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特許7307502脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法、及び脛骨骨切り術用のスペーサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法、及び脛骨骨切り術用のスペーサ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/28 20060101AFI20230705BHJP
【FI】
A61F2/28
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021154569
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2023045945
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2022-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】栗山 新一
(72)【発明者】
【氏名】森田 悠吾
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0213830(US,A1)
【文献】特開2005-152503(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057759(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0157190(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法であって、
該矯正空間の形状は、
少なくとも一部の外周形状が、患者の脛骨を骨切りすることにより形成される骨切り面の脛骨内側後方部分の解剖学的外周形状と略一致し、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分の解剖学的外周形状は含まない第1面と
前記第1面と同一形状である第2面と
前記第1面及び前記第2面がなす角度が脛骨の矯正角度であるように、前記第1面及び前記第2面を接続する接続面と
有する形状であり
該接続面の形状は、骨切り面の脛骨内側後方部分に位置する曲面である第1側方面と、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分より後方及び前方部分側に位置し、脛骨粗面に対向する平面である第2側方面とを有する形状である、
内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項2】
複数の患者それぞれにおいて、前記骨切り面の解剖学的外周形状を取得する工程と、
取得した前記骨切り面の解剖学的外周形状から平均外周形状を取得する工程と、
前記患者それぞれの前記骨切り面の解剖学的外周形状と前記平均外周形状とを比較して、前記脛骨内側後方部分の形状を抽出する工程と、
を含む、請求項1に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項3】
前記骨切り面の解剖学的外周形状を取得する工程において、前記骨切り面の解剖学的外周形状は、画像解析によって取得され、
前記脛骨内側後方部分の形状を抽出する工程において、前記骨切り面の解剖学的外周形状と前記平均外周形状とは、主成分分析法によって比較される、請求項2に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項4】
記脛骨内側後方部分の形状は、記憶部に予め記憶されている、請求項~3のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項5】
前記脛骨内側後方部分の形状を抽出する工程において、前記脛骨内側後方部分は、前後方向と平行な方向に延在し、脛骨内側突出点から第1距離にある第1軸より内側に位置し、かつ、内外方向と平行な方向延在し、前記第1軸より内側で一方の前記骨切り面の外周に最も後方で接する第2軸から腹側に第2距離内に位置する部分である、請求項~4のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項6】
前記脛骨内側後方部分の形状を抽出する工程において、前記脛骨内側後方部分は、前記脛骨内側突出点を含む、請求項5に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項7】
前記脛骨内側後方部分の形状を抽出する工程において、前記第1距離は30mm以下であり、かつ前記第2距離は35mm以下である、請求項5又は6に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項8】
前記矯正角度は、5°以上15°以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項9】
記接続面の形状が、前記第1面及び前記第2面の中間に位置する仮想の中間平面に対して対称な形状である、請求項1~8のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項10】
前記接続面の形状が
前記第1面及び前記第2面を接続し、骨切り面の脛骨内側後方部分に位置する曲面である第1側方面と、
前記第1面及び前記第2面を接続し、前記第1側方面の一端に連続し、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分より後方及び前方部分側に位置し、脛骨粗面に対向する平面である第2側方面と、
前記第1面及び前記第2面を接続し、前記第1側方面の他端及び前記第2側方面に連続する第3側方面とを
有する形状である、請求項1~9のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項11】
記第1面の延在面と前記第2面の延在面とが交差する線を通る断面であって、前記第1面に対して前記矯正角度より小さい角度で傾斜する断面において、前記第1側方面前記脛骨内側後方部分と同一形状である、請求項10に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項12】
前記矯正空間は、スペーサにより形状が維持されるための空間である、請求項1~11のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法。
【請求項13】
第1の面と、
前記第1の面と同一形状である第2の面と、
前記第1の面、及び、前記第2の面を接続する接続部と、
を含み、
前記第1の面の少なくとも一部の外周形状、及び前記第2の面の少なくとも一部の外周形状は、それぞれ、患者の脛骨を骨切りすることにより形成される骨切り面の脛骨内側後方部分の解剖学的外周形状と略一致し、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分の解剖学的外周形状は含まず、
該接続部の形状は、前記第1の面と前記第2の面とがなす角度が、脛骨骨切り術における所定の矯正角度であるように規定され、
該接続部の形状は、骨切り面の脛骨内側後方部分に位置する曲面である第1の側面と、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分より後方及び前方部分側に位置し、脛骨粗面に対向する平面である第2の側面とを有する形状である、
内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項14】
前記第1の面及び前記第2の面の中間に位置する、仮想の中間面に対して、面対称な形状である、請求項13に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項15】
前記脛骨内側後方部分は、前記骨切り面において、前後方向と平行な方向に延在し、脛骨内側突出点から第1距離にある第1軸より内側に位置し、かつ、内外方向と平行な方向に延在し、前記第1軸より内側で前記骨切り面の外周に最も後方で接する第2軸から腹側に第2距離内に位置する部分である、請求項13又は14に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項16】
前記脛骨内側後方部分は、前記脛骨内側突出点を含む、請求項15に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項17】
前記第1距離は30mm以下であり、かつ前記第2距離は35mm以下である、請求項15又は16に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項18】
前記所定の矯正角度は、5°以上15°以下である、請求項13~17のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項19】
前記接続部は、前記第1の面及び前記第2の面を接続する第1の側面を含み、
前記第1の面の延在面と前記第2の面の延在面とが交わる直線を通る断面であって、前記第1の面に対して、前記所定の矯正角度より小さい傾斜角度で傾斜した断面における前記第1の側面の形状は、前記第1の面の第1の湾曲辺及び前記第2の面の第2の湾曲辺と同一形状である、請求項13~18のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項20】
前記第1の側面の一端に連続する前記第2の側面と、
前記第1の側面の他端及び前記第2の側面に連続する第3の側面と、
を含む、請求項13~19のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項21】
チタン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ハイドロキシアパタイト、人工骨を含むβ型リン酸三カルシウム(β-TCP)、及びセラミックスのうち、少なくとも1つを含む、請求項13~20のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項22】
前記第1の面の少なくとも一部の外周形状、及び前記第2の面の少なくとも一部の外周形状はそれぞれ、前記解剖学的外周形状のうち、脛骨内側突出点と最後方点との間の外周形状と略一致する請求項13~21のいずれか1項に記載の内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサ。
【請求項23】
コンピュータが、内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサの形状を設計する方法であって、
該スペーサの形状は、
少なくとも一部の外周形状が、患者の脛骨を骨切りすることにより形成される骨切り面の脛骨内側後方部分の解剖学的外周形状と略一致し、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分の解剖学的外周形状は含まない第1
前記第1面と同一形状である第2
前記第1面及び前記第2面がなす角度が脛骨の矯正角度であるように、前記第1面及び前記第2面を接続する接続面
有する形状であり
該接続面の形状は、骨切り面の脛骨内側後方部分に位置する曲面である第1の側面と、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)に相当する前方部分より後方及び前方部分側に位置し、脛骨粗面に対向する平面である第2の側面とを有する形状である、
内側開大型高位脛骨骨切り術用のスペーサの形状を設計する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法、及び脛骨骨切り術用のスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
内側型変形性膝関節症の一般的な治療方法では、内側開大型高位脛骨骨切り術(OWHTO)にて脛骨の内側から骨切りを行い、骨切り部分に人工骨などで作成されたスペーサを配置して、脛骨の角度が矯正される。現在、一般的に用いられているスペーサは、楔形のものである。例えば、特許文献1は、上面及び下面の一方が傾斜面である楔形のスペーサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-165435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、楔形のスペーサを骨切り部分に挿入する際、その挿入方向及び挿入位置は、手術中に術者が患者の身体にあわせて適宜調整することで決定されている。つまり、スペーサの配置は、術者の経験等に基づいて異なる。その結果、手術前に予定していた矯正角度と術後の実際に矯正された角度との差(矯正精度)が、手術毎に異なっている。
【0005】
そこで、本開示は、矯正精度の高い、脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法、及び脛骨骨切り術用のスペーサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法は、少なくとも一部の外周形状が、患者の脛骨を骨切りすることにより形成される骨切り面の脛骨内側後方部分の解剖学的外周形状と略一致する第1面を規定する工程と、第1面と同一形状である第2面を規定する工程と、第1面及び第2面がなす角度が脛骨の矯正角度であるように、第1面及び第2面を接続する接続面を規定する工程と、を含む。
【0007】
また、本開示に係る脛骨骨切り術用のスペーサは、第1の面と、第1の面と同一形状である第2の面と、第1の面、及び第2の面を接続する接続部と、を含み、第1の面の少なくとも一部の外周形状、及び第2の面の少なくとも一部の外周形状はそれぞれ、患者の脛骨を骨切りすることにより形成される骨切り面の脛骨内側後方部分の解剖学的外周形状と略一致し、第1の面と第2の面とがなす角度が、脛骨骨切り術における所定の矯正角度である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する一方法によれば、矯正精度の高い脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法を提供することができる。また、本開示の一実施形態に係る脛骨骨切り術用のスペーサによれば、矯正精度の高い脛骨骨切り術用のスペーサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示に係る脛骨内側後方部分を取得する方法のフローチャートである。
図2A】脛骨モデルの背面像における骨切り面の一例を示す模式図である。
図2B】脛骨モデルの内側側面像における骨切り面の一例を示す模式図である。
図3】脛骨の骨切り面の一例を示す模式図である。
図4図3に示す骨切り面において、脛骨内側後方部分を示す図である。
図5】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法のフローチャートである。
図6】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法の一例における、一工程を示す模式図である。
図7図6に示す脛骨骨切り術用の矯正空間のVII-VII線における模式的断面図である。
図8】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法の一例における、一工程を示す模式図である。
図9図8に示す脛骨骨切り術用の矯正空間のIX-IX線における模式的断面図である。
図10】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法で設計された矯正空間の形状を維持する一例を示す模式図である。
図11】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の他の形状を示す模式図である。
図12A】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の他の形状を示す模式図である。
図12B】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の他の形状を示す模式図である。
図12C】本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の他の形状を示す模式図である。
図13】本開示の一実施形態に係る脛骨骨切り術用のスペーサの模式的斜視図である。
図14図13に示す脛骨骨切り術用のスペーサの別の模式的斜視図である。
図15図13に示す脛骨骨切り術用のスペーサの第1の面を示す図である。
図16図13に示す脛骨骨切り術用のスペーサのXVI-XVI線における模式的断面図である。
図17】本開示係るスペーサの他の形態を示す模式的斜視図である。
図18A】本開示係るスペーサの他の形態を示す模式的底面図斜視図である。
図18B】本開示係るスペーサの他の形態を示す模式的底面図斜視図である。
図18C】本開示係るスペーサの他の形態を示す模式的底面図斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態や実施例を説明する。なお、以下に説明する脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法及び脛骨骨切り術用のスペーサは、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態や実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
また、本開示において、人体における方向及び位置は解剖学的方向及び解剖学的位置を意味する。具体的には、
頭側(cranial)は頭に近い側を意味し、
尾側(caudal)は足に近い側を意味し、
内側(medial)は正中面に近い側を意味し、
外側(lateral)は、正中面から遠い側を意味し、
腹側(ventral)は、前方を意味し、
背側(dorsal)は、後方を意味し、
内(internal)は、空間の中を意味し、
外(external)は、空間の外を意味する。
さらに、本開示において、
頭尾方向とは、脛骨をCT撮影した後の3次元画像において、正面像及び側面像で膝関節中心と足関節中央とを結んだ直線が延在する方向を意味し、
内外方向とは、大腿骨の内外側側副靭帯の付着部(大腿骨遠位内外側突出部)を結んだ直線を脛骨関節面に投影した場合、該線が延在する方向を意味し、
前後方向とは、頭尾方向に直交し、かつ内外方向に直交する方向を意味する。
なお、「前後方向とは、頭尾方向に直交し、かつ内外方向に直交する方向を意味する」における「直交」とは、90°で交差することを意味するが、特段の言及がない限り、本開示において「直交」とは、2つの直線、辺、面等が90度から±5度程度の範囲にある場合を含む。また、長さ、大きさ等が「同じ」、「同一」とは、特に他の言及がない限り、それぞれの値が±10%程度の範囲にある場合を含む。
【0011】
本発明者らは、脛骨骨切り術、特に、内側開大型高位脛骨骨切り術による手術における矯正精度を高めるという課題を解決するために、種々の方法を検討した。その検討の1つとして、脛骨の骨切り面の外周形状を、類似する形状毎にいくつかのクラスタに分類することを試みた。この試みの結果、発明者らは、14歳以上の男女複数人の患者において、全ての患者の脛骨内側後方部分が略一致しており、1つの形状に集約できることを見出した。
本発明者らが該脛骨内側後方部分を取得した方法は、図1に示すように、
(a)2つの骨切り面を規定する工程と、
(b)骨切り面の解剖学的外周形状を取得する工程と、
(c)平均外周形状を取得する工程と、
(d)脛骨内側後方部分を抽出する工程と、
を含む。
これらの工程は、CTスキャンデータ、X線撮影データ等によって患者の脛骨のデータを得て、該データに基づいて作成された3D画像モデルや、3次元物体モデルに対して行われ得る。
以下に、図1図4を参照して、各工程を具体的に説明する。
【0012】
(a)2つの骨切り面を規定する工程
本工程では、図2Aに示すように、複数の患者それぞれにおいて、脛骨モデルT1に骨切りを行うことで同一形状に形成される、2つの骨切り面M1,M2を規定する。2つの骨切り面M1,M2は、好ましくは、同一形状かつ同一寸法に形成される。2つの骨切り面M1,M2は、骨切りによって形成される頭側の一平面及び尾側の一平面である。2つの骨切り面M1,M2は、脛骨モデルT1において骨切りを行う範囲を決定することによって規定される。骨切りを行う範囲は、内側開大型高位脛骨骨切り術で行われる骨切りの範囲である。内側開大型高位脛骨骨切り術で行われる骨切りは、通常、脛骨の外側部分までには至らない。すなわち、内側開大型高位脛骨骨切り術で骨切りされた頭側の脛骨と尾側の脛骨は、骨切り限界線C1より外側の残存骨で接続している。従って、2つの骨切り面M1,M2は、骨切り限界線C1で連続している。
【0013】
本工程における骨切り面M1,M2は、図2Aに示すような脛骨モデルT1の背面像において、直線E1,E2で表される。本工程において、2つの骨切り面M1,M2は同一平面にあるため、図2Aでは、直線E1,E2は、実質同一の直線を意味する。脛骨モデルT1の背面像において、直線E1,E2は、脛骨モデルT1の脛骨関節面の内側端S1から距離a1の位置にある脛骨内側側面上の一点S2から、外側かつ頭側に延伸する。距離a1は、例えば、30mm以上35mm以下であり、一点S2は、おおよそ鷲足脛骨付着部上縁である。直線E1,E2の長さa2は、例えば、49mm以上71mm以下である。脛骨モデルT1の背面像の直線E1,E2において、一点S2と反対側に位置する端部が骨切り限界線C1に相当する。直線E1,E2は、頭尾方向に対して角度φ1で傾斜する。角度φ1は、例えば、15°以上45°以下である。
【0014】
また、図2Bに示すように、膝蓋腱の脛骨付着部(脛骨粗面)F1を温存するために、腹側では、脛骨付着部F1を尾側の脛骨に残存するように骨切りが行われる。具体的には、脛骨を内側から見た場合、骨切りの軌跡は、略L字形状で表される。ここで、本明細書において、2つの骨切り面M1,M2は、該略L字の水平方向の線に相当する部分E3だけであって、該略L字の鉛直方向の線に相当する部分E4は含まない。該略L字の水平方向の線に相当する部分L3の長さa3は、例えば、31.2mm以上58.5mm以下である。
一方、図2Bに示すように、背側には残存骨はない。
【0015】
このように脛骨モデルT1に行われる骨切りを行う範囲が決定されることで、2つの骨切り面M1,M2が規定される。
【0016】
(b)骨切り面の外周形状を取得する工程
本工程では、各患者において、2つの骨切り面M1,M2のうち一方の骨切り面M1の解剖学的外周形状D1を取得する。
一方の骨切り面M1の解剖学的外周形状D1は、図3に示すように、一方の骨切り面M1を含む脛骨の断面全体A1の画像から取得することができる。一方の骨切り面M1を含む脛骨の断面全体A1の画像は、例えば、脛骨モデルT1を骨切りすることで得てもよいし、実際に患者をCTスキャン、MRI、X線断層撮影して得てもよい。一方の骨切り面M1の外周形状は、このようにして得られた断面全体A1の画像を、例えば、術前プランニングソフトウェアを使用した画像解析、輪郭抽出することによって行われる。
なお、上記説明では、一方の骨切り面M1の解剖学的外周形状D1を画像解析によって取得しているが、一方の骨切り面M1の外周形状と他方の骨切り面M2の外周形状は同一であるため、他方の骨切り面M2の外周形状を画像解析によって取得してもよいし、一方の骨切り面M1と他方の骨切り面M2と両方の外周形状を画像解析によって取得してもよい。
【0017】
(c)平均外周形状を取得する工程
本工程では、骨切り面の外周形状を取得する工程で取得した複数の解剖学的外周形状D1から、主成分分析法により平均外周形状を取得する。
【0018】
(d)脛骨内側後方部分を抽出する工程
本工程では、患者それぞれの一方の骨切り面M1の解剖学的外周形状D1と平均外周形状とを主成分分析法で比較して、全て患者において、標準偏差が1.5mm以内、好ましくは1mm以内、さらに好ましくは0.93mm以内である脛骨内側後方部分P1を抽出する。
【0019】
このようにして抽出された脛骨内側後方部分P1は、図4に示すように、前後方向と平行な方向に延在し、脛骨内側突出点Q1から第1距離b1にある第1軸B1より内側に位置し、かつ、内外方向と平行な方向延在し、第1軸B1より内側で一方の骨切り面M1の外周に最も後方で接する第2軸B2から腹側に第2距離b2のまでの間に位置する部分である。
ここで、脛骨内側突出点Q1とは、骨切り面M1において、内側に最も突出している点である。通常、脛骨は、内側に突出した凸領域を有しており、脛骨内側突出点Q1は、骨切り面M1において、該凸領域の内側頂点である。解剖学的に表すと、脛骨内側突出点Q1は、内側側副靭帯浅層(sMCL)脛骨付着部前縁と鷲足上縁の交点付近に位置する脛骨内側突出部である。
【0020】
脛骨内側後方部分P1は、脛骨内側突出点Q1を含む。第1距離b1は、例えば、28.5mm以上30mm以下であり、第2距離b2は、例えば、22.7mm以上35mm以下である。なお、図4において、図面の理解を容易にするために、脛骨内側後方部分P1を太線で示している。また、以下の説明では、第2軸B2が第1軸B1より内側で一方の骨切り面M1の外周に最も後方で接する点を最後方点Q2とも呼ぶ。最後方点Q2は、脛骨内側後方部分P1の背側の端部と一致することもある。
以下に説明する本発明に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法、及びスペーサは、上記の工程(a)~工程(d)により抽出された脛骨内側後方部分P1に基づいてなされたものである。
【0021】
1.脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法
本開示において、矯正空間は、脛骨の角度を矯正又は脛骨の変形を矯正する際に、骨切り部分、すなわち、2つの骨切り面M1,M2の間に形成される空間を意味する。
本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法は、上記の脛骨内側後方部分P1を含み、2つの骨きり面M1,M2の間に位置する空間を決定する方法である。矯正空間は、該矯正空間と同一形状のスペーサ等が配置されてもよい。従って、本開示に係る矯正空間の形状を設計する方法は、例えば、該矯正空間を占有するスペーサの形状を設計する方法を含む。すなわち、本開示で説明される、脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法を採用することで、矯正空間に配置されるスペーサを設計することができる。
【0022】
本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法は、CTスキャンデータ、X線撮影データ等によって患者の脛骨のデータを得て、該データに基づいて作成された3D画像モデルや、3次元物体モデルに対して行われ得る。
本開示に係る脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法は、図5に示すように、
(1)2つの骨切り面を規定する工程と、
(2)骨切り面の外周形状を取得する工程と、
(3)平均外周形状を取得する工程と、
(4)脛骨内側後方部分を抽出する工程と、
(5)第1面を規定する工程と、
(6)第2面を規定する工程と、
(7)接続面を規定する工程と、
を含む。
工程(1)~工程(4)はそれぞれ、上述した工程(a)~工程(d)それぞれと同一であるため、ここでの詳細な説明は省略する。以下では、図6図9を参照して、工程(5)~工程(7)について詳細に説明する。
【0023】
工程(5) 第1面を規定する工程
本工程では、第1面110の少なくとも一部の外周形状が、一方の骨切り面M1の脛骨内側後方部分P1の解剖学的外周形状D1と略一致するように、第1面110を規定する。第1面110は、例えば、設計する矯正空間100の下面である。第1面110の範囲は、後述するように、脛骨内側後方部分P1を含む範囲であれば、いずれの形状に規定されてもよい。本工程では、例えば、図4に示される、第1軸B1より内側であって、第2軸B2から第2距離b2内の範囲に規定される。
【0024】
工程(6) 第2面を規定する工程
本工程では、第2面120を第1面110と同一形状に規定する。第2面120は、例えば、設計する矯正空間100の上面である。
【0025】
工程(7) 接続面を規定する工程
本工程では、図6及び図8に示すように、第1面110及び第2面120を接続する接続面160を規定する。本工程では、第1面110と第2面120とがなす角度が脛骨の矯正角度θ1であるように接続面160を規定する。矯正角度θ1は、例えば、5°以上10°以下である。このように接続面160が規定されることによって、第1面110と第2面120とがそれぞれ、骨切り限界線C1から内側に向かうにつれて互いが離れるように、第1面110と第2面120との配置関係が規定される。
本工程では、接続面160は、第1面110の脛骨内側後方部分P1と第2面120の脛骨内側後方部分に相当する部分P1’(以下、単に、脛骨内側後方部分P1’とも表す)とを接続する第1側方面130を含む。接続面160はさらに、他の側方面として、第1面110及び第2面120を接続する、第2側方面140と第3側方面150とを含む。それゆえ、本工程は、第1側方面130を規定する工程、及び他の側方面を規定する工程を含む。
【0026】
工程(7-1) 第1側方面130を規定する工程
図6に示すように、第1側方面130の形状は、骨切り限界線C1を軸に、一方の平面(例えば、第1面110)を他方の平面(例えば、第2面120)に向けて回転させた場合の、脛骨内側後方部分P1(又は脛骨内側後方部分P1’)の軌跡と同一になるように規定される。そのため、第1側方面130は、第1面110から第2面120に向けた(又は第2面120から第1面110に向けた)方向において、内(internal)から外(external)方向に突出するように湾曲した面に規定される。このように規定された第1側方面130は、第1面110と第2面120との中間に位置する仮想の中間平面M3に対して、対称な形状である。また、このように規定された第1側方面130は、骨切り限界線C1を通る断面であって、第1面110に対して矯正角度θ1より小さい角度で傾斜する断面において、第1側方面130は、脛骨内側後方部分P1,P1’と同一形状を形成する。
【0027】
特に、図6及び図7に示すように、このように規定された第1側方面130のうち、最も前方に位置する最前方端部131から背側に所定の距離の範囲内にある領域(前方領域133)は、骨切り限界線C1に直交する断面において、第1の曲線R1を形成する。該所定の距離とは、最前方端部131と第1側方面130の最も外側に位置する最外側端部132との、前後方向に沿った距離である。図6において、図面の理解を容易にするために、前方領域133と前方領域133より後方に位置する後方領域134との境界を、二点鎖線で示している。第1の曲線R1は、図7に示すように、骨切り限界線C1に直交する断面において、骨切り限界線C1を中心点として、第1の半径d1であり、かつ矯正角度θ1と等しい内角を有する円弧である。第1の半径d1は、例えば、49.0mm以上71.0mm以下である。
【0028】
このような形状を有する第1側方面130において、最前方端部131の、第1面110(又は第2面120)に直交する方向の長さ(第2の幅w2)(図6参照)と、脛骨内側突出点Q1における、第1面110(又は第2面120)に直交する方向の長さ(第1の幅w1)とは、式1の関係を満たしている。第1の幅w1は、他方の骨切り面M2における脛骨内側突出点Q1’を用いて、脛骨内側突出点Q1と脛骨内側突出点Q1’とを結ぶ直線の、第1面110(又は第2面120)に直交する方向の長さとも言える。
【0029】
[式1]
(第2の幅w2)=0.75×(第1の幅w1)-0.24
【0030】
さらに、式1は、
脛骨内側突出点Q1(及び第2面120の脛骨内側突出点Q1’)を通り、骨切り限界線C1に直交する断面において、脛骨内側突出点Q1(又は脛骨内側突出点Q1’)から骨切り限界線C1までの距離L1と、
第1側方面130の最前方端部131を通り、骨切り限界線C1に直交する断面において、最前方端部131から骨切り限界線C1までの距離L2と、
矯正角度θ1と、
を用いると、式2にように表すことができる。
【0031】
[式2]
L2×tanθ1=0.75×(L1×tanθ1)-0.24
【0032】
工程(7-2) 他の側方面を規定する工程
図8に示すように、他の側方面として、第1面110及び第2面120を接続する第2側方面140及び第3側方面150を規定する。第2側方面140は、第1側方面130の最前方端部131に連続する。第3側方面150は、第1側方面130の最外側端部132及び第2側方面140に連続する。
【0033】
第2側方面140は、第1面110と第2面120に直交する平面に規定される。第1面110と第2面120とが矯正角度θ1で傾斜していることより、第2側方面140は、外側から内側に向かうにつれて第1面110及び第2面120の間の距離が長くなるように規定される。第2側方面140は、仮想の中間平面M3に対して対称な形状に規定される。
【0034】
第3側方面150は、第1側方面130と同様に、内(internal)から外(external)方向に向けて突出するように湾曲した面に規定できる。このように規定される第3側方面150は、図9に示すように、骨切り限界線C1に直交する断面において、内側方向に向けて緩やかな凸形状の第2の曲線R2を形成する。第2の曲線R2は、骨切り限界線C1に直交する断面において、骨切り限界線C1を中心点として、第2の半径d2であり、かつ矯正角度θ1と等しい内角を有する円弧である。第2の半径d2は、例えば19.0mm以上41.0mm以下であり、例えば27.4mmである。第3側方面150は、仮想の中間平面M3に対して対称な形状に規定される。
【0035】
以上の工程(1)~工程(7)により、本発明に係る脛骨骨切り術用の矯正空間を設計することができる。
【0036】
このような方法で設計された矯正空間100は、最前方端部131における第2の幅w2と脛骨内側突出点Q1における第1の幅w1とが、上記の式1:(第2の幅w2)=0.75×(第1の幅w1)-0.24、の関係を満たしている。Kuriyama S, et al., “Clinical efficacy of preoperative 3D planning for reducing surgical errors during open-wedge high tibial osteotomy”, Journal of Orthopaedic Research, Volume 37, Issue 4, April 2019, p898 - 907によると、第2の幅w2と第1の幅w1とが、式1の関係を満たすことで、高い矯正精度を達成できることが明らかである。
【0037】
上記の方法で決定された矯正空間100は、脛骨骨切り術において、スペーサにより形状が維持され得る。上記の方法を用いれば、矯正空間100の形状を手術前に予め決定することができるので、矯正空間100の形状を維持するためのスペーサも予め準備することができる。従って、上記のような矯正空間の形状を決定する方法を採用することで、例えば、手術中に術者が楔形のスペーサを患者にあわせて削り、スペーサの形状を調整するという作業が省かれる。これにより、手術時間を従来よりも短縮することができる。
【0038】
矯正空間100の形状を維持するスペーサは、例えば、上記方法で決定された矯正空間100と同一形状を有する、人工骨等のスペーサである。また、矯正空間100の形状を維持するスペーサは、例えば、図10に示すように、該矯正空間を跨いで配置されるプレート171である。プレート171は、矯正空間100より頭側の脛骨及び尾側の脛骨の内側側面にボルト170によって固定される等、既知の方法で配置され得る。
【0039】
(他の脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法)
上述の脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法では、第1面を規定する工程(工程(5))において利用する脛骨内側後方部分P1は、工程(1)~工程(4)を得て取得される。しかしながら、脛骨内側後方部分P1は、例えば、矯正空間100を設計するコンピュータの記憶部、該コンピュータとは別の外部記憶部、若しくはクラウド上の記憶部等に記憶させておいてもよい。すなわち、工程(5)において利用される脛骨内側後方部分P1は、前記記憶部に予め記憶された脛骨内側後方部分P1に関するデータに基づいて取得されてもよい。
【0040】
1.1 他の矯正空間の形状1
上記では、矯正空間100の第1側方面130及び第3側方面150は、第1面110から第2面120に向けた方向において、内(internal)から外(external)方向に突出した湾曲した面に規定されたが、これに限定されるものではない。第1側方面130及び第3側方面150は、外(external)から内(internal)方向に突出した湾曲した面であってもよい。また、第1側方面130は、第1面110から第2面120に向けた方向において、湾曲していなくてもよい。すなわち、図11に示すように、第1側方面130’は、骨切り限界線C1に直交する断面において直線を示す形状であってもよい。同様に、第3側方面は、湾曲していなくてもよい。すなわち、図11に示すように、第3側方面150’は、骨切り限界線C1に直交する断面において直線を示し、平面であってもよい。
また、上記では、矯正空間100の第2側方面140は平面であったが、第2側方面は、腹側から背側、又は背側から腹側に突出した湾曲した面であってもよい。
【0041】
1.2 他の矯正空間の形状2
上記では、第1面110の範囲が、第1軸B1より内側であって、第2軸B2から第2距離b2内の範囲に規定されたが、第1面110の範囲は、脛骨内側後方部分P1を含む範囲であれば、いずれの範囲であってもよい。
第1面の範囲は、図12Aに示すように、脛骨内側後方部分P1の腹側端181と背側端182とを結ぶ線L3、及び脛骨内側後方部分P1に囲まれる範囲であってもよい。この場合も、第2面120は第1面110と同一形状である。また、第1側方面130以外の側方面190は、平面であってもよいし、湾曲面であってもよい。
【0042】
さらに、腹側端181と背側端182とを結ぶ線は、図12Bに示すように、曲線L3’であってもよい。曲線L3’は内側又は外側に1つの凸部を有する曲線であってもよいし、内側又は/及び外側に2以上の凸部を有する曲線(波形形状の曲線)であってもよい。この場合も、第2面は第1面と同一形状に規定され、第1側方面を除く側方面は、所望の方向に湾曲した面等、適宜規定される。
【0043】
また、第1面の範囲は、図12Cに示すように、脛骨内側後方部分P1の腹側端181から腹側かつ外側に延伸する線L5、背側端182から腹側に延伸する線、すなわち、線L5と鋭角をなす線L6、及び脛骨内側後方部分P1で囲まれる範囲であってもよい。このような形状を有する第1面2110では、線L5及び線L6の交点183が最も腹側に位置する。ここで、矯正空間2100は、腹側の残存骨(脛骨付着部)の領域を含まない範囲に規定される必要があるため、交点183と最後方点Q2との前後方向に沿った距離は、35mm以下であることが望ましい。なお、この場合も、第2面は第1面と同一形状に規定され、第1側方面130を除く側方面は、平面や所望の方向に湾曲した面等、適宜規定される。
【0044】
また、第1面の範囲は、脛骨内側後方部分P1の腹側端181から背側かつ外側に延伸する線、背側端182から腹側に延伸する線、及び脛骨内側後方部分P1で囲まれる範囲であってもよい。すなわち、第1面の範囲は、鈍角をなす2つの直線と脛骨内側後方部分P1とで囲まれる範囲であってもよい。この場合は、腹側端181と最後方点Q2との前後方向に沿った距離が、35mm以下であることが望ましい。また、第2面は第1面と同一形状に規定され、第1側方面を除く側方面は、平面や所望の方向に湾曲した面等、適宜規定される。
【0045】
このように、第1面は、脛骨内側後方部分P1を含めばいずれの形状であってもよいが、第1面の範囲は、骨切り限界線C1の近傍を含まないことが望ましい。骨切り限界線C1の近傍とは、例えば、骨切り限界線C1から内側に25mm~30mm程度の範囲を意味する。第1面110が骨切り限界線C1の近傍にまで至る、すなわち矯正空間が骨切り限界線C1の近傍にまで至ると、矯正空間に配置されるスペーサが骨切り限界線C1の近傍にまで至ることになる。これは、骨切り限界線C1近傍にある骨の術後骨癒合を妨げることになる。そのため、第1面の範囲は、骨切り限界線C1の近傍を含まないことが望ましい。
【0046】
1.3 他の矯正空間の形状3
上記では、第1面と第2面とは、同一形状に規定されているが、これに限定されるものではない。例えば、第1面は、第2面の脛骨内側後方部分P1’の一部を含むものであってもよい。また、第2面は、第1面の脛骨内側後方部分P1の一部を含むものであってもよい。
【0047】
2.スペーサ
図13図16を参照して、本開示に係るスペーサの一実施形態を示す。本開示に係る脛骨骨切り術用のスペーサ1は、上記の脛骨骨切り術用の矯正空間の形状を設計する方法によって設計された矯正空間100の形状を維持するスペーサの一例である。
本開示の一実施形態に係る脛骨骨切り術用のスペーサ1は、図13に示すように、第1の面10と、第2の面20と、接続部60と、を含む。第1の面10と第2の面20とは同一形状である。接続部60は、第1の面10、及び、第2の面20を接続する。第1の面10及び第2の面20の少なくとも一部の形状は、患者の脛骨を骨切りすることにより形成される、互いに同一形状である2の骨切り面のうち、一方の骨切り面の脛骨内側後方部分の解剖学的外周形状と略一致する。第1の面10と第2の面20とがなす角度は、脛骨骨切り術における、所定の矯正角度である。
【0048】
スペーサ1は、例えば、チタン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、人工骨を含むハイドロキシアパタイト、β型リン酸三カルシウム(β-TCP)、セラミックス等から形成される。ここで、スペーサ1は、2以上の材料を同時に含んで形成されてもよい。例えば、吸収性素材であるβ-TCPの強度を補うために、強度の強いハイドロキシアパタイトを含有させた複合素材を用いてスペーサ1が形成されてもよい。また、チタン多孔体の多孔部位に骨誘導性の高いβ-TCPをコーティングした材料を用いてスペーサ1が形成されてもよい。加えて、抗菌薬やイソジンなどをβ-TCPに含浸させ、抗菌作用を付加させた材料を用いてスペーサ1が形成されてもよい。
【0049】
(第1の面)
第1の面10は、図13及び図14において、スペーサ1の下面である。第1の面10は、図15に示すように、第1の湾曲辺11と、第1の湾曲辺11に連続する第1の辺12と、第1の湾曲辺11及び第1の辺12に連続する第2の辺13と、を含む。スペーサ1において、第1の辺12及び第2の辺13は直線辺であり、第1の辺12と第2の辺13とは直交している。
第1の辺12の第1の端部12aは、第1の湾曲辺11の第2の端部11bと連続する。第1の辺12の第2の端部12bは、第2の辺13の第1の端部13aと接続する。第2の辺13の第2の端部13bは、第1の湾曲辺11の第1の端部11aと接続する。第1の辺12は、例えば17.0mm以上27.7mmであり、例えば平均23.4mmである。第2の辺13は、例えば22.7mm以上35mm以下であり、例えば25mmである。
【0050】
第1の湾曲辺11は、全範囲又はおよそ全範囲にわたって、第1の面10の外周方向に凸形状である。ここで、外周方向とは、第1の面10の中心側から外周側に向けた方向である。第1の面10の一部である第1の湾曲面11の形状は、患者の一方の骨切り面M1の脛骨内側後方部分P1と略一致する。第1の湾曲面11の形状と脛骨内側後方部分P1とが略一致するとは、例えば、第2の端部11bを腹側として、第1の湾曲面11の形状と脛骨内側後方部分P1の形状と主成分分析法で比較すると、標準偏差が1.5mm以内、好ましくは1mm以内、さらに好ましくは0.93mm以内であることをいう。
第1の湾曲辺11は、第2の端部11bを腹側として、患者の一方の骨切り面M1の脛骨内側後方部分P1の形状と比較させた時に、脛骨内側後方部分P1における脛骨内側突出点Q1に相当する第1頂点Q3と、最後方点Q2に相当する第2頂点Q4とを有する。
【0051】
以下、第1の辺12が延在する方向をx方向、第2の辺13が延在する方向をy方向、x方向及びy方向に直交する方向をz方向とする。さらに、x方向において、第1の辺12の第2の端部12bから第1の端部12aに向かう方向を+x方向と表し、第1の端部12aから第2の端部12bに向かう方向を-x方向と表す場合もある。また、y方向において、第2の辺13の第1の端部13aから第2の端部13bに向かう方向を+y方向と表し、第2の端部13bから第1の端部13aに向かう方向を-y方向と表す場合もある。また、z方向において、第1の面10から第2の面20に向かう方向を+z方向と表し、第2の面20から第1の面10に向かう方向を-z方向と表す場合もある。
【0052】
(第2の面)
第2の面20は、図13及び図14において、スペーサ1の上面である。第2の面20は、第1の面10と同一形状を有する。好ましくは、第2の面20は、第1の面10と同一形状かつ同一寸法である。第2の面20は、第1の面10と比較したときに、第1の面10の第1の湾曲辺11に相当する第2の湾曲辺21と、第1の面10の第1の辺12に相当する第3の辺22と、第1の面10の第2の辺13に相当する第4の辺23と、を含む。スペーサ1において、第3の辺22及び第4の辺23は直線辺であり、第3の辺22と第4の辺23は直交している。
第3の辺22の第1の端部は、第2の湾曲辺21の第2の端部と連続する。第3の辺22の第2の端部は、第4の辺23の第1の端部と接続する。第4の辺23の第2の端部は、第2の湾曲辺21の第1の端部と接続する。第3の辺22は、例えば17.0mm以上27.7mm以下であり、例えば平均23.4mmである。第4の辺23は、例えば22.7mm以上35mm以下であり、例えば25mmである。
【0053】
第2の湾曲辺21は、全範囲又はおよそ全範囲にわたって、第2の面20の外周方向に凸形状である。第2の面20の一部である第2の湾曲辺21の形状は、患者の骨切り面の脛骨内側後方部分P1と略一致する。第2の湾曲面21の形状と脛骨内側後方部分P1とが略一致するとは、例えば、第2の端部を腹側として、第2の湾曲面21と脛骨内側後方部分P1の形状と主成分分析法で比較すると、標準偏差が1.5mm以内、好ましくは1mm以内、さらに好ましくは0.93mm以内であることをいう。
第2の湾曲辺21は、第1の湾曲辺11の第1頂点Q3に相当する第3頂点Q3’と、第1の湾曲辺11の第2頂点Q4に相当する第4頂点Q4’とを有する。
【0054】
(第1の面と第2の面の配置関係)
次に、図13図14及び図16を参照して、第1の面10と第2の面20との配置関係を説明する。
第1の面10と第2の面20とは、第2の辺13と第4の辺23とが平行になるように配置されている。
第1の面10と第2の面20とは、第2の辺13及び第4の辺23からから遠ざかるにしたがって互いが離れるように、所定の角度で傾斜している。すなわち、第1の面10と第2の面20とは、+x方向に向かうにつれて、z方向に離れるように、所定の角度で傾斜している。ここで、所定の角度は、患者の脛骨の矯正角度θ2に等しい。矯正角度θ2は、内側開大型高位脛骨骨切り術における一般的な矯正角度である。矯正角度θ2は、例えば、5°以上10°以下である。
さらに、第1の面10と第2の面20とは、図16に示すように、x-z断面において、第2の辺13と第4の辺23とが、第1の面10の延在面と第2の面20の延在面とが交わる直線C2を中心点とした、第4の半径d4の円周上に位置するように配置されている。第4の半径d4は、例えば19.0mm以上41.0mm以下であり、例えば27.4mmである。
以上のような配置関係にある第1の面10と第2の面20とは、第1の面10と第2の面20との中間に位置する、仮想の平らな中間面M4(図14参照)に対して対称な位置に配置されている。また、第1の面10と第2の面20とは、仮想の平らな中間面M4に対して対称な形状である。
【0055】
(接続部)
図13及び図14に示すように、第1の面10及び第2の面20は、接続部60によって接続される。接続部60は、第1の側面30、第2の側面40、及び第3の側面50を含む。第2の側面40はx方向に延在する。第3の側面50はy方向に延在する。
【0056】
(第1の側面)
第1の側面30は、図13及び図14に示すように、第1の面10の第1の湾曲辺11と第2の面20の第2の湾曲辺21とを接続する。そのため、第1の湾曲辺11上にある第1頂点Q3は、第1の側面30上の点でもある。第1の側面30は、第1の湾曲辺11の第2の端部11b及び第2の湾曲辺21の第2の端部を接続する一端31と、第1の湾曲辺11の第1の端部11a及び第2の湾曲辺21の第1の端部を接続する他端32と、含む。
【0057】
第1の側面30の形状は、直線C2を軸に、第1の面10(又は第2の面20)を第2の面20(又は第1の面10)に向けて回転させた場合の、第1の湾曲辺11(又は第2の湾曲辺21)の軌跡と同一形状である。そのため、第1の側面30は、直線C2を通り、第1の面10に対して矯正角度θ2より小さい傾斜角度で傾斜した断面において、第1の湾曲辺11及び第2の湾曲辺21と同一形状を形成する。第1の側面30は、スペーサ1の中心側から外周側に突出するように湾曲した面である。第1の側面30もまた、仮想の平らな中間面M4に対して対称な形状である。
【0058】
特に、このような形状を有する第1の側面30のうち、第3の側面50に対向する範囲に位置する領域は、図16に示すように、x-z断面において、第3の曲線R3を形成する。第3の曲線R3は、直線C2を中心点として、第3の半径d3であり、かつ矯正角度θ2と等しい内角を有する円弧である。第3の半径d3は、例えば、49.0mm以上71.0mm以下である。ここで、第3の側面50に対向する範囲に位置する領域とは、図13において、第3の側面50を-x方向から第1の側面30に投影した場合、y方向において重なる領域(重なり領域33)を意味する。図面の理解を容易にするために、図13において、重なり領域と、第3の側面50を-x方向から第1の側面30に投影した場合、y方向において重ならない領域(非重なり領域34)と、の境界を一点鎖線で示している。重なり領域33は、第1頂点Q3及び第3頂点Q3’を含む。
【0059】
このような形状を有する第1の側面30において、第1頂点Q3及び第3頂点Q3’を結んだ直線のz方向の距離(第3の幅w3)(図13参照)と、一端31のz方向の距離(第4の幅w4)(図14参照)とは、以下の式3の関係を満たしている。
【0060】
[式3]
(第4の幅w4)=0.75×(第3の幅w3)-0.24
【0061】
さらに、式3は、
第1の湾曲辺11の第1頂点Q3(及び第2の湾曲辺21の第3頂点Q3’)を通るx-z平面において、第1頂点Q3(又は第3頂点Q3’)から直線C2までの距離L3と、
第1の湾曲辺11の一端31通るx-z平面において、一端31から直線C2までの距離L4と、
矯正角度θ2と、
を用いると、式4のように表すことができる。
【0062】
[式4]
L4×tanθ2=0.75×(L3×tanθ2)-0.24
【0063】
(第2の側面)
第2の側面40は、図14に示すように、第1の面10の第1の辺12と第2の面20の第3の辺22とを接続する平面である。第2の側面40は、第1の面10及び第2の面20に直交する。第1の面10と第2の面20とが矯正角度θ2で傾斜していることに伴い、第2の側面40は、+x方向に向かうにつれて、z方向の距離が長くなる。第2の側面40もまた、仮想の平らな中間面M4に対して対称な形状である。
【0064】
(第3の側面)
第3の側面50は、図13及び図14に示すように、第1の面10の第2の辺13と第2の面20の第4の辺23とを接続する。第3の側面50は、スペーサ1の外周側から中心側に向けて緩やかな凸形状の湾曲面である。図16に示すように、第3の側面50は、x-z断面において、第4の曲線R4を形成する。第4の曲線R4は、直線C2を中心点として、第4の半径d4であり、かつ矯正角度θ2と等しい内角を有する円弧である。このような形状を有する第3の側面50もまた、仮想の平らな中間面M4に対して対称な形状である。
【0065】
上記のような形状を有するスペーサ1では、第1の面10の第1の湾曲辺11形状、及び第2の面20の第2の湾曲辺21の形状を、脛骨内側後方部分P1(P1’)の形状と主成分分析法で比較すると、標準偏差が1.5mm以内、好ましくは1mm以内、さらに好ましくは0.93mm以内である。そして、直線C2を通り、第1の面10に対して、矯正角度θ2より小さい傾斜角度で傾斜した断面において、第1の側面30は、第1の湾曲辺11及び第2の湾曲辺21と同一形状である。そのため、2つの骨切り面M1,M2の間にスペーサ1を配置する際に、2つの骨切り面M1,M2の脛骨内側後方部分P1,P1’の形状と第1の側面30との形状を容易に略一致させて配置することができる。
その結果、患者の脛骨を所望の矯正角度θ2で矯正することができる。すなわち、本実施形態に係るスペーサ1を、2つの骨切り面M1,M2との間に配置することで、患者の脛骨を高い矯正精度で矯正できる。さらに、術者が手術中に、脛骨の矯正角度を確認しながら、スペーサを置き直すという作業が省かれる又は軽減されるため、手術時間を従来よりも短縮することができる。また、スペーサ1を海綿骨だけでなく皮質骨にもよって支持することができる。
【0066】
また、上記のような形状を有するスペーサ1は、手術前に予め準備することができるため、手術中に術者が患者にあわせてスペーサの形状を調整するという作業が省かれる。これにより、手術時間を従来よりも短縮することができる。
【0067】
また、上記のような形状を有するスペーサ1は、2つの切り面M1,M2の間の空間を高い充填率で充填することができる。これにより、術後、脛骨に力(体重)が負荷されても、スペーサ1が該力を十分に支えることができる。その結果、骨切りされなかった脛骨の外側部分に強い力がかかり、脛骨が骨折する等の、従来生じていた問題の発生を抑制できる。
実際に、従来のスペーサを用いて矯正した脛骨と、本実施形態に係るスペーサ1を用いて矯正した脛骨それぞれに、6500Nの荷重を加えた場合を有限要素解析で検討した。いずれのスペーサで矯正した場合も、矯正角度は10°とした。その結果、従来のスペーサを用いた場合は、骨切り外側部分には4400Nの力が加わった。一方、本実施形態に係るスペーサ1を用いた場合は、総荷重の6割の荷重をスペーサ1で受けることができ、骨切り外側部分には2800Nの力が加わった。従って、本実施形態に係るスペーサ1を用いて脛骨を矯正する方が、従来のスペーサを用いて脛骨を矯正する場合より、術後、外側部分に負荷される力を軽減することができる。
【0068】
さらに、従来のスペーサを用いた脛骨骨切り術では、スペーサを2つの骨切り面M1,M2の間に配置後、スペーサの位置がずれないようにスペーサをプレートとボルト等の補助器具を用いて固定させる場合がある。具体的には、骨切りにより分けられた頭側の脛骨と尾側の脛骨とに跨がって、脛骨の内側からスペーサを支持及び固定するようにプレートが配置される。該プレートは、ボルトで脛骨に固定される。しかしながら、本実施形態に係るスペーサ1は2つの骨切り面M1,M2の間の空間を高い充填率で充填できるため、スペーサ1が2つの骨切り面M1,M2によって固定され、術後、患者が日常生活を再開してもスペーサ1の位置がずれることを抑制できる。そのため、プレート及びボルト等の補助器具を使用せずに手術を行うことができる。これにより、手術時間を短縮することができる。また、患者の体内に挿入する人工物を減らすことができ、患者の身体への負荷を低減することができる。
【0069】
さらに、脛骨に骨端線が残存していると、プレート等の補助器具を配置するスペースが確保出来ないため、骨端線が残存する小児に対しては、従来のスペーサを用いた骨切り術を適用することは困難である。しかしながら、本実施形態のスペーサ1は、上述したように、プレート及びボルト等の補助器具が不要であるため、骨端線が残存する小児に対しても脛骨骨切り術を行うことを可能にする。
【0070】
また、上記のように形状を予め決定することができるスペーサ1は、矯正角度毎に量産することができる。具体的には、矯正角度を1°ずつ変えて、例えば、矯正角度5°のスペーサ1、矯正角度6°のスペーサ1、矯正角度7°のスペーサ1、矯正角度8°のスペーサ1、矯正角度9°のスペーサ、矯正角度10°のスペーサ1の6種類のスペーサ1をそれぞれ量産することができ、これら6種類だけのスペーサ1のいずれかを用いることで、大半の患者の脛骨を適切な矯正角度で矯正することができる。なお、5°から10°までは矯正角度の中心であるが、本形状を有する矯正角度はこの矯正角度の範囲に限定されるものではなく、適宜変更可能である。一例をあげると、矯正角度は5°以下でもよく、例えば1°、2°、3°、4°としてもよい。また、矯正角度は10°以上であってもよく、例えば、11°、12°、13°、14°、15°としてもよい。また、矯正角度は、人工関節を避けたいとの患者の要望に応じて、15°以上であってもよい。
【0071】
また、上記のような形状を有するスペーサ1は、仮想の平らな中間面M4に対して対称な形状である。そのため、スペーサ1は、上下を反転させることで左右の脛骨どちらにも使用することができる。すなわち、第1の面10を下面とすることで、左の脛骨用のスペーサとして使用でき、第2の面20を下面とすることで右の脛骨用のスペーサとして使用できる。したがって、左右の脛骨ごとにスペーサを製造する必要がなく、製造工程を簡易にすることができ、また、製造コストを抑制することができる。さらに、手術中に左脛骨用のスペーサ(又は右脛骨用のスペーサ)を右脛骨(又は左脛骨)に誤って配置することを防止することができる。
【0072】
また、上記のような形状を有するスペーサ1は、第3の幅w3と第4の幅w4とが、式3:(第4の幅w4)=0.75×(第3の幅w3)-0.24、の関係を満たしている。Kuriyama S, et al., “Clinical efficacy of preoperative 3D planning for reducing surgical errors during open-wedge high tibial osteotomy”, Journal of Orthopaedic Research, Volume 37, Issue 4, April 2019, p898 - 907によると、式3の関係を満たす第3の幅w3及び第4の幅w4を有するスペーサ1を2つの骨切り面M1、M2の間に配置することで、患者の脛骨を高い矯正精度で矯正できることが明らかである。
【0073】
2.1 スペーサの他の形態1
スペーサ1の第1の側面30は、第1の面10から第2の面20に向けた方向において、スペーサの中心側から外周側に向けて凸形状の湾曲した面であるが、これに限定されるものではない。第1の側面は、スペーサの外周側から中心側に向けて凸形状の湾曲した面であってもよい。同様に第3の側面は、スペーサの中心側から外周側に向けて凸形状の湾曲した面であってもよい。
また、図17に示すスペーサ1’のように、第1の側面30’及び第3の側面50’は、第1の面10から第2の面20に向けた方向において、湾曲していなくてもよい。すなわち、第1の側面30’は、x-z断面において直線を示す形状であってもよい。第3の側面50’は、x-z断面において直線を示し、平面であってもよい。
また、スペーサ1,1’の第2の側面40は平面であるが、第2の側面40+y側又は-y側に凸形状の湾曲した面であってもよい。
【0074】
2.2 スペーサの他の形態2
スペーサ1では、第1の面10が、1つの湾曲辺(第1の湾曲辺11)と、2つの辺(第1の辺12、及び第2の辺13)とを含むが、前述したように、これに限定されるものではない。第1の面は、脛骨内側後方部分P1と略一致する第1の湾曲辺11を含む形状であればいずれの形状であってもよい。
例えば、図18Aに示すスペーサ1001のように、第1の面1010は、第1の湾曲辺11と、第1の湾曲辺11とは別の1つの辺14とを含んでいてもよい。辺14は、例えば、直線辺である。辺14は、第1の湾曲辺11の第1端部11a及び第2端部11bを接続する。この場合、第1の面1010と同一形状である第2の面1020は、第2の湾曲辺21と、第2の湾曲辺21とは別の1つの直線辺24とを含む。
第1の面1010及び第2の面1020がこのような形状を有する場合、接続部は、第1の側面30と、第1の側面30と別の1つの側面70と、を備える。側面70は辺14及び辺24を接続する。側面70は、平面であってもよいし、スペーサ1001の外周側又は中心側に向けて凸形状の湾曲面であってもよい。
【0075】
さらに、第1の湾曲辺11とは別の1つの辺は、図18Bに示すように、湾曲辺14’であってもよい。該湾曲辺14’は、例えば、第1の面1010’の外周側から中心側に向けて、又は中心側から外周側に向けて1つの凸部を有する曲線であってもよい。また、該湾曲辺は、第1の面1010’の外周側及び/又は中心側に2つ以上の凸形状を有する曲線(波形形状の曲線)であってもよい。第1の面1010’がこのような形状の場合も、第2面1020’は第1面1010’と同一形状に形成され、第1の側面30以外の他の側面は、適宜所望の方向に湾曲した面に形成され得る。
【0076】
また、スペーサ1では、第1の面10の第1の辺12と第2の辺13とが直交しており、かつ第2の面20の第3の辺22と第4の辺23とが直交しているが、これに限定されるものではない。
図18Cに示すスペーサ2001のように、第1の辺2012と第2の辺2013との間の角度α1、及び第3の辺2022と第4の辺2023との間の角度α1は、鋭角であってもよい。この場合、y方向の最大幅w5は、第3の辺2022及び第4の辺2023の交点と、第4頂点Q4と、のy方向に沿った長さである。y方向の最大幅w5は、35mm以下であることが望ましい。これにより、スペーサ2001を2つの骨切り面M1,M2との間に配置しても、スペーサ2001を膝蓋腱付着部に接触させることなく、スペーサ2001の第1の側面30を脛骨内側後方部分P1,P1’と略一致させて配置することができる。
また、第1の辺と第2の辺との間の角度、及び第3の辺と第4の辺との間の角度は、鈍角であってもよい。この場合も、y方向の最大幅は、35mm以下であることが望ましい。
【0077】
2.3 スペーサの他の形態3
上記では、第1の面と第2の面とは、同一形状に規定されているが、これに限定されるものではない。例えば、第1の面は、第2の面の脛骨内側後方部分P1’の一部を含むものであってもよい。また、第2の面は、第1の面の脛骨内側後方部分P1の一部を含むものであってもよい。
【0078】
3.実施例
以下に、脛骨内側後方部分の平均外周形状を取得し、平均外周形状と患者の脛骨内側後方部分とを比較した実施例を示す。
まず、内側開大型高位脛骨骨切り術を受ける患者100人の脛骨モデルそれぞれに対して、骨切りを行うことで同一形状に形成される、2つの骨切り面を規定した。患者は、14歳以上の男女であった。
骨切りは、脛骨モデルの背面像において、骨切り面が直線で表されるように行った。該直線は、脛骨モデルの背面像において、脛骨関節面の内側端から30mm以上35mm以下の位置にある脛骨内側側面上の一点から、外側かつ頭側に延伸する直線であった。直線の長さは、49mm以上71mm以下(平均57.1mm)であった。直線は、頭尾方向に対して15°以上45°以下(平均30°)で傾斜する直線であった。
また、骨切りは、脛骨付着部を尾側の脛骨に残存させて行われた。骨切りは、脛骨モデルの内側側面像において、骨切りの軌跡が略L字形状で表されるように行った。該略L字の水平方向の線に相当する部分の長さ、すなわち骨切り面を表す部分の長さは、31.2mm以上58.5mm以下(平均40.1mm)であった。
次に、患者それぞれにおいて、2つの骨切り面のうち一方の骨切り面の形状をCTスキャンにより取得した。このCTスキャン画像を3Dテンプレート(京セラ社)、ImageJ、解析ソフトウェアRで画像処理して、各患者の脛骨内側後方部分の外周形状を取得した。脛骨内側後方部分の範囲は、脛骨内側突出点から外側方向へ30mm、かつ最後方点から前方方向へ25mmの範囲とした。
取得した全患者の外周形状から、主成分分析法により、全患者の脛骨内側後方部分の平均外周形状を取得した。
このようにして得られた平均外周形状と各患者の脛骨内側後方部分の外周形状とを主成分分析により比較した。その結果、平均外周形状及び各患者の脛骨内側後方部分の外周形状の標準偏差は、0.93mm以下であった。また、平均外周形状及び各患者の脛骨内側後方部分の外周形状の差の平均は、0.57mmであった。さらに、96%の患者において、脛骨内側後方部分の外周形状の平均外周形状との差が5%以内であった。
【0079】
以上、本開示の実施形態及び実施例を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施形態、及び実施例における要素の組合せや順序の変化等は請求された本開示の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0080】
1、1’1001、2001 スペーサ
10、1010 第1の面
11 第1の湾曲辺
12、2012 第1の辺
13、2013 第2の辺
20、1020、2020 第2の面
21 第2の湾曲辺
22、2022 第3の辺
23、2023 第4の辺
30、30’ 第1の側面
31 一端
32 他端
40 第2の側面
50、50’ 第3の側面
60 接続部
70 側面
100、1100、2100 矯正空間
110、1110、2110 第1面
120、1120、2120 第2面
130 第1側方面
140、2140 第2側方面
150、2150 第3側方面
160 接続面
170 ボルト
171 プレート
181 腹側端
182 背側端
190 側方面
a1 距離
a2 長さ
a3
b1 第1距離
b2 第2距離
d1 第1の半径
d2 第2の半径
d3 第3の半径
d4 第4の半径
t1、t2 一点
w1 第1の幅
w2 第2の幅
w3 第3の幅
w4 第4の幅
w5 幅
A1 断面全体
B1 第1軸
B2 第2軸
C1 骨切り限界線
C2 直線
D1 解剖学的外周形状
E1、E2 直線
E3 略L字の水平方向の線に相当する部分
E4 略L字の鉛直方向の線に相当する部分
F1 脛骨付着部
L1、L2 距離
L3、L4、L5、L6 線
M1 一方の骨切り面
M2 他方の骨切り面
M3 仮想の中間平面
M4 仮想の平らな中間面
P1、P1’ 脛骨内側後方部分
Q1、Q1’ 脛骨内側突出点
Q2 最後方点
Q3 第1頂点
Q4 第2頂点
Q3’ 第3頂点
Q4’ 第4頂点
R1 第1の曲線
R2 第2の曲線
R3 第3の曲線
R4 第4の曲線
S1 脛骨関節面の内側端
S2 脛骨内側側面上の一点
T1 脛骨モデル
α1、φ1 角度
θ1、θ2 矯正角度
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C