(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】焼成治具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20230705BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20230705BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
C04B35/64
F27D3/12 S
C04B41/85 C
(21)【出願番号】P 2019068147
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二本松 浩明
(72)【発明者】
【氏名】抜水 一輝
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-192274(JP,A)
【文献】特開2016-038194(JP,A)
【文献】特開2016-084255(JP,A)
【文献】特開平05-017261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,41/80-41/91
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格が三次元網目状構造を構成している無機質の網目状構造体と、
網目状構造体の
表裏面に設けられている無機質のシート状構造体と、を備え、
前記シート状構造体は表面から裏面に至る貫通孔を複数有しており、各貫通孔は他の貫通孔から独立している、焼成用
治具。
【請求項2】
前記シート状構造体が、焼成用治具の露出面を構成している請求項
1に記載の焼成用治具。
【請求項3】
前記シート状構造体の厚みが、0.05mm以上1mm以下である請求項1
又は2に記載の焼成用治具。
【請求項4】
前記貫通孔の開口部の形状が、円形または多角形である請求項
1から3のいずれか一項に記載の焼成用治具。
【請求項5】
前記貫通孔の開口部に外接する外接円を形成した場合において、その外接円の直径が10μm以上5000μm以下である請求項
1から4のいずれか
一項に記載の焼成用治具。
【請求項6】
前記シート状構造体に対する前記貫通孔の開口部の開口率が、30%以上70%以下である請求項
1から5のいずれか
一項に記載の焼成用治具。
【請求項7】
前記シート状構造体が、SiC質、又は、SiCの割合が50質量%以上のSi-SiC質を主成分として含む請求項
1から6のいずれか一項に記載の焼成用治具。
【請求項8】
前記シート状構造体が、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質から選択されるいずれか一種以上を主成分として含む請求項
1から6のいずれか一項に記載の焼成用治具。
【請求項9】
前記網目状構造体及び前記シート状構造体が、無機質の接着材によって接合されている請求項
1から8のいずれか一項に記載の焼成用治具。
【請求項10】
前記接着材が、SiC質、Si-SiC質、Si3N4質、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質から選択されるいずれか一種以上を主成分として含む請求項
9に記載の焼成用治具。
【請求項11】
前記網目状構造体及び前記シート状構造体が、前記シート状構造体と同質の接着材によって接合されている請求項
7又は8に記載の焼成用治具。
【請求項12】
無機質であり、表面から裏面に至る貫通孔を複数有しており、各貫通孔が他の貫通孔から独立しているシート状構造体を、
骨格が三次元網目状構造を構成している無機質の網目状構造体の
表裏面に
貼り合わせる工程を有する、焼成用
治具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、焼成治具に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、網目状の骨格を有する焼成用治具(複合耐火物)が開示されている。特許文献1の焼成用治具は、その骨格構造によって高い通気性が確保されるので、セラミックス電子部品等の焼成に適している。なお、特許文献1は、複数の網目状構造体を積層した焼成用治具も開示している。具体的には、比較的厚い(三次元構造の)第1網目状構造体の表面にシート状の比較的薄い(二次元構造の)第2網目構造体が積層された焼成用治具が開示されている。積層する構造体がいずれも網目状構造体なので、通気性が損なわれることが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、特許文献1の焼成用治具は、高い通気性を確保することに成功している。しかしながら、特許文献1の焼成用治具は、その骨格構造(網目状構造)の特徴により、強度(機械的強度)を向上させることが難しい。高い通気性を維持したまま強度を向上させることができれば、高耐久性(長寿命)の焼成用治具を実現したり、薄肉の焼成用治具を実現することができる。本明細書は、焼成用治具の強度を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する焼成用治具は、無機質の網目状構造体と、網目状構造体の表面に設けられている無機質のシート状構造体を備えていてよい。この焼成治具では、シート状構造体は表面から裏面に至る貫通孔を複数有しており、各貫通孔は他の貫通孔から独立していてよい。
【0006】
上記焼成用治具は、網目状構造体と貫通孔を有するシート状構造体とが積層されているので、高い通気性が確保される。また、シート状構造体に設けられている貫通孔が他の貫通孔から独立している。そのため、シート状構造体は、貫通孔が設けられていない部分の密度を高くすることができ(空隙を少なくすることができ)、網目状構造体と比較して強度を高くすることができる。すなわち、上記焼成用治具は、シート状構造体と網目状構造体を併用することにより、網目状構造体のみで作製された焼成用治具と比較して、通気性を維持したまま強度(機械的強度)を高くすることができる。
【0007】
また、本明細書では、焼成用治具の製造方法も開示する。その製造方法は、無機質であり、表面から裏面に至る貫通孔を複数有しており、各貫通孔が他の貫通孔から独立しているシート状構造体を、無機質の網目状構造体の表面に張り合わせる工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】焼成用治具(シート状構造体)の表面を模式的に示す。
【
図3】焼成用治具(網目状構造体)の断面のSEM写真を示す。
【
図5】シート状構造体に設ける貫通孔の変形例を示す。
【
図6】焼成用治具の製造工程のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、無機質の網目状構造体と、網目状構造体の表面に設けられている無機質のシート状構造体を備えた焼成用治具を開示する。焼成用治具は、セラミックスコンデンサ等の小サイズの被焼成物(電子部品)を焼成するために用いられてよい。
【0010】
(網目状構造体)
網目状構造体は、表面から裏面に至る連通孔を複数備えていてよい。具体的には、網目状構造体は、骨格が厚み方向(表裏面を結ぶ方向)及び面方向(厚み方向に直交する方向)に三次元的に伸び、三次元網目構造を構成していてよい。骨格が三次元的に伸びることにより、骨格以外の部分(空隙)が連通孔を構成する。なお、網目状構造体の場合、網目状構造体の表面(裏面)に複数の開口(骨格で囲まれた空間)が露出する。1つの開口に着目すると、その開口は、網目状構造体の内部で別の開口と連通している。網目状構造体は、気体が内部を移動し易く、通気性に優れるという特徴を備えている。なお、網目状構造体は、骨格が複数の開口を形成しながら主に面方向に伸び、面方向に広がったシート状の骨格が、厚み方向で部分的に繋がった構造であってもよい。このような網目状構造体は、実質的に、二次元網目構造と捉えることができる。
【0011】
網目状構造体の空隙率は、網目状構造体を構成する骨格のサイズを調整することによって容易に調整することができる。網目状構造体の空隙率は、特に制限されないが、例えば電子部品の焼成用治具として用いる場合、20体積%以上90体積%以下であってよい。空隙率が20体積%以上であれば、通気性が確保され、例えば焼成の際に電子部品から生じるガスを速やかに排出することができる。また、空隙率が90体積%以下であれば、網目状構造体が破損することが抑制され、焼成用治具の耐久性(長寿命)を確保することができる。より好ましくは、50体積%以上90体積%以下である。なお、網目状構造体を構成する骨格自体は、空隙率が1体積%未満であってよい。骨格自体の強度が増大し、結果として網目状構造体の強度が増大する。
【0012】
網目状構造体の骨格は、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質、SiC質又はSi-SiC質を主成分とする材料で構成されていてよい。「主成分とする」とは、対象材料が骨格の構成材料全体に占める質量割合が、50質量%超であることを意味する。網目状構造体の骨格は、実質的に(不可避不純物を除き)、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質、SiC質又はSi-SiC質のみで構成されていてもよい。この場合、網目状構造体の骨格は、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質、SiC質又はSi-SiC質のうちの一種で構成されていてもよいし、複数種で構成されていてもよい。特に、SiC質及びSi-SiC質は、耐熱性に優れ、熱伝導率が良好なため、焼成用治具の構成部材(網目状構造体)の材料として有用である。なお、Si-SiC質においては、SiCの割合が50質量%以上であってよい。Si-SiC質は、SiCの割合が増大する程、強度が増大する。
【0013】
網目状構造体は、例えば、モールドキャスト法によって作製することができる。モールドキャスト法では、骨格を構成する原料を溶媒に分散させたスラリーにゲル化剤を添加し、原料スラリーをウレタンフォーム等の多孔質体に含浸させた後、乾燥・焼成を経て網目状構造体が作製される。モールドキャスト法は、原料スラリーを含浸させる多孔質体を選択することによって網目状構造体の特性(空隙率等)を容易に調整することができるので、網目状構造体の作製方法として有用である。なお、モールドキャスト法は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0014】
(シート状構造体)
シート状構造体は、表面から裏面に至る複数の貫通孔を有していてよい。具体的には、各貫通孔が、シート状構造体は表面から裏面に筒状に伸び、他の貫通孔から独立していてよい。すなわち、シート状構造体に設けられている貫通孔は、網目状構造体に設けられている連通孔と形状が異なる。このような貫通孔は、シート状構造体の原料をシート状に成形してシート材を作製した後、シート材の焼成(硬化)前、または、焼成後に形成することができる。なお、焼成後のシート材(貫通孔を形成する前のシート状構造体)の空隙率は、1体積%未満であってよい。
【0015】
シート状構造体は、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質、SiC質又はSi-SiC質を主成分とする材料で構成されていてよい。例えば、シート状構造体の主成分は、SiC質、又は、SiCの割合が50質量%以上のSi-SiC質であってよい。あるいは、シート状構造体の主成分は、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質の一種又は複数種であってよい。シート状構造体は、実質的に(不可避不純物を除き)、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質、SiC質又はSi-SiC質のみで構成されていてもよい。この場合、シート状構造体は、SiC質、SiCの割合が50質量%以上のSi-SiC質、あるいは、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質の一種又は複数種で構成されていてよい。シート状構造体は、網目状構造体の骨格と同一の材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。
【0016】
シート状構造体は、例えば、ドクターブレードを用いたシート成形法によって作製することができる。シート成形法では、シート状構造体を構成する原料を溶媒に分散させたスラリーを、下面シートとドクターブレードの隙間を通過させて所望厚の原料シートを形成した後、乾燥・焼成を経てシート状構造体が作製される。なお、焼成前、あるいは、焼成後に、穴あけポンチ等を用いてシート状構造体を加工することにより、シート状構造体に貫通孔が形成される。シート成形法は、下面シートとドクターブレードの隙間を調整することにより厚み調整を容易に行うことができるので、シート状構造体の作製方法として有用である。シート成形法は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0017】
(焼成用治具)
焼成用治具は、網目状構造体とシート状構造体を備えている。シート状構造体は、網目状構造体の表面、及び/又は、裏面に設けられていてよい。換言すると、網目状構造体の厚み方向において、シート状構造体は、網目状構造体の一方の側にのみ設けられていてもよいし、両側に設けられていてもよい。シート状構造体は、網目状構造体の表面(裏面)に接合されていてよい。シート状構造体の構成材料と網目状構造体の構成材料が反応し、両者が直接接合されていてよい。あるいは、シート状構造体は、接着剤(接合材)によって網目状構造体に接合されていてよい。接着剤は無機質であってよく、一例として、SiC質又はSi-SiC質を主成分として含む接着剤、あるいは、Si3N4質、アルミナ質、ムライト質、ジルコニア質、イットリア質の一種あるいは複数種を主成分として含む接着剤が挙げられる。以下、図面を参照し、焼成用治具について具体的に説明する。
【0018】
図1に示すように、焼成用治具10は、網目状構造体2とシート状構造体4を備えている。シート状構造体4の裏面は、網目状構造体2の表面(厚み方向の一方の面)に接合されている。シート状構造体4の表面は、焼成用治具10の表面を構成している。すなわち、シート状構造体4が、焼成用治具10の露出面を構成している。電子部品等の被焼成物を焼成する際、被焼成物は、シート状構造体4の表面に載置される。複数の貫通孔6が、シート状構造体4の表面からシート状構造体4の裏面(網目状構造体2とシート状構造体4の接合面)まで伸びている。そのため、貫通孔6は、網目状構造体2の連通孔(網目状構造体2内の空隙)と連通している。その結果、焼成用治具10の表面(シート状構造体4の表面)から裏面(シート状構造体4の裏面)に至るガス流路が形成される。被焼成物から生じたガスは、焼成用治具10の内部を通過して、外気に排出される。
【0019】
特に限定されないが、網目状構造体2の厚みは、シート状構造体4の厚みより厚くてよい。網目状構造体2の厚みは、0.5mm以上5mm以下に調整されてよい。網目状構造体2の厚みが0.5mm以上であれば、十分に通気量を確保することができる。厚みが5mm以下であれば、通気抵抗の増大を抑制することができる。より好ましくは、1.0mm以上5mm以下である。また、シート状構造体4の厚みは、0.05mm以上1mm以下に調整されてよい。シート状構造体4の厚みが0.05mm以上であれば、焼成用治具10の機械的強度を高く維持することができる。厚みが1mm以下であれば、十分な通気量を確保することができるとともに、焼成用治具10の重量を適正な範囲に留めることができる。より好ましくは、0.05mm以上0.5mm以下である。
【0020】
図2は、各貫通孔6の開口形状が円形である例を示している。なお、詳細は後述するが、貫通孔6の開口形状は任意であり、例えば、不定形、楕円形、多角形であってもよい。貫通孔6の開口形状が円形である場合、外接円の直径が開口の直径に相当し、開口の直径は10μm以上5000μm以下であってよい。開口直径を10μm以上5000μm以下に調整することにより、シート状構造体4の通気量を十分に確保しながら、シート状構造体4の強度を維持することができる。なお、シート状構造体4の通気量及び強度は、貫通孔6の開口率(シート状構造体4の表面面積に対する全貫通孔6の開口部の合計面積の割合)によっても制御することができる。通気量の確保と強度の維持を両立するため、シート状構造体4に対する貫通孔6の開口部の開口率は、30%以上70%以下であってよい。より好ましくは、30%以上60%以下である。
【0021】
図3は、網目状構造体のSEM写真(35倍)である。
図3に示すように、網目状構造体は、3次元に伸びる骨格が部分的に繋がってバルク体を形成することによって構成されている。骨格が存在しない部分(空隙)が網目状構造体の連通路に相当する。上記したように、空隙率(100-(骨格の体積率))は、任意に調整することができる。そのため、骨格の材料を変更したり、空隙率を調整することによって網目状構造体の強度を向上させることはできる。しかしながら、網目状構造体は、その構造上、強度の向上効果は限定的である。焼成用治具10では、網目状構造体2の表面に、貫通孔6以外の部分が緻密な構造であるシート状構造体4を設けることにより、通気性を損なうことなく、焼成用治具10の強度を向上させることができる。また、シート状構造体4は、シート成形体を形成した後に貫通孔6を形成するため、貫通孔6のサイズ、個数等を、被焼成物のサイズに併せて調整することができる。そのため、被焼成物が貫通孔6内に落下するといった不具合を抑制することもできる。
【0022】
(変形例)
図4に示す焼成用治具20では、シート状構造体4(4S,4R)が、網目状構造体2の両面に設けられている。網目状構造体2の両面にシート状構造体4を設けることにより、例えば焼成用治具10のように網目状構造体2の片面にシート状構造体4を設ける形態を比較して、焼成用治具の強度を向上させることができる(
図1を比較参照)。あるいは、網目状構造体の両面にシート状構造体を設けることにより、網目状構造体及びシート状構造体の空隙率を変化させることなく、焼成用治具の厚み(網目状構造体、及び/又は、シート状構造体の厚み)を薄くすることができる。焼成用治具の厚みを薄くすると、焼成用治具の重量が低減するとともに、焼成用治具内の通気抵抗を低減することができるので、焼成用治具の通気性が向上する。また、網目状構造体の両面にシート状構造体を設けることにより、焼成用治具20の両面を、被焼成部材の載置面として利用することもできる。なお、焼成用治具20では、網目状構造体2の両面に同一のシート状構造体4(4S,4R)を設けている。しかしながら、シート状構造体4Sとシート状構造体4Rは、厚み、貫通孔の開口率、空隙率、構成材料等が異なっていてもよい。
【0023】
上記したように、シート状構造体4に設ける貫通孔6の開口形状は任意である。以下、
図5を参照し、貫通孔6が多角形の場合における貫通孔6の好ましい形態について説明する。
図5には、三角形、四角形、六角形の貫通孔6が示されている。貫通孔6の開口のサイズは、貫通孔6の開口に外接する外接円8を形成し、その外接円の直径を制御することによって調整可能である。貫通孔6が三角形、四角形、六角形等、円形以外の場合、貫通孔6の開口に外接する外接円8を形成し、その外接円の直径を10μm以上5000μm以下に調整する。開口直径を10μm以上5000μm以下に調整することにより、シート状構造体4の通気量を十分に確保しながら、シート状構造体4の強度を維持することができる。なお、貫通孔6が三角形、四角形、六角形等、円形以外の場合も、通気量の確保と強度の維持を両立するため、シート状構造体4に対する貫通孔6の開口部の開口率は、30%以上70%以下であってよい。なお、開口率は、上記で説明した開口率と同様に、シート状構造体4の表面面積に対する全貫通孔6の開口部の合計面積の割合である。
【0024】
(焼成用治具の製造方法)
図6を参照し、焼成用治具10の製造方法について説明する。なお、上記したように、シート状構造体4及び網目状構造体2の製造方法は公知なので、説明を省略する。以下では、シート状構造体4と網目状構造体2を張り合わる工程について説明する。まず、シート状構造体を形成するためのシート材を作製する(ステップS2)。シート材は、上述したシート成形法によって作製することができる。
【0025】
次に、シート材を40℃~100℃で12時間乾燥させ、ポンチを用いてシート材に貫通孔を形成する(ステップS4)。なお、焼成前のシート材に貫通孔を形成することにより、貫通孔を作成する際に割れ等が生じることを抑制することができる。
【0026】
次に、シート材の裏面に接着剤を塗布し、網目状構造体(焼成体)にシート材を貼り合わせる(ステップS6)。なお、接着剤として、上記した無機材料(SiC質,Si-SiC質,Si3N4質,アルミナ質,ムライト質,ジルコニア質,イットリア質)を含むペーストを用いることができる。その後、40℃~100℃で12時間乾燥させた後(ステップS8)、不活性ガス雰囲気において1400~2200℃で1時間焼成する(ステップS10)ことにより、焼成用治具が完成する。なお、ステップS6において、必ずしもシート材の裏面に接着剤を塗布する必要はない。シート材が焼成する際、シート材の構成原料と網目状構造体が反応し、シート材(シート状構造体)と網目状構造体を接合することもできる。
【0027】
上記したように、シート状構造体,網目状構造体及び接着剤の原料として種々の原料を用いることができる。以下、シート状構造体,網目状構造体及び接着剤の組み合わせの一例を示す。
(例1)
Si-SiC質の網目状構造体(150×150mm,厚み0.5mm)
Si-SiC質のシート状構造体(150×150mm,厚み0.05mm)
Si-SiC質の接着剤
(例2)
Si-SiC質の網目状構造体(150×150mm,厚み2mm)
SiC質のシート状構造体(150×150mm,厚み0.1mm)
イットリア質の接着剤
(例3)
アルミナ質の網目状構造体(150×150mm,厚み1mm)
アルミナ質のシート状構造体(150×150mm,厚み0.05mm)
アルミナ質の接着剤
(例4)
Si-SiC質の網目状構造体(150×150mm,厚み1mm)
Si-SiC質のシート状構造体(150×150mm,厚み0.2mm)
窒化ケイ素質の接着剤
(例5)
Si-SiC質の薄型網目状構造体(150×150mm,厚み0.5mm)
Si-SiC質のシート状構造体(150×150mm,厚み0.2mm)
Si-SiC質の接着剤
(例6)
Si-SiC質の薄型網目状構造体(150×150mm,厚み0.5mm)を2層積層
Si-SiC質のシート状構造体(150×150mm,厚み0.2mm)
Si-SiC質の接着剤
(例7)
Si-SiC質の網目状構造体(300×300mm,厚み5mm)
Si-SiC質のシート状構造体(300×300mm,厚み1mm)
Si-SiC質の接着剤
【0028】
(例1),(例3),(例5),(例6),(例7)は、シート状構造体,網目状構造体及び接着剤の原料が同質である。(例1),(例5),(例6),(例7)は各原料がSi-SiC質であり、(例3)は各原料がアルミナである。(例5),(例6)は、網目状構造体が薄型(実質的に2次元構造)である。(例5)は網目状構造体が一層であり、(例6)は網目状構造体が二層である。(例7)は他の焼成用治具より大型であり、シート状構造体及び網目状構造体の双方のサイズが、他の焼成用治具のシート状構造体及び網目状構造と比較して大きい。(例2)は、シート状構造体,網目状構造体及び接着剤の原料が全て異なる。また、(例2)は、同一の原料で作製されたシート状構造体及び網目状構造体を、シート状構造体及び網目状構造体と原料が異なる接着剤で接合する。このように、シート状構造体,網目状構造体及び接着剤は、必ずしも同じ原料ではなくてよい。なお、上記例には示していないが、接着剤を用いることなく、シート状構造体と網目状構造体を接合することもできる。
【実施例】
【0029】
焼成用治具を幾つか作製し、強度及び通気性の評価を行った。作製した焼成用治具の特徴及び評価結果を、
図7に示す。
【0030】
まず、試料1について説明する。Si-SiC粒子(平均粒径0.5μm)を用いて、有機溶媒を用いたSiC粒子のスラリーを作製し、テープ成形法により縦横250×1000mm,厚さ0.2mmのテープ成形体を作製した。テープ成形体は、ドクターブレードを用いたテープ成形法によって作製した。そのテープ成形体から縦横150×150mm,厚さ0.2mmのシート材(未焼成のシート状構造体)を切り出した。その後、穴あけポンチを用いて、シート材に直径5mmの円形の貫通孔を688個形成した。貫通孔は、開口がシート材の表面にほぼ等間隔に現れるように、シート材の全体に形成した。シート材に対する貫通孔の開口部の開口率は60%であった。次に、SiC粒子(平均粒径0.5μm)を用いて有機溶媒を用いたスラリーを作製し、縦横150×150mm,厚さ5mmのウレタンフォームにスラリーを浸漬し硬化させることにより成形体を作製した後、乾燥させた。なお、網目状構造体は、この成形体をアルゴン減圧下、1350℃で1時間焼成して得られたものである。また、シート材と網目状構造体の作製順は任意である
【0031】
次に、Si-SiC粒子(平均粒径0.5μm)を10g(乾燥重量)秤量し、有機溶媒100gを加えてペースト(接着剤)を作製した。そのペースト50gをシート材の裏面に均一に塗布し、網目状構造体の表面に張り合わせた。その後、大気中、1350℃で1時間加熱した。その後、シート材と同じ重量の金属Siを秤量し、シート材上に載せ、窒素雰囲気、1350℃で2時間焼成し、焼成用治具を作製した。
【0032】
なお、焼成用治具の作製と同時に、同条件で単体のシート状構造体と単体の網目状構造体を作製した。それらの試料についてアルキメデス法を用いて空隙率を測定した結果、両者とも空隙率は1体積%未満であった。すなわち、貫通孔を除くシート状構造体自体の空隙率、及び、網目状構造体を構成する骨格の空隙率は1体積%未満であった。また、体積及び重量から計算した結果、網目状構造体の空隙率は80体積%であった。
【0033】
試料2~6について説明する。以下の説明では、試料1と相違する条件について説明し、試料1と同条件については説明を省略する。試料2は、シート材のサイズが縦横150×150mm,厚さ0.05mmであり、シート材に直径(外接円の直径)0.01mmの四角形の貫通孔を、シート材に対する貫通孔の開口部の開口率が30%となるように個数を制御して形成したことを除き、試料1と同条件でシート構造体及び網目状構造体を作製した。また、貫通孔の形成は、レーザ加工によって行った。なお、試料2では、シート材を2枚作製し、網目状構造体の表面と裏面に張り合わせた。
【0034】
試料3では、アルミナ粒子(平均粒径2μm)を用いて、縦横150×150mm,厚さ0.05mmのシート材を2枚作製した。また、レーザ加工によって、シート材に直径0.05mmの四角形の貫通孔を、シート材に対する貫通孔の開口部の開口率が40%となるように個数を制御して形成した。試料3では、貼り合わせの際、アルミナ粒子(平均粒径2μm,乾燥重量10g)を用いてペースト(接着剤)を作成し、シート材を網目状構造体の表面と裏面に張り合わせた。他の条件は、試料1と同条件とした。また、試料3では、貼り合わせ後の焼成の際に金属Siを用いていない。
【0035】
試料4は、シート材のサイズを縦横150×150mm,厚さ0.5mmとし、レーザ加工によって、シート材に直径0.2mmの四角形の貫通孔を、シート材に対する貫通孔の開口部の開口率が30%となるように個数を制御して形成した。他の条件は、試料1と同条件とした。
【0036】
試料5は、シート材のサイズを縦横300×300mm,厚さ0.5mmとし、レーザ加工によって、シート材に直径5mmの四角形の貫通孔を、シート材に対する貫通孔の開口部の開口率が30%となるように個数を制御して形成した。また、網目状構造体のサイズは、縦横300×300mm,厚さ0.5mmとした。シート状構造体自体の空隙率、及び、網目状構造体を構成する骨格の空隙率は1体積%未満であり、網目状構造体の空隙率は80体積%であった。
【0037】
試料6は、試料1と同条件で作製した網目状構造体とした。すなわち、試料6は、網目状構造体の表裏面にシート状構造体が設けられていない。試料6は、上記試料1~5に対する比較例に相当する。
【0038】
次に、焼成用治具の強度及び通気性の評価方法について説明する。焼成用治具の強度は、各試料を縦横50×50mmの形状に加工し、精密万能試験機(商品名:オートグラフ,(株)島津製作所製)を用いた3点曲げ試験にて評価した。シート状構造体を接着する前の網目状構造体の3点曲げ試験における強度に対し、強度が100%以下の測定結果が得られた試料を「C」、100%超150%以下の測定結果が得られた試料を「B」、150%超の測定結果が得られた試料を「A」とした。なお、比較対象である、シート状構造体を接着する前の網目状構造体についても、縦横50×50mmの形状に加工し、上記の精密万能試験機を用いて強度を測定した。「A」~「C」の評価は、熱衝撃性の優劣を示しているといえる。結果を
図7に示す。
【0039】
通気性は、ブロアーを用いて試料の表面(400mm
2)に50kPaで空気を供給し、裏面の流量(圧力)を測定し、圧力損失を算出して評価した。圧力損失が10kPa未満の試料を「A」とし、10kPa以上20kPa未満の試料を「B」とし、30kPa以上の試料を「C」とした。圧力損失が20kPa未満であれば、使用上、特に問題ないレベルといえる。結果を
図7に示す。
【0040】
図7に示すように、網目状構造体にシート状構造体を貼り合わせた試料(試料1~5)は、何れも網目状構造体のみの試料(試料6)と比較して高強度であることが確認された。すなわち、3次元方向に伸びる骨格によって通気性を確保せず、互いに独立した貫通孔を形成して通気性を確保したシート状構造体を用いることにより、開口率を高くしても高い強度が得らえることが確認された(例えば試料1,4)。なお、開口率が比較的小さいシート状構造体を網目状構造体の表裏面に貼り合わせた試料(試料2,3)についても、十分に通気性が確保されることが確認された。
【0041】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。