞のマーカーである。ALB及びE-CADの免疫染色、細胞の位相差写真(Phase)、並びにALB陽性細胞の割合のグラフから、F3/H1A/H6を導入した場合において、増殖能をもった肝前駆細胞様の細胞が誘導されることがわかる。
【0028】
図1Bにおいて、グラフ中のPHはparental HUVECを、PNはpassage number(継代数)を表す。独立した2回の実験を行い、それぞれの結果をグラフ上の青線と赤線で示す。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
また、F3/H1A/H6の遺伝子セットをHUVECに導入してhiHepPC を誘導する実験を3回独立して行った。
【0029】
結果を図1Cに示す。それぞれの実験で得たhiHepPC(hiHepPC-1、hiHepPC-2、hiHepPC-3)が16回の継代の中で増殖した細胞数を表す。hiHepPCは増殖を続けるが、HUVECは継代途中で増殖を停止する。
さらに、12回目の継代時におけるhiHepPCの染色体解析を行った結果を図1Dに示す。20個の細胞を解析したが、それらすべてにおいて染色体数は正常であった。
【0030】
(2)hiHepPCから肝細胞様細胞への分化
HUVEC由来hiHepPCについて、継代(P)1~6回目のそれぞれでALBとα-フェトプロテイン(AFP)の共免疫染色を行い、ALB陽性細胞中のAFP陽性率を算出した。
【0031】
結果を図2に示す。
パネルAにおいて、hiHepPC誘導の初期過程では、肝前駆細胞の特徴であるALB及びAFP共陽性細胞の割合が多いが、継代を重ねることで肝細胞の特徴であるALB単独陽性細胞の割合が増加する。この結果から、HUVECはまずhiHepPCに変化し、その後hiHepPCから肝細胞様細胞が分化してくると考えられる。グラフは、独立した3回の実験で作製したhiHepPCの解析で得たデータの平均値±標準偏差(n=3)を表す。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0032】
また、パネルBに関し、HUVEC由来hiHepPCから分化した肝細胞様細胞は、ALBだけでなく、肝細胞マーカーであるAATやASGPR1、CYP3A4も発現している。一方、HUVECは血管内皮細胞マーカーのCD31を発現するが、肝細胞マーカーの発現はすべて陰性である。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0033】
(3)hiHepPCから分化した肝細胞様細胞の機能解析と遺伝子発現解析
hiHepPCから分化した肝細胞様細胞の機能解析と遺伝子発現解析結果を図3に示す。
パネルAでは、HUVEC由来hiHepPCから分化した肝細胞様細胞は、肝細胞と同様にグリコーゲンの蓄積、脂質合成、及びインドシアニングリーン(ICG)の取込みと放出を行うことができることが示される。スケールバー:50μm。
【0034】
パネルBは、HUVEC由来hiHepPCから分化した肝細胞様細胞が、アルブミンの分泌、尿素合成、及びシトクロムP450活性能を有することを示す。独立した3回の実験で作製したhiHepPC(hiHepPC-1、hiHepPC-2、hiHepPC-3)を解析に用いた。ヒト肝がん由来細胞株であるHepG2をポジティブコントロールとした。グラフは、平均値±標準偏差(n=3)を表す。
【0035】
パネルCは、HUVEC由来hiHepPCから分化した肝細胞様細胞が、肝細胞毒性を有する薬剤(acetaminofen、amiodarone、dicrofenac)に反応し、細胞死を起こすことを示す。独立した3回の実験で作製したhiHepPC(hiHepPC-1、hiHepPC-2、hiHepPC-3)を解析に用いた。グラフは、平均値±標準偏差(n=3)を表す。*P < 0.05、**P < 0.01
【0036】
パネルDは、3つのHUVEC(HUVEC-1、HUVEC-2、HUVEC-3)と3つのhiHepPC(hiHepPC-1、hiHepPC-2、hiHepPC-3)の遺伝子発現をmRNA-seqによって解析した結果を示す。公共データからヒト肝細胞の遺伝子発現プロファイルを取得し、このプロファイルについて、HUVEC及びhiHepPCのデータと合わせて解析を行った。上段のヒートマップはクラスタリング解析結果を示しており、hiHepPCはヒト肝細胞の遺伝子発現パターンに近いがHUVECとは大きく異なることが示されている。また、下段のヒートマップでは、脂肪酸代謝やコレステロール代謝、グルコース代謝、及び薬物又は異物代謝に関連する遺伝子の発現パターンが示されており、hiHepPCから分化した肝細胞様細胞が様々な肝機能遺伝子を発現していることがわかる。
【0037】
(4)hiHepPCの移植による肝臓組織の再構築
まず、3週令の免疫不全マウス(NSGマウス)が7週令になるまで、レトロルシンを週に1回、計5回投与した。続いて、最後のレトロルシン投与から1週間後、当該マウスに四塩化炭素(CCl4)を1回投与し、肝障害を誘導した。そして、その次の日に1 x 107個のHUVEC由来hiHepPCを脾臓から門脈経由で肝臓に移植した。移植後2ヶ月が経った後、肝臓と血清の解析を行った。
【0038】
結果を図4に示す。
パネルAは、hiHepPC移植実験の概略図を示す。
パネルBは、hiHepPC移植後のマウス血清中に存在するヒトアルブミン濃度を示し、また、hiHepPCを移植した5匹のマウスについて、それらの解析結果を示す。ネガティブコントロールとして、移植なしのNSGマウスの血清、並びにHUVECを移植したNSGマウスの血清の解析結果を示す。TPはtransplantationを表す。グラフは、平均値±標準偏差(n=2)を表す。
【0039】
パネルCは、HUVEC又はhiHepPCを移植したマウスの肝臓組織をヒトAATに対する抗体で免疫染色した結果である。hiHepPCを移植したマウス肝臓では、hiHepPC由来肝細胞様細胞による肝臓組織の再構築が観察される。TPはtransplantationを表す。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:100μm。
【0040】
(5)hiHepPCから胆管上皮細胞様細胞への分化
図5は、hiHepPCから胆管上皮細胞様細胞への分化を示す。
パネルAは、HUVEC及びHUVEC由来hiHepPCをマトリゲル内で1週間三次元培養すると、hiHepPCのみが上皮管腔構造をもった球状組織(スフェロイド)を形成することを示す。これらスフェロイドは継代(P)することも可能である。スケールバー:100μm。
【0041】
パネルBは、HUVEC由来hiHepPCから形成されたスフェロイドが、極性(E-CAD、EZRIN、ZO-1、Phalloidinの局所的発現パターン)を有し、胆管上皮細胞マーカー(CK19、SOX9、HNF1B、CFTR、EpCAM、α-TUBULIN)を発現する上皮細胞によって形成されていることを示す。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0042】
パネルCは、HUVEC由来hiHepPCから形成されたスフェロイドが、胆管と同様に蛍光色素(ローダミン)を取り込むことを示す。Verapamil添加によって取り込みが阻害されることから、この取り込みはトランスポーターを介することがわかる。スケールバー:50μm。
【0043】
パネルDは、HUVEC由来hiHepPCから形成されたスフェロイドの電顕写真を示す。内腔側に微絨毛を有し、細胞間はタイトジャンクション(図中の矢頭)によって結合している。スケールバー:10μm(左図)、500nm(右図)。
【0044】
(6)HUVEC由来hiHepPCのクローン解析による増殖能と分化能の解析
独立した3回の実験で作製したhiHepPC(hiHepPC-1、hiHepPC-2、hiHepPC-3)のそれぞれについて、フローサイトメトリー(FACS)によるクローンソーティングを行い、96ウェル培養プレートの各ウェルに1つずつ細胞を播種し、1細胞培養を行った。その後、1細胞(hiHepPCクローン)から増殖した細胞について解析を行った。
【0045】
この解析手法を図6Aに、解析結果を図6B~Dに示す。
パネルBでは、hiHepPC-1、hiHepPC-2及びhiHepPC-3のそれぞれについて、1細胞培養の結果形成されるコロニーの割合(それぞれ570ウェル当たり)、及び、その後増殖を続けるクローンの割合(それぞれ570ウェル当たり)を左図、右図のそれぞれのグラフで示す。
【0046】
パネルCは、増殖したhiHepPCクローンについて、細胞の位相差像(Phase)並びにALB及びE-CADの共免疫染色像を示す。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。パネルDは、増殖したhiHepPCクローンをマトリゲル内で三次元培養すると胆管上皮細胞様細胞に分化し、上皮管腔構造をもったスフェロイドを形成することを示す。スケールバー:50μm。
【0047】
(7)L-MYCの追加によるhiHepPCの誘導時間の短縮
HUVECに対し、FOXA3、HNF1A及びHNF6に加え、L-MYCも同時に導入し、解析を行った。
【0048】
結果を図7に示す。
パネルAでは、1~6回目の継代(P)ごとにALBの免疫染色を行い、P6においてはE-CADの免疫染色と位相差写真(Phase)の撮影も行った。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
パネルBは、HUVECにF3/H1A/H6+L-MYCの組み合わせを導入後、1~6回目の継代ごとにALB陽性細胞数の計測を行い、ALB陽性細胞の割合をグラフ化した結果を示す。グラフ中のPHはparental HUVECを、PNはpassage number(継代数)を表す。独立した2回の実験を行い、それぞれの結果をグラフ上の青線と赤線で示す。F3/H1A/H6+L-MYCの組み合わせでは、F3/H1A/H6の組み合わせ(図1B参照)よりも早くALB陽性細胞が誘導される。
【0049】
(8)ヒト末梢血由来血管内皮細胞(human peripheral blood-derived endothelial cell: HPBEC)からのhiHepPC誘導
HPBECからhiHepPCを誘導する実験の概略図を図8Aに示す。まず、健常人ボランティアから採取した末梢血から単核細胞を分離し、HPBEC medium(EGMTM-2MV BulletKitTM Mediumに20%ウシ胎児血清を添加したもの)で培養してHPBECを得た。次に、HPBECに対し、レトロウイルス感染によりF3/H1A/H6の組み合わせ(3F)又はF3/H1A/H6+L-MYCの組み合わせ(4F)を導入した。ウイルス感染後、HPBEC mediumとHepato-medium (plus)との1:1混合培地で2日間培養した。続いてHepato-medium (plus)にて43日間そのまま培養し、その後は細胞の継代を行いながら、随時解析を行った。
【0050】
結果を図8B~Eに示す。
パネルBは、ウイルス感染を行っていないHPBEC、及び3F又は4Fを導入したHPBEC(ウイルス感染後45日目)の位相差像(Phase)、並びにALB免疫染色像を示す(注:それぞれの写真は同一視野ではない)。点線で囲われている細胞群が誘導したhiHepPC(3F又は4Fで誘導したhiHepPCを、それぞれ3F-hiHepPC、4F-hiHepPCと表記する)である。右のグラフは、ウイルス感染を行っていないHPBEC、及び3F又は4Fを導入したHPBEC(ウイルス感染後45日目と継代(P)3回目)で観察されるALB陽性細胞の割合を示す。健常人2名の末梢血を使って独立した実験を行い、それぞれの結果をグラフ上の青バーと赤バーで示した。スケールバー:100μm。
【0051】
パネルCでは、HPBEC から誘導した3F-hiHepPCと4F-hiHepPCは共に一部の細胞がAFP陽性であるが、3F-hiHepPCと4F-hiHepPCから分化した肝細胞様細胞は、ALBだけでなく、肝細胞マーカーであるAAT、ASGPR1及びCYP3A4を発現していることが示される。また、3F-hiHepPCと4F-hiHepPCから分化した肝細胞様細胞は、肝細胞と同様にグリコーゲンの蓄積や脂質合成、インドシアニングリーン(ICG)の取込みと放出を行うことができる。さらに、3F-hiHepPCと4F-hiHepPCをマトリゲル内で三次元培養すると胆管上皮細胞様細胞に分化し、上皮管腔構造をもったスフェロイドを形成する。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0052】
パネルDでは、3F-hiHepPCと4F-hiHepPCから分化した肝細胞様細胞が、アルブミンの分泌、尿素合成及びシトクロムP450活性能を有することが示される。健常人2名の末梢血を使って作製した3F-hiHepPC(3F-hiHepPC-1、3F-hiHepPC-2)と4F-hiHepPC(4F-hiHepPC-1、4F-hiHepPC-2)を解析に用いた。ヒト肝がん由来細胞株であるHepG2をポジティブコントロールとした。グラフは、平均値±標準偏差(n=3)を表す。
【0053】
パネルEは、3F-hiHepPCと4F-hiHepPCから分化した肝細胞様細胞が、肝細胞毒性を有する薬剤(acetaminofen、amiodarone、dicrofenac)に反応し、細胞死を起こすことを示す。健常人2名の末梢血を使って作製した3F-hiHepPC(3F-hiHepPC-1、3F-hiHepPC-2)と4FhiHepPC(4F-hiHepPC-1、4F-hiHepPC-2)を解析に用いた。グラフは、平均値±標準偏差(n=3)を表す。*P < 0.05、**P < 0.01
【0054】
(9)HPBEC由来4F-hiHepPCのクローン解析による増殖能と分化能の解析
細胞のクローン解析手法及び結果を図9に示す。
パネルAにおいて、点線で囲われたHPBEC由来4F-hiHepPCのコロニーをピックアップし、細胞を分散させた上で96ウェル培養プレートの各ウェルに1つずつ細胞を播種し、1細胞培養を行った。その後、1細胞(4F-hiHepPCクローン)から増殖した細胞について解析を行った。スケールバー:100μm。
【0055】
パネルBは、左から、96ウェル培養プレートの1ウェルに播種した1細胞(4F-hiHepPCクローン)の位相差像(Phase)、1細胞から増殖した細胞の位相差像(Phase)、増殖した細胞のALB及びE-CAD共免疫染色像、増殖した細胞から分化した胆管上皮細胞様細胞が三次元培養下で形成する上皮管腔構造をもったスフェロイドを示す。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0056】
(10)FOXA1及びFOXA2を用いた実験
図10は、hiHepPC誘導因子の1つであるFOXA3が、FOXA1やFOXA2に置き換えることができることを示す。
パネルAでは、FOXA1、HNF1A及びHNF6の組み合わせでHUVECから誘導したhiHepPC (FOXA1)、並びにFOXA2、HNF1A及びHNF6の組み合わせでHUVECから誘導したhiHepPC (FOXA2)が、どちらもFOXA3、HNF1A及びHNF6の組み合わせで誘導したhiHepPCと同様に上皮細胞形態を有し、血管内皮細胞マーカーであるCD31は発現せず、一部の細胞はAFP陽性であることが示される。一方で、hiHepPC (FOXA1)とhiHepPC (FOXA2)から分化した肝細胞様細胞は、ALBだけでなく、肝細胞マーカーであるAAT、ASGPR1及びCYP3A4を発現している。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0057】
パネルBでは、HUVEC 由来のhiHepPC (FOXA1)とhiHepPC (FOXA2)から分化した肝細胞様細胞が、肝細胞と同様にグリコーゲンの蓄積、脂質合成、並びにインドシアニングリーン(ICG)の取込み及び放出を行うことができることを示す。さらに、hiHepPC (FOXA1)とhiHepPC (FOXA2)をマトリゲル内で三次元培養すると胆管上皮細胞様細胞に分化し、上皮管腔構造をもったスフェロイドを形成する。スケールバー:50μm。
【0058】
(11)ヒト末梢血由来T細胞(human peripheral blood-derived T cell: HPBTC)からのhiHepPC誘導
ヒト末梢血から単核細胞を分離後、T細胞培地(HPBEC mediumとFibrolife serum-free cell culture mediumの1:1混合培地に10 ng/ml rIL-2、0.05 pl/cell Dynabeads HumanT-Activator CD3/CD28を添加したもの)で培養し、T細胞の増殖を促進させた。
【0059】
結果を図11に示す。
パネルAの写真は、hiHepPC誘導前のHPBTC位相差像(Phase)を示す。スケールバー:50μm。
パネルBは、HPBTCにF3/H1A/H6の組み合わせ(3F)、又はF3/H1A/H6+L-MYCの組み合わせ(4F)を導入して作製した3F-hiHepPC及び4F-hiHepPCの位相差像(Phase)、並びにALB及びE-CAD共免疫染色像である。細胞のDNAはDAPI(青色)で染色した。スケールバー:50μm。
【0060】
以上の実施例により、HUVEC、HPBEC又はHPBTCに、FOXA3、HNF1A及びHNF6の組み合わせ(必要に応じてL-MYCを追加)を導入することにより、増殖能を有し、肝細胞様細胞と胆管上皮細胞様細胞に分化できるhiHepPCを誘導(ダイレクトリプログラミング)できることが明らかとなった。本実施例のまとめを図12に示す。
【0061】
同様にして、ヒト線維芽細胞を肝細胞様細胞と胆管上皮細胞様細胞に分化させることに成功した。また、同様にして、ヒト臍帯血T細胞を肝細胞様細胞と胆管上皮細胞様細胞に分化させることに成功した。
【0062】
さらに、ヒト臍帯血T細胞に、FOXA3、HNF1A及びL-MYCの組み合わせを導入することにより、ヒト臍帯血T細胞を肝細胞様細胞と胆管上皮細胞様細胞に分化させることに成功した。
【配列表フリーテキスト】
【0063】
配列番号12:XaaはSer又はThrを表す(存在位置:362)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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