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特許7307732口腔癌治療用の医薬の製造ためのジンセノサイドM1の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】口腔癌治療用の医薬の製造ためのジンセノサイドM1の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7032 20060101AFI20230705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K31/7032
A61P35/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020538940
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 CN2019083058
(87)【国際公開番号】W WO2019201280
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】62/658,732
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520253731
【氏名又は名称】リー・シュー-ロン
【氏名又は名称原語表記】Sheau-Long LEE
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】リー・シュー-ロン
(72)【発明者】
【氏名】ホア・クオ-フォン
(72)【発明者】
【氏名】リー・ユー-チー
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106236761(CN,A)
【文献】特開昭59-181217(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190481(WO,A1)
【文献】Cancer Leteers,1999年,Vol.144, pp.39-43
【文献】Oncotarget,2013年,Oncotarget
【文献】Cell Death and Disease,2016年,Vol.7, e2334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のジンセノサイドM1および薬学的に許容される担体を含む、口腔癌の治療のための、医薬組成物であって、
口腔癌細胞が、口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞であり、ジンセノサイドM1の治療有効量が、該口腔癌細胞に対して選択的に毒性のある量である、医薬組成物
【請求項2】
口腔癌細胞の増殖または移動を阻害するのに有効である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ジンセノサイドM1の治療有効量が、正常な細胞の数の減少が、ジンセノサイドM1による処置がない正常な細胞の数と比較した場合に50%未満となる量である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口または経腸経路投与用の、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
処置を必要とする対象の口腔癌を治療する医薬を製造するための、ジンセノサイドM1の使用であって、
口腔癌細胞が、口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞であり、医薬中のジンセノサイドM1の量が、該口腔癌細胞に対して選択的に毒性のある量である、ジンセノサイドM1の使用
【請求項6】
医薬が、口腔癌細胞の増殖または移動を阻害するのに有効である、請求項に記載の使用。
【請求項7】
ジンセノサイドM1の量が、正常な細胞の数の減少が、ジンセノサイドM1による処置がない正常な細胞の数と比較した場合に50%未満となる量である、請求項またはに記載の使用。
【請求項8】
医薬が、非経口または経腸経路投与用である、請求項のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2018年4月17日出願の米国仮出願62/658,732の利益を主張し、その内容は全て、参照により本明細書に組み込まれる。
技術分野
本発明は、口腔癌、特に口腔扁平上皮癌(OSCC)を治療するための、ジンセノサイドM1の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
台湾行政院の保健省からの最近の報告によると、口腔癌は経済的に生産的な年齢のかなりの数の患者に影響を及ぼし、台湾では平均年齢58.3歳の約2300人の男性が毎年口腔癌で死亡している。口腔癌はまた、世界中でよく見られる悪性腫瘍であり、口腔癌の発生率は毎年増加し続けている(Murugan et al.、2012)。口腔癌の通常の治療法には、手術、化学療法、および放射線療法といった、1つまたは複数の治療法が含まれる。残念ながら、臨床管理の進歩にもかかわらず、生存率は依然として低いままである(PettiおよびScully,2007;Tsantoulis et al.,2007)。さらに、いくつかの抗癌治療は、有毒な副作用(例えば、正常な歯肉上皮細胞への毒性損傷)があり、抗癌治療を受けた患者は、通常、生活の質が低くなり、生命を脅かす合併症にさえ苦しんでいる。これにより、特に副作用の少なく、口腔癌患者の予後を改善するための新しく効果的な治療法を発見および開発することの重要性が強く強調される。
【0003】
高麗人参(ginseng)の主要な活性成分であるジンセノサイド(ginsenoside)は、さまざまな薬理活性、例えば抗腫瘍、抗疲労、抗アレルギーおよび抗酸化活性、を有することが知られている。ジンセノサイドは、4つの環に配置された17個の炭素原子を有するゴナンステロイド核で構成される基本構造を有している。ジンセノサイドは体内で金属化されており、最近の多くの研究では、天然に存在するジンセノサイドよりも、ジンセノサイド代謝物が、体内に容易に吸収され、活性成分として作用することが示されている。その中でも、ジンセノサイドM1は、ヒト腸内細菌によるジペノシド経路を介したプロトパナキサジオール型ジンセノサイドの代謝物の1つとして知られている。これまで、口腔癌の治療におけるジンセノサイドM1の効果を報告した先行技術文献はない。
【発明の概要】
【0004】
本発明において、予想外にも、ジンセノサイドM1が、口腔癌細胞の増殖、コロニー形成および移動を阻害し、口腔癌動物における腫瘍の増殖を減少させるのに有効であることが見出された。特に、ジンセノサイドM1は、口腔癌細胞に対して選択的毒性があり、それにより、正常な歯肉上皮細胞に対する毒性を低くしながら、口腔癌の治療に有効な量で投与できることが見出された。したがって、本発明は、ジンセノサイドM1を、抗癌剤および/または癌転移阻害剤として投与することにより、副作用の少ない、対象における口腔癌の治療のための新しいアプローチを提供する。
【0005】
特に、本発明は、対象を治療するのに有効な量のジンセノサイドM1を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における、口腔癌の治療方法、を提供する。
【0006】
具体的には、本発明の治療方法は、口腔癌細胞の増殖または移動を阻害するのに有効である。本発明の治療方法はまた、口腔癌を有する対象における腫瘍の増殖を低下させるのに有効である。
【0007】
いくつかの実施形態では、本発明の治療方法は、口腔癌細胞に対して選択的に毒性のある量でジンセノサイドM1を投与することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、口腔癌細胞は、口腔扁平上皮癌(OSCC)である。
【0009】
いくつかの実施形態では、ジンセノサイドM1は、非経口または経腸経路により投与される。
【0010】
本発明はまた、必要とする対象の口腔癌を治療するための医薬の製造における、ジンセノサイドM1の使用を提供する。本発明はさらに、ジンセノサイドM1を含む、必要とする対象における口腔癌の治療用の組成物を提供する。
【0011】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴または利点は、以下のいくつかの実施形態の詳細な説明から、および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
上記の概要、ならびに以下の本発明の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことで、より理解がなされる。本発明を説明する目的で、現在の好ましい実施形態が図面に示されている。しかしながら、本発明は、示された正確な配置および手段に限定されるものではないことが理解されるものである。図面中:
図1図1A~1Bは、ジンセノサイドM1が、ヒト口腔癌細胞の生存率を阻害したことを示している。ヒト口腔癌細胞株SAS細胞(図1A)またはOECM-1細胞(図1B)を、ジンセノサイドM1(5~20μg/ml)、ジンセノサイドRh2(5~20μg/ml)、またはビヒクル(0.1%DMSO)とともに、24時間インキュベートした。生細胞数は、トリパンブルー排除法でカウントした。データは、平均値±SD;n=3、で表した。*、**、および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.05、p<0.01、およびp<0.001、のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図2図2は、ジンセノサイドM1が、ジンセノサイドRh2よりも、正常なヒト歯肉上皮細胞に対して毒性が低いことを示している。ヒトの正常ヒト歯肉上皮細胞株SG細胞を、ジンセノサイドM1(5~20μg/ml)、ジンセノサイドRh2(5~20μg/ml)、またはビヒクル(0.1%DMSO)とともに、24時間インキュベートした。生細胞数は、トリパンブルー排除法でカウントした。データは、平均値±SD;n=3、で表した。**および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.01、およびp<0.001、のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図3図3A~3Dは、ジンセノサイドM1が、ヒト口腔癌細胞においてアポトーシスを誘導したことを示している。ヒト口腔癌細胞株OECM-1細胞を、ジンセノサイドM1(10~20μg/ml)、50μMのシスタプラチン(CDDP)、またはビヒクル(0.1%DMSO)とともに、24時間インキュベートした。(図3A)アポトーシスのDNA切断は、フローサイトメトリーを使用して、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング(TUNEL)アッセイにより分析した。(図3B)細胞周期分布は、フローサイトメトリーを使用して、PI染色により求めた。(図3C)アポトーシスレベルは、フローサイトメトリーを使用して、PI/アネキシンV二重染色アッセイにより測定した。(図3D)カスパーゼ9およびカスパーゼ3の活性化レベルは、ウエスタンブロッティングを使用して、プロ・カスパーゼ9およびプロ・カスパーゼ3の分解を検出することにより測定した。フローサイトメトリーとウエスタンブロッティングの結果は、3つの異なる実験の代表であり、ヒストグラムは、これら3つの実験の平均値±SDとして表した定量を示している。**および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.01、およびp<0.001、のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図4図4A~4Bは、ジンセノサイドM1が、ヒト口腔癌細胞のコロニー形成能力を低下させたことを示している。ヒト口腔癌細胞株SAS細胞(図4A)またはOECM-1細胞(図4B)を、ジンセノサイドM1(5~20μg/ml)、またはビヒクル(0.1%DMSO)とともに、10日間インキュベートした。細胞を4%氷冷パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%クリスタルバイオレットで染色し、コロニーをカウントした。データは、平均値±SD;n=4、で表した。*および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.05、およびp<0.001、のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図5図5A~5Bは、ジンセノサイドM1がヒト口腔癌細胞の移動能力を低下させたことを示している。ヒト口腔癌細胞株SAS細胞(図5A)またはOECM-1細胞(図5B)を、細胞が100%コンフルエントに達して単層を形成するまで、6cmディッシュで培養した。透明なゾーンを、無菌の200μlピペットチップを使用して引っ掻くことで作成した。細胞を、ジンセノサイドM1(5~10μg/ml)または(0.1%DMSO)とともに、24時間(SAS細胞)または18時間(OECM-1細胞)、インキュベートした。移動距離を測定し、ビヒクル-対照の細胞と比較した。データは、平均値±SD;n=3、で表した。***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、p<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図6図6A~6Cは、ジンセノサイドM1の経口投与が、マウス中のヒト口腔癌の増殖を低下させたことを示す。腫瘍サイズが約40~60mmのヒト口腔癌細胞株SAS細胞異種移植マウスに、ジンセノサイドM1(30~90mg/kg)またはビヒクルを、毎日5日間連続して、経口投与した。(図6A)腫瘍体積は、腫瘍の長さ(L)と幅(W)を測定し、腫瘍体積(mm3)=(L×W)/2、の計算によって求めた。(図6B)マウスを屠殺した後に、腫瘍の重量を測定した。(図6C)マウスの体重を記録した。データは、平均値±SD;n=6、で表した。**および***は、ビヒクル-対照マウスと比較して、それぞれ、p<0.01、およびp<0.001、のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図7図7A~7Cは、ジンセノサイドM1の皮下(SC)注射が、マウス中のヒト口腔癌の増殖を低下させたことを示す。腫瘍サイズが約40~60mmのヒト口腔癌細胞株SAS細胞異種移植マウスに、ジンセノサイドM1(20mg/kg)またはビヒクルを、毎日5日間連続して、皮下注射した。(図7A)腫瘍体積は、腫瘍の長さ(L)および幅(W)を測定し、腫瘍体積(mm3)=(L×W)/2、の計算によって求めた。(図7B)マウスを屠殺した後に、腫瘍の重量を測定した。(図7C)マウスの体重を記録した。データは、平均値±SD;n=6、で表した。**は、ビヒクル-対照マウスと比較して、p<0.01のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特に断りのない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は全て、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書において、以下の用語は、特に断りがない限り、それらに規定する意味を有する。
【0014】
本明細書において、冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法上の対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を表すために使用される。例として、「1つの要素(an element)」は、1つの(one)要素または1つよりも多い要素を意味する。
【0015】
「含む」または「含むこと」という用語(comprise)は、一般に、含む/含むこと(include)という意味で使用され、1つまたは複数の特徴、成分または構成要素の存在を許容することを意味する。「含む」または「含むこと」という用語は、「からなる」または「からなること」という用語を包含する。
【0016】
アポトーシスは、抗がん剤を介した細胞死の重要なメカニズムの1つである。それは、2つの主要な経路:ミトコンドリア(内因性)経路、およびデスレセプター(外因性)経路、によって誘導される。ミトコンドリア経路は、ミトコンドリアからサイトゾルへの、シトクロムcおよびアポトーシス誘導因子などのアポトーシス促進因子の放出によって、活性化される。ミトコンドリアの外膜透過性は、シトクロムcの放出およびカスパーゼの活性化の中心的なレギュレーターであるBcl-2ファミリータンパク質によって調節されている(MartinouおよびYoule、2011)。ミトコンドリアから放出された後、シトクロムcは、dATPとアポトーシスプロテアーゼ活性化因子-1に結合でき、その結果、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-3を活性化する。活性化したカスパーゼ-3は、DNA修復酵素であるポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)を含むさまざまな基質を切断し、それにより、不可避的な細胞死をもたらす(GreenおよびReed、1998)。デスレセプター経路は、カスパーゼ-8の活性化を誘発する腫瘍壊死因子レセプターファミリーのFasおよび他のものが関与する(Thorburn、2004)。カスパーゼ-8は、カスパーゼ-3を直接活性化し、Bidを切断し、これによりミトコンドリア経路が誘発される(Yin、2000)。活性酸素種(ROS)の生成は、一般的に、抗がん剤治療を受けた細胞のアポトーシスの過程で観察されている(MeshkiniおよびYazdanparast、2012)。ROSレベルの上昇は、DNA損傷をもたらす可能性があり、これらの損傷した細胞は、その後、DNA修復を促進するために細胞周期停止を受けるか、過度に損傷した細胞を排除するためにアポトーシスを誘導する(NorburyおよびZhivotovsky、2004)。DNA損傷は、サイクリン依存性キナーゼ(Cdks)の阻害物質であるp21WAF1/CIP1の発現を直接刺激することにより、G1/SおよびG2/M移行の両方を阻害して、p53依存性アポトーシスを活性化し得る(VousdenおよびLu、2002)。DNA損傷はまた、プロテインキナーゼATMおよびATRを活性化し、その後、プロテインキナーゼChk1およびChk2の活性化を誘発し、次いで、通常Cdc2を活性化するホスファターゼであるCdc25を不活性化することによって、Cdc2を阻害し得る(CantonおよびScott、2010)。
【0017】
本発明では、予想外にも、ジンセノサイドM1が口腔癌細胞の増殖および移動を阻害できることが見出された。また、本発明において、ジンセノサイドM1が、口腔癌を有する動物モデルにおいて、腫瘍の増殖を低下させるのに有効であることも実証されている。具体的には、ジンセノサイドM1は、口腔癌細胞のアポトーシスを誘導し、移動活性を低下させながら、生存能力とコロニー形成を阻害するのに有効である。これらの結果は、ジンセノサイドM1が口腔癌を予防および緩和できることを示している。より具体的には、ジンセノサイドM1は、口腔癌細胞に対して選択的に毒性があり、それにより、正常細胞、例えば正常な歯肉上皮細胞に対する毒性をより低くして、口腔癌細胞を殺傷するのに有効な量で投与することができる。
【0018】
したがって、本発明は、対象を治療するのに有効な量のジンセノサイドM1を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における、口腔癌の治療方法、を提供する。本発明はまた、必要とする対象の口腔癌を治療する医薬の製造における、ジンセノサイドM1の使用、を提供する。本発明はさらに、ジンセノサイドM1を含む、必要とする対象の口腔癌の治療用の組成物を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、治療方法は、口腔癌細胞の増殖を阻害するのに有効である。具体的には、治療方法は、口腔癌細胞の、生存能力およびコロニー形成を阻害すること、および/または、アポトーシスを誘導することにおいて有効である。
【0020】
いくつかの実施形態では、治療方法は、口腔癌細胞の移動を阻害することにおいて有効である。
【0021】
ジンセノサイドM1(20-O-β-D-グルコピラノシル-20(S)-プロトパナキサジオール)は、当技術分野で知られているサポニン代謝物の1つである。ジンセノサイドM1の化学構造は、次のとおりである:
【化1】
【0022】
ジンセノサイドM1は、ヒトの腸内細菌によるジペノシド経路を介したプロトパナキサジオール型ジンセノサイドの代謝物の1つとして知られている。ジンセノサイドM1は、摂取後、血中または尿中に見ることができる。ジンセノサイドM1は、台湾特許出願第094116005号(I280982)および米国特許第7,932,057号などの当技術分野で公知の方法による菌発酵により、高麗人参植物から製造することができ、その内容は全て参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、ジンセノサイドM1を製造するための高麗人参植物として、ウコギ(Araliaceae)科、トチバニンジン(Panax)属、例えば、高麗人参(オタネニンジン;P.ginseng)、およびヒマラヤニンジン(P.pseudo-ginseng)(別名Sanqi)が挙げられる。一般に、ジンセノサイドM1の製造方法は、(a)高麗人参植物材料(例えば、葉または茎)の粉末を得る工程;(b)高麗人参植物材料を発酵させるために菌を供給する工程(ここで、発酵温度は20~50℃の範囲であり、発酵湿度は70~100%の範囲であり、pH値は4.0~6.0の範囲であり、発酵期間は5~15日の範囲である);(c)発酵産物の抽出および収集の工程;および、(d)発酵産物から、20-O-β-D-グルコピラノシル-20(S)-プロトパナキサジオールを単離する工程、を含む。
【0023】
本発明においてジンセノサイドM1が「単離された」または「精製された」と記載される場合、それは完全に単離または精製されたものではなく、ある程度、単離または精製されたものとして理解される。例えば、精製されたジンセノサイドM1は、天然に存在する形態と比較してより精製されたものを表す。一実施形態では、精製されたジンセノサイドM1を含む製剤は、製剤総量の、50%より多い量、60%より多い量、70%より多い量、80%より多い量、90%より多い量、または100%(w/w)の量のジンセノサイドM1を含んでもよい。本明細書において特定の数を用いて比率または用量を示す場合、その数は、通常、その数よりも10%多い範囲および少ない範囲、より具体的には、5%多い範囲および少ない範囲の数を含むと理解すべきである。
【0024】
本明細書において、「個体」または「対象」との用語には、ヒト、および、ペット動物(イヌ、ネコなど)、家畜(ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、または実験動物(ラット、マウス、モルモットなど)などの、ヒト以外の動物、が含まれる。
【0025】
本明細書において、「治療する」との用語は、疾患、疾患の症状または病状、疾患の進行を患った対象、または疾患を発症するリスクのある対象に、疾患、疾患の症状または病状、疾患によって引き起こされる障害、または疾患の発症または進行を、治療、治癒、軽減、緩和、変化、療養、寛解、改善、または作用する目的で、1つ以上の活性薬剤を含む組成物を、適用または投与することを意味する。
【0026】
本明細書において、「副作用」との用語は、抗癌治療によって誘発される悪影響を意味する。特に、口腔癌の治療の場合、結果として生じる副作用としては、例えば、正常な歯肉上皮細胞への毒性損傷が挙げられる。
【0027】
本明細書において、「治療有効量」との用語は、治療する対象に治療効果を与える活性成分の量を意味する。例えば、癌を治療するための成分の有効量は、癌細胞の増殖または移動を阻害することができるような成分の量である。具体的には、そのような量は、標的とする癌細胞の数を、そのような成分による処置がない場合の標的とする癌細胞の数と比較して、10%以上、例えば20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%、減少させるのに有効である。好ましくは、そのような量は、標的とする癌細胞に対して選択的に毒性がある。いくつかの実施形態では、成分は、正常な細胞よりも標的とする癌細胞に対して選択的に毒性をより与える量で投与される。例えば、所定の例では、成分は、標的とする癌細胞の数を、その成分による処置がない標的とする癌細胞の数と比較した場合に、50%以上(例えば、60%、70%、80%、90%、または100%)減少させるのに有効な量であって、一方、正常な細胞への毒性が少なく、例えば、正常な細胞の数の減少が、その成分による処置がない正常な細胞の数と比較した場合において、50%未満(例えば、40%、30%、20%、10%、またはそれ未満)である量で、投与することができる。
【0028】
治療有効量は、投与経路および頻度、体重および医薬を投与する個体の種、ならびに投与の目的などの様々な理由に応じて変化し得る。当業者は、本明細書の開示、確立された方法、および自身の経験に基づいて、各場合に投与量を決めることができる。例えば、特定の実施形態では、本発明で使用されるジンセノサイドM1の経口投与量は、1日10~1,000mg/kgである。いくつかの例では、本発明で使用されるジンセノサイドM1の経口投与量は、1日100~300mg/kg、1日50~150mg/kg、1日25~100mg/kg、1日10~50mg/kg、または1日5~30mg/kg、である。さらに、本発明のいくつかの実施形態では、ジンセノサイドM1は、特定の期間、例えば、少なくとも15日間、1ヶ月、または2ヶ月、またはそれ以上の毎日の投与で、定期的に投与される。
【0029】
本発明によれば、ジンセノサイドM1は、口腔癌を治療するための活性成分として使用することができる。一実施形態では、治療上有効な量の活性成分は、薬学的に許容される担体とともに、送達および吸収を目的とした適切な形態の医薬組成物に製剤化することができる。投与方法に応じて、本発明の医薬組成物は、好ましくは、約0.1重量%~約100重量%の活性成分を含み、ここで、重量パーセントは、組成物全体の重量に基づいて計算される。
【0030】
本明細書において、「薬学的に許容される」とは、担体が、組成物において活性成分と共存し、好ましくは、前記活性成分を安定化でき、治療を受ける個体に安全であることを意味する。前記担体は、活性成分に対する、希釈剤、ビヒクル、賦形剤、またはマトリックスであってもよい。適切な賦形剤のいくつかの例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルボース、マンノース、デンプン、アラビアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガントガム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロース、が挙げられる。組成物は、さらに、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油などの滑沢剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;ヒドロキシ安息香酸メチルおよびプロピルなどの保存剤;甘味料;および香料、を含んでもよい。本発明の組成物は、患者への投与後、活性成分の、急速、持続または遅延の放出作用を与えることが可能である。
【0031】
本発明によれば、前記組成物の形態は、錠剤、ピル剤、粉末、飴(lozenges)、包装(packets)、トローチ、エリキシル剤、懸濁液、ローション、溶液、シロップ、ソフトおよびハードゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射液、および包装粉末、であってもよい。
【0032】
本発明の組成物は、経口、非経口(筋肉内、静脈内、皮下、および腹腔内など)、経皮、坐剤、および鼻腔内の方法などの、生理学的に許容される経路を介して送達することができる。非経口投与に関しては、血液と等張する溶液を作るのに十分な塩またはグルコースなどの他の物質を含んでいてもよい、滅菌水溶液の形態で使用することが好ましい。水溶液は、必要に応じて、適宜(好ましくはpH値3~9に)緩衝化されていてもよい。無菌条件下での適切な非経口組成物の製造は、当業者に周知の標準的な薬学技術により行うことができ、創造的な労力の追加は必要ではない。
【0033】
本発明によれば、ジンセノサイドM1またはジンセノサイドM1を活性成分として含む組成物は、口腔癌を有する個体、あるいは口腔癌のリスクのある個体の治療において、使用することができる。具体的には、ジンセノサイドM1またはジンセノサイドM1を活性成分として含む組成物は、病気の発生を予防し、または症状を改善し、または症状の悪化を遅らせるために、口腔癌細胞の増殖または移動を阻害するのに有効な量で、口腔癌を有する個体または口腔癌に罹患するリスクのある個体に投与することができる。口腔癌の1つの特定の例は、口腔扁平上皮癌(OSCC)である。いくつかの好ましい実施形態では、本発明によるジンセノサイドM1またはジンセノサイドM1を含む組成物は、口腔癌細胞に対して選択的に毒性があるが、正常細胞に対しては毒性が少ない量で、投与される。
【0034】
以下、本発明をさらに実施例によって説明するが、これらは、説明する目的で提供されるものであり、これによって限定されるものではない。当業者は、本開示に照らして、開示する具体的な実施形態において多くの変更を行うことができ、また、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果が得られることを理解する。
【実施例
【0035】
ジンセノサイドM1、20-O-β-D-グルコピラノシル-20(S)-プロトパナキサジオールは、台湾特許出願第094116005号(I280982)および米国特許第7,932,057号に記載されているものなど、当技術分野で公知の方法により製造した。
【0036】
本研究では、ジンセノサイドM1の有効性および関連するメカニズムを、イン・ビトロおよびイン・ビボで調べた。ジンセノサイドM1が、ジンセノサイドRh2と同様の効力で、用量依存的に、ヒトOSCC SAS細胞、およびOECM-1細胞の生存率を阻害することが示された。注目すべきことに、ジンセノサイドM1は、ジンセノサイドRh2よりも、正常なヒト歯肉上皮細胞株SGに対する毒性が低かった。ジンセノサイドM1の作用機序に関するさらなる洞察を得るために、アポトーシスの特徴をターゲットとする4つのアッセイ、すなわち、(1)ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング(TUNEL)アッセイによってアッセイされたアポトーシスDNA切断、(2)ヨウ化プロピジウム(PI)核染色の後、フローサイトメトリーによってアッセイされる細胞周期、(3)PI/アネキシンV二重染色アッセイ、および、(4)カスパーゼ活性、を実施した。ジンセノサイドM1が、OECM-1細胞およびSAS細胞において、アポトーシスDNA切断、G1期停止、PI/アネキシンV二重染色陽性、およびカスパーゼ3/9活性、を有意に増加させることが示された。さらに、ジンセノサイドM1が、用量依存的に、SAS細胞およびOECM-1細胞のコロニー形成と移動能を阻害することが示された。さらに、ジンセノサイドM1の経口投与または皮下注射は、SAS異種移植マウスの腫瘍の増殖を有意に減少させた。これらの結果は、ジンセノサイドM1が、潜在的にOSCCに対する治療剤に開発できることを示している。
【0037】
実施例1:ジンセノサイドM1は、ヒト口腔癌細胞の生存率を阻害した
2mlの培養培地で6cmディッシュあたり5×10個のヒト口腔癌細胞SASを播種し、5%COインキュベーターにおいて37℃で一晩、培養した。細胞を、ジンセノサイドM1(5~20μg/ml)、ジンセノサイドRh2(5~20μg/ml)、またはビヒクルとともに、24時間インキュベートした。各群には、最終濃度0.1%のDMSOが含まれている。その後、トリパンブルー排除法により細胞数をカウントした。ジンセノサイドM1およびジンセノサイドRh2は、用量依存的にヒト口腔癌SAS細胞(図1A)およびヒト口腔癌OECM-1細胞(図1B)の細胞数を阻害することが分かった。これらの結果は、ジンセノサイドM1およびジンセノサイドRh2の両方がヒト口腔癌細胞の生存率を阻害したこと;ただし、ジンセノサイドM1とジンセノサイドRh2の間に有意差はなかったこと、を示している。データは、平均値±SD;n=3、として表した。*、**および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.05、p<0.01およびp<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0038】
実施例2:ジンセノサイドM1は、ジンセノサイドRh2よりも、正常なヒト歯肉上皮細胞に対する毒性が低いことを示した
2mlの培養培地で6cmディッシュあたり5×10個の正常なヒト歯肉上皮細胞株SGを播種し、5%COインキュベーターにおいて37℃で一晩、培養した。細胞を、ジンセノサイドM1(5~20μg/ml)、ジンセノサイドRh2(5~20μg/ml)、またはビヒクルとともに、24時間インキュベートした。各群には、最終濃度0.1%のDMSOが含まれている。その後、トリパンブルー排除法により細胞数をカウントした。ジンセノサイドM1は、ジンセノサイドRh2よりもSG細胞に対する毒性が低いことが分かった(図2)。20μg/mlのジンセノサイドRh2はSG細胞を完全に殺したが、20μg/mlのジンセノサイドM1は、対照の細胞と比較して50%の細胞数しか減少させなかった(すなわち、正常な細胞の50%以上が生存していた)(図2)。データは、平均値±SD;n=3、として表した。**および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.01およびp<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0039】
実施例3:ジンセノサイドM1は、ヒト口腔癌細胞においてアポトーシスを誘導した
ジンセノサイドM1の作用機序に関するさらなる洞察を得るために、アポトーシスの特徴をターゲットとする3つのアッセイ、すなわち、(1)ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング(TUNEL)アッセイによってアッセイされるアポトーシスDNA切断、(2)ヨウ化プロピジウム(PI)核染色後のフローサイトメトリーによってアッセイされる細胞周期、(3)PI/アネキシンV二重染色アッセイ、および、(4)カスパーゼ活性、を実施した。2mlの培養培地で6cmディッシュあたり1×10個のヒト口腔癌細胞OECM-1を播種し、5%COインキュベーターにおいて37℃で一晩、培養した。細胞を、ジンセノサイドM1(10~20μg/ml)、50μMのシスタプラチン(CDDP)、またはビヒクルとともに、24時間インキュベートした。各群には、最終濃度0.1%のDMSOが含まれている。その後、3つのアッセイを実施した。20μg/mlのジンセノサイドM1および50μMのCDDPは、OECM-1細胞においてアポトーシスDNA切断を有意に誘導したが、10μg/mlのジンセノサイドM1はそうでないことが分かった(図3A)。さらに、ジンセノサイドM1がOECM-1細胞の細胞周期分布に及ぼす影響を確認したところ、ジンセノサイドM1およびCDDPの処理後に、G1期の細胞が濃度依存的に増加する一方、それに伴い、S期およびG2/M期の細胞の割合が、対照の細胞と比較して減少することが分かり、ジンセノサイドM1およびCDDPがG1期で細胞周期停止を誘導したことを示した(図3B)。sub-G1期の細胞は、ジンセノサイドM1およびCDDPによる処置後に増加した(図3B)。さらに、20μg/mlのジンセノサイドM1および50μMのCDDPは、PI/アネキシンV二重陽性染色によるOECM-1細胞の割合を有意に増加させたが、10μg/mlのジンセノサイドM1はそうでないことが分かった(図3C)。これらの結果は、ジンセノサイドM1が、濃度20μg/mlでヒト口腔癌細胞OECM-1アポトーシスを有意に誘導したことを示している。ジンセノサイドM1が、カスパーゼ3およびカスパーゼ9の前駆体の減少を用量依存的に誘導し、カスパーゼ3およびカスパーゼ9がジンセノサイドM1により作用を受けることが示されたことから、ヒト口腔癌SAS細胞においてジンセノサイドM1のアポトーシス誘導活性が確認された(図3D)。データは、平均値±SD;n=3、として表した。**および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.01およびp<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0040】
実施例4:ジンセノサイドM1は、ヒト口腔癌細胞のコロニー形成能を低下させた
3mlの培養培地に6cmディッシュあたり150個のヒト口腔癌細胞SASまたはOECM-1を播種し、5%COインキュベーターにおいて37℃で一晩、培養した。細胞をジンセノサイドM1(5~20μg/ml)、またはビヒクルとともに、10日間インキュベートした。5日目に、細胞を同じ濃度のジンセノサイドM1を含む新鮮な培地に交換した。細胞を4%氷冷パラホルムアルデヒドで37℃で15分間固定し、0.1%クリスタルバイオレットにより室温で10分間染色した。コロニーをカウントしたところ、ジンセノサイドM1は、用量依存的にSAS細胞(図4A)およびOECM-1細胞(図4B)のコロニー形成能を阻害することが分かった。データは、平均値±SD;n=4、として表した。*および***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、それぞれ、p<0.05およびp<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0041】
実施例5:ジンセノサイドM1は、ヒト口腔癌細胞の移動能力を低下させた
細胞移動能は、創傷治癒アッセイによって測定された。2mlの培養培地で6cmディッシュあたり5×10個のヒト口腔癌SAS細胞またはOECM-1細胞を播種し、5%COインキュベーターにおいて37℃で一晩、細胞が100%コンフルエンスに達して単層を形成するまで、培養した。無菌の200μlピペットチップを使用して、培養皿に引っ掻いた透明なゾーンを作成し、ベースラインとして位相差顕微鏡で創傷を撮影した。細胞をジンセノサイドM1(5~10μg/ml)またはビヒクルとともに、24時間(SAS細胞)または18時間(OECM-1細胞)、インキュベートし、その後、創傷を再度撮影した。ジンセノサイドM1は、5または10μg/mlにおいて、ヒト口腔癌細胞SAS(図5A)およびOECM-1細胞(図5B)の移動能を有意に阻害することが分かった。データは、平均値±SD;n=3、として表した。***は、ビヒクル-対照の細胞と比較して、p<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0042】
実施例6:ジンセノサイドM1は、マウスにおいてヒト口腔癌の増殖を低下させた
ジンセノサイドM1のイン・ビボでの抗癌活性を評価するために、ヒト口腔癌異種移植片を使用した。6週齢の雄の先天性無胸腺BALB/cヌード(nu/nu)マウスを、BioLASCO Taiwan Co.、Ltd(Ilan、Taiwan)から購入し、温度(23±3℃)および相対湿度(50±5%)が制御された部屋に収容した。動物実験は、国立イラン大学の施設内動物管理使用委員会の承認(承認番号:No.106-13)を得て、実験動物の管理と使用に関するNIHガイドに従って行った。異種移植マウスは、ヌードマウスの背部に2×10個のヒト口腔癌細胞SAS(75μlのPBS+75μlのマトリゲル中)の皮下(SC)注射により確立された。腫瘍が約40~60mmのサイズに達した後、マウスをランダムに6つの群(各6匹):(1)経口ビヒクル対照;(2)経口30mg/kgジンセノサイドM1;(3)経口60mg/kgジンセノサイドM1;(4)経口90mg/kgジンセノサイドM1;(5)SCビヒクル対照;(6)SC20mg/kgジンセノサイドM1、に分けた。マウスに、5日連続で毎日、ビヒクルまたはジンセノサイドM1のいずれかを経口投与またはSC注射した。マウスを、ジンセノサイドM1またはビヒクルの最後の投与を受けた24時間後に屠殺した。腫瘍体積(TV)を、腫瘍の長さ(L)および幅(W)の測定により求めた。n日目のTV(TVn)は、TV(mm3)=(L×W)/2として、算出した。0日目に対するn日目の相対腫瘍体積(RTVn)を、次の式によって表した:RTVn=TVn/TV0。ジンセノサイドM1の90mg/kgの経口投与は、ビヒクル対照群と比較して、腫瘍サイズを有意に減少させたが、ジンセノサイドM1の30および60mg/kgの経口投与は、腫瘍サイズ(図6A)および腫瘍重量(図6B)を有意には減少させないことが分かった。ジンセノサイドM1の経口投与は、マウスの体重に有意な影響を与えなかった(図6C)。データは、平均値±SD;n=6、として表した。**および***は、ビヒクル-対照のマウスと比較して、それぞれ、p<0.01およびp<0.001のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0043】
さらに、20mg/kgのジンセノサイドM1のSC注射も、ビヒクル対照群と比較して、腫瘍サイズ(図7A)および腫瘍重量(図7B)を有意に減少させた。ジンセノサイドM1のSC注射は、マウスの体重に有意な影響を与えなかった(図7C)。データは、平均値±SD;n=6、として表した。**は、ビヒクル-対照のマウスと比較して、p<0.01のレベルで有意差があることを示す。(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
【0044】
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図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C