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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】IgA腎症診断用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230705BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230705BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20230705BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
C12N15/12
C07K14/78
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019554311
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2018042488
(87)【国際公開番号】W WO2019098328
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017222216
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)掲載ウェブサイトのアドレス:http://jsn60.umin.jp/application.html、https://endai.umin.ac.jp/cgi-open-bin/hanyou/lookup/detail.cgi?cond=%27A00018-00058-20865%27&&&parm=a00018-00058、掲載日:平成29年5月19日、(2)集会名:第60回日本腎臓学会学術総会、開催場所:仙台国際センター(仙台市青葉区青葉山無番地)、開催日:平成29年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊也
(72)【発明者】
【氏名】栗林 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】戸田 年総
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-163151(JP,A)
【文献】栗林(大熊)恵美子、他6名,プロテオミクスを用いたIgA腎症に対する扁桃摘出術の有用性の検討,日本プロテオーム学会2016年大会,日本,2016年,Page.162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12N 15/12
C07K 14/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トビメンチンの部分ペプチドを含むIgA腎症診断用キットであって、
前記部分ペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み、且つ22~30アミノ酸長である
IgA腎症診断用キット。
【請求項2】
さらに、免疫グロブリンに対する特異的結合物質を含む、請求項1に記載のIgA腎症診断用キット。
【請求項3】
前記免疫グロブリンがIgAである、請求項2に記載のIgA腎症診断用キット。
【請求項4】
トビメンチンの部分ペプチドを含むIgA腎症診断薬であって、
前記部分ペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み、且つ22~30アミノ酸長である
IgA腎症診断薬。
【請求項5】
対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法であって、前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a1)を含み、
前記工程(a1)が、
(i-1)前記対象の血液試料を、ヒトビメンチンの部分ペプチドと接触させること;及び
(ii-1)前記部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、
を含
前記部分ペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み、且つ22~30アミノ酸長である、
方法。
【請求項6】
前記抗ビメンチン抗体がIgAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗ビメンチン抗体の前記抗体価の測定をELISA法により行う、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法としての扁桃摘出の効果を評価するためのデータを収集する方法であって、
扁桃摘出行う前の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a2)と、
前記扁桃摘出行った後の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(b2)と、を含み、
前記工程(a2)が、
(i-2)前記扁桃摘出行う前の前記対象の血液試料を、ヒトビメンチンの部分ペプチドと接触させること;及び(ii-2)前記(i-2)において前記部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含み、
前記工程(b2)が、
(iii-2)前記扁桃摘出行った後の前記対象の血液試料を、前記部分ペプチドと接触させること;及び(iv-2)前記(iii-2)において前記部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含
前記部分ペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み、且つ22~30アミノ酸長である、
方法。
【請求項9】
前記抗ビメンチン抗体がIgAである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗ビメンチン抗体の前記抗体価の測定を、ELISA法により行う、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
腎症の疑いのある対象の血液試料から、IgA腎症を有する対象の血液試料を特定する方法であって、前記腎症の疑いのある対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a3)を含み、
前記工程(a3)が、
(i-3)前記腎症の疑いのある対象の血液試料を、ヒトビメンチンの部分ペプチドと接触させること;及び
(ii-3)前記部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、
を含
前記部分ペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み、且つ22~30アミノ酸長である、
方法。
【請求項12】
前記抗ビメンチン抗体がIgAである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗ビメンチン抗体の前記抗体価の測定を、ELISA法により行う、請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、IgA腎症診断用キット、及びIgA腎症診断薬に関する。また、対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法、及びIgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療の効果を評価するためのデータを収集する方法に関する。
本願は、2017年11月17日に、日本に出願された特願2017-222216号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
IgA腎症は慢性糸球体腎炎のなかで最も頻度が高く、最終的にはその20~40%が末期腎不全に至る難治性の疾患である。IgA腎症では、IgA1を主体とする免疫複合体が腎糸球体のメサンギウム領域に沈着することが知られているが、その詳細はいまだ不明である。
IgA腎症に対する治療法の一つとして、扁桃摘出とステロイド(パルス及び経口)療法とを組み合わせた治療法が近年普及している。扁桃摘出により、病態が軽減することが知られているが、その機序についてはほとんど解明されていない。
【0003】
IgA腎症の確定診断は、現在、腎生検により腎皮質標本の採取後に、顕微鏡下の糸球体病変の観察により行われている(非特許文献1)。しかし、腎生検はきわめて侵襲性が高く、患者に対する負担が大きい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】IgA腎症診療指針-第3版-、日腎会誌2011:53(2):123-135.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、腎生検は侵襲性が高いため、非侵襲的方法で採取された検体からIgA腎症の診断に有用なデータを収集することが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、非侵襲的な手法により、IgA腎症の診断又は治療効果の評価が可能なIgA腎症診断用キット、及びIgA腎症診断薬、並びにこれらを用いたIgA腎症の診断又は治療効果の評価等に有用なデータを収集する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]ビメンチン又はその部分ペプチドを含む、IgA腎症診断用キット。
[2]前記部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、[1]に記載のIgA腎症診断用キット。
[3]さらに、免疫グロブリンに対する特異的結合物質を含む、[1]又は[2]に記載のIgA腎症診断用キット。
[4]前記免疫グロブリンがIgAである、[3]に記載のIgA腎症診断用キット。
[5]ビメンチン又はその部分ペプチドを含む、IgA腎症診断薬。
[6]前記部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、[5]に記載のIgA腎症診断薬。
[7]対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法であって、前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a1)を含む、方法。
[8]前記抗ビメンチン抗体がIgAである、[7]に記載の方法。
[9]前記工程(a1)が、(i-1)対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(ii-1)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含む、[7]又は[8]に記載の方法。
[10]前記部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、[9]に記載の方法。
[11]前記抗ビメンチン抗体の前記抗体価の測定をELISA法により行う、請求項[7]~[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価するためのデータを収集する方法であって、任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a2)と、前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(b2)と、を含む、方法。
[13]前記抗ビメンチン抗体がIgAである、[12]に記載の方法。
[14]前記工程(a2)が、(i-2)前記任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(ii-2)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含み、前記工程(b2)が、(iii-2)前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(iv-2)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含む、[12]又は[13]に記載の方法。
[15]前記部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、[14]に記載の方法。
[16]前記抗ビメンチン抗体の前記抗体価の測定を、ELISA法により行う、[12]~[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17]腎症の疑いのある対象の血液試料から、IgA腎症を有する対象の血液試料を特定する方法であって、前記腎症の疑いのある対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a3)を含む、方法。
[18]前記抗ビメンチン抗体がIgAである、[17]に記載の方法。
[19]前記工程(a3)が、(i-3)前記腎症の疑いのある対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(ii-3)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した前記抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含む、[17]又は[18]に記載の方法。
[20]前記部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、[19]に記載の方法。
[21]前記抗ビメンチン抗体の前記抗体価の測定を、ELISA法により行う、[17]~[20]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非侵襲的な手法により、IgA腎症の診断又は治療効果の評価が可能なIgA腎症診断用キット、及びIgA腎症診断薬、並びにこれらを用いたIgA腎症の診断又は治療効果の評価等に有用なデータを収集する方法等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】IgA腎症患者から摘出された口蓋扁桃タンパク質を二次元電気泳動し、当該患者の血清を一次抗体としたウエスタンブロッティングを行った結果、共通のスポットが認められた4症例を示す。矢印は、4症例の共通スポットを示す。
図2】2症例のIgA腎症患者において、口蓋扁桃タンパク質と血清Ig画分との免疫沈降を行い、免疫沈降物を二次元電気泳動した結果を示す。四角で囲まれたスポットは、質量分析計による解析の結果、ビメンチンと同定された。
図3A】健常人及びIgA腎症患者の血清において、抗ビメンチン抗体の抗体価を測定した結果である。図3Aは抗ビメンチンIgGの抗体価を示す。
図3B】健常人及びIgA腎症患者の血清において、抗ビメンチン抗体の抗体価を測定した結果である。図3Bは抗ビメンチンIgAの抗体価を示す。
図4A】IgA腎症患者の扁桃摘出前後における抗ビメンチン抗体の抗体価の変化を示すグラフである。図4Aは抗ビメンチンIgGの抗体価の変化を示す。
図4B】IgA腎症患者の扁桃摘出前後における抗ビメンチン抗体の抗体価の変化を示すグラフである。図4Bは抗ビメンチンIgAの抗体価の変化を示す。
図5A】IgA腎症患者の扁桃摘出前後において、血清中の抗ビメンチンIgAの抗体価と、IgA腎症の各種臨床パラメータとの相関関係を示すグラフである。図5Aは、抗ビメンチンIgAの抗体価の減少率と尿タンパク質の減少率との相関を示す。
図5B】IgA腎症患者の扁桃摘出前後において、血清中の抗ビメンチンIgAの抗体価と、IgA腎症の各種臨床パラメータとの相関関係を示すグラフである。図5Bは、抗ビメンチンIgAの抗体価の減少率と尿潜血の差との相関を示す。
図5C】IgA腎症患者の扁桃摘出前後において、血清中の抗ビメンチンIgAの抗体価と、IgA腎症の各種臨床パラメータとの相関関係を示すグラフである。図5Cは、抗ビメンチンIgAの抗体価の減少率とIgA値の減少率との相関を示す。
図5D】IgA腎症患者の扁桃摘出前後において、血清中の抗ビメンチンIgAの抗体価と、IgA腎症の各種臨床パラメータとの相関関係を示すグラフである。図5Dは、抗ビメンチンIgAの抗体価の減少率と尿酸値の減少率との相関を示す。
図6】IgA腎症患者血清に認識されるヒトビメンチンタンパク質の部分ペプチドの配列を示す。
図7図6に示すヒトビメンチンタンパク質の部分ペプチドを用いて、腎症患者血清に対するELISAを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法]
1実施形態において、本発明は、対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法を提供する。本実施形態の方法は、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a1)(以下、「工程(a1)」という。)を含む。
【0011】
後述する実施例に示すように、本発明者らは、IgA腎症の患者では、健常人と比較して、血清中の抗ビメンチン抗体の抗体価が有意に高くなることを見出した。本実施形態の方法は当該知見に基づいており、対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータとして、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する。すなわち、血液試料中の抗ビメンチン抗体は、IgA腎症診断用マーカーとして用いられる。
したがって、本発明は、IgA腎症診断用マーカーとしての抗ビメンチン抗体、もまた提供する。また、本発明は、IgA腎症診断用マーカーとして使用するための抗ビメンチン抗体、もまた提供する。
【0012】
本実施形態の方法において、IgA腎症に罹患している可能性が評価される対象は、好ましくはヒト又はヒト以外の哺乳類である。ヒト以外の哺乳類は、特に限定されないが、非ヒト霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラなど)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモットなど)、ペット動物(イヌ、ネコ、ウサギなど)、家畜動物(ウシ、ブタ、ウマ、ヤギなど)等が挙げられる。対象は、好ましくはヒトである。
【0013】
(抗体価測定工程:工程(a1))
本実施形態の方法は、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a1)(以下、「工程(a1)」ともいう。)を含む。
【0014】
対象の血液試料は、対象からの採血により取得することできる。本明細書において、「血液試料」とは、血液成分の少なくとも一部を含む試料を意味し、全血、血清、及び血漿を包含する。血液試料は、好ましくは血清又は血漿であり、より好ましくは血清である。
【0015】
抗ビメンチン抗体は、ビメンチンに対する結合性を有する抗体である。ビメンチンは、繊維芽細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、骨・軟骨細胞、神経鞘細胞など多様な細胞に分布する主要な細胞骨格タンパクである。ビメンチンは、公知のタンパク質であり、その遺伝子配列及びアミノ酸配列は、公知のデータベースから取得することができる。例えば、ヒトのビメンチンの遺伝子配列の一例として、GenBankにアクセッションNo.NM_003380.4で登録された配列等が挙げられる。前記アクセッションNo.で登録された塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。なお、ヒトのビメンチンは、前記配列に限定されない。本明細書において、「ビメンチン」は、種間相同体、及びアイソフォームを包含する。
【0016】
また、抗ビメンチン抗体は、配列番号3(FGGPGTASRPSSSRSYVTTSTR)で表されるアミノ酸配列を含むペプチドに対する結合性を有する抗体である。後述する実施例に示すように、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、IgA腎症患者の血清が反応性を有するペプチドとして特定された、ヒトビメンチンの部分ペプチドである。したがって、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、IgA腎症に罹患している対象の血液試料に含まれる抗ビメンチン抗体のエピトープであるといえる。配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、ビメンチンの部分ペプチドであればよく、例えば、22~300アミノ酸長、22~150アミノ酸長、22~100アミノ酸長、22~50アミノ酸長、又は22~30アミノ酸長のペプチドであることができる。配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、全長ビメンチンタンパク質よりも短い任意の長さのペプチド断片とすることができるため、容易に合成することができ、扱いやすいという利点がある。以下、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むペプチドを、単に「配列番号3を含むペプチド」と記載する場合がある。
【0017】
本工程で抗体価を測定する抗ビメンチン抗体は、いずれのクラスであってもよい。例えば、対象がヒトである場合、抗ビメンチン抗体は、IgG、IgA、IgM、IgD、及びIgEのいずれのクラスであってもよい。抗体価は、これらのクラス全ての抗体価の合計値であってもよく、2種以上のクラスの抗体価の合計値であってもよく、いずれか1つのクラスの抗体価であってもよい。抗体価は、IgG及びIgAの少なくとも一種の抗体価であることが好ましく、IgAの抗体価であることがより好ましい。
【0018】
抗ビメンチン抗体の抗体価の測定方法は、特に限定されず、公知の抗体価測定方法を用いることができる。抗体価測定方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射免測定法(RIA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、蛍光抗体法(FA)、粒子凝集法(PA)、ラテックス凝集法(LA)等が挙げられる。これらの中でも、定量性に優れることから、ELISA法が好ましい。
【0019】
上記例示した方法では、抗ビメンチン抗体とビメンチンとの抗原抗体反応を利用して、血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する。そのため、上記例示した方法では、対象の血液試料とビメンチン又はその部分ペプチドとを接触する工程を含む。したがって、1態様において、本工程は、下記(i-1)及び(ii-1)の工程を含んでいてもよい:
(i-1)対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させる工程;及び
(ii-1)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定する工程。
上記工程(i-1)において、対象の血液試料と接触させるビメンチン又はその部分ペプチドは、前記対象と同種の生物由来のビメンチン又はその部分ペプチドが好ましい。例えば、対象がヒトであれば、ヒトのビメンチン又はその部分ペプチドを用いることが好ましい。ビメンチンは、必ずしも全長タンパク質でなくてもよく、部分ペプチドであってもよい。ビメンチンの部分ペプチドは、例えば、ビメンチンの全長タンパク質の30%以上のアミノ酸配列を有する。ビメンチンの部分ペプチドは、ビメンチンの全長タンパク質の40%以上、50%以上、60%以上、又は70%以上のアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。また、ビメンチンの部分ペプチドは、ビメンチンの全長タンパク質の50アミノ酸以上、100アミノ酸以上、200アミノ酸以上、300アミノ酸以上、又は400アミノ酸以上のアミノ酸配列を有する部分ペプチドであってよい。ビメンチンの部分ペプチドの好ましい例としては、配列番号3を含むペプチドが挙げられる。ビメンチン又はその部分ペプチドは、上記例示した方法に応じて、マイクロウェルプレートやスライドガラス等の担体に固定してもよく、固定しなくてもよい。
上記工程(ii-1)では、公知の方法により、ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)に結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すればよい。測定方法としては、上記例示した方法において常用される方法等が挙げられる。
【0020】
例えば、ELISA法により、抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する場合、本工程は以下の工程を含み得る:
(1)対象の血液試料として血清を準備する工程;
(2)ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)を固定化したウェル(例、96ウェルマイクロプレートのウェル)に、前記工程(1)で準備した血清又はその希釈物を添加する工程;(3)前記工程(2)のウェルを洗浄する工程;
(4)前記工程(3)で洗浄したウェルに、酵素標識した抗免疫グロブリン抗体を添加する工程;
(5)前記工程(4)のウェルを洗浄する工程;
(6)前記工程(5)で洗浄したウェルに、前記酵素標識の検出試薬を添加して発色反応を行う工程;及び
(7)前記発色反応後のウェルの吸光度を測定する工程。
【0021】
前記工程(1)において、血清は、例えば、対象から血液を採取後、一定時間(例えば、10~30分)放置した後、遠心分離して上清を採取することにより調製することができる。
また、前記工程(2)において、ビメンチン又はその部分ペプチドのウェルへの固定化は、公知の方法により行うことができる。例えば、疎水的相互作用によりタンパク質が物理吸着されるように表面加工されたウェルプレートや、アミノ基若しくはカルボキシル基等を有するように表面加工されたウェルプレートを用いればよい。また、市販のELISA用ウェルプレートを用いてもよい。例えば、上記のように表面加工されたウェルプレートのウェルに、ビメンチン又はその部分ペプチドを含む溶液を添加して、静置することにより、ウェルへのビメンチン又はその部分ペプチドの固定化を行うことができる。
また、前記工程(2)において、ウェルに血清の希釈物を添加する場合、その希釈率は特に限定されない。例えば、希釈率は、50~200倍とすることができる。また、希釈に用いる希釈液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等が例示される。工程(2)において、血清又はその希釈液中に抗ビメンチン抗体が存在する場合には、当該抗ビメンチン抗体は、ウェルに固定化されたビメンチン又はその部分ペプチドに結合する。なお、ウェルに血清又はその希釈物を添加する前に、ウェルのブロッキングを行ってもよい。ブロッキングは、ELISA法に一般的に用いられるブロッキングバッファーを用いればよい。例えば、ブロッキングバッファーとしては、1~5%程度のスキムミルク又は牛血清アルブミン(BSA)を含む緩衝液等が挙げられる。前記ブロッキングバッファー用の緩衝液は、特に限定されないが、0.05~0.3%程度のTween20を含むリン酸緩衝液等が挙げられる。
前記工程(3)及び工程(5)において、ウェルの洗浄には、ELISA法で一般的に用いられる洗浄バッファーを用いればよい。洗浄バッファーとしては、例えば、0.05~0.3%程度のTween20を含むリン酸緩衝液等が挙げられる。
前記工程(4)において、酵素標識した抗免疫グロブリン抗体としては、前記対象と同種の生物の免疫グロブリンに対して結合性を有する抗体を用いる。例えば、対象がヒトであれば、ヒト免疫グロブリンに対して結合性を有する抗体を用いる。また、抗免疫グロブリン抗体は、抗IgA抗体又は抗IgG抗体を用いることが好ましく、抗IgA抗体を用いることがより好ましい。抗IgA抗体を用いた場合には、抗ビメンチン抗体のうちIgA抗体の抗体価を測定することができる。また、抗IgG抗体を用いた場合には、抗ビメンチン抗体のうちIgG抗体の抗体価を測定することができる。
前記工程(4)において、抗免疫グロブリン抗体が有する酵素標識は、特に限定されず、ELISA法において一般的に用いられるものを用いることができる。例えば、酵素標識としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等が挙げられる。
前記工程(6)において、検出試薬は、前記酵素標識に用いた酵素の基質を含み得る。例えば、酵素標識がペルオキシダーゼである場合、検出試薬としては、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)、OPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)、ABTS(2,2'-azino-di-[3-ethyl-benzothiazoline-6 sulfonic acid] diammonium salt)等が挙げられる。また、アルカリホスファターゼの検出試薬としては、pNPP(p-Nitrophenyl-phosphate;ニトロフェニルリン酸)等が挙げられる。
前記工程(7)において、ウェルの吸光度の測定は、前記工程(4)で用いた酵素標識の種類に応じた波長の吸光度を測定すればよい。例えば、酵素標識としてペルオキシダーゼを用いた場合には、450nmの吸光度を測定する。また、酵素標識としてアルカリホスファターゼを用いた場合には、405nmの吸光度を測定する。
【0022】
(抗体価の評価)
上記工程(a1)で得られた抗体価は、血液試料の由来する対象が、IgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータとして用いられる。具体的には、上記工程(a1)において測定された抗体価を、IgA腎症を有さない対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価と比較して、前記工程(a1)で測定された抗体価の方が高い場合に、前記工程(a1)で用いた血液試料の由来する対象(以下、「評価対象」という場合がある。)が、IgA腎症に罹患している可能性が高いと評価される。
したがって、本実施形態の方法は、上記工程(a1)に加えて、上記工程(a1)において測定された抗体価を、IgA腎症を有さない対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価と比較して、前記工程(a1)において測定された抗体価が高い場合に、評価対象がIgA腎症に罹患している可能性が高いと評価する工程を含んでいてもよい。
【0023】
本明細書において、「IgA腎症を有さない対象」とは、IgA腎症を有さないと確定診断された対象、及びIgA腎症を有さないと推定される対象を包含する。「IgA腎症を有さないと推定される対象」としては、例えば、IgA腎症の臨床症状(血尿、急性腎炎様症状、ネフローゼ様症状など)が全く観察されない対象、尿検査においてIgA腎症の所見(尿潜血、尿蛋白陽性など)が観察されない対象、血液検査においてIgA腎症の所見(血清IgA値315mg/dL以上など)が観察されない対象等が挙げられる。IgA腎症を有さないと確定診断するためには、腎生検が必要であるが、腎生検は侵襲的な手法であるため、IgA腎症の所見が観察されない対象に行うことは好ましくない。そのため、「IgA腎症を有さない対象」は、通常、「IgA腎症を有さないと推定される対象」である。「IgA腎症を有さない対象」は、いわゆる健常者(健常な対象)であってもよい。
【0024】
IgA腎症を有さない対象の血液試料(以下、「陰性対照血液試料」という場合がある。)は、評価対象の血液試料と同種の試料を用いる。例えば、評価対象の血液試料が血清である場合には、陰性対照血液試料も血清を用いる。陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価は、上記「(抗体価測定工程:工程(a1)」で挙げた方法と同様の方法により測定することができる。評価対象の血液試料と陰性対照血液試料とは、同じ方法で、抗ビメンチン抗体の抗体価を測定することが好ましい。例えば、評価対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をELISA法により測定した場合には、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価も、ELISA法で測定したものであることが好ましい。また、抗体価を測定する抗体のクラスは、評価対象の血液試料と陰性対照血液試料とで同じである必要がある。例えば、評価対象の血液試料中の抗体価として、抗ビメンチンIgAの抗体価を測定した場合には、陰性対照血液試料中の抗体価も抗ビメンチンIgAの抗体価を使用する。
陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価は、1個体のものであってもよく、複数個体の抗体価の平均値であってもよい。あるいは、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価は、複数個体の抗体価を統計処理して算出された基準値であってもよい。そのような基準値は、IgA腎症陰性基準値ということもできる。好ましくは、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価は、複数個体の抗体価の平均値又は複数個体の抗体価を統計処理して算出された基準値(IgA腎症陰性基準値)である。
【0025】
評価対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためには、上記工程(a1)において測定された評価対象の血液試料中の抗体価を、陰性対照血液試料中の抗体価と比較する。その結果、評価対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価よりも高い場合には、評価対象がIgA腎症に罹患している可能性が高いと評価される。例えば、評価対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上である場合、評価対象がIgA腎症に罹患している可能性が高いと評価される。一方、評価対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価と同程度かより低い場合には、評価対象がIgA腎症に罹患している可能性が低いと評価される。例えば、評価対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の1.2倍未満、好ましくは1.1倍以下、より好ましくは1倍以下である場合、評価対象がIgA腎症に罹患している可能性が低いと評価される。
また、本実施形態の方法により測定される抗体価のデータは、他の血液検査データ(例、血清IgA値)、尿検査データ(例、尿潜血、尿蛋白)等と組み合わせて、評価対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価してもよい。他の検査データと組み合わせることにより、より精度の高い評価が可能となる。
【0026】
本実施形態の方法によれば、血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をIgA腎症の診断マーカーとして用いるため、腎生検によらず、IgA腎症の罹患リスクを評価するためのデータを収集することができる。そのため、評価対象の身体的負担を軽減することができる。
【0027】
(他の態様)
他の態様において、本発明は、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程を含む、IgA腎症の診断方法を提供する。
他の態様において、本発明は、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程を含み、IgA腎症を有さない対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価と比較して、前記対象の前記抗体価が高い場合に、前記対象がIgA腎症に罹患している可能性が高いと診断する、IgA腎症の診断方法を提供する。
他の態様において、本発明は、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程を含む、対象におけるIgA腎症の検出方法を提供する。
他の態様において、本発明は、IgA腎症の診断マーカーとしての抗ビメンチン抗体の抗体価の使用を提供する。
【0028】
他の態様において、本発明は、対象におけるIgA腎症の検出方法であって、前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程を含む、IgA腎症の検出方法を提供する。前記検出方法において、前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程は、前記対象から血液試料を得ることと;及び前記血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)と接触させて、前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含んでいてもよい。
他の態様において、本発明は、対象におけるIgA腎症の診断方法であって、前記対象から血液試料を得ること;前記血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)と接触させて、前記ビメンチン又は配列番号3を含むペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すること;及び前記ビメンチン又はそのペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量が、IgA腎症を有さない対象の血液試料におけるものと比較して、多い場合に、前記対象がIgA腎症を有すると診断すること、含む方法を提供する。前記方法は、さらに、前記IgA腎症を有すると診断された対象に対して、IgA腎症の治療を行うことを含んでいてもよい。IgA腎症の治療方法としては、例えば、食事療法(塩分摂取制限、タンパク質摂取制限等)、薬物療法(ステロイド療法等)、扁桃摘出等が例示される。これらの治療法は、単独で実施されてもよく、複数の治療法を組み合わせて実施してもよい。
【0029】
上述した態様において、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価は、抗ビメンチンIgA抗体であることが好ましい。また、抗体価の測定は、ELISA法で行うことが好ましい。さらに、抗体価の測定においては、対象の血液試料と配列番号3を含むペプチドとを接触させ、前記配列番号3を含むペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定することが好ましい。
【0030】
[IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価するためのデータを収集する方法]
1実施形態において、本発明は、IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価するためのデータを収集する方法を提供する。本実施形態の方法は、任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(以下、「工程(a2)」ともいう。)と、前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(以下、「工程(b2)」ともいう。)と、を含む。
【0031】
後述する実施例に示すように、本発明者らは、IgA腎症の患者において、IgA腎症の治療として口蓋扁桃を摘出した後に、血清中の抗ビメンチン抗体の抗体価が有意に低下することを見出した。また、尿蛋白及び血清IgA値の減少率が、血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の減少率と相関していることを見出した。本実施形態の方法は当該知見に基づいており、IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価するためのデータとして、対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する。すなわち、血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価は、IgA腎症の治療効果の指標として用いられる。
【0032】
本実施形態の方法において、IgA腎症の治療効果を評価される対象は、IgA腎症に罹患している対象であって、任意のIgA腎症治療法が実施された対象である。対象は、好ましくはヒト又はヒト以外の哺乳類であり、より好ましくはヒトである。ヒト以外の哺乳類としては、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法]」で例示したものと同様のものが例示される。
IgA腎症に罹患している対象は、好ましくは、IgA腎症であると確定診断された対象である。IgA腎症であるとの確定診断は、通常、腎生検により行われる(IgA腎症診療指針-第3版- 参照)。
本実施例の方法において、IgA腎症に罹患している対象に実施されるIgA腎症治療法は、特に限定されず、IgA腎症の治療を目的として実施されるものであればよい。IgA腎症の治療方法としては、例えば、食事療法(塩分摂取制限、タンパク質摂取制限等)、薬物療法(ステロイド療法等)、扁桃摘出等が例示される。これらの治療法は、単独で実施されてもよく、複数の治療法を組み合わせて実施してもよい。複数の治療法を組み合わせて実施する場合には、それらの組合せの治療効果が評価対象となる。
【0033】
血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する方法は、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法]」の「(抗体価測定工程:工程(a1))」で記載した方法と同様に行うことができる。ただし、本実施形態の方法では、血液試料として、工程(a2)では、任意のIgA腎症治療法を開始する前の対象の血液試料を用い、工程(b2)では、任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料を用いる。
工程(a2)及び工程(b2)で抗体価の測定に用いる血液試料は、同種の試料を使用する。例えば、工程(a2)における治療法開始前の血液試料が血清である場合には、工程(b2)における治療法開始後の血液試料も血清を使用する。また、工程(a2)における治療法開始前の血液試料と、工程(b2)における治療法開始後の血液試料とは、同じ方法で、抗ビメンチン抗体の抗体価を測定することが好ましい。例えば、工程(a2)における治療開始前の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をELISA法により測定した場合には、工程(b2)における治療開始後の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価も、ELISA法で測定することが好ましい。また、抗体価を測定する抗体のクラスは、工程(a2)における治療法開始前の血液試料と、工程(b2)における治療法実施後の血液試料とで同じである必要がある。例えば、工程(a2)における治療法開始前の血液試料中の抗体価として、抗ビメンチンIgAの抗体価を測定した場合には、工程(b2)における治療法開始後の血液試料中の抗体価も抗ビメンチンIgAの抗体価を使用する。なお、本実施形態の方法においては、抗ビメンチン抗体の抗体価として、抗ビメンチンIgAの抗体価を測定することが好ましい。
【0034】
工程(a2)は、(i-2)前記任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(ii-2)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含んでいてもよい。
工程(b2)は、(iii-2)前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(iv-2)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定することを含んでいてもよい。
前記(i-2)及び(iii-2)において、ビメンチンの部分ペプチドとしては、配列番号3を含むペプチドを用いることが好ましい。
【0035】
工程(a2)における治療法開始前の血液試料は、当該治療法の開始前に対象から血液を採取し、当該血液から任意の血液試料を調製することにより得ることができる。採血の時期は、当該治療の実施前であれば特に限定されない。採血の時期は、例えば、治療法開始の直前であってもよく、治療法開始の1~5日前、又は治療法開始の1~3週間前であってもよい。また、治療法開始前の血液試料は、治療法開始前の複数の時期に採取された血液から調製された複数の血液試料であってもよい。
工程(b2)における治療法開始後の血液試料は、当該治療法の開始後に対象から血液を採取し、当該血液から任意の血液試料を調製することにより得ることができる。採血の時期は、当該治療の開始後であれば特に限定されない。採血の時期は、例えば、治療法開始の直後であってもよく、治療開始から1~5日後、1~3週間後、又は1~3カ月後であってもよい。また、治療法開始後の血液試料は、治療法開始後の複数の時期に採取された血液から調製された複数の血液試料であってもよい。例えば、治療法開始後に、対象から経時的に血液を採取し、それらの血液から調製された複数の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定して、抗体価の経時変化を観察してもよい。
なお、本明細書において、「治療法の開始」した時点は、対象に対して、当該治療方法による治療行為を最初に実施した時点をいう。したがって、当該治療法を実施している期間中は、当該治療法を開始した後の期間となる。
【0036】
(抗体価の評価)
工程(a2)及び工程(b2)で測定された抗ビメンチン抗体の抗体価は、当該治療法が実施された対象における当該治療法の効果を評価するためのデータとして用いられる。具体的には、工程(a2)で測定された治療法開始前の血液試料中の抗体価と、工程(b2)で測定された治療法開始後の血液試料中の抗体価とを比較して、工程(b2)で測定された治療法開始後の血液試料中の抗体価の方が低い場合に、当該治療法の治療効果があると評価される。
したがって、本実施形態の方法は、上記抗体価測定工程に加えて、工程(a2)で測定された治療法開始前の血液試料中の抗体価と、工程(b2)で測定された治療法開始後の血液試料中の抗体価とを比較して、工程(b2)で測定された治療法開始後の血液試料中の抗体価の方が低い場合に、当該治療法の治療効果があると評価する工程を含んでいてもよい。
例えば、工程(b2)で測定された治療法開始後の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、工程(a2)で測定された治療法開始前の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の0.9倍以下、好ましくは0.8倍以下、より好ましくは0.7倍以下である場合、当該治療法の治療効果があると評価される。一方、工程(b2)で測定された治療法開始後の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、工程(a2)で測定された治療法開始前の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価と同程度かより高い場合には、当該治療法の効果が低い又は効果がないと評価される。例えば、工程(b2)で測定された治療開始後の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、工程(a2)で測定された治療開始前の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の1倍以上である場合、当該治療法の効果が低い又は効果がないと評価される。
また、本実施形態の方法により測定される抗体価のデータは、他の血液検査データ(例、血清IgA値)、尿検査データ(例、尿潜血、尿蛋白)等と組み合わせて、治療効果を評価してもよい。他の検査データと組み合わせることにより、より精度の高い評価が可能となる。
【0037】
本実施形態の方法によれば、血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をIgA腎症の治療効果の指標として用いることにより、任意のIgA腎症治療法の治療効果を評価することができる。これにより、当該対象に対するその後の治療方針の策定に有用な情報を得ることができる。
【0038】
(他の態様)
他の態様において、本発明は、IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価する方法であって、(a2’)任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程と、(b2’)前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程とを含む、方法、を提供する。
他の態様において、本発明は、IgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価する方法であって、(a2’)任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程と、(b2’)前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をin vitroで測定する工程と、を含み、治療法開始前の血液試料中の抗体価と治療法開始後の血液試料中の抗体価とを比較して、治療法開始後の血液試料中の抗体価の方が低い場合に、当該治療法の治療効果があると評価する、方法、を提供する。
前記工程(a2’)は、(i-2’)前記任意のIgA腎症治療法を開始する前の前記対象の血液試料を、in vitroでビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(ii-2’)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含んでいてもよい。
工程(b2’)は、(iii-2’)前記任意のIgA腎症治療法を開始した後の前記対象の血液試料を、in vitroでビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び(iv-2’)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定することを含んでいてもよい。
前記(i-2’)及び(iii-2’)において、ビメンチンの部分ペプチドとしては、配列番号3を含むペプチドを用いることが好ましい。
【0039】
[IgA腎症を有する対象の血液試料を特定する方法]
1実施形態において、本発明は、腎症の疑いのある対象の血液試料から、IgA腎症を有する対象の血液試料を特定する方法であって、前記腎症の疑いのある対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程(a3)(以下、「工程(a3)」ともいう。)を含む、方法を提供する。
【0040】
後述する実施例に示すように、本発明者らは、IgA腎症の患者では、他の腎症患者と比較して、血清中の抗ビメンチン抗体の抗体価が高くなることを見出した。本実施形態の方法は当該知見に基づいており、他の腎症からIgA腎症を識別するためのデータとして、腎症の疑いのある対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する。すなわち、血液試料中の抗ビメンチン抗体は、他の腎症からIgA腎症を識別するための識別マーカーとして用いられる。
したがって、本発明は、他の腎症からIgA腎症を識別するマーカーとしての抗ビメンチン抗体、もまた提供する。また、本発明は、他の腎症からIgA腎症を識別するマーカーとして使用するための抗ビメンチン抗体、もまた提供する。
【0041】
本実施形態の方法において、腎症の疑いのある対象は、腎症患者に認められる症状を有する対象であることができる。腎症患者に認められる症状は、特に限定されないが、例えば、尿潜血、タンパク尿、尿酸値の上昇、血清IgA値の上昇等が挙げられる。対象は、好ましくはヒト又はヒト以外の哺乳類であり、より好ましくはヒトである。ヒト以外の哺乳類としては、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法]」で例示したものと同様のものが例示される。
【0042】
(工程(a3))
血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する方法は、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法]」の「(抗体価測定工程:工程(a1))」で記載した方法と同様に行うことができる。ただし、本実施形態の方法では、血液試料として、腎症の疑いのある対象の血液試料を用いる。血液試料は、好ましくは血清又は血漿であり、より好ましくは血清である。抗ビメンチン抗体の抗体価として、抗ビメンチンIgAの抗体価を測定することが好ましい。
【0043】
工程(a3)は、
(i-3)腎症の疑いのある対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチドと接触させること;及び
(ii-3)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含んでいてもよい。
【0044】
前記ビメンチンの部分ペプチドとしては、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法]」の「(抗体価測定工程:工程(a1))」で挙げたものと同様のものが挙げられる。前記ビメンチンの部分ペプチドとしては、配列番号3を含むペプチドを用いることが好ましい。
【0045】
(抗体価の評価)
血液試料がIgA腎症を有する対象の血液試料であることを特定するためには、上記工程(a3)において測定された血液試料中の抗体価を、陰性対照血液試料中の抗体価と比較する。その結果、工程(a3)で測定された抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価よりも高い場合には、前記血液試料がIgA腎症を有する対象のものであると特定する。あるいは、前記血液試料がIgA腎症を有する可能性が高い対象のものである特定する。例えば、前記血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上である場合、前記血液試料がIgA腎症を有する対象(又はIgA腎症を有する可能性が高い対象)のものである特定する。一方、前記血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価と同程度かより低い場合には、前記血液試料がIgA腎症を有する対象のものではないと特定する。例えば、前記血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価が、陰性対照血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価の1.2倍未満、好ましくは1.1倍以下、より好ましくは1倍以下である場合、前記血液試料がIgA腎症を有する対象のものではないと特定する。
【0046】
また、本実施形態の方法により測定される抗体価のデータは、他の血液検査データ(例、血清IgA値)等と組み合わせて、血液試料がIgA腎症を有する対象のものであると特定してもよい。他の検査データと組み合わせることにより、より精度の高い評価が可能となる。
【0047】
本実施形態の方法によれば、血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価をIgA腎症の識別マーカーとして用いるため、簡易に、腎症の疑いのある対象の血液試料の中から、IgA腎症を有する対象の血液試料を識別することができる。
本実施形態の方法は、さらに、前記IgA腎症を有する対象のものであると特定された血液試料の対象に対して、IgA腎症の治療を行うことを含んでいてもよい。IgA腎症の治療方法としては、例えば、食事療法(塩分摂取制限、タンパク質摂取制限等)、薬物療法(ステロイド療法等)、扁桃摘出等が例示される。これらの治療法は、単独で実施されてもよく、複数の治療法を組み合わせて実施してもよい。
【0048】
他の態様において、本発明は、腎症の疑いのある対象の血液試料から、IgA腎症を有する対象の血液試料をスクリーニングする方法であって、前記腎症の疑いのある対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程を含む、方法を提供する。前記スクリーニング方法において、前記対象の血液試料中の抗ビメンチン抗体の抗体価を測定する工程は、(i-3)腎症の疑いのある対象の血液試料を、ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)と接触させること;及び(ii-3)前記ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の量を測定すること、を含んでいてもよい。
【0049】
[IgA腎症診断用キット]
1実施形態において、本発明は、IgA腎症診断用キットを提供する。本実施形態のキットは、ビメンチン又はその部分ペプチドを含む。
【0050】
(ビメンチン又はその部分ペプチド)
ビメンチンは、本実施形態のキットを適用する対象に応じて、当該適用対象と同じ生物種のビメンチンを用いることが好ましい。例えば、適用対象がヒトであれば、ヒトのビメンチンを用いることが好ましい。また、ビメンチンは、全長タンパク質である必要はなく、ビメンチンの部分ペプチドであってもよい。ビメンチンの部分ペプチドとしては、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方]」の「(抗体価測定工程)」で例示したものと同様のものが例示される。好ましくは、ビメンチンの部分ペプチドは、配列番号3を含むペプチドである。
【0051】
本実施形態のキットにおいて、ビメンチン又はその部分ペプチドは、支持体に固定化されていてもよい。支持体は、本実施形態のキットを適用する方法に応じて、適宜選択することができる。支持体としては、例えば、ウェルプレート(例、96ウェルマイクロプレートなど)、メンブレン(例、ニトロセルロース膜、ポリフッ化ビニリデン膜など)、スライドガラス、磁気ビーズ、ラテックス粒子等が挙げられる。ビメンチン又はその部分ペプチドを支持体に固定化する方法は、支持体の材質に応じて、適宜、公知の方法を選択することができる。
ビメンチン又はその部分ペプチドが、支持体に固定化されている場合、B/F分離により、ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体を、血液試料中から分離することができる。
【0052】
また、ビメンチン又はその部分ペプチドは、標識化されたものであってもよい。標識化のための標識物質は、特に限定されず、公知のものを用いればよい。標識物質としては、例えば、ペルオキシダーゼ(例、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼなどの酵素標識;カルボキシフルオレセイン(FAM)、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’ ,7’-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラクロロフルオレセイン(TET)、5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト(HEX)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647などの蛍光標識;ヨウ素125などの放射性同位体標識;ルテニウム錯体などの電気化学発光標識;ビオチン;金属ナノ粒子等が挙げられる。ビメンチン又はその部分ペプチドの標識化は、標識物質の種類に応じて、適宜、公知の方法を選択して行うことができる。なお、標識物質としてビオチンを用いる場合には、本実施形態のキットは、さらに、標識化されたアビジンを含んでいてもよい。アビジンの標識物質としては、上記例示した標識物質のうちビオチン以外の標識物質が例示される。
ビメンチン又はその部分ペプチドが標識化されている場合、当該標識化物質を検出することにより、ビメンチン又はその部分ペプチドに結合した抗ビメンチン抗体の抗体価を定量することができる。具体的には、血液試料中の抗体を支持体等に固定化し、標識化されたビメンチン又はその部分ペプチドを反応させて、当該標識化物質を検出する方法等が例示される。
【0053】
(他の要素)
本実施形態のキットは、ビメンチン又はその部分ペプチドに加えて、他の要素を含んでいてもよい。他の要素としては、免疫グロブリンに対する特異的結合物質、標識物質の検出試薬、希釈液、バッファー類、使用説明書等が挙げられる。
【0054】
≪免疫グロブリンに対する特異的結合物質≫
本実施形態のキットは、免疫グロブリンに対する特異的結合物質を含むことが好ましい。例えば、上記ビメンチン又はその部分ペプチドが標識化されていない場合、本実施形態のキットは、免疫グロブリンに対する特異的結合物質を含むことが好ましい。
免疫グロブリンに対する特異的結合物質は、免疫グロブリンに対する特異的結合性を有する物質である。免疫グロブリンに対する特異的結合性を有するとは、免疫グロブリンに対して高い結合親和性を有し、他の物質に対しては結合親和性が低いことを意味する。例えば、免疫グロブリンに対する結合親和性が、他の物質に対する結合親和性と比較して、10倍以上、好ましくは50倍以上、より好ましくは100倍上、さらに好ましくは500倍以上高い場合に、当該物質は免疫グロブリンに対する特異的結合性を有するといえる。免疫グロブリンに対する特異的結合物質が特異的結合性を有する免疫グロブリンは、本実施形態のキットを適用する対象と同種の生物の免疫グロブリンである。例えば、本実施形態のキットの適用対象がヒトであれば、免疫グロブリンに対する特異的結合物質は、ヒトの免疫グロブリンに特異的結合性を有する。免疫グロブリンに対する特異的結合物質が結合性を有する免疫グロブリンのクラスは、特に限定されず、任意のものであってよい。前記免疫グロブリンのクラスは、IgA又はIgGであることが好ましく、IgAであることがより好ましい。
【0055】
免疫グロブリンに対する特異的結合物質としては、例えば、抗免疫グロブリン抗体、抗免疫グロブリンアプタマー等が挙げられる。
抗免疫グロブリン抗体は、免疫グロブリンに対する特異的結合性を有する抗体である。抗免疫グロブリン抗体は、必ずしもインタクトな抗体である必要はない。抗体は、改変抗体(キメラ抗体等)であってもよく、抗体断片(scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)であってもよい。本明細書において、「抗免疫グロブリン抗体」は、免疫グロブリンに対する特異的結合性を保持する限り、上記のような改変抗体及び抗体断片を包含する。抗免疫グロブリン抗体は、ポリクローナルであってもよく、モノクローナルであってもよい。抗免疫グロブリン抗体が由来する動物は、特に限定されず、抗体作製用に一般的に用いられる動物を用いることができる。例えば、ヤギ抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、サル抗体、ヒト抗体等が利用可能である。
抗免疫グロブリン抗体は、所望の免疫グロブリン又はその断片を抗原として、公知の方法(ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法など)により作製することができる。
【0056】
抗免疫グロブリンアプタマーは、免疫グロブリンに対する特異的結合性を有するアプタマーである。アプタマーとは、標的物質に対する特異的結合性を有する物質であり、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。免疫グロブリンに対する特異的結合性を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponentialenrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、免疫グロブリンに対する特異的結合性を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。
【0057】
免疫グロブリンに対する特異的結合物質は、標識化されたものであってもよい。標識化のための標識物質は、特に限定されず、公知のものを用いればよい。標識化物質としては、上記「(ビメンチン又はその部分ペプチド)」で挙げたものと同様のものが挙げられる。
免疫グロブリンに対する特異的結合物質が標識化されている場合、当該標識化物質を検出することにより、抗ビメンチン抗体を間接的に定量することができる。具体的には、固定化したビメンチン又はその部分ペプチドに血液試料中の抗ビメンチン抗体を捕捉し、標識化した免疫グロブリンに対する特異的結合物質を反応させて、当該標識化物質を検出する方法等が例示される。
【0058】
≪その他≫
本実施形態のキットは、上記の他に、標識物質の検出試薬、血液試料調製試薬、バッファー類、抗ビメンチン抗体の標準試薬、支持体、使用説明書等を含んでいてもよい。
標識物質の検出試薬は、上記のビメンチン若しくはその部分ペプチド、又は免疫グロブリンに対する特異的結合物質の標識化に用いた標識物質を検出するための試薬である。例えば、標識物質が酵素標識である場合、検出試薬は当該酵素の基質を含む。例えば、酵素標識がペルオキシダーゼである場合、検出試薬としては、TMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)、OPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)、ABTS(2,2'-azino-di-[3-ethyl-benzothiazoline-6 sulfonic acid] diammonium salt)等が挙げられる。
また、酵素標識がアルカリホスファターゼである場合、検出試薬としては、pNPP(p-Nitrophenyl-phosphate;ニトロフェニルリン酸)等が挙げられる。
【0059】
血液試料調製試薬は、対象から採取した血液から血液試料を調製するための試薬である。血液試料調製試薬としては、例えば、希釈液等が挙げられる。希釈液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などの公知の緩衝液等が例示される。
バッファー類としては、例えば、ブロッキングバッファー、洗浄バッファー等が挙げられる。これらのバッファー類は、イムノアッセイに一般的に用いられるものを特に制限なく用いることができる。
抗ビメンチン抗体の標準試薬は、本実施形態のキットの適用対象である生物種の抗ビメンチン抗体を含み得る。前記抗ビメンチン抗体は、本実施形態のキットの検出対象である免疫グロブリンと同じクラスのものである。抗ビメンチン抗体の標準試薬は、抗ビメンチン抗体の検量線を作製するために用いられる。
支持体は、血液試料中の抗体を固定化するため、又は上記ビメンチン若しくはその部分ペプチドを固定化するため等に用いられる。支持体としては、上記「(ビメンチン又はその部分ペプチド)」で例示したもの等が挙げられる。
【0060】
本実施形態のキットは、例えば、ELISAキットであってもよい。ELISAキットである場合、例えば、以下の構成を含み得る:
支持体に固定化されたビメンチン又はその部分ペプチド;
酵素標識化された抗免疫グロブリン抗体;及び
前記酵素標識の基質。
ELISAキットは、さらに、血清希釈液、バッファー類(ブロッキングバッファー、洗浄バッファー等)、抗ビメンチン抗体の標準試薬等を含んでいてもよい。
【0061】
本実施形態のキットは、IgA腎症を診断するために用いることができる。また、上記実施形態のIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法、又はIgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価するためのデータを収集する方法を実施するために使用することができる。また、上記実施形態のIgA腎症を有する対象の血液試料を特定する方法を実施するために使用することができる。本実施形態のキットは、腎症の疑いのある対象の血液試料から、IgA腎症を有する対象の血液試料を特定又はスクリーニングするためのキットとしても用いることができる。
【0062】
(他の態様)
他の態様において、本発明は、IgA腎症診断用キットを作製するための、ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)の使用を提供する。
他の態様において、本発明は、IgA腎症診断用キットを作製するための、ビメンチン又はその部分ペプチド(例えば、配列番号3を含むペプチド)、及び免疫グロブリンに対する特異的結合物質(抗免疫グロブリン抗体等)の使用を提供する。
【0063】
[IgA腎症診断薬]
1実施形態において、本発明は、ビメンチン又はその部分ペプチドを含む、IgA腎症の診断薬を提供する。
【0064】
ビメンチン又はその部分ペプチドは、本実施形態の診断薬の適用対象である生物種のビメンチン又はその部分ペプチドであることが好ましい。ビメンチンの部分ペプチドとしては、上記「[対象がIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方]」の「(抗体価測定工程)」で例示したものと同様のものが例示される。好ましくは、ビメンチンの部分ペプチドは、配列番号3を含むペプチドである。
ビメンチン又はその部分ペプチドは、支持体に固定化されたものであってもよい。支持体としては、上記「[IgA腎症診断用キット]」の「(ビメンチン又はその部分ペプチド)」で例示したものと同様のものが例示される。
また、ビメンチン又はその部分ペプチドは、標識化されたものであってもよい。標識物質としては、上記「[IgA腎症診断用キット]」の「(ビメンチン又はその部分ペプチド)」で例示したものと同様のものが例示される。
【0065】
本実施形態の診断薬は、IgA腎症を診断するために用いることができる。また、上記実施形態のIgA腎症に罹患している可能性を評価するためのデータを収集する方法、又はIgA腎症に罹患している対象におけるIgA腎症治療法の効果を評価するためのデータを収集する方法を実施するために使用することができる。また、上記実施形態のIgA腎症を有する対象の血液試料を特定する方法を実施するために使用することができる。本実施形態の診断薬は、腎症の疑いのある対象の血液試料から、IgA腎症を有する対象の血液試料を特定又はスクリーニングするための検査薬としても用いることができる。
【0066】
(他の態様)
他の態様において、本発明は、IgA腎症の診断薬を作製するための、ビメンチン又はその部分ペプチドの使用を提供する。
他の態様において、本発明は、ビメンチン又はその部分ペプチドを支持体に固定化する工程を含む、IgA腎症診断薬の製造方法を提供する。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]IgA腎症患者扁桃タンパク質のプロテオミクス解析(二次元電気泳動、ウエスタンブロッティング)
IgA腎症患者から摘出された口蓋扁桃から、組織タンパク質を抽出し、二次元電気泳動及びウエスタンブロッティングにて解析を行った。解析用サンプルの対象患者は、腎生検にてIgA腎症と確定診断され、厚生労働省IgA腎症診療指針に基づき、比較的予後不良又は予後不良と診断された患者である。このうち、口蓋扁桃腫大を認めるか、又は扁桃腫大はないが口蓋扁桃部の細菌培養にてヘモフフィルス・パラインフルエンゼ(Haemophilus parainfluenzae)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の病巣感染を認める患者を対象とした。なお、ネフローゼ症候群や血清Cr2mg/dlの患者は対象外とした。
二次元電気泳動用サンプルの対象としたIgA腎症患者の基礎データを表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
前記対象患者から摘出された口蓋扁桃から、タンパク質を抽出し、二次元電気泳動を行った。予めハサミで小さくカットして-80℃に保存しておいた口蓋扁桃に、2倍量の細胞溶解液(7M尿素,2Mチオ尿素,4%(w/v)硫酸-3-〔(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕-1-プロパン,0.1Mジチオトレイトールにプロテアーゼインヒビター(コンプリート;ロシュ製)及びホスファターゼインヒビター(シグマーアルドリッチ製)を添加した溶液)を加えて、扁桃を超音波破砕した。前記超音波破砕物を、氷上に10分間置いた後、4℃、12000回転で10分間で遠心し、上清を回収した。前記上清のタンパク質定量を行い、400μgタンパク質量を二次元電気泳動に供した。
二次元電気泳動は、クールフォレスターIPG-IEFタイプP(アナテック株式会社製)を用いて行った。
【0071】
400μgタンパク質量のライセートを用いて二次元電気泳動を行った後、泳動後のゲルをサイプロルビー(ロンザ製、スイス)で染色した。これを再可溶化溶液(0.2%ドデシル硫酸ナトリウム,0.3%トリスヒドロキシメチルアミノメタン,0.7%グリシン)を用いて可溶化させた。その後、ゲル上のタンパク質を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(アトー製,日本)に、ウエット式転写システム(アナテック製,日本)を用いて転写した。予め転写したタンパク質のイメージ画像を、フルオロフォレスター3000(アナテック製,日本)を用いて取り込んでおいた。前記タンパク質を転写したPVDF膜を、ブロッキングバッファー(0.05%Tween20を含むリン酸緩衝液に5%スキムミルクを溶解させた溶液)を用いて、4℃で一晩ブロッキングした。その後、IgA腎症患者の血清をイムノショット1液(コスモバイオ製)に1:100で希釈したものを一次抗体として、1時間室温で反応させた。3回洗浄後、ヤギポリクローナル二次抗体ヒト免疫グロブリンG-西洋ワサビペルオキシダーゼ標識(サンタクルズ製)をイムノショット2液に1:8000で希釈したものを二次抗体として、1時間反応させた。これを化学発光で検出した。
【0072】
ウエスタンブロッティングの結果、4症例のIgA腎症患者において、扁桃摘出前の血清で共通に反応するスポットが認められた(図1)。
【0073】
ウエスタンブロッティングで陽性となったスポットに対応するスポットを、フルオロフォレスター3000(アナテック製,日本)を用いて、二次元電気泳動ゲルから切出した。ゲル断片は、50%アセトニトリル及び50%炭酸水素アンモニウムで洗浄した後、100%アセトニトリルで乾燥させてから、5μg/mLトリプシンを用いて30℃で一晩消化した。ゲル断片から抽出したペプチドフラグメントは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(AXIMA Performance;島津製作所製,日本)を用いてペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)解析を行った。タンパク質同定は、マスコットサーチエンジンのスイスプロットのヒトデータベースを用いて行った。その結果、上記IgA腎症患者4例で認められた共通の陽性スポットは、ビメンチンと同定された。
【0074】
(IgA腎症患者の扁桃タンパク質と血清Ig画分の免疫沈降)
IgA腎症患者から摘出された口蓋扁桃から抽出したタンパク質と、同じ患者の血清から取得したIg画分との免疫沈降を行った。免疫沈降の結果得られた免疫沈降物について、二次元電気泳動を行った。
扁桃組織からのタンパク質の抽出は、扁桃に細胞溶解液(0.5%ノニデットP-40,10mMトリス(pH7.4),150mM塩化ナトリウム,0.5mMエチレンジアミン四酢酸に、プロテアーゼインヒビター(コンプリート;ロシュ製)及びホスファターゼインヒビター(シグマーアルドリッチ製)を添加)を加えて、セルデストロイヤー(プロセンス社製)を用いて、扁桃を破砕することにより行った。血清からのIg画分は、Igアデムキット(アデムテック社製,フランス)を用いて調製した。免疫沈降は、ダイナビーズプロテインAを用いてインビトロジェン社のマニュアルに従って行った。
扁桃タンパク質と患者血清Ig画分との免疫沈降物は、溶出緩衝液(150mMグリシン(pH2.5),500mM塩化ナトリウム)を加えて流出させた後、トリス緩衝液(pH7.4)で中和した。これにアセトンを加えてタンパク質を沈殿させた後、膨潤緩衝液に溶解させて、二次元電気泳動を行なった。
二次元電気泳動後のゲルからスポットを切出し、上記と同様に、質量分析計(MALDI-TOF-MS)を用いて、タンパク質の同定を行った。
【0075】
二次元電気泳動後のゲルの例を図2に示す。図2に示す2枚のゲルは、それぞれ、異なる患者のサンプルを解析したものである。質量分析による同定の結果、図2中の四角で囲まれたスポットは、すべてビメンチンと同定された。
【0076】
[実施例2]IgA腎症患者血清における抗ビメンチン抗体価の測定
健常人22名及びIgA腎症患者25名について、血清中のビメンチン抗体価をELISA法により測定した。ELISA法は、以下の通りに行った。
4μg/mLになるようにリコンビナントヒトビメンチン(プロジェン製,ドイツ)をリン酸緩衝液で希釈した溶液を、イムノプレート(ポリソープ;サーモフィッシャー社製,米国)の各ウェルに50μLずつ入れて、4℃で一晩インキュベートした。純水で洗浄後、ブロッキングバッファー(5%スキムミルク及び0.1%Tween20を加えたリン酸緩衝液)50μLを用いて30分間室温でブロッキングした。その後、各ウェルからブロッキングバッファーを抜き取り、リン酸緩衝液で1/100希釈した血清50μLを各ウェルに加えて、室温で1時間反応させた。次いで、各ウェルを洗浄バッファー(0.1%Tween20を加えたリン酸緩衝液)で5回洗浄した。その後、ヤギポリクローナル二次抗体ヒト免疫グロブリンA-西洋ワサビペルオキシダーゼ標識(アブカム製,イギリス)又はヤギポリクローナル二次抗体ヒト免疫グロブリンG-西洋ワサビペルオキシダーゼ標識(サンタクルズ社製)を1:1000にリン酸緩衝液で希釈して各ウェルに添加し、室温で1時間反応させた。次いで、各ウェルを洗浄バッファー(0.1%Tween20を加えたリン酸緩衝液)で5回洗浄した。その後、テトラメチルベンジジン反応液(0.2Mクエン酸緩衝液200mLに、250μLの41mMテトラメチルベンジジン、及び3.5μLの30%過酸化水素水を加えた溶液)50μLを各ウェルに添加して5分間反応させた後、反応停止液(1M硫酸)50μLを加えた。その後、450nmの波長で各ウェルの吸光度を測定した。
【0077】
図3は、健常人及びIgA腎症患者の血清において、抗ビメンチン抗体価を測定した結果である。図3Aは抗ビメンチンIgG抗体価を示し、図3Bは抗ビメンチンIgA抗体価を示す。IgA腎症患者では、健常人と比較して、抗ビメンチンIgG抗体価及びビメンチンIgA抗体価のいずれも有意に高かった。なお、IgA腎症以外の数症例の腎症患者おける血清中の抗ビメンチン抗体価を測定したところ、健常人と有意な差は認められなかった(表2参照)。
また、図4は、IgA腎症患者における抗ビメンチン抗体価の扁桃摘出前後の変化を示すグラフである。図4Aは抗ビメンチンIgG抗体価の変化を示し、図4Bは抗ビメンチンIgA抗体価の変化を示す。抗ビメンチンIgA抗体価は、扁桃摘出前と比較して、扁桃摘出後に有意に低下した。
【0078】
さらに、IgA腎症患者の扁桃摘出前後において、血清中の抗ビメンチンIgA抗体価と、IgA腎症の各種臨床パラメータとの相関関係を調べた。その結果を図5に示す。扁桃摘出前後における抗ビメンチンIgA抗体価の減少率は、尿タンパク質の減少率及びIgA値の減少率と有意な相関を示した。
【0079】
以上の結果より、血清中の抗ビメンチン抗体価は、IgA腎症の診断マーカーとなり得ることが示された。また、抗ビメンチンIgA抗体価は、扁桃摘出前後で、有意に減少し、尿タンパク質及びIgA値の減少率と相関があったことから、治療効果の評価指標となり得ることが示された。
【0080】
[実施例3]IgA腎症以外の腎症患者血清における抗ビメンチン抗体価の測定
血清としてIgA腎症以外の腎症患者の血清を用いたこと以外は、上記実施例2と同様の方法で、ELISA法を行い、抗ビメンチンIgA抗体価を測定した。患者血清として、膜性腎症患者2名、微小変化型ネフローゼ症候群1名、及び糖尿病性腎症1名の血清を用いた。
【0081】
結果を表2に示す。図3B図4Bに示すように、IgA腎症患者における抗ビメンチンIgA抗体価は、概ね0.5以上である。したがって、表2の結果から、IgA腎症以外の腎症患者血清における抗ビメンチンIgA抗体価は、IgA腎症患者における抗ビメンチンIgA抗体価と比較して、低い傾向にあることが確認された。この結果は、抗ビメンチンIgA抗体価が、IgA腎症を他の腎症と識別する診断マーカーとなり得ることを示す。
【0082】
【表2】
【0083】
[実施例4]ビメンチン由来ペプチドを用いたる抗ビメンチン抗体価の測定
(ペプチドの合成)
IgA腎症患者の扁桃のタンパク質とIgA腎症患者血清とを免疫沈降し、得られた免疫沈降物を、質量分析計(MALDI-TOF-MS)を用いて解析した。その結果、IgA腎症患者血清が、配列番号3で表されるペプチドを認識していることが示唆された。図6は、ヒトビメンチンタンパク質の全長アミノ酸配列(配列番号2)と、IgA患者血清が認識するペプチド(図6中の太字下線部分;配列番号3)を示す。下記ELISA試験に供するために、前記配列番号3で表される22アミノ酸からなるペプチドを合成した。
【0084】
(ELISA試験による評価)
前記ペプチドを10μg/mLとなるように希釈した溶液を抗原として、ELISA用プレートであるMAXISORP(Thermo scientific)に塗布した。次いで、1/100倍希釈した患者血清を抗体として、ELISA法を行った。ELISA法における各操作は、前記実施例2と同様に行った。患者血清として、IgA腎症患者32名、IgA腎症以外の腎症患者13名の血清を用いた。
【0085】
結果を図7に示す。前記ペプチドは、患者血清と抗原抗体反応を示した。t検定を行った結果、IgA腎症患者とその他の腎症患者とでは、前記ペプチドに対する反応性が有意に異なっていた(P=0.0112)。IgA腎症患者血清では、前記ELISAによる測定値が非常に高い値を示す患者血清が数例あった。これらのIgA腎症患者血清は、リコンビナントヒトビメンチンを用いた実施例2におけるELISAにおいて高い値であったIgA腎症患者血清と一致していた。
以上の結果から、前記ペプチドは、血清中の抗ビメンチン抗体と結合することが確認され、血清中の抗ビメンチン抗体価の測定に使用できることが示された。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
【配列表】
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