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特許7307588流路の形成物の判定方法およびそれを実施する判定装置、ならびに発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】流路の形成物の判定方法およびそれを実施する判定装置、ならびに発電装置
(51)【国際特許分類】
   F17D 3/10 20060101AFI20230705BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20230705BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20230705BHJP
   G01N 23/2202 20180101ALI20230705BHJP
【FI】
F17D3/10
G01N17/00
G01N23/2252
G01N23/2202
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019089111
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020183801
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】青木 里紗
(72)【発明者】
【氏名】寺田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴博
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-083767(JP,A)
【文献】特開2005-308841(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105142(WO,A1)
【文献】特開2014-206526(JP,A)
【文献】特開2002-310889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 3/10
G01N 17/00
G01N 23/2252
G01N 23/2202
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路の複数の箇所から、前記流路を流通する流体の少なくとも一部を捕集し、この捕集した捕集物について分析点を連続的に一方向に、直線的に推移させて前記複数の捕集物について、そこに含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する線分析を実施して、結晶成長の仕方あるいは固形物の酸化状態を分析し、前記複数の捕集物からそれぞれ取得された複数の分析結果をもとに前記流路の内面における形成物を判定することを特徴とする、形成物の判定方法。
【請求項2】
前記複数の捕集物からそれぞれ取得された複数の分析結果をもとに、前記流路中の各区間ごとに、その区間内の前記形成物を判定する、請求項に記載の形成物の判定方法。
【請求項3】
前記捕集物が、気体、液体、固体あるいはこれらの二種以上を含み、この捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する、請求項1または2に記載の形成物の判定方法。
【請求項4】
前記捕集物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体あるいはこれらの二種以上を含み、この捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する、請求項1~のいずれか1項に記載の形成物の判定方法。
【請求項5】
前記捕集物が、前記流路からの溶出物、剥離物、分解物、イオン化物、溶解物、融解物、被エロージョン物あるいはこれらの二種以上を含み、この捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する、請求項1~のいずれか1項に記載の形成物の判定方法。
【請求項6】
前記捕集物の少なくとも一部を分離し、その分離物の中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する、請求項1~のいずれか1項に記載の形成物の判定方法。
【請求項7】
前記の分析結果をもとに、元素の種類および価数、イオン種およびイオン価数、錯体の種類あるいは結合状態を判定する、請求項1~のいずれか1項に記載の形成物の判定方法。
【請求項8】
流路の複数の箇所に配置された流路を流通する流体の少なくとも一部を捕集する捕集装置、および
この捕集装置から取得された捕集物について分析点を連続的に一方向に、直線的に推移させて前記複数の捕集物について、そこに含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する線分析を実施して、結晶成長の仕方あるいは固形物の酸化状態を分析する分析装置を具備してなることを特徴とする、流路の内面の形成物を判定する装置。
【請求項9】
前記分析装置が、エネルギー分散型X線分析または電子線マイクロアナライザーである、請求項に記載の装置。
【請求項10】
請求項またはに記載の判定装置を具備してなることを特徴とする、発電装置。
【請求項11】
稼働中に、前記流路の内面の形成物あるいは前記流路の損傷の程度を判定可能な、請求項10に記載の発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、流路の形成物の判定方法およびそれを実施する判定装置、ならびに発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
給排水配管を始めとする各種配管・構成部品の損傷による水・蒸気漏れの原因の一つに、水質に起因する腐食が挙げられる。例えば、発電プラントにおいて腐食により生じた貫通孔からの蒸気の漏洩事故等はプラント全体の停止に繋がり、安定した発電と電力供給を阻害する。従って、腐食の発生に大きな影響を与える水質の管理を適切に行うことは、プラントの信頼性を向上させるために重要である。
【0003】
一般的に、各種配管・構成部品に通水される水に対する水質管理としては、運転時の水質分析を実施している。併せて、腐食のリスクを判定するために、現状は、発電プラント等の点検時における配管の減肉計測、各種配管・構成部品の抜き取り検査による腐食進行状況の観察、付着スケールの分析等により、損傷、変形磨耗および異常発生状況を確認している。
【0004】
従来の方法の中でも、配管を抜く、あるいは、構成部品を機器から離脱させて検査を実施する方法は、実測定となるため、真値を反映できる長所がある。
【0005】
検査の方法としては、一般的に、離脱した配管や構成部品に対する分析として、配管の通液面あるいは通蒸気面から多量にかきとった錆層を粉砕して、例えばX線回折装置(XRD)等の形態同定可能な分析手法で分析する。XRDでは、かきとった錆層やスケールの形態を分析し、形成されている層の形成物を考慮して運転条件や水質管理に反映している。
【0006】
この他、定期的に外部からセンサで減肉測定を実施する等の検査も実用化がすすめられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開第2002-310889号公報
【文献】特許第4994736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発電プラント等、大型発電機器を安定して運転し、機器の信頼性を高め、円滑なエネルギー供給を実現するためには、配管等の流路の損傷のリスクを把握する手段と、把握したリスクについて、適時性をもって反映できる運用と対策が重要である。
【0009】
しかし、従来実施している水質管理のための水質分析の結果からだけでは、配管や構成部品の損傷を引き起こす可能性を持つ腐食による損傷のリスクを判定することは困難である。
【0010】
例えば、配管材料の最も一般的な材料としては鉄系の配管が知られているが、通常、酸化皮膜と呼ばれる酸化物層を表面に有する。酸化物層は、その形態によって物性が異なり、腐食の発生や進行へのリスクが異なる。すなわち、配管内面や構成部品の通液面あるいは通蒸気面の表面の表面形成物の情報を得ることにより、腐食による損傷のリスクを判定が可能である。
【0011】
配管や構成部材の給排水系に接する表面に形成される表面形成物の形態を把握する手段として、従来は、図10に示されるような、配管1を脱管可能な範囲あるいは解放して点検可能な範囲21、22、23、24について、定期点検時に減肉計測あるいは抜管による表面酸化物皮膜層のXRD形態分析、付着スケールの成分分析等の調査を実施して、腐食程度やリスクを把握していた。しかし、この手法には、機器あるいはプラント全体を長期間停止しなければならないという大きな課題がある。併せて、腐食程度やリスクを把握できる範囲が、脱管あるいは解放して点検可能な範囲およびその近傍に限定されるという課題も有している。
【0012】
また、センサによる外部からの配管等構成機器の厚み変化を検知する方法は、一定以上の肉厚変化・形状変化が生じてから検知されるものが多く、初期の腐食リスクを検出するのが難しい。しかし、腐食による減肉が生じ、形状変化が生じてから対策を打つことは、十分な減肉対策とはならない場合もある。
【0013】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、先行技術に見られる下記のような二つの課題である。
【0014】
(1)配管や部品の抜き取りや、配管の解放によるプラントの長期間の停止
(2)系統全体の腐食リスクの把握精度の不足
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の実施形態による形成物の判定方法は、流路を流通する流体の少なくとも一部を捕集し、この捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析することによって、前記流路の内面における形成物を判定すること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明の実施形態による流路内面の形成物を判定する装置は、流路を流通する流体の少なくとも一部を捕集する捕集装置、およびこの捕集装置から取得された捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する分析装置を具備してなること、を特徴とする。
【0017】
そして、本発明の実施形態による発電装置は、上記の判定装置を具備してなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態による形成物の判定方法によれば、発電プラントを始めとする通水ないし通蒸気機器からの短時間のサンプリングにより得られる微量の試料から、給排水あるいは蒸気系統からの捕集物の分析による、流路構成部品の表面形成物の推定方法を提供することが可能である。
【0019】
併せて、配管や部品の抜き取りによる真値の測定、センサによる形状変化の測定範囲から外れて取りこぼす可能性のある部位あるいは程度の腐食リスクも含め、系統全体の腐食リスクを把握できる手法を提供することができる。
【0020】
例えば、プラント、特に発電プラント等、の機器の運転時に、流体中の固形物を、採水・分離装置で捕集し、これを分析装置を用いて分析して、金属元素価数と酸素との比率を解析することで、固形物の酸化状態、すなわち酸化皮膜に関する情報を得て、表面酸化皮膜の健全性や腐食劣化状況を把握し、これを運用管理あるいは水質管理に反映できる。
【0021】
本発明の実施形態では、従来の配管検査方法と異なり、配管あるいは構成部品そのものを分析対象とするのではなく、配管あるいは構成部品を通過した通過物を捕集して分析対象としている。捕集物は、系内の比較的減肉しやすい箇所からの剥離物等でありながら、分岐ないしそれに準ずる構成を系内に設置することで、プラント運転中に捕集が可能である。
【0022】
従って、捕集物に対する元素の線状分析から、鉄あるいは銅等の価数および化合物形態を求めて、酸化状態を判定することで、水質管理や運用方法にオンラインで反映できる可能性を有し、プラントの安定運用に直結して貢献できる可能性を有する。配管あるいは構成部品の通液あるいは通蒸気面に形成される酸化皮膜・スケールの状態を把握することで、腐食の状況を把握し、それに応じた適切な水質管理を実現することが可能となる。
【0023】
例えば、複数の区間ごとに捕集物採取箇所を設置し、その区間の配管あるいは構成部品を通過した通過物を捕集する。分析対象物は、捕集物そのままの状態か、あるいは、濾過や蒸発乾固等処理を加えて分析対象物とし、この分析対象物を分析・解析を実施することで、流路中のどの区間の間で、例えば粗な酸化皮膜ができている等を判定することが容易に可能となる。
【0024】
また、捕集物の採取を継時的に実施する事で、経年、運転変更、水質管理変更等により表面酸化皮膜やスケールの状態が変化した場合も、捕集物の形態および元素化合形態の変化として検出することが可能となり、損傷リスクの評価や運転の影響とリンクさせて活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】流路内の形成物の内容を模式的に示す、流路の断面図。
図2】各捕集箇所からの捕集物の分析によって得られる情報の範囲を示す模式図。
図3】捕集箇所付近の拡大図。
図4】捕集物からの分析対象物の分離構成を示す模式図。
図5】分析対象物に対する走査線電子顕微鏡による観察例を示す模式図。
図6】分析対象物に対する元素マッピング画像例を示す模式図。
図7】分析対象物に対する線状分析例を示す模式図。
図8】分析対象物に対する線状分析結果の例を示す模式図。
図9】分析対象物に対する線分析の実測データおよび走査線電子顕微鏡画像。
図10】従来の給排水系統において形成物の検査可能範囲を示す模式図
【発明の実施の形態】
【0026】
<形成物の判定方法(その1)>
本発明の実施形態による形成物の判定方法は、流路を流通する流体の少なくとも一部を捕集し、この捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析することによって、前記流路の内面における形成物を判定すること、を特徴とする。
【0027】
ここで、「流路」とは、流体が流通する経路をいう。例えば、(イ)各種の装置等に外部から流体を供給する配管、(ロ)各種装置等の外部へ流体を排出する配管、(ハ)各種装置等に外部から流体が供給され、そして排出される間に流体が流通ないし接触する装置内部の経路等を、典型例として挙げることができる。ここで、上記の各種装置等を、例えば蒸気発電プラントについて例示すると、ボイラ、発電用の蒸気タービン、流体の冷却または加熱のための熱交換器、気液分離器、流体駆動用のポンプ、制御弁等を挙げることができる。また、この流路は、流体が常に流通しているものだけに限定されず、内部に流体が一時的ないし継続的に滞留される場合があるものをも包含する。例えば、貯留タンクの内部や、装置の運転停止時の上記装置の内部あるいは外部の配管等も、上記の流路に包含される。そして、「流路の内面」とは、この流路内を流通する流体との接触面が存在する面を言う。
【0028】
また、「流体」は、液体状のものに限定されずに、気体状のもの、固体状のもの(例えば粒子等)、あるいはこれらの二種以上が存在しているものをも包含する。ここで、上記の流体を、例えば蒸気発電プラント場合について例示すると、液体状流体としては水を、気体状流体としては水蒸気を挙げることができる。
【0029】
液体状または気体状の流体は、例えば、流路からの溶出物、剥離物、分解物、イオン化物、溶解物、融解物、被エロージョン物、あるいはこれらの二種以上が含まれる場合がある。これらは、例えば、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体あるいはこれらの二種以上の混合物として、流体中に存在することがある。ここで、流路からの溶出物、剥離物、分解物、イオン化物、溶解物、融解物、被エロージョン物とは、例えば、流路を形成している金属材料そのものの溶出物、剥離物、分解物、イオン化物、溶解物、融解物または被エロージョン物の外に、流路内で生じた生成物に由来する溶出物、隔離物、分解物等からなる場合がある。例えば、流路を形成している金属材料と他材料等との反応物(典型的には、例えば、流路を構成している金属材料である鉄と酸素原子との反応物である酸化鉄(例えば、マグネタイト(Fe)、ヘマタイト(Fe))や、鉄の水酸化物(Fe(OH) )や、例えばケイ素やカルシウム等を含むスケールなどの生成物に由来する溶出物、剥離物、分解物、イオン化物、溶解物、融解物、被エロージョン物等をも挙げることができる。また、流路中に薬剤(例えば、防錆剤、pH調整剤、洗浄剤)等が添加されたり、あるいは残留物として存在する場合には、これらの薬剤や、その分解物、反応物等も、流路中の形成物の中に含まれることがある。
【0030】
本発明を実施するための形態について、さらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって何ら制限されない。
【0031】
<形成物の判定方法(その2)>
以下、好ましい一具体例として、本発明による形成物の判定方法を、ボイラ給水配管に対して適用した例について記載する。
一般的に、ボイラ給水系配管は、発電プラントにおける重要な機器であり、長距離に渡り各種素材の配管が設置されている。温度域も場所ごとに異なり、各配管系統には、通水および通蒸気の影響を受け、表面に形成物(例えば、酸化皮膜)が形成される。表面の形成物は、その形態により、設置されている環境下での耐食性や、耐流れ加速型腐食性等の耐環境性を異にする。
【0032】
このことから、流路の内部には、例えば、流路1の断面図である図1A図1Eに示されるように、流路の上流域から下流域に向けて、内容が異なる形成物が生じることがある。また、形成物の内容は、流路における場所(断面が位置する場所)によって異なる場合があるが、流路の同一の場所であっても、時間経過に伴って内容が変化することがある。例えば、流路の同一の場所であっても、時間経過に伴って、図1Aから図1Eに示される順番に、形成物の内容が順次変化することがある。
【0033】
これらの形成物は、流体の流路内の構造上削られ易い形状の箇所の影響を受ける他、運転履歴や総運転時間等、運用の影響を含めて剥離若しくは離脱することがあって、流路を通過した流体からは、流路内の最表層、耐環境性/耐食性が低い層、あるいは代表層からの剥離若しくは離脱物を捕集物として得ることができる。例えば、図1Aの断面からは捕集物として形成物X’を、図1Bの断面からは捕集物として形成物Y’を、図1Cの断面からは捕集物として形成物Y’Z’およびY’Z’(即ち、形成物Y’とZ’との複合物)を、図1Dの断面からは捕集物として形成物Y’Z’およびY’Z’(即ち、形成物Y’とZ’との複合物)を、図1Eの断面からは捕集物として形成物Z’を、取得することができる。ここで、流路の構成材料が鉄である場合、形成物X’としては水酸化鉄を、形成物Y’としてはマグネタイトや粗錆等を、形成物Z’としてはヘマタイトや緻密錆等を、挙げることができる。
【0034】
このことから、流路を流通する流体からの捕集物を分析することによって、その捕集箇所の上流域の流路内の形成物や、流路の状態、摩耗度等を判定することができる。
【0035】
また、例えば図2に示されるように、主機2(例えば、タービン等)と補機3(例えば、加熱器等)との間で、流体が、矢印4の向きのように流れて循環するように構成された流路1内に複数の捕集物採取箇所(5、6、7、8)を設置して、複数箇所からのそれぞれ捕集物(5’、6’、7’、8’)を分析する場合には、各区間(50、60、70、80)ごとに、形成物の内容、剥離あるいは離脱の箇所や、各区間内の環境因子からの影響等を判定することができる。なお、いずれかの捕集物採取箇所から形成物が実質的に採取されないとき(計器の測定限界以下のときも含む)も、その事実は、流路内に形成物が存在しないこと、あるいは流路内の形成物がその時点において確実に固着されていることを示すものとして、本発明の実施形態による形成物の判定方法においては重要な測定結果として参照することができる。
【0036】
流路を流通する流体からその少なくとも一部を捕集するときは、流路を分岐させ、この分岐点から流体を捕集することができる。例えば、図2の捕集物採取箇所6(あるいは捕集物採取箇所5、7、8)の拡大図である図3に示されるように、流路1に、バイパスライン9を設け、このバイパスライン9から流体の少なくとも一部を捕集することが好ましい。このようなバイパスライン9から流体の少なくとも一部を捕集する場合、例えば図2に示される主機2(例えば、タービン等)や補機3(例えば、加熱器等)への流体の供給や、稼働に実質的に負担をかけることなく、流体の一部を捕集することができる。なお、分岐点10の下流には、バルブ11を配置することができる。バイパスライン9から流体を捕集するときは、このバルブ11を開状態にし、一方、流体を捕集する必要がないときは、このバルブ11を閉状態にする。
【0037】
このような構成により、特に発電プラントを始めとする主機の系統に負担をかけない捕集物の捕集方法として、図3に示される様なバイパスラインあるいはそれと同様の効果を有する構成を備える構成をとる。バイパスの他、一時循環による流れの確保や、流量を上げて一部系外に排出される箇所で、捕集することができる。
【0038】
捕集された流体から分析対象物を取得する際は、好ましくは、捕集された流体を貯留漕あるいは貯留容器等へ導びき、その一部を分離することによって行うことができる。例えば、図3および図4に示されるように、捕集された流体を貯留容器12へ導びき、例えばフィルタ13で液状物14と固形状物15とに分離し、固体状物15を取得し、これを分析対象とすることが好ましい。なお、分析対象物を得る方法は、液状物を真空で引いて加速的に固体状物を分離しても良いし、流体を乾燥させて残渣として固形物を得ても良い。また、フィルタではなくイオン交換樹脂や吸着材などによる吸着も好ましい。
【0039】
分析対象物が溶出物であってイオンの形態である場合は吸着等や、剥離物である場合は固形物のメッシュ捕集等によって、分析対象物の捕集に効果的な分離構成を備えるもの、並びに補助的な分離機器を使用するものも、本発明の実施形態に含まれる。
【0040】
<形成物の判定方法(その3)>
本発明の実施形態による形成物の判定方法について、更に詳細に説明する。
まず、比較として、図5に、捕集物を短時間で少量捕集したもの16を走査型電子顕微鏡で観察した場合の模式図を示す。この観察によって、形成物を検出することができる。なお、金属は、酸化物の形態ごとに形状が異なることがあることから、結合的に同じ形態であっても、その結晶成長の仕方により、複数の形状を取りうるため、形状観察のみでは形態を一義的に定義するのは容易でことがある。
【0041】
次に、図6に示すように、例えば微量の元素を分析できる手法として、例えば、エネルギー分散型X線分光(EDS)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、元素分析とその分布を検出することができる。この分析により、元素αと元素β、例えば鉄の酸化物であれば、FeとOとが検出される。しかしながら、存在箇所は同定できるものの、形態まで判定することは難しいことがある。
【0042】
例えば、給排水系の配管材料の最も一般的な材料としては鉄系の配管が知られているが、通常、酸化皮膜と呼ばれる酸化物層を表面に形成する。酸化物層は、その形態によって物性が異なる。代表的なものとして、マグネタイト、ヘマタイトの他、水酸化鉄など、同じ鉄系の酸化物あるいは水酸化物層であっても、物性、特に腐食の進行性や流れ加速型腐食、エロージョン等のへ耐食性に差異を有する。水酸化鉄やマグネタイトに比較して、ヘマタイトは水中や蒸気中でも比較的安定に存在でき、腐食の進行のリスクが低い層として認識されている。同様の事が銅の配管や構成部品で形成される機器の表面に形成される酸化物についてもいえる。
【0043】
これら捕集物を得るため、例えば捕集物を給水系から水で捕集する場合、X線回折(XRD)での分析を検討すると、給水中から捕集した水に含まれる分析対象物のみの重量として、数十ミリグラムからグラムオーダーの比較的多量の分析対象物を必要とする。多量の分析対象物を得るためには多量の捕集物が必要であり、およそ1ヶ月等の長期的な時間と大容量の捕集が必要となる。これは、物理的負荷、時間的負荷が大きいばかりでなく、1ヶ月間の運転状況や水質変動のどの点によって分析対象物が影響を受けたかの判断が難しくなり、表面形成物の推定自体は可能であっても、適時性を持たない。
【0044】
そこで、少量の分析対象物で分析が可能な手法が好適になる。一例として、発光分光分析装置による金属元素の分析が可能であるが、この手法は、元素は同定可能であるが、表面形成層の形態の推定はできない。
【0045】
そこで、本発明の好ましい実施形態を、図7図8に示す。図7は、微量の分析対象物17に対し、例えばエネルギー分散型X線分析(走査型エネルギー分散型X線分光(SEM-EDX、SEM-EDS))を用いて、線18について、線分析を実施する場合の線分析箇所の模式図である。
【0046】
この分析の結果が、図8に示される様な、元素α、βの分析結果となる。縦軸は存在比、横軸は線分析の測定範囲を示す。図8からわかるように、マッピングにより、捕集物全域に各元素の分布を確認した元素α、βでも、線分析を実施すると、その存在比が、同一線分析上変化していることが分かる。これは、鉄と酸素を例にとると、鉄の酸化物であるFeとFeでは、鉄と酸素の存在比が異なることから、鉄と酸素の存在比から鉄と酸素との結合比を推定することにより、形態を解析することが可能となる。ここで、「線分析」とは、具体的には、分析試料に対し、分析点を連続的に一方向に、直線的に推移させて元素を分析する手法で、例えば、単一材料上では、一つの検出元素の検出強度が概ね一義的に決まる分析の事を指す。一般的に、例えば、A、Bの二層の材料からなる複合材の、材料界面の検出等に際し、A、Bを横断する形で線分析を実施し、A、B材の界面で元素の検出強度が変化する状況を観察する等、元素の存在の有無等を検出する等に活用されている。
【0047】
特に、分析を実施する機器として、エネルギー分散型X線分析(走査型エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)、走査型エネルギー分散型X線分光(SEM-EDS)、透過型エネルギー分散型X線分光(TEM-EDS)、電界放射型電子顕微鏡(FE-TEM)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)あるいはそれに類似した分析機器を備える実施例である。特に、SEM-EDSやEDXは、数十μmオーダーの資料に対しても形状観察と元素分析、および線状分析が容易にできる事から、形態を推定するのに適している。
【0048】
図9Aは、分析対象物17について示す走査型電子顕微鏡写真であり、図9Bは、図9B中の線18に沿って、鉄原子および酸素原子の検出結果を示すエネルギー分散型X線写真である。
【0049】
<形成物の判定装置>
本発明の実施形態による流路の内面の形成物を判定する装置は、
流路を流通する流体の少なくとも一部を捕集する捕集装置、および
この捕集装置から取得された捕集物中に含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析する分析装置を具備してなること、を特徴とする。
【0050】
なお、本発明の実施形態による上記の形成物の判定装置は、上記の捕集装置と分析装置とが分離可能な判定装置をも包含し、そして、上記の捕集装置と分析装置とが同時に稼働可能なもの、ならびに別々に稼働可能なものをも包含する。
【0051】
上記の捕集装置と分析装置とは、常に同数である必要はなく、捕集装置と分析装置との数が異なっていてもよい。例えば、捕集装置が複数存在し、分析装置が1つであってもよい。そして、分割不可能な一つの筐体内に、捕集機能と分析機能とが組み込まれた装置も、本発明の実施形態による判定装置に包含される。
【0052】
上記の捕集装置と分析装置とは、それぞれ、必要に応じて、他の機能あるいは装置等を具備することができる。そのような他の機能あるいは装置等の具体例としては、例えば、グラブ分析ラインを挙げることができる。
【0053】
また、本発明の実施形態による形成物の判定装置は、本発明の目的をより高度に達成するために、判定対象(例えば、形成物の内容等)や、この判定装置が適用される各種装置ないし流通システムに応じて、最適化することができる。例えば、流路を流通する流体の内容(例えば、流体の状態(気体、液体、固体状物の含有の有無等、存在比等)、流体の流速、流量、粘度、温度、成分の種類等)、形成物の内容(種類、形成量、形成速度、)、分析対象物の内容等に応じて適宜定めることができる。
【0054】
例えば、本発明の実施形態による形成物の判定装置は、例えば発電プラントないし発電装置に適用した際に、例えば、排熱回収ボイラであれば鉄系あるいはクロム系の金属元素を含む材料で構成されることがあり、あるいは、水冷却発電機であれば銅や銀の金属元素が含む材料で構成されることがある。また、各種装置等を流体を流通させる配管も、鉄系、銅系、クロム系金属等の各種材料で構成されることがある。
【0055】
本発明の実施形態による形成物の判定装置では、これらの流路の構成材料や、流体中の各成分の内容や、形成物あるいは分析対象物の内容等に応じて、上記の捕集装置や分析装置の具体的内容、仕様等を適宜定めることができる。また、流体等が、純粋な水以外にケイ素やカルシウム等の他の元素を含む場合には、これらの成分ないし反応物、分解物等がスケールとして流路内で発生ないし蓄積あるいは脱落することがあるが、必要に応じて、これらの条件等をも考慮して、本発明の実施形態による形成物の判定装置を適宜定めることができる。
【0056】
一般的に、形成物やスケールの堆積は、配管表面と堆積層の間に酸素欠乏を誘起する隙間を形成することで腐食を促進する他、硬度の珠高い形成物を形成した破片がエロージョンを助長する等の影響を与えることも多く、水質管理に対して重要となることもある。本発明の実施形態による形成物の判定装置は、スケール成分も形成物の一種として判定可能である。
【0057】
<発電装置>
本発明の実施形態による発電装置は、上述した本発明の実施形態による形成物の判定装置を具備してなることを特徴とする。ここで、形成物の判定装置ならびにこの形成物の判定装置が具備している捕集装置および分析装置の詳細は、上述した通りである。
【0058】
特に、複数の箇所から、前記流体の少なくとも一部を捕集し、これらの複数の捕集物について、そこに含まれる元素、イオンあるいは錯体の存在比を分析し、前記複数の捕集物からそれぞれ取得された複数の分析結果をもとに、前記形成物を判定する形成物の判定方法を実施できるように構成された、複数の捕集箇所を具備してなる発電装置は、本発明の好ましい実施形態の一つである。
【0059】
本発明の実施形態は、前記の発電プラント、その他発電機器の運転時あるいは停止時に、通液体が水、通気体が蒸気である給排水あるいは給排蒸気の水質あるいは蒸気管理を実施する事で、通水あるいは通蒸気の系内の腐食状況を把握し運用管理の一助とするものである。
【0060】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1:流路、2:主機、3:補機、4:流体の流れ方向、5、6、7、8:捕集物採取箇所、50、60、70、80:区間、9:バイパスライン、10:分岐点、11:バルブ、12:貯留容器、13:フィルタ、14:液状物、15:固体状物、16、17:分析対象物、18:線、21、22、23、24:従来の点検可能範囲
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