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特許7307506バイオセンサーユニット、アレイ化バイオセンサー及び計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】バイオセンサーユニット、アレイ化バイオセンサー及び計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20230705BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230705BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230705BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
G01N27/414 301R
G01N27/414 301N
G01N27/414 301V
G01N33/543 515A
G01N33/483 F
G01N37/00 102
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021558434
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043091
(87)【国際公開番号】W WO2021100790
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019220708
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 禅
(72)【発明者】
【氏名】下田 達也
(72)【発明者】
【氏名】フアン トゥエ チヨン
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大亮
(72)【発明者】
【氏名】栗谷川 翔
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506085(JP,A)
【文献】特開2016-122019(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104130(WO,A1)
【文献】特表2012-506557(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134804(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0202254(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0219520(US,A1)
【文献】CHAROENKITAMORN, Kanokwan et al.,Electrochemical Immunoassay Using Open Circuit Potential Detection Labeled by Platinum Nanoparticles,sensors,2018年02月03日,Vol.18,No.2,444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ化バイオセンサーを構成可能なバイオセンサーユニットであって、
第1端子、第2端子、及び、前記第2端子に入力された第1信号に応じた第2信号を前記第1端子から出力させるか否かを制御する制御信号が入力される制御端子を有する半導体素子と;
前記第2端子の近傍に配置され、標識触媒を含む複合体を表面に固定化可能であり、前記表面の少なくとも一部が外部に露出される測定電極と;を備え、
前記第1信号は、前記測定電極から出力された信号と同一の信号、又は、前記測定電極から出力された信号の電位を反映した電位信号であって、前記測定電極に蓄積されている電荷量に応じた前記測定電極の開放回路電位を反映した信号から成り、
前記測定電極に固定された複合体の標識触媒と還元剤または酸化剤との化学反応により、前記測定電極に固定化された前記複合体の量に応じて、前記測定電極の開放回路電位が変化し、
前記第2端子と前記測定電極とが電気的に接続されている、
ことを特徴とするバイオセンサーユニット。
【請求項2】
前記測定電極の表面は、第1の材料により形成され、
前記標識触媒は、前記第1の材料よりも高い触媒能力を有する第2の材料により形成された金属粒子である、
ことを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサーユニット。
【請求項3】
前記第1の材料は金であり、
前記標識触媒は白金ナノ粒子であり、
前記還元剤または酸化剤はヒドラジンである、
ことを特徴とする請求項2に記載のバイオセンサーユニット。
【請求項4】
前記半導体素子は半導体スイッチ素子であり、
前記制御端子には、前記第1端子と前記第2端子との導通状態を制御する導通制御信号が、前記第2信号を前記第1端子から出力させるか否かを制御する制御信号として入力される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のバイオセンサーユニット。
【請求項5】
前記半導体素子は電界効果トランジスタであり、
前記第1端子はソース端子であり、
前記第2端子はドレイン端子であり、
前記制御端子はゲート端子である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオセンサーユニット。
【請求項6】
第1方向及び第2方向を用いて定義される所定の格子の格子点の近傍ごとに配置された請求項1~5のいずれか一項に記載されたバイオセンサーユニットと;
前記第1方向に沿って延び、その近傍に配置された複数のバイオセンサーユニットの制御端子に電気的に接続される第1配線を含み、前記バイオセンサーユニットごとの測定電極の開放回路電位を反映した電位情報の順次読み出しに際して利用される複数の配線と;
を備えることを特徴とするアレイ化バイオセンサー。
【請求項7】
第1平面に沿って、互いに電気的に接触しないように、第1方向へ延びる複数の第1配線と;
前記第1平面と平行かつ離隔した第2平面に沿って、互いに電気的に接触せず、かつ、前記複数の第1配線と電気的に接触しないように、前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2配線と;
平面視した場合における前記複数の第1配線と前記複数の第2配線との交点のそれぞれの近傍位置に配置された請求項4又は5に記載のバイオセンサーユニットと;を備え、
前記制御端子は、その近傍に存在する第1配線と電気的に接続され、
前記第1端子は、その近傍に存在する第2配線と電気的に接続されている、
ことを特徴とするアレイ化バイオセンサー。
【請求項8】
前記バイオセンサーユニットごとの測定電極の少なくとも一部を外部に露出させる開口窓を形成する絶縁性の窓形成部材を更に備える、ことを特徴とする請求項6又は7に記載のアレイ化バイオセンサー。
【請求項9】
前記測定電極の開放回路電位を反映した電圧を検出する際の基準電位となっている参照電極を更に備え、
前記参照電極の表面の少なくとも一部が、外部に露出されている、
ことを特徴とする請求項6~8のいずれか一項に記載のアレイ化バイオセンサー。
【請求項10】
前記測定電極及び前記参照電極と協働して、溶液を収容する液収容空間を形成する絶縁性の枠部材を更に備える、ことを特徴とする請求項9に記載のアレイ化バイオセンサー。
【請求項11】
前記枠部材と協働して、前記液収容空間からの前記溶液の散逸を低減させる絶縁性の蓋部材を更に備える、ことを特徴とする請求項10に記載のアレイ化バイオセンサー。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか一項に記載のアレイ化バイオセンサーを利用して行われる測定対象物に関する計測を行う計測方法であって、
前記測定電極の露出表面に固定された前記複合体を形成する処理を行う複合体形成工程と;
前記測定電極の露出表面及び前記測定電極の開放回路電位を反映した電圧を検出する際の基準電位となっている参照電極の露出表面を前記還元剤又は前記酸化剤に対して暴露させる暴露工程と;
前記バイオセンサーユニットの測定電極ごとの開放回路電位が反映された電位情報を順次取得する電位情報取得工程と;
前記電位情報取得工程における取得結果に基づいて、前記測定電極ごとにおける前記複合体の固定化状態を解析する解析工程と;
を備えることを特徴とする計測方法。
【請求項13】
請求項7に記載のアレイ化バイオセンサーを利用して行われる測定対象物に関する計測を行う計測方法であって、
前記測定電極の露出表面に固定された前記複合体を形成する処理を行う複合体形成工程と;
前記測定電極の露出表面及び前記測定電極の開放回路電位を反映した電圧を検出する際の基準電位となっている参照電極の露出表面を前記還元剤又は前記酸化剤に対して暴露させる暴露工程と;
前記複数の第1配線から選択された一の第1配線と、前記複数の第2配線から選択された一の第2配線との組合せを変化させつつ、前記組合せごとに特定されるバイオセンサーユニットの測定電極の開放回路電位が反映された前記特定されたバイオセンサーユニットの第2端子の電位値を、電位情報として取得する電位情報取得工程と;
前記電位情報取得工程における取得結果に基づいて、前記測定電極ごとにおける前記複合体の固定化状態を解析する解析工程と;
を備えることを特徴とする計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサーユニット、アレイ化バイオセンサー及び計測方法に関する。より詳細には、溶液中の生体物質の量を測定するアレイ化バイオセンサー、当該アレイ化バイオセンサーを構成する際に利用可能なバイオセンサーユニット、及び、当該アレイ化バイオセンサーを利用して行われる計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、バイオ計測の分野では、溶液中の生体分子の数を直接数える、ディジタルELISA(Digital Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)の技術が発達している(例えば、非特許文献1参照。)。かかるディジタルELISAでは、微細化された高感度な抗原抗体反応検出器が、必要な測定分子数を十分上回る数(通常100~10万個程度)並列に配置される。そして、配列された当該抗原抗体反応検出器のそれぞれが1分子の有無を検出し、その検出結果を高速に読み出す。こうして読み出された検出結果に基づいて、分子が検出された測定点の数を数えることで、1分子レベルまでの超低濃度の測定を、検量線を用いずに絶対定量することが実現されている。
【0003】
また、高感度な抗原抗体反応を検出できる小型装置としては、アンペロメトリ型やボルタンメトリ型の電気化学センサーがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ポテンシオメトリ型のセンサーを複数配置する計測法としては、CCD(Charge Coupled Device)型やCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)型のイメージセンサの読み出し部を用いる計測法がある(例えば、特許文献2参照)。この計測法では、複数の測定電極の電位が順次読み出されるようになっている。
【0005】
抗原抗体反応を電位で検出する方法としては、非特許文献2のようにカーボン印刷電極上に固定化した1次抗体と、白金ナノ粒子で標識した2次抗体を用い、ヒドラジン添加時におけるカーボン印刷電極の電位、オープンサーキットポテンシャル(OCP:Open Circuit Potential)がシフトする現象を用いたものが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5187759号
【文献】特開2018-165728号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】論文 Soo Hyeon Kim他,Lab Chip, 2012, 12, 4986-4991.
【文献】論文 Kanokwan Charoenkitamorn他,Sensors 2018, 18, 444.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の非特許文献1に代表される、従来のディジタルELISAでは、1分子レベルの信号を読み出し可能とするために、酵素を用いた信号増幅を用いている。かかる信号増幅には、長時間を要する。また、従来のディジタルELISAでは、検出結果の読み出しに光学的な手法を用いるために、測定装置も大型で高価なものであった。
【0009】
また、安価、小型かつ高感度で抗原抗体反応を検出できる上記の特許文献1等のアンペロメトリ―型センサを複数配置する方法では、能動的に電圧を電極に印加し、溶液を通して流れる電流を測定している。このため、複数の電極を一つの溶液に露出すると、電極同士が干渉して正確に測定できない。
【0010】
一方、上記の特許文献2に記載されているポテンシオメトリ型のセンサーを複数配置する計測法では、対象物質はイオンである。このため、1分子を検出できる感度への発展性はなく、また、例えば、抗原抗体反応に応じた高感度な測定を行うことができない。
【0011】
また、上記の非特許文献2に記載の技術では、抗原抗体反応を電位で検出する方法であるが、カーボン印刷電極を測定電極に採用している。そして、複数の測定電極のそれぞれのOCPのシフト量を検出する。しかしながら、非特許文献2に記載の技術は、感度が高いとはいえず、1分子測定への発展性があるとはいえない。また、測定電極ごとのOCP測定に際しては、測定電極ごとに1本の信号取り出しの配線が必要になる。さらに、電極に用いるカーボンは微細化や、読み出し回路との集積化が困難である。
【0012】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、大量の検出点を有し、検出点ごとに測定対象とする生体分子の有無及びその量を高感度に測定でき、さらに、微細化が可能であり、かつ、検出点ごと検出結果を高速で読み出すことができるアレイ化バイオセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のバイオセンサーユニットは、アレイ化バイオセンサーを構成可能なバイオセンサーユニットであって、第1端子、第2端子、及び、前記第2端子に入力された第1信号に応じた第2信号を前記第1端子から出力させるか否かを制御する制御信号が入力される制御端子を有する半導体素子と;前記第2端子の近傍に配置され、標識触媒を含む複合体を表面に固定化可能であり、前記表面の少なくとも一部が外部に露出される測定電極と;を備え、前記第1信号は、前記測定電極から出力された信号と同一の信号、又は、前記測定電極から出力された信号の電位を反映した電位信号であって、前記測定電極に蓄積されている電荷量に応じた前記測定電極の開放回路電位を反映した信号から成り、前記測定電極に固定された複合体の標識触媒と還元剤または酸化剤との化学反応により、前記測定電極に固定化された前記複合体の量に応じて、前記測定電極の開放回路電位が変化し、前記第2端子と前記測定電極とが電気的に接続されている、
ことを特徴とするバイオセンサーユニットである。
【0014】
本発明のバイオセンサーユニットでは、前記測定電極の表面が、第1の材料により形成され、前記標識触媒を、前記第1の材料よりも高い触媒能力を有する第2の材料により形成された金属粒子とすることができる。ここで、前記第1の材料を金とし、前記標識触媒を白金ナノ粒子とし、前記還元剤または酸化剤をヒドラジンとすることができる。
【0017】
また、本発明のバイオセンサーユニットでは、前記半導体素子が半導体スイッチ素子であり、前記制御端子には、前記第1端子と前記第2端子との導通状態を制御する導通制御信号が、前記第2信号を前記第1端子から出力させるか否かを制御する制御信号として入力される、構成とすることができる。ここで、前記半導体素子が電界効果トランジスタであり、前記第1端子がソース端子であり、前記第2端子がドレイン端子であり、前記制御端子がゲート端子である、構成とすることができる。
【0018】
本発明のアレイ化バイオセンサーユニットは、第1方向及び第2方向を用いて定義される所定の格子の格子点の近傍ごとに配置された請求項1~7に記載されたバイオセンサーユニットと;前記第1方向に沿って延び、その近傍に配置された複数のバイオセンサーユニットの制御端子に電気的に接続される第1配線を含み、前記バイオセンサーユニットごとの測定電極の開放回路電位を反映した電位情報の順次読み出しに際して利用される複数の配線と;を備えることを特徴とするアレイ化バイオセンサーである。
【0019】
本発明のアレイ化バイオセンサーユニットでは、前記バイオセンサーが備える前記半導体素子が半導体スイッチ素子である場合には、第1平面に沿って、互いに電気的に接触しないように、第1方向へ延びる複数の第1配線と;前記第1平面と平行かつ離隔した第2平面に沿って、互いに電気的に接触せず、かつ、前記複数の第1配線と電気的に接触しないように、前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2配線と;平面視した場合における前記複数の第1配線と前記複数の第2配線との交点のそれぞれの近傍位置に配置された前記バイオセンサーユニットと;を備え、前記制御端子は、その近傍に存在する第1配線と電気的に接続され、前記第1端子は、その近傍に存在する第2配線と電気的に接続されている、構成とすることができる。
【0020】
また、本発明のアレイ化バイオセンサーユニットでは、前記バイオセンサーユニットごとの測定電極の少なくとも一部を外部に露出させる開口窓を形成する絶縁性の窓形成部材を更に備える、構成とすることができる。
【0021】
また、本発明のアレイ化バイオセンサーユニットでは、前記測定電極の開放回路電位を反映した電圧を検出する際の基準電位となっている参照電極を更に備え、前記参照電極の表面の少なくとも一部が、外部に露出されている、構成とすることができる。
【0022】
ここで、前記測定電極、前記窓形成部材及び前記参照電極と協働して、溶液を収容する液収容空間を形成する絶縁性の枠部材を更に備える、構成とすることができる。この場合には、前記枠部材と協働して、前記液収容空間からの前記溶液の散逸を低減させる絶縁性の蓋部材を更に備える、構成とすることができる。
【0023】
本発明の計測方法は、本発明のアレイ化バイオセンサーを利用して行われる測定対象物に関する計測を行う計測方法であって、前記測定電極の露出表面に固定された前記複合体を形成する処理を行う複合体形成処理工程と;前記測定電極の露出表面及び前記測定電極の開放回路電位を反映した電圧を検出する際の基準電位となっている参照電極の露出表面を前記還元剤又は前記酸化剤に対して暴露させる暴露工程と;前記バイオセンサーユニットの測定電極ごとの開放回路電位が反映された電位情報を順次取得する電位情報取得工程と;前記電位情報取得工程における取得結果に基づいて、前記測定電極ごとにおける前記複合体の固定化状態を解析する解析工程と;を備えることを特徴とする計測方法である。
【0024】
本発明の計測方法では、前記アレイ化バイオセンサーが備える前記バイオセンサーユニットにおける前記半導体素子が半導体スイッチ素子である場合に、前記測定電極の露出表面に固定された前記複合体を形成する処理を行う複合体形成処理工程と;前記測定電極の露出表面及び前記測定電極の開放回路電位を反映した電圧を検出する際の基準電位となっている参照電極の露出表面を前記還元剤又は前記酸化剤に対して暴露させる暴露工程と;前記複数の第1配線から選択された一の第1配線と、前記複数の第2配線から選択された一の第2配線との組合せを変化させつつ、前記組合せごとに特定されるバイオセンサーユニットの測定電極の開放回路電位が反映された前記特定されたバイオセンサーユニットの第2端子の電位値を、電位情報として取得する電位情報取得工程と;前記電位情報取得工程における取得結果に基づいて、前記測定電極ごとにおける前記複合体の固定化状態を解析する解析工程と;を備える計測方法とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のアレイ化バイオセンサーによれば、大量の検出点ごとに、測定対象とする生体分子の有無及びその量を高感度に検出でき、さらに、総検出点数の平方根程度の信号配線で全ての測定点の信号を読み出すことができるので、微細化が可能であり、かつ、検出点ごと検出結果を高速で読み出すことができるアレイ化バイオセンサーを実現することができる。また、本発明のバイオセンサーユニットによれば、本発明のアレイ化バイオセンサーを容易に構築することができる。また、本発明の計測方法によれば、本発明のアレイ化バイオセンサーによる検出結果に基づいて、迅速に、検出点ごと検出結果を高速で読み出し、読み出し結果に基づく検出点ごとの測定対象とする生体分子の有無及びその量を高感度で解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態のアレイ化バイオセンサーの概略的な外観構成を示す図である。
図2図1のアレイ化バイオセンサーにおける複数のバイオセンサーの配置及び導体配線を説明するための図である。
図3図1のアレイ化バイオセンサーのA-A断面図(垂直断面図)である。
図4図1の回路要素形成体において形成されている回路の構成を説明するための図である。
【0027】
図5】測定電極の開放回路電位を説明するための図である。
図6】第2実施形態のアレイ化バイオセンサーの概略的な外観構成を示す図である。
図7図6の回路要素形成体において形成されている回路の構成を説明するための図である。
【0028】
図8】評価用デバイスの構成を説明するための図である。
図9】サンドイッチ構造の複合体を測定電極に固定する手順を説明するための図である。
図10】評価#1における実施例1、比較例1及び比較例2の測定電極のOCPの検出結果の時間変化を示す図である。
図11】評価#2で用いられる複合体の構造を説明するための図である。
図12図11の複合体を測定電極に固定する手順を説明するための図である。
図13】評価#2における実施例2及び比較例3の測定電極のOCPの検出結果の時間変化を示す図である。
図14】評価#3で用いられる複合体の構造を説明するための図である。
図15図14の複合体を測定電極に固定する手順を説明するための図である。
図16】評価#3における実施例3及び比較例4の測定電極のOCPの検出結果の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
100A,B … アレイ化バイオセンサー
100E … 評価用デバイス
110A,B … 回路要素形成体
111 … 基板
112 … 絶縁層
120 … 枠部材
130 … 蓋部材
140 … 液収容空間
【0030】
210j … ゲート配線(第1配線)
220k … ソース配線(第2配線)
230jk … バイオセンサーユニット
231jk … 第2の電界効果トランジスタ(半導体スイッチ素子、半導体素子)
232jk … 測定電極
232Wjk … 開口窓
【0031】
240 … 参照電極
240E … 参照電極
250 … チャンネルストッパ部
260 … 窓形成部材(レジスト・パッシベーション層)
280jk … バイオセンサーユニット
281jk … 第1の電界効果トランジスタ
285jk … 定電流回路
【0032】
310 … サンドイッチ構造の複合体
311 … 被認識分子
312 … 第1認識分子
313 … 第2認識分子
314 … 標識触媒
315 … ブロッキング剤(BSA)
319 … 酸化剤又は還元剤
【0033】
320 … 複合体
321 … 被認識分子
322 … 認識分子
323 … 標識触媒
329 … 酸化剤又は還元剤
【0034】
330 … 複合体
331 … 被認識分子
332 … 表面固定化可能分子
333 … 第1認識分子
334 … 第2認識分子
335 … 標識触媒担持分子
336 … 標識触媒
339 … 酸化剤又は還元剤
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明及び図面においては、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0036】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態を、図1図5を参照して説明する。
【0037】
<構成>
図1には、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aの概略的な外観構成が示されている。図1(A)及び図1(B)により総合的に示されるように、アレイ化バイオセンサー100Aは、回路要素形成体110Aと、枠部材120と、蓋部材130とを備えている。ここで、図1(B)は、図1(A)の状態のアレイ化バイオセンサー100Aから、蓋部材130を取り外した状態におけるアレイ化バイオセンサー100Aの概略的な外観構成が示されている。
【0038】
図1(A)に示されるように、枠部材120は、回路要素形成体110Aの上面(+Z方向側表面)上に配置されている。この枠部材120は、絶縁性材料により形成されている。
【0039】
また、蓋部材130は、枠部材120の上面上に配置されている。この蓋部材130は、絶縁性材料により形成されている。なお、第1実施形態では、蓋部材130には、蓋部材130の下方側(-Z方向側)に形成されている液収容空間140(図1(B)参照)への溶液の注入、及び、液収容空間140からの溶液の排出のための孔が形成されている。
【0040】
ここで、枠部材120の材料及び蓋部材130は、液収容空間140に注入される溶液に対して耐食性が高い材料が選択される。
【0041】
なお、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aには、-Y方向側から入力信号が入力され、+X方向側から出力信号が出力されるようになっている。
【0042】
図2には、アレイ化バイオセンサー100Aにおけるバイオセンサー230jkの配置及び導体配線が、平面視で示されている。また、図3には、アレイ化バイオセンサー100Aの垂直断面図(図1におけるA-A断面図)が示されている。
【0043】
図2及び図3を総合して示されるように、アレイ化バイオセンサー100Aでは、基板111の+Z方向側の略平面(第1平面)上に、互いに電気的に接触しないように互いにX軸方向に沿って離隔されて配置され、Y軸方向に沿って延びるゲート配線210j(j=1,2,…,M)が形成されている。また、絶縁層112によりゲート配線210jと電気的に接触しない略平面(第2平面)上に、互いに電気的に接触しないように互いにX軸方向に沿って離隔されて配置され、X軸方向に沿って延びるソース配線220k(k=1,2,…,N)が形成されている。また、絶縁層112の+X方向側端部の表面上には、参照電極240が形成されている。
【0044】
アレイ化バイオセンサー100Aでは、平面視におけるゲート配線210jとソース配線220kとの交点近傍にバイオセンサー230jkが形成されている。このバイオセンサー230jkは、CMOS型の電界効果トランジスタ231jk(以下、「FET231jk」とも記す)と、測定電極232jkとを備えている。
【0045】
ここで、FET231jkは、絶縁層112の+Z方向側表面上に形成されている。また、FET231jkの周囲の絶縁層112の+Z方向側表面上には、ソース配線220kと絶縁層112との接触領域、測定電極232jkと絶縁層112との接触領域及び参照電極240の+Z方向側の表面領域を除いて、絶縁性材料からなるチャンネルストッパ部250が形成されている。
【0046】
また、測定電極232jkの+Z方向側の開口窓232Wjkの形成領域(すなわち、測定電極232jkの液収容空間140への露出領域)、及び、参照電極240の+Z方向側の表面領域を除いて、ソース配線220k、測定電極232jk及びチャンネルストッパ部250の+Z方向側表面上には、絶縁性材料からなるレジスト・パッシベーション層(窓形成部材)260が形成されている。この窓形成部材260が存在していることにより、液収容空間140に溶液が注入された場合に、測定電極232jkの露出表面及び参照電極240の+Z方向側表面が、当該溶液により暴露されるようになっている。
【0047】
図4には、回路要素形成体110Aにおいて形成されている回路構成が示されている。この図4に示されるように、FET231jkのドレイン端子は、その近傍の測定電極232jkと電気的に接続されている。また、FET231jkのゲート端子は、その近傍のゲート配線210jと電気的に接続されている。また、FET231jkのソース端子は、その近傍のソース配線220kと電気的に接続されている。
【0048】
また、参照電極240には、参照電極240の電位を所定の基準電位値(例えば、接地レベル)とするための基準電位配線GNDが接続されている、この基準電位配線GNDを介して供給される基準電位値は、後述するゲート信号の信号レベルに対する基準電位値ともなっている。なお、上述のように入力信号には、基準電位配線GNDに供給される基準電位値の信号も含まれるが、図2では、基準電位配線GNDの図示を省略している。
【0049】
また、参照電極240には、配線VREFが接続されている。この配線VREFを介して参照電極240から供給される基準電位値の信号も、出力信号の1つとして、ソース配線220kを介した信号とともに、アレイ化バイオセンサー100Aから外部へ出力される。なお、図2では、配線VREFの図示を省略している。
【0050】
<動作>
次に、アレイ化バイオセンサー100Aの動作について、主に図4を参照して説明する。なお、アレイ化バイオセンサー100Aには、入力信号が入力されているものとする。
【0051】
以下、当該入力信号のうち、基準電位配線GNDに供給される信号を「基準電位設定信号VG」と記すものとする。また、ゲート配線210jに供給されるゲート信号を「ゲート信号GSj」と記すものとする。なお、ゲート信号GSjの電位値は、ゲート配線210jに接続されたFET231jk(k=1~N)をON状態とするON電位値と、FET231jk(k=1~N)をOFF状態とするOFF電位値とのいずれかとなるようになっている。
【0052】
また、アレイ化バイオセンサー100Aからの出力信号のうち、参照電極140から供給される基準電位信号を「基準電位信号VR」と記すものとする。また、ソース配線220kを介して供給されるソース信号を「ソース信号SSk」と記すものとする。
【0053】
なお、当初においては、ゲート信号GSjの全ての電位値は、OFF電位値となっているものとする。この状態では、基準電位設定信号VGの電位値と同電位となっている基準電位信号VRのみが有意な電位値を有するようになっている。一方、測定電極232jkの全てがフローティング状態となっており、ソース信号SSkの全ての電位値は、測定電極232jkのいずれの開放回路電位(以下、「OCP」とも記す)を反映していない。
【0054】
次に、ゲート信号GSj(j=1~M)から選択された1つのゲート信号GSSの電位値がON電位値に設定されると、ゲート信号GSsがゲート端子に入力しているFET231s1~FET231sNの全てがON状態となり、FET231s1~FET231sNのそれぞれにおいてドレイン端子とソース端子とがほぼ同電位となる。すなわち、FET231sk(k=1~N)のソース端子の電位値が、FET231skのドレイン端子と電気的に接続されている測定電極232skのOCPを正確に反映した有意な電位値となる。
【0055】
こうして有意な電位となったソース信号SS1~SSNが、外部へ出力される。そして、ソース信号SS1~SSNから選択されたソース信号SStの電位値と、基準電位信号VRの電位値との電位差を検出することにより、測定電極232stのOCPを正確に反映した電位情報が取得される。
【0056】
<測定電極のOCPについて>
次いで、測定電極232jkのOCPの変化について説明する。
【0057】
測定電極232jkの表面には、図5に示されるように、標識触媒314を含む複合体31を固定可能になっている。ここで、標識触媒314は、測定電極232jkの材料よりも触媒能力が高い材料から成る金属粒子となっている。例えば、測定電極232jkの材料としてAuを採用するとともに、標識触媒314として白金ナノ粒子を採用することができる。また、測定電極232jkの材料と標識触媒314の材料との組合せとしては、Auと二酸化マンガンとの組合せ、ニッケルもしくはニッケル合金と白金との組合せ、ニッケルもしくはニッケル合金と金との組合せ、等を採用することができる。なお、測定電極232jkにこれらの材料を用いる場合は、表面がこれらの材料であれば良く、パターニングされたAu等の電極の上に電解メッキするなどの方法で、微細電極を作成可能である。
【0058】
こうして測定電極232jkの表面に複合体310が固定された状態で、上述した液収容空間140に酸化剤又は還元剤319を含む溶液を注入すると、化学反応により、電子(e-)を、測定電極232jkから奪う又は203測定電極232jkに供給する。この結果、主に測定電極232jkと当該溶液における電気二重層との間に形成されるキャパシタを構成している測定電極232jkに電荷が蓄積される。当該蓄積された電荷量と当該キャパシタの容量値Cに応じて、測定電極232jkのOCPが変化する。
【0059】
上記のように、測定電極232jkのOCPの値は、測定電極232jkに固定されている複合体310の量(数)によって応じて変化する。このため、測定電極232jkのOCPを反映した電位情報を取得して解析することにより、測定電極232jkのそれぞれに固定されている複合体310の量を精度良く計測することができる。
【0060】
また、測定電極232jkの露出表面の面積が小さくなるほど、測定電極232jkの露出表面に固定可能な複合体310の量が減少し、測定電極232jkに蓄積可能な電荷量も減少する。また、測定電極232jkの露出表面の面積が小さくなるほど、上述した容量値Cも減少する。このため、蓄積された電荷量が同一であれば、測定電極232jkの露出表面の面積が小さくなるほど、測定電極232jkのOCPが増加する。この結果、測定電極232jkの露出表面の面積が小さくなるほど、測定電極232jkの露出表面に固定された複合体910の量の計測精度が向上するので、測定電極232jkの露出表面の面積微細化により、究極的には1分子計測への発展が期待できる。
【0061】
なお、図5では、酸化剤又は還元剤319が還元剤として作用する例が示されている。測定電極232jkの材料としてAuを採用するとともに、標識触媒314として白金ナノ粒子を採用した場合には、酸化剤又は還元剤319としてヒドラジンを、非常に高感度な計測の観点から好適に採用することができる。
【0062】
なお、測定電極232jkの材料と標識触媒314の材料との組合せに応じて、ヒドラジン以外の酸化剤又は還元剤319を採用することができる。例えば、測定電極232jkの材料と標識触媒314の材料との組合せとして、Auと二酸化マンガンとの組合せを採用した場合には、酸化剤又は還元剤319として過酸化水素水を採用することができる。
【0063】
また、図5では、被認識分子311と、被認識分子311と特異的に結合し、測定電極232jkの表面に固定化可能な第1認識分子312と、標識触媒314を担持し、被認識分子311と特異的に結合する第2認識分子313とから成る、いわゆるサンドイッチ型の複合体310が例示されている。こうしたサンドイッチ構造の複合体310は、第1認識分子312を測定電極232jkの露出表面への固定化処理を行い、固定化された第1認識分子312への被認識分子311の結合処理を行った後、標識触媒324を担持した第2認識分子313を、当該被認識分子311の結合処理を行うことにより形成できる。
【0064】
ここで、被認識分子311を測定対象物とすれば、測定電極232jkのOCPを反映した電位情報を取得して解析することにより、測定電極232jkのそれぞれに固定されている測定対象物の量を精度良く計測することができる。
【0065】
以上説明したように、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aによれば、測定電極232jkのそれぞれのOCPを精度良く反映した電位情報を取得することができるので、当該取得された電位情報を解析することにより、測定電極232jkのそれぞれの露出表面に固定化された複合体310の量(すなわち、検出対象物の量等を反映した情報)を高感度で計測することができる。
【0066】
なお、複合体310が検出対象物を含んでいる場合には、測定電極232jkのそれぞれのOCPが直接的に反映している検出対象物の量を高感度で計測することができる。また、複合体310が検出対象物を含んでいない場合であっても、いわゆる競合法を適用することにより、複合体310とは異なる他複合体が含んでいる、検出対象物の量を間接的に高感度で計測することができる。
【0067】
また、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aによれば、検出点である測定電極232jkの総数の平方根程度の数の信号配線数(ゲート配線210j、ソース配線220k等の総数)により、測定電極232jkのそれぞれのOCPに応じた電位情報を取得でき、かつ、検出点の選択のために半導体素子であるFET231jkを採用しているので、微細化(高集積化)が可能である。
【0068】
また、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aによれば、検出点ごとのOCPを反映した電位情報の読み出しのために、高速なスイッチ動作が可能なFET231jkを採用しているので、当該電位情報の読み出しを高速に行うことができる。
【0069】
また、第1実施形態におけるバイオセンサーユニット230jkは、FET231jkと、当該FET231jkのドレイン端子と電気的に接続された測定電極232jkと、を備えているので、当該バイオセンサーユニット230jkを利用することにより、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aを容易に構成することができる。
【0070】
[第2実施形態]
まず、本発明の第2実施形態を、図6及び図7を主に参照して説明する。
【0071】
<構成>
図6には、第2実施形態のアレイ化バイオセンサー100Bの概略的な外観構成が示されている。図6(A)及び図6(B)により総合的に示されるように、アレイ化バイオセンサー100Bは、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aと比べて、回路要素形成体110Aに代えて回路要素形成体110Bを備える点のみが異なっている。
【0072】
図7には、回路要素形成体110Bにおいて形成されている回路構成が示されている。この図7に示されるように、第1実施形態におけるバイオセンサーユニット230jkに代えてバイオセンサーユニット280jkを備える点が、定電流回路285k及び定電圧配線VDDを更に備える点が異なっている。以下、これらの相違点に主に着目して説明する。
【0073】
バイオセンサーユニット280jkは、バイオセンサーユニット230jkと比べて、電界効果トランジスタ281jk(以下、「FET281jk」とも記す)を更に備えている。そして、FET281jkのドレイン端子は、定電圧配線VDDに電気的に接続されている。また、FET281jkのゲート端子は、測定電極232jkと電気的に接続されている。また、FET281jkのソース端子は、FET231jkのドレイン端子と電気的に接続されている。
【0074】
なお、FET231jkは、絶縁層112の+Z方向側表面上に形成される(図3参照)。
【0075】
上記のように構成されたバイオセンサーユニット280jkの測定電極232jkは、FET231jkがON状態にあるか否かにかかわらず、常時、ほぼ完全なフロート状態が維持される。すなわち、測定電極232jkについては、FET231jkがON状態であるか否かにかかわらず、他の回路要素との間に生じる寄生容量値が極小化されるともに、当該寄生容量値が変化しないようになっている。さらに、測定電極232jkのそれぞれの寄生容量値のばらつきが極小化されるようになっている。
【0076】
定電流回路285kの一方の端子は基準電位配線GNDに電気的に接続されている。また、定電流回路285kの他方の端子はソース配線220kに接続されている。
【0077】
定電流回路285jは、他方の端子に供給された電位値にかかわらず、当該他方の端子の電位値を変化されることなく、一定の電流を駆動する。こうした機能を有する定電圧回路については様々な構成が周知であるが、その性能、アレイ化バイオセンサー110Bとして実現すべき計測精度、及び、アレイ化バイオセンサー110Bの製造工程の簡易化の観点から、定電流回路285jの構成が選択される。
【0078】
定電圧配線VDDには、入力信号の1つとして定電圧設定信号VDが、外部から入力される。定電圧設定信号VDが外部から入力すると、FET281jkの全てのドレイン端子が所定の電位値に設定される。
【0079】
<動作>
次に、アレイ化バイオセンサー100Bの動作について、主に図7を参照して説明する。なお、アレイ化バイオセンサー100Bには、入力信号が入力されているものとする。
【0080】
なお、当初においては、ゲート信号GSjの全ての電位値は、OFF電位値となっているものとする。この状態では、出力信号においては、基準電位設定信号VGの電位値と同電位となっている基準電位信号VRのみが有意な電位値を有するようになっている。一方、測定電極232jkの全てがフローティング状態となっており、ソース信号SSkの全ての電位値は、測定電極232jkのいずれの開放回路電位(以下、「OCP」とも記す)を反映していない。
【0081】
また、FET281jkのソース端子は、測定電極232jkの開放回路電位を反映した電位となっている。また、定電流回路285kが駆動すべき電流の経路(FET281jk、FET281jkを経由する経路)が設定されていない状態となっている。
【0082】
次に、ゲート信号GSj(j=1~M)から選択された1つのゲート信号GSSの電位値がON電位値に設定されると、ゲート信号GSsがゲート端子に入力しているFET231s1~FET231sNの全てがON状態となり、FET231s1~FET231sNのそれぞれにおいてドレイン端子とソース端子とがほぼ同電位となる。すなわち、FET231sk(k=1~N)のソース端子の電位値が、FET231skのドレイン端子と電気的に接続されている測定電極232skのOCPを反映した有意な電位値となって、ソース配線220kに供給される。
【0083】
また、定電流回路285kが駆動すべき電流の経路が設定される。この結果、定電流回路285kが、ソース配線220kの電位値を変化させることなく、当該経路を介する一定の電流を駆動する。
【0084】
ここで、定電流回路285kが駆動する電流、すなわち、FET281jkのドレイン-ソース間を流れる電流が一定であることから、FET281jkのゲート-ソース間電圧が一定である状態が維持される。この結果、ソース配線220kに供給される電位値は、測定電極232skのOCPを正確に反映した電位値であることが維持される。
【0085】
こうして測定電極232S1~232SNのOCPを正確に反映した電位となっているソース信号SS1~SSNが、外部へ出力される。そして、ソース信号SS1~SSNから選択されたソース信号SStの電位値と、基準電位信号VRの電位値との電位差を検出することにより、測定電極232stのOCPを正確に反映した電位情報が取得される。
【0086】
以上説明したように、第2実施形態のアレイ化バイオセンサー110Bによれば、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー110Aの場合と同様の効果を奏することができる。なお、第2実施形態のアレイ化バイオセンサー110Bによれば、測定電極232jkのそれぞれの寄生容量値のばらつきが極小化されるようになっているので、アレイ化バイオセンサー110Aよりも精度の良い計測ができる。
【0087】
[実施形態の変形]
本発明は、上記の第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0088】
例えば、第1及び第2実施形態では、電位情報の順次取得のために半導体スイッチアレイ方式を採用した。これに対し、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサの場合と同様の構成により、電位情報の取得を順次行うようにしてもよい。
【0089】
また、第1及び第2実施形態では、いわゆるサンドイッチ構造の複合体を例示した。これに対し、標識触媒を担持した複合体であれば、当該サンドイッチ構造以外の構造となっている複合体を採用してもよい。
【0090】
また、第1及び第2実施形態では、窓形成部材を備えるようにした。これに対し、測定電極及び参照電極以外の導体が、液収容空間に露出しない構成とした場合には、窓形成部材を備えない構成とすることができる。あるいは、窓形成部材により測定電極及び参照電極以外の導体が、液収容空間に露出しない構成とした場合には、チャネルストッパー部250を備えない構成とすることができる。
【0091】
また、第1及び第2実施形態では、蓋部材を備えるようにした。これに対し、液収容空間からの溶液の散逸が殆どない操作のみで利用されるのであれば、蓋部材を備えない構成とすることができる。
【0092】
また、第1及び第2実施形態では、窓形成部材、枠部材及び蓋部材を備えるようにした。これに対し、アレイ化バイオセンサーの全体を、各種溶液内に挿入する運用をする場合には、測定電極及び参照電極以外の導体が、液収容空間に露出しない構成とすることにより、窓形成部材、枠部材及び蓋部材を備えない構成とすることができる。
【0093】
また、第2実施形態では、定電流回路を備えるようにした。これに対し、定電流回路に代えて抵抗素子を備えるようにしてもよい。また、第2実施形態では、これら定電流回路や抵抗素子を、バイオセンサーと同一の部材内に配置してあるが、ケーブルをはさんで測定機器側、すなわち、アレイ化バイオセンサーの外部に配置するようにしてもよい。
【0094】
また、第1及び第2実施形態では、基準電位配線と定電圧配線とを、別配線とした。これに対し、基準電位配線が、参照電極に接続されるともに、基準電位配線を出力信号用配線の1つとすることにより、定電圧配線を省略することができる。
【0095】
また、第1及び第2実施形態では、M個のゲート信号の全てを入力信号とした。これに対し、M個のゲート信号の1つを選択してON電位値とするゲート信号選択回路を、アレイ化バイオセンサーが備えるようにしてもよい。
【0096】
また、第1及び第2実施形態では、N個のソース信号の全てを出力信号とした。これに対し、N個のソース信号の1つを選択して出力するソース信号選択回路を、アレイ化バイオセンサーが備えるようにしてもよい。
【0097】
さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、いかなる変形でも行うことができる。
【実施例
【0098】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0099】
<実施形態のアレイ化バイオセンサー100の製造の実施例>
基板111には、酸化膜付きシリコン基板を用いた。
【0100】
基準電位配線GND及びゲート配線210jの形成に際しては、まず、リフトオフによるパターニングのために、フォトリソグラフィにより、レジストマスクを作成した。次に、基板111の+Z方向側表面に、スパッタによってPtを100nm厚になるようにPt金属膜を成膜し、基板111との密着のために、密着層としてTiを10nm程度挿入した。レジスト剥離によりリフトオフを行って、基準電位配線パターン及びゲート電極パターンを作製した。
【0101】
絶縁層112の形成に際しては、まず、酢酸ランタン及びジルコニウム(IV) テトラブトキシドをプロピオン酸に溶解させることで溶液を作製した。各金属元素の比がLa:Zr=1:1となるように秤量後、反応容器に入れ、110℃で1時間攪拌混合した。得られた液をスピンコートにより塗布し、ホットプレートにより、250℃及び330℃で仮焼成を行った。その後、焼成後の絶縁層112の厚さが250nmとなるように塗膜を形成した。次に、焼成炉を用いて、1L/minの流量の酸素雰囲気内にて、550℃で焼成した。ゲート配線210jとの接触部分は、フォトリソグラフィ及び酸によるウエットエッチングにより作製した。
【0102】
FET231jkの形成に際しては、まず、硝酸亜鉛を2メトキシエタノールに溶解し、インジウムアセチルアセトナートをプロピオン酸に溶解し、反応容器に入れ、110℃で1時間攪拌混合した。その後、各金属元素の比がIn:Zn=1:1となるように秤量し、攪拌混合した溶液を作成した。得られた溶液を絶縁層112に滴下し、スピンコートにより、焼成後に20nm厚になるように塗布し、ホットプレートにより、250℃の仮焼成を行った。引き続き、焼成炉を用いて、1L/minの流量の酸素雰囲気内にて、550℃で焼成した。FET231jkのパターニングに際しては、フォトリソグラフィ及びArを用いるドライエッチングを行った。
【0103】
チャネルストッパー部250の形成には、ポリシラザン溶液を用いた。焼成後のチャネルストッパー部250の厚みが約100nmになるようにスピンコートを用いポリシラザンを成膜した。引き続き、ホットプレートを用いて500℃で焼成した、チャネルストッパー部250のパターニングに際しては、フォトリソグラフィ及びCF4を用いたドライエッチングを行った。
【0104】
配線VREF、ソース配線220kの測定電極232jkの形成に際しては、まず、スパッタによってAuを100nm厚になるようにAu金属膜を成膜した。引き続き、パターニングのためにフォトリソグラフィによるリフトオフを行って、配線VREF、ソース配線220k及び参照電極232jkのパターンを作製した。なお、測定電極232jkの大きさは、一辺が80μmの正方形状とした。
【0105】
窓形成部材260の形成に際しては、ネガ型レジストを用いフォトリソグラフィにより形成した。
【0106】
参照電極240の形成に際しては、基準電位配線の所定の位置にAg/AgClペーストを塗布し、90℃で10分間乾燥することで作成した。
【0107】
枠部材120の形成に際しては、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)から成る出発部材を所定形状に筒状に成形した。引き続き、当該成形された部材の+Z方向側が開口となるように、絶縁性を有する接着剤等を使用してチャンネルスト部250及び絶縁層112の+Z方向側表面に密着固定した。
【0108】
蓋部材130の形成に際しては、ガラスからなる平板上状部材を蓋部材130として適切な形状に切断する。引き続き、当該適切な形状に切断された部材を、絶縁性を有する接着剤等を使用して枠部材120の+Z方向側表面に密着固定した。
【0109】
以上の工程を順次実行することにより、第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aを製造した。なお、その他の必要な配線(例えば、ゲート配線210jと、FET231ijとのヴィアホールを介した電気的接続のための配線等)が、適切な製造段階で、常法により行った。こうして製造されたアレイ化バイオセンサー100Aにおける測定電極232jkの寄生容量の最大値は、酸化剤又は還元剤としてヒドラジンを含む溶液を液収容空間140に注入した場合に形成される電気二重層と測定電極232jkとで形成されたキャパシタの容量値より2桁以上小さくなっていた。
【0110】
なお、第2実施形態のアレイ化バイオセンサー100Bは、上述した第1実施形態のアレイ化バイオセンサー100Aの製造中の適切な段階において、アレイ化バイオセンサー100Aから加わった回路要素(定電圧配線VDD、FET281jk、定電流回路285k)を形成することにより製造した。例えば、定電圧配線VDDの形成は、アレイ化バイオセンサー100Aの製造における配線VREF、ソース配線220kの測定電極232jkの形成段階でのパターニングの態様を変更することによって行った。
【0111】
<製造されたアレイ化バイオセンサー100Aを利用した計測の評価>
製造されたアレイ化バイオセンサー100Aを利用した計測の評価を行った。
【0112】
≪評価用デバイスの作成≫
かかる評価のために、上述のようにして製造されたアレイ化バイオセンサー100Aから枠部材120及び蓋部材130の形成前に、図8に示されるように1つの測定電極232pqのみの周囲に実施例1における枠形成部材120と同様にPDMSから成る個別枠部材120pqが形成された評価用デバイス100Eを作成した。こうして作成された評価用デバイス100Eでは、測定電極232pqに対応する個別液収容空間140pqが形成される。
【0113】
また、測定電極232pqのOCPを検出する際に、個別液収容空間140pqに挿入される評価用参照電極240Eを予め用意した。この評価用参照電極240Eは、製造されたアレイ化バイオセンサー100Aが備える参照電極240と同様のAg/AgCl型とした。
こうして作成された評価用デバイス100Eを用いて、以下の評価を行った。
【0114】
≪評価#1≫
評価#1に際しては、いわゆるサンドイッチ構造の複合体310(図5参照)を用いて行った。なお、複合体310の被認識分子311として、抗原であるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を採用した。また、第1及び第2認識分子312,313として、hCG用抗体を採用した。また、標識触媒314として、40nm径のPtナノ粒子を採用した。また、酸化剤又は還元剤319として、ヒドラジンを採用した。
【0115】
評価#1では、以下の手順で、アレイ化バイオセンサー100Aを利用した計測の評価を行った。
手順11:評価用検出を行う際に使用される溶液として、150mMのNaClを含むリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS溶液」ということがある。pH 約7.4)に50mMのヒドラジンを溶かした溶液(以下、単に「アッセイバッファー」ということがある。)を用意した。
手順12:被認識分子311を1000IU/mLの濃度でPBSに溶解させた試料溶液#1を用意した。
手順13:第1認識分子312を含む第1検出溶液を用意した。
手順14:標識触媒314を担持した第2認識分子322を含む第2検出溶液を用意した。
手順15:洗浄液としてPBS溶液を用意した。以下、単に「洗浄液」というときは、ここで調製した洗浄液をいう。
手順16:1%のウシ血清アルブミン(BSA)115をブロッキング剤として含むブロッキング溶液を用意した。
【0116】
なお、手順11~16は、任意の順番で行うことができる。
【0117】
手順17:測定電極232pqに何も固定化されていない初期状態で、手順11で用意したアッセイバッファーを個別液収容空間140pqに注入した後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、比較例1の検出結果とした。
【0118】
手順18:手順17の終了後、液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、上記洗浄液で洗浄した。引き続き、手順12で用意した試料溶液#1を個別液収容空間140pqに注入した後、室温で30分間静置した。
手順19:手順18の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、上記洗浄液で洗浄した。引き続き、手順11で用意したアッセイバッファを個別液収容空間140pqに注入し、その後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、比較例2の検出結果とした。
【0119】
一方、次の手順で、上述した複合体310と同様のサンドイッチ構造を有する評価用複合体310を測定電極232pqに固定化するための固定化処理を行った。
手順21:測定電極232pqに何も固定化されていない初期状態で、手順13で用意した溶液を個別液収容空間140pqに注入し、4℃で12時間静置して、第1認識分子311の測定電極232pqへの固定化処理を行った(図9(A)参照)。
手順22:手順21の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、手順15で用意した上記洗浄液で洗浄した。引き続き、手順16で用意したブロッキング溶液を個別液収容空間140pqに注入し、4℃で12時間静置して、測定電極232pqへのBSAの吸着処理を行った(図9(B)参照)。
【0120】
手順23:手順22の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、手順15で用意した洗浄液で洗浄した。引き続き、手順12で用意した試料溶液#1を個別液収容空間140pqに注入し、室温で30分間静置し、測定電極232pqに固定化された第1認識分子312への被認識分子311の結合処理を行った(図9(C)参照)。
手順24:手順23の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、上記洗浄液で洗浄した。引き続き、手順14で用意した第2検出溶液を個別液収容空間140pqに注入し、4℃で30分~1時間静置して、測定電極232pqに間接的に固定化された被認識分子311への標識触媒314を担持した第2認識分子313の結合処理を行った(図9(D)参照)。
【0121】
以上の手順21~24を実行することにより、複合体310の測定電極232pqへの固定化処理が行われる。
【0122】
手順25:手順24の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、上記洗浄液で洗浄した。引き続き、上記アッセイバッファーを個別液収容空間140pqに注入し、その後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、実施例1の検出結果とした。
【0123】
実施例1、比較例1及び比較例2の検出結果が図10に示されている。この図10に示されるように、実施例1の場合には、100秒程度経過には、測定電極232pqのOCP値は、-0.25V程度が維持された。一方、比較例1及び比較例2の場合には、測定電極232pqのOCP値は、最小でも-0.1V程度であった。この結果から、測定電極232pqに固定された複合体310の有無、ひいては当該複合体310の量の計測に、測定電極232jkのOCPを反映した電位情報の取得が有用であることが確認できた。
【0124】
なお、上述のように製造されたアレイ化バイオセンサー100Bの場合にも、アレイ化バイオセンサー100Aの場合と同様に行われる計測の評価#1により、アレイ化バイオセンサー100Aの場合と同様の評価結果が得られた。
【0125】
≪評価#2≫
評価#2は、図11に示される構造の複合体320を用いて行った。図11に示されるように、複合体320は、被認識分子321と、被認識分子321と特異的に結合した認識分子322と、認識分子322に担持された標識触媒323とを備えている。なお、被認識分子321として、hCGを採用した。また、認識分子322として、hCG用抗体を採用した。また、標識触媒323として、40nm径のPtナノ粒子(以下、「PtNP」と略すことがある。)を採用した。また、酸化剤又は還元剤329として、ヒドラジンを採用した。
【0126】
評価#2では、以下の手順で、アレイ化バイオセンサー100Aを利用した計測の評価を行った。なお、以下の手順31~34は、任意の順番で実行することができる。
手順31:評価用検出を行う際に使用される溶液として、上記手順11と同様にして調製したアッセイバッファーを使用した。
手順32:被認識分子321を1000IU/mLの濃度でPBS溶液に溶解させた試料溶液#2を用意した。
手順33:標識触媒329を担持した認識分子322を含む(以下、「標識溶液」ということがある。)を調製した。
手順34:洗浄液としては、手順15と同様にPBS溶液を使用した。
【0127】
手順35:測定電極232pqに何も固定化されていない初期状態で、上記アッセイバッファーを個別液収容空間140pqに注入した後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、比較例3の検出結果とした。
【0128】
手順36:手順35の終了後、液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、上記洗浄液で洗浄した。引き続き、手順32で用意した溶液を個別液収容空間140pqに注入した後、室温で2時間静置して、被認識分子321の測定電極232pqへの固定化処理を行った(図12(A)参照)。
【0129】
手順37:手順36の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、手順35で用意した洗浄液で洗浄した。引き続き、手順33で用意した標識溶液を個別液収容空間140pqに注入し、室温で30分間静置して、測定電極232pqに間接的に固定化された被認識分子311への標識触媒314を担持した第2認識分子313の結合処理を行った(図12(B)参照)。
【0130】
手順38:手順37の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、測定電極232pqの表面及び枠部材120の内面を、上記洗浄液で洗浄した。引き続き、手順31で用意したアッセイバッファーを個別液収容空間140pqに注入した後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、実施例2の検出結果とした。
【0131】
実施例2及び比較例3の検出結果が図13に示されている。この図11に示されるように、実施例2の場合には、100秒程度経過には、測定電極232pqのOCP値は、-0.21V程度が維持される。一方、比較例3の場合には、最小でも-0.20V程度であった。この結果から、測定電極232pqに固定された複合体320の有無、ひいては当該複合体320の量の計測に、測定電極232jkのOCPを反映した電位情報の取得が有用であることが確認できた。
【0132】
上述のように製造されたアレイ化バイオセンサー100Bの場合にも、アレイ化バイオセンサー100Aの場合と同様に行われる計測の評価#2により、アレイ化バイオセンサー100Aの場合と同様の評価結果が得られた。
【0133】
≪評価#3≫
評価#3では、図14に示される構造の複合体330を用いて行った。図14に示されるように、複合体330は、被認識分子331と、測定電極232pkの表面に固定化可能な固定化可能分子332と、被認識分子331と特異的に結合するとともに、固定化可能分子332に結合した第1認識分子333と、被認識分子331と特異的に結合した第2認識分子334と、標識触媒336を担持し、第2認識分子334と結合した、標識触媒担持分子335とを更に備える複合体を採用した。
【0134】
なお、評価#3では、被認識分子331としてストレプトアビジンを採用し、第1認識分子333及び第2認識分子334としてビオチンを採用した。また、固定化可能分子332及び標識触媒担持分子335としてBSAを採用した。また、標識触媒336としてPtNPを採用するとともに、酸化剤又は還元剤339としてヒドラジンを採用した。
【0135】
評価#3では、以下の手順で、アレイ化バイオセンサー100Aを利用した計測の評価を行った。なお、以下の手順41~45は、任意の順番で実行することができる。
【0136】
手順41:測定液としては、上記アッセイバッファーを使用した。
手順42:測定対象は、固定化可能分子332(BSA)と第1認識分子333(ビオチン)とを結合させたもの(以下、「BSA-ビオチン結合体」とも呼ぶ。)とした。BSAのビオチン化は、市販のキットを用いて行ってもよく、ビオチン化されたBSAの市販品を購入して使用してもよい。そして、5mg/mLの濃度でビオチン化BSA(BSA-ビオチン結合体)を含有するPBS溶液を測定対象液として調整した。
手順43:被認識分子331(ストレプトアビジン)を5mg/mLで含有するPBS溶液(「ストレプトアビジン溶液」ということがある。)を調整した。
手順44:手順43で用意される測定対象液と同様の溶液中のビオチン化BSAにPtNPを懸濁し、10分間静置して物理吸着させ、遠心分離して未吸着のビオチン化BSAを除き、再度PBS中に懸濁させて懸濁液(以下、「NP液」ということがある。)を調製した。
手順45:洗浄液としては、上記PBSを使用した。
【0137】
手順46:測定電極232pqに何も固定化されていない初期状態で、ビオチン化BSAの測定電極232pqとへの固定化処理を行った(図15(A)参照)。
手順47:手順46の終了後、手順43で用意されたストレプトアビジン溶液を個別液収容空間140pqに注入し、その後、10分間静置し、測定電極232pqに固定化されたBSA-ビオチン結合体へのストレプトアビジンの結合処理を行った。
手順48:手順47の終了後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、比較例4の検出結果とした。
【0138】
手順49:手順48の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、手順44で用意したNP液を個別液収容空間140pq内へ注入した。その後、10分間静置して、測定電極232pqに固定された複合体330の形成処理を行った(図15(C)参照)。
手順50:手順49の終了後、個別液収容空間140pq内の溶液を個別液収容空間140pqから排出し、上記洗浄液で3回洗浄した。引き続き、手順41で用意したアッセイバッファーを個別液収容空間140pqに注入した後、参照電極140Eが、測定電極232pqと上述した電気二重層の厚み以上離隔し、かつ、参照電極140Eの一部が当該溶液に浸るようにして、測定電極232pqのOCPの参照電極140Eに対する電位差の時間変化を検出した。当該検出結果を、実施例3の検出結果とした。
【0139】
実施例3及び比較例4の検出結果が図16に示されている。この図16に示されるように、実施例3の場合には、100秒程度経過には、測定電極232pqのOCP値は、-0.22V程度が維持される。一方、比較例4の場合には、最小でも-0.20V以上であった。この結果から、測定電極232pqに固定された複合体330の有無、ひいては当該複合体330の量の計測に、測定電極232jkのOCPを反映した電位情報の取得が有用であることが確認できた。
【0140】
上述のように製造されたアレイ化バイオセンサー100Bの場合にも、アレイ化バイオセンサー100Aの場合と同様に行われる計測の評価#3により、アレイ化バイオセンサー100Aの場合と同様の評価結果が得られた。
【0141】
以上の評価#1~#3の結果から、アレイ化バイオセンサー100A,100Bを利用した測定電極232pqに固定された様々な構造を有する複合体の有無、ひいては当該複合体の量の計測に、測定電極232jkのOCPを反映した電位情報の取得が有用であることが確認できた。
【0142】
なお、実施形態のアレイ化バイオセンサー100の製造の実施例で挙げた材料、寸法及び形成処理は例示であって、他の材料、寸法又は形成処理を適宜採用してもよいのは、勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、医学、診断学の分野において有用である。より具体的には、本発明のアレイ化バイオセンサーは、例えば、小型高感度な複数の生体分子測定、ディジタルELISA、医療計測、感染症や重篤な病気の超早期診断等に利用できる。
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