(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】皮膚透明感を評価する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20230705BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61B5/00 M ZDM
A61B5/107 800
A61B5/00 101A
(21)【出願番号】P 2019010074
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018113409
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】中村 理恵
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-022547(JP,A)
【文献】国際公開第2009/142069(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196532(WO,A1)
【文献】特開2007-130329(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208067(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/027523(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0035941(US,A1)
【文献】征矢智美,野村美佳,長谷川敬,「肌の透明感」の言語的構造分析と皮膚生理特性―若年層と中高年層との比較―,人間工学,2002年06月01日,Vol.38, 特別号,pp.486-487
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面のキメ状態評価値、L
*a
*b
*表色系を用いる皮膚色の指標値のうちのb
*値、及び、
皮膚表面のデジタル画像から皮膚表面の夾雑物量
として得られる色ムラ値の3つの測定値に基づいて、対象者の皮膚透明感を推定することにより、皮膚透明感を評価する方法。
【請求項2】
前記皮膚透明感の評価は、
対象者を測定して得られる、皮膚表面のキメ状態評価値、L
*a
*b
*表色系を用いる皮膚色の指標値のうちのb
*値、及び、
皮膚表面のデジタル画像から皮膚表面の夾雑物量
として得られる色ムラ値の3つの測定値に基づいて、
対象者の皮膚透明感の推定値を算出し、当該推定値を用いて行う、請求項1記載の皮膚透明感を評価する方法。
【請求項3】
前記対象者の皮膚透明感の推定値は、
皮膚透明感の推定値を目的変数とし、
皮膚表面のキメ状態評価値、L
*a
*b
*表色系を用いる皮膚色の指標値のうちのb
*値、及び、
皮膚表面のデジタル画像から皮膚表面の夾雑物量
として得られる色ムラ値の3成分を説明変数に含む重回帰分析を用いて、得られる値である、請求項2記載の皮膚透明感を評価する方法。
【請求項4】
前記皮膚表面のキメ状態評価値が、皮膚表面をレプリカ剤に転写し、該レプリカに対し、斜光照明を行うことで、算出された数値である、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚透明感を評価する方法。
【請求項5】
前記皮膚色の指標値が、分光測色計により、L
*a
*b
*表色系を用いて測定された数値である、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚透明感を評価する方法。
【請求項6】
前記
色ムラ値が、対象者の皮膚状態のデジタル画像が二値化されることで、
皮膚表面の夾雑物量として、算出された数値である、請求項1~3のいずれか一項に記載の皮膚透明感を評価する方法。
【請求項7】
前記重回帰分析が、PLS、MLR、PCR、又はロジスティックより得られた予測式又は予測モデルである、請求項
3に記載の皮膚透明感を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚透明感を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の質感のひとつとして、皮膚透明感が重要視されて久しい。しかしながら、皮膚透明感は、明確な定義づけが難しいため、皮膚透明感の評価については、視覚的な官能評価に頼らざるを得ず、複数の技術評価者が目視で官能評価することが一般的であった。
【0003】
しかし、的確かつばらつきのない官能評価の結果を得るためには、各技術評価者が一定水準以上の官能評価能力を有すると共に、技術評価者達における官能評価能力の均質化が必要になる。このような技術評価者になるためには、豊富な経験や多くの訓練などによって高い技能を取得する必要があり、さらにこのような技術評価者を3名以上の複数人確保する必要がある。このため、目視による皮膚透明感の評価方法は、人員確保の上に、一定水準以上の評価能力の保持かつ評価能力の均質化といった特殊性も確保する必要があるため、簡便さに欠ける場合があった。
【0004】
上述のように、視覚的な皮膚透明感の官能評価方法は、高い個人的技能が要求されると共に高い再現性も要求されるが、官能評価能力の個人差が生じる場合などもあり得るため、客観的に評価する技術が十分に確立できているとは言い難いのが現状である。
このため、皮膚の透明感を、できるだけ客観的に評価するための技術が種々検討開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1では角層細胞の表面形態及び肌表面の凹凸を指標とした肌の透明感を評価している。特許文献2では技術評価者による5つの目視官能評価プロファイルから透明感を定義する式を算出している。また、特許文献3では偏光フィルターを利用して、各偏光成分の反射率の強度を指標として皮膚透明感を評価している。特許文献4では同一領域を含む2箇所へ光を照射した時の射出光との比を比較することで皮膚透明感を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-102522号公報
【文献】特開2010-22547号公報
【文献】特開2004-215991号公報
【文献】特開2004-305558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4においては、簡便性や精度に劣る場合が依然として存在した。
具体的には、特許文献1は、着眼点が皮膚表面の凹凸に限られており、皮膚表面の色に関する要因が含まれていないことから、精度に劣る場合がある。
特許文献2は、透明感の算出に、5つの目視官能評価プロファイルが必要となるが、その項目数5つは、いずれも官能評価が必要である。官能評価は、技術評価者の熟練さが求められることが多い。よって、項目数が5つと多いことは、技術評価者の熟練さが強く求められ、簡便性や再現性に欠ける場合がある。
特許文献3は、重相関係数Rが0.6程度にとどまり、精度に欠ける場合がある。
特許文献4においても、被験者数が3人と少なく、依然として精度が低いものであった。
【0008】
このような状況下において、本発明は、対象者の皮膚透明感を、精度高く、簡便に、推定し、さらにはより客観的に評価する技術を提供することを主な目的とする。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、皮膚透明感を簡便かつ精度高く判別する技術を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、多数の被験者を利用して種々の評価や測定を行い、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量がそれぞれ独立して目視による皮膚透明感評価と高い相関関係にあることを見出した。本発明者は、さらに一つの解析値だけを用いることよりも、2つ以上の解析値を組み合わせることによって、皮膚透明感をより精度高く推定できる、推定モデル又は推定式、及び皮膚透明感の推定値を見出した。本発明者は、さらに、その皮膚透明感の推定値は、目視による皮膚透明感の官能評価値と高い相関を示すことを見出した。このことから、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2つを測定することで、対象者の皮膚透明感を推定し、対象者の皮膚透明感を精度よく評価できることを本発明者は見出した。
【0010】
なお、本明細書において、「被験者」とは、本発明の透明感を評価する方法(例えばモデル又は式等)を求めるために、目視による皮膚透明感の官能評価と、各種の評価や測定とを受けるヒトをいう。また、本明細書において、「対象者」とは、本発明の透明感を評価する方法を利用して、皮膚透明感の推定を受けるヒトをいう。
【0011】
ここで、皮膚透明感の推定に際し、前例研究による報告等から、皮膚の水分量や年齢因子が加わることが想定された。しかしながら、本発明者は、皮膚の水分量は皮膚透明感と独立した相関関係を持たないため、皮膚の水分量の因子は阻害要因であることも見出した。また、本発明者は、年齢においては皮膚透明感に大きな影響を与える要因ではないことも見出した。しかも、本発明者は、皮膚の水分量や年齢を因子として加えると、予想外なことに、皮膚透明感を推定する精度が落ちることも見出した。
斯様にして、本発明者は、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)~(7)に示す技術である。
【0012】
(1)
皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2つの測定値に基づいて、対象者の皮膚透明感を推定することにより、皮膚透明感を評価する方法。
(2)
前記皮膚透明感の評価は、
対象者を測定して得られる、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2つの測定値に基づいて、
対象者の皮膚透明感の推定値を算出し、当該推定値を用いて行う、前記(1)記載の皮膚透明感を評価する方法。
(3)
前記対象者の皮膚透明感の推定値は、
皮膚透明感の推定値を目的変数とし、
皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2成分を説明変数に含む重回帰分析を用いて、得られる値である、前記(2)記載の皮膚透明感を評価する方法。
(4)
前記皮膚表面のキメ状態評価値が、皮膚表面をレプリカ剤に転写し、該レプリカに対し、斜光照明を行うことで、算出された数値である、前記(1)~(3)のいずれか記載の皮膚透明感を評価する方法。
(5)
前記皮膚色の指標値が、分光測色計により、L*a*b*表色系を用いて測定された数値である、前記(1)~(3)のいずれか記載の皮膚透明感を評価する方法。
(6)
前記皮膚表面の夾雑物量が、対象者の皮膚状態のデジタル画像が二値化されることで、算出された数値である、前記(1)~(3)のいずれか記載の皮膚透明感を評価する方法。
(7)
前記重回帰分析が、PLS、MLR、PCR、又はロジスティックより得られた予測式又は予測モデルである、前記(3)~(6)のいずれか記載の皮膚透明感を評価する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、対象者の皮膚透明感を、精度高く、簡便に、推定し、さらにはより客観的に評価する技術を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における、重回帰分析結果を用いて算出した皮膚透明感推定値と皮膚透明感評価値の相関関係を示す散布図及び回帰直線を示す図である。
【
図2】線形判別分析のための標準プロットを示す図である。
【
図3】水分量、シワ目視及び皮脂の3つの因子で解析したときの相関関係を示す散布図及び回帰直線を示す図である。
【
図4】水分量、毛穴及び弾力値の3つの因子で解析したときの相関関係を示す散布図及び回帰直線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。また、質量%を単に「%」と示すことがある。本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。
【0016】
<本発明に係る皮膚透明感の推定方法及びこれによる皮膚透明感の評価方法>
本発明は、皮膚透明感を推定することで皮膚透明感を評価する方法に関するものである。詳しくは、本発明は、目視による皮膚透明感の官能評価と、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量とに相関関係があることを見出し、この相関関係に基づいて、対象者の皮膚透明感を推定する方法を提供するものである。
さらに、本発明は、皮膚透明感の評価を望む対象者に対して皮膚透明感を推定することで皮膚透明感を評価する方法である。
本発明の皮膚透明感の評価は、対象者を測定して得られる、各測定値に基づいて、対象者の皮膚透明感の推定値を算出し、当該推定値を用いて行うことが好適である。当該各測定値として、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2つの測定値が好適である。
【0017】
さらに、好適には、予め被験者を用いて行った測定結果(具体的には、目視による皮膚透明感の官能評価と、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量との相関関係)に基づいて得られた重回帰分析を用いて、対象者の皮膚透明感の推定値を算出することである。
【0018】
そして、より好適には、前記対象者の皮膚透明感の推定値は、
皮膚透明感の推定値を目的変数とし、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2成分を説明変数に含む重回帰分析を用いて、得られる値である。この重回帰分析は、被験者の各種の評価値や測定値に基づいて経験則的に得られた重回帰分析であることがより好適である。
また前記重回帰分析は、PLS、MLR、PCR、又はロジスティックより得られた予測式又は予測モデルであることが好適である。
【0019】
<目視による皮膚透明感の官能評価>
ここで、従来から利用している目視による皮膚透明感の官能評価は、豊富な経験や多くの訓練などを積んだ専任の技術評価者らによって行われている。このような専任の技術評価者らを用いることで、高い再現性及び高い精度で皮膚透明感を評価することができ、その評価結果は、スコア化することが可能である。
目視による皮膚透明感の官能評価は、複数(通常3名以上)の専任の技術評価者が、皮膚の印象に基づき、透明感を目視評価にて0~4点を0.5点刻みでスコア化(スコアが高いほど透明感は低い)し、協議の上で決定している。目視による皮膚透明感の観察部位は、特に限定されず、いずれの部位(例えば、顔、手、腕、脚等)でもよい。
【0020】
なお、目視による皮膚透明感の官能評価の方法は、例えば、参考文献1(日本化粧品工業連合会,粧工連技術資料,107,144 (2000))、参考文献2(舛田勇二,國澤直美,高橋元次,粧技誌,39,201-208(2005))、参考文献3(松原晃,フレグランスジャーナル,35, 61-63 (2007))、参考文献4(征矢 智美, 野村 美佳, 林 照次, 長谷川 敬,粧技誌,38, 115-124 (2004))、参考文献5(五十嵐崇訓,守口順二,直木隆明,瀬尾昌孝,陳延偉,粧技誌,49, 95-106 (2015)などを参考にすることができる。
【0021】
<本発明の皮膚透明感の推定値及び皮膚透明感の評価>
本発明における皮膚透明感とは、肌の濁りがなく、透けるような状態を指す。本発明における皮膚透明感の評価は、目視による皮膚透明感の官能評価と同じようにスコア化し評価することも可能であり、両者は同じスコア基準で評価できる。このことは、後記〔実施例〕に示すように、両者の相関係数が高かったことから裏付けられている。本発明の皮膚透明感の評価は、具体的には、上述の目視による皮膚透明感の官能評価と同じスコアとすることができ、0~4点を0.5点刻みでスコア化できる。
一方で、本発明の皮膚透明感の評価は、上述の目視による皮膚透明感の官能評価よりも優れた利点を有している。例えば、本発明の皮膚透明感の評価は、目視による皮膚透明感の官能評価と比較して、技術評価者たちの評価基準等を高精度に均質化する必要はなく、また技術評価者の協議によるすり合わせを行わなくともよいので、目視による皮膚透明感の官能評価よりも、簡便に、より客観的に行うことができるという利点を有する。
【0022】
すなわち、本発明の皮膚透明感の評価は、従来の目視による皮膚透明感の官能評価と同等程度の精度を有し、一方で従来の目視による皮膚透明感の官能評価よりも、より簡便性を有し、より客観性を有する。よって、本発明によれば、対象者の皮膚透明感を、より精度高く、より簡便に、より客観的に、推定し、評価することができる。
【0023】
ここで、後記〔実施例〕に示すように、予め被験者を測定して得られた、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値及び皮膚表面の夾雑物量の3つの各因子と、目視による皮膚透明感の官能評価とには、高い相関関係があった。
このため、予め被験者を測定して得られた、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値及び皮膚表面の夾雑物量の各測定値に基づき、本発明の皮膚透明感の推定式又は推定モデルを得ることができる。さらに、得られた皮膚透明感の推定式又は推定モデルは、目視による皮膚透明感の官能評価値と高い相関を示す。
そして、皮膚透明感の評価を希望する新たな対象者に対して、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値及び皮膚表面の夾雑物量の少なくとも2つ又は3つを測定し、この各測定値に基づいて、この対象者の皮膚透明感を推定することができ、推定値としても適宜算出することもできる。この対象者の皮膚透明感を推定する際に、上述したような、予め経験則的に得られた皮膚透明感の推定式又は推定モデルを用いることが、より好適である。
このように、本発明は、予め被験者を用いて皮膚透明感の推定式又は推定モデルを経験則的に求め、この経験則的な推定式又は推定モデルを用いて、新たな対象者の皮膚透明感を推定することが好ましい。これにより、本発明は、目視による皮膚透明感の官能評価方法と同等程度に高い精度を有することができる。
【0024】
さらに、上述のように、対象者の皮膚表面のキメ状態評価値、対象者の皮膚色の指標値、及び対象者の皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも2つ以上の測定値に基づいて、皮膚透明感を推定することにより皮膚透明感を評価することが好適である。さらに、より高い精度を得る観点から、これら3つの測定値に基づいて行うことが、より好適である。好ましくは皮膚色の指標値のうちb*値であり、好ましくは皮膚表面の夾雑物量のうち色ムラ値を用いることが好適である。これら2つ又は3つの測定値は、ステップワイズ法などにより選択でき、重回帰分析から求めた推定式又は推定モデルに、適用することが好適である。
【0025】
さらに、対象者のこれら3つの測定値(3因子の変数)に加え、測定された対象者の皮膚生理特性値の測定値(例えば、ポルフィリンスコア、シワスコア等)を加えて、これら測定値に基づいて行ってもよい。好ましくはポルフィリンスコア、シワスコア、肌弾力値である。これら測定値を、加えて線形判別分析から求めた推定式又は推定モデルに、適用することが好適である。
なお、ポルフィリンスコアやシワスコアは、皮膚の撮影による画像解析等によるスコア化が知られている。ポルフィリンはニキビ・吹き出物の原因とされている。また、肌弾力値は、例えば、皮膚粘弾性測定装置等を用いた測定により、スコア化できることが知られている。
【0026】
これら各測定値を得る際の測定方法又は評価方法は、目視による皮膚透明感の官能評価を行うような高い熟練度を有する専任の技術評価者を必要としなくともよいため、目視による皮膚透明感の官能評価方法よりも、より簡便であり、より客観的に行うことができる。これにより、本発明は、目視による皮膚透明感の官能評価方法よりも、優れた簡便性及び優れた客観性を有することができる。
本発明の皮膚透明感を求める際の観察部位は、特に限定されず、いずれの部位(例えば、顔、手、腕、脚等)でもよい。このうち、顔が好ましく、顔のうち、評価の再現性、及び、精度向上の点から、顔面がより好ましく、さらに頬がより好ましい。
【0027】
このように、本発明は、皮膚表面のキメ状態評価値の測定方法、皮膚色の指標値の測定方法、及び皮膚表面の夾雑物量の測定方法から選択される少なくとも2つの測定方法で、対象者を測定し、対象者から得られる各測定値に基づいて、対象者の皮膚透明感の推定値を求めることができる。これらの測定を行う際の観察部位を統一することが、皮膚透明感の精度の向上の観点から、好ましい。さらに、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量の3つの観察部位を、頬に統一することが、さらにより好ましい。
【0028】
<皮膚表面のキメ状態評価値>
本発明で用いる皮膚表面のキメ状態評価値又はこの測定方法は、特に限定されないが、種々の方法を用いて、算出することが可能である。皮膚表面のキメ状態評価値は、専任の評価者の目視で評価を行う場合でも、目視による皮膚透明感評価の専任の技術評価者よりも熟練度は低くても可能であり、簡便に、客観的に行うことができる。
【0029】
皮膚表面のキメ状態評価値は、特に限定されないが、例えば、皮膚表面をレプリカ剤に転写し、該レプリカに対し、斜光照明を行うことで、算出することが可能である。
【0030】
皮膚表面を転写するレプリカ剤としては、特に限定されないが、例えばシリコンやポリビニルアルコール(PVA)皮膜を利用したレプリカ剤が挙げられる。かようなレプリカ剤としては、例えば、シリコンASB-01-WW(アサヒバイオメッド社製)がある。
【0031】
特に限定されないが、キメ状態が転写されたレプリカに対し、光投射装置などを用いて斜光照明を照射し、レプリカ凸部の影部分を抽出し、凸部面積率等や粗さを計測する方法によって、皮膚表面のキメ状態評価値を算出することができる。本手法においては、例えば、反射用3Dレプリカ解析システム(アサヒバイオメッド社製)等を用いて行うことができる。
【0032】
皮膚表面のキメ状態評価の適応部位としては、評価の再現性、及び、精度向上の点から、特に限定されないが、顔面が好ましく、頬であることがより好ましい。
【0033】
また、皮膚表面のキメ状態評価値は、格子状の光を肌に照射し、光のゆがみの特性からキメ状態の評価値に換算することにより、算出することも可能である。本手法は、被験者の皮膚から直接的に数値化できる点で好ましい。本手法に於いては例えば、PRIMОS(GFM社製)等の機器を使うことができる。本手法における皮膚表面の適応部位としては、評価の再現性、及び、精度向上の点から、特に限定されないが、顔面が好ましく、頬であることがより好ましい。
【0034】
また、皮膚表面のキメ状態評価値は、キメ状態の規則性の有無に対して、判断基準を設定することにより、専任の技術評価者の目視評価により、算出することも可能である。
本手法における皮膚表面の適応部位としては、評価の再現性、及び、精度向上の点から、特に限定されないが、顔面が好ましく、頬であることがより好ましい。
キメ状態の規則性の判断基準として、〈キメが非常に規則的に並んでいる〉から〈キメが全く規則的に並んでいない〉までの5段階(例えば、スコア配点、0:ある、0.5:ややある、1:ふつう、1.5:ややない、2:ない)に分け、それら5段階を画像等により明確にすることにより、客観的な目視評価が可能となる。専任の技術評価者の人数は、3人以上が好ましく、5人以上がより好ましい。専任の技術評価者が目視により評点を付け、それらの平均点を算出することで、皮膚表面のキメ状態評価値を求めることが可能である。
【0035】
<皮膚色の指標値>
本発明で用いる皮膚色の指標値又はこの測定方法としては、特に限定されないが、分光測色計等を用いて測定することができる。皮膚色の指標値は、分光測色計やJIS規格で得ることができるので、目視による皮膚透明感評価よりも、より簡便に、より客観的に行うことができ、また再現よく、精度よく、行うことができる。
皮膚色の指標値として、例えば、分光測色計を用いることにより、皮膚色の指標値として、知覚的に等色差性を持ったL*a*b*表色系を使用することができる。
【0036】
皮膚色の指標値の算出は、特に限定されないが、顔面が好ましく、頬であることがより好ましい。
【0037】
また、分光測色計には、積分球型の、例えば分光測色器CM-700d(コニカミノルタ社製)を使用することができる。
【0038】
さらに、皮膚色の指標値としては、特に限定されないが、JISによって規格されているマンセル表色系により尺度化されている色相、明度、彩度を色の指標値とすることができる。ここで使用される色差計は、特に制限されないが、JIS規格に準拠しているものが好ましい。
【0039】
<皮膚表面の夾雑物量>
本発明で用いる皮膚表面の夾雑物量又はこの測定方法は、特に限定されないが、例えば、皮膚表面のデジタル画像を取得し、その画像を二値化することにより、算出することができる。皮膚表面の夾雑物量は、デジタル画像処理にて得ることができるので、目視による皮膚透明感評価よりも、より簡便に、より客観的に行うことができ、また再現よく、精度よく、行うことができる。
皮膚表面の夾雑物量の算出の適応部位としては、評価の再現性、及び、精度向上の点から、特に限定されないが、顔面が好ましく、頬であることがより好ましい。
【0040】
皮膚表面のデジタル画像の取得には、特に限定されないが、例えば、顔画像撮影装置である、VISIA-CRTM(Canfield社製)やロボスキンアナライザー(インフォワード社製)を用いることができる。
【0041】
得られたデジタル画像は、特に限定されないが、画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて、二値化し、皮膚表面に観察される夾雑物を特定し、数値化することができる。
【0042】
また、前述の顔画像撮影装置に付属されているソフトウェアにテンプレートとして示されるシミ、色ムラなどの算出値を応用することができる。
【0043】
皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量の評価に於いては、推定精度と再現性の担保のために、例えば評価環境である湿度、温度、風速及び照明条件を同一とし、被験者は洗顔後、該環境下において30分以上馴化する等、が好ましい。
【0044】
<皮膚の水分量及び年齢の因子について>
本発明における皮膚透明感を推定する際に、皮膚の水分量という因子は含まれないことが好ましい。前例研究による報告等から、当初、皮膚の水分量という因子は、皮膚透明感の推定に必要と想定された。しかしながら、予想外なことに、皮膚透明感の推定に際し、皮膚の水分量という因子を含めると、精度が落ちた。皮膚の水分量の因子は皮膚透明感と独立した相関関係を持たないといえるためである。
【0045】
本発明における皮膚透明感を推定する際に、年齢因子は、含まれないことが好ましい。前例研究による報告等から、当初、年齢因子は、皮膚透明感の算出に必要と想定された。しかしながら予想外なことに、皮膚透明感の推定に際し、年齢因子を含めると、精度が落ちた。年齢は皮膚透明感に大きな影響を与える要因ではないと考えられる。
【0046】
本発明の皮膚透明感を評価する際のモデル又は推定式は、以下の方法により求めることができる。
各被験者における、目視による皮膚透明感の官能評価値を求めると共に、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値及び皮膚表面の夾雑物量のうち、必要とするものを少なくとも2つ以上求め、これら各評価値又は測定値を得る。本発明において「評価値又は測定値」を、「測定値」ともいう。
被験者人数は、特に限定されないが、統計学的に、多いほど好ましく、好ましくは30人以上、より好ましくは50人以上である。被験者に対する目視による皮膚透明感の官能評価、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、皮膚表面の夾雑物量の測定方法は、上述した<目視による皮膚透明感の官能評価>、<膚表面のキメ状態評価値>、<皮膚色の指標値>及び<皮膚表面の夾雑物量>のとおり、後記実施例(例えば、実施例1や表1等)を参照にして行うことができる。
【0047】
各被験者の皮膚透明感の程度を、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、皮膚表面の夾雑物量と、目視による皮膚透明感の官能評価との相関関係に基づいて、スコア化する。本発明において、得られた各スコアと、目視による皮膚透明感の官能評価値との関係を表す回帰式を用いることが好ましい。
【0048】
本発明においては、各被験者の皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量をスコア化した後に、これら3つの被験者の測定値(因子)のうちの少なくとも2つの因子と、目視による皮膚透明感の官能評価値との相関関係をもとに、皮膚透明感の推定モデル又は推定式を立てることが好ましい。このとき、被験者の3つの測定結果(3つの因子)に基づき、皮膚透明感の推定モデル又は推定式を立てることが、精度向上の観点から、より好適である。
また、本発明で用いる推定式は、ステップワイズ法による重回帰分析にて求めることが、好適である。
【0049】
本発明において、各被験者の各測定値のデータに基づき、皮膚透明感の予測モデル又は推定式を立てることで、この皮膚透明感の予測モデル又は推定式や過去の知見をもとに、新たな対象者の皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び皮膚表面の夾雑物量の3つの測定値(因子)から選択される少なくとも2つの測定値から、対象者の皮膚透明感の程度を、より精度よく、より簡便に、より客観的に、推定することが可能となる。このとき、新たな対象者の各測定値(因子)の3つすべてを用いることが、皮膚透明感評価における、精度、簡便性及び客観性のそれぞれの向上になる観点から、より好適である。また、本発明で用いる皮膚透明感のモデル又は推定式は、過去の知見から、求めてもよい。
【0050】
本発明で用いる皮膚透明感のモデル又は推定式を、被験者の測定値や過去の知見から、導き出す方法としては、多変量解析が好ましい。具体的には、目視による皮膚透明感の官能評価を目的変数とし、生理特性項目及び目視評価項目のうちの1つ又は2つ以上の成分を説明変数として利用することで、皮膚透明感のモデル又は推定式を得ることができる。
【0051】
本発明で用いる皮膚透明感のモデル又は推定式を得る際に使用する分析として、例えば判別分析(線形判別分析、二次判別分析、混合判別分析等)、主成分分析、因子分析、数量化理論(1~3類)、回帰分析(MLR、PLS、PCR、ロジスティック)、多次元尺度法、教師ありクラスター、ニューラルネット、アンサンブル学習等、が例示できる。これらの中から、非線形的手法ではない、重回帰分析、判別分析及び数量化理論1類がより好ましい。また推定式の精度を確保するために説明変数の取捨選択を行うことがより好ましい。かような解析方法のソフトウェアは市販品(例えば、SPSS社製、SAS Institute社製及びMathLab社製等)或いはフリーソフトを用いることができる。
【0052】
本発明において、皮膚透明感の推定式は、下記の推定式(式1)で表されるものが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されず、本発明の皮膚透明感の推定に用いる推定モデル又は推定式は、新たな被験者の測定結果や過去の知見により再構築することも可能である。
【0053】
皮膚透明感の推定式:
Y(皮膚透明感の推定値)=α+β1*(標準化 皮膚表面のキメ状態評価値)+β2*(標準化 皮膚色の指標値)+β3*(標準化 皮膚表面の夾雑物量)・・・(式1)
【0054】
また、前記(式1)中、皮膚透明感を推定する精度向上の点から、αは1~3であることが好ましく、β1は0.2~0.4であることが好ましく、β2は0.1から0.3であることが好ましく、β3は0.1から0.4であることが好ましい。
また、β1は、好ましくは0.20~0.45、より好ましくは0.21~0.45であることが好ましく、β2は好ましくは0.1~0.36、より好ましくは0.14~0.36であることが好ましく、β3は好ましくは0.1~0.45、より好ましくは0.20~0.45であることが好ましい。
【0055】
なお、本発明の方法を、皮膚透明感の評価を求めるための装置(例えば、パーソナルコンピュータ等)におけるCPU等を含む制御部によって実現させることも可能である。また、本発明の方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ等)、HDD、CD、ネットワークサーバ等)等を備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。又は、当該制御部によって、皮膚透明感推定システム、皮膚透明感評価システム又はこれら装置を提供することも可能である。
【0056】
本発明の方法において、本発明の推定モデル又は推定式や本発明の皮膚透明感の評価のための各ステップを、予め記憶部に記憶しておくことが好適である。
また、本発明の各ステップを実行することによって、対象者の皮膚透明感を推定することができ、この推定値は、目視による皮膚透明感の官能評価と高い相関関係を有するので、皮膚透明感の評価値として、使用することができる。
このため、ある対象者が、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、皮膚表面の夾雑物量から選択される2つ以上を測定し、測定して得られたこのなかの測定値から2つ以上を選択し、本発明の予測モデル又は推定式に適用することにより、対象者の皮膚透明感を評価することができる。この方法であれば、皮膚透明感を、より簡便に、より精度高く、より客観的に評価することができる。
【0057】
本発明の皮膚透明感の評価方法は、非治療目的に使用してもよいし、その評価結果を最終的に治療目的に役立ててもよい。本発明は、医師の直接的な医療行為ではなく、例えば、皮膚透明感の診断を補助する方法等に適用することが可能である。ここで、「非治療目的」とは、医療行為、すなわち、治療による人体への処置行為を含まない概念であり、非治療目的とは、例えば、美容目的等が挙げられる。本発明の利点として、上述した3つの因子はいずれも医師が行わなくとも専任の技術評価者又は測定機器によって評価又は測定することができることにある。
また、本発明における評価する工程において、判断をプログラムや機器の制御部等で容易に行うことができるし、判断を専任の技術評価者が行ってもよい。これは、本発明が、推定モデル又は推定式から得る推定値の基準を、目視による皮膚透明感の評価値の基準と同じにすることができるためである。
【0058】
本発明の皮膚透明感の評価方法の第一の実施形態として、以下のステップを含むことが挙げられる。
〔ステップS11〕:対象者を測定して得られた、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量から選択される少なくとも1つの測定値を、推定モデル又は推定式に当てはめるために、入力する。当該入力の数として、好ましくは2つの測定値であり、より好ましくは3つの測定値である。
〔ステップS12〕:推定モデル又は推定式から、対象者の皮膚透明感の推定値が得られ、この推定値を、皮膚透明感の評価スコアとして、対象者に通知(例えば画像表示、音声表示等)する。この皮膚透明感の評価の基準は、目視による皮膚透明感の官能評価の基準と同じにする。具体的には、0~4点を0.5点刻みでスコア化(スコアが高いほど透明感は低い)する。これにより、対象者の皮膚透明感の評価スコアを知ることができる。
なお、第一の実施形態の変形例として、対象者が継続的に又は長期間に測定を行い、得られた各測定値が時系列にデータストックされることで、このデータストックに基づき、ステップS11~S12を行い、この結果の一部又は全部を通知する。これにより、対象者は、時系列における皮膚透明感の変化を知ることができる。
【0059】
本発明の皮膚透明感の評価方法の第二の実施形態として、以下のステップを含むことが挙げられる。対象者に、被験物質を塗布する前と、一定期間塗布後で、皮膚透明感の評価を行う。
〔ステップS21〕:被験物質を塗布する前に、上記第一の実施形態のステップS11及びS12と同じステップを行い、塗布前の皮膚透明感の推定値を得る。評価スコアを記憶部に、塗布前の皮膚透明感の推定値として記憶する。この結果の一部又は全部を、対象者に通知してもよい。
〔ステップS22〕:被験物質を一定期間塗布した以外は、上記第一の実施形態のステップS11及びS12と同じステップを行い、塗布後の皮膚透明感の推定値を得る。評価スコアを記憶部に、塗布後の皮膚透明感の推定値として記憶する。この結果の一部又は全部を、対象者に通知してもよい。
塗布前の皮膚透明感の推定値、及び塗布後の皮膚透明感の推定値の結果の一部又は全部を、対象者に通知して終了してもよい。さらに、以下の〔ステップS23〕以降を実施してもよい。
【0060】
〔ステップS23〕:塗布前の皮膚透明感の推定値と、塗布後の皮膚透明感の推定値を対比し、以下のステップによって、対象者に対する被験物質の効能の程度を判断する。
対比結果(ステップS231)として、推定値が、(塗布前の推定値)>(塗布後の推定値)となった場合には、皮膚透明感が向上した又は改善したと判断する。なお、スコア差が大きいほど、より向上又はより改善と判断してもよい。
対比結果(ステップS232)として、推定値が、塗布前=塗布後となった場合には、皮膚透明感の変化なしと判断する。なお、±0.5は許容範囲として同じと判断することも可能である。
対比結果(ステップS233)として、(塗布前の推定値)<(塗布後の推定値)となった場合には、皮膚透明感が低下した又は悪化したと判断する。なお、スコア差が大きいほど、より低下又はより悪化と判断してもよい。
〔ステップS24〕:ステップS21~S23の各推定値及び判定結果を、対象者に通知(例えば画像表示、音声表示等)する。これにより、対象者の皮膚透明感の評価スコア及び対象者における被験物質の効能の程度を知ることができる。
【0061】
また、本発明の皮膚透明感の推定方法は、以下の工程を含むことが好ましい。
予め用意した皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、皮膚表面の夾雑物量と、官能評価による皮膚透明感評価値との相関関係を示す推定式又は推定モデルに、
対象者を測定して得られる、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色指標値、及び皮膚表面の夾雑物量を、適用することで、前記対象者の皮膚透明感を推定する工程を含むものである。
前記対象者を測定して得られる皮膚表面のキメ状態評価値は、対象者の皮膚表面のキメ状態評価値を算出する工程により得られることが好適である。
前記対象者を測定して得られる皮膚色指標値は、対象者の皮膚色指標値を算出する工程により得られることが好適である。
前記対象者を測定して得られる皮膚表面の夾雑物量は、対象者の皮膚表面デジタル画像から皮膚表面の夾雑物量を算出する工程により得られることが好適である。
【0062】
また、本発明の別の側面として、本技術は、以下の構成を採用することができる。
〔1〕
皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量との相関関係に基づいて、皮膚透明感を推定する方法。
〔2〕
皮膚透明感の程度を、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、及び、皮膚表面の夾雑物量との相関関係に基づいて、スコア化し、
得られたスコアに対し、官能評価による皮膚透明感評価値との関係を表す回帰式を用いることを特徴とする、前記〔1〕に記載の皮膚透明感を推定する方法。
〔3〕
以下の工程を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の皮膚透明感を推定する方法。
予め用意した皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、皮膚表面の夾雑物量と、官能評価による皮膚透明感評価値との相関関係を示す式又はモデルに、
対象者の皮膚表面のキメ状態評価値を算出する工程、
対象者の皮膚色指標値を算出する工程、
対象者の皮膚表面デジタル画像から皮膚表面の夾雑物量を算出する工程により、
算出した皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色指標値、及び皮膚表面の夾雑物量を前記式又はモデルに適用することで、前記対象者の皮膚透明感を推定する工程。
〔4〕
前記皮膚表面のキメ状態評価値が、皮膚表面をレプリカ剤に転写し、該レプリカに対し、斜光照明を行うことで、算出した数値であることを特徴とする、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の皮膚透明感を推定する方法。
〔5〕
前記皮膚色の指標値が、分光測色計により、L*a*b*表色系を用いて測定された数値であることを特徴とする、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の皮膚透明感を推定する方法。
〔6〕
前記皮膚表面の夾雑物量が、皮膚状態のデジタル画像が二値化されることで、算出された数値であることを特徴とする、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の皮膚透明感を推定する方法。
〔7〕
前記回帰式が、PLS、MLR、PCR、又はロジスティックより得られた予測式又は予測モデルであることを特徴とする、前記〔2〕~〔6〕のいずれかに記載の皮膚透明感を推定する方法。
【実施例】
【0063】
以下に実施例等を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。尚、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0064】
〔実施例1〕
健常な日本人女性60名(22~59歳)を被験者として、この被験者を対象に、洗顔後30分後に、表1に示す項目について皮膚状態の機器計測と専任の技術評価者による目視観察を行った。
【0065】
【0066】
皮膚透明感評価値は、訓練された専任の技術評価者により〈透明感がとてもある〉から〈透明感が全くない〉までの5段階の評点を付し、目視評価値として用いた。配点は、0~4点(0点:ある、1点:ややある、2点:ふつう、3点:ややない、4点:ない)を0.5点刻みでスコア化し、協議の上で決定する。
【0067】
皮膚表面のキメ状態評価値は、専任の技術評価者によりキメ状態の規則性を元に判別し、〈キメが非常に規則的に並んでいる〉から〈キメが全く規則的に並んでいない〉までの5段階の評点を付し、それらの平均をとることで、算出した。配点は、0点:ある、0.5点:ややある、1点:ふつう、1.5点:ややない、2点:ない、でスコア化する。
【0068】
皮膚色の指標値は分光測色器CM-700d(コニカミノルタ社製)を使用し、L*a*b*値を測定した。
【0069】
皮膚表面の夾雑物量は、VISIA-CRTM(Canfield社製)を用いて撮影したデジタル画像に対し、内臓ソフトウェアでテンプレートの解析値として得られる、シミ、シワ、毛穴、色ムラを皮膚夾雑物と設定し、算出した。
【0070】
皮膚透明感推定値を目的変数に、表1に示した、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値、皮膚表面の夾雑物量を説明変数とした。各説明変数は前処理として標準化した(SAS Institute Inc 社製、JMP(R)13.2.0)。
【0071】
次に、説明変数間の多重共線性を回避するため、各説明変数間の相関係数の逆行列(SAS Institute Inc社製、JMP(R)13.2.0)を算出し、多重共線性をもつ説明変数を除外した。
【0072】
次に、ステップワイズ法による重回帰分析を行った。
皮膚透明感評価値を目的変数、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値のうちb*値、及び、皮膚表面の夾雑物量として色ムラ値を、説明変数とした。
【0073】
結果を、表2及び3に示し、導き出された推定式を(式2)に示す。皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値のうちb
*値、及び、皮膚表面の夾雑物量として色ムラ値の3因子を独立変数とする推定式(重回帰式スコア)が得られた。特に皮膚色の指標値のうちb
*値、及び、皮膚表面の夾雑物量として色ムラ値の2因子が、目視による皮膚透明感に大きな影響を与えることが示された。
この重回帰式を、皮膚透明感の推定式とし、この重回帰式のスコアを皮膚透明感の推定値とした。また、上記重回帰分析結果を用いて算出した皮膚透明感推定値と、皮膚透明感評価値の相関関係を示す散布図及び回帰直線を
図1に示す。
すなわち、重回帰係数及び
図1から、精度高く且つ簡便に皮膚透明感を推定できることが示された。
【0074】
図1及び表3に示すように、皮膚透明感推定値と、目視による皮膚透明感の官能評価値とには高い相関関係がある。つまり、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値のうちb
*値、及び、皮膚表面の夾雑物量として色ムラ値の3因子に基づいて、皮膚透明感の推定をすることで皮膚透明感を評価することができる。
さらに、この3因子から導き出された推定モデル又は推定式に、新たな対象者が測定して得られた、皮膚表面のキメ状態評価値、皮膚色の指標値のうちb
*値、及び、皮膚表面の夾雑物量として色ムラ値から選択される測定値を、適用することで、この対象者の皮膚透明感の推定値を得ることができる。この推定値を、皮膚透明感の評価値とすることができ、この推定値による皮膚透明感の評価は、目視による皮膚透明感の官能評価と高い相関があるため、この官能評価と同等程度に精度高く、この官能評価よりも簡便に、また客観的に、皮膚透明感を評価することができるものである。
【0075】
【0076】
【0077】
推定式
Y(皮膚透明感)=2.13+0.22*(標準化 b*値)+0.30*(標準化 皮膚表面のキメ状態評価値)+0.25*(標準化 色ムラ値)・・・(式2)
【0078】
〔実施例2〕
皮膚透明感に対するさらなる関係性を探索するため、目視による皮膚透明感の官能評価スコアをカテゴリ変数と定義し、判別分析の適用を試みた。判別分析に用いる変数は、重回帰分析により得られた3因子の変数に加え,関係性を仮定した皮膚生理特性値を採用し、線形判別分析を行った(
図2)。その結果、得られた判別結果は、重回帰分析と同様に「b
*値」「皮膚表面のキメ状態評価値」「色ムラ値」に加えて「ポルフィリンスコア」及び「シワスコア」が主に寄与(正準1)することが確認できた。一方で、スコア2(ふつう)と定義した被験者は、スコア1(ややある)、スコア3(ややない)と比較して、縦軸方向(正準2)へのばらつきが認められ、正準2に寄与する因子は、「肌弾力値」、「b*値」及び「表面均一性スコア」などが選択された。
そこで、解析に用いた被験者の実際の画像で見られる特徴と、判別分析で示された対応する皮膚生理特性値を照合したところ、肌状態が以下のように説明できることが示唆された。
シワスコア及びポルフィリンスコアは、VISIA-CR
TM(Canfield社製)を用いて撮影したデジタル画像に対し、内臓ソフトウェアでテンプレートの解析値として得ることができる。
【0079】
スコア1:ややある(シワやキメ流れのような線状のムラがなく,表面状態がなめらか。ポルフィリンや点状の赤みムラも少なく,均一な肌表面を構成している);
スコア2:ふつう(色ムラや凹凸を反映した僅かな表面形状のなめらかさの喪失による不均一性や,弾力の低下がみられる);
スコア3:ややない(シワやたるみによる影や,ポルフィリンや赤みによる顕著な色ムラが表れる)。
【0080】
〔比較例1及び比較例2〕
前記〔実施例1〕を行う際に、水分量(舛田勇二,國澤直美,高橋元次,粧技誌,39,201-208 (2005))、シワ目視、皮脂、毛穴、弾力値についても公知の評価方法に基づき、これらの評価を行った。
比較例1として、水分量、シワ目視及び皮脂の3つの因子で解析した結果を
図3及び表4に示す。
比較例2として、水分量、毛穴及び弾力値の3つの因子で解析した結果を
図4及び表5に示す。
比較例1及び比較例2ともに、3つの因子を使用しても、良好な相関係数には至らなかった。透明感、赤み、キメ、目尻シワ等の視診データ;水分量、TEWL、皮脂、弾力値、明度、赤み、黄み、色素沈着、毛穴、ポリフィリン、夾雑物、キメ、シワ等の機器測定等といった評価項目があることからすると、組み合わせ項目及び組み合わせ数を設定変更することで、高い相関関係を導き出すことは、多大の試行錯誤を要するものであり、技術的困難性を伴うものである。
【0081】
【0082】
【0083】
以上の結果から、透明感を高めるための共通した肌ケア方法としては、「皮膚表面のキメ状態評価値」、「皮膚色の指標値のうちb
*値」、及び「皮膚表面の夾雑物量として色ムラ値」を考慮して、肌の均一性を高めることが有効と考える。
図2に示すように、中程度の目視透明感スコア(1~3)に対し判別分析を行うことにより、透明感の違いを生み出す要因を示した。この結果より、目視による皮膚透明感の官能評価スコアとは別に有効と考えられる肌ケア方法を以下のように提案することができる。
スコア 1(ややある) ⇒さらなる肌表面滑らかさを向上させるケア。
スコア 2(ふつう) ⇒肌弾力,美白,キメ流れや,毛穴目立ち等に対応した肌表面の均一性を高めるケア。
スコア 3(ややない) ⇒シワ,たるみを伴う表面形状変化,シミやくすみによる中~広域の色むらを改善するケア。
このように、〔実施例〕において皮膚透明感を構成している因子が明らかとなった。本発明を発展又は応用することで、個々人の肌状態に適した透明感向上のケア方法をさらに提案できるであろう。