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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】ガス栓の固着防止構造
(51)【国際特許分類】
   F16K 5/02 20060101AFI20230706BHJP
【FI】
F16K5/02 Z
F16K5/02 E
F16K5/02 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019058485
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159437
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000151977
【氏名又は名称】株式会社藤井合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100111257
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100110504
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 良雄
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-317005(JP,A)
【文献】特開昭63-038773(JP,A)
【文献】特公昭48-013505(JP,B1)
【文献】実開昭59-169466(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 5/02 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス通路に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面を有するせん収容部を備えたガス栓本体と、
前記せん収容部内に回動自在に収容されると共に前記テーパ状内周面に摺動可能なテーパ状外周面を有するせんと、
前記せん収容部の一方開放端に抜け止め状態に取り付けられると共にせんを回動させてガス通路を開閉させる操作つまみと、
前記せんを前記せん収容部の中底側へ付勢する付勢手段とからなるガス栓において、
前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に設けられる空間に突出するように、前記せんの底面又は前記せん収容部の中底に、せん降下規制部材を設け、
ガス栓の組み立て完了後の最終押込み状態にある前記せんの底面と前記せん降下規制部材との間、又は、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に、微小空間が形成されるようにしたガス栓の固着防止構造であって、
ガス栓の組み付け時に、前記最終押込み状態にあるせんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させ、
前記微小空間は、前記薄板を取り外すことにより形成されるようにし
前記せん降下規制部材は、前記せんの底面に設けた孔部に軸線方向に進退移動可能に圧入されるものとし、
ガス栓の組み立て完了後にて、前記せん降下規制部材の突出端が前記微小空間を介して前記せん収容部の中底に対向するように、前記せん降下規制部材を前記孔部から所定長さ突出させた状態が、せん降下規制部材の最終圧入状態とし、
前記最終圧入状態における孔部とせん降下規制部材との結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されているガス栓の固着防止構造。
【請求項2】
ガス通路に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面を有するせん収容部を備えたガス栓本体と、
前記せん収容部内に回動自在に収容されると共に前記テーパ状内周面に摺動可能なテーパ状外周面を有するせんと、
前記せん収容部の一方開放端に抜け止め状態に取り付けられると共にせんを回動させてガス通路を開閉させる操作つまみと、
前記せんを前記せん収容部の中底側へ付勢する付勢手段とからなるガス栓において、
前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に設けられる空間に突出するように、前記せんの底面又は前記せん収容部の中底に、せん降下規制部材を設け、
ガス栓の組み立て完了後の最終押込み状態にある前記せんの底面と前記せん降下規制部材との間、又は、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に、微小空間が形成されるようにしたガス栓の固着防止構造であって、
ガス栓の組み付け時に、前記最終押込み状態にあるせんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させ、
前記微小空間は、前記薄板を取り外すことにより形成されるようにし、
前記せん降下規制部材は、前記せん収容部の中底に設けた孔部に軸線方向に進退移動可能に圧入されるものとし、
ガス栓の組み立て完了後にて、前記せん降下規制部材の突出端が前記微小空間を介して前記せんの底面に対向するように、前記せん降下規制部材を前記孔部から所定長さ突出させた状態が、せん降下規制部材の最終圧入状態とし、
前記最終圧入状態における孔部とせん降下規制部材との結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されているガス栓の固着防止構造。
【請求項3】
ガス通路に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面を有するせん収容部を備えたガス栓本体と、
前記せん収容部内に回動自在に収容されると共に前記テーパ状内周面に摺動可能なテーパ状外周面を有するせんと、
前記せん収容部の一方開放端に抜け止め状態に取り付けられると共にせんを回動させてガス通路を開閉させる操作つまみと、
前記せんを前記せん収容部の中底側へ付勢する付勢手段とからなるガス栓において、
前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に設けられる空間に突出するように、前記せんの底面又は前記せん収容部の中底に、せん降下規制部材を設け、
ガス栓の組み立て完了後の最終押込み状態にある前記せんの底面と前記せん降下規制部材との間、又は、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に、微小空間が形成されるようにしたガス栓の固着防止構造であって、
ガス栓の組み付け時に、前記最終押込み状態にあるせんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させ、
前記微小空間は、前記薄板を取り外すことにより形成されるようにし、
前記せん降下規制部材は、孔部を有する環状板と、前記孔部に圧入される軸体からなり、
ガス栓の組み立て完了後にて、前記軸体又は環状板のどちらか一方の一端面が前記せんの底面又はせん収容部の中底のどちらか一方に対接すると共に、前記軸体又は環状板のどちらか他方の他端面が前記せんの底面又はせん収容部の中底のどちらか他方に前記微小空間を介して対向させた状態が、環状板の孔部に対する軸体の最終圧入状態とし、
前記最終圧入状態における前記環状板と軸体の結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されているガス栓の固着防止構造。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のガス栓の固着防止構造において、
前記せん降下規制部材は、前記孔部に圧入可能なスプリングピンとしたガス栓の固着防止構造。
【請求項5】
請求項に記載のガス栓の固着防止構造において、
前記軸体は、前記孔部に圧入可能なスプリングピンとしたガス栓の固着防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス栓の固着防止構造、特に、せん収容部内でせんの固着を防止するガス栓の固着防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス栓として、図10に示すように、ガス流路(31a)に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面(35)を有するせん収容部(30)とせん収容部(30)の前記一方開放端に延設された円筒部(33)とからガス栓本体(31)が構成され、せん収容部(30)内に回動可能に収容されるせん(3)は、テーパ状内周面(35)に対して摺動可能なテーパ状外周面(36)を有する逆円錐台形状とし、円筒部(33)に、せん(3)を回動操作するための操作つまみ(2)が回動自在に取り付けられているものがある。
同図は、せん(3)を貫通するガス通過孔(3a)がガス通路(31a)に連通するガス栓の全開状態を示しており、この状態から、操作つまみ(2)をせん(3)と共に90度回動させると、ガス流路(31a)がせん(3)によって閉塞される全閉状態となる。
また、操作つまみ(2)の裏面と、せん(3)の頂面中央との間には、せん(3)をせん収容部(30)内に押し込んだ状態で保持するための押えバネ(4)が圧縮された状態で介在されており、せん(3)は、押えバネ(4)の付勢力によって、せん収容部(30)内に押し込まれた状態で収容されている。このとき、せん(3)は、その底面がせん収容部(30)の中底から、所定高さの空間を介して、浮き上がった状態にて、せん収容部(30)のテーパ状内周面(35)がせん(3)のテーパ状外周面(36)に摺動可能に圧接する寸法関係に設定されている。
【0003】
特許文献1に開示されているものは、ガス栓本体(31)及びせん(3)は共に鋳鉄製とし、せん(3)のテーパ状外周面(36)又はこれが摺接するせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)のどちらか、又は、これらの双方に、ニッケル又はニッケル合金めっき被膜中にフッ素樹脂粒子が均一に分散した複合めっき被膜を形成させている。これにより、せん(3)のテーパ状外周面(36)とせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)からなる摺動面は自己潤滑性を有することとなり、潤滑剤を供給しなくとも、優れた潤滑性、耐摩耗性を発揮する。
【0004】
なお、せん(3)とガス栓本体(31)とは同じ材質で構成されているから、同じように熱変形する。ガス栓が、温度変化の緩やかな環境下に置かれる場合では、ガス栓本体(31)とせん(3)は、共に、同じ膨張・収縮度合いで熱変形するため問題はない。しかしながら、例えば、業務用厨房で使用されるガス栓のように、飛散される熱湯や高温の油で直接加熱される環境下に置かれたガス栓では、せん(3)の外側のガス栓本体(31)のみが熱の影響を受けて温度が瞬間的に上昇し、ガス栓本体(31)とせん(3)とは、約40度~60度程度の温度差が生じてしまうことがある。
このような場合、先ず、ガス栓本体(31)が熱膨張し、せん収容部(30)が拡径するため、その内部に収容されており熱膨張していないせん(3)が、押えバネ(4)の付勢力によって、拡径されたせん収容部(30)の底側の前記空間内へ押し込まれてしまう。
【0005】
この状態で、ガス栓本体(31)が冷却されて収縮すると、せん(3)のテーパ状外周面(36)は、せん収容部(30)のテーパ状内周面(35)で加圧され強固に締め付けられることとなり、せん収容部(30)内でのせん(3)の回動は困難となる。このように、ガス栓本体(31)のみの膨張・収縮が繰り返し起こり、その都度、せん(3)がせん収容部(30)の底側へ押込まれていくと、操作つまみ(2)によるせん(3)のスムーズな回動操作が困難となり、ガス栓の開閉操作に支障を来すといった不都合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-341667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なお、ガス栓本体(31)とせん(3)の摺動面はテーパ面であるため、ガス栓本体(31)の熱膨張の後の収縮により、せん収容部(30)内に沈み込んだせん(3)のテーパ状外周面(36)が、せん収容部(30)のテーパ状内周面(35)で押されて、せん(3)は僅かに持ち上がる。しかしながら、その持ち上がり量は、せん(3)の降下量に比べて極めて小さく、せん(3)を元の位置にまで復帰させることが出来ない。よって、せん(3)はせん収容部(30)内にて強固に締め付けられた状態となる。
【0008】
本発明は、温度変化の著しい環境下に置かれることにより、ガス栓本体が熱膨張や収縮を繰り返しても、せん収容部にせんが沈み込んで固着するのを防止することが出来るガス栓の固着防止構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために講じた本発明の解決手段は、『ガス通路に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面を有するせん収容部を備えたガス栓本体と、
前記せん収容部内に回動自在に収容されると共に前記テーパ状内周面に摺動可能なテーパ状外周面を有するせんと、
前記せん収容部の一方開放端に抜け止め状態に取り付けられると共にせんを回動させてガス通路を開閉させる操作つまみと、
前記せんを前記せん収容部の中底側へ付勢する付勢手段とからなるガス栓において、
前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に設けられる空間に突出するように、前記せんの底面又は前記せん収容部の中底に、せん降下規制部材を設け、
ガス栓の組み立て完了後の最終押込み状態にある前記せんの底面と前記せん降下規制部材との間、又は、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に、微小空間が形成されるようにしたガス栓の固着防止構造であって、
ガス栓の組み付け時に、前記最終押込み状態にあるせんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させ、
前記微小空間は、前記薄板を取り外すことにより形成されるようにし
前記せん降下規制部材は、前記せんの底面に設けた孔部に軸線方向に進退移動可能に圧入されるものとし、
ガス栓の組み立て完了後にて、前記せん降下規制部材の突出端が前記微小空間を介して前記せん収容部の中底に対向するように、前記せん降下規制部材を前記孔部から所定長さ突出させた状態が、せん降下規制部材の最終圧入状態とし、
前記最終圧入状態における孔部とせん降下規制部材との結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されている』ことである。
【0010】
上記技術的手段は次のように作用する。
ガス栓の組み立て完了後には、せんはせん収容部内に、前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に所定高さの空間が形成された最終押込み状態で収容されるが、この空間内に突出するように、せん収容部の中底又はせんの底面に、せん降下規制部材が設けられている。そして、前記せん降下規制部材がせん収容部の中底に設けられている場合では、前記せん降下規制部材と前記せんの底面との間に微小空間が形成されるように、また、前記せん降下規制部材がせんの底面に設けられている場合では、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に微小空間が形成されるように、各々の寸法関係は設定されている。
ガス栓に熱湯や高温の油が掛かると、先ず、ガス栓本体が熱膨張することにより、せん収容部が拡径し、これにより、せんは、付勢手段の付勢力によって前記せん収容部の中底側に押し込まれるが、このとき、せんは、前記微小空間分だけ沈み、せんの底面又はせん収容部の中底に、せん降下規制部材が当接した時点でそれ以上沈まない。この状態では、せんのテーパ状外周面はせん収容部のテーパ状内周面に強く圧接されるまでには至っておらず、両者間には前記せん降下規制部材がなかった場合のせんの沈み込み量と前記微小空間との差に相当する極小隙間が一時的に生じる。
【0011】
その後、ガス栓本体の温度が降下し、せん収容部が縮径すると、せんのテーパ状外周面との間の前記極小隙間は消失するが、せん降下規制部材によって、せんのそれ以上の沈みは抑制されるから、せん収容部のテーパ状内周面がせんのテーパ状外周面を締め付ける力は、せん降下規制部材がない場合に比べて弱く、操作つまみの操作によってせんは回動可能状態に保持される。
操作つまみの回動操作を行うことにより、せんのテーパ状外周面が、せん収容部のテーパ状内周面に押されて、せんは、降下した分(微小空間分)上昇する。これにより、せんはせん収容部内にて、せん降下規制部材とせんの底面との間又はせん収容部の中底との間に前記微小空間が設けられた元の収容状態に復帰する。なお、この状態にて、せんには付勢手段によって所定の荷重が付加されているから、気密性は確保されると共に、操作つまみによる操作力は安定したものとなる。
【0012】
なお、ガス栓の組み付け時に、せんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させた状態で、せんのテーパ状外周面がせん収容部のテーパ状内周面に当接し加圧される最終押込み状態に達するまで、せんをせん収容部内に押し込む。
その後、せんと薄板をせん収容部から取り出し、せんにグリスを塗布した後、再度、せんをせん収容部内に前記最終押込み状態に達するまで収容すると共に、付勢手段を介して操作つまみを円筒部に抜け止め状態に取り付けてガス栓を組み付け完了状態とする。
なお、グリス膜を一定の安定した状態とするためには、テーパ状外周面にグリスが塗布されたせんをせん収容部に押し込む際に、せんの正逆回動を繰り返すとよい。さらには、ガス栓組み立て完了後に操作つまみによる開閉操作を行ったり、ガス栓設置後に開閉操作が行われてもよい。このようにガス栓の開閉操作を行うことにより、グリス膜は薄板より十分薄くなった安定した膜厚となり、せんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間には、薄板の肉厚分の隙間が形成されることとなる。この隙間が前記微小空間として機能する。

【0013】
さらに、せんの底面に設けた孔部にせん降下規制部材を軽く圧入させ、せんの底面から一定寸法突出させておく。他方、せん収容部の中底には、例えば、微小空間に相当する肉厚の薄板を載置しておき、その上から、せんの底面からせん降下規制部材を突出させたせんを収容する。せん降下規制部材の突出端が前記薄板に当接した後も、せんのテーパ状外周面がせん収容部のテーパ状内周面に当接して加圧される前記最終押込み状態に達するまでせんを押し込む。これにより、せん降下規制部材は薄板に押され、最終圧入状態に達するまで孔部に押し込まれる。
その後、せん及び薄板をせん収容部から取り除き、せんにグリスを塗布し、せんを再度せん収容部内に最終押込み状態に収容すると共に、付勢手段を介して、操作つまみをせん収容部の前記円筒部に抜け止め状態に取り付けて、ガス栓を組み立てる。
なお、グリス膜を一定の安定した状態とするためには、テーパ状外周面にグリスが塗布されたせんをせん収容部に押し込む際にせんの正逆回動を繰り返すとよい。さらにはガス栓組み立て完了後に操作つまみによる開閉操作を行ったり、ガス栓設置後に開閉操作が行われてもよい。このようにガス栓の開閉操作を行うことにより、グリス膜は薄板より十分薄くなった安定した膜厚となり、せんの底部から突出するせん降下規制部材とせん収容部の中底との間には、前記薄板の肉厚分の微小空間が形成されたガス栓が完成する。
前記孔部に対するせん降下規制部材の最終圧入状態における結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されているから、ガス栓本体の熱膨張によりせん収容部が拡径し、せん降下規制部材の突出端がせん収容部の中底側に当接しても、せん降下規制部材が、付勢手段による付勢力によって、それ以上孔部に押し込まれることはない。
【0014】
上記課題を解決するために講じた本発明の他の解決手段は、『ガス通路に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面を有するせん収容部を備えたガス栓本体と、
前記せん収容部内に回動自在に収容されると共に前記テーパ状内周面に摺動可能なテーパ状外周面を有するせんと、
前記せん収容部の一方開放端に抜け止め状態に取り付けられると共にせんを回動させてガス通路を開閉させる操作つまみと、
前記せんを前記せん収容部の中底側へ付勢する付勢手段とからなるガス栓において、
前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に設けられる空間に突出するように、前記せんの底面又は前記せん収容部の中底に、せん降下規制部材を設け、
ガス栓の組み立て完了後の最終押込み状態にある前記せんの底面と前記せん降下規制部材との間、又は、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に、微小空間が形成されるようにしたガス栓の固着防止構造であって、
ガス栓の組み付け時に、前記最終押込み状態にあるせんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させ、
前記微小空間は、前記薄板を取り外すことにより形成されるようにし、
前記せん降下規制部材は、前記せん収容部の中底に設けた孔部に軸線方向に進退移動可能に圧入されるものとし、
ガス栓の組み立て完了後にて、前記せん降下規制部材の突出端が前記微小空間を介して前記せんの底面に対向するように、前記せん降下規制部材を前記孔部から所定長さ突出させた状態が、せん降下規制部材の最終圧入状態とし、
前記最終圧入状態における孔部とせん降下規制部材との結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されている』ことである。
せん収容部の中底に設けた孔部にせん降下規制部材を軽く圧入させ、せん収容部の中底から一定寸法突出させておく。そして、前記せん降下規制部材の頂面に、例えば、上記したような所定肉厚の薄板を載置した状態で、せんをせん収容部内に収容する。せんの底面が、前記薄板を介してせん降下規制部材の突出端に当接した後も、せんのテーパ状外周面がせん収容部のテーパ状内周面に当接し加圧される前記最終押込み状態に達するまでせんを押し込むことにより、せん降下規制部材は薄板を介してせんの底面に押され、最終圧入状態に達するまで孔部に押し込まれる。
その後、せん及び薄板をせん収容部から取り除き、せんにグリスを塗布し、せんを再度せん収容部内に最終押込み状態に収容すると共に、付勢手段を介して、操作つまみをせん収容部の前記円筒部に抜け止め状態に取り付けて、ガス栓を組み立てる。
なお、グリス膜を安定した薄膜状態とするためには、テーパ状外周面にグリスが塗布されたせんをせん収容部に押し込む際にせんの正逆回動を繰り返すとよい。さらにはガス栓組み立て完了後に操作つまみによる開閉操作を行ったり、ガス栓設置後に開閉操作が行われてもよい。このようにガス栓の開閉操作を行うことにより、グリス膜は薄板より十分薄くなった安定した膜厚となり、せん収容部の中底から突出するせん降下規制部材とせんの底面との間には、前記薄板の肉厚分の微小空間が形成された状態のガス栓が完成する。
前記孔部に対するせん降下規制部材の最終圧入状態における結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されているから、ガス栓本体の熱膨張によりせん収容部が拡径し、せんの底面がせん降下規制部材の突出端に当接しても、せん降下規制部材は、付勢手段の付勢力によって、それ以上孔部に押し込まれることはない。
【0015】
上記課題を解決するために講じた本発明のさらに他の解決手段は、『ガス通路に連通し且つ一方開放端に向かって拡径するテーパ状内周面を有するせん収容部を備えたガス栓本体と、
前記せん収容部内に回動自在に収容されると共に前記テーパ状内周面に摺動可能なテーパ状外周面を有するせんと、
前記せん収容部の一方開放端に抜け止め状態に取り付けられると共にせんを回動させてガス通路を開閉させる操作つまみと、
前記せんを前記せん収容部の中底側へ付勢する付勢手段とからなるガス栓において、
前記せんの底面と前記せん収容部の中底との間に設けられる空間に突出するように、前記せんの底面又は前記せん収容部の中底に、せん降下規制部材を設け、
ガス栓の組み立て完了後の最終押込み状態にある前記せんの底面と前記せん降下規制部材との間、又は、前記せん降下規制部材と前記せん収容部の中底との間に、微小空間が形成されるようにしたガス栓の固着防止構造であって、
ガス栓の組み付け時に、前記最終押込み状態にあるせんの底面とせん降下規制部材との間、又は、せん降下規制部材とせん収容部の中底との間に、所定肉厚の薄板を介在させ、
前記微小空間は、前記薄板を取り外すことにより形成されるようにし、
前記せん降下規制部材は、孔部を有する環状板と、前記孔部に圧入される軸体からなり、
ガス栓の組み立て完了後にて、前記軸体又は環状板のどちらか一方の一端面が前記せんの底面又はせん収容部の中底のどちらか一方に対接すると共に、前記軸体又は環状板のどちらか他方の他端面が前記せんの底面又はせん収容部の中底のどちらか他方に前記微小空間を介して対向させた状態が、環状板の孔部に対する軸体の最終圧入状態とし、
前記最終圧入状態における前記環状板と軸体の結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されている』ことである。
例えば、環状板の孔部に挿通させた状態の軸体を、せん収容部の中底中央に設置し、環状板の上面に、所定の肉厚の環状薄板を載置させた状態で、せんをせん収容部内に収容する。なお、せんの底面中央には軸体の上端部が収容可能で且つ環状薄板の直径よりも小径な挿入孔が下方に開放するように形成されているものとする。せんのテーパ状外周面がせん収容部のテーパ状内周面に当接し加圧される最終押込み状態に達するまで、せんを押し込むと、環状板は環状薄板とともに押下げられて軸体に対して最終圧入状態となる。その後、せんと環状薄板をせん収容部から取り出す。そして、軸体に対して最終圧入状態にある環状板の上から、グリスを塗布したせんを再度せん収容部内に最終押込み状態に収容し、付勢手段を介して、操作つまみをせん収容部の前記円筒部に抜け止め状態に取り付けて、ガス栓を組み付け完了状態とする。
なお、グリス膜を安定した薄膜状態とするためには、テーパ状外周面にグリスが塗布されたせんをせん収容部に押し込む際にせんの正逆回動を繰り返すとよい。さらには、ガス栓組み立て完了後に操作つまみによる開閉操作を行ったり、ガス栓設置後に開閉操作が行われてもよい。このようにガス栓の開閉操作を行うことにより、グリス膜は薄板より十分薄くなった安定した膜厚となり、環状板の上面とせんの底面との間に、前記薄板の肉厚分の微小空間が形成される。
前記環状板と軸体の結合保持力は、前記付勢手段の付勢力よりも大きく設定されているから、熱膨張によりせん収容部が拡径し、付勢手段によってせんが降下して、せんの底面が環状板に当接しても、環状板がそれ以上軸体に沿って降下することはない。





【0016】
上記ガス栓の固着防止構造において、好ましくは、前記せん降下規制部材又は軸体は、前記孔部に圧入可能なスプリングピンとしたものでは、筒状のスプリングピンの径を強制的に縮径させながら、孔部に圧入させることが出来る。なお、このスプリングピンの弾性復帰力による孔部との結合保持力は、付勢手段による付勢力よりも大きく設定されているものとする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、前記せん収容部の中底と前記せんの底面との間にせん降下規制部材を微小空間を介して設ける構成としたから、ガス栓本体が、瞬間的に熱膨張することによりせん収容部が拡径した場合でも、せんは、前記微小空間分沈むだけであり、せん降下規制部材によって、それ以上の沈み込みは防止される。従って、ガス栓本体のせん収容部の内径が熱膨張により拡径した後に冷却されて収縮しても、せん収容部のテーパ状内周面がせんのテーパ状外周面をせんの開閉操作ができなくなるほど強固に締め付けることはない。よって、せんはせん収容部内で固着されることはなく、操作つまみの回動操作によって回動可能な状態が維持される。さらに、回動操作を行うことにより、せんをほぼ元の位置に復帰させることが出来、ガス栓は通常の操作力で回動操作可能な状態を維持することが出来る。
【0018】
また、熱湯が掛かるような大きな温度変化はなくても、通常の温度変化の繰り返しによっても、せんがせん収容部内に沈み込むことはあるが、このような場合でのせんの沈み量は極僅かであるから、前記微小空間で吸収することが出来る。
このように、ガス栓に対して瞬間的な温度影響が作用しても、また、ガス栓周辺の温度変化が長期に繰り返されても、せんがせん収容部内に沈み込んで固着される不都合を防止出来るようにしたから、操作つまみを常に安定した操作力で回動操作して、ガス栓のスムーズな開閉操作が長期にわたって持続可能となる。
また、せん降下規制部材を、断面C字状のスプリングピンを利用することで、ガス栓の固着防止構造を容易に設けることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造が採用されたガス栓の組み付け完了状態の断面図である。
図2】本発明の第1番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に係るせんとせん降下規制部材とを示す断面図である。
図3】本発明の第1番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に係るガス栓本体とせんとせん降下規制部材と薄板とを示す断面図である。
図4】本発明の第2番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造が採用されたガス栓の組み付け完了状態の断面図である。
図5】本発明の第2番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に係るガス栓本体とせん降下規制部材と薄板を示す断面図である。
図6】本発明の第2番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に係るガス栓本体とせん降下規制部材と薄板と最終押込み状態にあるせんとを示す断面図である。
図7】本発明の第3番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に係るガス栓本体とせん降下規制部材と薄板を示す断面図である。
図8】本発明の第3番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に係るガス栓本体とせん降下規制部材と薄板と最終押込み状態にあるせんとを示す断面図である。
図9】本発明の第3番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造が採用されたガス栓の組み付け完了状態の断面図である。
図10】一般的なガス栓の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本願発明の第1番目の実施の形態におけるガス栓の固着防止構造が採用されたガス栓の断面図であり、図2は、せん降下規制部材としてのスプリングピン(1)を備えたせん(3)の断面図であり、さらに、図3は、スプリングピン(1)を備えたせん(3)をせん収容部(30)内に、最終押込み状態に達するまで押込んだ状態を示す断面図である。
図面において、ガス栓本体(31)は、従来のものと同様の構成のものが採用可能であり、せん(3)も、底面(32)に孔部(10)が形成されている以外は従来のものと同じ構造であり、ここでは共に鋳鉄製とする。
具体的には、ガス栓本体(31)は上方に開放し且つ逆円錐台形状のせん(3)を収容するテーパ状内周面(35)を有するせん収容部(30)と、その開放端部に連設された円筒部(33)と、せん収容部(30)に連通するように連設されたガス通路(31a)を有しており、せん(3)に貫通させたガス通過孔(3a)をガス通路(31a)に連通させることによりガス栓は開放し、この状態からせん(3)を90度回転させることにより、ガス栓は閉塞される。
【0021】
せん(3)の頂面中央に突設された一対の操作凸部(34)間と操作つまみ(2)の裏面中央の凹部(24)との間に、せん(3)をせん収容部(30)内に押し込むための付勢手段としての押えバネ(20)を介在させた状態で、せん収容部(30)の円筒部(33)に操作つまみ(2)の裏面に設けた係合部(図示せず)を抜け止め状態に且つ相対回動阻止状態に係合させて、操作つまみ(2)を、円筒部(33)に対して相対回動可能に取り付ける。これにより、操作つまみ(2)の回動操作により、せん(3)は、押えバネ(20)の付勢力によってせん収容部(30)の底側へ押圧されながら、操作つまみ(2)と同方向に90度回動可能となり、ガス流路(31a)は開閉可能となる。
【0022】
次に、ガス栓の固着防止構造について説明する。
本発明では、ガス栓の固着防止構造を構成するせん降下規制部材として、断面C字状のスプリングピン(1)を採用する。
第1番目の実施の形態で採用されるせん(3)の底面(32)の中央に、スプリングピン(1)を縮径させた状態で圧入可能な孔部(10)を下方に開放させている。この段階では、スプリングピン(1)は、図2に示すように、底面(32)から適当な長さ突出させておけば良い。
一方、ガス栓本体(31)のせん収容部(30)の中底中央には、図3に示すように、所定の厚みを有する薄板(21)を載置し、薄板(21)の上にスプリングピン(1)の突出端が当接するように、図2に示した状態のせん(3)をせん収容部(30)内に収容する。
【0023】
薄板(21)の上にスプリングピン(1)の突出端を当接させた後、ガス栓の組み立て完了後における、せん(3)のテーパ状外周面(36)がせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)で加圧される最終押込み状態に達するまで、せん(3)を正逆回動させながら所定の力で押し込む。これにより、図3に示すように、せん(3)の底面(32)の中央に設けた孔部(10)から突出させたスプリングピン(1)は、その突出端がせん収容部(30)の中底中央に載置させた薄板(21)に押され、孔部(10)に最終圧入状態に達するまで強制的に押し込まれる。
【0024】
この状態から、せん(3)と薄板(21)をせん収容部(30)から取り出す。
取り出したせん(3)のテーパ状外周面(36)にグリスを塗布し、再度、ガス栓本体(30)内に収容し、正逆回動させながら所定の力で押し込む。せん(3)の操作凸部(34)間に押えバネ(20)を載置し、その上から、操作つまみ(2)を円筒部(33)に抜け止め状態に取り付けてガス栓を組み付け完了状態とする。
この状態で、操作つまみ(2)を数回~数十回、開閉操作して、摺動面のグリス膜を安定した薄膜状態ととする。
ガス栓の組み立て完了後には、せん(3)の孔部(10)に最終圧入状態にあるスプリングピン(1) の突出端と、せん収容部(30)の中底との間に、図1に示すように、ほぼ薄板(21)の肉厚に相当する微小空間(S)が形成される。
なお、孔部(10)に対するスプリングピン(1)の最終圧入状態における結合保持力は、押えバネ(20)の付勢力よりも大きく設定されているものとする。
【0025】
上記構成のガス栓を、業務用厨房に設置した場合、ガス栓本体(31)に熱湯や高温の油が直接掛かったとき、ガス栓本体(31)とせん(3)との温度差は、瞬間的に約40度~60度に達することがある。この場合、先ず、ガス栓本体(31)が熱膨張し、せん収容部(30)が拡径する。すると、せん(3)は、押えバネ(20)の付勢力によってせん収容部(30)の中底側に押し込まれるが、せん(3)の底面(32)からはスプリングピン(1)が突出しており、スプリングピン(1)の突出端とせん収容部(30)の中底との間には、微小空間(S)が生じているため、せん(3)は微小空間(S)分だけ沈んだ後は、スプリングピン(1)の突出端がせん収容部(30)の中底に当接し、それ以上沈まない。
このとき、せん(3)は押えバネ(20)の付勢力によってせん収容部(30)の中底側へ押圧された状態にあるが、その付勢力は、孔部(10)に対して最終圧入状態にあるスプリングピン(1)の結合保持力よりも小さく設定されているから、スプリングピン(1)は孔部(10)にさらに押し込まれることはなく、せん(3)はこれ以上沈み込むことはない。
【0026】
この状態では、せん(3)のテーパ状外周面(36)はせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)に圧接せず、両者間には、図示しない極小隙間が生じている。熱湯や高温油が掛かるのは一時的なものであるので、ガス栓本体(31)が冷却されることにより、せん収容部(30)が縮径すると、前記極小隙間は消失するが、せん(3)のテーパ状外周面(36)は、せん収容部(30)のテーパ状内周面(35)にせん(3)の回動ができないほど強固な締付状態ではなく摺動可能に保持された状態となっている。この状態から操作つまみ(2)を回動操作すれば、最初少し操作力は大きいが、せん(3)は、スプリングピン(1)の突出端をせん収容部(30)の中底に当接させた状態で回動し始めると、せん(3)のテーパ状外周面(36)がせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)に押されて、せん(3)はせん収容部(30)内を上昇し、スプリングピン(1)の下方に、微小空間(S)が介在される元の組み付け完了状態に復帰していく。
この状態では、せん(3)は押えバネ(20)によってせん(3)に所定の荷重が付加された状態となるので、ガス栓本体(31)内にて気密性は確保されると共に、操作つまみ(2)による操作力は安定したものとなる。
【0027】
次に、第2番目の実施の形態について説明する。
第2番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造は、図4に示すように、せん収容部(30)の中底中央に、スプリングピン(1)が圧入可能な孔部(11)を形成したもので、孔部(11)内に最終圧入状態に差し込まれたスプリングピン(1)の突出端と、せん(3)の底面(32)との間に、微小空間(S)を形成するものである。
これには先ず、図5に示すように、孔部(11)内にスプリングピン(1)を適度に圧入し、その突出端に薄板(21)を載置する。そして、その上から、従来のものと同様な構造のせん(3)を収容し、上記したような最終押込み状態に達するまで、せん(3)を正逆回動させながら所定の力で押し込む。これにより、スプリングピン(1)は、薄板(21)を介して、せん(3)の底面(32)で押圧され、図6に示す最終圧入状態になるまで孔部(11)内に圧入される。
【0028】
その後、第1番目の実施の形態と同様に、せん(3)及び薄板(21)をせん収容部(30)から取り出す。この状態にて、せん収容部(30)の中底中央には、孔部(11)に最終圧入状態に圧入されたスプリングピン(1)が突出した状態となっている。
この状態にあるせん収容部(30)に、グリスを塗布したせん(3)を、再び収容すると共に、押えバネ(20)を介して操作つまみ(2)を円筒部(33)に抜け止め状態に取り付けて、ガス栓を組付け完成状態にする。この状態で、操作つまみ(2)を数回~数十回、回動操作して、せん(3)の摺動面のグリス膜を安定した薄膜状態とする。
すると、せん収容部(30)の中底中央に突出しているスプリングピン(1)の突出端とせん(3)の底面(32)との間には、図4に示すように、ほぼ薄板(21)の肉厚分の微小空間(S)が形成される。
【0029】
この実施の形態のものでは、ガス栓本体(31)の熱膨張により、せん収容部(30)が拡径すると、押えバネ(20)の付勢力に押されてせん(3)が沈むが、微小空間(S)分沈んだ状態にて、せん(3)の底面(32)が、せん収容部の中底から突出しているスプリングピン(1)の突出端に当接するため、せん(3)はそれ以上沈むことはない。
この実施の形態においても、孔部(11)に対するスプリングピン(1)の最終圧入状態における結合保持力は、押えバネ(20)の付勢力よりも大きく設定しておくことで、押えバネ(20)の付勢力でせん(3)がせん収容部(30)の中底側へ押されても、スプリングピン(1)が孔部(11)内に最終圧入状態以上に深く圧入されることはない。
その後、ガス栓本体(31)が冷却されても、上記した第1番目の実施の形態の場合と同様に、せん(3)のテーパ状外周面(36)が、せん収容部(30)のテーパ状内周面(35)にせん(3)の回動ができないほど強く締め付けられることはなく、操作つまみ(2)の回動操作によって、せん(3)を開閉することが出来る。
【0030】
第3番目の実施の形態のガス栓の固着防止構造に採用するせん降下規制部材は、スプリングピン(1)からなる軸体(13)を、環状板(14)に設けられている孔部(15)に圧入してなるもので、図7に示すように、環状板(14)の孔部(15)に適度に圧入させた軸体(13)を、せん収容部(30)の中底中央に設置する。
なお、環状板(14)の上面には、軸体(13)が挿通可能な挿通孔(23)を有する環状の薄板(22)が載置される。
そして、その上から、せん(3)をせん収容部(30)内に収容する。
【0031】
この実施の形態で採用するせん(3)の底面(32)の中央には、図8に示すように、軸体(13)が挿入可能で且つ薄板(22)の外径よりも小径な挿入孔(12)が形成されており、せん(3)のテーパ状外周面(36)がせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)に当接し加圧される最終押込み状態に達するまで、せん(3)を押し込むと、軸体(13)の突出端が挿入孔(12)内に挿入されると同時に、せん(3)の底面(32)のうち、挿入孔(12)の開放端周縁部で、環状板(14)が薄板(22)を介して押圧され、軸体(13)が、環状板(14)の孔部(15)に対して最終圧入状態となる。
【0032】
その後、せん(3)と薄板(22)をせん収容部(30)から取り出し、環状板(14)の孔部(15)に対して最終圧入状態に圧入された軸体(13)の上から、グリスを塗布したせん(3)を再度収容すると共に、押えバネ(20)を介して、操作つまみ(2)を円筒部(33)に抜け止め状態に取り付ければ、図9に示すように、ガス栓の組み付け完了状態となる。
この組付け完了状態において、操作つまみ(2)を数回~数十回、回動操作して、グリス膜を安定した薄膜状態とすると、環状板(14)の上面とせん(3)の底面(32)との間には、ほぼ薄板(22)の肉厚分の微小空間(S)が形成される。
【0033】
この実施の形態のガス栓本体(31)が熱膨張により、せん収容部(30)が拡径させられると、せん(3)は、押えバネ(20)の付勢力に押されて、微小空間(S)分沈むが、せん(3)の底面(32)のうち、挿入孔(12)の開放端周縁部が環状板(14)に当接した状態で保持される。このとき、環状板(14)と軸体(13)の結合保持力は、押えバネ(20)の付勢力よりも大きく設定しておくことにより、押えバネ(20)の付勢力によって、環状板(14)が、せん(3)に押されて、軸体(13)に沿って降下することはない。
その後、ガス栓本体(31)が冷却されても、上記した第1番目、第2番目の実施の形態の場合と同様に、せん(3)のテーパ状外周面(36)が、せん収容部(30)のテーパ状内周面(35)にせん(3)の回動ができないほど強く締め付けられることはなく、操作つまみ(2)の回動操作によって、せん(3)を開閉することが出来る。
また、この実施の形態では、環状板(14)の上面に、軸体(13)が挿通可能な挿通孔(23)を有する環状の薄板(22)を載置するようにしたが、第1番目の実施の形態のようにせん収容部(30)の中底中央に薄板(21)を載置し、薄板(21)の上面に軸体(13)の下端部を当接させるようにしてもよく、この場合も、環状板(14)の上面とせん(3)の底面(32)との間には、薄板(22)の肉厚分の微小空間(S)を形成することができる。
【0034】
上記各実施の形態のように、せん(3)又はせん収容部(30)内に、せん降下規制部材としてのスプリングピン(1)を具備させると共に、これの突出端と、せん(3)の底面又はせん収容部(30)中底との間に、微小空間(S)を形成しておくことにより、ガス栓本体(31)が熱膨張してせん収容部(30)が拡径した後すぐに冷却されて縮径しても、せん(3)は微小空間(S)分、降下するにとどまり、せん(3)のテーパ状外周面(36)がせん収容部(30)のテーパ状内周面(35)によりせん(3)の回動ができないほど強固な締付状態にならないようにしたから、せん(3)がせん収容部(30)内で固着される不都合を防止することが出来る。
言い換えれば、ガス栓本体(31)とせん(3)との間に瞬間的に温度差が生じても、操作つまみ(2)によるせん(3)の回動操作に支障を来すことはなく、せん(3)がせん収容部(30)内にて固着されてガス栓の開閉操作が出来なくなるといったことはない。
【0035】
また、通常の温度範囲で、ガス栓本体(31)とせん(3)の温度差によりせん(3)が沈むことがあっても沈み量は僅かであり、微小空間(S)で吸収させることが出来るので、せん(3)の固着を防止することが出来る。
さらには、長期にわたって開閉操作されないガス栓に、周囲温度の急な変化が影響しても、必要時にはせん(3)を開閉操作することが出来る。
【0036】
上記実施の形態では、せん降下規制部材として、スプリングピン(1)を採用したが、孔部(10)(11)(15)内に強制圧入可能で且つ圧入状態における結合保持力が押えバネ(20)の付勢力よりも強い性質を有するものならば、これに限定されるものではない。
【0037】
また、せん(3)の頂面中央に突設された一対の操作凸部(34)間と操作つまみ(2)の裏面中央の凹部(24)との間に、せん(3)をせん収容部(30)内に押し込むための付勢手段としての押えバネ(20)を介在させたが、せん(3)を駆動するドライブシャフト(図示せず)をせん(3)とつまみ(2)の間に設けて、つまみ(2)の操作によりドライブシャフトを介してせん(3)を開閉するようにしてもよい。この場合、付勢手段としての押えバネ(20)はせん(3)とドライブシャフト間に設けることになる。
【符号の説明】
【0038】
(1) ・・・・・・・スプリングピン(せん降下規制部材)
(2) ・・・・・・・操作つまみ
(3) ・・・・・・・せん
(20)・・・・・・・押えバネ(付勢手段)
(30)・・・・・・・せん収容部
(31)・・・・・・・ガス栓本体
(31a) ・・・・・・ガス通路
(32)・・・・・・・底面
(35)・・・・・・・テーパ状内周面
(36)・・・・・・・テーパ状外周面
(4) ・・・・・・・押さえバネ(付勢手段)
(S) ・・・・・・・微小空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10