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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-05
(45)【発行日】2023-07-13
(54)【発明の名称】生体ガス計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20230706BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230706BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20230706BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230706BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20230706BHJP
   G01N 21/05 20060101ALN20230706BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20230706BHJP
   C12N 11/00 20060101ALN20230706BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALN20230706BHJP
【FI】
G01N33/497 Z
G01N33/50 Q
G01N1/02 W
G01N21/64 Z
G01N21/78 C
G01N21/05
C12N9/02
C12N11/00
C12Q1/00 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019555385
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043291
(87)【国際公開番号】W WO2019103130
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017225066
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三林 浩二
(72)【発明者】
【氏名】荒川 貴博
(72)【発明者】
【氏名】當麻 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】飯谷 健太
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-257373(JP,A)
【文献】特開2016-061755(JP,A)
【文献】特開2009-175111(JP,A)
【文献】特開2016-220573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 1/00- 1/44
G01N 21/64
G01N 21/78
G01N 21/05
C12N 9/02
C12N 11/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の表面に接触し、身体に対向する側に開口部を有するとともに、血中揮発性成分が真皮及び表皮を透過して放出される皮膚透過型ガスと汗腺から放出されて揮発する発汗型ガスとが混合した生体ガスを捕集する空間として前記開口部から連接される陥凹部を有する生体ガス捕集器と、
前記生体ガス捕集器が捕集した生体ガス中の血中揮発性成分を対象物質として経時的に計測する計測手段と、
前記陥凹部から前記計測手段へ捕集された生体ガスが流出する流出路と、
発汗によって前記陥凹部又は前記流出路の内部に存在する水分を計測する水分センサと、
前記計測手段による血中揮発性成分の計測を、前記水分センサによる水分の計測にて補正して前記流出路の内部に存在する発汗型ガスの影響を排除した血中揮発性成分の計測結果を出力可能にする補正手段と、を備えるとともに、
前記計測手段は、
前記流出路との隣接部位に装着され、補酵素が含有された溶液で少なくとも一部が湿潤するとともに、前記湿潤する箇所が前記流出路の内部に存在する水分と生体ガスとに暴露される酵素膜と、
前記溶液に向けて所定波長の励起光を照射する照射部と、を備え、
前記酵素膜には、前記補酵素の化学変化を伴う前記血中揮発性成分の化学反応を触媒する酵素が固定され、
前記補酵素は、前記励起光により励起されて蛍光を発するものであり、
前記補酵素の化学変化前後の蛍光検出によって前記血中揮発性成分を計測し、前記水分センサによる水分の計測結果が一定以上の測定時点では前記補正手段によってその時点の血中揮発性成分の計測結果を除外して出力することで、前記発汗型ガスの影響を排除可能にされていることを特徴とする生体ガス計測装置。
【請求項2】
前記開口部と前記酵素膜との間隔を一定に保つ間隔保持手段をさらに備え、
前記間隔保持手段は、身体の形状に合わせて変形可能なものであり、
弾力性を有する前記酵素膜が前記間隔保持手段の一端側に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の生体ガス計測装置。
【請求項3】
皮膚の表面に接触し、 身体に対向する側に開口部を有するとともに、身体から直接的又は間接的に放出される生体ガスを捕集する空間として前記開口部から連接される陥凹部を有する生体ガス捕集器と、
前記生体ガス捕集器が捕集した生体ガス中の対象物質を計測する計測手段と、
前記陥凹部から前記計測手段へ捕集された生体ガスが流出する流出路と、
前記陥凹部又は前記流出路の内部に存在する水分を計測する水分センサと、
前記計測手段による対象物質の計測を、前記水分センサによる水分の計測にて補正して前記流出路の内部に存在する水分の影響を排除した対象物質の計測結果を出力可能にする補正手段と、
を備えたことを特徴とする生体ガス計測装置。
【請求項4】
前記陥凹部へ外部から気体が流入する流入口と、
前記陥凹部から外部へ気体が流出する流出口と、
前記流入口から前記陥凹部へ流入路を介してキャリアガスを送出する送気手段と、を備えるとともに、
前記流出路は、前記流出口から前記キャリアガスとともに流出する前記生体ガスを前記計測手段へ導くことを特徴とする請求項3記載の生体ガス計測装置。
【請求項5】
皮膚の表面に接触し、 身体に対向する側に開口部を有するとともに、身体から直接的又は間接的に放出される生体ガスを捕集する空間として前記開口部から連接される陥凹部を有する生体ガス捕集器と、
前記生体ガス捕集器が捕集した生体ガス中の対象物質を計測する計測手段と、
前記陥凹部から前記計測手段へ捕集された生体ガスが流出する流出路と、
前記計測手段による対象物質の計測を補正して前記流出路の内部に存在する水分の影響を排除した対象物質の計測結果を出力可能にする補正手段と、を備えるとともに、
前記計測手段は、
前記流出路との隣接部位に装着され、補酵素が含有された溶液で少なくとも一部が湿潤するとともに、前記湿潤する箇所が前記流出路の内部に存在する水分と生体ガスとに暴露される酵素膜と、
前記溶液に向けて所定波長の励起光を照射する照射部と、を備え、
前記酵素膜には、前記補酵素の化学変化を伴う前記対象物質の化学反応を触媒する酵素が固定され、
前記補酵素は、前記励起光により励起されて蛍光を発するものであり、
前記補酵素の化学変化前後の蛍光検出によって前記対象物質を計測し、前記補正手段によって水分の影響を排除可能にされていることを特徴とする生体ガス計測装置。
【請求項8】
前記照射部はリング形状であり、
前記受光部は、前記照射部の内側に設けられ、前記酵素膜に対して前記照射部と前記受光部とが同じ側に位置することを特徴とする請求項7記載の生体ガス計測装置。
【請求項12】
前記陥凹部の周囲を身体に密着させるための密着手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の生体ガス計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚ガスや呼気ガス、結膜などの粘膜からの放出ガス、体内から分泌される汗や涙等の体液の蒸発ガスといった各種の生体ガス中に含まれる対象物質を計測する生体ガス計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体ガス中には代謝及び疾病に由来する揮発性化合物が含まれており、非侵襲的計測を行うことで、代謝機能評価や疾病スクリーニングが可能になると考えられる。特に、皮膚ガスは連続的な採取が容易であり、ガス濃度モニタリングに適している。しかし、呼気に比べて、血液成分の皮膚ガスへの分配係数は極めて低く、結膜などの粘膜からの放出ガス、汗や涙等の体液の蒸発ガスも同様である。そのため、高感度な計測技術及び選択性が求められる。このような技術としては、特開平10-239309号公報、特開2002-195919号公報及び特開2010-148692号公報に記載のものが挙げられるが、いずれも発汗による水分の悪影響が考慮されておらず、計測精度に問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の各態様は、皮膚ガスや呼気ガス、結膜などの粘膜からの放出ガス、体内から分泌される汗や涙等の体液の蒸発ガスといった各種の生体ガスから対象物質を高精度に計測でき、特に、生体ガスを連続的に採取するとともに、採取した生体ガスからの対象物質の測定を即時に、かつ、経時的に行うことが可能で、生体ガスとともに存在する水分による悪影響を排除できる生体ガス計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)第1の態様
本発明の第1の態様に係る生体ガス計測装置は、
身体に対向する側に開口部を有するとともに、身体から直接的又は間接的に放出される生体ガスを捕集する空間として前記開口部から連接される陥凹部を有する生体ガス捕集器と、
前記生体ガス捕集器が捕集した生体ガス中の対象物質を計測する計測手段と、
前記陥凹部から前記計測手段へ捕集された生体ガスが流出する流出路と、
前記陥凹部又は前記流出路の内部に存在する水分を計測する水分センサと、
前記計測手段による対象物質の計測を、前記水分センサによる水分の計測にて補正して前記流出路の内部に存在する水分の影響を排除した対象物質の計測結果を出力可能にする補正手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0005】
「生体ガス捕集器」とは、前記開口部と前記陥凹部とを有していればその具体的形状は問わない。また、可撓性を有する等、変形可能なものであってもよい。
【0006】
「計測手段」とは、生体ガス中の対象物質を計測することのできる手段であればその種類は問わず、たとえば、対象物質の酵素反応を利用したバイオセンサや、対象物質の抗原抗体反応を利用した半導体式ガスセンサ等を利用することができる。
【0007】
「流出路」とは、前記生体ガス捕集器が捕集した生体ガスが前記計測手段まで流出することのできる手段であればその種類を問わず用いることができ、具体的には、前記陥凹部から前記計測手段までを連結する管が挙げられる。また、前記開口部以外の場所で、前記陥凹部と一体的に形成されていてもよい。この場合、前記陥凹部の一部が流出路を兼ねるものとなる。
【0008】
「水分センサ」とは、身体表面からの発汗や呼気によって前記陥凹部や前記流出路の内部に存在することとなる水分を検知することのできる手段であり、たとえば、皮膚表面から分泌される汗を検知することのできる発汗センサ、呼気に含まれる水蒸気を検知することのできる湿度センサ等が挙げられる。
【0009】
「補正手段」とは、計測手段による対象物質の計測を前記水分センサによる水分の計測にて補正して前記流出路の内部に存在する水分の影響を排除した対象物質の計測結果を出力可能にする手段であって、たとえば、前記計測手段及び前記水分センサによる計測データを所定のアルゴリズムで処理するコンピュータシステムによって実現可能である。
【0010】
(2)第2の態様
本発明の第2の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第1の態様の特徴に加え、
前記陥凹部へ外部から気体が流入する流入口と、
前記陥凹部から外部へ気体が流出する流出口と、
前記流入口から前記陥凹部へ流入路を介してキャリアガスを送出する送気手段と、を備えるとともに、
前記流出路は、前記流出口から前記キャリアガスとともに流出する前記生体ガスを前記計測手段へ導くことを特徴とする。
【0011】
(3)第3の態様
本発明の第3の態様に係る生体ガス計測装置は、
身体に対向する側に開口部を有するとともに、身体から直接的又は間接的に放出される生体ガスを捕集する空間として前記開口部から連接される陥凹部を有する生体ガス捕集器と、
前記生体ガス捕集器が捕集した生体ガス中の対象物質を計測する計測手段と、
前記陥凹部から前記計測手段へ捕集された生体ガスが流出する流出路と、
前記計測手段による対象物質の計測を補正して前記流出路の内部に存在する水分の影響を排除した対象物質の計測結果を出力可能にする補正手段と、を備えるとともに、
前記計測手段は、
前記流出路との隣接部位に装着され、補酵素が含有された溶液で少なくとも一部が湿潤するとともに、前記湿潤する箇所が前記流出路の内部に存在する水分と生体ガスとに暴露される酵素膜と、
前記溶液に向けて所定波長の励起光を照射する照射部と、を備え、
前記酵素膜には、前記補酵素の化学変化を伴う前記対象物質の化学反応を触媒する酵素が固定され、
前記補酵素は、前記励起光により励起されて蛍光を発するものであり、
前記補酵素の化学変化前後の蛍光検出によって前記対象物質を計測し、前記補正手段によって水分の影響を排除可能にされていることを特徴とする。
【0012】
「酵素」は、生体ガス中の対象物質に応じて種々の中から選択されるが、たとえば、酵素として一級アルコール脱水素酵素(ADH)を用いる場合には、対象物質は、エタノール(補酵素:酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD))、アセトアルデヒド(補酵素:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH))となる。また、酵素として二級アルコール脱水素酵素(S-ADH)を用いる場合には、対象物質は、アセトン(補酵素:NADH)、2-プロパノ-ル(補酵素:NAD)などとなる。さらに、酵素としてアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を用いる場合には、対象物質は、アセトアルデヒド又は2-ノネナール(補酵素:NAD)などとなり、ホルムアルデヒド脱水素酵素(FALDH)を用いる場合には、対象物質は、ホルムアルデヒド(補酵素:NAD)となる。
【0013】
(4)第4の態様
本発明の第4の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第3の態様の特徴に加え、
前記開口部と前記酵素膜との間隔を一定に保つ間隔保持手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0014】
(5)第5の態様
本発明の第5の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第3又は第4の態様の特徴に加え、
前記計測手段は、前記蛍光を受光する受光部をさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
(6)第6の態様
本発明の第6の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第5の態様の特徴に加え、
前記照射部はリング形状であり、
前記受光部は、前記照射部の内側に設けられ、前記酵素膜に対して前記照射部と前記受光部とが同じ側に位置することを特徴とする。
【0016】
(7)第7の態様
本発明の第7の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第5又は第6の態様の特徴に加え、
前記受光部が受光した前記蛍光により前記対象物質を検出する検出部をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
(8)第8の態様
本発明の第8の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第7の態様の特徴に加え、
前記検出部は、前記受光部が受光したRGBカラー画像のGチャンネルとBチャンネルのみを加算して前記対象物質を検出することを特徴とする。
【0018】
(9)第9の態様
本発明の第9の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第7又は第8の態様の特徴に加え、
前記検出部が検出した前記対象物質の濃度の空間分布情報を可視化する可視化部をさらに備えたことを特徴とする。
【0019】
(10)第10の態様
本発明の第10の態様に係る生体ガス計測装置は、前記第1から第9のいずれか1の態様の特徴に加え、
前記陥凹部の周囲を身体に密着させるための密着手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0020】
「密着手段」とは、前記開口部の周囲を身体(手首、口や目の周囲、耳等)へ密着させて前記陥凹部と外気とを遮断することのできる手段であればその種類は問わず、たとえば、粘着材や弾性体等を前記陥凹部の辺縁に装着して密着手段とすることができる。また、前記生体ガス捕集器を身体に対して圧着するベルトやバンド等を利用することで、開口部の周囲を直接的に密着させることもできる。さらには、マスク、ゴーグル、イヤホン、ヘッドホン、補聴器等の形状とすることで、開口部の周囲を密着させてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の各態様によれば、皮膚ガスや呼気ガス、結膜などの粘膜からの放出ガス、体内から分泌される汗や涙等の体液の蒸発ガスといった各種の生体ガスから対象物質を高精度に計測でき、特に、生体ガスを連続的に採取するとともに、採取した生体ガスからの対象物質の測定を即時に、かつ、経時的に行うことが可能で、生体ガスとともに存在する水分による悪影響を排除できる生体ガス計測装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の生体ガス計測装置の第1の実施の形態を模式的に示す。
図2図1に示す生体ガス計測装置の要部を拡大して示す。
図3A図1に示す生体ガス計測装置で使用される生体ガス捕集器を斜視図にて示す。
図3B図1に示す生体ガス計測装置で使用される生体ガス捕集器を断面図にて示す。
図3C図1に示す生体ガス計測装置で使用される生体ガス捕集器を底面図にて示す。
図4図3の生体ガス捕集器の装着状態を断面にて模式的に示す。
図5】本発明の生体ガス計測装置の第2の実施の形態の使用状態を模式的に示す。
図6】血中の揮発性成分の放出メカニズムを模式的に示す。
図7】皮膚からの発汗量(上段)と皮膚ガス中のエタノール量(下段)との関係を対比させたグラフである。
図8A】皮膚からの発汗量(上段)と皮膚ガス中のエタノール量(下段)との関係について、生体ガス計測装置を手掌に装着した場合についてグラフにて示す。
図8B】皮膚からの発汗量(上段)と皮膚ガス中のエタノール量(下段)との関係について、生体ガス計測装置を手甲に装着した場合についてグラフにて示す。
図8C】皮膚からの発汗量(上段)と皮膚ガス中のエタノール量(下段)との関係について、生体ガス計測装置を手首に装着した場合についてグラフにて示す。
図9】本発明の生体ガス計測装置の第3の実施の形態を斜視図にて示す。
図10A】本発明の生体ガス計測装置の第4の実施の形態の使用状態を模式的に示す図面である。
図10B】生体ガス捕集器の断面図である。
図11】本発明の生体ガス計測装置の第5の実施の形態の使用状態を模式的に示す。
図12A】本発明の生体ガス計測装置の第6の実施の形態を正面斜視図にて示す。
図12B】本発明の生体ガス計測装置の第6の実施の形態を背面斜視図にて示す。
図12C】本発明の生体ガス計測装置の第6の実施の形態を側面模式図にて示す。
図13A図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される計測手段における励起光の照射部及び蛍光の受光部を正面図にて示す。
図13B図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される計測手段における励起光の照射部及び蛍光の受光部を側面図(右)にて示す。
図14A図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される間隔保持手段を正面図にて示す。
図14B図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される間隔保持手段を側面図にて示す。
図14C図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される間隔保持手段を背面図にて示す。
図14D図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される間隔保持手段を使用例の斜視図にて示す。
図14E図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される間隔保持手段を使用例の側面図にて示す。
図14F】他の例の間隔保持手段を正面図にて示す。
図14G】他の例の間隔保持手段を側面図にて示す。
図14H】他の例の間隔保持手段を背面図にて示す。
図14I】他の例の間隔保持手段を使用例の斜視図にて示す。
図15図12A図12Cに示す生体ガス計測装置を使用して皮膚ガス中のエタノール量を高感度に可視化する方法を模式的に示す。
図16図12A図12Cに示す生体ガス計測装置を使用して可視化した皮膚ガス中のエタノール量を模式的に示す。
図17】本発明の生体ガス計測装置の第7の実施の形態を斜視図にて示す。
図18】本発明の生体ガス計測装置の第8の実施の形態を斜視図にて示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)第1の実施の形態
(1-1)概観
図1は、本発明の生体ガス計測装置の第1の実施の形態を模式的に示す図面である。
【0024】
本実施の形態の生体ガス計測装置は、生体ガスの一つとして皮膚ガスを捕集する生体ガス捕集器10と、前記生体ガス捕集器10が捕集した皮膚ガス中の対象物質を計測する計測手段100と、前記生体ガス捕集器10から前記計測手段100へ捕集された皮膚ガスが流出する流出路40と、を備える。
【0025】
本実施の形態では、エタノールを皮膚ガス中の対象物質としている。この対象物質としてのエタノールの計測は、アルコール脱水素酵素により基質であるエタノールがアセトアルデヒドに転換する反応に伴い、補酵素NADから補酵素NADHが生成する反応を利用している。具体的には、上記反応に伴い生成した補酵素NADHが、励起光としての波長340nmの紫外線を吸収してこれにより励起され、波長491nmの蛍光を発する現象を利用するものである。この詳細については後述する。
【0026】
(1-2)計測手段100
前記計測手段100は、光照射用の光ファイバで構成される照射部111と、受光用の光ファイバで構成される受光部112とを組み合わせてなる光ファイバプローブ113を有する。このような光ファイバプローブ113としては、市販されているものを用いてもよく、たとえば、Ocean Optics Inc.(米国)から市販されている2 in 1 Optical fiber assembly(BIF600-UV/VIS)とF100-9009(Ocean Optics Inc.社製)とを組み合わせたもの等を用いることができる。
【0027】
照射部111には、利用する前記励起現象に応じた所定波長の励起光である紫外線を照射するための紫外線発光ダイオード114が接続されている。また、この紫外線発光ダイオード114と光ファイバプローブ113との間には帯域フィルタ116が接続されている。本実施の形態においては、光源として紫外線発光ダイオード114を用いているため、光源として水銀ランプを用いた場合よりも、装置を簡素化して安価に製造することができる。また、携帯用としても用いることが可能となる。
【0028】
上述のように、本実施の形態ではNADHが340nmの紫外線を吸収するという性質を利用するものであるため、紫外線発光ダイオード114としては、300~370nm、好ましくは340nm付近の波長の紫外線を発光するものが用いられる。したがって、図1に示すように、紫外線発光ダイオード114と光ファイバプローブ113との間には帯域フィルタ116を接続することが好ましい。帯域フィルタ116とは、光源からの光のうち、特定の波長のものだけを透過するフィルタのことを意味し、本実施の形態においては、たとえば、紫外線発光ダイオード114から300~370nmの波長の紫外線が入射するとして330~350nmの紫外線を通過させるものが用いられる。このような帯域フィルタ116としては市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0029】
図1に示す生体ガス計測装置においては、受光部112は、紫外線発光ダイオード114から照射された励起光により励起されて発生した蛍光を受光する。そして受光部112には、受光した蛍光を検出する検出部120が接続されている。検出部120は、具体的には、光電子増倍管、フォトダイオード検出器などを含む分光光度計が用いられる。励起により生じる蛍光は、前記励起現象に応じて、前記所定波長とは異なる特定波長を有し、前記NADHの場合、450~510nm、より具体的には491nm付近であり、したがって、図1に示すように、特定の波長よりも大きい波長の蛍光のみを透過させる長波長透過フィルタ118を配置することが好ましい。図1においては、400nm以上の波長の蛍光を透過させる長波長透過フィルタ118が用いられている。このような長波長透過フィルタ118としては市販のものを特に制限なく用いることができる。また、図1の生体ガス計測装置においては、長波長透過フィルタ118を用いているが、長波長透過フィルタに代えて、帯域フィルタを用いてもよい。この場合、たとえば、450~510nmの波長の蛍光のみを透過させる帯域フィルタを用いる。
【0030】
図1に示す生体ガス計測装置においては、検出部120で検出したデータを解析し、本実施の形態の対象物質であるエタノールの濃度変化のリアルタイム表示やデータ補正を行うコンピュータシステム122がさらに接続されていてもよい。また、そのようなコンピュータシステム122を接続し、補正手段124としても機能させることにより、計測手段100によるエタノールの計測を補正して流出路40の内部に存在する水分の影響を排除したエタノールの計測結果を出力でき、データの解析が容易となる。なお、補正の方法としては、たとえば、水分の影響によるデータの突発的なピークを平滑化したり、血中や呼気ガス中のエタノールの経時変化に関してあらかじめ計測されているデータとの相関を考慮して補正する方法等がある。
【0031】
次に、図1に示す生体ガス計測装置において用いられる光ファイバプローブ113について説明する。この光ファイバプローブ113は、図1に示すように、その先端に、酵素を固定した酵素膜144(図2参照)を装着した気液隔膜フローセルとしての収容体140が取り付けられている。この収容体140は、図2に示すように、シリコンチューブ141とPMMA(ポリメタクリル酸メチル)パイプ142を構成として含んでいてもよい。また、酵素膜144は、図2に示すように、収容体140の一端側である先端に装着される。この酵素膜144は、O-リング143によってPMMAパイプ142に固定されていてもよい。収容体140の内部空間である反応部145には、溶液としての緩衝液が収容される。この緩衝液は前記補酵素としてのNADを含み、図1に示す緩衝液リザーバ150から緩衝液流路155を介して前記反応部145へ供給され、また再び緩衝液流路155を介して緩衝液リザーバ150へ循環している。一方、図2に示すように、照射部111と受光部112とを合わせた光ファイバプローブ113は、収容体140の他端側である後端側から挿入され、その先端は前記反応部145へ達し緩衝液と接触し、その緩衝液の中で前記励起光を照射し、かつ、前記蛍光を受光する。図1に示すように、この収容体140の一端側である先端は、生体ガス捕集器10で捕集された皮膚ガスを含む後述のキャリアガスが流出する流出路40に対し隣接するように装着され、その隣接部位である収容体140の先端に装着される酵素膜144は該キャリアガスに暴露される。換言すると、収容体140の先端が流出路40の内部へ挿入されるように装着されることで、キャリアガスと緩衝液とは、酵素膜144を介して隔てられる。
【0032】
次に、酵素膜144について説明する。酵素膜144とは、膜材料である担体上に酵素が固定された膜をいう。この酵素は、前記溶液としての前記緩衝液に含有される補酵素の化学変化を伴う前記対象物質の化学反応を触媒するものである。用いられる担体としては、従来より酵素を固定化するために用いられている材料のものを特に制限なく用いることができる。このような材料としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等の樹脂や、コットン等の繊維が挙げられる。このような担体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは100nm~200μmであり、さらに好ましくは10μm~100μmである。本実施の形態の生体ガス計測装置において使用可能な酵素を固定化した膜の作製法は、たとえば、特開2009-168671号公報に記載されており、また、担体として使用可能な材質については特開2016-220573号公報に記載されており、それらの内容は参照によって本明細書にも取り込まれる。ただし、本実施の形態で使用する酵素膜144は、補酵素が含有された溶液で少なくとも一部が湿潤するものでなくてはらならい。
【0033】
本実施の形態の生体ガス計測装置は、紫外線発光ダイオード114から入射した励起光により、前記化学変化を被った補酵素(具体的には、NADH)が前記励起光により励起されて発生した蛍光によってNADHの濃度を定量し、その濃度を指標としてNADHを補酵素とするアルコール脱水素酵素の基質であるエタノールを検出するものである。したがって、皮膚ガス中の基質と酵素膜144中の酵素とが、補酵素の存在下に反応する必要がある。図1に示される生体ガス計測装置では、流出路40を流れる、皮膚ガスを含むキャリアガスと、前記反応部145を流れるNADを含む緩衝液との間に、酵素膜144を介在させる構成とすることにより、補酵素であるNADの存在下で酵素と基質とが反応できるようになっている。したがって、酵素膜144を構成する担体は多孔性であることが好ましい。担体の孔のサイズには、酵素反応を可能とする限り特に制限はないが、通常は、直径が0.1~1μm程度であり、酵素反応の効率性の点で、好ましくは0.2μm程度がよい。また、担体の空隙率は60~90%であることが好ましい。なお、メッシュ状のものを担体とすることもできる。
【0034】
(1-3)送気手段130
本実施の形態においては、図1に示すように、一定量のキャリアガスを連続的に生体ガス捕集器10へ送る送気手段130として、コンプレッサ131、活性炭フィルタ132、気体発生装置133、マスフローコントローラ134が含まれていてもよい。キャリアガスは皮膚ガスに対して不活性な気体であれば特にその種類は問わず、空気であっても差し支えない。キャリアガスは気体流路135を通って流れ、流入路30から生体ガス捕集器10へ流入し、そこで皮膚ガスと混合され、流出路40において前記収容体140の先端にある酵素膜144と接触する。この際、皮膚ガスに含まれる酵素基質としてのエタノールがアルコール脱水素酵素によって酸化されると、緩衝液中に含まれるNADが還元され、これが前記の通り蛍光を発することにより、皮膚ガス中のエタノールの量を測定することができる。このような送気手段130を用いれば、効率良く安定的に皮膚ガスを酵素膜144と連続接触させることができる。
【0035】
(1-4)生体ガス捕集器10
生体ガス捕集器10は、図3Aに示すような略円柱状の外観を呈する。その側面には、図3Bに示すような流入口13及び流出口14が対向して形成されている。また、生体ガス捕集器10が身体に接触する底面である身体接触面17には、図3Bに示す開口部11を有し、この開口部11から連接される陥凹部12(図3B及び図3C参照)が形成されている。陥凹部12は、身体接触面17が接している皮膚から発生する皮膚ガスを捕集する空間である。また、流入口13及び流出口14は底面と平行に形成されている。さらに、この流入口13と陥凹部12とを軸方向に沿って連絡する流入連絡路15(図1に示す流入路30の一部)が形成されることで、流入口13から陥凹部12へ外部から気体(キャリアガス)が流入することとなっている。同時に、この流出口14と陥凹部12とを軸方向に沿って連絡する流出連絡路16(図1に示す流出路40の一部)が形成されることで、陥凹部12から流出口14を経て外部へ気体(キャリアガス及び皮膚ガス)が流出することとなっている。
【0036】
図4に示すように、生体ガス捕集器10の身体接触面17には、接触する皮膚Sへ開口部11(図3B参照)を密着させる密着手段20としての両面テープ21が貼着される。この密着手段20によって、皮膚ガスが開口部11から外部に漏出することが防止される。なお、密着性を確保しつつ身体の多少の凹凸にも追従できるように、両面テープ21としては、気体を透過しない独立気泡の発泡体を基材としたものを用いることが好ましい。
【0037】
流入口13には流入路30が接続され、この流入路30を介して、前記送気手段130から送出されたキャリアガスが陥凹部12へ流入する。陥凹部12では皮膚Sから発生した皮膚ガスがキャリアガスと混合する。一方、流出口14には流出路40が接続され、この皮膚ガスとキャリアガスとの混合気体は、キャリアガスの流入圧によって、この流出路40で前記計測手段100へと導かれる。
【0038】
(1-5)計測手段100による計測
皮膚ガスとキャリアガスとの混合気体は、前述の通り、流出路40において収容体140の先端に接する。この収容体140の先端には、酵素としてのアルコール脱水素酵素が固定された酵素膜144が装着されているとともに、この酵素膜144を挟んだ反応部145ではアルコール脱水素酵素の補酵素であるNADを含んだ緩衝液が循環している。酵素膜144は緩衝液で湿潤しており、この酵素膜144に接した皮膚ガスに基質としてのエタノールが含まれていれば、エタノールはアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドに変換される。その際、補酵素であるNADはNADHへと変換される。一方、反応部145の緩衝液中では、照射部111から波長340nmの励起光が常に照射されているが、NADから変換されたNADHはこの励起光を吸収して励起され、波長491nmの蛍光を発する。この蛍光を受光部112が受光し、検出部120により、たとえば蛍光強度として数値化される。
【0039】
この計測に当たっては、既知のエタノール濃度の気体をあらかじめ計測して蛍光強度との相関を検量線として得ておくことが望ましい。
【0040】
このように、本発明の生体ガス計測装置の第1の実施の形態では、緩衝液で湿潤した酵素膜144に皮膚ガスが接してエタノールが計測される。そのため、皮膚ガスとキャリアガスとの混合気体に発汗等による水分が含まれていたとしても、当初から湿潤している酵素膜144は影響を受けない。したがって、皮膚ガスを用いて身体中のエタノール量を高精度に安定的に計測できる。また、第1の実施の形態の計測手段100は、半導体式ガスセンサ等の他の手段による計測のように、水分によって計測が不可能になったり、計測結果が不正確になったりすることがない点で優位性がある。なお、この補酵素NADを利用する他の脱水素酵素を利用して、他の基質を検出することも可能である。また、励起蛍光が既知であれば、上記NAD以外の他の補酵素を利用した酵素反応で他の基質を検出することも可能である。換言すると、エタノールに限らず、生体ガス中の対象物質となる、検出しようとする基質に応じた酵素、補酵素を利用することができる。たとえば、アセトンを対象物質とすれば、酵素としてS-ADH、補酵素としてNADHが利用できる。この場合、NADHがS-ADHと結合し、アセトンとS-ADHが反応すると、NADHがNADに酸化される。NADHは波長340nmの紫外線により励起され波長491nmの蛍光を発するが、NADへの酸化に伴い蛍光強度が減少する。したがって、この蛍光強度の差によってアセトン濃度を測定できる。
【0041】
(2)第2の実施の形態
図5は、本発明の生体ガス計測装置の第2の実施の形態を模式的に示す図面である。本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同様の生体ガス捕集器10を使用し、これに前記第1の実施の形態と同様に、流入路30及び流出路40が接続されている。なお、流入路30に連結された送気手段130及び流出路40に連結された計測手段100については前記第1の実施の形態と同じであり、図示を省略している。
【0042】
本実施の形態では、生体ガス捕集器10の陥凹部12(図3B参照)の内部に存在する水分を計測する水分センサ50をさらに備えている点で前記第1の実施の形態と相違している。この水分センサ50は、皮膚からの発汗によって存在することとなる水分を確認するもので、具体的には、発汗センサを用いている。そのため、水分センサ50には発汗量を計測する発汗計55が接続されている。また、この発汗量のデータを解析し、計測手段100によるエタノール量の元データを発汗量のデータを勘案して補正するための補正手段124として、コンピュータシステム122がさらに接続されている。そのようなコンピュータシステム122を接続させることにより、対象物質の計測を、水分センサ50による陥凹部12内の水分の計測に基づいて補正することができる。そして、陥凹部12から計測手段100へ皮膚ガスが流出する流出路40の内部に存在する水分の影響を排除した計測結果を出力することで、データの解析が容易となる。したがって、第2の実施の形態は、水分センサ50を用いずに補正する第1の実施の形態と比較して、より高精度の計測が可能となる。なお、このコンピュータシステム122は、計測手段100に接続されているものと同じであっても異なっていてもいずれでも差し支えない。また、水分センサ50を流出路40に接続して直接その内部に存在する水分を計測するようにしてもよい。
【0043】
図6は、血中の揮発性成分の放出メカニズムを模式的に示したものである。血中の揮発性成分を含む皮膚ガスには、真皮及び表皮を透過して放出される皮膚透過型ガスG1と汗腺から放出されて揮発する発汗型ガスG2とが存在する。そのため、皮膚Sに生体ガス捕集器10(図5参照)を密着させると、皮膚透過型ガスG1と発汗型ガスG2との混合気体が捕集され、双方に分配された血液由来成分が一緒に含まれることとなる。そこで次に、図5に示す第2の実施の形態により、手掌Pから放出される皮膚ガス(皮膚透過型ガスG1と発汗型ガスG2)中のエタノールの計測について説明する。
【0044】
図7は、図5に示すように生体ガス捕集器10及び水分センサ50を手掌Pに装着した場合の、皮膚からの発汗量と皮膚ガス中のエタノール量(元データ)とを対比させたグラフとして可視化したものである。下段のグラフは、座位の被験者の手掌Pに生体ガス捕集器10及び水分センサ50を装着させた状態で、体重1kg当たり0.4gのエタノールを飲酒により摂取させたのちの、皮膚ガス中(左側の縦軸)及び呼気中(右側の縦軸)のエタノール量を経時的に示したものである。なお、上段のグラフは、同時に計測した皮膚からの発汗量を示したものである。ここで、生体ガス捕集器10(図3B参照)の開口部11の面積は10cmで、陥凹部12の容積は25cmである。また、流入口13から陥凹部12へ流入するキャリアガスの流量は60mL/minとした。
【0045】
まず、キャリアガスとともに流出する手掌Pからの皮膚ガス中のエタノール量は、呼気中のエタノール量の上昇に呼応して上昇していることが下段のグラフから認められる。ここで、グラフ中の細い縦の直線で示した時点は、飲酒から10分以上経過した後に発汗量が0.1mg/minを超えた時点を示しているが、これらの時点は、皮膚ガス中のエタノール量が突発的にピークを示す時点と一致している。その理由は、緩衝液で湿潤した酵素膜144(図2参照)は発汗による水分の影響を受けないため、図6に示す皮膚透過型ガスG1中のエタノールだけでなく、発汗型ガスG2中のエタノールも高精度に計測するからである。すなわち、発汗量が増加すると発汗型ガスG2中のエタノールも増加し、それが皮膚透過型ガスG1中のエタノールに加わるため、突発的なピークになる。
【0046】
このように、計測手段100として酵素反応を利用したバイオセンサを用いた場合には、皮膚ガスを用いて身体中のエタノール量を高精度に計測できる。一方、発汗型ガスG2中のエタノール量まで計測できるため、呼気中のエタノール量と比較して突発的なピークが示され、血中のエタノール量の推定には逆に不便なことがある。そこで、血中のエタノール量を皮膚ガスから把握するために、第2の実施の形態の生体ガス計測装置は、水分センサ50により陥凹部12の内部の水分を計測し、発汗計55と組み合わせて発汗量を把握する。また、計測手段100によるエタノール量の元データは、水分(発汗量)の計測結果に基づいてコンピュータシステム122が補正する(たとえば、発汗量が0.1mg/minを超えた時点では、エタノール量の突発的なピークを平滑化する)。そのため、水分(発汗量に基づく発汗型ガスG2中のエタノール量)の影響が排除され、皮膚ガスを通した血中のエタノール量がより正確に測定できることとなる。
【0047】
また、第1の実施の形態のような計測手段100(溶液で湿潤した酵素膜144)を用いずに、センサ表面の結露等によって特性が変化することのある半導体式ガスセンサも使用できるようになる。すなわち、半導体式ガスセンサの場合、皮膚ガス(皮膚透過型ガスG1と発汗型ガスG2)中のエタノール量を高精度に計測することはできず、特性の安定性の問題もあるが、血中のエタノール量を推定するために、水分センサ50による水分(発汗量)の計測結果に基づいて、特性が安定している時点の元データのみ活用するように補正すればよい。なお、補正の方法としては、たとえば、発汗量が一定値を超えた時点のエタノール量の元データはキャンセルすること等が挙げられる。
【0048】
さらに、図8A図8Cは、図7で示した手掌Pでの可視化したグラフ(図8A)とともに、生体ガス捕集器10を、手甲に装着した場合(図8B)及び手掌P側の手首に装着した場合(図8C)を可視化したグラフ(それぞれ元データ)と対比させたものである。まず、手甲に装着した場合は、手掌Pに比べて発汗量が少なく大きな変化は見られない。また、手甲からの皮膚ガス中のエタノール量は、呼気中のエタノール量の上昇に呼応して上昇していることが認められ、エタノール量のピークは約23分遅れて出現する。一方、手首に装着した場合には、やはり発汗量が少なく大きな変化は見られないが、皮膚ガス中のエタノール量と呼気中のエタノール量とが非常によく相関しているのが認められ、エタノール量のピークの遅れは約18分であった。以上より、手掌Pでのエタノール量の測定は発汗の影響が少なからずあるのに対し、手甲や手首(特に、手首)での測定には発汗の影響はほとんどないことが分かった。
【0049】
これらの結果から、手掌Pでのエタノール量の測定(特に、計測手段100として酵素反応を利用したバイオセンサ以外のセンサも用いる場合)には水分センサ50を備えるようにし、その計測に基づいてコンピュータシステム122で補正して水分(発汗量)の影響を排除することが好ましく、逆に、手甲や手首での測定(特に、計測手段100として酵素反応を利用したバイオセンサを用いる場合)では水分センサ50は必須でなく、少ない発汗(発汗型ガスG2)であるとしてもその影響を排除したいならば、元データの小さな変化をコンピュータシステム122で処理して平滑化する補正だけでよいとも言える。なお、本実施の形態に係る生体ガス計測装置を用いて、水分センサ50による発汗の計測にて、前記計測手段100による対象物質(具体的には、エタノール)の計測を補正するには、たとえば、前記のように、発汗量が一定以上の測定時点を除外することが考えられる。その他、発汗量に所定の係数を乗じた値を、計測されたエタノール量の値から除外する方法も考えられる。
【0050】
(3)第3の実施の形態
図9は、密着手段20としてのリストバンド22に生体ガス捕集器10が装着された第3の実施の形態を図示したものである。この生体ガス捕集器10の流入口13及び流出口14には、前記第1及び第2の実施の形態と同様に、前記送気手段130に連絡する流入路30及び計測手段100に連絡する流出路40がそれぞれ接続される。また、皮膚ガスを捕集する空間としての陥凹部12を有する。しかし、第3の実施の形態の陥凹部12は、手首に装着されたときにリストバンド22によって開口部11の周囲が皮膚へ密着して外気と遮断されるようになされている点で前記第1及び第2の実施の形態と相違する。
【0051】
本実施の形態では、前記で言及した図8Cに示すように、発汗の影響の少ない手首に装着するために、伸縮自在のリストバンド22が設けられており、これにより生体ガス捕集器10の開口部11の周囲が手首の皮膚へ密着することとなっている。換言すると、第3の実施の形態は、手首への装着に特化したものである。そのため、発汗の影響を考慮する必要がなく、第2の実施の形態と異なり、水分センサ50を不要としてもよい。また、皮膚ガス中に水分がほとんど含まれていないことから、第1の実施の形態のような計測手段100(溶液で湿潤した酵素膜144)を用いず、半導体式ガスセンサ等によって皮膚ガス中のエタノールを計測し、必要な場合だけ補正して水分の影響を排除することもできる。なお、必要な場合として、運動によって発汗が増加したとき等がある。
【0052】
(4)第4の実施の形態
図10A及び図10Bは、本発明の生体ガス計測装置の第4の実施の形態の使用状態を模式的に示す図面(図10A)及び生体ガス捕集器の断面図(図10B)である。本実施の形態では、手掌Pからではなく、生体ガス捕集器10の側面に設けられた開口部11(図10B参照)に手指Fを挿入することで、指先の腹からの皮膚ガス中のエタノール量を計測する。そのため、手指Fへ密着させる手段として、開口部11の内周面である身体接触面17には気体を透過しない独立気泡の発泡体による密着手段20が設けられている(図10B参照)。また、開口部11に手指Fを挿入すると、少なくとも指先の腹が陥凹部12に連絡する流入連絡路15(後述する流入路30の一部)及び流出連絡路16(後述する流出路40の一部)に対向するようになっている(図10B参照)。また、流入連絡路15に連絡する流入口13には流入路30が連結され、さらに、流出連絡路16に連絡する流出口14には流出路40が連結される(図10A参照)。なお、流入路30に連結された送気手段130及び流出路40に連結された計測手段100については前記第1の実施の形態と同じであり、図示を省略している。
【0053】
(5)第5の実施の形態
図11は、本発明の生体ガス計測装置の第5の実施の形態の使用状態を模式的に示す図面である。本実施の形態では、生体ガス捕集器10の開口部11を覆うようにマスク18が装着されており、生体ガスとして皮膚ガスではなく呼気ガス中のエタノール量を計測する。そのため、マスク18は鼻、頬及び顎を覆い、顔の凹凸に追従する柔軟性をもって密着する手段であり、特に、マスク18の辺縁の外気が流入する可能性のある箇所には気体を透過しない独立気泡の発泡体からなる密着手段20が設けられている。また、装着すると口が陥凹部12に対向するようになっている。なお、流入口13に連結された流入路30(図示せず)に連結された送気手段130、及び、流出口14に連結された流出路40(図示せず)に連結された計測手段100については前記第1の実施の形態と同じであり、図示を省略している。
【0054】
(6)第6の実施の形態
図12A図12Cは、本発明の生体ガス計測装置の第6の実施の形態を、正面斜視図(図12A)、背面斜視図(図12B)及び側面模式図(図12C)にて示す図面である。図12A図12Cに示すように、第6の実施の形態は、皮膚ガス中のエタノールを検出するための検出部120として高感度カメラ(ソニー株式会社製「ILCE-7S」)を使用し、励起光の照射部111としてリング形状の紫外線発光ダイオードを使用している。そして、リング形状の照射部111の内側に受光部112(高感度カメラのレンズ)及び検出部120を備えている。なお、本実施の形態における生体ガス計測装置においては、検出部120に接続されるコンピュータシステム122(図1参照)が、検出したデータを解析し、本実施の形態の対象物質であるエタノールの濃度の空間分布情報を可視化するための可視化部としても機能する。
【0055】
また、手掌Pの皮膚面と酵素膜144との間隔を一定に保つため、間隔保持手段19として2次元サーフェースプロファイラーを備えており、照射部111と間隔保持手段19の正面側とは間隔60mmとなるようにPMMAプレートで保持されている。なお、図12Bでは、間隔保持手段19の背面側に設けられる酵素膜144(図12C参照)の図示を省略している。
【0056】
図13A及び図13Bは、図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される計測手段100における励起光の照射部111及び蛍光の受光部112を正面図(図13A)及び側面図(図13B)にて示す図面である。図13Aに示すように、照射部111は、半径の異なる同心円上に計40個の紫外線発光ダイオード(DOWAエレクトロニクス株式会社から販売されている340±5nmのもの)をリング形状に配置して構成されている。そして、中央に開口した直径75mmの貫通穴に、受光部112となる高感度カメラ(検出部120)のレンズを差し込み装着することで、照射部111、受光部112及び検出部120が一体化されている。また、照射部111の前面には、帯域フィルタ116として励起光用のバンドパスフィルタ(HOYA株式会社の340±42.5nmのもの)が配置され、受光部112の前面には長波長透過フィルタ118として蛍光用のバンドパスフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社の492±10nmのもの)が同一平面上に配置されている。このように、リング形状の照射部111を受光部112の外周に装着する(受光部112を照射部111の内側に設ける)ことで酵素膜144に対して照射部111と受光部112とが同じ側に位置し、酵素膜144の方向への励起光の照射及び蛍光の受光を同一方向から行うことが可能となり、蛍光の計測時に酵素膜144に向けて照射する励起光が身体で遮られることがないため、皮膚ガス中のエタノールを前記可視化部により連続的にリアルタイムで可視化できるようになる。
【0057】
また、皮膚ガス中のエタノールを高精度で可視化するには、手掌Pの凹凸に沿って皮膚と酵素膜144との間隔を一定に保つ必要がある。図14A図14Eは、図12A図12Cに示す生体ガス計測装置で使用される前記間隔保持手段19を、正面図(図14A)、側面図(図14B)、背面図(図14C)、使用例の斜視図(図14D)及び使用時の側面図(図14E)にて示す図面である。2次元サーフェースプロファイラーとしての間隔保持手段19は、貫通穴(直径2.6mm)を594個配置したPMMAプレート(厚さ3mm,120×120mm)に、同数のステンレスパイプ(外径2.5mm、内径2.3mm、長さ10mm)を貫通させたものであり、各パイプは、手掌P側の先端が開口部11、パイプ内が陥凹部12に相当し、全体として生体ガス捕集器の一実施形態を構成する。さらに、各パイプの後端は、計測手段100の一部を構成する酵素膜144へ皮膚ガスが流出する流出路40の一実施形態を構成する。
【0058】
酵素膜144は、自家蛍光を有さない100%コットンのメッシュ(手掌Pの面積に合わせて90×90mmのサイズとした、厚さ1mm、ピッチ1mmのもの)を担体とし、酵素としてADHを固定化したものである。そして、間隔保持手段19の各パイプの後端に取り付けられている。そのため、図14D及び図14Eに示すように手掌Pを間隔保持手段19に押し付けると、各パイプの先端の開口部11が手掌Pに接触するとともに酵素膜144が変形し、その弾力性により密着手段20として機能する。また、開口部11と酵素膜144との間隔が一定に保たれる。
【0059】
さらに、酵素膜144の担体(コットンのメッシュ)は、NADを含んだ溶液で満たされているため、収容体140として機能する。そのため、照射部111から酵素膜144の方向に照射された励起光によって蛍光が発せられ、その蛍光は受光部112で受光される。なお、間隔保持手段19は、他の例を示す正面図(図14F)、側面図(図14G)、背面図(図14H)及び使用例の斜視図(図13I)にて示すような形態であってもよい。具体的には、柔軟性を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)の板状体に複数の穴を形成し、各穴が前記2次元サーフェースプロファイラーの各パイプと同様の役割を担うようにしたものであり、図13Iに示すように手掌Pの形状に合わせて変化し得るものである。また、手掌Pから酵素膜144までの距離が近い(各パイプが短い、板状体が薄い)ため、送気手段130(図1参照)は不要となっている。
【0060】
図15は、図12A図12Cに示す生体ガス計測装置を使用して皮膚ガス中のエタノール量を高感度に可視化する方法を模式的に示す図面である。図15に示すように、図12A図12Cに示す検出部120として、RGBカラー画像の撮影が可能なRGBカメラを用いることで、画像解析にてNADHから放出される蛍光強度をより高いS/N比にて検出することが可能となる。具体的には、RGBカメラのレンズ(受光部)が受光したRGBカラー画像のうち、NADHの蛍光波長である491nmに感度を有するGチャンネル及びBチャンネルのみを加算することで得られるバイカラーイメージ(図中の「G+B」)を用いることでこのような検出が可能となる。これにより、図12A図12Cで用いた高感度カメラを使用してRチャンネル、Gチャンネル及びBチャンネルに任意の係数をかけて加算する一般法(図中の「R+G+B」。0.299×R+0.587×G+0.114×B)の場合と比較して、濃度が50分の1程度のエタノールガスを検出することが可能となる。また、定量範囲も0.01~300ppmと、広いダイナミックレンジも得られる。
【0061】
図16は、図12A図12Cに示す生体ガス計測装置を使用して可視化した皮膚ガス中のエタノール量を模式的に示す図面である。まず、飲酒条件が0.4gエタノール/体重kgとなるように、アルコール飲料(25%)を経口摂取(15分)した。次に、飲酒後10~40分までの30分間、被験者の手掌Pを間隔保持手段19としての2次元サーフェースプロファイラーに押し付け、放出された皮膚ガス中のエタノールを連続的に可視化計測した。その結果、飲酒後の皮膚から放出されるエタノール濃度の経時変化が可視化され、図16に示すように、飲酒後32分でピーク値に達する経時変化をリアルタイム動画像として得ることができた。また、得られた動画像を微分解析し、検量線をもとに手掌Pの面積1cm当たりの濃度の経時変化を算出した。なお、図16に見られるスパイク状の濃度変化は、手掌Pからの発汗(発汗型ガスG2(図6参照)中のエタノール)に関係していると考えられる。
【0062】
(7)第7の実施の形態
図17は、本発明の生体ガス計測装置の第7の実施の形態を模式的に示す図面である。本実施の形態では、目の周囲を覆う密着手段20としてのゴーグルの一端に、生体ガス捕集器10が装着されている。この生体ガス捕集器10により、生体ガスとして眼球及び結膜からの放出ガス並びに眼瞼から放出される皮膚ガス、涙の蒸発ガスに含有されるエタノール量を計測する。そのため、密着手段20は両目を覆い、顔の凹凸に追従する柔軟性を有し、辺縁の外気が流入する可能性のある箇所が密着するように形成されている。なお、生体ガス捕集器10の流入口13に連結された流入路30は計測手段100に組み込まれた送気手段130(図1参照)に連結され、また、流出口14に連結された流出路40は水分センサ50を介して同様に計測手段100に連結されている。計測手段100による計測については、前記第1の実施の形態と同様である。
【0063】
(8)第8の実施の形態
図18は、本発明の生体ガス計測装置の第8の実施の形態を模式的に示す図面である。本実施の形態では、耳孔に装着されるイヤホン様の形状の密着手段20の中に、生体ガス捕集器10が装着されている。この生体ガス捕集器10により、生体ガスとして耳孔から放出される皮膚ガスに含有されるエタノール量を計測する。そのため、密着手段20は耳孔を覆い、耳介の凹凸に追従する柔軟性を有し、辺縁の外気が流入する可能性のある箇所が密着するように形成されている。なお、生体ガス捕集器10の流入口13に連結された流入路30は計測手段100に組み込まれた送気手段130(図1参照)に連結され、また、流出口14に連結された流出路40は水分センサ50を介して同様に計測手段100に連結されている。計測手段100による計測については、前記第1の実施の形態と同様である。
【0064】
以上、本発明の生体ガス計測装置の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限らず、各種の変形が可能である。たとえば、手掌、手指、手首、顔等の他、足、腕、首、腰等の身体の各部の皮膚、口唇等に装着する形態であってもよく、ウェアラブル端末として、リストバンド、腕時計、マスク、ゴーグル、イヤホン、ヘッドホン、補聴器等と一体化したり、体重計、血圧計等に組み込んでもよい。また、エタノールの他、アセトン等を計測することもできる。
【0065】
アセトンの場合、血液を介して皮膚ガスや呼気ガスとして体外へ排出され、その濃度を測定することで、脂肪の燃焼状況、糖尿病の進行度合等の評価が可能となる。たとえば、水分の影響を排除したアセトンの計測結果を出力できる本発明の生体ガス計測装置を体重計に組み込めば、風呂上がりに体重計に乗る等の日常的な動作の一環として、アセトンを足裏から計測することが可能となる。この場合、減量が体脂肪の減少によるものなのかどうか正確に特定でき、効率的なダイエットの確認が可能になることから、生活習慣病の元となる肥満の解消・予防にもつながる。また、腕等に装着し、ランニングマシンで運動中のような発汗する状況でアセトンを計測して、脂肪代謝を目に見えるようにすることもできる。さらに、加齢臭の原因物質であるノネナールを計測し、加齢に伴う代謝機能の変化を評価することも可能である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図14F
図14G
図14H
図14I
図15
図16
図17
図18