(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】熱処理炉
(51)【国際特許分類】
F27D 7/06 20060101AFI20230705BHJP
F27D 7/04 20060101ALI20230705BHJP
C21D 1/767 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
F27D7/06 B
F27D7/04
C21D1/767 Z
(21)【出願番号】P 2019093236
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【氏名又は名称】奥西 祐之
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】河野 悠大
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05934871(US,A)
【文献】特開2018-066499(JP,A)
【文献】特開昭59-221587(JP,A)
【文献】実開昭58-039499(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0037109(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/00-7/06
C21D 1/74
C21D 1/767
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理を行う炉体と、
該炉体が有する炉内空間と隣接する中間室と、
上記炉内空間に回転自在に設けられ、該炉内空間の雰囲気を撹拌するインペラーと、
上記炉内空間から上記中間室を貫通して設けられた上記インペラーの回転軸と、
該回転軸の外周面に対し上記中間室及び上記炉内空間に開放される隙間が生じる間隔を隔てて、該回転軸が挿通され、上記炉内空間と該中間室とに連通している外周管と、
上記中間室内に、上記外周管に対して、上記炉内空間から離れた該炉内空間とは反対側に配置された上記回転軸の軸受けと、
上記中間室を通って上記外周管内に冷却用のガスを導入する導入管と、
上記炉体に設けられ、上記炉内空間の内外を連通可能な連通管とを備え、
上記冷却用のガスは、
上記炉内空間を加熱する際、当該冷却用のガスが上記外周管に導入され、上記中間室の内圧を高めて該中間室へ該炉内空間の雰囲気が流入するのを防止しかつ上記回転軸及び上記軸受けに供給して冷却するために、上記導入管から少量導入され、
該炉内空間を冷却する際、当該冷却用のガスが上記外周管に導入され、該外周管から上記インペラーが回転される該炉内空間に流入されて当該炉内空間を冷却しかつ該外周管内の該回転軸及び該中間室の該軸受けを冷却するために、該導入管から大量に導入されることを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記導入管は、流量調整弁を備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記連通管には、前記炉内空間の圧力を調整可能なバルブが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉内に設けられたインペラーの回転軸を支持する軸受けをより効率よく冷却し、炉内の冷却中の温度分布を格段に向上することが可能な熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉の一例として、例えば特許文献1及び特許文献2が知られている。特許文献1の「熱処理装置およびその製造方法」は、炉内攪拌ファンの駆動機構を複雑にすることなく、熱処理炉の炉内から炉外への駆動軸を介した熱伝達を抑えることができる熱処理装置を提供することを課題とし、熱処理炉の炉内に設けられた炉内攪拌ファンと、熱処理炉の炉体を貫通するようにして設けられた、炉内攪拌ファンに接続された駆動軸とを備えた熱処理装置において、駆動軸の少なくとも一部を中空軸とし、前記熱処理炉内において中空軸に炉内攪拌ファンを接続し、中空軸の中空部に、空気に比べて断熱性の高い断熱材を設けて構成されている。
【0003】
詳細には、熱処理炉の炉内に設けられた炉内撹拌ファンの駆動軸が熱処理炉の炉体を貫通するように設けられ、駆動軸と当該駆動軸に設けられた冷却ファンとを覆うハウジングを有している。この熱処理炉装置は、冷却ファンにより外部からハウジング内に引き込んだ空気の下方に向かう送気により、熱処理炉側で駆動軸を支持しているベアリング(軸受け)に直接風を当てて当該ベアリングを冷却するようにしている。
【0004】
特許文献2の「鋼材の熱処理方法及び冷却装置」は、浸炭後に冷却を行うための冷却装置は、隔壁によって処理室が形成された収容容器と、該収容容器の天井面に設置されたシロッコファンとを有する。隔壁を構成する底壁と天井壁には開口が形成されており、従って、供給管を介して収容容器内に導入され且つシロッコファンで撹拌された冷媒ガスは、底壁の開口から処理室に侵入して天井壁の開口から導出される。すなわち、冷媒ガスは処理室内を上昇するように流通する。一方、棒状ワークからの輻射熱を受けた雰囲気ガスは、冷媒ガスの流通方向に一致する方向に進行するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-163637号公報
【文献】特開2008-274349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の熱処理装置のように、外部から空気を引き込んで軸受けを冷却しても、熱処理炉側に配置されている軸受けを十分に冷却することはできないという課題があった。
【0007】
他方、従来、冷却用のエアと軸受冷却用のエアは、別々の位置から導入することが知られている。このため、配管の数が多く使用されている。また、冷却用のエア導入菅付近が局部的に冷えていた。
【0008】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、熱処理炉内に設けられたインペラーの回転軸を支持する軸受けをより効率よく冷却し、炉内の冷却中の温度分布を格段に向上することが可能な熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる熱処理炉は、
熱処理を行う炉体と、
該炉体が有する炉内空間と隣接する中間室と、
上記炉内空間に回転自在に設けられ、該炉内空間の雰囲気を撹拌するインペラーと、
上記炉内空間から上記中間室を貫通して設けられた上記インペラーの回転軸と、
該回転軸の外周面に対し上記中間室及び上記炉内空間に開放される隙間が生じる間隔を隔てて、該回転軸が挿通され、上記炉内空間と該中間室とに連通している外周管と、
上記中間室内に、上記外周管に対して、上記炉内空間から離れた該炉内空間とは反対側に配置された上記回転軸の軸受けと、
上記中間室を通って上記外周管内に冷却用のガスを導入する導入管と、
上記炉体に設けられ、上記炉内空間の内外を連通可能な連通管とを備え、
上記冷却用のガスは、
上記炉内空間を加熱する際、当該冷却用のガスが上記外周管に導入され、上記中間室の内圧を高めて該中間室へ該炉内空間の雰囲気が流入するのを防止しかつ上記回転軸及び上記軸受けに供給して冷却するために、上記導入管から少量導入され、
該炉内空間を冷却する際、当該冷却用のガスが上記外周管に導入され、該外周管から上記インペラーが回転される該炉内空間に流入されて当該炉内空間を冷却しかつ該外周管内の該回転軸及び該中間室の該軸受けを冷却するために、該導入管から大量に導入されることを特徴とする。
【0010】
前記導入管は、流量調整弁を備えていることを特徴とする。
【0013】
前記連通管には、前記炉内空間の圧力を調整可能なバルブが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる熱処理炉にあっては、熱処理炉内に設けられたインペラーの回転軸を支持する軸受けをより効率よく冷却し、炉内の冷却中の温度分布を格段に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る熱処理炉の好適な一実施形態を示す要部拡大側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明にかかる熱処理炉の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係る熱処理炉1では、
図1に示すように、ワークが熱処理される炉体3内の空間(以下、炉内空間という)S1の中央上部にインペラー2が設けられている。インペラー2は、炉内空間S1の雰囲気を撹拌するようになっている。
【0018】
炉体3には、炉体3の上部に配置され、炉内空間S1と炉体3外方の外部空間S2との間に配置された中間室4と、炉体3の側壁部3aに設けられ、炉内空間S1と外部空間S2とを連通可能な連通管5とが備えられている。
【0019】
中間室4には、インペラー2の回転軸6が、炉内空間S1から外部空間S2へ向けて、貫通されている。回転軸6は、炉体3の上方に設けられているモーター(不図示)と連結されている。連通管5には、炉内空間S1の圧力を調整可能な圧力調整バルブ7が炉体3外に設けられている。
【0020】
中間室4には、これを外部空間S2から仕切る仕切り部材8より下方に垂設された軸支持筒部9が設けられている。軸支持筒部9の内部には、回転軸6が挿通されている。回転軸6は、仕切り部材8の上面及び軸支持筒部9の下端部に設けられた軸受け10により炉体に3に回転自在に支持されている。
【0021】
炉内空間S1と中間室4との境界をなす炉体3の上部3bには、炉内空間S1と中間室4内とを連通し、炉内空間S1及び中間室4内のいずれにも突出する外周管11が設けられている。外周管11内には、回転軸6が挿通されている。回転軸6の外周面6aと外周管11の内周面とは間隔を隔てて配置されている。その間隔によって生じる隙間は、上部は中間室4に開放され、下部は炉内空間S1に開放されている。
【0022】
外周管11には、炉体3の外部から中間室4を通って外周管11内に不活性ガスや空気などのガスを導入する導入管12が接続されている。導入管12には、中間室4の外側に流量調整弁13が設けられている。
【0023】
流量調整弁13で流量調整されて導入管12から導入されるガスは、外周管11内を通って炉内空間S1及び中間室4内に一時的に供給される。中間室4内に供給されるガスは、回転軸6に沿って上方に流れ、外周管11の上方に位置している軸受け10に向けて一時的に供給される。
【0024】
一方、炉内空間S1は、連通管5に設けられた圧力調整バルブ7により炉内圧力が調整される。導入管12から外周管11にガスが導入されるとき、中間室4のガスの出口は下方にしかないため、中間室4の内圧が高まり、導入管12から導入されたガスは、下方の隙間から炉内空間S1に流入し、これにより連通管5から炉体3外に排出される気流が発生する。
【0025】
このため、導入管12から外周管11にガスを導入することにより、炉内空間S1から中間室4への熱気の流入を抑制しつつ回転軸6におけるインペラー2と軸受け10との間の部位を冷却することができる。また、外周管11内から炉内空間S1に導入されるガスにより炉内空間S1を冷却することができる。このとき、外周管11内から一時的に中間室4内に導入されるガスにより軸受け10をも冷却することができる。
【0026】
本実施形態の熱処理炉1によりワークを加熱する際には、導入管12からガスを少量導入して回転軸6を冷却すると共に、圧力調整バルブ7により炉内空間S1の圧力は一定に保ってワークを加熱する。このとき、中間室4内が炉内空間S1より圧力が高くなることにより、導入管12から導入されたガスは、炉内空間S1側に少量ずつ流入し、中間室4内には流入しなくなる。
【0027】
ワークの加熱処理が終了し、ワーク及び炉内空間S1を冷却する際には、導入管12から大量のガスを導入して回転軸6を冷却しつつ、炉内空間S1にガスを流入させる。このとき、炉内空間S1の圧力と炉体3外の圧力とが等しくなるように、もしくは炉内空間S1がワークの処理に必要な圧力となるように、圧力調整バルブ7が開かれている。また、このとき、インペラー2を回転させ、外周管11から導入されるガスを撹拌しつつ炉内空間S1に導入する。
【0028】
本実形態に係る熱処理炉1によれば、インペラー2の回転軸6がその外周面6aと間隔を隔てて挿通されている外周管11内に、ガスを導入することにより、外周管11内で回転軸6を効率よく冷却することができる。
【0029】
また、回転軸6の軸受け10は、外周管11に対して炉内空間S1とは反対側に配置されているので、当該軸受け10は、炉内空間S1から離れた位置に配置されており、加えて、回転軸6が、外周管11内で軸受け10よりも炉内空間S1側で冷却されることにより、炉内空間S1から軸受け10への熱伝導を抑制できて、軸受け10の熱による損傷を防止することができる。
【0030】
このため、炉内空間S1に設けられたインペラー2の回転軸6を支持する軸受け10を、より効率よく冷却することができる。
【0031】
炉体3の上部3bに配置されている中間室4から、炉内空間S1の中央の上部に位置するインペラー2にガスが導入されるので、ガスを炉内空間S1に撹拌しつつ導入することができる。このため、炉内空間S1の雰囲気全体の温度むらを小さく抑えることができ、炉内空間S1の冷却中の温度分布を従来よりも格段に均一化できる。このため、加熱したワークを良好に冷却して、熱処理品質を向上することができる。
【0032】
連通管5には、圧力調整バルブ7が設けられているので、圧力調整バルブ7により炉内空間S1の圧力を調整することにより、加熱時及び冷却時のいずれにおいてガスを導入しても、炉内空間S1の圧力を一定に維持することができる。特に、加熱時には、導入管12からガスを少量導入して回転軸6を冷却することができる。このため、軸受け10の熱による損傷を抑えつつ、ワークを加熱することができる。
【0033】
また、冷却時には、導入管12からガスを大量に導入して、炉内空間S1をより早く冷却することができる。
【0034】
外周管11内は、炉内空間S1と連通され、炉体3には、炉内空間S1の内外を連通する連通管5が設けられているので、外周管11に導入したガスを、炉内空間S1を通して、炉体3の外に排出することができる。
【0035】
外周管11内と中間室4内とは連通されているので、中間室4内に設けられた軸受け10をも冷却することができる。
【0036】
中間室4は、炉内空間S1のみと連通しているので、導入管12からガスが導入されると、中間室4内が、連通管5が連通されている炉内空間S1よりも高圧になることにより、炉内空間S1の空気の中間室4内への流入を防止することができる。このため、中間室4が熱せられることを防止できるので、より確実に回転軸6及び軸受け10を冷却することができる。
【0037】
回転軸6が挿通されている外周管11は、軸受け10側の端が開放されているので、導入管12から外周管11内に導入されたガスを、軸受け10に向けて供給することができる。このため、より効率よく軸受け10を冷却することができる。
【0038】
さらに、従来の技術に対し、冷却用のガスの導入のために炉体3から入れていた配管を無くすことができる。また、軸受け10から冷却用のガスが導入されるため、インペラー2を介して、均等にガスが分散するため、局部的な冷却が無く、均等に冷却することが可能になる。
【符号の説明】
【0039】
1 熱処理炉
2 インペラー
3 炉体
3a 炉体の側壁部
3b 炉体の上部
4 中間室
5 連通管
6 回転軸
6a 回転軸の外周面
7 圧力調整バルブ
8 仕切り部材
9 軸支持筒部
10 軸受け
11 外周管
12 導入管
13 流量調整弁
S1 炉内空間
S2 外部空間