(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】制御された多孔性または機械的特性を有する組織マトリックス
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20230705BHJP
A61F 2/06 20130101ALI20230705BHJP
A61F 2/08 20060101ALI20230705BHJP
A61F 2/10 20060101ALI20230705BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20230705BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230705BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230705BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20230705BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61L27/36 130
A61F2/06
A61F2/08
A61F2/10
A61F2/28
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/24
(21)【出願番号】P 2017537895
(86)(22)【出願日】2016-01-20
(86)【国際出願番号】 US2016014009
(87)【国際公開番号】W WO2016118558
(87)【国際公開日】2016-07-28
【審査請求日】2019-01-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-24
(32)【優先日】2015-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504154148
【氏名又は名称】ライフセル コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ジェソップ,イスラエル
(72)【発明者】
【氏名】シャー,ムリナル
(72)【発明者】
【氏名】レーミー,パトリック
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】中西 聡
【審判官】前田 佳与子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-530729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0310367(US,A1)
【文献】特表2010-533042(JP,A)
【文献】特開2000-60956(JP,A)
【文献】特表平10-509080(JP,A)
【文献】木村良晴,“生体分解・吸収性高分子”,色材,1991,第64巻,第8号,p.512~522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18,A61F2/00-4/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に移植された場合に細胞内殖及び組織再生を支持することができるコラーゲン含有細胞外組織マトリックスを含む第1の成分;
3次元構造を有する
ポリウレタンを含む第2の成分
を含む組織製品であって、ここでは、前記第1の成分が前記第2の成分の格子骨格中に包埋され、前記第2の成分が前記第1の成分の圧縮係数より大きい圧縮係数を有する、前記組織製品。
【請求項2】
前記第1の成分が脂肪組織に由来する、請求項1に記載の組織製品。
【請求項3】
前記第1の成分が真皮に由来する無細胞組織マトリックスを含む、請求項1に記載の組織製品。
【請求項4】
前記第2の成分が、所望の圧縮係数をもたらすように架橋されている、請求項1~3のいずれかに記載の組織製品。
【請求項5】
多孔性及び哺乳類の軟組織に移植された場合に細胞内殖を可能にするように選択される微細構造を有する第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料を選択すること;
前記第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料の密度及び圧縮係数より大きい密度及び圧縮係数を有し3次元構造を有するポリウレタンを含む第2の合成材料を選択すること;
前記第2の合成材料の格子を調製し、前記第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料を前記格子内に配置して、前記第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料と前記第2の合成材料から複合材料を形成すること
を含む、組織製品の製造方法。
【請求項6】
前記第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料と前記第2の合成材料から複合材料を形成することが、前記第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料及び前記第2の合成材料のうちの一方の液体懸濁液を調製すること;
前記第1のコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料及び前記第2の合成材料のもう一方で形成される固形粒子を前記懸濁液に入れて混合物を形成すること;ならびに
前記混合物を乾燥することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
乾燥が凍結乾燥を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
3次元格子構造を含むポリウレタンを含む合成ポリマー材料基材;及び
前記合成ポリマー材料基材の格子骨格中に包埋された無細胞組織マトリックス
を含み、前記無細胞組織マトリックスが脂肪組織マトリックスを含む、解剖学的欠陥を治療するためのデバイス。
【請求項9】
脂肪組織を選択すること;
前記組織を処理して実質的にすべての細胞性物質を前記組織から除去すること;
前記組織を液体に懸濁させて懸濁液を形成すること;
前記懸濁液に3次元格子構造を有するポリウレタンを含む合成ポリマー材料基材を入れること;及び
前記懸濁液を凍結及び乾燥して、前記合成ポリマー材料基材の格子骨格中に包埋された多孔性スポンジを形成すること
を含む、治療デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記方法が前記多孔性スポンジを安定化することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記多孔性スポンジを安定化することが前記多孔性スポンジを架橋することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔性スポンジを安定化することが前記多孔性スポンジを脱水熱処理にかけることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔性スポンジを架橋することが、化学的架橋、e-ビーム放射による架橋、ガンマ線放射による架橋または紫外線放射による架橋の少なくとも1つを行うことを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記合成ポリマー材料基材がメッシュである、請求項9~13のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、35U.S.C.§119のもとで、2015年4月16日に出願された米国仮特許出願第62/148,532号及び2015年1月21日に出願された米国仮特許出願第62/105,971号に対する優先権を主張し、これらの両方は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は組織製品に関し、より詳細には、細胞内殖及び組織再生を可能にしながら、所望の係数(圧縮性もしくは張力)または他の制御された機械的特性を提供するために、他の材料で改変されたまたは他の材料と組み合わされた組織マトリックスに関する。本開示は、線維密度が改変された(例えば、増大した)及び/または機械的特性が改変された1つまたは複数の領域を含む組織治療製品ならびにそのような製品の作製方法も含む。
【背景技術】
【0003】
様々な組織由来製品が、病気にかかったまたは損傷した組織及び器官を再生、修復またはそうでなければ治療するのに使用されている。そのような製品としては、組織移植片及び/または処理された組織(例えば、細胞播種の有無にかかわらない、皮膚、腸または他の組織由来の無細胞組織マトリックス)を挙げることができる。そのような製品は、一般に、組織源(すなわち、それが由来する組織型及び動物)ならびに組織製品を製造するのに使用される処理パラメーターによって決まる特性を有する。組織製品は外科的用途及び/または組織の置換もしくは増大に使用されることが多いので、この製品は、選択された移植部位に望まれるように、組織の成長及び再生を支持しなければならない。
【0004】
しかし、所望の生物学的特性を提供するために、細胞外組織マトリックスを含めた組織製品は、過度の線維化または瘢痕をともなわずに細胞内殖及び組織再生を促進するように、適切な多孔性及び化学組成を含めた、構造的及び機能的特性を有する必要がある。さらに、組織フィラーとして働くために、組織製品は、移植の際に望ましくない圧縮または変形を防止すると同時に、好ましい感触または美的な外観を可能にするように、十分な剛性を持つ必要がある。
【0005】
しかし、ある種の用途については、無細胞組織マトリックスまたは合成材料などの現在利用可能な組織製品は、最適に満たない機械的特性を有する可能性があり、または移植後に(例えば、プロテアーゼ活性が原因で弱まることによって)非常に急速にインビボで変化する可能性がある。例えば、ある種の組織製品は、容易に圧縮されすぎて組織フィラーとして働くことができない可能性があり、またはある種の耐荷重性用途に必要とされる場合に弱まるか不十分な引張強度しか持たない可能性がある。
【0006】
さらに、現行の細胞外マトリックス製品の設計は、いくつかの状態の治療について最適に満たない可能性がある。例えば、現行の設計は、軟組織の治療で使用するには硬すぎるか、または耐久性のある軟組織の再生に必要である体積及び孔径を保持するには柔らかすぎるか弾性がなさすぎるかのいずれかの可能性がある。さらに、耐久性のある再性軟組織フィラーは、外部の圧縮力に抵抗することによってその体積を維持し、同時に、硬い線維性組織またはミネラル化組織の代わりに軟組織(例えば脂肪)を用いてスキャフォールドを再配置させるために適切な細胞機械的キューを提供する必要がある。
【0007】
さらに、いくつかの現行の細胞外マトリックス製品は、感触、伸縮性または柔軟性を含めた様々な機械的特性を有し得、これらは、いくつかの使用について改善することができる。例えば、いくつかのコラーゲンベースの材料または細胞外マトリックス製品は、いわゆる先端領域(toe-region)において初期伸張を示し得る(Sunらに対する米国特許公開第US20090306790A1号の
図1を参照されたい)。さらに、ある種の用途については、この初期伸張は、耐荷重性用途のための移植の間に材料に張力を使用するためのさらなる労力を必要とする可能性があるので、望ましくない可能性がある。
【0008】
本開示は、所望の圧縮性または張力係数を有し、改善された取扱い特性を含み、且つ/または細胞内殖及び組織再生を支持する能力を維持する、改善された組織製品を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、組織を治療するための改善されたデバイスを提供する。このデバイスは、様々な解剖学的部位において細胞内殖及び組織再生を可能にするために選択される1つまたは複数の(第1の)成分を含むことができる。さらに、デバイスは、1つまたは複数のさらなる(第2の)成分または密度、化学構造、強度、弾性係数及び多孔性の1つまたは複数のバリエーションを含む改変領域を含むことができる。第1の成分及び第2の成分は、所望の用途について(例えば、乳腺腫瘍摘出術または他の手術の間に除去された組織と置換する組織フィラーとして)選択される制御された巨視的機械的特性(例えば、制御された圧縮係数)を有する、(例えば、複合材料として)3次元構造に形成することができる。さらに、移植後の適切な期間にわたって所望の機械的特性を提供する間、デバイスは細胞内殖及び組織再生を可能にし得る。
【0010】
様々な実施形態によれば、組織製品が提供される。この組織製品は、患者に移植された場合に細胞内殖及び組織再生を支持することができるコラーゲン含有マトリックスを含む第1の成分を含むことができる。さらに、組織製品は、3次元構造を含む第2の成分を含むことができ、ここでは、第1の成分は第2の成分中の格子骨格中に包埋され、第2の成分は第1の成分の圧縮係数より大きい圧縮係数を有する。
【0011】
ある種の実施形態によれば、組織製品が提供される。この製品は、患者に移植された場合に細胞内殖及び組織再生を支持することができるコラーゲン含有細胞外組織マトリックスを含む第1の成分を含むことができる。さらに、製品は、第1の成分の全体にわたって間隔をおいて配置された一群のより高い係数の領域を含むことができ、より高い係数の領域はコラーゲン含有細胞外マトリックスで形成され、領域が組織製品の他の部分より高い密度のコラーゲン線維を有するように、処理されている。
【0012】
さらに、本開示は、組織製品の製造方法を提供する。一実施形態によれば、この方法は、多孔性及び哺乳類の軟組織に移植された場合に細胞内殖を可能にするように選択される微細構造を有するコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料を含む第1の生体適合性材料を選択することを含む。さらに、方法は、第1の生体適合性材料の密度及び圧縮係数より大きい密度及び圧縮係数を有する第2の生体適合性材料を選択することを含むことができる。方法は、第1の生体適合性材料と第2の生体適合性材料から複合材料を形成することをさらに含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、組織製品の製造方法は、患者に移植された場合に細胞内殖及び組織再生を支持することができるコラーゲン含有細胞外組織マトリックスを選択すること、ならびにより高い係数及び/またはより高密度のコラーゲン線維を有する組織製品の全体にわたって間隔をおいて配置された一群の領域を生成するように、コラーゲン含有細胞外組織マトリックスを処理することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】様々な例示的実施形態に従って製造された階層的多孔性組織マトリックスの透視図である。
【
図1C】様々な例示的実施形態に従って製造された階層的多孔性組織マトリックスの透視図である。
【
図2】様々な例示的実施形態に従って製造された別の階層的多孔性組織マトリックスの透視図である。
【
図3A】組織マトリックスの側面図及び階層的多孔性または圧縮抵抗性組織マトリックスを形成するための方法を示す図である。
【
図3B】
図3Aに図示する方法に従って製造された階層的多孔性または圧縮抵抗性組織マトリックスの側面図である。
【
図4A】様々な実施形態に従って製造された、多孔性及び機械的特性(例えば、張力特性または圧縮特性)のバリエーションを有する組織マトリックスの側立面図である。
【
図4B】様々な実施形態に従って製造された、多孔性及び機械的特性(例えば、張力特性または圧縮特性)のバリエーションを有する別の組織マトリックスの透視図である。
【
図5A】以下の実施例で記載する、移植より前の処理された脂肪組織のヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色したセクションを示す図である。
【
図5B】以下の実施例で記載する、移植より前の処理された脂肪組織/ポリウレタン複合材料のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図6A】以下の実施例で記載する、外植後の処理された脂肪組織のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図6B】以下の実施例で記載する、外植後の処理された脂肪組織のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図7A】以下の実施例で記載する、外植後のポリウレタン材料のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図7B】以下の実施例で記載する、外植後のポリウレタン材料のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図8A】以下の実施例で記載する、外植後の処理された脂肪組織/ポリウレタン複合材料のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図8B】以下の実施例で記載する、外植後の処理された脂肪組織/ポリウレタン複合材料のH&E染色したセクションを示す図である。
【
図9A】組織マトリックスの側面図ならびにコラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを形成するための方法を示す図である。
【
図9B】組織マトリックスの側面図ならびにコラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを形成するための方法を示す図である。
【
図9C】
図9A~9Bで図示される方法に従って製造された組織産物の側面図である。
【
図10A】組織マトリックスの側面図ならびにコラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを形成するための方法を示す図である。
【
図10B】
図10Aのマトリックスを使用して製造された組織マトリックスの側面図を示す図である。
【
図11A】コラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを製造するための方法のステップを示す図である。
【
図11B】コラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを製造するための方法のステップを示す図である。
【
図11C】コラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを製造するための方法のステップを示す図である。
【
図11D】コラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを製造するための方法のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本開示による特定の例示的実施形態について詳細に言及し、それらのうちのある実施形態は、添付の図面で図示する。可能な限り、同じまたは同様の部分を指すのに、図面全体にわたって同じ参照番号を使用する。
【0016】
本出願では、特に記載のない限り単数形の使用は複数形を含む。本出願では、別段の記載がない限り、「or(または)」の使用は「and/or(及び/または)」を意味する。さらに、用語「including(含むこと)」ならびに「includes(含む)」及び「included(含まれる)」などの他の形態の使用は、限定的ではない。本明細書に記載される任意の範囲は、端点及び端点間のすべての値を含むと理解される。
【0017】
本明細書で使用される項の見出しは、構成上の目的のためだけであり、記載される主題を制限するものとして解釈されるべきでない。限定されないが、特許、特許出願、記事、書籍及び論文を含めた、本出願で引用されるすべての文献または文献の一部は、任意の目的のために、参照によりその全体が本明細書に明確に組み込まれる。
【0018】
様々なヒト及び動物の組織を使用して、患者を治療するための製品を製造することができる。例えば、様々な疾患ならびに/または(例えば、外傷、手術、萎縮ならびに/もしくは長期の摩耗及び変性に由来する)構造的損傷が原因で損傷したまたは失われたヒト組織の再生、修復、増大、増強及び/または治療のための様々な組織製品が製造されてきた。そのような製品としては、例えば、無細胞組織マトリックス、組織同種移植片もしくは異種移植片及び/または再構成組織(すなわち、生存可能な材料を製造するために細胞が播種された、少なくとも部分的に脱細胞化された組織)を挙げることができる。
【0019】
軟組織及び硬組織を治療するための様々な組織製品が製造されてきた。例えば、ALLODERM(登録商標)及びSTRATTICE(商標)(LIFECELL CORPORATION,Branchburg,NJ)は、それぞれヒトの真皮及びブタの真皮でできている、2種の真皮無細胞組織マトリックスである。このような材料はある種のタイプの状態を治療するのに非常に有用であるが、異なる生物学的及び機械的特性を有する材料が、ある種の用途にとっては望ましい可能性がある。例えば、ALLODERM(登録商標)及びSTRATTICE(商標)は、構造的欠陥の治療を支援するために、及び/または(例えば、腹壁に関してもしくは乳房再建において)、組織へ支持を提供するために使用されてきており、これらの強度及び生物学的特性によって、これらは、そのような使用によく適するものになる。
【0020】
しかし、そのような材料は、ある種の軟組織の欠陥の再生、修復、置換及び/または増大にとって理想的でない可能性がある。例えば、失われたまたは損傷した組織(脂肪または他の軟組織を含める)を置換するための改善された組織フィラーは、一部の患者にとって有益であり得る。さらに、いくつかの用途では、組織フィラーは、材料が細胞内殖及び再生を支持する能力を維持しながら、ある種の機械的特性を変化させることによって、改善され得る。したがって、細胞内殖及び再生を可能にする能力を維持しながら、1つまたは複数の組織スキャフォールドの機械的及び/または生物学的特性を変化させる、改善されたデバイス及び方法が提供される。
【0021】
ある種の実施形態では、デバイスは、細胞レベルで細胞外マトリックス(ECM)様機構を維持しながら外部の圧縮及び孔の崩壊に抵抗する、軟組織フィラーを含む。デバイスは、機械的勾配構造及び階層的多孔性構造を含むことができ、この構造では、比較的高い圧縮係数を有する領域が、そうでなければ軟質の細胞外マトリックス中に一定間隔をあけて分散しており、結果として、材料の1種または複数の成分の係数より高いマクロ機械的係数が生じる。
【0022】
様々な実施形態によれば、組織製品が提供される。組織製品は、患者に移植された場合に細胞内殖及び組織再生を支持することができるコラーゲン含有マトリックスを含む第1の成分を含むことができる。さらに、組織製品は、3次元構造を含む第2の成分を含むことができ、ここでは、第1の成分は第2の成分中の格子骨格中に包埋され、第2の成分は第1の成分の圧縮係数より大きい圧縮係数を有する。
【0023】
図1Aは、様々な例示的実施形態に従って製造された階層的多孔性組織マトリックス10の透視図である。
図1Bは、
図1Aの組織マトリックスの拡大図である。示すように、組織マトリックス10は第1の成分30及び第2の成分20を含む。第2の成分は3次元構造、例えば格子骨格を含むことができ、第1の成分は第2の成分20の3次元構造内に包埋され得る。
【0024】
第1の成分30及び第2の成分20は、様々な構造的、機械的及び/または生物学的特性の違いを有し得る。例えば、ある種の実施形態では、第1の成分30は、細胞内殖及び組織再生を可能にすることができる多孔性材料を含むことができる。しかし、第1の成分30はまた、第2の成分20と比べて圧縮されやすくてもよい。
【0025】
組織マトリックス10のマクロ機械的特性を制御するために、第2の成分20は、第1の成分30よりも圧縮されにくくてもよい。すなわち、第2の成分はより高い圧縮係数を有してもよく、他の機械的、構造的または生物学的特性のバリエーションを有してもよい。例えば、ある種の実施形態では、第2の成分20は第1の成分30よりも高密度な材料で形成され、それによって、圧縮されにくい材料がもたらされ、この材料はまた、インビボでよりゆっくりと分解し得るか、再吸収され得る。
【0026】
第1の成分30及び第2の成分20は、様々な適切な材料から形成することができる。例えば、一般に、どちらの成分も、ポリウレタン、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸などの生体吸収性合成材料から形成することができる。あるいは、どちらの成分も、限定されないが、ポリウレタン、分解性ポリエステル、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート及びコポリマー、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリホスファゼン、ポリオレフィン、非分解性ポリエステル、ナイロン、ポリアクリレート、シリコーン、チロシンベースポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、キチン、キトサンを含めた他のポリマーで形成されてもよい。さらに、どちらの成分も、例えば、細胞外マトリックス材料、微粉化細胞外マトリックス、精製コラーゲン、微粉化コラーゲン、脱繊維化(defibrillated)コラーゲン、粗コラーゲン束及び架橋(例えば、化学的架橋、熱架橋、光架橋または放射線誘導性架橋による(本明細書で使用する場合、光または放射線誘導性架橋は両方とも可視域の電磁放射線を指すことができ非可視放射線を使用した架橋、例えばガンマ線、e-ビームまたは紫外線手段を含むこともできる)を制御するように処理されたコラーゲンを含めた様々な異なるコラーゲンベースの材料から形成されてもよい。適切な材料の様々な組み合わせを、より詳細に以下に記載する。
【0027】
上記のように、第1の成分30及び/または第2の成分20は、細胞外マトリックス製品を含めた様々な異なる材料から形成することができる。例えば、成分20、30の一方または両方は、様々な異なるヒトまたは動物の組織に由来する無細胞組織マトリックスから形成することができる。適切な無細胞マトリックス材料としては、例えば、脂肪組織、真皮組織、結合組織(腱、靱帯、筋膜)、筋肉(平滑筋または横紋筋)、膀胱、肝臓、腎臓、膵臓、神経組織、脈管組織(動脈もしくは静脈)または他の軟組織の細胞外マトリックス及び脱ミネラル化骨マトリックスまたはミネラル化海綿骨を挙げることができる。
【0028】
さらに、細胞外マトリックス材料が使用される場合は、多孔性、機械的特性(強度、圧縮性、弾性)ならびに/または生物学的特性(例えば、酵素感受性、インビボ分解速度及び/もしくは目的の治療部位の成長及び組織再生を支持する能力)を含めた所望の特性を制御するように、材料をさらに処理することができる。そのような処理としては、微粉化、再懸濁、架橋、脱脂、脱細胞化及び/または凍結乾燥を挙げることができる。脂肪材料及び真皮材料についての例示的処理法を、以下にさらに記載する。
【0029】
材料の様々な組み合わせ例を以下に記載する。列挙される材料のいくつかは、本発明の意図された範囲を逸脱することなく、様々な実施形態で入れ替えることができることを理解されたい。
【0030】
一実施形態では、第2の成分20は、ポリウレタン、分解性ポリエステル、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート及びコポリマー、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリホスファゼン、ポリオレフィン、非分解性ポリエステル、ナイロン、ポリアクリレート、シリコーン、チロシンベースポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート、キチン、キトサンなどの合成ポリマーを含有する連続気泡発泡体材料を含む。発泡体の孔は適切な大きさの範囲、例えば、500マイクロメートル~5000マイクロメートルの間を有し得、所望の機械的特性に基づいて特定の組成物を選択することができる。さらに、治療される組織から細胞の内殖を可能にするように特定の孔径を選択することができる。例えば、1~20ミクロンの孔は神経軸索に使用することができ、1~300ミクロンの孔は脂肪細胞に使用することができる。
【0031】
第2の成分20内に包埋されることになる第1の成分30は、より圧縮されやすい材料を含むことができる。例えば、第1の成分30は、ポリマーの孔、非架橋コラーゲン、微粉化コラーゲン、非ミネラル化コラーゲン及び/またはコラーゲン-gag混合物内に微粉化細胞外マトリックス(例えば、脂肪マトリックス、真皮マトリックス)の凍結乾燥された懸濁液を含むことができる。
【0032】
別の実施形態では、第2の成分20は架橋コラーゲンを含むことができ、第1の成分30は、非架橋または軽架橋コラーゲン及び微粉化細胞外マトリックス(例えば、脂肪マトリックス、真皮マトリックス)の凍結乾燥された懸濁液をポリマーの孔、非架橋コラーゲン、微粉化コラーゲン、非ミネラル化コラーゲン及び/またはコラーゲン-gag混合物内に含むことができる。そのため、第2の成分20は圧縮性が低い傾向がある。
【0033】
別の実施形態では、第2の成分20は粗コラーゲン束を含み、第1の成分30は、微粉化細胞外マトリックス(例えば、脂肪マトリックス、真皮マトリックス)、非架橋コラーゲン、微粉化コラーゲン、非ミネラル化コラーゲン及び/またはコラーゲン-gag混合物の凍結乾燥された懸濁液を含むことができる。
【0034】
別の実施形態では、第2の成分20は絹またはセルロースなどの天然線維を含み、第1の成分30は、微粉化細胞外マトリックス(例えば、脂肪マトリックス、真皮マトリックス)、非架橋コラーゲン、軽架橋コラーゲン、微粉化コラーゲン、非ミネラル化コラーゲン及び/またはコラーゲン-gag混合物の凍結乾燥された懸濁液を含むことができる。
【0035】
別の実施形態では、第2の成分20はミネラル化コラーゲンを含み、第1の成分30は、微粉化細胞外マトリックス(例えば、脂肪マトリックス、真皮マトリックス)、非架橋コラーゲン、軽架橋コラーゲン、微粉化コラーゲン、非ミネラル化コラーゲン及び/またはコラーゲン-gag混合物の凍結乾燥された懸濁液を含むことができる。
【0036】
さらに、第2の成分20または第1の成分30は、前述の材料の組み合わせから形成することができる。さらに、第1の成分30と第2の成分20のいずれかまたは両方は、機械的、構造的及び/または生物学的特性を変化させるように、組織マトリックス10の形成に続いてまたはその前に処理されてもよい。例えば、一実施形態では、第2の成分20を圧縮及び/または架橋して、その密度を増大させることができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、第1の成分は第2の成分の一部の中に包埋されるが、まだ、第2の成分の表面の大部分またはすべてを覆う。例えば、第2の成分は、合成ポリマー材料基材を含むことができ、第1の成分は無細胞組織マトリックスを含むことができる。
【0038】
図1Cは、そのような一実施形態を図示する。示すように、
図1Cのデバイスは、合成ポリマー材料基材30’、及び基材30’の開口部31を充填しつつ組織マトリックスを被覆または包埋する材料20’を含む。材料20’は前述の組織マトリックスのうちのいずれかを含むことができ、同様に、基材は言及される合成物のうちのいずれかを含むことができる。一実施形態では、基材30’はポリプロピレンメッシュを含み、材料20’は脂肪組織マトリックスを含む。
【0039】
基材30’は、特別に設計されたメッシュ構造物または現在入手可能なメッシュ材料から形成することができる。あるいは、基材は、外科用縫合糸(例えば、ポリプロピレン縫合糸または生体再吸収性縫合糸などの細長い要素から形成することができる。
【0040】
包埋材料はいくつかの方法で形成することができる。一実施形態では、材料20’は、脂肪組織を選択すること;組織を処理して実質的にすべての細胞性物質を組織から除去すること;組織を液体に懸濁させて懸濁液を形成すること;懸濁液中に合成ポリマー材料基材を入れること;及び懸濁液を凍結及び乾燥して、合成ポリマー材料基材を包埋している多孔性スポンジを形成することによって形成される。
【0041】
材料20’を形成した後に、例えば、(例えば、化学的架橋、UV架橋、e-ビーム架橋、ガンマ線架橋、X線架橋もしくは他の架橋方法を使用して)架橋することによって、または材料を脱水熱処理にかけることによって、材料20’を安定化することができる。
【0042】
上記のように、他の実施形態では、本明細書に開示されるデバイスは、より高密度の及びまたはより高い圧縮係数の領域を含むことができる。例えば、
図2は、様々な例示的実施形態に従って製造された別の階層的多孔性組織マトリックス40の透視図である。示すように、組織マトリックス40は、患者に移植された場合に細胞内殖及び組織再生を支持することができるコラーゲン含有細胞外組織マトリックスを含む第1の成分50;ならびに第1の成分50の全体にわたって間隔をおいて配置された一群のより高い係数の領域60を含み、ここでは、より高い係数の領域60はコラーゲン含有細胞外マトリックスで形成され、より高密度の領域を生成するように処理されている。
【0043】
組織マトリックス40及びより高い係数の領域60は、様々な構成を有し得る。例えば、示すように、組織マトリックス40は可撓性シート様材料を含む。しかし、組織マトリックスは、所望の移植部位に基づいて選択される、箱形、立方体、ピラミッド状、卵形または不規則な形状を含めた様々な形状を含むことができることを理解されたい。
【0044】
さらに、より高い係数の領域60は、組織マトリックス40内に様々な形状または構成を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、大部分またはすべてのより高い係数の領域60は、共通の軸62に沿って整列しており、それによって、共通の方向に沿った圧縮に対する抵抗性を与える。
【0045】
図3A~3Bは、
図2の組織マトリックス40の製造方法を図示する。示すように、
図3Aでは、組織マトリックス40は、材料のシート様断片を使用して形成することができ、第1の領域50及び第2の領域90を有する。第1の領域50と第2の領域90は、同じ材料で形成することができる(例えば、両方とも、無細胞の真皮、脂肪組織または他の適切な材料、例えば、コラーゲン、小腸または筋肉マトリックスのシートから形成される)が、異なる厚さ、H1及びH2を有し得る。
【0046】
より高密度の領域を生成するために、より厚いH2を有する第2の領域を、材料の両側で圧縮力92を加えることによって圧縮することができる。続いて、この圧縮領域を、例えば、放射線架橋、化学的架橋、熱架橋またはUV架橋によって架橋して、圧縮され且つより高密度な構成で領域90を安定化することができる。したがって、
図3Bに示すように、組織マトリックスは、第1の領域50及び第2のより高密度の領域60を有する最終的な組織マトリックス40に形成される。第2の領域60は、第1の領域50と比べて高い圧縮係数及び高い張力係数の少なくとも1つまたは両方を有するように形成することができる。そのため、第2の領域は、(例えば、組織フィラーとして移植した後に組織の体積を維持するために)圧縮に対して、及び/または(例えば、組織再生のために張力負荷下で使用される場合)断裂を防止するために、抵抗性を増大させることができる。
【0047】
示すように、組織マトリックス40は上面72及び76を有し、第2の領域60は、上面及び下面に垂直な軸76に沿ったカラムとして形成される。しかし、他の構成を使用してもよい。例えば、
図4Aは様々な実施形態に従って製造された、多孔性及び機械的特性(例えば、引張強度)のバリエーションを有する組織マトリックス100の側立面図であり、
図4Bは様々な実施形態に従って製造された、多孔性及び機械的特性(例えば、引張強度)のバリエーションを有する別の組織マトリックス130の透視図である。
図4Aの実施形態では、デバイスは、第1の領域110及び第2の領域120を含む。第2の領域120は、
図3Aに関して記載されたように生成されたより高密度の領域を含むことができるが、方向122に沿って細長いセクションを形成することができる。同様に、
図4Bのデバイスは、第1の領域140及び第2の領域150を含むことができ、ここでは、第2の領域は、
図3Aについて記載される方法に従って処理されて、グリッド様形状でより高密度の領域を生成する。他の形状及び構成を、意図された使用に基づいて選択することができる。
【0048】
ある種の実施形態では、本開示は、体内に移植した後に増大したコラーゲン密度及び/または圧縮抵抗性の領域を提供することができるデバイスを提供する。例えば、
図9A~Bは、組織マトリックスの側面図ならびにコラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを形成するための方法を図示する。
図9Cは、
図9A~9Bで図示される方法に従って製造された組織産物の側面図である。
【0049】
示すように、
図9Aは、T1の第1の領域592及びT2の第2の領域を有する曲面のついた(contoured)組織マトリックスまたは他のスキャフォールド材料590を含み、ここでは、T2はT1より小さい。移植の際に、第1の領域T1は、周辺組織からの圧縮力595を受ける傾向があり、それによって、第1の領域594を圧縮から保護する。十分な圧縮の際に、第1の領域592はより高密度のコラーゲンの領域596を生成する。
【0050】
第1の592領域及び第2の594領域は、同じ材料で形成され得、デバイスの生成は架橋または他の材料改変(適切な形状及び厚さを形成する以外)をともなわないが、機械的特性をさらに調整するために適切な改変を組み入れることができることが理解されよう。
【0051】
上記のように、本明細書に開示され、
図2~4B及び9A~Cについて図示されるデバイスは、様々な形状を含むことができる。例えば、
図10Aは組織マトリックスの側面図ならびにコラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを形成するための方法である。
図10Bは、
図10Aのマトリックスを使用して製造された組織マトリックスの側面図である。
【0052】
デバイス1090及び1090’は、様々な部位に移植するように構成されている、円形もしくは球形(または同様の3D構造)を含むことができる。さらに、デバイスは、第1の領域1092及び第2の領域1094を含むことができ、ここでは、第1の領域は、力1093を加える際に圧縮することができる、より大きな体積または面積を有する。
【0053】
さらに、デバイス1090は、力1093を加えることによって圧縮し、
図2~4Bのデバイスについて記載されるように架橋して、より高密度且つ圧縮抵抗性である架橋されたセクション1096を有する、最終的なデバイス1090’を製造することができる。あるいは、デバイス1090を突き出ている領域1092に移植することができ、
図10Cのデバイスのように、移植の際に圧縮することができる。
【0054】
より高密度の領域を生成するために圧縮力を与えることに加えて、架橋と併せて張力を使用することができる。例えば、
図11A~Dは、コラーゲン密度、機械的特性及び/または架橋のバリエーションを有する組織マトリックスを製造するためのさらなる方法を図示する。
【0055】
示すように、より高密度の領域を有するデバイスを製造するために、組織マトリックスまたは他のスキャフォールド1100を選択することができる(
図11A)。選択される領域1108でコラーゲン線維密度を増大させるために、張力1104を加えて、中間材料1100’を製造することができる(
図11B)。
【0056】
続いて、張力を解除する前に圧縮力1110を加えることができ(
図11C)、それによってより高密度の領域を維持し、放射線1120を与えることによって、または別の適切な方法によって、架橋を行うことができる(
図11D)。
【0057】
最終製品の包装の一部を形成する無菌遮蔽物中に材料が存在する間に、圧縮力1110を加えることができることに留意されたい。したがって、汚染の危険を冒さずに材料を架橋することができる。
【0058】
図2~3Bのデバイスは、より低密度の領域のマトリックス内に間隔をおいて配置されたより高密度の領域をともなって図示されるが、その逆が当てはまる可能性がある(すなわち、より高密度の領域のマトリックス内でより低密度の領域を形成することができる)ことも認識されるであろう。さらに、様々な領域の形状及び間隔のバリエーションを生成することができる。
【0059】
さらに、
図3A~3Bの方法は、領域50の厚さH1を超える厚さH2を有するとして領域90を図示するが、これは、そうである必要はない。例えば、デバイス40は、最終的なデバイスが、圧縮後により薄くなってより高い密度をもたらすより高密度の領域60を有するように、比較的一定の厚さを用いて使用することができる。
【0060】
組織製品の製造方法
組織製品の製造方法を
図2~4Bで図示される材料について記載してきた。以下の説明は、
図1A~1Bで図示される製品を製造するための適切な方法に関して、さらなる詳細を提供する。一実施形態では、方法は、多孔性及び哺乳類の軟組織に移植された場合に細胞内殖を可能にするように選択される微細構造を有するコラーゲンベースの細胞外マトリックス材料を含む第1の生体適合性材料を選択すること;第1の生体適合性材料の密度及び圧縮係数より大きい密度及び圧縮係数を有する第2の生体適合性材料を選択すること;ならびに第1の生体適合性材料と第2の生体適合性材料から複合材料を形成することを含む。
【0061】
1つの方法では、第2の材料を、前もって形成された格子、例えば、合成ポリウレタンまたは他の許容可能な材料の格子中に形成することができ、これを、随意に、その特性を制御するために架橋または他の方法によって処理することできる。その後に、次いで、例えば前もって形成された格子中の流動性組成物を凍結乾燥または安定化することによって、前もって形成された格子中に第1の材料を直接形成することができる。
【0062】
第2の方法では、第2の材料を液体懸濁液として提供することができ、第1の材料をビーズまたは粒子として提供することができる。第1の材料を液体懸濁液に入れることができ、この混合物を凍結乾燥して、第2の材料の格子中に包埋された第1の材料の断片を有する材料を製造することができる。
【0063】
第3の方法では、第1の材料を液体懸濁液として提供することができ、第2の材料をビーズまたは粒子として提供することができる。第2の材料を液体懸濁液に入れることができ、この混合物を凍結乾燥して、第1の材料の格子中に包埋された第2の材料の断片を有する材料を製造することができる。
【0064】
第4の方法では、第2の材料をビーズまたはロッドの凍結した懸濁液として提供することができ、これを第1の材料の線維で被覆することができる。組成物を所望の形状に圧縮することができ、圧縮した混合物を凍結乾燥することができる。
【0065】
第5の方法では、第1の材料を、前もって形成された発泡体または組織マトリックスとして提供することができる。第2の材料を、第2の材料中に機械的に包埋され得る線維、支柱またはコイルとして提供することができる。
【0066】
最後に、第6の方法では、第1の材料及び第2の材料を凍結ビーズとして提供することができ、材料を制御されたまたは無秩序な積み重ね方で混合し、凍結乾燥して、最終的な材料を形成することができる。
【0067】
従来の凍結乾燥処理及び/または脱水熱処理を使用して、本明細書に記載の材料を乾燥して、小程度の架橋を提供することができる。さらにまたはあるいは、光架橋、放射線架橋及び/または化学的架橋を使用して材料を架橋することができる。
【0068】
代替の実施形態及び組織製品の製造方法:組織成分の製造
上述したように、開示される組織製品は、所望の機械的及び生物学的特性を有するように処理されている様々な異なる合成的または生物学的材料を使用して製造することができる。
【0069】
細胞外組織マトリックス(ECM)ベースの材料から製品を形成することができる。例えば、骨組織(tissue bone)、皮膚、脂肪組織、真皮、腸、膀胱、腱、靱帯、筋肉、筋膜、脈管、神経、血管、肝臓、心臓、肺、腎臓及び軟骨組織のECMを使用して、組織製品の一部を形成することができる。真皮、小腸ベース、骨ベース及び脂肪組織のECMを含めた組織製品(例えば、処理されたECM材料)を得るための様々な方法が当技術分野で知られている。適切なECM材料は、例えば、Connorらに対する米国特許公開第US20120310367A1号及びSunらに対する米国特許第8,735,054号に記載されている。
【0070】
脂肪組織を製造するための例示的方法はUS2012/0310367A1に記載されている。その中に記載されている方法は、上記のように、他の材料と合体させるための、または処理された、脂肪組織ベースの製品を製造するのに使用することができる。この方法は、一般に、脂肪組織を得ること;脂肪組織を機械的に処理して小片を得ること;さらに組織を処理して、実質的にすべての細胞性物質及び/または脂質を組織から除去すること;組織を溶液に再懸濁して、多孔性マトリックスまたはスポンジを形成すること;ならびに組織を架橋して安定な3次元構造を生成することを含む。
【0071】
細胞性成分の除去を支援するため及び流動性の塊を生成するために、最初に組織を処理して小片を生成する。この材料を切断、粉砕、ブレンドまたは別の方法で機械的に処理して、組織の大きさを小さくする、及び/またはパテもしくは流動性材料を形成する。任意の反復性の切断、粉砕またはブレンド法を使用して、脂肪組織を処理することができる。例えば、一実施形態では、最初に組織を比較的小さな断片(例えば、約2cm×2cm)に切断する。次いで、この断片を水性懸濁液に入れ、これを、ブレードグラインダーまたは同様の器具で処理する。
【0072】
処理後に、次いで、組織を処理して細胞性成分及び脂質を除去する。材料を洗浄することによって細胞性物質を除去することができる。例えば、いくつかの実施形態では、水または別の溶媒で材料をさらに希釈する。次いで、希釈した材料を遠心分離すると、遊離脂質及び細胞残屑は上部に流動するが、細胞外マトリックスタンパク質はペレットとして沈澱する。次いで、このタンパク質ペレットを再懸濁することができ、十分な量の脂質及び細胞性物質が除去されるまで、洗浄及び遠心分離を繰り返すことができる。ある場合には、実質的にすべての細胞性物質及び/または脂質が除去されるまで、この工程を繰り返す。
【0073】
洗浄ステップの間、前及び/または後に、さらなる溶液または試薬を使用して材料を処理することができる。例えば、酵素、界面活性剤及び/または他の薬剤を1または複数のステップで使用して、細胞性物質もしくは脂質を除去する、抗原性物質を除去する、及び/または材料の細菌もしくは他のバイオバーデンを低減することができる。例えば、細胞及び脂質の除去を支援するために、ドデシル硫酸ナトリウムまたはTRISなどの界面活性剤を使用する1または複数の洗浄ステップを含めることができる。さらに、核の物質、異種源からの抗原及び/またはウイルスの破壊を確実にするために、リパーゼ、DNAse、RNAse、アルファ-ガラクトシダーゼまたは他の酵素などの酵素を使用することができる。さらに、細胞性物質を除去するのを、及び細菌または感染性の可能性がある他の因子を破壊するのに役立てるために、過酢酸溶液及び/または過酸化物を使用することができる。
【0074】
細胞性成分の除去後に、次いで、多孔性またはスポンジ様材料に材料を形成することができる。一般に、細胞外マトリックスを最初に水性溶媒に再懸濁する。材料が、注ぐことが可能な液体塊(liquid mass)を形成するのを可能にするために、十分な量の溶媒を使用する。加える水の量は、最終的な材料の所望される多孔性に基づいて変動し得る。ある場合には、再懸濁した細胞外マトリックスを、粉砕、切断、ブレンドまたは他の方法によって、1回またはさらに複数回、機械的に処理することができ、処理した材料を1回または複数回遠心分離及び再懸濁して、(必要に応じて)さらに細胞性物質もしくは脂質を除去することができ、及び/または細胞外マトリックス懸濁液の粘性を制御することができる。
【0075】
任意のさらなる洗浄及び粉砕ステップが一旦完了すれば、再懸濁した材料を容器または型に入れて、多孔性、スポンジ様製品を形成する。一般に、多孔性またはスポンジ様材料は、3次元マトリックスを多孔性構造に残すように材料を乾燥することによって形成される。いくつかの実施形態では、材料を凍結乾燥する。凍結乾燥は、一般に、型の形状に合致する3次元構造の生成を可能にし得る。ある場合には、材料を再懸濁することができ、上記のように、その懸濁液を他の材料と混合することができ、その混合物を乾燥して、脂肪成分を安定な構造に安定化し、その構造を形成することができる。例えば、一実施形態では、組織製品はポリウレタン発泡体を含み、脂肪マトリックス懸濁液をその発泡体に注ぎ、乾燥して、最終的な組織製品を形成する。
【0076】
いくつかの実施形態では、材料を架橋する。いくつかの実施形態では、凍結乾燥後に材料を架橋する。しかし、凍結乾燥処理の前または間に材料を架橋することもできる。架橋は、様々な方法で行うことができる。一実施形態では、架橋は、グルタルアルデヒド、ゲネピン(genepin)、カルボジイミド及びジイソシアネートなどの架橋剤と材料を接触させることによって達成される。さらに、架橋は、材料を加熱することによって行うことができる。例えば、いくつかの実施形態では、70℃~120℃の間に、または80℃~110℃の間に、または約100℃に、または指定の範囲の間の任意の値に、減圧または真空下で材料を加熱することができる。さらに、紫外線照射、ガンマ線照射及び/または電子ビーム照射を含めた他の架橋方法を使用して、開示する製品のうちのいずれかを製造することができる。さらに、真空は必要でないが、架橋時間を短くすることができる。さらに、マトリックスタンパク質の融解が起こらない且つ/または十分な時間が架橋に与えられる限り、より低いまたはより高い温度を使用することができる。
【0077】
組織製品の使用
様々な異なる解剖学的部位を治療するのに、本明細書に記載の組織製品を使用することができる。例えば、全体を通して論じられるように、本開示の組織製品は、圧縮を防止し、それによって、移植後の移植体の体積の維持を可能にする、複合材料から製造される。したがって、本組織製品は、ある種の組織部位に移植された場合に、他の組織型から製造される材料と比べて優れた再性能力を提供すると考えられる。ある場合には、主にまたはかなり脂肪組織である組織部位に組織製品を移植することができる。ある場合には、組織部位は、(例えば、切除された組織の増大、置換、または移植体周囲の配置の目的で)乳房を含むことができる。
【0078】
さらに、組織体積の維持から恩恵を受ける任意の他の部位を選択することができる。例えば、体積の維持が所望される顔、殿部、腹部、股関節部、大腿または任意の他の部位の再建的なまたは美容的用途に組織製品を使用することができる。これらの部位のうちのいずれかでは、本組織を使用して、しわ、たるみまたは望まれない形状を低減または除去することができる。
【0079】
胸部組織の置換または増大に使用される場合は、本組織は、他の組織製品を超える利点を提供することができる。例えば、本明細書中に開示された材料は、例えば乳腺腫瘍摘出術後に脂肪組織の内殖が自然な感じの胸部組織の再生を支持するのを可能にする成分の組み合わせで形成することができる。さらに、複合構造物は、経時的に移植体組織の体積維持を可能にするが、いくつかの他の現在入手可能な材料は、移植後の過度の体積喪失に悩まされており、それによって、最適に満たない美的な結果がもたらされる。
【実施例】
【0080】
この研究は、3種の移植体:(1)処理された脂肪組織(AT)、(2)ポリウレタンスポンジ(PU);及び(3)ATで包埋したPU(PAT)のインビボ(皮下)での応答を調べるために行った。
【0081】
ATは、米国特許公開第2012/0310367A1号(5頁の実施例を参照されたい)に記載されているように調製した。ヒト脂肪組織は、米国組織バンク協会(American Association of Tissue Banks)(AATB)のすべての要求に従って、死体源から得た。真皮及び脂肪を含む全層試料は、AATB公認の組織バンクから得た。脂肪組織を真皮から機械的に切除し、緩衝食塩水に入れ、処理するまで4℃で保った。
【0082】
様々な厚さの脂肪組織を小片に切断した。ブレードグラインダーを使用して組織を細かく切り刻み、すべての脂肪断片が細かく切り刻まれるまで、この粉砕工程を繰り返した。
【0083】
細かく切り刻んだ脂肪を水に懸濁し、遠心分離して、細胞残屑及び脂質からATマトリックスを分離した。すべての材料が処理されるまで、遠心分離及びペレット化を繰り返した。すべてのECMペレットを一緒にして、水に再懸濁し、遠心分離によって3回洗浄した。
【0084】
洗浄した脂肪ECMを水に再懸濁し、上記のように、遠心分離を使用して、この懸濁液を洗浄した。最終的なECM懸濁液を遠心分離して、最終的な固く圧縮されたECMペレットを生成した。洗浄したECMペレットをゆっくりと水に再懸濁した。スラリーを型の中に分散させ、凍結乾燥し、続いて80℃で24時間DHTを行って、ATを架橋し、安定化した。
【0085】
凍結乾燥及びDHTより前に、インチ当たり10個の孔の市販のポリウレタン発泡体(PU)(UFP Technologies、331 Patterson Avenue,Grand Rapids,MI 49512、部品番号8467)にATのスラリーを浸潤させたことを除いては、ATと同じ方法でPATを調製した。PUスポンジを凍結乾燥し、DHT処理して、PATと同じ状態に確実に置いた。
【0086】
本研究では、上記で特定した各材料のうちの1つを3匹の無胸腺ラットに皮下移植した。移植位置が移植の結果に影響を及ぼす可能性を説明するために、各移植型の位置をラットの間で変化させた。28日目に移植体を除去した。評価は、おおよその体積を求めるための外植体の重量測定及び肉眼的及び組織学的観察から成っていた。
【0087】
図5Aは、以下の実施例で記載する、移植より前の処理された脂肪組織のヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色したセクションである。
図5Bは、以下の実施例で記載する、移植より前の処理された脂肪組織/ポリウレタン複合材料のH&E染色したセクションである。
図6A~6Bは、以下の実施例で記載する、外植後の処理された脂肪組織のH&E染色したセクションである。
図7A~7Bは、以下の実施例で記載する、外植後のポリウレタン材料のH&E染色したセクションである。
図8A~8Bは、以下の実施例で記載する、外植後の処理された脂肪組織/ポリウレタン複合材料のH&E染色したセクションである。
【0088】
この結果によって、PATはその体積の大部分を維持するが、ATはその体積のおよそ半分を失うことが示された。組織学的検査によって、PAT内のATは移植前のその構造を保持するが、AT単独は開放性が低下する傾向がある(体積喪失を示す)ことが示された。SME推定によるATに関する脂肪細胞の沈着は、3つの外植体の研究について40~80%を超える間に及んだ。PATに関する脂肪細胞の沈着は、3つの外植体について10~20%の間であると推定された。PATに関して沈着がより少ないのは、PATの全体的な保持される厚さ及び体積がより大きい(これは、さらなる浸潤深度を必要とすると思われる)ことによって、部分的に説明することができる。最後に、PAT内のATは移植体への宿主結合組織の浸潤を防止した。この結合組織の浸潤は、PU単独の外植体の大部分で観察された。
【0089】
外植後に、PU群及びPAT群は、AT群よりも有意に大きいと思われた。PU外植体及びPAT外植体の重量は、AT外植体の重量のおよそ2倍あった。移植体の最初の体積は、これらが0.8×0.8×1.2cmの寸法を有していたので、およそ1.15cm3であった。体液をともなう組織の密度がおよそ1g/cm3であるので、グラムでの重量はおおよその体積に近い。したがって、PAT群及びPU群は、ATと比較してそれらの体積を維持した。AT外植体は最も柔らかい感触を有しており、これは、ATが移植より前により柔らかいことに基づいて予測されることである。PU外植体はATよりもかなり硬く、また、PATよりも硬かった。
【0090】
AT群は、脂肪細胞沈着のパーセンテージが最も高かった。PUの組織学的検査によって、3つすべての外植体について、移植体へのいくらかの筋肉浸潤が示された。この筋肉浸潤は、PATまたはATについては観察されなかった。PUはまた、マクロ多孔性開放構造に予想される、外植体全体にわたる宿主結合組織の浸潤を有していた。PUとATの両方の端部への脂肪細胞の沈着があり、PUではいくつかの外植体は他のものよりも多く示した。例えば、3つのPAT移植体の中の最も頑強な脂肪細胞浸潤を有するPAT外植体を示す
図7を参照されたい。PAT群は、AT組織が宿主結合組織の浸潤をブロックしたように思われるという点において、PUと異なっていた。AT外植体は、脂肪組織が浸潤しなかった領域で移植体のコラーゲン構造の崩壊を示す。PATのコラーゲン構造は維持されるように思われる。
【0091】
全体的に見て、PUと処理された脂肪組織の組み合わせは、これが、(AT産物のように)脂肪組織の内殖を可能にし、(PUと異なって)結合組織の浸潤をブロックし、処理された脂肪組織単独よりも良好に移植体の体積を維持するという点において利点を提供する。