(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡および対物レンズ
(51)【国際特許分類】
H01J 37/141 20060101AFI20230705BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230705BHJP
H01J 37/18 20060101ALI20230705BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
H01J37/141 A
H01J37/28 B
H01J37/18
H01J37/244
(21)【出願番号】P 2021113476
(22)【出願日】2021-07-08
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】中村 元弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛之
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-075264(JP,A)
【文献】特開2017-199606(JP,A)
【文献】特開2008-146890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00 - 37/36
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された電子線を集束して試料に照射する対物レンズと、
前記試料が収容される試料室と、
を含み、
前記対物レンズは、
内側磁極と、
前記内側磁極の外側に配置され、前記試料室に面する外側磁極と、
前記内側磁極および前記外側磁極を貫通する貫通孔を塞ぐ蓋部材と、
を含み、
前記対物レンズは、前記内側磁極と前記外側磁極との間の開口から前記試料にむけて磁場を漏洩させ、
前記試料室の真空度は、前記内側磁極の内側の電子線の経路となる空間の真空度よりも低
く、
前記空間には、電極が設けられ、
前記蓋部材には、前記電極に電圧を供給する端子が設けられている、走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記空間と前記試料室との間に設けられたオリフィスを含む、走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記試料室は、低真空である、走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記貫通孔に配置された検出器を含み、
前記蓋部材には、前記検出器が挿入される挿入孔が設けられている、走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記貫通孔は、複数設けられ、
複数の前記貫通孔は、光軸に関して対称に設けられている、走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記貫通孔は、4つ設けられ、
4つの前記貫通孔は、光軸まわりに互いに90°間隔で設けられている、走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記蓋部材の材質は、樹脂である、走査電子顕微鏡。
【請求項8】
走査電子顕微鏡の対物レンズであって、
内側磁極と、
前記内側磁極の外側に配置された外側磁極と、
前記内側磁極および前記外側磁極を貫通する貫通孔を塞ぐ蓋部材と、
を含み、
前記内側磁極と前記外側磁極との間の開口から試料にむけて磁場を漏洩さ
せ、
前記内側磁極の内側の電子線の経路となる空間には、電極が設けられ、
前記蓋部材には、前記電極に電圧を供給する端子が設けられている、対物レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡および対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡は、電子線で試料を走査し、試料から放出された二次電子や反射電子を検出し、試料像を取得する装置である。
【0003】
走査電子顕微鏡では、一般的に内部が高真空に保たれているが、例えば、特許文献1に示すように電子銃および電子光学系を高真空に保ちつつ、試料室を低真空にして試料を観察できる低真空走査電子顕微鏡が注目されている。低真空走査電子顕微鏡では、例えば、絶縁物や、含水試料、ガスの放出が多い試料などを観察できる。
【0004】
ここで、走査電子顕微鏡の対物レンズには、様々な種類がある。例えば、特許文献2には、内側磁極と外側磁極を有し、内側磁極と外側磁極との間から漏洩した磁場中に試料が配置されるセミインレンズ型の対物レンズが開示されている。セミインレンズ型の対物レンズでは、試料から放出された電子は対物レンズの漏洩磁場によって、対物レンズ内に吸い上げられ、光軸に沿って上方に導かれる。そのため、セミインレンズ型の対物レンズでは、試料から放出された電子は、対物レンズを貫通する貫通孔に挿入された検出器で検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-285485号公報
【文献】特開2018-147764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セミインレンズ型の対物レンズを備えた走査電子顕微鏡では、上記のように対物レンズに貫通孔が設けられているため、対物レンズの内側の空間が貫通孔を介して試料室と連通する。したがって、試料室を低真空にした場合、高真空が必要な電子銃室や対物レンズの内側の電子線の経路となる空間まで低真空となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る走査電子顕微鏡の一態様は、
電子線を放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された電子線を集束して試料に照射する対物レンズと、
前記試料が収容される試料室と、
を含み、
前記対物レンズは、
内側磁極と、
前記内側磁極の外側に配置され、前記試料室に面する外側磁極と、
前記内側磁極および前記外側磁極を貫通する貫通孔を塞ぐ蓋部材と、
を含み、
前記対物レンズは、前記内側磁極と前記外側磁極との間の開口から前記試料にむけて磁場を漏洩させ、
前記試料室の真空度は、前記内側磁極の内側の電子線の経路となる空間の真空度よりも低く、
前記空間には、電極が設けられ、
前記蓋部材には、前記電極に電圧を供給する端子が設けられている。
【0008】
このような走査電子顕微鏡では、内側磁極および外側磁極を貫通する貫通孔が蓋部材で塞がれているため、試料室の真空度を内側磁極の内側の空間の真空度よりも低くしても、当該空間を高真空に保つことができる。そのため、試料室を低真空にして、試料を観察できる。
【0009】
本発明に係る対物レンズの一態様は、
走査電子顕微鏡の対物レンズであって、
内側磁極と、
前記内側磁極の外側に配置された外側磁極と、
前記内側磁極および前記外側磁極を貫通する貫通孔を塞ぐ蓋部材と、
を含み、
前記内側磁極と前記外側磁極との間の開口から試料にむけて磁場を漏洩させ、
前記内側磁極の内側の電子線の経路となる空間には、電極が設けられ、
前記蓋部材には、前記電極に電圧を供給する端子が設けられている。
【0010】
このような対物レンズでは、内側磁極および外側磁極を貫通する貫通孔が蓋部材で塞がれているため、試料室の真空度を内側磁極の内側の空間の真空度よりも低くしても、当該空間を高真空に保つことができる。そのため、試料室を低真空にして、試料を観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る走査電子顕微鏡の構成を示す図。
【
図4】二次電子が検出器で検出される様子を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 走査電子顕微鏡
まず、本発明の一実施形態に係る走査電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る走査電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0014】
走査電子顕微鏡100は、電子線(電子プローブ)で試料Sを走査し、試料Sから放出された二次電子や反射電子を検出し、試料像を取得する装置である。走査電子顕微鏡100は、
図1に示すように、鏡筒2と、試料室4と、電子銃10と、コンデンサーレンズ20と、走査コイル30と、対物レンズ40と、検出器50と、三次電子生成機構60と、バルブ80と、バルブ82と、バルブ84と、真空排気系90と、真空排気装置92と、を含む。
【0015】
電子銃10は、電子線を放出する。電子銃10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速して電子線を放出する。電子銃10は、鏡筒2内の電子銃室3に収容されている。
【0016】
コンデンサーレンズ20は、電子銃10から放出された電子線を集束する。コンデンサーレンズ20によって、電子プローブの径や、プローブ電流を制御できる。
【0017】
対物レンズ40は、電子線を集束して、電子プローブを形成する。対物レンズ40の詳
細については後述する。
【0018】
走査コイル30は、コンデンサーレンズ20および対物レンズ40によって形成された電子プローブを二次元的に偏向させる。走査コイル30で電子プローブを二次元的に偏向させることによって、電子プローブで試料Sを走査できる。
【0019】
コンデンサーレンズ20、走査コイル30、および対物レンズ40は、電子プローブを形成し、電子プローブで試料Sを走査するための電子光学系を構成している。電子光学系は、コンデンサーレンズ20、走査コイル30、および対物レンズ40以外のレンズや、絞りなどの光学素子を含んでいてもよい。
【0020】
検出器50は、電子線が照射されることによって試料Sで発生した電子を検出する。検出器50は、例えば、試料Sで発生した二次電子を検出する二次電子検出器である。検出器50は、例えば、高電圧が印加されたコロナリングと、電子が入射するシンチレーターと、シンチレーターの光を電子信号に変換する光電子増倍管と、を含む。
【0021】
三次電子生成機構60は、試料Sから放出された電子が衝突する金属板を含む。走査電子顕微鏡100では、電子線が照射されることによって試料Sから放出された、高エネルギーの電子を、金属板に衝突させて二次電子を発生させ、この二次電子を検出器50で検出することができる。
【0022】
試料室4には、試料Sが収容される。試料室4には、バルブ80、バルブ82、およびバルブ84が接続されている。バルブ80は、排気管81を介して、真空排気系90に接続されている。バルブ80を開くことで、試料室4が真空排気される。真空排気系90によって、電子銃室3を含む鏡筒2内の電子線の経路となる空間や、試料室4を高真空に排気できる。バルブ82は、真空排気装置92に接続されている。真空排気装置92は、例えば、ロータリーポンプである。バルブ84は、試料室4にガスを導入するためのリークバルブである。バルブ84の開度を調整することによって、試料室4を所望の真空度(圧力)に調整できる。
【0023】
走査電子顕微鏡100では、試料室4の圧力を数Paから数百Pa程度の低真空にして、試料Sを観察できる。試料室4を低真空にする場合、バルブ80と閉じ、バルブ82およびバルブ84を制御することによって、試料室4を低真空にできる。
【0024】
2. 対物レンズ
図2は、対物レンズ40を模式的に示す断面図である。
図3は、対物レンズ40を試料室側から見た模式図である。
【0025】
対物レンズ40は、
図2および
図3に示すように、内側磁極402と、外側磁極404と、コイル406と、第1蓋部材410aと、第2蓋部材410bと、第3蓋部材410cと、第4蓋部材410dと、を含む。対物レンズ40は、内側磁極402と外側磁極404との間の開口8から試料Sにむけて磁場を漏洩させるセミインレンズ型の対物レンズである。
【0026】
内側磁極402は、外側磁極404の内側に配置されている。内側磁極402の内側の空間6は、電子線の経路となる。対物レンズ40の光軸OAは、空間6を通る。電子線は、空間6を光軸OAに沿って通過し、試料Sに照射される。
【0027】
外側磁極404は、内側磁極402の外側に配置されている。外側磁極404の外面405は、試料室4に面している。
【0028】
内側磁極402および外側磁極404は、磁路を形成する。内側磁極402および外側磁極404は、コイル406でつくられた磁力線を閉じ込め、内側磁極402と外側磁極404との間の開口(隙間)8から試料Sに向けて磁場を漏洩させる。そのため、走査電子顕微鏡100では、試料Sは対物レンズ40が漏洩させた磁場中に置かれる。
【0029】
コイル406は、磁場を発生させる。コイル406は、内側磁極402と外側磁極404に囲まれた空間に配置されている。コイル406は、光軸OAを中心とする円に沿って巻かれている。コイル406に電流を流すと、内側磁極402および外側磁極404に磁束が形成され、開口8から磁場が漏洩する。
【0030】
対物レンズ40の先端には、加速電極420が設けられている。加速電極420は、不図示の絶縁層を介して、内側磁極402の先端に取り付けられている。加速電極420には、電子線を通過させるための貫通孔が設けられている。
【0031】
加速電極420は、試料Sから放出された電子を空間6に導くための電界を形成する。走査電子顕微鏡100では、試料Sから放出された電子は、対物レンズ40が漏洩させた磁場に拘束される。加速電極420は、対物レンズ40が漏洩させた磁場に拘束された電子を空間6に導く。試料Sから放出された電子は、加速電極420の貫通孔を通って空間6に導かれる。
【0032】
加速電極420は、空間6と試料室4との間に配置されている。加速電極420は、空間6と試料室4との間で圧力差を保つためのオリフィスとしても機能する。そのため、空間6を高真空に保ちつつ、試料室4を低真空にできる。
【0033】
空間6には、減速電極422が配置されている。減速電極422は、検出器50よりも上方、すなわち、電子銃10側に配置されている。減速電極422は、加速電極420によって空間6に導かれた電子が上方へ進むことを防ぐ。走査電子顕微鏡100では、加速電極420および減速電極422によって、試料Sから放出された電子が検出器50に導かれる。なお、図示はしないが、空間6には、試料Sから放出された電子を検出器50に導くためのその他の電極が設けられていてもよい。
【0034】
対物レンズ40には、内側磁極402と外側磁極404を貫通する貫通孔が設けられている。
図4に示すように、対物レンズ40には、内側磁極402と外側磁極404を貫通する貫通孔が複数設けられている。図示の例では、第1貫通孔408a、第2貫通孔408b、第3貫通孔408c、および第4貫通孔408dが設けられている。
【0035】
第1貫通孔408aは、内側磁極402の内面403と、外側磁極404の外面405と、を接続している。すなわち、第1貫通孔408aの一方の開口は、内側磁極402の内面403に設けられ、第1貫通孔408aの他方の開口は、外側磁極404の外面405に設けられている。内側磁極402の内面403は、電子線が通過する空間6を規定する面である。外側磁極404の外面405は、試料室4に面する面である。
【0036】
第2貫通孔408b、第3貫通孔408c、および第4貫通孔408dも同様に、内側磁極402の内面403と、外側磁極404の外面405と、を接続している。
【0037】
複数の貫通孔は、光軸OAに関して対称に設けられている。第1貫通孔408a、第2貫通孔408b、第3貫通孔408c、および第4貫通孔408dは、光軸OAまわりに互いに90°間隔に設けられている。
【0038】
第1貫通孔408aの中心軸は、例えば、光軸OAと直交する。第2貫通孔408b、
第3貫通孔408c、および第4貫通孔408dについても同様に、それぞれの中心軸は、光軸OAに直交する。なお、第1貫通孔408aの中心軸は、光軸OAと直交していなくてもよい。
【0039】
第1貫通孔408aには、検出器50が挿入されている。第2貫通孔408bには、三次電子生成機構60が挿入されている。第3貫通孔408cには、電圧供給用の端子70が挿入されている。第4貫通孔408dには、電圧供給用の端子72が挿入されている。端子70および端子72は、空間6に配置された加速電極420、減速電極422、および空間6に配置されたその他の電極に電圧を供給するための端子である。
【0040】
第1貫通孔408aは、第1蓋部材410aで塞がれている。第1蓋部材410aは、第1貫通孔408aの外側磁極404の外面405に設けられた開口を塞いている。第1蓋部材410aには、第1蓋部材410aを貫通する挿入孔が設けられており、当該挿入孔に検出器50が挿入されている。第1蓋部材410aによって、検出器50と外側磁極404との間の隙間が塞がれている。
【0041】
第2貫通孔408bは、第2蓋部材410bで塞がれている。第2蓋部材410bは、第2貫通孔408bの外側磁極404の外面405に設けられた開口を塞いている。第2蓋部材410bには、第2蓋部材410bを貫通する挿入孔が設けられており、当該挿入孔に三次電子生成機構60が挿入されている。第2蓋部材410bによって、三次電子生成機構60と外側磁極404との間の隙間が塞がれている。
【0042】
第3貫通孔408cは、第3蓋部材410cで塞がれている。第3蓋部材410cは、第3貫通孔408cの外側磁極404の外面405に設けられた開口を塞いている。第3蓋部材410cには、端子70が設けられている。端子70は、空間6の気密を保ったまま、外部から空間6に収容された電極に電圧を供給できる端子である。図示はしないが、端子70と電極とを接続するケーブルは、第3貫通孔408cを通って、電極に接続される。
【0043】
第4貫通孔408dは、第4蓋部材410dで塞がれている。第4蓋部材410dは、第4貫通孔408dの外側磁極404の外面405に設けられた開口を塞いている。第4蓋部材410dには、端子72が設けられている。端子72は、空間6の気密を保ったまま、外部から空間6に収容された電極に電圧を供給できる端子である。図示はしないが、端子72と電極とを接続するケーブルは、第4貫通孔408dを通って、電極に接続される。
【0044】
第1蓋部材410aの材質は、非磁性の材料であり、例えば、樹脂である。第1蓋部材410aの材質は、例えば、ジュラコン(登録商標)である。第2蓋部材410bの材質、第3蓋部材410cの材質、および第4蓋部材410dの材質は、第1蓋部材410aの材質と同じである。
【0045】
なお、上記では、対物レンズ40に貫通孔が4つ設けられている場合について説明したが、対物レンズ40に設けられる貫通孔の数は特に限定されない。
【0046】
3. 走査電子顕微鏡の動作
走査電子顕微鏡100では、試料室4を低真空にして、試料SのSEM像を取得できる。以下では、検出器50で試料Sから放出された二次電子を検出する場合について説明する。
【0047】
走査電子顕微鏡100では、電子銃室3および対物レンズ40の内側の空間6を含む鏡
筒2内の電子線の経路となる空間が排気管81を介して真空排気系90で真空排気されている。そのため、鏡筒2内の空間は、高真空に維持されている。鏡筒2内の空間の圧力は、例えば、1×10-1Pa程度である。
【0048】
この状態で、排気管81に接続されたバルブ80を閉じて、バルブ82およびバルブ84を制御することによって、試料室4の真空度(圧力)を調整し、試料室4を低真空にする。例えば、バルブ82を開いて真空排気装置92で試料室4を真空排気しながら、バルブ84の開度を調整して大気または不活性ガスなどを試料室4に導入し、試料室4の真空度を制御する。これにより、試料室4の真空度を、鏡筒2内の空間の真空度よりも低くする。試料室4の圧力は、例えば、数Paから数百Pa程度である。
【0049】
空間6と試料室4との間には、オリフィスとして機能する加速電極420が配置されている。そのため、電子線を通過させつつ、空間6と試料室4との圧力差を保つことができる。これにより、試料室4を低真空に維持できる。
【0050】
鏡筒2内の空間を高真空とし、試料室4を低真空とした状態で、電子銃10から電子線を放出させ、コンデンサーレンズ20および対物レンズ40で電子プローブを形成し、走査コイル30で電子線を偏向させることによって、電子プローブで試料Sを走査する。電子銃室3に収容された電子銃10から放出された電子線は、対物レンズ40内の空間6、および加速電極420の孔を通過して、試料Sに照射される。
【0051】
図4は、試料Sから放出された二次電子SEが検出器50で検出される様子を模式的に示す図である。
【0052】
試料Sに電子線が照射されることによって試料Sから放出された二次電子SEは、対物レンズ40がつくる磁場Mによって光軸OA上に集められる。光軸OA上に集められた電子は、加速電極420がつくる電場E1により、加速電極420の孔(オリフィスの孔)を通って、対物レンズ40内の空間6に導かれる。対物レンズ40内の空間6に導かれた二次電子SEは、減速電極422がつくる電場E2によって、上方への進行が妨げられる。
【0053】
検出器50は、コロナリングを備えており、対物レンズ40内の二次電子SEは、コロナリングがつくる電界E3に引き寄せられ、シンチレーターに衝突する。電子がシンチレーターに衝突することによって発生した光は、光電子増倍管によって電気信号に変換される。このようにして、試料Sから発生した二次電子SEを検出することができる。
【0054】
電子プローブで試料Sを走査し、各照射位置における二次電子の強度を検出することによって、SEM像を取得できる。
【0055】
4. 効果
走査電子顕微鏡100では、対物レンズ40は、内側磁極402と、内側磁極402の外側に配置され、試料室4に面する外側磁極404と、内側磁極402および外側磁極404を貫通する第1貫通孔408aを塞ぐ第1蓋部材410aと、を含む。また、対物レンズ40は、内側磁極402と外側磁極404との間の開口8から試料Sにむけて磁場Mを漏洩させ、試料室4の真空度は、内側磁極402の内側の電子線の経路となる空間6の真空度よりも低い。
【0056】
このように走査電子顕微鏡100では、内側磁極402および外側磁極404を貫通する第1貫通孔408aが第1蓋部材410aで塞がれているため、試料室4の真空度を、空間6の真空度よりも低くしても、空間6を高真空に保つことができる。そのため、試料
室4を低真空とし、かつ、空間6および電子銃室3を含む鏡筒2内の空間を高真空として、試料Sを観察できる。
【0057】
走査電子顕微鏡100は、空間6と試料室4との間に設けられたオリフィス(加速電極420)を含む。そのため、走査電子顕微鏡100では、電子線を通過させつつ、空間6と試料室4との圧力差を保つことができる。
【0058】
走査電子顕微鏡100では、第1貫通孔408aに配置された検出器50を含み、第1蓋部材410aには、検出器50が挿入される挿入孔が設けられている。そのため、走査電子顕微鏡100では、空間6と試料室4との間の圧力差を保ちつつ、検出器50を空間6に配置できる。
【0059】
走査電子顕微鏡100では、対物レンズ40には、貫通孔が複数設けられ、複数の貫通孔は光軸OAに関して対称に設けられている。
図3に示す例では、貫通孔は、4つ設けられ、光軸OAまわりに互いに90°間隔で設けられている。そのため、走査電子顕微鏡100では、貫通孔が設けられることによって、対物レンズ40を通過する電子線に与える影響を低減できる。例えば、複数の貫通孔が非対称に設けられている場合、対物レンズ40の非対称性によって、非点収差が生じる場合がある。複数の貫通孔を対称に設けることによって非点収差を低減できる。
【0060】
走査電子顕微鏡100では、第1蓋部材410aの材質は、樹脂である。そのため、試料Sから放出される電子に磁気的な影響を与えない。ここで、走査電子顕微鏡100の対物レンズ40は、内側磁極402と外側磁極404との間の開口8から試料Sにむけて磁場を漏洩させるセミインレンズ型の対物レンズである。このように、対物レンズ40は開口8から磁場を漏洩させるため、試料Sから放出された電子は開口8から漏れる磁場Mによって拘束される。そのため、第1蓋部材410aが樹脂であっても、試料Sから放出された電子によって第1蓋部材410aが帯電しない。したがって、走査電子顕微鏡100では、空間6と試料室4との圧力差を保ちつつ、正常なSEM像を得ることができる。仮に、第1蓋部材410aが帯電すると、電子線の軌道が曲がり、正常なSEM像を得ることができない。
【0061】
ここでは、第1蓋部材410aを樹脂にする効果について説明したが、第2蓋部材410b、第3蓋部材410c、および第4蓋部材410dを樹脂にした場合についても同様である。
【0062】
走査電子顕微鏡100では、空間6には減速電極422が設けられ、第3蓋部材410cには、減速電極422に電圧を供給する端子70が設けられている。そのため、走査電子顕微鏡100では、空間6と試料室4との圧力差を保ちつつ、減速電極422に電圧を供給できる。
【0063】
5. 変形例
図5は、走査電子顕微鏡100の構成の変形例を示す図である。以下、
図5に示す走査電子顕微鏡において、上述した
図1~
図3に示す走査電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0064】
上述した走査電子顕微鏡100では、検出器50が第1貫通孔408aに挿入されていたが、
図5に示すように検出器50が対物レンズ40の上方に配置されていてもよい。このとき、第1貫通孔408aには、検出器などは配置されていない。第1貫通孔408aは、第1蓋部材410aで塞がれている。第2貫通孔408bも同様に、内部には検出器などは配置されておらず、第2貫通孔408bは第2蓋部材410bで塞がれている。
【0065】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0066】
2…鏡筒、3…電子銃室、4…試料室、6…空間、8…開口、10…電子銃、20…コンデンサーレンズ、30…走査コイル、40…対物レンズ、50…検出器、60…三次電子生成機構、70…端子、72…端子、80…バルブ、81…排気管、82…バルブ、84…バルブ、90…真空排気系、92…真空排気装置、100…走査電子顕微鏡、402…内側磁極、403…内面、404…外側磁極、405…外面、406…コイル、408a…第1貫通孔、408b…第2貫通孔、408c…第3貫通孔、408d…第4貫通孔、410a…第1蓋部材、410b…第2蓋部材、410c…第3蓋部材、410d…第4蓋部材、420…加速電極、422…減速電極