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特許7307498ジペプチジルケトアミドメタ-メトキシフェニル誘導体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】ジペプチジルケトアミドメタ-メトキシフェニル誘導体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/166 20060101AFI20230705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230705BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20230705BHJP
   C07C 237/22 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K31/166
A61P43/00 111
A61P9/10
A61P25/28
A61P29/00
A61P35/00
A61P33/06
A61P13/12
A61P31/18
C07C237/22 CSP
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020561763
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019061369
(87)【国際公開番号】W WO2019211434
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】18382306.1
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517080522
【氏名又は名称】ランドステイナー ジェンメド、エセ.エレ.
【氏名又は名称原語表記】LANDSTEINER GENMED, S.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】リェナス カルボ、ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】ロヨ エスポシト、ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】エレスカノ ドナイレ、ウナイ
(72)【発明者】
【氏名】バスケス タタイ、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】メルガレホ ディアス、マルタ
(72)【発明者】
【氏名】バランコ ガジャルド、マルタ イサベル
(72)【発明者】
【氏名】メディナ フエンテス、エバ マリア
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532371(JP,A)
【文献】特表2003-534233(JP,A)
【文献】国際公開第2012/021788(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/056519(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/078908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防のための、下記式(I)の化合物:
【化1】
[式中、
は、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
は、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
は、C~CアルコキシおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択される。]、
またはその薬学的に許容される塩もしくは立体異性体を含む医薬。
【請求項2】
式(I)の化合物において、
が、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
が、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
が、C~CアルコキシおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択される、
請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
式(I)の化合物において、Rが、メチル、イソプロピル、およびシクロプロピルからなる群より選択される、請求項1または2のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項4】
式(I)の化合物において、Rが、Hおよびメチルからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項5】
式(I)の化合物において、Rが、シクロプロピルおよびメトキシからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項6】
式(I)の化合物が、下記からなる群:
【化2】
から選択される化合物、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
式(I)の化合物が、下記からなる群:
【化3】
から選択される化合物、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項8】
式(I)の化合物が、下記からなる群:
【化4】
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項9】
前記疾患または状態が、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
前記心臓損傷が、心筋梗塞の後のリモデリングである、請求項9に記載の医薬。
【請求項11】
前記神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、急性自己免疫性脳炎、およびクロイツフェルト-ヤコブ病からなる群より選択され;および/または、前記癌が、乳癌、結腸直腸癌、および白血病からなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項12】
前記線維性疾患が、心筋繊維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、および後腹膜線維症からなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項13】
下記式(II)の化合物:
【化5】
[式中、
1aは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
2aは、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
3aは、C~Cシクロアルキルである。]、
またはその薬学的に許容される塩もしくは立体異性体。
【請求項14】
が、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
が、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
が、C~Cシクロアルキルである、
請求項13に記載の式(I)の化合物。
【請求項15】
が、メチル、イソプロピル、およびシクロプロピルからなる群より選択される、請求項13または14のいずれか一項に記載の式(II)の化合物。
【請求項16】
が、Hおよびメチルからなる群より選択される、請求項13~15のいずれか一項に記載の式(II)の化合物。
【請求項17】
が、シクロプロピルである、請求項13~16のいずれか一項に記載の式(II)の化合物。
【請求項18】
下記からなる群:
【化6】
から選択される請求項13~17のいずれか一項に記載の式(II)の化合物またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項19】
下記からなる群:
【化7】
から選択される請求項13~18のいずれか一項に記載の式(II)の化合物またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩。
【請求項20】
下記からなる群:
【化8】
から選択される請求項13~19のいずれか一項に記載の式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項21】
請求項13~20のいずれか一項に記載の式(II)化合物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項22】
医薬品における使用のための、請求項13~20のいずれか一項に記載の式(II)の化合物を含む薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルケトアミドm-メトキシフェニル誘導体、ならびに高いカルパイン活性に関連する疾患および状態、例えば、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷、神経変性障害、マラリア、糖尿病性腎症、HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性、癌、および線維性疾患など、の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カルパインは、哺乳動物および他の多くの生物において遍在的に発現するカルシウム依存性非リソソームシステインプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)のファミリーに属する細胞内タンパク質である。2つの主要形態、すなわち、μ-カルパインおよびm-カルパインとしても知られるカルパイン1およびカルパイン2が報告されているが、さらなるカルパインイソ酵素も想定される(M.E.Saez et al.;Drug Discovery Today 2006,11(19/20),pp.917-923)。
【0003】
カルパインは、異なる調節タンパク質の切断を含む様々な生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たす(K.K.Wang et al.,Trends in Pharmacol.Sci.1994,15,pp.412-419)。
【0004】
高いカルパインレベルは、様々な病態生理学的プロセス、例えば、心臓、腎臓、肺、肝臓、または中枢神経系における虚血、炎症、筋ジストロフィー症、眼の白内障、糖尿病、HIV障害、中枢神経系への損傷(例えば、脳損傷)、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症など(上記のK.K.Wangを参照されたい)、ならびにマラリアなどの感染病、において測定されてきた(IM Medana et al.,Neuropath and Appl.Neurobiol.2007,33,pp.179-192)。これらの疾患と全般的または持続的に高い細胞内カルシウムレベルとの間に関連性があることが想定される。これは、結果として、過剰活性化され、もはや正常な生理学的制御を受けない、カルシウム依存性プロセスを生じる。カルパインにおける対応する過剰活性化は、病態生理学的プロセスの引き金にもなり得る。この理由で、カルパインの阻害は、これらの疾患の治療にとって有用であり得るであろうことが想定された。
【0005】
Yoshida,Ken Ischiら(Jap.Circ.J.1995,59(1),pp.40-48)は、カルパイン阻害剤が、虚血または再潅流によって生じる心臓障害後における好ましい効果を有することを教示した。最近、カルパインが、心筋虚血-再潅流の際に活性化し、再潅流損傷に貢献すること、ならびに梗塞後リモデリングおよび心不全へのカルパインの関与について開示された。急性心筋梗塞の後、全体的な心臓は、梗塞後心筋リモデリングと呼ばれる一連の構造変化を受け、それは、心不全の発生につながる。心室リモデリングは、拡張、肥大、および離散的コラーゲン瘢痕の形成を含む。カルパイン活性の調節異常は、再潅流損傷および心筋リモデリングにおいて重要な役割を果たし、それは、カルパインの阻害が潜在的治療戦略であることを示唆している(Ye et al.,PLoS ONE,2015,10(3),e0120178;Kudo-Sakamoto et al.,Journal Biological Chemistry,2014,289(28),pp.19408-19419)。Neuhofら(World J Cardiol,2014,6(7),638-652) は、心筋梗塞、血管再生、および心冠手術を有する患者のための新規の予防的および治療的可能性としてのカルパイン阻害剤について報告している。Poncelasら(Cardiovascular Research,2017,113(8),pp.950-961)によって報告された研究は、カルパインのこの役割を追認し、カルパインの持続的薬理学的阻害剤が、有害な不完全骨折後のリモデリングに対する有望な治療戦略であることを示している。
【0006】
カルパイン阻害剤が、急性神経変性障害または虚血、例えば、卒中発作後に生じる虚血など、において、神経保護的効果を提供することも明らかにされている(Seung-Chyul Hong et al.,Stroke 1994,25(3),pp.663-669,and R.T.Bartus et al.,Neurological Res.1995,17,pp.249-258)。
【0007】
実験的脳損傷に続いて、カルパイン阻害剤が、記憶性能欠損および神経運動障害からの回復を向上させること(K.E.Saatman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996,93,pp.3428-3433)、ならびにカルパイン阻害剤が、低酸素障害を受けた腎臓に対して保護効果を有すること(C.L.Edelstein et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,92,pp.7662-6)も明らかにされている。
【0008】
より最近の研究では、カルパスタチン(カルパインの天然阻害剤)が、多くの疾患、例えば、a)実験的糸球体腎炎(J.Peltier et al.,J A,Soc Nephrol.2006,17,pp.3415-3423)、b)アンジオテンシンII誘発高血圧症における心臓血管リモデリング、c)スローチャネル型先天性筋無力症における損なわれたシナプス伝達(Groshong JS et al.,J Clin Invest.2007,117(10),pp 2903-2912)、d)ミトコンドリア経路による興奮毒性DNA断片化(J Takano et al.,J Biol Chem.2005,280(16) pp.16175-16184)、およびe)ジストロフィー筋における壊死性プロセス(M J Spencer et al.,Hum Mol Gen,2002,11(21),pp 2645-2655)など、において、活性化されたカルパインの病態生理学的効果を著しく弱めることを示している。
【0009】
カルパインが、アルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)と関係があることも知られている(Nixon R.A.,「The calpains in aging and aging-related diseases」,Ageing Res Rev.2003 Oct;2(4):407-18)。カルパイン1は、AD脳において異常に活性化される(Saito K,et al.「Widespread activation of calcium-activated neutral proteinase(calpain) in the brain in Alzheimer disease:a potential molecular basis for neuronal degeneration」,Proc Natl Acad Sci USA.1993 Apr 1;90(7):2628-32)。カルパインの内因性阻害物質であるカルパスタチンは、同じ神経変性障害において著しく減少する(Nixon R.A.,「The calpains in aging and aging-related diseases」,Ageing Res Rev.2003 Oct;2(4):407-18)。異常に高いカルシウム濃度およびカルパスタチン枯渇によって誘発されるカルパイン過剰活性化は、ADにおける重要な神経タンパク質の限定的な切断または分解を引き起こす(Wang KK,「Calpain and caspase:can you tell the difference?」,Trends Neurosci.2000 Jan;23(1):20-6)。カルパインは、ADにおいて基本的な役割を果たすと考えられるポリペプチドであるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)のタンパク質分解プロセシングを間接的に調節する(Siman R.at al.「Proteolytic processing of beta-amyloid precursor by calpain I」,J Neurosci.1990 Jul;10(7):2400-11)。
【0010】
ADにおいて影響を受ける他のカルパイン基質としては、APPリン酸化を調整し、その代謝作用に影響を及ぼす2つの酵素、CaMキナーゼIIα(CaMK-IIα)およびPKC(Wang KK et al.,「Development and therapeutic potential of calpain inhibitors」 Adv Pharmacol.1997;37():117-52);二次メッセンジャー関連酵素、例えば、ホスホリパーゼC-1、-2、-β3(Banno Y.et al,「Endogenous cleavage of phospholipase C-beta 3 by a gonist-induced activation of calpain in human platelets」,J Biol Chem.1995 Mar 3;270(9):4318-24)、およびサイクリン依存性キナーゼ5(Cdk-5)(Lee MS .et al,「Neurotoxicity induces cleavage of p35 to p25 by calpain」,Nature.2000 May 18;405(6784):360-4);c-Jun、c-Fos、およびIκBなどの転写因子(Carillo S,「Differential sensitivity of FOS and JUN family members to calpains」,Oncogene.1994 Jun;9(6):1679-89およびLin YC,「Activation of NF-kappa B requires proteolysis of the inhibitor I kappa B-alpha:signal-induced phosphorylation of I kappa B-alpha alone does not release active NF-kappa B」,Proc Natl Acad Sci U S A.1995 Jan 17;92(2):552-6);ならびに記憶関連遺伝子であるcAMP調節性要素結合タンパク質(cAMP regulatory element-binding:CREB)(Mbebi C,「Amyloid precursor protein family-induced neuronal death is mediated by impairment of the neuroprotective calcium/calmodulin protein kinase IV-dependent signalling pathway」,J Biol Chem.2002 Jun 7;277(23):20979-90)が挙げられる。最近、AMPA受容体(24)、アンフィフィシンI(25)、および視交差上核概日性振動タンパク質(suprachiasmatic nucleus circadian oscillatory protein)(26)のGluR1サブユニットに対するカルパイン作用が、シナプス活動および記憶形成を調節することが示されている。
【0011】
増加する証拠は、ADにおける認識機能障害が神経性細胞死のかなり前に始まること、およびニューロンの間のシグナル伝達が、この疾患の初期段階において妨げられることを示唆している。ADにおけるシナプス変性の重要性は、ADの遺伝子導入マウスモデルに対する研究(Sant’Angelo A,「Usefulness of behavioral and electrophysiological studies in transgenic models of Alzheimer’s disease」,Neurochem Res.2003 Jul;28(7):1009-15)ならびに、広く研究された学習および記憶の細胞モデルである、長期増強作用(long-term potentiation:LTP)のアミロイド-βペプチド-誘発(Aβ-誘発)障害(Bliss TV.et al,「A synaptic model of memory:long-term potentiation in the hippocampus」;Collingridge GL Nature.1993 Jan 7;361(6407):31-9)によって確認されている。
【0012】
その上、カルパインは、ADに関連する別のタンパク質であるタウのリン酸化およびタンパク質分解に影響を及ぼす(Wang KK,「Calpain and caspase:can you tell the difference?」,Trends Neurosci.2000 Jan;23(1):20-6)。さらに、リン酸化されたタウの蓄積は、既知のアミロイド斑と一緒に、アルツハイマー病の病理学的な顕著な特徴を表す、いわゆる神経原線維変化(NFT)の形成につながる。一般的に、タウタンパク質における同様の変化は、他の(ニューロ)変性疾患、例えば、後続の卒中、脳の炎症、パーキンソン病、正常圧水頭、およびクロイツフェルト-ヤコブ病など、においても観察されるタウオパチーのような重要な特徴を意味する。
【0013】
神経変性プロセスにおけるカルパインの関与は、カルパインの特異的な天然阻害物質であるカルパスタチンにより、遺伝子導入マウスにおいて実証されている(Higuchi et al.;J.Biol.Chem.2005,280(15),pp.15229-15237)。多発性硬化症のマウスモデルにおいて急性自己免疫性脳脊髄膜炎の臨床的兆候を著しく減じることが、カルパイン阻害剤によって可能であった(F.Mokhtarian et al.;J.Neuroimmunology 2006,Vol.180,pp.135-146)。さらに、一方で、カルパイン阻害剤がニューロンのA@-誘発変性を妨げること(Park et al.;J.Neurosci.2005,25,pp.5365-5375)、さらに、βアミロイド前駆体タンパク質(βAPP)の放出を減少させること(J.Higaki et al.,Neuron,1995,I4,pp.651-659)も示されている。
【0014】
この背景において、カルパイン阻害剤は、一般的なおよび特定のアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、急性自己免疫性脳炎、およびクロイツフェルト-ヤコブ病、における神経変性障害の治療のための新規の治療原理を代表するものである。
【0015】
HIV誘発神経毒性がカルパインによって媒介されることも実証されており(O’Donnell et al.;J.Neurosci.2006,26(3),pp.981-990)、ならびにHIVウイルスの複製におけるカルパインの関与も示されている(Teranishi et al.;Biochem.Biophys.Res.Comm.2003,303(3),pp.940-946)。
【0016】
慢性腎臓病など腎臓病、例えば、糖尿病性腎症などの発症におけるカルパインの関与も、最近、実証された。したがって、天然カルパイン阻害物質であるカルパスタチンが、腎虚血再潅流の際に下方調節されることが、Y.Shiらによって動物モデルにおいて実証された(Am.J.Physiol.Renal Physiol.2000,279,pp.509-517)。その上、A Dnyanmote et al.,Toxicology and Applied Pharmacology 2006,215,pp.146-157は、カルパスタチンの過剰発現によるカルパインの阻害が急性腎不全におけるDCVC誘発腎損傷の進行を低下させることを示している。さらに、Peltierらは、カルパインの活性化および分泌が実験的糸球体腎炎において糸球体障害を促進することを実証した(J.Am.Soc.Nephrol.2006,17,pp.3415-3423)。カルパイン阻害剤が、腎臓虚血再潅流によって生じた腎機能障害および腎損傷を減らし、結果として、大動脈血管手術または腎臓移植に関連した腎損傷に対する腎臓の耐性を増強させる上で有用であり得ることも示されている(P.Chatterjee et al.,Biochem.Pharmacal.2005,7,pp.1121-1131)。これに基づいて、カルパイン阻害剤は、慢性腎臓病などの腎臓病、例えば、糖尿病性腎症など、の治療において治療原理的に有益であると考えられ得る。
【0017】
カルパインは、寄生活動にとって必須な主要媒介物質としても識別された。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)およびトキソプラズマ・ゴンディ(toxoplasma gondii)のような寄生虫は、細胞内寄生菌含有空胞および/または宿主原形質膜から逃れるのを容易にするために、宿主細胞のカルパインを利用する。低浸透圧的に溶解され再封された赤血球におけるカルパイン-1の阻害は、熱帯熱マラリア原虫寄生虫の脱出を防具が、それは、精製されたカルパイン-1を加えることによって回復された。同様に、哺乳類線維芽細胞からのトキソプラズマ・ゴンディの効率的な脱出は、低分子干渉RNA媒介抑制またはカルパイン活性の遺伝子欠失のどちらかによって妨げられるが、遺伝的相補性によって回復され得た(D.Greenbaum et al.,Science 324,794(2009))。宿主細胞から脱出に失敗した寄生虫は、増殖することができないため、それは、抗寄生虫治療のための戦略を示唆するものである。カルパインの薬理学的阻害は、抗マラリア活性を発揮することが示されており、したがって、マラリアまたはトキソプラズマ症のような抵抗感染(protest infection)によって引き起こされる疾患などの抗寄生虫戦略のための新規の戦略を提示する(Li et al.,Mol Biochem Parasitol.2007;155(1):26-32;Jung et al.Archives of Pharmacal Research(2009),32(6),899-906,Chandramohanadas et al.Science(2009),324,794)。
【0018】
カルパイン、特にカルパイン1およびカルパイン2が、乳癌、結腸直腸癌、および白血病などの多種多様な一般的な癌に関与することも報告されている(Leloup and Wells,Expert Opin Ther Targets.,2011,15(3),309-323;Storr et al.,Nat Rev Cancer.,2011,11(5),364-374;Storr et al.,Pathobiology.,2015,82(3-4),133-141;Selvakumar and Sharma,Experimental Therapeutic Medicine,2010,1,413-417;Storr et al.,Oncotarget,2016,30(7),47927-47937;and Guan et al.,Proc Amer Assoc Cancer Res.,2005,46)。カルパイン1および2は、細胞形質転換を可能にすることによる癌の発症および進行、腫瘍細胞の転移および浸潤、ならびに腫瘍の新生血管形成に関与する。これらの報告は、多数の腫瘍細胞が、これらのカルパインにおける異常に高い活性を示すことについても言及している。したがって、カルパイン活性を阻害することは、当該細胞の変容および増殖、ならびに腫瘍の血管新生を阻害することによって腫瘍の発症を妨げるための効率的な方法であろう。
【0019】
線維化は、、瘢痕組織(コラーゲンリッチな細胞外マトリックス)を構成する細胞外マトリックス分子の蓄積を意味し、線維性疾患の共通の特徴である。線維性疾患は、任意の臓器、例えば、腎臓、肝臓、肺、皮膚、心臓、および眼など、に影響を及ぼし得、臓器機能不全および臓器不全症ならびに可能性として死亡につながる。上皮臓器、特に肺、肝臓皮膚、および腎臓において、コラーゲンリッチな瘢痕組織への細胞の正常な機能ユニットの置換および瘢痕組織退縮によって生じる構造的歪みは、臓器機能の進行性消失および最終的な不全症における主要な要因である[Friedman et al.Science Translational Medicine,2013,5,167]。カルパイン活性は、損傷修復および瘢痕形成において必須として説明されている[Nassar et al.,PLoS ONE,2012,7(5),e37084]。カルパインは、線維性疾患、例えば、中でも特に、肝線維症(アルコール性、ウイルス性、自己免疫性、代謝性、および遺伝性の慢性病)、腎線維症(例えば、慢性炎、感染病、またはII型糖尿病から生じる)、肺線維症(特発性の、あるいは外界からの刺激、中でも特に、有毒な粒子、類肉腫症、石綿肺症、過敏性肺臓炎、結核などの細菌感染など、よって生じる)、間質性線維症、汎発性強皮症(多くの臓器が線維化する自己免疫疾患)、黄斑変性(眼の線維性疾患)、膵臓線維化(例えば、アルコール乱用、および脾臓の慢性炎症性疾患などから生じる)、脾臓の線維化(鎌状赤血球貧血および他の血液疾患に由来する)、心筋繊維症(感染病、炎症、および肥大から生じる)、縦隔線維症、骨髄繊維症、心内膜線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、手術、特に外科的移植の線維性併発症、注射線維症(injection fibrosis)ならびに線維症の二次症状および疾患状態、例えば、肝臓硬変症、びまん性実質性肺疾患、精管切除後疼痛症候群および関節線維化など、にも関与しているとして報告された[WO2017/156074A1;Buckman et al.,Am J Respir Crit Care Med,2018,197,A5747;Potz et al.,J Nat Sci 2016,2(9),e218;Ono et al.,Nature Reviews Drug Discovery,2016,15,854-876]。特定のカルパイン阻害剤、BLD-2660が、現在、線維症のためのフェーズ1臨床試験を受けている。したがって、カルパイン活性を阻害することは、線維性疾患を抑制するための効果的な戦略であろう。
【0020】
WO2004/078908A2およびWO2005/056519A1では、アルツハイマー病を含む様々な疾患の治療においてカルパイン1を阻害する可能性を有するカルパイン阻害剤が開示されている。特に、コードネームSNJ-1945が割り当てられたWO2005/056519A1の実施例17は、インビボでの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)臨床スコアを低下させる点において有効であることが証明された(Trager N.et al.,「Effects of a novel orally administered calpain inhibitor SNJ-1945 on immunomodulation and neurodegeneration in a murine model of multiples sclerosis」,J.Neurochem.2014 July;130(2):268-279)。
【0021】
高いカルパイン活性に関連する疾患または状態、例えば、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患など、を抑制するための新規の戦略が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、フェニル環のメタ位にメトキシ基を有する式(I)の化合物が、強力なカルパイン-1阻害剤であることを見出した。この基の当該位置は、比較例に示されるように、カルパイン-1阻害において高い効力を実現するために最も重要である。したがって、式(I)のこれらの化合物は、高いカルパイン活性に関連する疾患または状態、例えば、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;および癌など、の治療および/または予防にとって有用である。
【0023】
第一の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防における使用のための、式(I)の化合物:
【化1】
[式中、
は、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
は、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
は、C~CアルコキシおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択される]、またはその薬学的に許容される塩もしくは立体異性体に関する。
【0024】
第二の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防における使用のための、第一の態様において定義される式(I)の化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0025】
別の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防のための医薬品の製造のための、第一の態様において定義される式(I)の化合物または当該化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物の使用に関する。
【0026】
別の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌、および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防の方法であって、治療有効量の、第一の態様において定義される式(I)の化合物または当該化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法に関する。
【0027】
さらなる態様において、本発明は、式(II)の化合物:
【化2】
[式中
1aは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
2aは、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
3aは、C~Cシクロアルキルである]、またはその薬学的に許容される塩もしくは立体異性体に関する。
【0028】
別の態様において、本発明は、第三の態様において定義される式(II)の化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0029】
別の態様において、本発明は、医薬品における使用のための、特に、高いカルパイン活性に関連する疾患または状態;好ましくは、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防のための、第三の態様において定義される式(II)の化合物または第四の態様において定義される医薬組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
いくつかの定義が、本発明の理解を容易にする目的において含まれる。
【0031】
用語「アルキル」は、本明細書において単独でまたは別の基の一部として用いられる場合、各場合において示される数の炭素原子、典型的には1個から6個の炭素原子、好ましくは1個から3個の炭素原子、を含む、直鎖状または分岐鎖状の一価の飽和炭化水素鎖を指定する。アルキルの例は、メチル、エチル、プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチルなどである。
【0032】
用語「アルコキシ」は、本明細書において単独でまたは別の基の一部として用いられる場合、酸素を介して結合した上記において定義されるアルキル基、すなわち、アルキル-O-、を指定する。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、tert-ブトキシなどが挙げられる。
【0033】
用語「シクロアルキル」は、本明細書において単独でまたは別の基の一部として用いられる場合、飽和した、または部分的に飽和した、好ましくは飽和した、単環基であって、炭素原子および水素原子のみからなり、各場合において示される数の炭素原子、典型的には3個から6個、好ましくは3個から5個、を含む、単環基を指定する。シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルである。
【0034】
用語「塩」は、イオン形態であるか、または荷電されて対イオン(カチオンまたはアニオン)と結合しているか、または溶存する、本発明による化合物の任意の形態として理解されなければならない。この定義は、四級アンモニウム塩も包含する。この定義は、特に薬学的に許容される塩を包含する。
【0035】
用語「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容される塩基の付加によって酸部分を有する親化合物から合成されるかまたは薬学的に許容される酸の付加によって塩基部分を有する親化合物から合成される、薬学的に許容される酸または塩基による塩を包含する。薬学的に許容される酸としては、無機酸、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、および硝酸など、ならびに、有機酸、例えば、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、アスコルビン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸(メシレート)、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸(ベシレート)、またはp-トルエンスルホン酸(トシレート)など、の両方が挙げられる。薬学的に許容される塩基としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)水酸化物およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)水酸化物、ならびに有機塩基、例えば、アルキルアミン、アリールアルキルアミン、および複素環式アミンなど、が挙げられる。例えば、本明細書において提供される化合物の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基部分または酸部分を含む親化合物から合成される。一般的に、そのような塩は、例えば、これらの化合物の遊離塩基形態または遊離酸形態を、化学量論的な量の好適な酸または塩基と、水中または有機溶媒中またはこれら2つの混合液中において反応させることによって調製される。
【0036】
本発明の化合物の全ての立体異性体は、単独またはその混合物のどちらかが想到される。当該調製プロセスは、出発材料として、ラセミ体、エナンチオマー、またはジアステレオマーを用いることができる。ジアステレオマーまたはエナンチオマー生成物を調製する場合、それらは、従来的な方法、例えば、クロマトグラフまたは機能的結晶化など、によって分離することができる。
【0037】
特に記載されない限り、本発明の化合物はさらに、一つまたは複数の同位体濃縮原子の存在することのみにおいて異なる化合物も包含することが意図される。例えば、ジュウテリウムまたはトリチウムによる水素原子の置換、あるいは13Cもしくは14C濃縮炭素または15N濃縮窒素との炭素の置換を除いて、本発明の構造を有する化合物は、本発明の範囲内にある。
【0038】
本発明のある特定の化合物は、非溶媒和形態ならびに、水和形態を含む溶媒和形態において存在することができる。一般的に、溶媒和形態は、非溶媒和形態と同等であり、本発明の範囲内に包含される。
【0039】
本発明のある特定の化合物は、多結晶形態または非晶形態において存在し得る。一般的に、全ての物理的形態は、本発明によって想到される使用にとって同等であり、本発明の範囲内であることが意図される。
【0040】
用語「予防」は、本明細書において使用される場合、疾患または状態の初期または早期の段階における本発明の化合物の投与、あるいはその発症を防ぐことを意味する。
【0041】
用語「治療」は、臨床徴候が現れる前または後に障害の進行を抑制するための、本発明の化合物の投与を指定するために使用される。障害の進行の抑制とは、これらに限定されるわけではないが、症状の軽減、障害の期間の短縮、病理的状態の安定化(詳細には、さらなる悪化の回避)、障害の進行の鈍化、病理的状態の改善、ならびに寛解(部分的または全体的)などの、有益なまたは所望の臨床結果を指定することが意図される。
【0042】
用語「対象」は、本明細書において使用される場合、本明細書において開示される疾患または状態のうちの1つを患っている任意の動物またはヒトを意味する。好ましくは、当該対象は、哺乳動物である。用語「哺乳動物」は、本明細書において使用される場合、これらに限定されるわけではないが、家畜および農場動物(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、または齧歯動物)、霊長動物、およびヒトを含む任意の哺乳類種を意味する。好ましくは、当該哺乳動物はヒトである。
【0043】
用語「心臓損傷」は、本明細書において使用される場合、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓組織、例えば、リモデリングなど、を意味する。
【0044】
用語「リモデリング」は、本明細書において使用される場合、心外傷の結果として生じる、心臓のサイズ、形状、または機能における変化、例えば、腔直径、質量(肥大または萎縮)、幾何学的形状(心臓の壁厚および形状)、瘢痕組織の面積、線維症、および炎症性浸潤における変化など、として臨床的に現れる、分子、細胞、および間質における変化の群を意味する。心機能不全は、心室機能不全の発症および進行に対する病態生理学的基質からなる心臓リモデリングの主な結果である。この相互作用は、胎児性遺伝子の再発現を伴う、心外傷に対応する遺伝的変化から始まる。その結果、細胞変化および分子変化が生じ、結果として、心室機能の進行性消失をもたらし、それは、最初は無症状で、心臓麻痺の徴候および症状へと進行する。心臓リモデリングは、持続性心室頻拍および心室細動を含む、悪性の心室性不整脈に関連している。冠動脈閉塞のあとの最初の1時間において、原線維間コラーゲンの崩壊が、筋細線維の壊死と同時に起こり得る。持続性組織の消失は、この領域を、拡張および変形に対してより影響され易くする。梗塞領域の肉薄化および腔の肥大は、壊死した筋肉細胞のズレおよび梗塞した壁の向こう側における筋肉細胞の再編成の結果として生じる。肉薄化および梗塞の延びによって特徴付けられるこの急性脳室拡張は、梗塞拡大と呼ばれる。梗塞拡大は、心筋断裂の可能性を増加させ、心室瘤に対する解剖学的基質を表す。
【0045】
用語「神経変性障害」は、本明細書において使用される場合、ニューロン細胞の進行性変性および/または死亡を結果として生じる障害を意味する。神経変性障害の例は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、急性自己免疫性脳炎、およびクロイツフェルト-ヤコブ病である。
【0046】
用語「癌」または「腫瘍」は、本明細書において使用される場合、無秩序な細胞成長を伴う疾患の広範な群を意味し、悪性新生物とも呼ばれる。通常、当該用語は、制御できない細胞分裂によって(または生存性もしくはアポトーシス抵抗性の増大によって)、および当該細胞が他の隣接する組織に浸潤して(浸潤)、腺病質および血管を通って当該細胞が通常は位置していない身体の他の領域へと広がり、血流によって循環し、身体の他の場所の正常組織へと侵入する能力によって特徴づけられる疾患に対して適用される。それらが浸潤および転移によって広がることができるか否かに応じて、腫瘍は、良性または悪性として分類され、良性腫瘍は、浸潤または転移によって広がることができない腫瘍であり、すなわち、それらは、局所的に成長するだけであり、その一方で、悪性腫瘍は、浸潤および転移によって広がることができる腫瘍である。癌に関連していることが知られている生物学的プロセスとしては、脈管形成、免疫細胞浸潤、細胞移動、および転移が挙げられる。癌は、通常、以下の特徴のいくつかを共有する;増殖性シグナルリングの持続、増殖抑制因子の回避、細胞死に対する抵抗、複製的不死の可能化、脈管形成の誘起、ならびに賦活性浸潤および最終的な転移。癌は、身体における近い部分に浸潤し、リンパ系または血流によって身体のより遠い部分へも広がり得る。癌は、腫瘍細胞が類似する細胞のタイプによって分類され、したがって、それらは、腫瘍の起源であると推測される。
【0047】
本発明の医療使用によって治療または予防することができる癌は、固形腫瘍、例えば、結腸直腸癌、乳癌、肺癌、膵癌、喉頭癌、舌癌腫、卵巣癌、前立腺癌、肝臓癌、頭部および頸部癌、食道癌、腺癌、汗腺癌種、脂腺癌種、乳頭癌種、乳頭状腺癌種、嚢胞腺癌種、髄様癌種、気管支原生癌種、腎細胞癌種、肝細胞癌、胆汁腺管癌種、絨毛癌種、精上皮腫、未分化胚細胞腫、胎生期癌種、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、膀胱癌、上皮癌種、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、稀突起神経膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜胚種細胞腫、および白血病;
好ましくは乳癌、結腸直腸癌、および白血病である。
【0048】
用語「白血病」は、本明細書において使用される場合、造血性組織に由来する、芽球と呼ばれる未成熟な白血球の異常増加によって特徴づけられる、血液または骨髄の癌のタイプを意味する。白血病は、血球細胞を成長させ、通常は白血球を成長させ、悪性(癌性)変化を受ける、骨髄において始まる。これは、それらが、骨髄を混雑させて、正常な血球細胞の産生を妨げる、制御できない方法において増殖することを意味する。芽球細胞または血病性芽球と呼ばれる、増加した数の異常細胞は、最終的に骨髄からあふれ出し、血流によって身体中へと移動する。場合によって、これらの異常細胞は、リンパ節、脾臓、肝臓、および中枢神経系(脳および脊髄)を含む様々な臓器に蓄積する。白血病には4つの主要な種類があり、すなわち、急性リンパ芽球性白血病、すなわち、ALL;急性骨髄性白血病、すなわち、AML;慢性リンパ性白血病、すなわち、CLL;慢性骨髄性白血病、すなわち、CML、である。
【0049】
用語「線維性疾患」は、本明細書において使用される場合、臓器または組織における過剰な線維性結合組織の形成を伴う疾患の群を意味する。線維症は、結果として、罹患組織の瘢痕化および肉厚化を生じる。線維症は、身体の多くの組織において生じ得、結果として、様々な線維性疾患例えば、心臓の線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、後腹膜線維症、過敏性肺臓炎、間質性線維症、汎発性強皮症、黄斑変性、膵臓線維症、脾臓の線維症、縦隔線維症、骨髄繊維症、心内膜線維症、進行性塊状線維症、腎性の全身性線維症、手術の線維性併発症、移植器官における慢性異系移植片脈管障害および/または慢性拒絶反応、虚血性再灌流傷害関連の繊維症、注射線維症、肝臓硬変症、びまん性実質性肺疾患、精管切除後疼痛症候群、および関節線維化など、を生じる。好ましくは、当該線維性疾患は、心筋繊維化、肺線維症、肝線維症、腎線維症、または後腹膜線維症を意味する。
【0050】
式(I)の化合物
第一の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防における使用のための、下記式(I)の化合物:
【化3】
[式中
は、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
は、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
は、C~CアルコキシおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択される]、またはその薬学的に許容される塩もしくは立体異性体を提供する。
【0051】
特定の実施形態において、Rは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より;好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、およびシクロペンチルからなる群より;より好ましくは、メチル、イソプロピル、およびシクロプロピルからなる群より;さらにより好ましくは、イソプロピルおよびシクロプロピルからなる群より選択され;最も好ましいのは、シクロプロピルである。
【0052】
別の特定の実施形態において、Rは、HおよびC~Cアルキルからなる群より;好ましくは、H、メチル、エチル、プロピル、およびイソプロピルからなる群より;より好ましくは、Hおよびメチルからなる群より選択され;最も好ましくは、Hである。
【0053】
別の特定の実施形態において、Rは、C~CアルコキシおよびC~Cシクロアルキルからなる群より;好ましくは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、シクロプロピル、シクロブチル、およびシクロペンチルからなる群より;さらにより好ましくは、メトキシおよびシクロプロピルからなる群より選択され;最も好ましくは、シクロプロピルである。別の特定の実施形態において、Rは、C~Cシクロアルキル;好ましくはC~Cシクロアルキル;好ましくはシクロプロピル、シクロブチルまたはシクロペンチルであり;最も好ましくは、シクロプロピルである。
【0054】
特定の実施形態において、Rは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され;Rは、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され;ならびにRは、C~CアルコキシおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択される。
【0055】
別の特定の実施形態において、Rは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され;Rは、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され;ならびにRは、C~Cシクロアルキルである。
【0056】
別の特定の実施形態において、Rは、イソプロピルおよびシクロプロピルからなる群より選択され;RはHであり;ならびにRはシクロプロピルである。
【0057】
特定の実施形態において、式(I)の化合物は、下記式(Ia)の化合物:
【化4】
[式中、R、R、およびRは、式(I)の化合物と同じ意味を有する]、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である。
【0058】
特定の実施形態において、式(I)の化合物の特異的立体異性体は、下記式(Ib)の化合物:
【化5】
[式中、R、R、およびRは、式(I)の化合物と同じ意味を有する]、またはその薬学的に許容される塩である。
【0059】
好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、下記からなる群:
【化6】
から選択される化合物、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である。
【0060】
特定の実施形態において、式(Ia)の化合物は、下記からなる群:
【化7】
から選択される化合物、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である。
【0061】
特定の実施形態において、式(Ib)の化合物は、下記からなる群:
【化8】
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩である。
【0062】
特定の実施形態において、式(I)の化合物は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;および癌からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防における使用のためのものである。
【0063】
好ましい実施形態において、式(I)の化合物は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷、好ましくは、心筋梗塞の後のリモデリング、の治療および/または予防における使用のためのものである。
【0064】
特定の実施形態において、式(I)の化合物は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、急性自己免疫性脳炎、およびクロイツフェルト-ヤコブ病からなる群より選択される神経変性障害の治療および/または予防における使用のためのものである。
【0065】
別の特定の実施形態において、式(I)の化合物は、乳癌、結腸直腸癌、および白血病からなる群より選択される癌の治療および/または予防における使用のためのものである。
【0066】
別の特定の実施形態において、式(I)の化合物は、心筋繊維化肺線維症肝線維症腎線維症、および後腹膜線維症からなる群より選択される線維性疾患の治療および/または予防における使用のためのものである。
【0067】
第二の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防における使用のための、第一の態様において定義される式(I)の化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0068】
別の態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防のための医薬品の製造のための、上記において定義される式(I)の化合物あるいはその薬学的に許容される塩または立体異性体の使用に関する。
【0069】
さらなる態様において、本発明は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態の治療および/または予防の方法であって、治療有効量の、上記において定義される式(I)の化合物あるいはその薬学的に許容される塩または立体異性体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法に関する。
【0070】
上記において定義される使用および治療の方法の特定の実施形態において、当該疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;および癌からなる群より選択される。
【0071】
上記の好ましい実施形態において定義される使用および治療の方法の他の特定の実施形態において、当該疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;好ましくは、心筋梗塞の後のリモデリングである。
【0072】
上記において定義される使用および治療の方法における特定の他の実施形態において、当該神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、急性自己免疫性脳炎、およびクロイツフェルト-ヤコブ病からなる群より選択される。
【0073】
上記において定義される使用および治療の方法における特定の他の実施形態において、当該癌は、乳癌、結腸直腸癌、および白血病からなる群より選択される。
【0074】
上記において定義される使用および治療の方法における特定の他の実施形態において、当該線維性疾患は心筋繊維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、および後腹膜線維症からなる群より選択される。
【0075】
式(II)の化合物
第三の態様において、本発明は、下記式(II)の化合物:
【化9】
[式中、
1aは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され、
2aは、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され、
3aは、C~Cシクロアルキルである]、またはその薬学的に許容される塩もしくは立体異性体を提供する。
【0076】
式(II)の化合物は、式(I)の化合物のサブグループである。
【0077】
特定の実施形態において、R1aは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より;好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、およびシクロペンチルからなる群より;より好ましくは、メチル、イソプロピル、およびシクロプロピルからなる群より;さらにより好ましくは、イソプロピルおよびシクロプロピルからなる群より選択され;最も好ましいのは、シクロプロピルである。
【0078】
別の特定の実施形態において、R2aは、HおよびC~Cアルキルからなる群より;好ましくは、H、メチル、エチル、プロピル、およびイソプロピルからなる群より;より好ましくは、Hおよびメチルからなる群より選択され;最も好ましいのは、Hである。
【0079】
別の特定の実施形態において、R3aは、C~Cシクロアルキルであり;好ましくは、C~Cシクロアルキルであり;好ましくは、シクロプロピル、シクロブチル、またはシクロペンチルであり、最も好ましいのは、シクロプロピルである。
【0080】
特定の実施形態において、R1aは、C~CアルキルおよびC~Cシクロアルキルからなる群より選択され;R2aは、HおよびC~Cアルキルからなる群より選択され;ならびにR3aは、C~Cシクロアルキルである。
【0081】
別の特定の実施形態において、R1aは、イソプロピルおよびシクロプロピルからなる群より選択され;R2aはHであり;ならびにR3aは、シクロプロピルである。
【0082】
特定の実施形態において、式(II)の化合物は、下記式(IIa)の化合物:
【化10】
[式中、 R1a、R2a、およびR3aは、式(II)の化合物と同じ意味を有する]、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である。
【0083】
特定の実施形態において、式(II)の化合物の特異的立体異性体は、式(IIb)の化合物:
【化11】
[式中、 R1a、R2a、およびR3aは、式(II)の化合物に対して定義されるのと同じ意味を有する]、またはその薬学的に許容される塩である。
【0084】
好ましい実施形態において、式(II)の化合物は、下記からなる群:
【化12】
から選択される化合物、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である。
【0085】
特定の実施形態において、式(IIa)の化合物は、下記からなる群:
【化13】
から選択される化合物、またはその立体異性体もしくは薬学的に許容される塩である。
【0086】
特定の実施形態において、式(IIb)の化合物は、下記からなる群:
【化14】
から選択される化合物、またはその薬学的に許容される塩である。
【0087】
医薬組成物
別の態様において、本発明は、上記において定義される式(II)の化合物またはその立体異性体もしくはその薬学的に許容される塩と、一種または複数種の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0088】
用語「薬学的に許容される賦形剤」は、ビヒクル、希釈剤、または有効成分と共に投与される補助剤を意味する。そのような医薬賦形剤は、石油由来、動物由来、植物由来、または合成由来のもの、例えば、ピーナッツオイル、大豆油、鉱油、ゴマ油、および同様のものを含む、水およびオイルなどの無菌液体であり得る。特に注射可能な溶液用の、水または生理食塩水ならびにデキストロース水溶液およびグリセロール水溶液は、ビヒクルとして好ましく使用される。好適な医薬ビヒクルについては、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」 by E.W.Martin,21st Edition,2005に記載されている。
【0089】
本発明の式(II)の化合物は、経口、舌下、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、鼻腔内、眼内、および/または直腸経路によって投与され得る。当該化合物は、単独において、あるいは1種もしくは複数種の他の本発明の化合物または一種もしくは複数種の他の薬物と組み合わせて、投与され得る。
【0090】
本発明の医薬組成物は、リポソームまたは微小胞内の式(II)の化合物を含んでもよく、ならびに、分散液剤、溶液剤、ローション剤、ゲル剤などの形態、例えば、局所用製剤など、であってもよい。
【0091】
上記の定義は、式(I)の化合物を含む医薬組成物にも適用される。
【0092】
式(II)の化合物の使用
上記において説明されるように、式(II)の化合物は、式(I)の化合物のサブグループである。したがって、式(II)の化合物も、カルパイン-1の阻止剤である。
【0093】
したがって、第四の態様において、本発明は、医薬品における使用のための、特に、高いカルパイン活性に関連する疾患または状態の治療および/または予防のための、式(II)の化合物に関する。好ましい疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;および、癌からなる群より選択されるもの、例えば、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維線維性疾患など、であり;最も好ましい疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷であり;好ましくは、心筋梗塞の後のリモデリングである。
【0094】
別の態様において、本発明は、高いカルパイン活性に関連する疾患または状態好ましくは、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維線維性疾患からなる群より選択される疾患または状態、より好ましくは、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷からなる群より選択される疾患または状態、さらにより好ましくは、心筋梗塞後のリモデリングの治療および/または予防のための医薬品の製造のための、上記において定義される式(II)の化合物あるいはその薬学的に許容される塩または立体異性体の使用に関する。
【0095】
さらなる態様において、本発明は、高いカルパイン活性に関連する疾患または状態の治療および/または予防の方法であって、治療有効量の、上記において定義される式(II)の化合物あるいはその薬学的に許容される塩または立体異性体を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法に関する。好ましくは、高いカルパイン活性に関連する疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;癌;および線維性疾患からなる群より選択され;より好ましくは、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷からなる群より選択され、さらにより好ましくは、心筋梗塞後のリモデリングからなる群より選択される。
【0096】
特定の実施形態において、当該疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷;神経変性障害;マラリア;糖尿病性腎症;HIV型ウイルスによって引き起こされる神経毒性;および癌からなる群より選択される。
【0097】
他の特定の実施形態において、当該疾患または状態は、再潅流を伴うまたは伴わない梗塞、虚血によって引き起こされる心臓損傷であり、好ましくは、心筋梗塞の後のリモデリングである。
【0098】
他の特定の実施形態において、
当該神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、急性自己免疫性脳炎、およびクロイツフェルト-ヤコブ病からなる群より選択される。
【0099】
他の特定の実施形態において、当該癌は、乳癌、結腸直腸癌、および白血病からなる群より選択される。
【0100】
他の特定の実施形態において、線維性疾患は、心筋繊維化、肺線維症、肝線維症、腎線維症、および後腹膜線維症からなる群より選択される。
【0101】
式(I)および(II)の化合物の調製方法
好ましくはRがシクロアルキル基である、式(I)および(II)の当該化合物は、下記に示される合成スキームに従って、式(VIII)のN置換された3-アミノ-2-ヒドロキシ-アミドヒドロクロリドから出発して調製され得る。
【化15】
【0102】
最初の工程において、式(VII)の保護されたアミノ酸、HOBt(ヒドロキシベンゾトリアゾール)、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、および式(VIII)のN置換された3-アミノ-2-ヒドロキシ-アミドヒドロクロリドを、溶媒、例えば、ジクロロメタン(DCM)など、に溶解させる。次いで、DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)を加え、当該混合物をそのまま反応させて、式(VI)の化合物を得る。他のアミドカップリング剤、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)中におけるDIPEAの存在下でのHATU(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート)またはDMF中におけるNEtの存在下でのT3P(プロピルホスホン酸無水物)など、も、等しく有効である。式(VI)の化合物を、溶媒、例えば、1,4-ジオキサンなど、において強酸、例えば、塩酸など、と反応させるか、あるいはDCM中において、トリフルオロ酢酸(TFA)で処理することにより、式(V)の化合物を得た。式(III)の化合物、HOBt、EDC、および式(V)の化合物を、DCMなどの溶媒に溶解させる。次いで、DIPEAを加え、当該混合物をそのまま反応させて、式(IV)の化合物を得る。他のアミドカップリング剤、例えば、DMF中におけるDIPEAの存在下でのHATUまたはDMF中におけるNEtの存在下でのT3Pなど、も同様に有効である。最後に、式(V)の化合物を、溶媒、例えば、DCM、DMF、またはそれらの混合物など、に溶解させ、デス-マーチンペルヨージナンを加えて、式(I)の化合物を得る。DMSO(ジメチルスルホキシド)中における他の酸化剤、例えば、DCC(N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)も、等しく有用である。
【0103】
式(III)のN-置換された3-アミノ-2-ヒドロキシ-アミドヒドロクロリドは、以下に示す合成スキームに従って、式(XIII)の保護されたアミノアルデヒドから出発して得ることができる。
【化16】
【0104】
最初の工程において、式(XIII)の保護されたアミノアルデヒドを、溶媒、例えば1,4-ジオキサンなど、に溶解させ、重亜硫酸ナトリウムを加え、続いてシアン化カリウム水溶液を加えることにより、式(XII)の化合物を得る。式(XII)の化合物を、濃縮された酸水溶液、例えば、濃塩酸など、に溶解させ、還流することにより、式(XI)を得る。式(XI)の化合物の水溶液を、例えば水酸化ナトリウムなどによって、アルカリ性pH(好ましくは、10~12の範囲内)にして、BocO(ジ-tert-ブチルジカーボネート)を加える。転化が完了した後、当該混合物を、例えばKHSOなどによって酸性化し、式(X)の化合物を、酢酸エチルなどの水非混和性溶媒で抽出する。式(X)の化合物、HOBt、およびEDCを、無水DCMなどの溶媒に溶解させる。次いで、DIPEAおよび式(XV)のアミンを加え、当該混合物をそのまま8~24時間反応させて、式(VIII)の化合物を得る。良好な結果のEDCおよびHOBtの代わりに、T3PまたはHATUも使用することができる。式(IX)の化合物を、1,4-ジオキサンなどの溶媒中において、塩酸などの強酸と反応させて、式(VIII)の化合物を得た。
【0105】
前のスキームにも示されている代替の合成経路において、保護された式(XIII)のアミノアルデヒドを、無水DCMなどの溶媒に溶解させ、酢酸などの酸と式(XIV)のイソシアニド化合物とを加え、室温において、アルゴン雰囲気下などの不活性雰囲気下においてそのまま反応させる。次いで、溶媒を除去し、結果として得られる化合物を酢酸エチルで抽出し、飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄する。次いで、生成物を、THF(テトラヒドロフラン)とMeOH(メタノール)とによる混合物に溶解させ、水酸化リチウム水溶液で処理することにより、式(IX)の化合物を得た。次いで、式(IX)の化合物を、上記において説明されるように、1,4-ジオキサンなどの溶媒中において塩酸などの強酸と反応させて、式(VIII)の化合物を得る。
【0106】
がアルコキシである式(I)の化合物は、以下に示される合成スキームに従って、式(VIII)のN置換3-アミノ-2-ヒドロキシ-アミドヒドロクロリドから出発して調製され得る。
【化17】
【0107】
最初の工程において、式(VII)の保護されたアミノ酸、HOBt、および式(XXII)の化合物を、ジクロロメタン(DCMなどの溶媒に溶解させる。次いで、DIPEAを加え、当該混合物をそのまま反応させて、式(XXI)の化合物を得る。他のアミドカップリング剤、例えば、DMF中におけるDIPEAの存在下でのHATUまたはDMF中におけるNEtの存在下でのT3Pなど、も同様に有効である。式(XXI)の化合物を、1,4-dioxaneなどの溶媒中において、塩酸などの強酸と反応させるか、あるいはDCM中においてトリフルオロ酢酸(TFA)で処理して、式(XX)の化合物を得た。式(III)の化合物、HOBt、EDC、および式(XX)の化合物を、DCMなどの溶媒に溶解させる。次いで、DIPEAを加え、当該混合物をそのまま反応させて、式(XIX)の化合物を得る。他のアミドカップリング剤、例えば、DMF中におけるDIPEAの存在下でのHATUまたはDMF中におけるNEtの存在下でのT3Pなど、も同様に有効である。次いで、式(XIX)の化合物を、THF/MeOH/水の混合物中においてLiOHで処理し、続いて、HClなどの酸水溶液で処理して、式(XVIII)の化合物を得た。式(XVII)の化合物、HOBt、EDC、および式(XVIII)の化合物を、DCMなどの溶媒に溶解させる。次いで、DIPEAを加え、当該混合物をそのまま反応させて、式(XVI)の化合物を得る。他のアミドカップリング剤、例えば、DMF中におけるDIPEAの存在下でのHATUまたはDMF中におけるNEtの存在下でのT3Pなど、も同様に有効である。最後に、式(V)の化合物を、DCM、DMF、またはそれらの混合物などの溶媒に溶解させ、デス-マーチンペルヨージナンを加えて、式(I)の化合物を得る。他の酸化剤、例えば、DMSO(ジメチルスルホキシド)中におけるDCC(N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド)など、も等しく有用である。
【0108】
下記の合成スキームに示されるように、メタノール中において塩化オキサリルで処理することによって、その合成が上記において説明されている式(X)の化合物から、式(XXII)の化合物を得ることができる。
【化18】
【0109】
式(XVII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(VII)、および(III)の出発化合物は、市販されているか、または文献に記載されている方法によって得ることができる。
【0110】
以下の実施例は、本発明のある特定の実施形態を単に例示するものであり、いずれにおいても本発明を制限すると見なすことはできない。
【実施例
【0111】
略語
実施例において、以下の略語が使用される。
Boc:tert-ブトキシカルボニル
conc:濃縮
BocO:ジ-tert-ブチルジカーボネート
DCM:ジクロロメタン
DIPEA:N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DMSO:ジメチルスルホキシド
EDC・HCl:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド
EtOAc:酢酸エチル
HBTU:N,N,N′,N′-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HCl:塩酸
HEPES:4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸
HOBt:ヒドロキシベンゾトリアゾール
LC-MS:液体クロマトグラフィ-質量分析法
Leu-OH:ロイシン
MeOH:メタノール
Min:分
Phe OH:フェニルアラニン
Sat:飽和
T3P=プロピルホスホン酸無水物
TBME:tert-ブチルメチルエーテル
THF:テトラヒドロフラン
tR:保持時間
Val-OH:バリン
【0112】
材料および方法
LC-MS:実施例の生成物を、質量分析に連結された液体クロマトグラフィを使用してキャラクタリゼーションを行った。HPLC-MS分析は、以下の手順を使用して実施した:
2996フォトダイオードアレイ検出器を備え、質量3100検出器LC/MSに連結されたAlliance HT 2795(Waters)クロマトグラフにおいて。分離は、XBridge C18カラム(50×4.6mm、S-3.5μm)を使用し、溶離液として、pH=9の10mMのNHCO水溶液(A)とアセトニトリル(B)との混合物を50℃で1.6mL/分の流量において使用し、以下の溶離条件:3.5分において5%から100%のBを使用して実施した。当該検出器は、100~700の質量範囲において電子スプレー正電荷モード(ESI+)に設定した。コーン電圧10V。ソースT:120℃。脱溶媒T:350℃。
【0113】
試薬:2-メトキシ安息香酸(Sigma Aldrich);3-メトキシ安息香酸(Sigma Aldrich);4-メトキシ安息香酸(Sigma Aldrich);酢酸(VWR);Boc-L-Phe-OH(Fluorochem);Boc-L-Leu-OH(Fluorochem);Boc-L-Val-OH(Fluorochem);シクロプロピルアミン(Sigma Aldrich);イソシアン化シクロプロピル(Fluorochem);デス-マーチンペルヨージナン15%DCM溶液(Acros);EDC(Iris Biotech);HBTU(Iris Biotech);1,4-ジオキサン中における4NのHCl(TCI Europe Organic Chem);HOBt(Carbosynth);LiOH・HO(Sigma Aldrich);テトラヒドロフラン中における1.0Mの水素化アルミニウムリチウム溶液(Sigma Aldrich);N,O-ジメチルヒドロキシルアミンヒドロクロリド(Fluorochem);(S)-2-(Boc-アミノ)-3-シクロプロピルプロパン酸(Fluorochem)。
【0114】
溶媒:DCM(Scharlab);エタノール(Panreac);EtOAc(Scharlab);ヘキサン(Scharlab);メタノール(Scharlab);TBME(SDS);THF(Panreac)。
【0115】
中間体の合成
中間体1:(S)-tert-ブチル(1-(メトキシ(メチル)アミノ)-1-オキソ-3-フェニルプロパン-2-イル)カルバメート
【化19】
DCM(150ml)中におけるBoc-L-Phe-OH(10.0g、37.7mmol、1.0当量)の溶液に、N,O-ジメチルヒドロキシルアミンヒドロクロリド(4.0g、41.1mmol、1.1当量)、HBTU(III)(15.7g、41.1mmol、1.1当量)、およびDIPEA(20ml、113.0mmol、3.0当量)を加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌した。次いで、真空下において揮発物を除去し、当該粗混合物をEtOAcで抽出し、飽和NaHCO溶液で洗浄した(20ml×2回)。当該粗材料を、溶離液としてヘキサン/EtOAcを使用して、EtOAc中0%から40%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、当該生成物は、35%において溶離した。11.6gを得た(37.7mmol、100%の収率)。
LC-MS:t=2.58分;m/z=309
【0116】
中間体2:(S)-tert-ブチル(1-オキソ-3-フェニルプロパン-2-イル)カルバメートの合成
【化20】
テトラヒドロフラン中における1.0Mの水素化アルミニウムリチウム溶液(37.7ml、37.7mmol、1.0当量)を、0℃に冷やしたTHF(250ml)中における中間体1(11.6g、37.7mmol、1.0当量)の溶液に加えた。当該混合物を室温で一晩撹拌した。当該反応混合物をEtOAcで希釈し、溶媒を蒸発除去した。当該粗材料を、溶離液としてHexane/EtOAcを使用して、EtOAc中0%から60%において、シリカゲルクロマトグラフィにより精製し、当該生成物は、25%において溶離した。6.7gの所望の生成物を得た(26.9mmol、68%の収率)。
LC-MS:t=2.48分;m/z=250
【0117】
中間体3:tert-ブチル((2S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)カルバメートの合成
【化21】
酢酸(0.35ml、8.0mmol、2.0当量)およびイソシアン化シクロプロピルシアニド(0.30ml、4.4mmol、1.1当量)を、DCM(20ml)中における中間体2(1.0g、4.0mmol、1.0当量)の溶液に加え、当該混合物を室温で撹拌した。15分後、THF/MeOH/HO(7/5/3)の混合物を当該混合物に加え、続いてLiOH・HO(0.67g、16.0mmol、4当量)を加えた。15分後、当該溶媒を真空下において除去した。当該生成物をEtOAc中へと抽出し、当該溶液をNaHCOの飽和溶液で洗浄し、溶媒としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、Hexane:Ethanol(8:2)中の0%から50%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、25%において溶離した。0.31gの生成物を得た(23%の収率)。
LC-MS:t=2.32分;m/z=335
【0118】
中間体4:(3S)-3-アミノ-N-シクロプロピル-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタンアミドヒドロクロリドの合成
【化22】
1,4-ジオキサン中における4NのHClの溶液(1ml、4.1mmol、4当量)を、中間体3(0.31g、0.9mmol、1.0当量)に加えた。当該混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、乾固するまで溶媒を蒸発除去した。当該生成物を、さらなる精製を行わずに次の工程に使用した。
LC-MS:t=1.50分;m/z=235
【0119】
中間体5:tert-ブチル((2S)-1-(((2S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)カルバメート
【化23】
DCM(5 mL)中における中間体4(251mg、0.9mmol、1.0当量)およびDIPEA(0.6ml、3.7mmol、4当量)の溶液を、DCM(5mL)中におけるBoc-L-Leu-OH(300mg、1.2mmol、1.2当量)、EDC(249mg、1.3mmol、1.5当量)、およびHOBt(199mg、1.3mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌した。真空下において揮発物を除去した。当該粗混合物を、EtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄し(10mL×2回)、溶離液としてヘキサン/TBMEを使用して、TBME中0%から80%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、60%において溶離した。298mgの生成物を得た(0.7mmol、72%の収率において)。
LC-MS(方法A):t=2.60分;m/z=448
【0120】
中間体6:(2S)-2-アミノ-N-((2S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)-4-メチルペンタンアミドヒドロクロリド
【化24】
1,4-ジオキサン中におけるHCl(4N)の溶液(3.3ml,13.2mmol、20当量)を中間体5(298mg、0,6mmol、1.0当量)に加えた。当該混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、乾固するまで溶媒を蒸発除去した。当該生成物を、さらなる精製を行わずに次の工程に使用した。
LC-MS:t=1.92~2.03分;m/z=348
【0121】
中間体7:N-((2S)-1-(((2S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)-3-メトキシベンズアミド
【化25】
DCM(5mL)中における中間体6(115mg、0.3mmol、1.0当量)およびDIPEA(231μl、1.3mmol、4.0当量)の溶液を、DCM(4mL)中における3-メトキシ安息香酸(60.4mg、0.4mmol、1.2当量)、EDC(108mg、0.6mmol、1.7当量)、およびHOBt(86mg、0.6mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌した。真空下において揮発物を除去し、当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した(20ml×2回)。当該材料を、溶離液としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、ヘキサン:エタノール(8:2)中0%から60%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)によって精製し、生成物は、40%において溶離した。100mgの生成物を得た(0.2mmol、100%)。
LC-MS:t=2.47分;m/z=482
【0122】
中間体8:tert-ブチル((2S)-1-((4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル)カルバメートの合成
【化26】
DCM(5mL)中における中間体4(1.06g、3.91mmol、1.0当量)およびDIPEA(2.74ml、15.66mmol、4当量)の溶液を、DCM(5mL)中におけるBoc-L-Val-OH(1.28g、5.87mmol、1.5当量)、EDC(1.13g、5.87mmol、1.5当量)、およびHOBt(0.9g、5.87mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で45時間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した。当該粗材料を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から50%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)によって精製し、生成物は15%において溶離した。600mgの生成物を得た(1.384mmol、35%の収率)。
LC-MS:t=2.47分;m/z=434
【0123】
中間体9:3-((S)-2-アミノ-3-メチルブタンアミド)-N-シクロプロピル-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタンアミドヒドロクロリドの合成
【化27】
1,4-ジオキサン中における4NのHClの溶液を、中間体8(600mg、1.384mmol、1.0当量)に加えた。当該混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、乾固するまで溶媒を蒸発除去した。当該生成物を、さらなる精製を行わずに次の工程に使用した。
LC-MS:t=1.77~1.88分;m/z=334
【0124】
中間体10:N-((2S)-1-((4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル)-3-メトキシベンズアミドの合成
【化28】
DCM(9mL)中における中間体9(461mg、0.3mmol、1.0当量)およびDIPEA(0.97ml、5.53mmol、4.0当量)の溶液を、DCM(9mL)中における3-メトキシ安息香酸(316mg、2.07mmol、1.5当量)、EDC(398mg、2.07mmol、1.5当量)、およびHOBt(318mg、2.07mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した。当該粗材料を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から20%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)によって精製し、生成物は15%において溶離した。470mgの生成物を得た(1mmol、73%)。
LC-MS:t=2.32分;m/z=468
【0125】
中間体11:tert-ブチル((2S)-3-シクロプロピル-1-((4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)カルバメートの合成
【化29】
DCM(3mL)中における中間体4(530mg、1.96mmol、1.0当量)およびDIPEA(1.37ml、7.83mmol、4当量)の溶液を、DCM(2mL)中における(S)-2-(Boc-アミノ)-3-シクロプロピルプロパン酸(673mg、2.94mmol、1.5当量)、EDC(563mg、2.94mmol、1.5当量)、およびHOBt(450mg、2.94mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間半撹拌した。真空下において揮発物を除去し、当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した。当該粗混合物を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から20%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)によって精製し、生成物は12%において溶離した。430mgの生成物を得た(0.96mmol、49%の収率)。
LC-MS:t=2.5分;m/z=446
【0126】
中間体12:3-((S)-2-アミノ-3-シクロプロピルプロパンアミド)-N-シクロプロピル-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタンアミドヒドロクロリドの合成
【化30】
1,4-ジオキサン中における4NのHClの溶液(4.83ml,19.3mmol、20当量)を中間体11(430mg、0.96mmol、1.0当量)に加えた。当該混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、乾固するまで溶媒を蒸発除去した。当該生成物を、さらなる精製を行わずに次の工程に使用した。
LC-MS(方法A):t=1.82~1.92分;m/z=346
【0127】
中間体13:N-((2S)-3-シクロプロピル-1-((4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)-3-メトキシベンズアミドの合成
【化31】
DCM(6mL)中における中間体12(333mg、0.3mmol、1.0当量)およびDIPEA(0.67ml、3.86mmol、4.0当量)の溶液を、DCM(6mL)中における3-メトキシ安息香酸(220mg、1.45mmol、1.5当量)、EDC(277mg、1.45mmol、1.5当量)、およびHOBt(221mg、1.45mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した。当該粗材料を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から50%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)によって精製し、生成物は38%において溶離した。440mgの生成物を得た(0.88mmol、91%)。
LC-MS:t=2.37分;m/z=480
【0128】
中間体14:tert-ブチル((2S)-1-シアノ-1-ヒドロキシ-3-フェニルプロパン-2-イル)カルバメートの合成
【化32】
重硫酸ナトリウム(11.2g、107.0mmol、4当量)を、0℃において、1,4-ジオキサン(150ml)中における中間体2(6.7g、26.9mmol、1.0当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を0℃で10分間撹拌し、シアン化カリウム(7.0g、107.0mmol、4当量)を水(45mL)に溶解させて加えた。当該反応混合物を室温で一晩撹拌した。当該有機溶媒を蒸発除去し、水およびEtOAcを加えたところ、層分離した。収集した有機層を飽和NaHCO水溶液で洗浄し、乾燥させ、減圧下において濃縮した。7.0gの生成物を得た(23.5mmol、94%の収率)。
LC-MS:t=2.83分;m/z=277
【0129】
中間体15:(3S)-3-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタン酸の合成
【化33】
中間体14(6.5g、23.5mmol、1.0当量)を、20mlの濃HCl溶液に溶解させ、1時間還流した。次いで、当該粗混合物を冷却し、DCMで洗浄した。pH11になるまで10NのNaOHを当該水層に加え、DCMで洗浄した。BoC2O(5.6g、25.8mmol、1.1当量)を当該水層に加えた。当該混合物を室温で一晩撹拌した。
完全な転化が達成された後、当該混合物をKHSOでpH2まで酸性化し、EtOAcで抽出した。有機層を蒸発除去して、当該生成物をさらなる精製を行わすに次の工程に使用した。5.1gを得た(17.2mmol、73%の収率、2工程)。
LC-MS:t=1.62分;m/z=296
【0130】
中間体16:(3S)-メチル3-アミノ-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタノエートヒドロクロリドの合成
【化34】
塩化オキサリル(6ml、69.9mmol、4.0当量)を、0℃において、MeOH(300ml)中における中間体15(5.1g、17.26mmol、1.0当量)の溶液にゆっくりと加えた。当該混合物を室温で一晩撹拌した。当該粗混合物の溶媒を蒸発除去し、次いで、MeOHと共蒸発させ、当該生成物をさらなる精製を行わずに次の工程に使用した。4.2gを得た(17.26mmol、定量収率)。
LC-MS:t=1.58~1.65分;m/z=210
【0131】
中間体17:メチル3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-シクロプロピルプロパンアミド)-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタノエートの合成
【化35】
DCM(15mL)中における中間体16(3g、12.21mmol、1.0当量)およびDIPEA(8.53ml、48.8mmol、4当量)の溶液を、DCM(10mL)中における(S)-2-(Boc-アミノ)-3-シクロプロピルプロパン酸(2.8g、12.21mmol、1当量)、EDC(3.51g、18.31mmol、1.5当量)、およびHOBt(2.8g、18.31mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌した。真空下において揮発物を除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した。当該粗生成物を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から30%において、フラッシュクロマトグラフィ(Biotage)によって精製し、生成物は30%において溶離した。2.2gの生成物を得た(5.23mmol、43%の収率)。
LC-MS:t=2.64分;m/z=421
【0132】
中間体18:メチル3-((S)-2-アミノ-3-シクロプロピルプロパンアミド)-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタノエートヒドロクロリドの合成
【化36】
1,4-ジオキサン中における4NのHClの溶液(26.2ml、105mmol、20当量)を、中間体17(2.2g、5.23mmol、1.0当量)に加えた。当該混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、乾固するまで溶媒を蒸発除去した。当該生成物を、さらなる精製を行わずに次の工程に使用した。
LC-MS:t=1.78分;m/z=321
【0133】
中間体19:メチル3-((S)-3-シクロプロピル-2-(3-メトキシベンズアミド)プロパンアミド)-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタノエートの合成
【化37】
DCM(10mL)中における中間体18(1.87g、5.23mmol、1.0当量)およびDIPEA(3.66ml、3.86mmol、4.0当量)の溶液を、DCM(10mL)中における3-メトキシ安息香酸(0.955g、6.28mmol、1.2当量)、EDC(1.5g、7.85mmol、1.5当量)、およびHOBt(1.2g、7.85mmol、1.5当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。
当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した。当該粗材料を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から50%において、フラッシュクロマトグラフィ(Biotage)により精製し、生成物は25%において溶離した。1gの生成物を得た(2.2mmol、42%)。
LC-MS:t=2.47m分;m/z=455
【0134】
中間体20:3-((S)-3-シクロプロピル-2-(3-メトキシベンズアミド)プロパンアミド)-2-ヒドロキシ-4-フェニルブタン酸の合成
【化38】
LiOH・HO(111mg、2.64mmol、3.0当量)を、13.5mlの混合物THF/MeOH/HO(5/3/1)に溶解させた中間体19(400mg、0.88mmol、1.0当量)の溶液に加えた。完全な転化が達成された後、真空下において溶媒を除去した。当該粗材料を1MのHClに溶解させ、全ての中間体20が有機層へと抽出されるまでDCMで抽出した。当該有機層を、乾固するまで蒸発除去した。中間体20を、さらなる精製を行わすに次の工程に使用した。
LC-MS:t=1.85分;m/z=441
【0135】
中間体21:N-((2S)-3-シクロプロピル-1-((3-ヒドロキシ-4-(メトキシアミノ)-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)-3-メトキシベンズアミドの合成
【化39】
DCM(20mL)中における中間体20(470mg、1.07mmmol、1.0当量)およびO-メチルヒドロキシルアミンヒドロクロリド(134mg、1.6mmmol、1.5当量)の溶液に、EDC(307mg、1.6mmol、1.5当量)およびHOBt(245mg、1.6mmol、1.5当量)およびDIPEA(0.75ml、4.27mmol、4.0当量)を加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌した。この時間の後、0.1mlのDIPEAを加え、当該反応物を室温で一晩撹拌した。0.5当量のEDCおよびHOBtの両方を加え、室温で2時間撹拌を続けた。真空下において揮発物を除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液および5%のクエン酸水溶液で洗浄した。当該粗生成物を、溶離液としてDCM/DCM:メタノール(8:2)を使用して、DCM:メタノール(8:2)中0%から50%において、フラッシュクロマトグラフィ(Biotage)により精製し、生成物は20%において溶離した。170mgの生成物を得た(0.37mmol、35%の収率)。
LC-MS:t=2.18分;m/z=470
【0136】
中間体22:N-((2S)-1-(((2S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)-4-メトキシベンズアミド
【化40】
DCM(6mL)中における中間体6(200mg、0.6mmol、1.0当量)およびDIPEA(392μl、2.3mmol、4.0当量)の溶液を、DCM(6mL)中における4-メトキシ安息香酸(105mg、0.7mmol、1.2当量)、EDC(188mg、1.0mmol、1.7当量)、およびHOBt(150mg、1.0mmol、1.7当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌し、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液(10ml×3回)および5%クエン酸水溶液(10ml×3回)で洗浄した。当該混合物を、溶離液としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、ヘキサン:エタノール(8:2)中0%から100%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、35%において溶離した。115mgの生成物を得た(0.2mmol、41%)。
LC-MS:t=2.35分;m/z=482
【0137】
中間体23:N-((2S)-1-(((2S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)-2-メトキシベンズアミド
【化41】
DCM(6mL)中における中間体6(200mg、0.5mmol、1.0当量)およびDIPEA(350μl、2.0mmol、4.0当量)の溶液を、DCM(5mL)中における2-メトキシ安息香酸(95mg、0.6mmol、1.2当量)、EDC(169mg、0.9mmol、1.7当量)、およびHOBt(135mg、0.9mmol、1.7当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液(10ml×3回)および5%クエン酸水溶液(10ml×3回)で洗浄した。当該粗生成物を、溶離液としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、ヘキサン:エタノール(8:2)中0%から100%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、35%において溶離した。250mgの生成物を得た(0.5mmol、100%)。
LC-MS:t=2.47分;m/z=482。
【0138】
実施例および比較例の調製
実施例1:N-((S)-1-(((S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3,4-ジオキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)-3-メトキシベンズアミド
【化42】
5μlの水を、DCM中におけるデス-マーチンペルヨージナン15%溶液(640μl、0.3mmol、1.5当量)に加えた。次いで、当該混合物を、DCM(4ml)中における中間体7(100mg、0.2mmol、1.0mmol)の溶液に加えた。当該混合物を室温で15分間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した(10ml×2回)。当該粗生成物を、溶離液としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、ヘキサン:エタノール(8:2)中0%から60%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、ヘキサン:エタノール(8:2)中30%において溶離した。47.6mgの生成物を得た(0.1mmol、47%の収率)。
LC-MS:t=2.63分;m/z=480。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ8.75(dd、J=26.3、5.1Hz、1H)、8.38(dd、J=18.9、8.1Hz、1H)、8.33(d、J=7.7Hz、1H)、7.49~7.31(m、3H)、7.27~7.15(m、5H)、7.09(m、1H)、5.22~5.13(m、1H)、4.54(m、1H)、3.80(s、3H)、3.13(m、1H)、2.88~2.77(m、1H)、2.76~2.70(m、1H)、1.67~1.55(m、1H)、1.53~1.43(m、1H)、1.29(m、1H)、0.91~0.78(m、6H)、0.65(m、2H)、0.61~0.53(m、2H)。
【0139】
実施例2:N-((S)-1-((4-(シクロプロピルアミノ)-3,4-ジオキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル)-3-メトキシベンズアミドの合成
【化43】
DCM中におけるデス-マーチンペルヨージナン15%溶液(3.13ml、1.51mmol、1.5当量)を、DCM(10ml)中における前に調製した溶液に溶解させた中間体10(470mg、1mmol、1.0当量)と水(5μl)とによる溶液に加えた。当該混合物を、室温で15分間撹拌した。この時間の後、1.5当量のデス-マーチンペルヨージナン15%溶液を加え、混合物を室温でさらに15分間撹拌した。真空下において揮発物を除去し、当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaOHの1M溶液で洗浄した。当該粗生成物をヘキサンを使用して磨砕し、ろ過した。352mgの生成物を得た(0.76mmol、76%の収率)。
LC-MS:t=2.52分;m/z=466。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ0.61(s、2H)、0.61~0.68(m、2H)、0.73(dd、J=23.0、6.7Hz、3H)、0.87(dd、J=6.7、1.8Hz、3H)、1.92~2.10(m、1H)、2.68~2.85(m、2H)、3.07~3.18(m、1H)、3.81(d、J=1.1Hz、3H)、4.32(td、J=8.3、5.6Hz、1H)、5.18~5.28(m、1H)、7.10(dddd、J=8.0、2.8、1.9、1.1Hz、1H)、7.15~7.25(m、5H)、7.34~7.46(m、3H)、8.15(dd、J=11.8、9.0Hz、1H)、8.45(dd、J=14.4、7.2Hz、1H)、8.76(dd、J=21.8、5.1Hz、1H)。
【0140】
実施例3:N-((S)-3-シクロプロピル-1-((4-(シクロプロピルアミノ)-3,4-ジオキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)-3-メトキシベンズアミドの合成
【化44】
DCM中におけるデス-マーチンペルヨージナン15%溶液を、DCM(10ml)をベースとする以前に調製した溶液8mlに溶解させた中間体13(420mg、0.88mmol、1.0当量)と水5μlとによる溶液に加えた。当該混合物を、室温で15分間撹拌した。この時間の後、1.5当量のデス-マーチンペルヨージナン15%溶液を加え、混合物を室温でさらに15分間撹拌した。真空下において揮発物を除去し、当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaOHの1M溶液で洗浄した。当該粗生成物をヘキサンを使用して磨砕し、ろ過した。274mgの生成物を得た(0.57mmol、65%の収率)。
LC-MS:t=2.57min;m/z=478。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ-0.01~0.20(m、2H)、0.25~0.43(m、1H)、0.54~0.70(m、4H)、0.70~0.79(m、1H)、1.18~1.35(m、1H)、1.47~1.68(m、2H)、2.69~2.88(m、2H)、3.12(td、J=13.5、4.2Hz、1H)、3.80(d、J=1.2Hz、3H)、4.55(td、J=8.7、5.1Hz、1H)、5.20(dtd、J=9.0、7.8、4.1Hz、1H)、7.08~7.12(m、1H)、7.16~7.25(m、5H)、7.34~7.46(m、3H)、8.29~8.45(m、2H)、8.75(dd、J=27.7、5.1Hz、1H)。
【0141】
実施例4:N-((S)-3-シクロプロピル-1-((4-(メトキシアミノ)-3,4-ジオキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-1-オキソプロパン-2-イル)-3-メトキシベンズアミドの合成
【化45】
DCM中におけるデス-マーチンペルヨージナン15%溶液(0.827ml、0.4mmol、1.5当量)を、4回に分け、添加の間に10分間空けて、当該混合物を撹拌しながら、DMSO(2.5ml)中における中間体1(170mg、0.36mmol、1.0当量)の溶液に加えた。当該反応混合物を室温で2時間撹拌し、次いで、揮発物を真空下において除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaOHの1M溶液で洗浄した。揮発物を蒸発除去し、当該粗混合物を、溶媒としてHO/アセトニトリルを使用して、アセトニトリル中0%から100%において、逆相クロマトグラフィ(Biotage)により精製し、生成物は、20%において溶離した。14.2mgの生成物を得た(0.03mmol、8%の収率)。
LC-MS:t=2.03分;m/z=468。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ-0.04~0.23(m、1H)、0.34(ddd、J=17.7、9.1、5.5Hz、1H)、1.43~1.68(m、1H)、2.52(d、J=1.9Hz、1H)、2.67~2.83(m、1H)、3.10~3.22(m、2H)、3.65(d、J=13.1Hz、2H)、3.79(d、J=2.2Hz、3H)、4.53(tt、J=9.0、4.6Hz、1H)、5.32(s、1H)、6.95~7.33(m、6H)、7.33~7.46(m、3H)、8.09(d、J=72.5Hz、1H)、8.34(dd、J=26.3、8.3Hz、1H)。
【0142】
比較例5:N-((S)-1-(((S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3,4-ジオキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)-4-メトキシベンズアミド
【化46】
5μLの水を、DCM中におけるデス-マーチンペルヨージナン15%溶液(744μl、0.3mmol、1.5当量)に加えた。次いで、当該混合物を、DCM(5ml)中における中間体22(115mg、0.2mmol、1.0当量)の溶液に加えた。当該混合物を室温で15分間撹拌した。真空下において揮発物を除去した。当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した(10ml×2回)。当該粗生成物を、溶媒としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、ヘキサン:エタノール(8:2)中0%から30%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、20%において溶離した。31.2mgの生成物を得た(0.2mmol、27%)。
LC-MS:t=2.60分;m/z=480。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ8.74(dd、J=25.5、5.1Hz、1H)、8.33(dd、J=34.8、7.4Hz、1H)、8.19(dd、J=14.2、8.4Hz、1H)、7.88-7.82(m、2H)、7.24~7.14(m、5H)、7.03~6.95(m、2H)、5.17(m、1H)、4.52(m、1H)、3.81(s、3H)、3.12(m、1H)、2.91~2.74(m、1H)、2.74~2.65(m、1H)、1.60(m、1H)、1.48(m、1H)、1.30(m、1H)、0.92~0.78(m、6H)、0.68~0.61(m、2H)、0.58(m、2H)。
【0143】
比較例6:N-((S)-1-(((S)-4-(シクロプロピルアミノ)-3,4-ジオキソ-1-フェニルブタン-2-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)-2-メトキシベンズアミド
【化47】
5μLの水を、DCM中におけるデス-マーチンペルヨージナン15%溶液(1,6ml、0.7mmol、1.5当量)に加えた。次いで、当該混合物を、DCM(10ml)中における中間体23(250mg、0.5mmol、1.0当量)の溶液に加えた。当該混合物を室温で15分間撹拌した。真空下において揮発物を除去し、当該粗混合物をEtOAcで抽出し、NaHCOの飽和溶液で洗浄した(10ml×2回)。当該粗生成物を、溶媒としてヘキサン/ヘキサン:エタノール(8:2)を使用して、ヘキサン:エタノール(8:2)中0%から30%において、フラッシュクロマトグラフィ(ISCO Rf)により精製し、生成物は、20%において溶離した。89.2mgの生成物を得た(0.2mmol、35%)。
LC-MS:t=2.68分;m/z=480。
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ8.78(dd、J=19.7、5.1Hz、1H)、8.51(dd、J=32.3、7.5Hz、1H)、8.26(dd、J=8.2、6.1Hz、1H)、7.79(m、1H)、7.49(m、1H)、7.25~7.21(m、4H)、7.20~7.13(m、2H)、7.05(m、1H)、5.24~5.17(m、1H)、4.63~4.55(m、1H)、3.86(s、3H)、3.15(m、1H)、2.85~2.75(m、1H)、2.75~2.70(m、1H)、1.66~1.46(m、2H)、1.36(m、1H)、0.91~0.77(m、6H)、0.67~0.62(m、2H)、0.61~0.55(m、2H)。
【0144】
生物学的データ
カルパイン1を阻害する能力の特定のためのアッセイ
Promega製のCalpain-Glo Proteaseキットを使用して、カルパイン1の活性を測定した。透明底の384ウェルブラックプレートにおいてアッセイを実施した。10mのMHEPESおよび1mのMEDTAによる水溶液中における化合物5μlを、16ng/mLのカルパイン1(Sigma Aldrich)の溶液15μLと共に2分間インキュベートし、次いで、当該キットにおいて提供されるCalpain-Glo(商標)試薬20μLを、各ウェルに加えた。カルパイン1誘発基質溶解によって誘発された発光を、Hamamatsu FDSS 7000読み取り機において測定し、データを、最大発光ピークから計算した。カルパイン阻害を以下の式から計算した:
阻害%=(LT-LB)*100/(LC-LB)
式中、LTは、試験した化合物において観察された発光であり、LBは、カルパイン1を含まないウェルから得られたブランク発光であり、ならびにLCは、阻害剤の不在下でカルパイン1を含むコントロールウェルにおいて観察された発光である。
【0145】
すべての化合物を、IC50(カルパイン1の活性を50%阻害する濃度)の計算を可能にするために少なくとも6種の濃度を使用して試験した。
【0146】
全てのアッセイにおいて、コントロールとしてカルパスタチンおよびALLNを含ませた。
【0147】
【表1】