(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】低減した量の有機酸を含むビルベリー果実の抽出物およびそのための抽出方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/45 20060101AFI20230705BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230705BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20230705BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230705BHJP
【FI】
A61K36/45
A61P39/06
A61K31/7048
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2021018404
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】512128623
【氏名又は名称】株式会社オムニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】高尾 久貴
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-099090(JP,A)
【文献】特開2006-306797(JP,A)
【文献】特表2005-510512(JP,A)
【文献】特公昭46-010077(JP,B2)
【文献】特開2007-145825(JP,A)
【文献】特開2003-277271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/
A61K 31/
A23L 33/
CAplus/Registry/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビルベリーエキスの抽出方法であって、
ビルベリー果実を
摂氏10℃以下の温度条件下において圧搾して水分含量
およびアントシアニンに対する有機酸含有量が低減した果実
の圧搾処理物を得ることと、
水分含量
およびアントシアニンに対する有機酸含有量が低減した果実
の圧搾処理物を酸で処理して水溶性画分としてビルベリーエキスを得ることとを含む、
方法。
【請求項2】
酸処理が、塩酸処理である、請求項1の方法。
【請求項3】
酸処理物から水溶性画分を取得することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
得られた水溶性画分中のポリフェノールを濃縮することをさらに含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
得られるビルベリーエキスが、アントシアニン純度が50%以上であり、総アントシアニンに対する夾雑物含量が15重量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
得られるビルベリーエキスが、アントシアニン純度が50%以上であり、総アントシアニンに対するキナ酸含量が2重量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
圧搾工程において
、果実へのペクチナーゼの添加をしない、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アントシアニン組成物の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の抽出方法を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低減した量の有機酸を含むビルベリー果実の抽出物およびそのための抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニンは、多くの花、果実および葉の魅力的な色に関与する水溶性色素である。一般に、それらは、酸性化アルコール性溶媒により植物から抽出され得、多くのものは食物着色料として市販で入手可能である。それらは、しばしば、飲料またはシリアルなどの他の食物に配合するのに適切な濃度の希釈液としてマルトデキストリンと共に供給される。
【0003】
アントシアニンのアグリコン成分であるアントシアニジンは、式(I)に示す基本構造を有する。
【0004】
【0005】
それらの特定の化学構造のために、アントシアニンおよびアントシアニジンは、電子欠乏により特徴づけられ、このことにより、それらはフリーラジカルとしても知られる活性酸素種(ROS)に対して非常に反応性になり、その結果、それらは強力な天然の抗酸化剤であると考えられる。
【0006】
より詳細には、アントシアニンの生物学的利用能は、pHの変化に対するそれらの感受性に起因して低い。アントシアニンは、一般に、3.5以下のpH値で安定であるので、胃条件下で安定である。
【発明の簡単な説明】
【0007】
本発明は、低減した量の有機酸を含むビルベリー果実の抽出物およびそのための抽出方法を提供する。
【0008】
本発明者らは、ビルベリー果実を圧搾することによって、有機酸を含む水分を部分的にまたは完全に除去して得られる水分含量が低減した果実(例えば、圧搾処理物、特に、プレスケーキ)を酸でさらに処理することによって、ビルベリー果実からアントシアニンを大量に回収でき、かつ回収されたアントシアニンは有機酸含有量(特にクロロゲン酸含量)をさらに低減させることができることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。また、有機酸と分離されたアントシアニンは、腸吸収性が向上し、経口剤として適していた。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ビルベリーエキスの抽出方法であって、
ビルベリー果実を圧搾して水分含量が低減した果実を得ることと、
水分含量が低減した果実を酸で処理して水溶性画分としてビルベリーエキスを得ることとを含む、
方法。
[2]酸処理が、塩酸処理である、上記[1]の方法。
[3]酸処理物から水溶性画分を取得することをさらに含む、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]得られた水溶性画分中のポリフェノールを濃縮することをさらに含む、上記[1]~[3]に記載のいずれかに記載の方法。
[5]得られるビルベリーエキスが、アントシアニンの純度が50%以上であり、総アントシアニンに対する夾雑物含量が15重量%以下である、上記[1]~[4]に記載のいずれかに記載の方法。
[6]得られるビルベリーエキスが、アントシアニンの純度が50%以上であり、総アントシアニンに対するキナ酸含量が2重量%以下である、上記[1]~[4]に記載のいずれかに記載の方法。
[7]圧搾工程において、果実を摂氏10℃以下で圧搾し、かつ果実へのペクチナーゼの添加をしない、上記[1]~[6]に記載のいずれかに記載の方法。
[8]アントシアニン組成物の製造方法であって、
上記[1]~[7]に記載のいずれかの抽出方法を含む、方法。
[9]アントシアニンを含むビルベリーエキスであって、アントシアニン純度が50重量%以上であり、総アントシアニンに対する夾雑物含量が15重量%以下である、ビルベリーエキス。
[10]得られるビルベリーエキスが、アントシアニン純度が50%以上であり、総アントシアニンに対するキナ酸含量が2重量%以下である、上記[9]に記載のビルベリーエキス。
[11]ビルベリーエキスが、解重合アントシアニンを含む、上記[9]または[10]に記載のビルベリーエキス。
[12]上記[9]~[11]のいずれかに記載のビルベリーエキスまたはその乾燥物を含む、サプリメント。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、表示されたビルベリーエキスの経口投与後のラットの血中総アントシアニン濃度の経時的推移を示す。
【
図2】
図2は、本発明におけるビルベリー果実からのアントシアニンエキスの抽出工程を示すフローチャートである。フローチャートでは、S1工程として圧搾を行い、S2工程として残渣の酸処理物を行い、S3工程として水溶性画分を除去する一例としてろ過処理を行う。その後、得られた水溶性画分をS4工程としての精製に供する。
【発明の具体的な説明】
【0011】
本明細書では、「ビルベリー」とは、ツツジ科スノキ属の低灌木である。ビルベリーは、アントシアニンを豊富に含む食用可能な果実(「ビルベリー果実」という)を実らせる。ビルベリーには、セイヨウスノキ(Vaccinium myrtillus L.)といくつかの近縁種が存在する。
【0012】
本明細書では、「ビルベリーエキス」は、ビルベリー果実からの抽出物であって、アントシアニンを含むものを意味する。ビルベリーエキスは、液体の形態であり得る。ビルベリーエキスは固形の形態(例えば、乾燥された固形物の形態)であり得る。ビルベリーエキスは、アントシアニン(Mw:約550程度)を含み、アントシアニン組成物とも呼ばれ得る。
【0013】
本明細書では、「アントシアニン」とは、グリコシル化アントシアニン(アントシアノシド)およびアントシアノシドのアグリコン(アントシアニジン)の両方を包含する。アントシアノシドは、糖を結合していないアグリコンであるアントシアニジンに糖が共有結合により結びついた化合物である。アントシアニンのアグリコン成分であるアントシアニジンは、以下式(II)に記載の基本構造を有する。アントシアニンは、有機酸などの他の分子と重合した形態で存在し得る。本明細書では、「解重合アントシアニン」とは、重合していないアントシアニン(アントシアニンのモノマー)、すなわち、有機酸または有機酸以外の分子と重合しているアントシアニン以外のアントシアニンをいう。
【0014】
【0015】
代表的なアントシアニジンにおける式(II)中のR1~R7は以下の表に要約される。
【0016】
【0017】
アントシアニンのグリコシル化型は、アントシアニジンよりも水可溶性でありかつ安定である。アントシアノシドは、それらが含むグリコシル単位の数により分類される。モノグリコシドは、アグリコンの3-ヒドロキシル基に主に結合した1つの糖部分を含む。ジグリコシドは、一般に、3および5ヒドロキシ位、ならびにたまに3および7水酸化位に、2つの単糖を含む。トリグリコシドは、一般に、3位およびC-5またはC-7位の1つに2つの単位が存在する場合、結合を有する。3’、4’および/または5’位での糖鎖付加もまた可能である。
【0018】
アントシアニンの最も一般的な糖には、単糖であるグルコース、ラムノース、ガラクトース、アラビノースおよびキシロースが挙げられる。アントシアニン中で最も頻繁に見出される二糖および三糖は、ルチノース、ソホロース、サンブビオースおよびグルコルチノースである。
【0019】
用語「圧搾」または「圧搾する」とは、圧力を加えて絞ることを意味する。本発明において圧搾は、ビルベリー果実に対して実施することができ、これにより、果実から果汁を部分的にまたは完全に分離することができる。
【0020】
用語「精製された」および「単離された」は、上記アントシアニン抽出物からの1つまたはそれ以上のアントシアニンの精製および/または単離を参照するために用いられる。ここでも当該分野で公知の定法を用いて、アントシアニン抽出物の多様な成分を分離して精製物質とし得る。本発明の1つの局面では、抽出物のアントシアニンは、当該分野で公知の技術により実質的に精製および単離される。
【0021】
本発明によれば、ビルベリー果実を圧搾して得られる圧搾処理物(特に、プレスケーキ)を酸で処理することによって、含有クロロゲン酸濃度が低く、ポリフェノール含量が高いビルベリーエキスを得られる。
【0022】
本発明によれば、
ビルベリーエキスの抽出方法であって、
ビルベリー果実を圧搾して水分含量が低減した果実(圧搾処理物)を得ることと、
圧搾処理物を酸で処理して水溶性画分としてビルベリーエキスを得ることとを含む、
方法
が提供される。
【0023】
(A)ビルベリー果実を圧搾して水分含量が低減した果実を得ること
本発明によれば、ビルベリー果実を圧搾して果実の水分含量を低減させることができる。圧搾によってビルベリー果実から果汁が部分的にまたは完全に除去され得る。上記(A)においては、圧搾により水分含量を低減させた果実(以下「圧搾処理物」ということがあるが、例えば、圧搾処理物は「プレスケーキ」であってもよい)を得ることができる。(A)では、常法に従って圧搾を行うことができる。圧搾は、好ましくは摂氏10℃以下の低温、より好ましくは、摂氏4℃以下の低温で行うことができる{但し、果実を凍らせない程度の低温である}。圧搾は、冷凍した果実を解凍してから行ってもよい。天然のビルベリー果実は、平均的には、固形分(8重量%)と有機酸を含む水分(92重量%)を含む。(A)では、圧搾により水分含量を減少させるほど、有機酸含量を大きく低減させることができるが、これによってアントシアニンの純度を向上させることができる。これは、ビルベリー果実の水溶性画分には、不純物である有機酸が大量に含まれ、かつ、アントシアニンの含量は相対的に低いためであると考えられる。ある態様では、圧搾処理物の調製においては、圧搾により、果実の水分
含量を1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/7以下、または1/10以下にまで低減することができる。これにより、除去した水分と共に有機酸が除去され、圧搾処理物中の有機酸含量を低減させる(例えば、1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/7以下、または1/10以下にまで低減させる)ことができる。本発明のある態様では、ビルベリー果実から圧搾処理物を得る工程において、ペクチン分解酵素を用いなくてもよく、好ましくはペクチン分解酵素を用いない。また、圧搾工程で果実を摂氏60℃以上、摂氏50℃以上、摂氏40℃以上、または摂氏30℃以上に加温しなくてもよい。圧搾によって、果実は、圧搾処理物とフレッシュジュースとに分離できる。フレッシュジュースには、水溶性の不純物が含まれるため、本発明の圧搾工程では、圧搾によって十分に脱水することが望ましい。工程(A)については、
図2の圧搾および脱水(S1)を参照。
【0024】
ビルベリー果実を圧搾して得られる圧搾処理物中には、アントシアニンが豊富に含まれ、かつ圧搾処理物からは水溶性の不純物(有機酸等)が除去されているために、ビルベリーエキスの抽出工程の最初の工程として相応しいと考えられる。特に、有機酸は、アントシアニンと会合して分子間コピグメンテーションおよび分子内コピグメンテーションを形成し得る。有機酸は、アントシアニンの重合の主な原因であり、有機酸を除去することによって、後の工程における有機酸とアントシアニンとの会合体の形成または再形成を抑制することができると考えられる。したがって、(A)では、有機酸を含む水分含量が低減した果実(圧搾処理物)を得ることができるであろう。
【0025】
(B)水分含量が低減した果実(圧搾処理物)を酸で処理して水溶性画分としてビルベリーエキスを得ること
本発明によれば、得られた圧搾処理物を酸で処理することができる。圧搾処理物に対して薬学上許容可能な酸(例えば、塩酸)を含む水溶液を加え、水溶性画分には、ビルベリーエキスが含まれる。酸は、例えば、pH3.5以下、pH3以下、pH2.5以下、またはpH2以下の酸であり得る。ある好ましい態様では、酸は、pH1~2(例えば、pH1.5)の酸であり得る。酸による圧搾処理物の処理は、圧搾処理物からのアントシアニンの遊離を促進すると考えられる。
アントシアニンは、有機酸と共有結合した形態として圧搾処理物中には含まれ、酸処理によって、アントシアニンと有機酸との結合が破壊されると、アントシアニンが有機酸から遊離する。したがって、酸処理は、アントシアニンの抽出において有利であると共に、有機酸とアントシアニンとの分離において有益であるという一側面を有する。
図2の残渣(圧搾処理物)の酸処理参照。このようにして得られる圧搾処理物からの抽出エキスには、アントシアニンが豊富に含まれる。また、含まれるアントシアニンは、解重合アントシアニンであり、例えば、分子量550程度のアントシアニンであり得る。
【0026】
(C)得られた酸処理物から水溶性画分を得ること
本発明の抽出方法は、得られた酸処理物から水溶性画分を得ることをさらに含み得る。水溶性画分は、遠心分離、およびろ過などの当業者に周知の様々な方法により得ることができる。例えば、ろ過は、常法に従って当業者であれば実施することができる。ろ過は、例えば、濾過機(例えば、フィルタープレス)によって行うことができる。濾過機は、濾過助剤を用いて駆動させてもよい。例えば、ろ過は、珪藻土を焼成してできる珪藻土焼成物(例えば、セライトTM、ラヂオライトTM)、および火山岩由来のパーライト(トプコTM)を含む濾過助剤を用いた濾過機によって行われ得る。これによって、不溶成分を抽出物から除去することができる。
【0027】
本発明によれば、得られたビルベリーエキスは、そのまま、またはさらに精製して用いることができる。精製は、アントシアニンの純度を高める目的、および/または、エキス中の有機酸含量を低減させる目的で行われ得る。
精製は、例えば、カラムを用いた精製によることができる。カラムは、ゲル濾過カラム、またはアントシアニン吸着カラムであり得る。アントシアニン吸着カラムとしては、アントシアニンに親和性を有するカラムが多く知られ、これらを用いることができる。アントシアニン吸着カラムとしては、例えば、オクタデシルシリル基で表面が修飾されたシリカゲルを充填したカラム(C18カラム)、HP-20カラム、SP207カラム等のアントシアニンの精製に用いられるカラムを用いてアントシアニンを精製することができる。カラムからのアントシアニンの溶出は、当業者であれば適宜実施できる。アントシアニンはpH3.5以下で安定であることが知られるため、pH3.5以下の有機溶媒(例えば、50%~70%エタノール溶液、例えば、50%~70%エタノール-HCl(pH3.5))で抽出ができる。
【0028】
アントシアニンの純度が高め、および/または、有機酸含量をさらに低減させることによって、解重合アントシアニンが、再び有機酸を介して重合することを防ぐことができると考えられる。したがって、精製によって、アントシアニンの純度が高め、および/または、有機酸含量をさらに低減させることは、解重合アントシアニンを解重合状態で維持することに有益であり得る。アントシアニンが解重合アントシアニンであることは、質量分析等の当業者に周知の方法により決定することができる。解重合アントシアニンの濃度は、例えば、遊離有機酸を除去した後に、総アントシアニン濃度から有機酸濃度を控除することにより理想的には求められ得る。得られたビルベリーエキスは、酸性(例えば、pH2~5、例えば、pH3~4、例えば、約pH3.5)であり得る。
【0029】
本発明によれば、得られたビルベリーエキスは、乾燥させて、乾燥された固形物または粉末の形態に加工することができ、そのような加工形態で用いることができる。本発明によれば、乾燥形態または粉末形態のビルベリーエキスは、サプリメントや医薬等として製剤化することができる。サプリメントや医薬は、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、または散剤であり得る。
【0030】
本発明のビルベリーエキスは、従来のビルベリーエキスよりも、クロロゲン酸含量が少ないものであり得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して1.5重量%以下のクロロゲン酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して1.4重量%以下、1.3重量%以下、1.2重量%以下、1.1重量%以下、1.0重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、0.3重量%以下、0.2重量%以下または0.15重量%以下のクロロゲン酸を含む。
【0031】
本発明のビルベリーエキスは、従来のビルベリーエキスよりも、キナ酸含量が少ないものであり得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して4.0重量%以下のキナ酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して3.5重量%以下、3.0重量%以下、2.5重量%以下、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.4重量%以下、1.3重量%以下、1.2重量%以下、1.1重量%以下、1.0重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、または0.5重量%以下のキナ酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、2.0重量%以下のキナ酸を含む。得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、1.5重量%以下のキナ酸を含む。得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、1.0重量%以下のキナ酸を含む。
【0032】
本発明のビルベリーエキスは、従来のビルベリーエキスよりも、リンゴ酸含量が少ないものであり得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して3.0重量%以下のリンゴ酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して2.5重量%以下、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.4重量%以下、1.3重量%以下、1.2重量%以下、1.1重量%以下、1.0重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、または0.5重量%以下のリンゴ酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、2.0重量%以下のリンゴ酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、1.5重量%以下のリンゴ酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、1.0重量%以下のリンゴ酸を含む。
【0033】
本発明のビルベリーエキスは、従来のビルベリーエキスよりも、クエン酸含量が少ないものであり得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して7重量%以下のクエン酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して6重量%以下、5.5重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、4重量%以下、3.5重量%以下、または3重量%以下のクエン酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、例えば、総アントシアニンに対して6重量%以下のクエン酸を含む。得られたビルベリーエキスは、例えば、総アントシアニンに対して5.5重量%以下のクエン酸を含む。得られたビルベリーエキスは、例えば、総アントシアニンに対して4重量%以下のクエン酸を含む。
【0034】
本発明のビルベリーエキスは、従来のビルベリーエキスよりも、コハク酸含量が少ないものであり得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して0.15重量%以下のコハク酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して0.14重量%以下、0.13重量%以下、0.12重量%以下、0.11重量%以下、0.10重量%以下、0.09重量%以下、0.08重量%以下、0.07重量%以下、0.06重量%以下、または0.05重量%以下のコハク酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、0.13重量%以下のコハク酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、0.10重量%以下のコハク酸を含む。ある態様では、得られたビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して例えば、0.08重量%以下のコハク酸を含む。
【0035】
本発明のビルベリーエキスは、従来のビルベリーエキスよりも、有機酸を含む夾雑物含量が少ないものであり得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、総アントシアニンに対して、20重量%以下、19重量%以下、18重量%以下、7重量%以下、16重量%以下、15重量%以下、14重量%以下、13重量%以下、12重量%以下、11重量%以下、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、または5重量%以下の夾雑物を含む。ある態様では、総アントシアニンに対して、例えば、20重量%以下の夾雑物を含む。ある態様では、総アントシアニンに対して、例えば、15重量%以下の夾雑物を含む。ある態様では、総アントシアニンに対して、例えば、10重量%以下の夾雑物を含む。夾雑物としては、例えば、酒石酸、キナ酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、プロトカテク酸、没食子酸、カフェ酸、クロロゲン酸、およびカフェインからなる群から選択される1以上またはすべてが含まれうる。
【0036】
本発明のビルベリーエキスは、アントシアニンを50%重量以上、51重量%以上、52重量%以上、53重量%以上、54重量%以上、55重量%以上、56重量%以上、57重量%以上、58重量%以上、59重量%以上、または60重量%以上の濃度で含み得る。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、アントシアニンを50重量%以上含み、かつ、1.5重量%以下のクロロゲン酸を含む。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、アントシアニンを50重量%以上含み、かつ、1重量%以下のクロロゲン酸を含む。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、アントシアニンを50重量%以上含み、かつ0.5重量%以下のクロロゲン酸を含む。ある態様では、本発明のビルベリーエキスは、アントシアニンを55重量%以上含み、かつ0.5重量%以下のクロロゲン酸を含む。このように本発明のビルベリー抽出物は、高純度のアントシアニン(特に解重合アントシアニン)を含み得る。また、本発明のビルベリー抽出物は、低減された量のクロロゲン酸などの有機酸(例えば、芳香族有機酸)を含み得る。
【0037】
当業者に周知であるように、ビルベリーエキス中のアントシアニン含量は、液体クロマトグラフィーにより決定することができ、有機酸含量は、液体クロマトグラフィーと質量分析により決定することができる。
具体的には、塩化シアニジン3-グルコシドの1種を標準品とし、高速液体クロマトグラフィー装置で展開したときの当該標準品のそれぞれの物質のピーク面積を決定する。ピーク面積と標準品の溶液濃度から検量線を作成し、得られた検量線から次式によりアントシアニンの含量を算出することができる。
【0038】
【数1】
{式中、標準溶液濃度(μg/mL)=標準品秤量値(mg)×1000×標準品純度(%)/100×1/100×希釈率であり、試験溶液濃度(μg/mL)=試料秤量値(mg)×1000×1/50×5/25である。}
【0039】
有機酸含量は、液体クロマトグラフィー装置および質量分析計を用いて測定することができる。具体的には、クエン酸などの各有機酸の標準品から各々標準品溶液を調製し、各標準品溶液を混合したものを有機酸混合標準品溶液とし、その検量線から試料における各有機酸成分の定量値を算出することができる。
【0040】
本発明のビルベリーエキスは、経口投与された場合に、アントシアニンの吸収性に富む。したがって、本発明のビルベリーエキスを含むサプリメントまたは医薬は、経口剤であり得る。本発明のビルベリーエキスを含むサプリメントまたは医薬は、アントシアニンと賦形剤をさらに含み得る。サプリメントに添加される賦形剤は、食品科学上許容可能な賦形剤である。医薬に添加される賦形剤は、医薬上許容可能な賦形剤である。
【0041】
本発明のビルベリーエキス、またはこれを含むサプリメント若しくは医薬は、エタノール抽出法よりも高いアントシアニンの吸収性を有し得る。
【0042】
アントシアニンは、当業者に周知の方法によって定量できる。例えば、アントシアニンは、実施例に記載の方法によって定量することができる。例えば、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によって測定することができる。必要に応じて、標品となるビルベリーエキスを用いることができる。
【実施例】
【0043】
[材料]
試験に使用したビルベリーエキスは、抽出エキス(従来法)および圧搾処理物抽出エキスとした。抽出エキス(従来法)および圧搾処理物抽出エキスは、以下の通り調製されたものである。
従来法による抽出エキス(エタノール抽出法)は、ビルベリー果実酸性含水エタノール抽出液を精製したエキスである。具体的には、加温(60℃)条件下で果実にペクチナーゼを作用させて果実の繊維を分解し、その後、当該分解物を酸性(約pH3.5)条件下で含水エタノール溶液と混合して含水エタノール中にビルベリー果実のアントシアニンを浸出させた。この操作によって、エタノール中のアントシアニン濃度を飽和状態(2000ppmから2500ppmである)に到達させた。pH3.5という数値は、アントシアニンの化学的安定性を維持しながら、かつ、抽出物が接するステンレス製装置の腐食を抑制させる条件から選定されたpHである。その後、常法に従い遠心分離を行い、上清を除去して沈殿物を回収した。
アントシアニン濃度の測定は、以下の通り行った。試料0.100g~0.110gを大型の秤量皿で量りとり、ロートを置いた50mLメスフラスコ内に移し、2%塩酸メタノール10mLを4回繰り返し加え、超音波洗浄機で5分間混合した。その後、2%塩酸メタノールを加え定容した。この溶液5mLを精確に量りとり、25mLメスフラスコに加え、10%リン酸を加え定容した。この一部を0.45μmメンブレンフィルターに通した後、バイアル瓶に移し、試験溶液とした。アントシアニン濃度測定は、高速液体クロマトグラフィー装置(ELITE LaChrom、Chromaster、日立ハイテクサイエンス社製またはProminenceLC-20AB、島津製作所製)を用いて実施した。カラムはKinetex C18(4.6×250mm, 5μm、Phenomenex製)を使用し、カラム温度は30℃とした。カラム流量は1.0 ml/分で、移動相A(10%ギ酸水溶液)、移動相B(メタノール、アセトニトリル、ぎ酸、純水 (225:225:100:400) 混液)のグラジェント条件(0.00分(A:93%, B:7%)、35分(A:75%, B:25%)、45分(A:35%, B:65%)、46分(A:0%, B:100%)、50分(A:90%, B:10%)、60分(A:90%, B:10%))で測定した。サンプルクーラーは4℃に設定し、40μL注入で測定した。アントシアニンの検出は、535nmにおける吸光度の測定により行い、総アントシアニン濃度の算出には、それぞれの物質のピーク面積値を用いた。塩化シアニジン3-グルコシドの1種を標準品として、その検量線と分子量比から次式により算出した。
【0044】
【数1】
{式中、標準溶液濃度(μg/mL)=標準品秤量値(mg)×1000×標準品純度(%)/100×1/100×希釈率であり、試験溶液濃度(μg/mL)=試料秤量値(mg)×1000×1/50×5/25である。}
【0045】
圧搾処理物からの抽出エキスとしては、プレスケーキからの抽出エキス、すなわち、プレスケーキ抽出エキス(プレスケーキエキス)を用いた。プレスケーキ抽出エキスの調製は、以下の通り行った。常法により、凍結解凍したビルベリー果実(10,000kg;液体成分9,200kgおよび固形分800kg)を2℃の条件下で圧搾し、2,500kgの圧搾物を得た。このようにして、水分含量を約1/5以下まで低減させた。次にプレスケーキを45℃で酸処理した。具体的には、プレスケーキ600gにpH1.5 HCl 4800mLを加え、150rpmで15分撹拌し、45分静置を2回繰り返し、最後に15分撹拌して、抽出液を得た。次に抽出液をろ過してろ液を取得した。具体的には、上記で得られた抽出液500mLにラヂオライト#600(5g)(昭和化学工業社製)を添加し吸引ろ過してろ液を取得した。このようにしてビルベリーからエキスを抽出した。抽出されたエキスは、以下の手順によってポリフェノール精製に適した樹脂カラムによって精製した。具体的には、得られたろ液をゼパビーズTMSP207(80mL)(三菱ケミカル社製)に通液し、樹脂にアントシアニンを吸着させ、pH3.5 HCl(60mL)で洗浄し、70%エタノール-pH3.5 HCl(240mL)で溶出した。得られた溶出液を薄膜式濃縮装置を用いて濃縮し、乾燥噴霧により乾固して、ビルベリーエキスを867.6mg得た。得られたビルベリーエキス(プレスケーキ抽出エキス)は、アントシアニンを約61重量%含有した。
従来法では、減圧式濃縮装置を併用してエタノール除去と水分除去濃縮を行うが、本実施例で薄膜式濃縮装置を用いる理由は、従来法では、濃度が上昇していく過程で、アントシアニンの会合または分子内若しくは分子間コピグメントがより多く発生するのに対して、薄膜式濃縮によると短時間(例えば、30秒程度)でもエタノール除去と水分除去が可能であり、これによってアントシアニンの会合または分子内若しくは分子間コピグメントが抑制されることが明らかになったためである。
【0046】
[動物]
実験動物は、ウィスターラット(Slc:wistar、体重189~203g、雄、9週齢)を使用した。動物搬入後、1週間の予備飼育を行い実験に供した。餌と水は自由摂取とし、前日17時より一晩絶食させてから実験に供した。
【0047】
[ビルベリーエキス投与及びサンプル採取]
各ビルベリーエキス投与溶液の調製表を表2-1に示した。経口投与するアントシアニン量が37mg/kgとなるよう各ビルベリーエキス量を算出し、5mL遠心チューブに各ビルベリーエキスを秤量した。秤量した各ビルベリーエキスに水を添加してボルテックスで溶解させ、メスアップしたものを投与溶液とした。経口投与量は、4mL/kgとした。
吸入麻酔下(イソフルラン)でラットの頸静脈を露出し採血部位を確保した後、各ビルベリーエキス溶液をゾンデにて経口投与した。経口投与後、0.25,0.5,1,1.5,2,4,および6時間の計7回、経時的に採血を行った。採血には、ヘパリン処理したシリンジを使用し、採血量は500μL/回とした。採取した血液はすぐに氷冷し、30分以内に遠心分離(4℃、10,000×g、3分)を行い、血漿を採取した。実験中は、麻酔下でのラットの体温維持のため加温を行った。
【0048】
【0049】
[アントシアニン濃度測定]
アントシアニン抽出用サンプル調製は、血漿200μLを1.5mLマイクロチューブに採取し、5%ギ酸水溶液を200μL加えた。固相抽出カラムは、Oasis HLB 1cm3(Waters)を使用した。固相抽出操作は、カラムに10%ギ酸アセトン1mLを入れ、続けて10%ギ酸水溶液1mLを2回負荷する。カラムにアントシアニン抽出用サンプル400μLを負荷し、1%ギ酸水溶液を1mL負荷する(洗浄)。この操作を2回行った。最後に、溶出液回収用の1.5mLマイクロチューブをセットし、10%ギ酸アセトン400μLを負荷した。マイクロチューブ内の溶出液は、窒素(N2)ガスで乾固させた。N2ガス乾固後のマイクロチューブに10%ギ酸水溶液100μLを添加し、ボルテックスにて溶解したものを300μL容PPバイアルに移して測定溶液とした。
アントシアニン濃度測定は、液体クロマトグラフィー装置(NexeraX2、島津製作所)及び質量分析計(LCMS-8050、島津製作所)を用いて実施した。カラムはShim-Pack FC-ODS(150×2mm)(島津製作所)を使用し、カラムオーブンは30℃とした。移動相流量は0.25ml/minで、移動相A(5%ギ酸水溶液)、移動相B(5%ギ酸含有アセトニトリル)のグラジェント条件(0.00→4.00 min(A:90%, B:10%)、4.00→10.00 min(A:90→75%, B:10→25%)、10.00→12.00 min(A:75→62%, B:25→38%)、12.01→14.00 min(A:0%, B:100%)、14.01→20.00 min(A:90%, B:10%))で測定した。サンプルクーラーは4℃に設定し、2μL注入で測定した。質量分析計(エレクトロスプレー法:ESI)のネブライザー流量は3L/min、ヒーティングガス流量は5L/min、インターフェイス温度は250℃、DL温度は250℃、ヒートブロック温度は250℃、ドライングガス流量は15L/minに設定し、Del-3-Gal,Del-3-Gluは464.9>303.0、Del-3-Alaは435.1>303.0、Cya-3-Gal,Cya-3-Gluは449.0>287.0、Cya-3-Alaは419.0>287.0、Pet-3-Gal,Pet-3-Gluは479.2>317.0、Pet-3-Alaは449.2>317.0、Peo-3-Gal,Peo-3-Gluは463.2>301.0、Peo-3-Alaは433.2>301.0、Mal-3-Gal,Mal-3-Gluは493.1>331.0、Mal-3-Alaは463.2>331.0のMRM(ポジティブ)を定量イオンとして測定した。
アントシアニンの定量については、LC-UVでビルベリーエキス(従来法によるエキス)をC3Gで定量し、そのビルベリーエキス溶液の各15種のアントシアニンの定量値をもとめ、そのビルベリーエキス溶液を標準溶液とした。
【0050】
[統計解析]
全てのデータは、平均値±標準偏差(Mean±SD)で示した。各データの比較は、Studentのt検定を用いて行なった。有意水準は、p<0.05とした。
【0051】
[結果]
投与直前の各投与群のラットの体重を表2-2に示した。従来法による抽出エキス投与群と比較して、2群とも有意な差はみられなかった。
【0052】
【0053】
従来法による抽出エキス投与群の血漿中アントシアニン濃度の経時的変化を確認した(
図1、表3-1および表3-2)。従来法による抽出エキス投与群では、経口投与後約2時間で最高濃度(C
max)となった。従来法による抽出エキス投与群および圧搾処理物抽出エキス投与群の血漿中アントシアニン濃度の経時的変化を比較した(
図1、表3-1~表3-3)。圧搾処理物抽出エキス投与群では、経口投与後6時間経過しても血漿中アントシアニン濃度は増加をし続けた。また、AUC
0-6は、従来法による抽出エキス投与群よりも圧搾処理物抽出エキス投与群の方が統計的有意に高値であった(表3-1)。
【0054】
【0055】
圧搾処理物抽出エキス投与群では、各個体のCmaxが、従来法による抽出エキス投与群と比較して高かった。また、圧搾処理物抽出エキス投与群のAUC0-6は従来法による抽出エキス投与群と比較して2倍以上高い値を示し、かつこの差は統計的有意であった(表3-1参照)こと、およびCmaxが約2倍(個体間では最大6倍)に増加したことから、圧搾処理物抽出エキスは、従来法による抽出エキスよりも、投与後のアントシアニンの吸収性が良い可能性が示唆された。また、従来法による抽出エキス投与群では、Cmaxがとりわけ低い個体(No.3)が認められたが、圧搾処理物抽出エキスでは、個体間のばらつきの少ない安定したCmaxを達成した。このように、解重合アントシアニンを多く含むと考えられる圧搾処理物抽出エキスは、経口投与によって血中アントシアニンの濃度を高めやすいという特徴を示す。
【0056】
各種ビルベリーエキスの有機酸含有量を分析した。具体的には、試料0.050g~0.060gを秤量皿で量りとり、ロートを置いた50mLメスフラスコに移し、10%メタノール水溶液10mLを4回繰り返し加え、超音波洗浄機で5分間混合した。その後、10%メタノール水溶液を加え定容した。この一部を適宜希釈し、0.45μmメンブレンフィルターに通した後、バイアル瓶に移し、試験溶液とした。次に、有機酸含有量測定は、液体クロマトグラフィー装置(NexeraX2、島津製作所)及び質量分析計(LCMS-8050、島津製作所)を用いて実施した。カラムはShigma F5(250×2.1mm, 5μm)(島津製作所)を使用し、カラムオーブンは30℃とした。カラム流量は0.2mL/minで、移動相A(0.2%ギ酸水溶液)、移動相B(0.2%ギ酸含有アセトニトリル)のグラディエント条件(0.00分(A100%,B:0%)、2.00分(A100%,B:0%)、5.00分(A75%,B:25%)、11.00分(A65%,B:35%)、15.00分(A5%,B:95%)、18.00分(A5%,B:95%)、18.01分(A100%,B:0%)、30.00分(A100%,B:0%))で測定した。サンプルクーラーは4℃に設定し、サンプルは2μL注入した。質量分析計(エレクトロスプレー法:ESI)のネブライザー流量は3L/min、ヒーティングガス流量は10L/分、DL温度は200℃、ヒートブロック温度は300℃、ドライングガス流量は10L/分に設定した。各有機酸の定量は、有機酸混合標準溶液を用いて行った。各有機酸標準品より、各々標準原液を調製し、各標準原液を混合したものを有機酸混合標準溶液とし、その検量線から定量値を算出した。結果は、表4-1および4-2に示される通りであった。
【0057】
【0058】
表4-1に示されるように、ビルベリーの冷凍果実を圧搾して得られた圧搾処理物においては、有機酸含量が大きく低減している。このことは、圧搾によって有機酸が除去されたことを意味する。また、表4-2に示されるように、圧搾処理物抽出エキスにおいては、従来法による抽出エキスよりも、酒石酸、キナ酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、没食子酸、およびクロロゲン酸含有量が低減されていた。圧搾による圧搾処理物調製工程において有機酸が除去されたと共に、圧搾処理物の酸処理によって、アントシアニンと有機酸との結合が破壊され、これにより夾雑物としての有機酸の有効な除去を可能としたと考えられる。これに対して、圧搾処理物抽出エキスには、アントシアニンが高濃度で含まれていたことから、圧搾や酸処理によってアントシアニンは減少しにくいという点は圧搾処理物抽出エキスの利点として注目されるべきである。
【0059】
アントシアニンは、有機酸(例えば、クロロゲン酸等)と組み合わさることで色味を増す。この現象は分子内コピグメントによる。圧搾処理物抽出エキスでは、有機酸含量が減少し、従来法による抽出エキスよりも、コピグメントの形成を10~50%未満に画期的に低減させている。特にアントシアニン重量:総有機酸重量比に関して、圧搾処理物抽出エキスでは、従来法による抽出エキスと比較して約1/3にまで低減した。
【0060】
イオン交換樹脂への吸着物中のアントシアニン純度において、従来では最大でも45%程度であったところ、圧搾処理物抽出エキスにおいては約60%の純度を認めた。この結果は、溶液中の有機酸は、アントシアニンと有機酸との会合体(分子間コピグメンテーションや分子内コピグメンテーション)などの分子内または分子間で重合したアントシアニン生成の原因となり得る。圧搾工程によって有機酸を含む水分を除去することが、その後の工程における、分子間コピグメンテーションや分子内コピグメンテーションの再形成の低減に繋がっていると考えられる。また、水分除去で取り除かれなかった有機酸に関しても、その後の酸処理によって、アントシアニンからの乖離が促進されることによって、有機酸とのアントシアニンとの会合体を低減させている(解重合させている)。その上で、イオン交換樹脂には、分子量が低いアントシアニン(解重合アントシアニン)が優先的に結合し、有機酸との分子内または分子間結合を含むアントシアニンの結合性は低い。このことが、圧搾処理物抽出エキスにおいては、解重合アントシアニンの含量が増加したことの理由となっていると考えられる。このように圧搾処理物抽出エキスにおいては、有機酸濃度が低減されており、アントシアニンによるコピグメントの形成率が画期的に低く、かつ解重合した単分子のアントシアニンの含量に関して、従来法による抽出エキスよりも高まっていると考えられる。インビボ投与試験の結果からは、圧搾処理物抽出エキス投与群においてCmaxおよびAUCが高かった。この結果は、解重合アントシアニンの収量の増加は、腸管におけるアントシアニンの吸収性の向上に寄与したことを示唆するものである。実験で用いられたアントシアニン溶液中では、アントシアニンは濃色化しており、自己会合アントシアニンを形成していると考えられる。自己会合アントシアニン含量を増加させること(または分子内または分子間コピグメンテーションを減少させること)は、アントシアニンの腸吸収性や血中濃度を改善し得ることもまた、明らかになった。
【0061】
本発明に方法によれば、ビルベリー果実からアントシアニンを大量に抽出できるだけでなく、抽出されるアントシアニンは解重合型の比率が高く生体への利用性が向上していることが明らかとなった。